説明

生物活性材料の高圧噴霧乾燥

【課題】生物活性材料の噴霧乾燥粒子形成と保存法の提供。
【解決手段】平均粒度が約2μm〜約200μmであり;粒子密度が約1であり;約90%を上回る純度の抗体の含量が粒子の約40重量%〜約60重量%に相当する粉末粒子組成物。また、ウイルスと、スクロース、トレハロース、及びマンニトールから構成される群から選択されるポリオールを含有する水性懸濁液又は水溶液を製造する段階と;懸濁液又は溶液をノズルから高圧で噴霧することにより微細液滴ミストを形成する段階と;液滴を乾燥して粉末粒子を形成する段階と;粒子を回収する段階を含む方法により製造されるウイルスを含有する粒子組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願とのクロスリファレンス)
本願は米国仮出願第60/434,377号(発明の名称「生物活性材料の高圧噴霧乾燥(High Pressure Spray−Dry of Bioactive Materialss)」,Vu Truong−Leら、出願日2002年12月17日)の優先権を主張する。先出願の全開示内容は参考資料として本明細書に組込む。
【0002】
(発明の技術分野)
本発明は生物活性材料の噴霧乾燥粒子形成と保存の分野に関する。本発明は例えば剪断応力分解を受けずに感受性分子を高圧噴霧できるように増粘剤を提供する。高圧噴霧は例えば付随する感受性分子の分解を少なくしながらより短時間により低温で微細な噴霧液滴を乾燥することができる。高圧噴霧は配合した生物活性材料をより高濃度でより容易に再構成できる粉末粒子を生じる。本発明はプロセス変数の調整により噴霧液滴サイズと粉末粒子サイズを精密に制御するための方法とシステムを提供する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
生物材料の保存方法は食品保存から現代医薬組成物の保存に至るまでの長い歴史がある。生物材料は乾燥、塩蔵、冷凍、凍結防止、噴霧乾燥、及び凍結乾燥されてきた。最適保存方法は許容可能な劣化の程度、所望保存期間、及び生物材料の種類によって異なる。
【0004】
何世紀も前から食品は後日消費用として乾燥により保存されている。豊作時に収穫した食品を日干しして過剰の水分を除去している。乾燥は食品を有害な細菌やカビの増殖に不適切にすることができる。植物及び動物組織が自己破壊する自己融解プロセスも乾燥により防ぐことができる。食品の塩蔵も同様の保存効果がある。乾燥及び塩蔵食品は通常、新鮮な外観と栄養価が低下する。酵素や医薬品等の生物活性材料の乾燥と塩蔵は材料を変性させる熱、酸化、脱水、ラジカルと過酸化物の生成、光退色等により活性を破壊する。
【0005】
噴霧乾燥は食品加工と医薬品製造に使用されており、塩蔵や緩慢乾燥にまさるいくつかの利点がある。溶存生体分子の微細ミストを熱ガス流に噴霧することにより迅速に脱水することができる。乾燥した粒子は表面積と体積の比を大きくすることができるので、水性緩衝液で迅速に再構成することができる。例えば、Platzら、米国特許第6,165,463号(発明の名称「分散性抗体組成物とその製造及び使用方法(Dispersible Antibody Compositions and Methods for Their Preparation and Use)」)では、医薬品を患者に吸入投与するために乾燥粉末粒子を噴霧乾燥により製造している。希薄溶液中の生体分子を中圧(例えば80psi)で一次乾燥用熱ガス流(例えば98〜105℃)中に噴霧した後、粒子を長時間高温(例えば67℃)に暴露することにより更に脱水する。このような方法は食品や頑丈な分子には適しているが、感受性分子はこれらの方法の応力、長い乾燥時間及び高温により変性したり、他の点で不活化される可能性がある。
【0006】
凍結は生体分子を保存するのに有効な方法であると思われる。低温は分解反応速度を遅くすることができる。凍結は水を分解反応に利用しにくくすると共に、汚染性微生物を減らすことができる。氷は空気との接触を遮断することにより分子の酸化を減らすことができる。しかし、凍結は未凍結溶液中の蛋白質を変性させる恐れのある塩濃度や、細胞構造に穴をあける恐れのある尖った氷の結晶の形成等の負の効果がある。凍結に起因する損傷の一部は凍結温度を下げて氷の結晶の形成を阻止することにより変性を防ぐ凍結防止剤の添加により緩和することができる。凍結解凍による分解は避けられる場合であっても、冷凍装置の連続運転の結果として、冷凍庫での保存に不都合が生じたり、費用がかかることもある。
【0007】
凍結乾燥法は凍結と乾燥の利点の多くをもつ。凍結により分解を止めた後に脱水するので、製品の貯蔵安定性が増す。凍結水の真空昇華による乾燥は所定の噴霧乾燥法の高温を回避することができる。凍結乾燥製品は室温でも貯蔵安定性が極めて高い。しかし、分子は凍結段階中にやはり変性塩濃度と接触する可能性がある。更に、多くの凍結乾燥プロトコールは含水率を下げるために高温の長時間二次乾燥段階が必要である。凍結乾燥材料の嵩高なケーキは再構成に時間がかかり、吸入による送達には微細に粉砕する必要がある。
【0008】
過剰の熱、薬品、又は剪断応力による純度低下を伴うことなく生物活性材料を含有する安定な粒子を製造するための組成物と方法が依然として必要とされている。本発明はこれらの側面に加え、以下の記載を精読することにより明らかとなる他の側面を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
(発明の要約)
本発明は例えばプロセス変性の少ない生物活性材料の安定な組成物を製造するための方法を提供する。例えば高圧で粘性溶液を噴霧乾燥することにより粉末粒子を製造する方法は剪断応力と熱応力による分解を減らす。本発明は噴霧した液滴と乾燥粉末粒子のサイズを精密に調節するためのプロセスパラメーター調節を提供する。過度の凝集なしに高濃度に再構成することができる粉末粒子では安定性と貯蔵寿命が増す。
【課題を解決するための手段】
【0010】
安定な粒子の製造方法は生物活性材料と増粘剤を含有する水性懸濁液又は水溶液を製造する段階と、懸濁液又は溶液をノズルから高圧で噴霧し、微細液滴ミストを形成する段階と、液滴を乾燥して粉末粒子を形成する段階と、粒子を回収する段階を含む。増粘剤は例えば増粘剤を含有しない懸濁液又は溶液に比較して5%以上の粘度増加又は0.05センチポアズ以上の粘度増加を生じるために十分な濃度で存在することができる。
【0011】
本方法の生物活性材料としてはペプチド、ポリペプチド、蛋白質、ウイルス、細菌、抗体、細胞、リポソーム、及び/又は同等物が挙げられる。例えば、生物活性材料はプロセス懸濁液又は溶液中に約1mg/ml〜約200mg/ml、約5mg/ml〜約80mg/ml、又は約50mg/mlの濃度で存在するモノクローナル抗体とすることができる。場合により、生物活性材料は例えば懸濁液又は溶液中に約2log FFU/ml〜12log FFU/ml、又は約8logFFU/mlの力価で存在するウイルスとすることができる。
【0012】
増粘剤は例えばポリオール及び/又はポリマーとすることができる。例えば、ポリオールはトレハロース、スクロース、ソルボース、メレジトース、グリセロール、フルクトース、マンノース、マルトース、ラクトース、アラビノース、キシロース、リボース、ラムノース、ガラクトース、グルコース、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、スレイトール、ソルビトール、ラフィノース及び/又は同等物とすることができる。ポリマー増粘剤の例としては澱粉、澱粉誘導体、カルボキシメチル澱粉、ヒドロキシエチル澱粉(HES)、デキストラン、デキストリン、ポリビニルピロリドン(PVP)、ヒト血清アルブミン(HSA)、イヌリン、ゼラチン及び/又は同等物を挙げることができる。本発明の増粘剤は懸濁液又は溶液中に例えば約0.1重量%〜約20重量%、2重量%〜8重量%、又は6重量%の量で存在することができる。場合により、増粘剤は例えば50%、又は0.05センチポアズ以上の粘度増加を提供するために十分な濃度で存在することができる。
【0013】
本方法の溶液又は懸濁液は界面活性剤及び/又は両性イオンを含有することができる。本方法における界面活性剤としては、例えばモノラウリン酸ポリエチレングリコールソルビタン(例えばTween 80)、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(例えばTween 20)、又はポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールのブロックポリマー(例えばPluronic F68)、及び/又は同等物が挙げられる。本方法の両性イオンとしては例えばアルギニン、ヒスチジン、グリシン、及び/又は同等物が挙げられる。噴霧される液滴の平均サイズは、例えば好ましくはスクロースの存在下で懸濁液又は溶液中の界面活性剤の濃度を変えることにより調整することができる。
【0014】
本方法におけるノズルからの高圧噴霧としては、例えば液体の高圧噴霧、高圧ガスによる微粒化及び/又は低温流体への噴霧が挙げられる。噴霧は高圧窒素ガス微粒化により実施することができる。ノズルは例えば内径約50μm〜約500μm、約75μm〜約150mとすることができ、又はノズルオリフィスは内径約100μmとすることができる。高圧噴霧ノズルは例えば噴霧液滴の分散を強化するために高圧微粒化ガス用チャネルを備える微粒化ノズルとすることができる。窒素等の高圧微粒化ガスはガスの臨界点との圧力又は温度差を少なくとも10%とすることができる。
【0015】
本発明の方法は、例えば懸濁液及び/又は溶液液滴を噴霧凍結乾燥する段階を含むことができる。微細液滴を例えば低温流体に浸漬して液滴を凍結することができる。低温流体は例えば気体又は液体アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素、及び/又は窒素とすることができる。低温流体は例えば約−80℃〜約−200℃の温度とすることができる。液滴は例えば真空を印加し、液滴の周囲の環境の温度を上げて粉末粒子を形成することにより乾燥することができる。真空は約200Torr未満のガス圧とすることができる。
【0016】
溶液又は懸濁液を高圧で噴霧し、微細液滴ミストを形成することができる。高圧は例えば約200psi〜約2500psi、約1000psi〜1500psi、又は約1300psiとすることができる。微細ミストとしては、約2μm〜約200μm、約3μm〜約70μm、約5μm〜約30μm、又は約10μmの平均直径をもつ液滴が挙げられる。
【0017】
液滴を乾燥し、例えば微細ミストからのガスを乾燥ガスで置換して水蒸気及び他の噴霧ガスを除去することにより粉末粒子を形成することができる。乾燥ガスは例えば約25℃〜約99℃、約35℃〜約65℃、又は約55℃の温度の窒素等の実質的に不活性なガスとすることができる。本発明の粉末粒子は約0.1μm〜約100μm、又は約2μm〜約10μmの平均サイズとすることができる。
【0018】
本発明の方法は製品純度をさほど低下することなく高いプロセス歩留まりを提供することができる。例えば、本方法は約40%〜約98%、又は約90%のプロセス歩留まりとすることができる。蛋白質生物活性材料の製品純度は粉末粒子の再構成時の総凝集物及びフラグメントを約5%未満、4%未満、3%未満、2%以下にすることができる。蛋白質の製品純度又はウイルス生物活性材料の生存率は液滴乾燥前後で実質的に同一とすることができる。
【0019】
本発明の方法によると、例えば生物活性材料を投与するために粉末粒子を使用することができる。粉末粒子は鼻腔内及び/又は肺経路の吸入により哺乳動物に送達することができる。あるいは、生物活性材料を注射により送達するために水性緩衝液で粉末粒子を再構成することもできる。本方法の粉末粒子は例えば約1mg/ml〜約400mg/ml、又は5mg/ml〜約200mg/mlの濃度の生物活性材料の懸濁液又は溶液に再構成することができる。実質的に等張(生理的値の約10%以内の浸透圧)の再構成材料は約200mg/mlの濃度の抗体を含有することができる。
【0020】
本発明の組成物は例えば高濃度の高純度生物活性材料の溶液に容易に再構成される安定な粉末粒子とすることができる。本発明の組成物は例えば生物活性材料と増粘剤を含有する水性懸濁液又は水溶液を製造する段階と、懸濁液又は溶液をノズルから高圧で噴霧し、微細液滴ミストを形成する段階と、液滴を乾燥して粉末粒子を形成する段階と、粒子を回収する段階を含む方法により製造された生物活性材料を含有する粒子とすることができる。増粘剤は増粘剤を含有しない懸濁液又は溶液に比較して5%以上の粘度増加又は0.05センチポアズ以上の粘度増加を生じるために十分な濃度で存在することができる。
【0021】
生物活性材料はペプチド、ポリペプチド、蛋白質、ウイルス、細菌、抗体、細胞、リポソーム、及び/又は同等物とすることができる。生物活性材料はプロセス懸濁液又は溶液中に例えば約1mg/ml〜約200mg/ml、約5mg/ml〜約80mg/ml、又は約50mg/mlの濃度で存在することができる。インフルエンザウイルス等のウイルス性生物活性材料は懸濁液又は溶液中に約2log FFU/ml〜12log FFU/ml、又は約8logFFU/mlの力価で存在することができる。粉末粒子製品において、生物活性材料は例えば粉末粒子中に約0.1重量%〜約80重量%の量で存在することができる。
【0022】
1態様では、組成物の生物活性材料は例えば約0.5重量%〜約20重量%、又は約8重量%の量でプロセス懸濁液又は溶液中に存在するモノクローナル抗体等の抗体とすることができる。抗体組成物の増粘剤としては、例えばスクロースもしくはトレハロース等のポリオール、又はヒドロキシエチル澱粉(HES)、デキストラン、デキストリン、イヌリン、もしくはポリビニルピロリドン(PVP)等のポリマーが挙げられる。スクロースは懸濁液又は溶液中に約1重量%〜約10重量%、又は約6重量%の量で存在することができる。抗体の水性懸濁液又は水溶液はアルギニンとスクロースの両者を含有することができる。場合により、増粘剤はPVPを含有することができる。
【0023】
抗体生物活性材料を含有する組成物は例えば賦形剤(他の総固形分)と抗体の比が約1/100〜約100/1、約2/3〜約3/2、又は約1/1である粉末粒子とすることができる。粉末粒子の抗体組成物は例えば約30重量%〜約60重量%の量のスクロースを添加することができる。粉末粒子は約5%未満の水分を含有することができる。
【0024】
粉末粒子中の抗体は極めて安定であり、例えば約4℃で1年間、5年間又は約7年間保存後の粉末粒子の再構成時に凝集物が約3%未満である。本発明の方法及びシステムを使用して粉末粒子に乾燥した抗体は例えば約25℃で0.1年間、0.5年間、1年間、又は約1.5年間、又はそれ以上保存後の粉末粒子の再構成時に凝集物を約3%未満とすることができる。
【0025】
本発明の抗体組成物は再構成粉末粒子とすることができる。例えば、粉末粒子に水性緩衝液を加えると、抗体の再構成懸濁液又は溶液を形成することができる。このような溶液は例えばプロセスで噴霧される懸濁液又は溶液と実質的に同様にすることができる。場合により、等張性及び/又は高い抗体濃度等の所望特徴を提供するのに適した緩衝液で粉末粒子を再構成することができる。抗体の再構成溶液又は懸濁液は例えば約0.1mg/ml未満〜約500mg/mlの濃度とすることができる。1好適態様では、粉末粒子は10分以内に例えば約200mg/mlの生物活性材料濃度まで再構成することができる。別の好適態様では、粉末粒子は約200mg/mlまでの生物活性材料濃度の実質的に等張の懸濁液又は溶液に再構成することができる。
【0026】
再構成抗体の組成物は凝集物又はフラグメントが約3%未満である50mg/ml〜500mg/ml、又はそれ以上の溶液とすることができる。1好適態様では、抗体を400mg/ml以上の濃度に再構成する。このような組成物は増粘剤を含有する抗体の水性懸濁液又は水溶液を製造する段階と、懸濁液又は溶液をノズルから高圧で噴霧し、微細液滴ミストを形成する段階と、液滴を乾燥して粉末粒子を形成する段階と、粒子を回収する段階と、粒子を水溶液で再構成する段階を含む方法により製造することができる。組成物は増粘剤により50%又は0.05センチポアズ以上粘度を増加した懸濁液又は溶液から製造することができる。
【0027】
本発明の組成物は例えばポリオール及び/又はポリマー増粘剤を含有することができる。組成物のポリオールは例えばトレハロース、スクロース、ソルボース、メレジトース、グリセロール、フルクトース、マンノース、マルトース、ラクトース、アラビノース、キシロース、リボース、ラムノース、ガラクトース、グルコース、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、スレイトール、ソルビトール、ラフィノース及び/又は同等物とすることができる。組成物のポリマーは例えば澱粉、澱粉誘導体、カルボキシメチル澱粉、イヌリン、ヒドロキシエチル澱粉(HES)、デキストラン、デキストリン、ポリビニルピロリドン(PVP)、ヒト血清アルブミン(HSA)、ゼラチン及び/又は同等物とすることができる。組成物の製造方法における懸濁液又は溶液は例えば約0.1重量%〜約20重量%、又は約5重量%の量の増粘剤を含有することができる。
【0028】
組成物の製造方法で噴霧される水溶液又は水性懸濁液は例えばアルギニン、ヒスチジン、グリシン、及び/又は同等物等の両性イオンを含有することができる。アルギニンはプロセス懸濁液又は溶液中に例えば約0.1重量%〜約5重量%、又は約2重量%の量で存在することができる。1好適態様では、本発明の組成物は約2%〜約8%の濃度のスクロースと約2%〜約0.5%の濃度のアルギニンを含有する懸濁液又は溶液から製造される。
【0029】
組成物の製造方法で噴霧される水溶液又は水性懸濁液は例えば界面活性剤を含有することができる。界面活性剤は例えばモノラウリン酸ポリエチレングリコールソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールのブロックポリマー(例えばTween 80、Tween 20、Pluronic F68、及び/又は同等物)とすることができる。
【0030】
本発明は例えば微粒化高圧窒素ガスを使用するか、及び/又は低温流体への高圧噴霧による組成物の製造方法を提供する。組成物の製造方法は例えば微細液滴を低温流体に浸漬することにより液滴を凍結した後に、真空を印加し、液滴の温度を上げることにより液滴を乾燥することができる。
【0031】
組成物の粉末粒子は例えば平均粒径(サイズ)、組成、及び成分比率を変えることができる。例えば、粉末粒子の平均サイズは約0.1μm〜約100μm、又は約2μm〜約10μmとすることができる。粉末粒子は約20重量%〜約60重量%、又は約40重量%の量のスクロースを含有することができる。粉末粒子組成物は約1重量%〜約20重量%、又は約5重量%の濃度のアルギニンを含有することができる。粉末粒子組成物は約0重量%〜約5重量%、又は約0.5重量%〜約2重量%の濃度のPVPを含有することができる。
【0032】
噴霧液滴のサイズは1種以上のパラメーターを調整することにより本発明のシステム及び方法で調節することができる。例えば、液滴又は粒子のサイズは懸濁液もしくは溶液中の界面活性剤百分率を調整するか、噴霧圧を調整するか、微粒化ガス圧を調整するか、粘度を調整するか、懸濁液もしくは溶液中の総固形分を調整するか、懸濁液もしくは溶液の流速を調整するか、質量流量比を調整するか、懸濁液もしくは溶液の温度を調整するか、及び/又は同等手段により調節することができる。
【0033】
本発明の組成物は、例えば平均粒度が約2μm〜約200μmであり、粒子密度が約1であり、約90%を上回る純度の(非凝集非断片化)抗体の含量が40重量%〜約60重量%である乾燥粉末粒子を含む。好適態様では、粒度は10μm未満であり、抗体純度は97%以上である。乾燥粒子組成物は安定であり、例えば約4℃で約1年間〜約7年間保存後の粉末粒子の再構成時に抗体の凝集物が約3%未満である。粉末粒子組成物は約25℃で約0.1年間〜約1.5年間保存後の粉末粒子の再構成時に例えば凝集物が約3%未満である。このような粉末粒子組成物は例えば約40重量%〜約60重量%のスクロース又はトレハロース、及び/又はアルギニンを含有することができる。
【0034】
本発明の1好適組成物では、ウイルスとスクロースを含有する水性懸濁液又は水溶液を製造し、懸濁液又は溶液をノズルから高圧で噴霧して微細液滴ミストを形成し、液滴を乾燥して粉末粒子を形成し、粒子を回収することにより、ウイルスを含有する粒子を製造する。増粘剤が懸濁液中に存在することにより、粘度を50%、0.05センチポアズ以上増加することができる。高圧噴霧はガスの臨界点との圧力又は温度差を少なくとも10%としたガスで微粒化することにより実施することができる。ウイルスとしてはインフルエンザウイルスが挙げられる。本発明の方法と製剤を使用すると、回収後の粒子でウイルスの生存率はさほど低下しない。
【0035】
(定義)
本発明を詳細に記載する前に、本発明は記載する特定方法又は生物材料に限定されず、当然のことながら変更できると理解すべきである。また、本明細書で使用する用語は特定態様のみの説明を目的とし、限定的でないことも理解すべきである。本明細書と特許請求の範囲で使用する単数形はそうでないことが内容から明白である場合を除き、複数形も含む。従って、例えば「ポリオール」と言う場合には2種以上のポリオールの組み合わせを含むことができ、「細菌」と言う場合には細菌の混合物を含むことができ、他の用語についても同様である。
【0036】
特に定義しない限り、本明細書で使用する全科学技術用語は本発明が属する分野の当業者に一般に理解されていると同一の意味をもつ。本発明の試験の実施には本明細書に記載するものと類似又は等価の任意方法及び材料を使用することができるが、好適材料及び方法は本明細書に記載するものである。本発明の記載と特許請求の範囲において、以下の用語は以下の定義に従って使用される。
【0037】
本明細書で使用する「粒度」なる用語は一般に粒子の平均物理的直径を意味する。
【0038】
本発明の生物活性材料に関して「比活性」なる用語は物質量に対する生物活性を意味する。高純度未変性生物活性材料は例えば高い比活性をもつと考えられる。変性生物活性材料は低い比活性をもつと考えられる。
【0039】
本明細書で使用する「高圧噴霧」なる用語はオリフィスを通して供給される懸濁液又は溶液を標準噴霧乾燥器に使用されるよりも高圧で噴霧することを意味する。高圧は例えば約200psiを上回ると考えられる。好ましい高圧噴霧圧は約1000psi〜約2000psiである。高圧噴霧としては、例えばガスの臨界点との圧力差が10%を上回るガスで懸濁液又は溶液を微粒化する方法が挙げられる。
【0040】
本明細書で使用する「増粘剤」なる用語は発明の懸濁液又は溶液に添加して懸濁液又は溶液の粘度を有意に増加させる分子種を意味する。好ましい増粘剤としては、例えばポリオール、ポリマー、糖類、及び多糖類が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は高圧で噴霧した溶液と低圧で噴霧した溶液の質量流量比(MFR)に対する液滴サイズの関係を比較したグラフである。
【0042】
【図2】図2は気体の相転移臨界温度及び圧力点を示すグラフである。
【0043】
【図3】図3は増粘剤及び/又は界面活性剤を含有する溶液の微粒化圧に対する液滴サイズの関係を示すグラフである。
【0044】
【図4】図4A及び4Bは夫々質量流量比及び微粒化圧に対する乾燥粉末粒子サイズの関係を示すグラフである。
【0045】
【図5】図5は高圧スプレーノズルの典型例の概略図である。
【0046】
【図6】図6は圧力と微粒化ノズルオリフィス内径の組み合わせについて液体流速に対する液滴サイズの関係を示すグラフである。
【0047】
【図7】図7は増粘剤が高圧噴霧乾燥プロセスで変性を防止することを示すクロマトグラフである。
【0048】
【図8】図8は本発明の再構成組成物が高純度、高濃度、及び高安定性であることを示すクロマトグラフである。
【0049】
【図9】図9は高圧噴霧乾燥システムの典型例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
(詳細な説明)
本発明は生物活性材料を含有する安定な粒子を製造するための組成物と方法を提供する。本方法は例えば高い噴霧圧を使用して乾燥ガス温熱流に微細ミストを注入することにより高熱を使用せずに液滴を迅速に乾燥して粒子にすることができる。本発明の組成物は噴霧工程中に生物活性材料に加わる剪断応力を低下させるために増粘剤を添加する。
【0051】
本発明の方法は例えば増粘剤と共に組成物中の生物活性材料を高圧で噴霧乾燥し、純度又は生存率の初期低下を殆ど伴うことなく迅速に乾燥して粉末粒子となる微細液滴を生成する。高い初期純度と賦形剤の保護効果により、例えば長い貯蔵寿命と優れた粉末粒子貯蔵安定性が得られる。粉末粒子と溶け易い賦形剤を使用することにより、生物活性材料を比活性の高い高濃度に容易に再構成することができる。
【0052】
高圧噴霧乾燥法
本発明の方法は高純度で安定な生物活性材料を迅速に乾燥するために高圧噴霧を保護製剤と組み合わせる。本発明の方法は、例えば増粘剤と共に生物活性材料を含有する水性懸濁液又は水溶液を製造し、懸濁液又は溶液をノズルから高圧で噴霧して微細液滴ミストを形成し、液滴を乾燥して粉末粒子を形成し、保存又はすぐに使用するために粒子を回収することにより、生物活性材料を含有する粉末粒子を製造する。
【0053】
本方法は例えば生物活性材料の感受性、予想される保存条件、及び提案される投与経路に応じて適切な製品を提供するように変更することができる。剪断応力保護に加え、酸化防止、分子水和水に置換するために生物活性材料との水素結合、再構成を助長する高い溶解度、及び人体注射の安全性等の所望特性を提供することが可能な種々の増粘剤(例えばポリオールやポリマー)が利用可能である。生物活性材料の懸濁液又は溶液を噴霧するための高圧は例えば油圧、加圧ガス、又はHPLCポンプ等の高圧ポンプにより提供することができる。液滴の乾燥は例えば凍結と昇華、湿度制御不活性ガス温熱流及び/又は流動層懸濁液により実施することができる。粒子の回収はサイズによる粒子の分離、濾過、沈降、密閉容器充填等により実施することができる。本発明の粒子は例えば生物活性材料を吸入投与するため、注射投与用として再構成するため、長期参照用分析参照サンプルを保存するため、及び/又は同等目的のために使用することができる。
【0054】
生物活性材料懸濁液又は溶液の製造
増粘剤を含有する溶液に該当生物活性材料を加えると、本発明の懸濁液又は溶液を製造することができる。成分の溶解度を増すため、酸化を防止するため、嵩を増すため、表面張力を低下させるため、粒子の多孔度を低下させるため、pHを調節するため、及び/又は同等の目的のために付加賦形剤を添加することができる。
【0055】
本発明の生物活性材料は例えば工業用試薬、分析用試薬、ワクチン、医薬品、治療薬等とすることができる。本発明の生物活性材料としては例えばペプチド、ポリペプチド、蛋白質、ウイルス、細菌、抗体、モノクローナル抗体、細胞、又はリポソームが挙げられる。これらの材料の液体製剤の製造段階は各材料の固有感受性によって異なる。
【0056】
噴霧用液体製剤は生物活性材料と、増粘剤と、他の賦形剤を水溶液中で混合することにより製造することができる。ある種の生物活性材料(例えば多くのペプチドや抗体)は水溶液に溶け易い。また、生物活性材料(例えばウイルス、細菌、及びリポソーム)が製剤中に懸濁液として存在する粒子の場合もある。生物活性材料が溶液となるか懸濁液となるかに関係なく、多くの場合には例えば製剤に混合する際に剪断応力又は高温の苛酷条件を避けることが必要である。他の製剤成分を溶解するために熱や強い撹拌が必要である場合には、例えば別々に溶かしてから冷却後に生物活性材料と温和にブレンドすればよい。
【0057】
例えば本発明の高粘度迅速低温乾燥の側面を提供し易くするように、最終懸濁液又は溶液中の総固形分は一般に高い。例えば、本発明における噴霧用プロセス懸濁液又は溶液は約5%〜約50%の総固形分、約10%〜20%の総固形分、又は約15%の総固形分を含有することができる。高圧噴霧用懸濁液又は溶液は室温の水の粘度(0.01ポアズ)を有意に上回り且つ増粘剤を添加していない生物活性材料懸濁液又は溶液の粘度を上回る粘度とすることができる。例えば、増粘剤を添加すると、噴霧用懸濁液又は溶液の粘度を0.02センチポアズ、0.05センチポアズ、0.1センチポアズ、0.5センチポアズ、1センチポアズ、5センチポアズ、10センチポアズ、0.5ポアズ、1ポアズ、5ポアズ、10ポアズ以上増加することができる。別の側面では、増粘剤を添加すると、噴霧用懸濁液又は溶液の粘度を1%、5%、25%、50%、100%、500%以上増加することができる。1好適態様では、増粘剤は懸濁液又は溶液の粘度を0.05センチポアズ以上増加させるため又は5%以上増加させるために十分な濃度で存在する。
【0058】
懸濁液又は溶液中の生物活性材料濃度は例えば材料の比活性、賦形剤濃度、投与経路、及び/又は所期用途に応じて広い範囲にすることができる。生物活性材料が例えばペプチドワクチン、生きたウイルス、ワクチン接種用死滅化ウイルス、又は細菌である場合には、材料の必要濃度を非常に低くすることができる。生物活性材料が例えば吸入治療投与用抗体、又は局所投与用リポソームである場合には、必要濃度をもっと高くすることができる。一般に、生物活性材料は本発明の溶液又は懸濁液中に例えば約1mg/ml未満〜約200mg/ml、約5mg/ml〜約80mg/ml、又は約50mg/mlの濃度で存在することができる。ウイルス粒子は懸濁液又は溶液中に例えば約10pg/ml〜約50mg/ml又は約10μg/mlの量で存在することができる。
【0059】
本発明の増粘剤は一般に例えば生物活性材料の剪断破壊又は変性に対する有意保護を提供するために十分高い濃度で溶液又は懸濁液に溶解又は有効に懸濁することができる糖類又は水溶性ポリマーである。一般に、ポリマーは糖類よりも溶液中の分子が長く、高粘度となるので、増粘剤としての有効量が少ない。増粘剤は本発明の懸濁液又は溶液中に例えば約0.05重量%〜約30重量%、約0.1重量%〜約20重量%、又は約2重量%〜約6重量%の量で存在することができる。多くの増粘剤は例えば凍結及び乾燥等の他のプロセス応力下で生物活性材料に例えば保護効果を提供することができる炭水化物である。
【0060】
本発明の懸濁液又は溶液は例えば該当する特定生物活性材料と相溶性の界面活性剤を含有することができる。界面活性剤は高濃度の凝集又は沈殿を避けるように他の製剤成分の溶解度を上げることができる。界面活性剤は例えば生物活性材料が気液界面で変性しないように、及び/又は噴霧によってより微細な液滴が形成されるように懸濁液又は溶液の表面張力を低下させることができる。界面活性剤は本発明の溶液又は懸濁液中に約0.005%〜約1%、約0.01%〜約0.5%、又は約0.02%の量で存在することができる。
【0061】
懸濁液又は溶液の噴霧
本発明の懸濁液又は溶液を例えば高圧でスプレーノズルから噴霧し、微細液滴ミストを形成生成する。噴霧パラメーターは例えば溶液の粘度、所望粒度、所期乾燥方法、微粒化ノズルの設計、及び/又は生物活性材料の感受性に応じて異なる。
【0062】
高圧噴霧は微細液滴を獲得し、最終的に微細乾燥粉末粒子を獲得するために低圧噴霧法にまさる有意利点がある。図1に示すように、高圧噴霧(プロット10)は1未満の質量流量比(MFR−液体質量流量に対する微粒化ガス質量流量の比)で10μm未満の液滴サイズが得られるが、常法(低圧微粒化ノズル、プロット11)では10μm未満の液滴サイズを得るためには約15の範囲のMFRが必要になる。高圧噴霧は低圧噴霧法で獲得可能な平均液滴サイズよりも微細な液滴サイズを噴霧しながら、微粒化ガスの使用を有意に減らすことができる。場合により、高圧噴霧は微粒化ガスの同時放出を伴わずに実施することができ、即ちガス噴射を伴わずにノズルから高圧液体を噴霧することができる。
【0063】
懸濁液又は溶液は所望液滴サイズを提供するのに有効な圧力でノズルから噴霧することができる。一般に圧力が高いほど、例えば小さな液滴サイズが得られる。例えば溶液の粘性が高いほど、所望液滴サイズを提供するために必要な圧力は高くなる。例えば界面活性剤を加えると、多くの場合には高圧噴霧法で所望の液滴サイズを提供するために必要な圧力は低下する。加圧ガス流の存在下の噴霧により懸濁液又は溶液を微粒化する場合には、質量流量比は液滴サイズに影響を与えると考えられる。本発明の噴霧圧は例えば約200psi〜約5000psi、約500psi〜1500psi、又は約1300psiとすることができる。噴霧液滴及び/又は乾燥粒子のサイズは例えば懸濁液もしくは溶液中の界面活性剤百分率を調整するか、噴霧圧を調整するか、微粒化ガス圧を調整するか、粘度を調整するか、懸濁液もしくは溶液中の総固形分を調整するか、懸濁液もしくは溶液の流速を調整するか、質量流量比を調整するか、懸濁液もしくは溶液の温度を調整するか、及び/又は同等手段により調節することができる。
【0064】
液滴スプレーを高圧微粒化ガスで微粒化する場合には、微粒化ガスは例えばガスの臨界点との圧力又は温度差を少なくとも10%、又は少なくとも15%、又は少なくとも20%とすることができる。図2に示すように、多くのガスは加圧及び/又は冷却すると気体状態から液体又は固体状態に相転移させることができる。気体状態からのこれらの転移は臨界圧及び/又は臨界温度で生じ得る。本発明の1側面によると、所定態様では、微粒化ガスは所与温度におけるガスの臨界圧よりも>10%、又は>15%低い。本発明の1側面によると、所定態様では、微粒化ガスは所与圧力におけるガスの臨界温度(華氏で測定)よりも>10%、又は>15%高い。
【0065】
一態様では、懸濁液又は溶液は例えば所与噴霧圧における噴霧液滴サイズの調節を改善するように増粘剤と界面活性剤の両者を含有する。増粘剤の存在下では、噴霧される液滴サイズは一般に増粘剤を含有しない溶液よりも大きい、界面活性剤の存在下では、噴霧される液滴サイズは一般に界面活性剤を含有しない溶液よりも小さい。しかし、懸濁液又は溶液が増粘剤と界面活性剤の両者を含有する場合には、予想外の有用な結果を得ることができる。圧力、界面活性剤、増粘剤及び液滴サイズ間の関係を示すために、例えば図3に示すような液滴サイズと微粒化圧のグラフを作成することができる。所定圧力(例えば900〜1100psi)では、界面活性剤(Tween 80)及び/又は増粘剤(スクロース)を加えた水よりも純水30のほうが小さい液滴サイズに噴霧することができる。他の圧力(例えば約1300psi〜約2200psi)では、界面活性剤を含有する溶液又は懸濁液のほうが純水よりも小さい液滴サイズに噴霧することができる。界面活性剤による噴霧圧調節範囲がある程度強化されると、界面活性剤は増粘剤を含有する溶液又は懸濁液の液滴サイズに特に有意な影響を与えると考えられる。例えば、1500psiでは、20%スクロース溶液31の平均液滴サイズは約14μmで水よりも大きくすることができるが、0.1%Tween 80を含有する20%スクロース溶液32では平均液滴サイズは約8μmであり、水よりも小さくすることができる。本発明の1態様では、噴霧される懸濁液又は溶液の液滴サイズは界面活性剤濃度の調整により特定微粒化圧で調節される。例えば、界面活性剤濃度を漸増しながら調整すると、オリフィス内径、増粘剤濃度、圧力、及びMFR等の他のパラメーターを一定に維持する場合でも、液滴サイズを調節することができる。界面活性剤による強化調節範囲は該当する生物活性剤、界面活性剤、増粘剤の組み合わせについて実験により決定することができる。
【0066】
液滴サイズは微粒化ガスと懸濁液又は溶液の質量流量比(MFR)により変えることができる。図4Aのグラフの左側に示すように、所与微粒化圧では低MFR条件下のほうが大きい粒子が形成される。グラフの右側に示すように、所与微粒化圧では高MFR条件下のほうが噴霧液滴の乾燥後に小さい粉末粒子が形成される。この所見の1つの解釈は微粒化ガスの相対流量が大きいほど所与流体流を小さい液滴に分解できると説明できる。多くの場合には、平均液滴サイズ(及び最終乾燥粒子サイズ)は微粒化ガス圧が一定に維持されている間に高圧噴霧する懸濁液又は溶液の流速を調整することにより調節することができる。場合により、図4Bに示すように、懸濁液又は溶液の流量を一定に維持しながら加圧微粒化ガス流量を変化させることによりMFRを変化させて液滴サイズを調整することができる。
【0067】
1好適態様では、懸濁液又は溶液を加圧窒素ガスの微粒化流で高圧噴霧乾燥する。窒素ガス流で微粒化すると、微粒化ガスを使用しない直接高圧噴霧に比較して所与圧力で液滴サイズを小さくできると考えられる。窒素は比較的不活性であり、生物活性材料を例えば酸化から保護できるという点で加圧空気による微粒化にまさる利点がある。窒素は水溶液中で酸を形成せず、水蒸気を保持する能力が大きいという点で二酸化炭素にまさる利点がある。窒素は他の実質的に不活性なガスよりも廉価である。微粒化窒素による高圧噴霧に適したノズルとしては、例えばデュアルチャネル微粒化ノズルや、液体と微粒化ガスの交点をT字形にしたノズルが挙げられる。図4Bに示すように、乾燥液滴の粒度は一般に所与MFRで微粒化圧が増加するにつれて減少する。
【0068】
高圧噴霧乾燥法は例えば多量の懸濁液又は溶液を噴霧することにより規模を拡大することができる。例えば多重スプレーノズルを使用するか、高圧で噴霧するか、及び/又は内径の大きいスプレーオリフィスから噴霧することにより、噴霧する容量を増すことができる。図5は高圧スプレーノズル構成のいくつかの例を示す。図5Bはオリフィスに絞りをもつ高圧液体スプレーノズルを示す。例えば図5A及び5Cに示すような微粒化ノズルから噴霧する場合、MFRは懸濁液又は溶液の流速と共に変化し、その結果、所与微粒化ガス圧で液滴サイズが変化する。これは、液体の流速が増加するにつれて微粒化ガス流が制限されるようになるためである。例えば、図6に示すように、懸濁液又は溶液を2500psiガスで250μmオリフィスから微粒化する場合には、液体流速が増すにつれて液滴サイズは約30ml/分の液体流速で非線形的に増加し始める(プロット60)。これは微粒化ガス流が液体流により制限される結果、MFRが低下するためである。このような迅速な液滴サイズの増加はプロット61(懸濁液又は溶液を1170psiガスで500μmオリフィスから微粒化)に示すようにオリフィス内径の大きい微粒化ノズルを使用することにより遅らせることができる。
【0069】
剪断応力に対して感受性の分子及び細胞生物活性材料を高圧で噴霧すると、変性する恐れがある。この変性は例えば増粘剤と共に噴霧することにより減少させることができる。例えば、図7は噴霧乾燥前後の抗体溶液のサイズ排除分析を示す。図7Aは噴霧前の抗体のサイズ排除クロマトグラフを示す。図7Bは有効量の増粘剤を加えずに噴霧した後の抗体のサイズ排除クロマトグラフを示し、凝集物70の量は約6倍に増加し、フラグメント71はやや増加している。抗体の凝集物は抗体蛋白質の剪断応力変性とそれに伴う抗体分子間の異常な疎水性相互作用により比活性が低下している。図7Cは噴霧前に溶液に増粘剤を添加することにより凝集と断片化から保護した同一抗体のサイズ排除クロマトグラフを示す。
【0070】
本発明のスプレーノズルは所望微細液滴ミストを提供するように改造することができる。ノズルは例えば内径約50μm〜約500μm、約75μm〜約250um、又は約100μmのスプレーオリフィスに高圧で懸濁液又は溶液を供給する導管を備えることができる。オリフィスの直径が大きいほど、例えば生産速度は増すが、液滴サイズも大きくなる。ノズルはアトマイザーとして構成することができ、即ち液滴の分散を助長するように懸濁液又は溶液流に加圧ガスを誘導する第2のチャネルを備えることができる。
【0071】
プロセス懸濁液又は溶液は高圧でノズルから噴霧し、本発明の所望粉末粒子に容易に乾燥される微細液滴を形成することができる。液滴は例えば不活性温熱乾燥ガス流、200Torr以下の真空、又は低温流体の凍結流に噴霧することができる。液滴は平均粒径約2μm〜約200μm、約3μm〜約70μm、約5μm〜約30μm、又は約10μmとすることができる。液滴を例えば約−80℃〜約−200℃の気体又は液体アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素、又は窒素の低温流で凍結する場合には、昇華により乾燥し、液滴とほぼ同一サイズでありながら低密度の粒子を形成することができる。懸濁液又は溶液の総固形分が高い場合には、乾燥粒子を例えば大きく及び/又は高密度にすることができる。
【0072】
(液滴の乾燥)
噴霧した液滴を乾燥して粉末粒子を形成することができる。例えば過度の高温にせずに液滴を乾燥し、高純度、高比活性、及び高安定性の粒子を高回収率で得ることができる。乾燥は例えば温度、湿度、及び/又は圧力を制御した環境に暴露することにより実施することができる。乾燥は氷の昇華、真空乾燥、乾燥ガスとの接触、流動層懸濁、乾燥チャンバー保持、及び/又は同等手段により実施することができる。一次乾燥では一般に、例えば懸濁液又は溶液の液滴から液体又は氷水を除去する。二次乾燥では例えば残留水分10%、残留水分5%、又はそれ以下のレベルまで粒子から過剰の水分及び/又は水和水を除去する。
【0073】
乾燥は例えば湿度と温度を制御したガス流に液滴を噴霧することにより実施することができる。乾燥パラメーターは例えば所望活性、密度、残留水分、及び/又は安定性をもつ粒子を得るために必要な条件を提供するように制御することができる。ガスは例えば水蒸気に置換する窒素等の不活性ガスでもよいし、懸濁液又は溶液の噴霧ミストから放散する他のガスでもよい。ガスは例えば水分を吸収し、液滴の蒸発を速めるように、相対湿度の低い乾燥ガスとすることができる。ガスは例えば約15℃〜約70℃、25℃〜約60℃、又は約35℃〜約55℃の温度に制御することができる。乾燥温度は例えば粒子の空隙率、密度、安定性、及び/又は再構成時間が変化しないように粒子成分のガラス転移温度(T)未満に維持することができる。本発明の小さな粒度と高い総固形分により、例えば多くの感受性生物活性材料を実質的に分解しない短い乾燥時間と低い乾燥温度を実現することができる。
【0074】
液滴は例えば噴霧したミスト又は部分的に乾燥した粒子に真空(200Torr以下等の大気圧未満のガス圧)を印加することにより乾燥することができる。真空乾燥は例えば温度を下げながら液滴から水分を迅速に「沸騰」又は昇華させるという効果がある。液滴の温度は液体水から気体への相転移中に潜熱が失われるにつれて低下する。従って、真空乾燥は生物活性材料に加えられる熱応力を有意に減らすことができる。低温流体流で凍結させるか又は乾燥工程中に潜熱除去により凍結させた液滴の場合には、真空圧は水を固体氷相から気相へと直接昇華させ、フリーズドライ(凍結乾燥)粒子を提供することができる。
【0075】
例えば粒子の含水率を更に下げるために、二次乾燥条件を使用することができる。残留水分を低下させるためには、チャンバーで粒子を収集し、例えば真空下に約20℃〜約99℃、約25℃〜約65℃、又は約35℃〜55℃の温度に約2時間〜約5日間、又は約4時間〜約48時間維持することができる。二次乾燥は粉末粒子の流動層懸濁液を形成するようにチャンバー内に乾燥ガスの上昇流を提供することにより加速することができる。残留水分が少ない粒子ほど一般に良好な経時的貯蔵安定性を示す。二次乾燥は粉末粒子の残留水分が約0.5%〜約10%、又は約5%未満になるまで続けることができる。残留水分値が低過ぎると、生物活性分子によっては水和水分子の損失により変性する場合がある。この変性は多くの場合にはプロセス懸濁液又は溶液に糖類、ポリオール、及び/又はポリマー等の水素結合分子を加えることにより緩和することができる。
【0076】
本発明の粉末粒子は例えば製品の取り扱い、再構成、及び/又は投与要件に適したサイズにすることができる。例えば、生物活性材料の粉末粒子は吸入による深部肺送達では約2μm〜約10μmであるが、吸入による鼻腔内送達投与ではもっと大きく、約20μm〜約150μmとすることができる。再構成に時間のかかる製品は粒度を小さくすると、粒子の溶解を速めることができる。噴霧凍結乾燥粒子は残留固形分のケーキ構造を崩壊することなく液滴から氷を除去できるので、例えば密度を低くすることができる。このような粒子は空気力学的半径が小さいため、例えば吸入投与用に物理的サイズを大きくすることができる。凍結乾燥粒子は凍結乾燥粒子の多孔性により、例えば迅速な再構成特性を維持しながら液滴から乾燥した粒子よりも大きくすることができる。本発明の凍結乾燥粉末粒子は例えば約0.1μm〜約200μm、又は約2μm〜約100μm、又は約10μmの平均物理的直径とすることができる。
【0077】
粒子の平均サイズとサイズ均一性は例えば噴霧パラメーターを調整するか及び/又は乾燥パラメーターを調整することにより調節することができる。例えば、平均液滴サイズは上記懸濁液又は溶液の噴霧のセクションに記載したように、ノズルサイズ、溶液圧力、溶液粘度、及び溶液成分等により変化すると考えられる。平均粒度と粒度分布は粒子の収縮又は凝集に影響を与える乾燥条件(例えば凍結乾燥の使用、乾燥の完全度、静電荷の中和、乾燥中の粒子密度、乾燥速度、乾燥温度、及び/又は同等要因等)により変化すると考えられる。粒子の平均サイズとサイズ均一性は下記粒子の回収のセクションに記載するように選択することができる。
【0078】
(粒子の回収)
本発明の粉末粒子は例えば沈降又は濾過によりプロセス流から物理的に回収することができる。プロセスにおける生物活性材料活性の回収率は回収された物質の物理的回収時間と比活性の積である。
【0079】
粉末粒子の物理的回収率は例えば噴霧乾燥装置により維持又は放出される材料の量と、粒度選択法による損失により異なると考えられる。例えば、生物活性材料を含有する材料は配管系内や、噴霧乾燥装置の表面で失われると考えられる。例えば噴霧液滴の凝集が進み、プロセス流から脱落する場合や、小さい液滴が乾燥して微粒子となり、収集チャンバーを通過してプロセス廃棄流に送られる場合には、溶液又は粒子がプロセスで失われると考えられる。本発明のプロセス収率(投入生物活性材料がプロセスを経て回収される百分率)は例えば約40%〜約98%以上、又は約90%とすることができる。
【0080】
例えば濾過、沈降、衝撃吸着、及び/又は当分野で公知の他の手段により所望平均サイズ及びサイズ範囲の粒子を選択することができる。粒子は均一細孔寸法をもつ1個以上のフィルターで篩別することによりサイジングすることができる。大きい粒子は液体又はガスの移動流中の粒子懸濁液から落下させることにより分離することができる。小さい粒子は大きい粒子が沈降する速度で液体又はガス移動流でスイープすることにより分離することができる。大きい粒子は運動量の小さい粒子を輸送する復帰ガス流から表面衝撃により分離することができる。
【0081】
活性生物活性材料の回収率は例えば噴霧乾燥プロセス中に生じる物理的損失、物質破壊、変性、凝集、断片化、酸化、及び/又は同等現象の影響を受けると考えられる。本発明の方法は例えば剪断応力の低下、乾燥時間の短縮、乾燥温度の低下、及び/又は安定性の増加を生じる噴霧乾燥技術を提供することにより、多くの場合に生物活性の回収率を従来技術よりも改善することができた。例えば、本発明の方法により噴霧乾燥されるモノクローナル抗体は初期製造時及び4℃で約7年間まで保存した場合に凝集及び断片化を4%未満にすることができる。本発明の方法は高圧噴霧前の懸濁液又は溶液中の同一生物活性材料に比較して生物活性材料の活性又は生存率が実質的に変化しない乾燥粉末を提供することができる。
【0082】
(生物活性材料の投与)
本発明の生物活性材料は妥当な場合には、例えば哺乳動物に投与することができる。本発明の生物活性材料としては例えばペプチド、ポリペプチド、蛋白質、ウイルス、細菌、抗体、細胞、リポソーム、及び/又は同等物が挙げられる。このような物質は治療薬、栄養剤、ワクチン、医薬品、予防薬、及び/又は同等物として作用することができ、例えば胃腸吸収、局所塗布、吸入及び/又は注射により患者に投与すると有効である。
【0083】
生物活性材料は局所塗布により患者に投与することができる。例えば、患者の皮膚に塗布するように粉末粒子を軟膏、キャリヤー軟膏、及び/又は浸透剤と直接混合することができる。あるいは、塗布前に他の成分と混合する前に粉末粒子を例えば水性溶媒で再構成してもよい。
【0084】
本発明の生物活性材料は吸入により投与することができる。空気力学的直径約10μm以下の乾燥粉末粒子を肺投与のために肺に吸入することができる。場合により、空気力学的直径約20μm以上の粉末粒子を鼻腔内又は上気道に投与し、患者の粘膜への衝撃により空気流から放出させることができる。あるいは、水性ミストとして吸入投与するために、粉末粒子を懸濁液又は溶液に再構成してもよい。
【0085】
本発明の生物活性材料は注射により投与することができる。粉末粒子は例えば高圧空気噴射を使用して患者の皮下に直接投与することができる。より一般には、中空注射針で注射するように粉末粒子を例えば滅菌水性緩衝液で再構成することができる。このような注射は例えば適宜筋肉内、静脈内、皮下、鞘内、腹腔内等に実施することができる。本発明の粉末粒子は用量及び取り扱い要件に合わせて約1mg/ml未満〜約500mg/ml、又は約5mg/ml〜約400mg/mlの生物活性材料濃度の溶液又は懸濁液に再構成することができる。再構成した粉末粒子を例えば多重ワクチン投与、静脈内輸液による投与等のために更に希釈することができる。
【0086】
(本発明の組成物)
本発明の組成物は一般に本発明の方法を使用して製造された乾燥粉末状生物活性材料である。組成物の所期用途に合わせて本明細書に記載する生物活性材料、処理段階、プロセスパラメーター、及び組成物成分の多数の組み合わせが利用可能である。
【0087】
本発明の組成物は例えば上記方法のセクションに記載したように、生物活性材料と増粘剤の水性懸濁液又は水溶液を製造し、懸濁液又は溶液をノズルから高圧で噴霧して微細液滴ミストを形成し、液滴を乾燥して粉末粒子を形成し、粒子を回収することにより製造された生物活性材料を含有する粉末粒子を提供する。組成物の1特定態様では、粉末粒子は400mg/ml以上の溶液に再構成することが可能な生物活性材料として抗体を含有しており、抗体は凝集物又はフラグメントが約3%未満である。本発明の組成物としては例えば高純度で高比活性の生物活性材料の安定な粉末粒子と高濃度溶液が挙げられる。ウイルス性生物活性材料を含有する粉末粒子はウイルス、スクロース、及び界面活性剤の懸濁液を高圧噴霧することにより製造することができる。
【0088】
(粉末粒子)
組成物の粉末粒子は本発明のプロセス懸濁液又は溶液の乾燥液滴である。粒子は例えばポリオール及び/又はポリマー増粘剤等の賦形剤の乾燥マトリックス中に安定な生物活性材料を含む。粒子の平均物理的直径(サイズ)は例えば約0.1μm〜約100μm、約2μm〜約10μm、又は約4μmである。生物活性材料は粉末粒子中に賦形剤に対して重量比で例えば約1/100未満〜約100/1、約1/5〜約5/1、又は約2/3〜約3/2の比で存在する。一態様では、本発明の組成物はモノクローナル抗体約55重量%、アルギニン約15重量%、ポリビニルピロリドン約2重量%、スクロース約33重量%、及び水分約5%を含有する平均直径約5μmの乾燥粉末粒子から構成される。別の態様では、乾燥粉末粒子の組成物は、例えば生きた弱毒ウイルス約0.01重量%、アルギニン約15%、ポリオール70%、及び水分5%未満を含有する。
【0089】
(生物活性材料)
組成物の生物活性材料としては、例えば、ペプチド、ポリペプチド、蛋白質、ウイルス、細菌、抗体、細胞、リポソーム、及び/又は同等物が挙げられる。本発明の粉末粒子中の生物活性材料は例えばその製造に使用される剪断応力が低く、乾燥温度が低く、保護賦形剤を加え、乾燥時間が短いため、粉末粒子の乾燥時に高純度で高活性にすることができる。生物活性材料は例えば初期プロセス分解が少ないことと組成物賦形剤の保護側面により、粉末粒子中で安定である。組成物の生物活性材料は例えば粒子の表面積対体積比が大きく、組成物の賦形剤により溶解度が増加するため、分解せずに高濃度で再構成することができる。
【0090】
本発明の粉末粒子を形成するために高圧噴霧乾燥される溶液又は懸濁液は例えば約1mg/ml未満〜約200mg/ml、約5mg/ml〜約80mg/ml、又は約50mg/mlの量の本発明の生物活性材料を含有する。本発明の乾燥粉末粒子中の生物活性材料は約0.1重量%未満〜約80重量%、約40重量%〜約60重量%、又は約50重量%の量で存在する。再構成後の組成物の生物活性材料は例えば約0.1mg/ml未満〜約500mg/ml、約5mg/ml〜約400mg/ml、又は約100mg/mlの濃度で存在することができる。本発明の1側面では、生物活性材料は噴霧する懸濁液中に約2log FFU/ml〜12log FFU/ml、又は約3log FFU(フォーカス形成単位)〜13logFFU/g乾燥粉末粒子の力価で存在するウイルスである。
【0091】
(増粘剤)
組成物の増粘剤としては例えば本発明の溶液又は懸濁液を高圧噴霧する際に剪断応力に対する保護を生物活性材料に提供することができるポリオール及び/又はポリマーが挙げられる。増粘剤は最終的に粉末粒子バルクの有意部分となり、付加効果を提供する。例えば、粒子中の増粘剤は例えば乾燥中に失われる水和水分子に置換する水素結合を提供することにより生物活性材料を安定化し、高濃度でより迅速に再構成できるように粒子の溶解度を増加し、反応速度を遅らせるようにガラス状マトリックスを提供し、脱安定化分子(例えば酸素)が生物活性材料に接近するのを物理的に阻止するのを助長すると考えられる。
【0092】
増粘剤として有用なポリオールは例えば組成物の所期用途に適合性でなければならない。例えば、ヒトに注射することを目的とする粒子は一般に安全と認められるものでなければならない。増粘剤ポリオールとしては、例えばトレハロース、スクロース、ソルボース、メレジトース、グリセロール、フルクトース、マンノース、マルトース、ラクトース、アラビノース、キシロース、リボース、ラムノース、ガラクトース、グルコース、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、スレイトール、ソルビトール、ラフィノース及び/又は同等物が挙げられる。例えば、生物活性材料がペプチドである場合には、側鎖の化学修飾を避けるために、非還元糖が一般に推奨される。
【0093】
増粘剤として有用なポリマーとしては、例えば澱粉、澱粉誘導体、カルボキシメチル澱粉、イヌリン、ヒドロキシエチル澱粉(HES)、デキストラン、デキストリン、ポリビニルピロリドン(PVP)、ヒト血清アルブミン(HSA)、ゼラチン及び/又は同等物を挙げることができる。多くのポリマーは例えばポリオールよりも重量に基づく溶液中の粘性が高いため、多くの場合により低濃度で十分な剪断応力保護を提供することができる。
【0094】
増粘剤は噴霧乾燥前の本発明の溶液又は懸濁液中に約0.1重量%〜約20重量%、2重量%〜8重量%、又は6重量%の量で存在することができる。多くの態様では、ポリオール増粘剤は溶液又は懸濁液中に約6重量%存在し、ポリマー増粘剤は約2重量%存在する。増粘剤は懸濁液又は溶液の粘度を約5%以上、又は0.05センチポアズ以上増加させるために十分な濃度で本発明の懸濁液又は溶液中に存在していることが好ましい。
【0095】
他の賦形剤
本発明の組成物は適切な特性と効果を提供するために付加賦形剤を添加することができる。例えば、組成物は界面活性剤、両性イオン、緩衝液等を添加することができる。
【0096】
本発明の組成物は、例えば組成物成分の溶解度を上げるため、及び/又は表面張力を低下させるために界面活性剤を添加することができる。界面活性剤は例えば生物活性材料を荷電又は水素結合基で包囲することによりその懸濁度又は溶解度を増加することができる。界面活性剤は例えば水と接触すると賦形剤マトリックスの溶解を加速することにより粉末粒子の再構成を助長することができる。生物活性材料によっては噴霧中に液滴の空気/液体界面に凝集や構造変化が生じることがあるが、界面活性剤は表面張力を低下させることによりこのような現象を減らすことができる。組成物の界面活性剤としては、例えばモノラウリン酸ポリエチレングリコールソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、又はポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールのブロックポリマー(例えばTween 80、Tween 20、又はPluronic F68)等の適当な任意界面活性剤が挙げられる。界面活性剤は組成物中に粉末粒子の約0.01重量%〜約2重量%、約0.1重量%〜0.5重量%、又は約0.2重量%の量で存在することができる。界面活性剤は上記のように液滴及び粒子サイズの調節に効果を提供することができる。
【0097】
例えば生物活性材料又は界面活性剤の荷電基の対イオンとしてアミノ酸等の両性イオンを組成物に添加することができる。これらの対イオンが存在すると、例えば生物活性材料を非変性コンホメーションに維持するのを助長し、凝集を防止し、荷電生物活性材料が処理装置の表面に吸着するのを阻止することができる。両性イオンは例えば生物活性材料を脱アミド化反応から保護するのを助長し、酸化防止剤として作用し、pH緩衝能を提供することができる。本発明の両性イオンとしては、例えばアルギニン、ヒスチジン、グリシン、及び/又は同等物が挙げられる。両性イオンは本発明の組成物中に総固形分の約0.1重量%〜約10重量%、約0.5重量%〜約5重量%、又は約2重量%の量で存在することができる。
【0098】
本発明の組成物は、例えばpHを調節し、製品安定性を増加し、及び/又は投与の快適さを増すために緩衝液を添加することができる。組成物の緩衝液としては、例えばリン酸、炭酸、クエン酸、グリシン、酢酸等が挙げられる。
【0099】
以下、実施例により本発明を例証するが、これらの実施例により特許請求の範囲に記載する発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0100】
抗体の高圧噴霧乾燥
8重量%モノクローナル抗体、6重量%スクロース、0.2重量%PVP、及び2重量%アルギニンを含有するように水溶液を調製した。平均直径約10μmの液滴を提供するように溶液をノズルから約1150psiで噴霧した。液滴を約60℃〜約45℃の温度の乾燥窒素ガス流で乾燥し、平均直径約4μm及び含水率5%未満の粉末粒子を生成した。粉末粒子をまず抗体濃度が500mg/mlまでで総凝集物及びフラグメントが3%未満の溶液に再構成した。図8は高濃度再構成及び50℃で9日間以上保存後の抗体を示す。粉末粒子は安定に維持され、傾向分析によると、4℃で約7年以上又は25℃で約1.5年間保存した場合に凝集物3%未満の安定性が予測された。
【0101】
高圧噴霧乾燥製剤の安定性の別の例では、8重量%モノクローナル抗体、6重量%スクロース、0.002%Tween 20、及び2重量%アルギニンを含有するように水溶液を調製した。入口窒素乾燥ガス温度を約60℃とし、乾燥チャンバー出口温度を約45℃として溶液をノズルから約1300psiで噴霧した。安定性データによると、乾燥粉末粒子は4℃で6年以上保存後又は25℃で約2年間保存後に付加凝集物を約1.5%しか形成しないと予想される。
【0102】
別の例では、低張性速溶解性製剤を高圧噴霧乾燥し、安定な粉末粒子を製造した。8重量%モノクローナル抗体、2重量%スクロース、0.008%Tween 20、及び0.5重量%アルギニンを含有するように水溶液を調製し、入口窒素乾燥ガス温度を約60℃とし、乾燥チャンバー出口温度を約45℃として1300psiの微粒化窒素を使用して高圧噴霧した。乾燥粉末は室温で回転振盪を使用して僅か10分間の溶解時間で180mg/mlの抗体濃度まで再構成された。このような製剤は迅速に注射の用意ができ、注射部位の痛みや刺激を減らすという実用的効果がある。安定性データによると、乾燥粉末に付加凝集物2%が形成されるのは4℃で2年以上保存後であると予想される。
【実施例2】
【0103】
生きたウイルスの高圧噴霧乾燥
AVO47r(5%スクロース,2%トレハロース,10mMメチオニン,1%アルギニン,0.2%Pluronic F68,50mM KPO,pH7.2)中に約7.5log FFU/mlの生きたインフルエンザウイルスを含有する水溶液を調製し、入口温度55℃の乾燥チャンバーに1300psiで高圧噴霧した。乾燥粉末を再構成した処、生存率の有意低下を示さず、力価は約7.5log FFU/mlであった。製剤が生存率を1log低下するには37℃加速保存温度で23日間かかった。
【実施例3】
【0104】
高圧噴霧乾燥システム
高圧噴霧乾燥システムは例えば懸濁液又は溶液を高圧スプレーノズルに移送するための高圧ポンプシステムと、液滴と粒子を調整ガス流で輸送するための噴霧乾燥システムを備えることができる。図9に示すように、高圧ポンプ92を使用して生物活性材料と増粘剤を含有する懸濁液又は溶液90を保持容器から高圧スプレーノズル91に移送する。ガス源93からの高圧ガスを高圧ガスポンプ94に通し、懸濁液又は溶液を微細液滴ミストスプレー95に微粒化して粒子形成容器96にポンプ装入する。温度制御ガス97をファン98により流れに吸引し、スプレーからの水蒸気に置換し、液滴95を乾燥して粉末粒子99とする。粉末粒子99を二次乾燥チャンバー100に移送し、残留水分を許容可能なレベルまで除去する。粉末粒子製品は回収のために乾燥チャンバー100の底部の収集容器101に沈降した。
【0105】
高圧噴霧は高圧ノズルからの直接高圧噴霧、ガス噴射によるスプレーの微粒化、及び/又は低温流体への高圧噴霧等の当分野で公知の種々の方法で実施することができる。高圧噴霧では、HPLCポンプ等の高圧ポンプ又は保持容器に高圧ガスを印加することにより懸濁液又は溶液をノズルに供給すればよい。微粒化噴霧では、加圧ガスをスプレー出口オリフィスの近傍の出口から放出させ、噴霧される液滴を更に崩壊及び分散させればよい。噴霧凍結乾燥では、液滴を粒子形成容器で低温(−80℃)ガス又は液体に噴霧すればよい。
【0106】
液滴を温度制御ガスで乾燥するには、スプレーガスに置換し、温度、湿度、及び/又は圧力制御ガス中に水分を蒸発させればよい。ファン98はガス流97を液滴スプレー95に吸引し、水蒸気、及び/又は揮発性溶液成分等のスプレーガスに置換させることができる。温度調節器102は粒子形成容器96に装入する前にガス温度を調節するための加熱器又は冷却システムとすることができる。ガスは湿度調節器103(コンデンサーコイル又は乾燥剤)内を流れ、水分を除去することができる。収集容器と流体接触させた真空ポンプにより乾燥チャンバーからガスを除去し、液滴からの蒸発を加速するか又は凍結液滴を凍結乾燥することができる。乾燥ガスをフィルター、乾燥器、熱交換器、活性炭層、又は他の装置に通し、粒子形成チャンバーと乾燥チャンバーにリサイクルするためのガスを再構成することができる。プロセスガスは密閉導管システムで再循環することができ、又はシステムを環境制御チャンバーに密閉することができる。加熱、冷却、及び/又は湿度制御装置を調節するように再循環ガス内の温度及び湿度センサーを改造することができる。
【0107】
当然のことながら、本明細書に記載した実施例及び態様は例証のみを目的とし、それらを参考に種々の変形又は変更が当業者に示唆され、このような変形又は変更も本明細書の精神及び範囲と特許請求の範囲に含まれる。
【0108】
以上、明確に理解できるように本発明を多少詳細に記載したが、本発明の真の範囲から逸脱することなく形態や細部に種々の変更が可能であることは以上の開示から当業者に自明である。例えば、上記全技術及び装置は過度の実験を要することなく種々に組合せて使用することができる。
【0109】
本明細書に引用した全刊行物、特許、特許出願、及び/又は他の文献はその開示内容全体を全目的で参考資料として組込み、各刊行物、特許、特許出願、及び/又は他の文献を全目的で参考資料として組込むと個々に記載しているものとして扱う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0110】
【特許文献1】米国特許第6,165,463号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒度が約2μm〜約200μmであり;
粒子密度が約1であり;
約90%を上回る純度の抗体の含量が粒子の約40重量%〜約60重量%に相当する粉末粒子組成物。
【請求項2】
平均粒度が10μm以上である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
抗体が約97%以上の純度である請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
抗体が約4℃で約7年間まで保存後の粉末粒子の再構成時に約3%未満の凝集物を含有する請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
抗体が約25℃で約2年間まで保存後の粉末粒子の再構成時に約3%未満の凝集物を含有する請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
粒子の約40重量%〜約60重量%に相当するスクロース又はトレハロースを更に含有する請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
更にアルギニンを含有する請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
ウイルスと、スクロース、トレハロース、及びマンニトールから構成される群から選択されるポリオールを含有する水性懸濁液又は水溶液を製造する段階と;
懸濁液又は溶液をノズルから高圧で噴霧することにより微細液滴ミストを形成する段階と;
液滴を乾燥して粉末粒子を形成する段階と;
粒子を回収する段階を含む方法により製造されるウイルスを含有する粒子組成物。
【請求項9】
ウイルスがインフルエンザウイルスを含む請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
回収した粒子におけるウイルスの生存率がさほど低下していない請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
ポリオールがポリオールを含有しない懸濁液又は溶液に比較して5%以上の粘度増加又は0.05センチポアズ以上の粘度増加を生じる濃度を構成する請求項8に記載の組成物。
【請求項12】
前記噴霧がガスの臨界圧よりも>10%低いか又はガスの臨界温度よりも>10%高い圧力の高圧ガスで微粒化することを更に含む請求項8に記載の組成物。
【請求項13】
更に約0.2%の界面活性剤を含有する請求項8に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−6444(P2011−6444A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184160(P2010−184160)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【分割の表示】特願2004−563713(P2004−563713)の分割
【原出願日】平成15年12月16日(2003.12.16)
【出願人】(509110770)メディミューン・エルエルシー (4)
【氏名又は名称原語表記】MedImmune, LLC
【Fターム(参考)】