生物細胞の特性又は挙動を特徴づけるためにバイオセンシングするマイクロプレートの振動
少なくとも1つの生物細胞の特性又は挙動を特徴づける方法が記載される。当該方法は、マイクロプレートを提供するステップ;特徴づけの対象となる少なくとも1つの生物細胞が前記マイクロプレートと接触した状態になるように、前記マイクロプレートの少なくとも1つの表面を細胞培養培地中に水没させるステップ;前記マイクロプレートを振動させるステップ;マイクロプレートに取り付けられた、相互に隔てられた複数のセンサーを提供するステップ;前記マイクロプレートが振動している間に、各センサーからそれぞれの時系列センサーデータを取得するステップであって、前記取得された時系列センサーデータが互いに独立しないように、前記マイクロプレート及び前記センサーが配置されている前記ステップ;及び少なくとも1つの生物細胞の特性又は挙動を特徴づけるように、前記時系列センサーデータを処理するステップを含む。少なくとも1つの生物細胞の特性又は挙動を特徴づけるための対応するシステムも記載される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの生物細胞の特性又は挙動を特徴づける方法及びシステムに関連する。当該方法及びシステムは、例えば、in vitroでの細胞伝播、細胞極性、細胞運動、細胞成長、細胞収縮、細胞移動、細胞増殖、細胞分化、及び病原菌の成長等の細胞の特性及び挙動を特徴づけるのに利用可能である。
【背景技術】
【0002】
現在のところ、生物細胞の物理的特性及び挙動を測定するとき、それは顕微鏡検査画像システムを用いた顕微鏡に基づき主に実施される。細胞培養、それを監視及び操作する業務は単調であり、また時間がかかる可能性がある。外部の刺激に対する細胞の応答は、多くの場合、リアルタイムに可視化するのは困難である。
【0003】
マイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)用のセンサーを設計するために、機械式トランスデューサーの原理を利用することについて、技術者、物理学者、化学者、及び生物学者で関心が高まっている。最も幅広く応用されている機構は微小カンチレバーである。これは、MEMSにおいて、異なる種類のセンサー、例えばAFM用の一体化したチップを備えた力センサー、バイメタル式温熱センサー、質量負荷センサー、媒体粘弾性センサー、及び熱重量センサー、及び応力センサー等を構築するのに用いられてきた。微細加工技術、表面機能化生化学、及びカンチレバーセンシング法を組み合わせることにより、臨床用途及び環境用途を目的としたバイオセンサーを開発する機会が提供される。Baselらの文献「A high−sensitivity micromachined biosensor」、(Biosensors and Bioelectronics, Volume 12, Issue 8, 1997, Page iv)では、微小カンチレバーを用いて、機能化表面に付着した、受容体がコーティングされたマグネットビーズの存在を検出することが提案されている。Fritzらの文献「Translating biomolecular recognition into nanomechanics」(Science, Volume 288, Issue 5464, April 14, 2000, Pages 316-318)では、ssDNAハイブリダイゼーションが、平行に配置された2つの微小カンチレバーを用いてモニターされるが、この場合、両カンチレバーの差示的偏差により、2つ同一の、但し一塩基ミスマッチを有する12マーオリゴヌクレオチドの識別が可能になる。
【0004】
それにもかかわらず、基本的な生物学的プロセス、例えばin vitroでの細胞運動、収縮、移動、増殖、又は分化、及び病原菌の成長等の動的及び接触式測定を実現することができるマイクロセンシングシステムに対する必要性が存在する。かかるセンサーについて多くの適用可能な領域が提案されてきた。Bhadriraju及びChenの文献「Engineering cellular microenvironments to improve cell−based drug testing」(DDT, Volume 7, Issue 11, Pages 612-620, June 2000)では、細胞に基づく薬物試験法を改善するために、細胞微環境の工学的構築法の利用が提案されている。Onoらの文献「Morphological changes and cellular dynamics of oligodendrocyte lineage cells in the developing vertebrate central nervous system」(Developmental neuroscience, Volume 23, Issue 4-5, Pages 346-355, 2001)では、希突起神経膠細胞系列細胞における形態学的変化、及び細胞の可動性及び増殖を含む当該細胞の動力学の研究が行なわれ、OPCが中枢神経系全体を通じて拡散分布する分子機構の可能性について見識がもたらされることが示唆されている。Ludtkeらの文献「The Effect of Cell Division on the Cellular Dynamics of Microinjected DNA and Dextran」(Volume 5: 579~588 (2002), Molecular Therapy, 6(1), July 2002, Page 134)では、DNA及びデキストランを微量注入したときに、細胞分裂が細胞の動力学に及ぼす影響が明らかにされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
細胞測定において、顕微鏡以外の別の特質を提供するために、本発明では、細胞の成長及び動的特性、例えばin vitroでの運動、収縮、形態変化、移動等について検出及びモニタリングが改善するように、マイクロセンシングする方法及びシステムを提供することを狙いとしている。本明細書に記載する方法及びシステムでは、現在利用可能な画像システムを補完することが意図されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様によれば、少なくとも1つの生物細胞の特性又は挙動を特徴づける方法が提供される。当該方法は、マイクロプレートを提供するステップ;特徴づけの対象となる少なくとも1つの細胞が前記マイクロプレートと接触した状態になるように、前記マイクロプレートの少なくとも1つの表面を細胞培養培地中に水没させるステップ;前記マイクロプレートを振動させるステップ;マイクロプレートに取り付けられた、相互に隔てられた複数のセンサーを提供するステップ;前記マイクロプレートが振動している間に、各センサーからそれぞれの時系列センサーデータを取得するステップであって、前記取得された時系列センサーデータが互いに独立しないように、前記マイクロプレート及び前記センサーが配置されている前記ステップ;少なくとも1つの生物細胞の特性又は挙動を特徴づけるように前記時系列センサーデータを処理するステップを含む。
【0007】
従って、顕微鏡検査画像システムを用いて生物細胞の物理特性及び挙動を測定することに関連した困難を克服するために、及び細胞の特性及び挙動について一貫性のある定量測定を可能にするために、本発明は、細胞培養液中に水没したプレートの動力学に由来する情報を用いることによる一体化した細胞モニタリング法、及び革新的なシステム同定技術を提供する。本発明は、顕微鏡検査画像システムを用いてリアルタイムに外部刺激に対する細胞の応答を可視化すること関連した多くの困難を克服する。プレートの動力学及び自動化された時系列解析を一体化することにより、連続的な画像モニタリングに全面的に依存せずに細胞の動力学に関する情報の履歴を提供することができる。本発明が提供できるような細胞情報を提供できる従来技術は存在しない。更に、本発明は、例えば蛍光又はレーザー漂白を用いない天然の細胞成長環境を提供する。また、本発明は生物細胞のリアルタイムな連続モニタリングも可能にする。本発明は高感度であり、及び応答時間は迅速である。
【0008】
更に、マイクロプレートの動力学は、上記で議論した周知の微小カンチレバーの動力学よりも複雑である。より興味深い動力学的特徴により、微小カンチレバーと比較して、マイクロプレートは、マイクロセンシング媒体として更なる情報を提供することができる。また、細胞培養培地中において、生存細胞をマイクロプレート表面上に維持することができるという事実により、マイクロプレートは、細胞(及び病原菌)の天然の培養環境を維持するための新しいベネフィットを提供する。
【0009】
本発明の1つの実施形態では、細胞を特徴づける方法の処理ステップは、細胞の動的挙動分類を規定するステップと、少なくとも1つの細胞の動的挙動が、前記規定された細胞の動的挙動分類に該当するかどうか決定するように、時系列センサーデータを処理するステップとを含む。別の実施形態では、処理ステップは、細胞特性を規定するステップと、少なくとも1つの細胞の規定された特性を測定するかどうか決定するように時系列センサーデータを処理するステップとを含む。
【0010】
処理ステップは、時間ドメイン、周波数ドメイン、及びウェーブレットドメインの1つ又は複数における時系列センサーデータを解析するステップを含み得る。処理ステップは、周波数応答関数(FRF)を解析するステップを含み得る。処理ステップは、ニューラルネットワーク及び/又はカルーネン・レーベ分解(Karhunen-Loeve decomposition)を用いるステップを含み得る。
【0011】
1つの実施形態では、マイクロプレートは定期的に振動を受ける。別の実施形態では、マイクロプレートはランダムに振動を受ける。
【0012】
本発明の第2の態様によれば、少なくとも1つの生物細胞の特性又は挙動を特徴づけるためのシステムが提供される。当該システムは、細胞培養培地用のコンテナー;前記コンテナーが少なくとも部分的に細胞培養培地で満たされるときに、マイクロプレートの少なくとも1つの表面が、前記細胞培養培地中に水没するように、前記コンテナー内に置かれた前記マイクロプレート;前記マイクロプレートを振動させるように作動可能な少なくとも1つのアクチュエーター;前記マイクロプレートに取り付けられた、相互に隔てられた複数のセンサーであって、各センサーが、前記マイクロプレートが振動している間、それぞれの時系列センサーデータを提供するように作動可能であり、前記マイクロプレート及び前記センサーが、前記提供された時系列センサーデータが互いに独立しないように配置されている前記センサー;及び前記センサーから前記時系列センサーデータを受け取るように、及び前記マイクロプレートに接触している少なくとも1つの生物細胞の特性又は挙動を特徴づけるために、受け取った前記時系列センサーデータを処理するように作動可能なプロセッサーを備える。
【0013】
マイクロプレートの境界状態は、例えばクランプで固定された状態、カンチレバー、非固定状態、及び点支持状態から選択され得る。
【0014】
センサーは、ピエゾ抵抗素子ゲージセンサー、光学センサー、歪みセンサー、及び加速度センサーから選択され得る。
【0015】
1つの実施形態では、少なくとも1つのアクチュエーターは圧電トランスデューサーを備える。別の実施形態では、少なくとも1つのアクチュエーターは音波アクチュエーターを備える。
【0016】
1つの実施形態では、コンテナーはペトリ皿である。
【0017】
本発明のその他の好ましい特徴は、添付の特許請求の範囲に記載されている。
【0018】
本発明の実施形態は、以下に示す添付図面を参照しながら例示目的で記載される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1a】本発明に基づくバイオセンシングシステム用のバイオセンシングプラットフォームの概略的な平面図である。
【図1b】図1aのバイオセンシングプラットフォームに関する概略的な側面図である。
【図2】本発明に基づくバイオセンシングシステム用のバイオセンシングプラットフォームの概略的な斜視図である。
【図3】自動的なバイオセンシングシステムの構成に関する概略的な図であり、非線形処理モデルを構築するのに用いられる主要な機能及び要素を示している。
【図4】一体化したバイオセンシングプラットフォームの走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【図5】バイオセンシングプラットフォームのマイクロプレート表面上にコーティングされた内皮細胞の、レーザー走査型マイクロメーター(LSM)画像である。
【図6】バイオセンシングプラットフォーム用の動的試験デバイスを示す図である。
【図7】3つの異なる細胞密度における、100μm角の正方形C−F−F−Fマイクロプレートに関する周波数応答関数(FRF)を表す図である。(a)及び(b)はマイクロプレート表面上の内皮細胞コーティング を示し、及び(c)は、細胞密度より標準化された速度振幅を示している。
【図8】3つの異なる細胞密度における、200μm角の正方形C−F−C−Fマイクロプレートに関する周波数応答関数(FRF)を表す図である。(a)及び(b)はマイクロプレート表面上の内皮細胞コーティング を示し、及び(c)は、細胞密度より標準化された速度振幅を示している。
【図9】3つの異なる細胞密度における、300μm角の正方形C−C−C−Cマイクロプレートに関する周波数応答関数(FRF)を表す図である。(a)及び(b)はマイクロプレート表面上の内皮細胞コーティングを示し、及び(c)は、細胞密度より標準化された速度振幅を示している。
【図10】試験対象マイクロプレート(No.I)における細胞の量の増加に従ったFDRnの傾向を示す図である。FDRnは、測定された共鳴モードnにおける、細胞が負荷されたメンブレン及び細胞が負荷されないメンブレンの間の標準化された共鳴周波数の差として評価された周波数差の比である。
【図11】試験対象マイクロプレート(No.II)における細胞の量の増加に従ったFDRnの傾向を示す図である。
【図12】試験対象マイクロプレート(No.III)における細胞の量の増加に従ったFDRnの傾向を示す図である。
【図13】図10、11、及び12の3つのマイクロメンブレンのAFDRインデックスを各実験バッチについて示す図である。AFDRは、全測定FDRnの平均値である。
【図14】単純な画像処理技術に基づく細胞集団の定量結果を示す図である。
【図15】細胞の同定に用いられたBPニューラルネットワークの概略図である。
【図16】サンプル1〜14を用いて訓練を受けたBPニューラルネットワークを用いたときのサンプル番号15〜18のCDRに関する予測結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に基づくマイクロ/ナノスケールバイオセンシングシステムには、細胞培養培地(例えば、細胞培養液)用のコンテナー(図示せず)が含まれる。バイオセンシングプラットフォームは、細胞培養培地コンテナー内に配置される。
【0021】
図1a及び1bは、バイオセンシングプラットフォーム10の1つの実施形態に関する平面図及び側面図を表している。若干異なる実施形態が、斜視図で図2に示されている。
【0022】
バイオセンシングプラットフォーム10は、主としてSIO基材12から形成される。バイオセンシングプラットフォーム10には、マイクロプレート14、圧電トランスデューサー(PZT)16の形態の2つアクチュエーター、相互に隔てられた4つのセンサー18、及び電力入力(図示せず)が含まれる。当該バイオセンシングシステムには、バイオセンシングシステムの一部を形成し得るプロセッサー(図示せず)が更に含まれる。バイオセンシングプラットフォーム10は、高減衰性条件下で良好なバイオ感度を保持しつつ液体(例えば、水)中で作動可能なように設計される。バイオセンシングプラットフォーム10は、天然の細胞生存環境を維持するように、液体コンテナー内の細胞培養液中に一方の側面又は両面について浸漬され得る。バイオセンシングプラットフォーム12では、前記プラットフォームが細胞培養培地中に水没したときに、生物細胞がこれを天然の増殖基盤として利用可能なように、例えばシリコン及び金等の生体適合性を有する材料が使用される。
【0023】
マイクロプレート14は、薄いマイクロマシンドメンブレン(micromachined membrane)であり、マイクロ/ナノスケールセンシングプラットフォームとして働く。マイクロマシンドメンブレン(プレート/ダイアフラム)は有望な質量センシング構造物であり、微小カンチレバーに置き換わる。微小カンチレバーと比較して、マイクロメンブレンは、より大きなセンシング領域を有し、液体内でより高い感度を示し、かつ脆弱性が低減している可能性がある。更に、マイクロメンブレンは、質量センシングの用途において微小カンチレバーと同様の長所を有する。マイクロプレート14は変形可能である。マイクロプレート14は、X−方向及びY−方向で数十〜数百ミクロンの範囲の寸法を有する。例えば、マイクロプレート14は、X−方向及びY−方向で数十〜数千ミクロン(例えば、100〜400μm)の寸法を有し得る。Z−方向のプレートの深度は、図1bに示す通り約3μmであるが、数ナノメータから最大数十ミクロンの範囲の深度も適切であろう。これらの寸法は制限ではなく、代表例として意図されている。マイクロプレート14は、様々な異なる境界状態(例えば、クランプで固定された状態、カンチレバー、非固定状態、及び点支持状態)を手段として支持され得る。図2の実施形態では、マイクロプレート14は長方形である。マイクロプレート14は、4つのヒンジ20により支持されており、各ヒンジはマイクロプレート14の4つある側面について、各1側面の中央に位置している。これはマイクロプレートの境界状態に関する1つの例である。
【0024】
アクチュエーター(すなわち、励起源)は、細胞培養培地内でマイクロプレート14を振動させるのに用いられる。図1a及び1bの実施形態では、アクチュエーターは、2つのPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)の薄層16である。PZT16は、マイクロプレート14の領域の内側又は近傍に配置されて、限られたエネルギー消費で強力な励起力を発揮する。従って、バイオセンシングシステムは自己励起が可能なように設計される。PZTアクチュエーターの使用に対する代替法として、マイクロプレート14は、これに替わり音響励起により作動可能である。アクチュエーター16は、バイオセンシングプラットフォーム10と一体化することができる。アクチュエーター16は、マイクロプレート14と一体化することができる。
【0025】
バイオセンシングシステムは、自己センシング可能なように設計される。4つの離散性ピエゾ抵抗素子−ゲージ(PZR)センサー18が、図1a及び2に示されている。センサー18は、マイクロプレート14の全ドメイン動力学的情報/振動情報が得られるように十分に選択された場所に配置されている。センサー18はマイクロプレート14内に組み込まれ得る。図2に示すセンシング要素14及び関連する接続トラック22を作り出すために、革新的な微細加工技術が用いられる。PZRセンサーを使用する替わりに、異なるセンサータイプ、例えば、光学センサー、歪みセンサー、又は加速度センサーが利用可能である。センサー18は、バイオセンシングプラットフォーム10と一体化することができる。センサー18は、マイクロプレート14と一体化することができる。センサー18の位置は、識別感度が最大となるように、及びマイクロプレート表面全体にわたり、高い性能を発揮する範囲が最大となるように最適化可能である。
【0026】
PZTアクチュエーター16及びピエゾ抵抗素子−ゲージセンサー18は、CMOS回路との適合性が良好であり、またその他の電子的な構成部材と容易に一体化する。バイオセンシングプラットフォーム10の電子部品(例えば、電極ワイヤー、金パッド、及び接続プローブ)は生体適合性材料により密閉される。バイオセンシングプラットフォーム10全体は、標準的なDIL(デュアルインライン)を用いて、パッケージされる。シグナルの流れ(インプット及びアウトプットシグナル)は、外部処理装置又は内部電子チップを経由して処理可能である。
【0027】
革新的なツール及びプロセスが、バイオセンシングプラットフォームのマイクロ/ナノスケールでの加工に用いられ、これには光学、及び電子ビームリトグラフィー、プラズマエッチング、並びにナノスケールでの加工において迅速に試作するためにエッチング及び蒸着する能力を有する集束イオンビームツールが含まれる。
【0028】
使用する際には、バイオセンシングシステムは単一細胞又は収集された細胞群の特性又は挙動を区別するのに用いられる。
【0029】
細胞培養培地コンテナーは、部分的に、又は完全に細胞培養培地で満たされる。バイオセンシングプラットフォーム10のマイクロプレート14は、細胞培養培地内にマイクロプレート14の少なくとも1つの表面が水没する又は浸漬されるように、細胞培養培地コンテナー内に配置される。例えば、マイクロプレート14は細胞培養培地内に完全に水没し得る。あるいは、マイクロプレート14の底面のみが細胞培養培地中に水没し得る。細胞培養培地中にマイクロプレート14を水没させれば、細胞培養培地中の生物細胞がマイクロプレート14を天然の増殖基盤として使用できるようになる。従って、マイクロプレート14と接触した状態の少なくとも1つの生物細胞が存在し、その特性/挙動はバイオセンシングシステム及び同方法により特徴づけられることとなる。
【0030】
次に、マイクロプレート14はアクチュエーター(例えば、PZT16)により振動を受ける。マイクロプレート14は、定期的に(例えば、シヌソイド関数を用いて)、又は広周波数帯域ランダム信号(例えば、擬似ランダム2進信号、ホワイトノイズ、又はバーストランダム等)を用いてランダムに励起可能である。励起/振動のタイプは、実施目的に応じて変化する。接触している生物細胞は、それ自身マイクロプレート14上に有意な力をもたらさないので、マイクロプレート14には振動が加えられる。接触している生物細胞は、マイクロプレート14の質量、剛性、及び歪みの各特性に影響を及ぼす。従って、これらの変数の測定(例えば、歪みゲージ測定)は、マイクロプレート14上に接触している生物細胞の影響を定量するのに利用可能であり、そしてこれにより、特徴づけの対象となる細胞の特性/挙動を推測するのに用いることができる。静止したマイクロプレート14を用いると、接触している細胞によるマイクロプレート14の歪みは非常に小さく、これは、例えばマイクロプレート14内の歪みのある領域内のシグナル検出を困難にする。その結果、特徴づけの対象となる細胞の特性/挙動を推測することが困難となる可能性がある。従って、細胞の存在に起因するマイクロプレート14内の歪みのある領域からより強いシグナルが生み出されるように、マイクロプレート14には、接触している生物細胞に向かって、及び遠ざかるように振動が加えられるのが有利である。二者択一的に/付加的に、マイクロプレート14は、もっぱら接触している生物細胞に向かい、及び遠ざかるのではなく、これ以外の方向で振動を受けることも可能であろう。マイクロプレート14を振動させることは、その他の長所も有する:振動することにより、マイクロプレート14の動力学的特徴に関する追加情報(例えば、固有周波数変化、モード形状変化、及びその他の非線形カップリング効果)がもたらされる。また、この追加の動力学的な情報は、接触している細胞の特性又は挙動を特徴づけるのにも利用可能である。
【0031】
マイクロプレートに振動が加えられている間、それぞれの時系列センサーデータが各センサー18から得られる。マイクロプレート14は、接触している生物細胞及びセンサー18の間の非線形カップリングをもたらす連続的な媒体である。従って、センサー18は、時系列センサーデータが互いに独立しないように、マイクロプレート14に接触している生物細胞に対するマイクロプレート14の変形応答を通じて連動する。これは、センサー18はマイクロプレート14から局所的なセンサーデータを受けるけれども、1つの特定のセンサー18から得られた時系列センサーデータは、当該センサー18から離れた細胞の動きを表し得ることを意味する。換言すれば、センサー18は、マイクロプレート14を介して生物細胞の特性/挙動を間接的に感知する。バイオセンシングプラットフォームは、表面に接触している生物細胞及び粒子を感知するための情報源として、その動的/振動上の特徴の変化を使用する。同時に収集されたセンサー18の感知応答を解釈することにより、接触している生物細胞の特性又は挙動を判別するような方法で、あらゆる細胞障害の性質を区別することができる。センサー18の間においてカップリング機構として機能するマイクロプレート14が存在することから、センサー18は非独立的な(すなわち、連動した)様式で応答する。システムの連動的性質により、マイクロプレート14には、比較的小数の独立したセンサー18が必要とされる。バイオセンシングプラットフォーム10の解像度は、センサー18を隔てるピッチに限定されず、従って、最小の製造スケールよりもかなり小さな変動を検知するのに利用可能である。更に、システムの連動的性質により、センサー18は、細胞が接触している表面以外のマイクロプレート14の表面上に取り付け可能である。これは本アプローチのロバスト性を高める。
【0032】
時系列センサーデータを取得したら、少なくとも1つの生物細胞の特性又は挙動を特徴づけるように、これらの時系列は、革新的なシステム同定法、及び組み込み型ITツールを用いて処理される。処理ステップ期間中、各センサーから得られた時系列センサーデータは、その他の各センサーから得られた時系列センサーデータと一緒に処理される(すなわち、データはまとめて処理される)。処理は非線形である。時間又は周波数ドメインのいずれかにおいて、連動した同時時系列を処理するのに、例えば、ニューラルネットワーク又はカルーネン・レーベ分解等の非線形シグナル処理技術が利用可能である。
【0033】
非線形処理モデルは、細胞の特性及び挙動を検知するために、時系列センサーデータ中の動力学的情報を利用する。マイクロプレート14から得られた空間的な動力学的情報(例えば、モード形状、センサー間のカップリング等)は、マイクロプレート14上の細胞に関する空間的な動力学的情報(例えば、極性、幹細胞の成長)を導出するために用いられる。システム同定ツールは、処理ステップのアウトプットを、特徴づけすることが望まれる1つの細胞/複数の細胞/組織の特性又は挙動と関連付けるのに用いられる。換言すれば、動力学的な情報は、動力学的細胞特性の状態及び特徴と関連付けられる。例えば、対象物の特性又は挙動は、薬物開発、微生物学的スクリーニング及び腫瘍スクリーニング、又は幹細胞の生物学において必要不可欠なものであり得る。これには、静的又は動的な特性又は挙動、例えばin vitroでの伝播、極性、細胞運動/成長、収縮、移動、増殖、又は分化、及び病原菌の成長が含まれ得る。現在のシステム及び方法は、細胞培養、細胞操作、及び細胞手術のプロセス期間中に、1つの細胞又は複数の細胞の接触について、サイズ、形状、及び運動の情報を導出するのに配備することができる。バイオセンシング法及びシステムの1つの目的は、細胞培養及び成長プロセス期間中に、細胞形態、移動、増殖、分化、及び収縮性に生ずる変化を検知することである。マイクロプレート14の動的な特徴(例えば、速度及び加速度)は、比較的少ないセンシング要素18を用いながら、システム同定アルゴリズムを介して必要とされる情報を推測するのに用いられる。マイクロプレート14の動的応答シグナル(すなわち、感知された時系列データ)は、所望の細胞特性又は挙動に関する情報を導出するために、インテリジェントな時系列同定アルゴリズムの適用対象となる。組み込み型情報ツールを用いることにより、細胞特性/挙動の識別が実現する。アウトプットは、利用目的に基づき様々なデスクリプターを伴う独立した形態、又は連続した形態であり得る。
【0034】
バイオセンシングシステムで用いられる非線形処理モデルは、トレーニングデータを用いて訓練される。マイクロプレート14は、負荷条件が異なればこれに応じて異なって振動する。従って、非線形処理モデルは、液体環境中のマイクロプレート14の既知の動力学を考慮する。例えば、マイクロプレートの動力学は、マイクロプレート14が細胞培養培地(一般的に水よりわずかに高い密度を有する)と相互作用することにより引き起こされる音圧波により影響を受ける。従って、非線形処理モデルは、液体中のマイクロプレート14の動力学及び音響照射に対するマイクロスケーリング効果を調べるためにマイクロスキャニングレーザー振動計を利用し、それから得られた結果を用いて構築される。マイクロスキャニングレーザー振動計は、液体中のマイクロプレート14の動力学及び音響照射、例えば固有振動数、固有モード、所定の強制条件における強制応答を測定するのに用いられる。従って、マイクロスキャニングレーザー振動計を使用すれば、適切な非線形処理モデル(例えば、ニューラルネットワーク)の構築が可能となる。換言すれば、マイクロスキャニングレーザー振動計を用いて得られた結果は、例えばニューラルネットワークのためのトレーニングデータとして用いられる。水没させたマイクロプレートの動力学をシミュレーションすることにより、振動するマイクロプレート14の時系列センサーデータから負荷状態を推測するように、非線形処理モデルの構築が可能である。モデルリングプロセスでは、異なるセンシング位置における変位/速度/加速度が、シミュレーションを通じて取得可能である。動的シグナル(すなわち、時系列センサーデータ)から抽出されるパラメータを外部の力/負荷に関連付ける非線形処理モデルは、システム同定技術、例えばカルーネン・レーベ分解、ウェーブレット解析、及び人工的ニューラルネットワーク法を用いて構築される。非線形処理モデルは、擬似ランダム2進法シーケンス(PRBS)励起・同定法を用いた実験により試験され及び妥当性確認され得る。PRBSシグナルの長所として、同シグナルの自己相関関数はインパルス関数と緊密に近似するような特性を同シグナルが有することが挙げられる。全ての周波数の動力学はPRBSシグナルにより励起される。従って、任意の強制条件下にあるマイクロプレート14の動力学が導出可能である。次に、マイクロプレート14上に加わる力/負荷を、マイクロプレート14上の異なる場所における振動がもたらす時系列センサーデータより推測するために、妥当性確認済みのモデルが利用可能である。システム同定技術が細胞/組織モニタリングに適用される場合には、細胞の動力学の状況及び状態が推測される。マイクロプレート14が水没しているときには、マイクロプレート14の加速度振幅は小さめであるが、これは、各モードはマイクロプレート14の面内に音圧を発生させ、正規モードは液体中で連動するようになるという事実による。更に、センサー18を適切な位置に配置することにより、適切なシステム同定技術を通じて、主要モード形状をマイクロプレート14上の負荷及び動的状態と関連付けることができる。細胞挙動と検知された過渡的状態との相関関係、及びマイクロプレートセンシング表面に由来する情報が、非線形処理モデルにおいて考慮される。顕微鏡システムを介して設置されるCCDカメラが、可視的挙動をモニターするために用いられ、またシンクロナイズドビジョンプロセッシングシステムを通じて、当該アウトプットがバイオセンシングシステムに由来する情報及びセンサーデータアウトプットと関連付けられる。図3には、実験装置の機能が概略的に示されている。
【0035】
上記のように、外部刺激は、既存の顕微鏡検査画像システムを用いてリアルタイムに可視化することが多くの場合困難であるが、生物細胞はこの刺激に起因して様々な応答を示す。本明細書に記載するバイオセンシング法及び同システムは、顕微鏡検査画像システムより入手可能な測定を強化し、及び細胞生物学者にとって入手可能な情報レベルを顕著に高める。現在のマイクロプレート動力学法、及び同システムの考えられる3つの応用例を以下に記載する。下記の各応用例では、バイオセンシングプラットフォームを培養培地中に水没させる。次に、細胞はマイクロプレートに結合し、その上で成長する。
【0036】
第1の考えられ得る応用は膜極性に関連する。単球や好中球等の白血球は、休止状態では何ら極性を示さないが、しかし走化性の刺激に応答して、膜受容体は分極化し、そして刺激の方向に移動する。同様に、新しい部位を分極化し、コロニー化する能力として、腫瘍転移能が定義可能である。細胞の移動を解析する現在の技術は、トリガーに応答して多孔性メンブレンを通過する移動に基づくが、この場合、手順の感度が不足しており、移動を可視化するために大きなサンプルサイズを必要とする。腫瘍の転移阻害剤に対する応答を解析する際には、わずかなサンプルサイズしか入手できないので、解析感度を改善する必要性が存在する。様々な走化性薬に対して好中球が示す応答性の指標マーカーとして、及び転移能を阻害し得るマトリックスメタロプロテイナーゼ阻害薬(例えば、TAPI)に対する腫瘍の指標マーカーとして、本発明のシステム及び方法を用いて、細胞膜の再分布及びマイクロプレート全体にわたる移動を調べることができる。かかる技術を開発することにより、十分に高められた感度及び薬剤開発スピードがもたらされる。
【0037】
第2の考えられ得る応用は、細胞の増殖、分化、及びアポトーシスに関連する。胚形成期間及び腫瘍等の活発に再生する組織内において、常在細胞は継続的に分裂する。細胞増殖は細胞数が増加するに連れて可視化され、数千個の細胞が任意の時点で試験可能である。やはり、かかる技術は洗練されておらず、また多数の細胞を必要とし、試験対象細胞の混合物となってしまうのは不可避である。小さいサンプルサイズを用いて、細胞の成長を高感度に調べることを可能にする、簡便技術の必要性が存在する。これを実現するために、顕微解剖が、腫瘍から単一細胞を抽出するのに利用可能であり、また細胞分裂の速度が、本発明の方法及びシステムに基づくマイクロプレートの動力学を用いて、サイズ及び質量の変化として求められる。時間及び用量範囲が色々変化した時の、メトトレキサートを含む様々な化学療法薬に対する応答性が、分化又はアポトーシスの期間中に誘発された細胞形状の変化として試験可能である。
【0038】
3番目に考えられ得る応用は、幹細胞からの筋肉細胞の発現に関連する。幹細胞には前駆体が定義されていないのでこれが様々な成熟細胞型に発達することが可能となる。こうしたことから、幹細胞生物学は、幹細胞生物工学の急速な成長分野、すなわち細胞の生存、増殖、自己再生及び分化に影響を及ぼす環境シグナル操作に貢献する。このように、多変量解析アプローチが用いられ、異なる幹細胞培養プロセスの最適化に成功した。やはり、このプロセスも、収縮性の表現型を伴う変化を含め、形態及び機能に生じた小さな変化を感知する技術を利用することにより強化することができる。幹細胞の平滑筋細胞への成熟は誘発可能であり、次いで収縮筋への成熟効率が、本発明の方法及びシステムに基づくマイクロプレートの動力学を用いて、単一細胞を基準として解析可能である。
実験結果
【0039】
ここで、更なる詳細内容が、本発明に基づくバイオセンシングプラットフォーム10を用いて実施された実験に関して記載される。特に、長方形のマイクロマシンドシリコンメンブレン(すなわち、マイクロプレート14)に基づくバイオセンシングシステムについて研究された。離散性のセンシングスキームはセンシング構造物の動力学をモニターする。人工ニューラルネットワークアルゴリズムが、測定データを処理し、並びに細胞の存在及び密度を識別するのに用いられる。従って、これらの実験では、特徴づけの対象となる細胞特性は、細胞の存在と密度である。何らかの具体的なバイオ用途を規定することなく、研究は、主に一般的なバイオセンシングプラットフォームとして、この種のバイオセンサーを性能試験することに重点が置かれた。微細加工されたメンブレン上でのバイオセンシング実験には、メンブレンのセンシング表面上に異なる細胞密度で播種するステップ、及び各試験対象シリコンメンブレンの対応する動力学情報を一連の周波数応答関数(FRF)の形式で測定するステップが含まれる。全ての実験は、実用的な作動環境をシミュレートするように細胞培養培地中で実施された。EA.hy926内皮細胞系統がバイオ実験用に選択された。EA.hy926内皮細胞系統は、生物学的粒子の特定のクラスを代表するが、同粒子は、従来型のバイオセンサーを用いたのでは感知するのが困難な、不規則な形状、不均一な密度、及び不明確な成長挙動を有する。最終的な予測結果から、離散性のセンサー測定から細胞の特徴を同定するための、ニューラルネットワークに基づくアルゴリズムからなる方法は、バイオセンサーの用途において強大な潜在能力を有することが明らかとなる。
【0040】
これらの実験は、例示手段としてのみ提示されており、またその態様は、いずれも添付の特許請求の範囲に記載されている本発明の範囲に制限を加えるものとしてみなされるべきではないことに留意されたい。
1.メンブレンバイオセンシングデバイスの組立て
【0041】
これらの実験では、シリコンメンブレン(すなわち、マイクロプレート14)は、シリコンオンインシュレーター(SOI)ウェファーから標準的なマイクロマシン製造技術を用いて作製された。メンブレンは、SOIウェファー(すなわち、SOI基材12)の裏面から深掘反応性イオンエッチング(DRIE)プロセスを用いて、誘導結合プラズマ(ICP)により作製されたが、但し、埋込み酸化物層で停止した。メンブレンの境界状態も、埋込み酸化物層を停止層として用いながら、ウェファー先端側からDRIEにより規定された。埋込み酸化物層は、境界孔を形成するように最終的に除去された。マイクロメンブレンについて3つの異なる境界状態が作製され、試験された:2つの対向する端部がクランプで固定され、それ以外の2つの端部が、非固定状態(C−F−C−F)、カンチレバー(C−F−F−F)、及び全ての端部がクランプで固定された状態(C−C−C−C)。全てのメンブレンは、長さが100μm、200μm、又は300μmの正方形となるように設計されている。
【0042】
上記メンブレン構造物の動的試験を行うために、外部アクチュエーターが励起用として用いられ、またレーザー振動計が振動測定用として用いられた。非常に多くの生物学的実験が、これらのメンブレンについてそのバイオセンシング性能を調べるために実施された。
【0043】
図4は、100μm角の正方形センシングメンブレンに基づく一体化マイクロシステム(すなわち、バイオセンシングプラットフォーム10)の走査型電子顕微鏡(SEM)画像であり、同システムは離散性のピエゾ抵抗素子センサー(すなわち、センサー18)及びPZTアクチュエーター(すなわち、アクチュエーター16)を用いて製造された。かかるマイクロシステムは、デバイスが自己センシング及び自己励起する能力を有することを可能にする。このマイクロシステムは、ラボ・オン・チップシステムを構築するために、電子回路内に組み込み可能である。
【0044】
離散性ピエゾ抵抗素子センサーを組立てる場合、500nmの厚さのポリ−シリコン層が、減圧化学蒸着法(PCVD)により、SOIウェファーの酸化デバイス層上に蒸着された。次に、この層は、ピエゾ抵抗素子の偏向感度を増強するために、1e15のドーピング密度を与える50Kevのボロン源を用いてイオンビーム注入法によりドープされた。2つのセンサーの形状は、写真平板及びこれに続く反応性イオンエッチング(RIE)により形成された。
【0045】
PZTフィルムの組立てでは、100nmの厚さのPt/Ti下部電極、1μmPZTフィルム、及び100nmの厚さのPt上部電極からなるサンドイッチ構造がSOI上に蒸着された。上部及び下部電極は、e−ビーム蒸着システムを用いて蒸着され、蒸着されたPZTは、ゾル−ゲル上にスピンとして蒸着されたが、次にこれは、必要とされるPZTフィルムを生成するためにアニーリングされる。上部及び下部電極は、イオンビームミリングによりパターン化され及びエッチングされる。余分のPZT材料はウェットエッチングされた。
2.生物学的実験
【0046】
これらの実験で用いられるヒトハイブリッドEA.hy926細胞は、ヒト臍帯血管内皮細胞とA549/8ヒト肺癌細胞系統との融合物に由来する。EA.hy926は、ヒト血管内皮細胞に特徴的な高度に分化した機能を発現する永久ヒト内皮細胞系統である。ヒトEA.hy926内皮細胞系統は、10%FBS、ストレプトマイシン100μg/ml、及びペニシリン100U/mlが補給されたダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)30ml、並びにHAT(100μMヒポキサンチン、0.4μMアミノプテリン、16μMチミジン)10ml中で維持された。細胞は、5%CO2及び95%空気の雰囲気を用い、37℃のインキュベータ内で培養された。細胞は、75cm2フラスコ中で成長し、及び約90%のコンフルエンスに達するまで継代された。細胞がおよそ90%のコンフルエンスに達したら、培地が除去され、そして細胞はリン酸緩衝化された生理食塩水(PBS)5mlを用いて洗浄された。EA.hy926細胞の継代プロセスでは、端的には、細胞培養培地が細胞から除去され、そして次に、細胞は培地に色が認められなくなるまで滅菌PBS10mlで洗浄された。次に、EA.hy926細胞は、トリプシン2.5mlを添加し、3分間、標準的なインキュベーションを行うことにより引き離された。細胞集塊物も、均一に分布するように、新しいDMEM培地5mlを用いてピペッティングを繰返すことにより分散された。
【0047】
図5は、マイクロメンブレンの表面上にコーティングされた内皮細胞のレーザー走査型マイクロメーター(LSM)画像である。内皮細胞は緊密にシリコン表面に接着し、典型的な展開パターンを示している。
【0048】
生物学的実験は2段階に分けられる:(1)メンブレン上に所定量の細胞を播種する、及び(2)対応するメンブレンの動力学を測定する。動的試験デバイスが図6に図解されている。同一のマイクロメンブレンが、異なる細胞密度を用いた一まとまりの実験結果を得るために、数回反復して用いられた。各実験は下記のように実施された:
1.最初に、シリコンマイクロメンブレンが洗浄され、そして洗浄液(エタノール及びアセトン混合物)、オートクレーブ処理、及びUV光照射を用いて滅菌された。
2.マイクロメンブレン上に細胞を播種する前に、継代プロセス期間中に懸濁液の細胞密度が規定された。生存細胞数が、細胞懸濁液20μlを取り出し、そしてこれをトリパンブルー20μlと混合することにより見積もられた。次に、細胞数の計測が改良されたNeubauer血球計算器を用いて、この新しい混合物について実施された。細胞密度が規定されたら、密度が既知のEA.hy926細胞からなる細胞懸濁液5mlが、培地を用いて調製された。インキュベーション時間を制御することにより、メンブレン表面上に様々な細胞密度及び分布を実現することができる。
3.メンブレンセンシング表面上の細胞分布がLSM(レーザースキャン顕微鏡検査)画像を用いて記録された。細胞の密度又は分布は、このLSM画像に基づき定量可能である。
4.接着細胞を伴うメンブレンの動力学は、図6の基礎励起装置により測定された。細胞情報を推測するために、細胞を伴う及び細胞を伴わない個々のマイクロメンブレンそれぞれに関するFRFデータが比較され、その情報はLSMスキャン画像に記録された。
5.最終的に、細胞はマイクロメンブレン表面から除去され、そしてステップ1の洗浄プロセスを繰り返した後、再滅菌されたマイクロメンブレンは次の実験に用いられた。
【0049】
図7、8、及び9は、3つの異なる細胞密度における、3つの異なるタイプのマイクロメンブレンに関する周波数応答関数(FRF)を示す。図7は、100μm角の正方形C−F−F−Fマイクロメンブレンを使用;図8は200μm角の正方形C−F−C−Fマイクロメンブレンを使用;及び図9は300μm角の正方形C−C−C−Cマイクロメンブレンを使用する。各場合において、(a)及び(b)はマイクロメンブレン表面上の内皮細胞コーティングを示し、及び(c)は細胞密度に基づく標準化された速度振幅を表す。
【0050】
細胞が負荷したことにより誘発されて、メンブレンの動力学に生じた最も支配的な変化は、共鳴周波数fnのシフトである。第1のモード形状はほぼ一定のままであり、及び各FRFの振幅は、第1の共鳴モードの振幅に関して自己標準化された。共鳴モードの相対的な振幅は細胞負荷後に顕著に変化することが判明する。これは、メンブレン表面上に細胞が結合して質量が更に負荷されると、振動形状の歪みも引き起こすことを意味する。標的細胞の質量m又は量は、共鳴周波数のシフトΔfnを検知することにより見積もり可能である。式(1)は、剛性kは一定のままと仮定した時の、質量変化Δmと動的システムの周波数シフトΔfとの間の関係を示している。このアプローチは微小カンチレバーに基づくバイオセンサーで幅広く用いられている。
【0051】
【数1】
【0052】
図7、8、及び9で提示したFRFの変化を比較すれば、長方形シリコンマイクロメンブレンのタイプ(寸法及び境界状態)が異なれば、これを反映してバイオセンシング性能も非常に異なると結論づけられる。それは、第1のタイプのメンブレン(100μm角の正方形C−F−F−F)が、共鳴周波数シフトΔfnに関して上記3つのメンブレンの中で最高感度を有することを意味する。また、非線形性が、液体が負荷されたマイクロメンブレンの動力学においても生ずることが指摘される。一般的に、これらの実験結果は、マイクロメンブレンが高減衰性の液体環境に浸漬されたとしても、同メンブレンはバイオセンシングにおいて高い潜在能力を有することを実証する。
【0053】
式(2)の2つ共鳴周波数に基づくインデックスが、実験結果について予備的解析を行うのに用いられる。FDRn(周波数差の比)が、各測定共鳴モードにおいて、細胞が負荷されたメンブレンと負荷されないメンブレンとの間の標準化された共鳴周波数の差として評価される。AFDRは、全ての測定されたFDRnの平均である。
【0054】
【数2】
【0055】
FDRn及びAFDRのインデックスの評価が、3つの異なるマイクロメンブレンを用いた3バッチのバイオ実験結果について実施されたが、同メンブレンは全て約200μm角の正方形C−F−C−Fメンブレンである。3つのマイクロメンブレンは、No.I、No.II及びNo.IIIとそれぞれラベル表示される。実験の各バッチでは、同一の膜が4回反復して用いられ、また細胞培養密度は25×103/μlから200×103/μlへ徐々に増加させた。図10、11、及び12は、各試験対象マイクロメンブレン(それぞれNo.I、No.II、及びNo.III)について、細胞の量の増加に従ったFDRnの傾向を表している。図13は、各実験バッチにおいて、上記3つのマイクロメンブレンのAFDRインデックスを比較している。
【0056】
まず第1に、1つの又は2つモードにおけるインデックスFDRnの傾向は、一部、細胞量の増加と同一ではない。この現象は、基本モードのFDR0が常に細胞数と直線関係を有する、微小カンチレバーのバイオ実験結果とは全く異なる。この現象に対する考え得る理由は:(a)マイクロメンブレンは、通常かなり大き目のセンシング領域を有し、またバイオ実験では微小カンチレバーより多くの細胞を担持する。質量変化とは別に、細胞の蓄積は構造的剛性変化も引き起こし得る。そのような場合には、FDRの線形関係は成立しない。(b)マイクロメンブレンに関するこれらのバイオ実験は関連する環境でも維持され、例えばマイクロプレートの動力学は細胞培養培地中で測定される。(c)ランダムに分布した細胞を伴うマイクロメンブレンを水没させた時に認められる、その動力学の非線形性はほとんどの実験測定において存在する。
【0057】
一方、インデックスAFDRは、細胞量の近似的予測をもたらすことができる。上記3つのマイクロメンブレンに関するAFDRの感度は全く異なる。No.I及びNo.IIのメンブレンに関するAFDRの数値は非常に近いが、No.IIIの数値はかなり低目である。これは、No.I及びNo.IIのメンブレンは同一のウェファーに由来し、一方No.IIIは異なるウェファーに由来するという事実に起因する。従って、バイオセンシングプラットフォームとしてマイクロメンブレンを採用した場合、そのためにインデックスAFDRを使用するのは、ロバストな方法とはならない。細胞密度の見積もりを行う前には、常にかかるバイオセンシングデバイスについてキャリブレーションを行うのが好ましい。一般的なオシレーション構造として水没したセンシングメンブレンを検討する場合、共鳴周波数fnは、その剛性k及び質量mによってのみ近似的に求めることができる((1)の最初の式を参照)。システム剛性kが一定であると仮定すると、質量変化の比は、周波数変化の比と比例する((1)の第2式を参照)。従って、インデックスFDRn及びAFDRは、細胞密度を大まかに反映し得ると考えられる。しかし、現実的な状況においては、細胞、特に内皮細胞の結合は、センシングマイクロメンブレンの剛性にも多かれ少なかれ影響を及ぼす。従って、状況によっては、FDRn及びAFDRは細胞密度を表す場合には有用性に劣るなど、問題はより複雑となる。
3.ニューラルネットワーク法
【0058】
概して、共鳴周波数に基づくインデックスであるFDRn又はAFDRは、いずれも細胞密度を予測することができるが、その正確性は限られている。これは、主にマイクロメンブレンセンシングシステムの複雑性及び非線形性に起因する。測定された動力学データから細胞分布に関するより正確で信頼性のある同定を実施するには、その他のアルゴリズムが望ましい。本セクションでは、センサーデータと細胞分布との間の関係を構築するための人工ニューラルネットワーク技術を使用する簡便な試みが実施される。
【0059】
上記実験結果では、マイクロメンブレンセンシングドメインにおいて細胞集団を直感的に示すのに、LSM画像が用いられた。しかし、より正確な解析を行うためには、細胞量を示すのに定量的なインデックスも必要である。これは特に、細胞数の計測が非常に困難な内皮細胞に当てはまる。各LSM画像について、単純な画像処理手技が、MATLAB画像処理ツールボックスを用いてこれを2値画像に変換するために実施された。最初にLSM画像がロードされ、そして反射モードで撮影されたLSM画像には通常3つの層が含まれるので、最も透明な層が後続のプロセスのために選択される。次に、このLSM画像のバックグラウンド画像がモルフォロジカルオープニング技術を用いて構築される。その後、細胞が占める領域を高輝度表示することを目的として、バックグラウンド画像がオリジナルの画像から差し引かれ、そして画像コントラストが強調される。最終的に対応する2値画像が構築され、この画像ではバックグラウンドが黒く、また移植細胞部分は白い。従って、センシングドメイン上の細胞集団は、この2値画像中の白い領域の比から近似的に見積もり可能である。この比は、本明細書において以後細胞密度比(CDR)と呼ぶ。図14は、4つの異なるLSM画像に関する本評価プロセスの結果を示しており、これらは同一バッチのバイオ実験について得られている。この2値画像では若干の局所的エラーが存在するものの、各2値画像の白い領域は内皮細胞分布形状を大まかに表していることを認めることができる。評価された白い領域の比は図14の下部にも掲載されている。
【0060】
しかし、これらの評価されたCDRは、以下に示す事項により、解析で直接用いるにはふさわしくない:(1)成長表面上の各細胞の高さとは別に、内皮細胞は培地表面全体にわたり薄膜も生成する。従って、各評価されたCDRは、細胞の負荷が全くない場合と区別するために、この薄膜負荷効果を考慮して10%〜15%高く見積もられる。;(2)細胞がほぼ全てのセンシングドメインを覆うような場合(すなわち、図14の画像のうち4番目の組)には、通常、CDRの予測値は実際の状況よりもかなり低目になる。従って、予測値を高めにする必要がある。次に、ニューラルネットワークアプリケーションにおける目標値として、各実験サンプルについて修正されたCDRが用いられる。
【0061】
ここでFRFデータの標準化及び次数削減について検討する。各動的実験において全ての実験設定は同一であるものの、実験環境及び外乱によりFRF測定の振幅は変化する。従って、比較及び解析するために、測定されたFRFを標準化し、またFRFを同一レベルに合わせるのがより好ましい。一方、各動力学測定では複数のFRFデータセットが存在し、また各FRFデータセットには非常に多数の周波数スペクトル線が含まれる。この研究では、周波数スペクトル線は各FRFについて6400となるように設定されており、また4つのセンサーFRFが記録された。かかるFRFデータセットは大きすぎてニューラルネットワークに直接当て嵌めることはできない。従って、各FRFの次元はニューラルネットワークを適用する前に削減される。
【0062】
FRFを標準化する場合、各スペクトルは、これが有する最初の共鳴モードの振幅に関して標準化される。最初の共鳴モードを基準として選択する理由は、質量負荷は長方形メンブレンの最初の共鳴モードに対して最も小さな効果を有することを証明する理論的解析結果に基づく。
【0063】
次元数削減については、カルーネン・レーベ(K-L)分解法が、複数のFRFデータセットについて主要な成分を抽出するのに用いられる。K−L分解法は、動力学的システムについて低次元の次元削減モデルを構築するのに有用な方法である。メンブレンの動力学測定それぞれについて、周波数NのM個のFRFが存在すると仮定すると、このデータセットはM×N個のマトリックス[H(ω)]M×Nを形成する。K−L法を用いてマトリックス[H(ω)]の主要成分を抽出するプロセスは、下記のステップを有する:
1.最初に、FRFマトリックス[H(ω)]M×Nに基づき、相関マトリックス[C]MXMが構築される。
【0064】
【数3】
2.次に、マトリックス[C]の固有値及び対応する固有ベクトルを計算して、それから主要成分が得られる。
[CIX]=λ[X](3)
3.最終的に、M個の抽出された固有値が調べられ、そして最初の数個の最大固有値が取り出される。次に、これらの最大固有値に関連した固有ベクトルが主要な成分であると考えられ、またオリジナルのFRFデータセットの最も重要な情報に該当し得るとみなされる。
【0065】
ここでデータセットの構築について検討する。細胞が負荷されない4つの異なる使用済みのメンブレンの動力学(FRF)も参考としてデータセットに提供される。2つの追加サンプルも妥当性を確認する目的で提供される。従って、合計18個の異なるサンプルが、ニューラルネットワークのトレーニング用及び妥当性確認用として構築される。各サンプルのFRFデータセットのうち、最大の固有値に関連する固有ベクトルがニューラルネットワークインプットとして抽出され、及び各サンプルのCDRが、ニューラルネットワーク目標値として計算される。
【0066】
ここでネットワークの設計及びトレーニングについて検討する。幅広く用いられる逆伝播(BP)ニューラルネットワークが細胞密度を予測するのに選択された。図15は、CDR値を予測するためのBPニューラルネットワーク利用の概念について説明する。FRFデータセットから抽出された主要成分の他に、各サンプルのインデックスAFDRの値は、ニューラルネットワークに対して追加のインプットを提供する。前のセクションで、AFDRのインデックスは、細胞分布と高度に関連していることが証明されたように、同インデックスは、次に高速コンバージェンス及び良好な予測を実現するように、ニューラルネットワークを支援することができる。データセット内の18サンプルのうち、最初の14サンプルはニューラルネットワークをトレーニングするために用いられ、そして残りの4サンプルは妥当性を確認するために用いられる。サンプル数は限られているので、複雑なものよりも単純なニューラルネットワークを設計し、及び使用ことの方がより賢明である。ここで用いられるBPニューラルネットワークは、数個のニューロンを含む1つの隠れ層のみを有するように設計されている。標準化されたシステムエラーについて相違を試験するために、異なる数の隠れ層ニューロンを用いて数回のトレールが実施された。5つのニューロンを含む隠れ層が最高性能を発揮する。設定目標(平均二乗誤差)を満たすように、ネットワークの重み及びバイアスを繰り返し調整することにより、本明細書によるBPネットワークのトレーニングプロセスは、インプットと目標値との間の近似関数(非線形回帰)を規定する。トレーニングパラメータは、ネットワークコンバージェンススピード、並びに最終プレディケーション正確度に影響を及ぼす可能性がある。不適切なパラメータでは、トレーニングプロセスが非常に遅くなり、又は過学習結果が得られるおそれがある。次に、合理的なトレーニングパラメータを見出すために数回の試験が実施された。本発明で用いられる最終的なトレーニングパラメータは、モーメントレートが0.9、学習率が0.1、最大誤差が0.001、及び最大反復数が3000として選択される。
【0067】
図16は、BPネットワークのトレーニング結果から得られた、サンプル番号15〜18に関するCDRの予測結果を示している。予測結果は、対応するLSM画像から計算されたCDR値と非常に良好な一致性を示す。
【0068】
本発明の好ましい実施形態が記載されてきたが、それらは例示目的に限られ、様々な修正形態も検討可能であると理解されるはずである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの生物細胞の特性又は挙動を特徴づける方法及びシステムに関連する。当該方法及びシステムは、例えば、in vitroでの細胞伝播、細胞極性、細胞運動、細胞成長、細胞収縮、細胞移動、細胞増殖、細胞分化、及び病原菌の成長等の細胞の特性及び挙動を特徴づけるのに利用可能である。
【背景技術】
【0002】
現在のところ、生物細胞の物理的特性及び挙動を測定するとき、それは顕微鏡検査画像システムを用いた顕微鏡に基づき主に実施される。細胞培養、それを監視及び操作する業務は単調であり、また時間がかかる可能性がある。外部の刺激に対する細胞の応答は、多くの場合、リアルタイムに可視化するのは困難である。
【0003】
マイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)用のセンサーを設計するために、機械式トランスデューサーの原理を利用することについて、技術者、物理学者、化学者、及び生物学者で関心が高まっている。最も幅広く応用されている機構は微小カンチレバーである。これは、MEMSにおいて、異なる種類のセンサー、例えばAFM用の一体化したチップを備えた力センサー、バイメタル式温熱センサー、質量負荷センサー、媒体粘弾性センサー、及び熱重量センサー、及び応力センサー等を構築するのに用いられてきた。微細加工技術、表面機能化生化学、及びカンチレバーセンシング法を組み合わせることにより、臨床用途及び環境用途を目的としたバイオセンサーを開発する機会が提供される。Baselらの文献「A high−sensitivity micromachined biosensor」、(Biosensors and Bioelectronics, Volume 12, Issue 8, 1997, Page iv)では、微小カンチレバーを用いて、機能化表面に付着した、受容体がコーティングされたマグネットビーズの存在を検出することが提案されている。Fritzらの文献「Translating biomolecular recognition into nanomechanics」(Science, Volume 288, Issue 5464, April 14, 2000, Pages 316-318)では、ssDNAハイブリダイゼーションが、平行に配置された2つの微小カンチレバーを用いてモニターされるが、この場合、両カンチレバーの差示的偏差により、2つ同一の、但し一塩基ミスマッチを有する12マーオリゴヌクレオチドの識別が可能になる。
【0004】
それにもかかわらず、基本的な生物学的プロセス、例えばin vitroでの細胞運動、収縮、移動、増殖、又は分化、及び病原菌の成長等の動的及び接触式測定を実現することができるマイクロセンシングシステムに対する必要性が存在する。かかるセンサーについて多くの適用可能な領域が提案されてきた。Bhadriraju及びChenの文献「Engineering cellular microenvironments to improve cell−based drug testing」(DDT, Volume 7, Issue 11, Pages 612-620, June 2000)では、細胞に基づく薬物試験法を改善するために、細胞微環境の工学的構築法の利用が提案されている。Onoらの文献「Morphological changes and cellular dynamics of oligodendrocyte lineage cells in the developing vertebrate central nervous system」(Developmental neuroscience, Volume 23, Issue 4-5, Pages 346-355, 2001)では、希突起神経膠細胞系列細胞における形態学的変化、及び細胞の可動性及び増殖を含む当該細胞の動力学の研究が行なわれ、OPCが中枢神経系全体を通じて拡散分布する分子機構の可能性について見識がもたらされることが示唆されている。Ludtkeらの文献「The Effect of Cell Division on the Cellular Dynamics of Microinjected DNA and Dextran」(Volume 5: 579~588 (2002), Molecular Therapy, 6(1), July 2002, Page 134)では、DNA及びデキストランを微量注入したときに、細胞分裂が細胞の動力学に及ぼす影響が明らかにされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
細胞測定において、顕微鏡以外の別の特質を提供するために、本発明では、細胞の成長及び動的特性、例えばin vitroでの運動、収縮、形態変化、移動等について検出及びモニタリングが改善するように、マイクロセンシングする方法及びシステムを提供することを狙いとしている。本明細書に記載する方法及びシステムでは、現在利用可能な画像システムを補完することが意図されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様によれば、少なくとも1つの生物細胞の特性又は挙動を特徴づける方法が提供される。当該方法は、マイクロプレートを提供するステップ;特徴づけの対象となる少なくとも1つの細胞が前記マイクロプレートと接触した状態になるように、前記マイクロプレートの少なくとも1つの表面を細胞培養培地中に水没させるステップ;前記マイクロプレートを振動させるステップ;マイクロプレートに取り付けられた、相互に隔てられた複数のセンサーを提供するステップ;前記マイクロプレートが振動している間に、各センサーからそれぞれの時系列センサーデータを取得するステップであって、前記取得された時系列センサーデータが互いに独立しないように、前記マイクロプレート及び前記センサーが配置されている前記ステップ;少なくとも1つの生物細胞の特性又は挙動を特徴づけるように前記時系列センサーデータを処理するステップを含む。
【0007】
従って、顕微鏡検査画像システムを用いて生物細胞の物理特性及び挙動を測定することに関連した困難を克服するために、及び細胞の特性及び挙動について一貫性のある定量測定を可能にするために、本発明は、細胞培養液中に水没したプレートの動力学に由来する情報を用いることによる一体化した細胞モニタリング法、及び革新的なシステム同定技術を提供する。本発明は、顕微鏡検査画像システムを用いてリアルタイムに外部刺激に対する細胞の応答を可視化すること関連した多くの困難を克服する。プレートの動力学及び自動化された時系列解析を一体化することにより、連続的な画像モニタリングに全面的に依存せずに細胞の動力学に関する情報の履歴を提供することができる。本発明が提供できるような細胞情報を提供できる従来技術は存在しない。更に、本発明は、例えば蛍光又はレーザー漂白を用いない天然の細胞成長環境を提供する。また、本発明は生物細胞のリアルタイムな連続モニタリングも可能にする。本発明は高感度であり、及び応答時間は迅速である。
【0008】
更に、マイクロプレートの動力学は、上記で議論した周知の微小カンチレバーの動力学よりも複雑である。より興味深い動力学的特徴により、微小カンチレバーと比較して、マイクロプレートは、マイクロセンシング媒体として更なる情報を提供することができる。また、細胞培養培地中において、生存細胞をマイクロプレート表面上に維持することができるという事実により、マイクロプレートは、細胞(及び病原菌)の天然の培養環境を維持するための新しいベネフィットを提供する。
【0009】
本発明の1つの実施形態では、細胞を特徴づける方法の処理ステップは、細胞の動的挙動分類を規定するステップと、少なくとも1つの細胞の動的挙動が、前記規定された細胞の動的挙動分類に該当するかどうか決定するように、時系列センサーデータを処理するステップとを含む。別の実施形態では、処理ステップは、細胞特性を規定するステップと、少なくとも1つの細胞の規定された特性を測定するかどうか決定するように時系列センサーデータを処理するステップとを含む。
【0010】
処理ステップは、時間ドメイン、周波数ドメイン、及びウェーブレットドメインの1つ又は複数における時系列センサーデータを解析するステップを含み得る。処理ステップは、周波数応答関数(FRF)を解析するステップを含み得る。処理ステップは、ニューラルネットワーク及び/又はカルーネン・レーベ分解(Karhunen-Loeve decomposition)を用いるステップを含み得る。
【0011】
1つの実施形態では、マイクロプレートは定期的に振動を受ける。別の実施形態では、マイクロプレートはランダムに振動を受ける。
【0012】
本発明の第2の態様によれば、少なくとも1つの生物細胞の特性又は挙動を特徴づけるためのシステムが提供される。当該システムは、細胞培養培地用のコンテナー;前記コンテナーが少なくとも部分的に細胞培養培地で満たされるときに、マイクロプレートの少なくとも1つの表面が、前記細胞培養培地中に水没するように、前記コンテナー内に置かれた前記マイクロプレート;前記マイクロプレートを振動させるように作動可能な少なくとも1つのアクチュエーター;前記マイクロプレートに取り付けられた、相互に隔てられた複数のセンサーであって、各センサーが、前記マイクロプレートが振動している間、それぞれの時系列センサーデータを提供するように作動可能であり、前記マイクロプレート及び前記センサーが、前記提供された時系列センサーデータが互いに独立しないように配置されている前記センサー;及び前記センサーから前記時系列センサーデータを受け取るように、及び前記マイクロプレートに接触している少なくとも1つの生物細胞の特性又は挙動を特徴づけるために、受け取った前記時系列センサーデータを処理するように作動可能なプロセッサーを備える。
【0013】
マイクロプレートの境界状態は、例えばクランプで固定された状態、カンチレバー、非固定状態、及び点支持状態から選択され得る。
【0014】
センサーは、ピエゾ抵抗素子ゲージセンサー、光学センサー、歪みセンサー、及び加速度センサーから選択され得る。
【0015】
1つの実施形態では、少なくとも1つのアクチュエーターは圧電トランスデューサーを備える。別の実施形態では、少なくとも1つのアクチュエーターは音波アクチュエーターを備える。
【0016】
1つの実施形態では、コンテナーはペトリ皿である。
【0017】
本発明のその他の好ましい特徴は、添付の特許請求の範囲に記載されている。
【0018】
本発明の実施形態は、以下に示す添付図面を参照しながら例示目的で記載される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1a】本発明に基づくバイオセンシングシステム用のバイオセンシングプラットフォームの概略的な平面図である。
【図1b】図1aのバイオセンシングプラットフォームに関する概略的な側面図である。
【図2】本発明に基づくバイオセンシングシステム用のバイオセンシングプラットフォームの概略的な斜視図である。
【図3】自動的なバイオセンシングシステムの構成に関する概略的な図であり、非線形処理モデルを構築するのに用いられる主要な機能及び要素を示している。
【図4】一体化したバイオセンシングプラットフォームの走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【図5】バイオセンシングプラットフォームのマイクロプレート表面上にコーティングされた内皮細胞の、レーザー走査型マイクロメーター(LSM)画像である。
【図6】バイオセンシングプラットフォーム用の動的試験デバイスを示す図である。
【図7】3つの異なる細胞密度における、100μm角の正方形C−F−F−Fマイクロプレートに関する周波数応答関数(FRF)を表す図である。(a)及び(b)はマイクロプレート表面上の内皮細胞コーティング を示し、及び(c)は、細胞密度より標準化された速度振幅を示している。
【図8】3つの異なる細胞密度における、200μm角の正方形C−F−C−Fマイクロプレートに関する周波数応答関数(FRF)を表す図である。(a)及び(b)はマイクロプレート表面上の内皮細胞コーティング を示し、及び(c)は、細胞密度より標準化された速度振幅を示している。
【図9】3つの異なる細胞密度における、300μm角の正方形C−C−C−Cマイクロプレートに関する周波数応答関数(FRF)を表す図である。(a)及び(b)はマイクロプレート表面上の内皮細胞コーティングを示し、及び(c)は、細胞密度より標準化された速度振幅を示している。
【図10】試験対象マイクロプレート(No.I)における細胞の量の増加に従ったFDRnの傾向を示す図である。FDRnは、測定された共鳴モードnにおける、細胞が負荷されたメンブレン及び細胞が負荷されないメンブレンの間の標準化された共鳴周波数の差として評価された周波数差の比である。
【図11】試験対象マイクロプレート(No.II)における細胞の量の増加に従ったFDRnの傾向を示す図である。
【図12】試験対象マイクロプレート(No.III)における細胞の量の増加に従ったFDRnの傾向を示す図である。
【図13】図10、11、及び12の3つのマイクロメンブレンのAFDRインデックスを各実験バッチについて示す図である。AFDRは、全測定FDRnの平均値である。
【図14】単純な画像処理技術に基づく細胞集団の定量結果を示す図である。
【図15】細胞の同定に用いられたBPニューラルネットワークの概略図である。
【図16】サンプル1〜14を用いて訓練を受けたBPニューラルネットワークを用いたときのサンプル番号15〜18のCDRに関する予測結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に基づくマイクロ/ナノスケールバイオセンシングシステムには、細胞培養培地(例えば、細胞培養液)用のコンテナー(図示せず)が含まれる。バイオセンシングプラットフォームは、細胞培養培地コンテナー内に配置される。
【0021】
図1a及び1bは、バイオセンシングプラットフォーム10の1つの実施形態に関する平面図及び側面図を表している。若干異なる実施形態が、斜視図で図2に示されている。
【0022】
バイオセンシングプラットフォーム10は、主としてSIO基材12から形成される。バイオセンシングプラットフォーム10には、マイクロプレート14、圧電トランスデューサー(PZT)16の形態の2つアクチュエーター、相互に隔てられた4つのセンサー18、及び電力入力(図示せず)が含まれる。当該バイオセンシングシステムには、バイオセンシングシステムの一部を形成し得るプロセッサー(図示せず)が更に含まれる。バイオセンシングプラットフォーム10は、高減衰性条件下で良好なバイオ感度を保持しつつ液体(例えば、水)中で作動可能なように設計される。バイオセンシングプラットフォーム10は、天然の細胞生存環境を維持するように、液体コンテナー内の細胞培養液中に一方の側面又は両面について浸漬され得る。バイオセンシングプラットフォーム12では、前記プラットフォームが細胞培養培地中に水没したときに、生物細胞がこれを天然の増殖基盤として利用可能なように、例えばシリコン及び金等の生体適合性を有する材料が使用される。
【0023】
マイクロプレート14は、薄いマイクロマシンドメンブレン(micromachined membrane)であり、マイクロ/ナノスケールセンシングプラットフォームとして働く。マイクロマシンドメンブレン(プレート/ダイアフラム)は有望な質量センシング構造物であり、微小カンチレバーに置き換わる。微小カンチレバーと比較して、マイクロメンブレンは、より大きなセンシング領域を有し、液体内でより高い感度を示し、かつ脆弱性が低減している可能性がある。更に、マイクロメンブレンは、質量センシングの用途において微小カンチレバーと同様の長所を有する。マイクロプレート14は変形可能である。マイクロプレート14は、X−方向及びY−方向で数十〜数百ミクロンの範囲の寸法を有する。例えば、マイクロプレート14は、X−方向及びY−方向で数十〜数千ミクロン(例えば、100〜400μm)の寸法を有し得る。Z−方向のプレートの深度は、図1bに示す通り約3μmであるが、数ナノメータから最大数十ミクロンの範囲の深度も適切であろう。これらの寸法は制限ではなく、代表例として意図されている。マイクロプレート14は、様々な異なる境界状態(例えば、クランプで固定された状態、カンチレバー、非固定状態、及び点支持状態)を手段として支持され得る。図2の実施形態では、マイクロプレート14は長方形である。マイクロプレート14は、4つのヒンジ20により支持されており、各ヒンジはマイクロプレート14の4つある側面について、各1側面の中央に位置している。これはマイクロプレートの境界状態に関する1つの例である。
【0024】
アクチュエーター(すなわち、励起源)は、細胞培養培地内でマイクロプレート14を振動させるのに用いられる。図1a及び1bの実施形態では、アクチュエーターは、2つのPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)の薄層16である。PZT16は、マイクロプレート14の領域の内側又は近傍に配置されて、限られたエネルギー消費で強力な励起力を発揮する。従って、バイオセンシングシステムは自己励起が可能なように設計される。PZTアクチュエーターの使用に対する代替法として、マイクロプレート14は、これに替わり音響励起により作動可能である。アクチュエーター16は、バイオセンシングプラットフォーム10と一体化することができる。アクチュエーター16は、マイクロプレート14と一体化することができる。
【0025】
バイオセンシングシステムは、自己センシング可能なように設計される。4つの離散性ピエゾ抵抗素子−ゲージ(PZR)センサー18が、図1a及び2に示されている。センサー18は、マイクロプレート14の全ドメイン動力学的情報/振動情報が得られるように十分に選択された場所に配置されている。センサー18はマイクロプレート14内に組み込まれ得る。図2に示すセンシング要素14及び関連する接続トラック22を作り出すために、革新的な微細加工技術が用いられる。PZRセンサーを使用する替わりに、異なるセンサータイプ、例えば、光学センサー、歪みセンサー、又は加速度センサーが利用可能である。センサー18は、バイオセンシングプラットフォーム10と一体化することができる。センサー18は、マイクロプレート14と一体化することができる。センサー18の位置は、識別感度が最大となるように、及びマイクロプレート表面全体にわたり、高い性能を発揮する範囲が最大となるように最適化可能である。
【0026】
PZTアクチュエーター16及びピエゾ抵抗素子−ゲージセンサー18は、CMOS回路との適合性が良好であり、またその他の電子的な構成部材と容易に一体化する。バイオセンシングプラットフォーム10の電子部品(例えば、電極ワイヤー、金パッド、及び接続プローブ)は生体適合性材料により密閉される。バイオセンシングプラットフォーム10全体は、標準的なDIL(デュアルインライン)を用いて、パッケージされる。シグナルの流れ(インプット及びアウトプットシグナル)は、外部処理装置又は内部電子チップを経由して処理可能である。
【0027】
革新的なツール及びプロセスが、バイオセンシングプラットフォームのマイクロ/ナノスケールでの加工に用いられ、これには光学、及び電子ビームリトグラフィー、プラズマエッチング、並びにナノスケールでの加工において迅速に試作するためにエッチング及び蒸着する能力を有する集束イオンビームツールが含まれる。
【0028】
使用する際には、バイオセンシングシステムは単一細胞又は収集された細胞群の特性又は挙動を区別するのに用いられる。
【0029】
細胞培養培地コンテナーは、部分的に、又は完全に細胞培養培地で満たされる。バイオセンシングプラットフォーム10のマイクロプレート14は、細胞培養培地内にマイクロプレート14の少なくとも1つの表面が水没する又は浸漬されるように、細胞培養培地コンテナー内に配置される。例えば、マイクロプレート14は細胞培養培地内に完全に水没し得る。あるいは、マイクロプレート14の底面のみが細胞培養培地中に水没し得る。細胞培養培地中にマイクロプレート14を水没させれば、細胞培養培地中の生物細胞がマイクロプレート14を天然の増殖基盤として使用できるようになる。従って、マイクロプレート14と接触した状態の少なくとも1つの生物細胞が存在し、その特性/挙動はバイオセンシングシステム及び同方法により特徴づけられることとなる。
【0030】
次に、マイクロプレート14はアクチュエーター(例えば、PZT16)により振動を受ける。マイクロプレート14は、定期的に(例えば、シヌソイド関数を用いて)、又は広周波数帯域ランダム信号(例えば、擬似ランダム2進信号、ホワイトノイズ、又はバーストランダム等)を用いてランダムに励起可能である。励起/振動のタイプは、実施目的に応じて変化する。接触している生物細胞は、それ自身マイクロプレート14上に有意な力をもたらさないので、マイクロプレート14には振動が加えられる。接触している生物細胞は、マイクロプレート14の質量、剛性、及び歪みの各特性に影響を及ぼす。従って、これらの変数の測定(例えば、歪みゲージ測定)は、マイクロプレート14上に接触している生物細胞の影響を定量するのに利用可能であり、そしてこれにより、特徴づけの対象となる細胞の特性/挙動を推測するのに用いることができる。静止したマイクロプレート14を用いると、接触している細胞によるマイクロプレート14の歪みは非常に小さく、これは、例えばマイクロプレート14内の歪みのある領域内のシグナル検出を困難にする。その結果、特徴づけの対象となる細胞の特性/挙動を推測することが困難となる可能性がある。従って、細胞の存在に起因するマイクロプレート14内の歪みのある領域からより強いシグナルが生み出されるように、マイクロプレート14には、接触している生物細胞に向かって、及び遠ざかるように振動が加えられるのが有利である。二者択一的に/付加的に、マイクロプレート14は、もっぱら接触している生物細胞に向かい、及び遠ざかるのではなく、これ以外の方向で振動を受けることも可能であろう。マイクロプレート14を振動させることは、その他の長所も有する:振動することにより、マイクロプレート14の動力学的特徴に関する追加情報(例えば、固有周波数変化、モード形状変化、及びその他の非線形カップリング効果)がもたらされる。また、この追加の動力学的な情報は、接触している細胞の特性又は挙動を特徴づけるのにも利用可能である。
【0031】
マイクロプレートに振動が加えられている間、それぞれの時系列センサーデータが各センサー18から得られる。マイクロプレート14は、接触している生物細胞及びセンサー18の間の非線形カップリングをもたらす連続的な媒体である。従って、センサー18は、時系列センサーデータが互いに独立しないように、マイクロプレート14に接触している生物細胞に対するマイクロプレート14の変形応答を通じて連動する。これは、センサー18はマイクロプレート14から局所的なセンサーデータを受けるけれども、1つの特定のセンサー18から得られた時系列センサーデータは、当該センサー18から離れた細胞の動きを表し得ることを意味する。換言すれば、センサー18は、マイクロプレート14を介して生物細胞の特性/挙動を間接的に感知する。バイオセンシングプラットフォームは、表面に接触している生物細胞及び粒子を感知するための情報源として、その動的/振動上の特徴の変化を使用する。同時に収集されたセンサー18の感知応答を解釈することにより、接触している生物細胞の特性又は挙動を判別するような方法で、あらゆる細胞障害の性質を区別することができる。センサー18の間においてカップリング機構として機能するマイクロプレート14が存在することから、センサー18は非独立的な(すなわち、連動した)様式で応答する。システムの連動的性質により、マイクロプレート14には、比較的小数の独立したセンサー18が必要とされる。バイオセンシングプラットフォーム10の解像度は、センサー18を隔てるピッチに限定されず、従って、最小の製造スケールよりもかなり小さな変動を検知するのに利用可能である。更に、システムの連動的性質により、センサー18は、細胞が接触している表面以外のマイクロプレート14の表面上に取り付け可能である。これは本アプローチのロバスト性を高める。
【0032】
時系列センサーデータを取得したら、少なくとも1つの生物細胞の特性又は挙動を特徴づけるように、これらの時系列は、革新的なシステム同定法、及び組み込み型ITツールを用いて処理される。処理ステップ期間中、各センサーから得られた時系列センサーデータは、その他の各センサーから得られた時系列センサーデータと一緒に処理される(すなわち、データはまとめて処理される)。処理は非線形である。時間又は周波数ドメインのいずれかにおいて、連動した同時時系列を処理するのに、例えば、ニューラルネットワーク又はカルーネン・レーベ分解等の非線形シグナル処理技術が利用可能である。
【0033】
非線形処理モデルは、細胞の特性及び挙動を検知するために、時系列センサーデータ中の動力学的情報を利用する。マイクロプレート14から得られた空間的な動力学的情報(例えば、モード形状、センサー間のカップリング等)は、マイクロプレート14上の細胞に関する空間的な動力学的情報(例えば、極性、幹細胞の成長)を導出するために用いられる。システム同定ツールは、処理ステップのアウトプットを、特徴づけすることが望まれる1つの細胞/複数の細胞/組織の特性又は挙動と関連付けるのに用いられる。換言すれば、動力学的な情報は、動力学的細胞特性の状態及び特徴と関連付けられる。例えば、対象物の特性又は挙動は、薬物開発、微生物学的スクリーニング及び腫瘍スクリーニング、又は幹細胞の生物学において必要不可欠なものであり得る。これには、静的又は動的な特性又は挙動、例えばin vitroでの伝播、極性、細胞運動/成長、収縮、移動、増殖、又は分化、及び病原菌の成長が含まれ得る。現在のシステム及び方法は、細胞培養、細胞操作、及び細胞手術のプロセス期間中に、1つの細胞又は複数の細胞の接触について、サイズ、形状、及び運動の情報を導出するのに配備することができる。バイオセンシング法及びシステムの1つの目的は、細胞培養及び成長プロセス期間中に、細胞形態、移動、増殖、分化、及び収縮性に生ずる変化を検知することである。マイクロプレート14の動的な特徴(例えば、速度及び加速度)は、比較的少ないセンシング要素18を用いながら、システム同定アルゴリズムを介して必要とされる情報を推測するのに用いられる。マイクロプレート14の動的応答シグナル(すなわち、感知された時系列データ)は、所望の細胞特性又は挙動に関する情報を導出するために、インテリジェントな時系列同定アルゴリズムの適用対象となる。組み込み型情報ツールを用いることにより、細胞特性/挙動の識別が実現する。アウトプットは、利用目的に基づき様々なデスクリプターを伴う独立した形態、又は連続した形態であり得る。
【0034】
バイオセンシングシステムで用いられる非線形処理モデルは、トレーニングデータを用いて訓練される。マイクロプレート14は、負荷条件が異なればこれに応じて異なって振動する。従って、非線形処理モデルは、液体環境中のマイクロプレート14の既知の動力学を考慮する。例えば、マイクロプレートの動力学は、マイクロプレート14が細胞培養培地(一般的に水よりわずかに高い密度を有する)と相互作用することにより引き起こされる音圧波により影響を受ける。従って、非線形処理モデルは、液体中のマイクロプレート14の動力学及び音響照射に対するマイクロスケーリング効果を調べるためにマイクロスキャニングレーザー振動計を利用し、それから得られた結果を用いて構築される。マイクロスキャニングレーザー振動計は、液体中のマイクロプレート14の動力学及び音響照射、例えば固有振動数、固有モード、所定の強制条件における強制応答を測定するのに用いられる。従って、マイクロスキャニングレーザー振動計を使用すれば、適切な非線形処理モデル(例えば、ニューラルネットワーク)の構築が可能となる。換言すれば、マイクロスキャニングレーザー振動計を用いて得られた結果は、例えばニューラルネットワークのためのトレーニングデータとして用いられる。水没させたマイクロプレートの動力学をシミュレーションすることにより、振動するマイクロプレート14の時系列センサーデータから負荷状態を推測するように、非線形処理モデルの構築が可能である。モデルリングプロセスでは、異なるセンシング位置における変位/速度/加速度が、シミュレーションを通じて取得可能である。動的シグナル(すなわち、時系列センサーデータ)から抽出されるパラメータを外部の力/負荷に関連付ける非線形処理モデルは、システム同定技術、例えばカルーネン・レーベ分解、ウェーブレット解析、及び人工的ニューラルネットワーク法を用いて構築される。非線形処理モデルは、擬似ランダム2進法シーケンス(PRBS)励起・同定法を用いた実験により試験され及び妥当性確認され得る。PRBSシグナルの長所として、同シグナルの自己相関関数はインパルス関数と緊密に近似するような特性を同シグナルが有することが挙げられる。全ての周波数の動力学はPRBSシグナルにより励起される。従って、任意の強制条件下にあるマイクロプレート14の動力学が導出可能である。次に、マイクロプレート14上に加わる力/負荷を、マイクロプレート14上の異なる場所における振動がもたらす時系列センサーデータより推測するために、妥当性確認済みのモデルが利用可能である。システム同定技術が細胞/組織モニタリングに適用される場合には、細胞の動力学の状況及び状態が推測される。マイクロプレート14が水没しているときには、マイクロプレート14の加速度振幅は小さめであるが、これは、各モードはマイクロプレート14の面内に音圧を発生させ、正規モードは液体中で連動するようになるという事実による。更に、センサー18を適切な位置に配置することにより、適切なシステム同定技術を通じて、主要モード形状をマイクロプレート14上の負荷及び動的状態と関連付けることができる。細胞挙動と検知された過渡的状態との相関関係、及びマイクロプレートセンシング表面に由来する情報が、非線形処理モデルにおいて考慮される。顕微鏡システムを介して設置されるCCDカメラが、可視的挙動をモニターするために用いられ、またシンクロナイズドビジョンプロセッシングシステムを通じて、当該アウトプットがバイオセンシングシステムに由来する情報及びセンサーデータアウトプットと関連付けられる。図3には、実験装置の機能が概略的に示されている。
【0035】
上記のように、外部刺激は、既存の顕微鏡検査画像システムを用いてリアルタイムに可視化することが多くの場合困難であるが、生物細胞はこの刺激に起因して様々な応答を示す。本明細書に記載するバイオセンシング法及び同システムは、顕微鏡検査画像システムより入手可能な測定を強化し、及び細胞生物学者にとって入手可能な情報レベルを顕著に高める。現在のマイクロプレート動力学法、及び同システムの考えられる3つの応用例を以下に記載する。下記の各応用例では、バイオセンシングプラットフォームを培養培地中に水没させる。次に、細胞はマイクロプレートに結合し、その上で成長する。
【0036】
第1の考えられ得る応用は膜極性に関連する。単球や好中球等の白血球は、休止状態では何ら極性を示さないが、しかし走化性の刺激に応答して、膜受容体は分極化し、そして刺激の方向に移動する。同様に、新しい部位を分極化し、コロニー化する能力として、腫瘍転移能が定義可能である。細胞の移動を解析する現在の技術は、トリガーに応答して多孔性メンブレンを通過する移動に基づくが、この場合、手順の感度が不足しており、移動を可視化するために大きなサンプルサイズを必要とする。腫瘍の転移阻害剤に対する応答を解析する際には、わずかなサンプルサイズしか入手できないので、解析感度を改善する必要性が存在する。様々な走化性薬に対して好中球が示す応答性の指標マーカーとして、及び転移能を阻害し得るマトリックスメタロプロテイナーゼ阻害薬(例えば、TAPI)に対する腫瘍の指標マーカーとして、本発明のシステム及び方法を用いて、細胞膜の再分布及びマイクロプレート全体にわたる移動を調べることができる。かかる技術を開発することにより、十分に高められた感度及び薬剤開発スピードがもたらされる。
【0037】
第2の考えられ得る応用は、細胞の増殖、分化、及びアポトーシスに関連する。胚形成期間及び腫瘍等の活発に再生する組織内において、常在細胞は継続的に分裂する。細胞増殖は細胞数が増加するに連れて可視化され、数千個の細胞が任意の時点で試験可能である。やはり、かかる技術は洗練されておらず、また多数の細胞を必要とし、試験対象細胞の混合物となってしまうのは不可避である。小さいサンプルサイズを用いて、細胞の成長を高感度に調べることを可能にする、簡便技術の必要性が存在する。これを実現するために、顕微解剖が、腫瘍から単一細胞を抽出するのに利用可能であり、また細胞分裂の速度が、本発明の方法及びシステムに基づくマイクロプレートの動力学を用いて、サイズ及び質量の変化として求められる。時間及び用量範囲が色々変化した時の、メトトレキサートを含む様々な化学療法薬に対する応答性が、分化又はアポトーシスの期間中に誘発された細胞形状の変化として試験可能である。
【0038】
3番目に考えられ得る応用は、幹細胞からの筋肉細胞の発現に関連する。幹細胞には前駆体が定義されていないのでこれが様々な成熟細胞型に発達することが可能となる。こうしたことから、幹細胞生物学は、幹細胞生物工学の急速な成長分野、すなわち細胞の生存、増殖、自己再生及び分化に影響を及ぼす環境シグナル操作に貢献する。このように、多変量解析アプローチが用いられ、異なる幹細胞培養プロセスの最適化に成功した。やはり、このプロセスも、収縮性の表現型を伴う変化を含め、形態及び機能に生じた小さな変化を感知する技術を利用することにより強化することができる。幹細胞の平滑筋細胞への成熟は誘発可能であり、次いで収縮筋への成熟効率が、本発明の方法及びシステムに基づくマイクロプレートの動力学を用いて、単一細胞を基準として解析可能である。
実験結果
【0039】
ここで、更なる詳細内容が、本発明に基づくバイオセンシングプラットフォーム10を用いて実施された実験に関して記載される。特に、長方形のマイクロマシンドシリコンメンブレン(すなわち、マイクロプレート14)に基づくバイオセンシングシステムについて研究された。離散性のセンシングスキームはセンシング構造物の動力学をモニターする。人工ニューラルネットワークアルゴリズムが、測定データを処理し、並びに細胞の存在及び密度を識別するのに用いられる。従って、これらの実験では、特徴づけの対象となる細胞特性は、細胞の存在と密度である。何らかの具体的なバイオ用途を規定することなく、研究は、主に一般的なバイオセンシングプラットフォームとして、この種のバイオセンサーを性能試験することに重点が置かれた。微細加工されたメンブレン上でのバイオセンシング実験には、メンブレンのセンシング表面上に異なる細胞密度で播種するステップ、及び各試験対象シリコンメンブレンの対応する動力学情報を一連の周波数応答関数(FRF)の形式で測定するステップが含まれる。全ての実験は、実用的な作動環境をシミュレートするように細胞培養培地中で実施された。EA.hy926内皮細胞系統がバイオ実験用に選択された。EA.hy926内皮細胞系統は、生物学的粒子の特定のクラスを代表するが、同粒子は、従来型のバイオセンサーを用いたのでは感知するのが困難な、不規則な形状、不均一な密度、及び不明確な成長挙動を有する。最終的な予測結果から、離散性のセンサー測定から細胞の特徴を同定するための、ニューラルネットワークに基づくアルゴリズムからなる方法は、バイオセンサーの用途において強大な潜在能力を有することが明らかとなる。
【0040】
これらの実験は、例示手段としてのみ提示されており、またその態様は、いずれも添付の特許請求の範囲に記載されている本発明の範囲に制限を加えるものとしてみなされるべきではないことに留意されたい。
1.メンブレンバイオセンシングデバイスの組立て
【0041】
これらの実験では、シリコンメンブレン(すなわち、マイクロプレート14)は、シリコンオンインシュレーター(SOI)ウェファーから標準的なマイクロマシン製造技術を用いて作製された。メンブレンは、SOIウェファー(すなわち、SOI基材12)の裏面から深掘反応性イオンエッチング(DRIE)プロセスを用いて、誘導結合プラズマ(ICP)により作製されたが、但し、埋込み酸化物層で停止した。メンブレンの境界状態も、埋込み酸化物層を停止層として用いながら、ウェファー先端側からDRIEにより規定された。埋込み酸化物層は、境界孔を形成するように最終的に除去された。マイクロメンブレンについて3つの異なる境界状態が作製され、試験された:2つの対向する端部がクランプで固定され、それ以外の2つの端部が、非固定状態(C−F−C−F)、カンチレバー(C−F−F−F)、及び全ての端部がクランプで固定された状態(C−C−C−C)。全てのメンブレンは、長さが100μm、200μm、又は300μmの正方形となるように設計されている。
【0042】
上記メンブレン構造物の動的試験を行うために、外部アクチュエーターが励起用として用いられ、またレーザー振動計が振動測定用として用いられた。非常に多くの生物学的実験が、これらのメンブレンについてそのバイオセンシング性能を調べるために実施された。
【0043】
図4は、100μm角の正方形センシングメンブレンに基づく一体化マイクロシステム(すなわち、バイオセンシングプラットフォーム10)の走査型電子顕微鏡(SEM)画像であり、同システムは離散性のピエゾ抵抗素子センサー(すなわち、センサー18)及びPZTアクチュエーター(すなわち、アクチュエーター16)を用いて製造された。かかるマイクロシステムは、デバイスが自己センシング及び自己励起する能力を有することを可能にする。このマイクロシステムは、ラボ・オン・チップシステムを構築するために、電子回路内に組み込み可能である。
【0044】
離散性ピエゾ抵抗素子センサーを組立てる場合、500nmの厚さのポリ−シリコン層が、減圧化学蒸着法(PCVD)により、SOIウェファーの酸化デバイス層上に蒸着された。次に、この層は、ピエゾ抵抗素子の偏向感度を増強するために、1e15のドーピング密度を与える50Kevのボロン源を用いてイオンビーム注入法によりドープされた。2つのセンサーの形状は、写真平板及びこれに続く反応性イオンエッチング(RIE)により形成された。
【0045】
PZTフィルムの組立てでは、100nmの厚さのPt/Ti下部電極、1μmPZTフィルム、及び100nmの厚さのPt上部電極からなるサンドイッチ構造がSOI上に蒸着された。上部及び下部電極は、e−ビーム蒸着システムを用いて蒸着され、蒸着されたPZTは、ゾル−ゲル上にスピンとして蒸着されたが、次にこれは、必要とされるPZTフィルムを生成するためにアニーリングされる。上部及び下部電極は、イオンビームミリングによりパターン化され及びエッチングされる。余分のPZT材料はウェットエッチングされた。
2.生物学的実験
【0046】
これらの実験で用いられるヒトハイブリッドEA.hy926細胞は、ヒト臍帯血管内皮細胞とA549/8ヒト肺癌細胞系統との融合物に由来する。EA.hy926は、ヒト血管内皮細胞に特徴的な高度に分化した機能を発現する永久ヒト内皮細胞系統である。ヒトEA.hy926内皮細胞系統は、10%FBS、ストレプトマイシン100μg/ml、及びペニシリン100U/mlが補給されたダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)30ml、並びにHAT(100μMヒポキサンチン、0.4μMアミノプテリン、16μMチミジン)10ml中で維持された。細胞は、5%CO2及び95%空気の雰囲気を用い、37℃のインキュベータ内で培養された。細胞は、75cm2フラスコ中で成長し、及び約90%のコンフルエンスに達するまで継代された。細胞がおよそ90%のコンフルエンスに達したら、培地が除去され、そして細胞はリン酸緩衝化された生理食塩水(PBS)5mlを用いて洗浄された。EA.hy926細胞の継代プロセスでは、端的には、細胞培養培地が細胞から除去され、そして次に、細胞は培地に色が認められなくなるまで滅菌PBS10mlで洗浄された。次に、EA.hy926細胞は、トリプシン2.5mlを添加し、3分間、標準的なインキュベーションを行うことにより引き離された。細胞集塊物も、均一に分布するように、新しいDMEM培地5mlを用いてピペッティングを繰返すことにより分散された。
【0047】
図5は、マイクロメンブレンの表面上にコーティングされた内皮細胞のレーザー走査型マイクロメーター(LSM)画像である。内皮細胞は緊密にシリコン表面に接着し、典型的な展開パターンを示している。
【0048】
生物学的実験は2段階に分けられる:(1)メンブレン上に所定量の細胞を播種する、及び(2)対応するメンブレンの動力学を測定する。動的試験デバイスが図6に図解されている。同一のマイクロメンブレンが、異なる細胞密度を用いた一まとまりの実験結果を得るために、数回反復して用いられた。各実験は下記のように実施された:
1.最初に、シリコンマイクロメンブレンが洗浄され、そして洗浄液(エタノール及びアセトン混合物)、オートクレーブ処理、及びUV光照射を用いて滅菌された。
2.マイクロメンブレン上に細胞を播種する前に、継代プロセス期間中に懸濁液の細胞密度が規定された。生存細胞数が、細胞懸濁液20μlを取り出し、そしてこれをトリパンブルー20μlと混合することにより見積もられた。次に、細胞数の計測が改良されたNeubauer血球計算器を用いて、この新しい混合物について実施された。細胞密度が規定されたら、密度が既知のEA.hy926細胞からなる細胞懸濁液5mlが、培地を用いて調製された。インキュベーション時間を制御することにより、メンブレン表面上に様々な細胞密度及び分布を実現することができる。
3.メンブレンセンシング表面上の細胞分布がLSM(レーザースキャン顕微鏡検査)画像を用いて記録された。細胞の密度又は分布は、このLSM画像に基づき定量可能である。
4.接着細胞を伴うメンブレンの動力学は、図6の基礎励起装置により測定された。細胞情報を推測するために、細胞を伴う及び細胞を伴わない個々のマイクロメンブレンそれぞれに関するFRFデータが比較され、その情報はLSMスキャン画像に記録された。
5.最終的に、細胞はマイクロメンブレン表面から除去され、そしてステップ1の洗浄プロセスを繰り返した後、再滅菌されたマイクロメンブレンは次の実験に用いられた。
【0049】
図7、8、及び9は、3つの異なる細胞密度における、3つの異なるタイプのマイクロメンブレンに関する周波数応答関数(FRF)を示す。図7は、100μm角の正方形C−F−F−Fマイクロメンブレンを使用;図8は200μm角の正方形C−F−C−Fマイクロメンブレンを使用;及び図9は300μm角の正方形C−C−C−Cマイクロメンブレンを使用する。各場合において、(a)及び(b)はマイクロメンブレン表面上の内皮細胞コーティングを示し、及び(c)は細胞密度に基づく標準化された速度振幅を表す。
【0050】
細胞が負荷したことにより誘発されて、メンブレンの動力学に生じた最も支配的な変化は、共鳴周波数fnのシフトである。第1のモード形状はほぼ一定のままであり、及び各FRFの振幅は、第1の共鳴モードの振幅に関して自己標準化された。共鳴モードの相対的な振幅は細胞負荷後に顕著に変化することが判明する。これは、メンブレン表面上に細胞が結合して質量が更に負荷されると、振動形状の歪みも引き起こすことを意味する。標的細胞の質量m又は量は、共鳴周波数のシフトΔfnを検知することにより見積もり可能である。式(1)は、剛性kは一定のままと仮定した時の、質量変化Δmと動的システムの周波数シフトΔfとの間の関係を示している。このアプローチは微小カンチレバーに基づくバイオセンサーで幅広く用いられている。
【0051】
【数1】
【0052】
図7、8、及び9で提示したFRFの変化を比較すれば、長方形シリコンマイクロメンブレンのタイプ(寸法及び境界状態)が異なれば、これを反映してバイオセンシング性能も非常に異なると結論づけられる。それは、第1のタイプのメンブレン(100μm角の正方形C−F−F−F)が、共鳴周波数シフトΔfnに関して上記3つのメンブレンの中で最高感度を有することを意味する。また、非線形性が、液体が負荷されたマイクロメンブレンの動力学においても生ずることが指摘される。一般的に、これらの実験結果は、マイクロメンブレンが高減衰性の液体環境に浸漬されたとしても、同メンブレンはバイオセンシングにおいて高い潜在能力を有することを実証する。
【0053】
式(2)の2つ共鳴周波数に基づくインデックスが、実験結果について予備的解析を行うのに用いられる。FDRn(周波数差の比)が、各測定共鳴モードにおいて、細胞が負荷されたメンブレンと負荷されないメンブレンとの間の標準化された共鳴周波数の差として評価される。AFDRは、全ての測定されたFDRnの平均である。
【0054】
【数2】
【0055】
FDRn及びAFDRのインデックスの評価が、3つの異なるマイクロメンブレンを用いた3バッチのバイオ実験結果について実施されたが、同メンブレンは全て約200μm角の正方形C−F−C−Fメンブレンである。3つのマイクロメンブレンは、No.I、No.II及びNo.IIIとそれぞれラベル表示される。実験の各バッチでは、同一の膜が4回反復して用いられ、また細胞培養密度は25×103/μlから200×103/μlへ徐々に増加させた。図10、11、及び12は、各試験対象マイクロメンブレン(それぞれNo.I、No.II、及びNo.III)について、細胞の量の増加に従ったFDRnの傾向を表している。図13は、各実験バッチにおいて、上記3つのマイクロメンブレンのAFDRインデックスを比較している。
【0056】
まず第1に、1つの又は2つモードにおけるインデックスFDRnの傾向は、一部、細胞量の増加と同一ではない。この現象は、基本モードのFDR0が常に細胞数と直線関係を有する、微小カンチレバーのバイオ実験結果とは全く異なる。この現象に対する考え得る理由は:(a)マイクロメンブレンは、通常かなり大き目のセンシング領域を有し、またバイオ実験では微小カンチレバーより多くの細胞を担持する。質量変化とは別に、細胞の蓄積は構造的剛性変化も引き起こし得る。そのような場合には、FDRの線形関係は成立しない。(b)マイクロメンブレンに関するこれらのバイオ実験は関連する環境でも維持され、例えばマイクロプレートの動力学は細胞培養培地中で測定される。(c)ランダムに分布した細胞を伴うマイクロメンブレンを水没させた時に認められる、その動力学の非線形性はほとんどの実験測定において存在する。
【0057】
一方、インデックスAFDRは、細胞量の近似的予測をもたらすことができる。上記3つのマイクロメンブレンに関するAFDRの感度は全く異なる。No.I及びNo.IIのメンブレンに関するAFDRの数値は非常に近いが、No.IIIの数値はかなり低目である。これは、No.I及びNo.IIのメンブレンは同一のウェファーに由来し、一方No.IIIは異なるウェファーに由来するという事実に起因する。従って、バイオセンシングプラットフォームとしてマイクロメンブレンを採用した場合、そのためにインデックスAFDRを使用するのは、ロバストな方法とはならない。細胞密度の見積もりを行う前には、常にかかるバイオセンシングデバイスについてキャリブレーションを行うのが好ましい。一般的なオシレーション構造として水没したセンシングメンブレンを検討する場合、共鳴周波数fnは、その剛性k及び質量mによってのみ近似的に求めることができる((1)の最初の式を参照)。システム剛性kが一定であると仮定すると、質量変化の比は、周波数変化の比と比例する((1)の第2式を参照)。従って、インデックスFDRn及びAFDRは、細胞密度を大まかに反映し得ると考えられる。しかし、現実的な状況においては、細胞、特に内皮細胞の結合は、センシングマイクロメンブレンの剛性にも多かれ少なかれ影響を及ぼす。従って、状況によっては、FDRn及びAFDRは細胞密度を表す場合には有用性に劣るなど、問題はより複雑となる。
3.ニューラルネットワーク法
【0058】
概して、共鳴周波数に基づくインデックスであるFDRn又はAFDRは、いずれも細胞密度を予測することができるが、その正確性は限られている。これは、主にマイクロメンブレンセンシングシステムの複雑性及び非線形性に起因する。測定された動力学データから細胞分布に関するより正確で信頼性のある同定を実施するには、その他のアルゴリズムが望ましい。本セクションでは、センサーデータと細胞分布との間の関係を構築するための人工ニューラルネットワーク技術を使用する簡便な試みが実施される。
【0059】
上記実験結果では、マイクロメンブレンセンシングドメインにおいて細胞集団を直感的に示すのに、LSM画像が用いられた。しかし、より正確な解析を行うためには、細胞量を示すのに定量的なインデックスも必要である。これは特に、細胞数の計測が非常に困難な内皮細胞に当てはまる。各LSM画像について、単純な画像処理手技が、MATLAB画像処理ツールボックスを用いてこれを2値画像に変換するために実施された。最初にLSM画像がロードされ、そして反射モードで撮影されたLSM画像には通常3つの層が含まれるので、最も透明な層が後続のプロセスのために選択される。次に、このLSM画像のバックグラウンド画像がモルフォロジカルオープニング技術を用いて構築される。その後、細胞が占める領域を高輝度表示することを目的として、バックグラウンド画像がオリジナルの画像から差し引かれ、そして画像コントラストが強調される。最終的に対応する2値画像が構築され、この画像ではバックグラウンドが黒く、また移植細胞部分は白い。従って、センシングドメイン上の細胞集団は、この2値画像中の白い領域の比から近似的に見積もり可能である。この比は、本明細書において以後細胞密度比(CDR)と呼ぶ。図14は、4つの異なるLSM画像に関する本評価プロセスの結果を示しており、これらは同一バッチのバイオ実験について得られている。この2値画像では若干の局所的エラーが存在するものの、各2値画像の白い領域は内皮細胞分布形状を大まかに表していることを認めることができる。評価された白い領域の比は図14の下部にも掲載されている。
【0060】
しかし、これらの評価されたCDRは、以下に示す事項により、解析で直接用いるにはふさわしくない:(1)成長表面上の各細胞の高さとは別に、内皮細胞は培地表面全体にわたり薄膜も生成する。従って、各評価されたCDRは、細胞の負荷が全くない場合と区別するために、この薄膜負荷効果を考慮して10%〜15%高く見積もられる。;(2)細胞がほぼ全てのセンシングドメインを覆うような場合(すなわち、図14の画像のうち4番目の組)には、通常、CDRの予測値は実際の状況よりもかなり低目になる。従って、予測値を高めにする必要がある。次に、ニューラルネットワークアプリケーションにおける目標値として、各実験サンプルについて修正されたCDRが用いられる。
【0061】
ここでFRFデータの標準化及び次数削減について検討する。各動的実験において全ての実験設定は同一であるものの、実験環境及び外乱によりFRF測定の振幅は変化する。従って、比較及び解析するために、測定されたFRFを標準化し、またFRFを同一レベルに合わせるのがより好ましい。一方、各動力学測定では複数のFRFデータセットが存在し、また各FRFデータセットには非常に多数の周波数スペクトル線が含まれる。この研究では、周波数スペクトル線は各FRFについて6400となるように設定されており、また4つのセンサーFRFが記録された。かかるFRFデータセットは大きすぎてニューラルネットワークに直接当て嵌めることはできない。従って、各FRFの次元はニューラルネットワークを適用する前に削減される。
【0062】
FRFを標準化する場合、各スペクトルは、これが有する最初の共鳴モードの振幅に関して標準化される。最初の共鳴モードを基準として選択する理由は、質量負荷は長方形メンブレンの最初の共鳴モードに対して最も小さな効果を有することを証明する理論的解析結果に基づく。
【0063】
次元数削減については、カルーネン・レーベ(K-L)分解法が、複数のFRFデータセットについて主要な成分を抽出するのに用いられる。K−L分解法は、動力学的システムについて低次元の次元削減モデルを構築するのに有用な方法である。メンブレンの動力学測定それぞれについて、周波数NのM個のFRFが存在すると仮定すると、このデータセットはM×N個のマトリックス[H(ω)]M×Nを形成する。K−L法を用いてマトリックス[H(ω)]の主要成分を抽出するプロセスは、下記のステップを有する:
1.最初に、FRFマトリックス[H(ω)]M×Nに基づき、相関マトリックス[C]MXMが構築される。
【0064】
【数3】
2.次に、マトリックス[C]の固有値及び対応する固有ベクトルを計算して、それから主要成分が得られる。
[CIX]=λ[X](3)
3.最終的に、M個の抽出された固有値が調べられ、そして最初の数個の最大固有値が取り出される。次に、これらの最大固有値に関連した固有ベクトルが主要な成分であると考えられ、またオリジナルのFRFデータセットの最も重要な情報に該当し得るとみなされる。
【0065】
ここでデータセットの構築について検討する。細胞が負荷されない4つの異なる使用済みのメンブレンの動力学(FRF)も参考としてデータセットに提供される。2つの追加サンプルも妥当性を確認する目的で提供される。従って、合計18個の異なるサンプルが、ニューラルネットワークのトレーニング用及び妥当性確認用として構築される。各サンプルのFRFデータセットのうち、最大の固有値に関連する固有ベクトルがニューラルネットワークインプットとして抽出され、及び各サンプルのCDRが、ニューラルネットワーク目標値として計算される。
【0066】
ここでネットワークの設計及びトレーニングについて検討する。幅広く用いられる逆伝播(BP)ニューラルネットワークが細胞密度を予測するのに選択された。図15は、CDR値を予測するためのBPニューラルネットワーク利用の概念について説明する。FRFデータセットから抽出された主要成分の他に、各サンプルのインデックスAFDRの値は、ニューラルネットワークに対して追加のインプットを提供する。前のセクションで、AFDRのインデックスは、細胞分布と高度に関連していることが証明されたように、同インデックスは、次に高速コンバージェンス及び良好な予測を実現するように、ニューラルネットワークを支援することができる。データセット内の18サンプルのうち、最初の14サンプルはニューラルネットワークをトレーニングするために用いられ、そして残りの4サンプルは妥当性を確認するために用いられる。サンプル数は限られているので、複雑なものよりも単純なニューラルネットワークを設計し、及び使用ことの方がより賢明である。ここで用いられるBPニューラルネットワークは、数個のニューロンを含む1つの隠れ層のみを有するように設計されている。標準化されたシステムエラーについて相違を試験するために、異なる数の隠れ層ニューロンを用いて数回のトレールが実施された。5つのニューロンを含む隠れ層が最高性能を発揮する。設定目標(平均二乗誤差)を満たすように、ネットワークの重み及びバイアスを繰り返し調整することにより、本明細書によるBPネットワークのトレーニングプロセスは、インプットと目標値との間の近似関数(非線形回帰)を規定する。トレーニングパラメータは、ネットワークコンバージェンススピード、並びに最終プレディケーション正確度に影響を及ぼす可能性がある。不適切なパラメータでは、トレーニングプロセスが非常に遅くなり、又は過学習結果が得られるおそれがある。次に、合理的なトレーニングパラメータを見出すために数回の試験が実施された。本発明で用いられる最終的なトレーニングパラメータは、モーメントレートが0.9、学習率が0.1、最大誤差が0.001、及び最大反復数が3000として選択される。
【0067】
図16は、BPネットワークのトレーニング結果から得られた、サンプル番号15〜18に関するCDRの予測結果を示している。予測結果は、対応するLSM画像から計算されたCDR値と非常に良好な一致性を示す。
【0068】
本発明の好ましい実施形態が記載されてきたが、それらは例示目的に限られ、様々な修正形態も検討可能であると理解されるはずである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの生物細胞の特性又は挙動を特徴づける方法であって、
マイクロプレートを提供するステップと、
特徴づけの対象となる少なくとも1つの生物細胞が前記マイクロプレートと接触した状態になるように、前記マイクロプレートの少なくとも1つの表面を細胞培養培地中に水没させるステップと、
前記マイクロプレートを振動させるステップと、
前記マイクロプレートに取り付けられた、相互に隔てられた複数のセンサーを提供するステップと、
前記マイクロプレートが振動している間に、各センサーからそれぞれの時系列センサーデータを取得するステップであって、前記取得された時系列センサーデータが互いに独立しないように、前記マイクロプレート及び前記センサーが配置されている前記ステップと、
少なくとも1つの生物細胞の特性又は挙動を特徴づけるように前記時系列センサーデータを処理するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記処理ステップが、
細胞の動的挙動分類を規定するステップと、
前記少なくとも1つの細胞の動的挙動が、前記規定された細胞の動的挙動分類に該当するかどうか決定するように、前記時系列センサーデータを処理するステップと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記処理ステップが、
細胞特性を規定するステップと、
前記少なくとも1つの細胞の前記規定された特性を測定するかどうか決定するように前記時系列センサーデータを処理するステップと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記処理ステップが、時間ドメイン、周波数ドメイン、及びウェーブレットドメインの1つ又は複数における前記時系列センサーデータを解析するステップを含む、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記処理ステップが、周波数応答関数(FRF)を解析するステップを含む、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記処理ステップが、1つ又は複数のニューラルネットワーク及びカルーネン・レーベ分解を用いるステップを含む、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記マイクロプレートを振動させるステップが、前記マイクロプレートを定期的に振動させるステップを含む、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記マイクロプレートを振動させるステップが、前記マイクロプレートをランダムに振動させるステップを含む、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1つの生物細胞の特性又は挙動を特徴づけるためのシステムであって、
細胞培養培地用のコンテナーと、
前記コンテナーが少なくとも部分的に細胞培養培地で満たされるときに、前記マイクロプレートの少なくとも1つの表面が、前記細胞培養培地中に水没するように、前記コンテナー内に置かれた前記マイクロプレートと、
前記マイクロプレートを振動させるように作動可能な少なくとも1つのアクチュエーターと、
前記マイクロプレートに取り付けられた、相互に隔てられた複数のセンサーであって、各センサーが、前記マイクロプレートが振動している間、それぞれの時系列センサーデータを提供するように作動可能であり、前記マイクロプレート及び前記センサーが、前記提供された時系列センサーデータが互いに独立しないように配置されている前記センサーと、
前記センサーから前記時系列センサーデータを受け取るように、及び前記マイクロプレートに接触している少なくとも1つの生物細胞の特性又は挙動を特徴づけるために、受け取った前記時系列センサーデータを処理するように作動可能なプロセッサーと、
を備えるシステム。
【請求項10】
前記マイクロプレートの境界状態が、クランプで固定された状態、カンチレバー、非固定状態、及び点支持状態から選択される、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記センサーが、ピエゾ抵抗素子ゲージセンサー、光学センサー、歪みセンサー、及び加速度センサーから選択される、請求項9又は請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記少なくとも1つのアクチュエーターが、圧電トランスデューサーを備える、請求項9から11のいずれかに記載のシステム。
【請求項13】
前記少なくとも1つのアクチュエーターが、音波アクチュエーターを備える、請求項9から11のいずれかに記載のシステム。
【請求項14】
前記コンテナーがペトリ皿である、請求項9から13のいずれかに記載のシステム。
【請求項1】
少なくとも1つの生物細胞の特性又は挙動を特徴づける方法であって、
マイクロプレートを提供するステップと、
特徴づけの対象となる少なくとも1つの生物細胞が前記マイクロプレートと接触した状態になるように、前記マイクロプレートの少なくとも1つの表面を細胞培養培地中に水没させるステップと、
前記マイクロプレートを振動させるステップと、
前記マイクロプレートに取り付けられた、相互に隔てられた複数のセンサーを提供するステップと、
前記マイクロプレートが振動している間に、各センサーからそれぞれの時系列センサーデータを取得するステップであって、前記取得された時系列センサーデータが互いに独立しないように、前記マイクロプレート及び前記センサーが配置されている前記ステップと、
少なくとも1つの生物細胞の特性又は挙動を特徴づけるように前記時系列センサーデータを処理するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記処理ステップが、
細胞の動的挙動分類を規定するステップと、
前記少なくとも1つの細胞の動的挙動が、前記規定された細胞の動的挙動分類に該当するかどうか決定するように、前記時系列センサーデータを処理するステップと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記処理ステップが、
細胞特性を規定するステップと、
前記少なくとも1つの細胞の前記規定された特性を測定するかどうか決定するように前記時系列センサーデータを処理するステップと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記処理ステップが、時間ドメイン、周波数ドメイン、及びウェーブレットドメインの1つ又は複数における前記時系列センサーデータを解析するステップを含む、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記処理ステップが、周波数応答関数(FRF)を解析するステップを含む、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記処理ステップが、1つ又は複数のニューラルネットワーク及びカルーネン・レーベ分解を用いるステップを含む、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記マイクロプレートを振動させるステップが、前記マイクロプレートを定期的に振動させるステップを含む、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記マイクロプレートを振動させるステップが、前記マイクロプレートをランダムに振動させるステップを含む、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1つの生物細胞の特性又は挙動を特徴づけるためのシステムであって、
細胞培養培地用のコンテナーと、
前記コンテナーが少なくとも部分的に細胞培養培地で満たされるときに、前記マイクロプレートの少なくとも1つの表面が、前記細胞培養培地中に水没するように、前記コンテナー内に置かれた前記マイクロプレートと、
前記マイクロプレートを振動させるように作動可能な少なくとも1つのアクチュエーターと、
前記マイクロプレートに取り付けられた、相互に隔てられた複数のセンサーであって、各センサーが、前記マイクロプレートが振動している間、それぞれの時系列センサーデータを提供するように作動可能であり、前記マイクロプレート及び前記センサーが、前記提供された時系列センサーデータが互いに独立しないように配置されている前記センサーと、
前記センサーから前記時系列センサーデータを受け取るように、及び前記マイクロプレートに接触している少なくとも1つの生物細胞の特性又は挙動を特徴づけるために、受け取った前記時系列センサーデータを処理するように作動可能なプロセッサーと、
を備えるシステム。
【請求項10】
前記マイクロプレートの境界状態が、クランプで固定された状態、カンチレバー、非固定状態、及び点支持状態から選択される、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記センサーが、ピエゾ抵抗素子ゲージセンサー、光学センサー、歪みセンサー、及び加速度センサーから選択される、請求項9又は請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記少なくとも1つのアクチュエーターが、圧電トランスデューサーを備える、請求項9から11のいずれかに記載のシステム。
【請求項13】
前記少なくとも1つのアクチュエーターが、音波アクチュエーターを備える、請求項9から11のいずれかに記載のシステム。
【請求項14】
前記コンテナーがペトリ皿である、請求項9から13のいずれかに記載のシステム。
【図1a】
【図1b】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図1b】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2012−531890(P2012−531890A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516851(P2012−516851)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【国際出願番号】PCT/GB2010/001252
【国際公開番号】WO2011/001138
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(500074349)アストン ユニバーシティ (5)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【国際出願番号】PCT/GB2010/001252
【国際公開番号】WO2011/001138
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(500074349)アストン ユニバーシティ (5)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]