説明

生物脱臭法のための環境制御方法および装置

【課題】 従来から課題となっている主として担体充填槽に送入される空気である処理対象悪臭ガスの温湿度の低下によって生物脱臭装置の性能が低下することを解決するものであり、生物脱臭装置の性能を高いレベルで安定化させる方法及び装置を提供することにある。
【解決手段】温湿濃度調整装置4は、担体充填槽5前段の配管を利用した構造となっている。具体的には、下方に処理対象悪臭ガスの入気口と上方に処理対象悪臭ガスの排気口を有して鉛直方向に延びるガス配管にあって、ガス配管内に設けられた螺旋状の気液接触部17とガス配管の下側に設けられた循環水槽15と循環水槽15の液体の温度調整のために設けられた熱源16とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、生物脱臭法による脱臭性能に影響を及ぼす脱臭槽(担体充填槽)内環境を制御するための環境制御方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
畜産経営に関わる苦情の発生件数のうち、悪臭に関わる苦情件数の割合は全体の6割(1600件程度)を占め続けており、戸別農家の悪臭対策を推進できる安価な脱臭技術が求められている。安価な生物脱臭装置を開発するためには、脱臭性能を高いレベルで安定化させて処理能力を向上するとともに、脱臭装置の小型化を図る必要がある。
【0003】
しかし、生物脱臭法による脱臭装置の性能は、担体充填槽内の温度の影響を受けやすく、15℃程度で大きく低下しはじめ、5℃以下では脱臭は期待できない。このため、脱臭装置の設置場所の温湿度環境や処理対象悪臭ガスの温湿度などに影響されない、担体充填槽内の環境制御技術が必要とされている。
【0004】
ところで、従来から用いられている生物脱臭装置は、その設置場所の環境条件において、季節・時刻等によって処理対象悪臭ガスや担体充填槽内の温度環境等が影響を受け、低温環境下においては脱臭性能が低下する。この性能低下を軽減するために、従来、担体充填槽の外側を断熱材で覆うなどの方法で対応しており(特許文献1及び2等)、処理対象悪臭ガス自体に対する積極的な調整は行われていなかった。
【0005】
【特許文献1】特許第3912871号公報
【特許文献2】特開2002−248316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
すなわち、従来の生物脱臭装置では、担体充填槽に送入される空気である処理対象悪臭ガスの温湿度等が制御されていない。そのため、担体充填槽は、季節・時刻等によって変動する送入空気の温湿度によって加熱・冷却等の影響を受け、特に冬季は脱臭性能が低下するなどの問題があった。これに対して、従来方法である担体充填槽の外部を断熱材で覆うなどの方法は、担体充填槽外部との熱変動に対してのみ有効であり、担体充填槽内部を通過する空気による加熱・冷却等の影響には効果が得られない。
【0007】
そこで、本願発明は、従来から課題となっている主として担体充填槽に送入される空気である処理対象悪臭ガスの温湿度の低下によって生物脱臭装置の性能が低下することを解決するものであり、生物脱臭装置の性能を高いレベルで安定化させる方法及び装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第1の発明は、悪臭(例えば、畜産に関わる悪臭など)を生物脱臭法により脱臭するための環境を制御する生物脱臭法のための環境制御方法であって、生物脱臭法により脱臭する前の処理対象悪臭ガスを所定温度の液体に接触させて、処理対象悪臭ガスの温度・湿度・悪臭ガス濃度を所定の温度・湿度・悪臭ガス濃度に調整する温湿濃度調整工程を備えて、分解する微生物担体の充填された担体充填槽へ所定の温度・湿度・悪臭ガス濃度に調整された処理対象悪臭ガスを送入することを特徴とするものである。
ここで、「生物脱臭法」とは、微生物の働きにより悪臭成分を分解する方法をいう。
また、「所定の温度・湿度・悪臭ガス濃度に調整する」とは、例えば、温度30〜40℃、湿度100%、アンモニア濃度200〜100ppmに調整することであり、好ましくは、温度15〜50℃、湿度80−100%、アンモニア濃度400〜50ppm、さらに好ましくは、温度30〜40℃、湿度100%、アンモニア濃度200〜100ppmである(以下、第2〜第6の発明においても同じ)。
第2の発明は、温湿濃度調整工程が、鉛直方向に延びるガス配管内の螺旋状に形成された螺旋部によって仕切られた空間を処理対象悪臭ガスと液体が同一方向又は反対方向に移動しながら接触することを特徴とする同生物脱臭法のための環境制御方法である。
ここで、処理対象悪臭ガスは、ガス配管内を「上方から下方へ」又は「下方から上方へ」移動してもよい。前者の場合には処理対象悪臭ガスと液体は同一方向に移動し、後者の場合には処理対象悪臭ガスと液体は反対方向に移動することになる。
第3の発明は、液体の一部が、螺旋部に設けられた垂下孔から垂下しながら処理対象悪臭ガスと接触することを特徴とする同生物脱臭法のための環境制御方法である。
第4の発明は、悪臭(例えば、畜産に関わる悪臭など)を生物脱臭法により脱臭するための環境を制御する生物脱臭法のための環境制御装置であって、処理対象悪臭ガスを分解する微生物担体の充填された担体充填槽へ所定の温度・湿度・ガス濃度の処理対象悪臭ガスを送入するための処理対象悪臭ガス調整機能を備えたことを特徴とするものである。
第5の発明は、処理対象悪臭ガス調整機能が、処理対象悪臭ガスの入気口と排気口を有して鉛直方向に延びるガス配管にあって、ガス配管内に設けられた螺旋状の気液接触部とガス配管の下側に設けられた循環水槽と循環水槽の液体の温度調整のために設けられた熱源とを備え、気液接触部は循環水槽から上昇させた液体を流通させるための流通部と流通部の上端に上昇した液体を散水するための散水口とを備えたことを特徴とする同生物脱臭法のための環境制御装置である。
第6の発明は、気液接触部が、螺旋状になっている螺旋部に散水口から散水された液体を垂下させる垂下孔を備えたことを特徴とする同生物脱臭法のための環境制御装置である。
【発明の効果】
【0009】
上記する本願発明によれば、以下のような効果を有する。
(1)本願発明に係る生物脱臭法のための環境制御方法は、温湿濃度調整工程を備えて担体充填槽へ所定の温度・湿度・ガス濃度に調整された処理対象悪臭ガスを送入することで、最も良好な環境下(微生物が活発に悪臭成分を分解する環境下)に担体充填槽内が制御されて、生物脱臭装置の性能を高いレベルで安定化させることができるとともに、生物脱臭装置の小型化も可能になる。
(2)本願発明に係る生物脱臭法のための環境制御装置は、処理対象悪臭ガス調整機能を備えたことで担体充填槽へ所定の温度・湿度・ガス濃度に調整された処理対象悪臭ガスを送入することができ、最も良好な環境下(微生物が活発に悪臭成分を分解する環境下)に担体充填槽内が制御されて、生物脱臭装置の性能を高いレベルで安定化させることができるとともに、生物脱臭装置の小型化も可能になる。
(3)温湿濃度調整装置(湿式のクラスバー装置)が、処理対象悪臭ガスの入気口と排気口を有して鉛直方向に延びるガス配管にあって、ガス配管内に設けられた螺旋状の気液接触部とガス配管の下側に設けられた循環水槽と循環水槽の液体の温度調整のために設けられた熱源とを備え、気液接触部は循環水槽から上昇させた液体を流通させるための流通部と流通部の上端に上昇した液体を散水するための散水口とを備えたことで、処理対象悪臭ガスがガス配管を通過する過程において、ガス配管内を螺旋状に移動しながら散水口から散水された液体(加熱済)と接触することで除塵されるとともに、所定の温度・湿度に加熱・加湿されるので、所定の温度・湿度に処理対象悪臭ガスを調整できる。また、液体との接触によって、処理対象悪臭ガスの濃度が高いときにはガスを吸着させて濃度を下げ、濃度が低いときにはガスを放出しガス濃度を所定のガス濃度に平準化できる。
(4)気液接触部が、螺旋状になっている螺旋部に散水口から散水された液体を垂下させる垂下孔を備えたことで、ガス配管内を螺旋状に移動する処理対象悪臭ガスが液体と螺旋部に沿って平行に接触するだけでなく、垂下孔から垂下する液体と垂直状態で接触して、より効果的な接触が行われるようになって、より確実に所定の温度・湿度・ガス濃度に処理対象悪臭ガスを調整できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、生物脱臭装置を示す全体概要図である。図1に示す生物脱臭装置は、原臭気ガス発生部1、温湿濃度調整装置4、生物脱臭槽部(担体充填槽5、散水ノズル6、循環槽7、散水循環ポンプ8、断熱部9)から構成されるものである。なお、符号1は便宜上原臭気ガス発生部としているが、実際の設備・施設においては、臭気発生源(例:密閉型堆肥化装置、堆肥舎等)と接続することになる。
【0011】
原臭気ガス発生部1から発生した処理対象悪臭ガスは、温湿濃度調整装置4に送り込まれる。ここでは、次の図2で説明する温湿濃度調整装置4によって、処理対象悪臭ガスを所定の温度・湿度・ガス濃度(例:温度30〜40℃、湿度100%、アンモニア濃度200〜100ppm)に調整する(付随的には、除塵も同時に行われる)。すなわち、温湿濃度調整工程である。
そして、所定の温度・湿度・ガス濃度に調整された処理対象悪臭ガスは、生物脱臭槽部(担体充填槽5、散水ノズル6、循環槽7、散水循環ポンプ8、断熱部9)に送り込まれるが、上記温湿濃度調整工程によって処理対象悪臭ガスが生物脱臭法の環境条件を制御しているため、季節・時刻等によって生物脱臭装置の設置場所の環境が変化しても、脱臭性能を維持することができるのである。
【0012】
なお、原臭気ガス発生部1と温湿濃度調整装置4の間に、「送風機」と「ガス濃度調整槽」を備えてもよい(図示省略)。原臭気ガス発生部1から発生した処理対象悪臭ガスが「ガス濃度調整槽」に送り込まれ、そこに「送風機」から供給された空気を混入する。これにより、処理対象悪臭ガスのガス濃度(主にアンモニア濃度)を所定の濃度(例:400ppm以下)にまで薄める(調整する)。すなわち、ガス濃度調整工程である。こうすることで、高濃度の処理対象悪臭ガスを温湿濃度調整装置4で所定のガス濃度に調整しやすくなる。
【0013】
図2は、温湿濃度調整装置4を示す説明図である。
図2に示す温湿濃度調整装置4は、湿式のスクラバーであり、担体充填槽5前段の配管を利用した構造となっている。具体的には、下方に処理対象悪臭ガスの入気口と上方に処理対象悪臭ガスの排気口を有して鉛直方向に延びるガス配管にあって、ガス配管内に設けられた螺旋状の気液接触部17とガス配管の下側に設けられた循環水槽15と循環水槽15の液体(例:水)の温度調整のために設けられた熱源(例:電熱器)16とを備える。
【0014】
気液接触部17は、循環水槽15から上昇させた液体を流通させるための流通部18と流通部18の上端に上昇した液体14を散水するための散水口12とを備えるとともに、螺旋状になっている螺旋部17aに散水口12から散水された液体14を垂下させる垂下孔19を備える。なお、符号13は循環水槽15の液体を流通部18の散水口12へ配水させるための散水ポンプである。なお、散水口12は孔のみであるため(噴霧ノズル等ではないため)、異物による目詰まりが発生しにくい構造となっている。
【0015】
そして、この温湿濃度調整装置4に送り込まれた処理対象悪臭ガスはガス配管を通過する過程において、ガス配管内を気液接触部17の螺旋部17aに沿って下方から螺旋状に上昇しながら散水口12から散水された加熱済みの液体14と接触することで除塵されるとともに、所定の温度・湿度に加熱・加湿され所定のガス濃度に平準化される。この時、気液接触部17の螺旋部17aに垂下孔19があることで、ガス配管内を螺旋状に上昇する処理対象悪臭ガスは、液体14と螺旋部17aに沿って平行に接触するだけでなく、垂下孔19から垂下する液体14と垂直方向で接触する。これにより、処理対象悪臭ガスは多方向から液体14との効果的な接触が行われるようになって、より確実に所定の温度・湿度・ガス濃度に処理対象悪臭ガスを調整できる。
【実施例】
【0016】
図3は、温湿濃度調整装置4の効果(スクラバー効果)を示した試験結果である。
[条 件]
□ 新設後に循環水として新しい水50リットルを注入
□ 温湿度調整装置内の循環水量は50リットル/分
□ 温湿度調整装置内の臭気送風量は2.499m3/分
[結 論]
図3の試験結果から、温湿度調整装置が臭気を下げる効果を発揮するのは新鮮な水に交換後12時間程度と推察される。その後は循環水に溶け込んだガスを放出する傾向にある。このことはピークのある臭気に対して平滑効果があることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本願発明は、生物脱臭法による脱臭槽(担体充填槽)内の温湿度環境制御、除塵、臭気成分濃度の急激な変動を緩和する方法及びその装置としての利用が見込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】生物脱臭装置を示す全体概要図。
【図2】温湿濃度調整装置4を示す説明図。
【図3】温湿濃度調整装置4の効果(スクラバー効果)を示した試験結果。
【符号の説明】
【0019】
1 原臭気発生部
4 温湿濃度調整装置(湿式のスクラバー)
5 担体充填槽
6 散水ノズル
7 循環槽
8 散水循環ポンプ
9 断熱部
12 散水口
13 散水ポンプ
14 液体(水)
15 循環水槽
16 熱源
17 気液接触部 17a 螺旋部
18 流通部
19 垂下孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
悪臭を生物脱臭法により脱臭するための環境を制御する生物脱臭法のための環境制御方法であって、
生物脱臭法により脱臭する前の処理対象悪臭ガスを所定温度の液体に接触させて、処理対象悪臭ガスの温度・湿度・悪臭ガス濃度を所定の温度・湿度・悪臭ガス濃度に調整する温湿濃度調整工程を備えて、分解する微生物担体の充填された担体充填槽へ所定の温度・湿度・悪臭ガス濃度に調整された処理対象悪臭ガスを送入することを特徴とする生物脱臭法のための環境制御方法。
【請求項2】
温湿濃度調整工程は、鉛直方向に延びるガス配管内の螺旋状に形成された螺旋部によって仕切られた空間を処理対象悪臭ガスと液体が同一方向又は反対方向に移動しながら接触することを特徴とする請求項1記載の生物脱臭法のための環境制御方法。
【請求項3】
液体の一部は、螺旋部に設けられた垂下孔から垂下しながら処理対象悪臭ガスと接触することを特徴とする請求項2記載の生物脱臭法のための環境制御方法。
【請求項4】
悪臭を生物脱臭法により脱臭するための環境を制御する生物脱臭法のための環境制御装置であって、
処理対象悪臭ガスを分解する微生物担体の充填された担体充填槽へ所定の温度・湿度・ガス濃度の処理対象悪臭ガスを送入するための処理対象悪臭ガス調整機能を備えたことを特徴とする生物脱臭法のための環境制御装置。
【請求項5】
処理対象悪臭ガス調整機能は、処理対象悪臭ガスの入気口と排気口を有して鉛直方向に延びるガス配管にあって、ガス配管内に設けられた螺旋状の気液接触部とガス配管の下側に設けられた循環水槽と循環水槽の液体の温度調整のために設けられた熱源とを備え、気液接触部は循環水槽から上昇させた液体を流通させるための流通部と流通部の上端に上昇した液体を散水するための散水口とを備えたことを特徴とする請求項4記載の生物脱臭法のための環境制御装置。
【請求項6】
気液接触部は、螺旋状になっている螺旋部に散水口から散水された液体を垂下させる垂下孔を備えたことを特徴とする請求項5記載の生物脱臭法のための環境制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−82594(P2010−82594A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256978(P2008−256978)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(500559972)日本ロックウール株式会社 (3)
【Fターム(参考)】