説明

生砂鋳型装置および生砂鋳型造型方法

【課題】生砂鋳型を採用しつつも、生砂鋳型の体積が少なくて済み、生砂鋳型の使用する生砂の使用量が少なくて済み、よって生砂を混練させる混練コストが低減される生砂鋳型装置および生砂鋳型造型方法を提供する。
【解決手段】生砂鋳型装置は、無機粘結剤を含む生砂を加圧して形成され且つ表面に鋳造キャビティ20d,20uを有する生砂鋳型2d,2uと、生砂鋳型2d,2uを収容する鋳枠3d,3uと、鋳枠3d,3u内の空間のうち生砂鋳型2d,2uの表面に背向する背向面202側の空間部分に配置され鋳枠3d,3u内の生砂鋳型2d,2uの背向面202側をバックアップするバックアップ材4d,4uとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機粘結剤を含む生砂を基材とする生砂鋳型装置および生砂鋳型造型方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自硬性またはガス硬化性の高い硬化性鋳型(CO2鋳型またはフラン鋳型)で第1層を形成し、その裏打ちとしての第2層を生砂鋳型で形成する砂型造形方法が知られている(特許文献1)。第2層は、生砂をインペラで第1層の背向面側に投射させることにより形成されている。生砂はベントナイト(無機粘結剤)を含む。
【特許文献1】特開平2−155534号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記した硬化性鋳型はCO2鋳型またはフラン鋳型で形成されている。CO2削減が叫ばれている近年、CO2は避けることが好ましい。また環境対策上、フラン樹脂を用いるフラン鋳型も避けることが好ましい。
【0004】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、生砂鋳型を採用しつつも、生砂鋳型の体積が少なくて済み、生砂鋳型の使用する生砂の使用量も少なくて済み、よって生砂を混練させる混練コストが低減される生砂鋳型装置および生砂鋳型造型方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)様相1に係る生砂鋳型装置は、(i)無機粘結剤を含む生砂の集合体を加圧して形成され且つ表面に鋳造キャビティを有する生砂鋳型と、(ii)前記生砂鋳型を収容する鋳枠と、(iii)前記鋳枠内の空間のうち前記生砂鋳型の前記表面に背向する背向面側の空間部分に配置され前記鋳枠内の前記生砂鋳型の前記背向面側をバックアップすると共に、前記無機粘結剤を含まないかあるいは前記無機粘結剤が前記生砂における前記無機粘結剤の配合比の1/5以下とされたバックアップ材とを具備することを特徴とする。
【0006】
生砂は無機粘結剤および水分を含む砂である。無機粘結剤はベントナイト(モンモリロナイト族の粘土)、木節粘土、耐火粘土(カオリナイト)が代表的なものである。本発明によれば、鋳枠内に配置される生砂鋳型のうち背向面側はバックアップ材でバックアップされて補強されている。このため生砂鋳型の肉厚が薄くでき、その体積が少なくて済むため、生砂鋳型の使用する生砂の使用量も少なくて済む。よって生砂を混練させる混練コストが低減される。更にバックアップ材は無機粘結剤を含有していないかあるいは無機粘結剤の含有量が少ないので、バックアップ材に相当する部分も生砂鋳型で形成されている場合に比較して、溶湯注湯時にバックアップ材におけるガス透過性が高まる。このため鋳鉄のガス欠陥の抑制に貢献できる。
【0007】
(2)様相2に係る生砂鋳型造型方法は、(i)無機粘結剤を含む生砂と、前記無機粘結剤を含まないかあるいは前記無機粘結剤が前記生砂における前記無機粘結剤の配合比の1/5以下とされたバックアップ材とを準備する工程と、(ii)鋳造キャビティを形成するための模型を前記鋳枠内に配置した状態で、前記生砂の集合体を前記鋳枠の空間内に装填する装填工程と、(iii)その後、前記模型と前記生砂の集合体とを対面させた状態で、前記模型に背向する側から前記鋳枠内の前記生砂の集合体を加圧体で加圧して圧縮させることにより、前記鋳枠内に前記生砂鋳型を造型する造型工程と、(iv)その後、前記鋳枠内において生砂鋳型のうち前記模型に背向する側に、前記バックアップ材を装入することにより、前記生砂鋳型のうち前記模型または前記鋳造キャビティと背向する側を補強する補強工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
生砂は無機粘結剤および水分を含む砂である。無機粘結剤はベントナイト(モンモリロナイト族の粘土)、木節粘土、耐火粘土(カオリナイト)が代表的なものである。本発明によれば、補強工程により、鋳枠内に配置される生砂鋳型のうち背向面側はバックアップ材でバックアップされて補強されている。このため生砂鋳型の肉厚が薄くでき、その体積が少なくて済むため、生砂鋳型の使用する生砂の使用量も少なくて済む。よって生砂を混練させる混練コストが低減される。更にバックアップ材は無機粘結剤を含有していないかあるいは無機粘結剤の含有量が少ないので、バックアップ材に相当する部分も生砂鋳型で形成されている場合に比較して、溶湯注湯時にバックアップ材におけるガス透過性が高まる。このため鋳鉄のガス欠陥の抑制に貢献できる。
【0009】
本発明によれば、次の好適態様が挙げられる。
【0010】
・バックアップ材は粒子の集合体とすることができる。粒子としては、砂粒子、廃砂の粒子、セラミックス粒子、金属球等が挙げられる。
【0011】
・生砂は有機系粘結剤(フラン樹脂等)を含有しない方が好ましいが、場合によっては、含有していても良い。好ましくは、バックアップ材は、無機粘結剤を含まないか、あるいは、含むとしても生砂鋳型における無機粘結剤の配合比の1/5以下または1/10以下である。このバックアップ材は、生砂に比較して高い流動性をもつため、鋳枠内に装填するとき装填効率を高めることができる。
【0012】
・好ましくは、バックアップ材は粒子の集合体であり、水を粘結剤として含む。水は粘結剤として作用して、バックアップ材の粒子同士の結合性を高めることができる。このため生砂鋳型に対するバックアップ性を高めることができる。水分は、有害排出物を過剰に排出させないため、有機系粘結剤に比較して環境面において好ましい。
【0013】
・好ましくは、バックアップ材の粒子の粒径は、生砂鋳型を構成する砂粒子の粒径よりも大きい。この場合、溶湯注湯時にバックアップ材におけるガス透過性が高まる。このため鋳鉄のガス欠陥の抑制に貢献できる。場合によっては、バックアップ材の粒子の粒径は、生砂鋳型を構成する砂粒子の粒径よりも小さくできる。この場合、バックアップ材の装填密度が高まり、生砂鋳型に対するバックアップ性が高まる。粒径は平均粒径としても良い。平均粒径はメディアン径でも単純平均径でも良い、なお、粒径は、光学顕微鏡または拡大鏡で測定できる。
【0014】
・好ましくは、生砂鋳型の肉厚は、注湯時に溶湯の熱で無機粘結剤が損傷(焼死)する分とすることができる。この場合、生砂鋳型の肉厚は薄くされる。
【0015】
・注湯時に溶湯圧等により生砂鋳型では亀裂が発生し、進展することが多い。この場合、鋳鉄の寸法精度が低下するおそれがある。そこで、好ましくは、生砂鋳型は、注湯時に発生する水蒸気が凝縮して形成される凝縮水層を生砂鋳型の内部に形成する肉厚に設定されている。凝縮水層は水分が豊富であるため、生砂鋳型において発生した亀裂のそれ以上の進展を抑えるという作用を有する。このため生砂鋳型の内部に凝縮水層が形成されるように、生砂鋳型の肉厚を設定しておけば、生砂鋳型において亀裂が仮に発生したとしても、亀裂の進展を抑制させる効果を期待できる。
【0016】
場合によっては、注湯時に発生する水蒸気が凝縮して形成される凝縮水層を生砂鋳型の内部に形成しないでバックアップ材の内部に形成するように、生砂鋳型の肉厚を設定しておくこともできる。
【0017】
・好ましくは、加圧体は、互いに独立して駆動可能な複数個の分割加圧体に分割されている。この場合、生砂鋳型の領域に応じて、加圧体の位置および/またはストロークを可変にでき、加圧代を調整でき、ひいては鋳型強度を調整できる。
【0018】
・好ましくは、バックアップ材の水分量は、鋳鉄の組織および/または黒鉛に応じて調整されている。バックアップ材の水分量の調整により、溶湯および鋳鉄の冷却速度を調整でき、鋳鉄組織および/または黒鉛を調整することができる。バックアップ材の水分量を調整しても、生砂鋳型の強度それ自体にはあまり影響を与えないため、生砂鋳型の強度が維持される。水を含まないバックアップ材を100質量部とするとき、水は例えば、0〜20質量部の範囲、0〜10質量部の範囲で調整できる。但しこれに限定されるものではない。
【0019】
・好ましくは、補強工程では、生砂鋳型および模型が対面している状態で、バックアップ材に加圧力および/または振動を加えてバックアップ材の装填率を高めることができる。この場合、生砂鋳型に対するバックアップ性を高めることができる。
【0020】
・場合によっては、生砂は例えば熱硬化性樹脂を含有することができる。この場合、好ましくは、造形工程は、鋳枠内の生砂の集合体を加圧して圧縮させる加圧操作と、マイクロ波を生砂の集合体に照射させて熱硬化性樹脂を熱硬化させる照射操作により実施される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、鋳枠内の生砂鋳型の背向面側をバックアップ材でバックアップすることにしている。このため生砂鋳型の肉厚を薄くでき、その体積が少なくて済み、生砂鋳型の使用する生砂の使用量も少なくて済み、よって生砂を混練させる混練コストが低減される。更にバックアップ材は無機粘結剤を含有していないかあるいは無機粘結剤の含有量が少ないので、バックアップ材の粒子間の結合性が低く、バックアップ材のガス透過性が良好である。このため、バックアップ材に相当する部分も生砂鋳型で形成されている場合に比較して、溶湯注湯時にバックアップ材におけるガス透過性を高めることができ、鋳鉄のガス欠陥を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(実施形態1)
本発明を具体化した実施形態1について図1〜図7を参照しつつ説明する。先ず、下側生砂鋳型装置1dの造型について説明する。まず、下側鋳造キャビティを形成し得る下側模型5dを用意する。下側模型5dは、金属または硬質樹脂で形成された四角枠形状をなす下側鋳枠3dの第1開口301を覆う下側定盤50dと、下側定盤50dに保持された下側模型部51dとを有する。下側模型部51dの型面53dは、下側鋳造キャビティ20dとなる形状を有する。
【0023】
図1に示すように、下側模型5dの下側定盤50dで下側鋳枠3dの第1開口301を覆いつつ、無機粘結剤を含む生砂7の集合体70を下側鋳枠3dの空間内に装入する。これにより所要量の生砂7の集合体70を下側鋳枠3dの空間内に配置する。この結果、下側鋳枠3d内において、下側模型5dの型面53dと生砂7の集合体70とを対面させる。この状態で、下側加圧体モード操作部を生砂7の集合体70の上側に配置する。
【0024】
生砂7は、水分および無機粘結剤(ベントナイト)を含むと共に、調整剤を含む。調整剤としては炭素質(石炭粉砂)および澱粉が挙げられる。生砂7の砂粒子を100質量部とするとき、水分は2〜5質量部、無機粘結剤(ベントナイト)は6〜10質量部の配合比とすることができる。但し、これに限定されるものではない。
【0025】
下側加圧体6dは、下側鋳枠3dの第2開口302に嵌合可能な下側ピストン60dと、下側ピストン60dを前進後退させるロッド61dをもつ油圧または空圧式の下側シリンダ部62d(下側駆動源)とで形成されている。下側シリンダ部62dを駆動させてロッド61dを伸張させ、下側ピストン60dを前進方向(矢印Y1方向,下方)に前進させ、生砂7の集合体70を加圧して肉厚方向に圧縮させる。これにより下側生砂鋳型2d(図2参照)を形成する。
【0026】
その後、下側シリンダ部62dを逆方向に駆動させてロッド61dを収縮させ、下側ピストン60dを後退方向(矢印Y2方向,上方)に後退させ、下側ピストン60dを下側鋳枠3dから離脱させる。
【0027】
その後、下側鋳枠3d内において下側生砂鋳型2dのうち下側模型5d(下側鋳造キャビティ20d)に背向する側に、下側バックアップ砂4d(バックアップ材)の集合体を装入する。この場合、重力により下側バックアップ砂4dを落下させて装入しても良いし、あるいは、インペラーによる遠心力で、下側バックアップ砂4dを投射させて装入しても良い。あるいは、下側鋳枠3dに適宜振動を加えても良い。
【0028】
これにより下側生砂鋳型2dのうち下側模型5d(下側鋳造キャビティ20d)と背向する側を、下側バックアップ砂4dで補強する(図2参照)。下側バックアップ砂4dは、無機粘結剤が含有されていないか、或いは、無機粘結剤の配合比が生砂7よりも少ない砂粒子であるため、高い流動性および高い装填性をもつ。ここで、下側バックアップ砂4dの砂粒子を100質量部とするとき、水分は1〜3質量部、無機粘結剤(ベントナイト)は0〜1質量部の配合比とすることができる。但しこれに限定されるものではない。更に、下側鋳枠3dには支持定盤25dが載せられる。支持定盤25dは、下側バックアップ砂4dに対して錘として機能することができ、バックアップ性を更に高めることができる。
【0029】
図2は、製造された下側生砂鋳型装置1dを示す。図2に示すように、下側生砂鋳型装置1dは、無機粘結剤を含む生砂7の集合体70を加圧して形成された下側生砂鋳型2dと、下側生砂鋳型2dを収容する下側鋳枠3dと、下側鋳枠3d内に装填された下側バックアップ砂4dとを有する。下側生砂鋳型2dの表面201には下側模型部51dが配置されている。下側生砂鋳型2dの背向面202は、下側模型部51d(下側鋳造キャビティ20d)に背向している。
【0030】
下側バックアップ砂4dは、下側鋳枠3d内の空間において、下側生砂鋳型2dの背向面202側の空間部分に配置されており、下側鋳枠3d内の下側生砂鋳型2dの背向面202側をバックアップして補強している。更に、錘としても機能できる支持定盤25dが下側バックアップ砂4dに着脱可能に載せられおり、補強性を高めている。なお、適当な時期に、下側模型部51dは下側生砂鋳型2dから離型されるため、下側模型部51dが占めていた空間が下側鋳造キャビティ20d(図4参照)として下側生砂鋳型装置1dに形成される。ここで、下側生砂鋳型2dの背向面202は、下側バックアップ砂4dでバックアップされて補強されている。このため下側生砂鋳型2dの肉厚および体積が少なくて済むため、下側生砂鋳型2dが使用する生砂7の使用量も少なくて済む。よって生砂7を混練させる混練コストが低減される。なお、下側バックアップ砂4dの層の最小肉厚はpdで示される。
【0031】
次に、図3を参照しつつ上側生砂鋳型装置1uについて説明する。上側生砂鋳型装置1uは基本的には下側生砂鋳型装置1dと同様な手順で製造される。製造された上側生砂鋳型装置1uは、下側生砂鋳型装置1dと基本的には同じ構造であり、無機粘結剤を含む生砂7の集合体70を加圧して形成された上側生砂鋳型2uと、上側生砂鋳型2uを収容する四角枠形状をなす上側鋳枠3uと、上側鋳枠3u内に装填された上側バックアップ砂4u(バックアップ材)とを有する。図3に示すように、上側模型5uは、上側定盤50uと上側模型部51uとを有する。
【0032】
上側生砂鋳型2uの表面201には上側模型部51uが配置されている。上側生砂鋳型2uの背向面202は、上側模型部51uに背向している。
【0033】
上側バックアップ砂4uは、上側鋳枠3uにおいて、上側生砂鋳型2uの背向面202側の空間部分に配置されており、上側生砂鋳型2uの背向面202側をバックアップして補強している。このように上側生砂鋳型2uの背向面202側は、上側バックアップ砂4uでバックアップされて補強されている。このため上側生砂鋳型2uの肉厚および体積が少なくて済むため、上側生砂鋳型2uが使用する生砂7の使用量も少なくて済む。よって生砂7を混練させる混練コストが低減される。上側バックアップ砂4uに錘としても機能できる支持定盤25uが載せられ、バックアップ性を更に高めている。ここで、上側バックアップ砂4uの砂粒子を100質量部とするとき、水分は1〜3質量部、無機粘結剤(ベントナイト)は0〜1質量部の配合比とすることができる。但し、これに限定されるものではない。
【0034】
なお、適当な時期に、上側模型5uは上側生砂鋳型2uから離型され、上側鋳造キャビティ20u(図4参照)が得られる。なお、上側模型5uは上側定盤50uと上側模型部51uとで形成されている。上側バックアップ砂4uの層の最小肉厚はpuで示される。
【0035】
図4に示すように、上側生砂鋳型装置1uが上側に、且つ、下側生砂鋳型装置1dが下側に組み付けられ、生砂鋳型装置1が形成される。この場合、下側生砂鋳型装置1dが上下反転される。上下反転時において、重力による下側バックアップ砂4dの落下は、支持定盤25dにより抑えられる。
【0036】
上側鋳造キャビティ20uおよび下側鋳造キャビティ20dが一体化されて鋳造キャビティ20が形成されている。図5に示すように、鋳鉄の溶湯Mが鋳造キャビティ20に注湯され、溶湯Mが凝固すれば、鋳鉄M1が形成される。ここで、下側バックアップ砂4dおよび上側バックアップ砂4uが粘結剤を基本的には含まないか、含んだとしても少ない。更に水分も生砂7よりも少ない。このため下側バックアップ砂4dおよび上側バックアップ砂4uのガス透過性は高められている。故に、注湯時において、鋳造キャビティ20のガスを放出させるガス抜け性が高められており、鋳鉄M1のガス欠陥の低減に貢献できる。更に、下側バックアップ砂4dおよび上側バックアップ砂4uの砂粒子のサイズが生砂7の砂粒子のサイズよりも大きいときには、ガス透過性は一層高められる。
【0037】
また、型ばらし工程において、鋳鉄M1を取り出すにあたり、図6に示すように、上側生砂鋳型装置1uを上下反転させることが好ましい。この場合、上側バックアップ砂4uは、焼き付いていない限り、重力により矢印D1方向に下降して除去される。更に図7に示すように、下側生砂鋳型装置1dの支持定盤25dを取り外せば、下側バックアップ砂4dは、焼き付いていない限り、重力により矢印D2方向に下降して除去される。ここで、下側バックアップ砂4dおよび上側バックアップ砂4uが粘結剤を基本的には含まないか、含んだとしても少ない。このため、下側バックアップ砂4dおよび上側バックアップ砂4uは、離型時において高い崩壊性および流動性をもち、型ばらし工程が容易となる。殊に、下側バックアップ砂4dおよび上側バックアップ砂4uは水分量が少なく、乾燥状態である場合には、高い崩壊性および流動性が得られ、型ばらし工程が一層容易となる。
【0038】
また、型ばらし工程において、下側生砂鋳型2dを下側バックアップ砂4dと共に崩壊させるときであっても、下側生砂鋳型2dは塊状化しているものの、下側バックアップ砂4dは高い流動性をもつため、振動を作用させれば、両者の分離は容易となる。上側生砂鋳型2uについても同様である。
【0039】
以上説明したように本実施形態によれば、下側鋳枠3d内に配置される下側生砂鋳型2dの肉厚は薄いものの、下側生砂鋳型2dは下側鋳枠3d内において下側バックアップ砂4dでバックアップされて補強されている。このため下側生砂鋳型2dの体積が少なくて済むため、下側生砂鋳型2dが使用する生砂7の使用量も少なくて済む。よって生砂7を混練させる混練コストが低減される。同様に、上側鋳枠3u内に配置される上側生砂鋳型2uの肉厚は薄いものの、上側生砂鋳型2uは上側鋳枠3u内において上側バックアップ砂4uでバックアップされて補強されている。このため上側生砂鋳型2uの体積が少なくて済むため、上側生砂鋳型2uが使用する生砂7の使用量も少なくて済む。よって生砂7を混練させる混練コストが低減される。高温の溶湯Mの熱影響を受けた生砂7を再生化させる再生処理も低減させる。
【0040】
本実施形態によれば、下側生砂鋳型2dを造型するとき、生砂7を加圧させるのは、肉厚が薄くされた下側生砂鋳型2dに相当する部分である。よって従来技術よりも加圧効率を高くできる。同様に、上側生砂鋳型2uを造型するとき、生砂7を加圧させるのは、肉厚が薄くされた上側生砂鋳型2uに相当する部分である。よって従来技術よりも加圧効率を高くできる。このため、下側生砂鋳型2dおよび上側生砂鋳型2uの加圧強度を高めることができ、下側生砂鋳型2dおよび上側生砂鋳型2uの密度を高めることができ、更には、下側生砂鋳型2dおよび上側生砂鋳型2uの寸法精度、鋳肌を改善させることができる。
【0041】
鋳造キャビティ20に溶湯を注湯したとき、溶湯圧で下側生砂鋳型2dおよび上側生砂鋳型2uが互いに離間する方向に変位しようする。この場合、下側バックアップ砂4dおよび上側バックアップ砂4uが変位に対して抵抗体として働くため、上記した変位は抑制され、鋳鉄の寸法精度が良好に維持される。
【0042】
本実施形態によれば、上側バックアップ砂4uの最小肉厚pu(図3参照),下側バックアップ砂4dの最小肉厚pd(図2参照)を大きくすれば、上側バックアップ砂4u、下側バックアップ砂4dの使用量が増加し、鋳造キャビティ20内の溶湯および鋳鉄の冷却速度(冷却時におけるA1変態点通過温度)を遅くすることを期待できる。また、最小肉厚pu,pdを薄くすれば、上側バックアップ砂4u、下側バックアップ砂4dの使用量が減少し、鋳造キャビティ20内の溶湯および鋳鉄の冷却速度を促進できる。なお、上側バックアップ砂4u、下側バックアップ砂4dは乾燥状態とすることができる。
【0043】
上記したように肉厚pu,肉厚pdを調整すれば、鋳鉄M1の金属組織(フェライト率,パーライト率)および黒鉛形態(黒鉛粒数,黒鉛サイズ)を調整することができる。なお、鋳造キャビティ20内の溶湯Mおよび鋳鉄M1の冷却速度(冷却時におけるA1変態点通過温度)が速いときには、フェライト率を減少させ,パーライト率を増加させる。更に、黒鉛粒数を増加させ、黒鉛サイズを小さくできる。これに対して溶湯Mおよび鋳鉄M1の冷却速度が遅いときには、フェライト率を増加させ,パーライト率を減少させる。更に、黒鉛粒数を減少させ、黒鉛サイズを大きくできる。
【0044】
(実施形態2)
図8は、生砂温度と有効粘結剤残存率との関係を表す試験結果を示す。有効粘結剤残存率とは、注湯後において有効な無機粘結剤が残存している割合を意味する。図8から理解できるように、有効粘結剤残存率を高めるためには、生砂温度を500℃以下、殊に400℃以下に維持することが好ましい。図9は、注湯開始時からの経過時間と鋳型砂温度との関係を表す試験結果を示す。溶湯接触面からの距離が5ミリメートル、10ミリメートル、20ミリメートル、40ミリメートルの場合について、鋳型砂温度を測定した。図9に示すように、経過時間に伴い鋳型砂温度は次第に上昇する。溶湯接触面からの距離が短い程、鋳型砂温度の昇温速度は速い。溶湯接触面からの距離が40ミリメートルであれば、当該距離の鋳型砂温度の昇温は100℃程度に抑えられる。
【0045】
ところで、注湯前において上側生砂鋳型2uおよび下側生砂鋳型2dは、水分を有する。このため鋳造キャビティ20に溶湯が注湯されると、上側生砂鋳型2uおよび下側生砂鋳型2dに含まれている水分は、鋳造キャビティ20内の溶湯および鋳鉄の熱により水蒸気化し、水蒸気は鋳造キャビティ20内の鋳鉄と反対側に蒸散しようとする。ここで、鋳型砂温度が100℃を超えると、水分は水蒸気化すると考えられる。鋳型砂温度が100℃付近であれば、気化した水蒸気が凝縮して水を形成し、凝縮水層200を上側生砂鋳型2uおよび下側生砂鋳型2dの内部に形成させる。ここで、上側生砂鋳型2uおよび下側生砂鋳型2dでは溶湯圧等により注湯時に亀裂が発生し、進展することがある。亀裂が大きく進展すると、鋳鉄の寸法精度が低下するおそれがある。
【0046】
そこで本実施形態によれば、図10に模式的に示すように、上側生砂鋳型2uの肉厚tuは、注湯時に発生する凝縮水層200を上側生砂鋳型2uの内部に形成できる肉厚に設定されている。同様に下側生砂鋳型2dの肉厚tdは、注湯時に発生する凝縮水層200を下側生砂鋳型2dの内部に形成できる肉厚に設定されている。
【0047】
従って、下側生砂鋳型2dおよび上側生砂鋳型2uに亀裂が発生したとしても、上記した凝縮水層200は、豊富な水分をもち鋳型剛性が低いため、亀裂のそれ以上の進展を抑えるという作用を有する。このため下側生砂鋳型2dおよび上側生砂鋳型2uが凝縮水層200を含み得る肉厚に設定されていれば、亀裂が発生したとしても、亀裂の進展を抑制させる効果が得られる。ここで凝縮水層200が形成されるのは、鋳型砂温度が90〜100℃の範囲と推定される。従って、上側生砂鋳型2uの肉厚tu、下側生砂鋳型2dの肉厚tdは、10〜40ミリメートル程度が好ましい。但しこれに限定されるものではない。この程度の肉厚であれば、亀裂進展を抑制できる効果を有する凝縮水層200を下側生砂鋳型2dの内部および上側生砂鋳型2uの内部に形成できる。なお下側バックアップ砂4dおよび上側バックアップ砂4uを構成する砂粒子の粒径は、ガス放出性を高めるため、生砂7を構成する砂粒子の粒径よりも大きいことが好ましい。
【0048】
(実施形態3)
本実施形態は実施形態1,2と基本的には同様の構成および作用効果を有する。但し、実施形態2とは異なり、上側生砂鋳型2uの肉厚tuは、注湯時に発生する凝縮水層200を上側生砂鋳型2uの内部に形成しないようなサイズに設定されている。同様に、下側生砂鋳型2dの肉厚tdは、注湯時に発生する凝縮水層200を下側生砂鋳型2dの内部に形成しないようなサイズに設定されている。前記した凝縮水層は上側バックアップ砂4u,下側バックアップ砂4dの内部に形成されることになる。注湯時において、上側バックアップ砂4uの水分含有量は少なく、上側バックアップ砂4uを100質量部とすると、水は2質量部以下、好ましくは1質量部以下とされている。このように上側バックアップ砂4uは乾燥している。下側バックアップ砂4dも同様である。このように乾燥度が高い上側バックアップ砂4uおよび下側バックアップ砂4dは、高いガス放出性を確保するばかりか、亀裂の進展を抑制させる作用を有する。
【0049】
(実施形態4)
図11および図12は実施形態4を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成および作用効果を有する。以下、実施形態1と異なる部分を中心として説明する。図11は、生砂7の集合体70に対面する下側加圧体6dを示す。下側加圧体6dは、互いに独立駆動できる複数の下側分割加圧体600dで形成されている。図11に示すように、下側分割加圧体600dのそれぞれは、下側ピストン60dと、下側ピストン60dをロッド61dを介して前進後退させる油圧または空圧式の下側シリンダ部62d(駆動源)とで形成されている。各下側分割加圧体600dは、互いに独立して駆動できるため、生砂7の集合体70を領域毎に圧縮させることができる。従って、下側生砂鋳型2dのうち、強度が特に要請される領域については、下側分割駆動体600dの下側ピストン60dの移動ストロークを大きくすれば良い。
【0050】
これに対して、強度があまり要請されない領域については、下側分割駆動体600dの下側ピストン60dの移動ストロークを小さくすれば良い。ここで、各下側シリンダ部62dは、共通基部620dに保持されているため、共通基部620dが下側鋳枠3dに対して接近すれば、各下側シリンダ部62dは各下側ピストン60dと共に下側鋳枠3dに対して接近できる。
【0051】
図12は、生砂7の集合体70に対面する上側加圧体6uを示す。上側加圧体6uは、互いに独立駆動できる複数の上側分割加圧体600uで形成されている。上側分割加圧体600uのそれぞれは、上側ピストン60uと、上側ピストン60uをロッド61uを介して前進後退させる油圧または空圧式の上側シリンダ部62u(駆動源)とで形成されている。各上側分割加圧体600uは、互いに独立して駆動できるため、生砂7の集合体70を個別に圧縮させることができる。従って、上側生砂鋳型2uのうち、強度が特に要請される領域については、上側ピストン60uの移動ストロークを大きくすれば良い。
【0052】
これに対して、強度があまり要請されない領域については、上側ピストン60uの移動ストロークを小さくすれば良い。ここで、各上側シリンダ部62uは、共通基部620uに保持されているため、共通基部620uが上側鋳枠3uに対して接近すれば、各上側シリンダ部62uは各上側ピストン60uと共に上側鋳枠3uに対して接近できる。
【0053】
(実施形態5)
本実施形態は実施形態1〜4と基本的には同様の構成および同様の作用効果を有するため、図1〜図12を準用する。以下、実施形態1〜4と異なる部分を中心として説明する。図13は、鋳造キャビティ20に溶湯を注湯して凝固させ更に冷却させる過程の温度変化を示す。図13に示すように、注湯後の鋳鉄の温度は次第に低下していく。ここで、下側バックアップ砂4dおよび上側バックアップ砂4uにおける水分量を調整すれば、鋳造キャビティ20内の溶湯および鋳鉄の冷却速度(A1変態点通過温度)を調整することができる。水が水蒸気化するときの潜熱は大きいためである。
【0054】
鋳鉄組織におけるフェライト率を高めるためには、鋳鉄の冷却速度を緩和させることが好ましい。そこで下側バックアップ砂4dおよび上側バックアップ砂4uにおける水分量を相対的に減少させることが好ましい。例えば、生砂7の水分量よりも減少させて乾燥状態とし、保温性を高めることができる。これに対して、鋳鉄組織におけるパーライト率を高めるためには、鋳鉄の冷却速度を速めることが好ましい。そこで下側バックアップ砂4dおよび上側バックアップ砂4uにおける水分量を相対的に増加させることが好ましい。例えば生砂7の水分量よりも増加させ、水の気化熱で溶湯および鋳鉄の冷却速度を速めることもできる。
【0055】
このため本実施形態によれば、下側生砂鋳型2dおよび上側生砂鋳型2uの造型性を確保しつつ、下側バックアップ砂4dおよび上側バックアップ砂4uにおける水分量を調整することにより、鋳鉄組織のフェライト率および/またはパーライト率を調整することができる。単位面積あたりの黒鉛の粒数および/またはサイズを調整することができる。一般的には、フェライト率が増加すると、鋳鉄の延性は向上し、パーライト率が増加すると、鋳鉄の強度は増加する。一般的には、黒鉛のサイズが小さくなると、鋳鉄の強度は増加し、黒鉛のサイズが大きくなると、鋳鉄の振動減衰能は増加する。
【0056】
本実施形態によれば、下側バックアップ砂4dの水分量を調整したとしても、基本的には、下側生砂鋳型3dそれ自体の強度には影響を与えない。更に下側バックアップ砂4dによるバックアップ能力にも、基本的には影響を与えない。同様に、上側バックアップ砂4uについても同様である。このため下側バックアップ砂4dおよび上側バックアップ砂4uにおける水分調整を乾燥状態から湿潤状態へと広くでき、鋳鉄の組織調整、黒鉛調整の幅を広くできる。
【0057】
本実施形態によれば、下側バックアップ砂4dおよび上側バックアップ砂4uにおける水分が鋳鉄の冷却速度に影響を与える敏感性を高めることが好ましい。従って下側生砂鋳型2dの肉厚td、上側生砂鋳型2uの肉厚tuとしては、50ミリメートル以下、40ミリメートル以下、30ミリメートル以下、20ミリメートル以下と薄肉化することができる。但しこれに限定されるものではない。
【0058】
(実施形態6)
本実施形態は実施形態1〜4と基本的には同様の構成および同様の作用効果を有するため、図1〜図12を準用する。以下、実施形態1および2と異なる部分を中心として説明する。前述したように注湯後の鋳鉄の温度は次第に低下していく。下側バックアップ砂4dおよび上側バックアップ砂4uにおける水分量を調整すれば、鋳鉄の冷却速度を調整することができる。水が水蒸気化するときの潜熱は大きいためである。
【0059】
球状黒鉛鋳鉄の場合には、鋳鉄組織における単位面積あたりの黒鉛数を減少させるためには、鋳鉄の冷却速度を緩和させることが好ましい。そこで下側バックアップ砂4dおよび上側バックアップ砂4uにおける水分量を相対的に減少させることが好ましい。鋳鉄組織における単位面積あたりの黒鉛数を増加させるためには、鋳鉄の冷却速度を速めることが好ましい。そこで下側バックアップ砂4dおよび上側バックアップ砂4uにおける水分量を相対的に増加させることができる。このため、下側生砂鋳型2dおよび上側生砂鋳型2uの造型性を確保しつつ、下側バックアップ砂4dおよび上側バックアップ砂4uにおける水分量を調整することにより、鋳鉄組織の単位面積あたりの黒鉛数を調整することができる。一般的には、黒鉛数が増加すると、黒鉛サイズは小さくなる。黒鉛数が減少すると、黒鉛サイズは大きくなる。下側バックアップ砂4dおよび上側バックアップ砂4uにおける水分が鋳鉄の冷却速度に影響を与える敏感性を高めることができる。従って下側生砂鋳型2dの肉厚td、上側生砂鋳型2uの肉厚tuとしては50ミリメートル以下、40ミリメートル以下、30ミリメートル以下と薄肉化することができる。但しこれに限定されるものではない。
【0060】
本実施形態によれば、前述同様に、下側バックアップ砂4dの水分量を調整したとしても、基本的には、下側生砂鋳型3dそれ自体の強度には影響を与えない。同様に、上側バックアップ砂4uの水分量を調整したとしても、基本的には、上側生砂鋳型3uそれ自体の強度には影響を与えない。このため下側バックアップ砂4dおよび上側バックアップ砂4uにおける水分調整の幅を広くでき、組織調整、黒鉛調整の幅を広くできる。
【0061】
(実施形態7)
図14は実施形態7を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成および同様の作用効果を有する。実施形態1と異なる部分を中心として説明する。先ず、前記した各実施形態と同様に、下側生砂鋳型2dを下側鋳枠3d内で形成する。その後、重力または遠心インペラーにより下側バックアップ砂4dを装入させる。その後、下側鋳枠3dの開口302に下側定盤25dが嵌められ、支持定盤25dが下側バックアップ砂4dの上に載せられる。この状態で、下側加圧体6d(他の加圧体でも良い)により、下側バックアップ砂4dを下側生砂鋳型2dの肉厚方向において加圧させる。加圧の前に、あるいは、加圧と共に、下側鋳枠3dを振動させて下側バックアップ砂4dを振動させ、ひいては下側バックアップ砂4dの装填率を高めることが好ましい。
【0062】
加圧時において、図14に示すように、下側生砂鋳型2dに対面するように下側模型部51dが存在している。このため、下側生砂鋳型2dのプロフィール形状が崩壊せずに良好に維持される。このような本実施形態によれば、下側バックアップ砂4dの装填密度を高めることができ、補強効果を一層高めることができる。従って、下側生砂鋳型2dの肉厚の薄型化、下側バックアップ砂4dの使用量を低減させるのに貢献できる。更には、下側バックアップ砂4dを加圧させる加圧力の調整により、下側バックアップ砂4dの装填密度を調整でき、ひいては下側バックアップ砂4dのガス抜け性を調整することもできる。なお、上側生砂鋳型2uも同様な手順で形成される。
【0063】
(実施形態8)
図15および図16は実施形態8を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成および同様の作用効果を有する。実施形態1と異なる部分を中心として説明する。生砂7Wは、熱硬化可能な熱硬化性樹脂、無機粘結剤(ベントナイト)および水を含む。例えば、生砂7Wを100質量部とするとき、熱硬化性樹脂は0.01〜20質量部、無機粘結剤は5〜10質量部、水は3〜30質量部配合されている。熱硬化性樹脂はフェノール樹脂またはエポキシ樹脂が例示される。フェノール樹脂はレゾール型でも良いし、ノボラック型でも良い。
【0064】
マイクロ波照射装置200内において、マイクロ波215を照射する前に、生砂7Wを下側加圧体6dで加圧成形して下側生砂鋳型2dを下側鋳枠3d内で成形する。その後、この下側生砂鋳型2dにマイクロ波照射装置200のマイクロ波照射器210からマイクロ波215を所定時間(例えば5秒〜600秒)照射する。この結果、下側生砂鋳型2dの表面層に含まれている水分がマイクロ波215の照射により加熱されて高温となる。このため、下側生砂鋳型2dの表面層に含まれている熱硬化性樹脂が熱硬化する。これにより表面硬化層20mをもつ下側生砂鋳型2dを形成する。
【0065】
ここで、マイクロ波は、通常、波長で100cm〜0.3mm、30cm〜0.3mm、周波数で0.3GHz〜1THz、1GHz〜1THz(1000GHz)の範囲の電波が好ましい。マイクロ波の波長としては、水を誘電加熱できる波長であれば良い。その後、図16に示すように、下側生砂鋳型2dの背向面202側に下側バックアップ砂4dを装填し、下側生砂鋳型装置1dを製造できる。図示はしないものの、上側生砂鋳型装置1uも同様に形成できる。
【0066】
なお、マイクロ波照射装置200の外部において下側生砂鋳型2dを成形した後、下側生砂鋳型2dをマイクロ波照射装置200の内部に収容し、マイクロ波215を照射することにしても良い。
【0067】
上記した下側鋳枠3dおよび下側模型5dは、マイクロ波を透過できる材料、例えば、木材、ガラス材、セラミックス材、樹脂材で形成できる。殊に木材が好ましい。マイクロ波が照射された下側生砂鋳型2dは表面硬化層20mをもつため、強化されている。従って下側生砂鋳型2dを薄肉化でき、生砂7Wの使用量を節約できる。上側生砂鋳型も同様な手順で形成できる。
【0068】
(実施形態9)
本実施形態は上記した実施形態1〜8と基本的には同様の構成および同様の作用効果を有する。但し、下側バックアップ砂4dおよび上側バックアップ砂4uの砂粒子の粒径(平均粒径)は、生砂7,7Wを構成する砂粒子の粒径(平均粒径)よりも小さくされている。このため下側バックアップ砂4dおよび上側バックアップ砂4uのガス放出性は低下するものの、装填密度が高まり、バックアップ性能を高めて補強効果を高めることができる。
【0069】
(実施形態10)
本実施形態は上記した実施形態1〜8と基本的には同様の構成および同様の作用効果を有する。但し、下側バックアップ砂4dおよび上側バックアップ砂4uの砂粒子の粒径(平均粒径)は、生砂7,7Wを構成する砂粒子の粒径(平均粒径)と同程度とされている。
【0070】
(その他)
本発明は上記した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。各実施形態はあくまでも例示であるため、ある実施形態に特有の構成を他の実施形態に併有させても良い。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は例えば片状黒鉛鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄、芋虫状黒鉛鋳鉄、共晶黒鉛鋳鉄、合金鋳鉄等の鋳鉄を製造する場合に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】下側生砂鋳型装置を製造する過程を示す断面図である。
【図2】下側生砂鋳型装置を示す断面図である。
【図3】上側生砂鋳型装置を示す断面図である。
【図4】上側生砂鋳型装置と下側生砂鋳型装置とを組み付けた生砂鋳型装置を示す断面図である。
【図5】生砂鋳型装置の鋳造キャビティで鋳鉄を成型している状態を示す断面図である。
【図6】上側生砂鋳型装置を上下反転させて上側バックアップ砂を排出させている状態を示す断面図である。
【図7】下側生砂鋳型装置から下側バックアップ砂を排出させている状態を示す断面図である。
【図8】生砂温度と有効粘結剤残存率との関係を示すグラフである。
【図9】経過時間と鋳型砂温との関係を示すグラフである。
【図10】凝縮水層を示す断面図である。
【図11】実施形態4に係り、下側生砂鋳型装置を製造する過程を示す断面図である。
【図12】実施形態4に係り、上側生砂鋳型装置を製造する過程を示す断面図である。
【図13】実施形態5に係り、鋳造キャビティ内の鋳鉄の冷却温度を示すグラフである。
【図14】実施形態7に係り、下側生砂鋳型装置を製造する過程を示す断面図である。
【図15】実施形態8に係り、下側生砂鋳型装置を製造する過程を示す断面図である。
【図16】実施形態8に係り、下側生砂鋳型装置を示す断面図である。
【符号の説明】
【0073】
1dは下側生砂鋳型装置、1uは上側生砂鋳型装置、2dは下側生砂鋳型、2uは上側生砂鋳型、3dは下側鋳枠、3uは上側鋳枠、4dは下側バックアップ砂(バックアップ材)、4uは上側バックアップ砂(バックアップ材)、5dは下側模型、5uは上側模型を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)無機粘結剤を含む生砂の集合体を加圧して形成され且つ表面に鋳造キャビティを有する生砂鋳型と、
(ii)前記生砂鋳型を収容する鋳枠と、
(iii)前記鋳枠内の空間のうち前記生砂鋳型の前記表面に背向する背向面側の空間部分に配置され、前記鋳枠内の前記生砂鋳型の前記背向面側をバックアップすると共に、前記無機粘結剤を含まないかあるいは前記無機粘結剤が前記生砂における前記無機粘結剤の配合比の1/5以下とされたバックアップ材とを具備することを特徴とする生砂鋳型装置。
【請求項2】
請求項1において、前記バックアップ材は粒子の集合体であり、水を粘結剤として含むことを特徴とする生砂鋳型装置。
【請求項3】
請求項1または2において、前記バックアップ材を構成する粒子の粒径は、前記生砂鋳型を構成する砂粒子の粒径よりも大きいことを特徴とする生砂鋳型装置。
【請求項4】
請求項1〜3のうちの一項において、前記生砂鋳型は、注湯時に発生する水蒸気が凝縮して形成される凝縮水層を前記生砂鋳型の内部に形成する肉厚に設定されていることを特徴とする生砂鋳型装置。
【請求項5】
請求項1〜3のうちの一項において、前記生砂鋳型は、注湯時に発生する水蒸気が凝縮して形成される凝縮水層を前記生砂鋳型の内部に形成しないで前記バックアップ材の内部に形成する肉厚に設定されていることを特徴とする生砂鋳型装置。
【請求項6】
(i)無機粘結剤を含む生砂と、前記無機粘結剤を含まないかあるいは前記無機粘結剤が前記生砂における前記無機粘結剤の配合比の1/5以下とされたバックアップ材とを準備する工程と、
(ii)鋳造キャビティを形成するための模型を鋳枠内に配置した状態で、前記生砂の集合体を前記鋳枠の空間内に装填する装填工程と、
(iii)その後、前記模型と前記生砂の集合体とを対面させた状態で、前記模型に背向する側から前記鋳枠内の前記生砂の集合体を加圧体で加圧して圧縮させることにより、前記鋳枠内に前記生砂鋳型を造型する造型工程と、
(iv)その後、前記鋳枠内において前記生砂鋳型のうち前記模型に背向する側に、前記バックアップ材を装入することにより、前記生砂鋳型のうち前記模型または前記鋳造キャビティと背向する側を補強する補強工程とを含むことを特徴とする生砂鋳型造型方法。
【請求項7】
請求項6において、前記加圧体は、互いに独立して駆動可能な複数個の分割加圧体に分割されていることを特徴とする生砂鋳型造型方法。
【請求項8】
請求項6または7において、前記バックアップ材の水分量は、前記生砂鋳型で形成される鋳鉄の組織および/または黒鉛に応じて調整されていることを特徴とする生砂鋳型造型方法。
【請求項9】
請求項6〜8のうちの一項において、前記補強工程では、前記生砂鋳型および前記模型が対面している状態で、前記バックアップ材に加圧力および/または振動を加えて前記バックアップ材の装填率を高めることを特徴とする生砂鋳型造型方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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