説明

生薬からなる抗菌性の医薬組成物、抗菌性の医薬製剤

【課題】 優れた抗菌作用を発揮しつつ、副作用が少なく、安全性の高い、複数の生薬からなる医薬組成物及び医薬製剤を提供することを目的とする。
【解決手段】 オウバクエキス、ゲンノショウコ末、センブリ末、及びコウボク末を300〜350:50〜150:5〜15:100〜150の比で含有する、抗菌性の医薬組成物及びその医薬組成物を含有する抗菌性の医薬製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の生薬からなる抗菌性の医薬組成物、抗菌性の医薬製剤に関する。より詳細には、オウバク、ゲンノショウコ、センブリ、及びコウボクを含有する組成物を含有する抗菌性の組成物、及び抗菌性の医薬製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、癌による死亡率が増加しているが、日本では欧米に比べて胃癌の発生率が高いことが知られている。これは、食生活の違いもさることながら、Helicobacter pylori(ヘリコバクター・ピロリ)の感染率の高さと関連するといわれている。
【0003】
ヘリコバクター・ピロリの感染経路は、家族内での垂直感染といわれている。そして、年齢の上昇につれて感染率も上昇し、40歳以上では約75%がヘリコバクター・ピロリに感染しているといわれている。
【0004】
胃の中は、胃酸によってpH1〜2と非常に強い酸性に保たれているため、本来、通常の菌は生存することができない。しかし、ヘリコバクター・ピロリは、胃の中で生存している。これは、ウレアーゼの分泌によって胃の中にある尿素をアンモニアに変換し、胃酸を中和し、ヘリコバクター・ピロリの周囲のpHを上げることによって生存できる環境を作り上げていることによる。
【0005】
そして、ヘリコバクター・ピロリが分泌するウレアーゼは胃の組織に障害を与えるが、それ以外にも、熱ショックタンパク(heat shock protein、HSP)、空砲化毒素、ムチナーゼ、プロテアーゼ等を有することが知られており、これらが複雑に絡み合って、癌以外にも、胃潰瘍、胃MALTリンパ腫(悪性度の低い胃悪性リンパ腫)、胃過形成性ポリープ(よくある良性のポリープ)、Non-Ulcer Dyspepsia(NUD)、胃食道逆流症(GERD)、特発性血小板減少症(ITP)、慢性蕁麻疹、小児の鉄欠乏性貧血、虚血性心疾患、偏頭痛、ギランバレー症候群等とも関連があるといわれている。
【0006】
ところで、胃潰瘍の患者におけるヘリコバクター・ピロリの感染率は、健常人に比べて高いことが知られている。潰瘍は、一旦は症状が改善されても、必ずといってよいほど再発するため、薬の服用を止めることが難しい。ところが、近年、ヘリコバクター・ピロリの除菌を行うと潰瘍の再発率が有意に低下し、特に、十二指腸潰瘍で顕著に低下することが明らかになった。
【0007】
また、胃MALTリンパ腫においても、ヘリコバクター・ピロリの除菌治療を行うと、約70%の患者に改善が見られ、予後も極めて良好である。胃MALTリンパ腫以外の胃癌でも、早期胃癌に対する内視鏡的粘膜切除術後のがん発生が、除菌により抑制されることが報告されている。
【0008】
さらに、ヘリコバクター・ピロリは、慢性胃炎、特に萎縮性胃炎の重要な原因であることも証明されている。また、胃過形成性ポリープでは、除菌治療により約70%のポリープが消失した例も知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような疾患の治療効果を高めるためにヘリコバクター・ピロリの除菌を行う場合には、一般的には、潰瘍治療薬であるプロトンポンプインヒビター(PPI)にアモキシシリンとクラリスロマイシンを同時に用いた3剤併用療法が採用されている(除菌率は約80%)。この治療法では、ランソプラゾール30mg(又はラベプラゾール10mg)+アモキシシリン750mg+クラリスロマイシン200mg(400mgまで増量可能)という3剤の組合せか、又はオメプラゾール20mg+アモキシシリン750mg+クラリスロマイシン400mgという3剤の組み合わせを使用し、1日2回(朝夕の食後)に1週間の経口投与が行われる。
【0010】
こうした抗菌剤(抗菌抗生物質)を用いた治療では、下痢、腹痛、味覚異常、舌炎、口内炎、アレルギー(湿疹)等の副作用が起こることもあり、また、最近では、耐性菌の出現による除菌率の低下が問題になってきている。具体的には、クラリスロマイシン耐性菌が、10〜15%の頻度で出現しており、特に、除菌に失敗した例では半数以上に耐性菌が出現すると言われている。アモキシシリンには、現在のところ耐性菌が出現したことは報告されていないが、今後の見通しは不透明である。
【0011】
したがって、副作用を極力抑制しつつ除菌が可能であり、かつ、耐性菌を出現させることがない抗菌剤に対する強い要請がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記のような状況の下で完成されたものである。すなわち、本発明の発明者らは、抗菌活性の高さと安全性とに留意しつつ、古くから使用されてきた生薬を中心として、スクリーニングを進めた結果、ヘリコバクター・ピロリに対する抗菌活性を有する組成物を見出し、本発明を完成したものである。
【0013】
本発明は、オウバクエキス、ゲンノショウコ末、センブリ末、及びコウボク末を300〜350:50〜150:5〜15:100〜150の比で含有する、抗菌性の医薬組成物である。そして、これらの各生薬を320:100:7:140の比で含有するものであることが好ましい。
【0014】
本発明の抗菌性の医薬組成物は、ヘリコバクター・ピロリに対して抗菌活性を有するものである。
【0015】
本発明はまた、オウバクエキス、ゲンノショウコ末、センブリ末、及びコウボク末を有効成分とし、これらを300〜350:50〜150:5〜15:100〜150の比で含有する抗菌剤である。そして、これらの各生薬を320:100:7:140の比で含有する抗菌剤であることが好ましい。本発明の抗菌剤は、ヘリコバクター・ピロリに対して、抗菌活性を有するものである。
【0016】
本発明はさらにまた、上述した抗菌性の医薬組成物を有効成分とする、ヘリコバクター・ピロリの除菌用医薬製剤である。
【0017】
本発明の抗菌性の医薬組成物及び医薬製剤で使用するオウバクエキス、ゲンノショウコ末、センブリ末、及びコウボク末は、いずれも古くから民間薬としても使用されている生薬である。
【0018】
オウバクは、ミカン科の落葉高木であるキハダ(Phellodendron amurense)の樹皮から得られる生薬であり、アルカロイドであるベルベリン、パルマチン、マグノフロリンや苦味トリテルペノイドであるオーバクノン、リモニン等が含有されている。ベルベリンやオウバクエキスには、抗炎症、中枢抑制、高圧、健胃作用等が知られている。漢方では、下痢、糖尿病、黄疸、膀胱炎、痔、帯下、肺結核、湿疹、腫れ物等に使用される。
【0019】
玄草という別名を持つゲンノショウコは、フウロソウ科の多年草であるゲンノショウコ(Geranium thunbergii)の全草を用いる生薬であり、イシャイラズ又はイシャナカセという別名を有する。葉には大量のタンニンが含まれ、その2/3はゲラニインである。健胃・整腸・止寫作用があり、あらゆる下痢に応用される。胃・十二指腸潰瘍には、決明子と配合して用いられる。
【0020】
センブリは、当薬の別名である。リンドウ科の1〜2年草であるセンブリ(Swertia japonica)の全草を用いる。一般には、開花期に採取する。苦味成分として、スウェルチアマリン、スエロサイド、ゲンチオピクロサイド等の配糖体が含まれ、スウェルチアマリンには、胆汁、膵液、唾液等の分泌を促進する作用がある。明治25年には竜胆の代用品として日本薬局方に収載され、胃痛、消化不良、食欲不振の治療に応用されている。
【0021】
コウボクは、ホウノキ(M. obovata)の樹皮が用いられる。アルカロイドのマグノクラリン、マグノフロリン、リグナン類のマグノロール、ホオノキオール、精油成分のオイデスモール等が含まれ、コウボクエキスには、鎮痛、抗痙攣、筋弛緩、クラーレ様作用等が報告されている。漢方では、腹部膨満感、消化不良、嘔吐、悪心、下痢、喘息、咳嗽等の消化器疾患や呼吸器疾患に応用されている。
【0022】
以上のような、古くから使用されている生薬を一定の比率で配合することにより、特定の菌に対して優れた抗菌作用を発揮させることが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、優れた抗菌作用を発揮しつつ、副作用が少なく、安全性の高い、複数の生薬からなる医薬組成物及び医薬製剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明は、上述したオウバクエキス、ゲンノショウコ末、センブリ末、及びコウボク末を、300〜350:50〜150:5〜15:100〜150の比で含有する、抗菌性の医薬組成物である。これらの生薬の含有比を320:100:7:140の比とすることにより、ヘリコバクター・ピロリ及び黄色ブドウ球菌に対する高い抗菌活性を発揮させることが可能となる。
【0025】
本発明はまた、上述したオウバクエキス、ゲンノショウコ末、センブリ末、及びコウボク末を、300〜350:50〜150:5〜15:100〜150の比で含有する、抗菌剤である。そして、この医薬製剤は、これらの生薬の含有比を320:100:7:140の比とすることにより、ヘリコバクター・ピロリ及び黄色ブドウ球菌に対する高い抗菌活性を発揮させることが可能となる。
【0026】
本発明の医薬製剤は、錠剤、丸剤その他の固形剤として経口投与できる剤形とすることが好ましく、粒径は特に限定されない。粒径を小さくしておけば、服用者の身長、体重等の身体的条件に合わせて、1回当たりに服用する料を容易に調節することができる。
【0027】
錠剤や丸剤とする場合には、必要に応じて製剤の表面を、糖、金等でコーティングしてもよい。また、錠剤や丸剤とする前の粉状の組成物を、市販のカプセルに充填し、カプセル剤等としてもよい。
【0028】
本発明で使用するオウバクエキス、ゲンノショウコ末、センブリ末及びコウボク末は、市販されているオウバク、ゲンノショウコ、センブリ、コウボクを購入し、所望の溶媒で抽出して使用することができる。オウバク以外は、溶媒抽出後に、必要に応じて乾燥し、粉末として使用する。
【0029】
以下、オウバクエキスとゲンノショウコの調製を例に取って説明する。まず、オウバクエキスの調製について説明する。
【0030】
オウバクエキスの調製には、上述したキハダの樹皮の外層のコルク層を除いて平板状に乾燥した市販品を使用してもよい。まず、オウバク30gを秤量し、はさみで細切りして蓋付きの容器に入れ、ここに熱水200mLを加えて室温にて7時間振盪し、水抽出エキスを得る。
【0031】
市販のゲンノショウコ7gを秤量し、はさみで細切りして蓋付きの容器に入れ、ここに水100mLを加えて室温にて24時間振盪し、水抽出エキスを得ることができる。得られた抽出液をロータリーエバポレータを用いて濃縮し、最終的に濃縮エキスとする。センブリ末及びコウボク末も、ゲンノショウコ末と同様にして調製する。
【0032】
また、オウバクエキスを除いてこれらの抽出液を乾燥させて粉末とし、オウバクエキス、ゲンノショウコ末、センブリ末、及びコウボク末を、300〜350:50〜150:5〜15:100〜150の比となるように混合し、練り合わせて組成物を調製する。
【0033】
この組成物を製丸機(岩黒製作所)にかけて直径約3〜4mmの丸剤とする。
【0034】
または、公知の製剤学的製法に従い、製剤の製造に際して薬理学的に許容され得る日本薬局方に記載の担体、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤等を用いて製剤を製造することができる。
【0035】
こうした担体や賦形剤としては、例えば、乳糖、ブドウ糖、白糖、マンニトール、馬鈴薯デンプン、トウモロコシデンプン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、結晶セルロース末等を挙げることができる。
【0036】
結合剤としては、例えば、デンプン、トラガントゴム、ゼラチン、シロップ、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等を挙げることができる。
【0037】
練り合わせて組成物を調製した後にこれを乾燥させて粉末とし、市販のカプセルに適当量充填することにより、カプセル剤としてもよい。
【0038】
また、または、練り合わせる際に所望量の結合剤、適宜、上述した結合剤を加えて打錠し、錠剤とすることもできる。錠剤とした後に、上述した白糖又はゼラチン等のコーティング剤を用いて、糖衣錠としてもよい。
【0039】
上述したような抗菌性の医薬製剤を患者に投与する場合には、投与量は、患者の症状の重篤さ、年齢、体重、及び健康状態等の諸条件によって異なる。一般的には、成人1日当たり1mg/kg〜800mg/kg、好ましくは1mg/kg〜500mg/kg程度を、経口的に、1日1回若しくはそれ以上の回数にわたって投与する。上記のような諸条件に応じて、投与の回数及び量を適宜増減すればよい。
【0040】
上記の投与量の範囲内で投与することにより、ヘリコバクター・ピロリや黄色ブドウ球菌等の菌に対する十分な抗菌効果が発揮される。また、本製剤は複数の生薬の抽出物を含有する組成物であるから、上記のような菌に耐性が生じにくいという大きな利点がある。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明について、実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)Helicobacter pylori(ヘリコバクター・ピロリ)の培養条件の検討
(1−1)試薬等
百草丸60粒中には、オウバクエキス1,600mg、ゲンノショウコ末500mg、ビャクジュツ500mg、センブリ末35mg、コウボク末700mg末が含まれている。このため、オウバク、ビャクジュツ、センブリ、ゲンノショウコを、日本粉末薬品(株)より粉末として入手した。また、これらの生薬中、コウボクの主要成分といわれているマグノロール、センブリの主要成分といわれているスウェルチアマリンを和光純薬(株)より入手し使用した。百草丸は、長野県製薬(株)より供与を受けた。
8mmのディスク(アドバンテック社製)を、阻止円の形成確認用に使用した。
【0043】
Helicobacter pylori (IID3023株)は、日本細菌学会より供与を受けた。微好気性ガスパックは三菱ガス化学(株)より、購入した。
馬血清及びウシ胎児血清(FBS)は、日本ベクトンディッキンソン(株)より購入した。
ハートインフュージョン培地、コロンビアHP寒天培地は、ブレインハートインフュージョン培地、ミューラーヒントン培地、LB培地は、日本ベクトンディッキンソン(株)より購入した。
【0044】
(1−2)培養方法の検討
従来法による寒天培地での培養では、二枚のシャーレを微好気性ガスパックとともにパウチ袋に入れて行っていたが、湿潤環境が保たれないためか、うまく増殖しないことがあった。
【0045】
このため、密封角形ケースに少量の水を入れ、微好気性ガスパックを用いて微好気性条件で培養する方法に変更したところ、安定した増殖が確認された。なお、デシケータを用いた古典的なロウソク培養法によっても、安定な増殖が観察された。
【0046】
Helicobacter pyloriは、10%ウマ血清含有ハートインフュージョン培地(HI+HS)中で凍結保存した。この凍結塊をコロンビアHP寒天培地上にとり、白金耳で塗り広げて、微好気性条件下、37℃で3日間培養すると、コロニーが形成された。
【0047】
このコロニーが形成された寒天培地上に10%ウマ血清含有ブレインハートインフュージョン液体培地(BHI+HS)を3mL加え、コンラージ棒でコロニーを掻きとって5mLの菌液を調製した。
【0048】
調製した菌液100μL又は50μLを取って、コロンビアHP寒天培地に塗布した。さらに、この菌液30μLを3mLのHI+FBSで、37℃にて3日間培養し、その培養液0.1mLをとってコロンビアHP寒天培地に塗布したところ、菌がプレート表面全体に広がってコロニーが形成されない状態の増殖が見られた。
【0049】
また、この3日間培養後の菌液を4℃で一晩保存した後に0.1mLをとってコロンビアHP寒天培地に塗布した場合には、100個程度のコロニーが形成された。
【0050】
Helicobacter pyloriは、好気条件や環境の変化によってコッコイド形態に変化すると培養不可能となることが知られている。上記の結果から、できる限り、植え継ぎは行わず、使用の毎に凍結保存液から起こした方がよいことが示された。
【0051】
(1−3)生薬成分の抗菌作用の予備検討
オウバク、ビャクジュツ、センブリ、ゲンノショウコ及び百草丸は、それぞれ81.92mg/mLとなるように調製して、抽出液の試料とした。また、マグノロール及びスウェルチアマリンは、メタノールを用いて10mg/mLとなるように溶解し、標準試料として使用した。
【0052】
Helicobacter pylori塗布プレートは、上記の10%ウマ血清含有ブレインハートインフュージョン液体培地(BHI+HS)を3mL加え、コンラージ棒でコロニーを掻きとった菌液を50μL又は100μL塗布して作製した。
【0053】
これらの試料を、それぞれ、8mmディスクに50μLずつ含浸させ、上記のHelicobacter pylori塗布プレート上に、3枚ずつ置いた。
37℃で、3日間、微好気性条件下で培養し、阻止円の大きさを測定し、抗菌性の指標とした。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示すように、ゲンノショウコ、センブリ、オウバク、マグノロールに阻止円の形成が見られた。ついで、これらの試料について、2倍、5倍、10倍の各希釈液を調製し、同様の条件下で、阻止円の形成を観察した。結果を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
表2に示す結果より、各試料で9mmの阻止円が形成される濃度を決定した。また、コウボクの成分であるマグノロールで阻止円が形成されたため、コウボクエキスについても、抗菌作用を検討することとした。
【0058】
(実施例2)抗菌作用の検討
(2−1)試薬等
上記実施例1で検討した培養条件の下、オウバクとその主成分であるベルベリン、コウボク及びその主成分であるマグノロール、センブリ及びその主成分であるスウェルチアマリン、百草丸、ゲンノショウコについて、阻止円の形成を観察した。
試薬等については、上記実施例(1−1)と同様のものを使用した。また、Helicobacter pylori以外の菌として、Stapyrococcus aureus H209P(黄色ブドウ球菌)及びEscherichia coli(大腸菌)は、日本細菌学会より供与を受けた。
【0059】
これらの凍結塊をコロンビアHP寒天培地(以下、「BD」という)上に取り、白金耳で塗り広げて、微好気性条件下、37℃にて3日間培養した。この寒天培地上に、10%FBSを添加したブレインハートインフュージョン培地を加え、コンラージ棒でコロニーを掻きとって、5mLの菌の懸濁液を得た。
【0060】
これらの菌の懸濁液の濁度(OD600)を濁度計(バクトモニター)を用いて測定した。次いで、この溶液0.1mLをとって、10−5希釈液及び10−6希釈液を調製し、BD上に播いて、微好気性条件下、37℃にて3日間培養し、コロニー数をカウントして培養曲線から菌数を求め、cell濃度が10であることを確認した。
プレートは、LB培地で前培養した、E. coli又はS. aureusの10cellをミューラーヒントン培地上に塗布し、対照用プレートを作製した。
【0061】
(2−2)試料
オウバク、コウボク、センブリ、ゲンノショウコないずれも水で抽出した。オウバクは水分含量8.8%エキス(ベルベリン濃度2.4mg/mL)、コウボクは水分含量10%エキス(マグノロール濃度0.017mg/mL)、センブリは水分含量66.1%エキス(スウェルチアマリン濃度0.25mg/mL)、ゲンノショウコは水分含量66.5%エキスを、それぞれ調製した。百草丸は、メタノールで抽出して溶媒含量74.4%エキス(ベルベリン濃度4.2mg/mL)を調製した。
【0062】
これら各エキスをそれぞれ50μLずつとり、表3に示す終濃度となるように上記のディスクに含浸させた。上記のようにして作製したプレート上に上記の試料を含浸させたディスクを置いて、阻止円の形成を観察した。結果を表3に示す。
【0063】
【表3】

NT: 試験せず
【0064】
表3に示すように、(E. coli)大腸菌に対しては、センブリ以外は抗菌性を示さなかった。一方、S. aureus及びH. pyroliに対しては、試験したほぼすべての試料で抗菌活性が認められた。
【0065】
(実施例3)
対照薬剤として、マクロライド系抗生物質であるクラリスロマイシンを和光純薬工業(株)より購入し、エタノールに溶解して2mg/mLの溶液を調製し、これを使用した。クラリスロマイシンは、ブドウ球菌属、レンサ球菌属等の好気性グラム陽性菌、ブランハメラ・カタラリス、インフルエンザ菌、百日咳菌、カンピロバクター属等の一部のグラム陰性菌、ペプトストレプトコッカス属、マイコプラズマ属、クラミジア属に抗菌作用を示すことが知られている薬剤である。抗菌活性の測定は、実施例2と同様にして行った。結果を表4に示す。
【0066】
【表4】

NT: 試験せず ND: 測定不可
【0067】
以上の実験から、オウバクは、コウボクは、それらの主要成分である塩化ベルベリン、マグノロールよりも抗菌活性が高いことが示された。また、センブリはピロリ菌に対して抗菌活性を示すが、スウェルチアマリンは、上記の濃度では抗菌作用を示さなかった。
ゲンノショウコはピロリ菌に対して抗菌活性を示すが、ビャクジュツは抗菌活性を示さなかった。
百草丸は、大腸菌に対して抗菌活性を示さないが、黄色ブドウ球菌及びピロリ菌に対しては抗菌活性を示した。
【0068】
以上の結果から、オウバク、ゲンノショウコ、センブリ、及びコウボクの組成物は、ピロリ菌に対する抗菌活性を示すことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、本発明のオウバク、ゲンノショウコ、センブリ、及びコウボクを含有する組成物は、医薬の分野において有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オウバクエキス、ゲンノショウコ末、センブリ末、及びコウボク末を300〜350:50〜150:5〜15:100〜150の比で含有する、抗菌性の医薬組成物。
【請求項2】
オウバクエキス、ゲンノショウコ末、センブリ末、及びコウボク末を320:100:7:140の比で含有する、請求項1に記載の抗菌性の医薬組成物。
【請求項3】
ヘリコバクター・ピロリに対して抗菌活性を示す、請求項1又は2に記載の前記抗菌性の医薬組成物。
【請求項4】
オウバクエキス、ゲンノショウコ末、センブリ末、及びコウボク末を有効成分とし、これらを300〜350:50〜150:5〜15:100〜150の比で含有する抗菌剤。
【請求項5】
オウバクエキス、ゲンノショウコ末、センブリ末、及びコウボク末を320:100:7:140の比で含有する、請求項4に記載の抗菌剤。
【請求項6】
ヘリコバクター・ピロリに対して抗菌活性を示す、請求項4又は5に記載の抗菌剤。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の抗菌性の医薬組成物を有効成分とする、ヘリコバクター・ピロリの除菌用医薬製剤。

【公開番号】特開2009−91277(P2009−91277A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−261920(P2007−261920)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(399063507)長野県製薬株式会社 (3)
【Fターム(参考)】