説明

産婦人科用分娩台

【課題】 従来の分娩台にあっては、股受けや踵受けを開脚方向に調整することで十分な介助領域を確保することは可能であるが、しかし、患者の開脚幅には限界があることや、受台が前後方向のみしか移動できないため、基本的には介助師が側面介助する際に入れる支脚器と受台の幅は変わらないので、側面介助を行なう助産師にとって腰に多大な負担が掛り、患者も出産の際に股および踵を広げることを要望されることから非常な苦痛が伴うといった問題があった。
【解決手段】 新生児受台Bは患者の足を左右方向に開脚および膝の部分から屈曲させる支脚器Cの上面に配置され、かつ、前記新生児受台は固定受台17と移動受台18とから構成し、正面介助においては前記移動受台を固定受台からスライドさせて前方に突出させることで新生児受台の面積を大きくした産婦人科用分娩台である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は産婦人科用分娩台における新生児受台(以下、単に受台という)であって、患者の正面側からの正面介助でも、また、患者の側面側からの側面介助でも、施術の際において受台が邪魔になることがない産婦人科用分娩台に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の分娩台における受台としては、分娩台本体(以下、単に本体という)の裏面から前方に突出させた状態で固定したものと、カートタイプのように本体とは別に専用で使用するもの、および、出願人会社のインターネット上のホームページにおけるURL(http://www.takarabelmont.co.jp/medcal/index .html )の製品番号DG−370Nに開示されている本体の裏面側に収納しておき出産時に前方に突出させるものとがある。
【0003】
ところで、前記した前方に固定した新生児受台にあっては、受台に自由度がないため介助時等の受台を必要としない場合に該受台が邪魔になることがあり、また、カートタイプの受台の場合には、カートの高さは一定であるため本体を上昇させた状態での介助時にはカートとの間に落差が生じるといった問題があった。
【非特許文献1】http://www.takarabelmont.co.jp/medcal/index.htm
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記したURLに開示されている技術にあっては、受台を使用しない状態での診療には問題はないが、受台を前方に引き出した状態における介助時には受台が邪魔になることがある。すなわち、側面介助では介助師が受台と股受けまたは踵受け(例えば、本出願人会社が出願した特開2000−51293に開示されている)との間に入って介助する(側面介助)必要があるが、この介助時に、前記受台と股受けまたは踵受けとの間に十分な介助領域を確保することができない。
【0005】
そこで、股受けや踵受けを開脚方向に調整することで十分な介助領域を確保することは可能であるが、しかし、患者の開脚幅には限界があることや、受台が前後方向のみしか移動できないため、基本的には介助師が側面介助する際に入れる支脚器と受台の幅は変わらないので、側面介助を行なう助産師にとって腰に多大な負担が掛り、患者も出産の際に股および踵を広げることを要望されることから非常な苦痛が伴うといった問題があった。
【0006】
本発明は前記した問題点を解決せんとするもので、その目的とするところは、本体から受台を引き出し自在にすると共に、側面介助する際には助産師が入り込む側の支脚器との間に空間を確保するために、受台を回転あるいはスライド自在となし、受台と支脚器との間に十分な側面介助のための領域を確保することができるようにした産婦人科用分娩台を提供せんとするにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の産婦人科用分娩台は前記した目的を達成せんとするもので、請求項1の手段は、新生児受台は患者の足を左右方向に開脚および膝の部分から屈曲させる支脚器の上面に配置され、かつ、前記新生児受台は固定受台と移動受台とから構成し、正面介助においては前記移動受台を固定受台からスライドさせて前方に突出させることで新生児受台の面積を大きくしたことを特徴とする。
【0008】
請求項2の手段は、新生児受台は患者の足を左右方向に開脚および膝の部分から屈曲させる支脚器の上面に配置され、かつ、前記新生児受台は固定受台と移動受台とから構成し、正面介助においては前記移動受台を固定受台からスライドさせて前方に突出させ、側面介助においては固定受台を略90度回転あるいは固定受台を横方向に移動させ、患者の一方の足と新生児受台との間に医師が入れるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は前記したように、新生児受台を正面介助として使用する場合には、移動受台を固定受台から引き出すことで新生児を受ける面積が大きくなって安全な状態で新生児を一時的に置くことができる。
【0010】
また、側面介助の場合には、横幅の長い新生児受台を略90度回転することで新生児を一時的に置く場合にも十分な面積を得ることができ、かつ、医師と患者の足との間の隙間が多くとれて分娩や診療も容易に行うことができる等の効果を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、検診台の裏面側より新生児受台を前後方向に対して引き出し収納自在に形成すると共に、引き出した状態において新生児受台を回転あるいはスライドすることで支脚器との空間を側面介助時に十分な介助空間を確保できるようにした。
【実施例1】
【0012】
以下、本発明に係る産婦人科用分娩台の一実施例を図面と共に説明する。
図1、図2は産婦人科用分娩台の全体を示し、図1は分娩前の陣痛時等のように患者がベッドに仰臥し待機して状態を示し、図2は診療や分娩中で患者の下肢が支脚器によって開脚され、かつ、膝部分から屈曲され分娩時を示したものである。
【0013】
図1、図2において、1は基台、2は基台1内に取付けられている油圧装置によって上下動する腰受けにして、該腰受け2に対して水平状態から患者の足を開脚および膝部分から屈曲状態に変化させる後に詳述する支脚器Cが取付けられている。3は該腰受け2に対して起伏する背凭れ、4は前記背凭れ3の両側面に取付けられたフェンス、5は前記背凭れ4の上部に固定された患者が握るための把持杆、6は前記腰受け2に取付けられ、陣痛時に患者が握れるように起立可能に取付けられた怒責グリップである。なお、前記フェンス4の上端側には上下動および開脚を行なわせるためのスイッチ7が取付けられている。また、図1においては、支脚器Cにはマット8が敷かれているが、診察時や分娩時には図2に示すように取り除かれる。
【0014】
前記支脚器Cは図1に示すようにベッド状態の時には水平になっており、診察や分娩時には左右方向に広がって患者の足を開脚すると共に患者の膝の部分から折曲される構造となっている。なお、支脚器Cを開脚するための構造は、例えば、本発明の出願人会社が出願した特開2000−51293等の技術を応用した公知なので詳細な説明は省略する。
【0015】
また、後に詳述するように、腰受け2の裏面には分娩時において支脚器Cによって患者の足を開脚し、かつ、膝部分から屈曲させた状態において前方に引き出され、かつ、回転させることで患者の左足側に変位可能な新生児受台Bが取付けられている。
【0016】
次に、新生児受台Bの詳細を図3〜図12と共に説明する。
Aは前記した腰受け2の裏面に取付板9を介して固定された一対の固定杆8と、該固定杆8の先端に固定され左右に支持パイプ10aを有する支持板10と、前記支持パイプ10aに対して抜き差し可能な支持杆11aが取付けられた一対のアーム11と、該アーム11の両面に取付けられた補強板12と、前記一方のアーム11上における前記補強板12に固定された固定軸13と、前記補強板12の上面に取付けられた3個のロック孔14a〜14cを有するロック板14と、一端が前記固定軸13に対して回転自在に嵌挿される後述する新生児受台Bにおける固定受台17に固定された回転軸16aに取付けられ、かつ、前記ロック板14側に向かって弾力を有すると共に前記ロック孔14a〜14cに選択的に係合されるロックピン15aが取付けられたロックハンドル15とによって受け部材Aが形成されている。
【0017】
このように構成した受け部材Aにあっては、前記ロックハンドル15を前記ロック板14から離れる方向(側面図で上方)に押し上げてロックピン15aをロック孔、例えば、ロックピン15aがロック孔14aから離脱させることにより固定受台17は固定軸13を支点として回転自在となるので、ロックハンドル15を図5(正面介助)において反時計方向に回動することで、固定受台17を図10および図11に示す側面介助位置、または、図12に示す角度を大きくした側面介助位置まで回転することができる。そして、前記何れかの位置において前記ロックレバー15の押し上げ力を解除してロックピン15aをロック孔14b〜14cに係合することで前記各介助位置で固定できる。
【0018】
なお、16は固定受台17を図3〜図7に示す初期位置に戻した時に、該固定受台17を初期位置に停止させるための停止板である。
【0019】
新生児受台Bは固定受台17と、移動受台18とから構成され、固定受台17の裏面には前記固定軸13に回転可能に嵌挿される回転軸16aが取付けられている。また、固定受台17には移動受台18に取付けられたガイドレール18aを案内するガイドレール17bが形成され、移動受台18は固定受台17に対して前後方向に移動可能となっている。また、移動受台18にはガスシリンダ19が取付けられており、移動受台18の前面よりガスシリンダ19を操作するための操作ボタン19aが突出され、かつ、ガスシリンダ19の吐出杆19bが固定受台17に固定された受け板17cに係合されている。
【0020】
このように構成した新生児受台Bにあっては、正面介助を好む医師の場合、図2に示す患者を開脚した状態において、図3〜図7の初期状態からガスシリンダ19の操作ボタン19aを押すと、ガス圧によってガスシリンダ19は伸長するので、固定受台17に対して移動受台18はガイドレール17b,18aによって前方に移動して図8〜図9の状態となり、新生児受台としての面積が大きくなって新生児を安全に受けることができる。なお、初期状態、すなわち、移動受台18を固定受台17側に戻すには、ガスシリンダ19のガス圧に抗して押し込むことで行なえる。
【0021】
また、側面介助を好む医師の場合には、初期状態にある新生児受台Bのまま、すなわち、移動受台18を固定受台17側に移動した状態において、図4〜図6に示すロックレバー15を押し上げてロックピン15aとロック板14のロック孔14aとの嵌まり込みを解除し、次いで、ロックレバー15を反時計方向に回動すると固定軸13に回転自在に嵌挿されている回転軸17aが回転するので、該回転軸17aが取付けられている固定受台17が回転する。
【0022】
そして、ロックレバー15のロックピン15aをロック板14のロック孔14bまたは14cの何れかに嵌め込むことで、図10、図11(ロックピン15aがロック孔14bに係合)あるいは図12(ロックピン15aがロック孔14cに係合)の回転位置で停止されるので、医師は患者の右足と新生児受台Bとの間に身体を入れて施術することが可能となる。
【0023】
側面介助において可動受台18を固定受台17から引き出した状態での回転は患者の右足に可動受台18が当接する可能性があるので、側面介助の場合には可動受台18を固定受台17側に入れた状態で行なう必要がある。なお、前記した実施例にあっては、側面介助時における新生児受台Bを回転することで行なう場合について説明したが、支持板10に対して固定受台17を横方向にスライドできるように構成しても良いことは当然のことであり、その構造は改めて開示するまでもなく、当業者ならば容易に変更可能である。
【0024】
次に、支脚器Cの具体的な構造図13〜図17と共に説明する。なお、支脚器Cを開脚させるための構造は前記したように公知の技術であるので説明は省略する。
【0025】
支脚器Cは股受け部20と踵受け部21とより構成され、それぞれの上面には図示していないがクッション材が取付けられている。そして、股受け部20で患者のふくら脛を支持し、また、踵受け部21で足裏を支持するようにくの字状に変形するための機構が構成されている。
【0026】
前記股受け部20図示しない公知の開脚機構から延長された股アーム22に回転自在に取付けられたギア23aに取付けられ、また、踵受け部21は前記ギア23aと噛合するギア23bに取付けられている。前記股アーム22にはガスシリンダ24の吐出杆側24aが軸支され、シリンダ側24bは踵受け部20の裏面に軸支されている。そして、前記吐出杆24aを吐出させるための操作ボタン24cを押すための操作杆24dは踵受け部20の裏面に回動自在に取付けられている。
【0027】
このような構成により、ガスシリンダ24の操作杆24dを矢印方向に回動すると、ガスシリンダ24の操作ボタン24cが押されて吐出杆24aが吐出される。この時、吐出杆24aは固定側である股アーム22に取付けられているので、ギア23bを支点として図14に示すように踵受け部21が反時計方向に回動される。そして、ギア23bが回転されることでギア23aが回転されて股受け部20が時計方向に回動される。その結果、患者のふくら脛部分が股受け部20によって押し上げられ、かつ、膝を支点に屈曲されて足裏が踵受け部21に支持される状態となる。
【0028】
前記各股受け部20には腰受け2側に切欠部20aが形成されており、該切欠部20aには外側から内側に向かって折り曲げ可能なように一対の支持軸20bによって回転自在に補助股受け25が取付けられている。また、補助股受け25の裏面には回動自在に補助股受け25を起立させるための起立用レバー26がピン25aによって軸支され、かつ、該起立用レバー26と補助股受け25との間には戻し用スプリング26aが取付けられている。
【0029】
さらに、前記した補助股受け25を軸支するための支持軸20bが取付けられた股受け部20より延長された軸受板20cには、前記起立用レバー26の先端に取付けられたロック杆27に形成されたマイナスドライバー状の凸条27aと係合する略90度の角度で配置された溝20d,20d′が2つ形成されている。また、前記ロック杆27は股受け部20の裏面に固定された筒体28内を摺動自在に挿通されている(図17参照)。
【0030】
このように股受け部20に対して回動自在に軸支された補助股受け25は、股受け部20に対して補助股受け25が水平状態となっている時には、ロック杆27の凸条27aは溝20dに係合されている。この状態において起立用レバー25をスプリング26aのバネ力に抗して回動すると、軸受板20cに形成された溝20dと係合されていた凸条27aは離脱され、従って、股受け部20に対して回動不能となっていた補助股受け25は回動可能となり、補助股受け25を支持軸20bを支点として股受け部20に対して略90度起立させることができる。
【0031】
そして、股受け部20に対して補助股受け25が起立状態となると、患者のふくら脛部分が補助股受け25に沿った形となるので、該ふくら脛部分を補助股受け25にベルト等の拘束具D(図2参照)によって固定することで、開脚状態にある患者にとって安定した状態での分娩が行え、また、医者にとっても処置が安定した状態で行える。
【0032】
なお、前記した支脚器Cにあっては、補助股受け25を股受け部20の外側に配置してふくら脛部分を外側から拘束具Dによって固定する場合について説明したが、補助股受け25は股受け部20の内側に配置して内側からベルトで固定してもよい。また、拘束具Dとしてベルトの場合について説明したが、ベルトに限定されるものではなく、補助股受け25にコの字状に形成した拘束具Dを取付けて患者のふくら脛部分を該拘束具Dと起立状態の補助股受け25との間に挟み込むようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る産婦人科用分娩台をベッド状態にした斜視図である。
【図2】同上の分娩状態にした斜視図である。
【図3】新生児受台の初期状態を示す斜視図である。
【図4】同上の内部構造を示す斜視図である。
【図5】同上の要部を示す平面図である。
【図6】同上の側面図である。
【図7】固定受台に対して移動受台を移動するための内部構造を示す平面図である。
【図8】正面介助の状態を示す斜視図である。
【図9】同上の内部構造を示す平面図である。
【図10】側面介助の状態を示す新生児受台の斜視図である。
【図11】新生児受台を回転するための要部の平面図である。
【図12】図10の新生児受台をさらに回転させた状態の斜視図である。
【図13】支脚器の内部構造を示す平面図である。
【図14】同上の側面図である。
【図15】同上の股受け部分の側面図である。
【図16】同上の裏面図である。
【図17】同上の側面図である。
【符号の説明】
【0034】
A 新生児受台
C 支脚器
2 腰受け
17 固定受台
18 移動受台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
新生児受台は患者の足を左右方向に開脚および膝の部分から屈曲させる支脚器の上面に配置され、かつ、前記新生児受台は固定受台と移動受台とから構成し、正面介助においては前記移動受台を固定受台からスライドさせて前方に突出させることで新生児受台の面積を大きくしたことを特徴とする産婦人科用分娩台。
【請求項2】
新生児受台は患者の足を左右方向に開脚および膝の部分から屈曲させる支脚器の上面に配置され、かつ、前記新生児受台は固定受台と移動受台とから構成し、正面介助においては前記移動受台を固定受台からスライドさせて前方に突出させ、側面介助においては固定受台を略90度回転あるいは固定受台を横方向に移動させ、患者の一方の足と新生児受台との間に医師が入れるようにしたことを特徴とする産婦人科用分娩台。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2006−325706(P2006−325706A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−150507(P2005−150507)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(000108672)タカラベルモント株式会社 (113)
【Fターム(参考)】