説明

産業車両用変速機の入力軸、産業車両用変速機及び産業車両、並びに産業車両用変速機の製造方法

【課題】 産業車両用変速機において、クラッチ側からの動力を適切に入力できるとともに、変速機のコンパクト化に寄与できる入力軸の構成を提供する。
【解決手段】 入力軸は、回転自在に支持される筒状シャフト20と、この筒状シャフト20が備える軸孔43に軸方向摺動自在かつ相対回転不能に挿入されるインプットシャフト25と、を備える。前記インプットシャフト25は、前記筒状シャフト20の前記軸孔43に形成された内周スプライン42に係合する第1スプライン71と、その歯先径D2が前記第1スプライン71の歯先径D1よりも大きい第2スプライン72と、を備えている。前記インプットシャフト25が軸方向に摺動することで、クラッチの出力部材に備える内周スプラインに対し前記第2スプライン72が係脱可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばフォークリフト等の産業車両用の変速機に用いられる変速機用入力軸、及びそれを備えた産業車両用変速機や産業車両の構成に関する。あるいは、産業車両用変速機の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の変速機用入力軸は例えば特許文献1に示されており、この特許文献1の構成では、クラッチディスク及びクラッチカバーの交換等のメンテナンス時に、原動機から変速機を取り外すことなく行うことができるようにするため、複数のスピードギアが設けられた筒状シャフトに、インプットシャフトを一体回転可能かつ引込可能に備えている。
【0003】
そして、クラッチディスクを交換するときには、クラッチハウジングに設けられたカバーを開き、インプットシャフトを筒状シャフトの内部に押し込むことでクラッチディスクとの連結を解除する。そして、インプットシャフトから外れたクラッチディスク及びクラッチカバーを交換した後、インプットシャフトを筒状シャフトから引き出して、新しいクラッチディスクに連結させる。
【0004】
特許文献1では、前記筒状シャフトは、中心軸線方向に分割された複数の軸形成部材を溶接等によって接合する構成になっている。また、筒状シャフトに一体的に形成された底部が、インプットシャフトの引き込みを規制する引込み部として機能している。
【特許文献1】特開2004−197912号公報(図2、0002〜0003、0057等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1においては、インプットシャフトの軸方向の大部分にわたってスプラインが一様に形成され、クラッチ側に連結するスプラインと、筒状シャフトに連結するスプラインが同一径のものとされている。しかも当該スプラインは、クラッチディスクからインプットシャフトへ大きなトルクを伝達する役割を果たすものであるため、小径とするのは難しい。従って、インプットシャフトのコンパクト化及び軽量化が困難であり、ひいては変速機のコンパクト化の障害となっていた。
【0006】
また、上記特許文献1の構成は、インプットシャフトの引込み過ぎは前記底部によって規制されるものの、引抜き過ぎを防止する構成は何ら開示されていない。
【0007】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、クラッチ側からの動力を適切に入力できるとともに、変速機のコンパクト化に寄与できる入力軸の構成を提供することにある。また、本発明の別の目的は、インプットシャフトの引抜き過ぎを規制可能とするとともに、組付けが容易な構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0009】
◆本発明の第1の観点によれば、以下のように構成する、産業車両用変速機の入力軸が提供される。回転自在に支持される第1軸と、この第1軸が備える軸孔に軸方向摺動自在かつ相対回転不能に挿入される第2軸と、を備える。前記第2軸は、前記第1軸の前記軸孔に形成された内周スプラインに係合する第1スプラインと、その歯先径が前記第1スプラインの歯先径よりも大きい第2スプラインと、を備えている。前記第2軸が軸方向に摺動することで、クラッチの出力部材に備える内周スプラインに対し前記第2スプラインが係脱可能に構成されている。
【0010】
これにより、第2軸のうち第1軸の軸孔に挿入される部分(第1スプライン)を細くできるので、入力軸をコンパクト化でき、変速機のコンパクト化・軽量化を図ることができる。一方で、クラッチの出力部材側に連結される部分(第2スプライン)は大径であるので、クラッチ側からの大トルクを適切に変速機へ伝達させることができる。
【0011】
◆前記の産業車両用変速機の入力軸においては、以下のように構成することが好ましい。前記第2軸にはリング状の装着溝を設けて、この装着溝には、前記第2軸の移動ストロークの引抜き方向側端部を規定するためのスナップリングを装着する。この装着溝の底面と前記スナップリングの内周面との間には、当該スナップリングが縮径方向に弾性変形するのを許容する隙間が形成されている。
【0012】
これにより、上記スナップリングによって引抜き過ぎを防止することができるとともに、第2軸を第1軸の軸孔へクラッチ側から容易に組み付けることができる。
【0013】
◆前記の産業車両用変速機の入力軸においては、前記スナップリングの外周面の断面輪郭は、その軸方向中央側が軸方向両端よりも外側へ突出している形状であることが好ましい。
【0014】
これにより、スナップリングを容易に縮径方向へ変形させることができる。従って、第2軸の第1軸への組付けを円滑に行うことができる。
【0015】
◆前記の産業車両用変速機の入力軸においては、前記スナップリングの外周面の断面輪郭は円弧状であることが好ましい。
【0016】
これにより、上記の効果を奏するほか、スナップリングの簡素な形状が実現されて、コストを低減することができる。
【0017】
◆前記の産業車両用変速機の入力軸においては、前記第2軸において前記第2スプラインと前記第1スプラインとの間には段差が形成され、この段差が、前記第2軸の移動ストロークの引込み方向側端部を規定することが好ましい。
【0018】
これにより、部品点数を増加させることなく、前記第2軸の引込み過ぎを防止することができる。
【0019】
◆前記の産業車両用変速機の入力軸においては、前記第2スプラインが角形スプラインに構成されていることが好ましい。
【0020】
これにより、クラッチ側の大トルクを容易に第2軸に伝達でき、また、第2スプラインの形状を簡素化できる。
【0021】
◆前記の産業車両用変速機の入力軸においては、以下のように構成することが好ましい。前記第1スプラインが角形スプラインに構成されている。この第1スプラインの歯面及び歯底の輪郭形状が、前記第2スプラインの歯面の歯底側一部及び歯底の輪郭形状と一致している。
【0022】
これにより、共通の刃具を用いて2つのスプラインの歯溝を形成できるので、製造工程を簡素化できる。
【0023】
◆上記の発明は、上記の入力軸を備える産業車両用変速機、及び、それを備える産業車両という形でも具現化することができる。
【0024】
◆本発明の第2の観点によれば、以下のような、産業車両用変速機の製造方法が提供される。クラッチからの動力を入力する入力軸を含み、その入力軸が、回転自在に支持される第1軸と、この第1軸が備える軸孔に軸方向摺動自在かつ相対回転不能に挿入される第2軸と、を備える産業車両用変速機の製造方法である。前記第2軸の長手方向一側には第1スプラインを備えるとともに、長手方向他側には、その歯先径が前記第1スプラインの歯先径よりも大きい、前記クラッチ側の部材に形成したスプラインに係合可能な第2スプラインを備えておく。また、前記第2軸にはリング状の装着溝を設け、この装着溝には、前記第2軸の移動ストロークの引抜き方向側端部を規定するためのスナップリングを装着しておく。そして、前記第2軸の第1スプラインを前記第1軸の軸孔に差し込んで当該第1軸の内周スプラインに係合させるとともに、その差込工程においては、前記スナップリングが縮径方向に弾性変形しながら前記内周スプラインの内周側を通過する。
【0025】
これにより、第2軸のうち第1軸の軸孔に挿入される部分(第1スプライン)を細くできるので、入力軸をコンパクト化でき、変速機のコンパクト化・軽量化を図ることができる。一方で、クラッチの出力部材側に連結される部分(第2スプライン)は大径であるので、クラッチ側からの大トルクを適切に変速機へ伝達させることができる。また、スナップリングで第2軸の引抜き過ぎを防止できるとともに、変速機の製造時には縮径方向に弾性変形しながら前記内周スプラインの内周側を通過することで、第1軸の軸孔へ第2軸をクラッチ側から容易に組み付けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
次に、発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の一実施形態に係る手動変速機の入力軸周辺の構成を示した断面図、図2は入力軸の分解図である。図3は図2のA−A線断面矢視図及びB−B線断面矢視図、図4は図1の状態からインプットシャフトを引き込ませた様子を示す断面図である。図5は、手動変速機の製造過程において、筒状シャフトの軸孔にインプットシャフトを差し込む様子を示す断面拡大図である。
【0027】
図1には産業車両としてのフォークリフトに用いられる手動変速機10の断面図が示され、この手動変速機10はハウジング13を備えている。このハウジング13は、クラッチ11を収容する図略のクラッチハウジングに対し、適宜の固定手段によって連結されている。また、ハウジング13は、後述する筒状シャフト20や、図略のカウンタ軸や出力軸を回転自在に支持している。
【0028】
クラッチ11はエンジンのフライホイール(図略)に付設されており、その詳細な構成は図示しないが、クラッチディスク15、プレッシャープレート、ダイアフラムスプリング、クラッチカバー、レリーズベアリング等を備えたものに構成されている。そして、クラッチ11側の部材であるクラッチディスク15のボス部の軸孔には内周スプライン19が形成され、いわゆるスプライン孔とされている。
【0029】
前記の手動変速機10は2段変速型であって、1速前進、2速前進、及び後退の間で手動で選択可能に構成され、当該手動変速機10の図示しない出力軸は、上記の選択された速度及び方向で回転することになる。
【0030】
以下、手動変速機10の入力軸1の周辺の構成を説明する。図1に示すように、前記ハウジング13には、筒状シャフト20(第1軸)が軸受91・92により回転自在に支持されている。前記筒状シャフト20には、低速ギアとしての第1変速ギア23及び高速ギアとしての第2変速ギア24が一体的に設けられている。また、筒状シャフト20には軸孔43が形成され、この軸孔43にインプットシャフト(第2軸)25が支持されている。
【0031】
前記ハウジング13には開口17が形成されており、前記インプットシャフト25はこの開口17を通じてハウジング13の外側へ突出しながら、クラッチ11側へ向けて延出されている。なお、この突出部分の一部の外周側を覆うように、ハウジング13には保護筒16が固定されている。
【0032】
本実施形態においては、前記筒状シャフト20と前記インプットシャフト25とによって、手動変速機10の入力軸1が構成されている。インプットシャフト25は前記筒状シャフト20と同心して配置されるとともに、前記筒状シャフト20に対し軸方向摺動自在かつ相対回転不能に設けられている。
【0033】
分解図としての図2に示すように、インプットシャフト25の外周面には、その軸線方向の一側に第1スプライン71が、他側に第2スプライン72が、それぞれ刻設される。図3には、図2におけるA−A線断面(第1スプライン71)とB−B線断面(第2スプライン72)とが比較して示され、この図3に示すように、第1スプライン71及び第2スプライン72は、いずれも角スプラインとされている。これにより、スプライン歯の簡素な形状が実現される。
【0034】
第2スプライン72の歯先径D2は、第1スプライン71の歯先径D1よりも若干大きく構成されている(D2>D1)。また、図1や図2に示すように、第1スプライン71と第2スプライン72との間(境界部分)には段差73が形成されている。一方、図3に示すように、第1スプライン71と第2スプライン72の歯底径d1,d2は互いに等しい(d1=d2)。
【0035】
特に本実施形態では、第1スプライン71と第2スプライン72では、スプライン歯の総数も各歯の幅も歯底径も等しく構成されており、異なるのは歯先径D1,D2(言い換えれば、歯底から歯末までの歯の丈)のみである。更に換言すれば、第1スプライン71の歯面93及び歯底94の輪郭形状が、前記第2スプライン72の歯面93の歯底側一部、及び、歯底94の輪郭形状と一致している。なお、図3の右側には、第2スプライン72の輪郭のうち第1スプライン71の輪郭と一致する部分を太線で示している。
【0036】
これにより、インプットシャフト25の第1スプライン71及び第2スプライン72を、以下のようにして極めて簡単に製造することができる。即ち、2つのスプライン71・72の歯先径D1,D2に相当する2つの直径を有する段付き丸棒を用意し、この丸棒に対して刃具Tを突入させて軸方向に送ることで歯溝を形成するのである。なお、前記のようにスプライン71・72同士の歯底側の輪郭形状が一致しているので、共通の刃具Tを用いて軸方向のほぼ全域にわたって刃具Tを送るだけで、第1スプライン71の歯溝と第2スプライン72の歯溝の両方を形成することができる。また、前記段付き丸棒の段付き部が、前述の段差73に相当することになる。
【0037】
図1に示すように、前記第2スプライン72は、前記クラッチディスク15のボス部の前記内周スプライン19に係合される。また、前記インプットシャフト25の第2スプライン72を形成した側の端部には小径の支持部74が設けられて、この支持部74は、クラッチ11を構成する図略のプレッシャープレートに挿入され、当該プレッシャープレートを相対回転可能に支持するようになっている。
【0038】
また、前記筒状シャフト20の外側にはリバース用アイドルギア26が相対回転自在に配置される。このリバース用アイドルギア26は2つのギア部26a・26bを備え、これらのギア部26a・26bが、図示しない出力軸等に配置されたギアに対しそれぞれ噛合されている。
【0039】
以上が手動変速機10の入力軸1周辺の構成であり、次に、筒状シャフト20とインプットシャフト25の詳細な構成を説明する。図2等に示すように、筒状シャフト20には軸孔43が貫通状に形成されており、この軸孔43の内径D3は、前記第1スプライン71の歯先径D1よりも若干大きく、且つ、前記第2スプライン72の歯先径D2よりも若干小さくなっている(D2>D3>D1)。また、この軸孔43の内周面のうちクラッチ11に近い側の一部の領域には内周スプライン42が形成されて所謂スプライン孔とされ、この内周スプライン42が図1に示すように前記第1スプライン71と係合可能に構成されている。
【0040】
また、前記インプットシャフト25の長手方向一側の端部(第1スプライン71が形成されている側の端部)の近傍には、リング状の装着溝81が形成され、この装着溝81には、断面が円形状に構成された丸スナップリング(スナップリング)82が装着される。この丸スナップリング82は、図1の状態から更にインプットシャフト25をクラッチ11側へ引き抜かれる方向の移動を、丸スナップリング82が前記内周スプライン42のスプライン歯の軸方向端面に当接することで規制できるようになっている。
【0041】
また前記インプットシャフト25の外周面には、前記第1スプライン71及び第2スプライン72に跨る領域において、リング状の引抜用係合溝Gが軸方向に所定の間隔をあけて形成されている。この引抜用係合溝Gは、軸孔43の内部に引き込まれた状態のインプットシャフト25をクラッチ11側へ引き抜くようにスライド移動させるためのものであり、適宜の工具を引っ掛けることが可能に構成されている。
【0042】
以上の構成の手動変速機10において、フォークリフトの通常稼動時には、図1に示すように、インプットシャフト25を筒状シャフト20の軸孔43からクラッチ11へ向かって大きく突出させ、クラッチ11のクラッチディスク15の内周スプライン19に係合させて、図示しないスナップリングで固定する。こうすることで、図略のエンジンからの動力はクラッチ11を介してインプットシャフト25へ伝達され、更に、第1スプライン71と内周スプライン42との係合部分を介して筒状シャフト20へ伝達される。このようにして手動変速機10に動力が入力され、この手動変速機10により変速された回転が出力軸に得られることになる。
【0043】
一方、クラッチ11の保守・点検や、クラッチディスク15やクラッチカバー等の交換を行う際は、クラッチ11のクラッチハウジングに固定されている図略の蓋を取り外してクラッチ11を露出させた上で、図略のスナップリングを取り外し、インプットシャフト25をクラッチ11から離れる方向(軸孔43内部ないしハウジング13内部への引込み方向)へスライド移動させて押し込み、その先端が、手動変速機10のハウジング13に固定された前記保護筒16の内部に入るようにする。この結果、図4に示すように、インプットシャフト25の第2スプライン72とクラッチディスク15との連結が解除され、クラッチディスク15及びクラッチカバー等をフライホイールから取り外すことができる。
【0044】
なお、筒状シャフト20の軸孔43へ図4のように引き込まれたインプットシャフト25は、前述の第1スプライン71と第2スプライン72の間に形成されている段差73が前記筒状シャフト20の端面に当接することで、それ以上の押込み(即ち、軸孔43内部ないしハウジング13内部への引込み)が規制される。即ち、インプットシャフト25の軸方向の移動ストロークの引込み方向側の端部は、前記段差73と前記筒状シャフト20の端面によって規定される。
【0045】
そして、クラッチディスク15やクラッチカバーの交換などが完了すると、前記保護筒16に形成された作業窓18から適宜の工具を差し込み、前記引抜用係合溝Gに工具を引っ掛けて、インプットシャフト25を引抜き方向(クラッチ11へ近づく方向)へスライド移動させる。なお、引抜用係合溝Gは軸方向に所定の間隔をおいて複数設けられているので、1つの引抜用係合溝Gに工具を係合させてインプットシャフト25を適当なストロークだけスライドさせれば、別の引抜用係合溝Gが新しく作業窓18に現れ、今度はその引抜用係合溝Gに工具を係合させて更にインプットシャフト25をスライドさせることができる。
【0046】
上記の引抜き作業により、インプットシャフト25を図1に示す位置まで筒状シャフト20の軸孔43から引き抜いて、インプットシャフト25をクラッチ11のクラッチディスク15に再びスプライン係合させることができる。なお、筒状シャフト20の軸孔43から引き抜かれて図1の位置となったインプットシャフト25は、前述の丸スナップリング82が内周スプライン42のスプライン歯の端面に接当することで、それ以上の引抜きが規制される。即ち、インプットシャフト25の軸方向の移動ストロークの引抜き方向側の端部は、この丸スナップリング82と内周スプライン42のスプライン歯によって規定される。
【0047】
最後に、先ほど取り外された固定用の図略のスナップリングをインプットシャフト25に再び嵌着させることで、メンテナンス作業が完了する。このように本実施形態の手動変速機10は、クラッチディスク15やクラッチカバーの交換を、手動変速機10を取り外すことなく行うことができる。
【0048】
なお、手動変速機10の製造時において筒状シャフト20にインプットシャフト25を組み付ける様子が図5に拡大図として示される。この図5に示すように、組付けの際は、インプットシャフト25の第1スプライン71の部分を筒状シャフト20の軸孔43に差し込み、筒状シャフト20の内周スプライン42に第1スプライン71を嵌合させるようにする。
【0049】
これと同時に、インプットシャフト25の前記装着溝81に取り付けられた丸スナップリング82が、前記内周スプライン42のスプライン歯によって内周側へ押動され、図5の矢印方向に示す縮径方向に弾性変形する。
【0050】
なお、前記装着溝81は若干深溝に形成しており、この装着溝81の底部と丸スナップリング82の内周面との間には、適宜の隙間yが形成されている(図2を参照)。この隙間yにより、丸スナップリング82が装着溝81内で縮径方向に変形して、内周スプライン42のスプライン歯を乗り越えて通過することができる。
【0051】
なお、この乗越えは、丸スナップリング82がその名の通り断面円形であって、当該丸スナップリング82の外周面の断面輪郭が、その軸方向中央側が軸方向両端側よりも外側へ突出している半円形状(円弧状)となっていること、更に、内周スプライン42のスプライン歯の軸方向端部(クラッチ11に近い側の軸方向端部)にテーパ状のガイド面42a(図2も併せて参照)が形成されていることにより、更に容易とされている。
【0052】
図5の状態からインプットシャフト25を軸孔43へ更に挿入し、丸スナップリング82が内周スプライン42のスプライン歯の乗越えを終えると、丸スナップリング82は装着溝81内で縮径変形を解除する。即ち、本実施形態では、クラッチ11側が大径の第2スプライン72とされているので、インプットシャフト25の第1スプライン71をクラッチ11側から差し込む方法を取る必要があるが、縮径方向に弾性変形可能な丸スナップリング82をインプットシャフト25の引抜き規制部材として採用することで、その引抜き規制部材が上記差込みの際に邪魔にならず、適切にインプットシャフト25を筒状シャフト20の軸孔43へ挿入して組み付けることができるのである。
【0053】
以上に示すように、本実施形態の手動変速機10の入力軸1は、ハウジング13に回転自在に支持される筒状シャフト20と、この筒状シャフト20が備える軸孔43に軸方向摺動自在かつ相対回転不能に挿入されるインプットシャフト25と、を備える。前記インプットシャフト25は、前記筒状シャフト20の前記軸孔43に形成された内周スプライン42に係合する第1スプライン71と、その歯先径D2が前記第1スプライン71の歯先径D1よりも大きい第2スプライン72と、を備えている。そして、前記インプットシャフト25が軸方向に摺動することで、クラッチ11のクラッチディスク15に備える内周スプライン19に対し前記第2スプライン72が係脱可能に構成されている。
【0054】
従って、筒状シャフト20の軸孔43に挿入される部分を細くできるので、入力軸1の全体をコンパクト化でき、手動変速機10のコンパクト化・軽量化を図れる。一方で、クラッチ11側に連結される第2スプライン72は大径なので、エンジン側からの大トルクを適切に手動変速機10へ伝達させることができる。
【0055】
また、前記インプットシャフト25にはリング状の装着溝81が設けられて、この装着溝81には、前記インプットシャフト25の移動ストロークの引抜き方向側端部を規定するための丸スナップリング82が装着されている。そして、この装着溝81の底面と前記丸スナップリング82の内周面との間には、当該丸スナップリング82が縮径方向に弾性変形するのを許容する隙間y(図2)が形成されている。これにより、インプットシャフト25を適切に筒状シャフト20へ組み付けることができるとともに、この丸スナップリング82によって引抜き過ぎを防止することができる。
【0056】
また、前記丸スナップリング82の外周面の断面輪郭は、その軸方向中央側が軸方向両端よりも外側へ突出している形状、もっと言えば、半円弧状になっている。これにより、図5に示すように丸スナップリング82を容易に縮径方向へ変形させることができるので、インプットシャフト25の筒状シャフト20への組付けを円滑に行うことができる。
【0057】
また、インプットシャフト25において前記第2スプライン72と前記第1スプライン71との間には段差73が形成され、この段差73が、前記インプットシャフト25の移動ストロークの引込み方向側端部を図4のように規定している。これにより、部品点数を増加させることなく、インプットシャフト25の引込み過ぎを防止することができる。
【0058】
また、本実施形態では図3の右側に示すように、前記第2スプライン72が角形スプラインに構成されている。これにより、第2スプライン72のスプライン形状を簡素化でき、また、クラッチ側からの大トルクを適切にインプットシャフト25に伝達することができる。。
【0059】
更に本実施形態では、図3に示すように、前記第1スプライン71も(第2スプライン72と同様に)角形スプラインに構成されている。そして、この第1スプライン71の歯面93及び歯底94の輪郭形状が、第2スプライン72の歯面93の歯底側一部及び歯底94の輪郭形状と一致している(図3の右側の太線部分)。これにより、共通の刃具Tを用いて2つのスプライン71・72の歯溝を形成できるので、製造工程を簡素化できる。
【0060】
また、本実施形態の手動変速機10を製造する際は、図5に示すように、上記インプットシャフト25の第1スプライン71を前記筒状シャフト20の軸孔43に差し込んで当該筒状シャフト20の内周スプライン42に係合させるとともに、その差込工程においては、前記丸スナップリング82を縮径方向に弾性変形させながら、その内周スプライン42の歯先の内周側を通過させるようにしている。
【0061】
これにより、インプットシャフト25を適切に筒状シャフト20へ組み付けることができるとともに、この丸スナップリング82によって引抜き過ぎを防止することができる。
【0062】
以上に本発明の好適な実施形態を説明したが、上記の実施形態は更に以下のように変更することができる。
【0063】
○第1スプライン71や第2スプライン72として角形スプラインを採用する代わりに、他の形状のスプライン、例えばインボリュートスプラインとしても良い。また、第1スプライン71としてインボリュートスプラインを、第2スプライン72として角形スプラインをそれぞれ採用しても良い。ただし、図5のように2つのスプライン71・72を角形スプラインとして歯底径や歯幅・歯数を一致させることにより、前述したように共通の刃具で2つのスプライン71・72を刻設でき、製造コストの増加を抑制できる点で有利である。
【0064】
○前記の丸スナップリング82を採用する代わりに、例えば外周面の断面輪郭が山形や台形、楕円形等のものを採用しても良い。これらのように、軸方向中央側が軸方向両端よりも外側へ突出している断面輪郭を有していれば、図5に示すような差込み時にスナップリングがスムーズに縮径側へ変形するので、手動変速機10の組立てないし製造が簡単になる。
【0065】
○図5では、予め筒状シャフト20をハウジング13に支持して、その後に筒状シャフト20の軸孔43にインプットシャフト25を挿入させる場合を説明したが、先にインプットシャフト25の軸孔43への差込みを行ってからハウジング13に支持させるような製造方法を採っても良い。
【0066】
○前記の構成では筒状シャフト20の軸孔43は貫通状に形成されているが、一端側のみが開口される形状の軸孔であっても良い。
【0067】
○変速機は、入力軸と出力軸が同一軸線上に配置されたものに構成しても良い。また、2軸又は3軸の平行軸タイプのものに限らず、例えば遊星歯車機構を用いた変速機であっても良い。
【0068】
○フォークリフト用に限らず、その他、ショベルローダ、トーイングトラクタ等の産業車両用としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の一実施形態に係る手動変速機の入力軸周辺の構成を示した断面図。
【図2】入力軸の分解図。
【図3】図2のA−A線断面矢視図及びB−B線断面矢視図。
【図4】図1の状態からインプットシャフトを引き込ませた様子を示す断面図。
【図5】手動変速機の製造過程において、筒状シャフトの軸孔にインプットシャフトを差し込む様子を示す断面拡大図。
【符号の説明】
【0070】
1 手動変速機の入力軸
10 手動変速機
11 クラッチ
15 クラッチディスク(クラッチの出力部材)
19 クラッチディスクの内周スプライン
20 筒状シャフト(第1軸)
25 インプットシャフト(第2軸)
42 内周スプライン
43 軸孔
71 第1スプライン(角スプライン)
72 第2スプライン(角スプライン)
73 段差
81 装着溝
82 丸スナップリング(スナップリング)
D1 第1スプラインの歯先径
D2 第2スプラインの歯先径
y 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転自在に支持される第1軸と、この第1軸が備える軸孔に軸方向摺動自在かつ相対回転不能に挿入される第2軸と、を備える産業車両用変速機の入力軸であって、
前記第2軸は、前記第1軸の前記軸孔に形成された内周スプラインに係合する第1スプラインと、その歯先径が前記第1スプラインの歯先径よりも大きい第2スプラインと、を備えており、
前記第2軸が軸方向に摺動することで、クラッチの出力部材に備える内周スプラインに対し前記第2スプラインが係脱可能に構成されていることを特徴とする、産業車両用変速機の入力軸。
【請求項2】
請求項1に記載の産業車両用変速機の入力軸であって、
前記第2軸にはリング状の装着溝を設けて、この装着溝には、前記第2軸の移動ストロークの引抜き方向側端部を規定するためのスナップリングを装着し、
この装着溝の底面と前記スナップリングの内周面との間には、当該スナップリングが縮径方向に弾性変形するのを許容する隙間が形成されていることを特徴とする、産業車両用変速機の入力軸。
【請求項3】
請求項2に記載の産業車両用変速機の入力軸であって、前記スナップリングの外周面の断面輪郭は、その軸方向中央側が軸方向両端よりも外側へ突出している形状であることを特徴とする、産業車両用変速機の入力軸。
【請求項4】
請求項3に記載の産業車両用変速機の入力軸であって、前記スナップリングの外周面の断面輪郭は円弧状であることを特徴とする、産業車両用変速機の入力軸。
【請求項5】
請求項1から請求項4までの何れか一項に記載の産業車両用変速機の入力軸であって、
前記第2軸において前記第2スプラインと前記第1スプラインとの間には段差が形成され、この段差が、前記第2軸の移動ストロークの引込み方向側端部を規定することを特徴とする、産業車両用変速機の入力軸。
【請求項6】
請求項1から請求項5までの何れか一項に記載の産業車両用変速機の入力軸であって、前記第2スプラインが角形スプラインに構成されていることを特徴とする、産業車両用変速機の入力軸。
【請求項7】
請求項6に記載の産業車両用変速機の入力軸であって、
前記第1スプラインが角形スプラインに構成されており、
この第1スプラインの歯面及び歯底の輪郭形状が、前記第2スプラインの歯面の歯底側一部及び歯底の輪郭形状と一致していることを特徴とする、産業車両用変速機の入力軸。
【請求項8】
請求項1から請求項7までの何れか一項に記載の入力軸を備えることを特徴とする産業車両用変速機。
【請求項9】
請求項8に記載の産業車両用変速機を備えることを特徴とする産業車両。
【請求項10】
クラッチからの動力を入力する入力軸を含み、その入力軸が、回転自在に支持される第1軸と、この第1軸が備える軸孔に軸方向摺動自在かつ相対回転不能に挿入される第2軸と、を備えるものである、産業車両用変速機の製造方法において、
前記第2軸の長手方向一側には第1スプラインを備えるとともに、長手方向他側には、その歯先径が前記第1スプラインの歯先径よりも大きく構成されるとともに、前記クラッチ側の部材に形成したスプラインに係合可能な第2スプラインを備えておき、
また、前記第2軸にはリング状の装着溝を設け、この装着溝には、前記第2軸の移動ストロークの引抜き方向側端部を規定するためのスナップリングを装着しておき、
前記第2軸の第1スプラインを前記第1軸の軸孔に差し込んで当該第1軸の内周スプラインに係合させるとともに、その差込工程においては、前記スナップリングが縮径方向に弾性変形しながら前記内周スプラインの内周側を通過することを特徴とする、産業車両用変速機の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−329211(P2006−329211A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−148912(P2005−148912)
【出願日】平成17年5月23日(2005.5.23)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】