説明

甲殻類の黒変防止剤および甲殻類の黒変防止処理方法

【課題】亜硫酸や亜硫酸塩を含む製剤に代えて、人体に対して無害な甲殻類の黒変防止剤および甲殻類の黒変防止処理方法を提供する。
【解決手段】
【請求項1】甲殻類の黒変防止剤は、アスコルビン酸またはアスコルビン酸ナトリウムと、エリソルビン酸またはエリソルビン酸ナトリウムと、シスチンとを含んでいる。特に、アスコルビン酸またはアスコルビン酸ナトリウム2.0質量部に対して、エリソルビン酸またはエリソルビン酸ナトリウムを0.7乃至1.3質量部、シスチンを0.4乃至0.6質量部含むことが好ましい。この甲殻類の黒変防止剤に、甲殻類を所定の時間浸漬させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、甲殻類の黒変防止剤および甲殻類の黒変防止処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、エビやカニといった甲殻類は、捕獲された後、凍結、輸送、貯蔵、解凍などの工程を経て、食品として提供される。甲殻類は、捕獲後、時間の経過とともに劣化が進み、徐々に黒変するため、食品として提供されるまでに時間がかかる場合には、黒変により商品価値が低下するという問題があった。そこで、劣化を抑制して甲殻類の黒変を防止するために、従来、亜硫酸や亜硫酸塩を含む製剤が使用されている(例えば、特許文献1または2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−197860号公報
【特許文献2】特許第2878734号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1および2記載のような従来の亜硫酸や亜硫酸塩を含む製剤は、少量では人体への影響はないとされているが、亜硫酸や亜硫酸塩が人体に対して毒性を有しているため、できれば使用を避けたいという要望がある。
【0005】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、亜硫酸や亜硫酸塩を含む製剤に代えて、人体に対して無害な甲殻類の黒変防止剤および甲殻類の黒変防止処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る甲殻類の黒変防止剤は、アスコルビン酸またはアスコルビン酸ナトリウムと、エリソルビン酸またはエリソルビン酸ナトリウムと、シスチンとを含むことを、特徴とする。
【0007】
本発明に係る甲殻類の黒変防止剤は、エビやカニなどの甲殻類を浸漬させて、甲殻類の黒変を防止するのに使用される。エビやカニなどの甲殻類は、アミノ酸の一種であるチロシンが、フェノール酸化酵素による酸化を受けて重合し、メラニン化することにより黒変する。本発明に係る甲殻類の黒変防止剤は、フェノール酸化酵素の活性を下げることにより、メラニン化を抑制し、甲殻類の黒変を防止することができる。
【0008】
本発明に係る甲殻類の黒変防止剤は、アスコルビン酸またはアスコルビン酸ナトリウムと、エリソルビン酸またはエリソルビン酸ナトリウムと、シスチンとの相互作用により、優れた甲殻類の黒変防止効果を有する。また、亜硫酸や亜硫酸塩などの人体に対して毒性を有する物質を含んでおらず、人体に対して無害である。
【0009】
本発明に係る甲殻類の黒変防止剤は、前記アスコルビン酸または前記アスコルビン酸ナトリウム2.0質量部に対して、前記エリソルビン酸または前記エリソルビン酸ナトリウムを0.8乃至3.1質量部、前記シスチンを0.01乃至1.1質量部含むことが好ましい。特に、本発明に係る甲殻類の黒変防止剤は、前記アスコルビン酸または前記アスコルビン酸ナトリウム2.0質量部に対して、前記エリソルビン酸または前記エリソルビン酸ナトリウムを0.7乃至1.3質量部、前記シスチンを0.4乃至0.6質量部含むことが好ましい。これらの場合、特に甲殻類の黒変防止効果を高めることができる。
【0010】
本発明に係る甲殻類の黒変防止剤は、さらにデキストリンを含んでいてもよい。この場合、デキストリンの被膜効果や、浸透圧が低く浸透しやすい性質により、甲殻類の黒変防止効果をより高めることができる。
【0011】
本発明に係る甲殻類の黒変防止処理方法は、本発明に係る甲殻類の黒変防止剤に、甲殻類を所定の時間浸漬させることを、特徴とする。
【0012】
本発明に係る甲殻類の黒変防止処理方法は、本発明に係る甲殻類の黒変防止剤でフェノール酸化酵素の活性を下げることにより、メラニン化を抑制し、甲殻類の黒変を防止することができる。本発明に係る甲殻類の黒変防止処理方法は、本発明に係る甲殻類の黒変防止剤中のアスコルビン酸またはアスコルビン酸ナトリウムと、エリソルビン酸またはエリソルビン酸ナトリウムと、シスチンとの相互作用により、優れた甲殻類の黒変防止効果を有する。また、本発明に係る甲殻類の黒変防止剤が亜硫酸や亜硫酸塩などの人体に対して毒性を有する物質を含んでおらず、人体に対して無害である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、亜硫酸や亜硫酸塩を含む製剤に代えて、人体に対して無害な甲殻類の黒変防止剤および甲殻類の黒変防止処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態の甲殻類の黒変防止剤および甲殻類の黒変防止処理方法について説明する。
本発明の実施の形態の甲殻類の黒変防止剤は、アスコルビン酸ナトリウムとエリソルビン酸ナトリウムとシスチンとを含んでいる。本発明の実施の形態の甲殻類の黒変防止処理方法は、本発明の実施の形態の甲殻類の黒変防止剤を使用して、実施することができる。
【0015】
本発明の実施の形態の甲殻類の黒変防止処理方法は、本発明の実施の形態の甲殻類の黒変防止剤に、エビやカニなどの甲殻類を浸漬させて、甲殻類の黒変を防止するのに使用される。本発明の実施の形態の甲殻類の黒変防止剤は、フェノール酸化酵素の活性を下げることにより、メラニン化を抑制し、甲殻類の黒変を防止することができる。本発明の実施の形態の甲殻類の黒変防止剤は、アスコルビン酸ナトリウムとエリソルビン酸ナトリウムとシスチンとの相互作用により、優れた甲殻類の黒変防止効果を有する。また、亜硫酸や亜硫酸塩などの人体に対して毒性を有する物質を含んでおらず、人体に対して無害である。
【0016】
本発明の実施の形態の甲殻類の黒変防止剤の、各成文の配合量などを検討するために、本発明の実施の形態の甲殻類の黒変防止処理方法を利用して、以下の試験を行った。
【0017】
[黒変評価試験方法および黒変評価方法(4ブロック採点法)]
試験対象として、エビ(フィリピン産ブラックタイガー)を使用した。試験は、まず、エビを試験試料の溶液に1分間浸漬させた後、液を切り、一旦凍結させてから解凍し、20℃で16時間保管した。保管後、95℃で5分間ボイルし、冷却させ後、黒変の程度に応じて採点を行った。
【0018】
図1に示すように、エビの身体を「頭1」、「頭2」、「腹」、「尾」の4つのブロックに分割し、各ブロック毎に黒変の程度を得点化して、その合計点で採点を行った。黒変の程度は、目視で判断し、各ブロック毎に色調により0〜2点の範囲で採点を行った。採点は、黒変の程度が高いものが高得点になるように設定した。「頭2」のブロックは、胸脚の付け根部分が黒変しやすいため、その影響を反映させるよう、胸脚の付け根から背に向かって1/3以上が黒変している場合に、0.5点加点した。また、「腹」のブロックは、腹肢の付け根部分が黒変しやすいため、その影響を反映させるよう、腹肢6節中、3〜4節が黒変している場合に、0.5点減点、腹肢6節中、1〜2節が黒変している場合に、1点減点した。これにより、黒変が著しい未処理の場合、8.5点満点となる。
【0019】
以下の各試験は、それぞれエビ9匹を使用し、各エビについて採点を行った。各エビの得点の平均点を計算し、満点の8.5点が100点になるよう換算した。
【0020】
[各成分単独の場合の黒変防止効果の検討]
アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸ナトリウムおよびシスチンのうち、アスコルビン酸ナトリウムのみを3質量%、2質量%、1質量%含む試料(試験番号3〜5)、エリソルビン酸ナトリウムのみを3質量%含む試料(試験番号6)、シスチンのみを3質量%含む試料(試験番号7)について試験を行った。また、比較例として、未処理のもの(試験番号1)、市販の亜硫酸製剤を0.5質量%含む試料(試験番号2)についても試験を行った。試験結果を、表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
表1に示すように、アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸ナトリウムおよびシスチンの各成分を単独で含む場合には、未処理のものに比べれば黒変防止効果は高いが、市販の亜硫酸製剤を含む試料に比べると、黒変防止効果が低いことが確認された。また、アスコルビン酸ナトリウムのみを3質量%含む試料(試験番号3)が、最も黒変防止効果が高く、亜硫酸製剤を含む試料(試験番号2)に近い効果が得られることが確認された。
【0023】
このように、アスコルビン酸ナトリウムの添加量を増やせば、短期的な黒変防止効果を期待することはできる。しかし、アスコルビン酸ナトリウムは光に分解されやすく、比較的不安定であるため、長期的な黒変防止効果を期待することはできない。このため、アスコルビン酸ナトリウム単独ではなく、エリソルビン酸ナトリウムおよびシスチンと組み合わせることにより、長期的な黒変防止効果を有する製剤を得ることを目的として、以下の試験を行った。
【0024】
[エリソルビン酸ナトリウムの添加量の検討]
エリソルビン酸ナトリウムの添加量を検討するために、エリソルビン酸ナトリウムの添加量を0〜3質量%の範囲で、0.5質量%ずつ変化させた試料(試験番号8〜14)について試験を行った。なお、試験試料には、アスコルビン酸ナトリウムが2質量%、シスチンが0.5質量%添加されている。試験結果を、表2に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
表2に示すように、エリソルビン酸ナトリウムを1質量%以上含む場合(試験番号10〜14)に、一定以上の黒変防止効果が得られることが確認された。特に、エリソルビン酸ナトリウムを1質量%含む試料(試験番号10)、および、2.5質量%含む試料(試験番号13)が、黒変防止効果が高く、亜硫酸製剤を含む試料(表1の試験番号2)と同程度の効果が得られることが確認された。
【0027】
表1に示す各成分を単独で含む場合の試験結果では、アスコルビン酸ナトリウム単独の場合の方が、エリソルビン酸ナトリウム単独の場合よりも黒変防止効果が高いことが確認されている。このため、アスコルビン酸ナトリウムの添加量の方がエリソルビン酸ナトリウムの添加量よりも多くなるよう、アスコルビン酸ナトリウムを2質量%、エリソルビン酸ナトリウムを1質量%含むよう設定して、以下の試験を行った。
【0028】
[シスチンの添加量の検討]
シスチンの添加量を検討するために、シスチンの添加量を0〜1質量%の範囲で、0.25質量%ずつ変化させた試料(試験番号10、15〜18)について試験を行った。なお、試験試料には、アスコルビン酸ナトリウムが2質量%、エリソルビン酸ナトリウムが1質量%添加されている。試験結果を、表3に示す。なお、試験試料10は、表2に示した結果と同じものである。
【0029】
【表3】

【0030】
表3に示すように、シスチンを0.5質量%含む試料(試験番号10)、および、1質量%含む試料(試験番号18)が、黒変防止効果が高く、亜硫酸製剤を含む試料(表1の試験番号2)と同程度の効果が得られることが確認された。
【0031】
[シスチン以外のアミノ酸を使用した場合との比較検討]
シスチン以外のアミノ酸を使用した場合との比較検討を行うため、アミノ酸としてグリシンを0.5質量%含む試料(試験番号19)、および、リジンを0.5質量%含む試料(試験番号20)について試験を行った。なお、試験試料には、アスコルビン酸ナトリウムが2質量%、エリソルビン酸ナトリウムが1質量%添加されている。試験結果を、表4に示す。なお、比較のため、表2の試験試料10の結果も示している。
【0032】
【表4】

【0033】
表4に示すように、シスチンの代わりにグリシンやリジンを添加しても高い黒変防止効果は得られるが、シスチンを添加した場合の方が黒変防止効果が高いことが確認された。
【実施例1】
【0034】
試験試料として、アスコルビン酸ナトリウム2.0質量部に対して、エリソルビン酸ナトリウムを0.8乃至1.2質量部、シスチンを0.01乃至0.6質量部含む甲殻類の黒変防止剤(試験番号3)を使用して、フィリピン産ブラックタイガーの黒変評価試験および甘エビの味の評価試験を行った。
【0035】
試験は、まず、ブラックタイガーを試験試料の溶液に1分間浸漬させた後、液を切り、一旦凍結させてから解凍し、20℃で16時間保管した。保管後、95℃で5分間ボイルし、冷却させた後、黒変の程度に応じて採点を行った。黒変の評価は、表1〜4と同様の方法で行った。次に、甘エビを試験試料の溶液に1分間浸漬させた後、液を切り、一旦凍結させてから解凍した。解凍後、試食を行い、味の評価を行った。比較のため、未処理のもの(試験番号1)、市販の亜硫酸製剤を含む試料(試験番号2)についても同様に試験を行った。各試験では、それぞれエビ10匹を使用した。試験結果を、表5に示す。
【0036】
【表5】

【0037】
表5に示すように、甲殻類の黒変防止剤を含む試料(試験番号3)および亜硫酸製剤を含む試料(試験番号2)が、黒変防止効果が高く、互いに同程度の効果を有することが確認された。また、亜硫酸製剤を含む試料(試験番号2)では、甘エビの風味が落ちるのに対し、甲殻類の黒変防止剤を含む試料(試験番号3)では、風味への影響はほとんどないことが確認された。これらの結果から、甲殻類の黒変防止剤を含む試料(試験番号3)は、未処理のもの(試験番号1)および亜硫酸製剤を含む試料(試験番号2)と比べ、黒変防止効果に優れると同時に、風味への影響も少ないといえる。また、甲殻類の黒変防止剤は、生食用の甘エビなどに対して、特に優れた効果を発揮することができる。
【実施例2】
【0038】
試験試料として、アスコルビン酸ナトリウム2.0質量部に対して、エリソルビン酸ナトリウムを0.8乃至1.2質量部、シスチンを0.01乃至0.6質量部含む甲殻類の黒変防止剤を使用して、ズワイガニの黒変評価試験を行った。
【0039】
試験は、まず、ズワイガニを半分に切断し、試験試料の溶液に1分間浸漬させた後、液を切り、冷蔵保存した。冷蔵保存前および冷蔵保存6時間後の黒変の状態について観察を行った。なお、比較のため、未処理のもの、市販の次亜硫酸ナトリウムを242.5ppm含む試料についても同様に試験を行った。各試験では、それぞれズワイガニ3匹を使用した。
【0040】
試験の結果、甲殻類の黒変防止剤を含む試料および次亜硫酸ナトリウムを含む試料が、黒変防止効果が高いことが確認された。また、甲殻類の黒変防止剤を含む試料は、次亜硫酸ナトリウムを含む試料と同程度またはそれ以上の黒変防止効果を有することも確認された。
【0041】
なお、本発明の実施の形態の甲殻類の黒変防止剤は、さらにデキストリンを含んでいてもよい。この場合、デキストリンの被膜効果や、浸透圧が低く浸透しやすい性質により、甲殻類の黒変防止効果をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施の形態の甲殻類の黒変防止剤および甲殻類の黒変防止処理方法の黒変評価試験で使用するエビを、黒変評価を行う4つのブロックに分割したときのブロック区分を示す平面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスコルビン酸またはアスコルビン酸ナトリウムと、エリソルビン酸またはエリソルビン酸ナトリウムと、シスチンとを含むことを、特徴とする甲殻類の黒変防止剤。
【請求項2】
前記アスコルビン酸または前記アスコルビン酸ナトリウム2.0質量部に対して、前記エリソルビン酸または前記エリソルビン酸ナトリウムを0.8乃至3.1質量部、前記シスチンを0.01乃至1.1質量部含むことを、特徴とする請求項1記載の甲殻類の黒変防止剤。
【請求項3】
前記アスコルビン酸または前記アスコルビン酸ナトリウム2.0質量部に対して、前記エリソルビン酸または前記エリソルビン酸ナトリウムを0.7乃至1.3質量部、前記シスチンを0.4乃至0.6質量部含むことを、特徴とする請求項1記載の甲殻類の黒変防止剤。
【請求項4】
さらにデキストリンを含むことを、特徴とする請求項1、2または3記載の甲殻類の黒変防止剤。
【請求項5】
請求項1、2、3または4記載の甲殻類の黒変防止剤に、甲殻類を所定の時間浸漬させることを、特徴とする甲殻類の黒変防止処理方法。



【図1】
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【公開番号】特開2009−291156(P2009−291156A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149887(P2008−149887)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(591219566)青葉化成株式会社 (21)