説明

画像処理装置、画像処理システム、及びプログラム

【課題】トナー表面上の電荷分布をSPM探針に誘導される電流の測定値をもとに逆推定することができる画像処理装置、画像処理システム、及びプログラムを提供する。
【解決手段】カンチレバーに接続する導電性のプローブがカンチレバーとともに振動しながら帯電表面を非接触で走査し、かつプローブの変位を検出する検出手段、帯電表面上の電荷によりプローブに誘導される電荷を交流電流として計測する計測手段、及び、数式(A)で示される連立1次方程式から表面電荷xjを逆推定する逆推定手段を有する走査プローブ顕微鏡。i = ai1x1 + ai2x2 +‥ aijxj + ‥ + aiNxN ( i = 1, 2, ‥N )…(A)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型プローブ顕微鏡(Scanning Probe Microscope)を用いた画像処理装置、画像処理システム、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真で用いられるトナーは平均粒径が6-10μm程度の帯電した微粒子であって、静電場によって感光体上に現像され画像として顕像化する。
トナーはブレードやキャリアビーズ(粒径30-100μm程度)との接触によって帯電するので、トナー表面は完全に均一に帯電しているわけではなく、局所的な帯電領域が点在していると考えられている。
この帯電領域の分布、すなわちトナー表面の電荷分布によってトナーと感光体との間の静電的付着力やトナー間の静電的付着力が大きく変わる。
トナーの付着力はトナー挙動を支配する重要な要因であるので、トナー画像の形成に大きな影響を与える。付着力がトナー表面に分布した局所的な電荷による静電気力であるため、トナー表面の電荷分布を知ることが、トナー画像の形成プロセスを最適化するために重要である。そして従来のようにトナーを点電荷として扱うのではなく、表面の局所電荷の集まりとして捉える必要がある。
【0003】
トナー表面の電荷分布を知るために、走査型プローブ顕微鏡(Scanning Probe Microscope:SPM)を用いた計測が試みられている。SPMは表面形状を計測するAFM(原子間力顕微鏡:Atomic Force Microscope)や表面電位を計測するKFM(ケルビンフォース顕微鏡:Kelvin Force Microscope)などの総称であり、曲率半径10-20 nm(ナノメートル)程度の鋭い先端を持つ探針1を試料表面上で走査して表面の性質を知る方法である。
探針1はカンチレバー2の先端に取り付けられており表面から力(原子間力、分極力、クーロン力など)を受ける。その結果、カンチレバー2はたわみ、このたわみ量(変位量)を計測することで探針1に加わる力を検知する(図2参照)。カンチレバー2のバネ定数は0.01-100 N/m程度まで種類が多い。尚、図2は、AFMの原理説明図である。
【0004】
探針1の変位量を計測する方法は光てこ方式と呼ばれ、図2に示すようにカンチレバー2の背面に照射したレーザスポット光の反射光を4分割のフォトダイオードで検出する。変位検出の分解能は0.1 nm程度である。このため、カンチレバー2のバネ定数が1.0 N/m のとき、力に換算すると0.1nNである。この程度の力検出の分解能があれば原子間力(分子間力)を検出可能である。
【0005】
表面形状を計測するAFMでは、探針1の先端が表面に原子スケールで接近(およそ距離 1nm以下)した場合に働く原子間力を検知して、その力(すなわち変位量)が一定となるように圧電アクチュエータを用いた微小駆動によりカンチレバー2を垂直方向(z方向)に移動させる。同時に水平面(xy平面)方向に圧電アクチュエータで探針1を走査すれば表面形状が得られる。探針1の位置の垂直分解能は1pm、水平分解能は0.1 nm程度である。トナー3の表面形状測定(図3参照)では外添剤シリカ(粒径10nm程度)も明瞭に判別できる。なお、図3は、AFMによるトナー表面形状測定図の一例である。
【0006】
AFMの方式は大別して接触式及び非接触式の2種類がある。接触式AFMは探針1の先端と試料表面との間の斥力を検知しながら探針1を走査する方法である。この場合、探針や試料表面を構成する原子・分子の電子雲は重なることになるため、試料表面の原子スケールでの破壊が起こる。表面が帯電している場合は電荷がリークする確率が高い。なお、試料表面の破壊を低減するためにカンチレバー2を振動させて表面をタッピングしながら走査する方式もある。
【0007】
ここで、トナー表面の電荷分布を計測するためにまず表面形状を知る必要があるが、電荷のリークを防ぐため非接触AFMで計測されるべきである。
非接触AFMはカンチレバー2を共振周波数で振動させながら、探針1の先端を試料表面のごく近傍まで近づけて、探針1の先端と試料表面間の引力を検知しながら走査する方法である。振動している探針先端に表面ごく近傍(距離1nm以下)で働く分子間引力(原子間引力)が作用すると、引力の大きさに応じて振動振幅が変化する。この変化量を一定に保ちながら水平面(xy平面)方向に探針1を走査して表面形状を得る。分子間引力による周波数変化を検知する方式もあり、いずれの方式も高精度に試料表面からの引力を検知できるので非接触のまま走査が可能である。
【0008】
KFMは、導電性の探針を用いて静電気力の計測により表面ポテンシャル(表面電位)の分布を計測する顕微鏡である。物質中の電子が持つ最も大きなエネルギー準位をフェルミ準位と呼ぶが、このフェルミ準位にある電子を真空中に取り出すためのエネルギーを表面ポテンシャル(表面電位)と呼ぶ。固体表面上の電位のことではない。
【0009】
KFMの測定原理を図4(a)〜(c)を参照し、試料が導電性の場合で説明する。
図4(a)〜(c)は、KFM測定の原理説明図である。図(a)〜(c)において、上側の図は短針近傍の概念図を示し、下側の図はフェルミ準位を含む準位図を示している。
まず、探針1と試料6とは当然フェルミ準位が異なり、表面ポテンシャル(表面電位)が異なっている(図4(a)参照)。探針1と試料6とを電気的に接続すると(図4(b)参照)、両者のフェルミ準位が等しくなるように電子が移動して探針1−試料6の表面間は電位差Δφ=φt−φsを生じる(φt,φsは探針1、試料6の表面ポテンシャル)。これは探針1と試料6とがコンデンサを形成して静電引力が働いていることを意味する。ここで、両者の間にバイアス電圧Vを印加して(図4(c)参照)静電引力がゼロになるようにすると、表面ポテンシャル(表面電位)の差Δφが求められる。
通常の計測方法では、探針を試料表面から一定のgap(探針先端と試料表面との間の距離)10を保ったまま走査し、探針1には次式(1)で表わされる交流電圧を印加する。
尚、本明細書において、数式はイタリック体を用いている。
【0010】
【数1】

【0011】
そして、探針1に働くz方向の力Fzの周波数ωの成分がゼロとなるような直流バイアス電圧VDCをその位置でのΔφに相当するとする。VACはVDCと同程度に設定する。
【0012】
ここで、VDCの意味を知るために、まず探針1に働いているz方向の力Fzを求めておく。コンデンサ(探針)に電荷Qが蓄えられ、電圧がVに保たれている場合、全系のエネルギーはコンデンサと電池の持つエネルギーとの和となる。この状態で電極である探針1を垂直方向(z方向)に動かすと次式(2)で表わされる力が働く。
【0013】
【数2】

【0014】
探針1がz方向へΔz変位すると静電容量がΔC変化してΔQの電荷が探針1から電源としての電池4へ戻されるので、次式(3)で表され、
【0015】
【数3】

【0016】
したがって、力Fzは次式(4)で表される。
【0017】
【数4】

【0018】
平行板コンデンサの場合、静電容量Cは1/zに比例することからもわかるように、通常∂C/∂z<0であり、Fz<0(引力)である。数式(4)は原点を頂点とする上に凸の放物線である。上式(4)に数式(1)で表わされる印加電圧とΔφとの和を代入すると、次式(5)となり、
【0019】
【数5】

【0020】
周波数ωの成分がゼロとなるのは、次式(6)、(7)からわかる。
【0021】
【数6】

【0022】
【数7】

【0023】
KFMは通常、表面ポテンシャル(表面電位)の測定に使われるが、この方法をトナー表面の電荷分布計測に適用する方法を示す。
【0024】
絶縁体であるトナー表面上に電荷が存在する場合を考える。再び数式(2)-(4)で行った方法で任意形状の探針1に働く力Fzと電極間電位差(トナーは接地基板電極上に設置される)Vとの関係を求める。
探針1の表面には電圧が印加されていない初期状態でも、トナー表面電荷(正電荷とする)により誘導された電荷−Q0( Q0 > 0 )が存在している。すなわち、次式(8)
【0025】
【数8】

【0026】
が成り立っており、探針1がz方向へΔz変位するとトナー表面電荷により誘導される電荷−Q0も変わるので、次式(9)
【0027】
【数9】

【0028】
で表され、したがって、数式(3)の替わりに次式(10)
【0029】
【数10】

【0030】
で表される。力Fzは次式(11)で表される。
【0031】
【数11】

【0032】
上式(11)で表わされる力Fzは、探針1に電圧Vを印加して静電エネルギーが増加することで生じる力であるが、V=0のときも探針1にはトナー表面電荷による引力−F0( F0 > 0 )が働いている。したがって、力Fzは次式(12)
【0033】
【数12】

【0034】
となる。平方完成すると次式(13)となる。
【0035】
【数13】

【0036】
上式(13)も上に凸の放物線であるが、V軸と交わるか否かなどグラフの形状はコンデンサ容量やトナー表面電荷によって決まる。しかし、この場合も数式(1)で表わされる印加電圧とΔφとの和を代入すると、Fzの交流成分がゼロになる条件はVDC+Δφが放物線頂点を与える直流印加電圧=(∂Q0/∂z)/(∂C/∂z)に等しいことであることがわかる。そして、この値はトナー表面電荷のみによって決まるのではなく、探針1の形状や配置に起因するコンデンサの静電容量によっても変わる。
【0037】
VDCは直流電圧を印加した場合に探針1が表面から最も離れるときの印加電圧とも言える。Δφはそれに比べて十分に小さいため無視できる。すなわち、Fzへの寄与は表面ポテンシャル(表面電位)ではなく表面電荷が主である。
なお、KFM測定で得られた結果は表面ポテンシャル分布(表面電位分布)と呼ばれているが、絶縁体表面上の電荷分布を計測する場合はこの名称は不適当である。そこで、以降は探針印加電圧分布、あるいは簡単に印加電圧分布と呼ぶことにする。
【0038】
トナー表面電荷分布を通常のKFMの方法で計測する場合、まず非接触AFMによりトナー表面形状を測定した後、表面から一定の距離(50nmあるいは100 nm程度)だけ探針1をリフトさせてこのgap10を一定に保ったまま表面上を再走査して行う。この再走査のときカンチレバー2は振動させていないが、数式(1)の交流印加電圧により微小な振動が起こっている。この微小変位を光てこ方式で検出する。ロックインアンプを用いることで周波数ωの変位成分のみを高精度に検出できる。gap10を一定に保つのはコンデンサの静電容量を一定にするためである。
【0039】
次に、トナー表面上に適当な電荷分布を与えたとき、KFM測定で得られる探針印加電圧分布がどのようになるかを、KFMのシミュレーションを行うことで調べる。
シミュレーションでKFM計測を模擬するためには、図5に示したような探針、トナーとトナーを保持する導電性テープ(アース基板)とを含めた系で静電場解析を行い探針に加わるz方向の力Fzを計算することが必要になる。尚、図5は、トナーと探針からなる系の静電場計算モデルの一例である。図5において、7は接地基板を示し、8は探針先端部を示す。
探針先端8の曲率半径は20 nm程度であり、探針1-トナー間隙であるgap10は100 nmと微細な領域での精密な静電場計算が必要なため、3次元境界要素法を用いた。入力データとしてトナー表面の電荷分布を与え、探針1に電圧を印加して静電場計算を行う。
【0040】
粒径6μmの球形トナーに対し、Q/M=25μC/gで球面上に4ヶ所の円形の帯電部分があると仮定して(図6参照)、その面電荷密度σを10-3または10-4 C/m2で一定とした場合、あるいは1+coskθで変化させた場合で計算した。なお、本シミュレーションではトナー表面電荷の極性は正として計算している。また、図6は、トナー表面電荷の計算モデル図の一例である。
通常のKFM計測では探針は2次元的に走査されるが、計算では主に軸対称の電荷分布を扱うため、x軸上のみの走査として、gap = 50、100 nmを保って上半球面上-3.0μm < x < 3.0μmを移動する。
【0041】
まず、数式(12)、(13)で与えられる探針1に働く力Fzと印加電圧Vとの関係を調べた。探針1の位置はトナー天頂部(gap = 100 nm)に固定してFz−V曲線を計算で求めた結果を図7(a)、(b)、(c)に示す。図7(a)〜(c)中に示す3種類の探針形状(A)〜(C)に対して図6で示した2通りのトナー表面電荷分布を与えて計算したものである。尚、図7(a)は、探針Aを用いた場合のFz−探針印加電圧の計算結果の一例であり、図7(b)は、探針Bを用いた場合のFz−探針印加電圧の計算結果の一例であり、図7(c)は、探針Cを用いた場合のFz−探針印加電圧の計算結果の一例である。図7(a)〜(c)において、横軸は電圧Vapplyを示し、縦軸は、探針1に働く力Fzを示す。
【0042】
実際の測定に用いている探針の形状は図8(a)、(b)に示したように長さ15μm、探針の先端の曲率半径20nm、探針の底面の幅5μm程度であるが、これを底面の直径5μmの円錐形状として近似して、さらにカンチレバーに相当する部分を円錐底面につながる円板として形状追加した。
【0043】
図7(a)〜(c)に示す3つのグラフから探針形状(特に円板部分の有無)によって放物線頂点のV0の値、すなわちKFM測定値VDCが大きく異なることがわかる。σ= 10-3 C/m2の面電荷が4ヶ所帯電している場合(図6の左側の計算モデル)、探針形状A , B , Cに対してKFM測定値VDCはそれぞれ22 , 10.5 , 7.0 Vとなっており、探針の円板部分が大きくなるほどKFM測定値VDCは小さくなっている。σ= 10-4 C/m2の面電荷が4ヶ所存在する場合も同様である。
以上の計算結果より、KFM測定値VDCは探針形状やgap10によって大きく変わるため、表面電荷の絶対値とKFM測定値VDCとの関係は一義的には決まらない。
【0044】
次に、探針をx軸上に走査した場合の計算結果を示す。
探針を走査しながら各位置で図7(a)、(b)、(c)で示したようなFz-V放物線の頂点位置を求めていく。探針形状は図7の(c)を用いた。
表面電荷はトナー天頂部分の面電荷のみとする。帯電部分の面積dSをトナー球面積Sに対して2,5%として、面電荷密度σは次式(14)のように中央で最大値を取り、円周部でゼロとなるように変化させている。なお、gap 10= 100 nmである。
【0045】
【数14】

【0046】
KFMシミュレーションの計算結果を図9に示す。
図9において、横軸は、x座標の位置を示し、左縦軸は電圧Vapplyを示し、右縦軸は面電荷密度σを示す。
dS/S = 2,5%のいずれの場合も電荷の存在する領域に対して、KFM測定値であるVDCの分布、すなわち印加電圧分布は大きく広がっている。dS/S = 2 %の場合、面電荷密度σの半値幅(FWHM)0.96μmに対して印加電圧分布の半値幅は1.72μmとなっている。半値幅(FWHM)に相当する面積は3.2倍程度に広がっている。
【0047】
次の計算例は、図10に示すように直径100 nmの微小円形の帯電領域(σ=10-3 C/m2)を2つ設定して、この2つの帯電円の間隔を変えて、KFMのシミュレーションを行ったものである。gap 10= 50, 100 nmである。
【0048】
図11(a)、(b)は2つの帯電円の間隔が120, 414 nmの場合のKFMのシミュレーションの計算結果であるが、gap = 100 nmのときは2つの帯電円を分解できておらず、gap = 50 nmの場合でもピークの半値幅はおよそ3倍以上に広がっている。
【0049】
以上の計算結果では、トナー表面上の面電荷分布に対してKFM測定値であるVDCの分布は、半値幅にしておよそ2〜3倍(面積では4〜9倍)以上に広がっている。この理由はクーロン力が長距離まで及ぶためである。したがって、表面電荷分布を通常のKFMで測定する場合、特に探針の大きさよりも小さな領域での表面電荷分布は十分な空間分解能が得られないことがわかる。探針をさらに表面に近接させても、表面電荷から静電気力を受けるのは探針先端のみではなく探針全体であるため,分解能はそれほど向上しないと考えられる。また、探針の側面がトナー表面の凸部に接触する危険があり、さらにgapを狭めることは測定上困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0050】
表面電荷を計測するための技術としては、従来のKFMを改良した方法が特許文献1,2などに示されている。また、感光体の表面電位をKFMで計測する方法も特許文献3,4,5などに示されている。しかし、いずれも上述したように計測される探針印加電圧分布は表面電荷分布よりも大きく広がってしまうという問題がある。
【0051】
以上に述べたように、従来のKFM(ケルビンフォース顕微鏡:Kelvin Force Microscope )を用いてトナー表面の電荷分布を計測すると、KFM測定値であるVDCの分布は電荷分布より大きく広がってしまい、空間分解能が低いことが課題である。本発明はその解決手段を提供するものである。
【0052】
すなわち、本発明の目的は、トナー表面上の電荷分布をSPM探針に誘導される電流の測定値をもとに逆推定することができる画像処理装置、画像処理システム、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0053】
本発明に係る請求項1の発明は、走査プローブ顕微鏡を有する画像処理装置において、カンチレバーに接続する導電性のプローブが前記カンチレバーとともに振動しながら帯電表面を非接触で走査し、かつ前記プローブの変位を検出する検出手段、帯電表面上の電荷により前記プローブに誘導される電荷を交流電流として計測する計測手段、及び、数式(A)で示される連立1次方程式から表面電荷xjを逆推定する逆推定手段を有することを特徴とする。i = ai1x1 + ai2x2 +‥ aijxj + ‥ + aiNxN ( i = 1, 2, ‥N )…(A)
ここで、i は導電性プローブが走査位置、i にあるときにプローブ上に誘導される電荷または電流、x1,x2,‥xj,‥,xN は帯電表面上のN個の場所に分布する電荷または面電荷密度、ai1,ai2,‥aij,‥,aiN は比例係数。
【発明の効果】
【0054】
本発明によれば、トナー表面上の電荷分布をSPM探針に誘導される電流の測定値をもとに逆推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】(a)は、本発明に係る画像処理装置に用いられるトナー表面電荷分布測定装置図の一例であり、(b)は、本発明に係る画像処理装置に用いられるトナー表面電荷分布測定装置図の他の一例である。
【図2】AFM装置の原理説明図である。
【図3】AFM装置によるトナー表面形状測定図の概念図である。
【図4】(a)〜(c)は、KFM測定の原理説明図である。
【図5】トナーと探針とからなる系の静電場計算モデルの一例である。
【図6】トナー表面電荷の計算モデル図の一例である。
【図7】(a)は、探針Aを用いた場合のFz−探針印加電圧の計算結果の一例であり、(b)は、探針Bを用いた場合のFz−探針印加電圧の計算結果の一例であり、(c)は、探針Cを用いた場合のFz−探針印加電圧の計算結果の一例である。
【図8】(a)は、SPM探針の外観斜視図であり、(b)は、SPM探針の正面図である。
【図9】KFMシミュレーションの計算結果の一例である。
【図10】トナー表面電荷の計算モデル図の一例である。
【図11】(a)は、KFMシミュレーションの計算結果の一例であり、(b)は、KFMシミュレーションの計算結果の他の一例である。
【図12】探針誘導電流計測のモデル図の一例である。
【図13】トナー表面のメッシュ分割例である。
【図14】トナー表面電荷分布の逆解析結果の一例であり、(a)〜(c)は電荷分布(入力値)を示し、(d)〜(f)は探針誘導電荷を示し、(g)〜(i)は電荷分布(逆解析結果)を示す。
【図15】(a)は、トナー天頂部の面電荷分布(入力データ)の一例であり、(b)は、トナー天頂部の面電荷分布(入力データ)の他の一例である。
【図16】(a)は、VDC分布(計算値)の一例であり、(b)は、VDC分布(計算値)の他の一例である。
【図17】(a)は、表面電荷分布の逆解析結果(探針C)の一例であり、(b)は、 表面電荷分布の逆解析結果(探針C)の他の一例である。
【図18】実際の探針形状を用いた計算モデルの一例である。
【図19】(a)は、表面電荷分布の逆解析結果(実際の探針形状)の一例であり、(b)は、表面電荷分布の逆解析結果(実際の探針形状)の他の一例である。
【図20】本発明に係る画像処理システムのブロック図の一例である。
【図21】実施例1(SPM)の場合の動作を説明するためのフローチャートの一例である。
【図22】実施例2(KFM)の場合の動作を説明するためのフローチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
トナーと探針からなる系で高精度な静電場計算を行い、トナー表面の真電荷とそれによって探針に誘導される電荷との間の線形な関係を求めることにより、トナー表面上の電荷分布{σj }を未知数とする連立1次方程式に帰着させてこの解を求める。
【0057】
<実施の形態1>
本発明に係る画像処理システムは、トナー表面の電荷が導電性のSPM探針表面上に誘導する電荷量の測定値から、トナー表面の電荷分布を逆推定する方法を与えるものである。
図1(a)は、本発明に係る画像処理システムに用いられる計測装置の概念を示す図である。図20は、本発明に係る画像処理システムのブロック図の一例である。
図20において、画像処理システム20は、画像処理装置としての走査プローブ顕微鏡21と、走査プローブ顕微鏡21を制御する情報処理装置の一例であるパーソナルコンピュータ(PC:Personal Computer、以下、PCと表記)22と、を有するシステムである。
走査プローブ顕微鏡21としては、公知の走査プローブ顕微鏡が挙げられる(例えば、特許文献4、5)。
【0058】
PC22は、I/O24、CPU(Central Processing Unit:中央演算処理装置)25、表示部26、ROM(Read Only Memory)27、RAM(Random Access Memory)27、HDD(Hard Disc Drive)29及び操作部30を有する。31はバスラインである。
I/O24は、走査プローブ顕微鏡21とケーブル23で接続するためのインターフェースであり、例えば、USB(Universal Serial Bus line)ポートが挙げられる。
CPU25は、PC22を統括制御するための回路であり、例えば、マイクロプロセッサが挙げられる。
表示部25は、画像、文字、数字等の画像情報を表示する装置であり、モニター及び駆動回路を有する。モニターとしては、例えば、液晶表示素子が挙げられる。
ROM27は、PC22の制御プログラムが格納された記憶回路であり、例えば、マスクROMが挙げられる。
RAM28は、ROM27から読み出した制御プログラムや操作部30の指示データ等を一時的に保存するための記憶回路であり、例えば、フラッシュメモリが挙げられる。
HDD29は、走査プローブ顕微鏡21からの画像情報を記憶するための回路である。
操作部30は、PC22を操作するための装置であり、例えば、各種スイッチ、キーボード、マウス、タッチパッドが挙げられる。
【0059】
図1(a)において、導電性のSPM探針1は、電流計16を介して接地されており、トナー3の表面上を一定のgap10を保って走査される。また、予めトナー3の表面の形状は非接触AFMにより計測済みとする。トナー3の上半分の表面(球形トナーの場合は上半球面)上の電荷分布を求めることを考える。
上記トナー3の表面の全部または一部を図12に示すようにメッシュ分割して、メッシュ14,15の番号を1, 2, 3‥Nとする。図12は、探針誘導電流計測のモデル図の一例である。
それぞれのメッシュ14,15上の面電荷密度σj( j = 1, 2, 3‥N )と探針1に誘導される電荷量との関係を求めると次式(15)のように表される。
【0060】
【数15】

【0061】
ここで、Qiは探針1の先端がメッシュ番号iの真上に設定されているときに探針1の表面全体に誘導される電荷量である。上式(15)のように表現できる理由は、Qiをメッシュ14,15上の個々の面電荷密度σjそれぞれが単独で探針1の表面上に誘導する電荷の重ね合わせとして表現できるからである。すなわち、線形重ね合わせが可能である。そのときの係数をAi jとしている。
探針1の位置をi = 1, 2, 3‥Nまで走査して誘導電荷を計測すれば、 N個の連立1次方程式が得られ、N×Nの行列Aとσj およびQiの列ベクトルとを用いて表わせば次式(16)となる。
【0062】
【数16】

【0063】
行列成分Aij は数式(15)からわかるように、トナー3の表面上のj番目のメッシュ14の位置に存在する面電荷密度を1(σj = 1 )として、他のメッシュ15上の面電荷密度をすべてゼロとしたときに、i番目の位置にある探針1に誘導する全電荷に等しいので、トナー3と探針1からなる系(図12)の静電場を計算することにより求めることができる。メッシュ位置をj= 1, 2, 3‥N,探針1の位置をi = 1, 2, 3‥Nとして同様の静電場を計算することにより,N×N個の行列成分Aij を求めることができる。すなわち、誘導電荷Qi( i = 1, 2, 3‥N )を計測できれば、数式(16)からメッシュ上の面電荷密度σjを逆推定することができる。
【0064】
しかし、探針1に誘導される電荷Qi( i = 1, 2, 3‥N )は極く微小で計測が困難なため、振動する探針1に流れる誘導電流を測定する。実際の非接触AFMによる表面形状の計測の例では、探針1は100 kHzで固有振動して振幅は40 nm程度なので、探針1の先端は表面とのgap 10= 1 nm以下まで近づき、最も遠ざかるときはgap = 81 nm程度になる。そのため、gap = 1 , 81 nmのときに誘導される電荷の差が100 kHzの交流電流として観測できる。この測定にはロックインアンプを用いることができる。したがって、次式(17)、(18)、及び数式(17)-数式(18)である式(19)によりメッシュ上の面電荷密度{σj }を求めることができる。
【0065】
【数17】

【0066】
【数18】

【0067】
【数19】

【0068】
ここで、Qgap1 ,Qgap81 はそれぞれgap 10= 1 , 81 nmのときに探針1に誘導される電荷量であり、ΔQ は交流の誘導電流の測定値Iindから換算したgap = 1 , 81 nmのときの電荷量の差である。探針1が最下点(gap = 1)から最上点(gap = 81)まで移動する時間をΔtとすれば、Iind=ΔQ /Δtの関係がある。探針1が100 kHzで振動しているとすれば、Δt=5μsとなる。
【0069】
[A gap1 ]、[A gap81 ]はそれぞれgap = 1 , 81 nmのときに式(16)に相当する行列であり、[A]はそれらの差である。
【0070】
なお、探針1に誘導される電荷量はgap 10= 5 nm以下ではほとんど変わらないことが静電場計算により確認できるので、探針1が表面に最近接するときの距離を厳密に規定しなくても良い。
【0071】
次に、上記の電荷分布の逆推定方法をシミュレーションにより検証した例を示す。探針1は2 nm < gap < 80 nmの範囲で振動しているとする。
トナー3は直径6μmの球として表面形状は既知である。トナー3の天頂部周辺のみを図13に示すように25個の微小領域に離散化する。
図13は、トナー表面のメッシュ分割例である。
領域の番号は( ix , iy )、( ix = 1‥5 ,iy = 1‥5 )で表わしている。探針1の位置をこれらの微小領域の中心位置として、gap 10= 2 , 80 nmのときの誘導電荷を計算する。
行列成分の計算では、図13で表わす25個の中の1つの領域の面電荷密度をσ=1として計算する。gap10 = 2 , 80 nmの場合について、探針1の位置、単位表面電荷密度の位置をそれぞれ25通りに変えて計算するため、25×25×2=1250回の静電場計算が必要になる。
メッシュ17上にはσj( j = 1, 2, 3‥25 )を既知として与える。探針1を走査してそれぞれのメッシュ17上でgap10 = 2 , 80 nmのときの誘導電荷を静電場計算により求め、その差{ΔQi }を測定データとみなして{σj }を逆推定する。このようにして得られた{ΔQi }は測定誤差のないデータと言える。但し、本来{ΔQi }は計測によって得られるものである。
【0072】
計算結果を図14(a)〜(i)に示す。図14(a)〜(i)は、トナー表面電荷分布の逆解析結果の一例である。すなわち、図14(a)〜(c)は電荷分布(入力値)を示し、図14(d)〜(f)は探針誘導電荷を示し、図14(g)〜(i)は電荷分布(逆解析結果)を示す。
【0073】
図14における左側の列(a)〜(c)は設定したトナー表面電荷分布(入力データ)で、次の3通りとした。
(A)領域( ix , iy )=( 3 , 3 )でσ= 10-3 C/m2
(B)領域( ix , iy )=( 2 , 3 )および( 4 , 3 )でσ= 10-3 C/m2
(C)領域( ix , iy )=( 2 , 3 )でσ= 10-3 C/m2
( ix , iy )=( 4 , 3 )でσ= 0.3×10-3 C/m2
図14における中央の列(d)〜(f)は探針1の位置を走査したときの誘導電荷の差の計算値である。本来これは測定で得られるべきものである。図14における右側の列(g)〜(i)は表面電荷分布の逆解析結果である。式(19)を特異値分解で求めた。逆解析結果の図14の右列(g)〜(i)は入力データに対しておよそ3%以内で一致している。
以上の試行計算結果よりトナー表面電荷分布を逆解析することが原理的に可能であることが確かめられた。
【0074】
<効果>
以上述べたように本発明に係る実施形態によれば、トナー表面上の電荷分布をSPM探針に誘導される電流の測定値をもとに逆推定することができる。
【実施例1】
【0075】
以下、本発明に係る画像処理システムの一実施例を図1(a)を用いて説明する。
(1)トナー3の表面上で探針1を非接触で走査してトナー3の表面形状を計測する(非接触AFM)。探針1を走査する範囲は最大でもトナー3の上側半分(球面の場合は上半球面)であるが、トナー3の表面上の探針1を走査した範囲での電荷分布を推定する。
(2)ある定まった振動数と振幅で振動する接地探針を上記と同じ範囲で走査し、探針1に誘導される交流電流をロックインアンプなどを用いて測定する。このとき、探針1の最下点とトナー3の表面との距離(gap)10は1 nm以下であることが望ましいが、5 nm程度であっても表面の各位置で同じ程度のgapであれば良い。なお、この測定は(1)の表面形状計測と同時に行うことも可能である。
(3)上記(1)と(2)の測定で得られた表面形状と表面各位置での誘導電流(誘導電荷の差)をもとに、トナー3と探針1とを含む系で静電場計算を行い、数式(19)で表わされる連立1次方程式を組み立て、その解である電荷分布{σj }を求める。
この画像処理システムでは、上述の(1)、(2)をSPMで計測し、その計測した結果の情報を情報処理装置、いわゆるPCに提供する。この後、PCにて、上述の(3)の処理がなされる。
【0076】
図21は、実施例1(SPM)の場合の動作を説明するためのフローチャートの一例である。
動作の主体は、図20に示したPC22のCPU25である。但し、ステップS1、ステップS4の計測、測定にはSPMを利用して行われる。
まず、トナー3の表面形状を計測する(ステップS1)。
トナー3の表面を所定の領域毎に分割する。これは、トナー3の表面をメッシュ分割することを指す(ステップS2)。
探針1の形状等の条件によって、所定領域毎に、誘導電荷量を算出する。これは、行列Aの成分を算出することを指す。(ステップS3)。
トナー3の表面の所定の領域毎に、トナー3の表面から遠ざかる時に生じる交流電流(誘導電流とも言う)を測定する。尚、特定の振動数と振幅幅の条件は既知とする(ステップS4)。
交流電流の測定結果に基づいて、誘導電荷量の差を算出する(ステップS5)。
算出した誘導電荷量の差(ΔQ)と、誘導電荷量とに基づいて、両電荷密度を求める(ステップS6)。
【0077】
<実施の形態2>
本発明に係る第2の画像処理システムは、KFM測定値であるVDCの分布から、トナー3の表面の電荷分布を逆推定する方法を与えるものである。
式(13)より、表面ポテンシャルΔφを無視すると、KFM測定値であるVDCは次式(20)で与えられる。
【0078】
【数20】

【0079】
∂C/∂zは表面電荷の有無によらず探針1の形状や配置のみに依存する。Q0は接地した探針1に誘導される電荷であり、これはトナー3の表面上の個々の電荷がそれぞれ単独で探針1に誘導する電荷の総和となる。すなわち線形重ね合わせが成り立つ。
前述と同様にトナー3の表面の全部または一部をN個にメッシュ分割して、それぞれのメッシュ上の面電荷密度σj( j = 1, 2, 3‥N )とKFM計測で得られるVDC=Viとの関係は式(15)と同様に次式(21)で表わされる。
【0080】
【数21】

【0081】
ここで、Viは探針1の先端がメッシュ番号iの真上に位置しているときにKFM計測で得られるVDC=Viである。
探針1の位置をi = 1, 2, 3‥Nまで走査してKFM計測を行えば、 N個の連立1次方程式が得られ、N×Nの行列Aとσj およびViの列ベクトルを用いて表わせば次式(22)となる。
【0082】
【数22】

【0083】
行列成分Aij は、トナー3の表面上のj番目の位置のみに単位面電荷密度(σj = 1 )が存在して、探針1がi番目の位置にあるときに得られるKFM測定値である。これも前述と同様にトナー−探針系の静電場計算により求めることができる。すなわち、静電場計算により式(20)の∂Q0/∂zと∂C/∂zとを求めることができる。したがって、KFM測定値Vi( i = 1, 2, 3‥N )が得られれば、式(22)からメッシュ上の面電荷密度σj( j = 1, 2, 3‥N )を逆推定することができる。
【0084】
以上の方法を確認するため、トナー3の表面のメッシュ上の面電荷密度{σj }をVDC分布{Vi }から逆解析する試行計算の結果を以下に示す。トナー3は球面としてその球面上のメッシュには電荷分布を仮定して与え、{Vi }は計算により求めた値を用いる。
【0085】
トナー3の表面の天頂部分は約0.3μmのメッシュで細分割してそれぞれのメッシュ上に図15(a)、(b)のようなModel 1とModel 2との2通りの面電荷分布を与えた。面電荷はトナー天頂部分の12×12 = 144個のメッシュ上のみに存在するとしている。図15(a)、(b)はトナー天頂部分の球面を平面に投影したものである。面電荷密度σj の大きさ(絶対値)は最大で10-3C/m2であり、最小で3×10-4 C/m2である。
探針形状Tip Cを用いたシミュレーションにより求めたVDC分布(Vi )を図16に示し、逆解析の結果を図17(a)、(b)に示す。図17(a)は、表面電荷分布の逆解析結果(探針C13)の一例であり、図17(b)は、 表面電荷分布の逆解析結果(探針C13)の他の一例である。
入力データでは4つのメッシュを一つのかたまりとして同じ面電荷密度を与えているが、逆解析の結果では4つのメッシュでσj がバラついている。
【0086】
図17(a)、(b)中の数値は4つの平均値を示しており、入力値と10%程度の誤差である。
図18は実際の探針形状を用いた場合の計算モデルである。探針1、トナー、接地プレート(接地基板)7の形状と配置とを示している。この場合の逆解析の結果を図19(a)、(b)に示す。図19(a)は、表面電荷分布の逆解析結果(実際の探針形状)の一例であり、図19(b)は、表面電荷分布の逆解析結果(実際の探針形状)の他の一例である。
探針 C13を用いた場合と比べ誤差が大きい。
以上の試行計算結果により、KFM測定値であるVDC分布からトナー表面電荷分布を逆推定する方法の実現可能性を確かめることができた。
【0087】
<効果>
以上述べた本発明によれば、トナー表面上の電荷分布をKFM測定値をもとに逆推定することができる。
【0088】
トナーと探針とからなる系で高精度な静電場計算を行い、トナー表面の真電荷とKFM測定値との間の線形な関係を求めることにより、トナー表面上の電荷分布{σj }を未知数とする連立1次方程式に帰着させてこの解を求める。
【実施例2】
【0089】
以下、本発明に係る画像処理システムの一実施例を図1(b)を用いて説明する。
(1)トナー表面上で探針1を非接触で走査してトナー3の表面形状を計測する(非接触AFM)。探針1を走査する範囲は最大でもトナー3の上側半分(球面の場合は上半球面)であるが、トナー3の表面上の探針1を走査した範囲での電荷分布を推定する。
(2)(1)と同じ走査範囲で表面からのgap10を一定に保ってKFM測定を行う。(3)上記(1)及び(2)の測定で得られた表面形状とKFM測定値とをもとに、トナー3と探針1を含む系で静電場計算を行い、数式(22)で表わされる連立1次方程式を組み立て、その解である電荷分布{σj }を求める。
【0090】
図22は、実施例2(KFM)の場合の動作を説明するためのフローチャートの一例である。
動作の主体は、図20に示したPC22のCPU25である。但し、ステップS11、ステップS13の計測、測定にはKFMを利用して行われる。
まず、トナー3の表面形状を計測する(ステップS11)。
トナー3の表面を所定の領域毎に分割する(ステップS12)。
トナー3の表面の所定の領域毎に、KFMの測定値であるVDCを求める(ステップS13)。
数式(21)と数式(20)とから、行列Aの成分を算出する(ステップS14)。
測定されたVDCと、行列Aの成分とから、面電荷密度を求める(ステップS15)。
【実施例3】
【0091】
探針1を走査する範囲はトナー3の上側半分(球面の場合は上半球面)まで広くなくとも良い。また、トナー3の表面上を離散化するメッシュは、面電荷密度を与えるメッシュの数と探針位置を与えるメッシュの数が異なっていても良い。すなわち連立1次方程式の数と未知数の数とが一致していなくとも最適解を求めることができる。
探針1で検知される物理量は誘導電荷やKFM測定値であるが、これらはトナー3の表面上の電荷が作る電場によって生ずる。クーロン電場が長距離まで作用することを考慮すれば、推定すべきトナー3の表面電荷の分布する範囲は、これらの物理量を計測する領域よりも広いことが望ましい。
【0092】
<プログラム>
以上で説明した本発明にかかる画像処理システムは、コンピュータ(情報処理装置)で処理を実行させるプログラムによって実現されている。コンピュータとしては、例えばパーソナルコンピュータやワークステーションなどの汎用的なものが挙げられるが、本発明はこれに限定されるものではない。よって、一例として、プログラムにより本発明を実現する場合の説明を以下で行う。
【0093】
例えば、
コンピュータに、
(1)検出手段が、カンチレバーに接続する導電性のプローブが前記カンチレバーとともに振動しながら帯電表面を非接触で走査し、かつ前記プローブの変位を検出する手順、
(2)計測手段が、帯電表面上の電荷により前記プローブに誘導される電荷を交流電流として計測する手順、
(3)逆推定手段が、数式(A)で示される連立1次方程式から表面電荷xjを逆推定する手順を実行させるプログラムが挙げられる。
i = ai1x1 + ai2x2 +‥ aijxj + ‥ + aiNxN ( i = 1, 2, ‥N ) …(A)
ここで、i は導電性プローブが走査位置、i にあるときにプローブ上に誘導される電荷または電流、x1,x2,‥xj,‥,xN は帯電表面上のN個の場所に分布する電荷または面電荷密度、ai1,ai2,‥aij,‥,aiN は比例係数。
【0094】
また、コンピュータに、
(1)変位検出手段が、導電性のプローブが帯電表面から一定の距離を保って非接触で走査し、かつ前記プローブの変位を検出する手順、
(2)VDC検出手段が、前記プローブには、VDCを直流バイアス電圧とし、VACを交流電圧振幅とし、ωを交流電圧振動数として数式(B)で示される電圧Vが印加され、
V = VDC + VACsin(ωt) …(B)
(3)前記プローブ変位の振動数ωの成分がゼロになるように直流バイアス電圧VDCを変化させてこのVDCを検出する手順、
(4)逆推定手段が、数式(C)で示される連立1次方程式から表面電荷xjを逆推定する手順を実行させるプログラムを用いてもよい。
Vi = ai1x1 + ai2x2 +‥ aijxj + ‥ + aiNxN ( i = 1, 2, ‥N ) …(C)
ここで、Vi は導電性プローブが走査位置、i にあるときに上記の方法で得られる直流バイアス電圧、x1,x2,‥xj,‥,xN は帯電表面上のN個の場所に分布する電荷または面電荷密度、ai1,ai2,‥aij,‥,aiN は比例係数。
これにより、プログラムが実行可能なコンピュータ環境さえあれば、どこにおいても本発明にかかるシステムを実現することができる。
このようなプログラムは、コンピュータに読み取り可能な記憶媒体に記憶されていてもよい。
【0095】
<記憶媒体>
ここで、記憶媒体としては、例えば、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、フレキシブルディスク(FD)、CD-R(CD Recordable)などのコンピュータで読み取り可能な記憶媒体、フラッシュメモリ、RAM、ROM、FeRAM(強誘電体メモリ)等の半導体メモリやHDDが挙げられる。
【0096】
なお、上述した実施の形態は、本発明の好適な実施の形態の一例を示すものであり、本発明はそれに限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲内において、種々変形実施が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、トナー表面の電荷分布の計測方法に関する。さらに、トナー表面に限らず、表面電荷分布を計測する方法に関する。
【符号の説明】
【0098】
1 探針
2 カンチレバー
3 トナー表面
4 電源
5 フォトダイオード
6 試料表面
7 接地基板
8 探針先端部
9 表面電荷
10 探針−トナー間隙(gap)
11 探針A
12 探針B
13 探針C
14 メッシュ(番号 i )
15 メッシュ(番号 j )
16 電流計
17 メッシュ(番号 ( ix , iy )=( 3 , 3 ) )
20 画像処理システム
21 走査プローブ顕微鏡(画像処理装置)
22 PC
23 ケーブル
24 I/O
25 CPU
26 表示部
27 ROM
28 RAM
29 HDD
30 操作部
31 バスライン
【先行技術文献】
【特許文献】
【0099】
【特許文献1】特開平10−048224号公報
【特許文献2】特開平10−319024号公報
【特許文献3】特開2010−243494号公報
【特許文献4】特開2002−062247号公報
【特許文献5】特開2002−055037号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査プローブ顕微鏡を有する画像処理装置において、
カンチレバーに接続する導電性のプローブが前記カンチレバーとともに振動しながら帯電表面を非接触で走査し、かつ前記プローブの変位を検出する検出手段、
帯電表面上の電荷により前記プローブに誘導される電荷を交流電流として計測する計測手段、
及び、数式(A)で示される連立1次方程式から表面電荷xjを逆推定する逆推定手段、
を有することを特徴とする画像処理装置。
i = ai1x1 + ai2x2 +‥ aijxj + ‥ + aiNxN ( i = 1, 2, ‥N ) …(A)
ここで、i は導電性プローブが走査位置、i にあるときにプローブ上に誘導される電荷または電流、x1,x2,‥xj,‥,xN は帯電表面上のN個の場所に分布する電荷または面電荷密度、ai1,ai2,‥aij,‥,aiN は比例係数。
【請求項2】
走査プローブ顕微鏡を有する画像処理装置において、
導電性のプローブが帯電表面から一定の距離を保って非接触で走査し、かつ前記プローブの変位を検出する変位検出手段を有し、前記プローブには、VDCを直流バイアス電圧とし、VACを交流電圧振幅とし、ωを交流電圧振動数として数式(B)で示される電圧Vが印加され、
V = VDC + VACsin(ωt) …(B)
前記プローブ変位の振動数ωの成分がゼロになるように直流バイアス電圧VDCを変化させてこのVDCを検出するVDC検出手段、
及び数式(C)で示される連立1次方程式から表面電荷xjを逆推定する逆推定手段、
を有することを特徴とする画像処理装置。
Vi = ai1x1 + ai2x2 +‥ aijxj + ‥ + aiNxN ( i = 1, 2, ‥N ) …(C)
ここで、Vi は導電性プローブが走査位置、i にあるときに上記の方法で得られる直流バイアス電圧、x1,x2,‥xj,‥,xN は帯電表面上のN個の場所に分布する電荷または面電荷密度、ai1,ai2,‥aij,‥,aiN は比例係数。
【請求項3】
走査プローブ顕微鏡と、前記走査プローブ顕微鏡に接続され、前記走査プローブ顕微鏡を制御する画像処理システムであって、
カンチレバーに接続する導電性のプローブが前記カンチレバーとともに振動しながら帯電表面を非接触で走査し、かつ前記プローブの変位を検出する検出手段、
帯電表面上の電荷により前記プローブに誘導される電荷を交流電流として計測する計測手段、
及び、数式(A)で示される連立1次方程式から表面電荷xjを逆推定する逆推定手段を有することを特徴とする画像処理システム。
i = ai1x1 + ai2x2 +‥ aijxj + ‥ + aiNxN ( i = 1, 2, ‥N ) …(A)
ここで、i は導電性プローブが走査位置、i にあるときにプローブ上に誘導される電荷または電流、x1,x2,‥xj,‥,xN は帯電表面上のN個の場所に分布する電荷または面電荷密度、ai1,ai2,‥aij,‥,aiN は比例係数。
【請求項4】
走査プローブ顕微鏡と、前記走査プローブ顕微鏡に接続され、前記走査プローブ顕微鏡を制御する画像処理システムであって、
導電性のプローブが帯電表面から一定の距離を保って非接触で走査し、かつ前記プローブの変位を検出する変位検出手段を有し、前記プローブには、VDCを直流バイアス電圧とし、VACを交流電圧振幅とし、ωを交流電圧振動数として数式(B)で示される電圧Vが印加され、
V = VDC + VACsin(ωt) …(B)
前記プローブ変位の振動数ωの成分がゼロになるように直流バイアス電圧VDCを変化させてこのVDCを検出するVDC検出手段、
及び数式(C)で示される連立1次方程式から表面電荷xjを逆推定する逆推定手段を有することを特徴とする画像処理システム。
Vi = ai1x1 + ai2x2 +‥ aijxj + ‥ + aiNxN ( i = 1, 2, ‥N ) …(C)
ここで、Vi は導電性プローブが走査位置、i にあるときに上記の方法で得られる直流バイアス電圧、x1,x2,‥xj,‥,xN は帯電表面上のN個の場所に分布する電荷または面電荷密度、ai1,ai2,‥aij,‥,aiN は比例係数。
【請求項5】
コンピュータに、
検出手段が、カンチレバーに接続する導電性のプローブが前記カンチレバーとともに振動しながら帯電表面を非接触で走査し、かつ前記プローブの変位を検出する手順、
計測手段が、帯電表面上の電荷により前記プローブに誘導される電荷を交流電流として計測する手順、
逆推定手段が、数式(A)で示される連立1次方程式から表面電荷xjを逆推定する手順を実行させることを特徴とするプログラム。
i = ai1x1 + ai2x2 +‥ aijxj + ‥ + aiNxN ( i = 1, 2, ‥N ) …(A)
ここで、i は導電性プローブが走査位置、i にあるときにプローブ上に誘導される電荷または電流、x1,x2,‥xj,‥,xN は帯電表面上のN個の場所に分布する電荷または面電荷密度、ai1,ai2,‥aij,‥,aiN は比例係数。
【請求項6】
コンピュータに、
変位検出手段が、導電性のプローブが帯電表面から一定の距離を保って非接触で走査し、かつ前記プローブの変位を検出する手順、
VDC検出手段が、前記プローブには、VDCを直流バイアス電圧とし、VACを交流電圧振幅とし、ωを交流電圧振動数として数式(B)で示される電圧Vが印加され、
V = VDC + VACsin(ωt) …(B)
前記プローブ変位の振動数ωの成分がゼロになるように直流バイアス電圧VDCを変化させてこのVDCを検出する手順、
逆推定手段が、数式(C)で示される連立1次方程式から表面電荷xjを逆推定する手順を実行させることを特徴とするプログラム。
Vi = ai1x1 + ai2x2 +‥ aijxj + ‥ + aiNxN ( i = 1, 2, ‥N ) …(C)
ここで、Vi は導電性プローブが走査位置、i にあるときに上記の方法で得られる直流バイアス電圧、x1,x2,‥xj,‥,xN は帯電表面上のN個の場所に分布する電荷または面電荷密度、ai1,ai2,‥aij,‥,aiN は比例係数。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2013−64629(P2013−64629A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203077(P2011−203077)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)