説明

画像処理装置およびその成方法

【課題】 電子写真プロセスにおける定着工程において発生する画像エッジの滲みを低減する。
【解決手段】 画像データを色材量を表す色材量信号に変換し(S801)、記録媒体の搬送方向に対して直交する向きを有する、画像のエッジ領域を色材量信号から検出する(S802)。色材量信号に基づき形成されるトナー像を記録媒体に定着する際の定着力を取得して(S803)、エッジ領域の搬送方向の下流に位置する画素に対応する色材量信号の値を定着力に応じて補正する(S804)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真プロセスにより画像を形成する画像処理に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザビームプリンタや複写機などの電子写真方式の画像形成装置においては、一般に帯電、露光、現像、転写、定着などの複数のプロセスを経て画像が形成される。つまり、帯電処理によって感光体の表面を一様に帯電し、レーザ光源を含む露光手段が、入力画像信号に応じたレーザ光によって感光体の表面を走査し露光して、感光体上に静電潜像を形成する。次に、現像処理によって感光体上の静電潜像を現像したトナー像を生成して、転写処理によって感光体上のトナー像を記録媒体に転写する。そして、定着処理によってトナー像を記録媒体に定着して、画像形成が完了する。
【0003】
このような電子写真プロセスにおいて、紙送り方向に応じた画像エッジの滲みが発生し、画像の鮮鋭性が低下する場合がある。
【0004】
画像エッジの滲みを発生させる原因の一つに、中間転写体101から記録媒体102にトナーを転写する際に記録媒体102の表面に移動したトナーが跳ねて、トナーが飛散する現象がある。図1によりトナーの飛散を模式的に示す。
【0005】
また、記録媒体102の搬送方向の上流側において、記録媒体102の表面と中間転写体101の表面は充分に平行とは言えない。その結果、記録媒体102へのトナーの転写が遅延して、所望位置よりも搬送方向の上流側に引き伸ばされたトナー像が転写される現象(後引き)も、画像エッジの滲みを発生させる原因の一つである。
【0006】
図2により後引きを模式的に示す。図2(a)は、転写処理によって中間転写体101上のトナー像が記録媒体102に転写される様子を表す。搬送方向の下流側においてトナー像は記録媒体102の表面に到達する。しかし、記録媒体102と中間転写体101に表面は平行ではないため、搬送方向の上流側においてトナー像は記録媒体102の表面に到達しない。その結果、図2(b)に示すように、搬送方向の上流側にトナー像が引き伸ばされる。
【0007】
これら問題の解決策として、画像のエッジ領域を特定し、エッジ領域の画素値を低減してトナーの飛散を防ぐ方法が提案されている(特許文献1参照)。また、エッジ領域以外の画素のトナー量を低減して転写時に発生する後引きを防ぐ方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0008】
特許文献1や2が提案する技術によれば、転写処理におけるトナーの飛散や後引きを抑制することができる。しかし、定着処理においても画像エッジの滲みが発生する。
【0009】
図3により定着処理における画像エッジの滲みの発生を説明する。図3(a)は記録媒体102上にイエローY、シアンC、イエローYの順にトナーが転写された様子を示す。記録媒体102は搬送ベルト103によって定着部104に搬送される。定着部104は、転写されて記録媒体102に載ったトナーを加熱、加圧する。その際、トナーは搬送方向の上流側に向けて押し潰され、その結果、図3(b)に示すように、定着後のトナーは隣接するトナーに乗り上げるとともに、搬送方向の上流側の画像端ではトナーが紙白部に引き伸ばされ、画像エッジの滲みが発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11-034401号公報
【特許文献2】特開2006-159624公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、電子写真プロセスにおける定着工程において発生する画像エッジの滲みを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前記の目的を達成する一手段として、以下の構成を備える。
【0013】
本発明にかかる画像処理は、画像データを色材量を表す色材量信号に変換し、記録媒体の搬送方向に対して直交する向きを有する、画像のエッジ領域を前記色材量信号から検出し、前記色材量信号に基づき形成されるトナー像を前記記録媒体に定着する際の定着力に応じて、前記エッジ領域の前記搬送方向の下流に位置する画素に対応する色材量信号の値を補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電子写真プロセスにおける定着工程において発生する画像エッジの滲みを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】トナーの飛散を模式的に示す図。
【図2】後引きを模式的に示す図。
【図3】定着処理における画像エッジの滲みの発生を説明する図。
【図4】実施例の画像エッジの滲みを抑制する原理を説明する模式図である図。
【図5】実施例の画像処理装置の画像形成部の構成例を示す図。
【図6】実施例の画像処理装置の構成例を説明するブロック図。
【図7】印刷ジョブの構成例を示す図。
【図8】画像処理部の処理を説明するフローチャート。
【図9】色分解LUTの一例を示す図。
【図10】定着力テーブルの一例を示す図。
【図11】エッジ領域を特定する処理の詳細を説明するフローチャート。
【図12】ゾーベルフィルタの一例を示す図。
【図13】フィルタ処理の詳細を説明する図。
【図14】色材量信号を補正する処理の詳細を説明するフローチャート。
【図15】エッジ画素と色材量補正領域の関係例を示す図。
【図16】実施例2の露光部によるレーザ駆動例を説明する図。
【図17】画像処理部の処理を説明するフローチャート。
【図18】パルス幅制御マスクの一例を示す図。
【図19】パルス幅制御マスク、ハーフトーン処理後の画像信号、三値画像信号の関係を示す図。
【図20】露光部によるパルス幅制御を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明にかかる実施例の画像処理を図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0017】
[原理]
実施例の画像処理は、搬送方向に直交する画像の滲みが発生し易いエッジ領域を特定し、特定したエッジ領域に対する搬送方向の下流側のトナー量を減らす。
【0018】
図4により実施例の画像エッジの滲みを抑制する原理を説明する模式図である。図4(a)は、実施例の画像処理により、記録媒体102上にイエローY、シアンC、イエローYの順にトナーを転写した様子を示し、図3(a)に示す各ドットのトナー量に比べて、各ドットのトナー量を低減する。このような状態で定着処理を行えば、搬送方向の上流側に向けてトナーが押し潰されたとしても、図4(b)に示すように、定着後のトナーが隣接するトナーに乗り上げる割合は低減される。また、搬送方向の上流側の画像端でトナーが紙白部に引き伸ばさる割合も低減されて、画像エッジの滲みを抑制することができる。
【0019】
[画像形成部]
図5により実施例の画像処理装置の画像形成部の構成例を示す。
【0020】
画像形成部は、像担持体である感光ドラム11の周囲には、感光ドラム11の表面に残ったトナーを除去するクリーナ16、クリーニング後の感光ドラム11の表面を一様に帯電する帯電部12、露光部13、静電潜像を現像する現像部14が備わる。
【0021】
露光部13は、レーザ光源31、ポリゴンスキャナ32、f-θレンズ33を有する。また、現像部14は、各色トナーのカートリッジ4C、4M、4Y、4Kを有する。感光ドラム11の表面のトナー像は、転写部15の中間転写ドラム51に転写される。
【0022】
図5に示す構成においては、感光ドラム11と中間転写ドラム51が四回転することで、中間転写ドラム51の表面に四色のトナー像が重畳され、その後、トナー像は搬送ベルト52上を搬送される記録媒体Sに転写される。そして、記録媒体Sは定着部71に送られ、トナー像が記録媒体Sに定着される。
【0023】
[装置の構成]
図6のブロック図により実施例の画像処理装置の構成例を説明する。
【0024】
データ入力部601は、例えばUSBなどのシリアルバスインタフェイスやネットワークインタフェイスであり、外部の各種装置から印刷すべき画像データを入力する。また、データ入力部601は、カードリーダでもよく、メモリカードに記録された画像データを印刷すべき画像データとして入力することもできる。
【0025】
設定部602は、タッチパネルやキーボードなどの操作入力部を備える。ユーザは、操作入力部を操作して、印刷に使用する記録媒体の種類や記録媒体の向き、印刷画質などを指示する。設定部602は、ユーザの指示などを示す印刷情報と印刷すべき画像データを含む印刷ジョブを画像処理部603に出力する。
【0026】
図7により印刷ジョブの構成例を示す。図7に示すように、印刷情報には、記録媒体の種類を示す記録媒体情報、記録媒体の1m2当りの重さを示す坪量情報、記録媒体のサイズや向き、印刷品質を示す印刷情報などが含まれる。なお、記録媒体の種類には例えば普通紙、光沢紙、コート紙、マット紙などがある。
【0027】
以下の説明では、記録媒体の向きを、記録媒体の長辺と搬送方向が平行な場合が「横方向」、記録媒体の短辺と搬送方向が平行な場合を「縦方向」と呼ぶ。また、印刷品質が画質優先を示す場合は記録媒体の搬送速度を遅くする印刷モードである「画質優先モード」が設定される。また、印刷品質が速度優先を示す場合は記録媒体の搬送速度を速くする印刷モードである「速度優先モード」が設定される。
【0028】
なお、データ入力部601および設定部602をプリンタドライバとして構成することも可能である。そのような構成において、データ入力部601および設定部602はパーソナルコンピュータなどのコンピュータ機器に存在し、画像処理部603以降が画像処理装置に存在することになる。
【0029】
画像処理部603は、詳細は後述するが、印刷ジョブに含まれる印刷情報と画像データに基づき記録媒体に記録する色材量を表す色材量信号(CMYK値)を決定する。次に、決定した色材量信号と記録媒体の向きから、定着処理において画像の滲みが発生し易いエッジ領域を特定する。そして、特定したエッジ領域の搬送方向の下流に位置する画素の色材を定着処理する際に、熱と圧力によって発生する色材を記録媒体に定着させる力(以下、定着力)を取得し、定着力に基づき色材量信号を補正する。
【0030】
画像処理部603は、補正後の色材量信号を画像形成部604の露光部13(図5参照)に出力し、画像形成プロセスを実行する。なお、印刷ジョブに含まれる印刷情報は、別途、画像形成部304の図示しない制御部に供給され、制御部によって画像形成プロセスが制御される。
【0031】
なお、画像処理部603は、ワンチップマイクロコントローラのようなコンピュータ機器に、後述する画像処理機能を実現するプログラムを供給することによっても実現することができる。
【0032】
[画像処理部]
図8のフローチャートにより画像処理部603の処理を説明する。
【0033】
画像処理部603は、色分解処理により、印刷ジョブの画像データが示す各画素のRGB情報を、各画素が表す色を再現するためのトナーの組み合わせに対応する色分解データCMYK(色材量信号)に変換する(S801)。なお、画像処理部603は、RGB値とCMYK値の対応を示す色分解ルックアップテーブル(LUT)と補間演算を併用して色分解処理を行う。図9により色分解LUTの一例を示す。図9は、各色8ビットのRGB値に対して各色8ビットのCMYK値を出力するLUTの例を示すが、RGB値、CMYK値ともビット深さは任意であり、例えば各色4ビットのCMYK値を出力してもよい。
【0034】
次に、画像処理部603は、詳細は後述するが、CMYK量と印刷情報が示す記録媒体の向きに応じたゾーベル(Sobel)フィルタを用いて記録媒体の搬送方向に直交する向きを有するエッジ領域を特定する(S802)。
【0035】
次に、画像処理部603は、印刷情報と定着力の関係を示す定着力テーブルを参照して、印刷情報に基づき定着力を取得する(S803)。図10により定着力テーブルの一例を示す。図10の例は記録媒体の紙種(記録媒体の種類)と坪量、印刷モードに対応する定着力を示す。
【0036】
定着力は、定着処理における熱と圧力に依存する。従って、例えば画像処理装置の機種ごとに、記録媒体の紙種、坪量、印刷モードの組み合わせに対応する定着力を測定して、予め定着力テーブルを作成しておく。なお、紙種に対する定着力を示す定着力テーブル、あるいは、印刷モードに対する定着力を示す定着力テーブルのように、一種類の情報に対する定着力を示す定着力テーブルを使用することもできる。
【0037】
次に、画像処理部603は、特定したエッジ領域の滲み易さを基に、特定したエッジ領域に対して搬送方向の下流に位置する画素の色材量信号を定着力に応じて補正する(S804)。
【0038】
次に、画像処理部603は、補正後の色材量信号にハーフトーン処理を施して、例えば各色1ビットのCMYKデータを生成し、CMYKデータに対応する画像信号を面順次に画像形成部604の露光部13(図5参照)に出力する(S805)。
【0039】
●エッジ領域の特定
図11のフローチャートによりエッジ領域を特定する処理(S802)の詳細を説明する。
【0040】
画像処理部603は、印刷情報から記録媒体の向きを判定し(S1001)、縦方向の場合は縦方向用のゾーベルフィルタを選択し(S1002)、横方向の場合は横方向用のゾーベルフィルタを選択する(S1003)。図12によりゾーベルフィルタの一例を示す。図12(a)は縦方向用のゾーベルフィルタ、図12(b)は横方向用のゾーベルフィルタである。なお、フィルタサイズは3×3に限らず、5×5でもよいし、ゾーベルフィルタの代わりにプレヴィット(Prewitt)フィルタなどのエッジ検出フィルタを用いてもよい。
【0041】
次に、画像処理部603は、色材の一つを選択し(S1004)、選択した色材に対応する画像データに選択したゾーベルフィルタを適用する(S1005)。
【0042】
図13によりフィルタ処理の詳細を説明する。図13の各升は画素を表し、画素1201は画像の左上端(0, 0)に位置し、画素1202は画像の右下端(W, H)に位置する。図12に示す3×3のゾーベルフィルタを用いる場合、フィルタ処理は画素1208とその周囲八画素から開始され、図13に矢印で示す順に進み、画素1204とその周囲八画素で終了する。
【0043】
選択した色材がシアンCの場合はフィルタ処理後の画像データはCfとし、同様にマゼンタMはMf、イエローYはYf、黒KはKfとする。図12(a)に示す縦方向用のゾーベルフィルタが選択され、注目画素の座標を(x, y)とすると、フィルタ処理後の画像データは下式で表される。
Xf(x, y) = -X(x-1, y-1) + X(x+1, y-1)
+ -2X(x-1, y) + 2X(x+1, y)
+ -X(x-1, y+1) + X(x+1, y+1) …(1)
ここで、XfはCf、Mf、YfまたはKf、
Xfのビット深さは入力データXのビット深さに等しいものとする、
1≦x≦W-1、1≦y≦H-1。
【0044】
次に、画像処理部603は、すべての色材の画像データにフィルタ処理を適用したか否かを判定し(S1006)、未適用の色材の画像データがあれば処理をステップS1004に戻す。
【0045】
すべての色材の画像データにフィルタ処理を適用すると、画像処理部603は、各色材の色材量の変化度合いを示すフィルタ処理後の画像データを基に、定着処理によってエッジの滲みが発生し易い画素を示す判定値を決定する(S1007)。
【0046】
画像処理部603は、式(2)によって、フィルタ処理後の画像データから各画素における色材量の総変化量Tを算出し、式(3)によってエッジの滲みが発生し易い画素か否かを示す判定値E(x, y)を決定する。
T(x, y) = |Cf(x, y)|+|Mf(x, y)|+|Yf(x, y)|+|Kf(x, y)|; …(2)

if (T(x, y) < Th)
E(x, y) = ‘0’;
else
E(x, y) = ‘1’; …(3)
【0047】
つまり、総変化量Tが閾値Thより大きい画素はエッジの滲みが発生し易い画素として判定値E(x, y)に‘1’を記録し、そうでない画素は判定値E(x, y)に‘0’を記録する。閾値はフィルタ処理後の画像データのビット深さに依存するが、8ビットの場合は例えば「128」にする。なお、印刷情報の印刷モードが画質優先を示す場合は閾値Thを小さくし、速度優先を示す場合は閾値Thを大きくしてもよい。
【0048】
●色材量信号の補正
図14のフローチャートにより色材量信号を補正する処理(S804)の詳細を説明する。
【0049】
画像処理部603は、エッジの滲みが発生し易い画素か否かを示す判定値E(x, y)を取得し(S1501)、図13に示す順に検索してエッジの滲みが発生し易い画素(以下、エッジ画素)の一つを選択する(S1502)。そして、選択したエッジ画素(注目エッジ画素)の搬送方向の下流に位置する複数の画素(例えば八画素、以下、色材量補正領域)の色材量を取得する(S1503)。
【0050】
図15によりエッジ画素と色材量補正領域の関係例を示す。図15(a)は印刷情報の記録媒体の向きが縦方向を示す場合の注目エッジ画素1601と色材量補正領域1602の関係を示す。また、図15(b)は印刷情報の記録媒体の向きが横方向を示す場合の注目エッジ画素1601と色材量補正領域1602の関係を示す。なお、注目エッジ画素1601が画像の縁付近にある場合は、色材量補正領域1602は例えば八画素よりも狭い領域にしてよい。また、印刷情報の印刷モードが画質優先を示す場合は色材量補正領域1602を広くし、速度優先を示す場合は色材量補正領域1602を狭くしてもよい。
【0051】
次に、画像処理部603は、色材量補正領域1602の総色材量Adと、注目エッジ画素1601の総色材量Aiを比較して、定着処理によって注目エッジ画素1601にエッジの滲みが発生するか否かを判定する(S1504)。Ad<Aiの場合は定着処理によって押し潰される色材量が少なくエッジの滲みは生じないと判定して処理をステップS1506に進める。
【0052】
Ad≧Aiの場合、画像処理部603は、色材量補正領域1602中に、搬送方向に前後の画素と異なる色をもつ細線領域があるか否か示す判定値を決定する(S1505)。つまり、色材量補正領域1602の画素を、注目エッジ画素1601に近い画素から順に搬送方向に走査して、注目画素と、搬送方向に直交する方向に隣接する二つの隣接画素それぞれの間の総色材量の差D1を式(4)によって算出する。
D1 = √(ΣΔX12 + ΣΔX22)/2 …(4)
ここで、ΔX1は注目画素と一方のエッジ方向隣接画素の色材量の差、
ΔX2は注目画素と他方のエッジ方向隣接画素の色材量の差、
XはC、M、Y、K。
【0053】
画像処理部603は、さらに、注目画素と、搬送方向の上流に位置する隣接画素(搬送方向隣接画素)の間の総色材量の差D2を式(5)によって算出する。
D2 = √(ΣΔX2) …(5)
ここで、ΔXは注目画素と搬送方向隣接画素の色材量の差、
XはC、M、Y、K。
【0054】
画像処理部603は、式(6)により、色材量補正領域1602の各画素について色材量信号を補正するか否か示す判定値Fiを決定する。
if (D1 ≦ Th1 && D2 ≧ Th2)
Fi = 0;
if (D1 > Th1 || D2 < Th2)
Fi = 1; …(6)
iは画素距離。
【0055】
画素距離iは、注目エッジ画素に近い側から数えた画素の番号に相当し、色材量補正領域が八画素の場合は注目エッジ画素に最も近い画素の画素距離i=1、注目エッジ画素に最も遠い画素の画素距離i=8である。
【0056】
つまり、画像処理部603は、エッジ方向に延伸する細線であればエッジ方向隣接画素との色材量の差D1が充分小さく(色が近い)、かつ、搬送方向隣接画素との色材量の差D2が充分に大きい(色が異なる)筈である。そこで、例えば閾値Th1=Th2=10を設定して、D1≦Th1かつD2≧Th2であれば、注目画素は細線領域にあると判定する(Fi=0)。また、D1>Th1またはD2<Th2の場合、注目画素は細線領域にはないと判定する(Fi=1)。
【0057】
次に、画像処理部603は、色材量補正領域1602の各画素の色材量信号を式(7)により補正する(S1506)。
Xidst = Xisrc - k(P×Fi/i) …(7)
ここで、Xisrcはi番目の画素の補正前の色材量信号、
Xidstはi番目の画素の補正後の色材量信号、
XはC、M、Y、K、
Pは定着力、
kは予め定められた係数。
【0058】
次に、画像処理部603は、すべてのエッジ画素についてステップS1502からS1505の処理を行ったか否かを判定し(S1507)、未処理のエッジ画素がなければ色材量の補正処理を終了する。また、未処理のエッジ画素があれば処理をステップS1502に戻し、次のエッジ画素についてステップS1502からS1505の処理を繰り返す。
【0059】
このように、搬送方向に直交するエッジ領域の搬送方向の下流側の色材量補正領域の画素の色材量信号の値を低減して、定着処理において発生するエッジの滲みによる鮮鋭性の低下を低減する。
【0060】
なお、上記では、記録媒体の紙種と坪量、印刷モードに応じた定着力を取得する例を説明したが、定着力一定として色材量信号を補正してもよい。あるいは、定着力を取得せずに、エッジ領域の搬送方向の下流側の色材量信号の値を低減してもよい。さらに、エッジの滲みの発生を低減することにだけ着目すれば、エッジ領域の搬送方向の下流に位置する画素の色材量信号の値を零にしてもよい。
【実施例2】
【0061】
以下、本発明にかかる実施例2の画像処理を説明する。なお、実施例2において、実施例1と略同様の構成については、同一符号を付して、その詳細説明を省略する。
【0062】
実施例1では、記録媒体の搬送方向に応じて、定着処理によってエッジの滲みが発生し易いエッジ領域を特定し、エッジ領域の搬送方向の下流に位置する色材量補正領域の画素の色材量信号の値を低減して鮮鋭性の低下を防いだ。実施例2では、レーザ光のパルス幅制御により、搬送方向の下流に位置する色材量補正領域の画素の露光時間を低減して、鮮鋭性の低下を防ぐ例を説明する。
【0063】
図16により実施例2の露光部13によるレーザ駆動例を説明する。なお、レーザ光の走査方向は搬送方向(副走査方向)に直交する主走査方向である。図16(a)はパルス幅制御を行わない実施例1の露光部13によるレーザ駆動を示す。つまり、レーザ駆動(露光する)、レーザ非駆動(露光しない)の二つのレーザ駆動状態が存在する。そのため、エッジ領域の搬送方向の下流に供給された色材により、定着処理においてエッジの滲み易くなる。
【0064】
図16(b)はパルス幅制御を行ってエッジ領域の搬送方向の下流の領域のパルス幅を狭くする実施例2のレーザ駆動例を示す。このようにすれば、エッジ領域の搬送方向の下流の領域において露光量が減り、色材の供給量が減り、定着処理においてエッジの滲みが抑制される。
【0065】
図17のフローチャートにより画像処理部603の処理を説明する。なお、ステップS801とS802の処理は図8に示す実施例1の処理と略同様であり、その詳細説明を省略する。
【0066】
画像処理部603は、特定したエッジ領域の情報を基にパルス幅制御マスクを作成する(S811)。つまり、エッジ領域の搬送方向の下流に位置する領域を特定し、当該領域はパルス幅を狭くしたレーザ駆動(以下、狭パルス幅駆動)を行う信号をパルス幅制御マスクに記録する。また、他の領域は通常使用するパルス幅のレーザ駆動(以下、通常パルス幅駆動)を行う信号をパルス幅制御マスクに記録する。
【0067】
図18によりパルス幅制御マスクの一例を示す。図18において、破線で囲んだ領域はエッジ領域を示す。エッジ領域の搬送方向の下流の斜線を施した領域は狭パルス幅駆動を用いる領域を示し、他の領域は通常パルス幅駆動を用いる領域を示す。
【0068】
次に、画像処理部603は、CMYKデータにハーフトーン処理を施して、例えば各色1ビットのCMYKデータを生成する(S812)。そして、例えば各色1ビットのCMYKデータとパルス幅制御マスクから、レーザ非駆動を示す信号、狭パルス幅駆動を示す信号、通常パルス幅駆動を示す信号の三値をもつ三値画像信号を生成する(S813)。なお、三値画像信号は、面順次に、画像形成部604の露光部13(図5参照)に出力される。
【0069】
図19によりパルス幅制御マスク、ハーフトーン処理後の画像信号、三値画像信号の関係を示す。パルス幅制御マスク(図19(a))は、エッジ領域を挟んで通常パルス幅駆動と狭パルス幅駆動を示す。ハーフトーン処理後の画像信号(図19(b))は、色材を供給するオンドットと、色材を供給しないオフドットを示す。三値画像信号(図19(c))は、パルス幅制御マスクとハーフトーン処理後の画像信号から生成される。三値画像信号は、オフドットについてレーザ非駆動を示し、エッジ領域の搬送方向の上流側におけるオンドットについて通常パルス幅駆動を示し、エッジ領域の搬送方向の下流側におけるオンドットについて狭パルス幅駆動を示す。
【0070】
図20により露光部13によるパルス幅制御を説明する。露光部13は、画像処理部603から入力される三値画像信号(レベルV)と三角波信号(レベルS)を比較して、V<Sに相当する期間、レーザ光源31を発光させるレーザ駆動パルスを生成する。レーザ光源31は、レーザ駆動パルスに従い発光し、三値画像信号に応じてパルス幅が制御されたレーザ光によって感光ドラム11が露光走査される。
【0071】
このように、搬送方向に直交するエッジ領域の搬送方向の下流側の領域の露光時間を低減して供給する色材量を低減し、定着処理において発生するエッジの滲みによる鮮鋭性の低下を低減する。
【0072】
[変形例]
実施例2において、実施例1と同様に定着力を取得し、定着力に応じたパルス幅を設定してもよい。例えば、二段階の定着力に応じたパルス幅を実現するには露光部13に供給する画像信号を四値にすればよい。例えば、図20に示す例ではレベル‘01’が未使用であるが、レベル‘01’と‘10’により定着力に応じた二段階のパルス幅を定義すればよい。同様に、三段階以上の定着力に応じたパルス幅を実現するには露光部13に供給する画像信号を五値以上にすればよい。
【0073】
また、実施例2において、エッジの滲みの発生を低減することにだけ着目すれば、通常の領域は通常パルス幅駆動を行い、エッジ領域の搬送方向の下流側の領域ではレーザ非駆動にしてもよい。また、ハーフトーン処理後の画像信号からエッジ領域を検出し、ハーフトーン処理後の画像信号の1ドットに対応してパルス幅制御マスクを生成してもよい。
【0074】
上記の実施例では、感光ドラム11上に形成したトナー像を中間転写ドラム51に一次転写し、その後、中間転写ドラム51上のトナー像を記録媒体へ二次転写する方式の画像処理装置を説明した。しかし、本発明は、感光ドラム11に形成したトナー像を、直接、記録媒体へ転写する方式の画像処理装置にも適用可能である。
【0075】
また、上記の実施例では、現像部14により順次四色のトナー現像を行い、中間転写ドラム51材へ転写する方式の画像処理装置を説明した。しかし、本発明は、基本的な構成は同じであるが各色ごとに帯電部、感光ドラム、露光部、現像部を有するタンデム方式の画像処理装置にも適用可能である。また、勿論、単色トナーによりモノクロ画像を形成する画像処理装置へも本発明は適用可能である。
【0076】
[その他の実施例]
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステムあるいは装置のコンピュータ(又はCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像データを色材量を表す色材量信号に変換する変換手段と、
記録媒体の搬送方向に対して直交する向きを有する、画像のエッジ領域を前記色材量信号から検出する検出手段と、
前記色材量信号に基づき形成されるトナー像を前記記録媒体に定着する際の定着力に応じて、前記エッジ領域の前記搬送方向の下流に位置する画素に対応する色材量信号の値を補正する補正手段とを有することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記定着力は、前記画像データとともに入力される印刷情報が示す記録媒体の種類と坪量および印刷モードに基づいて決定されることを特徴とする請求項1に記載された画像処理装置。
【請求項3】
前記補正手段は、前記エッジ領域に含まれるエッジ画素の前記搬送方向の下流に位置する複数の画素の前記色材量信号の値から、前記定着において前記エッジ画素にエッジの滲みが発生するか否かを判定する手段を有し、
前記エッジの滲みが発生すると判定した場合は、前記複数の画素の前記色材量信号の値を前記定着力に従い低減する補正を行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載された画像処理装置。
【請求項4】
前記補正手段は、さらに、前記エッジの滲みが発生すると判定した場合、前記複数の画素の中に、前記搬送方向に前後の画素と異なる色をもつ細線領域の画素があるか否かを判定する手段を有し、
前記複数の画素に含まれる前記細線領域の画素の前記色材量信号の値は補正しないことを特徴とする請求項3に記載された画像処理装置。
【請求項5】
レーザ光により像担持体を走査して画像を形成する画像処理装置であって、
画像データを色材量を表す色材量信号に変換する変換手段と、
記録媒体の搬送方向に対して直交する向きを有する、画像のエッジ領域を前記色材量信号から検出する検出手段と、
前記エッジ領域の前記搬送方向の下流の領域において、前記レーザ光のパルス幅を通常使用するパルス幅よりも狭めるためのパルス幅制御マスクを作成する作成手段と、
前記色材量信号および前記パルス幅制御マスクから少なくとも三値の色材量信号を生成する生成手段とを有することを特徴とする画像処理装置。
【請求項6】
前記検出手段は、前記画像データとともに入力される印刷情報が示す記録媒体の向きに対応するエッジ検出フィルタを使用して前記エッジ領域を特定することを特徴とする請求項1または請求項5に記載された画像処理装置。
【請求項7】
変換手段、検出手段、補正手段を有する画像処理装置の画像処理方法であって、
前記変換手段が、画像データを色材量を表す色材量信号に変換し、
前記検出手段が、記録媒体の搬送方向に対して直交する向きを有する、画像のエッジ領域を前記色材量信号から検出し、
前記補正手段が、前記色材量信号に基づき形成されるトナー像を前記記録媒体に定着する際の定着力に応じて、前記エッジ領域の前記搬送方向の下流に位置する画素に対応する色材量信号の値を補正することを特徴とする画像処理方法。
【請求項8】
変換手段、検出手段、作成手段、生成手段を有し、レーザ光により像担持体を走査して画像を形成する画像処理装置の画像処理方法であって、
前記変換手段が、画像データを色材量を表す色材量信号に変換し、
前記検出手段が、記録媒体の搬送方向に対して直交する向きを有する、画像のエッジ領域を前記色材量信号から検出し、
前記作成手段が、前記エッジ領域の前記搬送方向の下流の領域において、前記レーザ光のパルス幅を通常使用するパルス幅よりも狭めるためのパルス幅制御マスクを作成し、
前記生成手段が、前記色材量信号および前記パルス幅制御マスクから少なくとも三値の色材量信号を生成することを特徴とする画像処理方法。
【請求項9】
コンピュータを請求項1から請求項6の何れか一項に記載された画像処理装置の各手段として機能させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2013−11740(P2013−11740A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144552(P2011−144552)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】