説明

画像処理装置および画像処理方法

【課題】立体画像の鑑賞に伴う視聴者の負担を軽減する技術を提供する。
【解決手段】視点設置部20は、ある視点から観察した、所定の視差分布を持つ左目用の視差画像と右目用の視差画像とを含む立体映像が与えられたとき、別の視点から当該立体映像中の被写体を観察する仮想の視点を設置する。視差画像生成部40は、視点設置部20が設置した視点から観察したときの、所望の視差分布を与える左目用の視差画像と右目用の視差画像とを、前記左目用の視差画像と右目用の視差画像との少なくともいずれか一方の画像の切り出し位置をシフトさせることによって生成する。ここで視差画像生成部20は、仮想の視点の位置を変更することで画像の切り出し位置のシフト量が変化する場合、変化の前におけるシフト量から変化の後におけるシフト量に至るまで、シフト量を段階的に変化させながら視差画像を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、画像処理装置および画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、被写体の左目用の視差画像と右目用の視差画像とを含む立体画像を生成することができる撮像装置が普及してきている。このような撮像装置は、例えば撮像するための光学系を2つ以上持つ多眼カメラの場合もあるし、1眼カメラを用いて複数の異なる視点から撮像した画像を画像処理することにより、視差画像を生成する場合もある。
【0003】
一方で、立体画像に含まれる左目用の画像を視聴者の左目に提示し、右目用の視差画像を視聴者の右目に提示することで、視聴者に奥行きを持った映像を提示するための表示デバイスも普及してきている。特に、シャッターメガネを利用した民生用の3次元テレビが急速に普及しつつあり、一般の視聴者が撮像した立体画像をリビングで気軽に鑑賞する機会が多くなってきている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
左目用の視差画像と右目用の視差画像とを含む立体画像を表示デバイスで鑑賞する際、視聴者は主に両眼視差を手がかりとして脳内に立体画像を定位させようとする。表示デバイスに表示する画像が立体画像として適当でない場合、視聴者に、両眼の輻輳角などを調整しながら立体視をすることに伴う負担をかけることになり得る。立体画像の提供者が、立体映像として適切な視差調整を行った上で提供したコンテントであっても、視聴者が立体映像を拡大または縮小して表示したり、立体映像の一部を切り出して表示したりすることによって、結果として立体画像として適当でない映像が生成されるケースも発生しうる。
【0005】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、立体画像の鑑賞に伴う視聴者の負担を軽減する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様は画像処理装置である。この装置は、ある視点から観察した、所定の視差分布を持つ左目用の視差画像と右目用の視差画像とを含む立体映像が与えられたとき、別の視点から当該立体映像中の被写体を観察する仮想の視点を設置する視点設置部と、前記視点設置部が設置した視点から観察したときの、所望の視差分布を与える左目用の視差画像と右目用の視差画像とを、前記左目用の視差画像と右目用の視差画像とのいずれか一方の画像の切り出し位置をシフトさせることによって生成する視差画像生成部とを含む。ここで前記視差画像生成部は、前記仮想の視点の位置を変更することで画像の切り出し位置のシフト量が変化する場合、変化の前におけるシフト量から変化の後におけるシフト量に至るまで、シフト量を段階的に変化させながら視差画像を生成する。
【0007】
本発明の別の態様は、画像処理方法である。この方法は、ある視点から観察した、所定の視差分布を持つ左目用の視差画像と右目用の視差画像とを含む立体映像が与えられたとき、別の視点から当該立体映像中の被写体を観察する仮想の視点を設置して、当該視点から観察したときに所望の視差分布を与える左目用の視差画像と右目用の視差画像とを、前記左目用の視差画像と右目用の視差画像とのいずれか一方の画像の切り出し位置をシフトさせることによって生成するとともに、前記仮想の視点の位置を変更することで切り出し位置のシフト量が変化する場合、変化の前におけるシフト量から変化の後におけるシフト量に至るまで、シフト量を段階的に変化させながら視差画像を生成することをプロセッサに実行させる。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせ、本発明の表現を方法、装置、システム、コンピュータプログラム、データ構造、記録媒体などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、立体画像の鑑賞に伴う視聴者の負担を軽減する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】3次元空間における被写体とその視差画像との関係を示す図である。
【図2】左目用の視差画像と右目用の視差画像との一例を示す図である。
【図3】視差画像の一部を示す部分画像の例を示した図である。
【図4】視差画像の一部を示す部分画像の別の例を示した図である。
【図5】視差画像の一部を示す部分画像のさらに別の例を示した図である。
【図6】図6(a)は、図3に示す部分画像の視差分布のヒストグラムを例示する図である。図6(b)は、図4に示す部分画像の視差分布のヒストグラムを例示する図である。図6(c)は、図5に示す部分画像の視差分布のヒストグラムを例示する図である。
【図7】視差の調整と画像の切り出し位置との関係を説明するための図である。
【図8】図8(a)は、視差画像における視差をxとし、ヒストグラムの度数をxの関数であるヒストグラムH(x)で表した図である。図8(b)は、適正な視差分布を求めるために用いられる重み関数W(x)の概形を示す図である。図8(c)は、ヒストグラム関数H(x)と重み関数W(x)との積H(x)・W(x)の概形を示す図である。
【図9】図9(a)は、図8(a)におけるヒストグラム関数H(x)を、x軸方向にsシフトした関数H(x−s)を示す図である。図9(b)は重み関数W(x)の概形を示す図であり、図8(b)に示す図と同じである。図9(c)は、ヒストグラム関数H(x−s)とW(x)との積H(x−s)・W(x)の概形を示す図である。
【図10】図10(a)は、図6(a)に示すヒストグラムを用いた場合の評価関数E(s)の概形を示す図である。図10(c)は、図6(b)に示すヒストグラムを用いた場合の評価関数E(s)の概形を示す図である。図10(b)は、図6(a)に示すヒストグラムが図6(b)に示すヒストグラムに変化する途中のヒストグラムを用いた場合の評価関数E(s)の概形を示す図である。
【図11】実施の形態に係る画像処理装置の機能構成を模式的に示す図である。
【図12】拡縮率および表示位置の変更と視点位置との関係を説明する図である。
【図13】図13(a)は、視点の移動量vとシフト量との関係の一例を示す図である。図13(b)は、視点の移動量vとシフト量との関係の別の例を示す図である。
【図14】仮想の三次元空間におけるシフト量算出基準点の一例を示す図である。
【図15】実施の形態に係るシフト量算出部の機能構成を模式的に示す図である。
【図16】視差の調整量の重み係数を説明するための図である。
【図17】実施の形態に係る画像処理装置の処理の流れを説明するフローチャートである。
【図18】一方の立体映像の一部に他方の立体映像を重畳して再生する場合の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[視差画像を用いた立体映像]
図1は、3次元空間における被写体とその視差画像との関係を示す図である。3次元空間において、被写体200aと被写体200bとのふたつの被写体(以下、「被写体200」と総称する。)を、被写体200に対して左側から撮像する左目用カメラ202aと、被写体200に対して右側から撮像する右目用カメラ202bとのふたつのカメラ(以下、「カメラ202」と総称する。)で撮像する。図1においては、左目用カメラ202aで撮像された被写体200の映像および右目用カメラ202bで撮像された被写体200の映像は、それぞれモニタ204と総称するモニタ204aおよびモニタ204bに表示されている。
【0012】
左目用カメラ202aと右目用カメラ202bとは、異なる位置から被写体200を撮像しているため、モニタ204aに写される映像とモニタ204bに写される映像とでは被写体200の向きが異なる映像となる。このように、3次元空間における被写体200を異なる視点から見た場合の画像を「視差画像」という。人間の左右の目は6cm程度離れているため、左目から見える映像と右目から見える映像には視差が生じる。人間の脳は、左右の目で知覚した視差画像を物体の奥行きを認識するための情報のひとつとして利用しているといわれている。そのため、左目で知覚される視差画像と右目で知覚される視差画像とをそれぞれの目に投影すると、人間には奥行きを持った映像として認識される。
【0013】
図2は、左目用の視差画像と右目用の視差画像との一例を示す図であり、図1におけるカメラ202が撮像した映像の一例を示す図である。図2は、視差画像206として総称する左目用の視差画像206aと右目用の視差画像206bとを示している。図1において、左目用カメラ202aは、ふたりの被写体200に向かって、右目用カメラ202bよりも左側に位置しており、被写体200aが映像のほぼ中央となるように撮像している。反対に、右目用カメラ202bは、ふたりの被写体200に向かって、左目用カメラ202aよりも右側に位置しており、被写体200bが映像のほぼ中央となるように撮像している。
【0014】
この結果、例えば被写体200aに着目すると、左目用の視差画像206a中における被写体200aは画像のほぼ中央に位置するのに対し、右目用の視差画像206bにおける被写体200aは、画像の中央よりも左側にずれて位置することになる。ペアとなる左右の視差画像206間における、同一の被写体200の撮像位置のずれを視差という。例えば図2において、被写体200aの視差は「−d」を用いて示されている。図2の例において視差の値が負の値である理由は後述する。
【0015】
一般に、視差は画素単位で定義される。視差画像206において被写体200を構成する画素は複数存在することが通常であるから、「被写体200aの視差d」という表現は厳密には正しくない。視差の算出は、例えば左目用の視差画像206aと右目用の視差画像206bとの間でDPマッチング(Dynamic Programming マッチング)等をすることによって各画素間の対応点を求め、対応点間の距離を計算することで行われる。以下、本明細書においては、「視差画像206において被写体200を構成する画素の視差」を、省略して単に「被写体200の視差」と表現することもある。また、左目用の視差画像206aまたは右目用の視差画像206bの各画素における視差を、各画素に対応づけて画像形式で表した情報を「視差マップ」という。
【0016】
上記で定義した視差dの大きさは、視差画像206を表示する表示デバイスの大きさによって異なる大きさとなる。例えば、ある表示デバイスで表示したときに、その表示デバイス上において被写体200の視差が2cmであるとする。このとき、同じ視差画像206を、横方向の画素ピッチが2倍の大きさを持つ別の表示デバイスで表示すると、そのデバイス上においては被写体200の視差は2倍の4cmとなる。そこで、以下本明細書において、「被写体200の視差」は、表示デバイスに実際に表示されたときの視差を意味することとし、その単位を「cm」とする。
【0017】
ところで、立体映像を視聴すると視聴者には奥行きを持った映像として認識されるが、視差が0である被写体は、視聴者には表示デバイス上に定位しているように認識される。また、左目用の視差画像206a中の被写体200の撮像位置に対して右目用の視差画像206bにおける被写体200の撮像位置が画像の左側にずれている場合、視聴者には表示デバイスよりも視点側に被写体200が定位するように認識される。反対に、左目用の視差画像206a中の被写体200の撮像位置に対して右目用の視差画像206bにおける被写体200の撮像位置が画像の右側にずれている場合、視聴者には表示デバイスよりも視線方向において奥側に被写体200が定位するように認識される。また、視差dの絶対値が大きいほど、その被写体200は表示デバイスから離れて定位するように認識される。
【0018】
そこで、以下本明細書において、視聴者には表示デバイスよりも視線方向において奥側に被写体200が定位する場合を「正の視差」、表示デバイスよりも視聴者側に被写体200が定位する場合を「負の視差」とする。例えば、被写体200の視差が−2cmの場合、その被写体200は表示デバイスよりも視聴者側に定位するように認識される。図2に示した例では、左目用の視差画像206a中の被写体200aの撮像位置に対して右目用の視差画像206bにおける被写体200aの撮像位置が画像の左側にずれているので、視差は負の値となる。
【0019】
[視差分布]
以下、図3、図4、図5、および図6を用いて「視差分布」を説明する。本明細書において「視差分布」とは、例えば視差画像206を構成する画素それぞれの視差を度数として集計したものをいう。これはすなわち視差マップの各要素を度数として集計したものに対応する。また、横軸に視差の大きさ、縦軸に視差の度数とした視差分布のヒストグラムも、単に視差分布という。視差画像206は本来左目用の視差画像206aと右目用の視差画像206bとのペアで表されるが、両者を特に区別する必要がない限り、以下単に視差画像206として説明する。
【0020】
図3は、視差画像206の一部を示す部分画像の例を示した図である。図3に示す部分画像208aにおいては、ふたりの被写体200のうち被写体200aのみが存在する。例えば視差画像206の画素数が表示デバイスの画素数よりも大きい場合、表示デバイスに等倍で表示するとき等に、部分画像208aが生成される。
【0021】
図4は、視差画像206の一部を示す部分画像の別の例を示した図である。視差画像206がパノラマ画像である場合、視聴者は画像をパンしながら視聴する場合がある。図4に示す例は、画像をパンすることにより、図3に示す部分画像208aから図4に示す部分画像208bに、表示デバイスに表示される表示領域が移動したことを示す。図4に示す部分画像208bには、被写体200aのみならず被写体200bも存在している。
【0022】
このように、例えば視差画像206をパンしながら表示すると、表示領域となる部分画像208に存在する被写体が変化する。表示領域となる部分画像208に存在する被写体が変化すると、その部分画像208の視差分布も変化する。
【0023】
図5は、視差画像206の一部を示す部分画像のさらに別の例を示した図である。図5に示す部分画像208cは、例えば図4に示す部分画像208bの一部を拡大して表示するときに生成される。部分画像208bの一部が拡大されることに伴って視野が狭くなり、被写体200bが表示領域から外れ、結果として図5に示す部分画像208cには被写体200aのみが存在することとなる。
【0024】
このように、視差画像206をパンしながら表示する場合に加え、視差画像206を拡大または縮小して表示すると、表示領域となる部分画像208に存在する被写体が変化する。また、その部分画像208の視差分布も変化する。
【0025】
図6は、視差画像206の一部を示す部分画像の、視差分布をヒストグラム形式で例示する図である。図6(a)は、図3に示す部分画像208aの視差分布のヒストグラムを示す。図6(b)は、図4に示す部分画像208bの視差分布のヒストグラムを示す。図6(c)は、図5に示す部分画像208cの視差分布のヒストグラムを示す。
【0026】
図3に示すように、部分画像208aには被写体200aが存在する。被写体200aは被写体200bと比較して視線方向において奥側に存在する。図6(a)は、+3cm付近に視差が集中しており、被写体200aが表示デバイスよりも奥側に定位していることを示している。
【0027】
視聴者が視差画像206をパンすることで表示領域が図4に示す部分画像208bとなると、部分画像208bには被写体200aと被写体200bとが同時に存在することになる。図6(b)は、−3cm付近と+3cm付近との両方に視差が集中しており、被写体200aが表示デバイスよりも奥側に定位し、被写体200bが表示デバイスよりも視聴者側に定位していることを示している。また、被写体200aと被写体200bとの実物が同程度の大きさである場合、カメラ202に近い方の被写体が視差画像206において大きく撮像される。図6(b)は−3cm付近に定位している被写体200bの方が、+3cm付近に定位している被写体200aよりも、部分画像208において大きな領域を占めていることを意味している。
【0028】
視聴者が、図4に示す部分画像208bの一部を拡大することで、表示領域が図5に示す部分画像208cとなると、部分画像208cには被写体200aのみが存在することになる。部分画像208aと部分画像208cとはともに被写体200aのみが存在する点では共通するが、部分画像208aと部分画像208cとでは、画像の拡縮率が異なる。具体的には、部分画像208cは部分画像208aよりも拡大して画像を表示している。
【0029】
図6(c)は、+4cm付近に視差が集中していることを示すが、図6(a)に示す分布と比較して、分布を示す山が大きくなり、かつ分布のピークを示す視差の大きさが3cm付近よりも大きくなっている。このように、視差画像を拡大すると表示領域が狭くなることによって視差分布の一部が欠落し、残った視差分布が拡大される。逆に、視差画像を縮小すると視差分布が縮小するとともに、表示領域が広くなることに伴って出現した被写体の視差分布が既存の視差分布に加算される。
【0030】
[視差の調整]
図2を参照して説明したように、視差は、ペアとなる左右の視差画像206間における同一被写体200の撮像位置のずれの量である。したがって、ある被写体200に着目したときに、左右の視差画像206間における撮像位置のずれを調整することで、その被写体の定位する奥行き方向の位置を調整することができる。これは、例えばあらかじめ表示領域よりも広い領域を持つ視差調整用元画像を用意しておき、表示領域として切り出す位置をシフトすることで実現できる。当然ながら、左目用の視差調整用元画像と右目用の視差調整用元画像とのペアも立体映像を構成する。視差調整用元画像は視差画像ということもできる。
【0031】
図7は、視差の調整と画像の切り出し位置との関係を説明するための図である。図7は、左目用の視差画像206aの視差調整用元画像210の位置例を示している。図7(a)に示すように、左目用の視差画像206aは、視差調整用元画像210の部分画像である。左目用の視差画像206aにおいて被写体200aは画像のほぼ中央に存在する。ここで視差調整用元画像210において左目用の視差画像として切り出す位置を左側にシフトして新たな左目用の視差画像206a’を生成すると、左目用の視差画像206a’における被写体200aの位置は相対的に右にずれることになる。これにより、ペアとなる右目用の視差画像206bとの間における被写体200aの視差を変更することができる。
【0032】
画像の切り出し位置を変更すると、被写体200aの視差のみならず画像全体の視差が変化する。画像の切り出し位置を変更することで視差分布のヒストグラムの形状も変化するが、切り出し位置の変更が少なければストグラムの形状変化も少ない。このため、画像の切り出し位置を変更することは、視差分布のヒストグラムの原点を変更することにほぼ等しい。以下本明細書において、左目用の視差画像206aと右目用の視差画像206bとの少なくともいずれか一方の画像の切り出し位置をシフトさせることを、単に「視差を調整する」ということがある。また、切り出し位置をシフトさせる量を、単に「シフト量」ということがある。図7において「s」で示される長さがシフト量である。
【0033】
例えば図2に示す例において、被写体200aを表示デバイス付近に定位させるには、視差画像206における被写体200aの視差が0となるように切り出し位置をシフトさせればよい。被写体200aを構成する画素は複数あるのが通常であるから、実際には被写体200aの視差分布が原点付近でピークを持つように、切り出し位置をシフトさせる。
【0034】
[適正な視差分布]
前述したとおり、人間の両目の間隔はおよそ6cmである。そのため、表示デバイス上で視差が+6cmとなる被写体を観察する視聴者にとって、その被写体は無限遠に定位するように認識される。表示デバイス上で視差が+6cm以上となる被写体が存在すると、視聴者は両眼の輻輳角などを調整することが困難となり、視聴者に負担をかけることとなり得る。したがって、+6cmを超えて存在する視差分布を持つ視差画像206は、視聴者に、両眼の輻輳角などを調整しながら立体視をすることに伴う負担をかける視差画像であることがいえる。表示デバイスよりも視聴者側に定位するように認識される場合、すなわち視差分布が負の場合は上述のような制約はなく、視聴者が快適に立体視できる範囲は表示デバイスの大きさに依存して変化する。この範囲は医学的な研究等によっても指摘されているので、これらを考慮に入れ、視聴者が快適に立体視できるような視差分布の下限を実験によって定めればよい。表示デバイス上で視差が、定めた下限値以上+6cm以下の範囲を、「立体映像として最低限満たすべき視差分布」ということとする。
【0035】
立体映像として満たすべき視差分布をもつ視差画像の中でも、表示デバイス上で定位する被写体が多い分布、すなわち0付近にピークが存在する視差分布を持つ視差画像は、視聴者にとって観察しやすい立体映像であることが知られている。そこで、0付近に視差の分布が集中している視差分布を、「適正な視差分布」ということとする。
【0036】
[視差調整のアルゴリズム]
一般に、立体映像のプロのクリエイタが制作して提供する立体映像は、あらかじめ適正な視差分布を持つように視差が調整されている場合が多い。芸術的な観点等から、立体映像のクリエイタによって上述の適正な視差分布とは異なる視差分布を持つように調整されている場合もあるが、少なくとも立体映像として最低限満たすべき視差分布の範囲内において調整されているのが通常である。したがって、例えば購入等の手段によって立体映像を取得した場合、視聴者は負担なく立体映像を鑑賞することができる。
【0037】
しかしながら、上述したように、例えば視聴者が立体映像を拡大して表示させることによって立体映像の一部のみを表示させるような場合、表示領域における視差分布は、元となる立体映像の視差分布とは異なる視差分布となる。このような場合、表示領域における視差分布が適正な視差分布となるように、再生装置によって自動調整されることがある。以下、図8、図9、および図10を参照して、視差分布が適正な視差分布となるように調整するためのアルゴリズムの一例を説明する。
【0038】
図8は、視差分布を調整するアルゴリズムを説明するための図である。図8(a)は、視差画像における視差をxとし、ヒストグラムの度数をxの関数であるヒストグラムH(x)で表した図である。図8(b)は、適正な視差分布を求めるために用いられる重み関数W(x)の概形を示す図である。重み関数W(x)の詳細は後述する。図8(c)は、ヒストグラム関数H(x)と重み関数W(x)との積H(x)・W(x)の概形を示す図である。
【0039】
図8(b)に示すように、重み関数W(x)は原点で0となり、原点から離れるほど大きな値をとる下に凸な関数である。したがって、図8(c)に示すように、ヒストグラム関数H(x)と重み関数W(x)との積は、原点付近で小さな値となり、原点から離れるほど関数の値が相対的に大きくなる関数となる。
【0040】
図9は、視差分布を調整するアルゴリズムを説明するための別の図である。図9(a)は、図8(a)におけるヒストグラム関数H(x)を、x軸方向にsシフトした関数H(x−s)を示す図である。図9(b)は重み関数W(x)の概形を示す図であり、図8(b)に示す図と同じである。図9(c)は、ヒストグラム関数H(x−s)とW(x)との積H(x−s)・W(x)の概形を示す図である。
【0041】
図9(c)は、図8(c)に示す場合と同様に、ヒストグラム関数H(x−s)と重み関数W(x)との積は原点付近で小さな値となり、原点から離れるほど関数の値が相対的に大きくなる。
【0042】
図8(c)および図9(c)から分かるように、sを任意の実数として、ヒストグラム関数H(x−s)の値が原点付近で大きくなりかつ原点から離れるほど小さくなる場合、その逆の場合と比較すると、関数H(x−s)・W(x)とx軸とで囲まれる部分の面積が小さくなる。したがって、関数H(x−s)・W(x)とx軸とで囲まれる部分の面積は、関数H(x−s)で表されるヒストグラムの形状が原点付近に集中する形状であるか否かを示す量となる。そこで、以下の評価関数E(s)を定義する。
E(s)=∫W(x)・H(x−s)dx (1)
【0043】
例えば上記の式(1)においてs=0とすると、E(0)=∫W(x)・H(x)dxとなる。この式は、図8(c)に示す関数W(x)・H(x)とx軸とが囲む領域の面積を表す。このように、式(1)で示す評価関数E(s)は、ヒストグラム関数H(x)をx軸方向にsシフトしてできる関数H(x−s)と重み関数W(x)との積W(x)・H(x−s)、およびx軸が囲む部分の面積を表す量である。これはすなわち関数H(x−s)で表されるヒストグラムの形状が原点付近に集中する形状であるか否かを示す量となる。
【0044】
したがって、評価関数E(s)の値が最小となるsの値だけヒストグラム関数H(x)をシフトすることによってできる関数H(x−s)が、評価関数E(s)で評価するという観点において、原点付近に分布が最も集中する形状のヒストグラムということができる。すなわち、「適正な視差分布」ということができる。上述したように、視差画像の切り出し位置をsだけシフトすると、そのときの視差分布の原点もsだけシフトする。ゆえに、評価関数E(s)の値が最小となるsの値は、視差画像206が適正な視差分布を持つように、視差調整用元画像210から切り出す際にシフトすべきシフト量となる。もちろん、重み関数W(x)の形は図8(b)に示す形に限定されない。「適正な視差分布」として所望の視差分布を設定し、そのような視差分布が得られるような重み関数を実験により定めればよい。
【0045】
以上より、所定の視差分布を持つ視差画像206が与えられたとき、その視差画像206が所望の適正な視差分布を持つように調整するためには、評価関数E(s)の値が最小となるsだけシフトして切り出せばよい。このときのシフト量をsoptとすると、soptは以下の式で表される。
opt=argminE(s) (2)
ここでargminE(s)は、関数E(s)が最小値を取るときのsの値を意味する。
【0046】
[シフト量の急激な変化]
上述したアルゴリズムは、ある視差画像206が与えられたときに、その視差画像206が適正な視差分布を持つように調整するためのシフト量を求めるためのアルゴリズムである。このアルゴリズムを用いることにより、例えば視聴者がある視差画像206をパンしながら表示させる際、表示デバイスに現在表示されている視差画像について適正な視差分布を持つように調整することができる。しかしながら、上述したアルゴリズムは現在表示されている視差画像についての適正なシフト量を求めるものであり、次の瞬間に表示される視差画像のシフト量を考慮するものではなく、また過去のシフト量を考慮するものでもない。したがって、視差画像206の表示領域を連続的に変更しながら表示させる場合であっても、条件によってはシフト量の変化が視聴者に違和感を与える程度にとても大きくなる場合もあり得る。
【0047】
図10は、評価関数E(s)を用いて求めたシフト量の変化を説明するための図である。図10(a)は、図6(a)に示すヒストグラムを用いた場合の評価関数E(s)の概形を示す図である。図10(c)は、図6(b)に示すヒストグラムを用いた場合の評価関数E(s)の概形を示す図である。図10(b)は、図6(a)に示すヒストグラムが図6(b)に示すヒストグラムに変化する途中のヒストグラムを用いた場合の評価関数E(s)の概形を示す図である。
【0048】
視聴者が視差画像206を、図3に示す画像から図4に示す画像に至るまでパンしながら画像を表示すると、視差分布のヒストグラムは図6(a)に示すヒストグラムから図6(b)に示すヒストグラムまで変化する。視差画像206の表示領域には被写体200aのみが写っているが、次第に被写体200bも映り込んでくることになる。
【0049】
図10(a)に示すように、図6(a)に示すヒストグラムを、x軸の負の方向にシフトさせることにより、ヒストグラムを原点付近に集中させることができる。したがって、soptは負の値である。視聴者が映像をパンすることによって視差画像206の表示領域には被写体200aが映り込んでくると、視差分布のヒストグラムは図6(a)に示すヒストグラムから図6(b)に示すヒストグラムに変化し、評価関数E(s)のグラフは図10(b)に示す形に変化する。図10(a)に示す評価関数E(s)のグラフの形と図10(b)に示す評価関数E(s)のグラフの形とを比較すると、両者ともsoptで極小値を取る点で共通する。しかしながら、図10(b)に示す評価関数E(s)のグラフは、sopt以降のs軸に対する傾きが小さくなる点で異なる。視差画像206の表示領域に映り込む被写体200aが大きくなると、やがて評価関数E(s)のグラフは図10(c)に示す形となり、soptが正の値となる。このように、視差画像206をパンしながら連続的に表示領域を変更する場合であっても、そのときの適正なシフト量は負の値から正の値へと急激に変化することになる。
【0050】
シフト量が大きく変化すると、上述の例のように、視聴者にとっては表示デバイス付近に定位していた被写体が、突然表示デバイスの奥側に定位するように認識される。このような場合視聴者は急激な視点調整を強いられることになり、負担となり得る。
【0051】
[画像処理装置100]
実施の形態に係る画像処理装置100は、上述のように視差画像の表示領域を変更することに伴ってされる適正なシフト量が、連続的に変化するように制御する。
【0052】
図11は、実施の形態に係る画像処理装置100の機能構成を模式的に示す図である。実施の形態に係る画像処理装置100は、変更受付部10、視点設置部20、立体映像取得部30、視差画像生成部40、および基準座標格納部60を含む。
【0053】
図11および後述する図15は、実施の形態に係る画像処理装置100を実現するための機能構成を示しており、その他の構成は省略している。図11および図15において、さまざまな処理を行う機能ブロックとして記載される各要素は、ハードウェア的には、CPU(Central Processing Unit)、メインメモリ、その他のLSI(Large Scale Integration)で構成することができ、ソフトウェア的には、メインメモリにロードされたプログラムなどによって実現される。したがって、これらの機能ブロックがハードウェアのみ、ソフトウェアのみ、またはそれらの組み合わせによっていろいろな形で実現できることは当業者には理解されるところであり、いずれかに限定されるものではないが、実施の形態に係る画像処理装置100の一例としては据え置き型のゲーム機があげられる。
【0054】
立体映像取得部30は、デコーダ等の立体映像再生部(図示せず)から立体映像を取得する。立体映像取得部30はまた、地上デジタルのような放送網から立体映像を取得する。
【0055】
変更受付部10は、画像処理装置100に付属するインタフェースであるコントローラ(図示せず)を介して、視聴者から画像処理装置100が再生する立体映像の拡縮率や表示位置の変更指示を受け付ける。変更受付部10はまた、例えば立体パノラマ画像を自動でスクロールしながら再生する場合にも、その映像の表示位置の変更指示を取得する。
【0056】
ところで、表示する立体映像の拡縮率や表示位置を変更することは、その立体映像に撮像されている被写体を観察する視点の位置を変更することに対応する。図12は、拡縮率および表示位置の変更と視点位置との関係を説明する図である。図12において、三次元空間中にx軸、y軸、およびz軸の各座標軸が設定されており、表示デバイスの表示面214の一辺がx軸と接するように、表示面214がxy平面上に設置されている。ここで、座標軸の原点が、x軸と接している表示面214の一辺の中点となるように設定されている。z軸は、表示面214に対して視点側が負であり、奥側が正となるように設定されている。
【0057】
被写体をある視点から観察したときの立体映像が与えられると、その立体映像は所定の視差マップを持っており、この視差マップを用いて被写体を上述の3次元空間中に仮想的に再配置することができる。例えば、与えられた立体映像が、図12における左目用カメラ202aと右目用カメラ202bとから観察したときの映像であるとする。立体映像はふたつのカメラ202、すなわちふたつの視点から観察するものであるが、以下便宜のため、ふたつの視点の中点を「視点」ということにする。具体的には、上述の立体映像は、図12における視点212aから観察された映像である。
【0058】
視聴者が立体映像を拡大して表示することは、視点212aをz軸の正の方向に移動することに対応する。例えば視点212aのz座標と比較して大きなz座標を持つ視点212bから観察される映像は、視点212aから観察される映像よりも、被写体が拡大されて表示される。また、視点212bから視点212cまで移動しながら映像を観察することは、映像をパンすることに対応する。このように、表示する立体映像の拡縮率や表示位置を変更することは、その立体映像に撮像されている被写体を観察する視点の位置を変更することに対応づけることができる。
【0059】
図11の説明に戻る。視点設置部20は、変更受付部10から立体映像の拡縮率や表示位置の変更指示を受け取って対応する視点位置を計算し、その視点から当該立体映像中の被写体を観察するために仮想の視点を設置する。
【0060】
視差画像生成部40は、視点設置部20が設置した視点から観察したときの、上述した適正な視差分布を与える左目用の視差画像と右目用の視差画像とを、左目用の視差画像と右目用の視差画像との少なくともいずれか一方の画像の切り出し位置をシフトさせることによって生成する。視差画像生成部40は、制御部42、拡縮部44、切取部46、シフト量算出部50、および合成部48を含む。ここで合成部48は、異なるふたつの立体映像を合成してひとつの新しい立体映像を生成する。合成部48の詳細は後述する。
【0061】
制御部42は、視差画像生成部40の動作を統括的に制御する。具体的には、画像を拡大または縮小する拡縮部44と、画像の一部をクリッピングする切取部46とを制御して、シフト量算出部50が算出したシフト量と拡縮率とをもとに、視差調整用元画像から視差画像を生成する。
【0062】
ここで視差画像生成部40は、視点設置部20が仮想の視点の設置位置を変更することに伴って画像の切り出し位置のシフト量が変化する必要が生じた場合、変化の前におけるシフト量から変化の後におけるシフト量に至るまで、シフト量を段階的に変化させながら視差画像を生成する。より具体的には、視差画像生成部40中のシフト量算出部50が、段階的に変化するようにシフト量を生成する。以下、シフト量を段階的に変化させるアルゴリズムについて説明する。
【0063】
視点設置部20が設置した視点から観察した場合の視差画像に対する上述の式(2)から求まるシフト量soptはその視点一点におけるシフト量であるため、視点が移動するとシフト量が急激に変化する可能性がある。例えば図10を参照して説明したように、立体映像において視点を移動しながら再生するとシフト量が急激に変化することが起こりうる。図13は、視点の移動量vとシフト量との関係の一例を示す図である。図13(a)は、視点の移動量がv未満のときのシフト量はsであるが、視点の移動量がv以上となると、シフト量がsへと急激に変化することを示す図である。
【0064】
このようなシフト量の急激な変化を抑制するために、シフト量算出部50は、図13(b)に示すように移動量vがvの前後にあるときにシフト量をsからsに至るまで段階的に変化させる。これを実現するためのアルゴリズムの概要は、視点設置部20が設置した視点におけるシフト量を、その視点の周囲におけるシフト量を考慮して求めることである。例えば、図13(a)において、移動量がvのときに、移動量がvとなるとシフト量がsからsへと急激に変化することが分かれば、シフト量を徐々に変化させることが可能となる。そこで、図12を参照して説明した立体映像中の仮想の3次元空間において、画像の切り出し位置のシフト量算出の基準となるシフト量算出基準点をあらかじめ定めておく。視点設置部20が視点を設置した場合、その視点の近傍に存在するシフト量算出基準点において求めたシフト量を考慮してシフト量を算出する。具体的には、視点の近傍に存在するシフト量算出基準点において求めたシフト量の重み付き平均を、その視点に置けるシフト量とする。
【0065】
図14は、仮想の三次元空間におけるシフト量算出基準点の一例を示す図である。シフト量算出基準点の位置座標は、基準座標格納部60に格納されている。説明の便宜のため、図14にはxz平面上のシフト量算出基準点のみを図示しているが、シフト量算出基準点は三次元空間中に分布している。
【0066】
図14に示す例では、シフト量算出基準点は、z座標の値が大きいほど密に配置されている。これは視点位置のz座標が大きい場合、立体映像は拡大して表示されるため視野が狭くなり、移動にともなる画像の変化が大きいからである。反対に、視点位置のz座標が小さくなると、立体映像は縮小して表示されるので、シフト量算出基準点の配置密度は粗くてもよい。したがって、シフト量算出基準点は、視線方向であるz軸方向では対数線形(Log-Linear)となるように配置される。なお、シフト量算出基準点の配置位置はこれに限られるものではなく、計算コストや記憶容量等を考慮して実験により定めればよい。
【0067】
図15は、実施の形態に係るシフト量算出部50の機能構成を模式的に示す図である。シフト量算出部50は、基準座標取得部52、視差分布生成部54、局所シフト量算出部56、および調整部58を含む。
【0068】
基準座標取得部52は、基準座標格納部60を参照して視点設置部20が定めた視点位置の近傍に存在するシフト量算出基準点の位置座標を取得する。ここで「視点位置の近傍に存在するシフト量算出基準点」とは、3次元空間中で視点位置の近傍に位置する8つのシフト量算出基準点であって、各シフト量算出基準点を頂点とする6面体を形成する点の集合である。図14に示す例ではxz平面上においてのみシフト量算出基準点を示しているが、視点212dが設置されたとすると、その近傍にあるシフト量算出基準点216a〜216dは、近傍の点として選択される。
【0069】
視差分布生成部54は、基準座標取得部52が取得した各位置座標に視点を設置して観察した場合における立体映像の左目用の視差画像と右目用の視差画像との間の視差の分布を生成する。局所シフト量算出部56は、視差分布生成部54が生成した視差の分布をもとに、立体映像の左目用の視差画像と右目用の視差画像との間の視差が上述した「立体映像として最低限満たすべき視差分布」に収まるように視差の調整量を生成するとともに、上述した「適正な視差分布」となるようなシフト量Soptを求める。
【0070】
調整部58は、局所シフト量算出部56が算出した各シフト量算出基準点の位置座標における各シフト量Soptの重み付き平均値を、視点設置部20が定めた視点から観察した場合のシフト量とする。
【0071】
ここで調整部58は、画像補間の分野における3次元の線形補間方式の重み係数と類似の係数を、重み付き平均値を求めるときの重み係数として採用する。より具体的には、調整部58は、基準座標取得部52が取得した各シフト量算出基準点の位置座標を頂点とする立体を、視点設置部20が定めた視点位置を交点とする互いに垂直な3つの平面で分割してできる複数の立体それぞれの体積の、各位置座標を頂点とする立体の体積に対する割合を、重み付き平均値を求める際の重みとする。ここで互いに垂直な3つの平面は、それぞれxy平面、yz平面、およびxz平面に平行な平面である。
【0072】
図16は、視差の調整量の重み係数を説明するための図であり、図14の一部を拡大した図である。説明の便宜のため、2次元の場合について説明するが、3次元の線形補間方式に拡張することは当業者であれば容易である。
【0073】
図16において、線分Pはz軸に平行な線分であり、線分Qはx軸に平行な線分である。線分Pと線分Qとは、視点212dに交点を持つ。シフト量算出基準点216a〜216dは、視点212dの近傍に存在するシフト量算出基準点である。いま、シフト量算出基準点216a〜216dの各点におけるシフト量を、それぞれs、s、s、sとし、シフト量算出基準点216a〜216dを頂点とする四角形の面積をTとする。
【0074】
シフト量算出基準点216a〜216dを頂点とする四角形を、視点212dを交点とする垂直なふたつの線分Pおよび線分Qで4つの四角形に分割する。このとき、視点212dに対してシフト量算出基準点216a〜216dそれぞれの点対称の位置にある4角形の面積をそれぞれt、t、t、tとする。
【0075】
ここで、4角形の面積t、t、t、tは、それぞれシフト量算出基準点216a〜216dと、視点212dとの「近さ」を反映している値である。例えば、シフト量算出基準点216aと視点212dとの距離が近いほど、面積tは大きくなる。そこで、4角形の面積t、t、t、tは、視点212dにおけるシフト量算出の際の、シフト量算出基準点216a〜216dの寄与率として用いることができる。これは、視点212dとシフト量算出基準点216との距離が近ければ、そのときの視点212dにおけるシフト量はシフト量算出基準点216におけるシフト量に近いという前提に基づく。
【0076】
以上より、視点212dにおけるシフト量sを以下の式(3)で求める。
s=(t+t+t+t)/T (3)
ここで、T=t+t+t+t
実施の形態に係る調整部58は、同様の考え方を3次元に拡張して重み付き平均値を求める際の重みを算出する。
【0077】
視点212dにおけるシフト量sを、近傍に存在するシフト量算出基準点216a〜216dにおけるシフト量の重み付き平均値とすることは、各点において求めたシフト量にローパスフィルタをかけて丸める効果があることになる。これにより、シフト量の急激な変化を抑制し、シフト量を段階的に変化するように算出することが可能となる。
【0078】
シフト量にローパスフィルタをかけて丸める別の方法として、例えば過去に求めたシフト量との移動平均を求めて現在のシフト量とする方法も考えられる。この方法でもシフト量を段階的に変化するように算出することが可能であるが、ある視点位置におけるシフト量が過去のシフト量の影響を受けるため、シフト量に時間遅れが生じうる。また、ある視点位置におけるシフト量が、その視点位置に近づく経路によって変わる場合もあり得る。
【0079】
これに対し、視点位置におけるシフト量sを、近傍に存在するシフト量算出基準点におけるシフト量の重み付き平均値とする場合、視点位置が決まればシフト量も一意に定まるため、視点位置に近づく経路によってシフト量が変化することもなく、時間遅れも生じない。
【0080】
なお、視点位置におけるシフト量の算出に重み付き平均を利用することは、シフト量の算出方法の一例である。視点位置におけるシフト量は、視点位置の近傍に存在するシフト量算出基準点におけるシフト量の最小値以上かつ最大値以下の値であれば、どのような方法を用いて求めてもよい。例えば、視点位置の近傍に存在するシフト量算出基準点におけるシフト量の最小値と最大値との平均値を、視点位置のシフト量として採用する方法等、様々な手法が考えられる。
【0081】
図17は、実施の形態に係る画像処理装置100の処理の流れを説明するフローチャートである。本フローチャートにおける処理は、例えば画像処理装置100の電源が投入されたときに開始する。
【0082】
立体映像取得部30は、被写体をある視点から観察した場合における、所定の視差マップおよび視差分布を持つ左目用の視差画像と右目用の視差画像とを含む立体映像を取得する(S10)。視点設置部20は、上記被写体を別の視点から別の倍率で観察するために、視点の位置および画像の拡縮率を設定する(S12)。
【0083】
基準座標取得部52は、視点設置部20が設置した視点位置の近傍に存在するシフト量算出基準点の位置座標を、基準座標格納部60を参照して取得する(S14)。視差分布生成部54は、基準座標が取得したシフト量算出基準点から観察した場合の立体映像の視差分布を生成する(S16)。局所シフト量算出部56は、視差分布生成部54が生成した視差分布をもとに、基準座標取得部52が取得したシフト量算出基準点における局所的なシフト量Soptを算出する(S18)。
【0084】
局所シフト量算出部56が、基準座標取得部52が取得した全てのシフト量算出基準点においてシフト量の算出が終了するまで(S20のN)、上述のステップ12からステップ18を繰り返す。局所シフト量算出部56が、基準座標取得部52が取得した全てのシフト量算出基準点におけるシフト量の算出を終了すると(S20のY)、調整部58は、各基準点におけるシフト量の重み付き平均値を算出し、視点設置部20が設置した視点位置におけるシフト量として決定する(S22)。
【0085】
制御部42は、調整部58が算出したシフト量をもとに、拡縮部44と切取部46とを制御して視差画像を生成する(S24)。制御部42が拡縮部44と切取部46とを制御して視差画像を生成すると、本フローチャートにおける処理は終了する。
【0086】
以上の構成による動作は以下のとおりである。視聴者が画像処理装置100を用いて立体映像を視聴するときに立体映像の表示位置や拡縮率を変更すると、シフト量算出部50は、視聴者が所望する立体映像が適正な視差分布を持つように、視差画像の切り出し入りのシフト量を生成する。このとき、シフト量算出部50は、視聴者が立体映像の表示位置や拡縮率をさらに変更するのに伴って視差画像の切り出し入りのシフト量も変更する必要があるときは、変化の前後が滑らかに接続するようにシフト量を制御する。これにより、シフト量が急激に変化することによって視聴者にかかる、両眼の輻輳角などを調整しながら立体視をすることに伴う負担を軽減することができる。
【0087】
以上説明したとおり、実施の形態によれば立体画像の鑑賞に伴う視聴者の負担を軽減する技術を提供できる。
【0088】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0089】
[変形例]
実施の形態に係る画像処理装置100の変形例について説明する。上記の説明では、立体映像取得部30が、1種類の立体映像を取得することを前提とする場合について説明したが、立体映像取得部30はふたつの異なる立体映像を取得してもよい。
【0090】
例えば、一方の立体映像の一部に他方の立体映像を重畳して再生してもよい。一方の立体映像が旅行を撮影した映像であり、他方の立体映像が映画などの映画や、テレビ電話の映像のような場合が考えられる。
【0091】
図18は、一方の立体映像の一部に他方の立体映像を重畳して再生する場合の一例を示す図である。図18に示す例では、ふたりの被写体200aおよび200bが存在する視差画像206を含む立体映像の上に、被写体200aと200bとの間のテレビ電話の映像を表示するインタフェース218が重畳して表示されている。
【0092】
具体的に、合成部48は、立体映像取得部30から2つの異なる立体映像を取得して、一方の立体映像内の一部に他方の立体映像を重畳する。ここで合成部48は、一方の立体映像に関して視差分布生成部54が生成した視差の分布をもとに、その立体映像において表示デバイスから最も観察者側に定位する被写体を特定する。合成部48はさらに、特定した被写体よりもさらに視聴者側に、他方の立体映像が定位するように他方の立体映像を重畳する。
【0093】
これにより、被写体200aと200bとは、共通の立体映像を視聴しながらテレビ電話による会話を楽しむことができる。このとき、テレビ電話のインタフェース218は視差画像206を含む立体映像よりも視点側に定位するので、インタフェース218が視差画像206の映像に邪魔されることが防止できる。
【0094】
合成部48がふたつの立体映像を合成した場合、シフト量算出部50は、合成された立体映像を新たなひとつの立体映像として、シフト量を生成する。これにより、合成された立体映像を視聴する視聴者の、両眼の輻輳角などを調整しながら立体視をすることに伴う負担を軽減することができる。
【符号の説明】
【0095】
10 変更受付部、 20 視点設置部、 30 立体映像取得部、 40 視差画像生成部、 42 制御部、 44 拡縮部、 46 切取部、 48 合成部、 50 シフト量算出部、 52 基準座標取得部、 54 視差分布生成部、 56 局所シフト量算出部、 58 調整部、 60 基準座標格納部、 100 画像処理装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ある視点から観察した、所定の視差分布を持つ左目用の視差画像と右目用の視差画像とを含む立体映像が与えられたとき、別の視点から当該立体映像中の被写体を観察する仮想の視点を設置する視点設置部と、
前記視点設置部が設置した視点から観察したときの、所望の視差分布を与える左目用の視差画像と右目用の視差画像とを、前記左目用の視差画像と右目用の視差画像との少なくともいずれか一方の画像の切り出し位置をシフトさせることによって生成する視差画像生成部とを含み、
前記視差画像生成部は、前記仮想の視点の位置を変更することで画像の切り出し位置のシフト量が変化する場合、変化の前におけるシフト量から変化の後におけるシフト量に至るまで、シフト量を段階的に変化させながら視差画像を生成することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記立体映像中の仮想の3次元空間において、画像の切り出し位置のシフト量算出の基準として定められたシフト量算出基準点の位置座標を格納する基準座標格納部をさらに含み、
前記視差画像生成部は、前記基準座標格納部を参照して、前記視点設置部が定めた視点位置の近傍に存在するシフト量算出基準点の位置座標を取得し、当該位置座標それぞれにおいて観察した場合の被写体の立体映像から算出したシフト量の最小値以上かつ最大値以下の値をシフト量として算出するシフト量算出部をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記シフト量算出部は、
前記基準座標格納部を参照して前記視点設置部が定めた視点位置の近傍に存在するシフト量算出基準点の位置座標を取得する基準座標取得部と、
前記基準座標取得部が取得した各位置座標に視点を設置して観察した場合における立体映像の左目用の視差画像と右目用の視差画像との間の視差の分布を生成する視差分布生成部と、
前記視差分布生成部が生成した視差の分布をもとに、立体映像の左目用の視差画像と右目用の視差画像との間の視差が所定の視差レンジに収まるように視差の調整量を生成するとともに、立体映像を表示する表示デバイス付近に定位する被写体が多くなるようにシフト量を求める局所シフト量算出部と、
前記局所シフト量算出部が算出した各基準点の位置座標におけるシフト量の重み付き平均値を、前記視点設置部が定めた視点から観察した場合のシフト量とする調整部とを含むことを特徴とする請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記調整部は、前記基準座標取得部が取得した各位置座標を頂点とする立体を、前記視点設置部が定めた視点位置を交点とする互いに垂直な3つの平面で分割してできる複数の立体それぞれの体積の、前記各位置座標を頂点とする立体の体積に対する割合を、重み付き平均値を求める際の重みとすることを特徴とする請求項3に記載の画像処理装置。
【請求項5】
2つの異なる立体映像を取得して一方の立体映像内の一部に他方の立体映像を重畳する合成部をさらに含み、
前記合成部は、一方の立体映像に関して前記視差分布生成部が生成した視差の分布をもとに当該一方の立体映像において表示デバイスから最も視点側に定位する被写体を特定し、当該被写体よりもさらに視点側に他方の立体映像が定位するように他方の立体映像を重畳することを特徴とする請求項3または4に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記シフト量算出部は、前記合成部が合成した立体映像をひとつの立体映像としてシフト量を生成することを特徴とする請求項5に記載の画像処理装置。
【請求項7】
ある視点から観察した、所定の視差分布を持つ左目用の視差画像と右目用の視差画像とを含む立体映像が与えられたとき、別の視点から当該立体映像中の被写体を観察する仮想の視点を設置して、当該視点から観察したときに所望の視差分布を与える左目用の視差画像と右目用の視差画像とを、前記左目用の視差画像と右目用の視差画像とのいずれか一方の画像の切り出し位置をシフトさせることによって生成するとともに、前記仮想の視点の位置を変更することで切り出し位置のシフト量が変化する場合、変化の前におけるシフト量から変化の後におけるシフト量に至るまで、シフト量を段階的に変化させながら視差画像を生成することをプロセッサに実行させることを特徴とする画像処理方法。
【請求項8】
ある視点から観察した、所定の視差分布を持つ左目用の視差画像と右目用の視差画像とを含む立体映像が与えられたとき、別の視点から当該立体映像中の被写体を観察する仮想の視点を設置する機能と、
設定した視点から観察したときの所望の視差分布を与える左目用の視差画像と右目用の視差画像とを、前記左目用の視差画像と右目用の視差画像とのいずれか一方の画像の切り出し位置をシフトさせることによって生成する機能であって、前記仮想の視点の位置を変更することで切り出し位置のシフト量が変化する場合、変化の前におけるシフト量から変化の後におけるシフト量に至るまで、シフト量を段階的に変化させながら視差画像を生成する機能とをコンピュータに実現させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−46263(P2013−46263A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183159(P2011−183159)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(310021766)株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント (417)
【Fターム(参考)】