説明

画像処理装置

【課題】 画面内に入っている被写体全てに鮮明に合焦した画像を得られるよう必要な調整を容易に行なえるようにする。
【解決手段】 撮影光学系Oにより結像された画像をそれぞれ撮影するCCD11、12、13により撮影された複数の画像データを合成し、所定の鮮明度の画像を得る基本構成において、撮影光学系Oと各CCD11、12、13の間の距離をそれぞれ独立して操作者が手動調節できるよう、ダイヤル21、22、23の操作をCCD11、12、13の移動に変換する駆動系24、25、26を設ける。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は被写界深度の異なる複数の光学系と、前記各光学系により結像された画像をそれぞれ撮影する複数の撮像素子を有し、前記複数の撮像素子により撮影された複数の画像データを合成し、所定の鮮明度の画像を得る画像処理装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】撮影距離の異なる画像を合成し、遠景から近景までの全ての被写体にピントの合った画像を得る技術が知られている。
【0003】この種の技術では、たとえば、近距離(N:Near)、中距離(M:Middle)、遠距離(F:Far)にそれぞれ被写界深度を持つよう撮影光学系に対して異なる位置にそれぞれ近距離用、中距離用、遠距離用の撮像素子(CCDなど)を配置し、各撮像素子から得られたN(近距離)、M(中距離)、F(遠距離)の各画像を解析し、画像の鮮鋭度などに基づき各画像より適切な部位を抽出して合成する。このような撮影システムを以下ではNMF画像合成システムという。
【0004】図1は従来のNMF画像合成システムの光学系および撮像系の構成を示している。
【0005】図1において符号Oは撮影光学系であり、その光軸上にはハーフミラー(あるいはビームスプリッタなど)M1、M2、ミラー(あるいはプリズムなど)M3を配置し、遠距離(F)、中距離(M)、および近距離(N)にそれぞれ被写界深度を持つよう撮影光学系Oに対して異なる位置にCCD11、12、および13を配置してある。図1では不図示であるが、撮影光学系O〜各CCDの間の光路には必要に応じて光量調節および被写界深度調節用の絞りが配置される。
【0006】CCD11〜13の出力は、ビデオI/F(インターフェース)14を介して画像の合成を行なう画像処理系に入力される。
【0007】図1では、光学系〜CCDの距離を判り易くするために全反射ミラーからなるミラーM3を図示しているが、このミラーM3は必ずしも必要はなく、実際の光学系では多くの場合省略できる。ハーフミラーM1、M2の透過比率は、M1=66%、M2=50%程度とし、各CCDに到達する光量にアンバランスが生じないように設定する。
【0008】ここでは、撮影光学系Oは、遠距離(F)、中距離(M)、および近距離(N)の3つのCCD11〜13に共通したものを用いているが、もちろんそれぞれのCCDについて独立した光学系を用いてもよい。
【0009】いずれにしても、図1のように撮影光学系Oが各CCDに共通か、あるいはCCDごとに独立かにかかわらず、CCD11〜13と、これら撮像素子に撮影像を結像させる撮影光学系Oの距離を異なるものとすることにより、N、M、Fの各画像の撮影距離(合焦距離)、およびN、M、Fの各被写界深度が決定される。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】図1のような従来のNMF画像合成システムでは、撮像素子たるCCD11〜13の位置は固定であり、撮影光学系Oのみを前後に移動させて合焦調節を行なう構成が主流であった。
【0011】このため、風景、近景に人物を含む風景の撮影や、近接撮影(たとえば歯科、口腔外科などの分野で実施されている口腔内の撮影)など、対象の被写体との距離が大きく異なっている場合に完全に対応することは難しく、画面内に入っている被写体全てに鮮明に合焦した画像を合成するのは困難であった。
【0012】すなわち、一般に、被写界深度の近点距離S1および遠点距離S2は次の式(1)、(2)により示される。
【0013】
S1=(f^2 * ai)/(f^2 + Z*Fs*(ai−f)) …(1)
S2=(f^2 * ai)/(f^2 − Z*Fs*(ai−f)) …(2)
ここで、f:レンズの焦点距離Fs:絞りのFナンバーZ:錯乱円径(たとえば35mmフィルムの場合0.03mm)
ai:被写体距離である。f=25mm、Fs=2.8、Z=0.03mmとし、被写体距離をai=1500mmと置くと、被写界深度の近点距離S1は1252mm、遠点距離S2は1871mm程度となる。
【0014】そして、従来では、図1のCCD11、12、13は、上記の式(1)、(2)に基づき、たとえば図4に示すような近距離(N)、中距離(M)、および遠距離(F)の被写界深度範囲をカバーするようにカメラに固定的に配置される。たとえば、図4の近距離被写界深度1.2m〜1.8mは、上記同様に焦点距離、絞り、錯乱円径をf=25mm、Fs=2.8、Z=0.03mm、被写体距離をai=1500mmと置いた場合に相当する。
【0015】このようにCCD11、12、13の位置を撮影光学系Oに対して固定的に決めてしまうと、図4では1.2mよりも近接の被写体は不鮮明に結像され、絞り値(撮影光学系Oに内蔵される不図示の絞りのFナンバー)を大きくとるしか対応方法がない。絞り値を大きくとれば、それだけ照明光量が必要となるのはいうまでもなく、口腔撮影などにおいては照明光量が大きくなれば患者に対する負担も大きくなる。
【0016】また、撮影光学系Oをフォーカシングできたとしても、CCD11、12、13の相互位置は調節できないため、たとえば近距離(N)、中距離(M)、および遠距離(F)の被写界深度を全て撮影を目的とする口腔内の撮影距離(たとえば300mm〜400mm程度)内に配置するような設定も不可能である。
【0017】本発明の課題は、被写界深度の異なる複数の光学系と、各光学系により結像された画像をそれぞれ撮影する複数の撮像素子を用い、複数の画像データを合成するに際して、画面内に入っている被写体全てに鮮明に合焦した画像を得られるよう、必要な調整を容易に行なえるようにすることにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するため、本発明によれば、被写界深度の異なる複数の光学系と、前記各光学系により結像された画像をそれぞれ撮影する複数の撮像素子を有し、前記複数の撮像素子により撮影された複数の画像データを合成し、所定の鮮明度の画像を得る画像処理装置において、前記各光学系と前記各撮像素子の間の距離をそれぞれ独立して操作者が手動調節する手動調節手段を有する構成を採用した。
【0019】あるいはさらに、前記複数の撮像素子により撮影された画像を表示するモニタ手段を有し、操作者がこのモニタ手段の画像を視認しつつ前記手動調節手段を介して前記各光学系と前記各撮像素子の間の距離をそれぞれ独立して手動調節する構成を採用した。
【0020】
【発明の実施の形態】以下、図を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0021】図2は本発明を採用したNMF画像合成システムの構成を示している。撮影光学系O、CCD11〜13、ハーフミラー(またはビームスプリッタなど)M1、M2、ミラーM3、およびビデオI/F14は図1R>1に示したものと同等であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0022】CCD11〜13の出力は、ビデオI/F14を介して図1右側の画像処理装置に入力される。ビデオI/F14より右側の画像処理装置は、PC(パーソナルコンピュータ)などのハードウェアを利用して構成することができる。この画像処理装置は、後述の画像処理を行なうCPU30、シャッタボタンなどの操作手段を含む操作部31、後述の画像処理をCPU30のプログラムとして格納するプログラムメモリ32、画像処理のワークエリアとして用いられるメモリ35を含む。
【0023】図2では、さらに得られた画像データを他の装置と共有するために、ネットワークI/F33が設けられている。ネットワークI/F33のI/F方式はイーサネット(商標名)など任意である。
【0024】さらに、本実施形態では、後述の調整中の画像、あるいは合成画像をモニタするため、LCD(あるいはCRTなど)から成るモニタ(あるいはファインダ)34が設けられている。
【0025】また、本実施形態では、CCD11〜13の撮影光学系Oに対する位置は、ユーザが個別に操作可能なダイヤル21、22、23により、駆動系24、25、26を介してそれぞれ独立して調節することができるようになっている。駆動系24、25、26はギアトレーンやカムなどから構成され、ダイヤル21、22、23の操作に基づきCCD11〜13を各光軸上で前後に移動する。
【0026】ダイヤル21、22、23とCCD11〜13の間は、純機械的な機構のみにより結合されていてもよいが、もちろん、両者の間に油圧アクチエータやモータなどのパワーアシスト機構が介在していてもよい。
【0027】CPU30は、ビデオI/F14より入力し、メモリ35に格納したCCD13、12、11の近距離(N:Near)、中距離(M:Middle)、遠距離(F:Far)の各画像データに対して所定の画像処理を行なうことにより、N、M、Fの画像から鮮明度の高い部分をそれぞれ抽出し、鮮明度の高い画像を合成する。この合成処理自体は本発明の対象とするところではなく、当業者において好都合な画像処理を適宜行なえばよい。
【0028】各CCD11〜13から合成用の画像を取り込む処理は、不図示のシャッタボタンなどの操作により行なうが、それに先立ち、各CCD11〜13から入力された画像データは、リアルタイムで順次モニタ34に表示する。
【0029】このモニタ画像の表示では、モニタ34の画面を3分割して、各CCD13、12、11のN、M、Fの各画像を同時に表示するか、あるいは不図示のスイッチの操作などに応じて、各CCD13、12、11のN、M、Fの画像のいずれを表示するかを切り換えるようにする。
【0030】この時、ユーザは、モニタ34により各CCD13、12、11のN、M、Fの各画像をモニタしながらダイヤル21、22、23をそれぞれ独立して操作することにより、撮影光学系Oと、CCD11〜13の間の距離をそれぞれ独立に制御できる。これにより、ピントよく撮影したい被写体が近景、中距離、遠景、あるいは近接位置のいずれの距離にあっても、撮影光学系Oと、CCD11〜13の間の距離をそれぞれ独立に調節することにより、興味のある被写体の合焦状態が最も良好となるように制御できる。
【0031】たとえば、図3(A)は、図4と同様に近距離被写界深度nhを1.2〜1.8m、中距離被写界深度mhを1.8m〜3.7m、遠距離被写界深度fhを3.7m〜∞の範囲となるようにCCD11、12、13を位置決めした時の状態、つまり、一般風景撮影用の設定状態を示している。このとき撮影光学系Oと各CCD13、12、11の距離はそれぞれdn、dm、dfである。
【0032】従来では、CCD11、12、13の位置は固定されているため、ユーザが口腔内の撮影(たとえば、被写体の距離が図示の0.3〜0.4mに全て収まる撮影)を行なおうとしても、口腔内の被写体(歯、歯肉など)の結像点fpは図3(B)のように近距離(N)を担当するCCD13のはるか後にあり、いずれのCCD11、12、13でもこの被写体の結像点はボケ円として撮影されてしまう。また、従来では、CCD11、12、13の位置が固定であるため、撮影光学系Oの移動によって調整を行なうにしても、3つのCCD11、12、13にピントを合せるには絞り値に著しく大きなFナンバーを用いる以外に方法がない。
【0033】しかし、本実施形態によれば、この図3(A)ないし(B)の状態から、モニタ34により各CCDの撮影画像をモニタしながらダイヤル23、22、21を操作することによりCCD13、12、11の位置をそれぞれ独立に操作し、それぞれΔdn、Δdm、ΔdfだけCCD13、12、11を移動させて、目的とする口腔内の被写体に結像するように位置決めすることができる(図3(C))。
【0034】このCCD11、12、13の位置調節操作では、たとえば、口腔撮影では、ユーザはCCD11、12、13の画像をモニタ34によりモニタしながらそれぞれの画像が大臼歯(F)、小臼歯(M)、前歯(N)にピントが合うように調整を行なえばよい。
【0035】このようなCCD位置の調節を行なうことにより、本実施形態のNMF画像合成システムは、風景撮影にも口腔撮影にも容易に対応できる。
【0036】特に、口腔撮影の場合は、上記のようなCCD11〜13の位置調節操作により、図3(C)のように近距離被写界深度nh、中距離被写界深度mh、遠距離被写界深度fhが全て口腔内をカバーするように配置することができる。このようなCCD11、12、13の位置調節は、従来の単一CCDの(あるいは撮影フィルム面が1つだけの)口腔撮影システムはもちろん、複数CCDのNMF画像合成システムでも固定式のCCDの場合は不可能であり、口腔内の被写体をそれぞれ個別の近距離被写界深度nh、中距離被写界深度mh、遠距離被写界深度fhでカバーすることができる。このため、従来の単一CCDの(あるいは撮影フィルム面が1つだけの)撮影システムよりも撮影時の絞り値(Fナンバー)を小さくし、少ない照明光量で患者に負担を与えることなく、しかも、3つのCCDで口腔内の深度範囲を分担して得た画像をNMF画像合成することにより、高画質の撮影画像を得ることができる。
【0037】以上のように、本実施形態によれば、ダイヤル21、22、23および駆動系24、25、26により、それぞれ独立した被写界深度を形成するよう配置された撮影光学系Oと、撮像素子たるCCD11〜13の間の距離をそれぞれ独立に操作者が手動調節することができる。
【0038】これにより、ユーザは、対象とする撮影が、遠景、近景に人物を含む風景の撮影や、近接撮影(口腔内の撮影など)であるかに応じて、ダイヤル21、22、23を操作することにより、撮影状況に応じて最も適した位置をとるよう撮像素子たるCCD11〜13をそれぞれ独立に制御し、これにより、従来の固定式CCDの装置よりも好条件で画像の合成を行なうことができ、興味のある被写体全てにピントがあった高品質の画像合成を行なうことができる。
【0039】また、本発明のCCD位置調節を行なうことにより、N、M、FのCCDをそれぞれN、M、Fの被写体に適した位置に移動でき、近距離被写界深度nh、中距離被写界深度mh、および遠距離被写界深度fhを、各被写体に適した配分で、また、これらの深度範囲の重複部分ができるだけ少なくなるよう効率よく設定することができるので、撮影の際に用いる絞り値(Fナンバー)は従来の固定式CCDの場合よりも小さい値を用いることができ、従来よりも少ない光量で高画質の撮影画像を得ることができる。
【0040】なお、図2では、撮影光学系Oが各CCDに共通である構成を示したが、撮影光学系Oが各CCDごとに設けられる構成においても同様の構成を実施できる。また、撮影光学系Oが各CCDごとに設けられる構成では、CCDではなく、各CCDごとに設けられる撮影光学系Oの方をダイヤル21、22、23および駆動系24、25、26に類似の構成により移動してもよい。ただし、図2のように撮影光学系Oが各CCDに共通である構成によれば、別個の撮影光学系を用いるよりも画像の歪みなどの補正が比較的容易であり、正確な合成が行なえるメリットがあり、また、機械的な構造もより簡単安価に実施できる利点があるのはいうまでもない。
【0041】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明によれば、各光学系と各撮像素子の間の距離をそれぞれ独立して操作者が手動調節する手動調節手段を設けるようにしているので、従来の固定式CCDの装置よりも好条件で画像の合成を行なうことができ、興味のある被写体全てにピントがあった高品質の画像合成を行なうことができる、また、絞り値(Fナンバー)は従来よりも小さい値を用いることができ、少ない光量で高画質の撮影画像を得ることができる、という優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来のNMF画像合成システムの要部の構成を示したブロック図である。
【図2】本発明を採用したNMF画像合成システムの構成を示したブロック図である。
【図3】本発明を採用したNMF画像合成システムの動作を示した説明図である。
【図4】従来のNMF画像合成システムの問題点を示した説明図である。
【符号の説明】
11〜13 CCD
14 ビデオI/F
21、22、23 ダイヤル
24、25、26 駆動系
30 CPU
31 操作部
32 プログラムメモリ
33 ネットワークI/F
34 モニタ(ファインダ)
35 メモリ
M1、M2 ハーフミラー
M3 ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】 被写界深度の異なる複数の光学系と、前記各光学系により結像された画像をそれぞれ撮影する複数の撮像素子を有し、前記複数の撮像素子により撮影された複数の画像データを合成し、所定の鮮明度の画像を得る画像処理装置において、前記各光学系と前記各撮像素子の間の距離をそれぞれ独立して操作者が手動調節する手動調節手段を有することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】 前記複数の撮像素子により撮影された画像を表示するモニタ手段を有し、操作者がこのモニタ手段の画像を視認しつつ前記手動調節手段を介して前記各光学系と前記各撮像素子の間の距離をそれぞれ独立して手動調節することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2003−259186(P2003−259186A)
【公開日】平成15年9月12日(2003.9.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−50607(P2002−50607)
【出願日】平成14年2月27日(2002.2.27)
【出願人】(500175325)学校法人愛知学院 (6)
【出願人】(593132973)
【出願人】(500059335)
【Fターム(参考)】