説明

画像形成媒体、画像形成媒体の作製方法および画像形成方法

【課題】周囲の熱または可視光への露出によって画像または画像コントラストが劣化することなく長時間安定なままである画像再形成可能な画像形成媒体を提供する。
【解決手段】基材と、基材上にコーティングした、または基材に含浸させた画像化層であって、溶媒またはポリマ結合剤と、溶媒またはポリマ結合剤に溶解または分散させた、置換フルギド類および置換ジチエニルエテン類からなる群から選択されるフォトクロミック材料と、を含む画像化層組成物を含む画像化層と、を含み、画像化層組成物が、無色状態と、中間の無色または消去可能な着色状態と、最終的な安定した着色状態との間の可逆的な均一−不均一遷移を示し、フォトクロミック材料が、第1の波長の光で照射されると無色状態から安定した着色状態へと変換し、熱および光にさらされると安定した着色状態から無色状態へと変換する画像形成媒体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般に、画像再形成可能な用紙へのインクレス印刷のための基材、方法および装置を対象とする。特に、諸実施形態では、本開示は、溶媒またはポリマ結合剤に分散させた置換フルギドまたは置換ジチエニルエテンなどのフォトクロミック材料を含む組成物など、熱および光によって画像形成可能でかつ消去可能な組成物を利用するインクレス印刷用紙など、画像再形成可能なインクレス印刷基材を対象とし、この組成物は、無色状態と、中間の無色または消去可能な着色状態と、最終的な安定した着色状態との間の可逆的な均一−不均一遷移(homogeneous−heterogeneous transition)を示す。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷は、十分に確立された市場であり、またプロセスであり、基材上にインクの液滴を像様に噴出することによって画像が形成される。インクジェットプリンタは、家庭環境およびビジネス環境で、特に、インクジェットプリンタのコストは低いため家庭環境で広く使用されている。これらのインクジェットプリンタにより通常、標準的な事務用紙、透明紙、印画紙など幅広い基材上に、白黒の文章から写真画像に及ぶ高品質画像を生成することが可能となる。
【0003】
しかしながら、プリンタのコストが低いにもかかわらず、交換インクジェットカートリッジのコストが高いことがあり、時折プリンタ自体のコストよりも高いことがある。これらのカートリッジは頻繁に交換しなければならず、したがってインクカートリッジの交換コストは、インクジェット印刷に関する主な消費者の苦情である。よって、インクカートリッジの交換コストを低減することは、インクジェットプリンタのユーザに対する著しい向上となるはずである。
【0004】
加えて、多くの紙文書が読まれた後、程なく処分される。紙は安価ではあるが、処分される紙文書の量は莫大であり、これら処分される紙文書の処理により、重大なコストの問題および環境問題が浮上する。したがって、所望の画像を含むための新しい媒体を、またこのような媒体を作製し使用するための方法を提供することが引き続き望まれる。その態様において、再利用可能で、コストおよび環境の問題を削減することが望ましいはずであり、また、最終使用者にとって慣習的に受入れ可能で使用および保存が容易である媒体を提供するためにフレキシブルで紙のようであることも望ましい。
【0005】
一時的な画像形成および画像蓄積のために利用可能な技術があるが、これらの技術は通常、紙の代用品としての大部分の用途について望ましいとはいえない結果しかもたらさない。例えば、代替技術には、液晶ディスプレイ、電気泳動ディスプレイおよびジリコン(gyricon)画像媒体が含まれる。しかしながら、これらの代替技術は多くの例において、所望の画像再形成可能性(reimageability)を提供するが、伝統的な紙の外観および感触を有する文書を提供しないことがある。
【0006】
フォトクロミック材料、すなわち、可逆的にまたは不可逆的に光誘起により変色する材料を用いる画像化技法が公知であり、例えば、米国特許第3,961,948号は、有機膜形成結合剤中に分散した少なくとも1種のフォトクロミック材料を含むフォトクロミックな画像化層における可視光誘起による変化に基づく画像化方法を開示している。
【0007】
これらの、また他のフォトクロミックな(あるいは画像再形成可能なまたは電気的な)用紙は、画像および文書を一時的に蓄積するために何度も再利用することができる画像化媒体を提供することができるため望ましい。例えば、フォトクロミックに基づく媒体についての用途には、例えば電子ペーパ文書など、画像再形成可能な文書が含まれる。画像再形成可能な文書により、情報をユーザが望む限り保持することが可能となり、その後、情報を消去することも、または異なる情報を有する画像化システムを用いて画像再形成可能な文書を再画像化することもできる。
【0008】
【特許文献1】米国特許第3,961,948号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一時的な文書など画像再形成可能な媒体上に形成される画像が、周囲の熱または可視光への露出によって画像または画像コントラストが劣化することなく長時間安定なままであることが一部の用途では望ましい。しかしながら、媒体の再画像化を可能にするために、必要に応じて、この画像を消去することができることも望まれる。電子ペーパ文書は紙面画像を、ユーザがその紙面画像を見る必要がある限り、周囲の熱または可視光によって画像を劣化させることなく維持すべきである。その後、ユーザがコマンドで、この画像を消去する、または異なる画像と置き換えることができることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、諸実施形態において、紫外線によって画像形成可能で、かつ熱および光によって消去可能であり、溶媒またはポリマ結合剤に分散させた置換フルギドまたは置換ジチエニルエテンを含む組成物を利用する画像再形成可能な画像形成媒体を提供することによって、これらの、また他の要求に対処することができる。この組成物は、無色化合物と着色化合物との間で可逆的な化学変化を示す。紫外線および任意選択の熱を画像化材料に適用して変色させることによって画像化を行い、熱および可視光を画像化材料に適用して変色を逆行させることによって消去を行う。双極子モーメント、分子構造、置換基の向きなどの物理的特性の違いにより、着色化合物の凝集(aggregation)が可能となり、また着色化合物を結晶化させること、さらには着色化合物を安定化させ、無色材料への逆行を防ぐことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
一般に、様々な例示的な諸実施形態において、溶媒またはポリマ結合剤に分散させた置換フルギドまたは置換ジチエニルエテンであるフォトクロミック材料を含む組成物など、熱および光によって画像形成可能でかつ消去可能である組成物を用いて形成されるインクレスで画像再形成可能な用紙または画像形成媒体が提供され、この画像化組成物は、無色状態と、中間の無色または消去可能な着色状態と、最終的な安定した着色状態との間の可逆的な均一−不均一遷移を示す。紫外線照射など第1の刺激に画像化層(imaging layer)をさらすことにより、フォトクロミック材料が無色の未凝集状態である第1の状態から中間の無色または消去可能な着色状態へと変換する。この中間の状態では、画像化組成物(フォトクロミック材料)は、フォトクロミック材料が互いに凝集していない着色状態にあっても、フォトクロミック材料が互いに凝集している無色状態にあってもよい。さらなる照射により、フォトクロミック材料が中間状態から、フォトクロミック材料が互いに凝集している最終的な安定した着色状態へと変換される。結合剤材料と組み合わせた着色化合物の分子特性により、凝集体の可逆的形成が誘起される。これらの凝集体により、着色状態に安定性向上が提供され、熱によって凝集体が散らばるまで退色が防止される。
【0012】
諸実施形態では、この画像形成媒体が一般に、適切な基材材料上にコーティングした、または適切な基材材料に含浸させた、あるいは第1の基材材料と第2の基材材料(すなわち、基材材料とオーバーコート層)との間にはさまれた、または積層された画像化層を含む。
【0013】
画像化層は、任意の適切なフォトクロミック材料ならびに溶媒またはポリマ結合剤を含むことができる。例えば、これらのフォトクロミック材料ならびに溶媒またはポリマ結合剤は、フォトクロミック材料を溶媒またはポリマ結合剤に溶解または分散させた場合、フォトクロミック材料がその透明で、一般的には非凝集の状態にあるように選択される。しかしながら、このフォトクロミック材料が紫外線など第1の刺激にさらされると、フォトクロミック材料がより極性の高い形に異性化し、溶液から可逆的に沈殿して結晶性のまたは凝集した形の可視材料を形成する。音波照射および/または熱など第2の刺激を加え、次いでこの異性化反応を逆行させ、溶媒またはポリマ結合剤にフォトクロミック材料を再び可溶化させる光を当て、したがってフォトクロミック材料をその透明な状態に戻す逆化学反応を可能にすることなど様々な手段によって、この沈殿は元に戻し、したがって画像を消去しやすくし、フォトクロミック紙をブランク状態に戻すことができる。着色状態において、画像は2日またはそれ以上の期間、可視状態とすることができ、それによりフォトクロミック紙の有用性が増大する。フォトクロミック材料は、その安定な着色状態において、類似の構造の近接した分子と凝集するように官能化されることが好ましい。
【0014】
諸実施形態では、フォトクロミック材料が溶媒またはポリマ結合剤に分散させた置換フルギドまたは置換ジチエニルエテンであり、これらのフォトクロミック材料ならびに溶媒またはポリマ結合剤は、画像化組成物が無色状態と着色状態との間の化学転換の後、可逆的な均一−不均一遷移を示すよう互いに具体的に選択される。このフォトクロミック材料は、異なる吸収スペクトルを有する2つの形の間で電磁放射の吸収によって、一方向または両方向に誘起される化学種の可逆的な転換であるフォトクロミズムを示す。第1の形は熱力学的に安定で、紫外線などの光の吸収によって誘起して第2の形に変換することができる。第2の形から第1の形への逆反応が、例えば可視光などの光の吸収によって起こることがある。フォトクロミック材料の様々な例示的な諸実施形態は、3つ以上の形の間で可逆的な転換が起こる可能性がある場合には、3つ以上の形の間の化学種の可逆的な転換も網羅することができる。諸実施形態のフォトクロミック材料は、各々が可逆的に相互変換可能な形を有する1種、2種、3種、4種またはそれ以上の異なるタイプのフォトクロミック材料で構成することができる。本明細書中で使用する用語「フォトクロミック材料」とは、フォトクロミック材料の特定の種のすべての分子を、それらの一時的な異性型にかかわらず指す。
【0015】
諸実施形態において、画像再形成可能な用紙も一般に、溶媒またはポリマ結合剤に分散または溶解させたフォトクロミック材料の溶媒またはポリマ結合剤混合物を含み、この混合物は適切な基材材料上にコーティングされている、または第1の基材材料と第2の基材材料との間にはさまれている。必要に応じて、溶媒混合物等をマイクロカプセル化すること等によってなど、基材材料上に、または第1の基材材料と第2の基材材料との間に混合物をさらに束縛することができる。
【0016】
諸実施形態における使用に適した置換フルギド類および置換ジチエニルエテン類は、以下の一般式の置換フルギド類および置換ジチエニルエテン類である。
【0017】
【化1】

【0018】
式中、各置換基XおよびXは、対称構造または非対称構造を示すように同じであっても異なっていてもよく、各XおよびXは以下に示すリストの化合物から独立に選択される。
【0019】
【化2】

【0020】
式中、置換基X、XおよびXは、水素原子、芳香族基、複素環基、脂肪族基またはこれらの組合せであってよい。X、XおよびXは、環付加した(annelated)環系を形成するように隣接結合させることもできる。
【0021】
諸実施形態において、X、XおよびXは、水素および以下の一般式の凝集置換基のリストから独立に選択される。
(YA)y−BRIDGE−(YD)y
YAおよびYAの各々は任意選択で存在する。YAおよび/またはYDが存在する場合には、2つ以上のYAまたはYD基が存在することができる。したがって、例えば、yおよびyは独立に0、1、2、3、4またはそれ以上であってよい。式中、YAは電子受容体基、YDは電子供与体基、BRIDGEは結合基を示し、X、Xおよび/またはX基の間の、あるいはフォトクロミック材料が着色状態にある場合にはフォトクロミック部分の間の凝集を促進するようにすべて適切に選択される。フォトクロミック部分との結合は、YA、YDまたはBRIDGEのいずれかを介して実現することができる。したがって、一部の諸実施形態では、X、XおよびXのうち、同時に3つすべてではないが1つまたは2つがHであり、さらに他の諸実施形態では、X、XおよびXのいずれもHではない。
【0022】
第1の諸実施形態では、この式中のBRIDGE部分は、例えば、(a)−C−および−C−C−など、炭素数が例えば約6〜約60である1つ、2つまたはそれ以上の芳香族環など、少なくとも1つの芳香族環、(b)−C−CH=CH−C−および−C−C≡C−C−など、炭素数が例えば約8〜約60である1つまたは複数のエテニルまたはエチニル結合を介して共役した1つ、2つまたはそれ以上の芳香族環など、少なくとも1つの芳香族環、(c)1,4−C10および1,5−C10など、炭素数が例えば約10〜約60である縮合芳香族環、ならびに(d)ヘテロ原子が、例えば、酸素(例えば、フラン、ベンゾフラン、ジベンゾフランのような)、硫黄(例えば、1,4−ジチイン、ベンゾ−1,4−ジチイン、ジベンゾ−1,4−ジチイン、テトラチアフルバレン、チオフェン、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェンのような)、窒素(例えば、ピロール、インドール、カルバゾール、ピラゾール、イミダゾールのような)、セレン(例えば、セレノフェン、ベンゾセレノフェン、ジベンゾセレノフェンのような)、テルル(例えば、テルロフェン、ベンゾテルロフェン、ジベンゾテルロフェンのような)である、原子数(炭素原子およびヘテロ原子の数を指す)が約5〜約30である少なくとも1つの芳香族複素環で構成されるπ電子共役ユニットである任意の適切な基であってよい。
【0023】
この実施形態において、フォトクロミック部分間の、あるいはX、XおよびX基間の任意選択のπスタッキングと共に、BRIDGEを介したYA基とYD基との間の双極子相互作用によって、基本的にX、XおよびX間で凝集が促進される。
【0024】
YAおよびYDがH原子である場合、X、XおよびX基の芳香族環の間の、また任意選択でフォトクロミック基の間のπスタッキングによってX、XおよびXの凝集が促進される。
【0025】
第2の実施形態では、X、XおよびX基のBRIDGEユニットは脂肪族炭化水素構造である。この炭化水素は、例えば以下であってよい。
(a)ペンチル、デシル、およびドデシルなど、例えば炭素数が4〜約30である直鎖アルキル基。
(b)イソペンチルおよび2−プロピル−ペンチルなど、例えば炭素数が5〜約40である分岐アルキル基。
(c)シクロペンチルおよびシクロヘキシルなど、例えば環内の炭素数が3〜約8、特に炭素数が4〜7である1つ、2つまたはそれ以上の結合シクロアルキル基などの少なくとも1つのシクロアルキル基。任意選択で、このシクロアルキル基の1つまたは複数の水素原子を、例えば、炭素数が例えば1〜約20であるアルキル基、炭素数が例えば6〜約30であるアリールアルキル基、炭素数が例えば3〜約8または環内の炭素数が4〜7であるシクロアルキル基、あるいは炭素数が例えば4〜約30であるアルキルシクロアルキル基で置換することができる。
(d)p−メチル−ベンジル、3−(p−エチル−フェニル)−プロピル、および5−(1−ナフチル)−ペンチルなど、例えば炭素数が7〜約30であるアリールアルキル基またはアルキルアリール基。
【0026】
BRIDGEユニットが脂肪族炭化水素構造である場合、フォトクロミック基の凝集は炭化水素鎖の疎水性によるものである。
【0027】
電子供与体部分YDは、諸実施形態において、ハメット(Hammett)の式に従って負のハメット定数(σp)を有することができる、電子を供与することができる任意の適切な原子または基であってよい。諸実施形態において、この電子供与体部分YDは、その原子価要件(例えば、窒素原子は三価である)を満たすために1つまたは複数の追加の部分を必要とすることがある原子である。諸実施形態において、電子供与体部分YDを以下からなる群から選択することができる。
(a)追加の部分と結合することによって原子の価数が満たされるN、O、S、P、Cl、BrおよびIからなる群から選択される原子;
(b)フェロセニル;
(c)アズレニル;
(d)メチルやエチルなど、例えば炭素数が1〜約20以上であるアルキル基。このアルキル基は、任意選択で分岐していてもよい。
YD原子の原子価要件を満たす他の部分(1つまたは複数)は、例えば、水素原子、あるいは以下のような炭化水素基であってよい。
(a)ペンチル、デシル、およびドデシルなど、例えば炭素数が1〜約12などの炭素数が1〜約20である直鎖アルキル鎖;
(b)イソプロピル、イソペンチル、および2−プロピル−ペンチルなど、例えば炭素数が3〜約30などの炭素数が3〜約40である分岐アルキル基;
(c)シクロペンチルおよびシクロヘキシルなど、例えば環内の炭素数が4〜約7などの炭素数が3〜約30であるシクロアルキル基;ならびに
(d)p−メチル−ベンジル、3−(p−エチル−フェニル)−プロピル、および5−(1−ナフチル)−ペンチルなど、例えば炭素数が7〜約30であるアリール基、アリールアルキル基またはアルキルアリール基。
【0028】
電子受容体部分YAは、電子を受容することができる任意の適切な原子または基であってよい。諸実施形態において、電子受容体部分YAは、ハメットの式に従って正のハメット定数(σp)を有する電子求引官能基である。電子受容体部分YAは、例えば以下であってよい。
(a)アルデヒド(−CO−H);
(b)Rが、メチル、エチル、ペンチル、デシル、およびドデシルなど、例えば炭素数が1〜約12などの炭素数が1〜約20である直鎖アルキル基;イソプロピル、イソペンチル、および2−プロピル−ペンチルなど、例えば炭素数が3〜約30などの炭素数が3〜約40である分岐アルキル基、シクロペンチルおよびシクロヘキシルなど、例えば環内の炭素数が4〜約7などの炭素数が3〜約30であるシクロアルキル基;p−メチル−ベンジル、3−(p−エチル−フェニル)−プロピル、および5−(1−ナフチル)−ペンチルなど、例えば炭素数が7〜約30であるアリールアルキル基またはアルキルアリール基であってよいケトン(−CO−R);
(c)Rが、ペンチル、デシル、およびドデシルなど、例えば炭素数が1〜約12などの炭素数が1〜約20である直鎖アルキル基、イソプロピル、イソペンチル、および2−プロピル−ペンチルなど、例えば炭素数が3〜約30などの炭素数が3〜約40である分岐アルキル基、シクロペンチルおよびシクロヘキシルなど、例えば環内の炭素数が4〜約7などの炭素数が3〜約30であるシクロアルキル基、p−メチル−ベンジル、3−(p−エチル−フェニル)−プロピル、および5−(1−ナフチル)−ペンチルなど、例えば炭素数が7〜約30であるアリールアルキル基またはアルキルアリール基であってよいエステル(−COOR);
(d)カルボン酸(−COOH);
(e)シアノ(CN);
(f)ニトロ(NO);
(g)ニトロソ(N=O);
(h)硫黄をベースとする基(例えば、−SO−CHおよび−SO−CF);
(i)フッ素原子;
(j)各Rが独立に、ペンチル、デシル、およびドデシルなど、例えば炭素数が1〜約12などの炭素数が例えば1〜約20である直鎖アルキル基、イソプロピル、イソペンチル、および2−プロピル−ペンチルなど、炭素数が3〜約30などの炭素数が例えば3〜約40である分岐アルキル基、シクロペンチルおよびシクロヘキシルなど、環内の炭素数が4〜約7などの炭素数が例えば3〜約30であるシクロアルキル基、p−メチル−ベンジル、3−(p−エチル−フェニル)−プロピル、および5−(1−ナフチル)−ペンチルなど、炭素数が例えば7〜約30であるアリールアルキル基またはアルキルアリール基であってよいアルケン(−CH=CRまたは−CH=CHR);
(k)ホウ素原子。
【0029】
YAおよびYDがX、XまたはX基の構造中に存在する場合、これらの構造が組み込まれている隣接フォトクロミック分子の基のX、Xおよび/またはXの逆平行アライメント(antiparallel alignment)によって、YAおよびYDはフォトクロミック分子の凝集を促進する。
【0030】
適切なX、XまたはX基の例示的な例には、以下が含まれるが、これらに限定されない。
【0031】
【化3】

【0032】
置換基X、XおよびXは水素原子、芳香族基、複素環基、脂肪族基またはこれらの組合せであってよい。XおよびXは、環付加した環系を形成するように隣接結合させることもできる。置換基RおよびRは独立に、炭素数が1〜約20または1〜約40であるアルキル基、脂肪族基、芳香族基、複素環基または複素環式芳香族基、またこれらの任意の組合せである。置換基X、XおよびXのうち少なくとも1つは、水素原子ではないことが好ましい。
【0033】
これらの材料の具体例には、以下が含まれる。
【0034】
【化4】

【0035】
式中、置換基は上で定義したとおりである。
【0036】
これらのフォトクロミック材料は、適切な溶媒またはポリマ結合剤と組み合わせた材料が溶媒またはポリマ結合剤から凝集する、沈殿する、または相分離するように誘起することができる点で、他の異なった置換または無置換のフルギド類およびジチエニルエテン類を含む他のフォトクロミック材料とは異なる。凝集すると、フォトクロミック材料のスタッキングにより、脱色ステップの開環が防止される。これにより所望の生成物が可能となる。というのは、基材を加熱し、開環凝集体を溶液にした、または分子分散させた場合に所望のとおりに脱色が進行する画像再形成可能な紙文書が、凝集によりもたらされるからである。諸実施形態のフォトクロミック材料は、公知の化合物または混合物についても活性化体積(volume of activation)が非常に小さく、したがって固体状態であっても脱色が起こる可能性がある点で、他のフォトクロミック材料または他のフォトクロミック材料と他の溶媒もしくはポリマ結合剤との混合物とは異なる。しかしながら、環化の炭素原子中心の混成(hybridization)により結晶または凝集体の格子に大きな変化が誘起されるように置換基が慎重に選択される本開示の諸実施形態では、構造再編成の発生が可能となるのに十分な格子の移動度が熱または他の刺激により誘起されるまで、着色状態を凍結させることができる。
【0037】
加えて、望ましくない時期尚早な消去の回避を助けるために、また熱に耐えるために、フォトクロミック材料が熱的に安定であることが諸実施形態では望まれる。例えば、一般的なフォトクロミック材料のスピロピランは、熱的に安定ではない。この材料は、室温でさえも、その着色状態から色あせる。したがって、これらの諸実施形態において使用することができる熱的に安定な適切なフォトクロミック材料には、様々な置換フルギド類および置換ジチエニルエテン類が含まれる。しかしながら、フルギド類およびジチエニルエテン類は、周囲の室内光にさらすと、光による疲労を被り、それらの無色状態に戻る。
【0038】
これらのフォトクロミック材料の例示的な構造、およびこれらのフォトクロミック材料がどのように状態変化するのかを以下に示す。
【0039】
【化5】

【0040】
【化6】

【0041】
消去可能な用紙などの用途では、消去手順の一環としての高温または長い露光時間を使用する必要なしに、(1カ月以上安定であるなど)2日を超える期間、室温および周囲光に対する安定性を有することが重要である。したがって、本開示の置換フルギド類およびジチエニルエテン類は、このような用途において特に適切である。例えば、以下のスキームは、例示的な化合物についての書込みおよび消去プロセスを示す。
【0042】
【化7】

【0043】
これらの画像形成材料(フォトクロミック材料)を、溶媒、ポリマ結合剤など任意の適切なキャリアに溶解または分散させる。適切な溶媒には、例えば、炭素数が約1〜約30の直鎖または分岐鎖脂肪族炭化水素など、直鎖脂肪族炭化水素、分岐鎖脂肪族炭化水素等が含まれる。1種以上の溶媒の混合物、すなわち、溶媒系を必要に応じて使用することもできる。加えて、より極性の高い溶媒を必要に応じて使用することもできる。2種以上の異なる溶媒が存在する場合、各溶媒は、すべての溶媒の重量に基づき、例えば、約5%〜90%、特に約30%〜約50%の量で、同じ量または異なる量で存在することができる。
【0044】
有機ポリマまたは水性ポリマに分散可能な組成物は共に、使用する成分に応じて使用することができる。例えば、水性の組成物にはポリビニルアルコールが適切な適用溶媒であり、有機可溶性組成物にはポリメチルメタクリレートが適している。
【0045】
ポリマ結合剤の適切な例には、ポリメチルメタクリレート(PMMA)のようなポリアルキルアクリレート類、ポリビニルブチラール、ポリカーボネート類、ポリエチレン類、酸化ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリスチレン類、ポリ(スチレン)−co−(エチレン)、ポリスルホン類、ポリエーテルスルホン類、ポリアリールスルホン類、ポリアリールエーテル類、ポリオレフィン類、ポリアクリレート類、ポリビニル誘導体、セルロース誘導体、ポリウレタン類、ポリアミド類、ポリイミド類、ポリエステル類、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸等が含まれるが、これらに限定されない。ポリスチレン−アクリロニトリル、ポリエチレン−アクリレート、塩化ビニリデン−塩化ビニル、酢酸ビニル−塩化ビニリデン、スチレン−アルキド樹脂、などの共重合体材料も、適切な結合剤材料の例である。これらの共重合体は、ブロック共重合体であっても、ランダム共重合体であっても、交互共重合体であってもよい。一部の諸実施形態では、ポリメチルメタクリレートまたはポリスチレンが、コストおよび広い利用可能性の点でポリマ結合剤となる。このポリマ結合剤は、使用した場合、コーティングまたは被膜形成組成物を提供する役割を有する。
【0046】
使用するキャリアに応じて、フォトクロミック材料は、所望の着色凝集体を形成する場合、キャリアから沈殿する、または相分離することができる。したがって、例えば、キャリアが溶媒である場合、フォトクロミック材料を感光用紫外線にさらすことにより、溶解した無色状態から沈殿し凝集した着色状態に材料を変換させることができ、フォトクロミック材料を熱または超音波処理(sonication)など第2の刺激にさらすことにより、沈殿し凝集した着色状態から溶解した無色状態に材料を変換させて戻すことができる。同様に、キャリアがポリマ結合剤である場合、フォトクロミック材料を感光用紫外線にさらすことにより、分散した無色状態から相分離し凝集した着色状態に材料を変換させることができ、フォトクロミック材料を熱または超音波処理など第2の刺激にさらすことにより、相分離し凝集した着色状態から分散した無色状態に材料を変換させて戻すことができる。
【0047】
ポリマ結合剤として相変化材料を使用することもできる。
【0048】
諸実施形態において、画像化組成物をある形で適用し、使用するために別の形に乾燥させることができる。したがって、例えば、フォトクロミック材料と溶媒またはポリマ結合剤とを含む画像化組成物を、基材に塗布する、または基材に含浸させるために溶媒に溶解させる、または分散させることができ、この溶媒を後に蒸発させて乾燥層を形成する。
【0049】
一般に、画像化組成物は、約30〜約70重量パーセントのキャリアなど約5〜約99.5重量パーセントのキャリアと、約0.1〜約5重量パーセントのフォトクロミック材料など約0.05〜約50重量%のフォトクロミック材料と、など、任意の適切な量でキャリアおよび画像化材料を含むことができる。
【0050】
フォトクロミック材料ならびに溶媒またはポリマ結合剤は、無色状態と、中間の無色または消去可能な着色状態と、最終的な安定した着色状態との間の可逆的な均一−不均一遷移を溶媒混合物が示すように適切に選択される。すなわち、フォトクロミック材料および溶媒またはポリマは、溶媒またはポリマがフォトクロミック材料の比較的極性が低い無色型を可溶化するが、フォトクロミック材料の比較的極性の高い凝集した着色型を必ずしも可溶化せず、したがって沈殿または相分離させるように選択される。
【0051】
溶媒またはポリマおよびフォトクロミック材料の適切な選択は、容易に行うことができる。例えば、特定のフォトクロミック材料の無色型および着色型の特定の溶媒、ポリマまたは溶媒/ポリマ系への比溶解度(relative solubility)の定期的な試験、測定および/または予測によって、これらの材料の適切な選択を行うことができる。
【0052】
フォトクロミック材料ならびにキャリア溶媒または結合剤ポリマを、紙基材上への堆積用にカプセル化することもできる。
【0053】
一実施形態では、例えば、フォトクロミック材料の無色型と着色型との双極子モーメントの相対差を比較することによって、適切なフォトクロミック材料の選択を行うことができる。例えば、着色型の所望の沈殿または相分離を可能にするためには、フォトクロミック材料の無色型と着色型とが異なる凝集傾向を有することが諸実施形態では望まれる。一般に上記構造においてはXおよびX基で表される凝集する置換基により、関与する強い分子間力のためジチエニルエテン類およびフルギド類の閉環着色状態における凝集が促される。というのは、XおよびX基は凝集体において相互作用するからである。
【0054】
画像形成媒体基材に画像化層を適用するために、画像形成層組成物を任意の適切なやり方で塗布することができる。
【0055】
画像形成媒体は、少なくとも一方の面に画像化層がコーティングまたは含浸された支持基材を含むことができる。この基材は、要望に応じて、いずれか一方の面のみに、または両方の面に画像化層をコーティングまたは含浸することができる。
【0056】
任意の適切な支持基材を使用することができる。例えば、支持基材の適切な例には、ガラス、セラミックス、木、プラスチック、紙、繊維、織物製品、ポリマ膜、金属などの無機基材等が含まれるが、これらに限定されない。
【0057】
画像形成媒体において不透明な層を使用する場合、任意の適切な材料を使用することができる。例えば、白い紙のような外観が望まれる場合、二酸化チタン、または酸化亜鉛、無機炭酸塩等のような他の適切な材料の薄いコーティングにより不透明な層を形成することができる。不透明な層は、例えば、約0.1mm〜約5mmなど約0.01mm〜約10mmの厚さを有することができるが、他の厚さを使用することもできる。
【0058】
必要に応じて、塗布された画像化層の上にさらなるオーバーコーティング層を塗布することもできる。
【0059】
フォトクロミック材料を基材上に塗布した溶媒と混合する場合、および溶媒系が最終的な生成物中に保持されている場合、追加の加工が必要となることがある。結果として、フォトクロミック材料を単に基材上にコーティングした場合には、一般に溶媒系を覆って被覆材料を塗布して、基材上の定位置に溶媒系を拘束する。したがって、例えば、被覆材料は、基材層用に上に開示されている適切な材料のいずれかなどの固体層であってよい。代替実施形態においては、フォトクロミック材料を覆ってポリマ材料またはポリマ膜を塗布することができ、このポリマ膜は離散点(discrete point)でフォトクロミック材料に浸透して、フォトクロミック材料のポケットまたはセルを実質的に形成する。これらのポケットまたはセルは、基材によって底面が束縛され、またポリマ材料によって側面および上面が束縛されている。これらのセルの高さは、例えば、約1ミクロン〜約1000ミクロンであってよいが、これらに限定されない。これらのセルは、任意の形状、例えば正方形、長方形、円形、多角形等であってよい。これらの諸実施形態において、フォトクロミック材料によってもたらされるフルカラーのコントラスト効果が提供されるように、被覆材料は有利には透明で無色である。
【0060】
別の実施形態では、フォトクロミック材料を有する溶媒系をカプセル化またはマイクロカプセル化することができ、得られたカプセルまたはマイクロカプセルを、上述のように基材上に堆積させる、またはコーティングさせることができる。
【0061】
その方法の態様において、本開示は、基材と、溶媒またはポリマ結合剤に分散させた置換フルギドまたは置換ジチエニルエテンを含む画像化層とで構成される画像形成媒体を提供することを含み、この組成物は、無色状態と、中間の無色または消去可能な着色状態と、最終的な安定した着色状態との間の可逆的な均一−不均一遷移を示し、フォトクロミック材料は、第1の波長の光で照射されると無色状態から安定した着色状態へと変換し、熱および光にさらされると安定した着色状態から無色状態へと変換する。別個の書込みおよび消去プロセスを提供するためには、紫外線照射など第1の刺激を画像化材料に加えて変色させることによって画像化を行い、熱や超音波処理など第2の異なる刺激を画像化材料に適用して変色を逆行させることによって消去を行う。
【0062】
諸実施形態において、書込みおよび/または消去プロセスのために、光照射前または光照射と同時に画像化層に加熱を適用することができる。しかしながら、諸実施形態においては、無色から着色へと変色させるのに紫外線照射などの刺激が十分であるときには、書込みプロセスには加熱は必要とされない。一方、着色から無色への変色を加速するための材料の移動度の増大を助けるために、消去プロセスに加熱が望まれることがある。加熱により画像化組成物が照射中に所望の温度まで上昇する場合には、この加熱を照射前または照射中に適用することができる。任意の適切な加熱温度を使用することができるが、例えば、使用する特定の画像化組成物に依存することになる。
【0063】
異なる光照射波長など、これらの異なる刺激は、明確に区別される書込みおよび消去作用を提供するように適切に選択することができる。例えば、一実施形態においては、透明状態から着色状態への異性化を生じさせる紫外線に敏感となるが、着色状態から透明状態への異性化を生じさせる可視光にも敏感となるようにフォトクロミック材料を選択する。他の諸実施形態においては、書込みおよび消去波長は、少なくとも約20nm、少なくとも約30nm、少なくとも約40nm、少なくとも約50nm、少なくとも約100nmなど、少なくとも約10nm離れている。
【0064】
書込みプロセスでは、発光ダイオード(LED)などの紫外線源など、適切な活性化波長の画像化光に、画像形成媒体を像様にさらす。画像化光はフォトクロミック材料に十分なエネルギを供給して、フォトクロミック材料を透明状態から着色状態へと異性化させるなど変換させて、画像化位置に着色画像を生成する。画像形成媒体の特定の位置に照射されるエネルギの量は、その位置で生成される色の強度または濃さに影響を与えることができる。適切なフォトクロミック材料、溶媒またはポリマ結合剤および照射条件を選択すると、画像形成媒体の特定の位置に照射されるエネルギの量の変化により、階調画像の形成が可能となることがあるが、他の適切なフォトクロミック材料を選択するとフルカラー画像の形成が可能となることがある。
【0065】
書込みプロセスによって画像が形成されると、凝集体の形成により画像がロックされる。すなわち、形成された凝集体が低移動度を示し、環化の炭素原子中心の混成により結晶または凝集体の格子に大きな変化が誘起され、それにより着色状態を「凍結させる」またはロックすることができるが、特定の第2の刺激なしでは、この状態を容易に消去することができない。したがって、この画像化基材は、長寿命の画像寿命を示す画像再形成可能な基材を提供するが、この基材を望まれるとおりに消去処理することができ、追加の画像化サイクルに再利用することができる。
【0066】
消去プロセスでは、キャリア材料のガラス転移温度、融点温度もしくは沸点温度まで、またはガラス転移温度、融点温度もしくは沸点温度近くの温度までなど、フォトクロミック材料を任意選択で加熱する場合に、熱や超音波処理など異なる刺激を使用すること以外は基本的に書込みプロセスを繰り返す。この消去プロセスにより、変色を可能にするように構造再編成の発生が可能となるのに十分な格子の移動度が誘起される。したがって、この消去プロセスは、フォトクロミックユニットを着色状態から透明状態へと異性化させるなど変換させて、画像化位置にある先に形成した画像を消去する。この消去手順は、望まれるとおりに、像様に行っても、または画像化層全体に行ってもよい。本開示のフォトクロミック材料には加熱工程が必要となる。
【0067】
一時的な画像を形成し、その一時的な画像を消去するために使用する別々の画像化光は、例えば単一波長または波長帯域など、任意の適切な所定の波長範囲を有することができる。様々な例示的な諸実施形態において、これらの画像化光は、単一波長または狭い波長帯域を有する紫外線(UV)である。例えば、紫外線は、約365nmの単一波長や約360nm〜約370nmの波長帯域など、約200nm〜約475nmの紫外線波長域から選択することができる。画像を形成するために、また画像を消去するために、画像形成媒体をそれぞれ画像化熱または消去熱に約10ミリ秒〜約5分、特に約30ミリ秒〜約1分の範囲の時間さらすことができる。画像化光は、約0.1mW/cm〜約100mW/cm、特に約0.5mW/cm〜約10mW/cmの範囲の強度を有することができる。
【0068】
様々な例示的な諸実施形態では、例えばコンピュータまたは発光ダイオード(LED)アレイスクリーンによって、所定の画像に対応する画像化光を発生させることができ、画像形成媒体をLEDスクリーン上にまたはLEDスクリーンに近接させて所望の期間置くことによって、媒体上に画像を形成する。他の例示的な諸実施形態では、紫外線ラスタ出力スキャナ(ROS:Raster Output Scanner)を使用して、像様パターンに紫外線を発生させることができる。この実施形態は、例えば、別の従来のやり方で印刷画像を生成するためにコンピュータで駆動することができるプリンタ装置に特に適用可能である。
【0069】
画像化基材を再利用するために画像を消去するには、様々な例示的な諸実施形態において、基材を熱にさらして画像化材料を分子状に分散した形とし、次いで可視光にさらして画像を消去することができる。基材全体を瞬時に熱源および光にさらす、基材を走査することなどによって連続的に基材全体を消去熱源にさらし、その後光にさらすなど、任意の適切なやり方でこのような消去を行うことができる。他の諸実施形態では、サーマルヘッドを用いるなどによって、基材上の特定の点で消去を行うことができる。
【0070】
様々な例示的な諸実施によれば、観測者に対して画像を可視化する色コントラストとは、例えば、2つ、3つまたはそれ以上の異なる色の間のコントラストであってよい。用語「色」は、色相、明度、彩度など複数の態様を包含することができ、2つの色が少なくとも1つの態様で異なる場合には、一方の色は他方の色とは異なることがある。例えば、色相および彩度は同じであるが明度が異なる2つの色は、異なる色とみなされるはずである。画像がユーザの肉眼で見える限り、例えば、レッド、ホワイト、ブラック、グレー、イエロー、シアン、マゼンタ、ブルー、およびパープルなど任意の適切な色を使用して色コントラストを生成することができる。しかしながら、望ましい最大色コントラストの点では、所望の色コントラストは、白い背景にグレー、ダークグレーまたはブラックの画像、明るいグレーの背景にグレー、ダークグレーまたはブラックの画像など、明るいまたは白い背景にダークグレーまたはブラックの画像である。
【0071】
様々な例示的な諸実施形態において、色コントラストは、例えば可視時間中に減少するなど、変化することがあるが、語句「色コントラスト」は、可視時間中に変化するのか一定であるのかにかかわらず、画像をユーザに対して識別可能にするのに十分な任意の程度の色コントラストを包含することができる。
【実施例】
【0072】
<実施例1>
室温で飽和した以下の化合物1のIsopar L溶液
【化8】


を調製し、次いで365遮断フィルタを有するキセノンランプを用いてこの化合物を照射する。照射すると、透明な溶液がまず赤みがかった青色になり、次いで青みがかった茶色になる(凝集を示す)。この色は、2日を超える期間、安定であることを示す。この混合物を加熱して凝集体を分解(dissolve)し、閉環型を無色の開環型に熱的に戻すことによって、無色型への逆戻りを実現することができる。
【0073】
<実施例2>
ポリ(メチルメタクリレート)を含むキシレン中の化合物1の飽和溶液を、プラスチックシート上にコーティングさせ、乾燥させる。キセノンランプで照射すると、この被膜は強く色付き、すなわち最初赤みがかった青色になり、次いで時間をかけて青みがかった茶色になる。この着色状態は、2日を超える期間持続するが、加熱によって逆行させて凝集プロセスを逆行させ、その後、熱で脱色させることができる。
【0074】
<実施例3>
化合物1のisopar溶液を、以下に説明する複合コアセルベーション(complex coacervation)技法を用いてカプセル化する。オーバーヘッドミキサと3つのブレードを有するインペラとを備える500mLのMortonフラスコに、6.6%ゼラチン溶液100mLと、水400mLと、アラビアゴムの6.6%温水溶液100mLとを加える。この混合物を40℃まで温める。次に、高せん断混合下のこの水溶液に、Isopar Mに溶解させた化合物1の溶液60mLを添加する。光学顕微鏡法を指針として、所望の液滴径を実現するまで水溶液中への油の乳化を継続する。次に、希酢酸溶液の液滴添加により、このカプセル化溶液のpHを4.5に調整する。次に、このカプセル化混合物を、混合を継続しながら室温まで冷却させる。得られたカプセルをグルタルアルデヒドで架橋し、水で洗浄し、湿式ふるいにより所望のカプセル寸法を分離する。これらのカプセルを分離し、乾燥させ、紙基材上にコーティングさせる。キセノンランプを用いて照射することにより、紙上のカプセルが無色からまず赤みがかった青色に変化し、次いで凝集を示す青みがかった茶色に変化する。この色は2日を超える期間安定であるが、90℃のオーブン内で30分間、紙を加熱することによって逆行させることができる。
【0075】
<実施例4>
実施例2による溶液を、紙に直接コーティングさせる。キセノンランプの照射により、無色から赤みがかった青色への変色が生じ、次いで凝集を示す青みがかった茶色への変色を示す。この着色型は2日を超える期間安定であるが、基材を90℃で加熱し、その後40分間可視光攻めにすることによって元に戻すことができる。
【0076】
<実施例5〜8>
以下の化合物2を用いて実施例1〜4を繰り返す。
【0077】
【化9】

【0078】
上述のとおりと同様の結果が得られる。
【0079】
化合物1および2は、化合物3から調製することができる。
【0080】
【化10】

【0081】
化合物3の調製は、[Norsten,Tyler B.;Branda,Neil R.、Photoregulation of Fluorescence in a Porphyrinic Dithienylethene Photochrome、Journal of the American Chemical Society(2001年)、123(8)、1784〜1785頁]に開示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上にコーティングした、または前記基材に含浸させた画像化層であって、溶媒またはポリマ結合剤と、前記溶媒またはポリマ結合剤に溶解または分散させた、置換フルギド類および置換ジチエニルエテン類からなる群から選択されるフォトクロミック材料と、を含む画像化層組成物を含む画像化層と、
を含み、
前記画像化層組成物が、無色状態と、中間の無色または消去可能な着色状態と、最終的な安定した着色状態との間の可逆的な均一−不均一遷移を示し、前記フォトクロミック材料が、第1の波長の光で照射されると前記無色状態から前記安定した着色状態へと変換し、熱および光にさらされると前記安定した着色状態から前記無色状態へと変換することを特徴とする画像形成媒体。
【請求項2】
画像形成媒体を作製する方法であって、
基材に画像化層組成物を塗布する工程を含み、
前記画像化層組成物が、溶媒またはポリマ結合剤と、前記溶媒またはポリマ結合剤に溶解または分散させた、置換フルギド類および置換ジチエニルエテン類からなる群から選択されるフォトクロミック材料と、を含み、
前記画像化層組成物が、無色状態と、中間の無色または消去可能な着色状態と、最終的な安定した着色状態との間の可逆的な均一−不均一遷移を示し、前記フォトクロミック材料が、第1の波長の光で照射されると前記無色状態から前記安定した着色状態へと変換し、熱および光にさらされると前記安定した着色状態から前記無色状態へと変換することを特徴とする画像形成媒体の作製方法。
【請求項3】
画像を形成する方法であって、
基材と、
前記基材上にコーティングした、または前記基材に含浸させた画像化層であって、溶媒またはポリマ結合剤と、前記溶媒またはポリマ結合剤に溶解または分散させた、置換フルギド類および置換ジチエニルエテン類からなる群から選択されるフォトクロミック材料と、を含む画像化層組成物を含む画像化層と、
を含む画像形成媒体を提供する工程であって、
前記画像化層組成物が、無色状態と、中間の無色または消去可能な着色状態と、最終的な安定した着色状態との間の可逆的な均一−不均一遷移を示し、前記フォトクロミック材料が、第1の波長の光で照射されると前記無色状態から前記安定した着色状態へと変換し、熱および光にさらされると前記安定した着色状態から前記無色状態へと変換する工程と、
第1の波長の紫外線放射に前記画像形成媒体を像様にさらして、可視画像を形成する工程と、
を含むことを特徴とする画像形成方法。

【公開番号】特開2008−310322(P2008−310322A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−153943(P2008−153943)
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】