説明

画像形成装置の定着用のベルトまたはロール

【課題】フルカラープリンタ用のトナーを用いた場合にあっても、広い定着温度範囲にわたりコールドオフセットおよびホットオフセットを生じがたい画像形成装置の定着用のベルトまたはロールを提供。
【解決手段】複層構造を有しかつ最外層が離型層の役割を果たす定着用のベルトまたはロールであって(a)前記最外層がフッ素系樹脂層からなること(b)その最外層の表面の接触角θに関して、シリコーンオイルを液滴として用いた液滴法による温度25℃および温度150℃における接触角をそれぞれθ(25)、θ(150)とするとき、θ(25)が60°以上でかつθ(150)/θ(25)の比が0.8以上であること、および、(c)その最外層の温度25℃における表面粗さRaが0.15μm以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層構造を有しかつ最外層が離型層の役割を果たす定着用のベルトまたはロ
ールに関するものであって、フルカラープリンタ用のトナーを用いた場合にあっても、広
い定着温度範囲にわたりコールドオフセットおよびホットオフセットを生じがたい定着用
のベルトまたはロールを提供しようとするものである。
【0002】
なお、以下においては、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテ
ル共重合体を「PFA」、ポリテトラフルオロエチレンを「PTFE」と略称することが
ある。
【背景技術】
【0003】
[はじめに/定着用のベルトまたはロール]
電子写真方式で像を形成記録する電子写真記録装置としては、複写機、プリンタ、ファ
クシミリ等の単機能機があり、またこれらの機能のうちの2以上を備えた複合機がある。
そして、これらの電子写真記録装置におけるトナーの定着方式(転写紙上の未定着トナー
像を加熱、加圧により定着させる方式)には「定着ロール方式」と「定着ベルト方式」と
があるものの、画像形成の高速化や省エネルギー化の観点からは、後者の定着ベルト方式
の方が有利であると言うことができる。
【0004】
ここで、前者の「定着ロール方式」においては、金属製のローラ表面に離型層を積層し
た加圧ローラが用いられる。エンドレスベルトをローラに装着した加圧ローラが用いられ
る。一方、後者の「定着ベルト方式」においては、互いに離れた2つのローラとその間に
設置したヒータにエンドレスベルトを掛け渡すと共に、そのヒータに対向して加圧ローラ
を配置する方式1や、ヒータにエンドレスベルトを掛け渡すと共に、そのヒータに対向さ
せて加圧ローラを配置する方式2がある。
【0005】
そして、上記の「定着ロール方式」や「定着ベルト方式」におけるエンドレスベルトの
代表的なものとして、複層構造を有しかつ最外層が離型層の役割を果たすものが広く用い
られている。ここで、最外層はフッ素系樹脂層とすることが多く、内部側の層は、シリコ
ーン樹脂層の単体、ポリイミド樹脂層の単体、あるいはポリイミド樹脂層の外面にシリコ
ーン樹脂層を被覆した積層体とすることが多い。
【0006】
さて、複写の高速化および画像のフルカラー化は時代の要請であり、これら双方の要求
を満足するためには定着工程におけるフルカラー用のトナーの低融点化が求められる。し
かしながら、トナーを低融点化するとトナーが定着面に付着してオフセット現象を生じや
すくなるので、トナーの改良の観点から非オフセット温度域を高温側および低温側の双方
に拡げる努力がなされている。また、定着装置にユニットを設け、ベルトやロールの表面
にシリコーンオイル等の離型剤を供給して定着用のベルトまたはロールの表面にシリコー
ンオイルを塗布してホットオフセット現象による汚れを防止することも行われているが、
オイル使用による問題点もあるので、オイルレス定着トナーの必要性が高く、そのため定
着用のベルトまたはロール側の改良が強く望まれている。
【0007】
[定着用のベルトまたはロールについての関連技術]
[特許文献1]
特開平4−153027号公報(特許文献1、特許第3112283号、出願は199
0年)には、末端基に−CF3 を有するテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキル
ビニルエーテル共重合体(PFA)から成形されてなるフッ素樹脂系チューブが示されて
おり、そのチューブの内面側にシリコーンゴム層を設けた例も示されている。複写機の定
着用ヒートロールに使用したときのオフセットの発生が少ないとの記載もある。
【0008】
[特許文献2]
特開平10−142990号公報(特許文献2、出願は1996年)の請求項1には、
ローラ状基材の外面に、所望によりゴム層を介して、フッ素樹脂層が、平均粒子径1〜1
5μmのテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PF
A)20〜97重量%と平均粒子径1μm以下のポリテトラフルオロエチレン(PTFE
)3〜80重量%を含有するフッ素樹脂混合物により形成されていることを特徴とする定
着ローラが示されている。請求項3には、そのフッ素樹脂層が、PFAおよびPTFEを
液状媒体中に分散したフッ素樹脂混合物塗料をローラ状基材の外面に、(所望によりゴム
層を介して)塗布・焼成して形成されたものであることが示されている。ローラ状基材の
例は金属やセラミックスであり(段落0017、0021)、ゴム層の例はシリコーンゴ
ムやフッ素ゴムである(段落0017、0021)。画像のフルカラー化により定着工程
において各色のトナーの低融点化に起因するオフセット現象が発生しやすくなるという事
情を踏まえて、定着ローラの離型層であるフッ素樹脂をPFAとPTFEとのフッ素樹脂
混合物により形成するという工夫を講じているが、「オフセットの有無、ローラの汚れの
有無」という定性的な観点から離型性を評価しているにとどまる。
【0009】
[特許文献3]
特開2003−114585(特許文献3、出願は2001年)には、耐熱性エンドレ
スベルト(ポリイミド)の表面に設けられた離型層が融解熱量28mJ/mg以下のフッ
素樹脂(PFA等)である定着ベルトが示されている。この定着ベルトは、高速通紙での
耐摩耗性、離型性が向上し、カラートナーに対してもオフセットを生じにくいとしている
。作用効果については、10万枚の通紙でオフセットが見られるかどうかで判定している
。従来技術として、上述の特許文献2も引用されている。
【0010】
[特許文献4]
特開2003−98872号公報(特許文献4、出願は2001年)には、定着ベルト
の離型層におけるフッ素樹脂がPTFEやPFA等の1つ以上を含有するベルト定着装置
が示されており、フルカラー用トナー、ホットオフセット現象、オイルレス定着などにつ
いても言及がある。実施例における定着ベルトの構成は、ポリイミド基体/シリコーンゴ
ム/PFA離型層である。この特許文献4において採用している手段は、「定着ローラと
加熱ローラと、これら両ローラに張架された無端状定着ベルトと、この定着ベルトを介し
て定着ローラに対向して設けられた加圧ローラを有し、加圧ローラと加熱ローラの少なく
とも一方の内部に定着ベルト加熱用ヒータを有するベルト定着装置」において、加熱ロー
ラと、定着ローラ及び加圧ローラにより形成されるニップ部との間に、記録紙を帯電させ
る「帯電装置」を設け、さらに、定着ローラと加圧ローラ間にバイアス電圧を印加させる
ようにしたものである。つまり、この特許文献4のベルト定着装置における工夫は、省エ
ネルギー定着、オイルレス定着を装置上の観点から達成することにある。
【0011】
【特許文献1】特開平4−153027号公報
【特許文献2】特開平10−142990号公報
【特許文献3】特開2003−114585号公報
【特許文献4】特開2003−98872号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
オフセットの発生抑制についてはトナーの点からも種々の改良が行われているが、定着
用のベルトまたはロールの構造(特に最外層である離型層の構造)の観点からも種々の改
良が行われている。そして、定着用のベルトまたはロールに関して現在のユーザーの要求
水準に応えるためには、フルカラートナーを使用したときにあってもコールドオフセット
もホットオフセットも生じない定着温度範囲(つまり非オフセット温度域)を十分に確保
しなければならなくなっている。
【0013】
上述の特許文献1〜4の発明においては、オフセットの発生を少なくすることについて
も目的ないし作用効果としているが、本発明の如き独特の視点、技術思想、構成に関して
は何ら気付いていない。そのため、特許文献1〜4に示された手段によっては、定着用の
ベルトまたはロールの最外層を本発明に規定の如き特性を満足するものとすることができ
ず、従って本発明における如きすぐれた作用効果(すなわちコールドオフセットもホット
オフセットも生じない定着温度範囲(つまり非オフセット温度域)を十分に確保できるこ
と)も期待しえない。
【0014】
[発明の目的]
本発明は、このような背景下において、フルカラープリンタ用のトナーを用いた場合に
あっても離型性が顕著にすぐれており、しかも高温条件下においてもその離型性の低下が
小さい画像形成装置の定着用のベルトまたはロールを提供することを目的とするものであ
る。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の画像形成装置の定着用のベルトまたはロールは、
複層構造を有しかつ最外層が離型層の役割を果たす定着用のベルトまたはロールであっ
て、
(a)前記最外層がフッ素系樹脂層からなること、
(b)その最外層の表面の接触角θに関して、シリコーンオイルを液滴として用いた液
滴法による温度25℃および温度150℃における接触角をそれぞれθ(25)、θ(150) と
するとき、θ(25)が60°以上でかつθ(150) /θ(25)の比が0.8以上であること、
および、
(c)その最外層のJIS B 0601-2001 による温度25℃における表面粗さRa が0.1
5μm以下であること、
を特徴とするものである。
【0016】
この場合、前記の最外層を構成するフッ素系樹脂層が、末端基がフッ素化されたテトラ
フルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(F-PFA) にポリテトラ
フルオロエチレン粒子(PTFE-p)を配合した組成物の層からなることが特に好ましい。
【発明の効果】
【0017】
−1−
本発明においては、フッ素系樹脂層からなる最外層(離型層)に関し、接触角に関する
下記の要件、すなわち、
「θ(25)が60°以上でかつθ(150) /θ(25)の比が0.8以上であること」
と、表面粗さRa に関する下記の要件、すなわち、
「表面粗さRa が0.15μm以下であること」
との双方を満たすことにより(両要件についての測定条件は後述する)、フルカラープリ
ンタ用のトナーを用いた場合にあっても、広い定着温度範囲にわたりコールドオフセット
およびホットオフセットを生じがたいというすぐれた作用効果が奏される。
−2−
ここで、「コールドオフセット」とは、トナーに対する熱の与え方が不十分でトナーが
用紙になじまない現象ないし状態を言い、「ホットオフセット」とは、熱は十分に伝わり
トナーの一部は用紙に定着するものの、トナーの一部が画像からはがれる現象ないし状態
を言う。
−3−
しかるに、上記の接触角に関する要件および表面粗さRa に関する要件を共に満足する
ときは、広い範囲の定着温度(一例をあげれば後述の実施例のように145〜170℃と
いう広い定着温度範囲)において、コールドオフセットもホットオフセットも生じないと
いうすぐれた結果が得られるのである。
−4−
ちなみに、上記の要件を満たさない通常のPFAを最外層(離型層)として用いた後述
の比較例においては
・145℃ではコールドオフセット、150℃ではホットオフセット
・150℃ではコールドオフセット、155℃ではホットオフセット
・155℃ではコールドオフセット、160℃ではホットオフセット
を生じるというように、コールドオフセットもホットオフセットも生じない温度範囲(非
オフセット温度域)が極めて狭いかあるいは存在しなかった。
【0018】
[手段との関連]
広い定着温度範囲にわたりコールドオフセットおよびホットオフセットを生じがたい定
着用のベルトまたはロールを得るための上記の接触角に関する要件および表面粗さRa に
関する要件の双方を満足する蓋然性の高い手段の代表的なものは、本願請求項2のように
、前記の最外層を構成するフッ素系樹脂層が、「末端基がフッ素化されたテトラフルオロ
エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(F-PFA) にポリテトラフルオロ
エチレン粒子(PTFE-p)を配合した組成物の層からなることである。ただし、この手段は材
質面からの手段であるので、先に述べた接触角および表面粗さRa の両指標により検証す
るようにする。
【0019】
また、定着用のベルトまたはロールの耐久性や定着温度範囲(非オフセット温度域)は
、最外層のみならず内側の層の材質、厚み、硬度などによっても影響されることがあるの
で、定着用のベルトまたはロールの設計にあたっては内側の層にも留意すべきである。好
適な複層構造の代表例は、ポリイミド系樹脂をベースとする最内層(1) と、シリコーン系
ゴムをベースとする中間層(2) と、フッ素系樹脂をベースとする最外層(3) とからなる複
層構成であるが、他にも種々の実用的な複層構成が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
(要件(a)/最外層がフッ素系樹脂層)
本発明の画像形成装置の定着用のベルトまたはロールは、複層構造を有しかつ最外層が
離型層の役割を果たす定着用のベルトまたはロールであって、最外層がフッ素系樹脂層か
らなる。この最外層の材質や他の層の内容については後に述べる。本発明においては、複
層構造のうち最も重要な最外層を、以下に詳述するように2つの指標(接触角θおよび表
面粗さRa )で規定している。
【0022】
(要件(b)/接触角θ)
−1−
要件(b)は、その最外層の表面の接触角θに関して、シリコーンオイルを液滴として
用いた液滴法による温度25℃および温度150℃における接触角をそれぞれθ(25)、θ
(150) とするとき、
・θ(25)が60°以上でかつ
・θ(150) /θ(25)の比が0.8以上であること
である。
ここで、θ(25)の好ましい範囲は61°以上、さらに好ましい範囲は62°以上である
。また、θ(150) /θ(25)の比の好ましい範囲は0.82以上、さらに好ましい範囲は0
.84以上である。
−2−
上記において、接触角θは、より詳しくは、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会
社製のシリコーンオイル「SRX310」(25℃における粘度が10csのジメチルシ
リコーンオイル)を用いた液滴法(シリンジの針はゲージ数22G(内径0.4mm、外
径0.7mm)のものを使用)により求めるものとする。測定機器は協和界面科学株式会
社の「ポータブル接触角計PCA−1」を使用し、温度150℃における接触角は試料を
同温度の熱板上に置いて測定している。
【0023】
(要件(c)/表面粗さRa )
−1−
要件(c)は、その最外層の表面のJIS B 0601-2001 による温度25℃における表面粗
さ(算術平均粗さ)Ra が0.15μm以下であることである。JIS B 0601には1982年版
、1994年版、2001年版があり、Ra についてはどの年版によっても事実上の差はないが、
本発明においては最新の2001年版に従っている。Ra の好ましい範囲は0.13μm以下
、より好ましい範囲は0.12μm以下である。
−2−
表面粗さRa は、より詳細には、カットオフ値0.80mm、測定長 4.0mm、2
5℃の条件下に、対象物の測定部位を少なくとも5回変更して測定し、その平均値をとる
ものとする。測定機としては、株式会社東京精密製の「handysurf
E-35A 」を使用してい
る。
【0024】
(最外層)
本発明の複層構造を有する定着用のベルトまたはロールにおいて、離型層の役割を果た
す最外層を構成する「フッ素系樹脂層」としては、フッ素系樹脂の範疇に属しかつ上述の
要件(b)および要件(c)の双方を満たす層であればよいが、単にフッ素系樹脂の範疇
に属するだけでは、これらの要件(b)および(c)の双方を満たすことは容易ではない

【0025】
上述の要件(b)および要件(c)の双方を満たす蓋然性の高い層の代表的なものは、
末端基がフッ素化されたテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル
共重合体(F-PFA) にポリテトラフルオロエチレン粒子(PTFE-p)を配合した組成物の層であ
る。従って、各樹脂の詳細、両者の配合割合、最外層の形成条件など多種の条件を吟味し
て、上記の2つの要件の双方を満たす条件を見い出すようにする。
【0026】
テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)は
、テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテル(つまりフルオロアル
コキシトリフルオロエチレン)との共重合体であり、後者のモノマー単位の含有量は1〜
10重量%程度である。通常のPFAはその末端基が−COFや−CH2 OHであるが、
末端基がフッ素化されたテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル
共重合体(F-PFA) は、たとえばその通常のPFAをフッ素ガス等で処理することによって
その末端基をフッ素化(−CF3 化)することにより得ることができる。末端基をフッ素
化したPFAは、現在では市場から入手することもできる。
【0027】
上記の最外層における末端基がフッ素化されたテトラフルオロエチレン−パーフルオロ
アルキルビニルエーテル共重合体(F-PFA) とポリテトラフルオロエチレン粒子(PTFE-p)と
の配合割合は、種々に設定できるものの、前者(F-PFA) 100重量部に対して後者(PTFE-
p)を2〜30重量部とすることが好ましい。後者の過少および後者の過多は、離型層であ
る最外層が上述の要件(b)および(c)の少なくとも一方を満たさないことがある上、
耐久性、硬度などの定着ベルトの離型層として必要な他の物性の点でも不利に作用するこ
とがある。
【0028】
ここで、ポリテトラフルオロエチレン粒子(PTFE-p)の粒径は、平均粒径で0.05〜1
0μm(殊に0.1〜8μm)であることが好ましい。該粒子(PTFE-p)の粒径の過小およ
び過大は、離型層である最外層が上述の要件(b)および(c)の少なくとも一方を満た
さないことがある上、耐久性、硬度などの他の物性の点でも不利に作用することがある。

【0029】
上述の(F-PFA) に上述の(PTFE-p)を配合した樹脂組成物の層の厚みは、その用途が定着
用のベルトまたはロールであることから、耐久性、耐熱性、耐摩耗性、製造コストなどを
総合考慮すると、たとえば10〜70μm程度、好ましくは20〜50μm程度とするこ
とが多い。
【0030】
そして、上述の(F-PFA) に上述の(PTFE-p)を配合した樹脂組成物の層は、溶融押出成形
法やコーティング法(塗膜形成法)をはじめ、任意の形成法により形成することができる
。ただし、溶融押出成形法によれば、上述の要件(b)および(c)の双方を満足する層
を得やすくなる上、一挙に所定厚みの層を得ることができるので、溶融押出成形法を採用
することが好ましい。
【0031】
(内側層)
本発明の画像形成装置の定着ベルトは、複層構造を有しかつ上述のフッ素系樹脂層から
なる最外層が離型層の役割を果たすのであるが、定着ベルトとしての使い方をするために
は、上述の最外層と内側層との複層構造とされる。内側層の数は1層でもよく2層以上で
もよい。
【0032】
ここで、内側層としては、ゴム質層(シリコーン系ゴム、フロロシリコーン系ゴム、フ
ッ素系ゴム等の層)、耐熱性樹脂層(ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリ
エーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド等の層)、金属層(アルミニウム、
ステンレス鋼等の層)、セラミックス層などが例示され、種々の添加剤を含有させたもの
も用いることができる。各層間には、層間密着性を向上させるために接着剤層やプライマ
ー層を設けることもできる。
【0033】
(層構成の代表例)
−1−
本発明の複層構造を有する定着用ベルトまたはロール(殊に定着用ベルト)の最も代表
的な層構成は、「上述の最外層/シリコーン系ゴム層/ポリイミド系樹脂層」である。
【0034】
−2−
シリコーン系ゴム層は、定着ベルトに必要なクッション層の役割を果たすので、その厚
みはたとえば50〜500μm程度(好ましくは100〜300μm)とすることが多い
。シリコーン系ゴム層の硬度は、デュロメータによる硬度で、たとえば15〜50°程度
(好ましくは15〜35°)とすることが多い。
【0035】
−3−
ポリイミド系樹脂層は、ポリイミド系樹脂の前駆体であるポリアミック酸溶液を用いて
成形することにより得られる。ポリアミック酸溶液は、テトラカルボン酸二無水物または
その誘導体とジアミンとをほぼ等モルを有機極性溶媒中で反応させることにより得られる
もので、市販されているものを用いることができる。成形方法は任意であるが、上記のポ
リアミック酸溶液を円筒体の外表面や内表面あるいは円柱体の外表面にコーティングして
塗膜を形成し、ついで乾燥や焼結を行う方法を採用することが多い。このようにして得ら
れたポリイミド系樹脂層の厚みは、特に限定はないものの、たとえば50〜120μm程
度とすることが多い。
【0036】
−4−
上記の最外層(離型層)を有する定着ベルトを用いたときの「非オフセット温度域」は
、最外層のみによって決まるのではなく、内側層の影響も受ける。従って、たとえば上記
の代表的な層構成において、最外層が同一で、内側層である中間層のシリコーン系ゴム層
の厚みが同じあっても、そのシリコーンゴム系層の硬度によっても「非オフセット温度域
」がずれることがあるので、最外層のみの検討ならず、定着ベルトの構成層である内側層
を含む全層の観点からの検討も併せて行うべきである。
【実施例】
【0037】
次に実施例(および比較例)をあげて本発明をさらに説明する。
【0038】
図1は、実施例(および比較例)にて用いた定着ベルトの層構成を模式的に示した断面
図である(厚みは誇張して描いてある)。図1において、(1) は最外層、(2) は(内側層
のうちの)中間層、(3) は(内側層のうちの)最内層である。
【0039】
[内側層(最内層(3) )の作製]
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)中においてほぼ等モルの3,3’−4,4’−
ビフェニルテトラカルボン酸無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを反応さ
せることにより、固形分濃度が18重量%で粘度が1500ポイズ(30℃)のポリアミ
ック酸(ポリイミドの前駆体)のNMP溶液を得た。この溶液を円筒状のアルミニウム型
の外周面に塗布し、350℃になるまで徐々に昇温してからその温度に2時間保持するこ
とによりポリアミック酸をキュアしてポリイミドとなし、ついでアルミニウム型からの脱
型した。これにより、内径が40mm、層厚が80μmのポリイミドチューブが得られた

【0040】
[内側層(中間層(2) )の設置]
上記で得たポリイミドチューブの外周側に、
・層厚が150μmで硬度が20°のシリコーンゴム層、
・層厚が150μmで硬度が18°のシリコーンゴム層、
・層厚が120μmで硬度が20°のシリコーンゴム層、
を形成することにより(硬度はデュロメータによる硬度)、「シリコーンゴム層/ポリイ
ミド層」の構成を有する2層チューブを作製した。
【0041】
[最外層(1) の作製]
直径が38mmでかつ層厚が30μmの下記のフッ素系樹脂チューブを準備した。なお
、中間層(2) との接着性を上げるため、その内面はナトリウムを液体アンモニアに溶解し
た溶液からなる処理液で処理することにより脱フッ素化した。
・比較例1〜3用の最外層(1) :末端基が−COFや−CH2 OHであってその末端基
をフッ素化していない通常のPFA(通常品)を溶融押出成形したチューブ
・実施例1〜3用の最外層(1) :末端基をフッ素化したPFA(末端F化品)100重
量部に対して平均粒径1μmのPTFE粒子5重量部を含有させた組成物の溶融押出成形
チューブ
【0042】
[最外層(1) の表面の接触角θと表面粗さRa ]
−1−(接触角θとその比)
上記で準備した最外層(1) のチューブの表面の接触角θとその比の測定結果は次の通り
であった。(○は請求項1の(b)の条件を満足し、×はそれを満足しないことを示す。


最外層(1) 用 接 触 角 θ 接触角θの比
のチューブ 25℃ 75℃ 150℃ 150℃/25℃
比較例1〜3 × 57.48° 45.22° 43.32° × 0.754
実施例1〜3 ○ 63.48° 55.02° 54.68° ○ 0.861

【0043】
−2−(表面粗さRa )
上記で準備した最外層(1) のチューブの表面粗さRa の測定結果は次の通りであった。
(○は請求項1の(c)の条件を満足し、×は請求項1のそれを満足しないことを示す。


最外層(1) 用 測定部位は5箇所(単位はμm)
のチューブ 1 2 3 4 5 平均
比較例1〜3 0.31 0.37 0.19 0.16 0.30 × 0.27
実施例1〜3 0.08 0.06 0.09 0.10 0.05 ○ 0.08

【0044】
[最外層(1) の設置]
上記で準備した直径が38mmでかつ層厚が30μmの最外層(1) のチューブ(内面処
理品)を加熱条件下に機械的に若干拡径しながら、上記で得た2層チューブの外周側にぴ
ったりと嵌め込んだ。これにより、「フッ素系樹脂層/シリコーンゴム層/ポリイミド層
」の構成を有する3層チューブが作製された。
【0045】
[試験に供した定着ベルトの層構成]
試験に供した定着ベルトの層構成は次の通りである(「−」はPTFE粒子非含有)。

最内層(3) 中間層(2) 最 外 層 (1)
内径 層厚 層厚 硬度 層厚 PFA PTFE粒子
比較例1 40mm 80μm 150μm 20° 30μm 通常品 −
比較例2 40mm 80μm 150μm 18° 30μm 通常品 −
比較例3 40mm 80μm 120μm 20° 30μm 通常品 −
実施例1 40mm 80μm 150μm 20° 30μm 末端F化品 5部含有
実施例2 40mm 80μm 150μm 18° 30μm 末端F化品 5部含有
実施例3 40mm 80μm 120μm 20° 30μm 末端F化品 5部含有

【0046】
[定着試験条件]
定着試験条件は次の通りとした。
試験用の定着機としては、定着ベルト、ヒータおよび加圧ローラから主に構成される市
販のA4サイズ用モノクロレーザープリンタの定着機単体を外部から駆動並びに温度調整
できるように改造したものを用いた。
試験の手順としては、市販のフルカラーレーザープリンタを改造して未定着の状態でト
ナーを付着させた用紙を予め準備しておき、前記の試験用定着機を稼働させながら、定着
ベルトの表面が所定の温度に達した際に通紙するという動作を繰り返すことにより行った

本発明の定着試験においては、この定着ベルトの部分のみを試験品に交換し、以下の条
件に固定することで、それぞれの定着ベルト間の性能比較を行った。
・定着スピード:96mm/sec
・トナー:重合法により製造されたフルカラープリンタ用黒トナー
・用紙:坪量65g/m2 の普通紙
・用紙上のトナー付着量:1.05±0.04mg/cm2
・定着判定:目視による判定
COSはコールドオフセット発生。
HOSはホットオフセット発生。
OKはオフセットなし。
【0047】
[試験結果]

定着温度(℃)
140 145 150 155 160 165 170 175 180
比較例1 COS HOS
比較例2 COS HOS
比較例3 COS HOS
実施例1 COS OK OK OK OK OK HOS
実施例2 COS OK OK OK OK OK OK HOS
実施例3 COS OK OK OK HOS

【0048】
[解析]
上述の要件(b)および要件(c)の双方を満たす定着ベルトは、典型的には、その最
外層を、末端基がフッ素化されたテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニル
エーテル共重合体(F-PFA) にポリテトラフルオロエチレン粒子(PTFE-p)を配合した組成物
の層とするときに得られやすいことがわかる。
【0049】
そして、上に述べた[試験に供した定着ベルトの層構成]、[最外層(1) の表面の接触
角θと表面粗さRa ]および[試験結果]から、実施例1〜3により実証されるように、
定着ベルトの最外層(1) がフッ素系樹脂層からなり(条件(a))かつその最外層(1) の
表面の接触角θおよび表面粗さRa が特定の関係(条件(b)と条件(c))を満足する
ように設計するときは、広い定着温度範囲にわたりコールドオフセットおよびホットオフ
セットを生じがたいことがわかる。
【0050】
一方、比較例1〜3においては、コールドオフセットもホットオフセットも生じない温
度範囲(非オフセット温度域)が存在しないか、存在してもごくわずかしかないという不
利がある。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の定着用のベルトまたはロールは、電子写真方式で像を形成記録する画像形成装
置の定着用のベルトまたはロールベルトとして極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施例(および比較例)にて用いた定着ベルトの層構成を模式的に示した断面図である。
【符号の説明】
【0053】
(1) …最外層、
(2) …(内側層のうちの)中間層、
(3) …(内側層のうちの)最内層



【特許請求の範囲】
【請求項1】
複層構造を有しかつ最外層が離型層の役割を果たす定着用のベルトまたはロールであっ
て、
(a)前記最外層がフッ素系樹脂層からなること、
(b)その最外層の表面の接触角θに関して、シリコーンオイルを液滴として用いた液
滴法による温度25℃および温度150℃における接触角をそれぞれθ(25)、θ(150) と
するとき、θ(25)が60°以上でかつθ(150) /θ(25)の比が0.8以上であること、
および、
(c)その最外層のJIS B 0601-2001 による温度25℃における表面粗さRa が0.1
5μm以下であること、
を特徴とする画像形成装置の定着用のベルトまたはロール。
【請求項2】
前記の最外層を構成するフッ素系樹脂層が、末端基がフッ素化されたテトラフルオロエ
チレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(F-PFA) にポリテトラフルオロエ
チレン粒子(PTFE-p)を配合した組成物の層からなることを特徴とする請求項1記載の定着
用のベルトまたはロール。

【図1】
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