説明

画像形成装置及びヘッド制御装置

【課題】複数個の記録ヘッドを用いて記録媒体上に記録が行われる画像領域と無記録の非画像領域とを簡易な回路構成によって高速に把握し、非画像領域又は画像領域に対して選択的に液体を付与する。
【解決手段】各記録ヘッド(10Y,10M他)に記録素子制御データ及び駆動電圧信号を送出するヘッド別の記録制御部(20Y,20M他)から、それぞれ対応する記録ヘッド(10Y,10M他)に対して送出された記録素子制御データの論理和データを生成するOR演算部(28Y,28M他)と、当該論理和データを用いて記録ヘッド以外の液体吐出ヘッド(10H)の各ノズルによる吐出動作をノズル単位で制御するとともに、当該ヘッド(10H)に駆動電圧信号を送出する吐出制御部(20H)を備える。論理和データから記録ヘッドによる無記録領域を把握し、当該無記録領域に含水率調整用の液滴を付与することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は画像形成装置及びヘッド制御装置に係り、特に、インクジェット方式の液体吐出ヘッドを駆動制御するヘッド制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
多数のノズル(インク吐出口)と各ノズルに対応した圧電素子とを備えて構成されたプリントヘッドを使用するインクジェットプリンタは、ノズル単位で各圧電素子に対して圧電変位のON/OFF制御を行い、各ノズルからの液滴の吐出/非吐出を制御して所望の画像を形成する。ノズルのON(吐出)/OFF(非吐出)を制御するためのノズル制御データ(「印字データ」とも言う。)は、印刷しようとする画像内容を示す画像データに基づいて生成される。
【0003】
用紙搬送部など外部から与えられる画素単位吐出トリガーにしたがってノズル制御データをヘッド制御部に転送し、その後、圧電素子に駆動電圧を印加することで、圧電素子を微細変位させ、インク滴を印刷対象物(通常は、用紙)に吐出する。印刷領域のうち圧電変位OFF制御がなされる領域(「非画像領域」、或いは、「印字データの無い領域」という場合がある)には、インク吐出動作は行われない。こうして、用紙上に所望の解像度(例えば1200dpi)の画像形成が行われる。
【0004】
カラー画像の印刷を可能にするために、通常は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の各色について、インク色別にそれぞれプリントヘッドを備え、これら複数個のプリントヘッドを使用して印刷対象物にインクの吐出を行う。既述のとおり、印刷の際には、インク滴を印刷対象物へ定着させることで印字(画像記録)を実現するが、印字データの無い部分に対応する領域(無印字領域)はインクが付着しておらず、印字データ有りの部分に対応する領域(印字領域)と比較して、印刷対象物の含水率が低い。このため、印刷後の乾燥段階やその後の保存期間において、印字データの有無にかかわらず、印刷物を一律同じ条件でインク乾燥を行った場合、または、保存した状態においては、含水率の差(分布)に起因した印刷物の変形が発生し、印刷品質に重大な影響が発生することが知られている(特許文献1)。
【0005】
特許文献1では、媒体上に液体滴を吐出して画像を形成する装置において、液体滴が多く着弾した媒体上の領域に、液体滴の水分によりシワが発生するという課題(コックリング現象の発生)を説明している。かかる課題に対し、特許文献1では、用紙の記録面を6つの領域に仮想的に分割し、各領域に着弾する液体滴の液体量を計算して隣接領域との液体量の差が所定値以上となる場合に、透明な液体滴を吐出することによって全ての領域において概ね一様に液体滴を着弾させ、液体量の分布の偏りを是正してコックリング現象の発生を緩和する技術を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−188947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、印刷される画像の画素データから、各領域におけるインク量(液体量)を計算しているが、用紙面の全体を仮想的に6分割して各領域の液体量を計算、比較する処理を行うために、1ページ分の画像データ(1枚の画像のデータ)の全体を演算処理の対象としなければならない。このため、画素データの解析の処理時間がかかり、かつ、専用のデータ処理部が必要になる。その結果、コストアップ、処理時間低下(ひいてはプリント生産性の低下)が発生し、ユーザーに多大な不利益が発生する。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、媒体上における印字領域(画像領域)と無印字領域(非画像領域)の区別を把握するデータ解析を簡易かつ高速に行うことができる画像形成装置及びヘッド制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために以下の発明態様を提供する。
【0010】
(発明1):発明1に係る画像形成装置は、複数の記録素子を有する記録ヘッドが複数個配置された記録ヘッド群と、前記複数個の記録ヘッドのそれぞれに対応して記録ヘッド毎に設けられ、各記録ヘッドにおける各記録素子による記録動作を記録素子単位で制御する記録素子制御データ及び前記記録素子を記録動作させる駆動電圧信号を、対応する記録ヘッドに送出するヘッド別の記録制御部と、前記ヘッド別の記録制御部からそれぞれ対応する記録ヘッドに対して送出されたヘッド別の記録素子制御データの論理和データを生成するOR演算部と、前記複数個の記録ヘッド以外の液体吐出ヘッドであって、液滴を吐出するための複数のノズルと各ノズルに対応した吐出エネルギー発生素子とを有する液体吐出ヘッドと、前記論理和データを用いて前記液体吐出ヘッドの各ノズルによる吐出動作をノズル単位で制御するとともに、前記吐出エネルギー発生素子を駆動する駆動電圧信号を前記液体吐出ヘッドに送出する吐出制御部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、各記録ヘッドの記録動作に用いた記録素子制御データの論理和データを用いて液体吐出ヘッドの吐出制御を行うことができる。液体吐出ヘッドの吐出制御に用いるデータ(ノズル制御データ)を簡易な論理素子回路を用いて高速に得ることが可能である。
【0012】
「吐出エネルギー発生素子」として、圧電素子を用いる態様(ピエゾジェット方式)や、静電アクチュータを用いる態様、サーマルジェット方式における発熱素子(ヒータ)を用いる態様などがある。
【0013】
(発明2):発明2に係る画像形成装置は、発明1において、前記複数個の記録ヘッドは、複数の色の各色に対応して色毎に設けられた色別の記録ヘッドであり、前記ヘッド別の記録制御部は、前記色別の記録ヘッドのそれぞれに対応して色毎に設けられていることを特徴とする。
【0014】
かかる態様によれば、記録ヘッドによって記録が行われた画像領域と、記録が行われていない非画像領域を、簡易な回路で高速に把握することができる。
【0015】
(発明3):発明3に係る画像形成装置は、発明1又は2において、前記記録ヘッドは、インクジェットヘッドであり、前記記録素子は、インク滴を吐出するノズルと該ノズルからインク滴を吐出させるための吐出エネルギー発生素子とを含んだインク吐出素子であることを特徴とする。
【0016】
かかる態様によれば、インク滴が付与されていない非画像領域、若しくは、インク滴が付与された領域と同じ領域(画像領域)に、インク以外の液体を付与することができる。前者によれば、記録媒体における液体量の分布の偏りによる媒体変形を緩和することができる。後者によれば、画像部のコーティングなどが可能である。
【0017】
(発明4):発明4に係る画像形成装置は、発明1乃至3のいずれか1項において、前記ヘッド別の記録制御部は、上位制御部からデータを受け取るデータ通信手段と、前記対応する記録ヘッドに対して送出した記録素子制御データと他の入力データとの論理和演算を行うOR処理回路と、前記OR処理回路によって生成されたOR処理後のデータを、他の記録制御部に対して送出するデータ送信手段と、を備え、前記ヘッド別の記録制御部に設けられている前記OR処理回路の組合せにより前記OR演算部が構成されていることを特徴とする。
【0018】
かかる態様によれば、ヘッド別に設ける各記録制御部として、同じハードウエア構成を採用することができる。
【0019】
(発明5):発明5に係る画像形成装置は、発明4において、前記複数個の記録ヘッドによる記録媒体への記録順で、順次、次の記録に係る記録ヘッドの記録制御部に対して前記OR処理後のデータが転送され、当該転送されたデータを前記次の記録に係る記録ヘッドの記録制御部における前記他の入力データとして利用してOR処理が行われるように、前記ヘッド別の記録制御部同士が接続され、前記記録順で最後の記録を行う記録ヘッドの記録制御部に含まれる前記OR処理回路の演算結果として、前記複数個の全ての記録ヘッドに送られたヘッド別の記録素子制御データの論理和を表す前記論理和データが得られることを特徴とする。
【0020】
(発明6):発明6に係る画像形成装置は、発明1乃至5のいずれか1項において、前記OR演算部により生成された前記論理和データに基づき、前記複数個の記録ヘッドで記録が行われていない無記録領域に対して、前記液体吐出ヘッドから液滴が打滴されることを特徴とする。
【0021】
この態様によれば、記録ヘッドとしてインクジェットヘッドを用いた構成の場合、インク滴が付与されていない領域に対して液体吐出ヘッドから液滴を付与できるため、記録媒体における含水率を均一化でき、コックリング発生を抑制できる。
【0022】
(発明7):発明7に係る画像形成装置は、発明1乃至6のいずれか1項において、前記液体吐出ヘッドから無色透明な液が吐出されることを特徴とする。
【0023】
記録ヘッド以外の液体吐出ヘッドから吐出する液は、記録ヘッドによる描画結果の視認性を阻害しないように、無色透明な液を用いることが好ましい。
【0024】
(発明8):発明8に係るヘッド制御装置は、複数の記録素子を有する複数個の記録ヘッドのそれぞれに対応して記録ヘッド毎に設けられ、各記録ヘッドにおける各記録素子による記録動作を記録素子単位で制御する記録素子制御データ及び前記記録素子を記録動作させる駆動電圧信号を、対応する記録ヘッドに送出するヘッド別の記録制御部と、前記ヘッド別の記録制御部からそれぞれ対応する記録ヘッドに対して送出されたヘッド別の記録素子制御データの論理和データを生成するOR演算部と、前記複数個の記録ヘッドとは別に設けられた液体吐出ヘッドの吐出動作を制御する吐出制御部であって、前記OR演算部で生成された論理和データに基づき、前記液体吐出ヘッドを構成する複数のノズルの各ノズルによる吐出動作をノズル単位で制御するノズル制御データを生成し、当該ノズル制御データを前記液体吐出ヘッドに送出するノズル制御データ送信手段と、前記液体吐出ヘッドの前記各ノズルに対応して設けられた吐出エネルギー発生素子を駆動する駆動電圧信号を前記液体吐出ヘッドに送出する駆動電圧出力手段と、を有する吐出制御部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、記録ヘッドによって記録媒体上に記録が行われる画像領域、と無記録の非画像領域とを、簡易な回路構成によって高速に把握することができる。また、その処理結果を用いて液体吐出ヘッドの吐出制御を行うことができ、記録ヘッドによる記録状況に応じて画像領域又非画像領域に対して選択的に液体を付与することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の全体構成図
【図2】溶剤吐出ヘッドの吐出制御に用いるノズル制御データを生成する手順を模式的に示した説明図
【図3】本実施形態に係るインクジェット記録装置における吐出制御部のハードウエア構成例(第1実施形態)を示すブロック図
【図4】本発明の第2実施形態を示す要部ブロック図
【図5】本発明の第3実施形態を示す要部ブロック図
【図6】本発明の第4実施形態を示す要部ブロック図
【図7】ヘッドの構造例を示す平面透視図
【図8】複数のヘッドモジュールを配置して成るライン型ヘッドの構造例を示す平面透視図
【図9】図7中のA−A線に沿う断面図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0028】
図1は本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の全体構成図である。本例のインクジェット記録装置100は、主として、給紙部112、処理液付与部(プレコート部)114、描画部116、乾燥部118、定着部120、及び排紙部122から構成されている。このインクジェット記録装置100は、描画部116の圧胴(描画ドラム170)に保持された記録媒体124(「被描画媒体」に相当、以下、便宜上「用紙」と呼ぶ場合がある。)に対して、ライン型の記録ヘッド(インク吐出ヘッド)172Y,172M,172C,172Kから複数色のインクを打滴して所望のカラー画像を形成するシングルパス印字方式のインクジェット印刷機であり、印刷データに応じてオンデマンドでインク滴の吐出制御が行われるオンデマンドタイプの画像形成装置である。
【0029】
(給紙部)
給紙部112には、枚葉紙である記録媒体124が積層されており、給紙部112の給紙トレイ150から記録媒体124が一枚ずつ処理液付与部114に給紙される。本例では、記録媒体124として、枚葉紙(カット紙)を用いるが、連続用紙(ロール紙)から必要なサイズに切断して給紙する構成も可能である。
【0030】
(処理液付与部)
処理液付与部114は、記録媒体124の記録面に処理液を付与する機構である。処理液は、描画部116で付与されるインク中の色材(本例では顔料)を凝集させる色材凝集剤を含んでおり、この処理液とインクとが接触することによって、インクは色材と溶媒との分離が促進される。
【0031】
処理液付与部114は、給紙胴152、処理液ドラム(「プレコート胴」とも言う)154、及び処理液塗布装置156を備えている。処理液ドラム154は、記録媒体124を保持し、回転搬送させるドラムである。処理液ドラム154は、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)155を備え、この保持手段155の爪と処理液ドラム154の周面の間に記録媒体124を挟み込むことによって記録媒体124の先端を保持できるようになっている。処理液ドラム154は、その外周面に吸引孔を設けるとともに、吸引孔から吸引を行う吸引手段を接続してもよい。これにより記録媒体124を処理液ドラム154の周面に密着保持することができる。
【0032】
処理液ドラム154の外側には、その周面に対向して処理液塗布装置156が設けられる。処理液塗布装置156は、処理液が貯留された処理液容器と、この処理液容器の処理液に一部が浸漬されたアニックスローラ(計量ローラ)と、該アニックスローラと処理液ドラム154上の記録媒体124に圧接されて計量後の処理液を記録媒体124に転移するゴムローラとで構成される。この処理液塗布装置156によれば、処理液を計量しながら記録媒体124に塗布することができる。
【0033】
本実施形態では、ローラによる塗布方式を適用した構成を例示したが、これに限定されず、例えば、スプレー方式、インクジェット方式などの各種方式を適用することも可能である。処理液付与部114で処理液が付与された記録媒体124は、処理液ドラム154から中間搬送部126を介して描画部116の描画ドラム170へ受け渡される。
【0034】
(描画部)
描画部116は、描画ドラム(「描画胴」或いは「ジェッティング胴」とも言う)170、用紙抑えローラ174、インク吐出ヘッド172Y,172M,172C,172K、及び含水率調整液(以下、「溶剤」という。)を吐出するための溶剤吐出ヘッド172Hを備えている。
【0035】
描画ドラム170は、処理液ドラム154と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)171を備える。描画ドラム170の周面には、図示しない吸着穴が所定のパターンで多数形成されており、この吸着穴からエアが吸引されることにより、記録媒体124が描画ドラム170の周面に吸着保持される。なお、負圧吸引によって記録媒体124を吸引吸着する構成に限らず、例えば、静電吸着により、記録媒体124を吸着保持する構成とすることもできる。本例の描画ドラム170では、回転方向について180度の間隔で周面の2箇所にグリッパー171が設けられ、1回転で2枚の記録媒体124が搬送できるように構成されている。
【0036】
記録媒体124の進行方向(搬送方向)に向かって上流側からY,M,C,Kの順でインク吐出ヘッドが配置されており、この配置順で記録媒体124上に各色の画像記録が実施される。インク吐出ヘッド172Y,172M,172C,172Kはそれぞれ、記録媒体124における画像形成領域の最大幅に対応する長さを有するフルライン型のインクジェット方式の記録ヘッドであり、そのインク吐出面には、画像形成領域の全幅にわたってインク吐出用のノズルが複数配列されたノズル列(2次元配列ノズル)が形成されている。インク吐出ヘッド(172Y,172M,172C,172K)の詳細な構成は図示しないが、各ヘッドのインク吐出面(ノズル面)には、複数のノズル(インク吐出口)が高密度で二次元配置されている。また、各ヘッドは、各ノズルに対応した吐出エネルギー発生素子(本例の場合、圧電素子)が設けられている。
【0037】
4色のインク吐出ヘッド172Y,172M,172C,172Kが配置されてなるインクヘッド群よりも記録媒体搬送方向の下流側に(インクヘッド群の後段に)、溶剤吐出ヘッド172Hが配置される。溶剤吐出ヘッド172Hは、インク吐出ヘッド172Y,172M,172C,172Kと同等の構成を有する液体吐出ヘッドである。溶剤吐出ヘッド172から吐出する液体(溶剤)は、主として、インク打滴後における記録媒体の含水量の分布を調整することを目的として、記録媒体上に付与される。本例の溶剤は、それ自体で視覚的な画像の形成に寄与することは意図していないため、色材(着色材)を含まない無色透明の液体である。溶剤には、例えば、インクに用いられている分散媒(色材を分散させるための溶媒)や純水などを用いることができる。含水量の分布調整に用いる溶剤は、乾いたときに、インクによる記録画像の視認性に影響を与えないものであればよく、溶剤打滴時に着色されているものであっても、乾燥や化学的反応、紫外線照射等によって無色化するような材料であってもよい。
【0038】
各インク吐出ヘッド172Y,172M,172C,172K及び溶剤吐出ヘッド172Hは、記録媒体124の搬送方向(描画ドラム170の回転方向)と直交する方向に延在するように設置される。また、各インク吐出ヘッド172M,172K,172C,172Yには、対応する色インクのカセット(図示されていないインク供給源となるインクタンク)が接続される。溶剤吐出ヘッド173Hには、溶剤を供給するカセット(図示されていない溶剤供給源となる溶剤供給タンク)が接続される。これらヘッド(172Y,172M,172C,172K、172H)は、描画ドラム170の回転軸を中心とした同心円上に一定の間隔をもって放射状に配置され、各ヘッド172Y,172M,172C,172K、172Hからは、描画ドラム170の外周面に対して垂直に液滴が吐出される。
【0039】
描画ドラム170に固定された記録媒体124はドラムの回転とともに移動し、その記録面にインク吐出ヘッド172Y,172M,172C,172Kから順次インクが吐出され、各色のインク吐出後に、溶剤吐出ヘッド172Hから無色透明な溶剤が吐出される。
【0040】
描画ドラム170に保持された記録媒体124の記録面に向かってインク吐出ヘッド172M,172K,172C,172Yからインク滴が吐出されることにより、当該記録面に予め付与された処理液にインクが接触し、インク中に分散する色材(顔料)が凝集され、色材凝集体が形成される。インクと処理液の反応の一例として、本実施形態では、処理液に酸を含有させPHダウンにより顔料分散を破壊し凝集するメカニズムを用い、色材滲み、各色インク間の混色、インク滴の着弾時の液合一による打滴干渉(着弾干渉と呼ぶ場合がある)を回避する。こうして、記録媒体124上での色材流れなどが防止され、記録媒体124の記録面に画像が形成される。
【0041】
各インク吐出ヘッド172Y,172M,172C,172K、及び溶剤吐出ヘッド172Hの打滴タイミングは、描画ドラム170に配置された回転速度を検出するエンコーダ(不図示)に同期させる。このエンコーダの検出信号に基づいて吐出トリガー信号(画素トリガー)が発せされる。これにより、高精度に着弾位置を決定することができる。また、予め描画ドラム170のフレなどによる速度変動を学習し、エンコーダで得られた打滴タイミングを補正して、描画ドラム170のフレ、回転軸の精度、描画ドラム170の外周面の速度に依存せずに打滴ムラを低減させることができる。
【0042】
さらに、各インク吐出ヘッド172M,172K,172C,172Yのノズル面の清掃、増粘インク排出などのメンテナンス動作は、ヘッドユニットを描画ドラム170から退避させて実施するとよい。
【0043】
本例では、CMYKの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インク、特別色インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出するインク吐出ヘッドを追加する構成も可能であり、各色ヘッドの配置順序も特に限定はない。
【0044】
描画部116で画像が形成された記録媒体124は、描画ドラム170から中間搬送部128を介して乾燥部118の乾燥ドラム176へ受け渡される。
【0045】
(乾燥部)
乾燥部118は、色材凝集作用により分離された溶媒に含まれる水分を乾燥させる機構であり、図1に示すように、乾燥ドラム(「乾燥胴」とも言う)176、及び溶媒乾燥装置178を備えている。乾燥ドラム176は、処理液ドラム154と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)177を備え、この保持手段177によって記録媒体124の先端を保持できるようになっている。
【0046】
溶媒乾燥装置178は、乾燥ドラム176の外周面に対向する位置に配置され、複数のハロゲンヒータ180と、各ハロゲンヒータ180の間にそれぞれ配置された温風噴出しノズル182とで構成される。各温風噴出しノズル182から記録媒体124に向けて吹き付けられる温風の温度と風量、各ハロゲンヒータ180の温度を適宜調節することにより、様々な乾燥条件を実現することができる。
【0047】
乾燥ドラム176の外周面に、記録媒体124の記録面が外側を向くように(即ち、記録媒体124の記録面が凸側となるように湾曲させた状態で)記録媒体124を保持し、回転搬送しながら乾燥することで、記録媒体124のシワや浮きの発生を防止でき、これらに起因する乾燥ムラを確実に防止することができる。
【0048】
乾燥部118で乾燥処理が行われた記録媒体124は、乾燥ドラム176から中間搬送部130を介して定着部120の定着ドラム184へ受け渡される。
【0049】
(定着部)
定着部120は、定着ドラム(「定着胴」とも言う)184、ハロゲンヒータ186、定着ローラ188、及びインラインセンサ190で構成される。定着ドラム184は、処理液ドラム154と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)185を備え、この保持手段185によって記録媒体124の先端を保持できるようになっている。
【0050】
定着ドラム184の回転により、記録媒体124は記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面に対して、ハロゲンヒータ186による予備加熱と、定着ローラ188による定着処理と、インラインセンサ190による検査が行われる。
【0051】
定着ローラ188は、乾燥させたインクを加熱加圧することによってインク中の自己分散性ポリマー微粒子を溶着し、インクを被膜化させるためのローラ部材であり、記録媒体124を加熱加圧するように構成される。定着ローラ188は、定着ドラム184に対して圧接するように配置されており、定着ドラム184との間でニップローラを構成するようになっている。これにより、記録媒体124は、定着ローラ188と定着ドラム184との間に挟まれ、所定のニップ圧(例えば、0.15MPa)でニップされ、定着処理が行われる。
【0052】
また、定着ローラ188は、熱伝導性の良いアルミなどの金属パイプ内にハロゲンランプを組み込んだ加熱ローラによって構成され、所定の温度(例えば60〜80℃)に制御される。この加熱ローラで記録媒体124を加熱することによって、インクに含まれるラテックスのTg温度(ガラス転移点温度)以上の熱エネルギーが付与され、ラテックス粒子が溶融される。これにより、記録媒体124の凹凸に押し込み定着が行われるとともに、画像表面の凹凸がレベリングされ、光沢性が得られる。
【0053】
インラインセンサ190は、記録媒体124に記録された画像(テストパターンなども含む)について、吐出不良チェックパターンや画像の濃度、画像の欠陥などを計測するための読取手段であり、CCDラインセンサなどが適用される。
【0054】
上記の如く構成された定着部120によれば、乾燥部118で形成された薄層の画像層内のラテックス粒子が定着ローラ188によって加熱加圧されて溶融されるので、記録媒体124に固定定着させることができる。
【0055】
なお、高沸点溶媒及びポリマー微粒子(熱可塑性樹脂粒子)を含んだインクに代えて、紫外線(UV)露光にて重合硬化可能なモノマー成分を含有していてもよい。この場合、インクジェット記録装置100は、ヒートローラによる熱圧定着部(定着ローラ188)の代わりに、記録媒体124上のインクにUV光を露光するUV露光部を備える。このように、UV硬化性樹脂などの活性光線硬化性樹脂を含んだインクを用いる場合には、加熱定着の定着ローラ188に代えて、UVランプや紫外線LD(レーザダイオード)アレイなど、活性光線を照射する手段が設けられる。
【0056】
(排紙部)
定着部120に続いて排紙部122が設けられている。排紙部122は、排出トレイ192を備えており、この排出トレイ192と定着部120の定着ドラム184との間に、これらに対接するように渡し胴194、搬送ベルト196、張架ローラ198が設けられている。記録媒体124は、渡し胴194により搬送ベルト196に送られ、排出トレイ192に排出される。搬送ベルト196による用紙搬送機構の詳細は図示しないが、印刷後の記録媒体124は無端状の搬送ベルト196間に渡されたバー(不図示)のグリッパーによって用紙先端部が保持され、搬送ベルト196の回転によって排出トレイ192の上方に運ばれてくる。
【0057】
また、図1には示されていないが、本例のインクジェット記録装置100には、上記構成の他、各インク吐出ヘッド172M,172K,172C,172Yにインクを供給するインク貯蔵/装填部、溶剤吐出ヘッド172Hに吐出用の溶剤を供給する溶剤貯蔵/充填部、処理液付与部114に対して処理液を供給する手段を備えるとともに、各インク吐出ヘッド172M,172K,172C,172Y及び溶剤吐出ヘッド172Hのクリーニング(ノズル面のワイピング、パージ、ノズル吸引等)を行うヘッドメンテナンス部や、用紙搬送路上における記録媒体124の位置を検出する位置検出センサ、装置各部の温度を検出する温度センサなどを備えている。
【0058】
<溶剤吐出ヘッドのノズル制御データを生成する手順の説明>
図2は、本実施形態に係るインクジェット記録装置100における溶剤吐出ヘッドの吐出制御に用いるノズル制御データを生成する手順を模式的に示した説明図である。ここでは、イエロー(Y)のインクを吐出するプリントヘッドを「イエロー(Y)ヘッド」といい、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の各色インクを吐出するプリントヘッドをそれぞれ「マゼンタ(M)ヘッド」、「シアン(C)ヘッド」、「黒(K)ヘッド」とよぶ。
【0059】
図2のイエローヘッド10Y、マゼンタヘッド10M、シアンヘッド10C、黒ヘッド10K、溶剤吐出ヘッド10Hは、それぞれ、図1で説明した符号172Y、172M、172C、172K、172Hの各ヘッドに相当する。記録媒体の搬送方向の上流側からイエローヘッド10Y、マゼンタヘッド10M、シアンヘッド10C、黒ヘッド10K、溶剤吐出ヘッド10Hの順に各ヘッドが配置されている。このヘッド配置順で記録媒体に対して各ヘッドからそれぞれの液体滴が付与されるものとして説明する。
【0060】
図2は、説明を簡単にするために、各ヘッドにおけるノズルの配列形態を3×5のマトリクス配列として示した。ノズル単位の印字データは、1ノズルについて1ビットで表され、「0」は非吐出(圧電変位OFF)、「1」は吐出(圧電変位ON)に対応させている。3×5のマトリクス配列の場合、用紙搬送方向(y方向)と直交する用紙幅方向(x方向)に沿った実質的なノズルの並び順でノズル単位の制御データ(ビット)を並べたバイナリーデータ(15ビット)によって1回の吐出分の印字データ(ノズル制御データ)が表される。
【0061】
YMCK各色のヘッドの印字データは、印刷用の画像データから色別に生成されたハーフトーン処理後のドットデータから生成される。図2では、イエローヘッド10Yの印字データ(Y印字データ)が「1,1,1,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0」、マゼンタヘッド10Mの印字データ(M印字データ)が「0,0,0,1,1,1,0,0,0,0,0,0,0,0,0」、シアンヘッド10Cの印字データ(C印字データ)が「0,0,0,0,0,0,1,1,1,0,0,0,0,0,0」、黒ヘッド10Kの印字データ(K印字データ)が「0,0,0,0,0,0,0,0,0,1,1,1,0,0,0」であった場合を例示している。
【0062】
各ヘッドの印字データ(ノズル制御データ)は、ヘッドのノズル配列によって実現される記録解像度の単位で各ヘッドに転送する態様が好ましい。かかる態様は、シングルパス印字方式に好適である。ここでいう「記録解像度の単位」は、ヘッド吐出面の1面単位である。図2のように各ヘッドのノズル配置が2次元配列の場合、ノズル1点が1画素に対応している。
【0063】
図2において、まず、イエローヘッド10Yの吐出を行うタイミングで、当該イエローヘッド10Yの吐出制御部(以下、「Y吐出制御部」という。)にY印字データが転送され、当該Y印字データがイエローヘッド10Yのノズル制御データとしてセットされる。そして、Y印字データの「1」に対応したノズル12Yの圧電素子に対して駆動電圧が印加され、当該ノズル12Yからインク滴が吐出される。このように、Y印字データ(Yノズル制御データ)にしたがってイエローヘッド10Yの該当ノズル12Yの圧電素子が駆動される。
【0064】
Y印字データは、Y吐出制御部においてイエローヘッド10Yのノズル12YのON/OFF制御に利用される一方、マゼンタヘッドの吐出制御部(以下、「M吐出制御部」という。)に転送される。
【0065】
M吐出制御部には、M印字データが入力されるとともに、Y吐出制御部からY印字データが入力される。M吐出制御部は、M印字データにしたがってマゼンタヘッド10Mの該当ノズル12Mの圧電素子に駆動電圧を供給し、マゼンタインクの吐出を制御する。また、M吐出制御部には、入力されたY印字データとM印字データの論理和演算を行うOR演算処理回路が設けられており、Y印字データとM印字データとの論理和(OR)演算が行われ、2色分(2ヘッド分)のORデータ「〔Y+M〕印字データ」が生成される。図2では、Y印字データとM印字データのOR処理によって、「1,1,1,1,1,1,0,0,0,0,0,0,0,0,0」で表される〔Y+M〕印字データが生成された様子が示されている。
【0066】
C吐出制御部には、C印字データが入力されるとともに、M吐出制御部から〔Y+M〕印字データが入力される。C吐出制御部は、C印字データにしたがってシアンヘッド10Cの該当ノズル12Cの圧電素子に駆動電圧を供給し、シアンインクの吐出を制御する。また、C吐出制御部は、入力された〔Y+M〕印字データとM印字データの論理和演算を行うOR演算処理回路が設けられており、〔Y+M〕印字データとC印字データとの論理和(OR)演算が行われ、3色分(3ヘッド分)のORデータ「〔Y+M+C〕印字データ」が生成される。図2では、〔Y+M〕印字データとC印字データのOR処理によって、「1,1,1,1,1,1,1,1,1,0,0,0,0,0,0」で表される〔Y+M+C〕印字データが生成された様子が示されている。
【0067】
K吐出制御部には、K印字データが入力されるとともに、C吐出制御部から〔Y+M+C〕印字データが入力される。K吐出制御部は、K印字データにしたがって黒ヘッド10
Kの該当ノズル12Kの圧電素子に駆動電圧を供給し、黒インクの吐出を制御する。また、K吐出制御部には、入力された〔Y+M+C〕印字データとM印字データの論理和演算を行うOR演算処理回路が設けられており、〔Y+M+C〕印字データとK印字データとの論理和(OR)演算が行われ、4色分(4ヘッド分)のORデータ「〔Y+M+C+K〕印字データ」が生成される。図2では、〔Y+M+C〕印字データとK印字データのOR処理によって、「1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,1,0,0,0」で表される〔Y+M+C+K〕印字データが生成された様子が示されている。
【0068】
こうして、生成された全色の論理和データ(〔Y+M+C+K〕印字データ)は、CMYKの少なくとも1色のインクが打滴される画像領域(インク付着領域)を表すデータとなっている。当該生成された全色の論理和データ(〔Y+M+C+K〕印字データ)は溶剤吐出制御部に転送される。溶剤吐出制御部には、入力された全色の論理和データ(〔Y+M+C+K〕印字データ)について論理否定(NOT)演算を行うNOT演算処理回路が設けられており、全色の論理和データ(〔Y+M+C+K〕印字データ)のNOT処理によって、どの色のインクも打滴されない非画像領域を表す「非画像データ」が得られる。図で2は〔Y+M+C+K〕印字データのNOT処理によって「0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,1,1,1」で表される非画像データが生成された様子が示されている。この非画像データが溶剤吐出ヘッド10Hのノズル制御データとして用いられる。すなわち、この非画像データが溶剤吐出ヘッド10Hのノズル単位の吐出制御データとして溶剤吐出ヘッド10Hにセットされ、該非画像データにしたがって、溶剤吐出ヘッド10Hの該当ノズル12Hの圧電素子に駆動電圧が供給され、溶剤の吐出が行われる。
【0069】
これにより、YMCKのいずれのインクも付与されていない領域(非画像領域)に対して溶剤を打滴することができ、印刷領域における記録媒体の含水率を概ね均一化することができる。
【0070】
<吐出制御部のハードウエア構成(第1実施形態)について>
図3は、本実施形態に係るインクジェット記録装置100における吐出制御部のハードウエア構成例を示す。図3の構成によって、図2で説明した処理が実現される。
【0071】
図3に示したように、イエローヘッド10Yに対して、当該イエローヘッド10Yの吐出駆動を制御するための制御部(「Y吐出制御部」という。)20Yが接続されている。Y吐出制御部20Yは、イエローヘッド10Yの各ノズルに対応する圧電素子の駆動を制御し、ノズルからのインク吐出動作(吐出の有無、液滴吐出量)を制御するための制御手段として機能する。
【0072】
Y吐出制御部20Yは、吐出タイミング制御部22Y、波形データメモリ24Y、画像データメモリ26Y、OR処理回路28Y、駆動電圧制御回路30Y、画像データ転送制御回路32Y、D/A変換器34Yを含んで構成される。図中太線の矢印は複数本(n本)の信号線を含んだデータバスを示し(n≧2)、細線の矢印は制御信号や駆動波形電圧信号などを伝送する通常の信号ラインを示している。
【0073】
また、Y吐出制御部20Yは、イエローインクによる描画(画像記録)を管理する上位データ制御部40Yに接続されている。上位データ制御部40Yは、例えば、パソコンやホストコンピュータ、サーバーコンピュータ等で構成することができる。Y吐出制御部20Yは、上位データ制御部40Yからデータを受け取るためのデータ通信手段として、USB(Universal Serial Bus)その他の通信インターフェースを備えている。
【0074】
吐出タイミング制御部22Yは、用紙搬送部50から生成される画素単位の吐出トリガー信号に従い、駆動電圧制御回路30Y及び画像データ転送制御回路32Yに対してトリガー信号を供給する。例えば、用紙搬送部50の用紙の送りに追従して、1200dpiのタイミングでパルス信号が発生し、このパルス信号が各吐出制御部(20Y,20M等)に送られる。このタイミングに従い、Y吐出制御部20Y内の吐出タイミング制御部22Yにトリガーをかけて、吐出タイミング制御部22Yから駆動電圧制御回路30Y及び画像データ転送制御回路32Yに対してトリガー信号が与えられる。
【0075】
波形データメモリ24Yには、圧電素子を駆動するための駆動電圧波形のデジタルデータが記憶される。画像データメモリ26Yには、印刷用イメージデータ(ドットデータ)に展開された画像データが記憶される。画像データメモリ26Yに入力される画像データや、波形データメモリ24Yに入力される波形データは、上位データ制御部40Yにて管理される。
【0076】
システム起動時に、上位データ制御部40YからY吐出制御部20Yに対して波形データや画像データが転送される。なお、画像データについては、印刷実行時の用紙搬送と同期して、データ転送が行われる場合もある。そして、プリント動作時には、吐出タイミング制御部22Yが用紙搬送部50からの吐出トリガー信号を受信し、画像データ転送制御回路32Y及び駆動電圧制御回路30Yへ、吐出動作開始のスタートトリガーを出力する。画像データ転送制御回路32Y及び駆動電圧制御回路30Yは、このスタートトリガーを受けて画像データ転送制御回路32Y及び駆動電圧制御回路30Yからイエローヘッド10Yに解像度単位に波形データ及び画像データ転送を行うことで、画像データに応じた選択的な吐出動作(オンデマンドの吐出駆動制御)を行い、1ページの印刷を実現する。
【0077】
外部から入力されるプリントタイミング信号(吐出トリガー信号)に合わせて駆動電圧制御回路30YからD/A変換器34Yへ駆動電圧波形データが出力されることにより、D/A変換器34Yにて波形データからアナログ電圧波形へと変換される。D/A変換器34Yの出力波形(アナログ電圧波形)は図示せぬアンプ回路(電力増幅回路)によって圧電素子の駆動に適した所定の電流・電圧に増幅された後にイエローヘッド10Yに供給される。
【0078】
画像データ転送制御回路32Yは、CPU(central processing unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)によって構成することができる。画像データ転送制御回路32Yは、画像データメモリ26Yに記憶したデータを基に、イエローヘッド10Yのノズル制御データ(ここでは、記録解像度のドット配置に対応した画像データ)をイエローヘッド10Yに転送する制御を行う。ノズル制御データは、ノズルのON(吐出駆動)/OFF(非駆動)を決定する画像データ(ドットデータ)である。画像データ転送制御回路32Yは、このノズル制御データをイエローヘッド10Yに転送することで、ノズル毎の開閉(ON/OFF)を制御する。
【0079】
なお、本例では、画像データ転送制御回路32Yが「ラッチ信号送信回路」を含んでいる。画像データ転送制御回路32Yからイエローヘッド10Yに適宜のタイミングでデータラッチ信号が出力される。
【0080】
データラッチ信号は、イエローヘッド10Yに転送した印字データ(ここではY画像データ)をイエローヘッド10Yのノズルデータとして設定するために、画像データ転送制御回路32Yからイエローヘッド10Yに対し、必要なタイミングで送信される。
【0081】
画像データ転送制御回路32Yからイエローヘッド10Yに一定量の画像データを送信した時点で、データラッチとよばれる信号(ラッチ信号)をイエローヘッド10Yに送信する。このデータラッチ信号のタイミングでイエローヘッドにおける圧電素子の変位のオン(ON)/オフ(OFF)のデータが確定される。その後、D/A変換器34Yを介してイエローヘッド10Yに駆動電圧を印加することで、ON設定に係る圧電素子を微小変位させ、インク滴を吐出させる。こうして吐出したインク滴を用紙に付着(着弾)させることで、所望の解像度(例えば、1200dpi)の印刷が行われる。なお、OFF設定した圧電素子は駆動電圧を印加しても変位が起こらず、液滴が吐出されない。
【0082】
Y吐出制御部20Yを構成する回路部品を実装した制御回路基板60Yには、用紙搬送部50から画素単位吐出トリガー信号を受け入れるトリガー入力端子62Yと、上位データ制御部40Yから印字データ(Y画像データ)を受け入れる画像データ入力端子64Yと、OR処理回路28のOR演算に用いる他のデータを入力するOR処理データ入力端子66Yと、OR処理回路28の演算結果(ORデータ)を外部に出力するためのOR出力端子68Yと、が設けられている。
【0083】
OR処理回路28Yは、画像データ入力端子64から受入した印字データと、OR処理データ入力端子66Yから受入したデータとの論理和を計算し、その結果をOR出力端子68Yから外部に送信する。
【0084】
マゼンタヘッド10Mの吐出駆動を制御するための制御部(「M吐出制御部」という。)20M及びこれを管理する上位データ制御部40Mの構成は、上述したイエローと同様の回路構成が採用されている。M吐出制御部20Mの回路構成において、Y吐出制御部20Yの構成と同一・類似の要素には同一の番号を付し、「Y」に代えて「M」の記号を番号末に付加した符号を用いた。各要素の説明は上述したイエローと同様であるため、説明は省略する。
【0085】
図3では、C(シアン)及びK(黒)の各プリントヘッドとその吐出制御部の記載を省略しているが、これらC、Kの各色のプリントヘッド及び吐出制御部についても、Y、Mと同様の回路構成が採用され、同様の配線形態となっている。図に示さないが、C、Kの各色のプリントヘッド及び吐出制御部の構成について、イエローに関する構成と同一・類似の要素には同一の番号を用い、「Y」に代えて、それぞれインク色を区別する「C」、「K」の記号を番号末に付加した符号を使って説明する。
【0086】
溶剤吐出ヘッド10Hの吐出駆動を制御するための制御部(「溶剤吐出制御部」という。)20Hは、基本的にCMYK各色のプリントヘッドヘッドの吐出制御部と同様の構成が採用されている。溶剤吐出制御部20Hの回路構成において、Y吐出制御部20Yの構成と同一・類似の要素には同一の番号を付し、「Y」に代えて「H」の記号を番号末に付加した符号を用いた。
【0087】
図3に示した溶剤吐出制御部20Hの場合、OR処理回路28Yに代えて、NOT処理回路29Hが設けられている。溶剤吐出制御部20Hは、ORデータ入力端子66Hから受入した論理和データについて、NOT処理回路29Hで論理否定(NOT)処理を施し、このNOTデータを溶剤吐出ヘッド10Hのノズル単位のノズル制御データ(溶剤の打滴によるドットパターンを示す溶剤画像データ)として用いる。
【0088】
本例では、各色のノズル制御データ(各色の印字データ)の論理和データから溶剤吐出制御用の印字データ(溶剤画像データ)を生成しているため、溶剤吐出ヘッド10Hの印字データを生成・管理するための専用の上位データ制御部は不要となっている。
【0089】
図3に示した本実施形態の場合、色別に設けられた上位データ制御部(40Y、40M、40C、40K)からそれぞれの対応する吐出制御部(20Y、20M、20C、20K)に印字データが転送される。各色の吐出制御部(20Y、20M、20C、20K)は、それぞれ受信した印字データを画像データメモリ(26Y、26M、26C、26K)から画像データ転送部(32Y、32M、32C、32K)に送信する際に、当該印字データとOR処理データ入力端子(66Y、66M、66C,66K)から受入したデータとをOR処理回路(28Y、28M、28C、28K)にて論理和処理し、その演算結果をOR出力端子(68Y、68M、68C、68K)から、次色のヘッド(10M、10C、10K)または最終段の溶剤吐出ヘッド10H)の吐出制御部(20M、20C、20K、20H)の画像データメモリ(26Y、26M、26C、26K)へ転送する。
【0090】
例えば、M吐出制御部20Mでは、上位データ制御部40Mから自色(M)の印字データ(M印字データ)を画像データ入力端子64Mから受信して画像データメモリ26Mに記憶する一方、Y吐出制御部20Yから送られてくる画像データ(Y印字データ)をOR処理データ入力端子66Mから受信して画像データメモリ26Mに記憶する。そして、吐出タイミング制御部22Mが発するトリガー信号にしたがって、画像データメモリ26Mから画像データ転送制御回路32MにM印字データの転送を行う際に、OR処理回路28Mにて当該自色のM印字データと、Y吐出制御部20Yから取得したY印字データのOR処理を行いつつ、そのOR処理結果のデータを次色(C)のC吐出制御部20Cへ同時に転送する。
【0091】
なお、イエローヘッド10Yは、記録媒体に対して最初に記録を行うヘッドであるため、OR処理回路28Yへの一方の入力(OR処理データ入力端子66Y)には、上位データ制御部40Yから仮想的に、非印字データ(図2の場合「0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0」)又は、Y印字データと同じデータが供給される。
【0092】
このようにして、順次、各色でOR処理されたデータを次段のヘッドの吐出制御部に転送していき、最終的に溶剤吐出制御部20Hへ転送し、当該データ(各色のヘッドにセットされたノズル制御データの全色分の論理和データ)の論理否定(NOT)データを溶剤吐出ヘッドに設定することにより、溶剤吐出が行われる。
【0093】
本実施形態によれば、各色のプリントヘッドに設定されたノズル単位の印字データ(「ノズル制御データ」、或いは、「ノズル設定データ」という場合がある。)をOR処理することで、記録媒体上におけるインク付与画素の位置(画像領域)を求めることができる。全色のプリントヘッドのノズル設定画像からOR処理によって得られた論理和データは、インクが付与された画像領域を示し、当該論理和データの論理否定(NOT)データはインクが付与されていない非画像領域を示すことになる。
【0094】
本実施形態によれば、非画像領域データを生成する際、各色の吐出制御部にセットしたノズル制御データ(各色のドット配置を示すドットデータ)にしたがって色別の記録(インク吐出)を実施しながら、そのノズル制御データを色の記録順(色別のインク吐出ヘッドの配置順)で、次のヘッドの吐出制御部に提供する。前段のヘッドからデータを受信した次のヘッドの吐出制御部は、前段の先行記録に係る他のヘッドのノズル制御データと、次に記録を行う自己のヘッドのノズル制御データとのOR処理を行いながら、順次、そのOR処理結果を段階的につなげていき、最終的に全色分の論理和データを得る。
【0095】
こうして、吐出の最小単位である各色のノズル制御データをノズル単位で(記録解像度に対応したピクセル単位で)データ処理することにより、記録媒体上のインクを打った場所(画素)とインクを打たない場所(画素)とを簡単に区別することができる。こうして得られた論理和データから、印刷面における詳細なインク吐出量分布を求めることができる。また、かかるデータ処理を実現するにあたり、論理演算回路を利用したハードウエア処理とすることで、ソフト処理に比べてより高速な処理を行うことができる。
【0096】
図2で説明したとおり、本実施形態では、各ヘッドの印字データをノズル単位で転送する際に、記録媒体に対する記録順に(記録媒体の搬送方向に向かって上流側からヘッド配置順に)、各ヘッドのノズル設定データの吐出制御部(ヘッド制御部)に順次送り、OR演算処理を行っていく。そして、各色の処理が全て終了した全色の論理和データを溶剤ヘッド制御部に転送することで、そのNOT(論理否定)データから非画像データを得ることが可能であり、この非画像データを溶剤吐出ヘッドのノズル制御データとして利用できる。
【0097】
本実施形態によれば、インクが打たれていない画素に選択的に溶剤を打滴することができ、記録媒体の含水率を均一化できる。これにより、記録媒体上に打滴したインク滴の分布偏りによる用紙変形(コックリング現象)を緩和するコックリング発生を抑制できる。
【0098】
図2〜図3において、各色のヘッド10Y、10M、10C、10Kが「記録ヘッド」に相当し、これらヘッド群が「記録ヘッド群」に相当する。また、各ヘッドに対応して設けられた吐出制御部(20Y、20M、20C、20K)が「ヘッド別の記録制御部」に相当する。各吐出制御部(20Y、20M、20C、20K)に搭載されたOR処理回路28Y、28M、28C、28K)の組合せが「OR演算部」に相当する。
【0099】
溶剤吐出ヘッド10Hが「記録ヘッド以外の液体吐出ヘッド」に相当し、溶剤吐出制御部20Hが「吐出制御部」に相当する。
【0100】
<データの転送時間と吐出間隔の関係について>
上述した実施形態の場合、各色のヘッドにセットしたノズル制御データのORデータを順次、次色ヘッドの吐出制御部に転送してOR処理を行っていくため、溶剤吐出制御部20Hに最終的な論理和データが到着するまでには処理時間の遅延が発生するが、ノズルデータ転送時間は、各ヘッドの吐出間隔と比較して非常に短時間であり、データの順次転送及び処理を行うことによる遅延は実質的に問題にならない。
【0101】
例えば、一般的なインクジェット印刷機の吐出間隔が数10μsであるのに対し、ノズルデータ転送時間は数10nsである。したがって、1つ前のヘッドで吐出を実行してから、次のヘッドで吐出を行うまでの時間間隔(数10μs)の間に、データの転送処理及び演算処理を十分に完了させることが可能であり、本実施形態によるデータ転送遅延は全く問題にならない。
【0102】
<第2実施形態>
第1実施形態では、溶剤吐出制御部20HにNOT処理回路29を搭載し、全色のノズル制御データの論理和データから非画像データを生成したが、かかる態様に代えて、全色のノズル制御データの論理和データをそのまま溶剤吐出ヘッド10Hのノズル制御データとして利用する態様も可能である。
【0103】
図4は、本発明の第2実施形態を示す要部構成図である。図3で説明した溶剤吐出制御部20Hの構成に代えて、図4に示す構成を採用することが可能である。図4中、図3で説明した構成と同一又は類似の要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0104】
図4に示した溶剤吐出制御部20Hは、図3で説明したNOT処理回路29に代えて、OR処理回路28Hを備えている。さらに、画像データ転送制御回路32Hは、入力した印字データの「1」を使って吐出を行う第1の制御設定と、「0」を使って吐出を行う第2の制御設定と、を切り替えることができるように構成されている。装置の初期設定において、このような設定を予め選択しておくか、或いは、装置の起動時に図示せぬ上位の制御部から画像データ転送制御回路32Hに対して、制御設定の切り替えを行うための信号が与えられる。図4では、設定の切り替え信号として、「0又は1」の信号が入力される様子が示されている。
【0105】
例えば、「0」の設定信号が入力されたときには、印字データの「0」を使って吐出が行われ、「1」の設定信号が入力されたときには、印字データの「1」を使って吐出が行われるものとする。溶剤吐出制御部20Hにおいては、印字データの「0」を使って吐出を行う設定とされ、OR処理回路28Hから得られる論理和データにしたがって溶剤吐出ヘッド10Hの吐出が行われる。
【0106】
上記のように、制御スイッチによる切り替え機能を内包した処理回路、又はセレクタを用いることにより、図3で説明したNOT処理回路29が不要となる。また、図4に示した形態によれば、YMCK各色のインク吐出ヘッドの吐出制御部(20Y、20M、20C、20K)と溶剤吐出制御部20Hとを同等の回路構成で実現することが可能であり、ハードウエアの共通化が可能である。
【0107】
<第3実施形態>
図5は本発明の第3実施形態を示す要部構成図である。図3、図4で説明した溶剤吐出制御部20Hの構成に代えて、図5に示す構成を採用することが可能である。図5中、図3、図4で説明した構成と同一又は類似の要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0108】
図5に示した溶剤吐出制御部20Hは、OR処理回路28H’から画像データ転送制御回路32Hに供給するデータの種類を切り替えることができるように構成されている。図5のOR処理回路28H’には、図示せぬ上位の制御部から、出力データの種類を切り替えるための信号が与えられる。図5では、設定の切り替え信号として、「0又は1」の信号が入力される様子が示されている。
【0109】
例えば、OR処理回路28H’に「0」を示す設定信号が入力されたときには、OR処理回路28H’からOR処理結果を示すOR信号が画像データ転送制御回路32Hに出力される。画像データ転送制御回路32Hは、印字データの「0」を使って吐出を行う設定とされ、OR処理回路28H’から得られる論理和データにしたがって溶剤吐出ヘッド10Hの吐出が行われる。
【0110】
図5の回路構成と同等の回路構成をYMCK各色のインク吐出ヘッドの吐出制御部(20Y、20M、20C、20K)として採用することができる。インク吐出用の吐出制御部に図5の回路構成を採用した場合には、それぞれのOR処理回路(28Y’、28M’、28C’、28K’)に対して、「1」を示す設定信号が入力され、各OR処理回路(28Y’、28M’、28C’、28K’)から画像データ転送制御回路(32Y、32M、32C、32K)に対して、OR処理結果(ORデータ)ではなく、画像データ入力端子(64Y、64M、64C、64K)から得た各色の印字データが転送される。そして、各色の画像データ転送制御回路(32Y、32M、32C、32K)は、印字データの「1」を使って吐出を行う設定とされ、各色の印字データにしたがってインク吐出ヘッド(10Y、10M、10C、10K)の吐出が行われる。
【0111】
図5に示した形態によれば、図4の例と同様に、YMCK各色のインク吐出ヘッドの吐出制御部(20Y、20M、20C、20K)と溶剤吐出制御部60Hとを同等の回路構成で実現することが可能であり、ハードウエアの共通化が可能である。
【0112】
<第4実施形態>
図6は本発明の第4実施形態を示す要部構成図である。図3〜図5で説明した溶剤吐出制御部20Hの構成に代えて、図6に示す構成を採用することが可能である。図6中、図3〜図5で説明した構成と同一又は類似の要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0113】
図6に示した溶剤吐出制御部20Hは、図4で説明したOR処理回路28Hに代えて、OR処理とNOT処理の切り替えが可能な処理回路78Hが設けられている。この処理回路78Hには、図示せぬ上位の制御部から、処理の種類を切り替えるための信号が与えられる。図6では、設定の切り替え信号として、「0又は1」の信号が入力される様子が示されている。例えば、処理回路78Hに「1」を示す設定信号が入力されたときには、処理回路78HにてNOT処理が行われ、処理回路78Hから画像データ転送制御回路32HにNOT処理結果の信号(NOTデータ)が転送される。画像データ転送制御回路32Hは、印字データの「1」を使って吐出を行う設定とされ、処理回路78Hから得られるNOTデータにしたがって溶剤吐出ヘッド10Hの吐出が行われる。
【0114】
図6の回路構成と同等の回路構成をYMCK各色のインク吐出ヘッドの吐出制御部(20Y、20M、20C、20K)として採用することができる。インク吐出用の吐出制御部に図6の回路構成を採用した場合には、それぞれの処理回路(78Y、78M、78C、78K)に対して、「0」を示す設定信号が入力され、各処理回路(78Y、78M、78C、78K)にてOR処理が行われる。このOR処理結果は、OR出力端子68Y、68M、68C、68Kを介して他の吐出制御部に転送される。
【0115】
一方、各色の画像データ転送制御回路(32Y、32M、32C、32K)に対しては、OR処理結果(ORデータ)ではなく、画像データ入力端子(64Y、64M、64C、64K)から得た各色の印字データが転送される。各色の画像データ転送制御回路(32Y、32M、32C、32K)は、印字データの「1」を使って吐出を行う設定とされ、各色の印字データにしたがってインク吐出ヘッド(10Y、10M、10C、10K)の吐出が行われる。
【0116】
図6に示した形態によれば、各ヘッドの吐出制御部におけるハードウエア構成の共通化が可能である。
【0117】
<インクジェットヘッドの構成例>
次に、インクジェットヘッドの構造例について説明する。各色に対応するインク吐出ヘッド172M,172K,172C,172Yの構造は共通しているので、以下、これらを代表して符号250によってヘッドを示すものとする。なお、溶剤吐出ヘッド172Hについても同様の構造である。
【0118】
図7(a) はヘッド250の構造例を示す平面透視図であり、図7(b) はその一部の拡大図である。図8はヘッド250を構成する複数のヘッドモジュールの配置例を示す図である。また、図9は記録素子単位(吐出素子単位)となる1チャンネル分の液滴吐出素子(1つのノズル251に対応したインク室ユニット)の立体的構成を示す断面図(図7中のA−A線に沿う断面図)である。
【0119】
図7に示したように、本例のヘッド250は、インク吐出口であるノズル251と、各ノズル251に対応する圧力室252等からなる複数のインク室ユニット(液滴吐出素子)253をマトリクス状に二次元配置させた構造を有し、これにより、ヘッド長手方向(紙送り方向と直交する方向)に沿って並ぶように投影(正射影)される実質的なノズル間隔(投影ノズルピッチ)の高密度化を達成している。
【0120】
記録媒体124の送り方向(矢印S方向;「第1方向」に相当)と略直交する方向(矢印M方向;「第2方向」に相当)に記録媒体124の描画領域の全幅Wmに対応する長さ以上のノズル列を構成するために、例えば、図8(a)に示すように、複数のノズル251が二次元に配列された短尺のヘッドモジュール250’を千鳥状に配置して、長尺のライン型ヘッドを構成する。或いはまた、図8(b)に示すように、ヘッドモジュール250”を一列に並べて繋ぎ合わせる態様も可能である。
【0121】
なお、シングルパス印字用のフルライン型プリントヘッドは、記録媒体124の全面を描画範囲とする場合に限らず、記録媒体124の面上の一部が描画領域となっている場合(例えば、用紙の周囲に非描画領域(余白部)を設ける場合など)には、所定の描画領域内の描画に必要なノズル列が形成されていればよい。
【0122】
各ノズル251に対応して設けられている圧力室252は、その平面形状が概略正方形となっており(図7(a)、(b) 参照)、対角線上の両隅部の一方にノズル251への流出口が設けられ、他方に供給インクの流入口(供給口)254が設けられている。なお、圧力室252の形状は、本例に限定されず、平面形状が四角形(菱形、長方形など)、五角形、六角形その他の多角形、円形、楕円形など、多様な形態があり得る。
【0123】
図9に示すように、ヘッド250(ヘッドモジュール250’、250”)は、ノズル251が形成されたノズルプレート251Aと圧力室252や共通流路255等の流路が形成された流路板252P等を積層接合した構造から成る。ノズルプレート251Aは、ヘッド250のノズル面(インク吐出面)250Aを構成し、各圧力室252にそれぞれ連通する複数のノズル251が二次元的に形成されている。
【0124】
流路板252Pは、圧力室252の側壁部を構成するとともに、共通流路255から圧力室252にインクを導く個別供給路の絞り部(最狭窄部)としての供給口254を形成する流路形成部材である。なお、説明の便宜上、図9では簡略的に図示しているが、流路板252Pは一枚又は複数の基板を積層した構造である。
【0125】
ノズルプレート251A及び流路板252Pは、シリコンを材料として半導体製造プロセスによって所要の形状に加工することが可能である。
【0126】
共通流路255はインク供給源たるインクタンク(不図示)と連通しており、インクタンクから供給されるインクは共通流路255を介して各圧力室252に供給される。
【0127】
圧力室252の一部の面(図9において天面)を構成する振動板256には、個別電極257を備えたピエゾアクチュエータ(圧電素子)258が接合されている。本例の振動板256は、ピエゾアクチュエータ258の下部電極に相当する共通電極259として機能するニッケル(Ni)導電層付きのシリコン(Si)から成り、各圧力室252に対応して配置されるピエゾアクチュエータ258の共通電極を兼ねる。なお、樹脂などの非導電性材料によって振動板を形成する態様も可能であり、この場合は、振動板部材の表面に金属などの導電材料による共通電極層が形成される。また、ステンレス鋼(SUS)など、金属(導電性材料)によって共通電極を兼ねる振動板を構成してもよい。
【0128】
個別電極257に駆動電圧を印加することによってピエゾアクチュエータ258が変形して圧力室252の容積が変化し、これに伴う圧力変化によりノズル251からインクが吐出される。インク吐出後、ピエゾアクチュエータ258が元の状態に戻る際、共通流路255から供給口254を通って新しいインクが圧力室252に再充填される。
【0129】
かかる構造を有するインク室ユニット253を図7(b)に示す如く、主走査方向に沿う行方向及び主走査方向に対して直交しない一定の角度θを有する斜めの列方向に沿って一定の配列パターンで格子状に多数配列させることにより、本例の高密度ノズルヘッドが実現されている。かかるマトリクス配列において、副走査方向の隣接ノズル間隔をLsとするとき、主走査方向については実質的に各ノズル251が一定のピッチP=Ls/tanθで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。
【0130】
また、本発明の実施に際してヘッド250におけるノズル251の配列形態は図示の例に限定されず、様々なノズル配置構造を適用できる。例えば、図7で説明したマトリクス配列に代えて、V字状のノズル配列、V字状配列を繰り返し単位とするジグザク状(W字状など)のような折れ線状のノズル配列なども可能である。
【0131】
本例に示したインクジェット記録装置100は、ヘッド250毎に複数のピエゾアクチュエータ258に対して、共通の駆動波形電圧信号を印加し、各ピエゾアクチュエータ258の吐出タイミングに応じて各ピエゾアクチュエータ258の個別電極に接続されたスイッチ素子(不図示)のオンオフを切り換えることで、各ピエゾアクチュエータ258に対応するノズル251からインクを吐出させる駆動方式が採用されている。図2等で説明した色毎の印字データ(ノズル制御データ)は、各ピエゾアクチュエータ258の個別電極に接続されたスイッチ素子のオンオフ制御に利用される。
【0132】
なお、インクジェットヘッドにおける各ノズルから液滴を吐出させるための吐出用の圧力(吐出エネルギー)を発生させる手段は、ピエゾアクチュエータ(圧電素子)に限らず、サーマル方式(ヒータの加熱による膜沸騰の圧力を利用してインクを吐出させる方式)におけるヒータ(加熱素子)や他の方式による各種アクチュエータなど様々な圧力発生素子(吐出エネルギー発生素子)を適用し得る。ヘッドの吐出方式に応じて、相応のエネルギー発生素子が流路構造体に設けられる。
【0133】
<ヘッドと用紙を相対移動させる手段について>
上述の実施形態では、停止したヘッドに対して記録媒体を搬送する構成を例示したが、本発明の実施に際しては、停止した記録媒体(被描画媒体)に対してヘッドを移動させる構成も可能である。
【0134】
<変形例1>
上述の各実施形態では、インク吐出ヘッドと溶媒吐出ヘッドの記録解像度を同じとしたが、溶剤吐出ヘッドについて、インク吐出ヘッドよりも低解像度のヘッドを用いることもできる。例えば、インク吐出ヘッドには1200dpiの、溶剤吐出ヘッドについて600dpiや400dpiのヘッドを用いることができる。
【0135】
インク吐出ヘッドに比べて低解像度の溶剤吐出ヘッドを用いた場合、インク吐出ヘッドのノズル制御データの論理和データを溶剤吐出ヘッドのノズル制御データに適用するにあたり、データの間引き処理や画素の平均化処理など、解像度変換処理が行われる。
【0136】
<変形例2>
上記実施形態では、OR処理のデータを順次転送する例を説明したが、かかる順次転送の方式に代えて、溶剤吐出制御部に全色のインク吐出制御部からのインク制御データを入力し、これら並列入力された複数のデータから一度にOR処理して論理和データを得ることも可能である。
【0137】
この場合、溶剤吐出制御部において、全色のインク制御データをそれぞれのインク吐出制御部から並列に入力させるための入力端子がヘッド数分必要であり(CMYK各色ヘッドの場合、4つの端子が必要であり)、回路構成の共通化はできないが、インク吐出制御部におけるオア回路の搭載は不要となる。
【0138】
<変形例3>
上述の各実施形態では、各ヘッドの吐出制御部として、画像データメモリ、波形データメモリ、画像データ転送制御回路、吐出タイミング制御部、駆動電圧制御回路、D/A変換器等を1つの制御回路基板に実装した例を示したが、各吐出制御部の具体的構成は上述の例に限定されない。例えば、各吐出制御を構成する回路要素を複数の回路基板に分けて実装し、これら複数の回路基板間をハーネスで接続する構成も可能である。
【0139】
<変形例4>
上述の実施形態では、CMYKの各色について、それぞれ上位データ制御部40Y、40M、40C、40Kを備えたが、1つの上位データ制御部(例えば、1台のサーバーコンピュータ)によって複数色(例えば4色全て)の吐出制御部を制御する構成も可能である。なお、図3で説明した形態のように、色別に上位データ制御部を設ける態様は、高速の処理が可能である。生産性が重視される業務用のインクジェット印刷機の場合、色別に上位データ制御部を設ける態様が好ましい。
【0140】
<変形例5>
上記実施形態では、処理液とインク液を反応させる2液反応系を例示したが、処理液を用いないシステム(記録媒体に直接インクを付与する印刷方式)も可能である。
【0141】
<変形例6>
上述した実施形態では、記録媒体124に直接インク滴を打滴して画像を形成する方式(直接記録方式)のインクジェット記録装置を説明したが、本発明の適用範囲はこれに限定されず、一旦、中間転写体上に画像(一次画像)を形成し、その画像を転写部において記録紙に対して転写することで最終的な画像形成を行う中間転写型の画像形成装置についても本発明を適用することができる。
【0142】
また、上記実施形態では、記録媒体の全幅に対応する長さのノズル列を有するページワイドのフルライン型ヘッドを用いたインクジェット記録装置(1回の副走査によって画像を完成させるシングルパス方式の画像形成装置)を説明したが、本発明の適用範囲はこれに限定されず、シリアル型(シャトルスキャン型)ヘッドなど、短尺の記録ヘッドを移動させながら、複数回のヘッド走査により画像記録を行うインクジェット記録装置についても本発明を適用できる。
【0143】
<変形例7>
上述した実施形態では、記録媒体上に打滴したインク液滴の分布の偏りによる用紙変形を緩和するための溶剤を吐出制御する手段を例に説明したが、本発明の適用範囲はこれに限定されない。例えば、インク滴を打滴した領域に、画像コーティング用の液体を吐出する際の吐出制御の手段として、本発明を時用することが可能である。
【0144】
<本発明の応用例について>
上記の実施形態では、グラフィック印刷用のインクジェット記録装置への適用を例に説明したが、本発明の適用範囲はこの例に限定されない。例えば、電子回路の配線パターンを描画する配線描画装置、各種デバイスの製造装置、吐出用の機能性液体として樹脂液を用いるレジスト印刷装置、カラーフィルター製造装置、マテリアルデポジション用の材料を用いて微細構造物を形成する微細構造物形成装置など、液状機能性材料を用いて様々な形状やパターンを描画するインクジェットシステムに広く適用できる。
【0145】
<インクジェット方式以外の記録ヘッドの利用形態について>
上述の説明では、記録ヘッドを用いる画像形成装置の一例としてインクジェット記録装置を例示したが、本発明の適用範囲はこれに限定されない。インクジェット方式以外では、サーマル素子を記録素子とする記録ヘッドを備えた熱転写記録装置、LED素子を記録素子とする記録ヘッドを備えたLED電子写真プリンタ、LEDライン露光ヘッドを有する銀塩写真方式プリンタなど、ドット記録を行う各種方式の画像形成装置についても本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0146】
10Y…イエローヘッド、10M…マゼンタヘッド、10C…シアンヘッド、10K…黒ヘッド、10H…溶剤吐出ヘッド、12Y,12M,12C,12K,12H…ノズル、20Y…Y吐出制御部、20M…M吐出制御部、20H…溶剤吐出制御部、28Y,28M…OR処理回路、30Y,30M…駆動電圧制御回路、32Y,32M…画像データ転送制御回路、40Y,40M,40C,40K…上位データ制御部、64Y,64M…画像データ入力端子、66Y,66M…OR処理データ入力端子、68Y,68M…OR出力端子、100…インクジェット記録装置、124…記録媒体、170…描画ドラム、172M,172K,172C,172Y…インク吐出ヘッド、172H…溶剤吐出ヘッド、250…ヘッド、251…ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の記録素子を有する記録ヘッドが複数個配置された記録ヘッド群と、
前記複数個の記録ヘッドのそれぞれに対応して記録ヘッド毎に設けられ、各記録ヘッドにおける各記録素子による記録動作を記録素子単位で制御する記録素子制御データ及び前記記録素子を記録動作させる駆動電圧信号を、対応する記録ヘッドに送出するヘッド別の記録制御部と、
前記ヘッド別の記録制御部からそれぞれ対応する記録ヘッドに対して送出されたヘッド別の記録素子制御データの論理和データを生成するOR演算部と、
前記複数個の記録ヘッド以外の液体吐出ヘッドであって、液滴を吐出するための複数のノズルと各ノズルに対応した吐出エネルギー発生素子とを有する液体吐出ヘッドと、
前記論理和データを用いて前記液体吐出ヘッドの各ノズルによる吐出動作をノズル単位で制御するとともに、前記吐出エネルギー発生素子を駆動する駆動電圧信号を前記液体吐出ヘッドに送出する吐出制御部と、
を備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記複数個の記録ヘッドは、複数の色の各色に対応して色毎に設けられた色別の記録ヘッドであり、
前記ヘッド別の記録制御部は、前記色別の記録ヘッドのそれぞれに対応して色毎に設けられていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記記録ヘッドは、インクジェットヘッドであり、前記記録素子は、インク滴を吐出するノズルと該ノズルからインク滴を吐出させるための吐出エネルギー発生素子とを含んだインク吐出素子であることを特徴とする画像形成装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項において、
前記ヘッド別の記録制御部は、上位制御部からデータを受け取るデータ通信手段と、
前記対応する記録ヘッドに対して送出した記録素子制御データと他の入力データとの論理和演算を行うOR処理回路と、
前記OR処理回路によって生成されたOR処理後のデータを、他の記録制御部に対して送出するデータ送信手段と、を備え、
前記ヘッド別の記録制御部に設けられている前記OR処理回路の組合せにより前記OR演算部が構成されていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記複数個の記録ヘッドによる記録媒体への記録順で、順次、次の記録に係る記録ヘッドの記録制御部に対して前記OR処理後のデータが転送され、当該転送されたデータを前記次の記録に係る記録ヘッドの記録制御部における前記他の入力データとして利用してOR処理が行われるように、前記ヘッド別の記録制御部同士が接続され、
前記記録順で最後の記録を行う記録ヘッドの記録制御部に含まれる前記OR処理回路の演算結果として、前記複数個の全ての記録ヘッドに送られたヘッド別の記録素子制御データの論理和を表す前記論理和データが得られることを特徴とする画像形成装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項において、
前記OR演算部により生成された前記論理和データに基づき、前記複数個の記録ヘッドで記録が行われていない無記録領域に対して、前記液体吐出ヘッドから液滴が打滴されることを特徴とする画像形成装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項において、
前記液体吐出ヘッドから無色透明な液が吐出されることを特徴とする画像形成装置。
【請求項8】
複数の記録素子を有する複数個の記録ヘッドのそれぞれに対応して記録ヘッド毎に設けられ、各記録ヘッドにおける各記録素子による記録動作を記録素子単位で制御する記録素子制御データ及び前記記録素子を記録動作させる駆動電圧信号を、対応する記録ヘッドに送出するヘッド別の記録制御部と、
前記ヘッド別の記録制御部からそれぞれ対応する記録ヘッドに対して送出されたヘッド別の記録素子制御データの論理和データを生成するOR演算部と、
前記複数個の記録ヘッドとは別に設けられた液体吐出ヘッドの吐出動作を制御する吐出制御部であって、前記OR演算部で生成された論理和データに基づき、前記液体吐出ヘッドを構成する複数のノズルの各ノズルによる吐出動作をノズル単位で制御するノズル制御データを生成し、当該ノズル制御データを前記液体吐出ヘッドに送出するノズル制御データ送信手段と、前記液体吐出ヘッドの前記各ノズルに対応して設けられた吐出エネルギー発生素子を駆動する駆動電圧信号を前記液体吐出ヘッドに送出する駆動電圧出力手段と、を有する吐出制御部と、
を備えることを特徴とするヘッド制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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