説明

画像形成装置

【課題】 車椅子の搭乗者が、画像読み取り部への原稿セットが正確に行え、操作部が楽に操作できるための改良を簡単な構成で実現する。
【解決手段】 画像形成部2の両側面の上縁に断面コ字状のガイドレール3を配設し、画像読み取り部1の両側面、その重心の後方にローラ4付き回転軸を突設させ、そのローラ4でガイドレール3内を走行可能とする。画像形成部2の上面の前縁に位置するガイドレール3の出口の手前に係止突起5を設け、前方に移動させてきた画像読み取り部1のローラ4をその係止突起5に係止させ、画像読み取り部1を、その自重で、ローラ4の回転軸回りに回転させる。そうすれば、その底面の前後方向中間あたりが画像形成部2の左支柱手前側の傾斜部に当接して傾斜した形で停止し、車椅子の搭乗者は原稿セット面、操作面をはっきりと目にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、画像形成装置に係り、詳しくは、画像読み取り部の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機や画像読み取り装置は、今日のオフィスにはなくてはならない存在であるが、オフィスのみならず、コンビニエンスストアにも設置されているのが当たり前といった状況である。そして、コンビニエンスストアが地方にも拡大されている中、それら装置の普及具合は非常に広範なものがある。
【0003】
他方、非健常者の社会進出が一段と進んだ今日、非健常者がオフィスで仕事に携わる場合、あるいは、仕事でなくとも、先ほどのコンビニエンスストアなどにおいても、それらの装置を操作する機会が増えてきているが、その場合、健常者とは異なった観点からの装置の使い勝手について、様々な改良の要望が挙がっている。
【0004】
例えば、今日の複写機は画像形成部と画像読み取り部とが分離されていて、画像読み取り部は画像形成部の上に配置されるという形態が殆どである。そのような構成の場合、画像形成部の上面には、画像形成を受けた用紙の排紙部(胴内排紙部)が配置されるので、画像読み取り部と用紙の排紙部との間は、用紙の確認と取り出しが容易に行えるよう、そのための空間を充分とった構造となっている。
【0005】
従って、画像形成装置の高さが高くなる傾向にあるが、先ほどの非健常者あるいは高齢者など、車椅子に搭乗した利用者は姿勢が低いので、画像形成装置の上面、すなわち、彼らにとって高い位置にある画像読み取り部やそれに併設された操作部は、極めて操作性の悪い状態におかれている。このような画像読み取り部の車椅子利用者に対する操作性の悪さに対処したものとしては、下記の公知文献(特許文献1、2)に開示されたものがある。
【0006】
先ず、特許文献1に開示されたものでは、画像形成部と画像読み取り部とをパラレルリンク機構を用いて、画像読み取り部が画像形成部の側方にせり出して来て、かつ、それが下降するようになっている。
【0007】
この装置によれば、確かに、車椅子利用者が、そのせり出してきた画像読み取り部の下に車椅子をもぐらせることができ(特許文献1の図4、図5参照)、読み取り部が膝の真上に位置するようになるので、読み取り部の原稿の載置面に原稿を正確に載置することができ、また、操作部の操作性の良さも抜群である。
【0008】
次に、特許文献2に開示されたものは、画像読み取り部が前後にスライドし、かつ、その読み取り部に併設された操作部が、読み取り部が最も前方に進出してきた位置でさらに、その姿勢を水平状態から直立状態に変換できるような構成にして、主に、その操作部の改良に力点を置いている。
【0009】
この装置によっても、確かに、操作部は画像読み取り部とともに利用者側の方に進んできて、直立した形で利用者に対峙するので、車椅子利用者は、従来のものが、操作部が上方を向いていて見づらかったのとは異なり、正面に見ることができるので、その操作が非常にやり易いものとなっている。
【特許文献1】特開2003−101706号公報(第4図、第5図)
【特許文献2】特開2004−191826号公報(第3図、第6図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1に開示された装置の、そのパラレルリンクを使用した構成は、構成が複雑で、外観的にも、いかにも非健常者向けといった感じのものであり、パラレルリンク機構で画像読み取り部を移動させる様は、物々しい感じさえする。オフィスで健常者と共同で使用するには、簡単な構成のものが望まれる。
【0011】
また、上記特許文献2に開示された画像形成装置については、画像読み取り部を最も手前に寄せた場合でも、その高さは変わらず、ただ、原稿の載置面や操作部に、少しばかり手が届きやすくなったというだけで、車椅子に搭乗した利用者にとっては、相変わらず、用紙のセット位置が確認しにくく、操作部も見づらいという不便さが残る。
【0012】
そこで、本発明は、画像読み取り部と画像形成部を備え、その画像形成部の上面に画像読み取り部が配設され、その画像読み取り部の前方に、画像形成部への操作信号入力を行う操作部が併設された画像形成装置において、非健常者あるいは高齢者といった車椅子の搭乗者が直面している、原稿セット時の不便さ、操作部の操作性の悪さを解消し、かつ、それを簡単な構成で実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を達成するために、本発明は、前記画像読み取り部が、その原点状態から前記画像形成部の上面を前後方向にスライド可能、かつ、その前後方向の重心より後方に、前後方向に垂直な水平軸を有するとともに、画像形成部上面の前縁には、画像読み取り部が前方へ移動してきた際に、その水平軸を係止する係止構造が設けられており、画像読み取り部は、水平軸が、その係止構造による係止を受けた状態で、重心側の先端が自重により下方に回転して、その重心側が画像形成部に当接して、原稿用紙の載置面が傾斜した形で停止する構成を採用したのである。
【0014】
このような構成にしたので、画像読み取り部を手前に引いて、その自重で傾かせれば、車椅子に搭乗した姿勢の低い利用者でも、その原稿載置面がはっきりと見え、原稿を正確な位置に正しい姿勢で載置することができる。
【0015】
その際、上記画像読み取り部の原稿載置面に、その原稿用紙の落下防止のための係止構造を形成することが好ましい。
【0016】
それは、通常、画像読み取り部の原稿載置面には、厚みが薄いながら、原稿の載置姿勢を案内するガイド板が載置面の外周に沿って設けてあるが、その厚みの薄いガイド板だけでは、傾いた原稿載置面から原稿が落下するおそれがあり、この構成により、原稿の落下を確実に防ぐことができるからである。
【0017】
上記構成において、上記操作部が上記画像読み取り部に対し、水平軸の回りに回転可能となった構成にすれば、操作部を回転させて、それを正面に見据える姿勢にすることができ、そうすれば、操作部がより見やすくなって、操作性が向上する。
【発明の効果】
【0018】
この発明は上記のように構成したので、画像形成装置の画像読み取り部について、その操作、具体的には、原稿の載置面に原稿を載置する操作あるいは操作部の操作が、車椅子搭乗者など、姿勢の低い利用者にとって、正確に、楽に行え、そのことが、従来のように、リンクを使ったような、外見的にもものものしい複雑な構成でなく、例えば、後述の実施形態にあるように、スライドレールによる前後方向の移動と、前方への移動の途中で読み取り部を係止させ、その係止位置で水平軸の回りに自重で回転させて、先端部を画像形成部に当接させて、傾けた状態で静止させる、といった簡単な構成で実現できる、という効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図を参照して、この発明の実施の形態を説明する。図1は、本実施形態の画像形成装置を、(a)に斜視図で示し、(b)に側面図で示したものである。図1に示すように、本実施形態の画像形成装置の基本構造は、前記背景技術の項で述べた、従来の胴内排紙型のものと同じである。すなわち、画像形成部2と画像読み取り部1とが分離されていて、画像読み取り部1は画像形成部2の上に配置され、画像読み取り部1の下方には、画像形成部の内部で画像形成を受けた用紙の排紙部2a(胴内排紙部)が配置される。排紙部2aは、用紙の確認と取り出しが容易に行えるよう、大きな空間をとった構造となっている。図で符号2bを付した部分が排紙トレイに当たる。
【0020】
次に、図1〜図3を参照して、この発明の特徴的な構成について述べる。図1〜図3は、この順に、本実施形態の画像形成装置10の画像読み取り部1の画像形成部2に対する姿勢の変化を示したものである。先述したように、本発明の画像形成装置は、その画像読み取り部が、画像形成部の上面に沿って、前後方向に移動可能となったものであるが、図1は、その原点状態を、(a)に斜視図で示し、(b)に側面図で示したものである。(c)については後述する。また、図2は、画像読み取り部1が前方へ最大に移動した状態を示したものである。(a)が斜視図、(b)が側面図である。図3は、画像読み取り部1が図2のように前方へ最大限移動した後、その先端側が手前に(下向きに)傾いた状態を示したものである。(a)が斜視図、(b)が側面図である。
【0021】
先ず、図1(b)に示すように、画像読み取り部1の原点状態というのは、その背面が画像形成部2の背面と面一にある状態である。そして、二点鎖線で示したように、その原点位置よりさらに、後方へ移動できるようになっている。
【0022】
なお、この原点位置では、画像読み取り部1は、後出の図2(b)に示したように、その底面に設けたボールプランジャ9と、それに対応して画像形成部2の画像読み取り部1の載置面に設けた係合穴とで位置決めされるようになっている。
【0023】
この画像読み取り部1の前後への移動の仕組みは、画像読み取り部1と画像形成部2の両側面に設けたスライドレール機構による。図1(c)はそのスライド機構を示したものであり、図1(b)の線A−Aによる断面である。この図にあるように、画像形成部2の両側面の上縁には断面コ字状のガイドレール3が配設されており、そのコ字の内部に、画像読み取り部1の両側面に突設されたローラ4が挿嵌された形となっている。なお、このローラ4の画像読み取り部1の側面に設けた位置は、画像読み取り部1の前後方向の重心より後方の位置となっている。
【0024】
こうして、画像読み取り部1を押し引きする際、そのローラ4がガイドレール3内を走行することにより、画像読み取り部1がスライドするようになっている。
【0025】
また、画像読み取り部1のスライド時の滑りを滑らかにするために、画像形成部2の上面に設けた画像読み取り部の載置板21に、ローラ22を埋設している。
【0026】
そして、この画像読み取り部1は、今述べたスライドレール機構を介して、前方へ移動して図2の状態に達したときは、図2(b)に部分断面で示すように、画像読み取り部1のローラ4がガイドレール3の出口の手前に形成された係止突起5により係止される。
【0027】
この係止突起5に係止された状態で、画像読み取り部1の重心は、その係止突起5より前方の位置に存在するので、画像読み取り部1は、ローラ4の回転軸を中心にして、前端が下方に傾く向きに回転しようとする。それは、重心の位置が回転軸の前方に存在するからで、画像読み取り部1は自重で下方に回転する。
【0028】
先ず、図2に示したように、画像読み取り部1が前方に最大限移動した状態では、その画像読み取り部1の重心は、その突出部の範囲に存在するような構成となっている。従って、図2は、画像読み取り部1が、画像形成部2の前縁の位置(ローラ4がガイドレール3内の係止突起5に当接する位置)に来て、なおかつ、水平状態を保った形で描かれているが、その状態で画像読み取り部1から手を離すと、その画像読み取り部1の重心が画像形成部2の前縁から突出した部分にあるので、画像読み取り部1の先端側が下方に向かって回転し、図3に示すように、画像読み取り部1は、その底面の前後方向中間あたりが画像形成部2の左支柱手前側の傾斜部に当接して、最大に傾斜した形で停止した状態になる。
【0029】
そうすると、姿勢の低い車椅子の搭乗者にとっても、画像読み取り部1の原稿載置面がはっきりと見えるので、その載置面に原稿を正確にセットすることができる。
【0030】
その際、この実施形態では、一般に普及している画像形成装置の画像読み取り部1の原稿載置面(ガラス面)に設けられる原稿位置決め用のガイド板の内、画像読み取り部1の前縁側のものを通常のものより厚みのあるものにして、それに、原稿の落下を阻止するための係止部材の役割を兼用させるようにしている。
【0031】
なお、本発明の画像形成装置では、先ほど述べたように、図1(b)に二点鎖線で示すがごとく、原点位置からさらに後方へ移動することも可能となっている。この後方へ移動した場合も、その限界位置には、画像形成部2のガイドレール3の端部に係止突起6が設けてあり、画像読み取り部1のローラ4が、その係止突起6で係止されて、画像読み取り部1がそれ以上後方へは移動できないようになっている。
【0032】
この画像読み取り部1が原点位置から後方へ移動する、という構成は、車椅子の利用者向けというよりも、通常の利用者が画像読み取り部1と画像形成部2との間に設けられた用紙の排紙部2aに排出されてくる印刷用紙が確認しやすいようにするためのものである。なぜなら、車椅子の搭乗者は姿勢が低いので、この排紙部2aの排紙の確認には、むしろ健常者よりは都合がよいからである。
【0033】
また、この実施形態の構成に加えて、図3(b)に二点鎖線で示したように、画像読み取り部1に併設されている操作部7を、画像読み取り部1のスライド方向、すなわち、装置の前後方向に垂直な水平軸の回りに回転可能、かつ、その回転範囲の任意の位置で静止できる構成にし、車椅子の搭乗者が操作部を回転させて、操作面を正面に見据えることのできる角度に調整可能とする構成を採ることもできる。
【0034】
そのような機構の具体的構成としては、画像読み取り部1とは別体となった板状の操作部7を、画像読み取り部1の前縁に水平回転軸8で連結し、その水平回転軸8の回りに回転可能、かつ、その水平回転軸8にトルクリミッタを介在させ、その操作部7の回転が回転範囲の任意の位置で静止可能となったものとすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0035】
この発明は、画像読み取り部と、読み取った画像を現像する画像形成部とを備え、その画像形成部の上面に前記画像読み取り部が配設され、その画像読み取り部の前方に、画像形成部への操作信号入力を行う操作部が併設された画像形成装置一般に広く適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】は、実施形態の画像形成装置の画像読み取り部が原点位置にある状態を(a)に斜視図で示し、(b)に側面図で示し、(c)に画像読み取り部のスライド機構を示すものとして、(b)の線A−Aによる断面を採ったものである。
【図2】は、実施形態の画像形成装置の画像読み取り部が前方へ最大に移動した状態を(a)に斜視図で示し、(b)に側面図で示したものである。
【図3】は、実施形態の画像形成装置の画像読み取り部が前方へ最大移動し、かつ、画像形成部の前縁から突出した部分が下に傾いて自重で自立した状態を(a)に斜視図で示し、(b)に側面図で示したものである。
【符号の説明】
【0037】
1 画像読み取り部
2 画像形成部
3 ガイドレール
4 ローラ
5、6 係止突起
7 操作部
8 水平回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原稿から画像情報を読み取り、その画像情報を画像信号に変換する画像読み取り部と、読み取った画像を現像する画像形成部とを備え、その画像形成部の上面に前記画像読み取り部が配設され、その画像読み取り部の前方に、画像形成部への操作信号入力を行う操作部が併設された画像形成装置において、
前記画像読み取り部が、その原点状態から前記画像形成部の上面を前後方向にスライド可能、かつ、その前後方向の重心より後方に、前後方向に垂直な水平軸を有するとともに、画像形成部上面の前縁には、画像読み取り部が前方へ移動してきた際に、その水平軸を係止する係止構造が設けられており、画像読み取り部は、水平軸が、その係止構造による係止を受けた状態で、重心側の先端が自重により下方に回転して、その重心側が画像形成部に当接して、原稿用紙の載置面が傾斜した形で停止するようになっていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像形成装置において、上記画像読み取り部の原稿用紙の載置面に、その原稿用紙の落下防止のための係止構造が形成されていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載の画像形成装置において、
上記操作部が上記画像読み取り部に対し、水平軸の回りに回転可能となっていることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−311158(P2006−311158A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−130683(P2005−130683)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】