画像形成装置
【課題】加熱した用紙上のトナーから揮発するVOCを装置内に拡散したり、定着装置を直接冷却したり、用紙搬送に支障をきたす空気流を発生させたりすることなく、VOCの高効率な捕集を遂行することが可能なクリーンな画像形成装置を提供する。
【解決手段】プリンタ1の、トナー像定着後の用紙Pを搬送する用紙搬送装置20は、用紙Pと対向する表面に、内部と外部との間で貫通する複数の孔31a、32aを有する多孔質部材である筒状軸部31、ローラ部32が設けられ、それら孔31a、32aを通して、外部の空気を内部に誘導するとともに、回転力によって用紙Pを搬送する回転部材であるVOC捕集搬送ローラ30を備える。これにより、用紙搬送部材としてのVOC捕集搬送ローラ30が有する筒状軸部31及びローラ部32により、定着装置13で加熱した用紙P表面の近接した箇所にて、トナーTから揮発するVOCを吸引することができる。
【解決手段】プリンタ1の、トナー像定着後の用紙Pを搬送する用紙搬送装置20は、用紙Pと対向する表面に、内部と外部との間で貫通する複数の孔31a、32aを有する多孔質部材である筒状軸部31、ローラ部32が設けられ、それら孔31a、32aを通して、外部の空気を内部に誘導するとともに、回転力によって用紙Pを搬送する回転部材であるVOC捕集搬送ローラ30を備える。これにより、用紙搬送部材としてのVOC捕集搬送ローラ30が有する筒状軸部31及びローラ部32により、定着装置13で加熱した用紙P表面の近接した箇所にて、トナーTから揮発するVOCを吸引することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機やプリンタに代表される電子写真方式の画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機やプリンタなどの電子写真方式の画像形成装置には、用紙上に転写された未定着トナー像を定着させる定着装置が備えられている。定着装置は、互いが圧接して定着ニップ部を形成する定着部材及び加圧部材と、これらのうち少なくとも一方の部材を加熱する加熱手段とを備えている。そして、加熱手段で加熱された定着ニップ部に未定着トナー像を担持した用紙を挿通することにより、未定着トナーを加熱、加圧して用紙表面に定着する熱定着方式が広く採用されている。
【0003】
このような熱定着方式が採用された定着装置では、加熱した定着部材及び/または加圧部材の表面が160〜200°Cになるように温度調整されているので、定着装置及びその周辺も同様に高温となる。定着装置が高温になると、ハウジングなどを構成する合成樹脂や、トナーの付着を防止し、用紙の剥離性を高めるために定着部材表面に塗布されたシリコーンオイルや、トナーに含有する樹脂成分も高温にさらされることとなる。その結果、それらの樹脂やオイルから揮発性有機化合物(以下、「VOC」と記すことがある)が揮発する。このVOCは、トナーから揮発する割合が特に高い。そして、揮発したVOCは異臭を発し、不快感を生じさせる原因となり得るので、画像形成装置外部に拡散するのを防止する必要がある。
【0004】
そこで、VOCガスの画像形成装置外部への拡散を防止するため、様々な手法が提案され、その例を特許文献1及び2に見ることができる。特許文献1及び2に記載された画像形成装置は、定着装置周辺に空気流を発生させ、その空気を機外に排出するための吸引ファン及び排気ファンと、VOCを捕集するフィルタとを備えている。
【特許文献1】特開2006−349826号公報(第6頁、図3−4)
【特許文献2】特開2007−264077号公報(第6−7頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2に記載された画像形成装置では、ファンを用いて定着装置周辺に空気流を発生させ、その空気をフィルタの箇所に導くことにより、定着装置周辺で高温にさらされることで用紙から発生するVOCガスを捕集しようとしている。しかしながら、これらの方法では、用紙表面に当たった空気が、そのまま排気ファンの方に流れることなく、他方に進む恐れがある。これにより、用紙から揮発するVOCのいくらかが画像形成装置内部に拡散し、フィルタを通すことなく外部に漏洩する可能性がある。
【0006】
また、これらの方法は、定着装置が直接冷却されることになるので、未定着トナー像を定着させるため所定の温度を維持する必要がある定着装置にとって望ましい方法ではない。定着装置の温度管理が非常に複雑になる恐れがあり、温度ムラが発生する可能性もある。これにより、定着不良といった問題が発生することが懸念される。
【0007】
さらに、これらの方法は、用紙に空気流を当てたり、用紙を空気流の中に通したりするので、用紙搬送に支障をきたす恐れがある。つまり、用紙が斜行したり、用紙の端部が折れ曲がったりする可能性がある。その結果、用紙ジャムが発生し、用紙や用紙搬送路を破損させてしまうことが懸念される。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みなされたものであり、用紙上の未定着トナー像を加熱定着する定着装置を備えた画像形成装置において、加熱した用紙上のトナーから揮発するVOCを装置内に拡散したり、定着装置を直接冷却したり、用紙搬送に支障をきたす空気流を発生させたりすることなく、VOCの高効率な捕集を遂行することが可能な、異臭の発生を防止したクリーンな画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明は、用紙上の未定着トナー像を加熱定着する定着装置と、トナー像定着後の用紙を搬送する用紙搬送装置と、画像形成装置内部の空気を外部に排出する排気装置と、この排気装置によって発生する空気流が通過するダクトと、前記空気に含まれる揮発性有機化合物を捕集するフィルタとを備えた画像形成装置において、前記用紙搬送装置は、用紙と対向する表面に、内部と外部との間で貫通する複数の孔を有する多孔質部材が設けられ、それら孔を通して、外部の空気を内部に誘導するとともに、回転力によって用紙を搬送する回転部材を備えることとした。
【0010】
また、上記構成の画像形成装置において、前記回転部材、前記ダクト、及び前記排気装置は、それら内部が連通するように結合されていることとした。
【0011】
また、上記構成の画像形成装置において、前記フィルタは、前記ダクト内に配置されていることとした。
【0012】
また、上記構成の画像形成装置において、前記回転部材は、用紙との接触表面が凹凸形状であるとともに、その凹部に前記孔を備えることとした。
【0013】
また、上記構成の画像形成装置において、前記回転部材が、ローラで構成されていることとした。
【0014】
また、上記構成の画像形成装置において、前記回転部材が、ベルトで構成されていることとした。
【0015】
また、上記構成の画像形成装置において、前記回転部材は、その表面に、先端が用紙に当接するパドル部を備えることとした。
【発明の効果】
【0016】
本発明の構成によれば、用紙上の未定着トナー像を加熱定着する定着装置と、トナー像定着後の用紙を搬送する用紙搬送装置と、画像形成装置内部の空気を外部に排出する排気装置と、この排気装置によって発生する空気流が通過するダクトと、前記空気に含まれる揮発性有機化合物を捕集するフィルタとを備えた画像形成装置において、前記用紙搬送装置は、用紙と対向する表面に、内部と外部との間で貫通する複数の孔を有する多孔質部材が設けられ、それら孔を通して、外部の空気を内部に誘導するとともに、回転力によって用紙を搬送する回転部材を備えることとしたので、用紙搬送部材としての回転部材が有する多孔質部材により、定着装置で加熱した用紙表面の近接した箇所にて、用紙上のトナーから揮発するVOCを吸引することができる。したがって、この方法では、用紙上のトナーから揮発するVOCが画像形成装置内に拡散したり、定着装置を直接冷却したり、用紙搬送に支障をきたす空気流を発生させたりすることがない。このようにして、用紙上のトナーから揮発するVOCの高効率な捕集を遂行することが可能な、異臭の発生を防止したクリーンな画像形成装置を提供することができる。
【0017】
また、前記回転部材、前記ダクト、及び前記排気装置は、それら内部が連通するように結合されていることとしたので、用紙上のトナーから揮発するVOCを、さらに効果的に吸引することができる。したがって、一層効率よくVOCを捕集することが可能になる。
【0018】
また、前記フィルタは、前記ダクト内に配置されていることとしたので、用紙上のトナーから吸引したVOCがフィルタを通過し易くすることができる。したがって、VOCの捕集効率をさらに向上させることが可能になる。
【0019】
また、前記回転部材は、用紙との接触表面が凹凸形状であるとともに、その凹部に前記孔を備えることとしたので、回転部材表面がトナーに密着するのを防止して、その表面の孔の箇所をできるだけ広い領域でもってトナーの箇所に対応させることができる。その結果、用紙上のトナーから揮発するVOCを、より多く吸引することが可能になる。したがって、VOCの捕集効率をさらに高めることができる。
【0020】
また、前記回転部材が、ローラで構成されていることとしたので、より簡便な構成で、用紙を搬送しつつ用紙上のトナーから揮発するVOCを吸引することが可能である。これにより、VOCの高効率な捕集を遂行することが可能な、低コスト化が図られた画像形成装置を得ることができる。
【0021】
また、前記回転部材が、ベルトで構成されていることとしたので、用紙との接触領域の拡大を図ることが可能になる。これにより、用紙上のトナーから揮発するVOCを、長時間吸引することができる。したがって、VOCの捕集効率をより一層向上させることが可能である。
【0022】
また、前記回転部材は、その表面に、先端が用紙に当接するパドル部を備えることとしたので、回転部材表面の孔の無い箇所がトナーに接触するのを防止する作用を高め、孔の箇所を広範囲の領域でもってトナーの箇所に対応させることができる。その結果、用紙上のトナーから揮発するVOCを、より多く吸引することが可能になる。したがって、VOCの捕集効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図1〜図14に基づき説明する。
【0024】
最初に、本発明の第1の実施形態に係る画像形成装置について、図1〜図3を用いてその構造の概略を説明しつつ、画像出力動作を説明する。図1は画像形成装置の一例であるプリンタの概略構造を示す模型的垂直断面左側面図、図2はトナーからのVOC揮発量の温度依存性を示すグラフ、図3は定着後のトナー温度の時間変化を示すグラフである。図1において右方がプリンタの正面側、左方が背面側である。
【0025】
図1に示すように、プリンタ1の本体2の内部下方には、給紙カセット3が備えられている。給紙カセット3の内部には、用紙Pが積まれて収容されている。給紙カセット3の用紙搬送方向下流部上方には、給紙カセット3用の給紙装置4が配置されている。この給紙装置4により、用紙Pは図1において給紙カセット3の右上方に向けて送り出される。なお、給紙カセット3は、本体2の正面側、すなわち図1において右方に、水平にスライド移動させて引き出し/収納が自在である。
【0026】
プリンタ1の本体2の正面中央部には、図1に示すように、手差し給紙トレイ5が備えられている。手差し給紙トレイ5は、下端に設けられた、横方向に略水平に延びる支軸を中心として、用紙搬送方向に沿う垂直面内で回転可能になっている。手差し給紙トレイ5は、その支軸を中心として上端をプリンタ1の手前側、すなわち図1において右方に開閉自在であり、開放し、展開することにより、その上面に用紙Pなどを載置することが可能な形態になる。
【0027】
手差し給紙トレイ5は、給紙カセット3に入っていないサイズの用紙や、厚紙、OHPシートのように1枚ずつ手で載置して、装置内に送り込みたいものを取り扱いことができる。手差し給紙トレイ5に載置された用紙は、図1において手差し給紙トレイ5の左方に配置された手差し給紙トレイ5用の給紙装置6により、本体2内に向けて送り出される。手差し給紙トレイ5は、使用しないとき、図1に示すように閉鎖状態にされる。
【0028】
給紙カセット3及び手差し給紙トレイ5の用紙搬送方向下流には、給紙用用紙搬送路7、レジストローラ8、画像形成部9、及び転写ローラ10が配置されている。給紙カセット3または手差し給紙トレイ5から送り出された用紙Pは、給紙用用紙搬送路7を通りレジストローラ8の箇所に到達する。レジストローラ8は、用紙Pの斜め送りを矯正しつつ、画像形成部9で形成されるトナー像とのタイミングを計り、用紙Pを転写ローラ10の箇所へと送り出す。
【0029】
外部コンピュータ(図示せず)からの文字や図形、模様などの画像データ信号がプリンタ1に送信され、この画像データに基づき、画像形成部9上方に備えられた光走査装置11にて制御されるレーザ光L(図中一点鎖線)が照射される。これにより、画像形成部9においては、像担持体である感光体ドラム12上に原稿画像の静電潜像が形成され、この静電潜像からトナー像が現像される。トナー像は、前記レジストローラ8によって同期をとって送られてきた用紙Pに、感光体ドラム12と転写ローラ10とが圧接して形成される転写ニップ部にて転写される。
【0030】
画像形成部9及び転写ローラ10の用紙搬送方向下流には、定着装置13が備えられている。転写ローラ10にて未定着トナー像を担持した用紙Pは、定着装置13へと送られ、熱ローラと加圧ローラとによりトナー像が加熱、加圧されて定着される。
【0031】
定着装置13の下流には、トナー像定着後の用紙Pをさらに下流へと搬送する用紙搬送装置20が備えられている。ここで、図2に示すように、トナーから揮発するVOCは、高温になればなるほどその揮発量が多くなり、特に120°C程度から急激に多くなっていることが分かる。さらに、図3に示すように、定着後の用紙上のトナー温度は、約140°Cから約60°Cまで、僅か1秒程度で低下していることが分かる。したがって、できるだけ多くのVOCを捕集すべく、VOC捕集機構の一部を構成する用紙搬送装置20が、図1に示すように、定着装置13のすぐ下流に接近させて配置されている。
【0032】
用紙搬送装置20の下流には、排出用用紙搬送路14、用紙排出口15、及び用紙排出部16が配置されている。定着装置13から排出され、用紙搬送装置20の箇所を通過した用紙Pは、排出用用紙搬送路14を通って上方へ送られ、用紙排出口15から、本体2上面に設けられた用紙排出部16に排出される。
【0033】
続いて、定着装置13下流の用紙搬送装置20について、図1に加えて、図4及び図5を用いてその構造を説明する。図4は用紙搬送装置周辺を示す垂直断面正面図、図5は用紙搬送装置のVOC捕集搬送ローラの部分拡大垂直断面正面図である。なお、図4及び図5における白抜き矢印は、空気の流通経路及び流通方向を示している。
【0034】
用紙搬送装置20は、図1及び図4に示すように、回転部材であるVOC捕集搬送ローラ30、及び搬送ローラ21を備えている。また、プリンタ1は、排気装置である排気ファン17、ダクト18、及びフィルタ19を備えている。
【0035】
VOC捕集搬送ローラ30は、定着装置13下流の用紙搬送路の上側に配置されている。VOC捕集搬送ローラ30は、その下側に配置された搬送ローラ21に圧接して搬送ニップ部を形成し、その回転力によって用紙Pをさらに下流に向かって搬送する。VOC捕集搬送ローラ30及び搬送ローラ21による用紙Pの搬送速度は、定着装置13の搬送速度と同じであって、例えば250mm/sである。そして、VOC捕集搬送ローラ30は、図4及び図5に示すように、多孔質部材としての筒状軸部31及びローラ部32を備えている。
【0036】
筒状軸部31は、例えばアルミニウムといった金属材料で構成され、一端が閉塞された円形断面の筒状をなしている。筒状軸部31の他端は、その内部が、空気が流通すべく連通するようにダクト18に結合されている。筒状軸部31の表面には、その内部と外部との間で径方向に貫通する複数の孔31aが設けられている。そして、筒状軸部31は、用紙搬送方向と直角をなす用紙幅方向に略水平に延びるその軸線を中心として、回転自在にして本体2に支持されている。
【0037】
ローラ部32は、例えば発泡シリコーン、多孔質金属、多孔質セラミックといった材料で構成され、円形断面の筒状をなしている。ローラ部32の内部には、互いに軸線を一致させて、筒状軸部31が挿入されている。また、ローラ部32の、用紙Pと対向する表面には、図5に示すように、筒状軸部31の孔31aと連通する形で、その内部と外部との間で径方向に貫通する複数の孔32aが設けられている。さらに、ローラ部32の、用紙Pとの接触表面は凹凸形状をなし、その凹部32bに孔32aが備えられている。また、VOC捕集搬送ローラ30及び搬送ローラ21の、用紙Pと対向する表面には、定着後のトナーが付着し難い離型層(例えば、フッ素樹脂)が被覆されている。
【0038】
排気ファン17及びダクト18については、排気ファン17、ダクト18、VOC捕集搬送ローラ30の筒状軸部31の順に結合され、それら内部が、空気が流通するように連通している。フィルタ19は、空気に含まれるVOCが捕集可能な、例えば酸化チタンなどの光触媒や活性炭といったものが使用され、ダクト18の内部に配置されている。また、排気ファン17は、プリンタ1内部の空気を外部に排出すべく、定着装置13より上方の箇所であってプリンタ1の側面近傍に設けられている。
【0039】
図4に示す排気ファン17を駆動すると、図5に示すように、用紙P上のトナーTから揮発するVOCが、VOC捕集搬送ローラ30のローラ部32表面の、複数の孔32aから空気とともに吸引される。そして、VOCを含んだ空気は、図4に示すように、筒状軸部31の孔31a及び筒状軸部31の内部、ダクト18の内部を通過して、フィルタ19の箇所に到達する。ここで、フィルタ19は、空気に含まれるVOCを捕集する。その後、VOCが除去されたクリーンな空気が、排気ファン17の箇所からプリンタ1の外部へと排出される。
【0040】
続いて、上記VOC捕集機構を使用して、定着後の用紙上のトナーからVOCを捕集したときの効果について、図6を用いて説明する。図6は、本発明の上記第1の実施形態に係るVOC捕集機構の有無が、プリンタ外部へのVOC排出量に及ぼす影響を示す表である。
【0041】
本発明に係る排気ファン17、ダクト18、フィルタ19、及び用紙搬送装置20を装備したプリンタ1を、SUS製チャンバー(容積1m3、内面電解研磨仕上げ)内に設置し、外気環境を23±2°C、50±5%Rhに設定するとともに、チャンバー内を67L/分で換気を行うように設定した。約1時間換気後、10分間プリント動作を行い、チャンバー内の空気をTENAX(登録商標)捕集管にて100mL/分で連続サンプリングした。プリント停止後も約2時間は、連続してサンプリングした。そして、サンプリングしたTENAX(登録商標)捕集管を加熱脱着装置で脱着し、捕集されたVOCをGC−MS装置にて測定することにより、プリンタ1の外部に排出されるVOCの量を見積もった。
【0042】
また、比較例として、本発明に係る上記VOC捕集機構を装備していないプリンタを使用して、同様の方法でプリンタの外部に排出されるVOCの量を測定した。
【0043】
図6によると、本発明に係る上記VOC捕集機構があるプリンタは、VOC捕集機構がないプリンタと比較して、プリンタ外部へのVOC排出量を約2/3に低減させることができているのが分かる。
【0044】
上記のように、用紙P上の未定着トナー像を加熱定着する定着装置13と、トナー像定着後の用紙Pを搬送する用紙搬送装置20と、プリンタ1の内部の空気を外部に排出する排気装置である排気ファン17と、この排気ファン17によって発生する空気流が通過するダクト18と、前記空気に含まれる揮発性有機化合物(VOC)を捕集するフィルタ19とを備えたプリンタ1において、用紙搬送装置20は、用紙Pと対向する表面に、内部と外部との間で貫通する複数の孔31a、32aを有する多孔質部材(筒状軸部31、ローラ部32)が設けられ、それら孔31a、32aを通して、外部の空気を内部に誘導するとともに、回転力によって用紙Pを搬送する回転部材(VOC捕集搬送ローラ30)を備えているので、用紙搬送部材としての回転部材(VOC捕集搬送ローラ30)が有する多孔質部材(筒状軸部31、ローラ部32)により、定着装置13で加熱した用紙P表面の近接した箇所にて、用紙P上のトナーTから揮発するVOCを吸引することができる。したがって、この方法では、用紙P上のトナーTから揮発するVOCがプリンタ1内に拡散したり、定着装置13を直接冷却したり、用紙搬送に支障をきたす空気流を発生させたりすることがない。このようにして、用紙P上のトナーTから揮発するVOCの高効率な捕集を遂行することが可能な、異臭の発生を防止したクリーンなプリンタ1を提供することができる。
【0045】
また、回転部材であるVOC捕集搬送ローラ30、ダクト18、及び排気ファン17は、それら内部が連通するように結合されているので、用紙P上のトナーTから揮発するVOCを、さらに効果的に吸引することができる。したがって、一層効率よくVOCを捕集することが可能になる。
【0046】
そして、フィルタ19は、ダクト18内に配置されているので、用紙P上のトナーから吸引したVOCがフィルタ19を通過し易くすることができる。したがって、VOCの捕集効率をさらに向上させることが可能になる。
【0047】
さらに、VOC捕集搬送ローラ30は、用紙Pとの接触表面が凹凸形状であるとともに、その凹部32bに孔32aを備えているので、VOC捕集搬送ローラ30表面がトナーTに密着するのを防止して、その表面の孔32aの箇所をできるだけ広い領域でもってトナーTの箇所に対応させることができる。その結果、用紙P上のトナーTから揮発するVOCを、より多く吸引することが可能になる。したがって、VOCの捕集効率をさらに高めることができる。
【0048】
また、用紙搬送装置20の回転部材が、ローラ(VOC捕集搬送ローラ30)で構成されているので、より簡便な構成で、用紙Pを搬送しつつ用紙P上のトナーTから揮発するVOCを吸引することが可能である。これにより、VOCの高効率な捕集を遂行することが可能な、低コスト化が図られたプリンタ1を得ることができる。
【0049】
次に、本発明の第2の実施形態に係る画像形成装置の詳細な構成について、図7〜図9を用いて説明する。図7は画像形成装置であるプリンタの模型的垂直断面左側面図、図8はプリンタの用紙搬送装置周辺を示す垂直断面正面図、図9は用紙搬送装置のVOC捕集搬送ベルトの部分拡大垂直断面正面図である。図8及び図9における白抜き矢印は、空気の流通経路及び流通方向を示している。なお、この実施形態の基本的な構成は、図1〜図6を用いて説明した前記第1の実施形態と同じであるので、第1の実施形態と共通する構成要素には前と同じ符号を付し、説明は省略するものとする。
【0050】
第2の実施形態に係るプリンタ1では、用紙搬送装置20が、図7及び図8に示すように、回転部材としてVOC捕集搬送ベルト40、及び搬送ベルト22を備えている。
【0051】
VOC捕集搬送ベルト40は、定着装置13下流の用紙搬送路の上側に配置されている。VOC捕集搬送ベルト40は、用紙幅方向に略水平に延びる軸線を有する、用紙搬送方向に並べられた2本の支持ローラ41に巻き掛けられた無端状のベルトである。そして、VOC捕集搬送ベルト40は、その下側に配置された、同様に2本の支持ローラ23に巻き掛けられた無端状の搬送ベルト22に圧接して搬送ニップ部を形成し、その回転力によって用紙Pをさらに下流に向かって搬送する。
【0052】
VOC捕集搬送ベルト40は、例えばステンレスといった金属材料で構成されている。そして、VOC捕集搬送ベルト40の、用紙Pと対向する表面には、図8及び図9に示すように、内部と外部との間で貫通する複数の孔40aがエッチング加工によって設けられている。さらに、VOC捕集搬送ベルト40の、用紙Pとの接触表面は凹凸形状をなし、その凹部40bに孔40aが備えられている。また、VOC捕集搬送ベルト40及び搬送ベルト22の、用紙Pと対向する表面には、定着後のトナーが付着し難い離型層(例えば、フッ素樹脂)が被覆されている。
【0053】
VOC捕集搬送ベルト40を支持する2本の支持ローラ41の間には、図7及び図8に示すように、吸気部42が備えられている。吸気部42は、図8に示すように、中空の直方体の箱形状をなし、用紙幅方向の一端の箇所で、その内部が、空気が流通すべく連通するようにダクト18に結合されている。吸気部42の底部は、VOC捕集搬送ベルト40の下方内面に近接し、この箇所に開口部42aを備えている。開口部42aは、その下方に位置する、VOC捕集搬送ベルト40の多数の孔40aに対応する領域をカバーする大きさをなしている。
【0054】
図8に示す排気ファン17を駆動すると、図9に示すように、用紙P上のトナーTから揮発するVOCが、VOC捕集搬送ベルト40の表面の、複数の孔40aから空気とともに吸引される。そして、VOCを含んだ空気は、図8に示すように、吸気部42の開口部42a及び吸気部42の内部、ダクト18の内部を通過して、フィルタ19の箇所に到達する。ここで、フィルタ19は、空気に含まれるVOCを捕集する。その後、VOCが除去されたクリーンな空気が、排気ファン17の箇所からプリンタ1の外部へと排出される。
【0055】
続いて、上記VOC捕集機構を使用して、定着後の用紙上のトナーからVOCを捕集したときの効果について、図10を用いて説明する。図10は、本発明の上記第2の実施形態に係るVOC捕集機構の有無が、プリンタ外部へのVOC排出量に及ぼす影響を示す表である。なお、VOCの測定方法及び比較方法は、前記第1の実施形態と同じである。
【0056】
図10によると、本発明に係る上記VOC捕集機構があるプリンタは、VOC捕集機構がないプリンタと比較して、プリンタ外部へのVOC排出量を約1/2に低減させることができているのが分かる。
【0057】
このようにして、用紙搬送装置20の回転部材が、ベルト(VOC捕集搬送ベルト40)で構成されているので、用紙Pとの接触領域の拡大を図ることが可能になる。これにより、用紙P上のトナーTから揮発するVOCを、長時間吸引することができる。したがって、VOCの捕集効率をより一層向上させることが可能である。
【0058】
次に、本発明の第3の実施形態に係る画像形成装置の詳細な構成について、図11〜図13を用いて説明する。図11は画像形成装置であるプリンタの模型的垂直断面左側面図、図12はプリンタの用紙搬送装置周辺を示す垂直断面正面図、図13は用紙搬送装置のVOC捕集搬送パドルの部分拡大垂直断面左側面図である。図12及び図13における白抜き矢印は、空気の流通経路及び流通方向を示している。なお、この実施形態の基本的な構成は、図1〜図6を用いて説明した前記第1の実施形態と同じであるので、第1の実施形態と共通する構成要素には前と同じ符号を付し、説明は省略するものとする。
【0059】
第3の実施形態に係るプリンタ1では、用紙搬送装置20が、図11及び図12に示すように、回転部材としてVOC捕集搬送パドル50、及び搬送ローラ21を備えている。
【0060】
VOC捕集搬送パドル50は、定着装置13下流の用紙搬送路の上側に配置されている。VOC捕集搬送パドル50は、その下側に配置された搬送ローラ21に圧接して搬送ニップ部を形成し、その回転力によって用紙Pをさらに下流に向かって搬送する。そして、VOC捕集搬送パドル50は、図12及び図13に示すように、多孔質部材としての筒状軸部51と、複数のパドル部52を備えている。
【0061】
筒状軸部51は、例えばアルミニウムといった金属材料で構成され、一端が閉塞された円形断面の筒状をなしている。筒状軸部51の他端は、その内部が、空気が流通すべく連通するようにダクト18に結合されている。筒状軸部51の表面には、その内部と外部との間で径方向に貫通する複数の孔51aが設けられている。そして、筒状軸部51は、用紙搬送方向と直角をなす用紙幅方向に略水平に延びるその軸線を中心として、回転自在にして本体2に支持されている。
【0062】
パドル部52は、筒状軸部51同様、例えばアルミニウムといった金属材料で構成され、筒状軸部51表面から径方向外側に放射状に延びている。用紙幅方向に関して、パドル部52は、搬送ローラ21と略同じ長さで延び、長板形状にして構成されている。また、パドル部52は、筒状軸部51の周方向に所定角度ごとに並べて、複数配置されている。VOC捕集搬送パドル50は、その表面に備えたこれらパドル部52の先端が用紙Pに当接して用紙Pを搬送する。なお、筒状軸部51の複数の孔51aは、これら隣り合うパドル部52の間に設けられている。また、VOC捕集搬送パドル50及び搬送ローラ21の、用紙Pと対向する表面には、定着後のトナーが付着し難い離型層(例えば、フッ素樹脂)が被覆されている。
【0063】
パドル部52の用紙幅方向両端部には、軸線を筒状軸部51の軸線に一致させた円形のフランジ部53が設けられている。フランジ部53は、VOC捕集搬送パドル50の、パドル部52の径方向先端における直径と略同じ直径を有している。これにより、フランジ部53は、隣り合うパドル部52が生む空気流通空間を、パドル部52の用紙幅方向両端の箇所で閉塞している。
【0064】
図12に示す排気ファン17を駆動すると、図13に示すように、用紙P上のトナーTから揮発するVOCが、VOC捕集搬送パドル50表面の、用紙Pに当接する、隣り合うパドル部52の間において、複数の孔51aから空気とともに吸引される。そして、VOCを含んだ空気は、図12に示すように、筒状軸部51の内部、及びダクト18の内部を通過して、フィルタ19の箇所に到達する。ここで、フィルタ19は、空気に含まれるVOCを捕集する。その後、VOCが除去されたクリーンな空気が、排気ファン17の箇所からプリンタ1の外部へと排出される。
【0065】
続いて、上記VOC捕集機構を使用して、定着後の用紙上のトナーからVOCを捕集したときの効果について、図14を用いて説明する。図14は、本発明の上記第3の実施形態に係るVOC捕集機構の有無が、プリンタ外部へのVOC排出量に及ぼす影響を示す表である。なお、VOCの測定方法及び比較方法は、前記第1の実施形態と同じである。
【0066】
図14によると、本発明に係る上記VOC捕集機構があるプリンタは、VOC捕集機構がないプリンタと比較して、プリンタ外部へのVOC排出量を約2/3に低減させることができているのが分かる。
【0067】
このようにして、用紙搬送装置20の回転部材であるVOC捕集搬送パドル50は、その表面に、先端が用紙Pに当接するパドル部52を備えているので、VOC捕集搬送パドル50表面の孔の無い箇所がトナーTに接触するのを防止する作用を高め、孔51aの箇所を広範囲の領域でもってトナーTの箇所に対応させることができる。その結果、用紙P上のトナーTから揮発するVOCを、より多く吸引することが可能になる。したがって、VOCの捕集効率を向上させることができる。
【0068】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。
【0069】
例えば、プリンタ1は、上記実施形態ではブラックトナーのみを使用したモノクロ印刷用の画像形成装置であるが、このような機種に限定されるわけではなく、中間転写ベルトを備え、複数色を重ね合わせて画像形成すること可能なタンデム方式、或いはロータリーラック方式のカラー印刷用画像形成装置であっても構わない。
【0070】
また、排気ファン17は、ダクト18に結合されて内部が連通するように構成されているが、ダクト18と連結されず、プリンタ1内部全体の空気を外部に排出する構成のものであっても構わない。同様に、ダクト18は、VOC捕集搬送ローラ30の筒状軸部31、VOC捕集搬送ベルト40内側の吸気部42、及びVOC捕集搬送パドル50の筒状軸部51に直接連結していない構成であっても構わない。
【0071】
また、フィルタ19は、排気ファン17の空気流通方向下流側に配置しても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、画像形成装置全般において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るプリンタの模型的垂直断面左側面図である。
【図2】トナーからのVOC揮発量の温度依存性を示すグラフである。
【図3】定着後のトナー温度の時間変化を示すグラフである。
【図4】図1のプリンタの用紙搬送装置周辺を示す垂直断面正面図である。
【図5】図4に示す用紙搬送装置のVOC捕集搬送ローラの部分拡大垂直断面正面図である。
【図6】図4に示すVOC捕集機構の有無が、プリンタ外部へのVOC排出量に及ぼす影響を示す表である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係るプリンタの模型的垂直断面左側面図である。
【図8】図7のプリンタの用紙搬送装置周辺を示す垂直断面正面図である。
【図9】図8に示す用紙搬送装置のVOC捕集搬送ベルトの部分拡大垂直断面正面図である。
【図10】図8に示すVOC捕集機構の有無が、プリンタ外部へのVOC排出量に及ぼす影響を示す表である。
【図11】本発明の第3の実施形態に係るプリンタの模型的垂直断面左側面図である。
【図12】図11のプリンタの用紙搬送装置周辺を示す垂直断面正面図である。
【図13】図12に示す用紙搬送装置のVOC捕集搬送パドルの部分拡大垂直断面左側面図である。
【図14】図12に示すVOC捕集機構の有無が、プリンタ外部へのVOC排出量に及ぼす影響を示す表である。
【符号の説明】
【0074】
1 プリンタ(画像形成装置)
2 本体
13 定着装置
17 排気ファン(排気装置)
18 ダクト
19 フィルタ
20 用紙搬送装置
30 VOC捕集搬送ローラ(回転部材)
31 筒状軸部(多孔質部材)
31a 孔
32 ローラ部(多孔質部材)
32a 孔
32b 凹部
40 VOC捕集搬送ベルト(回転部材、多孔質部材)
40a 孔
40b 凹部
50 VOC捕集搬送パドル(回転部材)
51 筒状軸部(多孔質部材)
51a 孔
52 パドル部
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機やプリンタに代表される電子写真方式の画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機やプリンタなどの電子写真方式の画像形成装置には、用紙上に転写された未定着トナー像を定着させる定着装置が備えられている。定着装置は、互いが圧接して定着ニップ部を形成する定着部材及び加圧部材と、これらのうち少なくとも一方の部材を加熱する加熱手段とを備えている。そして、加熱手段で加熱された定着ニップ部に未定着トナー像を担持した用紙を挿通することにより、未定着トナーを加熱、加圧して用紙表面に定着する熱定着方式が広く採用されている。
【0003】
このような熱定着方式が採用された定着装置では、加熱した定着部材及び/または加圧部材の表面が160〜200°Cになるように温度調整されているので、定着装置及びその周辺も同様に高温となる。定着装置が高温になると、ハウジングなどを構成する合成樹脂や、トナーの付着を防止し、用紙の剥離性を高めるために定着部材表面に塗布されたシリコーンオイルや、トナーに含有する樹脂成分も高温にさらされることとなる。その結果、それらの樹脂やオイルから揮発性有機化合物(以下、「VOC」と記すことがある)が揮発する。このVOCは、トナーから揮発する割合が特に高い。そして、揮発したVOCは異臭を発し、不快感を生じさせる原因となり得るので、画像形成装置外部に拡散するのを防止する必要がある。
【0004】
そこで、VOCガスの画像形成装置外部への拡散を防止するため、様々な手法が提案され、その例を特許文献1及び2に見ることができる。特許文献1及び2に記載された画像形成装置は、定着装置周辺に空気流を発生させ、その空気を機外に排出するための吸引ファン及び排気ファンと、VOCを捕集するフィルタとを備えている。
【特許文献1】特開2006−349826号公報(第6頁、図3−4)
【特許文献2】特開2007−264077号公報(第6−7頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2に記載された画像形成装置では、ファンを用いて定着装置周辺に空気流を発生させ、その空気をフィルタの箇所に導くことにより、定着装置周辺で高温にさらされることで用紙から発生するVOCガスを捕集しようとしている。しかしながら、これらの方法では、用紙表面に当たった空気が、そのまま排気ファンの方に流れることなく、他方に進む恐れがある。これにより、用紙から揮発するVOCのいくらかが画像形成装置内部に拡散し、フィルタを通すことなく外部に漏洩する可能性がある。
【0006】
また、これらの方法は、定着装置が直接冷却されることになるので、未定着トナー像を定着させるため所定の温度を維持する必要がある定着装置にとって望ましい方法ではない。定着装置の温度管理が非常に複雑になる恐れがあり、温度ムラが発生する可能性もある。これにより、定着不良といった問題が発生することが懸念される。
【0007】
さらに、これらの方法は、用紙に空気流を当てたり、用紙を空気流の中に通したりするので、用紙搬送に支障をきたす恐れがある。つまり、用紙が斜行したり、用紙の端部が折れ曲がったりする可能性がある。その結果、用紙ジャムが発生し、用紙や用紙搬送路を破損させてしまうことが懸念される。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みなされたものであり、用紙上の未定着トナー像を加熱定着する定着装置を備えた画像形成装置において、加熱した用紙上のトナーから揮発するVOCを装置内に拡散したり、定着装置を直接冷却したり、用紙搬送に支障をきたす空気流を発生させたりすることなく、VOCの高効率な捕集を遂行することが可能な、異臭の発生を防止したクリーンな画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明は、用紙上の未定着トナー像を加熱定着する定着装置と、トナー像定着後の用紙を搬送する用紙搬送装置と、画像形成装置内部の空気を外部に排出する排気装置と、この排気装置によって発生する空気流が通過するダクトと、前記空気に含まれる揮発性有機化合物を捕集するフィルタとを備えた画像形成装置において、前記用紙搬送装置は、用紙と対向する表面に、内部と外部との間で貫通する複数の孔を有する多孔質部材が設けられ、それら孔を通して、外部の空気を内部に誘導するとともに、回転力によって用紙を搬送する回転部材を備えることとした。
【0010】
また、上記構成の画像形成装置において、前記回転部材、前記ダクト、及び前記排気装置は、それら内部が連通するように結合されていることとした。
【0011】
また、上記構成の画像形成装置において、前記フィルタは、前記ダクト内に配置されていることとした。
【0012】
また、上記構成の画像形成装置において、前記回転部材は、用紙との接触表面が凹凸形状であるとともに、その凹部に前記孔を備えることとした。
【0013】
また、上記構成の画像形成装置において、前記回転部材が、ローラで構成されていることとした。
【0014】
また、上記構成の画像形成装置において、前記回転部材が、ベルトで構成されていることとした。
【0015】
また、上記構成の画像形成装置において、前記回転部材は、その表面に、先端が用紙に当接するパドル部を備えることとした。
【発明の効果】
【0016】
本発明の構成によれば、用紙上の未定着トナー像を加熱定着する定着装置と、トナー像定着後の用紙を搬送する用紙搬送装置と、画像形成装置内部の空気を外部に排出する排気装置と、この排気装置によって発生する空気流が通過するダクトと、前記空気に含まれる揮発性有機化合物を捕集するフィルタとを備えた画像形成装置において、前記用紙搬送装置は、用紙と対向する表面に、内部と外部との間で貫通する複数の孔を有する多孔質部材が設けられ、それら孔を通して、外部の空気を内部に誘導するとともに、回転力によって用紙を搬送する回転部材を備えることとしたので、用紙搬送部材としての回転部材が有する多孔質部材により、定着装置で加熱した用紙表面の近接した箇所にて、用紙上のトナーから揮発するVOCを吸引することができる。したがって、この方法では、用紙上のトナーから揮発するVOCが画像形成装置内に拡散したり、定着装置を直接冷却したり、用紙搬送に支障をきたす空気流を発生させたりすることがない。このようにして、用紙上のトナーから揮発するVOCの高効率な捕集を遂行することが可能な、異臭の発生を防止したクリーンな画像形成装置を提供することができる。
【0017】
また、前記回転部材、前記ダクト、及び前記排気装置は、それら内部が連通するように結合されていることとしたので、用紙上のトナーから揮発するVOCを、さらに効果的に吸引することができる。したがって、一層効率よくVOCを捕集することが可能になる。
【0018】
また、前記フィルタは、前記ダクト内に配置されていることとしたので、用紙上のトナーから吸引したVOCがフィルタを通過し易くすることができる。したがって、VOCの捕集効率をさらに向上させることが可能になる。
【0019】
また、前記回転部材は、用紙との接触表面が凹凸形状であるとともに、その凹部に前記孔を備えることとしたので、回転部材表面がトナーに密着するのを防止して、その表面の孔の箇所をできるだけ広い領域でもってトナーの箇所に対応させることができる。その結果、用紙上のトナーから揮発するVOCを、より多く吸引することが可能になる。したがって、VOCの捕集効率をさらに高めることができる。
【0020】
また、前記回転部材が、ローラで構成されていることとしたので、より簡便な構成で、用紙を搬送しつつ用紙上のトナーから揮発するVOCを吸引することが可能である。これにより、VOCの高効率な捕集を遂行することが可能な、低コスト化が図られた画像形成装置を得ることができる。
【0021】
また、前記回転部材が、ベルトで構成されていることとしたので、用紙との接触領域の拡大を図ることが可能になる。これにより、用紙上のトナーから揮発するVOCを、長時間吸引することができる。したがって、VOCの捕集効率をより一層向上させることが可能である。
【0022】
また、前記回転部材は、その表面に、先端が用紙に当接するパドル部を備えることとしたので、回転部材表面の孔の無い箇所がトナーに接触するのを防止する作用を高め、孔の箇所を広範囲の領域でもってトナーの箇所に対応させることができる。その結果、用紙上のトナーから揮発するVOCを、より多く吸引することが可能になる。したがって、VOCの捕集効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図1〜図14に基づき説明する。
【0024】
最初に、本発明の第1の実施形態に係る画像形成装置について、図1〜図3を用いてその構造の概略を説明しつつ、画像出力動作を説明する。図1は画像形成装置の一例であるプリンタの概略構造を示す模型的垂直断面左側面図、図2はトナーからのVOC揮発量の温度依存性を示すグラフ、図3は定着後のトナー温度の時間変化を示すグラフである。図1において右方がプリンタの正面側、左方が背面側である。
【0025】
図1に示すように、プリンタ1の本体2の内部下方には、給紙カセット3が備えられている。給紙カセット3の内部には、用紙Pが積まれて収容されている。給紙カセット3の用紙搬送方向下流部上方には、給紙カセット3用の給紙装置4が配置されている。この給紙装置4により、用紙Pは図1において給紙カセット3の右上方に向けて送り出される。なお、給紙カセット3は、本体2の正面側、すなわち図1において右方に、水平にスライド移動させて引き出し/収納が自在である。
【0026】
プリンタ1の本体2の正面中央部には、図1に示すように、手差し給紙トレイ5が備えられている。手差し給紙トレイ5は、下端に設けられた、横方向に略水平に延びる支軸を中心として、用紙搬送方向に沿う垂直面内で回転可能になっている。手差し給紙トレイ5は、その支軸を中心として上端をプリンタ1の手前側、すなわち図1において右方に開閉自在であり、開放し、展開することにより、その上面に用紙Pなどを載置することが可能な形態になる。
【0027】
手差し給紙トレイ5は、給紙カセット3に入っていないサイズの用紙や、厚紙、OHPシートのように1枚ずつ手で載置して、装置内に送り込みたいものを取り扱いことができる。手差し給紙トレイ5に載置された用紙は、図1において手差し給紙トレイ5の左方に配置された手差し給紙トレイ5用の給紙装置6により、本体2内に向けて送り出される。手差し給紙トレイ5は、使用しないとき、図1に示すように閉鎖状態にされる。
【0028】
給紙カセット3及び手差し給紙トレイ5の用紙搬送方向下流には、給紙用用紙搬送路7、レジストローラ8、画像形成部9、及び転写ローラ10が配置されている。給紙カセット3または手差し給紙トレイ5から送り出された用紙Pは、給紙用用紙搬送路7を通りレジストローラ8の箇所に到達する。レジストローラ8は、用紙Pの斜め送りを矯正しつつ、画像形成部9で形成されるトナー像とのタイミングを計り、用紙Pを転写ローラ10の箇所へと送り出す。
【0029】
外部コンピュータ(図示せず)からの文字や図形、模様などの画像データ信号がプリンタ1に送信され、この画像データに基づき、画像形成部9上方に備えられた光走査装置11にて制御されるレーザ光L(図中一点鎖線)が照射される。これにより、画像形成部9においては、像担持体である感光体ドラム12上に原稿画像の静電潜像が形成され、この静電潜像からトナー像が現像される。トナー像は、前記レジストローラ8によって同期をとって送られてきた用紙Pに、感光体ドラム12と転写ローラ10とが圧接して形成される転写ニップ部にて転写される。
【0030】
画像形成部9及び転写ローラ10の用紙搬送方向下流には、定着装置13が備えられている。転写ローラ10にて未定着トナー像を担持した用紙Pは、定着装置13へと送られ、熱ローラと加圧ローラとによりトナー像が加熱、加圧されて定着される。
【0031】
定着装置13の下流には、トナー像定着後の用紙Pをさらに下流へと搬送する用紙搬送装置20が備えられている。ここで、図2に示すように、トナーから揮発するVOCは、高温になればなるほどその揮発量が多くなり、特に120°C程度から急激に多くなっていることが分かる。さらに、図3に示すように、定着後の用紙上のトナー温度は、約140°Cから約60°Cまで、僅か1秒程度で低下していることが分かる。したがって、できるだけ多くのVOCを捕集すべく、VOC捕集機構の一部を構成する用紙搬送装置20が、図1に示すように、定着装置13のすぐ下流に接近させて配置されている。
【0032】
用紙搬送装置20の下流には、排出用用紙搬送路14、用紙排出口15、及び用紙排出部16が配置されている。定着装置13から排出され、用紙搬送装置20の箇所を通過した用紙Pは、排出用用紙搬送路14を通って上方へ送られ、用紙排出口15から、本体2上面に設けられた用紙排出部16に排出される。
【0033】
続いて、定着装置13下流の用紙搬送装置20について、図1に加えて、図4及び図5を用いてその構造を説明する。図4は用紙搬送装置周辺を示す垂直断面正面図、図5は用紙搬送装置のVOC捕集搬送ローラの部分拡大垂直断面正面図である。なお、図4及び図5における白抜き矢印は、空気の流通経路及び流通方向を示している。
【0034】
用紙搬送装置20は、図1及び図4に示すように、回転部材であるVOC捕集搬送ローラ30、及び搬送ローラ21を備えている。また、プリンタ1は、排気装置である排気ファン17、ダクト18、及びフィルタ19を備えている。
【0035】
VOC捕集搬送ローラ30は、定着装置13下流の用紙搬送路の上側に配置されている。VOC捕集搬送ローラ30は、その下側に配置された搬送ローラ21に圧接して搬送ニップ部を形成し、その回転力によって用紙Pをさらに下流に向かって搬送する。VOC捕集搬送ローラ30及び搬送ローラ21による用紙Pの搬送速度は、定着装置13の搬送速度と同じであって、例えば250mm/sである。そして、VOC捕集搬送ローラ30は、図4及び図5に示すように、多孔質部材としての筒状軸部31及びローラ部32を備えている。
【0036】
筒状軸部31は、例えばアルミニウムといった金属材料で構成され、一端が閉塞された円形断面の筒状をなしている。筒状軸部31の他端は、その内部が、空気が流通すべく連通するようにダクト18に結合されている。筒状軸部31の表面には、その内部と外部との間で径方向に貫通する複数の孔31aが設けられている。そして、筒状軸部31は、用紙搬送方向と直角をなす用紙幅方向に略水平に延びるその軸線を中心として、回転自在にして本体2に支持されている。
【0037】
ローラ部32は、例えば発泡シリコーン、多孔質金属、多孔質セラミックといった材料で構成され、円形断面の筒状をなしている。ローラ部32の内部には、互いに軸線を一致させて、筒状軸部31が挿入されている。また、ローラ部32の、用紙Pと対向する表面には、図5に示すように、筒状軸部31の孔31aと連通する形で、その内部と外部との間で径方向に貫通する複数の孔32aが設けられている。さらに、ローラ部32の、用紙Pとの接触表面は凹凸形状をなし、その凹部32bに孔32aが備えられている。また、VOC捕集搬送ローラ30及び搬送ローラ21の、用紙Pと対向する表面には、定着後のトナーが付着し難い離型層(例えば、フッ素樹脂)が被覆されている。
【0038】
排気ファン17及びダクト18については、排気ファン17、ダクト18、VOC捕集搬送ローラ30の筒状軸部31の順に結合され、それら内部が、空気が流通するように連通している。フィルタ19は、空気に含まれるVOCが捕集可能な、例えば酸化チタンなどの光触媒や活性炭といったものが使用され、ダクト18の内部に配置されている。また、排気ファン17は、プリンタ1内部の空気を外部に排出すべく、定着装置13より上方の箇所であってプリンタ1の側面近傍に設けられている。
【0039】
図4に示す排気ファン17を駆動すると、図5に示すように、用紙P上のトナーTから揮発するVOCが、VOC捕集搬送ローラ30のローラ部32表面の、複数の孔32aから空気とともに吸引される。そして、VOCを含んだ空気は、図4に示すように、筒状軸部31の孔31a及び筒状軸部31の内部、ダクト18の内部を通過して、フィルタ19の箇所に到達する。ここで、フィルタ19は、空気に含まれるVOCを捕集する。その後、VOCが除去されたクリーンな空気が、排気ファン17の箇所からプリンタ1の外部へと排出される。
【0040】
続いて、上記VOC捕集機構を使用して、定着後の用紙上のトナーからVOCを捕集したときの効果について、図6を用いて説明する。図6は、本発明の上記第1の実施形態に係るVOC捕集機構の有無が、プリンタ外部へのVOC排出量に及ぼす影響を示す表である。
【0041】
本発明に係る排気ファン17、ダクト18、フィルタ19、及び用紙搬送装置20を装備したプリンタ1を、SUS製チャンバー(容積1m3、内面電解研磨仕上げ)内に設置し、外気環境を23±2°C、50±5%Rhに設定するとともに、チャンバー内を67L/分で換気を行うように設定した。約1時間換気後、10分間プリント動作を行い、チャンバー内の空気をTENAX(登録商標)捕集管にて100mL/分で連続サンプリングした。プリント停止後も約2時間は、連続してサンプリングした。そして、サンプリングしたTENAX(登録商標)捕集管を加熱脱着装置で脱着し、捕集されたVOCをGC−MS装置にて測定することにより、プリンタ1の外部に排出されるVOCの量を見積もった。
【0042】
また、比較例として、本発明に係る上記VOC捕集機構を装備していないプリンタを使用して、同様の方法でプリンタの外部に排出されるVOCの量を測定した。
【0043】
図6によると、本発明に係る上記VOC捕集機構があるプリンタは、VOC捕集機構がないプリンタと比較して、プリンタ外部へのVOC排出量を約2/3に低減させることができているのが分かる。
【0044】
上記のように、用紙P上の未定着トナー像を加熱定着する定着装置13と、トナー像定着後の用紙Pを搬送する用紙搬送装置20と、プリンタ1の内部の空気を外部に排出する排気装置である排気ファン17と、この排気ファン17によって発生する空気流が通過するダクト18と、前記空気に含まれる揮発性有機化合物(VOC)を捕集するフィルタ19とを備えたプリンタ1において、用紙搬送装置20は、用紙Pと対向する表面に、内部と外部との間で貫通する複数の孔31a、32aを有する多孔質部材(筒状軸部31、ローラ部32)が設けられ、それら孔31a、32aを通して、外部の空気を内部に誘導するとともに、回転力によって用紙Pを搬送する回転部材(VOC捕集搬送ローラ30)を備えているので、用紙搬送部材としての回転部材(VOC捕集搬送ローラ30)が有する多孔質部材(筒状軸部31、ローラ部32)により、定着装置13で加熱した用紙P表面の近接した箇所にて、用紙P上のトナーTから揮発するVOCを吸引することができる。したがって、この方法では、用紙P上のトナーTから揮発するVOCがプリンタ1内に拡散したり、定着装置13を直接冷却したり、用紙搬送に支障をきたす空気流を発生させたりすることがない。このようにして、用紙P上のトナーTから揮発するVOCの高効率な捕集を遂行することが可能な、異臭の発生を防止したクリーンなプリンタ1を提供することができる。
【0045】
また、回転部材であるVOC捕集搬送ローラ30、ダクト18、及び排気ファン17は、それら内部が連通するように結合されているので、用紙P上のトナーTから揮発するVOCを、さらに効果的に吸引することができる。したがって、一層効率よくVOCを捕集することが可能になる。
【0046】
そして、フィルタ19は、ダクト18内に配置されているので、用紙P上のトナーから吸引したVOCがフィルタ19を通過し易くすることができる。したがって、VOCの捕集効率をさらに向上させることが可能になる。
【0047】
さらに、VOC捕集搬送ローラ30は、用紙Pとの接触表面が凹凸形状であるとともに、その凹部32bに孔32aを備えているので、VOC捕集搬送ローラ30表面がトナーTに密着するのを防止して、その表面の孔32aの箇所をできるだけ広い領域でもってトナーTの箇所に対応させることができる。その結果、用紙P上のトナーTから揮発するVOCを、より多く吸引することが可能になる。したがって、VOCの捕集効率をさらに高めることができる。
【0048】
また、用紙搬送装置20の回転部材が、ローラ(VOC捕集搬送ローラ30)で構成されているので、より簡便な構成で、用紙Pを搬送しつつ用紙P上のトナーTから揮発するVOCを吸引することが可能である。これにより、VOCの高効率な捕集を遂行することが可能な、低コスト化が図られたプリンタ1を得ることができる。
【0049】
次に、本発明の第2の実施形態に係る画像形成装置の詳細な構成について、図7〜図9を用いて説明する。図7は画像形成装置であるプリンタの模型的垂直断面左側面図、図8はプリンタの用紙搬送装置周辺を示す垂直断面正面図、図9は用紙搬送装置のVOC捕集搬送ベルトの部分拡大垂直断面正面図である。図8及び図9における白抜き矢印は、空気の流通経路及び流通方向を示している。なお、この実施形態の基本的な構成は、図1〜図6を用いて説明した前記第1の実施形態と同じであるので、第1の実施形態と共通する構成要素には前と同じ符号を付し、説明は省略するものとする。
【0050】
第2の実施形態に係るプリンタ1では、用紙搬送装置20が、図7及び図8に示すように、回転部材としてVOC捕集搬送ベルト40、及び搬送ベルト22を備えている。
【0051】
VOC捕集搬送ベルト40は、定着装置13下流の用紙搬送路の上側に配置されている。VOC捕集搬送ベルト40は、用紙幅方向に略水平に延びる軸線を有する、用紙搬送方向に並べられた2本の支持ローラ41に巻き掛けられた無端状のベルトである。そして、VOC捕集搬送ベルト40は、その下側に配置された、同様に2本の支持ローラ23に巻き掛けられた無端状の搬送ベルト22に圧接して搬送ニップ部を形成し、その回転力によって用紙Pをさらに下流に向かって搬送する。
【0052】
VOC捕集搬送ベルト40は、例えばステンレスといった金属材料で構成されている。そして、VOC捕集搬送ベルト40の、用紙Pと対向する表面には、図8及び図9に示すように、内部と外部との間で貫通する複数の孔40aがエッチング加工によって設けられている。さらに、VOC捕集搬送ベルト40の、用紙Pとの接触表面は凹凸形状をなし、その凹部40bに孔40aが備えられている。また、VOC捕集搬送ベルト40及び搬送ベルト22の、用紙Pと対向する表面には、定着後のトナーが付着し難い離型層(例えば、フッ素樹脂)が被覆されている。
【0053】
VOC捕集搬送ベルト40を支持する2本の支持ローラ41の間には、図7及び図8に示すように、吸気部42が備えられている。吸気部42は、図8に示すように、中空の直方体の箱形状をなし、用紙幅方向の一端の箇所で、その内部が、空気が流通すべく連通するようにダクト18に結合されている。吸気部42の底部は、VOC捕集搬送ベルト40の下方内面に近接し、この箇所に開口部42aを備えている。開口部42aは、その下方に位置する、VOC捕集搬送ベルト40の多数の孔40aに対応する領域をカバーする大きさをなしている。
【0054】
図8に示す排気ファン17を駆動すると、図9に示すように、用紙P上のトナーTから揮発するVOCが、VOC捕集搬送ベルト40の表面の、複数の孔40aから空気とともに吸引される。そして、VOCを含んだ空気は、図8に示すように、吸気部42の開口部42a及び吸気部42の内部、ダクト18の内部を通過して、フィルタ19の箇所に到達する。ここで、フィルタ19は、空気に含まれるVOCを捕集する。その後、VOCが除去されたクリーンな空気が、排気ファン17の箇所からプリンタ1の外部へと排出される。
【0055】
続いて、上記VOC捕集機構を使用して、定着後の用紙上のトナーからVOCを捕集したときの効果について、図10を用いて説明する。図10は、本発明の上記第2の実施形態に係るVOC捕集機構の有無が、プリンタ外部へのVOC排出量に及ぼす影響を示す表である。なお、VOCの測定方法及び比較方法は、前記第1の実施形態と同じである。
【0056】
図10によると、本発明に係る上記VOC捕集機構があるプリンタは、VOC捕集機構がないプリンタと比較して、プリンタ外部へのVOC排出量を約1/2に低減させることができているのが分かる。
【0057】
このようにして、用紙搬送装置20の回転部材が、ベルト(VOC捕集搬送ベルト40)で構成されているので、用紙Pとの接触領域の拡大を図ることが可能になる。これにより、用紙P上のトナーTから揮発するVOCを、長時間吸引することができる。したがって、VOCの捕集効率をより一層向上させることが可能である。
【0058】
次に、本発明の第3の実施形態に係る画像形成装置の詳細な構成について、図11〜図13を用いて説明する。図11は画像形成装置であるプリンタの模型的垂直断面左側面図、図12はプリンタの用紙搬送装置周辺を示す垂直断面正面図、図13は用紙搬送装置のVOC捕集搬送パドルの部分拡大垂直断面左側面図である。図12及び図13における白抜き矢印は、空気の流通経路及び流通方向を示している。なお、この実施形態の基本的な構成は、図1〜図6を用いて説明した前記第1の実施形態と同じであるので、第1の実施形態と共通する構成要素には前と同じ符号を付し、説明は省略するものとする。
【0059】
第3の実施形態に係るプリンタ1では、用紙搬送装置20が、図11及び図12に示すように、回転部材としてVOC捕集搬送パドル50、及び搬送ローラ21を備えている。
【0060】
VOC捕集搬送パドル50は、定着装置13下流の用紙搬送路の上側に配置されている。VOC捕集搬送パドル50は、その下側に配置された搬送ローラ21に圧接して搬送ニップ部を形成し、その回転力によって用紙Pをさらに下流に向かって搬送する。そして、VOC捕集搬送パドル50は、図12及び図13に示すように、多孔質部材としての筒状軸部51と、複数のパドル部52を備えている。
【0061】
筒状軸部51は、例えばアルミニウムといった金属材料で構成され、一端が閉塞された円形断面の筒状をなしている。筒状軸部51の他端は、その内部が、空気が流通すべく連通するようにダクト18に結合されている。筒状軸部51の表面には、その内部と外部との間で径方向に貫通する複数の孔51aが設けられている。そして、筒状軸部51は、用紙搬送方向と直角をなす用紙幅方向に略水平に延びるその軸線を中心として、回転自在にして本体2に支持されている。
【0062】
パドル部52は、筒状軸部51同様、例えばアルミニウムといった金属材料で構成され、筒状軸部51表面から径方向外側に放射状に延びている。用紙幅方向に関して、パドル部52は、搬送ローラ21と略同じ長さで延び、長板形状にして構成されている。また、パドル部52は、筒状軸部51の周方向に所定角度ごとに並べて、複数配置されている。VOC捕集搬送パドル50は、その表面に備えたこれらパドル部52の先端が用紙Pに当接して用紙Pを搬送する。なお、筒状軸部51の複数の孔51aは、これら隣り合うパドル部52の間に設けられている。また、VOC捕集搬送パドル50及び搬送ローラ21の、用紙Pと対向する表面には、定着後のトナーが付着し難い離型層(例えば、フッ素樹脂)が被覆されている。
【0063】
パドル部52の用紙幅方向両端部には、軸線を筒状軸部51の軸線に一致させた円形のフランジ部53が設けられている。フランジ部53は、VOC捕集搬送パドル50の、パドル部52の径方向先端における直径と略同じ直径を有している。これにより、フランジ部53は、隣り合うパドル部52が生む空気流通空間を、パドル部52の用紙幅方向両端の箇所で閉塞している。
【0064】
図12に示す排気ファン17を駆動すると、図13に示すように、用紙P上のトナーTから揮発するVOCが、VOC捕集搬送パドル50表面の、用紙Pに当接する、隣り合うパドル部52の間において、複数の孔51aから空気とともに吸引される。そして、VOCを含んだ空気は、図12に示すように、筒状軸部51の内部、及びダクト18の内部を通過して、フィルタ19の箇所に到達する。ここで、フィルタ19は、空気に含まれるVOCを捕集する。その後、VOCが除去されたクリーンな空気が、排気ファン17の箇所からプリンタ1の外部へと排出される。
【0065】
続いて、上記VOC捕集機構を使用して、定着後の用紙上のトナーからVOCを捕集したときの効果について、図14を用いて説明する。図14は、本発明の上記第3の実施形態に係るVOC捕集機構の有無が、プリンタ外部へのVOC排出量に及ぼす影響を示す表である。なお、VOCの測定方法及び比較方法は、前記第1の実施形態と同じである。
【0066】
図14によると、本発明に係る上記VOC捕集機構があるプリンタは、VOC捕集機構がないプリンタと比較して、プリンタ外部へのVOC排出量を約2/3に低減させることができているのが分かる。
【0067】
このようにして、用紙搬送装置20の回転部材であるVOC捕集搬送パドル50は、その表面に、先端が用紙Pに当接するパドル部52を備えているので、VOC捕集搬送パドル50表面の孔の無い箇所がトナーTに接触するのを防止する作用を高め、孔51aの箇所を広範囲の領域でもってトナーTの箇所に対応させることができる。その結果、用紙P上のトナーTから揮発するVOCを、より多く吸引することが可能になる。したがって、VOCの捕集効率を向上させることができる。
【0068】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。
【0069】
例えば、プリンタ1は、上記実施形態ではブラックトナーのみを使用したモノクロ印刷用の画像形成装置であるが、このような機種に限定されるわけではなく、中間転写ベルトを備え、複数色を重ね合わせて画像形成すること可能なタンデム方式、或いはロータリーラック方式のカラー印刷用画像形成装置であっても構わない。
【0070】
また、排気ファン17は、ダクト18に結合されて内部が連通するように構成されているが、ダクト18と連結されず、プリンタ1内部全体の空気を外部に排出する構成のものであっても構わない。同様に、ダクト18は、VOC捕集搬送ローラ30の筒状軸部31、VOC捕集搬送ベルト40内側の吸気部42、及びVOC捕集搬送パドル50の筒状軸部51に直接連結していない構成であっても構わない。
【0071】
また、フィルタ19は、排気ファン17の空気流通方向下流側に配置しても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、画像形成装置全般において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るプリンタの模型的垂直断面左側面図である。
【図2】トナーからのVOC揮発量の温度依存性を示すグラフである。
【図3】定着後のトナー温度の時間変化を示すグラフである。
【図4】図1のプリンタの用紙搬送装置周辺を示す垂直断面正面図である。
【図5】図4に示す用紙搬送装置のVOC捕集搬送ローラの部分拡大垂直断面正面図である。
【図6】図4に示すVOC捕集機構の有無が、プリンタ外部へのVOC排出量に及ぼす影響を示す表である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係るプリンタの模型的垂直断面左側面図である。
【図8】図7のプリンタの用紙搬送装置周辺を示す垂直断面正面図である。
【図9】図8に示す用紙搬送装置のVOC捕集搬送ベルトの部分拡大垂直断面正面図である。
【図10】図8に示すVOC捕集機構の有無が、プリンタ外部へのVOC排出量に及ぼす影響を示す表である。
【図11】本発明の第3の実施形態に係るプリンタの模型的垂直断面左側面図である。
【図12】図11のプリンタの用紙搬送装置周辺を示す垂直断面正面図である。
【図13】図12に示す用紙搬送装置のVOC捕集搬送パドルの部分拡大垂直断面左側面図である。
【図14】図12に示すVOC捕集機構の有無が、プリンタ外部へのVOC排出量に及ぼす影響を示す表である。
【符号の説明】
【0074】
1 プリンタ(画像形成装置)
2 本体
13 定着装置
17 排気ファン(排気装置)
18 ダクト
19 フィルタ
20 用紙搬送装置
30 VOC捕集搬送ローラ(回転部材)
31 筒状軸部(多孔質部材)
31a 孔
32 ローラ部(多孔質部材)
32a 孔
32b 凹部
40 VOC捕集搬送ベルト(回転部材、多孔質部材)
40a 孔
40b 凹部
50 VOC捕集搬送パドル(回転部材)
51 筒状軸部(多孔質部材)
51a 孔
52 パドル部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
用紙上の未定着トナー像を加熱定着する定着装置と、トナー像定着後の用紙を搬送する用紙搬送装置と、画像形成装置内部の空気を外部に排出する排気装置と、この排気装置によって発生する空気流が通過するダクトと、前記空気に含まれる揮発性有機化合物を捕集するフィルタとを備えた画像形成装置において、
前記用紙搬送装置は、用紙と対向する表面に、内部と外部との間で貫通する複数の孔を有する多孔質部材が設けられ、それら孔を通して、外部の空気を内部に誘導するとともに、回転力によって用紙を搬送する回転部材を備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記回転部材、前記ダクト、及び前記排気装置は、それら内部が連通するように結合されていることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記フィルタは、前記ダクト内に配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記回転部材は、用紙との接触表面が凹凸形状であるとともに、その凹部に前記孔を備えることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記回転部材が、ローラで構成されていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記回転部材が、ベルトで構成されていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記回転部材は、その表面に、先端が用紙に当接するパドル部を備えることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項1】
用紙上の未定着トナー像を加熱定着する定着装置と、トナー像定着後の用紙を搬送する用紙搬送装置と、画像形成装置内部の空気を外部に排出する排気装置と、この排気装置によって発生する空気流が通過するダクトと、前記空気に含まれる揮発性有機化合物を捕集するフィルタとを備えた画像形成装置において、
前記用紙搬送装置は、用紙と対向する表面に、内部と外部との間で貫通する複数の孔を有する多孔質部材が設けられ、それら孔を通して、外部の空気を内部に誘導するとともに、回転力によって用紙を搬送する回転部材を備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記回転部材、前記ダクト、及び前記排気装置は、それら内部が連通するように結合されていることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記フィルタは、前記ダクト内に配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記回転部材は、用紙との接触表面が凹凸形状であるとともに、その凹部に前記孔を備えることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記回転部材が、ローラで構成されていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記回転部材が、ベルトで構成されていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記回転部材は、その表面に、先端が用紙に当接するパドル部を備えることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−117420(P2010−117420A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−288721(P2008−288721)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】
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