画像形成装置
【課題】ホッピング直接記録方式の画像形成装置において、画像濃度ムラを従来よりも抑える。
【解決手段】トナー担持スリーブ31Yの湾曲表面と回路基板10Yとの間の空間内であって、且つ回路基板10Yにおける貫通孔14Yと同湾曲表面との距離が比較的大きくなっている領域に、スリーブ上の記浮遊トナー層の厚みをより大きくするための増厚電極13Yを設けるとともに、増厚電極13Yに増厚用電圧を印加して同浮遊トナー層における増厚電極対向箇所の厚みを増厚せしめる増厚電源92Yを設けた。増厚電圧としては、ホッピング用周期パルス電圧の単位時間あたりの平均電位よりもトナーの帯電極性とは反対極性側に大きな値であり、且つ記録オン電圧よりもトナーの帯電極性側に大きな値の直流電圧からなるものを採用した。
【解決手段】トナー担持スリーブ31Yの湾曲表面と回路基板10Yとの間の空間内であって、且つ回路基板10Yにおける貫通孔14Yと同湾曲表面との距離が比較的大きくなっている領域に、スリーブ上の記浮遊トナー層の厚みをより大きくするための増厚電極13Yを設けるとともに、増厚電極13Yに増厚用電圧を印加して同浮遊トナー層における増厚電極対向箇所の厚みを増厚せしめる増厚電源92Yを設けた。増厚電圧としては、ホッピング用周期パルス電圧の単位時間あたりの平均電位よりもトナーの帯電極性とは反対極性側に大きな値であり、且つ記録オン電圧よりもトナーの帯電極性側に大きな値の直流電圧からなるものを採用した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナー担持体の表面上でホッピングさせたトナーを直接記録方式によって記録部材に付着させて画像を形成する複写機、ファクシミリ、プリンタ等の画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、直接記録方式によって画像を形成する画像形成装置としては、例えば特許文献1に記載のものが知られている。直接記録方式では、潜像を形成してからその潜像にトナーを付着させるという間接的な電子写真プロセスによらずに、次のようなプロセスによってトナー像を形成する。即ち、潜像を形成していない記録体のドット形成領域に対してトナーを選択的に付着させるという直接的なプロセスである。図1は、従来の直接記録方式の画像形成装置における要部構成を示す構成図である。同図において、トナー担持体としてのトナー担持ローラ901は、その回転軸線を図中左右方向に延在させる姿勢で配設され、図示しない駆動手段によって回転駆動せしめられる。表面にトナー粒子Tを担持したトナー担持ローラ901の図中下方には、複数の貫通孔902を具備する回路基板903が配設されている。貫通孔902の周囲には、孔を囲む孔近傍電極としてのリング状の飛翔制御電極904が形成されている。同図では、便宜上、貫通孔902と飛翔制御電極904との組合せ(以下、「孔−電極組」という)を1つしか図示していないが、実際には複数設けている。
【0003】
回路基板903の図中下方には、回路基板903を介してトナー担持ローラ901に対向する対向電極906と、この対向電極6上で図示しない搬送手段によって図紙面に直交する方向に搬送される記録紙907とが配設されている。トナー担持ローラ901は、例えば接地された状態で、マイナス極性のトナー粒子Tを表面に担持する。この状態で、複数の貫通孔902のうち、記録紙907の画像部に対応する位置にある貫通孔902である画像孔を囲んでいる飛翔制御電極904に対し、例えばプラス極性の記録オン電圧を印加したとする。すると、トナー担持ローラ901の表面上において、その飛翔制御電極904と対向する位置にあるトナー粒子Tに、ローラ側から電極側に向かう静電気力が作用する。これにより、トナー粒子Tの集合体がドット状の形状でトナー担持ローラ901から飛翔して貫通孔902内に進入する。そして、飛翔制御電極904と、これよりも高い電位になっている対向電極906との間に形成される電界に引かれて飛翔を続け、貫通孔902を通過して記録紙7の表面に付着する。この付着により、トナー粒子Tの集合体はドットを形成する。
【0004】
このような直接記録方式においては、複数の飛翔制御電極904に対する記録オン電圧の入切を、それぞれ専用のICによって個別に行う必要があり、そのICはかなりの数になる。例えば、600[dpi]の解像度で画像を形成する仕様では、貫通孔902と飛翔制御電極904とからなる「孔−電極組」を4960組設ける必要があるため、前述のICが4960個必要になる。一般に、ICはその耐電圧が高くなるほど高価になるため、直接記録方式では記録オン電圧の値をできるだけ低く抑えることが重要になる。ところが、鏡像力、ファンデルワールス力、液架橋力などによるトナー担持ローラ901とトナー粒子Tとの付着力に打ち勝てる電界を形成するためには、記録オン電圧の値を少なくとも500[V]以上にする必要がある。このことが、低コスト化を図る上での障害になっていた。
【0005】
一方、従来、いわゆるホッピング現像方式によって現像を行う画像形成装置が知られている。ホッピング現像方式では、ローラや磁性キャリアに付着させたトナー粒子を現像に用いるのではなく、トナー担持体の表面上でホッピングさせたトナー粒子を現像に用いる。例えば、特許文献2に記載の画像形成装置は、周方向に所定のピッチで配設された複数のホッピング電極を具備する筒状のトナー担持体を有している。複数のホッピング電極のうち、偶数番目の配列位置にあるものに対しては、互いに同じA相の繰り返しパルス電圧を印加する一方で、奇数番目の配列位置にあるものに対しては、互いに同じB相の繰り返しパルス電圧を印加する。これにより、互いに隣り合う2つのホッピング電極の間に交番電界を形成して、トナー粒子をA相電極とB相電極との間において往復でホッピングさせる。そして、トナー担持体の回転により、ホッピング中のトナー粒子Tを潜像担持体に対向する現像領域に搬送して現像に寄与させる。
【0006】
ホッピング現像方式としては、トナー担持体を回転等によって表面移動させずに、トナー担持体の表面上のトナー粒子を現像領域に搬送する方式も知られている。例えば、特許文献3の画像形成装置では、次のようにしてトナー粒子を現像領域に搬送している。即ち、この画像形成装置では、A相電極、B相電極、C相電極という順で並ぶ3相の電極からなる電極組を、トナー担持体に複数並べて配設している。そして、トナー担持体の表面上において、A相電極上からB相電極上へ、B相電極上からC相電極上へ、C相電極上からA相電極上へ、という順でトナー粒子を繰り返しホッピングさせていく。このホッピングにより、平板状のトナー担持体の一端側から他端側の現像領域に向けてトナー粒子を搬送している。
【0007】
何れのホッピング現像方式においても、トナー担持体の表面上でトナー粒子をホッピングさせることで、トナー担持体とトナー粒子との付着力を無くすことが可能である。この原理を、図1に示した直接記録方式の構成に応用すれば、記録オン電圧の値を大幅に低減することが可能である。トナー粒子Tにおけるトナー担持ローラ901表面との付着力をホッピングによって無くすことで、トナー粒子Tを回路基板903の貫通孔902に通すための電界として、付着力に打ち勝つほど強いものを形成する必要がなくなるからである。このように、トナー担持体の表面上でホッピングさせたトナーを貫通孔に通す直接記録方式(以下、ホッピング直接記録方式という)を利用する画像形成装置としては、特許文献4に記載のものが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、ホッピング直接記録方式においては、次に説明する理由により、画像濃度ムラを引き起こし易いという不具合があった。即ち、図2は、ホッピング直接記録方式の画像形成装置における要部構成を示す構成図である。同図において、トナー担持ローラ901の表面上には、ホッピングしたトナーによる浮遊トナー層Ltが形成されている。この浮遊トナー層Ltの厚みはローラ全周に渡ってほぼ均一であり、浮遊トナー層Ltはローラ湾曲面に沿って湾曲した形状をなしている。これに対し、板状の回路基板903の表面は平面であるので、回路基板903に形成された複数の貫通孔902は、互いに浮遊トナー層Ltとの距離である層〜孔間距離が異なっている。すると、層〜孔間距離が比較的小さくなっている貫通孔902よりも、比較的大きくなっている貫通孔902の方が、トナー通過量を減少させてドットの画像濃度を低くする。図示の例では、4つの貫通孔902のうち、両端の2つの貫通孔が、中央寄りの2つの貫通孔に比べてそれぞれトナー通過量を減少させてドットの画像濃度を低くするのである。このことが、画像濃度ムラを引き起こす原因になっていた。
【0009】
本発明は以上の問題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、画像濃度ムラを従来よりも抑えることができるホッピング直接記録方式の画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、基板を厚み方向に貫通する貫通孔、及び該貫通孔の近傍に設けられた孔近傍電極の組合せを複数具備する回路基板と、自らの湾曲表面に担持したトナーを、前記湾曲表面に沿って並ぶ複数のホッピング電極の間でホッピングさせることで前記湾曲表面上に浮遊トナー層を形成しながら、前記湾曲表面の移動、あるいはトナーの繰り返しのホッピングによる該浮遊トナー層の移動で、トナーを前記回路基板との対向領域に搬送するトナー担持体と、ホッピング用周期パルス電圧を前記複数のホッピング電極に印加して、トナーをホッピングさせるための電界をホッピング電極間に形成するホッピング電圧印加手段と、前記回路基板における前記トナー担持体との対向面とは反対側の面に対して所定の間隙を介して対向する対向電極と、前記回路基板における複数の貫通孔のうち、画像を記録する記録部材の画像部に対応する位置にある貫通孔である画像孔と前記組合せをなしている孔近傍電極に対し、ドットを記録するための記録オン電圧を印加にする一方で、複数の貫通孔のうち、前記記録部材の非画像部に対応する位置にある貫通孔である非画像孔と前記組合せをなしている孔近傍電極に対し、ドットを記録しないための記録オフ電圧を印加する記録電圧印加手段とを備え、前記トナー担持体の湾曲表面と前記回路電極との対向領域にて、前記湾曲表面上の浮遊トナー層中のトナーを、前記画像孔に通して対向電極に向けて飛翔させ、対向電極上の記録部材に付着させてドットを記録することで画像を形成する画像形成装置において、前記湾曲表面と前記回路基板との間の空間内であって、且つ前記回路基板における貫通孔と前記湾曲表面との距離が比較的大きくなっている領域に、前記記浮遊トナー層の厚みをより大きくするための増厚電極を設けるとともに、該増厚電極に増厚用電圧を印加して前記浮遊トナー層における増厚電極対向箇所の厚みを増厚せしめる増厚電圧印加手段を設け、前記増厚電圧として、前記ホッピング用周期パルス電圧の単位時間あたりの平均電位よりもトナーの帯電極性とは反対極性側に大きな値であり、且つ前記記録オン電圧よりもトナーの帯電極性側に大きな値の直流電圧からなるもの、あるいは、中心値が前記平均電位よりもトナーの帯電極性とは反対極性側に大きく、且つトナーの帯電極性側のピークが前記平均電位、前記記録オン電位又は前記記録オフ電位よりも前記帯電極性側に大きい周期パルス電圧からなるもの、を採用したことを特徴とするものである。
また、請求項2の発明は、請求項1の画像形成装置であって、前記増厚用電圧は、前記ピーク値が前記平均電位よりもトナーの帯電極性側に大きい周期パルス電圧からなることを特徴とするものである。
また、請求項3の発明は、請求項1の画像形成装置であって、前記増厚用電圧が、直流成分だけからなることを特徴とするものである。
また、請求項4の発明は、請求項1乃至3の何れかの画像形成装置であって、前記記録オフ電圧が、直流成分だけからなる前記増厚用電圧よりもトナーの帯電極性側に大きな値であるか、あるいは、周期パルス電圧からなる前記増厚用電圧の中心値よりもトナーの帯電極性側に大きな値であることを特徴とするものである。
また、請求項5の発明は、請求項1又は2の画像形成装置であって、前記増厚用電圧は、周波数が前記ホッピング用周期パルス電圧の周波数よりも高い周期パルス電圧からなることを特徴とするものである。
また、請求項6の発明は、請求項1乃至5の何れかの画像形成装置において、前記増厚電極として、ワイヤーからなるものを用いたことを特徴とするものである。
また、請求項7の発明は、請求項1乃至6の何れかの画像形成装置において、上記増厚電極として、絶縁性材料からなる表面層を具備するものを用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
これらの発明では、トナー担持体の湾曲表面と回路基板との間の空間内であって、且つその湾曲表面と回路基板の貫通孔との距離が比較的大きくなっている領域において、トナー担持体のホッピング電極に印加されるホッピング用周期パルス電圧の平均電位よりも、増厚電極に印加される増厚用電圧の方がトナーの帯電極性とは逆極性側に大きな値になっていることで、湾曲表面上でホッピングしたトナーがホッピングの軌道を超えて増厚電極の周辺に集まる。これにより、トナー担持体の湾曲表面と貫通孔との距離が比較的大きくなっている領域において、比較的小さくなっている領域に比べて浮遊トナー層の厚みが増大することで、回路基板の各貫通孔と浮遊トナー層との距離のバラツキが低減される。すると、各貫通孔に対する通過トナー量のバラツキが低減されるので、画像濃度ムラを従来よりも抑えることができる。
なお、これらの発明においては、増厚用電圧として、画像孔の近傍に配設された孔近傍電極に印加される記録オン電圧よりもトナーの帯電極性側に大きな値(直流成分の値、又は周期パルス電圧の中心値)のものを増厚電極に印加することで、後述するように、増厚電極へのトナー固着の発生を抑えることが可能になるという効果を奏することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】従来の直接記録方式の画像形成装置における要部構成を示す構成図。
【図2】従来のホッピング直接記録方式の画像形成装置における要部構成を示す構成図。
【図3】実施形態に係るプリンタを示す概略構成図。
【図4】同プリンタにおけるY用の画像形成部のトナー担持スリーブを示す斜視図。
【図5】同トナー担持スリーブを示す横断面図。
【図6】同トナー担持スリーブの円筒部を平面的に展開した平面展開図。
【図7】同トナー担持スリーブのA相電極に印加されるA相ホッピング電圧、及びB相電極に印加されるB相ホッピング電圧の波形を示すグラフ。
【図8】A相ホッピング電圧、B相ホッピング電圧の他の例における波形を示すグラフ。
【図9】同画像形成部の一部とその周囲とを示す拡大構成図。
【図10】同画像形成部の回路基板の飛翔制御電極に印加される記録オン電圧Vc−onと記録オフ電圧Vc−offとの関係を示すグラフ。
【図11】同回路基板を中間記録ベルトとともにトナー担持スリーブ側から示す平面図。
【図12】記録オン電圧Vc−onが印加された状態の同飛翔制御電極と、その周囲とを示す拡大模式図。
【図13】記録オフ電圧Vc−offが印加された状態の同飛翔制御電極と、その周囲とを示す拡大模式図。
【図14】同画像形成部を示す拡大構成図。
【図15】同画像形成部におけるトナー担持スリーブと対向電極板との間を示す拡大構成図。
【図16】第1変形例に係るプリンタのY用の画像形成部におけるトナー担持スリーブと対向電極板との間を示す拡大構成図。
【図17】第2変形例に係るプリンタにおけるY用のトナー担持スリーブの円筒部を平面的に展開した平面展開図。
【図18】同円筒部を示す横断面図。
【図19】第3変形例に係るプリンタのY用のホッピングユニットを示す拡大構成図。
【図20】第4変形例に係るプリンタを示す概略構成図。
【図21】第5変形例に係るプリンタにおけるY用のトナー担持スリーブの円筒部を平面的に展開した平面展開図。
【図22】同円筒部を示す断面図。
【図23】同円筒部のA相電極に印加されるA相ホッピング電圧、B相電極に印加されるB相ホッピング電圧、及びC相電極に印加されるC相パルス電圧の波形を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を適用したホッピング直接記録方式の画像形成装置として、カラープリンタ(以下、単にプリンタという)の一実施形態について説明する。
まず、本プリンタの基本的な構成について説明する。図3は実施形態に係るプリンタを示す概略構成図である。同図において、本プリンタは、イエロー(Y),マゼンタ(M),シアン(C),黒(K)のトナーを用いて画像を形成するY,M,C,K用の画像形成部90Y,M,C,K、記録ベルト駆動装置100、給紙カセット120、レジストローラ対122、定着装置130などを備えている。
【0014】
画像形成部90Y,M,C,Kは、水平方向に所定のピッチで並ぶように配設され、それぞれ、回路基板10Y,M,C,Kや、トナー担持体たるトナー担持スリーブ30Y,M,C,Kなどを有している。
【0015】
記録ベルト駆動装置100は、画像形成部90Y,M,C,Kの上方に配設されている。無端状の中間記録ベルト101、駆動ローラ102、従動ローラ103、対向電極板104Y,M,C,K、ベルトクリーニング装置110、転写ローラ115などを有している。記録部材としての中間記録ベルト101は、駆動ローラ102と従動ローラ103とによって水平方向に延在する姿勢で張架されながら、駆動ローラ102の図中反時計回りの回転駆動によって図中反時計回り方向に無端移動せしめられる。中間記録ベルト101のおもて面(ループ外面)は、ベルト無端移動に伴って画像形成部90Y,M,C,Kとの対向位置を順次通過していく。この際、Y,M,C,Kトナー像が順次重ね合わせて記録されていく。これにより、中間記録ベルト101のおもて面には4色重ね合わせトナー像が形成される。
【0016】
記録ベルト駆動装置100の4つの対向電極板104Y,M,C,Kは、中間記録ベルト101のループ内で、ベルトを介して、画像形成部90Y,M,C,Kの回路基板30Y,M,C,Kに対向するように配設されている。また、記録ベルト駆動装置100の転写ローラ115は、中間記録ベルト101のループ外に配設され、ベルトにおける駆動ローラ102に対する掛け回し箇所に当接して転写ニップを形成している。この転写ニップにおいては、図示しない電源によってプラスの転写バイアスが印加される転写ローラ115と、駆動ローラ102との電位差によって転写電界が形成されている。
【0017】
記録ベルト駆動装置100のベルトクリーニング装置110は、中間記録ベルト101における周方向の全領域のうち、転写ニップを通過した後、Y用の画像形成部90Yとの対向位置に進入する前の領域に当接するように配設されている。
【0018】
給紙カセット120は、複数枚の記録紙Pを重ね合わせて収容しており、一番上の記録紙Pの給紙ローラ120aを当接させている。そして、所定のタイミングで給紙ローラ120を回転駆動させて、一番上の記録紙Pを給紙路121に向けて送り出す。送り出された記録紙Pは、上述の転写ニップの直前に配設されたレジストローラ対122のローラ間に挟まれる。レジストローラ対122は、ローラ間に挟み込んだ記録紙Pを、中間記録ベルト101上の4色重ね合わせトナー像に密着させ得るタイミングを見計らって転写ニップに向けて送り出す。転写ニップで記録紙Pに密着せしめられた4色重ね合わせトナー像は、転写電界やニップ圧の作用によって記録紙Pに転写され、記録紙Pの白色と相まってフルカラートナー像になる。このようにしてフルカラートナー像が形成された記録紙Pは、転写ニップから定着装置130に送られてフルカラートナー像が定着せしめられた後、機外へと排出される。なお、定着装置130は、ハロゲンランプ等の発熱源を内包する加熱ローラ121とこれに向けて押圧されている加圧ローラ122との当接によって定着ニップを形成している。そして、この定着ニップ内に記録紙Pを挟み込んだ際に、ニップ圧や加熱の作用によってフルカラートナー像を記録紙Pの表面に定着せしめる。
【0019】
ベルトクリーニング装置110は、転写ニップを通過した後の中間記録ベルト101に付着している転写残トナーをクリーニングする。
【0020】
図4は、Y用の画像形成部(90Y)のトナー担持スリーブ30Yを示す斜視図である。また、図5は、このトナー担持スリーブ30Yの横断面図である。また、図6は、トナー担持スリーブ30Yの円筒部31Yを平面的に展開した平面展開図である。図4に示すように、トナー担持スリーブ30Yは、円筒部31Y、これの軸線方向の両端面にそれぞれ接続されたフランジ36Y,38Y、それぞれのフランジの中心から突出する軸部材37Y,39Yなどを有している。円筒部31Yの周面には、ローラ軸線方向に延在する形状の複数の電極33Yが、周方向(回転方向)に所定のピッチで並ぶように形成されている。これら電極のうち、周方向において1個おきに並んでいるもの同士は、互いに同じ電位状態にされる電気的に同相の電極になっている。具体的には、円筒部31Yの周面には、図5や図6に示すように、A相電極33aYとB相電極33bYとが周方向に交互に並ぶように配設されている。A相電極33aYは、円筒部31Yの軸線方向の一端まで延在しており、円筒部31Yの一端には金属製のフランジ36Yが接続されている(図4を参照)。このフランジ36Yにより、複数のA相電極33aYが互いに電気的に導通している。また、B相電極33bYは、円筒部31Yの軸線方向の他端まで延在しており、円筒部31Yの他端には金属製のフランジ38Yが接続されている。このフランジ38Yにより、複数のB相電極33bYが互いに電気的に導通している。
【0021】
図4に示したトナー担持スリーブ30Yは、軸線方向の両端の軸部材37Y,39Yがそれぞれ回転自在に支持されながら回転駆動される。そして、図示のように、図中左側のフランジ36Yには、搬送制御部91Yによって周期パルス電圧からなるA相ホッピング電圧(A相ホッピング用周期パルス電圧)が印加される。この印加は、フランジ36Yに摺擦する図示しない摺擦電極を介して行われる。フランジ36Yに印加されたA相ホッピング電圧は、複数のA相電極33aYにそれぞれ導かれる。また、図中右側のフランジ38Yには、搬送制御部91Yによって周期パルス電圧からなるB相ホッピング電圧が印加される。この印加は、フランジ38Yに摺擦する図示しない摺擦電極を介して行われる。フランジ38Yに印加されたB相ホッピング電圧は、複数のB相電極33bYにそれぞれ導かれる。
【0022】
図7は、A相電極33aYに印加されるA相ホッピング電圧、及びB相電極33bYに印加されるB相ホッピング電圧の波形を示すグラフである。A相ホッピング電圧と、B相ホッピング電圧とは、図示のように互いに逆位相になっており、単位時間あたりにおける平均電位は互いに同じである。それぞれのホッピング電圧の波形における中心位置で水平方向に延在している線が、この平均電位を示している。これにより、A相電極33aYやB相電極33bYは、平均的にトナーとは逆極性の電位を帯びる。このようなホッピング電圧がそれぞれの電極に印加されると、トナー担持スリーブ30Yにおける円筒部31Yの表面上のYトナーが、A相電極33aY上とB相電極33bY上との間を往復移動するように繰り返しホッピングする。以下、トナー担持スリーブ30Yの表面上でトナーが所定の周期でホッピングを繰り返している状態をフレア(Flare)という。
【0023】
A相ホッピング電圧やB相ホッピング電圧としては、周波数が0.5〜7[kHz]でピークツウピーク電圧が±60〜±300Vである周期パルス電圧に、平均電位調整のためのDC電圧を重畳したものを例示することができる。なお、図示のような矩形波状のパルス電圧では、極性が瞬時に切り替わるため、トナーに対して大きな静電力を付与することが可能である。但し、サイン波状のパルス電圧や三角波状のパルス電圧を採用してもよい。また、A相電極33aYとB相電極33bYとのうち、一方に対して周波数fの矩形波状のホッピング電圧を印加する一方で、もう一方に対して前記パルス電圧の平均電位となる直流電圧を印加しても、互いに逆位相のホッピング電圧を採用する場合と同様に、フレア現象を生起せしめることが可能である(図8)。
【0024】
円筒部31Yの周面におけるA相電極33aY上とB相電極33bYとの間をホッピングによる往復移動の繰り返しで、円筒部31Yの周面上にフレアを形成しているYトナーは、トナー担持スリーブ30Yの回転駆動により、図3に示したY用の回路基板10Yに対向するY用の記録領域まで搬送される。そして、その記録領域にて、その放物線状のホッピング軌跡の頂点付近で回路基板10Yの近傍に至ると、必要に応じて回路基板10Yの後述する図示しない貫通孔内に取り込まれて、トナー像の記録に寄与する。
【0025】
なお、図5に示したように、円筒部31Yの表面には、絶縁材料からなる表面保護層34Yを設けている。この表面保護層34Yにより、YトナーとA相電極33aYやB相電極33bYとの直接接触を回避することで、電極からYトナーへの電荷注入の発生を回避している。
【0026】
先に示した図5において、円筒部31Yの円筒状の基材32Yとしては、ガラス基板、樹脂基板、セラミックス基板等の絶縁性材料からなる基板、アルミ等の導電性材料からなる基板にSiO2等の絶縁膜を成膜したもの、ポリイミドフィルム等の変形可能な材料からなる基板などを用いることができる。
【0027】
A相電極33aYやB相電極33bYについては、次のようにして作成した。即ち、まず、基板32Y上にAl、Ni−Cr等の導電性材料を0.1〜10[μm]の厚みで成膜してから、これをフォトリソグラフィー技術等によって所要の電極形状にパターン化して各電極を得た。導電性材料からなる膜を、メッキ等によって電極形状にパターン加工してもよい。
【0028】
表面保護層34Yとしては、例えばSiO2、TiO2、TiN、Ta2O5などを厚さ0.5〜10[μm]で成膜して形成している。ポリカーボネート、ポリイミド、メチルメタアクリレート等の有機材料を0.5〜10μm厚に薄膜印刷塗布して加熱硬化したものでもよい。
【0029】
図9は、Y用の画像形成部90Yの一部とその周囲とを示す拡大構成図である。トナー担持体としてのトナー担持スリーブ30Yは、表面上のトナーをA相電極とB相電極との間でホッピングさせてフレアを形成しながら、図中時計回り方向に回転駆動する。このトナー担持スリーブ30Yの上方にはY用の回路基板10Yが配設されており、スリーブとの間に距離dのギャップを介在させている。更に、回路基板10Yの上方では、中間記録ベルト101が図中矢印A方向に移動しており、更にその上方には対向電極板104Yがベルトと回路基板10Yとを介してトナー担持スリーブ30Yに対向している。
【0030】
回路基板10Yは、絶縁性基板11Yを具備している。また、絶縁性基板11Yに形成された複数の貫通孔14Yと、それぞれの貫通孔14Yに個別に対応する複数の飛翔制御電極12Yとを具備している。
【0031】
図10は、孔近傍電極としての飛翔制御電極12Yに印加される記録オン電圧Vc−onと記録オフ電圧Vc−offとの関係を示すグラフである。また、図11は、回路基板10Yを中間記録ベルト101とともにトナー担持スリーブ側から示す平面図である。図9では、便宜上、貫通孔14Yと飛翔制御電極12Yとの組合せを1つしか示していなかったが、図11に示すように、回路基板10Yには、その組合せが複数形成されている。飛翔制御電極12Yは、そのリング形状のループ内側に1つの貫通孔14Yを位置させるように形成されている。複数の飛翔制御電極には、それぞれ金属からなる図示しないリード部が繋がっており、これらリード部は互いに絶縁を維持する状態で、後述する記録制御部(図9の28Y)に接続されている。
【0032】
平面方向において、リング状の飛翔制御電極12Yの電極幅は10〜100[μm]である。リング状の飛翔制御電極12Yの内側に形成された貫通孔14Yの径は、形成するドットの径に応じて決定されるが、直径φで50〜200[μm]程度である。
【0033】
回路基板10Yは、例えば次のようにして製造されたものである。即ち、まず、厚さ30〜100[μm]の絶縁性フィルムからなる絶縁性基板11Yの表面に、厚さ0.2〜1[μm]程度の金属蒸着膜(例えばアルミ蒸着膜)を形成する。絶縁性フィルムの材質としては、ポリイミド、PET、PEN、PES等を例示することができる。次に、フォトリソグラフィー技術に用いるフォトレジストをスピンナで塗布後、プリベーク及びマスク露光を行う。そして、フォトレジストの加熱硬化を進めた後、金属エッチング液によって金属蒸着膜を個々の電極やリードの形状にパターンニングする。フィルムの裏面にも電極パターンが必要な場合には、同様のパターンニングを行う。貫通孔14Yについては、電極パターン形成後にパンチ加工、レーザー加工、スパッタエッチング加工等のドライエッチング加工などによって形成する。
【0034】
先に図9に示したように、搬送制御部91Yは、トナー担持スリーブ30YのA相電極やB相電極に対し、先に図7に示したA相ホッピング電圧やB相パルスを印加して、スリーブ表面上のトナーを電極間でホッピングさせる。それらパルス電圧は、何れもデューティ比が50%になっているので、ピークツウピーク電圧Vppの中心電位が、スリーブ表面上での平均電位Vsとなる。ホッピング電圧の周波数fは、例えば、0.5〜7[KHz]程度である。ホッピング電圧のVppは、±60〜±300[V]程度がよい。
【0035】
一方、回路基板10Yの飛翔制御電極12Yは記録制御部28Yに接続されている。この記録制御部28Yは、回路基板10Yの複数の飛翔制御電極12Yに対する、記録オン電圧Vc−onや記録オフ電圧Vc−off(図10参照)の印加をそれぞれ個別に入切することができる。図10に示した記録オン電圧Vc−onと記録オフ電圧Vc−offとの間の点線は、上述したA相ホッピング電圧とB相ホッピング電圧との平均電位Vsを示している。つまり、ホッピング電圧の平均電位Vsは、飛翔制御電極12Yに印加される記録オン電圧Vc−onと記録オフ電圧Vc−offとの間の値になっている。より詳しく説明すると、記録オン電圧Vc−onは、スリーブの平均電位Vsよりも、トナーの帯電極性とは逆極性側に大きな値になっている。これにより、複数の飛翔制御電極12Yのうち、記録オン電圧Vc−onが印加されたものは、その上方に位置しているスリーブ表面上のホッピングトナーを自らに向けて引き寄せるようになる。これに対し、記録オフ電圧Vc−offは、スリーブの平均電位Vsよりも、トナーの帯電極性側に大きな値になっている。これにより、複数の飛翔制御電極12Yのうち、記録オフ電圧Vc−offが印加されたものは、その上方に位置しているスリーブ表面上のホッピングトナーを自らと反発させるようになる。
【0036】
回路基板10Yと中間記録ベルト101とを介してトナー担持スリーブ30Yに対向している対向電極104Yには、対向電源116によって対向バイアスVpが印加されている。この対向バイアスは、トナーの帯電極性とは逆極性であり、且つ上述した記録オン電圧Vc−onよりも、トナーとは逆極性側に大きな値になっている。
【0037】
図12は、記録オン電圧Vc−onが印加された状態の飛翔制御電極12Yと、その周囲とを示す拡大模式図である。図示の飛翔制御電極12Yには、トナーの帯電極性とは逆極性の+50[V]の記録オン電圧Vc−onが印加されている。また、図示しない対向電極板(図9の104Y)には、トナーの帯電極性と同極性であり、且つ記録オン電圧Vc−onよりも大きな+600[V]の対向バイアスVpが印加されている。すると、図示のように、貫通孔14Yを取り囲んでいる共通電極13Yの表面上から延びた電気力線が、貫通孔14Y内に回り込み、更に、孔内を通過して図示しない対向電極板に向けて真っ直ぐに延びる。加えて、トナー担持スリーブの電極から延びた電気力線が貫通孔14Yを経由して図示しない対向電極板まで延びる。この電気力線は、電極周りの電気力線の様子を所定のアルゴリズムで分析するシミュレーションプログラムによって求められたものである。図示しないトナー担持スリーブの表面上でホッピングしているトナーは、図示の電気力線に引かれて貫通孔14Y内に進入した後、孔を通過して図示しない対向電極板に向けて飛翔する。そして、対向電極板状の中間記録ベルトに着地してドットを形成する。
【0038】
なお、このシミュレーションでは、ホッピング電圧のピークの一方を+200[V]、他方を−200[V]に設定した(平均電位=0V)。また、トナー担持スリーブの円筒部31Yと、回路基板10Yとの間隔を0.2[mm]に設定している。また、貫通孔14Yの直径φを120[μm]に設定し、飛翔制御電極12Yの幅を50[μm]に設定した。
【0039】
図13は、記録オフ電圧Vc−offが印加された状態の飛翔制御電極12Yと、その周囲とを示す拡大模式図である。図示の飛翔制御電極12Yには、−200[V]の記録オフ電位Vc−offが印加されている。このような条件では、図示のように、飛翔制御電極12Yの表面から発生する電気力線が回路基板10Yにおけるトナー担持スリーブ側の表面上に出ることなく、ループ内側面から貫通孔14Y内に進入した後、図示しない対向電極板に向けて真っ直ぐに延びる。また、トナー担持スリーブの円筒部31Yからは電気力線が発生しない状態になる。このため、円筒部31Yの表面上でホッピングする図示しないトナーは、貫通孔14Y内に取り込まれることなく、ホッピングを維持する。よって、記録オフ電位Vc−offが印加される飛翔制御電極12Yとの対向位置では、ドットが中間記録ベルト上に記録されない。
【0040】
図14は、Y用の画像形成部(90Y)を示す拡大構成図である。図3では、便宜上、トナー担持スリーブ30Yの周囲構成を割愛して示していたが、図14に示すように、トナー担持スリーブ30Yは、ホッピングユニット40Yのケーシング41Y内に収容されている。ホッピングユニット40Yは、トナー担持スリーブ30Yの他に、第1剤収容部48Y、第2剤収容部46Y、磁気ブラシ部などを有している。
【0041】
第1剤収容部48Yは、図中時計回り方向に回転駆動される第1搬送スクリュウ49Yを、図示しない磁性キャリアとトナーとを混合した混合剤とともに収容している。また、第2剤収容部46Yは、図中反時計回りに回転駆動される第2搬送スクリュウ47Yを、混合剤とともに収容している。これら剤収容部は、互いに仕切壁によって仕切られているが、一部が互いに連通口を介して連通している。
【0042】
第1搬送スクリュウ49Yは、その回転駆動によって第1収容部48Y内の混合剤を回転撹拌しながら、図紙面に直交する方向における手前側から奥側へと搬送する。このとき、搬送途中の混合剤は、第1収容部48Yの天板に固定されたトナー濃度センサ50Yによってトナー濃度が検知される。そして、図中奥側の端部付近まで搬送された混合剤は、仕切壁の連通口を経て、第2収容部46Y内に進入する。
【0043】
第2収容部46Yは、後述するトナー供給ロール42Yを収容する磁気ブラシ形成部に連通しており、第2搬送スクリュウ47Yとトナー供給ロール42Yとは所定の間隙を介して互いに軸線方向を平行にする姿勢で対向している。第2収容部46Y内の第2搬送スクリュウ47Yは、その回転駆動によって第2収容部46Y内の混合剤を回転撹拌しながら、図中奥側から手前側へと搬送する。この過程において、第2搬送スクリュウ47Yによって搬送される混合剤の一部は、トナー供給ロール42Yの筒状のトナー供給スリーブ43Yによって汲み上げられる。そして、トナー供給スリーブ43Yの図中反時計回り方向の回転駆動に伴って、後述するトナー供給領域を通過した後、トナー供給スリーブ43Yの表面から離脱して再び第2収容部46Y内に戻される。その後、第2搬送スクリュウ47Yによって図中手前側の端部付近まで搬送された混合剤は、仕切壁の連通口を経て第1収容部48Y内に戻される。
【0044】
上述したトナー濃度センサ50Yは、透磁率センサからなる。このトナー濃度センサ50Yによる混合剤の透磁率の検知結果は、電圧信号として図示しない制御部に送られる。混合剤の透磁率は、混合剤のKトナー濃度と相関を示すため、トナー濃度センサ50Yはトナー濃度に応じた値の電圧を出力することになる。
【0045】
本プリンタの図示しない制御部はデータ記憶手段としてのRAM(Random Access Memory)を備えており、この中にトナー濃度センサ50Yからの出力電圧の目標値であるY用のVtrefを格納している。そして、トナー濃度センサ50Yからの出力電圧値と、RAM内のY用のVtrefとを比較して、比較結果に応じた時間だけ図示しないトナー供給装置を駆動させる。この駆動により、作像に伴うトナー消費によってトナー濃度を低下させた混合剤に対し、第1収容部48Y内に適量のトナーが供給される。このため、第2収容部46Y内の混合剤のトナー濃度が所定の範囲内に維持される。
【0046】
トナー供給ロール42Yは、図中反時計回り方向に回転駆動される非磁性材料からなる筒状のトナー供給スリーブ43Yと、これに連れ回らないように内包されるマグネットローラ44Yとを有している。筒状のトナー供給スリーブ43Yは、アルミニウム、真鍮、ステンレス、導電性樹脂などの非磁性体が円筒形に形成されたものである。また、マグネットローラ44Yは、図示のように、回転方向に並ぶ複数の磁極(図中12時の位置から反時計回り方向に順にN極、S極、N極、S極、N極、S極)を有している。これら磁極により、トナー供給スリーブ43Yの周面上に混合剤が吸着せしめられて、磁力線に沿って穂立ちした磁気ブラシとなる。
【0047】
トナー供給スリーブ43Yの表面に汲み上げられた混合剤は、トナー供給スリーブ43Yの回転に伴って図中反時計回り方向に回転する。そして、自らの先端をトナー供給スリーブ43Yの表面に対して所定の間隙を介して対向させている規制部材45Yとの対向位置である担持量規制位置に進入する。このとき、規制部材45Yとスリーブ表面との間隙を通過することで、スリーブ表面上における担持量が規制される。
【0048】
トナー供給スリーブ43Yの図中左側方では、トナー担持体たるトナー担持スリーブ30Yがトナー供給スリーブ43Y表面と所定の間隙を介して対向しながら、図示しない駆動手段によって図中反時計回り方向に回転駆動されている。トナー供給スリーブ43Yの回転に伴って上述の担持量規制位置を通過した混合剤は、トナー担持スリーブ30Yとの接触位置であるトナー供給領域に進入して、磁気ブラシ先端を摺擦せしめながら移動する。この摺擦や、トナー供給スリーブ43Yとトナー担持スリーブ30Yとの電位差などにより、磁気ブラシ中のトナーがトナー担持スリーブ30Yの表面上に供給される。なお、トナー供給スリーブ43Yには、バイアス制御部55Yにより、可変可能なバイアスが印加される。トナー供給スリーブ43Yからトナー担持スリーブ30Yへのトナー供給を行うときには、バイアス制御部55Yにより、トナー供給スリーブ43Yに対してトナー供給バイアスが印加される。これにより、トナー供給スリーブ43Yとトナー担持スリーブ30Yとの間に、トナーを前者から後者に移動させる電界が形成される。供給バイアスは、トナーの帯電極性と同極性の直流電圧でもよいし、かかる直流電圧に交流電圧を重畳したものでもよい。
【0049】
トナー供給領域を通過したトナー供給スリーブ43Y上の磁気ブラシ(混合剤)は、スリーブの回転に伴って第2収容部46Yとの対向位置まで搬送される。この対向位置の付近には、マグネットローラ44Yに磁極が設けられておらず、混合剤をスリーブ表面に引き付ける磁力が作用していないため、混合剤はスリーブ表面から離脱して第2収容部46Y内に戻る。なお、マグネットローラ44Yとして、6つの磁極を有するものの代わりに、6つを超える磁極を有するものを用いてもよい。
【0050】
トナー供給スリーブ43Yから供給されたトナーを担持するトナー担持スリーブ30Yは、ケーシング41Yに設けられた開口から周面の一部を露出させている。この露出箇所は、回路基板10Yに対向している。
【0051】
トナー担持スリーブ30Yの表面上に供給されたトナーは、トナー担持スリーブ30Yの表面上でホッピングしながら、トナー担持スリーブ30Yの回転に伴って、トナー供給領域から回路基板10Yとの対向領域に向けて搬送される。そして、回路基板10Yとの対向領域において、必要に応じて回路基板10Yの貫通孔内に取り込まれて、ドットの記録に寄与する。Y用の画像形成部(90Y)について詳しく説明してきたが、他色の画像形成部(90M,C,K)もY用のものと同様の構成になっている。
【0052】
以上の構成の本プリンタにおいては、特許文献1に記載の画像形成装置のようなトナー担持体の表面に付着させているトナーを回路基板の貫通孔内に取り込むものとは異なり、トナー担持体の表面上でホッピングさせているトナーを回路基板の貫通孔内に取り込んでいる。これにより、回路基板の飛翔制御電極に対する印加電圧を制御する記録制御部(例えば28Y)の低コスト化を図ることができる。具体的には、複数の飛翔制御電極に対する記録オン電圧Vc−onや記録オフ電圧Vc−offの入切については、専用のICによって個別に行う必要がある。このICの数は、相当数に及ぶ。例えば、600[dpi]の解像度で画像を形成する仕様では、前述のICを4960個設ける必要がある。一般に、ICは、その耐電圧が高くなるほどチップ面積を必要とするため高価になる。直接記録方式では、いかに制御電圧を下げるかが、記録制御部の低コスト化を図る上で重要な要素となる。ところが、特許文献1に記載の画像形成装置では、ICとして、少なくとも500[V]以上の耐電圧のものを用いる必要がある。これは次に説明する理由による。即ち、トナーとトナー担持スリーブとには、鏡像力、ファンデルワールス力、液架橋力などによって互いに引き付け合うような付着力が作用しており、これに打ち勝つだけの電界をつくり出すには、少なくとも絶対値が500[V]以上であるバイアスを飛翔制御電極に印加しなければならないのである。これに対し、本プリンタにおいては、トナー担持スリーブ30Yの表面上でトナーをホッピングさせることで、スリーブ表面とトナーとの付着力をなくしているので、数十[V]程度のバイアスを飛翔制御電極に印加すれば、記録のオンオフを制御することが可能である。つまり、上述のICとして、200[V]程度の耐電圧のものでよいのである。
【0053】
なお、従来、直接記録方式の画像形成装置において、特許第2933930号公報や特公平2−52260号公報に記載のもののように、トナー担持体に交流電圧を印加することで、いわゆるジャンピング現像方式のように、トナー担持体の表面上のトナーをその表面に吸着させたり、表面から離脱させたりを繰り返すようにした画像形成装置が知られている。しかしながら、この方式では、トナー担持体の表面上からトナーを離脱させる原理として、本プリンタのようにトナー担持体の電極間の電位差を利用しているのではなく、トナー担持体と回路基板との電位差を利用している。このような方式では、トナー担持体に印加する交流電圧として、ピークツウピーク電位の非常に大きなものを採用する必要がある。すると、飛翔制御電極に印加する記録オン電圧もそれに応じた大きな値のものを採用する必要があるので、上述のICの耐電圧を小さくすることが困難である。
【0054】
次に、本プリンタの特徴的な構成について説明する。
図15は、実施形態に係るプリンタのY用の画像形成部におけるトナー担持スリーブと対向電極板との間を示す拡大構成図である。同図において、トナー担持スリーブの円筒部31Yの湾曲表面と、板状の回路基板10Yとの間の空間内であって、且つ回路基板10Yにおける複数の貫通孔14Yのうち、湾曲表面との距離が比較的大きくなっている貫通孔14Yの近傍の位置には、浮遊トナー層Ltの厚みをより大きくするための増厚電極13Yが配設されている。具体的には、複数の貫通孔14Yのうち、円筒部31Yの湾曲表面31Yによるトナー搬送方向で最も上流側に位置している貫通孔14Yは、複数の孔形成領域における図中左端に位置している。また、トナー搬送方向で最も下流側に位置している貫通孔14Yは、複数の貫通孔14Yが形成されている孔形成領域における図中右端に位置している。これら貫通孔14Yは、トナー搬送方向の中央寄りに位置している他の2つの貫通孔14Yに比べて、円筒部31Yの湾曲平面との距離が大きくなっている。すると、浮遊トナー層Ltの厚みが周方向において一様である場合には、他の2つの貫通孔14Yに比べて、浮遊トナー層Ltとの距離が大きくなって、ドットの画像濃度を低下させてしまう。
【0055】
そこで、実施形態に係るプリンタにおいては、図示のように、回路基板10Yの孔形成領域の右端に位置している貫通孔14Yの近傍と、左端に位置している貫通孔14Yの近傍とにそれぞれ、増厚電極13Yを配設している。これら増厚電極13Yは、図11に示したように、トナー担持スリーブの軸線方向に延在するワイヤー状のものである。
【0056】
図15において、2つの増厚電極13Yには、それぞれ増厚電圧印加手段としての増厚電源92Yにより、増厚用電圧が印加されている。この増厚用電圧は、図7に示したホッピング電圧の単位時間あたりの平均電位よりも、トナーの帯電極性とは反対極性側(本例ではプラス側)に大きな値(周期パルス電圧の場合は平均電位)になっている。このような増厚用電圧が印加される増厚電極13Yとトナー担持スリーブの表面との間では、図示のように、浮遊トナー層Ltの厚みが通常よりも大きくなる。これにより、貫通孔14Yと浮遊トナー層Ltとの距離のバラツキを低減することで、各貫通孔14Yに対する通過トナー量を均一化せしめて、画像濃度ムラを従来よりも抑えることができる。
【0057】
なお、増厚用電圧は、図10に示した+50[V]の記録オン電圧Vc−onよりもトナーの帯電極性側に大きな値になっている。これにより、増厚電極13Yの周辺にトナーを集めていても、そのトナーを画像孔に進入させることができる。
【0058】
また、Y用の画像形成部だけについて説明したが、他色用の画像形成部においても、同様の構成により、各貫通孔14Yに対する通過トナー量を均一化せしめて、画像濃度ムラを従来よりも抑えるようになっている。また、トナー搬送方向に直交する方向において所定の間隔で並ぶ複数の貫通孔14Y及び飛翔制御電極12Yの組合せからなる孔電極列を、トナー搬送方向に4列並べた構成の回路基板10Yについて説明したが、4列以外、例えば2列、3列、4列、5列、6列、7列、8列などでもよい。但し、互いに隣合うドットで両端を重ね合わせる都合上、2列以上の孔電極列にして、ある列で形成したドット間を、他の列で補う必要がある。なお、増厚用周期パルス電圧については、周波数を例えば0.3〜5[kHz]程度にし、且つ、数十V〜数百VのVppに設定することが望ましい。
【0059】
次に、本発明者らが行った実験について説明する。本発明者らは、先のシミュレーションで想定した各種電極やギャップの条件と同様のハード構成を有する試験機を用意した。そして、増厚電極13Yに印加する増厚電圧を変化させながら、それぞれの電圧条件下でそれぞれ数百枚のテストプリントを行った。そして、1列目の貫通孔14Yによって形成されたドットと、4列目の貫通孔14Yによって形成されたドットとで画像濃度の差(以下、単に画像濃度ムラという)があるか否かを判定した。また、増厚電極13Yに対するトナー固着の有無を調べた。A相電極やB相電極に印加するホッピング電圧について、Vpp(ピークツウピーク電圧)=400[V]、周波数=0.3〜5[kHz]に設定した。また、飛翔制御電極12Yに印加する記録オン電圧Vc−onについては+50[V]とした。また、飛翔制御電極12Yに印加する記録オフ電圧Vc−offについては−200[V]とした。増厚電極13Yに印加する増厚電圧として、直流+150[V]、直流+30、直流−100[V]を採用した実験番号1、2、3における結果を次の表1、表2、表3に示す。
【表1】
【表2】
【表3】
【0060】
増厚電圧を直流+150[V]に設定した実験番号1においては、表1に示すように、画像濃度ムラを解消することができた。増厚電極13Yに増厚電圧を印加して、増厚電極13Yの周辺で浮遊トナー層の厚みを増厚せしめたことで、列1〜列4における浮遊トナー層と貫通孔との距離のバラツキを低減したためである。しかしながら、増厚電極13Yに対するトナー固着が発生してしまった。このトナー固着は、次のような理由によって生じたものであると考えられる。即ち、増厚電極13Yに直流+150[V]の増厚電圧を印加した場合、ホッピング電圧の平均電位が0[V]になるトナー担持スリーブ31Yと、増厚電極13Yとの間に、トナーをスリーブ側から増厚電極13Yに向けて移動させる電界が形成される。また、−200[V]の記録オフ電圧Vc−offが印加される飛翔制御電極12Yと、増厚電極13Yとの間に、トナーを飛翔制御電極12Y側から増厚電極13Yに向けて移動させる電界が形成される。また、+50[V]の記録オン電圧が印加される飛翔制御電極12Yと、増厚電極13Yとの間に、増厚電極13Yとの間に、トナーを飛翔制御電極12Y側から増厚電極13Yに向けて移動させる電界が形成される。このように、増厚電極13Yに対して、周囲の全ての電極からトナーを引き付けるようになるので、増厚電極13Yに対して長期に渡ってトナーを引き付けてトナー固着を発生させてしまったと考えられる。
【0061】
なお、スリーブ回転方向上流側、下流側にそれぞれ配設している2つの増厚電極13Yのうち、前者については、図15に示したように、4列目の貫通孔14Yよりもスリーブ回転方向上流側に配設している。また、後者については、1列目の貫通孔14Yよりもスリーブ回転方向下流側に配設している。このような配設では、スリーブ表面と、回路基板10Yにおける1列目の孔電極列〜4列目の孔電極列を配設している領域との間には、増厚電極13Yを介在させず、それよりも外側の領域に増厚電極13Yを存在させることになる。すると、実験番号15のように、増厚電極13Yに印加する増厚電圧を、飛翔制御電極12Yに印加する記録オン電圧Vc−onよりもプラス側に大きな値にしても、マイナス帯電性のトナーをその飛翔制御電極12Yの中の画像孔に進入させることができる。
【0062】
増厚電圧を直流+30[V]に設定した実験番号2においても、表2に示したように、画像濃度ムラを解消することができた。増厚電極13Yの周辺で浮遊トナー層の厚みを増厚せしめたことで、列1〜列4における浮遊トナー層と貫通孔との距離のバラツキを低減したからである。また、実験番号1とは異なり、増厚電極13Yにトナーの付着による汚れを発生させたものの、増厚電極13Yに対するトナー固着については解消することができた。+30[V]の増厚電圧の条件では、増厚電極13Yの表面上のトナーを、+50[V]の記録オン電圧Vc−onが印加される飛翔制御電極12Yに向けて引き離すことで、トナー固着を回避することができたと考えられる。
【0063】
増厚電圧を直流−100[V]に設定した実験番号3においては、表3に示したように、画像濃度ムラが発生してしまった。この画像濃度ムラは、肉眼でもはっきりとわかるほど、顕著なものであった。+100[V]の増厚電圧では、トナーを増厚電極13Y側から、平均電位0[V]のスリーブ側に向けて移動させる電界が両者間に形成されるため、浮遊トナー層の厚みを却って小さくしてしまったためと思われる。
【0064】
以上の実験結果から、増厚電圧として直流電圧を採用した場合には、その値を、次のようにすることで、増厚電極13Yの周辺で浮遊トナー層の厚みを増厚せしめて画像濃度ムラを抑え得ることがわかった。即ち、ホッピング用周期パルス電圧たるホッピング電圧の単位時間あたりの平均電位よりもトナーの帯電極性とは反対極性側に大きな値にするのである。また、直流電圧からなる増厚電圧を、次のような値にすることで、増厚電極13Yに対するトナー固着の発生を抑え得ることもわかった。即ち、記録オン電圧Vc−onよりもトナーの帯電極性側に大きな値にするのである。
【0065】
本発明者らは次に、増厚電圧として、交流成分を含むものを採用して同様の実験を行った。交流成分としては、Vpp=400[V]のものを採用した。ホッピング電圧、記録オン電圧Vc−on、記録オフ電圧Vc−offは、先の実験と同様である。実験番号4、5、6の結果を次の表4、表5、表6に示す。
【表4】
【表5】
【表6】
【0066】
これらの表に示すように、実験番号4、5、6の何れにおいても、増厚電極13Yに対するトナー固着の発生を回避することができた。何れの実験においても、増厚電圧のAC下側ピークを迎えたときの増厚電極13Yの電位(−50、−170又は−300)が、−200[V]の記録オフ電圧Vc−offよりもプラス側に大きくなって、増厚電極13Y表面のトナーをから飛翔制御電極12Y(Vc−offを印加したもの)に向けて引き離したためであると考えられる。但し、実験番号4、5では、画像濃度ムラを引き起こしていないのに対し、実験番号6では画像濃度ムラを発生させてしまっている。実験番号6では、増厚電圧の平均電位(−100V)がホッピング電圧の平均電圧(0V)よりもマイナス側に大きいために、浮遊トナー層を増厚させることができなかったからである。
【0067】
これらの結果から、増厚電圧として交流成分を含むものを採用した場合には、その値を、次のようにすることで、増厚電極13Yの周辺で浮遊トナー層の厚みを増厚せしめて画像濃度ムラを抑え得ることがわかった。即ち、中心値がホッピング電圧の単位時間あたりの平均電位よりもトナーの帯電極性とは反対極性側に大きい値にするのである。また、交流成分を含む増厚電圧を、次のような値にすることで、増厚電極13Yに対するトナー固着の発生を抑え得ることもわかった。即ち、トナーの帯電極性側のピークが前記平均電位、記録オン電圧Vc−oc又は記録オフ電位Vc−offよりもトナーの帯電極性側に大きい値である。
【0068】
そこで、実施形態に係るプリンタにおいては、増厚電圧として直流電圧を採用した場合には、その値を、ホッピング電圧の単位時間あたりの平均電位よりもトナーの帯電極性とは反対極性側に大きく、且つ、記録オン電圧Vc−onよりもトナーの帯電極性側に大きな値にしている。また、増厚電圧として交流成分を含むものを採用した場合には、中心値を、ホッピング電圧の単位時間あたりの平均電位よりもトナーの帯電極性とは反対極性側に大きな値にし、且つ、トナーの帯電極性側のピークを、前記平均電位、記録オン電圧Vc−oc又は記録オフ電位Vc−offよりもトナーの帯電極性側に大きな値にしている。なお、本発明において、周期パルス電圧とは、周期的に変動する波形の電圧を意味しており、その波形はサイン波、矩形波、三角波など、どのような形状であってもよい。一般的な交流電圧も周期パルス電圧である。
【0069】
次に、本発明者らは、増厚用周期パルス電圧の周波数を、ホッピング用周期パルス電圧の周波数よりも低くした条件で実験を行ったところ、画像濃度ムラを発生させてしまった。前述のような周波数の関係では、飛翔制御電極12Yに記録オン電圧Vc−onを印加したときにおけるトナーのホッピング高さにバラツキが生じてしまうからだと思われる。増厚用周期パルス電圧の周波数を、ホッピング用周期パルス電圧の周波数よりも高くした条件では、前述の条件に比べて明らかに画像濃度ムラが改善された。特に、前者の周波数を後者の周波数の2倍以上に設定した場合、画像濃度ムラは殆ど発生しなくなった。そこで、実施形態に係るプリンタにおいては、増厚用周期パルス電圧として、その周波数がホッピング周期用パルス電圧の周波数の2倍以上であるものを採用している。
【0070】
次に、実施形態に係るプリンタの各変形例について説明する。なお、以下に特筆しない限り、各変形例に係るプリンタの構成は実施形態と同様である。
[第1変形例]
図16は、第1変形例に係るプリンタのY用の画像形成部におけるトナー担持スリーブと対向電極板との間を示す拡大構成図である。回路基板10Yにおいて、複数の貫通孔14Yが形成された孔形成領域のトナー搬送方向の中心位置P1を、トナー担持体の円筒部31Yの湾曲表面と回路基板10Yとが最接近する位置P2よりもトナー搬送方向の下流側にずらしている。そして、増厚電極13Yについては、回路基板10Yの孔形成領域の左端に形成された貫通孔14Yと、右端に形成された貫通孔14Yとのうち、トナー搬送方向の最下流側となる前者の貫通孔13に対してだけ、増厚電極13Yを近くに配設している。かかる構成では、図示のように、1つの増厚電極13Yだけで、回路基板10Yの孔形成領域における貫通孔14Yと浮遊トナー層Ltとの距離の均等化を図ることができる。
【0071】
なお、回路基板10Yをずらす方向及び増厚電極13Yを配設する位置を、図16の構成とは逆の関係にしても、同様にして、1つの増厚電極13Yだけで、回路基板10Yの孔形成領域における貫通孔14Yと浮遊トナー層Ltとの距離の均等化を図ることができる。具体的には、回路基板10Yにおける孔形成領域のトナー搬送方向の中心位置P1を、トナー担持体の円筒部31Yの湾曲表面と回路基板10Yとが最接近する位置P2よりもトナー搬送方向の上流側にずらす。加えて、回路基板10Yの孔形成領域の右端(トナー搬送方向の最下流側)の貫通孔13に対してだけ、増厚電極13Yを近傍に配設する。
【0072】
また、増厚用電圧として、直流電圧だけからなるものを採用している。具体的には、ホッピング電圧の単位時間あたりの平均電位よりもトナーの帯電極性とは反対極性側に大きく、且つ、記録オン電圧Vc−onよりもトナーの帯電極性側に大きな値の直流電圧である。
【0073】
[第2変形例]
濃度ムラをできるだけ抑えるためには、トナー担持スリーブのA相電極やB相電極の配設ピッチを数十[μm]といった微小なものにする必要がある。ところが、微小ピッチで配設されたA相電極やB相電極に対して、トナーの良好なホッピングのために振幅の大きなホッピング電圧を印加すると、電極間で電流のリークを発生させ易くなってしまう。このリークは、具体的には次のようにして発生する。即ち、先に図5に示したように、A相電極33aYとB相電極33bYとの間には、絶縁材料を介在させている。これにより、A相電極33aYとB相電極33bYとの間での放電の発生を抑えている。ところが、A相電極33aYと、B相電極33bYと、前述の絶縁材料とは、何れも絶縁性の基材32Yの表面という同一平面上に形成されている。そして、A相電極33aYと基材32Yとの界面、絶縁材料と基材32Yとの界面、B相電極33bYと基材32Yの界面が連続して繋がった状態にある。A相電極33aYとB相電極33bYとのうち、少なくとも何れか一方に振幅の大きなホッピング電圧が印加されると、その連続した界面で電極間の放電が発生して電流のリークを引き起こしてしまうことがある。
【0074】
図17は、第2変形例に係るプリンタにおけるY用のトナー担持スリーブの円筒部31Yを平面的に展開した平面展開図である。また、図18は、その円筒部31Yを示す横断面図である。第2変形例に係るプリンタにおいては、図示のように、A相電極33aYとB相電極33bYとを、両者間に少なくとも1つの絶縁層35Yを介在させる互いに異なった階層に形成した多層構造のトナー担持スリーブを用いている。このトナー担持スリーブにおいては、円筒状の基材32Yの表面における全域に金属層を被覆して、この金属層をB相電極33bYとして機能させている。B相電極33bYの表面上には、樹脂からなる絶縁層35Yを積層している。更に、この絶縁層35Yの表面上において、周方向に所定ピッチで並ぶ複数のA相電極33aYを形成している。B相電極33bYは、筒状の1つの大きな電極であるが、トナー担持スリーブの周方向においては、所定ピッチで並ぶ複数のA相電極33aYの間にそれぞれ第1電極が存在することになる。このため、円筒部31Yの表面上において、複数のA相電極33aYと、B相電極33bYにおけるA相電極間に相当する箇所との間で、トナーをホッピングさせることが可能である。また、筒状の大きなB相電極33bYと、複数のA相電極33aYとを、互いの間に絶縁層35Yを介在させる別々の階層に形成したことで、A相電極33aYとB相電極33bYとを連続した界面で繋げない構造になっている。よって、A相電極33aYとB相電極33bYとの間での放電の発生を抑えて、振幅の比較的大きなホッピング電圧を印加することが可能になる。
【0075】
[第3変形例]
図19は、第3変形例に係るプリンタのY用のホッピングユニット40Yを示す拡大構成図である。このホッピングユニット40Yは、トナーと磁性キャリアとを混合した混合剤を収容する代わりに、トナーそのものを収容している。トナー収容部内に収容しているトナーを、回転するトナー供給ローラ52Yの弾性材料からなるローラ部と、これに当接しながら回転する帯電ローラ53Yとの間にトナーを挟み込むことで、トナーの摩擦帯電を助長しながら、そのトナーをトナー供給ローラ52Y表面で汲み上げる。汲み上げられたトナーは、トナー供給ローラ52Yに当接している規制部材51Yによって層厚が規制された後、トナー供給ローラ52Yの回転に伴ってトナー担持スリーブ30Yとの対向領域まで搬送される。
【0076】
プリントジョブ時には、トナー供給ローラ52Yに対して、バイアス制御部55Yによって供給バイアスが印加される。この供給バイアスは、トナー担持スリーブ30YのA相電極やB相電極に印加されるパルス電圧の平均電位Vsよりも、トナーの帯電極性とは逆極性側に大きな値のバイアスである。よって、トナー供給ローラ52Yと、トナー担持スリーブ30Yとの間には、トナーをトナー供給ローラ52Y側からスリーブ側に移動させる電界が形成される。トナー供給ローラ52Yの表面上のトナーは、その電界の作用によってローラ表面からスリーブ表面に転移する。トナー担持スリーブ30Yの表面上では、既に説明したように、トナーのホッピングによるフレアが形成される。フレアを形成しているトナーの一部は、回路基板10Yの貫通孔内に取り込まれてドットの形成に寄与する。
【0077】
回路基板10Yとの対向領域で回路基板10Yの貫通孔内に取り込まれなかったトナーは、トナー担持スリーブ30Yの回転に伴ってケーシング内に至った後、図示しない回収手段によってトナー担持スリーブ30Yの表面から回収される。回収されたトナーは再びトナー収容部される。
【0078】
かかる構成においては、実施形態に比べて、ホッピングユニット40Yの構造を簡素化することができる。
【0079】
[第4変形例]
図20は、第4変形例に係るプリンタを示す概略構成図である。このプリンタは、記録ベルト駆動装置150の構成が実施形態のものとは異なる。記録ベルト駆動装置150は、無端状の紙搬送ベルト151を無端移動させながら、この紙搬送ベルト151のおもて面に記録紙Pを吸着させる。そして、紙搬送ベルト151の無端移動に伴って、記録紙PをY,M,C,K用の画像形成部(90Y,M,C,K)との対向位置に順次通していく。これにより、記録紙Pには、フルカラートナー像が形成される。
【0080】
なお、紙搬送ベルト151のベルトループ内側には、Y,M,C,K用の対向電極板154Y,M,C,Kが配設されており、ベルトを介してY,M,C,K用の回路基板10Y,M,C,Kに対向している。また、紙搬送ベルト151は、ポリイミド等からなり、図示しない帯電ローラなどの帯電手段によって帯電せしめられることで、記録紙Pをおもて面に吸着させる。
【0081】
紙搬送ベルト151の無端移動に伴って、駆動ローラ152に対するベルト掛け回し箇所まで移動した記録紙Pは、紙搬送ベルト151から分離されて、定着装置130に渡される。
【0082】
以上の構成の本プリンタでは、紙搬送ベルト151と、回路基板10Y,M,C,Kとの間に記録紙Pを介在させるので、回路基板10Y,M,C,Kとベルトとの距離を実施形態の構成よりも大きくしてしまうが、転写工程が不要になるため、転写工程での画像劣化を回避することができる。また、ベルトをクリーニングするクリーニング手段を省略して、低コスト化を図ることもできる。
【0083】
[第5変形例]
図21は、第5変形例に係るプリンタにおけるY用のトナー担持スリーブの円筒部31Yを平面的に展開した平面展開図である。また、図22は、この円筒部31Yを示す断面図である。トナー担持スリーブの円筒部31Yにおいて、スリーブ周方向に沿って並ぶ複数の電極としては、A相電極33aY、B相電極33bYの他に、C相電極33cYがある。A相、B相、C相という3つを1組にして、この組が繰り返し並んでいる。
【0084】
図23は、A相電極33aYに印加されるA相ホッピング電圧、B相電極33bYに印加されるB相ホッピング電圧、及びC相電極33cYに印加されるC相パルス電圧の波形を示すグラフである。図示のように、これら3つのパルス電圧は互いに位相ずれした関係にあるが、ピークツウピーク電圧や周期は互いに同じである。このようなパルス電圧が印加されると、トナー担持スリーブの表面上のトナーは、A相、B相、C相という順で、電極間を順次ホッピングしていく。これにより、トナーは、スリーブ表面上を自らのホッピングによる移動だけで周回する。本プリンタにおいては、トナーをホッピングさせながら、ホッピングによってスリーブ表面上を周回させることで、トナー担持スリーブの回転駆動を不要にしている。
【0085】
以上、実施形態に係るプリンタにおいては、増厚電圧として、ホッピング電圧の平均電位よりもトナーの帯電極性とは反対極性側に大きな値であり、且つ記録オン電圧よりもトナーの帯電極性側に大きな値の直流電圧からなるもの、あるいは、中心値が前記平均電位よりもトナーの帯電極性とは反対極性側に大きく、且つトナーの帯電極性側のピークが前記平均電位、記録オン電位又は記録オフ電位よりも前記帯電極性側に大きい周期パルス電圧からなるもの、を採用している。かかる構成では、上述したように、画像濃度ムラの発生を抑えることができるのに加えて、増厚電極13Yに対するトナー固着を抑えることができる。
【0086】
なお、実施形態に係るプリンタにおいて、増厚電極13Yに印加する増厚電圧として、片側ピーク値がホッピング用周期パルス電圧の単位時間あたりの平均電位(Vs)よりもトナーの帯電極性側であるマイナス側に大きい周期パルス電圧からなる増厚用周期パルス電圧を採用すれば、次のような作用効果を奏することが可能である。即ち、増厚用周期パルス電圧が前述の片側ピーク値になるタイミングで、それまで増厚電極13Yの表面上に付着していたトナーを、増厚電極13Yから引き離してスリーブ表面に向けて移動させることで、トナーを増厚電極13Yに電気的に付着させ続けることによる増厚電極13Yに対するトナー固着の発生を解消することができる。
【0087】
また、第1変形例に係るプリンタにおいては、増厚用電圧として、直流成分だけからなるものを採用しているので、周期パルス電圧を含むものを採用する場合に比べて、増厚用電圧の電源の低コスト化を図ることができる。
【0088】
また、実施形態に係るプリンタにおいては、記録オフ電圧Vc−onとして、増厚用周期パルス電圧の中心値(+30V)よりもトナーの帯電極性側であるマイナス側に大きな値(−200V)のものを採用しているので、上述したように、非画像孔にトナーを進入させてしまうことによる地汚れの発生を抑えることができる。なお、第1変形例に係るプリンタにおいては、記録オフ電圧Vc−onとして、直流成分だけからなる増厚用電圧(+30V)よりもトナーの帯電極性側であるマイナス側に大きな値(−200V)のものを採用しているので、同様の理由により、非画像孔にトナーを進入させてしまうことによる地汚れの発生を抑えることができる。
【0089】
また、実施形態に係るプリンタにおいては、増厚用周期パルス電圧として、周波数がホッピング用周期パルス電圧の周波数よりも高いものを採用しているので、上述したように、低いものを採用する場合に比べて、画像濃度ムラの発生を抑えることができる。
【0090】
また、実施形態に係るプリンタにおいては、増厚電極13Yとして、ワイヤーからなるものを用いている。かかる構成では、トナー担持スリーブ30Yと回路基板10Yとの間の狭いギャップ内に、増厚電極13Yを容易に配設することができる。また、ワイヤーをある程度のテンションで張架しながら、その張架姿勢を調整することで、増厚電極13Yと回路基板10Yとの距離を容易に調整することができる。
【0091】
また、実施形態に係るプリンタにおいては、増厚電極13Yとして、金属からなるワイヤーの無垢の表面上に、樹脂等の絶縁材料からなる表面層を被覆したものを用いている。かかる構成では、絶縁性の表面層により、増厚電極13Yから、増厚電極13Y表面に付着したトナーへの電荷注入の発生を回避することができる。また、増厚電極から周辺の金属部材への放電や電流のリークの発生を抑えることもできる。
【符号の説明】
【0092】
10Y,M,C,K:回路基板(基板)
12Y:飛翔制御電極(孔近傍電極)
13Y:増厚電極
14Y:貫通孔
28Y:記録制御部(記録電圧印加手段)
30Y:トナー担持スリーブ(トナー担持体)
33aY:A相電極(ホッピング電極)
33bY:B相電極(ホッピング電極)
33cY:C相電極(ホッピング電極)
92Y:増圧電源(増厚電圧印加手段)
101:中間記録ベルト(記録部材)
104Y,M,C,K:対向電極板(対向電極)
P:記録紙(記録部材)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0093】
【特許文献1】特開昭63−136058号公報
【特許文献2】特開2007−133387号公報
【特許文献3】特開2002−341656号公報
【特許文献4】特開昭59−181370号公報
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナー担持体の表面上でホッピングさせたトナーを直接記録方式によって記録部材に付着させて画像を形成する複写機、ファクシミリ、プリンタ等の画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、直接記録方式によって画像を形成する画像形成装置としては、例えば特許文献1に記載のものが知られている。直接記録方式では、潜像を形成してからその潜像にトナーを付着させるという間接的な電子写真プロセスによらずに、次のようなプロセスによってトナー像を形成する。即ち、潜像を形成していない記録体のドット形成領域に対してトナーを選択的に付着させるという直接的なプロセスである。図1は、従来の直接記録方式の画像形成装置における要部構成を示す構成図である。同図において、トナー担持体としてのトナー担持ローラ901は、その回転軸線を図中左右方向に延在させる姿勢で配設され、図示しない駆動手段によって回転駆動せしめられる。表面にトナー粒子Tを担持したトナー担持ローラ901の図中下方には、複数の貫通孔902を具備する回路基板903が配設されている。貫通孔902の周囲には、孔を囲む孔近傍電極としてのリング状の飛翔制御電極904が形成されている。同図では、便宜上、貫通孔902と飛翔制御電極904との組合せ(以下、「孔−電極組」という)を1つしか図示していないが、実際には複数設けている。
【0003】
回路基板903の図中下方には、回路基板903を介してトナー担持ローラ901に対向する対向電極906と、この対向電極6上で図示しない搬送手段によって図紙面に直交する方向に搬送される記録紙907とが配設されている。トナー担持ローラ901は、例えば接地された状態で、マイナス極性のトナー粒子Tを表面に担持する。この状態で、複数の貫通孔902のうち、記録紙907の画像部に対応する位置にある貫通孔902である画像孔を囲んでいる飛翔制御電極904に対し、例えばプラス極性の記録オン電圧を印加したとする。すると、トナー担持ローラ901の表面上において、その飛翔制御電極904と対向する位置にあるトナー粒子Tに、ローラ側から電極側に向かう静電気力が作用する。これにより、トナー粒子Tの集合体がドット状の形状でトナー担持ローラ901から飛翔して貫通孔902内に進入する。そして、飛翔制御電極904と、これよりも高い電位になっている対向電極906との間に形成される電界に引かれて飛翔を続け、貫通孔902を通過して記録紙7の表面に付着する。この付着により、トナー粒子Tの集合体はドットを形成する。
【0004】
このような直接記録方式においては、複数の飛翔制御電極904に対する記録オン電圧の入切を、それぞれ専用のICによって個別に行う必要があり、そのICはかなりの数になる。例えば、600[dpi]の解像度で画像を形成する仕様では、貫通孔902と飛翔制御電極904とからなる「孔−電極組」を4960組設ける必要があるため、前述のICが4960個必要になる。一般に、ICはその耐電圧が高くなるほど高価になるため、直接記録方式では記録オン電圧の値をできるだけ低く抑えることが重要になる。ところが、鏡像力、ファンデルワールス力、液架橋力などによるトナー担持ローラ901とトナー粒子Tとの付着力に打ち勝てる電界を形成するためには、記録オン電圧の値を少なくとも500[V]以上にする必要がある。このことが、低コスト化を図る上での障害になっていた。
【0005】
一方、従来、いわゆるホッピング現像方式によって現像を行う画像形成装置が知られている。ホッピング現像方式では、ローラや磁性キャリアに付着させたトナー粒子を現像に用いるのではなく、トナー担持体の表面上でホッピングさせたトナー粒子を現像に用いる。例えば、特許文献2に記載の画像形成装置は、周方向に所定のピッチで配設された複数のホッピング電極を具備する筒状のトナー担持体を有している。複数のホッピング電極のうち、偶数番目の配列位置にあるものに対しては、互いに同じA相の繰り返しパルス電圧を印加する一方で、奇数番目の配列位置にあるものに対しては、互いに同じB相の繰り返しパルス電圧を印加する。これにより、互いに隣り合う2つのホッピング電極の間に交番電界を形成して、トナー粒子をA相電極とB相電極との間において往復でホッピングさせる。そして、トナー担持体の回転により、ホッピング中のトナー粒子Tを潜像担持体に対向する現像領域に搬送して現像に寄与させる。
【0006】
ホッピング現像方式としては、トナー担持体を回転等によって表面移動させずに、トナー担持体の表面上のトナー粒子を現像領域に搬送する方式も知られている。例えば、特許文献3の画像形成装置では、次のようにしてトナー粒子を現像領域に搬送している。即ち、この画像形成装置では、A相電極、B相電極、C相電極という順で並ぶ3相の電極からなる電極組を、トナー担持体に複数並べて配設している。そして、トナー担持体の表面上において、A相電極上からB相電極上へ、B相電極上からC相電極上へ、C相電極上からA相電極上へ、という順でトナー粒子を繰り返しホッピングさせていく。このホッピングにより、平板状のトナー担持体の一端側から他端側の現像領域に向けてトナー粒子を搬送している。
【0007】
何れのホッピング現像方式においても、トナー担持体の表面上でトナー粒子をホッピングさせることで、トナー担持体とトナー粒子との付着力を無くすことが可能である。この原理を、図1に示した直接記録方式の構成に応用すれば、記録オン電圧の値を大幅に低減することが可能である。トナー粒子Tにおけるトナー担持ローラ901表面との付着力をホッピングによって無くすことで、トナー粒子Tを回路基板903の貫通孔902に通すための電界として、付着力に打ち勝つほど強いものを形成する必要がなくなるからである。このように、トナー担持体の表面上でホッピングさせたトナーを貫通孔に通す直接記録方式(以下、ホッピング直接記録方式という)を利用する画像形成装置としては、特許文献4に記載のものが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、ホッピング直接記録方式においては、次に説明する理由により、画像濃度ムラを引き起こし易いという不具合があった。即ち、図2は、ホッピング直接記録方式の画像形成装置における要部構成を示す構成図である。同図において、トナー担持ローラ901の表面上には、ホッピングしたトナーによる浮遊トナー層Ltが形成されている。この浮遊トナー層Ltの厚みはローラ全周に渡ってほぼ均一であり、浮遊トナー層Ltはローラ湾曲面に沿って湾曲した形状をなしている。これに対し、板状の回路基板903の表面は平面であるので、回路基板903に形成された複数の貫通孔902は、互いに浮遊トナー層Ltとの距離である層〜孔間距離が異なっている。すると、層〜孔間距離が比較的小さくなっている貫通孔902よりも、比較的大きくなっている貫通孔902の方が、トナー通過量を減少させてドットの画像濃度を低くする。図示の例では、4つの貫通孔902のうち、両端の2つの貫通孔が、中央寄りの2つの貫通孔に比べてそれぞれトナー通過量を減少させてドットの画像濃度を低くするのである。このことが、画像濃度ムラを引き起こす原因になっていた。
【0009】
本発明は以上の問題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、画像濃度ムラを従来よりも抑えることができるホッピング直接記録方式の画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、基板を厚み方向に貫通する貫通孔、及び該貫通孔の近傍に設けられた孔近傍電極の組合せを複数具備する回路基板と、自らの湾曲表面に担持したトナーを、前記湾曲表面に沿って並ぶ複数のホッピング電極の間でホッピングさせることで前記湾曲表面上に浮遊トナー層を形成しながら、前記湾曲表面の移動、あるいはトナーの繰り返しのホッピングによる該浮遊トナー層の移動で、トナーを前記回路基板との対向領域に搬送するトナー担持体と、ホッピング用周期パルス電圧を前記複数のホッピング電極に印加して、トナーをホッピングさせるための電界をホッピング電極間に形成するホッピング電圧印加手段と、前記回路基板における前記トナー担持体との対向面とは反対側の面に対して所定の間隙を介して対向する対向電極と、前記回路基板における複数の貫通孔のうち、画像を記録する記録部材の画像部に対応する位置にある貫通孔である画像孔と前記組合せをなしている孔近傍電極に対し、ドットを記録するための記録オン電圧を印加にする一方で、複数の貫通孔のうち、前記記録部材の非画像部に対応する位置にある貫通孔である非画像孔と前記組合せをなしている孔近傍電極に対し、ドットを記録しないための記録オフ電圧を印加する記録電圧印加手段とを備え、前記トナー担持体の湾曲表面と前記回路電極との対向領域にて、前記湾曲表面上の浮遊トナー層中のトナーを、前記画像孔に通して対向電極に向けて飛翔させ、対向電極上の記録部材に付着させてドットを記録することで画像を形成する画像形成装置において、前記湾曲表面と前記回路基板との間の空間内であって、且つ前記回路基板における貫通孔と前記湾曲表面との距離が比較的大きくなっている領域に、前記記浮遊トナー層の厚みをより大きくするための増厚電極を設けるとともに、該増厚電極に増厚用電圧を印加して前記浮遊トナー層における増厚電極対向箇所の厚みを増厚せしめる増厚電圧印加手段を設け、前記増厚電圧として、前記ホッピング用周期パルス電圧の単位時間あたりの平均電位よりもトナーの帯電極性とは反対極性側に大きな値であり、且つ前記記録オン電圧よりもトナーの帯電極性側に大きな値の直流電圧からなるもの、あるいは、中心値が前記平均電位よりもトナーの帯電極性とは反対極性側に大きく、且つトナーの帯電極性側のピークが前記平均電位、前記記録オン電位又は前記記録オフ電位よりも前記帯電極性側に大きい周期パルス電圧からなるもの、を採用したことを特徴とするものである。
また、請求項2の発明は、請求項1の画像形成装置であって、前記増厚用電圧は、前記ピーク値が前記平均電位よりもトナーの帯電極性側に大きい周期パルス電圧からなることを特徴とするものである。
また、請求項3の発明は、請求項1の画像形成装置であって、前記増厚用電圧が、直流成分だけからなることを特徴とするものである。
また、請求項4の発明は、請求項1乃至3の何れかの画像形成装置であって、前記記録オフ電圧が、直流成分だけからなる前記増厚用電圧よりもトナーの帯電極性側に大きな値であるか、あるいは、周期パルス電圧からなる前記増厚用電圧の中心値よりもトナーの帯電極性側に大きな値であることを特徴とするものである。
また、請求項5の発明は、請求項1又は2の画像形成装置であって、前記増厚用電圧は、周波数が前記ホッピング用周期パルス電圧の周波数よりも高い周期パルス電圧からなることを特徴とするものである。
また、請求項6の発明は、請求項1乃至5の何れかの画像形成装置において、前記増厚電極として、ワイヤーからなるものを用いたことを特徴とするものである。
また、請求項7の発明は、請求項1乃至6の何れかの画像形成装置において、上記増厚電極として、絶縁性材料からなる表面層を具備するものを用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
これらの発明では、トナー担持体の湾曲表面と回路基板との間の空間内であって、且つその湾曲表面と回路基板の貫通孔との距離が比較的大きくなっている領域において、トナー担持体のホッピング電極に印加されるホッピング用周期パルス電圧の平均電位よりも、増厚電極に印加される増厚用電圧の方がトナーの帯電極性とは逆極性側に大きな値になっていることで、湾曲表面上でホッピングしたトナーがホッピングの軌道を超えて増厚電極の周辺に集まる。これにより、トナー担持体の湾曲表面と貫通孔との距離が比較的大きくなっている領域において、比較的小さくなっている領域に比べて浮遊トナー層の厚みが増大することで、回路基板の各貫通孔と浮遊トナー層との距離のバラツキが低減される。すると、各貫通孔に対する通過トナー量のバラツキが低減されるので、画像濃度ムラを従来よりも抑えることができる。
なお、これらの発明においては、増厚用電圧として、画像孔の近傍に配設された孔近傍電極に印加される記録オン電圧よりもトナーの帯電極性側に大きな値(直流成分の値、又は周期パルス電圧の中心値)のものを増厚電極に印加することで、後述するように、増厚電極へのトナー固着の発生を抑えることが可能になるという効果を奏することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】従来の直接記録方式の画像形成装置における要部構成を示す構成図。
【図2】従来のホッピング直接記録方式の画像形成装置における要部構成を示す構成図。
【図3】実施形態に係るプリンタを示す概略構成図。
【図4】同プリンタにおけるY用の画像形成部のトナー担持スリーブを示す斜視図。
【図5】同トナー担持スリーブを示す横断面図。
【図6】同トナー担持スリーブの円筒部を平面的に展開した平面展開図。
【図7】同トナー担持スリーブのA相電極に印加されるA相ホッピング電圧、及びB相電極に印加されるB相ホッピング電圧の波形を示すグラフ。
【図8】A相ホッピング電圧、B相ホッピング電圧の他の例における波形を示すグラフ。
【図9】同画像形成部の一部とその周囲とを示す拡大構成図。
【図10】同画像形成部の回路基板の飛翔制御電極に印加される記録オン電圧Vc−onと記録オフ電圧Vc−offとの関係を示すグラフ。
【図11】同回路基板を中間記録ベルトとともにトナー担持スリーブ側から示す平面図。
【図12】記録オン電圧Vc−onが印加された状態の同飛翔制御電極と、その周囲とを示す拡大模式図。
【図13】記録オフ電圧Vc−offが印加された状態の同飛翔制御電極と、その周囲とを示す拡大模式図。
【図14】同画像形成部を示す拡大構成図。
【図15】同画像形成部におけるトナー担持スリーブと対向電極板との間を示す拡大構成図。
【図16】第1変形例に係るプリンタのY用の画像形成部におけるトナー担持スリーブと対向電極板との間を示す拡大構成図。
【図17】第2変形例に係るプリンタにおけるY用のトナー担持スリーブの円筒部を平面的に展開した平面展開図。
【図18】同円筒部を示す横断面図。
【図19】第3変形例に係るプリンタのY用のホッピングユニットを示す拡大構成図。
【図20】第4変形例に係るプリンタを示す概略構成図。
【図21】第5変形例に係るプリンタにおけるY用のトナー担持スリーブの円筒部を平面的に展開した平面展開図。
【図22】同円筒部を示す断面図。
【図23】同円筒部のA相電極に印加されるA相ホッピング電圧、B相電極に印加されるB相ホッピング電圧、及びC相電極に印加されるC相パルス電圧の波形を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を適用したホッピング直接記録方式の画像形成装置として、カラープリンタ(以下、単にプリンタという)の一実施形態について説明する。
まず、本プリンタの基本的な構成について説明する。図3は実施形態に係るプリンタを示す概略構成図である。同図において、本プリンタは、イエロー(Y),マゼンタ(M),シアン(C),黒(K)のトナーを用いて画像を形成するY,M,C,K用の画像形成部90Y,M,C,K、記録ベルト駆動装置100、給紙カセット120、レジストローラ対122、定着装置130などを備えている。
【0014】
画像形成部90Y,M,C,Kは、水平方向に所定のピッチで並ぶように配設され、それぞれ、回路基板10Y,M,C,Kや、トナー担持体たるトナー担持スリーブ30Y,M,C,Kなどを有している。
【0015】
記録ベルト駆動装置100は、画像形成部90Y,M,C,Kの上方に配設されている。無端状の中間記録ベルト101、駆動ローラ102、従動ローラ103、対向電極板104Y,M,C,K、ベルトクリーニング装置110、転写ローラ115などを有している。記録部材としての中間記録ベルト101は、駆動ローラ102と従動ローラ103とによって水平方向に延在する姿勢で張架されながら、駆動ローラ102の図中反時計回りの回転駆動によって図中反時計回り方向に無端移動せしめられる。中間記録ベルト101のおもて面(ループ外面)は、ベルト無端移動に伴って画像形成部90Y,M,C,Kとの対向位置を順次通過していく。この際、Y,M,C,Kトナー像が順次重ね合わせて記録されていく。これにより、中間記録ベルト101のおもて面には4色重ね合わせトナー像が形成される。
【0016】
記録ベルト駆動装置100の4つの対向電極板104Y,M,C,Kは、中間記録ベルト101のループ内で、ベルトを介して、画像形成部90Y,M,C,Kの回路基板30Y,M,C,Kに対向するように配設されている。また、記録ベルト駆動装置100の転写ローラ115は、中間記録ベルト101のループ外に配設され、ベルトにおける駆動ローラ102に対する掛け回し箇所に当接して転写ニップを形成している。この転写ニップにおいては、図示しない電源によってプラスの転写バイアスが印加される転写ローラ115と、駆動ローラ102との電位差によって転写電界が形成されている。
【0017】
記録ベルト駆動装置100のベルトクリーニング装置110は、中間記録ベルト101における周方向の全領域のうち、転写ニップを通過した後、Y用の画像形成部90Yとの対向位置に進入する前の領域に当接するように配設されている。
【0018】
給紙カセット120は、複数枚の記録紙Pを重ね合わせて収容しており、一番上の記録紙Pの給紙ローラ120aを当接させている。そして、所定のタイミングで給紙ローラ120を回転駆動させて、一番上の記録紙Pを給紙路121に向けて送り出す。送り出された記録紙Pは、上述の転写ニップの直前に配設されたレジストローラ対122のローラ間に挟まれる。レジストローラ対122は、ローラ間に挟み込んだ記録紙Pを、中間記録ベルト101上の4色重ね合わせトナー像に密着させ得るタイミングを見計らって転写ニップに向けて送り出す。転写ニップで記録紙Pに密着せしめられた4色重ね合わせトナー像は、転写電界やニップ圧の作用によって記録紙Pに転写され、記録紙Pの白色と相まってフルカラートナー像になる。このようにしてフルカラートナー像が形成された記録紙Pは、転写ニップから定着装置130に送られてフルカラートナー像が定着せしめられた後、機外へと排出される。なお、定着装置130は、ハロゲンランプ等の発熱源を内包する加熱ローラ121とこれに向けて押圧されている加圧ローラ122との当接によって定着ニップを形成している。そして、この定着ニップ内に記録紙Pを挟み込んだ際に、ニップ圧や加熱の作用によってフルカラートナー像を記録紙Pの表面に定着せしめる。
【0019】
ベルトクリーニング装置110は、転写ニップを通過した後の中間記録ベルト101に付着している転写残トナーをクリーニングする。
【0020】
図4は、Y用の画像形成部(90Y)のトナー担持スリーブ30Yを示す斜視図である。また、図5は、このトナー担持スリーブ30Yの横断面図である。また、図6は、トナー担持スリーブ30Yの円筒部31Yを平面的に展開した平面展開図である。図4に示すように、トナー担持スリーブ30Yは、円筒部31Y、これの軸線方向の両端面にそれぞれ接続されたフランジ36Y,38Y、それぞれのフランジの中心から突出する軸部材37Y,39Yなどを有している。円筒部31Yの周面には、ローラ軸線方向に延在する形状の複数の電極33Yが、周方向(回転方向)に所定のピッチで並ぶように形成されている。これら電極のうち、周方向において1個おきに並んでいるもの同士は、互いに同じ電位状態にされる電気的に同相の電極になっている。具体的には、円筒部31Yの周面には、図5や図6に示すように、A相電極33aYとB相電極33bYとが周方向に交互に並ぶように配設されている。A相電極33aYは、円筒部31Yの軸線方向の一端まで延在しており、円筒部31Yの一端には金属製のフランジ36Yが接続されている(図4を参照)。このフランジ36Yにより、複数のA相電極33aYが互いに電気的に導通している。また、B相電極33bYは、円筒部31Yの軸線方向の他端まで延在しており、円筒部31Yの他端には金属製のフランジ38Yが接続されている。このフランジ38Yにより、複数のB相電極33bYが互いに電気的に導通している。
【0021】
図4に示したトナー担持スリーブ30Yは、軸線方向の両端の軸部材37Y,39Yがそれぞれ回転自在に支持されながら回転駆動される。そして、図示のように、図中左側のフランジ36Yには、搬送制御部91Yによって周期パルス電圧からなるA相ホッピング電圧(A相ホッピング用周期パルス電圧)が印加される。この印加は、フランジ36Yに摺擦する図示しない摺擦電極を介して行われる。フランジ36Yに印加されたA相ホッピング電圧は、複数のA相電極33aYにそれぞれ導かれる。また、図中右側のフランジ38Yには、搬送制御部91Yによって周期パルス電圧からなるB相ホッピング電圧が印加される。この印加は、フランジ38Yに摺擦する図示しない摺擦電極を介して行われる。フランジ38Yに印加されたB相ホッピング電圧は、複数のB相電極33bYにそれぞれ導かれる。
【0022】
図7は、A相電極33aYに印加されるA相ホッピング電圧、及びB相電極33bYに印加されるB相ホッピング電圧の波形を示すグラフである。A相ホッピング電圧と、B相ホッピング電圧とは、図示のように互いに逆位相になっており、単位時間あたりにおける平均電位は互いに同じである。それぞれのホッピング電圧の波形における中心位置で水平方向に延在している線が、この平均電位を示している。これにより、A相電極33aYやB相電極33bYは、平均的にトナーとは逆極性の電位を帯びる。このようなホッピング電圧がそれぞれの電極に印加されると、トナー担持スリーブ30Yにおける円筒部31Yの表面上のYトナーが、A相電極33aY上とB相電極33bY上との間を往復移動するように繰り返しホッピングする。以下、トナー担持スリーブ30Yの表面上でトナーが所定の周期でホッピングを繰り返している状態をフレア(Flare)という。
【0023】
A相ホッピング電圧やB相ホッピング電圧としては、周波数が0.5〜7[kHz]でピークツウピーク電圧が±60〜±300Vである周期パルス電圧に、平均電位調整のためのDC電圧を重畳したものを例示することができる。なお、図示のような矩形波状のパルス電圧では、極性が瞬時に切り替わるため、トナーに対して大きな静電力を付与することが可能である。但し、サイン波状のパルス電圧や三角波状のパルス電圧を採用してもよい。また、A相電極33aYとB相電極33bYとのうち、一方に対して周波数fの矩形波状のホッピング電圧を印加する一方で、もう一方に対して前記パルス電圧の平均電位となる直流電圧を印加しても、互いに逆位相のホッピング電圧を採用する場合と同様に、フレア現象を生起せしめることが可能である(図8)。
【0024】
円筒部31Yの周面におけるA相電極33aY上とB相電極33bYとの間をホッピングによる往復移動の繰り返しで、円筒部31Yの周面上にフレアを形成しているYトナーは、トナー担持スリーブ30Yの回転駆動により、図3に示したY用の回路基板10Yに対向するY用の記録領域まで搬送される。そして、その記録領域にて、その放物線状のホッピング軌跡の頂点付近で回路基板10Yの近傍に至ると、必要に応じて回路基板10Yの後述する図示しない貫通孔内に取り込まれて、トナー像の記録に寄与する。
【0025】
なお、図5に示したように、円筒部31Yの表面には、絶縁材料からなる表面保護層34Yを設けている。この表面保護層34Yにより、YトナーとA相電極33aYやB相電極33bYとの直接接触を回避することで、電極からYトナーへの電荷注入の発生を回避している。
【0026】
先に示した図5において、円筒部31Yの円筒状の基材32Yとしては、ガラス基板、樹脂基板、セラミックス基板等の絶縁性材料からなる基板、アルミ等の導電性材料からなる基板にSiO2等の絶縁膜を成膜したもの、ポリイミドフィルム等の変形可能な材料からなる基板などを用いることができる。
【0027】
A相電極33aYやB相電極33bYについては、次のようにして作成した。即ち、まず、基板32Y上にAl、Ni−Cr等の導電性材料を0.1〜10[μm]の厚みで成膜してから、これをフォトリソグラフィー技術等によって所要の電極形状にパターン化して各電極を得た。導電性材料からなる膜を、メッキ等によって電極形状にパターン加工してもよい。
【0028】
表面保護層34Yとしては、例えばSiO2、TiO2、TiN、Ta2O5などを厚さ0.5〜10[μm]で成膜して形成している。ポリカーボネート、ポリイミド、メチルメタアクリレート等の有機材料を0.5〜10μm厚に薄膜印刷塗布して加熱硬化したものでもよい。
【0029】
図9は、Y用の画像形成部90Yの一部とその周囲とを示す拡大構成図である。トナー担持体としてのトナー担持スリーブ30Yは、表面上のトナーをA相電極とB相電極との間でホッピングさせてフレアを形成しながら、図中時計回り方向に回転駆動する。このトナー担持スリーブ30Yの上方にはY用の回路基板10Yが配設されており、スリーブとの間に距離dのギャップを介在させている。更に、回路基板10Yの上方では、中間記録ベルト101が図中矢印A方向に移動しており、更にその上方には対向電極板104Yがベルトと回路基板10Yとを介してトナー担持スリーブ30Yに対向している。
【0030】
回路基板10Yは、絶縁性基板11Yを具備している。また、絶縁性基板11Yに形成された複数の貫通孔14Yと、それぞれの貫通孔14Yに個別に対応する複数の飛翔制御電極12Yとを具備している。
【0031】
図10は、孔近傍電極としての飛翔制御電極12Yに印加される記録オン電圧Vc−onと記録オフ電圧Vc−offとの関係を示すグラフである。また、図11は、回路基板10Yを中間記録ベルト101とともにトナー担持スリーブ側から示す平面図である。図9では、便宜上、貫通孔14Yと飛翔制御電極12Yとの組合せを1つしか示していなかったが、図11に示すように、回路基板10Yには、その組合せが複数形成されている。飛翔制御電極12Yは、そのリング形状のループ内側に1つの貫通孔14Yを位置させるように形成されている。複数の飛翔制御電極には、それぞれ金属からなる図示しないリード部が繋がっており、これらリード部は互いに絶縁を維持する状態で、後述する記録制御部(図9の28Y)に接続されている。
【0032】
平面方向において、リング状の飛翔制御電極12Yの電極幅は10〜100[μm]である。リング状の飛翔制御電極12Yの内側に形成された貫通孔14Yの径は、形成するドットの径に応じて決定されるが、直径φで50〜200[μm]程度である。
【0033】
回路基板10Yは、例えば次のようにして製造されたものである。即ち、まず、厚さ30〜100[μm]の絶縁性フィルムからなる絶縁性基板11Yの表面に、厚さ0.2〜1[μm]程度の金属蒸着膜(例えばアルミ蒸着膜)を形成する。絶縁性フィルムの材質としては、ポリイミド、PET、PEN、PES等を例示することができる。次に、フォトリソグラフィー技術に用いるフォトレジストをスピンナで塗布後、プリベーク及びマスク露光を行う。そして、フォトレジストの加熱硬化を進めた後、金属エッチング液によって金属蒸着膜を個々の電極やリードの形状にパターンニングする。フィルムの裏面にも電極パターンが必要な場合には、同様のパターンニングを行う。貫通孔14Yについては、電極パターン形成後にパンチ加工、レーザー加工、スパッタエッチング加工等のドライエッチング加工などによって形成する。
【0034】
先に図9に示したように、搬送制御部91Yは、トナー担持スリーブ30YのA相電極やB相電極に対し、先に図7に示したA相ホッピング電圧やB相パルスを印加して、スリーブ表面上のトナーを電極間でホッピングさせる。それらパルス電圧は、何れもデューティ比が50%になっているので、ピークツウピーク電圧Vppの中心電位が、スリーブ表面上での平均電位Vsとなる。ホッピング電圧の周波数fは、例えば、0.5〜7[KHz]程度である。ホッピング電圧のVppは、±60〜±300[V]程度がよい。
【0035】
一方、回路基板10Yの飛翔制御電極12Yは記録制御部28Yに接続されている。この記録制御部28Yは、回路基板10Yの複数の飛翔制御電極12Yに対する、記録オン電圧Vc−onや記録オフ電圧Vc−off(図10参照)の印加をそれぞれ個別に入切することができる。図10に示した記録オン電圧Vc−onと記録オフ電圧Vc−offとの間の点線は、上述したA相ホッピング電圧とB相ホッピング電圧との平均電位Vsを示している。つまり、ホッピング電圧の平均電位Vsは、飛翔制御電極12Yに印加される記録オン電圧Vc−onと記録オフ電圧Vc−offとの間の値になっている。より詳しく説明すると、記録オン電圧Vc−onは、スリーブの平均電位Vsよりも、トナーの帯電極性とは逆極性側に大きな値になっている。これにより、複数の飛翔制御電極12Yのうち、記録オン電圧Vc−onが印加されたものは、その上方に位置しているスリーブ表面上のホッピングトナーを自らに向けて引き寄せるようになる。これに対し、記録オフ電圧Vc−offは、スリーブの平均電位Vsよりも、トナーの帯電極性側に大きな値になっている。これにより、複数の飛翔制御電極12Yのうち、記録オフ電圧Vc−offが印加されたものは、その上方に位置しているスリーブ表面上のホッピングトナーを自らと反発させるようになる。
【0036】
回路基板10Yと中間記録ベルト101とを介してトナー担持スリーブ30Yに対向している対向電極104Yには、対向電源116によって対向バイアスVpが印加されている。この対向バイアスは、トナーの帯電極性とは逆極性であり、且つ上述した記録オン電圧Vc−onよりも、トナーとは逆極性側に大きな値になっている。
【0037】
図12は、記録オン電圧Vc−onが印加された状態の飛翔制御電極12Yと、その周囲とを示す拡大模式図である。図示の飛翔制御電極12Yには、トナーの帯電極性とは逆極性の+50[V]の記録オン電圧Vc−onが印加されている。また、図示しない対向電極板(図9の104Y)には、トナーの帯電極性と同極性であり、且つ記録オン電圧Vc−onよりも大きな+600[V]の対向バイアスVpが印加されている。すると、図示のように、貫通孔14Yを取り囲んでいる共通電極13Yの表面上から延びた電気力線が、貫通孔14Y内に回り込み、更に、孔内を通過して図示しない対向電極板に向けて真っ直ぐに延びる。加えて、トナー担持スリーブの電極から延びた電気力線が貫通孔14Yを経由して図示しない対向電極板まで延びる。この電気力線は、電極周りの電気力線の様子を所定のアルゴリズムで分析するシミュレーションプログラムによって求められたものである。図示しないトナー担持スリーブの表面上でホッピングしているトナーは、図示の電気力線に引かれて貫通孔14Y内に進入した後、孔を通過して図示しない対向電極板に向けて飛翔する。そして、対向電極板状の中間記録ベルトに着地してドットを形成する。
【0038】
なお、このシミュレーションでは、ホッピング電圧のピークの一方を+200[V]、他方を−200[V]に設定した(平均電位=0V)。また、トナー担持スリーブの円筒部31Yと、回路基板10Yとの間隔を0.2[mm]に設定している。また、貫通孔14Yの直径φを120[μm]に設定し、飛翔制御電極12Yの幅を50[μm]に設定した。
【0039】
図13は、記録オフ電圧Vc−offが印加された状態の飛翔制御電極12Yと、その周囲とを示す拡大模式図である。図示の飛翔制御電極12Yには、−200[V]の記録オフ電位Vc−offが印加されている。このような条件では、図示のように、飛翔制御電極12Yの表面から発生する電気力線が回路基板10Yにおけるトナー担持スリーブ側の表面上に出ることなく、ループ内側面から貫通孔14Y内に進入した後、図示しない対向電極板に向けて真っ直ぐに延びる。また、トナー担持スリーブの円筒部31Yからは電気力線が発生しない状態になる。このため、円筒部31Yの表面上でホッピングする図示しないトナーは、貫通孔14Y内に取り込まれることなく、ホッピングを維持する。よって、記録オフ電位Vc−offが印加される飛翔制御電極12Yとの対向位置では、ドットが中間記録ベルト上に記録されない。
【0040】
図14は、Y用の画像形成部(90Y)を示す拡大構成図である。図3では、便宜上、トナー担持スリーブ30Yの周囲構成を割愛して示していたが、図14に示すように、トナー担持スリーブ30Yは、ホッピングユニット40Yのケーシング41Y内に収容されている。ホッピングユニット40Yは、トナー担持スリーブ30Yの他に、第1剤収容部48Y、第2剤収容部46Y、磁気ブラシ部などを有している。
【0041】
第1剤収容部48Yは、図中時計回り方向に回転駆動される第1搬送スクリュウ49Yを、図示しない磁性キャリアとトナーとを混合した混合剤とともに収容している。また、第2剤収容部46Yは、図中反時計回りに回転駆動される第2搬送スクリュウ47Yを、混合剤とともに収容している。これら剤収容部は、互いに仕切壁によって仕切られているが、一部が互いに連通口を介して連通している。
【0042】
第1搬送スクリュウ49Yは、その回転駆動によって第1収容部48Y内の混合剤を回転撹拌しながら、図紙面に直交する方向における手前側から奥側へと搬送する。このとき、搬送途中の混合剤は、第1収容部48Yの天板に固定されたトナー濃度センサ50Yによってトナー濃度が検知される。そして、図中奥側の端部付近まで搬送された混合剤は、仕切壁の連通口を経て、第2収容部46Y内に進入する。
【0043】
第2収容部46Yは、後述するトナー供給ロール42Yを収容する磁気ブラシ形成部に連通しており、第2搬送スクリュウ47Yとトナー供給ロール42Yとは所定の間隙を介して互いに軸線方向を平行にする姿勢で対向している。第2収容部46Y内の第2搬送スクリュウ47Yは、その回転駆動によって第2収容部46Y内の混合剤を回転撹拌しながら、図中奥側から手前側へと搬送する。この過程において、第2搬送スクリュウ47Yによって搬送される混合剤の一部は、トナー供給ロール42Yの筒状のトナー供給スリーブ43Yによって汲み上げられる。そして、トナー供給スリーブ43Yの図中反時計回り方向の回転駆動に伴って、後述するトナー供給領域を通過した後、トナー供給スリーブ43Yの表面から離脱して再び第2収容部46Y内に戻される。その後、第2搬送スクリュウ47Yによって図中手前側の端部付近まで搬送された混合剤は、仕切壁の連通口を経て第1収容部48Y内に戻される。
【0044】
上述したトナー濃度センサ50Yは、透磁率センサからなる。このトナー濃度センサ50Yによる混合剤の透磁率の検知結果は、電圧信号として図示しない制御部に送られる。混合剤の透磁率は、混合剤のKトナー濃度と相関を示すため、トナー濃度センサ50Yはトナー濃度に応じた値の電圧を出力することになる。
【0045】
本プリンタの図示しない制御部はデータ記憶手段としてのRAM(Random Access Memory)を備えており、この中にトナー濃度センサ50Yからの出力電圧の目標値であるY用のVtrefを格納している。そして、トナー濃度センサ50Yからの出力電圧値と、RAM内のY用のVtrefとを比較して、比較結果に応じた時間だけ図示しないトナー供給装置を駆動させる。この駆動により、作像に伴うトナー消費によってトナー濃度を低下させた混合剤に対し、第1収容部48Y内に適量のトナーが供給される。このため、第2収容部46Y内の混合剤のトナー濃度が所定の範囲内に維持される。
【0046】
トナー供給ロール42Yは、図中反時計回り方向に回転駆動される非磁性材料からなる筒状のトナー供給スリーブ43Yと、これに連れ回らないように内包されるマグネットローラ44Yとを有している。筒状のトナー供給スリーブ43Yは、アルミニウム、真鍮、ステンレス、導電性樹脂などの非磁性体が円筒形に形成されたものである。また、マグネットローラ44Yは、図示のように、回転方向に並ぶ複数の磁極(図中12時の位置から反時計回り方向に順にN極、S極、N極、S極、N極、S極)を有している。これら磁極により、トナー供給スリーブ43Yの周面上に混合剤が吸着せしめられて、磁力線に沿って穂立ちした磁気ブラシとなる。
【0047】
トナー供給スリーブ43Yの表面に汲み上げられた混合剤は、トナー供給スリーブ43Yの回転に伴って図中反時計回り方向に回転する。そして、自らの先端をトナー供給スリーブ43Yの表面に対して所定の間隙を介して対向させている規制部材45Yとの対向位置である担持量規制位置に進入する。このとき、規制部材45Yとスリーブ表面との間隙を通過することで、スリーブ表面上における担持量が規制される。
【0048】
トナー供給スリーブ43Yの図中左側方では、トナー担持体たるトナー担持スリーブ30Yがトナー供給スリーブ43Y表面と所定の間隙を介して対向しながら、図示しない駆動手段によって図中反時計回り方向に回転駆動されている。トナー供給スリーブ43Yの回転に伴って上述の担持量規制位置を通過した混合剤は、トナー担持スリーブ30Yとの接触位置であるトナー供給領域に進入して、磁気ブラシ先端を摺擦せしめながら移動する。この摺擦や、トナー供給スリーブ43Yとトナー担持スリーブ30Yとの電位差などにより、磁気ブラシ中のトナーがトナー担持スリーブ30Yの表面上に供給される。なお、トナー供給スリーブ43Yには、バイアス制御部55Yにより、可変可能なバイアスが印加される。トナー供給スリーブ43Yからトナー担持スリーブ30Yへのトナー供給を行うときには、バイアス制御部55Yにより、トナー供給スリーブ43Yに対してトナー供給バイアスが印加される。これにより、トナー供給スリーブ43Yとトナー担持スリーブ30Yとの間に、トナーを前者から後者に移動させる電界が形成される。供給バイアスは、トナーの帯電極性と同極性の直流電圧でもよいし、かかる直流電圧に交流電圧を重畳したものでもよい。
【0049】
トナー供給領域を通過したトナー供給スリーブ43Y上の磁気ブラシ(混合剤)は、スリーブの回転に伴って第2収容部46Yとの対向位置まで搬送される。この対向位置の付近には、マグネットローラ44Yに磁極が設けられておらず、混合剤をスリーブ表面に引き付ける磁力が作用していないため、混合剤はスリーブ表面から離脱して第2収容部46Y内に戻る。なお、マグネットローラ44Yとして、6つの磁極を有するものの代わりに、6つを超える磁極を有するものを用いてもよい。
【0050】
トナー供給スリーブ43Yから供給されたトナーを担持するトナー担持スリーブ30Yは、ケーシング41Yに設けられた開口から周面の一部を露出させている。この露出箇所は、回路基板10Yに対向している。
【0051】
トナー担持スリーブ30Yの表面上に供給されたトナーは、トナー担持スリーブ30Yの表面上でホッピングしながら、トナー担持スリーブ30Yの回転に伴って、トナー供給領域から回路基板10Yとの対向領域に向けて搬送される。そして、回路基板10Yとの対向領域において、必要に応じて回路基板10Yの貫通孔内に取り込まれて、ドットの記録に寄与する。Y用の画像形成部(90Y)について詳しく説明してきたが、他色の画像形成部(90M,C,K)もY用のものと同様の構成になっている。
【0052】
以上の構成の本プリンタにおいては、特許文献1に記載の画像形成装置のようなトナー担持体の表面に付着させているトナーを回路基板の貫通孔内に取り込むものとは異なり、トナー担持体の表面上でホッピングさせているトナーを回路基板の貫通孔内に取り込んでいる。これにより、回路基板の飛翔制御電極に対する印加電圧を制御する記録制御部(例えば28Y)の低コスト化を図ることができる。具体的には、複数の飛翔制御電極に対する記録オン電圧Vc−onや記録オフ電圧Vc−offの入切については、専用のICによって個別に行う必要がある。このICの数は、相当数に及ぶ。例えば、600[dpi]の解像度で画像を形成する仕様では、前述のICを4960個設ける必要がある。一般に、ICは、その耐電圧が高くなるほどチップ面積を必要とするため高価になる。直接記録方式では、いかに制御電圧を下げるかが、記録制御部の低コスト化を図る上で重要な要素となる。ところが、特許文献1に記載の画像形成装置では、ICとして、少なくとも500[V]以上の耐電圧のものを用いる必要がある。これは次に説明する理由による。即ち、トナーとトナー担持スリーブとには、鏡像力、ファンデルワールス力、液架橋力などによって互いに引き付け合うような付着力が作用しており、これに打ち勝つだけの電界をつくり出すには、少なくとも絶対値が500[V]以上であるバイアスを飛翔制御電極に印加しなければならないのである。これに対し、本プリンタにおいては、トナー担持スリーブ30Yの表面上でトナーをホッピングさせることで、スリーブ表面とトナーとの付着力をなくしているので、数十[V]程度のバイアスを飛翔制御電極に印加すれば、記録のオンオフを制御することが可能である。つまり、上述のICとして、200[V]程度の耐電圧のものでよいのである。
【0053】
なお、従来、直接記録方式の画像形成装置において、特許第2933930号公報や特公平2−52260号公報に記載のもののように、トナー担持体に交流電圧を印加することで、いわゆるジャンピング現像方式のように、トナー担持体の表面上のトナーをその表面に吸着させたり、表面から離脱させたりを繰り返すようにした画像形成装置が知られている。しかしながら、この方式では、トナー担持体の表面上からトナーを離脱させる原理として、本プリンタのようにトナー担持体の電極間の電位差を利用しているのではなく、トナー担持体と回路基板との電位差を利用している。このような方式では、トナー担持体に印加する交流電圧として、ピークツウピーク電位の非常に大きなものを採用する必要がある。すると、飛翔制御電極に印加する記録オン電圧もそれに応じた大きな値のものを採用する必要があるので、上述のICの耐電圧を小さくすることが困難である。
【0054】
次に、本プリンタの特徴的な構成について説明する。
図15は、実施形態に係るプリンタのY用の画像形成部におけるトナー担持スリーブと対向電極板との間を示す拡大構成図である。同図において、トナー担持スリーブの円筒部31Yの湾曲表面と、板状の回路基板10Yとの間の空間内であって、且つ回路基板10Yにおける複数の貫通孔14Yのうち、湾曲表面との距離が比較的大きくなっている貫通孔14Yの近傍の位置には、浮遊トナー層Ltの厚みをより大きくするための増厚電極13Yが配設されている。具体的には、複数の貫通孔14Yのうち、円筒部31Yの湾曲表面31Yによるトナー搬送方向で最も上流側に位置している貫通孔14Yは、複数の孔形成領域における図中左端に位置している。また、トナー搬送方向で最も下流側に位置している貫通孔14Yは、複数の貫通孔14Yが形成されている孔形成領域における図中右端に位置している。これら貫通孔14Yは、トナー搬送方向の中央寄りに位置している他の2つの貫通孔14Yに比べて、円筒部31Yの湾曲平面との距離が大きくなっている。すると、浮遊トナー層Ltの厚みが周方向において一様である場合には、他の2つの貫通孔14Yに比べて、浮遊トナー層Ltとの距離が大きくなって、ドットの画像濃度を低下させてしまう。
【0055】
そこで、実施形態に係るプリンタにおいては、図示のように、回路基板10Yの孔形成領域の右端に位置している貫通孔14Yの近傍と、左端に位置している貫通孔14Yの近傍とにそれぞれ、増厚電極13Yを配設している。これら増厚電極13Yは、図11に示したように、トナー担持スリーブの軸線方向に延在するワイヤー状のものである。
【0056】
図15において、2つの増厚電極13Yには、それぞれ増厚電圧印加手段としての増厚電源92Yにより、増厚用電圧が印加されている。この増厚用電圧は、図7に示したホッピング電圧の単位時間あたりの平均電位よりも、トナーの帯電極性とは反対極性側(本例ではプラス側)に大きな値(周期パルス電圧の場合は平均電位)になっている。このような増厚用電圧が印加される増厚電極13Yとトナー担持スリーブの表面との間では、図示のように、浮遊トナー層Ltの厚みが通常よりも大きくなる。これにより、貫通孔14Yと浮遊トナー層Ltとの距離のバラツキを低減することで、各貫通孔14Yに対する通過トナー量を均一化せしめて、画像濃度ムラを従来よりも抑えることができる。
【0057】
なお、増厚用電圧は、図10に示した+50[V]の記録オン電圧Vc−onよりもトナーの帯電極性側に大きな値になっている。これにより、増厚電極13Yの周辺にトナーを集めていても、そのトナーを画像孔に進入させることができる。
【0058】
また、Y用の画像形成部だけについて説明したが、他色用の画像形成部においても、同様の構成により、各貫通孔14Yに対する通過トナー量を均一化せしめて、画像濃度ムラを従来よりも抑えるようになっている。また、トナー搬送方向に直交する方向において所定の間隔で並ぶ複数の貫通孔14Y及び飛翔制御電極12Yの組合せからなる孔電極列を、トナー搬送方向に4列並べた構成の回路基板10Yについて説明したが、4列以外、例えば2列、3列、4列、5列、6列、7列、8列などでもよい。但し、互いに隣合うドットで両端を重ね合わせる都合上、2列以上の孔電極列にして、ある列で形成したドット間を、他の列で補う必要がある。なお、増厚用周期パルス電圧については、周波数を例えば0.3〜5[kHz]程度にし、且つ、数十V〜数百VのVppに設定することが望ましい。
【0059】
次に、本発明者らが行った実験について説明する。本発明者らは、先のシミュレーションで想定した各種電極やギャップの条件と同様のハード構成を有する試験機を用意した。そして、増厚電極13Yに印加する増厚電圧を変化させながら、それぞれの電圧条件下でそれぞれ数百枚のテストプリントを行った。そして、1列目の貫通孔14Yによって形成されたドットと、4列目の貫通孔14Yによって形成されたドットとで画像濃度の差(以下、単に画像濃度ムラという)があるか否かを判定した。また、増厚電極13Yに対するトナー固着の有無を調べた。A相電極やB相電極に印加するホッピング電圧について、Vpp(ピークツウピーク電圧)=400[V]、周波数=0.3〜5[kHz]に設定した。また、飛翔制御電極12Yに印加する記録オン電圧Vc−onについては+50[V]とした。また、飛翔制御電極12Yに印加する記録オフ電圧Vc−offについては−200[V]とした。増厚電極13Yに印加する増厚電圧として、直流+150[V]、直流+30、直流−100[V]を採用した実験番号1、2、3における結果を次の表1、表2、表3に示す。
【表1】
【表2】
【表3】
【0060】
増厚電圧を直流+150[V]に設定した実験番号1においては、表1に示すように、画像濃度ムラを解消することができた。増厚電極13Yに増厚電圧を印加して、増厚電極13Yの周辺で浮遊トナー層の厚みを増厚せしめたことで、列1〜列4における浮遊トナー層と貫通孔との距離のバラツキを低減したためである。しかしながら、増厚電極13Yに対するトナー固着が発生してしまった。このトナー固着は、次のような理由によって生じたものであると考えられる。即ち、増厚電極13Yに直流+150[V]の増厚電圧を印加した場合、ホッピング電圧の平均電位が0[V]になるトナー担持スリーブ31Yと、増厚電極13Yとの間に、トナーをスリーブ側から増厚電極13Yに向けて移動させる電界が形成される。また、−200[V]の記録オフ電圧Vc−offが印加される飛翔制御電極12Yと、増厚電極13Yとの間に、トナーを飛翔制御電極12Y側から増厚電極13Yに向けて移動させる電界が形成される。また、+50[V]の記録オン電圧が印加される飛翔制御電極12Yと、増厚電極13Yとの間に、増厚電極13Yとの間に、トナーを飛翔制御電極12Y側から増厚電極13Yに向けて移動させる電界が形成される。このように、増厚電極13Yに対して、周囲の全ての電極からトナーを引き付けるようになるので、増厚電極13Yに対して長期に渡ってトナーを引き付けてトナー固着を発生させてしまったと考えられる。
【0061】
なお、スリーブ回転方向上流側、下流側にそれぞれ配設している2つの増厚電極13Yのうち、前者については、図15に示したように、4列目の貫通孔14Yよりもスリーブ回転方向上流側に配設している。また、後者については、1列目の貫通孔14Yよりもスリーブ回転方向下流側に配設している。このような配設では、スリーブ表面と、回路基板10Yにおける1列目の孔電極列〜4列目の孔電極列を配設している領域との間には、増厚電極13Yを介在させず、それよりも外側の領域に増厚電極13Yを存在させることになる。すると、実験番号15のように、増厚電極13Yに印加する増厚電圧を、飛翔制御電極12Yに印加する記録オン電圧Vc−onよりもプラス側に大きな値にしても、マイナス帯電性のトナーをその飛翔制御電極12Yの中の画像孔に進入させることができる。
【0062】
増厚電圧を直流+30[V]に設定した実験番号2においても、表2に示したように、画像濃度ムラを解消することができた。増厚電極13Yの周辺で浮遊トナー層の厚みを増厚せしめたことで、列1〜列4における浮遊トナー層と貫通孔との距離のバラツキを低減したからである。また、実験番号1とは異なり、増厚電極13Yにトナーの付着による汚れを発生させたものの、増厚電極13Yに対するトナー固着については解消することができた。+30[V]の増厚電圧の条件では、増厚電極13Yの表面上のトナーを、+50[V]の記録オン電圧Vc−onが印加される飛翔制御電極12Yに向けて引き離すことで、トナー固着を回避することができたと考えられる。
【0063】
増厚電圧を直流−100[V]に設定した実験番号3においては、表3に示したように、画像濃度ムラが発生してしまった。この画像濃度ムラは、肉眼でもはっきりとわかるほど、顕著なものであった。+100[V]の増厚電圧では、トナーを増厚電極13Y側から、平均電位0[V]のスリーブ側に向けて移動させる電界が両者間に形成されるため、浮遊トナー層の厚みを却って小さくしてしまったためと思われる。
【0064】
以上の実験結果から、増厚電圧として直流電圧を採用した場合には、その値を、次のようにすることで、増厚電極13Yの周辺で浮遊トナー層の厚みを増厚せしめて画像濃度ムラを抑え得ることがわかった。即ち、ホッピング用周期パルス電圧たるホッピング電圧の単位時間あたりの平均電位よりもトナーの帯電極性とは反対極性側に大きな値にするのである。また、直流電圧からなる増厚電圧を、次のような値にすることで、増厚電極13Yに対するトナー固着の発生を抑え得ることもわかった。即ち、記録オン電圧Vc−onよりもトナーの帯電極性側に大きな値にするのである。
【0065】
本発明者らは次に、増厚電圧として、交流成分を含むものを採用して同様の実験を行った。交流成分としては、Vpp=400[V]のものを採用した。ホッピング電圧、記録オン電圧Vc−on、記録オフ電圧Vc−offは、先の実験と同様である。実験番号4、5、6の結果を次の表4、表5、表6に示す。
【表4】
【表5】
【表6】
【0066】
これらの表に示すように、実験番号4、5、6の何れにおいても、増厚電極13Yに対するトナー固着の発生を回避することができた。何れの実験においても、増厚電圧のAC下側ピークを迎えたときの増厚電極13Yの電位(−50、−170又は−300)が、−200[V]の記録オフ電圧Vc−offよりもプラス側に大きくなって、増厚電極13Y表面のトナーをから飛翔制御電極12Y(Vc−offを印加したもの)に向けて引き離したためであると考えられる。但し、実験番号4、5では、画像濃度ムラを引き起こしていないのに対し、実験番号6では画像濃度ムラを発生させてしまっている。実験番号6では、増厚電圧の平均電位(−100V)がホッピング電圧の平均電圧(0V)よりもマイナス側に大きいために、浮遊トナー層を増厚させることができなかったからである。
【0067】
これらの結果から、増厚電圧として交流成分を含むものを採用した場合には、その値を、次のようにすることで、増厚電極13Yの周辺で浮遊トナー層の厚みを増厚せしめて画像濃度ムラを抑え得ることがわかった。即ち、中心値がホッピング電圧の単位時間あたりの平均電位よりもトナーの帯電極性とは反対極性側に大きい値にするのである。また、交流成分を含む増厚電圧を、次のような値にすることで、増厚電極13Yに対するトナー固着の発生を抑え得ることもわかった。即ち、トナーの帯電極性側のピークが前記平均電位、記録オン電圧Vc−oc又は記録オフ電位Vc−offよりもトナーの帯電極性側に大きい値である。
【0068】
そこで、実施形態に係るプリンタにおいては、増厚電圧として直流電圧を採用した場合には、その値を、ホッピング電圧の単位時間あたりの平均電位よりもトナーの帯電極性とは反対極性側に大きく、且つ、記録オン電圧Vc−onよりもトナーの帯電極性側に大きな値にしている。また、増厚電圧として交流成分を含むものを採用した場合には、中心値を、ホッピング電圧の単位時間あたりの平均電位よりもトナーの帯電極性とは反対極性側に大きな値にし、且つ、トナーの帯電極性側のピークを、前記平均電位、記録オン電圧Vc−oc又は記録オフ電位Vc−offよりもトナーの帯電極性側に大きな値にしている。なお、本発明において、周期パルス電圧とは、周期的に変動する波形の電圧を意味しており、その波形はサイン波、矩形波、三角波など、どのような形状であってもよい。一般的な交流電圧も周期パルス電圧である。
【0069】
次に、本発明者らは、増厚用周期パルス電圧の周波数を、ホッピング用周期パルス電圧の周波数よりも低くした条件で実験を行ったところ、画像濃度ムラを発生させてしまった。前述のような周波数の関係では、飛翔制御電極12Yに記録オン電圧Vc−onを印加したときにおけるトナーのホッピング高さにバラツキが生じてしまうからだと思われる。増厚用周期パルス電圧の周波数を、ホッピング用周期パルス電圧の周波数よりも高くした条件では、前述の条件に比べて明らかに画像濃度ムラが改善された。特に、前者の周波数を後者の周波数の2倍以上に設定した場合、画像濃度ムラは殆ど発生しなくなった。そこで、実施形態に係るプリンタにおいては、増厚用周期パルス電圧として、その周波数がホッピング周期用パルス電圧の周波数の2倍以上であるものを採用している。
【0070】
次に、実施形態に係るプリンタの各変形例について説明する。なお、以下に特筆しない限り、各変形例に係るプリンタの構成は実施形態と同様である。
[第1変形例]
図16は、第1変形例に係るプリンタのY用の画像形成部におけるトナー担持スリーブと対向電極板との間を示す拡大構成図である。回路基板10Yにおいて、複数の貫通孔14Yが形成された孔形成領域のトナー搬送方向の中心位置P1を、トナー担持体の円筒部31Yの湾曲表面と回路基板10Yとが最接近する位置P2よりもトナー搬送方向の下流側にずらしている。そして、増厚電極13Yについては、回路基板10Yの孔形成領域の左端に形成された貫通孔14Yと、右端に形成された貫通孔14Yとのうち、トナー搬送方向の最下流側となる前者の貫通孔13に対してだけ、増厚電極13Yを近くに配設している。かかる構成では、図示のように、1つの増厚電極13Yだけで、回路基板10Yの孔形成領域における貫通孔14Yと浮遊トナー層Ltとの距離の均等化を図ることができる。
【0071】
なお、回路基板10Yをずらす方向及び増厚電極13Yを配設する位置を、図16の構成とは逆の関係にしても、同様にして、1つの増厚電極13Yだけで、回路基板10Yの孔形成領域における貫通孔14Yと浮遊トナー層Ltとの距離の均等化を図ることができる。具体的には、回路基板10Yにおける孔形成領域のトナー搬送方向の中心位置P1を、トナー担持体の円筒部31Yの湾曲表面と回路基板10Yとが最接近する位置P2よりもトナー搬送方向の上流側にずらす。加えて、回路基板10Yの孔形成領域の右端(トナー搬送方向の最下流側)の貫通孔13に対してだけ、増厚電極13Yを近傍に配設する。
【0072】
また、増厚用電圧として、直流電圧だけからなるものを採用している。具体的には、ホッピング電圧の単位時間あたりの平均電位よりもトナーの帯電極性とは反対極性側に大きく、且つ、記録オン電圧Vc−onよりもトナーの帯電極性側に大きな値の直流電圧である。
【0073】
[第2変形例]
濃度ムラをできるだけ抑えるためには、トナー担持スリーブのA相電極やB相電極の配設ピッチを数十[μm]といった微小なものにする必要がある。ところが、微小ピッチで配設されたA相電極やB相電極に対して、トナーの良好なホッピングのために振幅の大きなホッピング電圧を印加すると、電極間で電流のリークを発生させ易くなってしまう。このリークは、具体的には次のようにして発生する。即ち、先に図5に示したように、A相電極33aYとB相電極33bYとの間には、絶縁材料を介在させている。これにより、A相電極33aYとB相電極33bYとの間での放電の発生を抑えている。ところが、A相電極33aYと、B相電極33bYと、前述の絶縁材料とは、何れも絶縁性の基材32Yの表面という同一平面上に形成されている。そして、A相電極33aYと基材32Yとの界面、絶縁材料と基材32Yとの界面、B相電極33bYと基材32Yの界面が連続して繋がった状態にある。A相電極33aYとB相電極33bYとのうち、少なくとも何れか一方に振幅の大きなホッピング電圧が印加されると、その連続した界面で電極間の放電が発生して電流のリークを引き起こしてしまうことがある。
【0074】
図17は、第2変形例に係るプリンタにおけるY用のトナー担持スリーブの円筒部31Yを平面的に展開した平面展開図である。また、図18は、その円筒部31Yを示す横断面図である。第2変形例に係るプリンタにおいては、図示のように、A相電極33aYとB相電極33bYとを、両者間に少なくとも1つの絶縁層35Yを介在させる互いに異なった階層に形成した多層構造のトナー担持スリーブを用いている。このトナー担持スリーブにおいては、円筒状の基材32Yの表面における全域に金属層を被覆して、この金属層をB相電極33bYとして機能させている。B相電極33bYの表面上には、樹脂からなる絶縁層35Yを積層している。更に、この絶縁層35Yの表面上において、周方向に所定ピッチで並ぶ複数のA相電極33aYを形成している。B相電極33bYは、筒状の1つの大きな電極であるが、トナー担持スリーブの周方向においては、所定ピッチで並ぶ複数のA相電極33aYの間にそれぞれ第1電極が存在することになる。このため、円筒部31Yの表面上において、複数のA相電極33aYと、B相電極33bYにおけるA相電極間に相当する箇所との間で、トナーをホッピングさせることが可能である。また、筒状の大きなB相電極33bYと、複数のA相電極33aYとを、互いの間に絶縁層35Yを介在させる別々の階層に形成したことで、A相電極33aYとB相電極33bYとを連続した界面で繋げない構造になっている。よって、A相電極33aYとB相電極33bYとの間での放電の発生を抑えて、振幅の比較的大きなホッピング電圧を印加することが可能になる。
【0075】
[第3変形例]
図19は、第3変形例に係るプリンタのY用のホッピングユニット40Yを示す拡大構成図である。このホッピングユニット40Yは、トナーと磁性キャリアとを混合した混合剤を収容する代わりに、トナーそのものを収容している。トナー収容部内に収容しているトナーを、回転するトナー供給ローラ52Yの弾性材料からなるローラ部と、これに当接しながら回転する帯電ローラ53Yとの間にトナーを挟み込むことで、トナーの摩擦帯電を助長しながら、そのトナーをトナー供給ローラ52Y表面で汲み上げる。汲み上げられたトナーは、トナー供給ローラ52Yに当接している規制部材51Yによって層厚が規制された後、トナー供給ローラ52Yの回転に伴ってトナー担持スリーブ30Yとの対向領域まで搬送される。
【0076】
プリントジョブ時には、トナー供給ローラ52Yに対して、バイアス制御部55Yによって供給バイアスが印加される。この供給バイアスは、トナー担持スリーブ30YのA相電極やB相電極に印加されるパルス電圧の平均電位Vsよりも、トナーの帯電極性とは逆極性側に大きな値のバイアスである。よって、トナー供給ローラ52Yと、トナー担持スリーブ30Yとの間には、トナーをトナー供給ローラ52Y側からスリーブ側に移動させる電界が形成される。トナー供給ローラ52Yの表面上のトナーは、その電界の作用によってローラ表面からスリーブ表面に転移する。トナー担持スリーブ30Yの表面上では、既に説明したように、トナーのホッピングによるフレアが形成される。フレアを形成しているトナーの一部は、回路基板10Yの貫通孔内に取り込まれてドットの形成に寄与する。
【0077】
回路基板10Yとの対向領域で回路基板10Yの貫通孔内に取り込まれなかったトナーは、トナー担持スリーブ30Yの回転に伴ってケーシング内に至った後、図示しない回収手段によってトナー担持スリーブ30Yの表面から回収される。回収されたトナーは再びトナー収容部される。
【0078】
かかる構成においては、実施形態に比べて、ホッピングユニット40Yの構造を簡素化することができる。
【0079】
[第4変形例]
図20は、第4変形例に係るプリンタを示す概略構成図である。このプリンタは、記録ベルト駆動装置150の構成が実施形態のものとは異なる。記録ベルト駆動装置150は、無端状の紙搬送ベルト151を無端移動させながら、この紙搬送ベルト151のおもて面に記録紙Pを吸着させる。そして、紙搬送ベルト151の無端移動に伴って、記録紙PをY,M,C,K用の画像形成部(90Y,M,C,K)との対向位置に順次通していく。これにより、記録紙Pには、フルカラートナー像が形成される。
【0080】
なお、紙搬送ベルト151のベルトループ内側には、Y,M,C,K用の対向電極板154Y,M,C,Kが配設されており、ベルトを介してY,M,C,K用の回路基板10Y,M,C,Kに対向している。また、紙搬送ベルト151は、ポリイミド等からなり、図示しない帯電ローラなどの帯電手段によって帯電せしめられることで、記録紙Pをおもて面に吸着させる。
【0081】
紙搬送ベルト151の無端移動に伴って、駆動ローラ152に対するベルト掛け回し箇所まで移動した記録紙Pは、紙搬送ベルト151から分離されて、定着装置130に渡される。
【0082】
以上の構成の本プリンタでは、紙搬送ベルト151と、回路基板10Y,M,C,Kとの間に記録紙Pを介在させるので、回路基板10Y,M,C,Kとベルトとの距離を実施形態の構成よりも大きくしてしまうが、転写工程が不要になるため、転写工程での画像劣化を回避することができる。また、ベルトをクリーニングするクリーニング手段を省略して、低コスト化を図ることもできる。
【0083】
[第5変形例]
図21は、第5変形例に係るプリンタにおけるY用のトナー担持スリーブの円筒部31Yを平面的に展開した平面展開図である。また、図22は、この円筒部31Yを示す断面図である。トナー担持スリーブの円筒部31Yにおいて、スリーブ周方向に沿って並ぶ複数の電極としては、A相電極33aY、B相電極33bYの他に、C相電極33cYがある。A相、B相、C相という3つを1組にして、この組が繰り返し並んでいる。
【0084】
図23は、A相電極33aYに印加されるA相ホッピング電圧、B相電極33bYに印加されるB相ホッピング電圧、及びC相電極33cYに印加されるC相パルス電圧の波形を示すグラフである。図示のように、これら3つのパルス電圧は互いに位相ずれした関係にあるが、ピークツウピーク電圧や周期は互いに同じである。このようなパルス電圧が印加されると、トナー担持スリーブの表面上のトナーは、A相、B相、C相という順で、電極間を順次ホッピングしていく。これにより、トナーは、スリーブ表面上を自らのホッピングによる移動だけで周回する。本プリンタにおいては、トナーをホッピングさせながら、ホッピングによってスリーブ表面上を周回させることで、トナー担持スリーブの回転駆動を不要にしている。
【0085】
以上、実施形態に係るプリンタにおいては、増厚電圧として、ホッピング電圧の平均電位よりもトナーの帯電極性とは反対極性側に大きな値であり、且つ記録オン電圧よりもトナーの帯電極性側に大きな値の直流電圧からなるもの、あるいは、中心値が前記平均電位よりもトナーの帯電極性とは反対極性側に大きく、且つトナーの帯電極性側のピークが前記平均電位、記録オン電位又は記録オフ電位よりも前記帯電極性側に大きい周期パルス電圧からなるもの、を採用している。かかる構成では、上述したように、画像濃度ムラの発生を抑えることができるのに加えて、増厚電極13Yに対するトナー固着を抑えることができる。
【0086】
なお、実施形態に係るプリンタにおいて、増厚電極13Yに印加する増厚電圧として、片側ピーク値がホッピング用周期パルス電圧の単位時間あたりの平均電位(Vs)よりもトナーの帯電極性側であるマイナス側に大きい周期パルス電圧からなる増厚用周期パルス電圧を採用すれば、次のような作用効果を奏することが可能である。即ち、増厚用周期パルス電圧が前述の片側ピーク値になるタイミングで、それまで増厚電極13Yの表面上に付着していたトナーを、増厚電極13Yから引き離してスリーブ表面に向けて移動させることで、トナーを増厚電極13Yに電気的に付着させ続けることによる増厚電極13Yに対するトナー固着の発生を解消することができる。
【0087】
また、第1変形例に係るプリンタにおいては、増厚用電圧として、直流成分だけからなるものを採用しているので、周期パルス電圧を含むものを採用する場合に比べて、増厚用電圧の電源の低コスト化を図ることができる。
【0088】
また、実施形態に係るプリンタにおいては、記録オフ電圧Vc−onとして、増厚用周期パルス電圧の中心値(+30V)よりもトナーの帯電極性側であるマイナス側に大きな値(−200V)のものを採用しているので、上述したように、非画像孔にトナーを進入させてしまうことによる地汚れの発生を抑えることができる。なお、第1変形例に係るプリンタにおいては、記録オフ電圧Vc−onとして、直流成分だけからなる増厚用電圧(+30V)よりもトナーの帯電極性側であるマイナス側に大きな値(−200V)のものを採用しているので、同様の理由により、非画像孔にトナーを進入させてしまうことによる地汚れの発生を抑えることができる。
【0089】
また、実施形態に係るプリンタにおいては、増厚用周期パルス電圧として、周波数がホッピング用周期パルス電圧の周波数よりも高いものを採用しているので、上述したように、低いものを採用する場合に比べて、画像濃度ムラの発生を抑えることができる。
【0090】
また、実施形態に係るプリンタにおいては、増厚電極13Yとして、ワイヤーからなるものを用いている。かかる構成では、トナー担持スリーブ30Yと回路基板10Yとの間の狭いギャップ内に、増厚電極13Yを容易に配設することができる。また、ワイヤーをある程度のテンションで張架しながら、その張架姿勢を調整することで、増厚電極13Yと回路基板10Yとの距離を容易に調整することができる。
【0091】
また、実施形態に係るプリンタにおいては、増厚電極13Yとして、金属からなるワイヤーの無垢の表面上に、樹脂等の絶縁材料からなる表面層を被覆したものを用いている。かかる構成では、絶縁性の表面層により、増厚電極13Yから、増厚電極13Y表面に付着したトナーへの電荷注入の発生を回避することができる。また、増厚電極から周辺の金属部材への放電や電流のリークの発生を抑えることもできる。
【符号の説明】
【0092】
10Y,M,C,K:回路基板(基板)
12Y:飛翔制御電極(孔近傍電極)
13Y:増厚電極
14Y:貫通孔
28Y:記録制御部(記録電圧印加手段)
30Y:トナー担持スリーブ(トナー担持体)
33aY:A相電極(ホッピング電極)
33bY:B相電極(ホッピング電極)
33cY:C相電極(ホッピング電極)
92Y:増圧電源(増厚電圧印加手段)
101:中間記録ベルト(記録部材)
104Y,M,C,K:対向電極板(対向電極)
P:記録紙(記録部材)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0093】
【特許文献1】特開昭63−136058号公報
【特許文献2】特開2007−133387号公報
【特許文献3】特開2002−341656号公報
【特許文献4】特開昭59−181370号公報
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を厚み方向に貫通する貫通孔、及び該貫通孔の近傍に設けられた孔近傍電極の組合せを複数具備する回路基板と、
自らの湾曲表面に担持したトナーを、前記湾曲表面に沿って並ぶ複数のホッピング電極の間でホッピングさせることで前記湾曲表面上に浮遊トナー層を形成しながら、前記湾曲表面の移動、あるいはトナーの繰り返しのホッピングによる該浮遊トナー層の移動で、トナーを前記回路基板との対向領域に搬送するトナー担持体と、
ホッピング用周期パルス電圧を前記複数のホッピング電極に印加して、トナーをホッピングさせるための電界をホッピング電極間に形成するホッピング電圧印加手段と、
前記回路基板における前記トナー担持体との対向面とは反対側の面に対して所定の間隙を介して対向する対向電極と、
前記回路基板における複数の貫通孔のうち、画像を記録する記録部材の画像部に対応する位置にある貫通孔である画像孔と前記組合せをなしている孔近傍電極に対し、ドットを記録するための記録オン電圧を印加にする一方で、複数の貫通孔のうち、前記記録部材の非画像部に対応する位置にある貫通孔である非画像孔と前記組合せをなしている孔近傍電極に対し、ドットを記録しないための記録オフ電圧を印加する記録電圧印加手段とを備え、
前記トナー担持体の湾曲表面と前記回路電極との対向領域にて、前記湾曲表面上の浮遊トナー層中のトナーを、前記画像孔に通して対向電極に向けて飛翔させ、対向電極上の記録部材に付着させてドットを記録することで画像を形成する画像形成装置において、
前記湾曲表面と前記回路基板との間の空間内であって、且つ前記回路基板における貫通孔と前記湾曲表面との距離が比較的大きくなっている領域に、前記記浮遊トナー層の厚みをより大きくするための増厚電極を設けるとともに、
該増厚電極に増厚用電圧を印加して前記浮遊トナー層における増厚電極対向箇所の厚みを増厚せしめる増厚電圧印加手段を設け、
前記増厚電圧として、前記ホッピング用周期パルス電圧の単位時間あたりの平均電位よりもトナーの帯電極性とは反対極性側に大きな値であり、且つ前記記録オン電圧よりもトナーの帯電極性側に大きな値の直流電圧からなるもの、あるいは、中心値が前記平均電位よりもトナーの帯電極性とは反対極性側に大きく、且つトナーの帯電極性側のピーク値が前記平均電位、前記記録オン電位又は前記記録オフ電位よりも前記帯電極性側に大きい周期パルス電圧からなるもの、を採用したことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
請求項1の画像形成装置であって、
前記増厚用電圧は、前記ピーク値が前記平均電位よりもトナーの帯電極性側に大きい周期パルス電圧からなることを特徴とする画像形成装置。
【請求項3】
請求項1の画像形成装置であって、
前記増厚用電圧が、直流成分だけからなることを特徴とする画像形成装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかの画像形成装置であって、
前記記録オフ電圧が、直流成分だけからなる前記増厚用電圧よりもトナーの帯電極性側に大きな値であるか、あるいは、周期パルス電圧からなる前記増厚用電圧の中心値よりもトナーの帯電極性側に大きな値であることを特徴とする画像形成装置。
【請求項5】
請求項1又は2の画像形成装置であって、
前記増厚用電圧は、周波数が前記ホッピング用周期パルス電圧の周波数よりも高い周期パルス電圧からなることを特徴とする画像形成装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかの画像形成装置において、
前記増厚電極として、ワイヤーからなるものを用いたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかの画像形成装置において、
上記増厚電極として、絶縁性材料からなる表面層を具備するものを用いたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項1】
基板を厚み方向に貫通する貫通孔、及び該貫通孔の近傍に設けられた孔近傍電極の組合せを複数具備する回路基板と、
自らの湾曲表面に担持したトナーを、前記湾曲表面に沿って並ぶ複数のホッピング電極の間でホッピングさせることで前記湾曲表面上に浮遊トナー層を形成しながら、前記湾曲表面の移動、あるいはトナーの繰り返しのホッピングによる該浮遊トナー層の移動で、トナーを前記回路基板との対向領域に搬送するトナー担持体と、
ホッピング用周期パルス電圧を前記複数のホッピング電極に印加して、トナーをホッピングさせるための電界をホッピング電極間に形成するホッピング電圧印加手段と、
前記回路基板における前記トナー担持体との対向面とは反対側の面に対して所定の間隙を介して対向する対向電極と、
前記回路基板における複数の貫通孔のうち、画像を記録する記録部材の画像部に対応する位置にある貫通孔である画像孔と前記組合せをなしている孔近傍電極に対し、ドットを記録するための記録オン電圧を印加にする一方で、複数の貫通孔のうち、前記記録部材の非画像部に対応する位置にある貫通孔である非画像孔と前記組合せをなしている孔近傍電極に対し、ドットを記録しないための記録オフ電圧を印加する記録電圧印加手段とを備え、
前記トナー担持体の湾曲表面と前記回路電極との対向領域にて、前記湾曲表面上の浮遊トナー層中のトナーを、前記画像孔に通して対向電極に向けて飛翔させ、対向電極上の記録部材に付着させてドットを記録することで画像を形成する画像形成装置において、
前記湾曲表面と前記回路基板との間の空間内であって、且つ前記回路基板における貫通孔と前記湾曲表面との距離が比較的大きくなっている領域に、前記記浮遊トナー層の厚みをより大きくするための増厚電極を設けるとともに、
該増厚電極に増厚用電圧を印加して前記浮遊トナー層における増厚電極対向箇所の厚みを増厚せしめる増厚電圧印加手段を設け、
前記増厚電圧として、前記ホッピング用周期パルス電圧の単位時間あたりの平均電位よりもトナーの帯電極性とは反対極性側に大きな値であり、且つ前記記録オン電圧よりもトナーの帯電極性側に大きな値の直流電圧からなるもの、あるいは、中心値が前記平均電位よりもトナーの帯電極性とは反対極性側に大きく、且つトナーの帯電極性側のピーク値が前記平均電位、前記記録オン電位又は前記記録オフ電位よりも前記帯電極性側に大きい周期パルス電圧からなるもの、を採用したことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
請求項1の画像形成装置であって、
前記増厚用電圧は、前記ピーク値が前記平均電位よりもトナーの帯電極性側に大きい周期パルス電圧からなることを特徴とする画像形成装置。
【請求項3】
請求項1の画像形成装置であって、
前記増厚用電圧が、直流成分だけからなることを特徴とする画像形成装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかの画像形成装置であって、
前記記録オフ電圧が、直流成分だけからなる前記増厚用電圧よりもトナーの帯電極性側に大きな値であるか、あるいは、周期パルス電圧からなる前記増厚用電圧の中心値よりもトナーの帯電極性側に大きな値であることを特徴とする画像形成装置。
【請求項5】
請求項1又は2の画像形成装置であって、
前記増厚用電圧は、周波数が前記ホッピング用周期パルス電圧の周波数よりも高い周期パルス電圧からなることを特徴とする画像形成装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかの画像形成装置において、
前記増厚電極として、ワイヤーからなるものを用いたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかの画像形成装置において、
上記増厚電極として、絶縁性材料からなる表面層を具備するものを用いたことを特徴とする画像形成装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2011−22272(P2011−22272A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165834(P2009−165834)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
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