説明

画像表示装置

【課題】安全性を確保しつつ明るい画像を表示可能な画像表示装置を提供する。
【解決手段】本発明の画像表示装置は、レーザー光源装置と、入力画像のリフレッシュレートより定まる基準表示期間Tよりも短期間の実効表示期間Tに整合させてレーザー光源装置から射出される光を変調する変調装置と、変調装置により変調された光を実効表示期間Tに整合させて被走査面上で走査させる走査光学系と、を含む。走査光学系から射出される光の出力Pは、基準表示期間Tと実効表示期間Tとの比率に基づいて設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、大画面の画像表示が可能な画像表示装置の1つとして、走査型のプロジェクターが知られている(例えば、特許文献1)。走査型のプロジェクターは、変調されたレーザー光を被走査面上でラスタースキャンすることにより、画像を表示するものである。走査型のプロジェクターによれば、レーザー光の供給を停止することで完全な黒を表現することができる。したがって、液晶ライトバルブを用いたプロジェクター等と比べてコントラストを格段に高くすることができる。また、レーザー光は、単一波長であるために色純度が高く、コヒーレンスが高いためにビームを整形しやすい。以上のように走査型のプロジェクターは、高コントラスト、高色再現性及び高解像度を実現する画像表示装置として期待されている。
【0003】
また、走査型のプロジェクターは、投射レンズが不要であること、液晶ライトバルブ等の代わりに変調回路により階調調整が可能であること等により、格段に小型にすることができる。小型のプロジェクターの具体的な用途として、例えば、携帯電話や携帯情報端末(PDA)等に小型のプロジェクターを内蔵、あるいは外付けして表示を拡大する用途が考えられる。携帯型の電子機器は、携帯性を向上させる観点から表示部が小さくなっているが、小型のプロジェクターにより表示を拡大して見やすくすることができる。これにより、手軽に複数人数で同じ画像を観賞することも可能になる。
【0004】
ところで、レーザー光を射出する装置には、安全性の規格(クラス)が設けられている。プロジェクターにあっては、スクリーン等で拡散されて間接的に瞳に入射する光(画像)が安全上の問題を生じないように、レーザー光の出力が設定される。また、例えばレーザー光の射出部を覗き込むこと等により直接的にレーザー光が瞳に入射する場合も考慮して、レーザー光の出力が設定される。小型のプロジェクターにあっては、幅広い年齢層の使用が想定されるため、最も安全なレベルのクラス(例えば、国際基準IEC−60825 Amd.2 クラスI)に準拠した出力にすることが好ましいと考えられる。
【0005】
携帯可能な寸法のレーザー光源装置の光量としては、数十〜数百ルーメン程度にすることが可能である。しかしながら、従来の走査型のプロジェクターにおいて、クラスIを満たすようにレーザー光の出力を設定すると、レーザー光の光量の上限値は10ルーメン程度になる。このような光量で良好な画像を表示するには、室外の外光条件では画面の対角が数インチ程度、室内の外光条件では画面の対角が10数インチ程度になってしまう。このように、携帯型のプロジェクターにあっては、安全性の観点で利便性を十分に活かすことが難しい。
【0006】
安全性を確保しつつ高輝度の画像を表示可能にする技術として、特許文献2に開示されている技術が考えられる。特許文献2では、レーザー光の射出部からスクリーンまでの射出光路における物体の有無を検出する検出機構を設けている。検出機構により物体が検出されると、レーザー光の光量が調整されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−245780号公報
【特許文献2】特開2005−31530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2の技術によれば、射出光路に人がいない場合に、レーザー光の出力を直接光の安全基準以上であって間接光の安全基準以下に設定することができ、高輝度の画像を表示可能であるように思われる。しかしながら、実際に光量調整を良好に行わせることは、以下の理由により難しい。
【0009】
射出光路に人が存在していても人が射出部に背を向けている場合や、射出光路に人以外の物体が存在する場合等には、光量調整が不要であると考えられる。光量調整が不要である場合に光量調整がなされると、良好に画像表示を行うことができなくなる。一方、人の存在を正確に検出させるためには検出機構が複雑になり、コストが高騰してしまうことや携帯性が低下すること等の不都合がある。人であるか否かを高精度に判定させると判定に要する処理時間が長くなり、レーザー光の光量調整が間に合わなくなるおそれもある。
【0010】
本発明は、前記事情に鑑み成されたものであって、安全性を確保しつつ明るい画像を表示可能な画像表示装置を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の画像表示装置は、レーザー光源装置と、入力画像のリフレッシュレートより定まる基準表示期間よりも短期間の実効表示期間に整合させて前記レーザー光源装置から射出される光を変調する変調装置と、前記変調装置により変調された光を前記実効表示期間に整合させて被走査面上で走査させる走査光学系と、を含み、前記走査光学系から射出される光の出力は、前記基準表示期間に対する前記実効表示期間の比率に基づいて設定されることを特徴とする。
【0012】
人間の瞳に光が入射する期間が長くなるほど、また瞳に入射する光の出力が高くなるほど、瞳が単位時間に受けるエネルギーが多くなる。前記のようにすれば、実効表示期間に整合させてレーザー光源から射出される光が変調され、変調された光が実効表示期間に整合させて走査される。したがって、1フレームの画像が表示される期間が、基準表示期間よりも短期間である実効表示期間となり、画像表示装置から射出された光が瞳に直接的に入射してしまった場合でも、瞳に直接光が入射する期間が短くなり、瞳が単位時間に受けるエネルギー量が減少する。よって、瞳が受けるエネルギーが減少した分だけ走査光学系から射出される光の出力を高くすることができ、表示された画像がBroca‐Sulzer効果によって物理的輝度よりも明るく視覚される。以上のように、本発明の画像表示装置は、安全性を確保しつつ明るい画像を表示することができる。
【0013】
また、前記走査光学系は、前記入力画像に含まれる画素が時間的に連続して表示されて並ぶ主走査方向において前記変調装置により変調された光を走査させる主走査ミラーを有し、前記入力画像のリフレッシュレートを検出する検出部と、前記検出部の検出結果に基づいて、前記実効表示期間を規定する実効リフレッシュレートを設定する設定部と、を含み、前記主走査ミラーが前記実効リフレッシュレートに基づいて駆動され、前記変調装置が前記リフレッシュレートに対する前記実効リフレッシュレートの比率に基づいて前記レーザー光源装置から射出される光の出力を調整する構成にしてもよい。
【0014】
このようにすれば、検出部が入力画像のリフレッシュレートを検出し、設定部が実効リフレッシュレートを設定される。変調装置が、リフレッシュレートに対する実効リフレッシュレートの比率に基づいて、レーザー光源装置から射出される光の出力を調整するので、入力画像のリフレッシュレートに応じてレーザー光源装置から射出される光の出力が調整される。これにより、瞳が単位時間に受けるエネルギー量が減少し、安全性を確保しつつ明るい画像を表示することができる。
【0015】
また、前記実効表示期間が前記基準表示期間の半分以下になっているとともに、前記入力画像の今回フレームを表示する期間と前記入力画像の次回フレームを表示する期間との間に、前記入力画像の今回フレーム又は前記入力画像の次回フレームを表示する期間を含んでいる構成にしてもよい。
【0016】
このようにすれば、今回フレームの表示期間と、次回フレームの表示期間との間に、今回フレーム又は次回フレームの入力画像が表示される。したがって、物理的輝度を高くなり、明るい画像を表示することができる。
【0017】
また、前記実効表示期間が前記基準表示期間の半分以下になっているとともに、前記入力画像の今回フレームを表示する期間と前記入力画像の次回フレームを表示する期間との間に、前記入力画像の今回フレームと前記入力画像の次回フレームとにより定まる中間フレームの画像を表示する期間を含んでいる構成にしてもよい。
【0018】
このようにすれば、今回フレームの表示期間と、次回フレームの表示期間との間に、中間フレームの画像が表示される。したがって、物理的輝度を高くなり、明るい画像を表示することができる。また、中間フレームの画像として、今回フレームと前回フレームとの補間画像を表示することができ、高品質な画像を表示することができる。
【0019】
また、前記レーザー光源装置と前記変調装置と前記走査光学系とを含んだ画像表示系を複数含み、前記入力画像が複数の分割画像に分割されて表示されるとともに前記複数の分割画像の各々が前記複数の画像表示系の各々により表示されるようになっており、前記複数の画像表示系から射出される複数の光が、安全基準により定まる検査領域に同時に入射しないように、前記複数の光の間隔が調整されていてもよい。
【0020】
このようにすれば、複数の画像表示系から射出される複数の光が検査領域に同時に入射しないので、1つの画像表示系から射出される光により安全基準を満たせばよく、安全性を確保することが容易になる。また、複数の画像表示系により入力画像が表示されるので、実効表示期間を基準表示期間に対して短くすることが容易になり、実効表示期間が短縮された分だけ走査光学系から射出される光の出力を高くすることができる。
【0021】
前記複数の分割画像の数をnとし、前記入力画像の走査周波数をfとすると、前記走査光学系がf/nよりも大きい周波数で駆動される構成にしてもよい。
このようにすれば、画像表示系が1系統である場合に比べて、画像表示系全体での光量が大きくなり、明るい画像を表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1実施形態に係るプロジェクターの概略構成を示す模式図である。
【図2】(a)は画像表示方法の説明図、(b)は画像例の平面図、(c)、(d)は、射出光の出力の時間変化を示す説明図である。
【図3】(a)は瞳に直接光が入射する場合の位置関係を示す説明図、(b)、(c)は瞳への入射光の出力の時間変化を示す説明図である。
【図4】(a)は第2実施形態の画像信号処理系を示す模式図、(b)は射出光の出力の時間変化を示す説明図、(c)は瞳への入射光の出力の時間変化を示す説明図である。
【図5】第3実施形態に係るプロジェクターの概略構成を示す模式図である。
【図6】第3実施形態における射出光の位置関係を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。説明に用いる図面において、特徴的な部分を分かりやすく示すために、図面中の構造の寸法や縮尺を実際の構造に対して異ならせている場合がある。また、実施形態において同様の構成要素については、同じ符号を付して図示し、その詳細な説明を省略する場合がある。
【0024】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係るプロジェクター1の概略構成を示す模式図、図2(a)は、プロジェクター1により画像が表示される仕組みを示す説明図、図2(b)は、表示される画像の一例を示す平面図、図2(c)、(d)は、プロジェクター1から射出される光の出力の時間変化を示す説明図である。
【0025】
図1に示すように、プロジェクター1は、画像信号処理系10、レーザー光源装置11、リレー光学系12、走査光学系13を含んでいる。プロジェクター1は、概略すると以下のように動作する。
【0026】
PC等の信号源8から入力画像に対応した電気信号が供給されると、この電気信号は画像信号処理系10により処理されて、レーザー光源装置11や走査光学系13に出力される。レーザー光源装置11は、電気信号に応じて階調が時間変化する光Lを射出する。光Lは、リレー光学系12を経て走査光学系13に入射する。走査光学系13に入射した光Lは、走査光学系13により壁やスクリーン等の被走査面9に向けて射出される。
【0027】
走査光学系13は、射出する光Lの光軸を電気信号に応じて主走査方向、副走査方向に時間変化させる。主走査方向は、時間的に連続して画素が描画される方向であり、例えば被走査面9における水平方向である。副走査方向は、時間的に連続して描画される複数の画素群(走査ライン)が並ぶ方向であり、例えば被走査面9において水平方向と直交する垂直方向である。このように光Lが被走査面9を走査することにより、被走査面9に画像が描画(表示)される。プロジェクター1は、通常表示モードと高輝度表示モードとを切替可能になっている。以下、プロジェクター1の構成要素を詳しく説明する。
【0028】
画像信号処理系10は、インターフェース(検出部)101、画像信号処理回路102、変調回路(変調装置)103、タイミング生成回路(設定部)104、及びミラー駆動回路105を含んでいる。インターフェース101は、信号源8から画像信号や同期信号を含んだ電気信号を受け取り、この電気信号を画像信号と同期信号とに分離する。画像信号には、入力画像の画素ごとの階調データが含まれている。同期信号には、入力画像の画素数やリフレッシュレート等のデータが含まれている。分離された画像信号は、画像信号処理回路102に出力される。分離された同期信号は、タイミング生成回路104に出力される。
【0029】
タイミング生成回路104は、入力画像の画素数やリフレッシュレート、走査方式等に応じて、画素ごとの表示タイミングを示すタイミング信号を生成する。タイミング信号により、画像信号をプロジェクター1の走査方式に整合した形式に変換することが可能になっている。タイミング生成回路104は、高輝度表示モードでは、入力画像のフレッシュレートよりも高周波数である実効リフレッシュレートを設定する。タイミング生成回路104は、表示される画像が実効リフレッシュレートで書換えられるようにタイミング信号を生成する。タイミング信号は、画像信号処理回路102やミラー駆動回路105に出力される。
【0030】
ここでは、入力画像がXGA形式であり、画素数が1024×768であるとする。1024個の画素が並ぶ方向が主走査方向に設定されており、フレームレートが60フレーム毎秒(60fps)であるとする。また、主走査方向において一方から他方に向かう往路での走査(往路)、他方から一方に向かう復路での走査の双方において画像を描画する走査方式であるとする。
【0031】
このような条件では、リフレッシュレートが60Hzであり、リフレッシュレートに対応する1フレームの表示期間(基準表示期間)が1/60秒である。タイミング生成回路104は、例えばリフレッシュレートの2倍の周波数(120Hz)を実効リフレッシュレートとしてタイミング信号を生成する。実効リフレッシュレートに対応する1フレームの表示期間(実効表示期間)は、1/120秒である。
【0032】
画像信号処理回路102は、画像信号にガンマ処理等の各種画像処理を行う。また、画像信号処理回路102は、画像信号に含まれる階調データが走査方式に整合した時間順次で変調回路103に出力されるように、タイミング信号に基づいて画像信号を調整する。例えば、入力画像の1フレームに含まれる複数の画素について階調データをフレームバッファに記憶させておき、階調データを走査される時間順次で読み出して、変調回路103に出力する。前記のように、往路の走査と復路の走査とで画像を描画する場合には、例えば、往路と復路とでフレームバッファからデータを読み出す順番を反転させる。
【0033】
変調回路103は、レーザー光源装置11から射出される光Lの光量が画素ごとの階調に対応して時間変化するように、画像信号に基づいてレーザー光源装置11の出力を調整する。高輝度表示モードでは、表示される画像が実効リフレッシュレートで書換えられるようにタイミング信号が生成されており、変調回路103は、実効表示期間で1フレームが表示されるように出力調整を行う。ここでは、画素数を1024×768、実効リフレッシュレートを120Hzとしているので、帰線時間を無視して単純計算すると出力調整の周波数は94.4MHz程度である。この周波数の逆数が1画素あたりの描画時間に相当する。
【0034】
また、変調回路103は、リフレッシュレートに対する実効リフレッシュレートの比率N(ここでは、120/60=2)に応じて、以下のようにレーザー光源装置11の出力を調整する。リフレッシュレートで画像を表示する場合の出力を基準出力、実効リフレッシュレートで画像を表示する場合の出力を実効出力と称する。変調回路103は、1より大きく比率N(ここでは2)以下の範囲内に設定された係数と、基準出力との積を実効出力とし、レーザー光源装置11の出力を実効出力に調整する。ここでは、係数が2に設定されており、実効出力が基準出力の2倍になるように出力が調整される。
【0035】
レーザー光源装置11は、その詳細な構成を図示しないが、射出光の波長が異なる複数の半導体レーザー素子を含んでいる。変調回路103は、複数の半導体レーザー素子のそれぞれに対して出力を調整する。複数の半導体レーザー素子から射出された光は、ダイクロイックミラー等の色合成素子により合成され、合成された光Lがレーザー光源装置11から射出される。
【0036】
リレー光学系12は、コリメート光学系121及び集光光学系122を含んでいる。レーザー光源装置11から射出された光Lは、コリメート光学系121により平行化された後に、集光光学系122により集光される。リレー光学系12に関しては、レーザー光源装置11の配光特性等に応じて適宜変更することができる。例えば、光源装置から射出される光の平行度が極めて高い場合には、リレー光学系12を簡略化、あるいは省略することもできる。また、光源から射出される光の光軸に直交する面における光束の断面形状や寸法を調整する機能(ビーム成形機能)等をリレー光学系12に持たせてもよい。
【0037】
ミラー駆動回路105は、第1偏向ミラー131、第2偏向ミラー132の駆動信号をタイミング信号に基づいて生成し、駆動信号を走査光学系13に出力する。ここでは、走査ラインが768本、実効リフレッシュレートが120Hzであるので、走査ライン一本あたりの走査時間は、帰線時間を無視して単純計算すると1/92160秒である。往路の走査、復路の走査がそれぞれ1本の走査ラインと対応するので、主走査方向の走査周波数は、46080Hz程度である。
【0038】
走査光学系13は、入射光の光軸を主走査方向に変化させる第1偏向ミラー(主走査ミラー)131と、入射光の光軸を副走査方向に変化させる第2偏向ミラー132とを含んでいる。第1偏向ミラー131はMEMS技術等により形成されるマイクロメカニカルミラー等により構成され、第2偏向ミラー132はガルバノミラー等により構成される。
【0039】
第1偏向ミラー131は、ミラー駆動部(図示略)に駆動される。ミラー駆動部は、ミラー駆動回路105から駆動量を受け取り、所定の回転軸まわりに第1偏向ミラー131を駆動量に応じた角速度、振幅で回動させる。ここでは、ミラー駆動部が、第1偏向ミラー131を主走査方向の走査周波数(46080Hz)で駆動する。これにより、第1偏向ミラー131において光が入射する面の法線方向が、入射する光Lの光軸に対して変化し、この面で反射した光の光軸がタイミング信号に基づいて変化する。第2偏向ミラー132は、第1偏向ミラー131と同様にミラー駆動部により駆動される。
【0040】
図2(a)に示すように、走査光学系13から射出された光は、画素P(0,0)から画素P(i,0)の各々の位置に対応して階調が変化しつつ主走査方向に沿ってスクリーンを走査して、第1の走査ラインSLを描画する。第1の走査ラインSLの描画が終了すると、副走査方向における走査位置が第2の走査ラインSLに対応する位置にシフトされた後、主走査方向に沿って第2の走査ラインSLを描画する。以下同様に、主走査方向における走査線の描画と、副走査方向における位置のシフトとを交互に繰り返すことにより、アドレス0〜i(ここではi=1023)、アドレス0〜j(ここではj=767)に対応する画素が描画されて、画像が表示される。
【0041】
例えば、図2(b)に示すような画像を表示する場合には、図2(c)、(d)に示すようにレーザー光源装置11の出力を時間変化させる。なお、図2(c)には通常表示モードで画像を表示する場合の出力を図示しており、図2(d)には高輝度表示モードで画像を表示する場合の出力を図示している。
【0042】
図2(b)に示す画像は、輪郭が略矩形であり、1つの角(図中左上)からその対角(図中右下)に向かうにつれて明るさが増加するグラデーション状の画像である。画像を描画するためには、第1の走査ラインSLを描画する期間において出力を漸次高くする。第1の走査ラインSLと描画方向が反転した第2の走査ラインSLを描画する期間において、出力を漸次低くする。
【0043】
図2(c)に示すように、リフレッシュレートで画像を表示する場合(通常表示モード)の基準出力の最大値をP、1フレームの表示に要する基準表示期間をTとする。また、図2(d)に示すように、実効リフレッシュレートで画像を表示する場合(高輝度表示モード)の実効出力の最大値をP、1フレームの表示に要する実効表示期間をTとする。実効リフレッシュレートが、リフレッシュレートの2倍に設定されているので、TはTの1/2になる。走査ラインSL〜SLに対応する各々の実効出力が基準出力の2倍になっており、PはPの2倍になる。
【0044】
通常のプロジェクターは、リフレッシュレートで画像が表示されるようになっており、レーザー光源装置の出力が所定の安全基準値に設定されている。安全基準値は、例えば、国際基準IEC−60825 Amd.2 クラスIに規定される値である。このようにして設定されたレーザー光源装置の出力が、通常表示モードにおける基準出力である。
【0045】
本実施形態のプロジェクター1は、実効出力が基準出力の2倍になっているので、表示された画像がBroca‐Sulzer効果によって物理的輝度よりも明るく視覚される。また、リフレッシュレートよりも高周波数の実効リフレッシュレートで画像を表示しているので、プロジェクター1から射出される光の出力が安全基準を満たすようになっている。以下、プロジェクター1から射出される光の走査範囲内に、人が立ち入った場合の安全性について説明する。
【0046】
図3(a)は、プロジェクターから人の瞳に直接光が入射する場合の位置関係を示す説明図、図3(b)は、通常表示モードで人の瞳に入射する直接光の出力の時間変化を示す説明図、図3(c)は、高輝度表示モードで人の瞳に入射する直接光の出力の時間変化を示す説明図である。
【0047】
被走査面9に表示された画像を視認する場合には、人の瞳に入射する光は、被走査面9で散乱された間接光であり、間接光により安全上の問題を生じないようにレーザー光源装置11の出力が調整されている。図3(a)に示すように、プロジェクター1と被走査面9との間に人が立ち入った場合には、人Mの瞳Eに直接光が入射することがありえる。このような場合であっても、安全上の問題を生じないようにレーザー光源装置11の出力を調整する必要がある。
【0048】
国際基準IEC−60825 Amd.2 クラスIは、最も安全性が高いクラスであり、例えば玩具等に適用される。クラスIに分類されるためには、単一のパルスのエネルギーが所定の上限値を超えないこと(条件1)、全パルスの平均エネルギーが所定の上限値を超えないこと(条件2)、連続するパルスの回数によって定められるエネルギーが所定の上限値を超えないこと(条件3)、の3つの条件をいずれも満たす必要がある。
【0049】
ここでいうパルスは、所定の検査領域に入射する一連の光のことである。プロジェクター1にあっては、1本の走査ラインが検査領域を通るとパルス数が1になる。所定の検査領域は、人Mの瞳Eに対応する領域である。国際基準IEC−60825 Amd.2 クラスIにおいて所定の検査領域は、レーザー光の射出部、すなわちプロジェクター1の第2偏向ミラー132からの距離dが10cmの面内において直径dが7mmの円の内側の領域に規定されている。プロジェクター1では、レーザー光の射出部は第2偏向ミラー132に相当する。
【0050】
前記のパルス数は、プロジェクター1から射出された光が瞳E内を走査する範囲Rに含まれる走査ラインの数により定まる。また、単一のパルスのエネルギーは、プロジェクター1から射出されるレーザー光の出力と、検査領域をレーザー光が走査する時間(単一パルスの幅)との積により定まる。単一パルス幅は、走査周波数の反比例量である。
【0051】
人Mの瞳Eに入射するレーザー光のエネルギー量が最も多い状態は、瞳Eと重なる走査ラインがいずれも最大輝度(最大出力)である場合である。この場合に瞳Eに入射する光の出力の時間変化は、図3(b)、(c)に示すように矩形波状になる。高輝度表示モードでは、通常表示モードに対して走査周波数が2倍になっているので単一パルス幅が1/2になっており、また単一パルスの出力が2倍になっている。このように高輝度表示モードでの単一パルスのエネルギーは、通常表示モードと同じになっている。すなわち、高輝度表示モードでは、通常表示モードと同様に前記の条件1が満たされる。また、2倍の実効リフレッシュレートで描画するため、基準表示期間の略半分の期間で1フレームの画像の描画が終了する。これにより基準表示期間の略半分が余分になるが、この余分な期間に画像を表示しないので、パルス数や平均エネルギーが通常表示モードと同じになる。したがって、前記条件2、3を満たすことになり、条件1〜3をいずれも満たすことになる。
【0052】
以上のように、本実施形態のプロジェクター1は、安全性を確保しつつ明るい画像を表示することが可能なものになっている。また、プロジェクターから射出された光の走査範囲における物体の侵入を検知する手法に比べて、センサー等が不要でありシンプルな構成にすることができる。
【0053】
[第2実施形態]
次に、本発明に係る第2実施形態のプロジェクターを説明する。第2実施形態が第1実施形態と異なる点は、高輝度表示モードにおいてフレーム間の期間に画像を表示させる点である。
【0054】
図4(a)は、第2実施形態のプロジェクターにおける画像信号処理系20の概略構成を示す模式図、図4(b)は、高輝度表示モードにおいてプロジェクターから射出される光の出力の時間変化を示す説明図、図4(c)は、高輝度表示モードにおいて瞳に入射する直接光の出力の時間変化を示す説明図である。
【0055】
図4(a)に示すように、画像信号処理系20は、画像メモリー201を含んでいる点で第1実施形態の画像信号処理系10と異なる。画像信号処理回路102は、高輝度表示モードにおいて1フレーム(今回フレーム)の画像信号を画像メモリー201に記憶させる。また、画像信号処理回路102は、入力画像の今回フレームが表示された後に、今回フレームの画像信号を画像メモリー201から読み出して変調回路103に再度出力する。例えば、図2(b)に示した画像を表示する場合には、図4(b)に示すように基準表示期間(T)内に、実効表示期間(T)に対応する出力パターンの光がプロジェクターから2回射出される。なお、今回フレームを2回表示する場合には、実効出力の最大値Pを基準出力の最大値Pの2−0.25倍以下に設定する。
【0056】
図4(c)に示すように、瞳E(図3(a)参照)と重なる走査ラインがいずれも最大輝度である場合に、瞳Eに入射する直接光のパルスは、瞳Eが連続した領域であるので実効表示期間内の一部に密集している。2つの実効表示期間の各々においてパルスが密集する期間は、2つの実効表示期間で略一致する。すなわち、2つのパルス群は、Tと略一致する時間間隔だけ離れている。このような場合に、前記の条件3を満たすためには、連続するパルス数をnとしたとき、単一パルスのエネルギーの上限を、n−0.25にすればよい。ここでは、パルス数が2倍になっているので、単一パルスの出力を2−0.25(0.84)倍以下にすればよい。これにより、条件1〜3のいずれも満たすことになり、安全性を確保することができる。また、今回フレームを2回表示するので、今回フレームが表示される間の総光量としては、1.68倍程度になる。
このように、第2実施形態のプロジェクターは、物理的輝度を高めることができるので、安全性を確保しつつ明るい画像を表示することが可能なものになっている。
【0057】
なお、第2実施形態では、入力画像の今回フレームを連続して表示させているが、例えば入力画像の先読み等により、今回フレームの表示後に次回フレームを連続して表示させてもよい。また、今回フレームの画像信号と、次回フレームの画像信号とに基づいて中間フレームの画像信号を生成し、今回フレームの表示期間と次回フレームの表示期間と間に中間フレームを表示させてもよい。この場合には、例えば画像信号処理回路に補間処理を行う機能を持たせて、補間処理により中間フレームの画像信号を生成させるとよい。
【0058】
[第3実施形態]
次に、本発明に係る第3実施形態のプロジェクターを説明する。第3実施形態が第1実施形態と異なる点は、入力画像を複数の画像表示系で分担させて画像を表示させる点である。
【0059】
図5は、第3実施形態のプロジェクター3の概略構成を示す模式図、図6はプロジェクター3から射出される光の位置関係を示す模式図である。図5に示すように、プロジェクター3は、画像信号処理系30、レーザー光源装置31a、31b、走査光学系33a、33bを含んでいる。レーザー光源装置31a、31bは、いずれも第1実施形態のレーザー光源装置11と同様のものである。
【0060】
本実施形態においても第1実施形態と同様に、入力画像がXGA形式であり、リフレッシュレートが60Hzであるとする。タイミング生成回路104は、通常表示モードにおけるリフレッシュレートを60Hzに設定してタイミング信号を生成する。このタイミング信号に基づいてミラー駆動回路105が駆動信号を生成し、駆動信号により走査光学系33a、33bが駆動される。タイミング生成回路104は、高輝度表示モードにおける実効リフレッシュレートを120Hzに設定してタイミング信号を生成する。
【0061】
画像信号処理系30の変調回路303は、レーザー光源装置31aから射出される光Laを変調する変調部(変調装置)と、レーザー光源装置31bから射出される光Lbを変調する変調部(変調装置)とを含んでいる。変調回路303は、通常表示モードにおいて、レーザー光源装置31a、31bから射出される光の最大出力を、第1実施形態における基準出力の1/2に調整するようになっている。また、変調回路303は、高輝度表示モードにおいて、レーザー光源装置31a、31bから射出される光の最大出力を通常表示モードの2倍に調整するようになっている。なお、レーザー光源装置31a、31bは、いずれも第1実施形態のレーザー光源装置11と同様のものである。
【0062】
走査光学系33a、33bは、いずれも2軸型の構造になっている。走査光学系33aは、走査ミラーと、走査ミラーを第1軸周りに回動可能に保持する第1フレームと、このフレームを第2軸周りに回動可能に保持する第2フレームと、第2フレームを保持する第3フレームとを含んでいる。第1軸は、第2軸と軸方向が直交している。走査ミラーを第1軸周りに回動させることにより、走査ミラーに入射する光を副走査方向に走査させることが可能になっている。第1フレームを第2軸周りに回動させることにより、走査ミラーに入射する光を主走査方向に走査させることが可能になっている。
【0063】
レーザー光源装置31a、31bから射出された光La、Lbは、走査光学系33a、33bにより被走査面9上を走査する。光Laの走査範囲は、光Lbの走査範囲と独立しており、2つの走査範囲を合せた領域に画像全体が表示される。光Laの走査範囲は、光Lbの走査範囲と副走査方向に並んでいる。
【0064】
図6に示すように、走査光学系33a、33bから射出される光La、Lbの走査範囲が所定の検査領域Aにともに掛かることがないように、レーザー光源装置31a、31bの配置や走査光学系33a、33bの配置が調整されている。検査領域Aは、安全基準により定められた領域である。前記のように国際基準IEC−60825 Amd.2 クラスIでは、検査領域Aが、走査光学系33a、33bからの距離dが10cmの面内において直径dが7mmの円の内側の領域に規定されている。
【0065】
本実施形態では、光Laの走査範囲が光Lbの走査範囲と接近する部分に光La、Lbがともに入射すると仮定した場合に、検査領域Aに光La、Lbが同時に入射しないようになっている。なお、本実施形態では、副走査方向において光Laの光軸が変化する向きが、副走査方向において光Lbの光軸が変化する向きと一致している。したがって、実際には光La、Lbが互いに近づくように走査されることがなく、検査領域Aを含んだ面内における光La、Lbの間隔は、検査領域Aの直径に対して十分なマージンを有している。
【0066】
以上のようなプロジェクター3にあっては、検査領域Aに光La、Lbの両方の走査範囲が掛かることがないので、仮にプロジェクター3と被走査面9との間に人が立ち入った場合にも人の瞳に光La、Lbの両方が入射することはない。すなわち、レーザー光源装置31a、31bの各々から射出される光La、Lbが、独立して安全基準を満たしていればよい。光Laに着目すると、高輝度表示モードでは通常表示モードに対して出力が2倍になっており、光Laによる表示期間が半分になっている。よって、第1実施形態と同様の理由により、安全性を確保しつつ明るい画像を表示することができる。
【0067】
また、2つの画像表示系で分担させて画像全体を表示しており、2つの画像表示系の各々に割り当てられる走査ラインの数が半分になるので、基準表示期間に所定数の走査ラインを描画させる走査周波数が低くなる。したがって、高輝度表示モードにおいて通常表示モードよりもリフレッシュレートを高くすることが容易になる。端的には、1つの画像表示系で画像を表示する場合と同じ走査周波数にすれば、高輝度表示モードにおける走査周波数を通常表示モードの2倍にすることができる。このように、第3実施形態のプロジェクター3にあっては、実現しやすい装置構成でありながら、安全性を確保しつつ明るい画像を表示することが可能になっている。
【0068】
なお、本発明の技術範囲は前記実施形態に限定されるものではない。本発明の主旨を逸脱しない範囲内で多様な変形が可能である。例えば、第1実施形態では、通常表示モード、高輝度表示モードを切替可能なプロジェクターを説明したが、高輝度表示モードのみで動作させるプロジェクターであってもよい。
【0069】
また、本実施形態においては高輝度表示モードにおける実効リフレッシュレートを120Hzに設定しているが、60Hzの1/2倍である30Hzよりも高ければよい。すなわち、画像の表示を分担する複数の分割画像の数をnとし、入力画像の水平走査周波数をfとしたときに、走査光学系の走査周波数がf/nより大きければよい。これにより、複数系統の画像表示系から光を射出することにより、画像表示系が1系統である場合に比べて、画像表示系全体から射出される光量を増すことができる。
【符号の説明】
【0070】
1、3・・・プロジェクター、11、31a、31b・・・レーザー光源装置、13、33a、33b・・・走査光学系、101・・・インターフェース(検出部)、102・・・画像信号処理回路、103、303・・・変調回路(変調装置)、104・・・タイミング生成回路(設定部)、9・・・被走査面、T・・・基準表示期間、T・・・実効表示期間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光源装置と、
入力画像のリフレッシュレートより定まる基準表示期間よりも短期間の実効表示期間に整合させて前記レーザー光源装置から射出される光を変調する変調装置と、
前記変調装置により変調された光を前記実効表示期間に整合させて被走査面上で走査させる走査光学系と、を含み、
前記走査光学系から射出される光の出力は、前記基準表示期間に対する前記実効表示期間の比率に基づいて設定されることを特徴とする画像表示装置。
【請求項2】
前記走査光学系は、前記入力画像に含まれる画素が時間的に連続して表示されて並ぶ主走査方向において前記変調装置により変調された光を走査させる主走査ミラーを有し、
前記入力画像のリフレッシュレートを検出する検出部と、
前記検出部の検出結果に基づいて、前記実効表示期間を規定する実効リフレッシュレートを設定する設定部と、を含み、
前記主走査ミラーが前記実効リフレッシュレートに基づいて駆動され、
前記変調装置が前記リフレッシュレートに対する前記実効リフレッシュレートの比率に基づいて前記レーザー光源装置から射出される光の出力を調整すること特徴とする請求項1に記載の画像表示装置。
【請求項3】
前記実効表示期間が前記基準表示期間の半分以下になっているとともに、前記入力画像の今回フレームを表示する期間と前記入力画像の次回フレームを表示する期間との間に、前記入力画像の今回フレーム又は前記入力画像の次回フレームを表示する期間を含んでいることを特徴とする請求項1又は2に記載の画像表示装置。
【請求項4】
前記実効表示期間が前記基準表示期間の半分以下になっているとともに、前記入力画像の今回フレームを表示する期間と前記入力画像の次回フレームを表示する期間との間に、前記入力画像の今回フレームと前記入力画像の次回フレームとにより定まる中間フレームの画像を表示する期間を含んでいることを特徴とする請求項1又は2に記載の画像表示装置。
【請求項5】
前記レーザー光源装置と前記変調装置と前記走査光学系とを含んだ画像表示系を複数含み、前記入力画像が複数の分割画像に分割されて表示されるとともに前記複数の分割画像の各々が前記複数の画像表示系の各々により表示されるようになっており、
前記複数の画像表示系から射出される複数の光が、安全基準により定まる検査領域に同時に入射しないように、前記複数の光の間隔が調整されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の画像表示装置。
【請求項6】
前記複数の分割画像の数をnとし、前記入力画像の走査周波数をfとすると、前記走査光学系がf/nよりも大きい周波数で駆動されることを特徴とする請求項5に記載の画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−243809(P2010−243809A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92786(P2009−92786)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】