説明

画像表示装置

【課題】簡素な構成でありながら、長期間使用しても輝度の低下や色むらの発生が抑制可能な画像表示装置を提供すること。
【解決手段】画像表示装置100は、炭素と窒素の一重結合を有する有機分子を光学部品の構成要素として有し、光学部品は、光源121〜123から空間光変調素子135に至る光路中に配置し、制御システム部119は、光源121〜123を略矩形状の波形で変調して発光させ、光源121〜123からの略矩形状の波形の立ち上がり部分における出力強度が略矩形状の波形の平坦部の出力強度よりも大きくならないように、略矩形状の波形の立ち上がりを鈍らせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像を表示する画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の液晶装置を用いた画像表示装置では、液晶の分子が所望の向きに配列するように配向膜が設けられている。この配向膜を形成する材料としては、一般にポリイミド樹脂,ポリビニルアルコール樹脂,ポリアミド樹脂等が用いられている。
【0003】
これらの材料もしくはその前駆体を、例えばスピンコート等の工法によって、0.05μm〜0.2μm厚みに塗布した後、150〜250℃の温度で焼成することで、配向膜が形成される。
【0004】
これらの有機材料が好んで用いられるのは、配向膜が安価に形成できるためである。
【0005】
ところが、有機材料からなる配向膜は、光、特に波長が短い青〜紫外の光が照射されることによって劣化する性質があり、配向膜が劣化すると、表示される画像が暗くなったり、色が変わったりしていた。
【0006】
この配向膜の劣化を防ぐために、配向膜の材料や光学構成において様々な改善がなされてきた。
【0007】
特許文献1には、配向膜を構成する材料の主成分を含む光学フィルタを、液晶装置の光が入射する側に配置した液晶装置が記載されている。特許文献1記載の液晶装置は、配向膜を劣化させる光が配向膜に入射することを抑え、配向膜の劣化を低減している。
【0008】
特許文献2には、光源から前記光変調装置までの光路中に、前記所定の波長領域の光のうち約435nm以上の波長領域の光の反射率が約90%以上で、少なくとも425nm±5nmの波長領域の光の反射率が前記約435nm以上の波長領域の光の反射率に比べて低い反射ミラーを備える投写型表示装置が記載されている。特許文献1記載の投写型表示装置は、劣化の要因が電極材料にあるのではと考え、波長400nm以下の光の強度を低減させるのに紫外線遮断フィルタが有効であることを踏まえた上で、更に波長425nm±5nmの透過率を低減させるフィルタを画像表示装置に備えることで、光変調装置の動作特性の劣化を抑制するとともに、光の明るさをより十分に確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−284287号公報
【特許文献2】特開2001−75172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1,2記載の画像表示装置は、紫外光を遮断するフィルタを用いるため、フィルタを設ける分コストがかかる。また、急峻なフィルタを設けることが困難であるので、十分に劣化が抑えられない。また、十分に劣化を抑えようとすると、必要な光も減衰して輝度が低下してしまうという課題がある。
【0011】
上記課題に加えて、紫外光を遮断するフィルタによって、紫外光を遮断しているにも拘わらず、画像表示装置を連続して使用しているうちに、液晶パネルの特性が劣化し、画像表示装置の輝度が低下し、色むらが発生するという課題があった。
【0012】
本発明の目的は、簡素な構成でありながら、長期間使用しても輝度の低下や色むらの発生が抑制可能な画像表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の画像表示装置は、青色もしくは青色よりも波長の短いビームを発する光源と、前記光源から出射されるビームを受け、表示させる画像に応じてビームを変調する空間光変調素子と、前記光源の発光状態を制御する制御部と、を具備し、前記空間光変調素子で変調されたビームを画像情報として表示する画像表示装置であって、炭素と窒素の一重結合を有する有機分子を光学部品の構成要素として有し、前記光学部品は、前記光源から前記空間光変調素子に至る光路中に配置し、前記制御部は、前記光源を略矩形状の波形で変調して発光させ、前記光源からの前記略矩形状の波形の立ち上がり部分における出力強度が前記略矩形状の波形の平坦部の出力強度よりも大きくならないように、前記略矩形状の波形の立ち上がりを鈍らせる波形整形手段を有する構成を採る。
【0014】
本発明の画像表示装置は、赤色のビームを発する第1の光源と、緑色のビームを発する第2の光源と、青色のビームを発する第3の光源と、前記第1の光源から出射される赤色のビームと前記第2の光源から出射される緑色のビームと前記第3の光源から出射される青色のビームとを受け、表示させる画像に応じて前記赤色のビームと前記緑色のビームと前記青色のビームとを変調する空間光変調素子と、前記第1の光源と前記第2の光源と前記第3の光源の発光状態を制御する制御部と、を具備し、前記空間光変調素子で変調された前記赤色のビームと前記緑色のビームと前記青色のビームを画像情報として表示する画像表示装置であって、炭素と窒素の一重結合を有する有機分子を光学部品の構成要素として有し、前記光学部品は、前記光源から前記空間光変調素子に至る光路中に配置し、前記第3の光源の発光する時間が、前記第1の光源もしくは前記第2の光源の発光する時間よりも長い構成を採る。
【0015】
本発明の画像表示装置は、赤色のビームを発する第1の光源と、緑色のビームを発する第2の光源と、青色のビームを発する第3の光源と、前記第1の光源から出射される赤色のビームと前記第2の光源から出射される緑色のビームと前記第3の光源から出射される青色のビームとを受け、表示させる画像に応じて前記赤色のビームと前記緑色のビームと前記青色のビームとを変調する空間光変調素子と、前記第1の光源と前記第2の光源と前記第3の光源の発光状態を制御する制御部と、を具備し、前記空間光変調素子で変調された前記赤色のビームと前記緑色のビームと前記青色のビームを画像情報として表示する画像表示装置であって、炭素と窒素の一重結合を有する有機分子を光学部品の構成要素として有し、前記光学部品は、前記光源から前記空間光変調素子に至る光路中に配置し、前記第1の光源と前記第2の光源と前記第3の光源を発光させることによる表示される白色の色温度が5000K以上9300K以下である構成を採る。
【0016】
本発明の画像表示装置は、赤色のビームを発する第1の光源と、緑色のビームを発する第2の光源と、青色のビームを発する第3の光源と、前記第1の光源から出射される赤色のビームと前記第2の光源から出射される緑色のビームと前記第3の光源から出射される青色のビームとを受け、表示させる画像に応じて前記赤色のビームと前記緑色のビームと前記青色のビームとを変調する空間光変調素子と、前記第1の光源と前記第2の光源と前記第3の光源の発光状態を制御する制御部と、を具備し、前記空間光変調素子で変調された前記赤色のビームと前記緑色のビームと前記青色のビームを画像情報として表示する画像表示装置であって、炭素と窒素の一重結合を有する有機分子を光学部品の構成要素として有し、前記光学部品は、前記光源から前記空間光変調素子に至る光路中に配置し、前記制御部は、前記第1の光源と前記第2の光源と前記第3の光源を発光させることによる表示される白色の色温度を調整可能な色温度調整手段を有する構成を採る。
【0017】
本発明の画像表示装置は、青色もしくは青色よりも波長の短いビームを発する光源と、前記光源から出射されるビームを受け、表示させる画像に応じてビームを変調する空間光変調素子と、前記光源の発光状態を制御する制御部と、を具備し、前記空間光変調素子で変調されたビームを画像情報として表示する画像表示装置であって、炭素と窒素の一重結合を有する有機分子を光学部品の構成要素として有し、前記光学部品は、前記光源から前記空間光変調素子に至る光路中に配置し、前記光源は、前記空間光変調素子の非劣化領域に中心波長を有する準単色光を発するレーザである構成を採る。
【0018】
本発明の画像表示装置は、準単色のビームを発する光源と、前記光源から出射されるビームを受け、表示させる画像に応じてビームを変調する空間光変調素子と、前記光源の発光状態を制御する制御部と、を具備し、前記空間光変調素子で変調されたビームを画像情報として表示する画像表示装置であって、前記光源から前記空間光変調素子に至る光路中に、有機分子を構成要素とする光学部品を配置し、前記光学部品は、前記光源の波長をXnmより5nm長い波長とした場合と前記光源の波長をXnmより5nm短い波長とした場合とでは、前記光源からのビームを前記光学部品に照射したときの前記光学部品の劣化速度が5倍以上異なる特性を有し、前記光源の波長をXnm以上とする構成を採る。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、有機分子を有する光学部品の劣化が抑えられ、広い色再現範囲を実現しつつ長期間使用しても表示画像の劣化が少ない高画質の画像表示装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態1に係る画像表示装置の概略構成を示す図
【図2】上記実施の形態1に係る画像表示装置の空間光変調素子の構成を模式的に示す図
【図3】上記実施の形態1に係る画像表示装置の光源の駆動と発光のタイミングを示す図
【図4】上記実施の形態1に係る画像表示装置の青色光源から発せられるビームのスペクトラムの一例を示す図
【図5】上記実施の形態1に係る画像表示装置の青色光の中心波長と空間光変調素子の特性の劣化との関係を示す図
【図6】上記実施の形態1に係る画像表示装置の空間光変調素子を構成する配向膜の分子の基本的な構成を示す図
【図7】本発明の実施の形態2に係る画像表示装置の空間光変調素子への光照射強度と空間光変調素子の劣化との関係を示す図
【図8】上記実施の形態2に係る画像表示装置の光源の駆動と発光のタイミングを示す図
【図9】本発明の実施の形態3に係る画像表示装置の青色光源の駆動と発光のタイミングを示す図
【図10】本発明の実施の形態4に係る画像表示装置の概略構成を示す図
【図11】上記実施の形態4に係る画像表示装置の映像投射装置の制御システム部の主要部の概略構成を示す図
【図12】上記実施の形態4に係る画像表示装置の色温度と投射レンズ出力との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る画像表示装置の概略構成を示す図である。
【0023】
図1に示すように、画像表示装置100は、光の3原色であるRGBに対応する、赤色、緑色、青色のレーザ光を発する光源121〜123を有する。
【0024】
光源121〜123は、それぞれ半導体レーザである。光源121は、青色の光である波長450nmのビーム71を、光源122は、緑色の光である波長532nmのビーム72を、光源123は、赤色の光である波長640nmのビーム73を、それぞれ発する。ビーム71〜73は、それぞれ直線偏光の光である。光源121〜123からそれぞれ出射したビーム71〜73は、コリメートレンズ124〜126にそれぞれ入射して平行光に変換される。コリメートレンズ124の焦点距離f1、コリメートレンズ125の焦点距離f2、コリメートレンズ126の焦点距離f3は、いずれも4mmである。コリメートレンズ124で平行光に変換されたビーム71は、ミラー127で反射された後、ダイクロイックミラー128と129を透過する。コリメートレンズ125で平行光に変換されたビーム72は、ダイクロイックミラー128で反射された後、ダイクロイックミラー129を透過する。
【0025】
コリメートレンズ126で平行光に変換されたビーム73は、ダイクロイックミラー129で反射される。ビーム71,72は、ダイクロイックミラー129を透過し、ビーム73はダイクロイックミラー129で反射された後、ビーム71〜73の光路は1つとなり、集光レンズ130に入射する。集光レンズ130の焦点距離f4は、10mmである。集光レンズ130に入射したビーム71〜73は、集光レンズ130で集光された後、フライアイレンズ131と132を透過することにより、投射レンズ117のFナンバーと投射レンズ117で投影される映像の画質に適した、発散角度と強度分布を有するビームに変換される。フライアイレンズ131の焦点距離f5とフライアイレンズ132の焦点距離f6は、それぞれ2mmである。フライアイレンズ132を透過したビーム71〜73は、コンデンスレンズ133を透過することでビームの拡がり角が変換され、偏光ビームスプリッタ134で反射された後、空間光変調素子135を照明する。コンデンスレンズ133の焦点距離f7は、10mmである。ビーム71〜73は、空間光変調素子135で反射され、偏光ビームスプリッタ134を透過した後、投射レンズ117でスクリーン118に投射される。投射レンズのF値は、2.0である。
【0026】
光源121〜123、空間光変調素子135、投射レンズ117等の光学部品は、安定な配置を保つように、1つの筐体に実装されており、その光学部品が実装された1つの筐体が光学エンジン200である。
【0027】
図2は、空間光変調素子135の構成を模式的に示す図である。
【0028】
図2に示すように、空間光変調素子135は、液晶表示素子の一種である反射型の液晶表示素子(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)である。空間光変調素子135は、複数の層からなる。具体的には、半導体基板137の上に、反射膜138、透明電極140、配向膜142、液晶層143、配向膜141、透明電極139、ガラス基板136が積層されている。配向膜141と142は、芳香族のポリイミドからなり、液晶層143にある液晶分子の向きを一定の方向に揃える。芳香族のポリイミドは、原材料の合成が容易であるため材料が安価に入手できる。また、ポリイミドを用いた配向膜の形成は、スピンコートと簡単な加熱処理で可能なため、形成する時間は短く、形成するのに必要な設備の費用も少ない。その結果、芳香族のポリイミドを配向膜に用いた空間光変調素子は、非常に安価になる。
【0029】
透明電極139と140は、酸化インジウムスズ(ITO:Indium Tin Oxide)からなり、映像を表示するのに必要な電界を液晶層143に与える際に用いられる。液晶層143は、ツイストネマティック(TN:Twisted Nematic)型の液晶材料からなり、表示する映像に応じて透過する光の偏光状態を変化させる。反射膜138は、アルミニウムと誘電体多層膜からなり、ガラス基板側から入射してきた光を反射する。半導体基板137は、シリコンからなり、透明電極を介して液晶層143に印加される電圧の生成やオンとオフの動作等を行う電子回路が形成されている。
【0030】
ここで、吸湿特性を改善する膜や反射率を改善する膜、不要な反射光を軽減する膜等、必要な仕様に応じて設けられる層は、略している。
【0031】
偏光ビームスプリッタ134で反射されたビーム71〜73は、ガラス基板136側から空間光変調素子135に入射し、液晶層143を透過する際、表示する映像に応じてビーム71〜73の有する偏光方向が変えられる。本実施の形態で用いる液晶層143の液晶材料は、ノーマリーホワイトの特性を有している。ノーマリーホワイトの特性により、最も明るい白を表示させるときには、ビーム71〜73の有する偏光は、空間光変調素子135に入射するときと反射膜138で反射されて空間光変調素子135を出射するときとでは90度異なる。
【0032】
なお、ビーム71〜73が反射膜138で反射される際に、U字に曲がるように示しているが、模式的に示しているだけであり、実際には一般的な光学理論に基づき、入射角度に対応した角度で反射される。
【0033】
1つの空間光変調素子135でRGBの3色を所望の状態に変調するため、光源121〜123は、時分割で1色ずつ発光させており、RGBの3色の発光に応じて、空間光変調素子も制御されている。光源121〜123と空間光変調素子135の制御は、電子回路とソフトウェアが一体となった制御システム部119により実行される。
【0034】
図3は、光源の駆動と発光のタイミングを示す図である。
【0035】
図3において、DRVは光源の駆動状態、LDOは光源の発光状態を示しており、それぞれRは赤色、Gは緑色、Bは青色の状態である。
【0036】
RGBの3色は、順番に発光させており、その繰り返し周期Tは16.7ミリ秒である。Rの駆動及び発光時間幅t1、Gの駆動及び発光時間幅t3、Bの駆動及び発光時間幅t5は、それぞれ同じ時間幅の5.3ミリ秒(繰り返し周期Tの32/100)としている。また、各色の発光の終わりから次の色の発光の始まりまで、空間光変調素子135の液晶の状態が次の色の表示をするのに適切な状態になる期間として、いずれの色も発光しない期間t2、t4、t6を設けており、それぞれ0.25ミリ秒(繰り返し周期Tの1.3/100)である。
【0037】
IR、IG、IBは、それぞれ光源121〜123の発光強度であり、色温度を9000Kと設定したとき、IRは0.82W、IGは0.5W、IBは0.45Wである。
【0038】
従来の画像表示装置では、紫外光を遮断するフィルタを用いることによって光源から発せられる紫外光を遮断しているにも拘わらず、画像表示装置を連続して使用しているうちに、空間光変調素子の特性が劣化し、画像表示装置の輝度の低下と色むらが生じていた。しかしながら、これまでその理由は明らかにされていなかった。
【0039】
本発明者らは、波長の半値全幅(FWHM:Full Width Half Maximum)が1.5〜2nmと波長幅の狭い半導体レーザからのビームを青色光に用い、青色光の中心波長と空間光変調素子の特性の劣化との関係を明らかにした。
【0040】
まず、本発明者らが見出した劣化速度の波長依存性について説明する。
【0041】
図4は、青色光源から発せられるビームのスペクトラムの一例を示す図である。
【0042】
図4に示すように、中心波長は447.5nm、半値全幅は約2nmである。半値全幅が狭い光源を用いることにより、空間光変調素子の特性の劣化の波長依存性を明確にすることができる。
【0043】
図5は、青色光の中心波長と空間光変調素子の特性の劣化との関係を示す図である。
【0044】
空間光変調素子は、室温(約25℃)で動作させている。また、単位面積当たりの光照射強度は、1平方mm当たり30mWとしている。
【0045】
図5において、横軸は青色光の中心波長、縦軸は、空間光変調素子の劣化速度で、単位時間当たりの輝度の低下率を示している。
【0046】
青色光の中心波長が445nmよりも長い場合と短い場合とで、劣化速度は大きく変化した。波長467nmのとき−0.0052、波長451nmのとき−0.007、波長438nmのとき−0.174となっており、波長451nmのときの寿命(例えば、輝度が初期の2分の1となるまでの時間)を、基準の1としたとき、波長467nmの場合には、寿命は約1.3(0.007/0.0052)倍長くなるが、その差は比較的小さい。一方、波長438nmの場合には寿命は約25分の1(0.007/0.174)と、大幅に短くなる。すなわち、波長445nm付近を境として、波長が短くなると大幅に寿命が短くなる。
【0047】
波長438nmと451nmで空間光変調素子の光学的な特性、例えば初期の輝度は殆ど同じであり、空間光変調素子を構成する液晶材料や配向膜の分光特性から、この空間光変調素子の劣化速度の波長依存性を説明することはできなかった。
【0048】
表1は、日本化学会編 化学便覧基礎編IIに記載されている、液晶材料及び配向膜を構成する代表的な分子結合とそれらの分子結合の結合エネルギの値を抜粋し、分子結合の結合エネルギの値を用いて、結合エネルギに対応するエネルギを有する光(光子)の波長を計算した結果である。
【0049】
【表1】

【0050】
表1において、例えばC=Oは、C(炭素:Carbon)とO(酸素:Oxygen)との二重結合を、C−FはC(炭素:Carbon)とF(弗素:Fluorine)との一重結合を示している。
【0051】
表1から、結合エネルギが一番小さいCとN(窒素:Nitrogen)との一重結合(以下、C−N結合いう)の結合エネルギは、291.6kJ/molとなっている。この291.6kJ/molの結合エネルギに対応するエネルギを有する光(光子)の波長は、411nmである。照射している青色光源の波長は440nm〜460nmなので、光子は、結合エネルギよりも低いエネルギしか有しておらず、これまでは、C−N結合を切断しないと考えられていた。また、波長445nm付近で空間光変調素子の劣化速度が大きな変化を示すことも知られていなかった。
【0052】
本発明者らは、今回、空間光変調素子の劣化は、主として空間光変調素子を構成する配向膜が、青色光が照射されることによって分解し、その結果、生じることを見出した。すなわち、図5に示すように、劣化速度は、波長依存性があり、波長に対して非常に敏感である。本発明者らは、その原因を、配向膜(ポリイミド)を構成する分子の中で、結合するエネルギが照射波長に近いC−N結合が、照射光のエネルギ(1光子吸収)で切断されると推定した。
【0053】
図6は、空間光変調素子を構成する配向膜の分子の基本的な構成を示す図である。図6は、配向膜を構成する分子の一例として、2,2' ヘキサフルオロプロピリデンジフタル酸二無水物(6FDA:2,2’bis(3,4-dicarboxyphenyl)hexafuluoropropane dianhydride )の構造を示す。
【0054】
配向膜に用いられるポリイミドは多くの種類がある。それらのいずれも図6に示す6FDAのように、C−N結合を有している。このC−N結合が、熱(通常の室温状態であれば300K程度)による分子振動により、青色光の光子が有するエネルギよりもC−N結合の結合エネルギが小さくなったかのように振る舞うことが、非常に少ない確率だが、ある短い時間で起こりうる。そのときに波長450nm付近の青色光も非常に少ない確率ではあるが吸収される。
【0055】
熱による分子振動により、C−N結合の結合エネルギが小さくなったかのように振る舞う現象は、本来の結合エネルギに対応する波長を基点として、波長が長くなる程、ガウス分布で急激に確率が低下する。C−N結合は、波長450nm付近の青色光を吸収することで、CとNの一重結合が切断され、その結果、配向膜が劣化する。照射する光の波長が長くなる程、青色光を吸収する確率が急激に低下するので、C−N結合を切断する確率も波長が長くなると急激に低下する。更に、今回、C−N結合を切断するように機能する光吸収に、二光子吸収効果が併せて生じ、空間光変調素子の劣化速度の波長依存性が更に顕著になるということが分かった。
【0056】
本発明者らは、これらの新たな知見を元に、本実施の形態の画像表示装置においては、青色光源を半導体レーザとした。半導体レーザから発せられる波長のFWHMは、2nm以下と狭く、中心波長を445nmよりも長くすることで、長期間使用しても表示画像の劣化が少ない高画質の画像表示装置を提供することができる。
【0057】
なお、レーザから発せられる波長のFWHMが3nm以下であれば、ほぼ準単色光と見なせ、十分な効果が得られる。
【0058】
また、空間光変調素子を顕著に劣化させる光を遮断するために、光源から出射される光に対してフィルタを入れるということも必要が無い。フィルタを入れなくてもよいので、フィルタによる光学的な損失も無く、低消費電力で明るい画像表示装置を提供することができる。
【0059】
また、余計な光を制限するフィルタや配向膜の劣化を抑制する特別な添加剤は不要で、しかも空間変調素子の配向膜には安価なポリイミドを用いることができるので、安価な画像表示装置を提供することができる。
【0060】
また、広い色再現範囲を実現するために、青色光源の波長を445nm〜460nmと通常よりも短めにした場合でも、波長の幅(FWHm)が3nm以下と波長の幅が狭い光源を用いることで、広い色再現範囲を実現しつつ長期間使用しても表示画像の劣化が少ない高画質の画像表示装置を提供することができる。
【0061】
また、本実施の形態においては、短い波長の境界を445nmとしたが、図5から理解されるように青色光源の波長を445nmから±5nm変えたときに劣化速度が大幅に変化する。光源のある中心波長をXnmとし、光源の波長をXnmから±5nm変化させたとする。すなわちXnm+5nmの波長を用いた場合とXnm−5nmの波長を用いた場合に、空間光変調素子の劣化速度が5倍以上変化するとき、波長Xnmを短い波長の許容範囲の境界となる波長としてもよい。この設定により、長期間使用しても表示画像の劣化が少ない高画質の画像表示装置をより確実に提供できるようになる。
【0062】
また、光源の発するビームの波長の拡がり幅を考慮して、半値全幅の短い側の波長を境界となる波長Xnm以上とすることにより、長期間使用しても表示画像の劣化が少ない高画質の画像表示装置をより一層確実に提供できるようになる。
【0063】
また、青色光を発生させる半導体レーザは窒化ガリウムにインジウムを添加することにより、レーザ発振する波長を制御しており、波長を長くする程、インジウムの添加量を多くしなければならない。インジウムの添加量を多くする程、レーザの動作電流及び消費電力は増え、寿命が短くなるので、青色光の波長を通常の青色である460〜470nmよりも短い波長である445nm〜460nmとすることで、深い青色を表現することが可能となり、且つ、インジウムの添加量が少なくてよい分、光源の消費電力が少なく寿命も長くなる。その結果、画像表示装置としても消費電力が少なく寿命の長い画像表示装置を提供することができる。
【0064】
また、ここでは、ポリイミドに芳香族のポリイミドを用いたが、半芳香族や脂環式等、何れのポリイミドもC−N結合を有しているので、何れのポリイミドを用いた場合でも、同様の効果を得ることができる。半芳香族や脂環式等は、芳香族と比べて材料の合成製造は難しくなるものの、耐光性は向上するため、より長期間使用しても表示画像の劣化が少ない高画質な画像表示装置を提供することができるようになる。
【0065】
また、画像表示装置に液晶を用いた場合、長時間同じ画像を表示するとその画像が残存する、所謂画像の焼き付きと呼ばれる好ましくない現象の起こることがある。酸無水物としてTCAやNDAを用いた脂環式ポリイミドを使用した場合には、画像の焼き付きが少ない画像表示装置を提供することができる。
【0066】
また、ポリイミドでは無く、ポリアミック酸や、他の高分子であっても、それらの高分子がC−N結合を有している場合には、同様な効果が得られる。
【0067】
また、本実施の形態では、配向膜を例に説明したが、配向膜と透明電極の間もしくは配向膜と液晶の間に別の有機物からなる層を設け、その層がC−N結合を有している場合でも同様の効果を得ることができる。また、液晶自身にC−N結合を有している場合、フタロシアニンを用いた偏光板、液晶材料を用いた波長板、等、画像表示装置を構成する光学部品にC−N結合を有する有機分子を含んでいる場合についても同様の効果を得ることができる。
【0068】
このように、本実施の形態によれば、炭素と窒素の一重結合を有する有機分子を光学部品の構成要素として有し、光学部品は、光源121〜123から空間光変調素子135に至る光路中に配置し、光源121〜123は、空間光変調素子の非劣化領域に中心波長を有する準単色光を発するレーザである構成を採る。これにより、劣化による寿命の最低保証時間の精度を向上させることができる。
【0069】
また、青色光源波長の半値全幅を3nm以下とすることで、劣化の軽減と広い色再現範囲を両立させることができる。
【0070】
また、青色光源の波長を445nm以上460nm以下とすることで、下記の利点がある。(1)安価なポリイミド材料が使える。(2)フィルタ及び、別の添加剤も不要となる。コストアップが無く、安価な画像表示装置が提供可能になる。(3)光の損失が無いので、低消費電力で明るい画像表示装置が提供可能になる。(4)光源の消費電力が少なく寿命も長い。
【0071】
また、本実施の形態では、光学部品は、光源の波長をXnmより5nm長い波長とした場合と光源の波長をXnmより5nm短い波長とした場合とでは、光源からのビームを光学部品に照射したときの光学部品の劣化速度が5倍以上異なる特性を有し、光源の波長をXnm以上とする構成を採る。上記光学部品は、例えば、空間光変調素子である。これにより、劣化しにくい画像表示装置を確実に提供することができる。
【0072】
(実施の形態2)
実施の形態2では、本発明者らが見出した劣化速度の照射強度依存性について説明する。
【0073】
図7は、本発明の実施の形態2に係る画像表示装置の空間光変調素子への光照射強度と空間光変調素子の劣化との関係を示す図である。
【0074】
本実施の形態の画像表示装置の構成は、図1の画像表示装置100と同様である。
【0075】
本実施の形態では、空間光変調素子135の配向膜にポリイミドを用いている。
【0076】
図7において、横軸は空間光変調素子に照射する青色光の照射強度、縦軸は、空間光変調素子の劣化速度であり、単位時間当たりの輝度の低下率を示している。ここでは波長451nmの結果を示している。他の波長でも同様の傾向を示していた。
【0077】
空間光変調素子の劣化速度は、光の照射強度の2乗に比例して増加している。劣化速度が、光の照射強度の2乗に比例して増加するということは、二光子吸収が生じている場合の典型的な特性である。劣化が1つの光子を吸収することで生じるのであれば、劣化速度は光の照射強度に比例する。
【0078】
二光子吸収の場合、等価的な励起エネルギは、1つの光子の2倍になるので、青色光の波長が450nmであれば、波長225nmに相当するエネルギの分子結合までは切断できるようになる。
【0079】
表1に示すように、C−H、C−O等、殆どの一重結合の結合エネルギは、波長225nmに相当するエネルギよりも小さいので、二光子吸収によって、殆どの一重結合が切断され得る。しかし、実際には、C−N結合の光を吸収する確率が、C−H、C−O等、他の一重結合が光を吸収する確率よりも大幅に高い。その結果、2光子吸収によって引き起こされる分子結合の切断は、主としてC−N結合の切断となる。
【0080】
実施の形態1では、Rの駆動及び発光時間幅t1、Gの駆動及び発光時間幅t3、Bの駆動及び発光時間幅t5は、それぞれ同じ時間幅の5.3ミリ秒(繰り返し周期Tの32/100)とした。本実施の形態の画像表示装置では、今回分かった知見を元に、R、G、Bの発光時間の比率を変えている。
【0081】
空間光変調素子の劣化速度が、光の照射強度の2乗に比例して増加するため、RもしくはGの発光時間の比率を低くして、その分Bの発光時間の比率を高めることで、更に空間光変調素子の寿命を改善することが可能となる。
【0082】
図8は、本実施の形態の画像表示装置における光源の駆動と発光のタイミングを示す図である。
【0083】
ここでは、Rの駆動及び発光時間幅t1とGの駆動及び発光時間幅t3は、2.7ミリ秒(繰り返し周期Tの16/100)と実施の形態1の画像表示装置100に比べて半分の時間幅とし、Bの駆動及び発光時間幅t5は、10.7ミリ秒(繰り返し周期Tの64/100)と実施の形態1の画像表示装置に比べて2倍の時間幅としている。
【0084】
時間幅を変えているので、光源121〜123の発光強度であるIR、IG、IBは、時間幅の増減に応じて変更しており、IRは1.64W、IGは1.0W、IBは0.225Wとしている。
【0085】
このように、本実施の形態によれば、炭素と窒素の一重結合を有する有機分子を光学部品の構成要素として有し、光学部品は、光源121〜123から空間光変調素子135に至る光路中に配置し、青色のビームを発する第3の光源121の発光する時間が、赤色のビームを発する第1の光源123もしくは緑色のビームを発する第2の光源122の発光する時間よりも長くする構成を採る。例えば、RGBのカラーシーケンシャル駆動において、青の発光期間を赤もしくは緑の発光期間よりも長くする。これにより、LCOSへの照射光のピークパワーが下がり、画像表示装置の長寿命化を図ることができる。
【0086】
本実施の形態の画像表示装置では、実施の形態1の画像表示装置と比較して、空間光変調素子の寿命が2倍長くなる。すなわち、更に長期間使用しても表示画像の劣化が少ない高画質の画像表示装置を提供することができる。
【0087】
なお、ここでは、青色光源の発光時間を2倍として、出力を2分の1としたが、一例であり、赤色光源と緑色光源の設定可能な出力に応じて、時間幅を自由に設定することができる。
【0088】
(実施の形態3)
実施の形態3では、画像表示装置の青色光源の駆動と発光のタイミングについて説明する。
【0089】
図9は、本発明の実施の形態3に係る画像表示装置の青色光源の駆動と発光のタイミングを示す図である。図9(a)は、実施の形態1の画像表示装置の青色光源の駆動と発光のタイミングを、図9(b)は、本実施の形態の画像表示装置の青色光源の駆動と発光のタイミングを、それぞれ示す。DRVは光源の駆動状態、LDOは光源の発光状態を示している。
【0090】
本実施の形態の画像表示装置の光学エンジン200の構成は、図1の画像表示装置100と同様である。
【0091】
半導体レーザは、緩和振動特性を有していることがあり、そのような特性を有している場合には、光源をオンにした直後のタイミングで、想定よりも大きな出力となることがある。また、光源に矩形パルスの電流を供給する駆動回路や配線等の持つキャパシタンスやインダクタンスの値次第では、同様に光源をオンにした直後のタイミングで、想定よりも大きな出力となることがある。
【0092】
図9(a)に示すように、矩形パルスの平坦部に対応する光源の安定した状態の出力をIB、矩形パルスの立ち上がり部分に対応する光源をオンにした瞬間の光源の出力をIpとしたとき、IpはIBよりも数十%から数倍大きな値となる。IBよりも大きなIpが現れる時間tvは、数十n秒〜数十μ秒と比較的短いが、瞬間的に強い青色光が空間光変調素子に照射されることは、空間光変調素子の寿命の観点では好ましくない。空間光変調素子の劣化速度が、光の照射強度の2乗に比例と、光の照射強度が強くなると急激に増加するためである。
【0093】
図9(b)は、本実施の形態の画像表示装置の青色光源の駆動と発光のタイミングを示している。光源をオンにした直後のタイミングで、光源の安定した状態の出力IBを超えるような出力が光源からなされないように、IBよりも大きなIpを抑え込むのに必要な時間幅tvcで、光源を駆動する矩形パルスの立ち上がり波形を鈍らせている。
【0094】
光源を駆動する矩形パルスの立ち上がり波形を鈍らせる方法は、コンデンサと抵抗で構成されるCRフィルタを用いる方法がある。また、矩形パルスをデジタルデータをアナログ波形に変換(D−A変換)して形成する際、デジタルデータで細かく波形の形状を制御する方法など、一般的に良く知られている様々な方法を適用することができる。これらの矩形パルスの立ち上がり波形を鈍らせる方法を、波形整形部として制御システム部119(図1参照)における光源駆動部150〜152(図11参照)の出力段に設ければよい。
【0095】
光源の安定した状態の出力IBを超えるような出力が、光源から出射されないようにすることにより、空間光変調素子を構成する配向膜の劣化はより少なくなる。その結果、更に長期間使用しても表示画像の劣化が少ない高画質の画像表示装置を提供することができる。
【0096】
このように、本実施の形態によれば、炭素と窒素の一重結合を有する有機分子を光学部品の構成要素として有し、光学部品は、光源121〜123から空間光変調素子135に至る光路中に配置し、制御システム部119は、光源121〜123を略矩形状の波形で変調して発光させ、光源121〜123からの略矩形状の波形の立ち上がり部分における出力強度が略矩形状の波形の平坦部の出力強度よりも大きくならないように、略矩形状の波形の立ち上がりを鈍らせる。これにより、緩和振動によるピークパワーが抑えられ、画像表示装置の長寿命化を図ることができる。
【0097】
(実施の形態4)
図10は、本発明の実施の形態4に係る画像表示装置の概略構成を示す図である。本実施の形態は、本発明に係る画像表示装置を映像投射装置に適用した例である。図1と同一構成部分には同一符号を付して重複箇所の説明を省略する。
【0098】
図10に示すように、映像投射装置144(画像表示装置)は、映像を投射する光学エンジン200と、映像データを光学エンジン200で表示できるように加工する制御システム部119と、スイッチ145と、備える。また、映像投射装置144は、外部に置かれたパーソナルコンピュータ装置146と光情報記録装置147に接続されている。
【0099】
光情報記録装置147は、デジタルバーサタイルディスク(DVD)、ブルーレイディスク(blu−ray)、ハードディスクドライブ(HDD)などの情報記録媒体であり、映像情報を記録する。光情報記録装置147には、テレビジョン放送を受信するためのチューナも内蔵されている。
【0100】
日本のテレビ放送の色温度の基準値は9300Kのため、市販されているテレビジョン装置や画像表示装置の色温度も9300Kを標準値として設定されていることが多い。
【0101】
しかし、映像投射装置144は、投射される映像の色温度の初期値を6500Kとしている。色温度を6500Kとしても、一般的には違和感は無い。色彩工学における色温度の標準値が6500Kのためである。なお、映像投射装置144のユーザには、目の疲労が少ないことと、色温度を低くする程画像表示装置の寿命が長くなることを告知することが好ましい。
【0102】
映像投射装置144の色温度は、固定された値では無く、スイッチ145を操作することにより変更できる。例えば、パーソナルコンピュータ装置146から出力されるプレゼンテーション用の静止画を表示するとき、スイッチ145を操作することにより、映像投射装置144のユーザの好みに応じて色温度を9000Kに設定することができる。
【0103】
図11は、映像投射装置144の制御システム部119の主要部の概略構成を示す図である。
【0104】
図11に示すように、制御システム部119は、スイッチ145、識別部148、制御部149、光源駆動部150〜152、及び出力端子153〜155を備える。
【0105】
パーソナルコンピュータ装置146及び光情報記録装置147から出力される映像信号は、制御システム部119に入力される。パーソナルコンピュータ装置146と光情報記録装置147からの映像信号は、識別部148で所望の信号が選択された後、制御部149に入力される。所望の選択とは、パーソナルコンピュータ装置146と光情報記録装置147のどちらか一方からしか映像信号が出力されていない場合には、自動的に一方の出力されている映像信号を選択する。また、両方入力されている場合には、ユーザが映像投射装置に設けられた映像を選択するスイッチ(図示略)を操作することで、表示を希望する側の映像信号が選択される。
【0106】
制御部149は、入力された映像信号の色情報、スイッチ145で設定される色温度、空間光変調素子の状態に応じて、赤色、緑色、青色の光源の発光状態及び出力強度を制御する制御信号を出力する。制御部149から出力される制御信号は、光源駆動部150〜152に入力される。
【0107】
光源駆動部150〜152は、赤色、緑色、青色の光源の発光状態を制御する制御出力を出力端子153〜155からそれぞれ出力する。
【0108】
図12は、色温度と投射レンズ出力との関係を示す図である。図12は、各色温度に対する赤色光、緑色光、青色光の投射レンズからの出力強度を示しており、色温度が9000Kのときの出力強度を1として規格化して示している。ここで、各色温度で同じ輝度となるようにしている。
【0109】
初期の色温度を標準値の9300Kよりも低い6500Kとすることにより、青色光の強度は20%低くできる。
【0110】
図7に示すように、空間光変調素子の劣化速度は青色光の強度の2乗に反比例するので、色温度の設定を変更することで、青色光の強度を20%低くすることにより、空間光変調素子の寿命は1.6倍長くなる。
【0111】
このように、本実施の形態によれば、炭素と窒素の一重結合を有する有機分子を光学部品の構成要素として有し、光学部品は、光源121〜123から空間光変調素子135に至る光路中に配置し、赤色のビームを発する第1の光源123と緑色のビームを発する第2の光源122と青色のビームを発する第3の光源121を発光させることによる表示される白色の色温度が5000K以上9300K以下である構成を採る。これにより、青色の強度が下がり、画像表示装置の長寿命化を図ることができる。
【0112】
また、本実施の形態では、制御システム部119は、第1の光源123と第2の光源122と第3の光源121を発光させることによる表示される白色の色温度を調整可能な色温度調整機能を有する。色温度調整機能は、装置側からの要求により設定されている本来の白色の色温度を、長寿命化の観点から敢えて青色の強度を下げた白色の色温度に調整する。これにより、色温度(青色の強度)を下げることが可能になり、画像表示装置の長寿命化を図ることができる。
【0113】
色温度調整機能はまた、投射シーン(動画/静止画など)に応じて、自動で色温度を調整・必要としないときの色温度を下げて、長寿命化を図る。また、制御システム部119は、外部から白色の色温度を調整設定を受付ける。これにより、ユーザがマニュアルで色温度を調整・寿命と画質のバランスを選択することが可能になる。
【0114】
本実施の形態の画像表示装置においては、実施の形態1の画像表示装置と比較して更に長期間使用しても表示画像の劣化が少ない高画質の画像表示装置を提供することができる。
【0115】
なお、ここで示した6500Kは一例であって、画像表示装置の設計方針に応じて、更に色温度を下げる等、異なる色温度としてよい。色温度が5000K以上9300K以下であれば、白を表示させたときの違和感は殆ど無く、許容される。
【0116】
また、ここでは、スイッチ145の操作で色温度を設定変更できるようにしているが、画像表示装置に入力される信号が動画なのか静止画なのかに応じて、静止画のときは色温度を高める等、自動で色温度を調節できるようにしても構わない。
【0117】
投射シーンに応じて、自動で色温度を調整できるようにすることにより、ユーザ操作の負担を軽減しつつ、長期間使用しても表示画像の劣化が少ない高画質の画像表示装置を提供することができる。
【0118】
以上に説明した実施の形態は一例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で様々な形態を採り得る。
【0119】
例えば、上記各実施の形態では、広い色再現性を実現するためにRGBの3原色共、波長の半値全幅が数nmと波長幅の狭いレーザ光を用いたが、必要に応じてレーザ光を用いなくても構わない。特に、緑色光と赤色光は、青色光と比較すると全くと言ってよい程、C−N結合の劣化させる度合いが低く、また、波長幅への依存性も同様に極めて低いので、本発明に関して如何なる制約も無い。そのため、発光ダイオード(LED)、蛍光体からの発光等、どのような光源にも適用することができる。
【0120】
青色光に関しても、概ね強度が最大となる値の半分となる波長を、短い波長の許容範囲の境界となる波長に設定することにより、長期間使用しても表示画像の劣化が少ない高画質の画像表示装置を提供することができる。
【0121】
また、必ずしもRGBの3原色を用いる必要は無く、青色の1色のみを用いる等、少なくとも青色もしくは青色よりも短い波長の光源を有していればよい。
【0122】
また、光源を駆動する矩形パルスの立ち上がり波形を鈍らせることや、青色光源の発光時間を長くすること、色温度を下げること等は、どのようなタイプの光源や如何なる波長を用いた場合でも、長期間使用しても表示画像の劣化が少ない高画質の画像表示装置を提供することができるという効果が得られる。
【0123】
また、空間光変調素子は、反射型の液晶表示素子の一種であるLCOSを用いたが、透過型の液晶表示素子であっても構わない。また、画像表示装置は、投写型に限定されるものでは無く、直接表示画像を観る液晶テレビや液晶ディスプレイ等の液晶表示装置であってもよい。
【0124】
また、上記各実施の形態では、画像表示装置という名称を用いたが、これは説明の便宜上であり、表示装置、液晶装置等であってもよい。
【0125】
また、空間光変調素子がデジタルマイクロミラー(DMD)である等、C−N結合を有する有機分子が空間光変調素子には用いられていない場合でも、光源から発せられるビーム(青色光)が透過する光路中に配置される光学部品にC−N結合を有する有機分子が含まれる場合には、同様の効果が得られる。
【0126】
また、画像表示装置の実装形態にも何ら制約は無い。独立で使用する形態であってもよいし、機器に内蔵する形態であってもよい。
【0127】
また、用いる液晶材料に関して、制約は無いが、C−N結合を含まない方がより長寿命の画像表示装置を提供することができる。液晶材料がC−N結合を含んでいた場合でも、液晶分子全体においてC−N結合が占める割合は、ポリイミド全体においてC−N結合が占める割合と比較すると遙かに少ないため、液晶材料がC−N結合を含んでいる場合と含んでいない場合との寿命の差は殆ど無い。
【0128】
また、光学構成に何ら制約が無いことは言うまでもない。例えば、3つの光源から出力をダイクロイックミラーを用いて合波する構成を示したが、クロスプリズムや波長選択性の回折格子を用いる等、必要に応じた構成として構わない。更にレンズの焦点距等、他の光学条件も、同様に必要に応じた構成として構わない。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明の画像表示装置は、C−N結合を有する有機分子を用いた場合でも、長期間の使用に対する表示画像の劣化を少なくすることができ、投射型画像表示装置、液晶テレビ及び液晶ディスプレイ等、画像表示装置全般に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0130】
100 画像表示装置
117 投射レンズ
118 スクリーン
119 制御システム部
121〜123 光源
124〜126 コリメートレンズ
127 ミラー
128、129 ダイクロイックミラー
130 集光レンズ
131、132 フライアイレンズ
133 コンデンスレンズ
134 偏光ビームスプリッタ
135 空間光変調素子
136 ガラス基板
137 半導体基板
138 反射膜
139,140 透明電極
141,142 配向膜
143 液晶層
144 映像投射装置(画像表示装置)
145 スイッチ
146 パーソナルコンピュータ装置
147 光情報記録装置
148 識別部
149 制御部
150〜152 光源駆動部
153〜155 出力端子
200 光学エンジン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
青色もしくは青色よりも波長の短いビームを発する光源と、前記光源から出射されるビームを受け、表示させる画像に応じてビームを変調する空間光変調素子と、前記光源の発光状態を制御する制御部と、を具備し、前記空間光変調素子で変調されたビームを画像情報として表示する画像表示装置であって、
炭素と窒素の一重結合を有する有機分子を光学部品の構成要素として有し、
前記光学部品は、前記光源から前記空間光変調素子に至る光路中に配置し、
前記制御部は、前記光源を略矩形状の波形で変調して発光させ、前記光源からの前記略矩形状の波形の立ち上がり部分における出力強度が前記略矩形状の波形の平坦部の出力強度よりも大きくならないように、前記略矩形状の波形の立ち上がりを鈍らせる波形整形手段を有する、画像表示装置。
【請求項2】
赤色のビームを発する第1の光源と、緑色のビームを発する第2の光源と、青色のビームを発する第3の光源と、前記第1の光源から出射される赤色のビームと前記第2の光源から出射される緑色のビームと前記第3の光源から出射される青色のビームとを受け、表示させる画像に応じて前記赤色のビームと前記緑色のビームと前記青色のビームとを変調する空間光変調素子と、前記第1の光源と前記第2の光源と前記第3の光源の発光状態を制御する制御部と、を具備し、前記空間光変調素子で変調された前記赤色のビームと前記緑色のビームと前記青色のビームを画像情報として表示する画像表示装置であって、
炭素と窒素の一重結合を有する有機分子を光学部品の構成要素として有し、
前記光学部品は、前記光源から前記空間光変調素子に至る光路中に配置し、
前記第3の光源の発光する時間が、前記第1の光源もしくは前記第2の光源の発光する時間よりも長い、画像表示装置。
【請求項3】
赤色のビームを発する第1の光源と、緑色のビームを発する第2の光源と、青色のビームを発する第3の光源と、前記第1の光源から出射される赤色のビームと前記第2の光源から出射される緑色のビームと前記第3の光源から出射される青色のビームとを受け、表示させる画像に応じて前記赤色のビームと前記緑色のビームと前記青色のビームとを変調する空間光変調素子と、前記第1の光源と前記第2の光源と前記第3の光源の発光状態を制御する制御部と、を具備し、前記空間光変調素子で変調された前記赤色のビームと前記緑色のビームと前記青色のビームを画像情報として表示する画像表示装置であって、
炭素と窒素の一重結合を有する有機分子を光学部品の構成要素として有し、
前記光学部品は、前記光源から前記空間光変調素子に至る光路中に配置し、
前記第1の光源と前記第2の光源と前記第3の光源を発光させることによる表示される白色の色温度が5000K以上9300K以下である、画像表示装置。
【請求項4】
赤色のビームを発する第1の光源と、緑色のビームを発する第2の光源と、青色のビームを発する第3の光源と、前記第1の光源から出射される赤色のビームと前記第2の光源から出射される緑色のビームと前記第3の光源から出射される青色のビームとを受け、表示させる画像に応じて前記赤色のビームと前記緑色のビームと前記青色のビームとを変調する空間光変調素子と、前記第1の光源と前記第2の光源と前記第3の光源の発光状態を制御する制御部と、を具備し、前記空間光変調素子で変調された前記赤色のビームと前記緑色のビームと前記青色のビームを画像情報として表示する画像表示装置であって、
炭素と窒素の一重結合を有する有機分子を光学部品の構成要素として有し、
前記光学部品は、前記光源から前記空間光変調素子に至る光路中に配置し、
前記制御部は、前記第1の光源と前記第2の光源と前記第3の光源を発光させることによる表示される白色の色温度を調整可能な色温度調整手段を有する、画像表示装置。
【請求項5】
前記色温度調整手段は、投射する画像に応じて、前記白色の色温度を調整する、請求項4に記載の画像表示装置。
【請求項6】
前記色温度調整手段は、外部からの設定により前記白色の色温度を調整する、請求項4に記載の画像表示装置。
【請求項7】
青色もしくは青色よりも波長の短いビームを発する光源と、前記光源から出射されるビームを受け、表示させる画像に応じてビームを変調する空間光変調素子と、前記光源の発光状態を制御する制御部と、を具備し、前記空間光変調素子で変調されたビームを画像情報として表示する画像表示装置であって、
炭素と窒素の一重結合を有する有機分子を光学部品の構成要素として有し、
前記光学部品は、前記光源から前記空間光変調素子に至る光路中に配置し、
前記光源は、前記空間光変調素子の非劣化領域に中心波長を有する準単色光を発するレーザである、画像表示装置。
【請求項8】
前記光源から出射されるビームの波長の半値全幅が3nm以下である、請求項7に記載の画像表示装置。
【請求項9】
前記光源から出射されるビームの波長が445nm以上460nmである、請求項7に記載の画像表示装置。
【請求項10】
準単色のビームを発する光源と、前記光源から出射されるビームを受け、表示させる画像に応じてビームを変調する空間光変調素子と、前記光源の発光状態を制御する制御部と、を具備し、前記空間光変調素子で変調されたビームを画像情報として表示する画像表示装置であって、
前記光源から前記空間光変調素子に至る光路中に、有機分子を構成要素とする光学部品を配置し、
前記光学部品は、前記光源の波長をXnmより5nm長い波長とした場合と前記光源の波長をXnmより5nm短い波長とした場合とでは、前記光源からのビームを前記光学部品に照射したときの前記光学部品の劣化速度が5倍以上異なる特性を有し、
前記光源の波長をXnm以上とする、画像表示装置。
【請求項11】
前記光学部品は、前記空間光変調素子である、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の画像表示装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−88480(P2013−88480A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226082(P2011−226082)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】