説明

画像記録装置

【課題】被記録媒体が駆動ローラと従動ローラとの狭持部から抜け出る際に被記録媒体の後端を搬送方向へ押し出そうと作用する力を吸収して、被記録媒体の過搬送を防止することにより、画像品質を向上させることが可能な画像記録装置を提供する。
【解決手段】画像記録部24の上流側に、駆動ローラ47とピンチローラ48とを有する一対の搬送ローラ対54を設ける。駆動ローラ47に所定の圧接力で押圧するようにピンチローラホルダ56でピンチローラ48を回転自在に支持する。装置の筐体を形成する内部フレーム58に一体に設けられたホルダ支持部材57によって、ピンチローラホルダ56との間に転がり軸受け80を介在させた状態で、該ピンチローラホルダ56を記録用紙の搬送方向に転動可能に支持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状の被記録媒体に画像を記録する画像記録装置に関し、特に、駆動ローラと該駆動ローラに圧接する従動ローラとを有する搬送手段(第1搬送手段)によって画像記録位置へ被記録媒体が搬送されるよう構成された画像記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、インクジェット方式の画像記録装置においては、図14に示すように、用紙Sを支持するプラテン102(画像読取位置に相当)へ向けて、図示しない給紙カセットから給紙された用紙Sを所定長さずつ間欠的に搬送(ステップ送り)させ、一方で、その間欠搬送の停止中に記録ヘッド100を搭載したキャリッジ101を用紙Sの搬送方向(紙面の左右方向、以下「副走査方向」と称する)に直交する方向(紙面に垂直な方向、以下「主走査方向」と称する)にスライド移動させつつ、記録ヘッド100のノズルからインクを噴射させて用紙Sに付着させることによって、所定区域ずつ画像が記録される。
【0003】
上述した間欠搬送は、プラテン102の搬送方向上流側(以下「上流側」と略称する)に配設された一対の搬送ローラ対103と、プラテン102の搬送方向下流側(以下「下流側」と略称する)に配設された一対の排出ローラ対104とが、図示しない制御部により回転制御されることによってなされる。
【0004】
搬送ローラ対103は、モータなどから伝達された回転力を受けることにより駆動される駆動ローラ105と、コイルバネ107により付勢されて駆動ローラ105に圧接する従動ローラ106とを備えて構成されている。図14(a)に示すように、給紙カセットから給紙された用紙Sの先端が搬送ローラ対103に到達すると、駆動ローラ105と従動ローラ106とにより狭持されて、搬送ローラ対103による用紙Sの搬送が開始される。用紙Sの搬送が進むと、用紙Sの先端が排出ローラ対104によって狭持されて、図14(b)に示すように、搬送ローラ対103及び排出ローラ対104の双方によって用紙Sが搬送される。そして、更に搬送が進むと、図14(c)に示すように、用紙Sの後端が搬送ローラ対103から抜け出して、上記排出ローラ対104のみにより用紙Sが搬送される。なお、排出ローラ対104も搬送ローラ対103と同様に駆動ローラ108と従動ローラ109とを備えて構成されているが、排出ローラ対104は、画像が記録された用紙Sを狭持するものであるため、画像の劣化を防止するべく圧接力が小さく設定されている。
【0005】
このように構成された画像記録装置では、用紙Sの後端が搬送ローラ対103から抜け出る瞬間に、搬送ローラ対103の狭持部での用紙Sに対する垂直方向への圧接力の一部が、用紙Sの搬送方向へ作用することになる。このとき、駆動ローラ105の回転により受ける搬送力以上の力が用紙Sの後端に作用して、圧接力の小さい排出ローラ対104を滑って、用紙Sを所定の搬送量以上に弾き飛ばし、その結果、用紙S上に「画像とび」を発生させ、画像品質を低下させるという問題があった。かかる問題は、比較的厚みがあり、剛性の高い光沢紙などの用紙に画像を記録する場合に顕著に現れる。
【0006】
一方、特許文献1には、上記問題を解決することを目的として、搬送方向にスライド移動することができ且つ回転可能に従動ローラを支持し、駆動ローラと従動ローラとの狭持部から用紙の後端が抜け出る際に、用紙からの反力を受けて従動ローラが上流側へ後退するよう構成された記録装置が開示されている。具体的には、この記録装置は、従動ローラを支持するホルダに形成された搬送方向に長い長穴で上記従動ローラの回動軸をスライド移動可能に支持するように構成されている。
【0007】
【特許文献1】特開2004−168451号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記公知文献に記載の記録装置では、上記従動ローラは、用紙が抜け出した際に従動ローラに反力が付加されることによってその回動軸が上記長穴を滑るようにして後方へスライド移動するものであるため、上記スライド移動の際に、上記反力よりは小さいものの、搬送方向下流側に向けて滑り摩擦力が発生する。この滑り摩擦力は、用紙を押し出す方向へ作用するため、少なからず用紙が必要以上に搬送される。このような過搬送は、高解像度化された昨今の画像記録装置においては許容することができないほどの画像品質の低下を招来することになり、問題である。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、用紙などの被記録媒体が駆動ローラと従動ローラとの狭持部から抜け出る際に被記録媒体の後端を搬送方向へ押し出そうと作用する力を吸収して、被記録媒体の過搬送を防止することにより、画像品質を向上させることが可能な画像記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明は、シート状の被記録媒体に画像を記録する画像記録手段と、駆動ローラと、該駆動ローラに圧接される従動ローラとを有し、上記画像記録手段によって画像が記録される画像記録位置に向けて被記録媒体を所定の搬送方向へ搬送する第1搬送手段と、上記所定の搬送方向における上記画像記録位置の下流側に配設され、画像記録後の被記録媒体を更に上記所定の搬送方向における下流側へ搬送する第2搬送手段と、を備えてなる画像記録装置であって、上記従動ローラに上記駆動ローラに対する付勢力を付加する付勢手段を有し、上記従動ローラを回転可能に支持する第1支持部材と、上記第1搬送手段による被記録媒体の搬送時に上記第1支持部材を所定の第1位置に転動させ、上記第1搬送手段による被記録媒体の非搬送時に上記第1支持部材を上記第1位置よりも上記所定の搬送方向における上流側の第2位置に転動させるように転がり軸受けを介して上記第1支持部材を支持する第2支持部材と、を具備してなるものである。
【0011】
給紙カセットなどから給紙された被記録媒体の先端が第1搬送手段に到達すると、第1搬送手段の駆動ローラ及び従動ローラによって被記録媒体の先端が狭持される。この際に、従動ローラが紙厚分だけ付勢手段を圧縮させることにより、第1支持部材に第1位置の方向への力が作用する。この力を受けて、第1支持部材が第2位置から第1位置へ転動し、そして、第1位置で保持される。
【0012】
被記録媒体の先端が第1搬送手段により狭持され、駆動ローラの回転力が被記録媒体に伝達されると、被記録媒体の搬送が始まり、被記録媒体が画像記録位置に向けて搬送される。被記録媒体の先端が画像記録位置に到達すると、その後、被記録媒体は第1搬送手段によって間欠搬送され、被記録媒体の先端から画像記録手段による画像の記録が開始される。
【0013】
画像記録手段による被記録媒体への画像記録が進行し、搬送方向下流側への被記録媒体の搬送が進むと、画像記録位置よりも更に下流側では、被記録媒体が第2搬送手段によって搬送される。このとき、第1搬送手段及び第2搬送手段の双方により被記録媒体が間欠搬送される。そして、更に画像記録が進行して、被記録媒体の搬送が進むと、被記録媒体の後端が第1搬送手段を抜けて、第2搬送手段のみによって被記録媒体が搬送される。この被記録媒体の後端が第1搬送手段の狭持から抜ける瞬間において、被記録媒体の紙厚に起因して、被記録媒体に対して垂直方向に作用していた圧接力の一部が搬送方向へ作用する。一方、第1支持部材は第2支持部材によって転がり軸受けを介して支持されている。従って、圧接力が搬送方向へ作用したとしても、被記録媒体を搬送方向へ押し出そうとする力よりも、第1支持部材の転がり摩擦力の方が極めて小さいため、搬送方向への作用力のほとんど全てが第1支持部材を第1位置から第2位置へ転動するように作用する。これにより、被記録媒体の後端が第1搬送手段の狭持から抜けた瞬間に、第1支持部材が第1位置から第2位置へ向けて転動する。このとき、被記録媒体はほとんど押し出されない。そして、第2搬送手段によって間欠搬送される被記録媒体への画像記録が継続される。画像記録が終了すると、第2搬送手段によって画像記録後の被記録媒体が更に下流方向へ搬送される。
【0014】
一般に、転がり摩擦係数は滑り摩擦(摺動摩擦)係数に較べて格段に小さく、その静止摩擦力は極めて小さい。そのため、被記録媒体の後端が第1搬送手段を抜け出る際に生じる搬送方向への作用力のほとんど全てが第1支持部材を第1位置から第2位置へ転動させる力として作用される。従って、従来の滑り摩擦を用いた構造と較べて、被記録媒体の押し出し量を限りなく零に近づけることができる。
【0015】
(2)上記第2支持部材が、上記第1支持部材の被支持部を上記転がり軸受けを介して支持する支持面と、上記第1位置で上記第1支持部材の転動を規制する第1規制部材と、上記第2位置で上記第1支持部材の転動を規制する第2規制部材と、を有してなるものであってもよい。これにより、簡易な構造で上記第1支持部材の支持、及び、第1支持部材の転動の規制が可能となる。その結果、従動ローラの支持構造が簡素化される。
【0016】
(3)また、上記転がり軸受けが、上記支持面と上記第1支持部材の被支持部との間に回転自在に介設された複数の回転体を備えてなるものであることが望ましい。これにより、第1支持部材の転動と支持の双方を簡単な構造で実現することができるため、好適である。また、第1支持部材を支持する際の安定性を向上させることができるため好ましい。
【0017】
(4)また、上記第2支持部材は、上記第1支持部材が上記第1位置から上記第2位置に転動するに従って、上記第1支持部材と上記駆動ローラとの相対位置が離反するように上記第1支持部材を支持するものであることが望ましい。
【0018】
このように構成されているため、第1搬送手段によって被記録媒体が搬送されない場合は、第1支持部材の付勢手段による付勢力によって第1支持部材を搬送方向上流側へ転動させる作用力が働く。これにより、第1支持部材が第2位置へ転動して、該第2位置で保持される。被記録媒体の先端が第1搬送手段に到達すると、被記録媒体の先端を狭持する際に力を受ける。この力が上記作用力や転がり摩擦力よりも大きい場合は、第1支持部材が第2位置から第1位置へ転動する。上記第1搬送手段によって一旦被記録媒体が搬送されると、被記録媒体とローラ面との滑り摩擦力(静止摩擦力)によって第1支持部材は第1位置に保持される。そして、被記録媒体の後端が第1搬送手段の狭持から抜けると、滑り摩擦力が瞬間的に零となり、その瞬間に、付勢手段による付勢力によって再び第1支持部材を搬送方向上流側へ転動させる作用力が働き、自動的に第1支持部材が第1位置から第2位置へ転動する。なお、上記第1支持部材と上記駆動ローラとの相対位置が離反する度合いは、第1支持部材や駆動ローラ、従動ローラなどに生じる摩擦力、そして、付勢手段による付勢力などによって適宜設定される。
【0019】
この場合、被記録媒体の後端が第1搬送手段による狭持から抜けた瞬間に、第1支持部材が自動的に第2位置へ転動するため、駆動ローラと従動ローラとの圧接力が被記録媒体を押し出す方向へ作用しない。従って、被記録媒体の微少な押し出しをも防止することができる。
【0020】
(5)なお、具体的には、上記第2支持部材が、上記駆動ローラの回動軸と平行な公転中心線を中心にして、上記第1支持部材を転動させるものであることが考えられる。
【0021】
(6)この場合、上記公転中心線が、上記駆動ローラの回動軸と上記第1位置とを含む平面から第2位置側に位置するものであることが望ましい。
【0022】
(7)また、上記公転中心線が、上記駆動ローラの回動軸と上記第1位置とを含む平面上に位置するものであってもよい。
【0023】
(8)また、上記第2支持部材の上記支持面が、上記公転中心線を中心として描かれる所定の円筒の外周面と略一致する形状に形成されておれば、上記公転中心線を中心とする第1支持部材の転動を容易に実現することができる。
【0024】
(9)ここで、上記第1支持部材が、上記駆動ローラの軸方向に複数の従動ローラを所定間隔で一体に支持するものであってもよい。
【0025】
複数の従動ローラが駆動ローラに圧接する構成の第1搬送手段においては、複数の従動ローラを第1支持部材で一体に支持し、該第1支持部材を転動させて、全ての従動ローラの移動を同期させることにより、記録紙の縒れや皺、或いは搬送ずれなどといった不具合を防止することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、第1搬送手段による被記録媒体の搬送時に第1支持部材が所定の第1位置に転動し、第1搬送手段による被記録媒体の非搬送時に第1支持部材が第1位置よりも被記録媒体の搬送方向上流側の第2位置に転動するように、上記第1支持部材が転がり軸受けを介して支持されている。この場合、第1支持部材の転動時に転がり摩擦力が生じるが、滑り摩擦力に較べて転がり摩擦力は極めて小さいため、被記録媒体の後端が第1搬送手段を抜ける際に生じる搬送方向への作用力のほとんど全てが第1支持部材を第1位置から第2位置へ転動させる力として作用される。これにより、従来の滑り摩擦を用いた構造と較べて、被記録媒体の搬送方向への押し出し量を限りなく零に近づけることができる。その結果、被記録媒体に記録される画像の画質の低下が防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、適宜図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る画像記録装置の一例である多機能装置1の外観構成を示す斜視図である。図示するように、本多機能装置1は、下部に配設されたプリンタ部2と、その上部に配設されたスキャナ部3と、該スキャナ部3の上部に設けられた原稿カバー7と、装置上面の前方側に配置された操作パネル9と、装置前面に設けられたスロット部8とを一体的に備えた多機能装置(MFD:Multi Function Device)であり、プリンタ機能、スキャナ機能、コピー機能及びファクシミリ機能などを有する。なお、本発明を実現するうえで、上記スキャナ機能やファクシミリ機能などは任意の機能であり、従って、例えば、プリンタ機能のみを有するプリンタ単体にも本発明は適用され得る。
【0028】
多機能装置1は、主に不図示のコンピュータと接続されて、該コンピュータから送信された画像データや文書データを含む印刷データに基づいて、プリンタ部2において、画像や文書を記録用紙に記録するものである。また、多機能装置1は、デジタルカメラ等の外部機器と接続されてデジタルカメラから出力される画像データを記録用紙に記録したり、メモリカード等の各種記憶媒体を装填して、該記憶媒体に記録された画像データ等を記録用紙に記録することが可能である。なお、以下に説明する多機能装置1の構成は、本発明に係る画像記録装置の単なる一例であり、本発明の要旨を変更しない範囲で構成を適宜変更できることは当然である。
【0029】
多機能装置1の上面の前方側であって、スキャナ部3の正面側の上面には、プリンタ部2やスキャナ部3を操作するための操作パネル9が設けられている。操作パネル9には、各種操作ボタンや液晶表示部11から構成されており、複合機1は、操作パネル9からの指示入力によって動作するようになっている。各種操作ボタンは、例えば、プリンタ部2やスキャナ部3の動作を開始するためのスタートボタン、動作の停止や設定の終了を行うためのストップボタン、ファクシミリ機能を選択するためのモード選択ボタン、コピー枚数やスキャナ部3による読取解像度などを入力するためのダイヤルボタン、その他の各種設定ボタン等の複数の入力キーから構成される。多機能装置1は、操作パネル9からの入力の基づいて制御部により動作される。勿論、前述したように、多機能装置1がコンピュータに接続されている場合には、多機能装置1は、コンピュータからプリンタドライバ又はスキャナドライバ等を介して送信される指示に基づいても動作される。
【0030】
多機能装置1の正面の左上部には、記憶媒体である各種小型メモリカードを装填可能なスロット部8が設けられている。本多機能装置1は、スロット部8に装填された小型メモリカードに記録された画像データを読み出してその画像データに関する情報を液晶表示部11に表示させ、任意の画像をプリンタ部3により記録用紙に記録させることができる。このための入力は、操作パネル9から行われる。
【0031】
スキャナ部3は、図1に示すように、FBS(Flatbed Scanner)として機能する原稿読取台5を備えており、該原稿読取台5に対して原稿カバー7が、背面側の蝶番を介して開閉可能に取り付けられてなる。原稿読取台5は、上面に設けられたコンタクトガラスや、内部に配設されたCIS(Contact Image Sensor)を有する画像読取ユニットなどの周知の構成を備えてなる。また、原稿カバー7は、ADF(Auto Document Feeder:自動原稿搬送装置)6を備える。上記スキャナ部3がFBSとして機能する場合は、コンタクトガラスに載置された原稿に対して画像読取ユニットがスライド移動しながら露光走査することにより、原稿の画像が読み取られる。また、ADF6を用いて原稿画像を読み取る場合は、ADF6による原稿の搬送過程において、原稿がコンタクトガラスの読取面を通過し、読取面の下方に待機する画像読取ユニットが、該原稿の画像を読み取るようになっている。なお、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などのイメージセンサを有してなる画像読取ユニットを適用することも勿論可能である。本発明においてスキャナ部3は任意の構成であるため、本実施形態では、画像読取ユニットの詳細な説明については省略する。
【0032】
以下、図1から図5を参照しながら、プリンタ部2の構成について詳細に説明する。ここに、図2は、多機能装置1のプリンタ部2を側面から見た縦断面図、図3はスキャナ部3を取り外したときのプリンタ部2の平面図、図4は画像記録部24付近の機構を示す斜視図、図5は画像記録部24付近の機構を示す平面図である。なお、図5では説明の便宜上、記録ヘッド30やベルト駆動機構38、ガイドレール35,36、パージ機構43などを省略している。
【0033】
図1及び図2に示すように、多機能装置1の正面側には開口4が形成されており、該開口4を通じて、給紙トレイ20及び排紙トレイ21が多機能装置1に装着される。なお、図1では、給紙トレイ20及び排紙トレイ21を省略している。給紙トレイ20には、A4サイズやB5サイズ等の所望のサイズの記録用紙(シート状の被記録媒体に相当)が収容される。図2に示すように、給紙トレイ20が多機能装置1に装着されることにより、給紙トレイ20に収容された記録用紙は、該記録証紙の長手方向が多機能装置1の奥行き方向となるようにセットされる。また、排紙トレイ21は、給紙トレイ20に支持されて、給紙トレイ20の上方に配置される。給紙トレイ20と排紙トレイ21とは、上下二段となって多機能装置1に装着される。
【0034】
多機能装置1に装着された給紙トレイ20の奥側には、分離傾斜板22が配設されている。分離傾斜板22は、給紙トレイ20から繰り出された記録用紙を分離して上方へ案内するものである。
【0035】
分離傾斜板22の上方には、搬送路23が形成されている。搬送路23は、分離傾斜板22の上側から上方且つ多機能装置1の正面側へ曲がって、装置の背面側から正面側へ延出され、さらに、画像記録部24(画像記録手段の一例)の下側を通過して排紙トレイ21へ通じている。給紙トレイ20から繰り出された記録用紙は、搬送路23により下方から上方へUターンするように案内されて画像記録部24に至る。該記録用紙は、画像記録部24により画像記録が行われた後、排紙トレイ21に排出される。
【0036】
給紙トレイ20の上側には、給紙ローラ25が設けられている。上記給紙ローラ25は、給紙トレイ20に接離可能に上下動する給紙アーム26の前端で軸支されている。上記給紙ローラ25は、複数のギアが噛合されてなる駆動伝達機構27によって、図示しないモータの駆動力が伝達されて回転する。給紙ローラ25は、給紙トレイ20上に積載された記録用紙を1枚ずつ分離して搬送路23へ供給するものである。詳細には、給紙ローラ25が給紙トレイ20上の記録用紙に圧接して、その状態で、給紙ローラ25が回転することにより、給紙ローラ25のローラ面と記録用紙との間の摩擦力で最上位置の記録用紙が分離傾斜板22へ送り出される。該記録用紙は、その前端が分離傾斜板22に当接して上方へ案内され、搬送路23へ送り込まれる。給紙ローラ25によって最上位置の記録用紙が送り出される際に、その直下の記録用紙が摩擦や静電気の作用によって共に送り出されたとしても、該記録用紙は分離傾斜板22に当接することにより制止される。
【0037】
搬送路23は、画像記録部24等が配設されている箇所以外は、所定間隔で対向する外側ガイド面と内側ガイド面とから構成されている。例えば、多機能装置1の背面側の搬送路23は、外側ガイド面が多機能装置1のフレームと一体に形成され、内側ガイド面は、ガイド部材28がフレーム内に固定されることにより構成されている。搬送路23の所定箇所、特に搬送路23が曲がっている箇所には、搬送コロ29が設けられている。搬送コロ29は、外側ガイド面又は内側ガイド面からローラ面を露出するようにして、搬送路23の幅方向を軸方向として回転自在に設けられている。搬送コロ29によって、搬送路23が曲がっている箇所においてガイド面に接触する記録用紙の搬送が円滑となる。
【0038】
画像記録部24は、記録ヘッド30を搭載して主走査方向(図2の紙面に垂直な方向)へ往復移動する走査キャリッジ31を備えている。記録ヘッド30には、インクタンク32(図3参照)からインクチューブ33を通じてシアン(C)・マゼンタ(M)・イエロー(Y)・ブラック(Bk)の各色インクが供給される。記録ヘッド30は、その下面に設けられたノズルから、各インクを微小なインク滴として吐出する。走査キャリッジ31が主走査方向へ往復動することにより、記録ヘッド30が記録用紙に対して走査され、プラテン34(画像記録位置に相当)上を搬送される記録用紙に画像が記録される。
【0039】
図3及び図4に示すように、画像記録部24が配置される搬送路23の上側には、一対のガイドレール35,36が配設されている。ガイドレール35,36は、記録用紙の搬送方向に隔てて、搬送路23の幅方向に延設されている。走査キャリッジ31は、ガイドレール35,36を跨ぐようにして、該ガイドレール35,36上を搬送路23の幅方向に摺動可能に設けられている。記録用紙の搬送方向の上流側に配設されたガイドレール35は、搬送路23の幅方向の長さが走査キャリッジ31の走査幅より長い平板状のものである。ガイドレール35の上面が、走査キャリッジ31の上流側の端部を摺動自在に担持している。
【0040】
記録用紙の搬送方向の下流側に配設されたガイドレール36は、搬送路23の幅方向の長さがガイドレール35とほぼ同じ長さの平板状のものである。ガイドレール36の上面が、走査キャリッジ31の上流側の端部を摺動自在に担持している。ガイドレール36の搬送方向の上流側の端部37は、上方へ向かって略直角に曲折されている。走査キャリッジ31には、ガイドレール36の端部37を挟み込むようにして該端部37と係合する不図示の係合部材が設けられている。これにより、走査キャリッジ31は、ガイドレール35,36上に摺動自在に担持され、ガイドレール36の端部37を基準として、搬送路23の幅方向に往復移動することが可能となる。なお、上記係合部材に代えて、端部37を狭持する一対のローラなどを用いてもよい。また、走査キャリッジ31がガイドレール35,36の上面と接触する部位には、摩擦を低減するための摺動部材が適宜設けられる。
【0041】
ガイドレール36の上面には、ベルト駆動機構38が配設されている。ベルト駆動機構38は、搬送路23の幅方向の両端付近にそれぞれ設けられた駆動プーリ39と従動プーリ40との間に、内側に歯が設けられた無端環状のタイミングベルト41が張架されてなるものである。駆動プーリ39の軸には図示しないモータが連結されており、該モータから駆動力が入力される。駆動プーリ39の回転により、タイミングベルト41が周運動する。なお、タイミングベルト41は無端環状のもののほか、有端のベルトの両端部を走査キャリッジ31に固着するものを用いてもよい。
【0042】
走査キャリッジ31は、タイミングベルト41に固着されている。タイミングベルト41の周運動により、走査キャリッジ31は、端部37を基準としてガイドレール35,36上を往復移動する。走査キャリッジ31には、記録ヘッド30が搭載されている。したがって、記録ヘッド30は、走査キャリッジ31とともに搬送路23の幅方向を主走査方向として往復移動可能である。ガイドレール36には、端部37に沿ってリニアエンコーダのエンコーダストリップ42が配設されている。リニアエンコーダは、フォトインタラプタによりエンコーダストリップ42を検出する。リニアエンコーダの検出信号に基づいて、走査キャリッジ31の往復移動が制御される。
【0043】
図2、図4及び図5に示すように、搬送路23の下側には、記録ヘッド30と対向してプラテン34が配設されている。プラテン34は、走査キャリッジ31の往復移動範囲のうち、記録用紙が通過する中央部分に亘って配設されている。プラテン34の幅は、搬送可能な記録用紙の最大幅より十分に大きいものであり、記録用紙の両端は常にプラテン34の上を通過する。
【0044】
図3に示すように、記録ヘッド30による画像記録範囲外、すなわちプラテン34の両側の記録用紙が通過しない範囲には、パージ機構43及び廃インクトレイ44が配設されている。パージ機構43は、記録ヘッド30のノズル等からインクとともに気泡や異物を吸引除去するものである。パージ機構43は、記録ヘッド30のノズル面を覆うキャップ45を備える。キャップ45には、ポンプ機構が接続されている。また、キャップ45は、移動機構により記録ヘッド30のノズル面に接離される。記録ヘッド30の気泡等の吸引除去を行う際には、記録ヘッド30がキャップ45上に位置するように走査キャリッジ31が移動される。その状態でキャップ45が上方へ移動して記録ヘッド30の下面のノズルを密閉するように密着する。そして、キャップ45と連結されたポンプにより記録ヘッド30のノズルからインクが吸引される。
【0045】
廃インクトレイ44は、走査キャリッジ31の画像記録範囲外であってパージ機構43の反対側に配設されている。廃インクトレイ44は、記録ヘッド30のインクの空吐出を受けるものである。この空吐出は、フラッシングと呼ばれる。パージ機構43及び廃インクトレイ44からなるメンテナンスユニットにより、記録ヘッド30内の気泡や混色インクの除去等のメンテナンスが行われる。
【0046】
図3に示すように、インクタンク32は、プリンタ部2の正面右側の筐体内に設けられたインクタンク収容部46に収容されている。このインクタンク32は、詳細には、シアン(C)・マゼンタ(M)・イエロー(Y)・ブラック(Bk)の各色インクを貯蔵する4個のインクタンク32C,32M,32Y,32Kを備えてなる。インクタンク32は、装置内において、記録ヘッド30を搭載する走査キャリッジ31とは別途に設けられている。インクタンク32から走査キャリッジ31へは、インクチューブ33を通じてインクが供給される。
【0047】
インクタンク収容部46に装填された各インクタンク32C,32M,32Y,32Kから記録ヘッド30へは、各色毎に独立したインクチューブ33により各色インクが供給される。各インクチューブ33C,33M,33Y,33Kは、合成樹脂製のチューブであり、走査キャリッジ31の走査に応じて撓むような可撓性を有する。各インクチューブ33C,33M,33Y,33Kは、インクタンク収容部46の各インクタンク収容位置に設けられた各接合部に、その一端側の開口がそれぞれ接続されている。インクチューブ33Cは、上記インクタンク32Cに対応しておりシアン(C)のインクを供給するためのものである。同様に、インクチューブ33M,33Y,33Kは、それぞれ上記インクタンク32M,32Y,32Kに対応しており、それぞれマゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(Bk)のインクを供給するためのものである。
【0048】
インクタンク収容部46から導出された各インクチューブ33C,33M,33Y,33Kは、装置の幅方向に沿って中央付近まで引き出されて、装置フレーム等の適当な部材に一旦固定されている。そして、該固定部から走査キャリッジ31までの部分は、装置フレーム等に固定されておらず、走査キャリッジ31の往復移動に追従して姿勢変化する。すなわち、走査キャリッジ31が往復移動方向の一端(図3左側)へ移動するに従い、各インクチューブ33C,33M,33Y,33Kは、U字形状の湾曲部分の曲げ半径が小さくなるように撓みながら、走査キャリッジ31の移動方向へ移動する。一方、走査キャリッジ31が往復移動方向の他端(図3右側)へ移動するに従い、各インクチューブ33C,33M,33Y,33Kは、湾曲部分の曲げ半径が大きくなるように撓みながら、走査キャリッジ31の移動方向へ移動する。
【0049】
図2、図4及び図5に示すように、画像記録部24の上流側には、駆動ローラ47と該駆動ローラ47の下方に設けられたピンチローラ48(従動ローラに相当)とを有する一対の搬送ローラ対54(第1搬送手段の一例)が設けられている。駆動ローラ47及びピンチローラ48は、搬送路23を搬送されている記録用紙を狭持してプラテン34上へ搬送する。ピンチローラ48は、駆動ローラ47に所定の圧接力(付勢力)で押圧するようにピンチローラホルダ56(第1支持部材の一例)により回転自在に支持されている。ピンチローラホルダ56は、装置の筐体を形成する内部フレーム58に一体に設けられたホルダ支持部材57(第2支持部材の一例)によって記録用紙の搬送方向に転動可能に支持されている。このような支持構造が採用されることにより、搬送ローラ対54によって記録用紙が搬送されている場合はピンチローラホルダ56が図13に示す下流側の搬送位置(第1位置)まで転動し、搬送ローラ対54から記録用紙の後端が抜け出た場合はピンチローラホルダ56が図12に示す上流側の後退位置(第2位置)まで転動する。なお、ホルダ支持部材57及びピンチローラホルダ56の構成、ホルダ支持部材57でピンチローラホルダ56を支持する支持構造については後段で詳細に説明する。
【0050】
画像記録部24の下流側には、駆動ローラ49と該駆動ローラ49の上方に設けられた拍車ローラ50とを有する一対の排出ローラ対55(第2搬送手段の一例)が設けられている。駆動ローラ49及び拍車ローラ50は、記録済みの記録用紙を狭持して搬送する。拍車ローラ50は、記録済みの記録用紙と圧接するので、記録用紙に記録された画像を劣化させないようにローラ面が拍車状に凹凸に形成されている。
【0051】
図4及び図5に示すように、駆動ローラ47及び駆動ローラ49は、駆動ローラ47の軸方向の一端に連結されたモータ59から駆動力が伝達されて、所定の改行幅で間欠駆動される。駆動ローラ47及び駆動ローラ49の回転は同期されている。ロータリーエンコーダが、駆動ローラ47に設けられたエンコーダディスク51をフォトインタラプタ60(図4参照)で検出し、ロータリーエンコーダの検出信号に基づいて、駆動ローラ47及び駆動ローラ49の回転が制御される。
【0052】
駆動ローラ47及びピンチローラ48に狭持された記録用紙は、所定の改行幅でプラテン34上を間欠して搬送される。その改行毎に記録ヘッド30が走査されて、記録用紙の先端側から画像記録が行われる。画像記録が行われた記録用紙の先端側は、駆動ローラ49及び拍車ローラ50に狭持される。つまり、記録用紙はその先端側を駆動ローラ49及び拍車ローラ50に狭持され、後端側を駆動ローラ47及びピンチローラ48に狭持された状態で所定の改行幅で間欠して搬送され、改行毎に記録ヘッド30により画像記録が行われる。さらに記録用紙が搬送されると、記録用紙の後端が駆動ローラ47及びピンチローラ48から抜け出して、これらのローラによる狭持から開放される。つまり、記録用紙は、駆動ローラ49及び拍車ローラ50にのみ狭持されて所定の改行幅で間欠して搬送され、改行毎に記録ヘッド30により画像記録が行われる。なお、記録用紙の後端がローラによる狭持から開放されると略同時にピンチローラホルダ56が図12に示す下流側の後退位置へ向けて転動する。記録用紙の所定領域に画像記録が行われた後は、駆動ローラ49が連続的に回転駆動される。これにより、駆動ローラ49及び拍車ローラ50により狭持された記録用紙が排紙トレイ21へ排出される。
【0053】
図3に示すように、装置正面側には制御基板52が配設されている。制御基板52から記録ヘッド30へはフラットケーブル53を通じて記録用信号等の伝送が行われる。フラットケーブル53は、電気信号を伝送する導体をポリエステルフィルム等の合成樹脂フィルムで覆って絶縁した薄帯状のものである。フラットケーブル53により、制御基板52と記録ヘッド30の制御基板(不図示)とが電気的に接続されている。フラットケーブル53は、走査キャリッジ31から往復移動方向へ導出され、上下方向に略U字形状に曲折されている。この略U形状の部分は、他の部材に固定されておらず、走査キャリッジ31の往復移動に追従して姿勢変化する。
【0054】
次に、図6から図9を参照して、ホルダ支持部材57及びピンチローラホルダ56の構成、及びピンチローラホルダ56の支持構造について詳細に説明する。ここに、図6はピンチローラホルダ56がホルダ支持部材57によって支持された状態を示す斜視図、図7はホルダ支持部材57及びピンチローラホルダ56の分解図、図8は転がり軸受け80の構成を示す斜視図、図9はピンチローラホルダ56の移動範囲を説明する部分拡大図である。
【0055】
ピンチローラホルダ56は、図6及び図7に示すように長尺状に形成されており、その長手方向が記録用紙の幅方向に一致するように配設される。駆動ローラ47に対向するピンチローラホルダ56の上面には、4つのローラ収容室64と、8つのバネ収容室62とが設けられている。ローラ収容室64はピンチローラホルダ56の長手方向に所定間隔ごとに形成されている。バネ収容室62は、ローラ収容室64の両端に隣接して形成されている。ピンチローラ48は、ピンチローラホルダ56の長手方向にその回動軸65が一致するようにローラ収容室64に収容される。また、バネ収容室62にはバネ61(付勢手段の一例)が圧縮された状態で収容される。なお、ピンチローラ48やバネ61の数や収容手法などは適宜変更可能であることは言うまでもない。
【0056】
バネ収容室62は、該バネ収容室62の長手方向の両側に立設された仕切り板66により区画されている。仕切り板66に軸受け63が形成されている。ピンチローラ48の回動軸65は軸受け63で支持される。軸受け63は上下方向に長い溝状に形成されている。軸受け63の溝上端部は、回動軸65の軸径より若干小さく形成されており、回動軸65が軸受け63に押し込まれると、溝の上端部が撓んで広がることで、回動軸65の挿入が受け入れられる。また、回動軸65が完全に挿入されると溝の上端部がもとの形に復帰して、回動軸65が容易に外れないように軸支される。これにより、回動軸65が軸受け63によって上下動可能に軸支される。
【0057】
上記バネ収容室62にバネ61が収容され、そして、ピンチローラ48の回動軸65が上記軸受け63に挿入されることにより、バネ61が圧縮された状態でバネ収容室62に装着される。この圧縮されたバネ61のバネ力がピンチローラ48を上方向へ押し上げるように作用する。即ち、ピンチローラ48に駆動ローラ47に対する付勢力が付加される。このようにピンチローラ48がバネ61により付勢されて軸受け63で軸支されるため、厚みのある記録用紙が搬送されると、その紙厚に応じてバネ61の付勢力に反してピンチローラ48が降下する。
【0058】
ピンチローラホルダ56の底面には、ホルダ支持部材57に形成された4つの係合溝67(図7参照)と係合する4つの突出片68が形成されている。この突出片68は、ピンチローラホルダ56の底面から下方に突出する平板状部材であって、ピンチローラホルダ56の短手方向に延設されている。突出片68が係合溝67に挿入されることで、突出片68が係合溝67に所定の遊びをもって嵌め込まれる。この状態でピンチローラホルダ56がホルダ支持部材57によって該ホルダ支持部材57の短手方向、即ち記録用紙の搬送方向へ移動可能に支持されると共に、その移動範囲が所定の範囲内に規制される。
【0059】
ホルダ支持部材57はピンチローラホルダ56と同様に長尺状に形成されており、その長手方向が記録用紙の幅方向と一致するように内部フレーム58に配設されている。詳細には、ホルダ支持部材57の底面に形成された突起71が、図2に示すように、内部フレーム58の図示しない孔に嵌め込まれることにより該内部フレーム58に位置決めされて固定される。ホルダ支持部材57の上面には、図9に示すように湾曲面69(支持面に相当)が形成されている。この湾曲面69に転がり軸受け80を介在させた状態でピンチローラホルダ56をその底面(被支持部に相当)から支持する。
【0060】
ホルダ支持部材57の湾曲面69は、図9に示すように、湾曲面69上において搬送方向上流側から下流側に向けて下り傾斜している。湾曲面69は、駆動ローラ47の回動中心Aと平行で且つ回動中心Aを通る鉛直面に含まれる公転中心Oを中心にして描かれる円筒形状の外周弧と略一致する形状に形成されている。従って、ピンチローラホルダ56は、上記湾曲面69に沿って転がり移動することにより、公転中心Oを中心にして転がり移動する。このとき、ピンチローラ48は、バネ61によって付勢されているため、常に駆動ローラ47に圧接した状態を保ったまま駆動ローラ47の外周面に沿って移動する。なお、公転中心Oは、回動中心Bと湾曲面69との離間距離よりも、公転中心Oと湾曲面69との離間距離の方が長くなるような位置に設定されていれば足りる。
【0061】
転がり軸受け80は、図7及び図8に示すように、ホルダ支持部材57の短手方向に縦列配設された2本のローラ81(複数の回転体に相当)と、これら2本のローラ81を一体に回転可能に支持するローラ支持部材82とを有して構成されている。ローラ支持部材82は、ローラ81を軸支した上で、ホルダ支持部材57の上面69に取り付けられる。詳細には、ローラ支持部材82に形成された断面L字状の係合爪83が、上面69に形成された被係合部72に係合されることにより取り付けられる。転がり軸受け80は、図示するように、ホルダ支持部材57の長手方向に所定間隔で4つ取り付けられている。このように構成された転がり軸受け80をホルダ支持部材57の上面69に介在させてピンチローラホルダ56を支持することにより、ピンチローラホルダ56が転動可能に支持される。なお、本実施形態では、ピンチローラホルダ56を転動可能に支持する構成として転がり軸受け80を用いた例について説明するが、例えば、転がり軸受け80に代えて、ホルダ支持部材57の湾曲面69或いはピンチローラホルダ56の底面に一体に回転体が回転自在に設けられた構成を採用することも可能である。例えば、湾曲面69や上記底面に周知のローラベアリングやボールベアリングを組み込むことが考えられる。
【0062】
ホルダ支持部材57の上面69には、上記突出片68と係合する4つの係合溝67が形成されている。ピンチローラホルダ56の短手方向における係合溝67の長さは、同短手方向における突出片68の延設長さより十分長く形成されている。係合溝67の後方端部には、係合溝67の後方側の内壁から上方へ連続するように、ホルダ支持部材57の上面69から更に上方へ延設されたリブ73が形成されている。リブ73はピンチローラホルダ56の後方への移動を制限するためのものである。突出片68が係合溝67と係合した状態でピンチローラホルダ56がホルダ支持部材57に上記短手方向へ移動可能に支持されると、突出片68の前方端と係合溝67の前方側の内壁とが当接することによりピンチローラホルダ56の前方への移動が制限され、突出片68の後方端と上記リブ73とが当接することによりピンチローラホルダ56の後方への移動が制限される。本実施形態では、図9に示すように、ピンチローラホルダ56の短手方向への移動範囲は、公転中心線Oを基点として該公転中心線Oを通る鉛直面とのなす角が駆動ローラ47の後方側へθ1となる搬送位置から、同鉛直面とのなす角がθ2(>θ1)となる後退位置までの間に制限される。なお、このように上記短手方向の前方への移動範囲を制限する突出片68及び係合溝67の前方側の内壁が本発明の第1規制部材に相当し、同じく後方への移動範囲を制限する突出片68及びリブ73が本発明の第2規制部材に相当する。
【0063】
上述の如くピンチローラホルダ56及びホルダ支持部材57が構成されることにより、搬送ローラ対54によって記録用紙が狭持されながら搬送されているときは(被記録媒体の搬送時)、ピンチローラホルダ56が上記搬送位置まで転動され、搬送ローラ対54から記録用紙の後端が抜け出たときは(被記録媒体の非搬送時)、ピンチローラホルダ56が上記退避位置まで転動する。以下に、ピンチローラホルダ56の転動原理について図10及び図11を参照しながら説明する。
【0064】
図10は中心Oを原点とするXY座標で駆動ローラ47及びピンチローラ48の断面を表した図、図11は図10において記録用紙(符号Sで示す)を狭持している様子を示す図である。ここでは、駆動ローラ47の回動の中心をA、半径をr1とし、ピンチローラ48の回動の中心をB、半径をr2とする。また、中心AはX軸上に位置し、中心AからX軸の負の方向へ駆動ローラ47の半径r1以上離れた位置に原点Oが位置するものとする。また、原点Oは上記湾曲面69の湾曲形状の中心に一致し、即ち、前記した公転中心線Oに一致するものとする。また、ピンチローラホルダ56は、原点Oを中心として反時計回りにX軸からθ1進んだ位置Dと、同様にX軸からθ2(>θ1)進んだ位置Eとの間で転がり移動可能とする。ここに、位置Dが前記した搬送位置に相当し、位置Eが前記した後退位置に相当する。なお、本発明の説明の便宜上、図10及び図11に示す如く中心O、中心A及び中心Bを定義したが、言うまでもなく、駆動ローラ47、ピンチローラ48及び湾曲面それぞれの中心位置は上述した位置に限定されない。
【0065】
いま、ピンチローラ48が任意の位置に移動したときの線分OAと線分OBのなす角をθとする。即ち、角度θが取り得る範囲はθ1≦θ≦θ2である。ピンチローラ48は、ピンチローラホルダ56に圧縮された状態で収容されたバネ61によって駆動ローラ47の方向(線分ABの方向)へ付勢されている。
【0066】
図示するように、θ>0の場合は、弧DEの中心Oとピンチローラ47の移動中心Aとが一致していないため、θが大きくなるに連れて、ピンチローラホルダ56は駆動ローラ47から相対的に離反する。従って、θが大きくなるに連れてバネ61は伸長する。即ち、θが大きくなるに連れてバネ61の有する弾性エネルギーEが減少することになる。このとき、ピンチローラ48には、反時計方向であって、中心A周り、つまり線分ABに垂直な方向に、弾性エネルギーEの減少分dE/dθに比例する大きさのモーメントM1が働く。
【0067】
一方、ピンチローラ48には、その従動回転に伴って中心Bの周りにその回動方向とは反対方向に摩擦力(摩擦モーメント)M2′が発生する。この摩擦力M2′を中心A周り、つまり線分ABに垂直な方向の力に変換したモーメントをM2とする。このとき発生する摩擦力M2′は、ピンチローラ48の回転伴って該ピンチローラ48とその回動軸65との摺動面で発生する静止摩擦力である。なお、図10において、モーメントM2は図示されていない。
【0068】
また、ピンチローラホルダ56がホルダ支持部材57の湾曲面69を転がり移動することにより、転がり摩擦力(摩擦モーメント)M3′が発生する。この転がり摩擦力M3′は中心O周り、つまり線分OBに垂直な方向に働く。この摩擦力M3′を中心A周り、つまり線分ABに垂直な方向の力に変換したモーメントをM3とする。なお、図10において、モーメントM3は図示されていない。
【0069】
更に、駆動ローラ47とピンチローラ48とによって記録用紙が搬送されると、図11に示すように、記録用紙の自重や記録用紙の撓みによる弾性力などの力Wがピンチローラ48の中心方向に向けて働く。かかる力Wによりθを小さくする方向にモーメントM4が発生する。特に、本実施形態では、図示するようにプラテン34に対して角度θだけ上方から記録用紙をプラテン34に押し付けるように搬送するため、無視することのできない程度のモーメントM4が発生する。なお、記録用紙の剛性をEIとする。
【0070】
更にまた、記録用紙の先端が駆動ローラ47及びピンチローラ48による狭持部に進入するとき、或いは記録用紙の後端が上記狭持部から抜け出るときに、記録用紙の厚みhだけバネ61の長さが変化する。具体的には、前者のときは厚みhだけバネ61が縮められ、後者の場合は厚みhだけバネ61が伸長する。従って、この場合も、バネ61の弾性エネルギーが増減して、上述してモーメントM1と同様に、dE/dθに比例する大きさのA周りのモーメントM5が発生する。
【0071】
ここで、角度θ(θ1≦θ≦θ2)、記録用紙の厚みh、及び記録用紙の剛性EIは変数である。従って、モーメントM1はθ及びhの関数、モーメントM4はθ及びEIの関数、モーメントM5はhの関数でそれぞれ表すことができる。また、モーメントM2及びM3は、厳密にはθ及びhの関数であるが、モーメントM1、M4,M5に較べて極めて小さいため、ここでは定数とみなす。以下において、角度θの関数をM1(θ)、M4(θ)と表す。
【0072】
駆動ローラ47とピンチローラ48との間に滑りが生じないものとし、駆動ローラ47とピンチローラ48との摩擦力、及びピンチローラ48と記録用紙との摩擦力を十分大きいものとすると、本実施形態では、上記各モーメントM1〜M5は以下に示す関係式を満たす。
【0073】
即ち、駆動ローラ47及びピンチローラ48により記録用紙が搬送されていない場合は、以下の式(1)が成立する。このとき、モーメントM2は中心A周りを時計方向に働き、モーメントM3は中心A周りを反時計方向に働く。
M1(θ)+M3>M2 ・・・(1)
従って、この場合は、ピンチローラホルダ56が記録用紙の搬送方向上流側へ転動して、後方へ後退する。そして、θ=θ2の位置(後退位置)でその姿勢が保持される。
【0074】
記録用紙が駆動ローラ47及びピンチローラ48の狭持部に到達し、駆動ローラ47が回転されることにより記録用紙の先端が狭持されると、以下の式(2)の関係が成り立つ。このとき、モーメントM3は中心A周りを反時計方向に働き、モーメントM5は中心A周りを時計方向に働く。
M1(θ)+M3<M4(θ)+M5 ・・・(2)
このとき、ピンチローラホルダ56は搬送方向下流側へ転動して、θ=θ1の位置(搬送位置)でその姿勢が保持される。
【0075】
記録用紙の搬送中は、以下の式(3)の関係が成り立つ。このとき、モーメントM2は中心A周りを時計方向に働き、モーメントM3は中心A周りを時計方向に働く。
M1(θ)<M2+M3+M4(θ) ・・・(3)
従って、ピンチローラホルダ56がθ=θ1の位置(搬送位置)で継続して姿勢保持される。
【0076】
記録用紙の後端が駆動ローラ47及びピンチローラ48の狭持部から抜け出る場合は、以下の式(4)の関係が成り立つ。このとき、モーメントM3は中心A周りを時計方向に働き、モーメントM5はモーメントM1と同じく、中心A周りを反時計方向に働く。
M1(θ)+M5>M3 ・・・(4)
上記式(4)から理解できるように、記録用紙の後端が駆動ローラ47及びピンチローラ48の狭持部から抜け出る際に生じるモーメントM1(θ)+M5に対してモーメントM3のみが摩擦力として働くが、モーメントM3は転がり軸受け80による微少な摩擦力であるため、記録用紙を搬送方向へ押し出す力として作用することはない。従って、この場合は、モーメントM1(θ)+M5のほとんど全てがピンチローラホルダ56を記録用紙の上流側へ転動させるように作用することとなる。なお、一旦ピンチローラホルダ56が後退すると、θ=θ2の位置(後退位置)でその姿勢が保持される。
【0077】
なお、記録用紙の後端が駆動ローラ47及びピンチローラ48の狭持部から抜け出た後においても、ピンチローラホルダ56がθ=θ2(後退位置)の位置に戻らない異常時であっても、駆動ローラ47を逆回転させることにより、以下の式(5)を成立させて、ピンチローラホルダ56をθ=θ2の位置(後退位置)へ転動させることができる。
M1(θ)+M2>M3 ・・・(5)
この場合は、モーメントM2は中心A周りを反時計方向に働き、モーメントM3は中心O周りを時計方向に働く。
【0078】
上述したように、転がり軸受け80を介してピンチローラホルダ56を転動可能に支持する本多機能装置1において、式(1)〜式(5)の各関係式が成立するようにピンチローラ48やピンチローラホルダ56、ホルダ支持部材57、バネ61などを配設することにより、従来の滑り摩擦を用いた構造と較べて記録用紙の搬送方向への押し出し量を限りなく零とすることができる。その結果、記録用紙に記録される画像の画質の低下を防止することが可能となる。
【0079】
なお、上述した実施形態は本発明の一例にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で、実施形態を適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】多機能装置1の外観構成を示す斜視図。
【図2】多機能装置1のプリンタ部2を側面から見た縦断面図。
【図3】スキャナ部3を取り外したときのプリンタ部2の平面図。
【図4】画像記録部24付近の機構を示す斜視図。
【図5】画像記録部24付近の機構を示す平面図。
【図6】ピンチローラホルダ56がホルダ支持部材57によって支持された状態を示す斜視図。
【図7】ホルダ支持部材57及びピンチローラホルダ56の分解図。
【図8】転がり軸受け80の構成を示す斜視図。
【図9】ピンチローラホルダ56の移動範囲を説明する部分拡大図。
【図10】中心Oを原点とするXY座標で駆動ローラ47及びピンチローラ48の断面を表した図。
【図11】図10において記録用紙を狭持している様子を示す図。
【図12】ピンチローラホルダ56が搬送位置に位置する状態を示す部分断面図。
【図13】ピンチローラホルダ56が後退位置に位置する状態を示す部分断面図。
【図14】従来の画像記録方式を説明する模式図。
【符号の説明】
【0081】
1・・・多機能装置(画像記録装置の一例)
2・・・プリンタ部
3・・・スキャナ部
5・・・原稿読取台
6・・・ADF
7・・・原稿カバー
8・・・スロット部
9・・・操作パネル
24・・・画像記録部(画像記録手段)
30・・・記録ヘッド
31・・・走査キャリッジ
34・・・プラテン(画像読取位置)
47・・・駆動ローラ
48・・・ピンチローラ(従動ローラ)
49・・・駆動ローラ
50・・・拍車ローラ
54・・・搬送ローラ対(第1搬送手段)
55・・・排出ローラ対(第2搬送手段)
56・・・ピンチローラホルダ(第1支持部材)
57・・・ホルダ支持部材(第2支持部材)
58・・・内部フレーム
59・・・モータ
60・・・フォトインタラプタ
61・・・バネ(付勢手段)
62・・・バネ収容室
63・・・軸受け
64・・・ローラ収容室
65・・・回動軸
66・・・仕切り板
67・・・係合溝
68・・・突出片
70・・・軸受け係合部
80・・・転がり軸受け
81・・・ローラ(回転体)
82・・・ローラ支持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の被記録媒体に画像を記録する画像記録手段と、
駆動ローラと、該駆動ローラに圧接される従動ローラとを有し、上記画像記録手段によって画像が記録される画像記録位置に向けて被記録媒体を所定の搬送方向へ搬送する第1搬送手段と、
上記所定の搬送方向における上記画像記録位置の下流側に配設され、画像記録後の被記録媒体を更に上記所定の搬送方向における下流側へ搬送する第2搬送手段と、を備えてなる画像記録装置であって、
上記従動ローラに上記駆動ローラに対する付勢力を付加する付勢手段を有し、上記従動ローラを回転可能に支持する第1支持部材と、
上記第1搬送手段による被記録媒体の搬送時に上記第1支持部材を所定の第1位置に転動させ、上記第1搬送手段による被記録媒体の非搬送時に上記第1支持部材を上記第1位置よりも上記所定の搬送方向における上流側の第2位置に転動させるように転がり軸受けを介して上記第1支持部材を支持する第2支持部材と、を具備してなる画像記録装置。
【請求項2】
上記第2支持部材が、上記第1支持部材の被支持部を上記転がり軸受けを介して支持する支持面と、上記第1位置で上記第1支持部材の転動を規制する第1規制部材と、上記第2位置で上記第1支持部材の転動を規制する第2規制部材と、を有してなる請求項1に記載の画像記録装置。
【請求項3】
上記転がり軸受けが、上記支持面と上記第1支持部材の被支持部との間に回転自在に介設された複数の回転体を備えてなるものである請求項1又は2に記載の画像記録装置。
【請求項4】
上記第2支持部材は、上記第1支持部材が上記第1位置から上記第2位置に転動するに従って、上記第1支持部材と上記駆動ローラとの相対位置が離反するように上記第1支持部材を支持するものである請求項1から3のいずれかに記載の画像記録装置。
【請求項5】
上記第2支持部材が、上記駆動ローラの回動軸と平行な公転中心線を中心にして、上記第1支持部材を転動させるものである請求項4に記載の画像記録装置。
【請求項6】
上記公転中心線が、上記駆動ローラの回動軸と上記第1位置とを含む平面から第2位置側に位置する請求項5に記載の画像記録装置。
【請求項7】
上記公転中心線が、上記駆動ローラの回動軸と上記第1位置とを含む平面上に位置する請求項5又は6に記載の画像記録装置。
【請求項8】
上記第2支持部材の上記支持面が、上記公転中心線を中心として描かれる所定の円筒の外周面と略一致する形状に形成されてなる請求項5から7のいずれかに記載の画像記録装置。
【請求項9】
上記第1支持部材が、上記駆動ローラの軸方向に複数の従動ローラを所定間隔で一体に支持するものである請求項1から8のいずれかに記載の画像記録装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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