説明

画像診断装置

【課題】大電力用の絶縁トランスを用いることなく、高周波ノイズの抑制と接地漏れ電流の抑制とを両立させることが可能な画像診断装置を提供する。
【解決手段】交流電源1から整流回路3およびスイッチング回路4を用いて所望の電圧V2を生成して重負荷5に電力を供給する画像診断装置2において、交流電源1の電源ラインL1〜L3からの接地漏れ電流LCを検出する検出回路8と、検出された接地漏れ電流LCを打ち消すように、アースラインE1に逆位相の電流−LCを流す打消電流供給回路9とを有する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電源から整流回路およびスイッチング(switching)回路により所望の電圧の電力を生成して負荷に供給する電力回路を備えた画像診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、X線CT(Computed Tomography)装置、MR(Magnetic Resonance)装置、一般X線撮影装置などの画像診断装置では、施設の交流電源から整流回路およびスイッチング回路により所望の電圧を生成して負荷に電力を供給している(例えば、特許文献1,図1,図5等参照)。
【0003】
図3は、画像診断装置の基本的な回路構成例を示す図である。図3に示すように、画像診断装置20は、例えば、交流電源1による三相交流電圧を整流回路3で整流して直流電圧V1に変換し、この直流電圧V1をスイッチング回路4でさらに所望の高電圧パルスV2に変換する。スイッチング回路4の出力には、大電力を消費する重負荷21が接続されている。重負荷21は、例えば、X線CT装置や一般X線撮影装置の場合にはX線発生装置、MR装置の場合には電磁石などである。
【0004】
スイッチング回路4を有する画像診断装置20では、通常、高周波ノイズ(noise)の大きさがEMC規格を満足するよう、Yコンデンサ(condenser)群10を備えている。YコンデンサC1〜C3は、交流電源1の各相のラインL1〜L3とコモン(common)であるアースライン(Earth line)E1との間に接続されており、スイッチング回路4のスイッチング動作に起因する電圧変動を抑えて高周波ノイズを一定以下に抑制する。
【0005】
交流電源1の各相のライン(line)L1〜L3に、YコンデンサC1〜C3が接続されると、各相のラインL1〜L3に乗る電圧変動の高周波成分をアースラインE1にバイパス(bypath)する効果が生じる。しかし、それと同時に、交流電源1側からYコンデンサC1〜C3を介してアースラインE1に流れる電流すなわち接地漏れ電流LCのパス(path)を形成することにもなる。画像診断装置では、感電防止の観点から、接地漏れ電流の上限値がIEC規格等によって厳しく定められており、例えば5mAあるいは10mA以下に抑えなければならない。
【0006】
交流電源1が、うまくバランス(balance)された理想的なWye(Y)結線による三相交流電源であれば、各相および各極性での接地漏れ電流が一定時間内では相殺されて平均でゼロになるため、特に問題はない。
【0007】
しかし、交流電源1が、アンバランス(unbalance)なWye結線や、一相欠落によるWye結線、デルタ結線等による三相交流電源の場合には、交流電圧の周波数による漏れ電流が優位に現れ、IEC規格で定められている上限値を超えてしまう場合がある。YコンデンサC1〜C3の容量を小さくすることで接地漏れ電流を小さくする手もあるが、この場合、高周波ノイズの除去効果とのトレードオフ(trade off)になり、EMC規格を満たさなくなるおそれもある。
【0008】
そのため、画像診断装置では、一般的に、絶縁トランス(trans)を用いて接地漏れ電流を抑えることにより、高周波ノイズの抑制と接地漏れ電流の抑制とを同時に実現させる。
【0009】
図4は、絶縁トランスを用いて接地漏れ電流を抑制する画像診断装置20′の構成例を示す図である。図4に示すように、画像診断装置20′では、交流電源1側とスイッチング回路4との間に、絶縁トランス22を設ける。すると、接地漏れ電流LCのパスは絶縁トランス22にて遮蔽される。つまり、スイッチング回路4で発生する電圧変動の高周波成分は、YコンデンサC1〜C3を通るループ(loop)によりノイズ発生源に戻る。このような設計であれば、高周波ノイズを抑制しつつ、接地漏れ電流を規定値以下に十分抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−178375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、画像診断装置のスイッチング回路には、前述の通り、X線発生装置や電磁石など大電力を消費する重負荷が接続されている。そのため、画像診断装置に絶縁トランスを適用して接地漏れ電流を抑制しようとすると、スイッチング回路には、大電力用の絶縁トランスを接続する必要がある。
【0012】
しかしながら、画像診断装置に用いられる大電力用の絶縁トランスは、一個で約数十万円と非常に高価でありコストアップ(cost up)につながる。また、大電力用の絶縁トランスは、非常に大きく、画像診断装置の小型化を妨げるし、重量も非常に重くなり、扱いづらい。
【0013】
このような事情により、大電力用の絶縁トランスを用いることなく、高周波ノイズの抑制と接地漏れ電流の抑制とを両立させることが可能な画像診断装置が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の観点の発明は、交流電源から整流回路およびスイッチング回路を用いて所望の電圧を生成し、所定の負荷に電力を供給する画像診断装置であって、前記交流電源の電源ラインからの接地漏れ電流を検出する検出回路と、前記検出回路により検出された接地漏れ電流を打ち消すように、アースラインに逆位相の電流を流す打消電流供給回路とを備えている画像診断装置を提供する。
【0015】
第2の観点の発明は、前記交流電源から、絶縁トランスを介して、前記画像診断装置の制御回路に電力を供給する回路をさらに備えている上記第1の観点の画像診断装置を提供する。
【0016】
第3の観点の発明は、前記制御回路は、前記画像診断装置の操作部または被検体に装着される電極と接続されている上記第2の観点の画像診断装置を提供する。
【0017】
第4の観点の発明は、前記絶縁トランスが、定格5kVA以下のものである上記第3の観点の画像診断装置を提供する。
【0018】
第5の観点の発明は、前記交流電源が、Wye結線、一相欠落によるWye結線、またはデルタ結線による三相交流電源である上記第1の観点から第4の観点のいずれか一つの観点の画像診断装置を提供する。
【0019】
第6の観点の発明は、前記検出回路が、アースラインに非接触で設けられるホール素子を含んでいる上記第1の観点から第5の観点の画像診断装置を提供する。
【0020】
第7の観点の発明は、前記打消電流供給回路が、前記検出回路の検出信号が入力されるオペアンプ(operation amplifier)と、該オペアンプの出力およびアースラインに接続されたプッシュプル(push pull)回路とを含んでいる上記第1の観点から第6の観点のいずれか一つの観点の画像診断装置を提供する。
【0021】
第8の観点の発明は、前記画像診断装置が、X線CT装置または一般X線撮影装置であり、前記負荷が、X線発生装置を含んでいる上記第1の観点から第7の観点のいずれか一つの観点の画像診断装置を提供する。
【0022】
第9の観点の発明は、前記画像診断装置が、MR装置であり、前記負荷が、電磁石を含んでいる上記第1の観点から第7の観点のいずれか一つの観点の画像診断装置を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の画像診断装置によれば、接地漏れ電流と逆位相の電流をアースラインに流して、接地漏れ電流をアクティブ(active)にキャンセル(cancel)するので、大電力を供給するラインにおいて、絶縁トランスを設けてノイズ除去用のYコンデンサにより形成される接地漏れ電流のパスを遮断するという構成を不要にでき、大電力用の絶縁トランスを用いることなく、高周波ノイズの抑制と接地漏れ電流の抑制とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】発明の実施形態に係るX線CT装置の回路構成例を示す図である。
【図2】打消電流供給回路の構成例を示す図である。
【図3】画像診断装置の基本的な回路構成例を示す図である。
【図4】絶縁トランスを用いて接地漏れ電流を抑制する画像診断装置の回路構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、発明の実施形態について説明する。
【0026】
図1は、本実施形態に係るX線CT装置の回路構成例を示す図である。
【0027】
X線CT装置2は、商用の交流電源1に接続される。本例では、交流電源1は、Wye結線による三相交流電源である。
【0028】
X線CT装置2は、整流回路3と、スイッチング回路4と、X線発生装置5(負荷)と、小型絶縁トランス6と、制御回路7と、接地漏れ電流検出回路8と、打消電流供給回路9と、Yコンデンサ群10とを備えている。
【0029】
整流回路3は、電源入力ラインL1〜L3を介して交流電源1と接続されており、交流電源1の三相交流電圧を直流電圧V1に変換する。整流回路3は、例えばダイオードブリッジ(diode bridge)等により構成されている。
【0030】
スイッチング回路4は、接続ラインL4,L5を介して整流回路3と接続されており、整流回路3からの直流電圧V1をスイッチング動作により所望の高電圧パルスV2に変換する。スイッチング回路4は、例えばトランジスタなどの半導体のスイッチング素子により構成されている。
【0031】
X線発生装置5は、X線照射時に大電力を消費する重負荷である。X線発生装置5の最大消費電力は、例えば20kVAである。X線発生装置5は、スイッチング回路4の出力と接続されており、スイッチング回路4で生成された所望の高電圧パルスV2により電力の供給を受ける。
【0032】
制御回路6は、X線CT装置2の各部を制御する回路であり、X線発生装置5と比較して消費電力が非常に少ない軽負荷である。制御回路6は、X線CT装置のガントリ(gantry)や撮影テーブル(table)に設けられた操作部11や被検体に装着する生体信号モニタ(monitor)用電極12と接続されている。
【0033】
小型絶縁トランス7は、一次側が電源入力ラインL1〜L3と接続されており、二次側が制御回路6と接続されている。小型絶縁トランス7は、交流電源1と制御回路6とを絶縁しつつ、交流電源1から制御回路6の電源部に電力を供給する。この小型絶縁トランス7により、制御回路6を通る接地漏れ電流のパスが遮断され、操作者や被検体の感電が防止される。また、小型絶縁トランス7の一次側にはタップ7tが設けてあり、このタップ7tと打消電流供給回路9とが接続されている。打消し電流供給回路9は、交流電源1からこのタップ7tを経由して電力が供給される。なお、この小型絶縁トランス7は、一次側にタップ7tが設けられただけで、二次側に接続する制御回路6は軽負荷であるから、小電力タイプ(type)、例えば定格5kVA以下の低価格なもので足りる。よって、有意なコストアップもなく、操作者および被検体の感電防止を実現できる。
【0034】
Yコンデンサ群10は、YコンデンサC1〜C5により構成されており、整流回路3の入力側および出力側に挿入されている。すなわち、整流回路3の入力側の各ラインL1〜L3とコモンであるアースラインE1との間にYコンデンサC1〜C3が接続され、整流回路3の出力側の各ラインL4,L5とアースラインE1との間に、YコンデンサC4,C5がそれぞれ接続されている。これらYコンデンサC1〜C5により、スイッチング回路4のスイッチング動作による高周波ノイズが抑制される。
【0035】
接地漏れ電流検出回路8は、交流電源1−電源入力ラインL1〜L3−整流回路入力側のYコンデンサC1〜C3−アースラインE1の経路で流れ、系統に戻ってゆく接地漏れ電流LCを検出する。本例では、接地漏れ電流検出回路8は、ホール素子を含んでおり、交流電源1とX線CT装置2との間のアースラインE1に非接触で設けられる。接地漏れ電流検出回路8は、アースラインE1に流れる接地漏れ電流LCの向きと大きさに応じた信号値を出力する。
【0036】
打消電流供給回路9は、接地漏れ電流検出回路8と接続されている。また、打消電流供給回路9は、小型絶縁トランス7のタップ7tおよびアースラインE1と接続されている。打消電流供給回路9は、小型絶縁トランス7の一次側のタップ7tから電力の供給を受け、接地漏れ電流検出回路8から入力される検出信号に基づいて、接地漏れ電流LCを打ち消すように逆位相の電流−LCをアースラインE1に供給する。これにより、接地漏れ電流LCをアクティブにキャンセルする。
【0037】
打消電流供給回路9は、例えば、図2に示すように、接地漏れ電流検出回路8の検出信号をインピーダンス変換するオペアンプOP1と、インピーダンス変換された検出信号がゼロレベル(zero level)となるように、アースラインE1に電流の出入を行うオペアンプOP2およびトランジスタTR1,TR2のプッシュプル回路とを用いて構成される。
【0038】
このような本実施形態によれば、接地漏れ電流LCと逆位相の電流をアースラインE1に流して、接地漏れ電流LCをアクティブにキャンセルするので、重負荷であるX線発生装置5へ大電力を供給するラインにおいて、絶縁トランスを設けることでノイズ除去用のYコンデンサC1〜C3により形成される接地漏れ電流のパスを遮断するという構成を不要にでき、大電力用の絶縁トランスを用いることなく、高周波ノイズの抑制と接地漏れ電流の抑制とを両立させることができる。
【0039】
また、本実施形態では、操作者や被検体の感電を防止するため、制御回路6へ電力を供給するラインに小型絶縁トランス7を設けているが、小型絶縁トランス7は小電力タイプであり、また一次側にタップ7tを一つ追加したのみの構成であるから、有意なコストアップにはならない。そのため、わずかなコストで人体への安全性を確保することができる。ちなみに、漏れ電流検出回路8や打消電流供給回路9などのアナログ(analog)回路の部品は、数千円程度と非常に安価であり、コスト面での負担はほとんどないと考えてよい。
【0040】
なお、発明の実施形態は、上記に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更が可能である。
【0041】
例えば、交流電源1は、Wye結線の三相交流電源のほか、一相欠落によるWye結線、デルタ結線による三相交流電源であってもよい。
【0042】
また例えば、本実施形態では、X線CT装置を例に説明したが、発明は、一般X線撮影装置やMR装置など、他の画像診断装置にも適用可能である。一般X線撮影装置の場合には、重負荷として、X線発生装置が含まれる。MR装置の場合には、重負荷として、電磁石が含まれる。
【符号の説明】
【0043】
1 交流電源
2 X線CT装置
3 整流回路
4 スイッチング回路
5 X線発生装置
6 制御回路
7 小型絶縁トランス
8 接地漏れ電流検出回路
9 打消電流供給回路
10 Yコンデンサ群
20,20′ 画像診断装置
21 重負荷
22 大電力用絶縁トランス
OP1,OP2 オペアンプ
TR1,TR2 トランジスタ
E1 アースライン
LC 接地漏れ電流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源から整流回路およびスイッチング回路を用いて所望の電圧を生成し、所定の負荷に電力を供給する画像診断装置であって、
前記交流電源の電源ラインからの接地漏れ電流を検出する検出回路と、
前記検出回路により検出された接地漏れ電流を打ち消すように、アースラインに逆位相の電流を流す打消電流供給回路とを備えている画像診断装置。
【請求項2】
前記交流電源から、絶縁トランスを介して、前記画像診断装置の制御回路に電力を供給する回路をさらに備えている請求項1に記載の画像診断装置。
【請求項3】
前記制御回路は、前記画像診断装置の操作部または被検体に装着される電極と接続されている請求項2に記載の画像診断装置。
【請求項4】
前記絶縁トランスは、定格5kVA以下のものである請求項3に記載の画像診断装置。
【請求項5】
前記交流電源は、Wye結線、一相欠落によるWye結線、またはデルタ結線による三相交流電源である請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の画像診断装置。
【請求項6】
前記検出回路は、アースラインに非接触で設けられるホール素子を含んでいる請求項1から請求項5に記載の画像診断装置。
【請求項7】
前記打消電流供給回路は、前記検出回路の検出信号が入力されるオペアンプと、該オペアンプの出力およびアースラインに接続されたプッシュプル回路とを含んでいる請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の画像診断装置。
【請求項8】
前記画像診断装置は、X線CT装置または一般X線撮影装置であり、
前記負荷は、X線発生装置を含んでいる請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の画像診断装置。
【請求項9】
前記画像診断装置は、MR装置であり、
前記負荷は、電磁石を含んでいる請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の画像診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−5956(P2013−5956A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141292(P2011−141292)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(300019238)ジーイー・メディカル・システムズ・グローバル・テクノロジー・カンパニー・エルエルシー (1,125)
【Fターム(参考)】