説明

界面前進凍結濃縮方法

【課題】より溶質の取り込みが少ない氷結晶の形成を効率よく行う。
【解決手段】被処理液にその表面が接触する凍結板11のその裏面側に対して被処理液を冷却する冷ブラインを流し、この冷ブラインを循環流路によって循環させ、凍結板11の表面に被処理液の氷結晶Sを形成して被処理液を濃縮する界面前進凍結濃縮方法において、冷ブラインを循環させながら凍結板11の表面に氷結晶を成長させる凍結工程と、循環流路から冷ブラインを排除し氷結晶の成長を停止して熟成させる熟成工程と、を交互に行う。熟成工程で、氷結晶S中のデンドライト氷の枝部の先端が丸みを帯びた形状に変化することで、溶質が洗い出され、氷結晶Sに取り込まれる溶質を低減させることができる。また、冷ブラインを凍結板11の裏面側から排除するため、エネルギーロスが少なく、凍結濃縮を効率よく行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、界面前進凍結濃縮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶液中の水と溶質との凝固点の差を利用して、氷結晶を析出させて分離することにより水溶液の濃度を高める凍結濃縮法は、飲料・液状食品に含まれる成分の濃縮や、排水処理における汚濁物質の処理等に幅広く用いられている。その中でも、懸濁結晶法と比較して被処理液と氷結晶との固液分離が極めて容易であり、システムが単純化される凍結濃縮方法として、被処理液を凍結器の被処理液流路において一定方向に循環させつつ当該流路の壁面を冷ブラインにより冷却することで被処理液流路の壁面に氷結晶を順次形成し成長させて被処理液を凍結濃縮する界面前進凍結濃縮方法の用途が広まっている。
【0003】
このような界面前進凍結濃縮方法において、被処理液を効率的に濃縮するためには、溶質の取り込みが少ない良質の氷結晶を形成することが必要である。しかしながら、産業上の利用を考慮して凍結速度を一定以上とした場合、被処理液の過冷却状態が発生し、その解放時に氷結晶と被処理液との間の凍結界面に樹枝状のデンドライト氷が形成され、隣接するデンドライト氷の間に被処理液中の溶質が滞留し凍結することにより氷結晶への溶質の取り込みが増加するという問題がある。これに対して、特許文献1記載の凍結濃縮装置では、凍結体(氷結晶)を結氷板に形成した後、凍結体の表層部を融解することで溶質の取り込みが多い部分を除去し、融解液を濃縮度が低下しない範囲で被処理液に加えて回収する方法が開示されている。
【特許文献1】特許第3739440号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の装置では、溶質の取り込みが少ない凍結体が得られるものの、凍結体が保持される結氷板や濃縮槽を含む断熱容器中に空気を導入することにより凍結体の表層部を融解することから冷ブラインを加温するためのエネルギー等が必要となり、融解に要するエネルギーが大きく、融解に要する時間もかかることから被処理液の凍結濃縮を効率よく行うことができないという問題があった。
【0005】
本発明は上記を鑑みてなされたものであり、より溶質の取り込みが少ない氷結晶の形成を効率よく行うことができる界面前進凍結濃縮方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に関する界面前進凍結濃縮方法は、被処理液にその表面が接触する凍結板のその裏面側に対して被処理液を冷却するための冷ブラインを流し、この冷ブラインを循環流路によって循環させることにより、凍結板の表面に被処理液の氷結晶を形成して被処理液を濃縮する界面前進凍結濃縮方法であって、循環流路において冷ブラインを循環させながら凍結板の表面に氷結晶を成長させる凍結工程と、循環流路から冷ブラインを排除し氷結晶の成長を停止して当該氷結晶を熟成させる熟成工程と、を交互に行うことを特徴とする。
【0007】
上記の界面前進凍結濃縮方法によれば、熟成工程において、氷結晶の成長を停止させることにより、氷結晶中のデンドライト氷の枝部の先端が丸みを帯びた形状に変化することで、氷結晶に含まれていた溶質が、被処理液の流れによるせん断力等により被処理液に洗い出されやすくなる。この結果、氷結晶に取り込まれる溶質を低減させることができる。また、冷ブラインを凍結板の裏面側の循環流路から排除することにより熟成工程が行われるため、特許文献1記載の界面前進凍結濃縮装置と比較してエネルギーロスが少なく、氷結晶の表層部を融解する等の作業も不要であり、凍結濃縮を効率よく行うことができる。
【0008】
ここで、熟成工程において、循環流路へ冷ブラインの温度以下の露点になるように除湿した空気を供給することにより冷ブラインを排除することが好ましい。
【0009】
上記のように冷ブラインの温度以下の露点になるように除湿した空気を供給することにより冷ブラインを循環流路から排除するため、供給する空気が循環流路に氷結晶を形成してしまうトラブルを防止することができる。
【0010】
また、循環流路へ除湿した空気を大気圧以上に加圧して供給することが好ましい。このように加圧した空気を循環流路へ供給することにより、冷ブラインの排除をより速く行うことができるため、溶質の取り込みが少ない氷結晶の形成を一層効率よく行うことができる。
【0011】
また、温度計測手段により被処理液の温度を計測し、凍結工程において被処理液の温度上昇が所定値以上となった場合には、熟成工程の時間を変更する態様とすることができる。
【0012】
凍結工程において温度上昇(過冷却解放による温度上昇)が所定値以上となった場合には、被処理液中で過冷却状態の解放により溶質を多く含むデンドライト氷の形成が進んでいると考えられるため、凍結工程における被処理液の温度上昇に応じて熟成工程の時間を変更することにより、過冷却状態の解放により形成されたデンドライト氷の熟成を十分に行うことができ、氷結晶への溶質の取り込みを低減することができる。
【0013】
さらに、温度計測手段により被処理液の温度を計測し、熟成工程における被処理液の温度から当該被処理液の濃縮倍率を算出し、算出した濃縮倍率に基づいて凍結工程の時間を決定する態様としてもよい。
【0014】
凍結濃縮が進み被処理液の濃度が濃くなるにつれて、氷結晶への溶質の取り込みが増加しやすくなるため、凍結工程の凍結時間を短くして一回の凍結工程における被処理液の凍結量を減らすことにより、氷結晶への溶質の取り込みを抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
上記の発明によれば、より溶質の取り込みが少ない氷結晶の形成を効率よく行うことができる界面前進凍結濃縮方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る凍結濃縮装置100を示す概略構成図である。
【0018】
この凍結濃縮装置100は界面前進凍結濃縮装置であり、被処理液中の水分を凍結させる凍結器1と、凍結器1の入口と出口とに接続され、凍結器1に対して被処理液を循環させる循環ラインL1と、を具備している。
【0019】
凍結器1は、被処理液が流れる凍結管10と、凍結管10に設けられ、被処理液にその表面が接触すると共に背面側が被処理液を冷却するための冷ブラインによって冷却される凍結板11と、を有した構成とされる。さらに、凍結管10の上流側(図示下側)には撹拌機13が設置される。また、凍結管10の出口近傍には、凍結管10内を流れる被処理液の温度を測定するための温度計TIが設けられている。そして、凍結板11の裏面側には、凍結板11を冷却する冷ブラインが流れる冷ブライン管12が設けられている。
【0020】
冷ブライン管12は、図示下部に設けられた入口と、図示上部に設けられた出口とが、送液ラインL11〜L15を通じて、冷ブラインを収容し冷凍機22により冷却される冷ブラインタンク21と接続され、送液ポンプ23により、冷ブラインが冷ブライン管12内を流れる構成とされている。
【0021】
具体的には、送液ポンプ23と冷ブライン管12の入口とは、開閉弁V1を介して送液ラインL11により接続され、冷ブライン管12の出口と冷ブラインタンク21とは開閉弁V5を介して送液ラインL15により接続されている。これにより、冷ブラインタンク21から送液ポンプ23により送液された冷ブラインが、冷ブライン管12内を入口から出口へ向かって流れた後、冷ブラインタンク21へ戻る循環流路が構成される。
【0022】
そして、送液ポンプ23により送液された冷ブラインを冷ブラインタンク21に戻すための送液ラインL12が送液ラインL11の開閉弁V1より上流位置で分岐し開閉弁V2を介して冷ブラインタンク21と接続され、同様に冷ブラインを冷ブラインタンク21に戻すための送液ラインL13が送液ラインL11の開閉弁V11より下流位置で分岐し開閉弁V3を介して冷ブラインタンク21と接続されている。さらに、送液ラインL15の開閉弁V5より上流位置には、冷ブラインを冷ブライン管12から排出するための除湿空気を導入するための空気供給ラインL14が開閉弁V4を介して接続されている。
【0023】
このような構成を有する凍結濃縮装置100の作用について説明する。
【0024】
凍結器1において、撹拌機13の回転羽根13aが回転することにより、被処理液が凍結管10内、循環ラインL1を循環する循環流が形成される。
【0025】
そして、開閉弁V1及び開閉弁V5を開とすると共に、開閉弁V2,V3,V4を閉とすることで、冷ブラインタンク21から送液ポンプ23により送液される冷ブラインは、送液ラインL11を通って冷ブライン管12の入口から冷ブライン管12に供給される。この冷ブラインにより凍結板11の裏面側が冷却されるため、凍結板11の表面に接触する被処理液が冷却され、氷結晶Sが形成され積層されていくことによって、被処理液が凍結濃縮される凍結工程が行われる。
【0026】
次に、一定時間経過後に、開閉弁V1,V5を閉とすると共に、開閉弁V2,V3,V4を開とし、空気供給ラインL14から冷ブラインの温度以下の露点になるように除湿した空気を供給する。空気供給ラインL14から供給された除湿空気が冷ブライン管12の出口から冷ブライン管12内に供給されることにより、冷ブライン管12内の冷ブラインは、冷ブライン管12の入口から送液ラインL13を経て冷ブラインタンク21へ排除される。そして、送液ポンプ23により送液される冷ブラインタンク21の冷ブラインは、送液ラインL12を経て冷ブラインタンク21へ戻される。これにより、凍結板11の表面の氷結晶Sの成長が停止され、氷結晶Sを熟成させる熟成工程が行われる。
【0027】
凍結濃縮装置100では、上記の凍結工程と熟成工程とを交互に繰返すことにより、被処理液の凍結濃縮が行われる。そして、凍結板11の表面に形成される氷結晶Sの厚さが所定の厚さになった後、冷ブライン管12を流れる冷ブラインを温ブラインに換え、凍結板11の表面を加熱して融解し、氷結晶Sを凍結板11から剥離することにより取り除く。
【0028】
ここで、凍結濃縮装置100において凍結工程と熟成工程を行う際の開閉弁V1〜V5及び送液ポンプ23の駆動例を表1に示す。表1に示すように、熟成工程においては送液ポンプ23を駆動しても停止してもよい。
【0029】
【表1】

【0030】
上記の構成を有する凍結濃縮装置100によって被処理液の凍結濃縮を行った場合の作用・効果について説明する。
【0031】
まず、凍結濃縮装置100において凍結工程及び熟成工程を交互に行うことによる作用・効果について図2及び図3を用いて説明する。
【0032】
図2は、凍結板11の表面に形成される氷結晶(デンドライト氷)の概略説明図であり、図2(A)はその平面図、図2(B)は側面図、図3は、熟成工程後のデンドライト氷の形状の概略説明図である。
【0033】
本実施形態に係る凍結濃縮装置100において被処理液の濃縮を行う場合、図2に示すように、樹枝状の枝部を有するデンドライト氷である氷結晶Sが形成される。氷結晶Sは被処理液中の溶質を排除しながら凍結するため、被処理液と氷結晶Sとの凍結界面には溶質が滞留しやすくなり、氷結晶Sの枝部の間には、図2(A)に示すように、被処理液の溶質Cが滞留して被処理液の濃度が高い状態が作られる。このように、氷結晶Sの凍結界面の近傍で被処理液の濃度が高い状態が作られると、氷点降下が発生することにより、氷結晶Sの成長が抑制される。
【0034】
これに対して、氷結晶Sの枝部の先端近傍では、枝部同士の間と比較して被処理液の流れの影響を受けて溶質Cの滞留が少なくなるため、氷点降下の影響を受けにくく、氷結晶Sの成長が促進される。この結果、氷結晶Sの枝部の先端が細く長く延びるデンドライト氷が形成される。このようにして形成されるデンドライト氷は、被処理液の濃度が高いときほど、溶質の滞留による影響を受けやすく、枝部が細く長く延びる形状となる。
【0035】
ここで、本実施形態に係る凍結濃縮装置100では、被処理液を冷却する凍結板11の裏面側の冷ブライン管12を流れる冷ブラインを排除し、氷結晶の成長を停止させて氷結晶を熟成させる熟成工程を経ることにより、図3に示すように、デンドライト氷の枝部の先端を丸みを帯びた形状に変化させる。具体的には、冷ブライン管12から冷ブラインを排除して、凍結管10内の氷結晶を含む被処理液の温度を氷点付近に保持し熱平衡状態にすることにより、デンドライト氷の枝部の先端近傍のように曲率半径が小さい界面の氷結晶(固体)が融解して被処理液(液体)へ移動し、同時に融解に伴い被処理液(液体)の熱を奪うので、曲率半径が大きい界面部分に氷結晶を形成する状態を作ることで、デンドライト氷の結晶の形状を変化させる。この結果、氷結晶Sの枝部間に封じ込まれた溶質が、撹拌機13の駆動等により作られた被処理液の流れのせん断力により洗い出されやすい形状となる。
【0036】
そして、凍結工程と熟成工程を交互に繰り返して氷結晶Sを成長させることにより、氷結晶Sの枝部間に封じ込まれた溶質を洗い出しながら、氷結晶Sを成長させることができ、溶質の取り込みが少ない氷結晶を形成することができる。
【0037】
ここで、凍結濃縮装置100において被処理液を凍結する際に行われる凍結工程と熟成工程の時間は、一定時間(例えば180秒)毎に切り替える構成としてもよいが、凍結板11の表面における氷結晶Sの形成状態や、被処理液の濃度等によって適宜変更することが好ましい。
【0038】
凍結板11の表面における氷結晶Sの形成状態や被処理液の濃度等は、温度計TIにより被処理液の温度を測定することにより確認することができる。
【0039】
例えば、凍結工程において被処理液が所定値(例えば0.2℃)以上に温度上昇した場合には、凍結管10を流れる被処理液において、過冷却状態の解放が発生したと判断することができる。被処理液中で過冷却状態の解放が発生した場合には、凍結板11の表面でデンドライト氷の氷結晶Sが急速に形成される。過冷却状態の解放時に形成されるデンドライト氷は、厚みが薄く枝部が長く延びた形状となるため、熟成工程の時間を長く(例えば2倍以上)して過冷却状態の解放時に形成されたデンドライト氷からなる氷結晶Sの熟成を十分に行うことにより、デンドライト氷の長く延びた枝部の形状を丸くして、氷結晶Sへの溶質の取り込みを少なくすることができる。
【0040】
また、熟成工程の温度は被処理液の氷点となるので、被処理液の濃度が上昇することにより氷点が降下することを利用して、被処理液の温度から被処理液の濃度(濃縮倍率)を取得し、被処理液の濃度に応じて凍結工程の時間を決定することができる。例えば、凍結濃縮が進み被処理液の濃度が高くなると、凍結工程において氷結晶Sが形成される際の溶質の取り込みが増加しやすくなるため、一回の凍結工程において形成される氷結晶の量が少なくなるように凍結工程の時間を短くすることにより、溶質の取り込みが少ない氷結晶Sを形成することができる。
【0041】
次に、凍結濃縮装置100において、熟成工程を冷ブライン管12中の冷ブラインを排除して行う点についての作用・効果を説明する。
【0042】
凍結濃縮装置100では、被処理液中の水分が氷結晶を形成する際の凝固潜熱は約80kcal/kgと大きいため、凍結工程において被処理液の氷点よりも5〜15℃低く粘性の高い冷ブラインを冷ブライン管12に流すことにより被処理液を冷却している。また、凍結板11の冷却温度を凍結管10内で均一とするために、冷ブライン管12の流路径を10〜20mmと大きくし、粘性が高いために移動速度が遅い冷ブラインであっても、ある程度の速度で冷ブライン管12内を流れることができるような構成としている。
【0043】
ここで、冷ブライン管12内の冷ブラインの流れを停止し、冷ブラインを冷ブライン管12内で保持した状態で熟成工程を行おうとした場合には、被処理液の氷点よりも低温に冷却された大量の冷ブラインにより凍結板11が冷却される状態が保持され、その間はデンドライト氷の氷結晶が成長してしまい、氷結晶へ溶質が取り込まれる。また、冷ブラインの温度が被処理液の氷点温度近傍まで上昇しないと被処理液が氷点温度とならないため、氷結晶の熟成を開始するまでの所要時間が長くなって被処理液の凍結濃縮に非常に時間がかかると同時に、冷ブラインの加温及び次の凍結工程のための再冷却に係るエネルギーロスが非常に大きくなるという問題がある。
【0044】
これに対して、本実施形態に係る凍結濃縮装置100のように、冷ブラインを冷ブライン管12から排除して熟成工程を行うことにより、冷ブラインの加温や冷却を行う必要が一切無く、エネルギーロスを低減することができる。
【0045】
加えて、冷ブラインを冷ブライン管12から排除して、冷ブラインと比べて熱容量が非常に小さい室温程度の除湿空気を供給するため、氷結晶Sの有する熱容量に相当する非常に小さな分量に対してのみ氷結晶Sは成長することから、氷結晶Sの熟成が開始するまでに形成される氷結晶Sは非常に小さく、氷結晶Sへの溶質の取り込みが抑制されると共に効率よく熟成を行うことができる。
【0046】
さらに、凍結濃縮装置100では、冷ブラインを冷ブライン管12から排除する際に、冷ブラインの温度以下の露点になるように除湿した空気を空気供給ラインL14から供給する。これは、除湿していない空気を冷ブライン管12に供給した場合、冷ブライン管12内に氷結晶が形成され、この氷結晶により冷ブラインの循環流路が塞がれてしまう問題が発生する可能性があるためであり、上記のように除湿空気を供給することにより冷ブライン管12内での結氷を防止することができる。なお、冷ブライン管12内での結氷を確実に防止するためには、冷ブライン管12を流れる冷ブラインの温度より10℃以上低い温度の露点になるように除湿されていることがさらに好ましい。
【0047】
ここで、冷ブライン管12内の冷ブラインの排除を早めるためには、熟成工程において、前述したように送液ラインL15の開閉弁V5を閉とすることが好ましい。この場合、空気供給ラインL14から供給される除湿空気の全量を冷ブライン管12へ供給することができる。
【0048】
また、空気供給ラインL14から除湿空気を加圧した状態で供給すると、冷ブライン管12内の冷ブラインの排除速度をさらに高めることができる。
【0049】
図4は、空気供給ラインL14から加圧した空気を供給する場合に、空気供給ラインL14に取り付ける加圧装置の概略説明図である。図4に示す加圧装置30は、空気供給ラインL14に上記開閉弁V4を介して接続され、安全弁V6と圧力計PGを備える加圧タンク31とレギュレータ32とから構成される。この加圧装置30に、露点−40℃の自動弁の駆動用として用いられる計装用空気をレギュレータ32で0.05MPaに減圧して、加圧タンク31に貯めた後、この圧力で加圧した除湿空気を圧送して冷ブライン管12内に供給することにより、冷ブライン管12内の冷ブラインの排除時間を短縮することができる。この加圧タンク31の圧力条件は冷ブライン管12の強度により決定することが好ましい。
【0050】
なお、凍結濃縮装置100の冷ブライン管12が設けられる位置が、冷ブラインタンク21が設けられる位置よりも十分高いときは、空気供給ラインL14から除湿空気を加圧して供給しなくても、重力により冷ブラインを高い排除速度で排除することができる。
【0051】
このように、本実施形態においては、被処理液を凍結濃縮する際に凍結工程と熟成工程を交互に行うことで、凍結工程において形成されたデンドライト氷の氷結晶Sを、熟成工程において丸みを帯びた形状に変化させることができるため、氷結晶Sに含まれていた溶質が、被処理液の流れによるせん断力等により被処理液に洗い出されやすくなり、氷結晶Sの溶質の取り込みを低減させることができる。また、冷ブライン管12を流れる冷ブラインを排除することにより熟成工程を行うため、冷ブラインの加温や再冷却に伴うエネルギーロスを低減させることができることから、溶質の取り込みが少ない氷結晶Sの形成を効率よく行うことができる。
【0052】
以上、本発明を実施形態に基づき詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態の凍結管10は、角型凍結管、平板式凍結管、パイプ式凍結管等であってもよい。また、上記実施形態では撹拌機13により凍結管10内の被処理液を循環させる態様について説明したが、エアレーションやポンプ等により被処理液を循環させる態様を有する種々の界面前進凍結濃縮装置に適用することができる。また、上記実施形態では除湿空気を用いたが、工業用窒素ガスなど、冷ブライン管内での結氷を防止できれば、どのような気体を用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の一実施形態に係る凍結濃縮装置を示す概略構成図である。
【図2】凍結板の表面に形成される氷結晶(デンドライト氷)の概略説明図である。
【図3】熟成工程後のデンドライト氷の形状の概略説明図である。
【図4】空気供給ラインに取り付ける加圧装置の概略説明図である。
【符号の説明】
【0054】
1…凍結器、10…凍結管、11…凍結板、12…冷ブライン管、13…撹拌機、21…冷ブラインタンク、22…冷却機、23…送液ポンプ、30…加圧装置、100…凍結濃縮装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理液にその表面が接触する凍結板のその裏面側に対して被処理液を冷却するための冷ブラインを流し、この冷ブラインを循環流路によって循環させることにより、前記凍結板の表面に被処理液の氷結晶を形成して被処理液を濃縮する界面前進凍結濃縮方法であって、
前記循環流路において前記冷ブラインを循環させながら前記凍結板の表面に氷結晶を成長させる凍結工程と、前記循環流路から前記冷ブラインを排除し前記氷結晶の成長を停止して当該氷結晶を熟成させる熟成工程と、を交互に行うことを特徴とする界面前進凍結濃縮方法。
【請求項2】
前記熟成工程において、前記循環流路へ、前記冷ブラインの温度以下の露点になるように除湿した空気を供給することにより前記冷ブラインを排除することを特徴とする請求項1記載の界面前進凍結濃縮方法。
【請求項3】
前記循環流路へ前記除湿した空気を大気圧以上に加圧して供給することを特徴とする請求項2記載の界面前進凍結濃縮方法。
【請求項4】
温度計測手段により前記被処理液の温度を計測し、
前記凍結工程において前記被処理液の温度上昇が所定値以上となった場合には、前記熟成工程の時間を変更することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の界面前進凍結濃縮方法。
【請求項5】
温度計測手段により前記被処理液の温度を計測し、
前記熟成工程における前記被処理液の温度から当該被処理液の濃縮倍率を取得し、取得した濃縮倍率に基づいて前記凍結工程の時間を決定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の界面前進凍結濃縮方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−291673(P2009−291673A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−144901(P2008−144901)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】