説明

界面法ポリカーボネート樹脂製造排水の処理方法

【課題】界面法ポリカーボネート樹脂製造プロセスの排水の効率的な処理方法を提供する。
【解決手段】界面法ポリカーボネート樹脂製造プロセスの排水からフェノール性化合物類を含む有機相と水相とを分離する水相分離工程(S103)と、フェノール性化合物類の含有量が水酸基換算量で25重量ppmを超える場合に、これを25重量ppm以下になるように調整する排水調整工程(S111)と、フェノール性化合物類の含有量が25重量ppm以下に調整された排水をオゾン供給量2g/hr〜10g/hr且つ0.5時間〜5時間の条件でオゾン処理し、フェノール性化合物類の含有量が5重量ppm以下のオゾン処理水を得るオゾン処理工程(S112)と、を有する界面法ポリカーボネート樹脂製造排水の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、界面法ポリカーボネート樹脂製造排水の処理方法に関し、より詳しくは、界面法ポリカーボネート樹脂の製造プロセスから排出された排水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、機械的特性、透明性等に優れ、各種の用途に広く用いられている。このようなポリカーボネート樹脂の製造方法としては、例えば、ビスフェノールA(BPA;2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン)等の芳香族ジヒドロキシ化合物と塩化カルボニル(ホスゲン)との界面重縮合による界面法が挙げられる。
界面法によりポリカーボネート樹脂を製造する具体的な態様は、通常、芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ水溶液を調製し、重合触媒として使用するアミン化合物の存在下で、芳香族ジヒドロキシ化合物と塩化カルボニルとの界面重縮合反応を行い、次いで、中和、水洗、乾燥工程を経てポリカーボネート樹脂が得られる(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−310935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、界面法によるポリカーボネート樹脂の製造プロセスは、通常、複数の処理工程を有する。そして、界面法によりポリカーボネート樹脂を製造する際に、各処理工程において使用された多くの処理水が排水として排出される。このような排水は、一般的には、所定の排水処理設備において活性汚泥等で無害化され、廃棄される。
しかし、ビスフェノールA等の芳香族ジヒドロキシ化合物は、一般に活性汚泥等では効率良く除去できないという問題がある。特に、ハロゲン化された芳香族ジヒドロキシ化合物の除去が困難な場合がある。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものである。即ち、本発明の目的は、界面法ポリカーボネート樹脂製造プロセスから排出され、芳香族ジヒドロキシ化合物等を含む排水を、効率よく処理し無害化する界面法ポリカーボネート樹脂製造排水の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は鋭意検討の結果、製造プロセスから排出された排水に含まれるフェノール性化合物類の濃度を特定の範囲に調整し、その後、これにオゾン処理を施すことにより、フェノール性化合物類を効率良く除去できることを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成した。
【0007】
かくして本発明によれば、界面法ポリカーボネート樹脂製造排水の処理方法であって、界面法ポリカーボネート樹脂製造プロセスから排出されフェノール性化合物類及び有機溶剤を含む排水から有機相を分離する水相分離工程と、水相分離工程において有機相が分離された排水中に含まれるフェノール性化合物類の含有量が水酸基換算量で25重量ppmを超える場合に、排水中のフェノール性化合物類の含有量を水酸基換算量で25重量ppm以下になるように調整する排水調整工程と、排水調整工程においてフェノール性化合物類の含有量が25重量ppm以下に調整された排水を、オゾン供給量2g/hr〜10g/hr、且つ、0.5時間〜5時間の条件でオゾン処理を行い、フェノール性化合物類の含有量が5重量ppm以下のオゾン処理水を得るオゾン処理工程と、を有することを特徴とする界面法ポリカーボネート樹脂製造排水の処理方法が提供される。
【0008】
ここで、界面法ポリカーボネート樹脂製造プロセスは、芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属化合物及び塩化カルボニル、又は芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ土類金属化合物及び塩化カルボニルを用いてカーボネートオリゴマーを合成するオリゴマー化工程と、オリゴマー化工程において合成されたカーボネートオリゴマーの重縮合反応を行いポリカーボネート樹脂を含む重縮合反応液を得る重縮合工程と、重縮合工程において得られた重縮合反応液を、アルカリ洗浄液によるアルカリ洗浄、酸洗浄液による酸洗浄及び洗浄水による水洗浄を行い、その後、ポリカーボネート樹脂を含む有機溶媒溶液相と水相とに分離する洗浄工程と、洗浄工程を経て水相と分離された有機溶媒溶液相から、樹脂単離用貧溶媒を用いて有機溶媒溶液相に含まれるポリカーボネート樹脂を固形化する樹脂単離工程と、を少なくとも有し、界面法ポリカーボネート樹脂製造プロセスから排出された排水をオゾン処理して得られたオゾン処理水の少なくとも一部を界面法ポリカーボネート樹脂製造プロセスの洗浄工程における洗浄水として再使用することが好ましい。
【0009】
さらに、オゾン処理水の少なくとも一部を樹脂単離工程の樹脂単離用貧溶媒として再使用することが好ましい。
【0010】
また、水相分離工程において有機相が分離された排水中に含まれるフェノール性化合物類が芳香族ジヒドロキシ化合物を含むことが好ましい。
さらに、芳香族ジヒドロキシ化合物が、ビスフェノールA及び/又はテトラブロモビスフェノールAであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、界面法ポリカーボネート樹脂製造プロセスから排出され芳香族ジヒドロキシ化合物等を含む排水を、効率よく処理し無害化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。
【0013】
(ポリカーボネート樹脂製造プロセス)
界面法によるポリカーボネート樹脂製造プロセスは、モノマー成分等の原料調製を行う原調工程、オリゴマー化反応が行われるオリゴマー化工程、オリゴマーを用いた重縮合反応が行われる重縮合工程、重縮合反応後の反応液をアルカリ洗浄、酸洗浄、水洗浄により洗浄する洗浄工程、洗浄された反応液を予濃縮しポリカーボネート樹脂を造粒後に単離する樹脂単離工程、単離されたポリカーボネート樹脂の粒子を乾燥する乾燥工程とを、少なくとも有している。以下、各工程について説明する。
【0014】
(原調工程)
原調工程では、原調タンクに、ビスフェノールA(以下、「BPA」と記すことがある。)等の芳香族ジヒドロキシ化合物と、水酸化ナトリウム(NaOH)等のアルカリ金属化合物の水溶液と、脱塩水(DMW)と、さらに必要に応じてハイドロサルファイト(HS)等の還元剤を含むBPAアルカリ水溶液等の原料が調製される。
【0015】
(芳香族ジヒドロキシ化合物)
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシジフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のビスフェノール;4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル等のビフェノ−ル;ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトンが挙げられる。
これらの中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA、以下、「BPA」と略記することがある。)が好ましい。
【0016】
また、ハロゲン含有芳香族ジヒドロキシ化合物として、例えば、テトラブロモビスフェノールA(TBA)、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(2,3,5,6−テトラブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(2,3,5,6−テトラクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン等が挙げられる。これらの中でも、テトラブロモビスフェノールA(TBA)が好ましい。
これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0017】
尚、前述した芳香族ジヒドロキシ化合物の一部を、実質的にその特性を損なわない範囲で、他の脂肪族ジヒドロキシ化合物で置き換えてもよい。そのような脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ドデカンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジオール、1,4−ジヒドロキシメチルシクロヘキサン等が挙げられる。
【0018】
(アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物)
アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物としては、通常、水酸化物が好ましく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。これらの中でも、水酸化ナトリウムが特に好ましい。
芳香族ジヒドロキシ化合物に対するアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物の割合は、通常、1.0〜1.5(当量比)、好ましくは、1.02〜1.04(当量比)である。アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物の割合が過度に多い又は過度に少ない場合は、後述するオリゴマー化工程において得られるカーボネートオリゴマーの末端基に影響し、その結果、重縮合反応が異常となる傾向がある。
【0019】
(オリゴマー化工程)
次に、オリゴマー化工程では、原調工程で調製されたBPAアルカリ水溶液は、所定の反応器において、塩化カルボニル(COCl)及び塩化メチレン(CHCl)等の有機溶媒の存在下で、BPAのホスゲン化反応が行われる。
続いて、BPAのホスゲン化反応が行われた混合液に、トリエチルアミン(TEA)等の縮合触媒と、p−t−ブチルフェノール(pTBP)等の連鎖停止剤が添加され、BPAのオリゴマー化反応が行われる
次に、BPAのオリゴマー化反応液は、さらにオリゴマー化反応が進められた後、所定の静置分離槽に導入され、カーボネートオリゴマーを含有する有機相と水相とが分離され、分離された有機相は、重縮合工程に供給される。
ここで、BPAのホスゲン化反応が行われる反応器にBPAアルカリ水溶液が供給されてから静置分離槽に入るまでのオリゴマー化工程における滞留時間は、通常、120分、好ましくは、30分〜60分である。
【0020】
(塩化カルボニル)
オリゴマー化工程で使用する塩化カルボニル(以下、CDCと記すことがある。)は、通常、液状又はガス状で使用される。温度管理の観点から、CDCは液状であることが好ましく、反応温度において液状を保ち得る反応圧力が選択される。
オリゴマー化工程におけるCDCの好ましい使用量は、反応条件、特に、反応温度及び水相中の芳香族ジヒドロキシ化合物の金属塩の濃度によって適宜選択され、特に限定されない。通常、芳香族ジヒドロキシ化合物の1モルに対し、CDC1モル〜2モル、好ましくは1.05モル〜1.5モルである。CDCの使用量が過度に多いと、未反応CDCが多くなり原単位が極端に悪化する傾向がある。また、CDCの使用量が過度に少ないと、クロロフォルメート基量が不足し、適切な分子量伸長が行われなくなる傾向がある。
【0021】
(有機溶媒)
オリゴマー化工程では、通常、有機溶媒を使用する。有機溶媒としては、オリゴマー化工程における反応温度及び反応圧力において、塩化カルボニル及びカーボネートオリゴマー、ポリカーボネート樹脂等の反応生成物を溶解し、水と相溶しない(または、水と溶液を形成しない)任意の不活性有機溶媒が挙げられる。
このような不活性有機溶媒として、例えば、ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ジクロロプロパン及び1,2−ジクロロエチレン等の塩素化脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素;クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン及びクロロトルエン等の塩素化芳香族炭化水素;その他、ニトロベンゼン及びアセトフェノン等の置換芳香族炭化水素等が挙げられる。
これらの中でも、例えば、ジクロロメタン又はクロロベンゼン等の塩素化された炭化水素が好適に使用される。これらの不活性有機溶媒は、単独であるいは他の溶媒との混合物として使用することができる。
【0022】
(縮合触媒)
オリゴマー化反応は、縮合触媒の存在下で行うことができる。縮合触媒の添加時期は、CDCを消費した後が好ましい。縮合触媒としては、二相界面縮合法に使用されている多くの縮合触媒の中から、任意に選択することができる。例えば、トリアルキルアミン、N−エチルピロリドン、N−エチルピペリジン、N−エチルモルホリン、N−イソプロピルピペリジン、N−イソプロピルモルホリン等が挙げられる。中でも、トリエチルアミン、N−エチルピペリジンが好ましい。
【0023】
(連鎖停止剤)
本実施の形態において、オリゴマー化工程では、通常、連鎖停止剤としてモノフェノールを使用する。モノフェノールとしては、例えば、フェノール;p−t−ブチルフェノール、p−クレゾール等の炭素数1〜炭素数20のアルキルフェノール;p−クロロフェノール、2,4,6−トリブロモフェノール等のハロゲン化フェノールが挙げられる。モノフェノールの使用量は、得られるカーボネートオリゴマーの分子量に応じ適宜選択され、通常、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、0.5モル%〜10モル%である。
【0024】
後述するポリカーボネート樹脂の分子量は、モノフェノール等の連鎖停止剤の添加量で決定される。このため、ポリカーボネート樹脂の分子量を制御する観点から、連鎖停止剤の添加時期は、カーボネート形成性化合物の消費が終了した直後から、分子量伸長が始まる前での間が好ましい。
カーボネート形成性化合物の共存下でモノフェノールを添加すると、モノフェノール同士の縮合物(炭酸ジフェニル類)が多く生成し、目標とする分子量のポリカーボネート樹脂が得られにくい傾向がある。モノフェノールの添加時期が極端に遅れると、分子量制御が困難となり、さらに、分子量分布の低分子側に特異な肩を有する樹脂となり、成型時には垂れを生じる等の弊害が生じる傾向がある。
【0025】
(分岐剤)
また、本実施の形態において、オリゴマー化工程では、任意の分岐剤を使用することができる。このような分岐剤としては、たとえば、2,4−ビス(4−ヒドロキシフェニルイソプロピル)フェノール、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)プロパン、1,4−ビス(4,4’−ジヒドロキシトリフェニルメチル)ベンゼン等が挙げられる。また、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、トリメシン酸、塩化シアヌル等も使用しうる。これらの中でも、少なくとも3個のフェノール性ヒドロキシル基を有する分岐剤が好適である。分岐剤の使用量は、得られるカーボネートオリゴマーの分岐度に応じ適宜選択され、通常、芳香族ジヒドロキシ化合物に対し、0.05モル%〜2モル%である。
【0026】
オリゴマー化工程では、二相界面縮合法を採用した場合、芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属化合物水溶液又はアルカリ土類金属化合物水溶液と塩化カルボニルとの接触に先立ち、芳香族ジヒドロキシ化合物を含む有機相とアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を含む水相と、水と任意に混合しない有機相とを接触させ、乳濁液を形成させることが特に好ましい。
このような乳濁液を形成する手段としては、例えば、所定の撹拌翼を有する撹拌機、ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミル、フロージェットミキサー、超音波乳化機等の動的ミキサー、静的ミキサー等の混合機を使用するのが好ましい。乳濁液は、通常、0.01μm〜10μmの液滴径を有し、乳化安定性を有する。
乳濁液の乳化状態は、通常、ウェーバー数又はP/q(単位容積当たりの付加動力値)で表される。ウェーバー数としては、好ましくは10,000以上、さらに好ましくは20,000以上、最も好ましくは35,000以上である。また、上限としては1,000,000以下程度で十分である。また、P/qとしては、好ましくは200kg・m/リットル以上、さらに好ましくは500kg・m/リットル以上、最も好ましくは1,000kg・m/リットル以上である。
【0027】
乳濁液と塩化カルボニル(CDC)との接触は、前述した乳化条件よりも弱い混合条件下で行うのがCDCの有機相への溶解を抑制する意味で好ましい。ウェーバー数としては、10,000未満、好ましくは5,000未満、さらに好ましくは2,000未満である。また、P/qとしては、200kg・m/リットル未満、好ましくは100kg・m/リットル未満、さらに好ましくは50kg・m/リットル未満である。CDCの接触は、管型反応器や槽型反応器にCDCを導入することによって達成することができる。
【0028】
オリゴマー化工程における反応温度は、通常、80℃以下、好ましくは60℃以下、さらに好ましくは10℃〜50℃の範囲である。反応時間は反応温度によって適宜選択され、通常、0.5分〜10時間、好ましくは1分〜2時間である。反応温度が過度に高いと、副反応の制御ができず、CDC原単位が悪化する傾向がある。反応温度が過度に低いと、反応制御上は好ましい状況ではあるが、冷凍負荷が増大し、コストアップとなる傾向がある。
【0029】
有機相中のカーボネートオリゴマー濃度は、得られるカーボネートオリゴマーが可溶な範囲であればよく、具体的には、10重量%〜40重量%程度である。有機相の割合は芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩水溶液又はアルカリ土類金属塩水溶液を含む水相に対し、0.2〜1.0の容積比であることが好ましい。
【0030】
(重縮合工程)
次に、重縮合工程では、静置分離槽で水相と分離されたカーボネートオリゴマーを含有する有機相は、撹拌機を有するオリゴマー貯槽に移送される。オリゴマー貯槽には、トリエチルアミン(TEA)等の縮合触媒がさらに添加される。
続いて、オリゴマー貯槽内で撹拌された有機相は所定の重縮合反応槽に導入され、続いて、重縮合反応槽に、脱塩水(DMW)、塩化メチレン(CHCl)等の有機溶媒及び水酸化ナトリウム水溶液が供給され、撹拌混合されてカーボネートオリゴマーの重縮合反応が行われる。
【0031】
重縮合反応槽中の重縮合反応液は、その後、複数の重縮合反応槽に連続的に順次導入され、カーボネートオリゴマーの重縮合反応が完結される。
ここで、重縮合工程において、連続的にカーボネートオリゴマーの重縮合反応が行われる重縮合反応槽における滞留時間は、通常、12時間以下、好ましくは、0.5時間〜5時間である。
【0032】
重縮合工程で得られるポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、通常、12,000〜60,000、好ましくは、14,000〜30,000である。
重縮合工程の好ましい態様としては、先ず、カーボネートオリゴマーを含む有機相と水相とを分離し、分離した有機相に必要に応じて不活性有機溶媒を追加し、カーボネートオリゴマーの濃度を調整する。この場合、重縮合反応によって得られる有機相中のポリカーボネート樹脂の濃度が5重量%〜30重量%となるように不活性有機溶媒の量を調整する。
次に、新たに水及びアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を含む水溶液を加え、さらに、重縮合条件を整えるために、好ましくは縮合触媒を添加し、界面重縮合法に従い重縮合反応を行う。重縮合反応における有機相と水相との割合は、容積比で有機相:水相=1:(0.2〜1)程度が好ましい。
【0033】
アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物としては、前述したオリゴマー化工程において使用するものと同様な化合物が挙げられる。中でも、工業的に水酸化ナトリウムが好ましい。アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物の使用量は、重縮合反応中、反応系が常にアルカリ性に保たれる量以上であればよく、重縮合反応の開始時に、全量を一括して添加してもよく、また、重縮合反応中に適宜分割して添加してもよい。
アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物の使用量が過度に多いと、副反応である加水分解反応が進む傾向がある。そのため、重縮合反応終了後における水相に含まれる
アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物の濃度が0.05N以上、好ましくは0.05N〜0.3N程度となるようにするのがよい。
重縮合工程における重縮合反応の温度は、通常、常温付近である。反応時間は0.5時間〜5時間、好ましくは1時間〜3時間程度である。
【0034】
(洗浄工程)
次に、重縮合反応槽における重縮合反応が完結した後、重縮合反応液は、公知の方法により、アルカリ洗浄液によるアルカリ洗浄、酸洗浄液による酸洗浄及び洗浄水による水洗浄が行われる。尚、洗浄工程の全滞留時間は、通常、12時間以下、好ましくは、0.5時間〜6時間である。
【0035】
(樹脂単離工程)
樹脂単離工程では、先ず、洗浄工程において洗浄されたポリカーボネート樹脂を含む有機溶媒溶液は、所定の固形分濃度に濃縮された濃縮液として調製される。濃縮液におけるポリカーボネート樹脂の固形分濃度は、通常、5重量%〜35重量%、好ましくは、10重量%〜30重量%である。
次に、濃縮液は、所定の造粒槽に連続的に供給され、所定の温度の脱塩水(DMW)と撹拌混合される。そして、水中で懸濁状態を保ちながら有機溶媒を蒸発させる造粒処理が行われ、ポリカーボネート樹脂粒状体を含む水スラリーが形成される。
ここで、脱塩水(DMW)の温度は、通常、37℃〜67℃、好ましくは、40℃〜50℃である。また、造粒槽内で行われる造粒処理によりポリカーボネート樹脂の固形化温度は、通常、37℃〜67℃、好ましくは、40℃〜50℃である。
造粒槽から連続的に排出されるポリカーボネート樹脂粉状体を含む水スラリーは、その後、所定の分離器に連続的に導入され、水スラリーから水が分離される。
【0036】
(乾燥工程)
乾燥工程では、分離器において、水スラリーから水が分離されたポリカーボネート樹脂粉状体が、所定の乾燥機に連続的に供給され、所定の滞留時間で滞留させた後、連続的に抜き出される。乾燥機としては、例えば流動床型乾燥機が挙げられる。尚、複数の流動床型乾燥機を直列につなぎ、連続的に乾燥処理を行ってもよい。
ここで、乾燥機は、通常、熱媒ジャケット等の加熱手段を有し、例えば、水蒸気にて、通常、0.1MPa−G〜1.0MPa−G、好ましくは、0.2MPa−G〜0.6MPa−Gに保持されている。これにより、乾燥機の中を流通する窒素(N)の温度は、通常、100℃〜200℃、好ましくは、120℃〜180℃に保持されている。
【0037】
(排水のフロー)
次に、排水のフローについて説明する。
図1は、界面法によるポリカーボネート樹脂製造プロセスから排出された排水の処理を示すブロックフロー例である。
図1に示すように、界面法によるポリカーボネート樹脂製造プロセスでは、界面重縮合反応に使用する原料を調製する原調工程(ステップ101)と、原調工程で調製された原料によりカーボネートオリゴマーを合成するオリゴマー化工程(ステップ102)とにより、重縮合反応の前駆体が準備される。
次に、オリゴマー化工程で得られたオリゴマー化反応液から水相と有機相とを分離する水相分離工程(ステップ103)と、水相と分離されたカーボネートオリゴマーを含む有機相を貯槽するオリゴマー貯槽(ステップ104)を経て、貯槽したカーボネートオリゴマーによる重縮合反応を行う重縮合工程(ステップ105)に進む。
続いて、重縮合反応により得られたポリカーボネート樹脂を含む重縮合反応液を洗浄する洗浄工程(ステップ106)と、重縮合反応液からポリカーボネート樹脂粒状体を単離に固形化する樹脂単離工程(ステップ107)と、単離されたポリカーボネート樹脂を乾燥する乾燥工程(ステップ108)を経て、ポリカーボネート樹脂粒状体(PC粒状体)が製造される(ステップ109)。
【0038】
図1に示すように、オリゴマー化工程(ステップ102)後の水相分離工程(ステップ103)において、オリゴマー化反応液から、オリゴマー化工程において使用されたモノマー成分等のフェノール性化合物類や有機溶剤を含む有機相と水相とが分離される。有機相と分離された水相の部分は排水として貯槽に移送される(ステップ110)。
一方、洗浄工程(ステップ106)においては、ポリカーボネート樹脂を含む重縮合反応液をアルカリ洗浄工程(ステップ1061)においてアルカリ洗浄し、水相分離(ステップ1062)において有機相と水相とを分離する。続いて、水相と分離された有機相は酸洗浄工程(ステップ1063)において酸洗浄され、水相分離(ステップ1064)において有機相と水相とが分離される。水相と分離された有機相は、さらに水洗浄工程(ステップ1065)において水洗浄され、水相分離(ステップ1066)において有機相と水相とが分離される。水相分離(ステップ1066)において水相と分離された有機相は樹脂単離工程(ステップ107)へと進む。
上記の水相分離(ステップ1062,1064,1066)において、それぞれ有機相と分離された水相の部分は、前述したオリゴマー化工程(ステップ102)後の水相分離(ステップ103)において、有機相と分離された排水が移送された貯槽に移送される(ステップ110)。
【0039】
次に、貯槽に移送された排水中に含まれるフェノール性化合物類の含有量が水酸基換算量で25重量ppmを超える場合は(ステップ110a;yes)、排水調整工程において排水中のフェノール性化合物類の含有量を水酸基換算量で25重量ppm以下になるように調整される(ステップ111)。続いて、オゾン処理工程においてフェノール性化合物類の含有量が調整された排水に、所定の条件でオゾン処理が施され(ステップ112)、フェノール性化合物類の含有量が低減された排水は、処理貯水槽に移送される(ステップ113)。オゾン処理については後述する。
尚、貯槽に移送された排水中に含まれるフェノール性化合物類の含有量が水酸基換算量で25重量ppm以下の場合は(ステップ110a;no)、排水調整工程を経ることなく排水にオゾン処理が施される。
【0040】
ここで、製造プロセスから排出され、有機相を分離した排水中には、前述したように界面法によるポリカーボネート樹脂製造プロセスにおいて使用されたモノマー成分等が含まれている。具体的には、芳香族ジヒドロキシ化合物、ハロゲン化芳香族ジヒドロキシ化合物、脂肪族ジヒドロキシ化合物、モノヒドロキシ化合物等のフェノール性化合物類;ジクロロメタン等の有機溶媒;トリエチルアミン等の縮合触媒;分岐剤、連鎖停止剤等が挙げられる。
これらの中でも、ビスフェノールA等の芳香族ジヒドロキシ化合物やテトラブロモビスフェノールA等のハロゲン化芳香族ジヒドロキシ化合物に代表されるフェノール性化合物類は、所定の排水処理設備における処理を行っても、排水中から除去し難い傾向がある。
本実施の形態では、このようなフェノール性化合物類を含む排水を、以下の操作に従ってオゾン処理を施すことにより、排水中に含まれるフェノール性化合物類の含有量を大幅に低減することができる。
【0041】
(オゾン処理工程)
本実施の形態では、前述したように、界面法ポリカーボネート樹脂製造プロセスから排出されフェノール性化合物類を含む排水から有機相と水相とが分離される(水相分離工程)。次に、有機相が分離された排水中に含まれるフェノール性化合物類の含有量が水酸基換算量で25重量ppmを超える場合に、オゾン処理を施す前の前処理として、排水中のフェノール性化合物類の含有量を水酸基換算量で25重量ppm以下になるように調整される(排水調整工程)。そして、フェノール性化合物類の含有量が25重量ppm以下に調整された排水に対し所定の条件でオゾン処理が行われ、フェノール性化合物類の含有量が5重量ppm以下のオゾン処理水が得られる。
【0042】
オゾン処理を施す前の前処理により、排水中に含まれるフェノール性化合物類の含有量は、水酸基換算量で25重量ppm以下、好ましくは20重量ppm以下、さらに好ましくは15重量ppm以下に調整される。
前処理後のフェノール性化合物類の含有量が過度に多いと、後述するオゾン処理において使用するオゾン量が増大する傾向がある。また、フェノール性化合物類の含有量を過度に低下させるためには、後述する排水調整工程(ステップ111)における負荷が増大し経済的ではない。
【0043】
上記のようにフェノール性化合物類の含有量が調整された排水に、オゾン処理工程においてオゾン処理が施される(ステップ112)。オゾン処理の条件は、オゾン供給量が、通常、2g/hr〜10g/hrの範囲であり、2g/hr〜8g/hrが好ましく、2g/hr〜5g/hrがさらに好ましい。
オゾン供給量が過度に少ないと、オゾン処理に長時間を要する傾向がある。また、オゾン供給量が過度に多いと、経済的ではない。
さらに、オゾンを供給してオゾン処理を行う時間は、通常、0.5時間〜5時間の範囲であり、0.5時間〜3時間が好ましく、0.5時間〜2時間がさらに好ましい。
オゾン処理を行う時間が過度に短いと、フェノール性化合物類の除去が不十分となる傾向がある。オゾン処理を行う時間が過度に長いと、経済的ではない。
【0044】
(排水調整工程)
ここで、本実施の形態では、オゾン処理工程(ステップ112)の前処理として行われる排水調整工程(ステップ111)において、排水中に含まれるフェノール性化合物類の含有量を調整する手段としては、以下の方法が好ましい例として挙げられる。
即ち、製造プロセスから排出され有機相を分離して貯槽に移送された排水に(ステップ110)、有機溶媒を添加し、撹拌する。この場合、排水に添加される有機溶媒の添加量は、通常、(有機溶媒/排水)=0.05〜1、好ましくは0.1〜0.5、さらに好ましくは0.1〜0.3の範囲である。
使用する有機溶媒としては、水を溶解しない不活性有機溶媒が好ましく、例えば、ジクロロメタン、クロロベンゼン等の塩素化された炭化水素が挙げられる。
次に、(有機溶媒/排水)混合水溶液に、さらに塩化水素水溶液を添加し、撹拌しながらこの混合水溶液のpHを6〜8の範囲に調整する。続いて、混合水溶液のpHを6〜8の範囲に調整しながら、排水中に含まれるフェノール性化合物類を、有機溶媒側に徐々に移行させる。そして、排水中に含まれるフェノール性化合物類の含有量が、水酸基換算で、25重量ppm以下に、好ましくは20重量ppm以下に、さらに好ましくは15重量ppm以下に低減させ、撹拌を停止する。その後、排水を含む水相を分離し、オゾン処理工程(ステップ112)においてオゾン処理を施す。
尚、前述した排水調整工程は、好ましい一例でありこれに限定されない。フェノール性化合物の含有量が水酸基換算で25重量ppm以下に低減できる方法であれば、例えば、希釈法、蒸留法等を採用してもよい。
【0045】
(排水の循環使用)
本実施の形態では、前述したオゾン処理が施されることによってフェノール性化合物類の含有量が低減された排水は、界面法によるポリカーボネート樹脂製造プロセスの各工程に供給され、循環使用される。
図1に示すように、オゾン処理工程(ステップ112)を経て処理貯水槽(ステップ113)に移送された排水の一部は、洗浄工程(ステップ106)における水洗浄工程に循環供給され、脱塩水と併用して、あるいは脱塩水に代えて洗浄水として循環使用される。
また、処理貯水槽(ステップ113)に移送された排水の一部は、樹脂単離工程(ステップ107)に循環供給され、脱塩水と併用して、あるいは脱塩水に代えて樹脂単離用貧溶媒として循環使用される。
さらに、処理貯水槽(ステップ113)に移送された排水の一部は、原調工程(ステップ101)に循環供給され、脱塩水と併用して、あるいは脱塩水に代えて原料調製に循環使用される。
尚、必要に応じて、処理貯水槽(ステップ113)に移送された排水の一部は、界面法によるポリカーボネート樹脂製造プロセスの他の工程に循環供給されてもよい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。尚、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
(1)残存フェノール性化合物類に由来する水酸基含量の同定
処理水5mLに17.5%−塩化水素水溶液を添加し、pH=2〜3とした後、メチルアルコールを用いて全量が10mLとなるように調整した。
調整した溶液中のフェノール性化合物類の濃度は、高速液体クロマトグラフィ測定で得られたピーク面積を求め、検量線に基づいて算出した。高速液体クロマトグラフィ測定の条件は以下の通りである。
【0048】
<高速液体クロマトグラフィ測定の条件>
カラム:YMCA−PACK ODS−AM S−3μm,12nm 7.5mm×4.6mmφ
検出器:株式会社島津製作所製SP−6A UV検出器(波長:285nm)
溶離液:メチルアルコール/水=7/3(v/v)+(CFCO)201mL/L添加
測定温度:室温
流速:1.0mL/分
サンプル注入量:20μL
【0049】
高速液体クロマトグラフィ測定により得られたフェノール性化合物類の濃度に基づき、次式を用いて、残存フェノール性化合物類に由来する水酸基含量を求めた。
【0050】
【数1】

【0051】
(2)ポリカーボネート樹脂の製造
以下に示す手順で、界面法によるポリカーボネート樹脂の製造を行った。
撹拌翼及びジャケットを備えた溶解槽(700L)中で、ビスフェノールA(BPA)100kg、25重量%水酸化ナトリウム水溶液145kg及び脱塩水496kgを、ハイドロサルファイト0.11kg存在下に35℃で溶解し、BPAアルカリ水溶液(水相)を調製した。
次に、このBPAアルカリ水溶液(水相)を、流量119kg/hrでステンレス製配管(内径6mm×外径8mm)に供給した。
また、同時に、20℃のジクロロメタン(有機相)を、流量59.2kg/hrでステンレス製配管に供給し、BPAアルカリ水溶液(水相)とジクロロメタン(有機相)とをステンレス製配管内で混合した。
続いて、この混合物をホモミキサー(特殊機化株式会社製:製品名T.KホモミックラインフローLF−500型)を用いて乳化し、BPAアルカリ水溶液(水相)とジクロロメタン(有機相)との混合物の乳濁液を調製した。
【0052】
次に、ホモミキサーからBPAアルカリ水溶液(水相)とジクロロメタン(有機相)との乳濁液を、配管(内径6mm×外径8mm)により取出した後、この配管に接続するパイプリアクター(ポリテトラフルオロエチレン製;内径6mm×長さ34m)内に導入した。さらに、このパイプリアクターに別途接続したパイプ(0℃に冷却した)により、流量8.52kg/hrで液化塩化カルボニルを供給し、前述した(BPAアルカリ水溶液(水相)/ジクロロメタン(有機相))乳濁液と液化塩化カルボニルとを接触させた。
【0053】
上述した乳濁液は、パイプリアクター内を、線速1.7m/secで20秒間流通する間に液化塩化カルボニルと接触し、クロロフォルメート化とオリゴマー化反応が行われた。
この場合の反応温度は、それぞれ60℃になるように調整し、いずれも次のオリゴマー化槽に入る前に35℃まで外部冷却を行った。
続いて、このようにしてパイプリアクター内でオリゴマー化された乳濁液を撹拌機付き反応槽(内容積50L)に導き、窒素ガス雰囲気下、30℃で撹拌し、さらにオリゴマー化反応させることによって、水相中に存在する未反応BPAのNa塩を完全に消費させた。その後、水相と有機相を静置分離し、オリゴマーのジクロロメタン溶液を得た。この際に分離された水相の部分を排水Aとする。
尚、オリゴマー化反応に際し、トリエチルアミンの2%水溶液(以下、「2%TEA」と記す。)を0.273kg/hrで、また、p−t−ブチルフェノールの16%のジクロロメタン溶液(以下、「16%pTBP」と記す。)を2.57kg/hrで、それぞれオリゴマー化槽に添加した。
【0054】
上記のオリゴマーのジクロロメタン溶液65.5kg及び希釈用ジクロロメタン34.8kgをファウドラー翼付き反応槽(内容積200Lの)に仕込み、撹拌しながら、これに、予め、脱塩水17.4kg、25重量%水酸化ナトリウム水溶液6.53kg、テトラブロモビスフェノール(TBA)0.270kg及び2%TEA0.317kgを混合した溶液を加え、25℃で撹拌し、120分間共重合反応を行った。
【0055】
共重合反応終了後、ファウドラー翼付き反応槽にジクロロメタン34.9kg、脱塩水8.00kgを添加し、30分間撹拌し、洗浄を行った後、撹拌を停止し、遠心分離機にて有機相(I)と水相とを分離した。
分離した有機相(I)に0.1規定塩酸30kgを加え、30分間撹拌し、トリエチルアミン及び少量残存するアルカリ成分を抽出した後、撹拌を停止し、水相と有機相(II)とを分離した。
分離した有機相(II)に、さらに脱塩水30kgを加え、30分間撹拌した後、撹拌を停止し、水相と有機相(III)を分離した。続いて、再度、有機相(III)に脱塩水30kgを加え30分間撹拌した後、撹拌を停止し水相と有機相(IV)を分離した。このとき分離した水相の部分を排水Bとする。
【0056】
4枚タービン翼2段の撹拌機を備えたジャケット付造粒槽(内容積50L)中に、上記で得られたポリカーボネート樹脂のジクロロメタン溶液を、20リットル/hrで連続的に供給するとともに、補給水として45℃の水を30リットル/hrで導入し、水中で懸濁状態を保ちながら、内温47℃、撹拌回転数400rpmでジクロロメタンを蒸発させ、ポリカーボネート樹脂粒状体を形成させた。
【0057】
次いで、ジャケット付造粒槽からポリカーボネート樹脂粒状体を含有する水スラリーの一部を抜き出し、これを湿式粉砕処理しつつ、ジャケット付造粒槽に循環させた。このとき、ジャケット付造粒槽の内容物は50Lに保たれ、水スラリーは35リットル/hrで抜き出される。抜き出した水スラリーから水を分離し、ハロゲン含有ポリカーボネート樹脂粒状体が得られた。このときの水スラリーから水を分離しの排水を排水Cとする。
【0058】
続いて、上記界面法ポリカーボネート樹脂製造プロセスにより得られた排水A、排水B及び排水Cを一つに合わせて混合し、この混合排水中のフェノール性化合物類の含有量を測定した。測定の結果、BPAが液中濃度で200ppm、TBAが400ppmであった。また、混合排水中のフェノール性化合物類の水酸基含量は、合計で49ppmであった。
【0059】
(実施例1)
上記界面法によるポリカーボネート樹脂製造プロセスにより得られた混合排水(フェノール性化合物類の水酸基含量=49ppm)を撹拌槽にて撹拌し、これに、(ジクロロメタン/水相)=0.12となるようにジクロロメタンを添加し、さらに塩化水素水溶液を添加して混合排水のpHを6〜8の範囲に調整した。
次に、混合排水中のフェノール性化合物類を、ジクロロメタン側に徐々に移行させ、混合排水中のBPA由来の水酸基含量が0ppm、TBA由来の水酸基含量が6ppmとなったところで、撹拌を停止し、水相(排水D)を分離した。
得られた排水D80Lを採取し、これを撹拌しながら、オゾン供給量4.8g/hr、供給時間0.5時間の条件でオゾン処理を施した。
オゾン処理の結果、排水Dに含まれるフェノール性化合物類の含有量は、水酸基換算で0.2ppmであった(処理水A)。
その後、この処理水Aを、界面法によるポリカーボネート樹脂製造プロセスにおける水洗工程の洗浄水として循環使用したところ、洗浄水として脱塩水を使用して得られた界面法ポリカーボネート樹脂と比較して、品質に有意差が無いポリカーボネート樹脂が得られた。
【0060】
(実施例2)
実施例1にて得られたオゾン処理後の処理水Aを、界面法によるポリカーボネート樹脂製造プロセスにおける樹脂単離工程に、樹脂単離用貧溶媒として再利用した。
その結果、造粒槽に脱塩水を使用して得られた界面法ポリカーボネート樹脂と比較して、品質に有意差が無いポリカーボネート樹脂が得られた。
【0061】
(実施例3)
実施例1と同様の操作によって、上記界面法によるポリカーボネート樹脂製造プロセスにより得られた混合排水(フェノール性化合物類の水酸基含量=49ppm)にジクロロメタンを添加し、さらに混合排水のpHを6〜8の範囲に調整しつつ、混合排水中のフェノール性化合物類を、ジクロロメタン側に徐々に移行させた。
混合排水中のBPA由来の水酸基含量が4ppm、TBA由来の水酸基含量が8ppmとなったところで、撹拌を停止し、水相(排水E)を分離した。
得られた排水E80Lを採取し、これを撹拌しながら、オゾン供給量4.8g/hr、供給時間1時間の条件でオゾン処理を施した。
オゾン処理の結果、排水Eに含まれるフェノール性化合物類の含有量は、水酸基換算で1ppmであった(処理水B)。
その後、この処理水Bを、界面法によるポリカーボネート樹脂製造プロセスにおける水洗工程の洗浄水として循環使用したところ、洗浄水として脱塩水を使用して得られた界面法ポリカーボネート樹脂と比較して、品質に有意差が無いポリカーボネート樹脂が得られた。
【0062】
(実施例4)
実施例1と同様の操作によって、上記界面法によるポリカーボネート樹脂製造プロセスにより得られた混合排水(フェノール性化合物類の水酸基含量=49ppm)にジクロロメタンを添加し、さらに混合排水のpHを6〜8の範囲に調整しつつ、混合排水中のフェノール性化合物類を、ジクロロメタン側に徐々に移行させた。
混合排水中のBPA由来の水酸基含量が9ppm、TBA由来の水酸基含量が15ppmとなったところで、撹拌を停止し、水相(排水F)を分離した。
得られた排水F80Lを採取し、これを撹拌しながらオゾン供給量4.8g/hr、供給時間3hrの条件でオゾン処理を施した。
オゾン処理の結果、排水Fに含まれるフェノール性化合物類の含有量は、水酸基換算で0.6ppmであった(処理水C)。
その後、この処理水Cを、界面法によるポリカーボネート樹脂製造プロセスにおける水洗工程の洗浄水として循環使用したところ、洗浄水として脱塩水を使用して得られた界面法ポリカーボネート樹脂と比較して、品質に有意差が無いポリカーボネート樹脂が得られた。
【0063】
(実施例5)
実施例4において、オゾン処理におけるオゾン供給量を2.4g/hrに変更し、供給時間を5hrと変更した以外は、実施例4と同様の操作を行った。
オゾン処理の結果、排水Fに含まれるフェノール性化合物類の含有量は、水酸基換算で1ppmであった(処理水D)。
その後、この処理水Dを、界面法によるポリカーボネート樹脂製造プロセスにおける水洗工程の洗浄水として循環使用したところ、洗浄水として脱塩水を使用して得られた界面法ポリカーボネート樹脂と比較して、品質に有意差が無いポリカーボネート樹脂が得られた。
【0064】
(比較例1)
実施例1において、上記界面法によるポリカーボネート樹脂製造プロセスにより得られた混合排水(フェノール性化合物類の水酸基含量=49ppm)に含まれるBPA由来の水酸基含量が20ppm、TBA由来の水酸基含量が50ppmとなったところで、撹拌を停止し、水相(排水G)を分離した。
得られた排水G80Lを採取し、これを撹拌しながらオゾン供給量4.8g/hr、供給時間3hrの条件でオゾン処理を施した。
オゾン処理の結果、排水Gに含まれるフェノール性化合物類の含有量は、水酸基換算で4ppmであった(処理水E)。
その後、この処理水Eを、界面法によるポリカーボネート樹脂製造プロセスにおける水洗工程の洗浄水として循環使用したところ、洗浄水として脱塩水を使用して得られた界面法ポリカーボネート樹脂と比較して、樹脂中の残存モノマーが増加し、色調が悪化する等の品質が低下したポリカーボネート樹脂が得られた。
【0065】
(比較例2)
比較例1において得られた処理水Eを、界面法によるポリカーボネート樹脂製造プロセスにおける樹脂単離工程に循環供給し、造粒槽の補給水として再利用した。
その結果、補給水として脱塩水を使用して得られた界面法ポリカーボネート樹脂と比較して、樹脂中の残存モノマーが増加し、色調が悪化する等の品質が無いポリカーボネート樹脂が得られた。
【0066】
(比較例3)
比較例1において使用した排水G80Lを採取し、これを撹拌しながらオゾン供給量4.8g/hr、供給時間5hrの条件でオゾン処理を施した。
オゾン処理の結果、排水Gに含まれるフェノール性化合物類の含有量は、水酸基換算で2.1ppmであった(処理水F)。
その後、この処理水Fを、界面法によるポリカーボネート樹脂製造プロセスにおける樹脂単離工程に循環供給し、造粒槽の補給水として再利用した。
その結果、補給水として脱塩水を使用して得られた界面法ポリカーボネート樹脂と比較して、樹脂中の残存モノマーが増加し、色調が悪化する等の品質が無いポリカーボネート樹脂が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】界面法によるポリカーボネート樹脂製造プロセスから排出された排水の処理を示すブロックフロー例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面法ポリカーボネート樹脂製造排水の処理方法であって、
界面法ポリカーボネート樹脂製造プロセスから排出されフェノール性化合物類を含む排水から当該フェノール性化合物類を含む有機相と水相とを分離する水相分離工程と、
前記水相分離工程において有機相が分離された排水中に含まれるフェノール性化合物類の含有量が水酸基換算量で25重量ppmを超える場合に、当該排水中のフェノール性化合物類の含有量を水酸基換算量で25重量ppm以下になるように調整する排水調整工程と、
前記排水調整工程においてフェノール性化合物類の含有量が25重量ppm以下に調整された排水を、オゾン供給量2g/hr〜10g/hr、且つ、0.5時間〜5時間の条件でオゾン処理を行い、フェノール性化合物類の含有量が5重量ppm以下のオゾン処理水を得るオゾン処理工程と、を有する
ことを特徴とする界面法ポリカーボネート樹脂製造排水の処理方法。
【請求項2】
前記界面法ポリカーボネート樹脂製造プロセスは、
芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属化合物及び塩化カルボニル、又は芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ土類金属化合物及び塩化カルボニルを用いてカーボネートオリゴマーを合成するオリゴマー化工程と、
前記オリゴマー化工程において合成されたカーボネートオリゴマーの重縮合反応を行いポリカーボネート樹脂を含む重縮合反応液を得る重縮合工程と、
前記重縮合工程において得られた重縮合反応液を、アルカリ洗浄液によるアルカリ洗浄、酸洗浄液による酸洗浄及び洗浄水による水洗浄を行い、その後、ポリカーボネート樹脂を含む有機溶媒溶液相と水相とに分離する洗浄工程と、
前記洗浄工程を経て水相と分離された有機溶媒溶液相から、樹脂単離用貧溶媒を用いて当該有機溶媒溶液相に含まれるポリカーボネート樹脂を固形化する樹脂単離工程と、を少なくとも有し、
前記界面法ポリカーボネート樹脂製造プロセスから排出された排水をオゾン処理して得られたオゾン処理水の少なくとも一部を、当該界面法ポリカーボネート樹脂製造プロセスの前記洗浄工程における洗浄水として再使用することを特徴とする請求項1に記載の界面法ポリカーボネート樹脂製造排水の処理方法。
【請求項3】
前記オゾン処理水の少なくとも一部を前記樹脂単離工程の樹脂単離用貧溶媒として再使用することを特徴とする請求項2に記載の界面法ポリカーボネート樹脂製造排水の処理方法。
【請求項4】
前記水相分離工程において有機相が分離された排水中に含まれるフェノール性化合物類が、芳香族ジヒドロキシ化合物を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の界面法ポリカーボネート樹脂製造排水の処理方法。
【請求項5】
芳香族ジヒドロキシ化合物が、ビスフェノールA及び/又はテトラブロモビスフェノールAであることを特徴とする請求項4に記載の界面法ポリカーボネート樹脂製造排水の処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−249547(P2009−249547A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−100716(P2008−100716)
【出願日】平成20年4月8日(2008.4.8)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】