説明

界面活性剤

【課題】高い水分散能力、温和な条件下での水/超臨界二酸化炭素マイクロエマルション形成能力、早い水可溶化速度を達成でき、且つ、環境・生態への負荷が少ないマイクロエマルション用界面活性剤を提供する。
【解決手段】水/超臨界二酸化炭素マイクロエマルションを安定化するための下記式(1)で表される化合物からなる界面活性剤、並びにマイクロエマルション。


(式中、Rfは炭素原子数1乃至7のパーフルオロアルキル基を表し、Mは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、塩基性アミノ酸残基又は炭素原子数2若しくは3のヒドロキシアルキル基を有するアルカノールアミン残基又は脂肪族アルカノールアンモニウムを表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、界面活性剤に関するものであり、より詳しくは、水/超臨界二酸化炭素マイクロエマルションを安定化するための界面活性剤に関する。
【背景技術】
【0002】
超臨界二酸化炭素(以下、scCO2と表すこともある)とは、臨界温度(31.1℃
)・臨界圧力(73.8bar)以上で形成する二酸化炭素の流体であり、ヘキサン等の無極性溶媒と比較的類似した特性を持っていることから、scCO2は環境調和型代替溶
媒として期待されている。例えば、scCO2中に水(以下、Wとも表す)などがナノメ
ートルレベルの微細な滴として分散した、熱力学的に安定な水/超臨界二酸化炭素マイクロエマルション(以下、W/scCO2μEと表すこともある)は、ドライクリーニング
や金属イオン・たんぱく質などの有用成分の抽出、反応場としての利用による有機合成や微粒子合成など様々な分野への応用が期待されている。
【0003】
ところが、上記W/scCO2μEを形成するためには、scCO2中に溶解する界面活性剤が必要であり、これまでに様々な界面活性剤の検討が行われてきている。
例えば、炭化水素系界面活性剤の代表例としては、AOT(Aerosol−OT[登
録商標]:ビス−2−エチル−1−ヘキシルスルホコハク酸ナトリウム)が知られている
が、AOTはscCO2中に全く溶解しないか、あるいはマイクロエマルションを形成し
てもW0c(界面活性剤一分子あたりいくつの水分子を可溶化(分散)できるかを示す値)が最大で10以下(非特許文献1の第12頁第35行−第41行)であることから、W/scCO2μE用界面活性剤としては不向きとされている。
また、有効なW/scCO2μE用炭化水素系界面活性剤としては、W0cが20程度の
アルキル鎖の分岐が多いポリオキシエチレン系界面活性剤TMN−6(Tergitol[登録商標]:ポリエチレン グリコール トリメチルノニルエーテル)が知られている(非特許文献2の第112頁第19行−第29行、又は非特許文献3)。
しかし、炭化水素系界面活性剤である前記TMN−6は、W/scCO2μEの形成に
高い圧力(後述するフッ化炭素系界面活性剤より100気圧以上高い圧力を要する)が必要であり、W0c値を超える水が導入されると、形成していたW/scCO2μEでさえ安
定化できず、二相分離してしまうという欠点がある。
【0004】
一方、フッ化炭素系化合物は、scCO2に対して良く溶解することが知られている(
特許文献1)。
例えば、親CO2性のパーフルオロポリエーテル(PFPE)鎖を一本持った一鎖型の
カルボン酸アンモニウム塩のPFPECOONH4(非特許文献4)、かさ高い親CO2鎖を2本持った二鎖型フッ化炭素系界面活性剤として、フッ化炭素(パーフルオロアルキル)鎖と炭化水素鎖を有するハイブリッド界面活性剤F77(非特許文献5)、2本のフルオロオクチル鎖とAerosol−OTと類似の構造を有するdi-HCF4(非特許文献6、又は非特許文献7)がある。PFPECOONH4のW0c値は15程度、F77のW0c値は32程度、di-HCF4のW0c値は20程度であるが、W/scCO2μEを形成させる際、F77は常温常圧で容易に加水分解することや、di-HCF4では前述の炭化水素系界面活性剤と同程度の高圧力が必要という欠点がある。
【0005】
一方、炭素原子数が8であるパーフルオロアルキル鎖を疎水基に有するフッ化炭素系界面活性剤:8FS(EO)2(非特許文献8)のW0c値は32程度であり、類似の骨格を
有し、炭素原子数が8であるパーフルオロアルキル鎖を疎水基に有するフッ化炭素系界面活性剤:8FG(EO)2(非特許文献9)にいたっては、従来のW/scCO2μE用界
面活性剤において達成できていないW0cが70程度まで水を分散できる点が報告されている。
一方、炭素原子数が6であるパーフルオロアルキル鎖を疎水基に有するフッ化炭素系界面活性剤:6FS(EO)2では、W0c値は16程度であり、炭素原子数が8であるパー
フルオロアルキル鎖を有する8FS(EO)2のW0c値(32程度)から半減した値とな
り、そして、パーフルオロアルキル基の炭素原子数が少なくなるにつれてW0cの値が小さくなる、すなわち水分散能力が極端に低下する傾向が確認されている(非特許文献10)。
【化1】

【0006】
このように、界面活性剤1分子に対してより多くの、例えば60分子以上の水を分散さ
せる場合には、炭素原子数が8以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物が有効であると考えられる。
ただし、炭素原子数が8以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物は環境・生態への負荷が大きく、パーフルオロオクタン酸(PFOA)及びパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)規制により、その利用が制限されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上で述べたように、従来提案されている炭化水素系界面活性剤は、水への溶解度が高いもののCO2に対する親和性が低いため、多量の水を分散させる能力は持ち合わせず、
またW/scCO2μEを形成できる界面活性剤であっても、μE形成時に高い圧力を必
要とし、W0c値を超える水が導入されるとμEを安定に保つことができないという問題があった。
一方、炭素原子数が8以上のパーフルオロアルキル基を有するフッ化炭素系界面活性剤は、W/scCO2μE用界面活性剤として非常に有効であるが、PFOA及びPFOS
規制によりその利用が制限されるという問題があった。
【0008】
こうした問題に加え、界面活性剤/CO2溶液に水をナノ水滴として分散させるために
要する時間は、これら過去に開発された性能の高い界面活性剤であっても、水を混合後、少なくとも数十分程度の時間を要しており、W/scCO2μEを利用した流通式工業プ
ロセスにおいて数分程度でW/scCO2μEを形成できる有効な界面活性剤が報告され
ていないのが現状である。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、高い水分散能力、温和な条件下でのW/scCO2μE形成能力、早い水可溶化速度を達成でき、且つ、環境・生態へ
の負荷が少ない、W/scCO2μE用界面活性剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、炭素原子数が7以下のパーフルオロアルキル基を有する化合物が驚くことに高いW0c値を達成し、W/scCO2
μE用界面活性剤として有用であることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、第1観点として、水/超臨界二酸化炭素マイクロエマルションを安定化するための、下記式(1)で表される化合物からなる、界面活性剤に関する。
【化2】

(式中、Rfは炭素原子数1乃至7のパーフルオロアルキル基を表し、Mは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、塩基性アミノ酸残基又は炭素原子数2若しくは3のヒドロキシアルキル基を有するアルカノールアミン残基又は脂肪族アルカノールアンモニウムを表す。)
第2観点として、前記パーフルオロアルキル基の炭素原子数が1乃至6であることを特徴とする、第1観点に記載の界面活性剤に関する。
第3観点として、前記パーフルオロアルキル基の炭素原子数が4であることを特徴とする、第1観点に記載の界面活性剤に関する。
第4観点として、前記Mが、アルカリ金属であることを特徴とする、第1観点に記載の界面活性剤に関する。
第5観点として、第1観点乃至第4観点のうち何れか一項に記載の界面活性剤を含む水/超臨界二酸化炭素マイクロエマルションであって、前記界面活性剤の濃度が、前記超臨界二酸化炭素のモル量に対して10-10mol%乃至102mol%である、水/超臨界二酸化炭素マイクロエマルションに関する。
第6観点として、前記水の量(モル比(W0))が、温度75℃、圧力30MPaの条
件下において、前記界面活性剤1モルに対して0.001乃至1,000モルである、第5観点に記載の水/超臨界二酸化炭素マイクロエマルションに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の界面活性剤は、従来のW/scCO2μE用フッ化炭素系界面活性剤に比べて
、界面活性剤の水分散能力を著しく改善することができる。具体的には、本発明の界面活性剤は、疎水基であると共に親二酸化炭素性を示すパーフルオロアルキル基の炭素鎖長が短いにも関わらず、より長い鎖長のパーフルオロアルキル基を有するフッ化炭素系界面活性剤と同程度乃至それに匹敵する水分散能力を有する。特に、本発明の界面活性剤は、これまでに報告された中でも最高の水分散能力を示すパーフルオロオクチル基を有する8FG(EO)2と同程度の水分散能力を示すと共に、水を分散する速度が速く、W/scC
2μEの形成が従来の数十分程度から数秒乃至数十秒程度にまで短縮される。したがっ
て、本発明の界面活性剤は、W/scCO2μE用界面活性剤として好適に使用できると
同時に、W/scCO2μEを利用した流通式反応プロセスの開発において有利である。
また、本発明の界面活性剤は、パーフルオロアルキル基の炭素原子数が1〜7であり、環境・生態への悪影響から利用が制限される炭素原子数が8以上のパーフルオロアルキル基を使用しておらず、工業的にも好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施例2及び3並びに比較例2及び3で行う水/超臨界二酸化炭素/界面活性剤混合物の相挙動観察で使用する装置の概略を示す図である。
【図2】図2は、実施例2で得られた各W0での温度に対する相境界圧力の変化を示す図である。
【図3】図3は、実施例2で得られた水/超臨界二酸化炭素/4FG(EO)2混合物の相図であり、温度・二酸化炭素の密度に対するW0の関係ならびに水の溶解度曲線を示す図である。
【図4】図4は、比較例2で得られた水/超臨界二酸化炭素/8FG(EO)2混合物の相図であり、温度・二酸化炭素の密度に対するW0の関係ならびに水の溶解度曲線を示す図である。
【図5】図5は、実施例3で得られた4FG(EO)2が溶解した二酸化炭素中に水を添加し、透明な均一相が得られるまでの水/超臨界二酸化炭素/4FG(EO)2混合物の経過時間ごとの写真である。(W0=74)
【図6】図6は、実施例4で得られた各W0におけるUV−Vis吸収スペクトルを示す図である。(W0=95.2以下)図中の数字は各スペクトルのW0を示す。
【図7】図7は、実施例4で得られた各W0におけるUV−Vis吸収スペクトルを示す図である。(W0=95.2以上)図中の数字は各スペクトルのW0を示す。
【図8】図8は、実施例4で得られたW0に対するUV−Vis吸収スペクトルの430nmの吸光度変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
なお、本明細書において、W0cとは、界面活性剤一分子あたりいくつの水分子を可溶化(分散)できるかを示す値であって、具体的には、系内の水の総モル数から、二酸化炭素中に溶解する水のモル数を引いた値を、系内の界面活性剤の総モル数で割った値であり、これは、scCO2中での界面活性剤のマイクロエマルションを形成する能力(水を分散
させる能力)の指標となる。
【0014】
本発明は、下記式(1)で表されるパーフルオロアルキル基(フッ化炭素鎖)を有する化合物からなり、超臨界二酸化炭素中に水を分散させて水/超臨界二酸化炭素マイクロエマルションを形成し・安定化することができる、界面活性剤に関するものである。
【化3】

(式中、Rfは炭素原子数1乃至7のパーフルオロアルキル基を表し、Mは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、塩基性アミノ酸残基又は炭素原子数2若しくは3のヒドロキシアルキル基を有するアルカノールアミン残基又は脂肪族アルカノールアンモニウムを表す。)
【0015】
前記炭素原子数1乃至7のパーフルオロアルキル基としては、例えば、パーフルオロへプチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロメチル基、パーフルオロイソへプチル基、パーフルオロイソヘキシル基、パーフルオロイソペンチル基、パーフルオロイソブチル基、パーフルオロシクロへプチル基、パーフルオロシクロヘキシル基、パーフルオロシクロペンチル基、パーフルオロシクロブチル基等が挙げられる。その中でも、好ましいのは、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロメチル基、パーフルオロイソヘキシル基、パーフルオロイソペンチル基、パーフルオロイソブチル基、パーフルオロシクロヘキシル基、パーフルオロシクロペンチル基、パーフルオロシクロブチル基等の炭素原子数1乃至6のパーフルオロアルキル基である。さらに好ましいのは、パーフルオロブチル基、パーフルオロイソブチル基、パーフルオロシクロブチル基等の炭素原子数4のパーフルオロアルキル基である。
【0016】
前記アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム及びカリウム等が挙げられ、ナトリウム又はカリウムが好ましい。
【0017】
前記塩基性アミノ酸残基としては、例えば、アルギニン残基、リジン残基、ヒスチジン残基、オルニチン残基等が挙げられる。
【0018】
前記炭素原子数2若しくは3のヒドロキシアルキル基を有するアルカノールアミン残基としては、例えば、モノエタノールアミン残基、ジエタノールアミン残基、トリエタノールアミン残基等が挙げられる。
【0019】
脂肪族アルカノールアンモニウムとしては、例えば、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールや2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール等が挙げられる。
【0020】
次に本発明におけるパーフルオロアルキル基を有する化合物は、公知の方法により合成することができる。例えば、パーフルオロアルキルエタノールをトルエン溶媒中で、p−トルエンスルホン酸を触媒として、グルタコン酸と反応させ、その後、得られた生成物をジオキサン中で、亜硫酸水素ナトリウムと反応させることによる、2段階の工程を経て合成することができる。
【0021】
また本発明は、上記界面活性剤を含む水/超臨界二酸化炭素マイクロエマルションを対象とする。
水/超臨界二酸化炭素マイクロエマルションを形成するに際し、上記界面活性剤の濃度
は、超臨界二酸化炭素のモル量に対して通常10-10mol乃至102mol%、又は10-9乃至50mol%、又は10-8乃至10mol%である。上記界面活性剤の濃度の下限は、マイクロエマルションを形成できる最低限の濃度(cμcという)以上であれば良く、たとえば10-10mol%より低い濃度だと、水/超臨界二酸化炭素マイクロエマルシ
ョンを形成できない。一方、界面活性剤の濃度の上限は、液晶相を形成せずにマイクロエマルションを形成できる、又は二酸化炭素へ溶解できる上限の濃度以下であれば良く、たとえば102mol%より高い濃度だと液晶相を形成してしまう、又は二酸化炭素に溶解
できずに析出してしまう虞がある。
【0022】
また、水/超臨界二酸化炭素マイクロエマルションを形成するに際し、添加する水の量(水のモル比(W0))は、温度75℃、圧力30MPaの条件下において、前記界面活
性剤1モルに対して通常0.001乃至1,000モル、又は0.005乃至500モル、又は0.01乃至200モルである。
【0023】
W/scCO2μEにおいて、本発明の界面活性剤がなす作用機構、特に本発明の界面
活性剤がW/scCO2μEにおいて、疎水基であると共に親二酸化炭素性を示すパーフ
ルオロアルキル基の炭素原子数が小さいにも関わらず、より長い鎖長のパーフルオロアルキル基を有するフッ化炭素系界面活性剤と同程度乃至それに匹敵する水分散能力を有するものになる理由については完全には明らかではないが、以下のように推論される。
本発明の界面活性剤;すなわち炭素原子数1乃至7のパーフルオロアルキル基を有するスルホグルタレート化合物は、これまでに報告された中でも最高の水分散能力を示すパーフルオロオクチル基を有する8FG(EO)2と同様に逆コーン型の立体構造をとってい
る。すなわち、2本の疎水基(パーフルオロアルキル基)が親水基(スルホン酸基)を中心に開いており、これが逆ミセル構造のW/scCO2μEを安定化させていると考えら
れる。
また、パーフルオロオクチル基を有する8FG(EO)2の場合には、W/scCO2μEを形成できる上限の水の量を超えると界面活性剤の析出相(液晶相)が現れるが、パーフルオロアルキル基が短くなることでW/scCO2μE形成を妨げていた液晶相が不安
定化され、より水の量の割合が高い領域までW/scCO2μE状態が維持されるように
なったと考えられる。
そしてこうした効果は、パーフルオロアルキル基を有するスルホサクシネート化合物の界面活性剤である8FS(EO)2(W0c=32程度)で見られたようなパーフルオロア
ルキル基の炭素鎖長が短くなるにつれて、水分散能力が低下する(6FS(EO)2:W0c=16程度)という負の効果に対して、大きく勝っていたため、本発明におけるW/s
cCO2μE形成及び安定化という効果発現につながったと考えられる。
さらに、パーフルオロアルキル基の炭素鎖長が短くなったことで、水/超臨界二酸化炭素界面での界面活性剤の移動性や水相及びCO2相への分子溶解量のバランスが変化した
ことが考えられ、これにより水を分散させる速度が速くなり、W/scCO2μEの形成
に要する時間がパーフルオロオクチル基を有する8FG(EO)2の場合の数十分程度か
ら本発明の界面活性剤の場合には数秒乃至数十秒程度にまで短縮されるに至ったものと考えられる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0025】
[実施例1:フッ化炭素系界面活性剤 4FG(EO)2の調製]
<4FG(EO)2中間体(ビス(3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロ
ヘキシル)ペント−2−エンジオエート[Bis(3,3,4,4,5,5,6,6,6-nonafluorohexyl)pent-2-enedioate])の合成>
反応フラスコに3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキサノール(アヅマックス(株)製、純度97%)4.0g(16mmol)及びグルタコン酸(フルカ社製、純度97.0%)0.98g(7.5mmol)及びp−トルエンスルホン酸一水和物(和光純薬工業(株)製、純度99.0%)0.40g(2.1mmol)を仕込み、トルエン(和光純薬工業(株)製、純度99.5%)30mLを添加して内容物を溶解し、ディーン・スターク装置により、還流・脱水しながら110℃で50時間攪拌した。室温まで冷却した後、氷水で冷やしながら、この反応溶液に炭酸水素ナトリウム水溶液40mL(和光純薬工業(株)製の試薬粉末を水に溶解して調製:1.84mol/L)を添加し、そして25℃で10分間攪拌した。
その後、この反応溶液を分液ロートに移し、有機相としてトルエン(和光純薬工業(株)製、純度99.5%、10mL)を添加し、有機相を分取した。次に、pH試験紙を用いて水相がアルカリ性であることを確認した後、脱水のため硫酸カルシウム(W.A.HAMMOND DRIERITE社製、DRIERITE[登録商標](ドライアライト)、10−20mesh)を有機相に添加し、その後硫酸カルシウムを濾過により除去した。得られた濾液を40℃で減圧濃縮した。そして、80℃で真空乾燥させたシリカゲル(関東化学(株)製、シリカゲル60(球状)、粒径63−210μm)及び硫酸カルシウムであらかじめ脱水した展開溶媒(ジクロロメタン(和光純薬工業(株)製)、純度99.5%)を用いてカラムクロマトグラフィーを行い、下記式[A]で表される目的の4FG(EO)2中間体(ビス(3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシル
)ペント−2−エンジオエート)3.4gを得た(収率:75%)。
【化4】

【0026】
<フッ化炭素系界面活性剤:4FG(EO)2(1,5−ビス((3,3,4,4,5,
5,6,6,6−ノナフルオロヘキシル)オキシ)−1,5−ジオキサペンタン−2−スルホン酸ナトリウム[Sodium 1,5-bis((3,3,4,4,5,5,6,6,6-nonafluorohexyl)oxy)-1,5-dioxopentane-2-sulfonate])の合成>)
反応フラスコに先に合成した式[A]で表される4FG(EO)2中間体2.2g(3
.5mmol)、及び、亜硫酸水素ナトリウム(和光純薬工業(株)製、純度64.0〜67.4%)2.1gを水10mLに溶解させた亜硫酸水素ナトリウム水溶液を仕込み、1,4−ジオキサン(和光純薬工業(株)製、純度>99.9%)20mLを添加して100℃で48時間攪拌した。この反応溶液を減圧濃縮し、析出した固体を真空乾燥させた。この固体を、あらかじめ硫酸カルシウム(W.A.HAMMOND DRIERITE社製、DRIERITE[登録商標](ドライアライト)、10−20mesh)で脱水したアセトン(和光純薬工業(株)製、純度99.5%)を用いてソックスレー抽出し、精製した。得られた固体を真空乾燥させた後、ジクロロメタン(和光純薬工業(株)製)、純度99.5%)に添加し、粒子を細かく砕きながら撹拌し、濾過するという操作を数回繰り返し、真空乾燥して目的物である下記式[B]で表されるフッ化炭素系界面活性剤:4FG(EO)2(1,5−ビス((3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオ
ロヘキシル)オキシ)−1,5−ジオキサペンタン−2−スルホン酸ナトリウム)0.69gを得た(収率:28%)。
【化5】

【0027】
[比較例1:フッ化炭素系界面活性剤 8FG(EO)2の調製]
<8FG(EO)2中間体
(ビス(1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシル)ペント−2−エンジオエート[Bis(1H,1H,2H,2H-perfuluorodecyl)pent-2-enedioate])の合成>
比較例として、前記非特許文献9に従い、炭素原子数が8であるパーフルオロアルキル基を有するフッ化炭素系界面活性剤:8FG(EO)2を合成した。
反応フラスコに1H,1H,2H,2H−パーフルオロデカノール(アヅマックス(株)製、純度97%)30.0g(65mmol)及びグルタコン酸(フルカ社製、純度97.0%)4.3g(34mmol)及びp−トルエンスルホン酸一水和物(和光純薬工業(株)製、純度99.0%)1.2g(6.3mmol)を仕込み、トルエン(和光純薬工業(株)製、純度99.5%)120mLを添加して内容物を溶解し、ディーン・スターク装置により、還流・脱水しながら115℃で24時間攪拌した。室温まで冷却した後、氷水で冷やしながら、この反応溶液に炭酸水素ナトリウム水溶液40mL(和光純薬工業(株)製の試薬粉末を水に溶解して調製:1.84mol/L)を添加し、そして25℃で10分間攪拌した。
その後、この反応溶液を分液ロートに移し、有機相を分取した。次に、pH試験紙を用いて水相がアルカリ性であることを確認した後、脱水のため硫酸カルシウム(W.A.HAMMOND DRIERITE社製、DRIERITE[登録商標](ドライアライト)、10−20mesh)を有機相に添加し、その後硫酸カルシウムを濾過により除去した。得られた濾液を40℃で減圧濃縮した。そして、減圧蒸留(140℃、<1Torr)により未反応のアルコールを留去し、残った固体をエタノールにより再結晶することで、下記式[C]で表される8FG(EO)2中間体(ビス(1H,1H,2H,2H−パ
ーフルオロデシル)ペント−2−エンジオエート)20.6gを得た(収率:60.9%)。
【化6】

【0028】
<フッ化炭素系界面活性剤:8FG(EO)2(1,5−ビス((1H,1H,2H,2
H−パーフルオロデシル)オキシ)−1,5−ジオキサペンタン−2−硫酸ナトリウム[Sodium 1,5-bis((1H,1H,2H,2H-perfuluorodecyl)oxy)-1,5-dioxopentane-2-sulfonate]の
合成>
反応フラスコに先に合成した式[C]で表される8FG(EO)2中間体20.6g(
20mmol)及び亜硫酸水素ナトリウム(和光純薬工業(株)製、純度64.0〜67.4%)6.5gを水110mLに溶解させた亜硫酸水素ナトリウム水溶液を仕込み、1,4−ジオキサン(和光純薬工業(株)製、純度>99.9%)265mLを添加して100℃で120時間攪拌した。この反応溶液をろ過し、得られた固体を1,4−ジオキサンにより洗浄した。この固体を、あらかじめ硫酸カルシウム(W.A.HAMMOND
DRIERITE社製、DRIERITE[登録商標](ドライアライト)、10−20mesh)で脱水したアセトン(和光純薬工業(株)製、純度99.5%)を用いてソッ
クスレー抽出し、精製した。アセトンを留去して得られた固体を真空乾燥させた後、ジクロロメタン(和光純薬工業(株)製、純度99.5%)及びトルエン(和光純薬工業(株)製、純度99.5%)により洗浄し、再度真空乾燥することで目的物である下記式[D]で表されるフッ化炭素系界面活性剤:8FG(EO)2(1,5−ビス((1H,1H
,2H,2H−パーフルオロデシル)オキシ)−1,5−ジオキサペンタン−2−硫酸ナトリウム)5.3gを得た(収率:23.3%)。
【化7】

【0029】
[実施例2]
<水/超臨界二酸化炭素/4FG(EO)2混合物の相挙動観察−1>
内部が見えるような窓を備えた容積可変型耐圧セル(多摩精器工業(株)製、内径:24mm)を図1に示すように装置を組み立て、水/超臨界二酸化炭素/4FG(EO)2
混合物の相挙動観察を行った。
容積可変型耐圧セル内のピストン前部(窓側)に実施例1で得られたフッ化炭素系界面活性剤:4FG(EO)2を264mg(0.364mmol)仕込み、密閉した後に容
積可変型耐圧セル内を真空ポンプを用いて乾燥した。温度を35℃に設定し、容積可変型耐圧セルのピストン前部に二酸化炭素(日本液炭(株)製、純度99.99%以上)20
g(4FG(EO)2濃度(対二酸化炭素):0.08mol%)を圧入した。温度を75℃まで上げた後、容積可変型耐圧セルのピストン後部の圧力を34.3MPa(350kgf/cm2)まで上げ、一晩撹拌することでフッ化炭素系界面活性剤:4FG(EO)2を二酸化炭素中に溶解させ、透明な均一相が得られるのを目視で確認した。なお、以降に示す耐圧セル内の圧力は容積可変型耐圧セルのピストン後部の二酸化炭素を昇圧・減圧することで調節されるものである。
次にこの均一相の状態から、耐圧セル内の圧力を徐々に低下させ、容積可変型耐圧セル内が曇り始める(界面活性剤が析出し始め、不均一相となる)圧力(以降では相境界圧力と表記)を、75℃から35℃まで10℃間隔で測定(目視で確認)した。なお、この状態の相境界圧力は二酸化炭素中に0.08mol%の4FG(EO)2が溶解できる限界
の圧力を示す。
そして、35℃までの相境界圧力を測定した後、6ポートバルブを使用して容積可変型耐圧セル内に水を60μL導入し、透明な均一相が得られるまで75℃、34.3MPa(350kgf/cm2)で撹拌を行った。
【0030】
透明な均一相が得られたのを目視で確認後、再度容積可変型耐圧セル内の圧力を徐々に低下させ、相境界圧力を測定(75℃から35℃まで10℃間隔)した後、セル内に水を60μL導入するという上記と同様な操作を繰り返し行った。この操作を75℃、34.3MPa(350kgf/cm2)で均一相が形成されなくなるまで行うことで相境界圧
力のデータを収集した。なお均一相は二酸化炭素中に溶解しないはずの量の水が存在する場合は、マイクロエマルション相であり、圧力低下により現れる白濁相はマクロエマルション相であり、相境界圧力はこれらの相の境界の圧力を表す。
(測定)系内に存在する界面活性剤(4FG(EO)2)1モルに対する水のモル比を
0とし、各W0における相境界圧力と温度の関係を表1および図2に示す。なお、W0
91.7より大きい条件下では、35〜75℃の温度範囲、40MPa以下の圧力範囲で
はマイクロエマルション相の形成は確認されず、水相が分離した析出相のみが現れた。
また、水/超臨界二酸化炭素/4FG(EO)2混合物の相図として、温度・二酸化炭
素の密度に対するW0の関係を図3に示す。なお図3には各二酸化炭素密度における水の
溶解度曲線も合わせて示す。また、図中に表記されるμEはマイクロエマルションを意味し、μEで表記される領域ではマイクロエマルションの形成が確認され、それ以外のEで表記される領域ではマクロエマルション相・水相が析出した析出相が形成された。
【0031】
【表1】

【0032】
[比較例2]
<水/超臨界二酸化炭素/8FG(EO)2混合物の相挙動観察−1>
用いるフッ化炭素系界面活性剤を比較例1で合成した8FG(EO)2とした以外は、
実施例2に記載の方法で水/超臨界二酸化炭素/8FG(EO)2混合物の相挙動観察を
行った。図4に、水/超臨界二酸化炭素/8FG(EO)2混合物の相図として、温度・
二酸化炭素の密度に対するW0の関係を示す。なお図4には各二酸化炭素密度における水
の溶解度曲線も合わせて示す。
【0033】
表1に示すように、40MPa以下の圧力範囲において、実施例1で調製した4FG(EO)2は35℃でW0=91.7(20.5MPa)、45℃でW0=91.7(23.
5MPa)、55℃でW0=91.7(26.8MPa)、65℃でW0=91.7(29.7MPa)、75℃でW0=82.5(32.2MPa)と高度にマイクロエマルショ
ンを形成可能であった。
超臨界二酸化炭素中での界面活性剤のマイクロエマルション形成能力は、W0から二酸
化炭素に溶解する水の量を差し引いたW0cで表記され、W0から差し引く値は通常〜15
程度であるため、本発明のフッ化炭素系界面活性剤:4FG(EO)2のマイクロエマル
ション形成能はW0c=75程度となり、公知の炭化水素系界面活性剤であるTMN−6(W0c=20程度)と比較してマイクロエマルション形成能力が非常に高い結果となった。
また、これまでに報告されている中でも最も高い水分散能力(マイクロエマルション形成能)を有するとされる炭素原子数が8のパーフルオロアルキル鎖を疎水基にもつフッ化炭素系界面活性剤:8FG(EO)2(W0c=70程度)と比較すると、本発明の界面活
性剤におけるパーフルオロアルキル基の炭素原子数は短いことから、従来の技術常識では水分散能力の低下が予想されるものの、実際にはこれと匹敵する水分散能力を有するという結果が得られた。
さらに図3に示す水/超臨界二酸化炭素/4FG(EO)2混合物の相図を参照すると
、W0が高い領域まで、更に幅広い領域にわたってマイクロエマルション相の形成が確認
された。これは、前記炭化水素系界面活性剤(TMN−6)より高く、これまでに最高の値が報告され、比較例として示したフッ化炭素系界面活性剤:8FG(EO)2(図4)
に匹敵する幅広い領域におけるマイクロエマルション形成能を有するという結果となった。
【0034】
[実施例3]
<水/超臨界二酸化炭素/4FG(EO)2混合物の相挙動観察−2>
実施例2と同様に、図1のように組み立てた装置を用いて水/超臨界二酸化炭素/4FG(EO)2混合物の相挙動観察を行った。なお、本系では一定条件下で水を添加した際
に、均一な一液相が形成される時間を目視で確認することで水/超臨界二酸化炭素マイクロエマルション形成速度を評価した。
容積可変型耐圧セル内のピストン前部(窓側)に実施例1で得られたフッ化炭素系界面活性剤:4FG(EO)2を264mg(0.364mmol)仕込み、密閉した後に容
積可変型耐圧セル内を真空ポンプを用いて乾燥した。温度を35℃に設定し、容積可変型耐圧セルのピストン前部に二酸化炭素(日本液炭(株)製、純度99.99%以上)20
g(4FG(EO)2濃度(対二酸化炭素):0.08mol%)を圧入した。温度を75
℃まで上げた後、容積可変型耐圧セルのピストン後部の圧力を34.3MPa(350kgf/cm2)まで上げ、一晩撹拌することで4FG(EO)2を二酸化炭素中に溶解させ、透明な均一相が得られるのを目視で確認した。この均一相の状態から、6ポートバルブを使用して耐圧セル内に水を60μL導入し、75℃、34.3MPa(350kgf/cm2)で撹拌を行いながら、透明な均一相が得られる様子を経時で観察した。均一相の
形成が確認された後、6ポートバルブを使用して再度耐圧セル内に水を60μL導入し、75℃、34.3MPa(350kgf/cm2)で撹拌を行いながら、透明な均一相が
得られる様子を経時で観察するという操作を繰り返し行い、水/超臨界二酸化炭素マイクロエマルション形成速度を評価した。
【0035】
[比較例3]
<水/超臨界二酸化炭素/8FG(EO)2混合物の相挙動観察−1>
用いるフッ化炭素系界面活性剤を比較例1で合成した8FG(EO)2とする以外は、
実施例3に記載の方法で水/超臨界二酸化炭素/8FG(EO)2混合物の相挙動観察を
行い、水/超臨界二酸化炭素マイクロエマルション形成速度を評価した。
【0036】
図5に、耐圧セル内に水を添加し、透明な均一相が得られるまでの水/超臨界二酸化炭素/4FG(EO)2混合物の経過時間ごとの写真(W0=74)を示す。本発明のフッ化炭素系界面活性剤:4FG(EO)2を用いた場合では、水を添加した直後は、不均一相
が形成されるため耐圧セル内が曇る様子が観察されたが、5〜6秒程度で耐圧セル内の曇りが解消され、透明な均一相となり、マイクロエマルションが形成されることが観察された。また、このように系内に水を添加した後、透明で均一なマイクロエマルションが素早く形成される挙動は、水の添加量が増加しても観察され、W0=74以下であれば、系内
へ水を添加して数〜10秒後にマイクロエマルションが形成されることが観察された。
通常、例えば前記炭化水素系界面活性剤(TMN−6)を使用した場合、界面活性剤が溶解した二酸化炭素中に水を添加してから完全に水が分散(可溶化)されて透明な均一相が形成されるまで、少なくとも数10分程度を要する。実際、比較例3において、炭素原子数が8のパーフルオロアルキル鎖を疎水基にもつフッ化炭素系界面活性剤:8FG(EO)2の場合には、界面活性剤が溶解した二酸化炭素中に水を添加して数10分後に、は
じめて水が完全に分散・可溶化された透明な均一相の形成が確認された。
すなわち、本発明のフッ化炭素系界面活性剤:4FG(EO)2を用いた場合、数〜1
0秒程度で透明な均一相が形成され、マイクロエマルション形成速度が非常に速いという特徴が確認された。
このような特徴は、本発明のフッ化炭素系界面活性剤:4FG(EO)2のW/scC
2界面への吸着力の強さ、及び界面張力低下能力の高さに起因すると推測される。また
、このような特徴は、W/scCO2μEを利用した流通式反応プロセスの開発において
有利である。
【0037】
[実施例4]
<水/超臨界二酸化炭素/4FG(EO)2混合物の相挙動観察−3>
分光光度計を用いて水/超臨界二酸化炭素/4FG(EO)2混合物の相挙動観察を行
った。なお、本系ではマーカーとしてメチルオレンジを用いた。
2枚の石英窓を有する透過型耐圧分光セル((有)エルテックス製、光路長10mm、内容積1.6ml)に、実施例1で得られたフッ化炭素系界面活性剤:4FG(EO)2
を17mg封入した後、75℃条件下において、35MPaに至るまで二酸化炭素(日本液炭(株)製、純度99.99%以上)を圧入し、0.085mol%の4FG(EO)2/超臨界二酸化炭素溶液を調製した。その後、同温度、同圧力条件のまま、マーカー水
溶液として0.1wt%のメチルオレンジ水溶液(メチルオレンジ(粉状、Aldrich製)を所定量の水に溶解することで調製)を6ポートバルブを使用して系内に40μL導入し、撹拌した。透明な均一相が形成されたのを確認したところで、各W0におけるU
V−vis吸収スペクトルを分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ製、U−2810)により測定した。40μLのメチルオレンジ水溶液の添加・撹拌、UV−Vis吸収スペクトルの測定を繰り返し行うことで、W0=190.4までのデータを収集した。
【0038】
図6及び図7に各W0におけるUV−Vis吸収スペクトルを示す(図6:W0=95.2以下、図7:W0=95.2以上)。メチルオレンジ水溶液を導入する前(W0=0)では、370〜500nmの範囲に吸収ピークは確認されないが、メチルオレンジ水溶液の導入に伴いメチルオレンジに起因する吸収が現れ、その吸光度はW0=80程度まで増大
し続けた(図6)。一方でW0=95.2〜154.7の範囲では吸光度の変化はほとん
どなく、W0=154.7以上では吸光度が少しずつ低下する傾向が見られた(図7)。
なお測定した各W0においては透明な均一相であることが確認され、目視では析出物は観
察されなかった。
図8には、W0に対するUV−Vis吸収スペクトルの430nmの吸光度変化を示す
。前述したように、W0=80.5まではW0に比例した吸光度の増加が見られ、添加したマーカーのメチルオレンジ水溶液はマイクロエマルション内部に取り込まれ、二酸化炭素中に分散していることが確認された。
一方、W0=80.5〜150では吸光度変化がほとんど観察されないと共に、W0=150以上では、吸光度の緩やかな減少が見られた。これは目視で明確に析出物が観察されなかったことからWinsor−II型マイクロエマルション相の形成が起こっているものと考えられる。なお、Winsor−II型マイクロエマルション相とは、マイクロエマルション相に取り込まれなかった(分散されなかった)過剰の水が、マイクロエマルションから分離している相のことである。
以上の結果から、フッ化炭素系界面活性剤:4FG(EO)2により、W0=80.5程度(W0c=65程度)の水を確実にマイクロエマルションとして分散できることが、本試験結果からも明らかになった。
なお本試験結果は実施例2での結果(75℃でW0=82.5℃(32.2MPa))
に比べて、多少低い水分散能力(マイクロエマルション形成能力)を示す結果となったが、これはマーカーとして用いたメチルオレンジの存在が影響しているものと推測され、メチルオレンジによりW/scCO2マイクロエマルションが不安定化されていると考えら
れる。したがって、実施例2のように純水を用いた場合には、より高いW0(W0c)まで
マイクロエマルションを形成していると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の界面活性剤により形成された水/超臨界二酸化炭素マイクロエマルションは、微粒子やナノカプセルの合成、ドライクリーニング、金属イオン・たんぱく質など有用性物質の抽出など、さまざまな分野への応用が期待されている。したがって、本発明の界面活性剤は工業的に非常に有利なものである。
【符号の説明】
【0040】
1:パーソナルコンピュータ
2:CCDカメラ
3:分光光度計
4:ポンプ
5:6−ポートバルブ+25μLサンプルループ
6:容積可変型耐圧セル
7:窓
8:撹拌子
9:可動ピストン
10:圧力計
11:スクリューボンベ
12:CO2ボンベ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0041】
【特許文献1】特開2004−315675号公報
【非特許文献】
【0042】
【非特許文献1】表面,2002,Vol.40,No.10,9−23
【非特許文献2】阿尻雅文監修,“超臨界流体とナノテクノロジー”,シーエムシー出版,2004年8月出版,第3章5節マイクロエマルションとナノマテリアル
【非特許文献3】Ind.Eng.Chem.Res.,2003,Vol.42,6348−6358
【非特許文献4】Langmuir,1999,15,6613−6615
【非特許文献5】Langmuir,1994,10,3536−3541
【非特許文献6】Langmuir,1997,13,6980−6984
【非特許文献7】Langmuir,2001,17,274−277
【非特許文献8】Langmuir,2003,19,220−225
【非特許文献9】J.Supercrit.Fluids,2010,53,131−136
【非特許文献10】オレオサイエンス,2010,Vol.10,No.5,167−177

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水/超臨界二酸化炭素マイクロエマルションを安定化するための、下記式(1)で表される化合物からなる、界面活性剤。
【化1】

(式中、Rfは炭素原子数1乃至7のパーフルオロアルキル基を表し、Mは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、塩基性アミノ酸残基又は炭素原子数2若しくは3のヒドロキシアルキル基を有するアルカノールアミン残基又は脂肪族アルカノールアンモニウムを表す。)
【請求項2】
前記パーフルオロアルキル基の炭素原子数が1乃至6であることを特徴とする、請求項1記載の界面活性剤。
【請求項3】
前記パーフルオロアルキル基の炭素原子数が4であることを特徴とする、請求項1記載の界面活性剤。
【請求項4】
前記Mが、アルカリ金属であることを特徴とする、請求項1記載の界面活性剤。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のうち何れか一項に記載の界面活性剤を含む水/超臨界二酸化炭素マイクロエマルションであって、
前記界面活性剤の濃度が、前記超臨界二酸化炭素のモル量に対して10-10mol%乃至
102mol%である、水/超臨界二酸化炭素マイクロエマルション。
【請求項6】
前記水の量(モル比(W0))が、温度75℃、圧力30MPaの条件下において、前記
界面活性剤1モルに対して0.001乃至1,000モルである、請求項5記載の水/超臨界二酸化炭素マイクロエマルション。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−50933(P2012−50933A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195750(P2010−195750)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 物質創成化学科・物質理工学科、「2009年度 物質創成化学科・物質理工学科 卒業研究発表会要旨集」、第27頁、2010年3月3日
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】