説明

畝を有する織物、及び該織物からなる中東民族衣装

【課題】優れた形態安定性を有し、蒸れ感や静電気の発生が少なく、表面がソフトで清涼感に優れ、高級感のある光沢と鮮明な発色性を呈し、着用したときのズレ落ちのない畝を有する織物及びその織物からなる中東民族衣装を提供する。
【解決手段】経糸に好ましくは水分率が2〜8%のセルロース系フィラメント糸、より好ましくは、セルロースアセテートフィラメント糸を用い、たて畝織と梨地織の組合せの組織で、畝を有する織物を構成したもので、畝自体のソフトな風合い、光沢、発色性とともに、畝の凹凸効果により、ズレが生じ難いものであり、中東民族衣装用として好適なるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畝を有する織物に係わり、さらに詳しくは快適な着用感と高級感に富み、着用したときのズレ落ちのない畝を有する織物、及び該織物からなる中東民族衣装に関する。
【背景技術】
【0002】
女性用中東民族衣装として、身体を覆うように着用するアバヤや、身体に巻き付けて着用するチャドールが知られており、従来よりこれらの衣装には、パレス、サテン或いはドビー、平二重、経二重等の組織の織物が用いられている。そして、高温である中東地方の気候に対応するため、着用時の蒸れ感を伴わないさらっとした感触の素材が求められており、高吸放湿性有機微粒子を付与した吸放湿性布帛からなるチャドールが検討されている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、この吸放湿性布帛からなるチャドールも、従来のチャドールと同様に平織組織の織物が用いられており、着用方法がゆったりとしているため、着用中にズレ落ち易いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−38375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、優れた形態安定性を有し、ムレ感や静電気の発生が少なく、表面がソフトで清涼感に優れ、高級感のある光沢と鮮明な発色性を呈し、しかも着用したときのズレ落ちのない畝を有する織物及びその織物からなる中東民族衣装を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨は、身体に巻きつけて着用する、織物組織の50〜100面積%が畝織である畝を有する織物、及びこの畝を有する織物からなる中東民族衣装、にある。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、形態安定性を有し、蒸れ感や静電気の発生が少なく、ソフトな風合いで清涼感に優れ、高級感のある光沢と鮮明な発色性を呈し、しかも着用したときのズレ落ちがし難い畝を有する織物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の畝を有する織物は、織物組織の50面積%以上が畝織である織物であることが好ましい。畝織が50面積%未満になると、畝が少なくなるため着用したときにズレ落ち易いものとなる。なお、畝織とは、平織組織から誘導された変化組織の一つで、平織の組織点をたて又はよこの方向に拡大して、たて又はよこの方向に畝をつくったものである。畝がよこの方向に生じたものをたて畝織、たての方向に生じたものをよこ畝織という。
【0009】
本発明の畝を有する織物は、よこ方向に畝を有する織物であっても、たて方向に畝を有する織物であってもよいが、よこ方向に畝を有する織物の方が織物の生産性にとって好ましい。本発明の畝を有する織物は、たて畝織のみの組織からなっていてもよいが、織物の目付を少なくして織物を軽量にし得ることから、たて畝織と梨地織の組み合わせの組織からなることが好ましい。
【0010】
たて畝織、梨地織の組織は特に限定するものではないが、たて畝織は、スナッグやスリップ等物性の面から、4本たて畝以下の組織であることが好ましく、また、梨地織は、特に限定はないが、目付が少なく、風合いやドレープ性の面から、梨地織に一般に用いられているたて120本及びよこ120本前後の組織等が用いられる。たて畝織組織と梨地織組織の配列は、ランダムでもまた規則的であってもよいが、適度に分散されていることが好ましく、さらに、たて畝織組織が全体の40〜80%、より好ましくは50〜70%含まれることが好ましい。
【0011】
また、意匠性を高めるために、ドビー機構やジャガード機構を有した織機によって、織物に種々のドビー柄、ジャガード柄を配してもよい。
なお、本発明における織物組織の呼び方は、石川県織物構造改善組合が平成9年1月発行の「織物組織の手引き(応用編)」に拠るものであり、「たて畝織」については、経糸の浮き数で、2本たて畝、3本たて畝、4本たて畝等を表現し、それぞれの織を2本たて畝織、3本たて畝織、4本たて畝織等という。また「梨地織」とは、織物の表面が梨の表皮のように細かいシボ風の凹凸がある織物で、多くの織組織があり、例えば8枚朱子を基礎としたもの、1/3破斜紋と6枚朱子を組み合わせたもの等があるが、織組織について特に制限はない。
【0012】
本発明の畝を有する織物は、畝と直角方向の糸として、水分率が2〜8%、好ましくは3〜7のセルロース系フィラメント糸を用いることが、着用時の蒸れ感、形態安定性にとって好ましい。
【0013】
水分率(R)は、試料約20gを採り、その標準状態の質量及び絶乾質量を量り、次の式によって算出し、2回の平均値を、JIS Z8401によって、小数点以下1桁にして得られる。
R(%)=[(m−m’)/m’]×100
m :試料の標準状態の質量(g)
m’:試料の絶乾質量(g)
なお、標準状態の質量は、予備乾燥(試料を相対湿度10〜25%、温度50℃を超えない環境で恒量にすること)した後、標準状態(温度20±2℃、相対湿度65±4%)の試験室に放置し、恒量になった状態の質量である。また、絶乾質量は、試料を温度105±2℃の熱風乾燥機中に放置して恒量になった状態の質量である。
【0014】
水分率が2〜8%のセルロース系フィラメント糸は、セルロースを基本ポリマーとした繊維、即ちセルロース或いはその誘導体を原料とした再生繊維或いは半合成繊維からなるフィラメント糸であって、水分率が2〜8%のフィラメント糸であれば、その繊維の製造方法、種類、単繊維繊度、繊維断面形状等には特に限定はないが、染色したときの鮮明性、発色性、光沢、清涼感、セット性等の点から、セルロースアセテート繊維からなるフィラメント糸が好ましいものとして挙げられ、より具体的には水分率3.5%のセルローストリアセテート繊維、水分率6.5%のセルロースジアセテート繊維からなるフィラメント糸が挙げられる。
【0015】
本発明の畝を有する織物は、畝の方向の動摩擦係数が0.22〜0.32で、かつ畝と直角方向の動摩擦係数が0.17〜0.22であることが好ましい。畝の方向の動摩擦係数が0.22未満であったり、畝と直角方向の動摩擦係数が0.17未満であったりすると、着用したときにズレ落ちやすいものとなる。畝の方向の動摩擦係数が0.32を超えたり、かつ畝と直角方向の動摩擦係数が0.22を超えたりすると、摩擦抵抗が高くなりすぎ、肌触り感が悪くなる。
【0016】
本発明の畝を有する織物は、畝と直角方向の糸の繊度は、畝方向の糸の繊度より小さく、かつ、布強度、着用感の点から、好ましくは56〜133dtex、より好ましくは84〜110dtexである。本発明の畝を有する織物における畝方向の糸としては、繊維の種類、形態、水分率等に特に限定はないが、ポリエステルフィラメント仮撚加工糸とセルロースアセテート系フィラメント糸との仮撚加工糸での加撚方向とは逆方向に撚った合撚糸が、仮撚加工糸の解撚トルクによる膨らみ感の発生、両糸間の収縮差による合撚糸表面へのセルロースアセテート系フィラメント糸の顕出の点から、好ましく用いられる。
【0017】
本発明の畝を有する織物の用途については、特に限定するものではないが、その爽やかな清涼感、優美な発色性より、アバヤ、チャドール、パンジャビ等の民族衣装に好ましく用いられ、なかでも中東地域の民族衣装であるアバヤやチャドールには、着衣時のズレ落ちが殆どなく、爽やかな蝕感、優雅な発色性により、好ましく用いられる。
【0018】
本発明の畝を有する織物からなる中東民族衣装を、着衣する際にズレ落ちが殆どない理由については、本発明の織物は、織物表面で畝と直角方向に糸が比較的大きく浮いており、インナー表面の糸と引っ掛かりやすいこと、及び織物表面の畝の凹凸が大きいこと、即ちインナーとの接触面積が大きいことにより、インナーとの摩擦抵抗が高くなるためと推察される。
【0019】
本発明の畝を有する織物の製織方法、使用する織機についても、特に限定はなく、例えば、ウォータージェットによる製織によって生産コストでも有利に本発明の畝を有する織物を得ることができる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、実施例において、着衣時のズレ落ちにくさを示す尺度の一つとして動摩擦係数を、カートテック社製摩擦感テスターKES−SEを用い、以下の手順に従って測定した。
(1)長さ10cm、幅3cmの試料を採り平滑な金属面上に載せる。
(2)直径0.5mmのピアノ線を20本重ねた接触子(たて10mm、よこ10mm)で、ピアノ線と測定経糸方向が垂直になるように、接触面を50gfの力で試料に圧着させる。
(3)接触子を0.1cm/秒の一定速度で測定経糸方向に2.8cm移動させ、接触子と試料間の動摩擦係数を測定する。
【0021】
(実施例1)
経糸として、水分率3.5%のセルローストリアセテートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、ブライト84dtex/20フィラメント(f))を無撚りでサイジングしたものを用いた。緯糸として、ポリエチレンテレフタレートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、三角断面セミダル56dtex/36f)の仮撚加工糸1本と水分率3.5%のセルローストリアセテートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、ブライト84dtex/20f)1本とを仮撚加工糸での加撚方向とは逆方向に1800回/mの撚りを加えS撚りとZ撚りの合撚糸をそれぞれ作成した。製織にはウォータージェット織機を用い、緯糸としてS撚り合撚糸とZ撚り合撚糸を2本交互に打ち込み、組織は2本たて畝のたて畝織と経62本、緯40本の梨地織を使用し、たて畝織と梨地織を2:1で繰り返す配列の組織にて製織した。
【0022】
得られた生機を常法により精錬、黒色分散染料による染色加工、仕上加工を行い、経糸密度195本/吋、緯糸密度88本/吋に仕上げた。得られたよこ方向の畝を有する織物は、ソフトな風合いで膨らみ感があり、セルローストリアセテートフィラメント糸に由来する爽やかな感触のものであり、また優雅な光沢と深みのある発色性に優れた黒が得られ、ドレープ性にも優れた高級感のあるものであり、さらに洗濯収縮がなく形態安定性に優れるものであった。また、織物のたて方向の動摩擦係数は0.194であり、よこ方向の動摩擦係数は0.273であった。この織物を用いた中東地域での民族衣装のアバヤは、サテンやパレスの組織の織物を用いたアバヤに比べ、着用したときのズレ落ちのないものであった。
【0023】
(実施例2)
経糸として、水分率3.5%のセルローストリアセテートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、ブライト61dtex/15f)を無撚りでサイジングしたものを用いた。緯糸として、ポリエチレンテレフタレートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、丸角断面セミダル33dtex/24f)の仮撚加工糸1本と水分率3.5%のセルローストリアセテートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、ブライト61dtex/15f)1本とを仮撚加工糸での加撚方向とは逆方向に2200回/mの撚りを加えS撚りとZ撚りの合撚糸をそれぞれ作成した。製織にはウォータージェット織機を用い、緯糸としてS撚り合撚糸とZ撚り合撚糸を2本交互に打ち込み、組織は2本たて畝のたて畝織と経62本、緯40本の梨地織を使用し、たて畝織と梨地織を2:1で繰り返す配列の組織にて製織した。
【0024】
得られた生機を実施例1におけると同様に、精練、黒色分散染料による染色加工、仕上加工を行い、経糸密度230本/吋、緯糸密度110本/吋に仕上げた。得られたよこ方向の畝を有する織物は、ソフトな風合いで膨らみ感があり、実施例1で得た織物に比べ、構成糸の繊度を細くした効果により、軽量となり、よこ方向の畝間隔が細く、セルローストリアセテートフィラメント糸に由来する爽やかな感触のものであり、また優雅な光沢と深みのある発色性に優れた黒が得られ、ドレープ性にも優れた高級感のあるものであり、さらに洗濯収縮がなく形態安定性に優れるものであった。また、織物のたて方向の動摩擦係数は0.185であり、よこ方向の動摩擦係数は0.241であった。この織物を用いた中東地域での民族衣装のチャドールは、サテンやパレスの組織の織物を用いたチャドールに比べ、着用したときのズレ落ちのないものであった。
【0025】
(実施例3)
経糸として、水分率3.5%のセルローストリアセテートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、ブライト110dtex/26f)を無撚りでサイジングしたものを用いた。緯糸として、ポリエチレンテレフタレートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、三角断面セミダル56dtex/36f)の仮撚加工糸1本と水分率3.5%のセルローストリアセテートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、ブライト110dtex/26f)1本とを仮撚加工糸での加撚方向とは逆方向に1600回/mの撚りを加えS撚りとZ撚りの合撚糸をそれぞれ作成した。製織にはウォータージェット織機を用い、緯糸としてS撚り合撚糸とZ撚り合撚糸を2本交互に打ち込み、組織は2本たて畝のたて畝織と経62本、緯40本の梨地織を使用し、たて畝織と梨地織を2:1で繰り返す配列の組織にて製織した。
【0026】
得られた生機を、実施例1におけると同様に、精練、黒色分散染料による染色加工、仕上加工を行い、経糸密度168本/吋、緯糸密度78本/吋に仕上げた。得られたよこ方向の畝を有する織物は、ソフトな風合いで膨らみ感があり、実施例1で得た織物に比べ、構成糸の繊度を太くした効果により、しっかりとした地合となり、よこ方向の畝間隔が広く、セルローストリアセテートフィラメント糸に由来する爽やかな感触のものであり、また優雅な光沢と深みのある発色性に優れた黒が得られ、ドレープ性にも優れた高級感のあるものであり、さらに洗濯収縮がなく形態安定性に優れるものであった。また、織物のたて方向の動摩擦係数は0.209であり、よこ方向の動摩擦係数は0.288であった。この織物を用いた中東地域での民族衣装のアバヤは、サテンやパレスの組織の織物を用いたアバヤに比べ、着用したときのズレ落ちのないものであった。
【0027】
(実施例4)
経糸として、水分率3.5%のセルローストリアセテートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、ブライト84dtex/20f)を無撚りでサイジングしたものを用いた。緯糸として、ポリエチレンテレフタレートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、三角断面セミダル56dtex/36f)の仮撚加工糸1本と水分率3.5%のセルローストリアセテートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、ブライト84dtex/20f)1本とを仮撚加工糸での加撚方向とは逆方向に1800回/mの撚りを加えS撚りとZ撚りの合撚糸をそれぞれ作成した。製織にはウォータージェット織機を用い、緯糸としてS撚り合撚糸とZ撚り合撚糸を2本交互に打ち込み、組織は2本たて畝のたて畝織にて、製織した。
【0028】
得られた生機を、実施例1におけると同様に、精練、黒色分散染料による染色加工、仕上加工を行い、経糸密度198本/吋、緯糸密度87本/吋に仕上げた。得られたよこ方向の畝を有する織物は、ソフトな風合いで膨らみ感があり、実施例1で得た織物に比べ、組織を変更した効果により、よこ方向の畝が深くなり、セルローストリアセテートフィラメント糸に由来する爽やかな感触のものであり、また優雅な光沢と深みのある発色性に優れた黒が得られ、ドレープ性にも優れた高級感のあるものであり、さらに洗濯収縮がなく形態安定性に優れるものであった。また、織物のたて方向の動摩擦係数は0.201であり、よこ方向の動摩擦係数は0.292あった。この織物を用いた中東地域での民族衣装のアバヤは、サテンやパレスの組織の織物を用いたアバヤに比べ、着用したときのズレ落ちのないものであった。
【0029】
(実施例5)
経糸として、水分率6.5%のセルロースジアセテートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、ブライト84dtex/21f)を無撚りでサイジングしたものを用いた。緯糸として、ポリエチレンテレフタレートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、三角断面セミダル56dtex/36f)の仮撚加工糸1本と水分率6.5%のセルロースジアセテートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、ブライト84dtex/21f)1本とを仮撚加工糸での加撚方向とは逆方向に1800回/mの撚りを加えS撚りとZ撚りの合撚糸をそれぞれ作成した。製織にはウォータージェット織機を用い、緯糸としてS撚り合撚糸とZ撚り合撚糸を2本交互に打ち込み、組織は2本たて畝のたて畝織と経62本、緯40本の梨地織を使用し、たて畝織と梨地織を2:1で繰り返す配列の組織にて製織した。
【0030】
得られた生機を、実施例1におけると同様に、精練、黒色分散染料による染色加工、仕上加工を行い、経糸密度195本/吋、緯糸密度88本/吋に仕上げた。得られたよこ方向の畝を有する織物は、ソフトな風合いで膨らみ感があり、実施例1で得た織物に比べ、セルロースジアセテートフィラメント糸に由来する吸湿性がありながら、爽やかな感触のものであり、また優雅な光沢と深みのある発色性に優れた黒が得られ、ドレープ性にも優れた高級感のあるものであり、さらに洗濯収縮がなく形態安定性に優れるものであった。また、織物のたて方向の動摩擦係数は0.199であり、よこ方向の動摩擦係数は0.280あった。この織物を用いた中東地域での民族衣装のアバヤは、サテンやパレスの組織の織物を用いたアバヤに比べ、着用したときのズレ落ちのないものであった。
【0031】
(比較例1)
経糸として、水分率3.5%のセルローストリアセテートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、ブライト84dtex/20f)を無撚りでサイジングしたものを用いた。緯糸として、ポリエチレンテレフタレートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、三角断面セミダル56dtex/36f)の仮撚加工糸1本と水分率3.5%のセルローストリアセテートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、ブライト84dtex/20f)1本とを仮撚加工糸での加撚方向とは逆方向に1800回/mの撚りを加えS撚りとZ撚りの合撚糸をそれぞれ作成した。製織にはウォータージェット織機を用い、緯糸としてS撚り合撚糸とZ撚り合撚糸を2本交互に打ち込み、組織は平織にて、製織した。
【0032】
得られた生機を、実施例1におけると同様に、精練、黒色分散染料による染色加工、仕上加工を行い、経糸密度180本/吋、緯糸密度70本/吋に仕上げた。得られた平織物は、ソフトな風合いで膨らみ感があり、セルローストリアセテートフィラメント糸に由来する爽やかな感触のものであり、また優雅な光沢と深みのある発色性に優れた黒が得られ、ドレープ性にも優れた高級感のあるものであり、さらに洗濯収縮がなく形態安定性に優れるものであった。しかしながら、得られた織物は、組織が平織のため経糸の凹凸が小さく、かつよこ方向の畝がみられないものであり、織物のたて方向の動摩擦係数は0.156、よこ方向の動摩擦係数は0.164であった。この織物を用いた中東地域での民族衣装のアバヤは、着用したときにズレ落ちやすいものであった。
【0033】
(実施例6)
経糸として、水分率3.5%のセルローストリアセテートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、ブライト40dtex/9f)を無撚りでサイジングしたものを用いた。緯糸として、ポリエチレンテレフタレートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、丸角断面セミダル22dtex/12f)の仮撚加工糸1本と水分率6.5%のセルロースジアセテートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、ブライト40dtex/9f)1本とを仮撚加工糸での加撚方向とは逆方向に2500回/mの撚りを加えS撚りとZ撚りの合撚糸をそれぞれ作成した。製織にはウォータージェット織機を用い、緯糸としてS撚り合撚糸とZ撚り合撚糸を2本交互に打ち込み、組織は2本たて畝のたて畝織にて、製織した。
【0034】
得られた生機を、実施例1におけると同様に、精練、黒色分散染料による染色加工、仕上加工を行い、経糸密度280本/吋、緯糸密度134本/吋に仕上げた。得られたよこ方向の畝を有する織物は、織物の強度が若干低かったが、ソフトな風合いで膨らみ感があり、セルロースアセテートフィラメント糸に由来する爽やかな感触のものであり、また優雅な光沢と深みのある発色性に優れた黒が得られ、ドレープ性にも優れた高級感のあるものであり、さらに洗濯収縮がなく形態安定性に優れるものであった。また、織物のたて方向の動摩擦係数は0.176であり、よこ方向の動摩擦係数は0.242あった。この織物を用いた中東地域での民族衣装のアバヤは、サテンやパレスの組織の織物を用いたアバヤに比べ、着用したときのズレ落ちのないものであった。
【0035】
(実施例7)
経糸として、水分率3.5%のセルローストリアセテートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、ブライト167dtex/40f)を無撚りでサイジングしたものを用いた。緯糸として、ポリエチレンテレフタレートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、丸角断面セミダル110dtex/48f)の仮撚加工糸1本と水分率3.5%のセルローストリアセテートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、ブライト167dtex/40f三菱レイヨン社製)1本とを仮撚加工糸での加撚方向とは逆方向に1200回/mの撚りを加えS撚りとZ撚りの合撚糸をそれぞれ作成した。製織にはウォータージェット織機を用い、緯糸としてS撚り合撚糸とZ撚り合撚糸を2本交互に打ち込み、組織は2本たて畝のたて畝織と経62本、緯40本の梨地織を使用し、たて畝織と梨地織を2:1で繰り返す配列で製織した。
【0036】
得られた生機を、実施例1におけると同様に、精練、黒色分散染料による染色加工、仕上加工を行い、経糸密度142本/吋、緯糸密度64本/吋に仕上げた。得られたよこ方向の畝を有する織物は、構成糸の繊度が太く、着用時に若干重量感を感じるものであったが、織物のたて方向の動摩擦係数は0.216であり、よこ方向の動摩擦経緯数は0.301であった。得られた織物は、ソフトな風合いで膨らみ感があり、セルローストリアセテートフィラメント糸に由来する爽やかな感触のものであり、また優雅な光沢と深みのある発色性に優れた黒が得られ、ドレープ性にも優れた高級感のあるものであった。この織物を用いた中東地域での民族衣装のアバヤは、サテンやパレスの組織の織物を用いたアバヤに比べ、着用したときのズレ落ちのないものであった。
【0037】
(実施例8)
実施例1において、経糸を水分率0.4%のポリエチレンテレフタレートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、三角断面ブライト84dtex/36f)に代えた以外は、実施例1と同様に、製織し、染色して同じ経糸及び緯糸密度に仕上げてよこ方向の畝を有する織物を得た。得られたよこ方向の畝を有する畝織物は、若干硬い風合いであったが、洗濯収縮がなく形態安定性に優れるものであった。また、織物のたて方向の動摩擦係数は0.189であり、よこ方向の動摩擦係数は0.267であった。この織物を用いた中東地域での民族衣装のアバヤは、サテンやパレスの組織の織物を用いたアバヤに比べ、着用したときのズレ落ちのないものであった。
【0038】
(実施例9)
実施例1において、経糸及び緯糸のセルローストリアセテートフィラメント糸を水分率11.0%のレーヨンフィラメント糸(吉林化繊集団有限公司製、MD84dtex/24f)に代えた以外は、実施例1と同様の条件にて、レピアルームを使用し製織後、染色して同じ経糸及び緯糸密度に仕上げてよこ方向の畝を有する織物を得た。得られたよこ方向の畝を有する織物は、ソフトな風合いで膨らみ感があり、レーヨンフィラメント糸の高い水分率から爽やかな感触のものであったが、形態安定性が若干低かった。また、織物のたて方向の動摩擦係数は0.196であり、よこ方向の動摩擦係数は0.275であった。この織物を用いた中東地域での民族衣装のアバヤは、サテンやパレスの組織の織物を用いたアバヤに比べ、着用したときのズレ落ちのないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、形態安定性を有し、蒸れ感や静電気の発生が少なく、ソフトな風合いで清涼感に優れ、高級感のある光沢と鮮明な発色性を呈する畝を有する織物を得ることができ、しかも本発明の畝を有する織物は、畝自体のソフトな風合い、光沢、発色性ととともに、畝自体の形態的な凹凸効果により、極めてズレが生じ難いものであり、中東民族衣装として好適なるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
身体に巻きつけて着用する、織物組織の50〜100面積%が畝織である畝を有する織物。
【請求項2】
畝と直角方向の糸として、水分率が2〜8%のセルロース系フィラメント糸を用いてなる請求項1に記載の畝を有する織物。
【請求項3】
水分率が2〜8%のセルロース系フィラメント糸が、セルロースアセテートフィラメント糸である請求項2に記載の畝を有する織物。
【請求項4】
畝織がたて畝織である請求項1〜3のいずれか一項に記載の畝を有する織物。
【請求項5】
織物組織が、たて畝織と梨地織の組合せの組織からなる請求項1〜4のいずれか一項に記載の畝を有する織物。
【請求項6】
畝と直角方向の糸の繊度が、畝方向の糸の繊度より小さく、かつ56〜133dtexである請求項1〜5のいずれか一項に記載の畝を有する織物。
【請求項7】
身体に巻きつけて着用する、畝方向の動摩擦係数が0.22〜0.32で、かつ畝と直角方向の動摩擦係数が0.17〜0.22である畝を有する織物。
【請求項8】
畝と直角方向の糸として、水分率が2〜8%のセルロース系フィラメント糸を用いてなる、請求項7に記載の畝を有する織物。
【請求項9】
水分率が2〜8%のセルロース系フィラメント糸が、セルロースアセテートフィラメント糸である請求項8に記載の畝を有する織物。
【請求項10】
織物組織の50〜100面積%が畝織である請求項7〜9のいずれか一項に記載の畝を有する織物。
【請求項11】
畝織がたて畝織である請求項10に記載の畝を有する織物。
【請求項12】
織物組織が、たて畝織と梨地織の組合せの組織からなる請求項7〜11のいずれか一項に記載の畝を有する織物。
【請求項13】
畝と直角方向の糸の繊度が、畝方向の糸の繊度より小さく、かつ56〜133dtexである請求項7〜12のいずれか一項に記載の畝を有する織物。
【請求項14】
身体を覆うようにして着用する、織物組織の50〜100面積%が畝織である畝を有する織物。
【請求項15】
畝と直角方向の糸として、水分率が2〜8%のセルロース系フィラメント糸を用いてなる請求項14に記載の畝を有する織物。
【請求項16】
水分率が2〜8%のセルロース系フィラメント糸が、セルロースアセテートフィラメント糸である請求項15に記載の畝を有する織物。
【請求項17】
畝織がたて畝織である請求項14〜16のいずれか一項に記載の畝を有する織物。
【請求項18】
織物組織が、たて畝織と梨地織の組合せの組織からなる請求項14〜17のいずれか一項に記載の畝を有する織物。
【請求項19】
畝と直角方向の糸の繊度が、畝方向の糸の繊度より小さく、かつ56〜133dtexである請求項14〜18のいずれか一項に記載の畝を有する織物。
【請求項20】
身体を覆うようにして着用する、畝方向の動摩擦係数が0.22〜0.32で、かつ畝と直角方向の動摩擦係数が0.17〜0.22である畝を有する織物。
【請求項21】
畝と直角方向の糸として、水分率が2〜8%のセルロース系フィラメント糸を用いてなる、請求項20に記載の畝を有する織物。
【請求項22】
水分率が2〜8%のセルロース系フィラメント糸が、セルロースアセテートフィラメント糸である請求項21に記載の畝を有する織物。
【請求項23】
織物組織の50〜100面積%が畝織である請求項20〜22のいずれか一項に記載の畝を有する織物。
【請求項24】
畝織がたて畝織である請求項23に記載の畝を有する織物。
【請求項25】
織物組織が、たて畝織と梨地織の組合せの組織からなる請求項20〜24のいずれか一項に記載の畝を有する織物。
【請求項26】
畝と直角方向の糸の繊度が、畝方向の糸の繊度より小さく、かつ56〜133dtexである請求項20〜25のいずれか一項に記載の畝を有する織物。
【請求項27】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の畝を有する織物からなるチャドール。
【請求項28】
請求項14〜26のいずれか一項に記載の畝を有する織物からなるアバヤ。

【公開番号】特開2009−228198(P2009−228198A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36413(P2009−36413)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(301067416)三菱レイヨン・テキスタイル株式会社 (102)
【Fターム(参考)】