説明

略球状凍結卵の製造方法

【課題】加熱調理時の作業性の点から未凍結の生卵と同様の調理適性を有する略球状凍結卵の製造方法を提供する。
【解決手段】液体窒素中に、加工液卵を滴下することを特徴とする略球状凍結卵の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱調理時の作業性の点から未凍結の生卵と同様の調理適性を有する略球状凍結卵の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、卵は乳化性能、加熱凝固性能等、さまざまな調理特性をもち、栄養価も豊富であることから、古くから人々に親しまれてきた。また、卵は多くの加工食品に利用されていることから、工業的に大量に必要な場合は、その用途に応じて、卵の殻を取り除いた液卵を殺菌し、容器詰し、さらには、容器詰された液卵の保存性を高めるために凍結して用いられている。容器としては、工業生産用に500g〜10kg容のガロン缶、ゲーブルトップ、ピロー袋などが用いられることが多い。
【0003】
しかしながら、凍結卵は、完全に解凍したとしても流動性が低下してしまい未凍結の生卵と全く異質な物性となるため、未凍結の生卵を使用する者にとって、ハンドリングが困難なものとなってしまう。特に、薄焼き卵などの薄膜状のものを作る際には、加熱したフライパンに投入しても広がりにくく、火通りが悪い。その結果、いびつな形状になってしまったり、焼きムラが生じる場合がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、加熱調理時の作業性の点から未凍結の生卵と同様の調理適性を有する略球状凍結卵の製造方法を提供するものである。具体的には、火通りが良く、焼きムラが生じない略球状凍結卵の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者が、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、液体窒素中に、加工液卵を滴下し、略球状に凍結させるならば、意外にも加熱調理時の作業性の点から未凍結の生卵と同様の調理適性を有する略球状凍結卵が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1)液体窒素中に、加工液卵を滴下する略球状凍結卵の製造方法、
(2)1管あたりの滴下速度が1000滴〜20000滴/時である(1)記載の略球状凍結卵の製造方法、
(3)略球状凍結卵の直径が平均1〜8mmである(1)又は(2)記載の略球状凍結卵の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、加熱調理時の作業性の点から未凍結の生卵と同様の調理適性を有する略球状凍結卵の製造方法を提供することができる。具体的には、火通りが良く、焼きムラが生じない略球状凍結卵の製造方法を提供することができる。
これにより、凍結卵市場において、付加価値の高い凍結卵を求める少量使用者である1店舗経営のケーキ屋、パン屋などで、凍結卵の需要が見込まれる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を意味する。
【0009】
本発明の略球状凍結卵の製造方法は、液体窒素中に、加工液卵を滴下することを特徴とする。これにより、加熱調理時の作業性の点から未凍結の生卵と同様の調理適性を有する略球状凍結卵が得られる。具体的には、火通りが良く、焼きムラが生じない略球状凍結卵が得られる。
【0010】
本発明の略球状凍結卵の製造方法に用いる加工液卵は、主原料が液卵であれば、食塩、糖類等を配合したものであってもよい。また、食塩、糖類以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、牛乳、脱脂粉乳、カゼイン、乳清等の乳製品又はその加工品、菜種油、大豆油、バター等の油脂類、グリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤類、醤油、みりん、出汁、料理酒、グルタミン酸ナトリウム等の調味料類、香料、保存材等を配合しても良い。
なお、液卵以外に上記原料を配合する場合、加工液卵全体に対する液卵の配合量は50%以上である。また、本発明で用いる加工液卵は、上記原料を配合せず液卵のみからなるものも含む。
【0011】
また、加工液卵に用いる液卵は、食用として一般的に用いられる液卵であれば特に限定するものではなく、殻付生卵を割卵して溶きほぐして調製した生液全卵、殻付生卵を割卵して卵黄と卵白を分離してこれらをそれぞれ溶きほぐして調製した生液卵黄、生液卵白及びこれらの混合物等であってもよい。
【0012】
本発明の略球状凍結卵の製造方法において、加工液卵は、液体窒素含有の水槽の液面に向けて滴下する。滴下した加工液卵は凍結するまでは液面に浮いており、凍結すると底に沈む挙動を示す。
【0013】
本発明の略球状凍結卵の製造方法における加工液卵の滴下には、特に制限されないが、チューブ、ノズル、シリンジなど筒状の管を用いることができる。その断面は略円状のものを用いるのが好ましい。
【0014】
また、チューブ等の筒状の管の内径は、0.5〜7mmが好ましく、1〜5mmがより好ましい。内径が前記範囲より小さいと、製造効率が悪く好ましくない。また、前記範囲より大きいと、歪な形状になる場合がある。また、凍結に時間がかかるため、液面で粒状の卵が結合し塊となってしまう場合があり、加熱調理に用いても、未凍結の生卵と同様の調理適性を有するものが得られず、火通りが悪く、焼きムラが生じ易いため好ましくない。
【0015】
本発明の略球状凍結卵の製造方法において、加工液卵を滴下する速度は、1管あたり1000〜20000滴/時が好ましく、5000〜15000滴/時がより好ましい。前記範囲より滴下速度が遅いと、製造効率が悪いため好ましくない。一方、前記範囲より滴下速度が速いと、凍結前に液面で粒状の卵が結合し塊になってしまう場合がある。また、未凍結の生卵と同様の調理適性を有する略球状凍結卵が得られず、加熱調理に用いても火通りが悪く、焼きムラが生じ易いため好ましくない。
【0016】
本発明の略球状凍結卵の製造方法において用いられる液体窒素は、空気を圧縮して得られる液体空気から分留して得られるものであり、大気圧下で−196℃の超低温の液体状窒素である。
【0017】
該液体窒素を入れる水槽は、耐冷凍性の材質のものであれば、特に限定するものではないが、未凍結の生卵と同様の調理適性を有する略球状凍結卵を得る観点から、表面積が広く、水深の深いものが好ましい。具体的には、1管あたりの表面積が25〜400cmであり、深さが10〜50cm程度の水槽が望ましい。
【0018】
また、本発明の略球状凍結卵の製造方法における加工液卵の滴下の際は、水槽中の液体窒素を軽く攪拌させることが好ましい。具体的には10〜200rpmの攪拌が好ましい。これにより、滴下した加工液卵が結合することなく凍結され、未凍結の生卵と同様の調理適性を有する略球状凍結卵が得られる。
【0019】
本発明の略球状凍結卵の製造方法において、液体窒素液面と筒状の管との間隔は、未凍結の生卵と同様の調理適性を有する略球状凍結卵を得る観点から2〜50cmが好ましい。
【0020】
本発明の略球状凍結卵の製造方法において、凍結した略球状凍結卵は、ストレーナー等の穴の空いたものを用いて水槽底面から掬い出される。
【0021】
本発明の上記略球状凍結卵の製造方法によって得られる略球状凍結卵の直径は、筒状の管の内径によるが、平均1〜8mmが好ましく、平均2〜6mmがより好ましい。略球状凍結卵の直径平均が前記範囲より小さい場合、即ち内径が小さい筒状の管を用いて製造する場合は、加熱調理時における効率が悪くなるため、好ましくない。一方、略球状凍結卵の直径平均が前記範囲より大きい場合、即ち内径が大きい筒状の管を用いて製造する場合は、歪な形状になる場合がある。また、凍結に時間がかかるため、液面で粒状の卵が結合し塊となってしまう場合があり、加熱調理に用いても、未凍結の生卵と同様の調理適性を有するものが得られず、火通りが悪く、焼きムラが生じ易いため好ましくない。
ここで、略球状凍結卵の直径平均は、得られた略球状凍結卵の中から無作為に10粒を選択し、その直径を計測して算出される。
【0022】
本発明の略球状凍結卵の製造方法では、得られた略球状凍結卵を任意の容器に充填して−18℃以下で冷凍保存される。なお、加熱調理する際は、本発明の略球状凍結卵を凍結状態のまま使用しても、適宜解凍後使用しても、いずれの方法で用いても良いが、より本発明の効果を発揮する観点から、凍結状態のまま使用するのが好ましい。
【0023】
また、略状凍結卵はいずれの料理にも用いることができるが、本発明の加熱調理適性効果がより顕著に現れる形態である、錦糸玉子、薄焼き卵、卵焼き、厚焼き卵、オムレツなどの料理に用いるのが好適である。
【0024】
以下に本発明の略球状凍結卵の製造方法を実施例及び試験例に基づき詳述する。なお、本発明はこれに限定するものではない。
【0025】
[実施例1]
5L容の水槽に3Lの液体窒素を準備した。次いで、チューブ圧搾定量送液ポンプ(内径2mmのチューブを使用)を用いて、液全卵500mlを水槽液面より20cmの高さから、攪拌下(50rpm)の水槽液面に向け滴下した。その際の1管あたりの滴下速度は、8000滴/時となるよう流量を調整して滴下した。全量の液全卵を滴下し終えた後、水槽底部の略球状凍結卵を30メッシュのストレーナーで掬い取り、略球状凍結卵を得た。
なお、得られた略球状凍結卵の直径は、平均3mmであった。
【0026】
[実施例2]
液全卵を液卵黄に置き換えた以外は実施例1に準じて、略球状凍結卵(卵黄)を得た。
なお、得られた略球状凍結卵の直径は、平均3mmであった。
【0027】
[実施例3]
液全卵を液卵白に置き換えた以外は実施例1に準じて、略球状凍結卵(卵白)を得た。
なお、得られた略球状凍結卵の直径は、平均3.5mmであった。
【0028】
[実施例4]
実施例2の略球状凍結卵(卵黄)と、実施例3の略球状凍結卵(卵白)を1:2の割合で混合し、略球状凍結卵(全卵)を得た。
なお、得られた略球状凍結卵の直径は、平均3.3mmであった。
【0029】
[比較例1]
直径3mmの粒が得られるシリコーン製の製氷器に、液全卵を充填し、−20℃で6時間凍結させ、製氷器から取り出し、略球状凍結卵を得た。
【0030】
[比較例2]
1辺が20cmの立方体型の製氷器に、液全卵を充填し、−20℃で6時間凍結させた後、製氷器から取り出し、アイスピックで細かく砕き、破砕した凍結卵を得た。
なお、大きさは実施例1の略球状凍結卵と同程度となるように、砕いた。
【0031】
[比較例3]
比較例2で用いた製氷器に、液全卵を充填し、該製氷器を実施例1で用いた液体窒素入りの水槽に静かに沈め、液全卵が凍結するまで静置した。次いで、製氷器から凍結させた全卵を取り出し、アイスピックで細かく砕き、破砕した凍結卵を得た。
なお、大きさは実施例1の略球状凍結卵と同程度となるように、砕いた。
【0032】
[試験例1]
実施例1〜4の略球状凍結卵、及び比較例1〜3の凍結卵を用いて、本発明の効果への影響を調べた。具体的には、各略球状凍結卵及び破砕凍結卵をそれぞれ100gずつポリエチレン製の袋に充填し−20℃の冷凍庫で2週間保存した。次いで、中火で熱し油を引いたフライパンの上に、凍結状態のまま各凍結卵を投入し、薄焼き卵を製して調理適性について下記評価基準で評価した。
【0033】
調理適性の評価
<評価基準>
○:未凍結の生液全卵と同等に広がり、火通りが良かった。
△:未凍結の生液全卵よりやや広がり難く、火通りも若干劣るが問題ない程度であった。
×:未凍結の生液全卵より広がり難く、火通りも悪かった。
【0034】
【表1】



【0035】
表1より、液体窒素中に加工液卵を滴下して得られた略球状凍結卵は、未凍結の生卵と同等に広がり、火通りが良かったことから、未凍結の生卵を用いる場合と同程度の加熱調理適性を有することが理解できる(実施例1〜4)。一方、略球状に成型できる製氷器を用いて略球状凍結卵を成型し、−20℃で凍結させた場合(比較例1)、−20℃で凍結させた立方体型の凍結卵を細かく砕いた場合(比較例2)、液体窒素を用いて立方体型に凍結した凍結卵を細かく砕いた場合(比較例3)、いずれの凍結卵も未凍結の生卵より広がり難く、火通りも悪かったことから、未凍結の生卵を用いる場合と同程度の加熱調理適性を有していないことが理解できる。
【0036】
[試験例2]
ポンプに接続するチューブを表2の粒の大きさになるように変更し、1管あたりの滴下速度を表2の速度に変更した以外は、実施例1に準じて略球状凍結卵を製した。
次いで、得られた略球状凍結卵を試験例1に従って、評価した。
【0037】
【表2】

【0038】
表2より、滴下速度が1000〜20000滴/時で製造された略球状凍結卵は、未凍結の生卵と同等に広がり、火通りが良かったことから、未凍結卵を用いる場合と同程度の加熱調理適性を有することが理解できる(実施例1、及びNo.1、2)。一方、滴下速度が20000滴/時を超えると、未凍結の生卵に比べてやや広がり難く、火通りが若干劣ることから、未凍結の生卵を用いる場合と比べて加熱調理適性がやや劣ることが理解できる(No.4)。
また、略球状凍結卵の直径が1〜8mmの範囲のものは、未凍結の生卵を用いる場合と同程度の加熱調理適性を有する、あるいはやや劣るが問題ない程度に加熱調理適性を有することが理解できる(実施例1、及びNo.1、2、3)。特に、略球状凍結卵の直径が2〜6mmの範囲のものは、より好ましいことが理解できる(実施例1、及びNo.1、2)。
【0039】
[実施例5]
実施例1の液全卵500mlを配合表1に記載の加工液卵500mlに置き換えた以外は、実施例1に準じて略球状凍結卵を得た。なお、得られた略球状凍結卵の直径は、平均3mmであった。
【0040】
〔配合表1〕加工液卵
液全卵 60%
かつおだし 35%
醤油 2%
食塩 1%
清水 2%
――――――――――――――――
合計 100%
【0041】
得られた略球状凍結卵を試験例1に従って、評価を行ったところ、未凍結の生卵と同等に広がり、火通りが良かった。これより未凍結の生卵を用いる場合と同程度の加熱調理適性を有することが理解できる。
【0042】
また、上記の略球状凍結卵を用いて茶碗蒸しを調整した。具体的には、清水600mlに凍結状態のまま略球状凍結卵300mlを投入し攪拌溶解して茶碗蒸しスラリーを製した。その後、茶碗蒸しスラリーを100mlずつ茶碗に充填した後、85℃で30分間スチーマーを用いて蒸し、茶碗蒸しを製した。
【0043】
得られた茶碗蒸しは、均一に凝固しており、食感も良く、問題なく喫食することができた。
【0044】
[実施例6]
実施例1の略球状凍結卵を用いて、スクランブルエッグを製した。具体的には、凍結状態のまま略球状凍結卵100gを、熱したフライパンに投入し、菜箸でかき混ぜながら100℃で3分間加熱し、スクランブルエッグを製した。
【0045】
略球状凍結卵を凍結状態のまま、加熱調理に用いることができた。また、得られたスクランブルエッグは、均一に熱が通っており、ふわふわとした食感であり、問題なく喫食することができた。
【0046】
[実施例7]
実施例1の略球状凍結卵を用いて、親子丼を製した。具体的には、親子丼用の鍋に、玉ねぎ30g、鶏肉50g、かつお出汁100gを入れて加熱し、鶏肉が煮えたら、凍結状態のまま実施例1の略球状凍結卵60gを流し入れて凝固させ、親子丼を製した。
【0047】
実施例1の略球状凍結卵は、凍結状態のまま加熱調理に用いても問題なく調理することができた。また、得られた親子丼は、均一に凝固しており、食感も良く、問題なく喫食することができた。




































【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体窒素中に、加工液卵を滴下することを特徴とする略球状凍結卵の製造方法。
【請求項2】
1管あたりの滴下速度が1000滴〜20000滴/時である請求項1記載の略球状凍結卵の製造方法。
【請求項3】
略球状凍結卵の直径が平均1〜8mmである請求項1又は2記載の略球状凍結卵の製造方法。



【公開番号】特開2013−15(P2013−15A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131872(P2011−131872)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】