説明

畦塗り作業機

【課題】移動時における走行機体と作業機との前後バランスを向上させ、精度の良い畦塗り整形作業を行える畦塗り作業機を提供すること。
【解決手段】走行機体90に装着される装着部5と、装着部5から左右方向に移動可能なオフセット機構部10と、オフセット機構部10の移動端側に設けられた回動支点Oを中心として、水平方向に回動可能に配設された前処理体21及び整畦体40を有する作業部20と、走行機体90から伝達される動力によって前処理体21及び整畦体40を回転駆動させる動力伝達機構部50とを備えてなる畦塗り作業機において、前処理体21は回転軸23と回転軸23に放射状に取付られる耕耘爪24とを備え、回動支点Oは平面視において整畦体40の回転中心軸上に設けられ、平面視において、整畦体40の回転中心軸の方向と前処理体21における耕耘爪24の取付方向との成す角度が鋭角となるように配置されていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水田を区画する旧畦を畦塗り修復して新畦を形成する畦塗り作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
このような畦塗り作業機は、走行機体の走行位置に対して側方にオフセットした位置に作業部を配置し、走行機体の前進動とともに進行しながら畦塗り作業を行うものが知られている(特許文献1参照)。この畦塗り作業機(文献では整畦機)による畦塗り作業は、走行機体の前進動によって行われるので、走行機体の前端部が圃場の端部に到達すると、走行機体の略前後方向の長さ分の塗り残しが発生する。
【0003】
このため、塗り残された旧畦を畦塗り可能にする畦塗り作業機が提案されている(特許文献2参照)。この畦塗り作業機(文献では畦塗り機)は、前処理体及び整畦体を1つの伝動フレームにより支持し、この伝動フレームを180度回動可能にすることで、走行機体(文献ではトラクタ)と畦塗り作業機とをバックさせながら畦際までの畦塗り作業を可能にするものである。このように構成された畦塗り作業機によって畦際までの畦塗り作業を行うためには、前処理体及び整畦体の駆動を停止し、走行機体の三点リンク機構により畦塗り作業機を持ち上げ、伝動フレームを回動させて前処理体及び整畦体を後進オフセット作業位置に移動させ、走行機体を畦を整形しようとする側に後退させて作業機を移動させながら畦塗り作業を行わせる。このように、畦際の畦整形作業を行う場合には、走行機体を前進させながら畦塗り作業を行う通常の畦塗り作業を一旦停止しなければならず、畦塗り作業全体の作業性が低下し、前処理体及び整畦体を反転させる等の操作が必要であるので操作性が悪いという問題があった。
【0004】
そこで、これらの問題を解消する畦塗り作業機(文献ではオフセット作業機)が本出願人から提案されている(特許文献3参照)。この作業機は、作業部のオフセット位置を調整可能なオフセット位置調整機構と、作業部の作業方向を回動調整可能な作業方向調整機構と、作業部の作業方向の基準となる基準作業線と作業部との位置関係を検出する検出手段と、この検出手段の検出値に応じて作業部の作業位置と作業方向とが作業基準線に沿うようにオフセット位置調整機構及び作業方向調整機構の動作を制御する制御手段とを有して構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2660320号公報
【特許文献2】特開2001−28903号公報
【特許文献3】特開2004−267012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来の畦塗り作業機は、走行機体の後部に装着されて走行機体の走行位置に対して側方にオフセットした位置を走行機体の進行にともなって作業するものであり、移動時にはその状態のままで引き上げられたり、引き上げて走行機体の後方中央側に移動させていた。そして、畦塗り作業機は、もともと前後方向の長さが長いため走行安定性の観点から、畦塗り作業機が装着された走行機体との前後バランス(マッチングバランス)を向上させることが、左右バランスと共に一般的に要求される。
【0007】
また特許文献3に記載の畦塗り作業機が大型の走行機体の後部に装着されるものでは、作業部を走行機体の側方に移動させるために作業部をオフセット移動させるオフセットリンク機構部の長さを長くする必要があり、移動時におけるマッチングバランスの向上が少しでも望まれることに加えて、作業時において作業部と走行機体との距離の変化にともなう作業機の重心位置の移動によって作業機自体の姿勢が不安定にならないようにすることが求められる。
【0008】
本発明は、このような要望に応えるためになされたものであり、移動時における走行機体と作業機との前後バランスを向上させ、精度の良い畦塗り整形作業を行える畦塗り作業機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明の畦塗り作業機は、走行機体に装着される装着部と、該装着部から左右方向に移動可能なオフセット機構部と、該オフセット機構部の移動端側に設けられた回動支点を中心として、水平方向に回動可能に配設された前処理体及び整畦体を有する作業部と、前記走行機体から伝達される動力によって前記前処理体及び前記整畦体を回転駆動させる動力伝達機構部とを備えてなる畦塗り作業機において、前記前処理体は回転軸と該回転軸に放射状に取付られる耕耘爪とを備え、前記回動支点は平面視において前記整畦体の回転中心軸上に設けられ、平面視において、前記整畦体の回転中心軸の方向と前記前処理体における前記耕耘爪の取付方向との成す角度が鋭角となるように配置されていることを特徴とする。
また、平面視において、前記整畦体の回転中心軸の方向と前記前処理体における前記耕耘爪の取付方向との成す角度が10°〜30°であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る畦塗り作業機によれば、スペースを有効活用し前処理体とドラムとの近接配置が可能になり、作業部をより小型化することができ、移動時における走行機体と作業機との前後バランスを向上させ、畦塗り作業時における作業機自体のバランスを向上させて精度の良い畦塗り整形作業を行うことが可能な畦塗り作業機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施の形態に係る畦塗り作業機の平面図を示す。
【図2】この畦塗り機の側面図を示す。
【図3】畦塗り作業機の底面図を示す。
【図4】図2中のII−II矢視に相当する作業部の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る畦塗り機の好ましい実施の形態を図1から図4に基づいて説明する。なお、説明の都合上、図1(平面図)に示す矢印の方向を前後方向及び左右方向として以下説明する。
【0013】
畦塗り作業機1は、図1及び図2(側面図)に示すように、走行機体90の後部に装着されて、走行機体90の前進動及び後進動に応じて進行して畦塗り作業を行うものであり、走行機体90に装着される装着部5と、走行機体90に対して左右方向に移動可能なオフセット機構部10と、この後端側(移動端側)に設けられて畦塗り作業を行う作業部20と、該作業部20を水平回動させる回動機構部13とを有して構成される。
【0014】
装着部5は、左右方向に延びるヒッチフレーム7と、ヒッチフレーム7の前側に取り付けられて走行機体90の三点リンク連結機構に連結可能な連結フレーム8とを有してなる。ヒッチフレーム7の左右方向の中央下部にはギアボックス6が設けられ、このギアボックス6には入力軸6aが備えられている。入力軸6aは、走行機体90のPTO軸(図示せず)からの動力を図示しない伝動軸を介して伝達されるようになっている。
【0015】
オフセット機構部10は、前端側をヒッチフレーム7に回動自在に連結されて後方側へ延びる伝動ケース15と、伝動ケース15の左側に沿って並設されて前端側がヒッチフレーム7の左側端部に回動自在に連結されたリンク部材17と、オフセット機構部10を左右方向に揺動させる揺動シリンダ16とを有してなる。リンク部材17の後端側は、伝動ケース15の後端下部に回動自在に設けられた連結部材30に繋がる連結アーム部材31に回動自在に取り付けられている。オフセット機構部10は、伝動ケース15、リンク部材17、ヒッチフレーム7及び連結アーム部材31によって平行リンク機構を形成している。
【0016】
作業部20は、伝動ケース15の後端下部に回動自在に取り付けられて下方へ延びる駆動軸ケース11に接続されている。駆動軸ケース11内には、作業部30の回動支点Oとなる動力伝達軸51が垂直方向に延びて回転動自在に支持されている。この動力伝達軸51は、入力軸6aに入力された動力を伝動ケース15内に設けられた図示しない動力伝達機構を介して伝達されるように構成されている。
【0017】
駆動軸ケース11とオフセット機構部10の移動端側との間には回動機構部13が設けられ、回動機構部13は、その回動シリンダ14の伸縮動作によって作業部20をオフセット機構部10に対して水平回動するように構成されている。つまり、作業部20は、オフセット機構部10の伝動ケース15の前側の回動支点O''を回動中心として左右方向に移動可能であると共に、動力伝達軸51の回転中心Oを回動支点として水平方向に回動可能である。回動シリンダ14は、一端側が作業部20に枢結されて他端側が連結アーム部材31に枢結されている。このため、回動シリンダ14の伸縮動作を規制した状態で、オフセット機構部10が左右方向に揺動すると、作業部20の作業方向を示す作業方向軸O2の向きを一定にしたままで、作業部20をオフセット移動させることができる。
【0018】
このように接続された作業部20は、旧畦の側部等を切り崩して旧畦に撥ね上げて土盛りを行う前処理体21と、盛られた土を旧畦上に塗り付けて新畦を形成する整畦体40とを有しており、前処理体21は、図3(底面図)に示すように、前処理ロータ22を備える。前処理ロータ22は、回転軸23とこれに取り付けられて放射状に延びる複数の耕耘爪24、はき出し爪25と、耕耘爪24及びはき出し爪25の上部を覆うカバー26とを有してなり、オフセット機構部10の後端側から下方へ延びる駆動軸ケース11に接続された前処理動力伝達ケース52に支持されている。前処理動力伝達ケース52は駆動軸ケース11から前側に延び、前処理体21のカバー26は装着部5の下部に設けられたギアボックス6より下方位置に配置されている。
【0019】
整畦体40は、図4(断面図)に示すように、前処理動力伝達ケース52の中間部に取り付けられた整畦動力伝達ケース54に支持されており、整畦動力伝達ケース54の先端部に回転動自在に取り付けられた多面体ドラム41と、多面体ドラム41の右側端部に取り付けられて横方向に延びる円筒部44とを有してなる。整畦動力伝達ケース54は、前処理動力伝達ケース52の中間部に設けられた分岐ケース53に一端部が接続されて後方側へ延びる腕部54aと、腕部54aの後端側から横方向に延びる支持部54bとを有してなる。整畦動力伝達ケース54は、その殆どが多面体ドラム41の内側位置に配置されている。このため、整畦体40と前処理体21との近接配置が可能となり、作業部20をコンパクトに構成することができる。
【0020】
なお、前述した例においては、図1に示すように、オフセット機構部10を伝動ケース15、リンク部材17を有してなる平行リンク機構と揺動シリンダ16から構成しているが、ユニバーサルジョイント等を介して動力伝達する平行リンクフレームと揺動シリンダ16とから構成しても良い。また、揺動シリンダ16としては、油圧シリンダや電動シリンダ等を使用することができる。
【0021】
次に、作業部20の前処理体21及び整畦体40に動力を伝達する動力伝達機構部について説明する。動力伝達機構部50は、図4に示すように、動力伝達軸51と、動力伝達軸51からの動力を前処理体21及び整畦体40に伝達する第1伝達機構部60と、第1伝達機構部60に伝達された動力の一部を取り出す動力分岐部65と、動力分岐部65からの動力を整畦体40に伝達する第2伝達機構部70とを有してなる。
【0022】
第1伝達機構部60は、軸伝動機構であり、前処理動力伝達ケース52内に回転動自在に支持されて水平方向に延びる前処理動力伝達軸61を備える。前処理動力伝達軸61の一端側はギヤ機構62を介して動力伝達軸51からの動力を伝達可能に連結され、前処理動力伝達軸61の他端側は前処理ロータ22の回転軸23に連結されている。前処理動力伝達軸61の先端部に回転軸23が前処理動力伝達軸61と同軸上に取り付けられている。このため、動力伝達軸51が回転動すると、動力伝達軸51からの動力が前処理動力伝達軸61を介して回転軸23に伝達されて、前処理ロータ22を回転させることができる。
【0023】
動力分岐部65は、軸伝動機構であり、前処理動力伝達ケース52の中間部に分岐して形成された分岐ケース53内に収容されており、前処理動力伝達軸61に取り付けられた第1かさ歯車66と分岐ケース53内に回転動自在に支持された分岐伝達軸67と、この分岐伝達軸67に取り付けられて第1かさ歯車66と歯合する第2かさ歯車68とを有してなる。動力分岐部65は整畦体40の多面体ドラム41の内側に配置されるとともに、分岐伝達軸67の先端部は多面体ドラム41の内部に配置されている。
【0024】
第2伝達機構部70は、分岐ケース53の先端部に取り付けられた整畦動力伝達ケース54の腕部54a内に設けられたチェーン伝動機構71と、腕部54aの先端部から整畦体40の回転軸42側へ延びる支持部54b内に設けられた軸伝動機構72とを有してなる。腕部54aは多面体ドラム41の内側端部から中央部側へ延びる。支持部54b内には水平方向に延びる伝動軸73が回転動自在に支持され、この先端部に整畦体40の回転軸42が伝動軸73と同軸上に連結されている。このため、動力伝達軸51に伝達された動力は、第1伝達機構部60→動力分岐部50→第2伝達機構部70を介して整畦体40の回転軸42に伝達されて、整畦体40を回転させることができる。
【0025】
次に、動力伝達軸51、前処理体21及び整畦体40の位置関係について説明する。動力伝達軸51は、整畦体40の回転中心軸と前処理体21の回転中心軸との交点O'を通る垂直軸心と同軸上に配置されている。そして動力伝達軸51が作業部20の回動支点Oになっている。つまり、平面視において、作業部20の回動支点Oは、整畦体40の回転中心軸と前処理体21の回転中心軸との交点O'上に配置されている。そして、前処理体21及び整畦体40は、整畦体40の回転中心軸と前処理体21の耕耘爪24等の延びる方向との成す角度が鋭角(例えば、10°〜30°程度とし、好ましくは25°)になる位置に配置されている。
【0026】
このように、作業部20の回動支点Oを平面視において整畦体40及び前処理体21の回転中心軸上に設け、動力伝達機構部50の動力分岐部65を回動支点Oよりも前述した走行機体90の進行方向前側に設けることにより、作業部20を構成する前処理体21及び整畦体40やこれらに動力を伝達する動力伝達機構部50をより走行機体側に配置することができ、作業部20の重心位置をより走行機体側に移動させることができる。このため、図1に示すように、オフセット機構部10を後方側へ延ばし、作業部20の作業方向軸O2をオフセット機構部10に沿わせて畦塗り作業機1を格納移動状態にしたときの畦塗り作業機1の重心位置をより走行機体側に移動させることができる。従って、移動時における走行機体90と畦塗り作業機1との前後バランスを向上させることができる。
【0027】
また整畦体40及び前処理体21の各回転中心軸の交点O'を作業部20の回動支点Oにすることで、作業時においてオフセット機構部10が移動して作業部20と走行機体90との距離が変化しても前処理体21及び整畦体40の重心位置は回動支点Oの回りを一定の半径で移動するので、畦塗り作業機自体の姿勢を不安定にする度合いをより抑制することができる。このため、畦塗り作業時において精度の良い畦塗り整形作業を行うことができる。
【0028】
また図4に示すように、整畦体40と前処理体21の回転中心軸の交点Oを通る垂直軸心と同軸上に動力伝達軸51を配設することにより、作業部20を回動させる前述した回動機構13と作業部20に動力を伝達する動力伝達機構部50の部品の共用化が可能になり、作業部20を小型軽量化することができる。
【0029】
さらに前処理ロータ22に連結された前処理動力伝達軸61は動力伝達軸51に動力伝達可能に連結されて進行方向前側に延び、前処理動力伝達軸61に設けられた動力分岐部65を介して整畦体40が動力伝達されることにより、前処理体21及び整畦体40に動力を伝達する動力伝達機構部50の一部を前処理動力伝達軸61によって共用することができ、動力伝達機構部50の構造を小型化することができる。
【0030】
また動力分岐部65が多面体ドラム41の内側に配置され、第2伝達機構部70が多面体ドラム41内に配置されることにより、スペースを有効活用し前処理体21と整畦体40との近接配置が可能になり、作業部20をより小型化することができる。また前処理体21と整畦体40とのなす角度を調整することで、前処理体21の径を小さくしても、従来と略同様の精度で畦塗り作業を行うことができる。
【符号の説明】
【0031】
1 畦塗り作業機
5 装着部
10 オフセット機構部
20 作業部
21 前処理体
40 整畦体
50 動力伝達機構部
51 動力伝達軸
65 動力分岐部
90 走行機体
O 回動支点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体に装着される装着部と、
該装着部から左右方向に移動可能なオフセット機構部と、
該オフセット機構部の移動端側に設けられた回動支点を中心として、水平方向に回動可能に配設された前処理体及び整畦体を有する作業部と、
前記走行機体から伝達される動力によって前記前処理体及び前記整畦体を回転駆動させる動力伝達機構部とを備えてなる畦塗り作業機において、
前記前処理体は回転軸と該回転軸に放射状に取付られる耕耘爪とを備え、
前記回動支点は平面視において前記整畦体の回転中心軸上に設けられ、
平面視において、前記整畦体の回転中心軸の方向と前記前処理体における前記耕耘爪の取付方向との成す角度が鋭角となるように配置されていることを特徴とする畦塗り作業機。
【請求項2】
平面視において、前記整畦体の回転中心軸の方向と前記前処理体における前記耕耘爪の取付方向との成す角度が10°〜30°であることを特徴とする請求項1記載の畦塗り作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−50462(P2012−50462A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−266252(P2011−266252)
【出願日】平成23年12月5日(2011.12.5)
【分割の表示】特願2010−121408(P2010−121408)の分割
【原出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【出願人】(390010836)小橋工業株式会社 (198)
【Fターム(参考)】