説明

畦塗り機

【課題】新畦内部や畦際表面も締圧して堅牢な畦を形成するとともに、漏水しにくい畦を形成する畦塗り機を提供する。
【解決手段】畦塗り機1は、走行機体90に装着され、この走行位置に対して側方にオフセットした位置に配置され、旧畦Kを切り崩して土盛りを行う前処理部11と盛られた土を旧畦上に塗り付ける整畦部60を備える。前処理部11は、回転自在に支持されて進行方向に沿って延びる耕耘軸12と、耕耘軸12に設けられ耕耘軸12とともに回転する複数の耕耘爪17と、複数の耕耘爪17よりも耕耘軸12の軸心方向後側に延びる耕耘軸12に設けられて耕耘軸12とともに回転し、耕耘爪17によって切り崩された旧畦Kの耕耘跡の表面に盛られた土を、耕耘跡の法面から畦際表面にわたって接触して締め付ける耕耘跡締圧装置30を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畦塗り機に関し、特に、旧畦を切り崩して土盛りを行う前処理部及び盛られた土を切り崩された旧畦上に塗り付ける整畦部を備えてなる畦塗り機に関する。
【背景技術】
【0002】
このような畦塗り機は、例えば、トラクタ等の走行機体の前進動とともに畦に沿って進行しながら、進行方向に沿って回転自在に支持された耕耘軸の外周面に耕耘軸の軸方向に所定距離をおいて突設された複数列の耕耘爪を備える前処理部によって旧畦を切り崩した畦塗り用の土を跳ね上げ、この跳ね上げられた盛土を整畦部によって旧畦に塗り付ける構成が採用されている。
【0003】
しかしながら、この畦塗り機では、地方により相違する畦の土質や天候等の作業条件によっては、旧畦と盛土との結着性が弱くなり強固な畦が形成されない等、必ずしも満足した整畦作業を行うことができない場合があった。
【0004】
そこで、回転自在に支持されて進行方向に沿って延びる取付軸に複数の掻上爪を放射状に設けた盛土機構と、畦の一方側面を整畦可能な略円錐状の外周面を有する整畦ロール体及び畦の上面と畦の一方側面上部を同時整畦可能な整畦体を有して構成される整畦機構と、盛土機構と整畦機構との進行方向中間部に配置されシーソ運動して畦の一方側面を予備整形する予備整畦機構と、を備えた整畦機が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
この整畦機によれば、盛土機構によって旧畦上に土を盛り上げ、この盛り上げられた土を予備整畦機構によって予備的に締圧整畦し、さらに整畦機構によって畦の上面、畦の一方側面、及び畦の基部を締圧整畦する。従って、畦の上面、畦の一方側面、及び畦の基部を確実に締圧整畦して、より強固な畦を形成することができる。
【0006】
また、円錐状の外周面を有し、この外周面に複数の隆起凸部を形成してなる中締部材を回転可能に設け、この中締部材を整畦体により整畦される新畦面よりも旧畦側に配置して、新畦面の内方に位置する盛土を外周面と隆起凸部との回転接触により捏ねるようにして旧畦に締圧する内部締圧機構を備える整畦機も提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
この特許文献2に記載の整畦機によれば、表層部のみ締圧されて内部が締圧不足となり易かったものを内部まで締圧することができ、それだけ盛土全体を締圧して、表層部のみならず内部までも堅牢な畦を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−51704号公報
【特許文献2】特開平10−136708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような従来の整畦機は、新畦の表層部と基部及び内部を締圧することができるが、新畦の基部と耕耘した圃場との境目や、切り崩された旧畦の耕耘跡の表面を締圧することができない。このため、この境目から畦が崩壊して漏水が起こったり、耕耘跡からの漏水が起こり易くなる。
【0010】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、新畦の表層部のみならず、締圧されにくかった新畦の内部や新畦の基部から畦際表面にかけてもしっかり締圧して堅牢な畦を形成するとともに、漏水しにくい畦の形成が可能な畦塗り機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明の畦塗り機は、走行機体に装着され、該走行機体の走行位置に対して側方にオフセットした位置に配置され、旧畦を切り崩して土盛りを行う前処理部及び盛られた土を切り崩された旧畦上に塗り付ける整畦部を備え、走行機体の走行とともに進行して畦塗り作業を行う畦塗り機において、前処理部は、回転自在に支持されて進行方向に沿って延びる耕耘軸と、耕耘軸に設けられ耕耘軸とともに回転する複数の耕耘爪と、複数の耕耘爪よりも耕耘軸の軸心方向後側に延びる耕耘軸に設けられて耕耘軸とともに回転し、耕耘爪によって切り崩された旧畦の耕耘跡の表面に盛られた土を、耕耘跡の法面から畦際表面にわたって締め付ける耕耘跡締圧手段(実施の形態における耕耘跡締圧装置30,41,45)とを備えることを特徴とする(請求項1)。
【0012】
本発明の「進行方向に沿って延びる」とは、畦塗り機の進行方向と平行に延びる場合や、畦塗り機の進行方向に対して斜めに傾いて延びる場合を含む。
【0013】
本発明の「耕耘爪」は、旧畦や畦際の土を切り崩して耕耘する耕耘爪や、耕耘された土を整畦部側に供給可能な耕耘爪も含まれる。
【0014】
本発明の「畦際表面」とは、前処理部の耕耘爪によって耕耘跡の基部から圃場内部側を切り取った圃場表面を含む。
【0015】
本発明の「耕耘跡締圧手段」は、前処理部の耕耘軸とともに回転し、耕耘跡の法面から畦際表面にわたって耕耘跡の表面に盛られた土を締め付けるものである。具体的には、耕耘跡締圧手段は、耕耘軸に取り付けられて該耕耘軸とともに回転する支持部の先端部に、該支持部の回転に伴って土の締め付け作用を行う締付部を備えていることを特徴とする(請求項2)。
【0016】
本発明の「土の締め付け作用を行う締付部」とは、耕耘跡の表面に盛られた土を締付しろを持って耕耘跡に塗り付けるものであり、具体的には、締付部は、その回転方向前側に対して後側が締付しろを有するように延びる板状の接触部(実施の形態における接触板部32a)を備える(請求項4)。
【0017】
本発明の「接触部」は、その回転方向前側が耕耘軸に固定され、後側が開放されたもの、回転方向前側及び後側が固定されたもののいずれでもよい。接触部は、直線状に延びるもの、湾曲するもの、直線部材を複数段に折り曲げたもののいずれでもよい。
【0018】
また本発明の締付部の回転軌跡の最大回転半径は、耕耘軸に設けられた複数の耕耘爪のうちの最大回転半径を有する耕耘爪の回転半径よりも小さいことを特徴とする(請求項3)。
【0019】
このようにすると、切り崩された旧畦の耕耘跡の表面に盛られた土を締付部によって確実に締圧して、耕耘跡の表面や畦際表面に強固に締め付けられた土の層を形成することができる。
【0020】
また本発明の締付部の接触部は、進行方向に対して傾斜角を有して設けられていることを特徴とする(請求項5)。
【0021】
本発明の「進行方向に対して傾斜角を有して」とは、締付部の接触部が進行方向に対して傾いていることをいい、具体的には、締付部の接触部の進行方向前側が後側に対して外側に傾斜している場合や、接触部の進行方向前側が後側に対して内側に傾斜している場合も含まれる。
【0022】
また本発明の前処理部は、この耕耘軸が進行方向に対して傾斜角を有して設けられていることを特徴とする(請求項6)。
【0023】
本発明の「進行方向に対して傾斜角を有して」とは、前処理部の耕耘軸が進行方向に対して傾いていることをいい、具体的には、耕耘軸の進行方向前側が後側に対して外側に傾斜している場合や、耕耘軸の進行方向前側が後側に対して内側に傾斜している場合も含まれる。
【0024】
このように、前処理部の耕耘軸が進行方向に対して傾斜角を有し、また締付部の接触部を進行方向に対して傾斜角を有して設けることで、前処理部に設けられた耕耘跡締圧手段を進行方向に対して傾斜させることができる。従って、進行方向に対して非傾斜の耕耘跡締圧手段と比較して、耕耘跡締圧手段の回転接触面積を大きくすることができ、旧畦の耕耘跡の表面に盛られた土を、より大きな力で耕耘跡の法面から畦際表面にわたって締め付けることができる。また接触部の圧力差によって締め付けられた土の結着性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、前処理部は、回転自在に支持されて進行方向に沿って延びる耕耘軸に設けられた複数の耕耘爪と、これらの耕耘爪よりも耕耘軸の軸心方向後側に延びる耕耘軸に設けられて耕耘軸とともに回転し、耕耘爪によって切り崩された旧畦の耕耘跡の表面に盛られた土を、耕耘跡の法面から畦際表面にわたって締め付ける耕耘跡締圧手段とを備えることで、耕耘跡締圧手段によって耕耘跡の法面から畦際表面にわたって盛られた土を締め付け、この締め付けられた土の層の上にさらに盛られた土を整畦部によって締め付ける。このため、耕耘跡の法面上には締め付けられたた土の層が2層形成され、畦の内部まで固められた堅牢な新畦を形成することができる。従って、もしも代掻き作業時の水波等によって新畦の表面の層が崩れたとしても内側の層が残っているので、漏水を防止することができる。また耕耘跡締圧手段によって新畦の基部から畦際表面にかけても締め付けられた土の層が形成されるので、畦際表面からの漏水を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施の形態に係わる畦塗り機に設けられる前処理部を備える作業部の平面図を示す。
【図2】本発明の一実施の形態に係わる前処理部を示し、同図(a)は図1のIa−Ia矢視に相当する前処理部の側面図を示し、同図(b)は図1のIb矢視に相当する前処理部の側面図を示す。
【図3】本発明の一実施の形態に係わる前処理部及び整畦部により新畦が形成される過程を説明するための畦の断面図を示す。
【図4】本発明の一実施の形態に係わる畦塗り機によって形成される新畦の断面図と、比較対象の作業部によって形成される新畦の断面図を示す。
【図5】本発明の一実施の形態に係わる畦塗り機に設けられる他の前処理部を備えた作業部の平面図を示す。
【図6】本発明の一実施の形態に係わる他の前処理部の側面図を示す。
【図7】本発明の一実施の形態に係わる他の前処理部を示し、同図(a)は図5のVa−Va矢視に相当する他の前処理部の側面図を示し、同図(b)は図5のVb矢視に相当する他の前処理部の側面図を示す。
【図8】本発明の一実施の形態に係わる他の前処理部及び整畦部により新畦が形成される過程を説明するための畦の断面図を示す。
【図9】本発明の一実施の形態に係わる他の前処理部の側面図を示す。
【図10】本発明の他の実施の形態に係わる畦塗り機に設けられる前処理部を備えた作業部を示し、同図(a)は作業部の平面図であり、同図(b)は作業部によって形成される新畦の断面図である。
【図11】本発明の一実施の形態に係わる前処理部と比較対象構造の前処理部の構造及び機能を比較説明するための図を示し、同図(a)は比較対象構造の前処理部を備えた作業部の平面図であり、同図(b)は比較対象構造の前処理部の機能を説明するための畦の断面図であり、同図(c)は比較対象構造の前処理部を備えた作業部により形成される新畦の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係わる畦塗り機の最良の形態を図1から図10に基づいて説明する。なお、畦塗り機には、各種のものがあり、本願発明はこれらの各種の畦塗り機に対応可能であるので、本願発明の要部である前処理部及び整畦部を備えた作業部のみを記載した図面を用いて、畦塗り機を説明する。
【0028】
畦塗り機1は、図1(平面図)に示すように、走行機体90の後部に装着され、走行機体90の走行位置に対して側方にオフセットした位置に移動されて、走行機体90からの動力を受けて畦塗り作業を行なう作業部10を備える。
【0029】
作業部10は、切り崩した土の土盛りを行なう前処理部11と、盛られた土を切り崩された旧畦上に塗り付ける整畦部60とを有してなる。作業部10は、畦塗り機1に設けられたオフセット機構部の揺動に拘わらずに作業部10の作業方向が走行機体90の進行方向Aと平行になるようにオフセット機構部の移動端側に回動自在に保持される。
【0030】
オフセット機構部の移動端側には垂直方向に延びる主軸が回転自在に支持され、この主軸は走行機体90からの駆動力を受けて回転する。この主軸には、主軸及び前処理部11間を繋ぐ動力伝動機構と、主軸及び整畦部60間を繋ぐ動力伝動機構が接続されている。このため、前処理部11及び整畦部60は、主軸及び動力伝動機構を介して走行機体90から駆動力が伝達されて回転駆動する。
【0031】
整畦部60は、進行方向に対して左右方向に回転自在に支持された回転軸61に取り付けられた多面体ドラム62と、多面体ドラム62の右側端部に取り付けられて左右方向に延びる円筒部63とを有して、オフセット機構部の移動端側に支持される。
【0032】
前処理部11は、図1、図2(a)(図1のIa矢視図)、図2(b)(側面図)に示すように、オフセット機構部の移動端側に支持される。前処理部11の回転軸となる耕耘軸12は、畦塗り機1の進行方向Aと略平行に延びて回転自在に支持されて、主軸に繋がる動力伝達機構に接続されている。このため、主軸が回転すると、動力伝達機構を介して前処理部11が回転する。
【0033】
前処理部11は、後述する耕耘爪17、掬い爪21、締付部32の先端部が旧畦Kに対向した位置にあるときに、これらの先端部が旧畦Kの上部から下部側へ移動する矢印X方向、即ちダウンカット方向に回転する。
【0034】
前処理部11は、前述した耕耘軸12と、耕耘軸12の外周に放射状に取り付けられて耕耘軸12とともに回転する複数の耕耘爪17と、複数の耕耘爪17よりも耕耘軸12の軸心方向後側に設けられた掬い爪21と、掬い爪21よりも耕耘軸12の軸心方向後側に設けられた耕耘跡締圧装置30とを有してなる。
【0035】
耕耘爪17は、耕耘軸12の前側から後側に所定距離を有して2列に配設され、各列毎に耕耘軸12の周方向に180度の位相差を有して2本の耕耘爪17が取り付けられている。耕耘爪17は、耕耘軸12の外周に突設されたホルダ12aにボルト12b等の締結手段を介して着脱可能に取り付けられる。
【0036】
耕耘爪17は、ホルダ12aに取り付けられる取付基部17aから連続して延びる縦刃部17b及び横刃部17cを有し、縦刃部17bから横刃部17cにかけて回転方向と逆向きに弯曲するとともに、横刃部17cが縦刃部17bに対して一側方に弯曲して内側にすくい面17dを形成している。本実施例では、横刃部17cは進行方向後側に湾曲している。縦刃部17b及び横刃部17cのそれぞれには、略一定幅を有した刃縁部17eが形成されており、この刃縁部17eは片刃である。
【0037】
この耕耘爪17が回転すると、縦刃部17bから土中に突入して土を進行方向に対して左右方向に切断するとともに、横刃部17cが土中に突入して土を前後方向に所定幅で切削して耕起し、この耕起された土は、横刃部17cのすくい面17dで抱きかかえられて、横刃部17cが土中から抜け出た後に旧畦側に放てき反転される。
【0038】
これらの耕耘爪17は、耕耘軸12の軸方向前側の耕耘爪17の回転半径Rfが軸方向後側の耕耘爪17の回転半径Rrよりも小さくなるように構成されている(図1参照)。このため、畦塗り作業時における耕耘抵抗が確実に分散されて、耕耘振動を比較的に小さくすることができ、安定した畦塗り作業を行うことができる。2列目の耕耘爪17は1列目の耕耘爪17に対して位相が約90度ずれて配設されている。なお、この位相のずれは90度に限るものではなく、同位相や90度よりも小さくてもよい。
【0039】
これらの耕耘爪17よりも後方側に掬い爪21が設けられている。掬い爪21は、その基端側が耕耘軸12に突設されたホルダ12aに取り付けられた基部から連続的に延びる爪本体部21aと、この爪本体部21aの先端部の回転方向前側縁部にこの縁部に沿って取り付けられた掬い板部21bを有してなる。掬い爪21は、耕耘爪17と同様にボルト12bを介してホルダ12aに着脱可能に取り付けられている。
【0040】
爪本体部21aは、前処理部11の回転方向と同一方向に弯曲し、その先端側の回転方向前側縁部には所定幅を有した取付面部が形成されている。この取付面部は回転方向と同一方向に弯曲し、この取付面部に掬い板部21bが取付面部に沿って湾曲した状態で取り付けられている。このため、掬い爪21は、土を抱えるようにして搬送し、掬い板部21bがその回転域の上部に達した後に抱えた土を旧畦側に放てきする。
【0041】
この掬い板部21bは、耕耘爪17の作用域の回転後方側に配置されている(図2(a)参照)。作用域とは、耕耘爪17の回転時における縦刃部17b及び横刃部17cの回転領域をいい、本実施例では、掬い板部21bは、作用域を有する耕耘爪17の回転後方側に配設されるとともに、平面視において作用域の一部に掛かるように配設されている(図1参照)。このため、畦塗り機1の前進にともない耕耘爪17によって耕耘された土を掬い板部21bが確実に掬い上げることができると共に、掬い板部21bが石等の異物と衝突して発生する振動や損傷する虞も殆どない。なお、掬い板部21bは、前処理部11の平面視において作用域内に全てが収まるように配設されてもよい。
【0042】
また掬い板部21bは、その先端部と耕耘爪17の先端部とが耕耘軸12の軸方向矢視において接近した位置に配置されている(図2(a)参照)。さらに掬い板部21bは、掬い板部21bの先端部の回転軌跡が耕耘爪17の先端部の回転軌跡の内側になるように、耕耘爪17の横刃部17cの延長線E上に配設されている(図2(a)参照)。
【0043】
このように、掬い爪21の掬い板部21bは、その先端部と耕耘爪17の先端部とが耕耘軸12の軸方向矢視において接近した位置に配置され、また掬い板部21bの先端部の回転軌跡が耕耘爪17の先端部の回転軌跡の内側になるように、耕耘爪17の横刃部67bの延長線E上に配設されているので、圃場内に比較的に大きな石等の異物が存在している場合、前処理部11の回転時に耕耘爪17に異物が当たっても、掬い爪21には異物が当たりにくくなって、掬い爪21の損傷を抑制している。
【0044】
掬い爪21よりも耕耘軸12の軸心方向後側の耕耘軸12には、前述した耕耘跡締圧装置30が設けられている。耕耘跡締圧装置30は、耕耘軸12と同軸上に取り付けられた円板状の支持部31と、支持部31の周縁部に周方向に所定間隔を有して配設された複数の締付部32を有してなる。
【0045】
締付部32は、板金等の板状部材で形成され、支持部31の周縁部外側に沿って配置される接触板部32aと、接触板部32aの一方側端部から屈曲して支持部31側へ延びる取付部32bとを有してなる。接触板部32aは外側が凸状に湾曲し、接触板部32aの回転方向前端部は支持部31の周縁部に接するように配置され、接触板部32aの回転方向後側は後側に進むに従って支持部31の周縁部から離反する方向に延びる。このため、接触板部32aの回転方向前端部と後端部との間には、盛られた土を締め付けるための締付しろSが形成されている。この締付しろSは、詳細は後述するが、前処理部11の耕耘爪17によって切り崩された旧畦Kの耕耘跡Ka(図3(a)参照)の法面Ka1や耕耘跡Kaの畦際表面Ka2に盛られた土を接触板部32aが締め付ける際の締め付け幅となる。
【0046】
取付部32bは、接触板部32aの回転方向後側端よりも前側の位置から接触板部32aの回転方向前端部に渡って形成されている。取付部32bの回転方向両側にはボルト等の締結手段を通すための貫通孔が設けられている。取付部32bは支持部31の前面に対向するように配置され、貫通孔に挿通されたボルト34によって支持部31に締結されて固定される。締付部32が支持部31に固定されると、接触板部32aの表面は耕耘軸12の軸方向と略平行になる(図1参照)。
【0047】
また締付部32は、支持部31に固定された状態で、締付部32の回転軌跡の最大回転半径R1が耕耘軸12に設けられた耕耘爪17の最大回転半径R2よりも小さくなる位置に構成されている(図1参照)。即ち、締付部32は、接触板部32aの回転方向後端部の回転軌跡の半径R1が耕耘軸12に設けられた耕耘爪17の最大回転半径R2よりも小さくなる位置に配置されている。
【0048】
このように構成された畦塗り機1によって畦塗り作業を行うと、図3(a)に示すように、前処理部11の耕耘爪17が旧畦Kを切り崩すとともに、旧畦Kの畦際の表面を切削して耕耘する。耕耘爪17によって切り崩されて耕耘された土は、耕耘爪17の進行方向後側に配設された掬い爪21によって掬い上げられて切り崩された旧畦Kの耕耘跡Kaに土盛りされる。
【0049】
旧畦Kの耕耘跡Kaに土盛りされた土は、図3(b)に示すように、耕耘跡締圧装置30の締付部32の接触板部32aによって耕耘跡Kaの法面Ka1から畦際表面Ka2にわたって締め付けられる。従って、耕耘跡Kaの法面Ka1及び畦際表面Ka2に締め付けられた土の層(以下、「内側層35」と記す。)が側面視において円弧状に形成される。
【0050】
また旧畦Kの耕耘跡Kaに土盛りされた土は、図3(c)に示すように、整畦部60によって耕耘跡Kaの法面Ka1と旧畦Kの頂面に接触して締め付けられて、内側層35の法面と旧畦Kの頂面に、締め付けられた土の層(以下、「外側層37」と記す。)が形成された新畦Nができあがる。
【0051】
この新畦Nは、その法面側の内部に内側層35が形成され、内側層35の表面に外側層37が積層するように構成されている。また新畦Nの畦際の表面には、新畦Nの法面内側に形成された内側層35が延出するようにして、畦際の表面に内側層35が形成されている。このため、耕耘跡Kaの法面Ka1上には締め付けられた土の層が2層形成されて、畦の内部まで固められた堅牢な新畦Nが形成されることになる。
【0052】
さて、図11(a)(平面図)には、本願の前処理部11と比較対象構造を持つ前処理部71を備えた作業部70が示されている。この前処理部71は、前述した前処理部11から耕耘跡締圧装置30を除いたものであり、その他の構造は前処理部11と同様である。このため、前処理部71は、前処理部11と同一態様部分については同一符号を附してその説明を省略する。
【0053】
この比較対象構造の前処理部71を備えた作業部70は、図11(b)に示すように、前処理部71がダウンカット方向(矢印X方向)に回転すると、耕耘爪17が旧畦Kを切り崩すとともに、旧畦Kの畦際の表面を切削する。耕耘爪17によって切り崩された土は、耕耘爪17の進行方向後側に配設された掬い爪21によって掬い上げられて切り崩された旧畦Kの耕耘跡Kaに土盛りされる。
【0054】
旧畦Kの耕耘跡Kaに土盛りされた土は、図11(c)に示すように、整畦部60によって耕耘跡Kaの法面Ka1と旧畦Kの頂面に締め付けられて、耕耘跡Kaの法面Ka1と旧畦Kの頂面に、外側層37を形成した新畦N'ができあがる。
【0055】
このように、比較対象構造の前処理部71によって形成された新畦N'は、図4(a)の左側図に示すように、耕耘跡Kaの法面Ka1と旧畦Kの頂面に締め付けられた外側層37が形成されるが、圃場条件等によっては外側層37の結着性が弱くなる場合がある。この場合には、代掻き作業時の水波等によって、図4(b)の左側図に示すように、外側層37が耕耘跡Kaの法面Ka1からずれ落ちて、新畦N'の法面Ka1の上部から圃場内の水が漏れ出す虞が生じる。
【0056】
また、新畦N'の底部にモグラやねずみ等が作った穴80や通路81が存在する場合、比較対象構造の前処理部71によって新畦N'が形成されても、図4(c)の左側図に示すように、外側層37は新畦N'の畦際には形成されないので、モグラ等の通路81を塞ぐことができない。また耕耘跡底面は耕耘爪にて切削されたままのため、通路81を介して、あるいは畦際よりも圃場側の耕耘跡から圃場内の水が外部に漏れ出す虞が生じる。
【0057】
一方、本願の前処理部11によれば、この前処理部11によって形成された新畦Nは、図4(a)の右側図に示すように、耕耘跡Kaの法面Ka1上に締め付けられた内側層35及び外側層37の土の層が2層形成されている。このため、圃場条件等によって外側層37の結着性が弱く、代掻き作業時の水波等によって、図4(b)の右側図に示すように、この外側層37がずれ落ちても、耕耘跡Kaの法面Ka1上には内側層35が残っている。従って、圃場内の水が新畦Nの上部から漏れ出す虞はない。
【0058】
また、旧畦Kの底部にモグラやねずみ等が作った穴80や通路81が存在する場合でも、本願の前処理部11は、新畦Nの上部から畦際表面さらには圃場側の耕耘跡表面にかけて締め付けられた内側層35が形成されているので、この内側層35によってモグラ等の通路81を塞ぐことができる。このため、通路81を介してあるいは耕耘跡から圃場内の水が外部に漏れ出す虞を防止することができる。
【0059】
なお、前処理部は前述した構造に限るものではなく、例えば、図5及び図6に示すようなものでもよい。即ち、前処理部40は、耕耘軸12に耕耘軸12の軸心方向に2列に配設された複数の耕耘爪17と、2列目の耕耘爪17よりも耕耘軸12の軸心方向後側に配設されて耕耘爪17によって削られた耕耘跡に盛られた土を押し付ける接触板部41b及び耕耘爪17によって耕耘された土を旧畦側に供給する掬い板部41cを備える耕耘跡締圧装置41とを有して構成される。
【0060】
この耕耘跡締圧装置41は、耕耘軸12に突設されたホルダ12aに取り付けられる取付基部から連続的に延びる爪本体部41aと、この爪本体部41aの先端部に取り付けられた接触板部41b及び掬い板部41cを備える。
【0061】
爪本体部41aは、耕耘爪17と同様にボルト12bを介してホルダ12aに取り付けられる。爪本体部41aは、前処理部40の回転方向と同一方向に弯曲し、その先端側は耕耘軸12の回転方向前側及び後側へ2股に分かれて延びる前側延長支持部41a1及び後側延長支持部41a2を有して形成されている。
【0062】
前側延長支持部41a1及び後側延長支持部41a2の先端部には、これらに渡って前処理部40の回転方向に沿って延びる接触板部41bが取り付けられている。接触板部41bは、板金等の金属材料で形成された板状部材であり、接触板部41bの回転方向前側に対して後側が前処理部40の径方向外側に位置するように前側延長支持部41a1及び後側延長支持部41a2に取り付けられて、接触板部41bの回転方向前端部と後端部との間に締付しろSが形成されている。
【0063】
前側延長支持部41a1の回転方向前側端面には、この前側延長支持部41a1の延びる方向に沿って延びる掬い板部41cが設けられている。この掬い板部41cは、側面視において、前処理部40の径方向外側に移動するに従って回転方向前側に延びるように傾いている。このため、掬い板部41cは、土を抱えるようにして搬送し、掬い板部41cがその回転域の上部に達した後に抱えた土を旧畦側に放てきすることができる。
【0064】
掬い板部41cの回転方向前端部は、前述した接触板部41bの回転方向前端部を覆うようにして近接配置されている。このため、前処理部40の回転時に、接触板部41bの先端側の内面に土が接触して接触板部41bが変形する事態を防止している。
【0065】
接触板部41b及び掬い板部41cを取り付けた爪本体部41aは、耕耘軸12に対して所定の位相差を有して複数設けられる。図6には、2本の爪本体部41aが180度の位相差を有して設けられた場合を示し、図7(b)には、4本の爪本体部41aが90度の位相差を有して設けられた場合を示している。なお、爪本体部41aの本数は、2又は4本に限るものではなく、1本及び3本以上のいずれかでもよい。
【0066】
このように構成された前処理部40がダウンカット方向(矢印X方向)に回転すると、図8(a)に示すように、複数の耕耘爪17が旧畦Kを切り崩すとともに、旧畦Kの畦際の表面を切削する。耕耘爪17によって切り崩された土は、図8(b)に示すように、耕耘爪17の進行方向後側に配設された耕耘跡締圧装置41の掬い板部41cによって掬い上げられて切り崩された旧畦Kの耕耘跡kaに土盛りされる。
【0067】
旧畦Kの耕耘跡Kaに土盛りされた土は、耕耘跡締圧装置41の接触板部41bによって締め付けられて、旧畦Kの耕耘跡Kaの法面Ka1や耕耘跡Kaの畦際表面Ka2に、締め付けられた内側層35が形成される。また、旧畦Kの耕耘跡Kaに土盛りされた土は、図8(c)に示すように、整畦部60によって耕耘跡Kaの法面Ka1と頂面に接触して締め付けられる。従って、耕耘跡Kaの法面Ka1と頂面に締め付けられた外側層37を形成した新畦Nが形成される。
【0068】
このように、1本の爪本体部41aに土を放てき可能な掬い板部41cと土を締め付け可能な接触面部41bを備えることで、前述した図1に示す掬い爪21と耕耘跡締圧装置30を耕耘軸12に別個に設けた前処理部11と比較して、部品点数が少なくなってコストの低減を図ることができるとともに、前処理部40をコンパクト化することができる。
【0069】
なお、耕耘跡締圧装置45は、図9(側面図)に示すようなものでもよい。この耕耘跡締圧装置45は、先端側が回転方向前側に屈曲する爪本体部41aの先端部の回転方向前面側に前述した掬い板部41cを設け、爪本体部41aの先端部に回転方向後側へ延びる揺動規制板46を設け、この揺動規制板46の外側に接触板部45bを設けて構成されている。
【0070】
掬い板部41cは先端側が爪本体部41aの先端から突出するように取り付けられる。掬い板部41cの先端部は、接触板部45bの後述する変形後の位置の近傍に延びる。
【0071】
揺動規制板46は、その回転方向中間部が爪本体部側に屈曲し、その揺動規制板46の回転方向後側は接触板部45bの締付しろSとなる接触板部45bの変形後の位置(以下、変形位置S2と記す。)に沿うように回転方向後方側へ延びる。
【0072】
接触板部45bは、板金等の板状部材であり、接触板部45bの回転方向後側が複数箇所折り曲げられて、先端側から後側に取付基部45b1、アーム部45b2、接触押圧部45b3、逃げ部45b4を有して側面視において外側に凸状に形成されている。取付基部45b1は爪本体部41aの先端部に揺動規制板46とともにボルト12bを介して共締めされる。アーム部45b2は揺動規制板46の外側面に対して回転方向後側に進むにしたがって離反する方向に延びる。
【0073】
アーム部45b2の先端部は接触板部45bの変形前の位置(以下、元位置S1と記す。)に配置され、このアーム部45b2に繋がる接触押圧部45b3は元位置S1に沿って延びる。接触押圧部45b3に繋がる逃げ部45b4は、元位置S1の外側から変形位置S2を超えて耕耘軸12側へ延びる。
【0074】
このため、旧畦の耕耘跡に土盛りされた土に接触板部45bが接触すると、アーム部45b2が弾性変形して揺動規制板46側に揺動し、アーム部45b2が揺動規制板46に接触すると、接触押圧部45bの移動が規制される。従って、土盛りされた土は、接触押圧部45bによって締付しろSの幅で締め付けられる。このため、旧畦の耕耘跡の法面や耕耘跡の畦際表面に締め付けられた内側層35を形成することができる(図3(c)参照)。
【0075】
なお、前述した実施例は、前処理部11の耕耘軸12の延びる方向が進行方向に略平行に延びるように配置された場合を示したが、図10(a)に示すように、耕耘軸12が進行方向Aに進むに従って畦側に傾斜する傾斜角θを有して配置されたものでもよい。本実施例では、耕耘軸12は鋭角(図面では約18度)の傾斜角θを有して配置されている。
【0076】
このように、耕耘軸12を平面視において旧畦側に傾斜して配設すると、耕耘爪17は、旧畦Kに対して斜めに切り込みその方向に土を移動させることになるので、土の流れの方向を整畦部60側にすることができる。このため、石等の異物も逃げやすく過負荷の虞も小さく、整畦部60に供給される土の流れがスムースとなり安定した畦塗り作業を行うことができる。
【0077】
また、耕耘軸12を進行方向Aに対して傾斜角θを有して配設すると、締付部32の接触板部32aも進行方向Aに対して斜めに配置されることになる。従って、前処理部11が回転すると、掬い爪21によって旧畦Kの耕耘跡に土盛りされた土は接触板部32aによって進行方向Aに対して畦の内部側に傾いて押圧されて、耕耘跡の法面と畦際の表面に、斜めに傾いて締め付けられた内側層35が形成される(図10(b)参照)。このとき、非傾斜の接触板部と比較すると、回転による土との接触面積が大きくなるので、より大きな力で土を締め付けることができる。
【0078】
さらには、斜めに傾く接触板部32aが耕耘軸12を回転中心として回転すると、接触板部32aの前側は後側よりも最大回転半径が大きいので畦の内側を移動する。このため、締付しろSが同じであっても接触板部32aの前側による土の締付程度は接触板部32aの後側よりも強くなる。このため、この圧力差を有しながら締め付けられた内側層35自体の結着性も、またその表面に締め付けられる外側層37との結着性もより高めることができる。
【0079】
従って、旧畦Kの耕耘跡Kaに土盛りされた土は、図10(b)に示すように、整畦部60によって耕耘跡Kaの法面Ka1と旧畦Kの頂面に接触して締め付けられる。内側層35の法面と旧畦Kの頂面に、締め付けられた外側層37が形成されて、畦の内部がより強固で堅牢な新畦Nを形成することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 畦塗り機
11、40 前処理部
12 耕耘軸
17 耕耘爪
30、41,45 耕耘跡締圧装置(耕耘跡締圧手段)
31 支持部
32 締付部
32a 接触板部(接触部)
60 整畦部
90 走行機体
K 旧畦
Ka 耕耘跡
Ka1 法面
Ka2 畦際表面
S 締付しろ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体に装着され、該走行機体の走行位置に対して側方にオフセットした位置に配置され、旧畦を切り崩して土盛りを行う前処理部及び盛られた土を切り崩された旧畦上に塗り付ける整畦部を備え、前記走行機体の走行とともに進行して畦塗り作業を行う畦塗り機において、
前記前処理部は、回転自在に支持されて進行方向に沿って延びる耕耘軸と、
前記耕耘軸に設けられ前記耕耘軸とともに回転する複数の耕耘爪と、
前記複数の耕耘爪よりも前記耕耘軸の軸心方向後側に延びる耕耘軸に設けられて前記耕耘軸とともに回転し、前記耕耘爪によって切り崩された旧畦の耕耘跡の表面に盛られた土を、前記耕耘跡の法面から畦際表面にわたって締め付ける耕耘跡締圧手段と
を備えることを特徴とする畦塗り機。
【請求項2】
前記耕耘跡締圧手段は、前記耕耘軸に取り付けられて該耕耘軸とともに回転する支持部の先端部に、該支持部の回転に伴って土の締め付け作用を行う締付部を備えていることを特徴とする請求項1に記載の畦塗り機。
【請求項3】
前記締付部の回転軌跡の最大回転半径は、前記耕耘軸に設けられた複数の耕耘爪のうちの最大回転半径を有する耕耘爪の回転半径よりも小さいことを特徴とする請求項2に記載の畦塗り機。
【請求項4】
前記締付部は、その回転方向前側に対して後側が締付しろを有するように延びる板状の接触部を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の畦塗り機。
【請求項5】
前記締付部の接触部は、進行方向に対して傾斜角を有して設けられていることを特徴とする請求項4に記載の畦塗り機。
【請求項6】
前記前処理部は、この耕耘軸が進行方向に対して傾斜角を有して設けられていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の畦塗り機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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