説明

異形条の加工方法

【課題】板幅両側の厚板部を安定して成形することを可能とする異形条の加工方法を提供する。
【解決手段】断面形状が板厚の厚い厚板部3,3aと板厚の薄い薄板部4がある異形条5で、且つ厚板部3,3aの板厚が0.7mm以下、板幅両側に厚板部3a,3aがある異形条5の加工方法において、平条1から塑性変形で異形加工する際、平条1の両端部板厚が中央部板厚より厚い膨らみ部31,31を有する異形加工用平条30を用いて異形加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートシンク付きリードフレームなどに用いられる異形条の加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
異形断面を有する異形条の加工方法として、切削加工による方法(例えば、特許文献1参照)、ロール圧延や金型圧延による方法(例えば、特許文献2参照)がある。
【0003】
切削加工は、溝を切削により成形する方法で、切削屑が発生するため、切削量が少なく、他の塑性加工方法(ロール圧延、金型圧延)などでは成形が困難な、溝幅が狭く、深さも浅い薄型の異形条、例えば、厚板部の厚さが0.2mm以下、薄板部の厚みが0.1mm以下、薄板部の幅が0.8mmなどの微小溝加工に向いている。
【0004】
しかし、厚板部と薄板部の厚みの差が大きい場合や、薄板部の幅が広い場合などは、切削屑やカッターマークの発生による表面粗さの問題から、ロール圧延などによる加工が向いている。
【0005】
圧延による加工では、図3に示すように、板厚が均一な平条からなる素材1が用いられる。圧延は、図4に示すように、素材1が巻かれたコイルを送り出し装置10に掛け、素材1を圧延機14、巻取り装置11へと移動させることにより行なわれる。
【0006】
圧延機14は、一般的に溝ロール12と平ロール13が組み合わされて構成されており、この溝ロール12と平ロール13により素材1を連続的に圧延することで、幅方向に断面部の厚さの異なる異形条5を加工する。
【0007】
溝ロール12には、図5に示すように溝部15と凸部16とが形成されている。この溝ロール12と平ロール13とで、素材1を圧延することで、溝ロール12の溝部15を通過する部分の板厚は厚い状態に成形され、溝部15以外の凸部16を通過する部分の板厚は薄い状態に成形される。その結果、厚板部3と薄板部4を有する異形条5が成形される。
【0008】
このようにして成形した異形条5は、厚板部3と薄板部4の加工度(加工前後の板厚の変化)が異なる。薄板部4は板厚が薄くなった分、加工度が高く、厚板部3は薄板部4より板厚が厚いため加工度が低い。この加工度の違いは材料強度、硬さの違いをもたらすため、一度、焼鈍を行い、その後、仕上げ圧延を行なう。仕上げ圧延後、規定の幅寸法にスリットし、さらに仕上げ圧延、スリットなどによる有害なひずみ除去のため矯正を行い、製品となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−7834号公報
【特許文献2】特開2000−24742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、厚板部3の厚みが薄く、さらに幅も狭い異形条加工においては、従来技術では、異形条幅両側の厚板部3aの板厚が外側に向かって薄くなるという現象が生じる。これは厚板部のため加工度が小さく、さらに材料は外側に逃げ易いことによる。また溝ロール12の変形などもあり、いわゆるエッジドロップにより板厚が薄くなるためである。
【0011】
図6に目標形状と加工材形状のイメージ図を示す。図6(a)に示すのは、目標形状で、板厚が外側に向かって薄くなる幅両側の厚板部3a,3aの板厚減少はない。しかし、実際の加工では、図6(b)に示すように幅両側の厚板部3a,3aには、板厚減少部19,19が発生し、図6(a)に示す目標形状のような一定の板厚にならない。
【0012】
所定の板厚が確保できないと、リードフレームとして打ち抜き成形、めっきなどの工程で支障が生じ、リードフレームに使用できないなどの問題となる。
【0013】
本発明は、前記問題を解決するべく案出されたものであり、その目的とするところは、板幅両側の厚板部の安定した成形を可能とする異形条の加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するために本発明の異形条の加工方法は、断面形状が板厚の厚い厚板部と板厚の薄い薄板部がある異形条で、且つ厚板部の板厚が0.7mm以下、板幅両側に厚板部がある異形条の加工方法において、平条から塑性変形で異形加工する際、前記平条の両端部板厚が中央部板厚より厚い膨らみ部を有する異形加工用平条を用いて異形加工することを特徴とする。
【0015】
また前記異形加工用平条は、異形加工する圧延機の前段に設けた幅方向圧縮ロールからなる板厚改善装置にて幅方向に圧縮し、幅方向両端部の板厚が中央部板厚より厚くなる膨らみ部を成形して形成され、前記異形加工用平条が前記圧延機で異形加工されるのが好ましい。
【0016】
また前記異形加工用平条は、異形加工する圧延機の前段に設けたロールからなる板厚改善装置にて幅方向両端部が中央部より厚くなる膨らみ部を成形して形成され、前記異形加工用平条が前記圧延機で異形加工されるのが好ましい。
【0017】
また前記異形加工用平条は、幅方向両端部の板厚が中央部板厚より5〜25%厚くなっているのが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の異形条の加工方法によれば、板幅両側の厚板部の安定した成形を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る異形条の加工方法を示す概略図である。
【図2】本発明に用いる異形加工用平条の幅方向の断面図である。
【図3】素材の幅方向の断面図である。
【図4】従来の異形条の加工方法を示す概略図である。
【図5】圧延部における溝ロールと平ロールの状態を示す概略図である。
【図6】異形条のイメージ図で、(a)は目標形状のイメージ図で、(b)は幅両側の厚板部の板厚減少イメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0021】
本実施形態は、図5に示すように断面形状が板厚の厚い厚板部3と板厚の薄い薄板部4がある異形条5で、且つ厚板部3の板厚が0.7mm以下、板幅両側に厚板部3a,3aがある異形条5を塑性変形で異形加工する方法である。
【0022】
図1に素材1から異形条5を加工する異形加工の概略を示す。
【0023】
図1に示すように、異形加工を行う装置は、圧延方向(図示矢印方向)に順に並べて設置された、送り出し装置10、板厚改善装置20、圧延機14、巻取り装置11を備えている。
【0024】
送り出し装置10は、コイル巻きした素材1が掛けられる装置であり、この送り出し装置10から素材1が送り出される。素材1は、異形条5に加工される前の材料であり、図3に示したように板厚が均一な平条が用いられる。
【0025】
圧延機14は、水平な軸心を有する溝ロール12と平ロール13とが上下に組み合わされて構成されており、図示しない駆動装置により溝ロール12と平ロール13は、その水平な軸心まわりに回転駆動される。
【0026】
上方の溝ロール12は、図5に示したように、その外周面が平滑であり、その平滑な面に異形条5の厚板部3,3aを成形する溝15と、異形条5の薄板部4を成形する凸部16とが形成される。溝15は、例えば、水平部と傾斜部で構成され、凸部16は、例えば、傾斜部と水平部で構成される。下方の平ロール13は、その外周面が平滑に形成される。
【0027】
この圧延機14の前段には、板厚改善装置20が設けられる。板厚改善装置20は、素材1の幅方向両端部の板厚が中央部の板厚より厚くなるように成形するための装置である。
【0028】
板厚改善装置20は、例えば素材1の幅方向両側に配置され、素材1の幅両端部を圧縮する一対の幅方向圧縮ロールを回転駆動可能に設けて構成される。或いは素材1の幅方向で上下両面側に配置され、素材1の幅両端部を中央部より厚く成形する上下一対の成形ロールを回転駆動可能に設けて構成される。
【0029】
巻取り装置11は、加工された異形条5をコイル状に巻き取る装置である。
【0030】
この装置を用いて異形条5の異形加工を行う際には、先ず、コイル巻きした素材1を送り出し装置10に掛け、素材1を圧延機14の前段に設けられた板厚改善装置20に連続的に供給する。
【0031】
板厚改善装置20に供給された素材1は、板厚改善装置20の幅方向圧縮ロールによって幅方向に圧縮され、図2に示すように、その幅両端部が中央部32より板厚が厚い膨らみ部31,31を有する異形加工用平条30に成形される。或いは板厚改善装置20の成形ロールによって幅方向両端部が厚くなるように成形され、その幅両端部が中央部32より板厚が厚い膨らみ部31,31を有する異形加工用平条30に成形される。
【0032】
次いで、この異形加工用平条30を圧延機14に供給する。
【0033】
圧延機14に供給された異形加工用平条30は、図5に示すように溝ロール12と平ロール13との間に挟まれて圧延され、溝部15を通過する部分の板厚は厚い状態に成形され、溝部15以外の凸部16を通過する部分の板厚は薄い状態に成形される。その結果、幅両側の厚板部3a,3aと、幅方向に厚板部3と薄板部4とを有する異形条5が成形される。圧延された異形条5は、巻取り装置11によって完成品としてコイル状に巻き取られる。
【0034】
このとき、圧延機14による異形加工では、異形加工用平条30の膨らみ部31,31が、図5に示す異形条5の幅両側の厚板部3a,3aの位置になり、膨らみ部分31,31が圧延によるエッジドロップ量をカバーし、板厚減少を抑えている。そのため、加工上がりの異形条5は、図6(a)に示すように幅両端の厚板部3a,3aの板厚減少が小さく、ほぼ目標形状となる異形加工が可能である。すなわち、幅両端部に膨らみ部31,31を形成して厚くすることで幅両端厚板部3a,3aのエッジドロップ分に対応した量の材料が加工部分に確保でき、圧延を行なっても、板厚減少を抑えることができる。
【0035】
つまり、板厚改善装置20を圧延機14の前段に圧延方向に並べて設置し、板厚改善装置20の幅方向圧縮ロールまたは成形ロールによって、素材1の幅両端部が中央部板厚より厚い膨らみ部31,31を成形した異形加工用平条30を形成することで、異形加工用平条30を圧延機14で圧延するとき、膨らみ部31,31が圧延によるエッジドロップ量をカバーして板厚減少を抑えることができ、幅両端部の厚板部3a,3aの安定した成形が可能となる。
【0036】
実験では、幅両端部の中央部32に対する板厚の増加は5〜25%程度が異形加工で良好な形状となった。異形条の厚板部の厚み、幅、溝数、素材の厚みなどにより異なるが、板厚増加が5%未満の場合、材料の量が不足し、異形圧延後、板幅両側の厚板部3a,3aに幅方向にクラックや、くびれなどが生じ、板厚の改善効果が薄く製品にならない。
【0037】
一方、25%以上の板厚増加では、素材の量が多く、幅方向中央部32に比べて幅両端の膨らみ部31,31の加工度が増加し、厚板部3a,3aの長手方向の伸びが大きくなり、幅位置による長手方向の伸びの違いが大きくなり、局部的なうねりや波打ち状態などの加工材の変形が大きくなり、製品として不適となった。すなわち、素材の量が多くなり、厚板部の長手方向の伸びと薄板部の伸びのバランスが崩れ、厚板部の波打ち現象や、薄板部のクラックなどが発生し、製品として使用できない状態となる。
【0038】
したがって、おおよそ5〜25%程度の板厚増加が幅両端の厚板部3a,3aに対しての板厚改善に有効である。
【0039】
いくつかの実験の結果、板幅両側の厚板部3a,3aの幅が3〜4mm、厚板部3の板厚が0.7mm以下、薄板部4の板厚が0.2mm以下、厚板部3の幅に対し薄板部4の幅が3〜10倍なら、おおよそ、素材板幅両端部の板厚増加は5〜25%で、板幅両側の厚板部3a,3aの成形に支障が生じない。
【0040】
このように本発明によれば、断面形状が板厚の厚い厚板部3と板厚の薄い薄板部4がある異形条5で、且つ厚板部3の板厚が0.7mm以下、板幅両側に厚板部3a,3aがある異形条5の加工方法において、素材1から塑性変形で異形加工する際、素材1の両端部板厚が中央部板厚より厚い膨らみ部31,31を有する異形加工用平条30を用いて異形加工するので、板幅両側の厚板部3a,3aの安定した成形を可能とすることができる。
【0041】
また本発明により、従来方法では板幅両側の厚板部の形状不良が発生していたが、本発明の適応で形状不良が解消でき、安定した加工が可能になった。それにより、リードフレームとしての機能が発揮でき、さらに不良となる材料が減少し、材料、エネルギーの無駄を軽減する効果がある。
【0042】
本実施形態では、溝ロール12と平ロール13とを組み合わせて素材1の片面に断面形状が板厚の厚い厚板部3,3aと板厚の薄い薄板部4がある異形条5の加工方法の例を説明したが、本発明はこの組み合わせに限定されるものではなく、一対の溝ロール12を組み合わせて素材1の両面に断面形状が板厚の厚い厚板部と板厚の薄い薄板部がある異形条の加工方法であっても、同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0043】
1 素材(平条)
3,3a 厚板部
4 薄板部
5 異形条
12 溝ロール
13 平ロール
14 圧延機
20 板厚改善装置
30 異形加工用平条
31 膨らみ部
32 中央部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面形状が板厚の厚い厚板部と板厚の薄い薄板部がある異形条で、且つ厚板部の板厚が0.7mm以下、板幅両側に厚板部がある異形条の加工方法において、
平条から塑性変形で異形加工する際、前記平条の両端部板厚が中央部板厚より厚い膨らみ部を有する異形加工用平条を用いて異形加工することを特徴とする異形条の加工方法。
【請求項2】
前記異形加工用平条は、異形加工する圧延機の前段に設けた幅方向圧縮ロールからなる板厚改善装置にて幅方向に圧縮し、幅方向両端部の板厚が中央部板厚より厚くなる膨らみ部を成形して形成され、前記異形加工用平条が前記圧延機で異形加工される請求項1記載の異形条の加工方法。
【請求項3】
前記異形加工用平条は、異形加工する圧延機の前段に設けたロールからなる板厚改善装置にて幅方向両端部が中央部より厚くなる膨らみ部を成形して形成され、前記異形加工用平条が前記圧延機で異形加工される請求項1記載の異形条の加工方法。
【請求項4】
前記異形加工用平条は、幅方向両端部の板厚が中央部板厚より5〜25%厚くなっている請求項1乃至3のいずれかに記載の異形条の加工方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate