説明

異方形状粉末及びその製造方法

【課題】ニオブ酸塩系KNNbO3−NaNbO3−LiNbO3系結晶配向セラミックス等の製造過程で用いる板状結晶として好適な異方形状粉末とその製造方法を提供する。
【解決手段】NaOH、KOH等の水酸化アルカリ水溶液に、Nb等の酸化物粉末と、界面活性剤とを添加して水熱合成を行い、この反応後得られた生成物を有機溶媒で洗浄し、さらに、洗浄後の生成物を170℃〜700℃で焼成する異方形状粉末の製造方法である。また、この製造方法によれば、長径方向の平均粒子長と厚み方向の平均粒子長の比が2〜20であり、結晶面が(100)面に配向する擬立方晶ペロブスカイト構造を有する異方形状粉末が得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の結晶面が配向する配向粒子からなる異方形状粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、環境保全に対する意識の高まりからPb、Hg、Cd、Cr6+などの重金属有害元素を排除する傾向が高まり、欧州を中心に使用禁止令(RoHS指令)が発令され施行されている。電子材料の高機能化に重要な役割を果たす原材料の酸化鉛(PbO)も、廃棄処理問題に関して、環境問題が懸念されることから、その対象となっている。広くエレクトロニクス・メカトロニクス・自動車等の分野で実用化されている圧電デバイスを構成する圧電材料は、セラミックスを中心として、単結晶や厚膜・薄膜等の多種多様の材料が開発されている。その大部分を占める圧電セラミックスは、Pb系ペロブスカイト型強誘電体セラミックスで、その主流はPbZrO3−PbTiO3(PZT)であり主成分として多量の酸化鉛を含んでいるため、廃棄処理に関して同様の問題を抱えている。
【0003】
この様な状況に鑑み、環境に配慮した無鉛圧電材料の研究は急務かつ、必要不可欠であると考えられ、現在のPZT系圧電セラミックスの性能に匹敵する高性能非鉛系圧電セラミックスの研究開発が世界的な関心を集めている。
【0004】
その中で近年、ニオブ酸塩系KNbO3−NaNbO3−LiNbO3系セラミックスについて、比較的高い圧電特性を有する組成と製法が考え出され、キュリー温度で約250℃、圧電定数d33は400pm/V程度と、実用可能な性能に近いものも得られている(非特許文献1)。
【0005】
特許文献1には、特定の結晶面が配向するNaNbO3等の板状粉末と反応原料を混合し、混合して得られる混合物をシート成形し、得られるシートを複数枚積層して積層体を作製し、その後、積層体の圧延、脱脂、及び静水圧(CIP)処理を行い、酸素中で加熱することにより一般式:ABO3で表される等方性ペロブスカイト型化合物であって、Aサイト元素の主成分がK及び/又はNaであり、Bサイト元素の主成分がNb、Sb及び/又はTaである第1のペロブスカイト型5価金属酸アルカリ化合物を主相とする多結晶体からなり、かつ、この多結晶体を構成する各結晶粒の特定の結晶面が配向している結晶配向セラミックスとその製造方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献1を更に改善し、CIP処理を省略し、量産性も考慮した製造方法も特許文献2に開示されている。
【0007】
一方、特許文献3によれば、板状のチタン酸金属化合物を得る方法として、酸化チタンとA元素(Na,K,Rb,Csからなる群の少なくとも一員の元素)の酸化物、水酸化物もしくは塩と、M元素(Li,Mg,Co,Ni,Zn,Mn(III),Fe(III)からなる群の少なくとも一員の元素)の酸化物、水酸化物、もしくは塩とを、水性媒体中で120〜300℃の反応温度で水熱合成法により調製し、得られた層状チタン酸塩を酸と反応させて板状チタン酸水和物に転換し、さらに板状チタン酸水和物をMg、Ca、Sr、Ba、Pbからなる群の少なくとも一員の酸化物、水酸化物、もしくは塩と加熱下に水性媒体中で反応させる製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−12373号公報
【特許文献2】特開2008−74693号公報
【特許文献3】特開2007−22857号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Y. Saito, H. Takao, T. Tani, T. Nonoyama, K. Takatori, T. Homma,T. Nagaya, and M. Nakamura, "Lead-free piezoceramics", Nature, 432,Nov.4, 84-87 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1、2の技術は、特定の面に配向する板状の結晶をBi化合物を経由して作製している。その反応には多量のNaCl溶融塩を使用する。そのため、反応後のNaClやBiを生成物から取り除くため、多量の水や酸で洗浄する工程が含まれている。具体的には、まず、Bi2.5Na3.5(Nb0.93Ta0.07)518となるような化学量論比で、Bi23粉末、NaHCO3粉末、Nb25粉末、及びTa25粉末を秤量し、湿式混合する。次いで、得られた混合物100重量部に対して、フラックスとしてNaClを80重量部添加し、乾式混合し、次に、得られた混合物を白金るつぼ中で加熱し、Bi2.5Na3.5(Nb0.93Ta0.07)518の合成を行う。その後、反応物を湯洗してフラックスを取り除き、Bi2.5Na3.5(Nb0.93Ta0.07)518粉末を得る。このBi2.5Na3.5(Nb0.93Ta0.07)518粉末は{001}面を配向面(最大面)とする板状粉末である。
【0011】
次に、Bi2.5Na3.5(Nb0.93Ta0.07)518粉末を粉砕し、Bi2.5Na3.5(Nb0.93Ta0.07)518粉末にNaHCO3粉末を加えて乾式混合する。得られた混合物100重量部に対し、フラックスとしてNaClを80重量部添加し、乾式混合する。次に、混合物を白金るつぼ中で温度950℃で8時間加熱し、Na(Nb0.93Ta0.07)O3を合成する。
【0012】
この反応物には、Na(Nb0.93Ta0.07)O3に加えてBi23が含まれているため、反応物を湯洗してフラックスを取り除いた後、Bi23の除去を行う必要がある。即ち、まず、フラックスを除いた後の反応物を2.5NのHNO3中で4時間撹拌し、余剰成分として生成したBi23を溶解させる。次いで、この溶液をろ過してNa(Nb0.93Ta0.07)O3粉末を分離し、温度80℃のイオン交換水で洗浄する。このようにして、Na(Nb0.93Ta0.07)O3粉末からなる異方形状粉末を得ている。
以上のように、板状結晶を得るのに長い工程が必要で、特に洗浄工程で取り除くべき物質が多く製造工程が煩雑であった。
【0013】
また、特許文献3の技術は、水熱合成法を用いて板状粉末を製造する方法に関与している。しかしながら、まず層状のチタン酸塩を得た後、酸と反応させて板状チタン酸水和物に転換し、さらに水酸化バリウム中で加熱反応させるという比較的長い工程が必要であった。ここで水熱合成による反応時間は5〜50時間とあるが、実施例によれば20時間の反応時間を必要としている。このように、水熱合成を用いた場合でも長時間の反応時間が必要であった。
以上のように、先行技術文献では洗浄工程が煩雑で時間も掛かり工業的な製造にはまだ不十分であった。
【0014】
そこで、本発明の目的の一つは、ニオブ酸塩系KNbO3−NaNbO3−LiNbO3系やチタン酸バリウム系等の結晶配向セラミックスの製造過程で用いる板状結晶として好適な特定の結晶面が配向する異方形状粉末とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、特定の結晶面に配向する異方形状粉末を、上記従来技術のようにBi化合物を経由しないで、直接K、Na源から製造する方法を提供するものである。
【0016】
本発明の一態様に係る異方形状粉末の製造方法は、NaOH、KOH等の水酸化アルカリ水溶液に、Nb等の酸化物粉末と、界面活性剤とを添加して水熱合成を行う工程と、反応後得られた生成物を有機溶媒で洗浄する工程と、洗浄後の生成物を170℃〜700℃で焼成する工程と、を有するものである。
【0017】
上記製造方法で用いる酸化物粉末の一つであるNbは、その平均粒径が100nm以上、2000nm未満で、斜方晶系の結晶構造であることが望ましい。
【0018】
また、上記製造方法により得られる本発明の異方形状粉末は、長径方向の平均粒子長と厚み方向の平均粒子長の比が2〜20であり、結晶面が(100)面に配向する擬立方晶ペロブスカイト構造からなるものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、特定の結晶面が配向している結晶配向セラミックスを製造する際に使用する板状結晶をBi化合物を経由する方法等に比べ、簡便に得ることができ、量産に適した異方形状粉末の製造方法と異方形状粉末が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態に係る異方形状粉末の製造方法の例を表す説明図である。
【図2】単斜晶系Nbの基本構造と結晶構造を表す模式図である。
【図3】斜方晶Nbの基本構造と結晶構造を表す模式図である。
【図4】KNaNbO・9HOの推定される構造を表す模式図である。
【図5】界面活性剤を使用しない場合のKNaNbO・9HOのSEM像の例を表す説明図である。
【図6】界面活性剤を使用した場合のKNaNbO・9HOの推定される構造を表す模式図である。
【図7】KNaNbO・9HOの熱重量分析結果を表す説明図である。
【図8】板状結晶を各温度で焼成したときのSEM像の例を表す説明図である。
【図9】板状結晶を各温度で焼成したときのX線回折パターンを表す説明図である。
【図10】板状結晶をシート成形し焼成したときのX線回折パターンの例を表す説明図である。
【図11】本発明の実施例に係る酸化ニオブのSEM像とX線回折パターンの例を表す説明図である。
【図12】本発明の実施例で得られる異方形状粉末のX線回折パターンの例を表す説明図である。
【図13】KNaNbO・9HO(JCPDSカードNo.14−0360)についてのX線回折パターンを表す説明図である。
【図14】本発明の実施例に係る異方形状粉末のSEM像の例を表す説明図である。
【図15】比較例となる製造方法で作製した粉末のX線回折パターンの例を表す説明図である。
【図16】比較例となる酸化ニオブのSEM像とX線回折パターンの例を表す説明図である。
【図17】比較例となる粉末のSEM像の例を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について説明する。本実施の形態に係る異方形状粉末の製造方法は、図1に例示するようなものである。なお、この異方形状粉末とは、幅方向や厚さ方向の寸法よりも長手方向の寸法が長い長短径を持った扁平状の粒子を指し、以下では板状結晶と呼ぶこととする。この図1のプロセスではまず、水酸化アルカリ水溶液を生成する(S1)。ここに水酸化アルカリ水溶液は、例えば水酸化カリウム(KOH)や、水酸化ナトリウム(NaOH)、またはこれらの双方をイオン交換水へ溶解させて得る。なお、KOHとNaOHとの双方を用いるときのK/Naの比は1〜10の範囲としておく。
【0022】
これは、次のような理由による。すなわち、KとNaとでは反応し易さが異なり、Kに比べてNaの方が後に添加する酸化ニオブ(Nb25)と反応し易い。また、一般にK、Na、Nbを含む非鉛圧電材としてはK0.5Na0.5NbOが知られており、この組成を中心とした組成改良が広く行われている。そこでここでも当該組成系を中心に板状結晶を作製することとするが、このときK/Na比が小さいほど、生成物の組成がNaNbO3を中心としたものとなる。一方、このK/Na比が大きいほど、反応生成物の組成がKNbO中心となる。実験の結果、K0.5Na0.5NbO近傍の組成を得るにはK/Naの比が、1〜10の範囲、特に1.5〜3.5が望ましいことが分かった。また、このK0.5Na0.5NbO近傍の組成を得るときの溶液濃度はKOH+NaOH=1〜15mol/lとすることが望ましく、更に望ましくは1.3〜10mol/lとする。溶液濃度が1mol/lより小さいと反応の効率が悪く、未反応の酸化ニオブが残留してしまう。また濃度が高いと反応は良く進むが、洗浄すべき余剰アルカリ成分が多くなり、洗浄に使う有機溶媒が多量に必要となって、後の作業負担やコストの増大に繋がってしまう。
なお、本実施の形態は、上記数値範囲に限定されるものではなく、K/Naは1未満としてもよい。つまり、K/Naの比が、1〜10の範囲にあるべきことを限定するものではない。
【0023】
次に、上述のようにして生成した水酸化アルカリ水溶液(ここではKOH+NaOH溶液)に、酸化物粉末を入れて攪拌し、混合する(S2)。ここで酸化物粉末は、例えば平均粒径が100nm以上、2000nm未満(0.1μm以上、2μm未満)のNb25、TiO、Ta25などとする。この粉末の粒径は小さい方が反応性が良好であるが、100nm未満では凝集し易く粒径調整が難しくなるため量産性のある市販の粉砕機が使えなくなると言う問題がある。また、2000nm以上では、板状結晶ができ難くなると言う問題がある。
【0024】
また、Nb25では結晶構造は酸素欠陥のない斜方晶系であってもよい。酸素欠陥がある単斜晶系であると斜方晶系に比べて板状結晶ができ難くなる場合があるためである。これは、次のような理由によるものと考えられる。Nbには前記のように単斜晶系と斜方晶系の2種類の結晶系が知られている。単斜晶系Nbを図2に示す。単斜晶系では正八面体の頂点に酸素、その中心にNbが配置されているNbO基本構造が、その頂点同士を共有する形で繋がって全体の結晶構造を形成している。このため実際の化学式はNbではなくNb25−δと酸素が少し不足している。この単斜晶系Nb25−δとアルカリ成分が反応して下記するKNaNbO・9HOの結晶構造を生成する際、まず頂点同士を共有している部分の結合が切断され反応が進行すると考えられる。その結果、斜方晶系に比べ、生成した粒子に形状異方性が見られないこととなる。
【0025】
一方、図3に示した斜方晶Nbは上記正八面体のNbO基本構造と、同じく頂点に酸素、中心にNbが配置される正十面体のNbO基本構造の、2種類の組み合わせで結晶構造を形成している。すると図3からも分かるように、この構造は頂点だけでなく平面内でその辺も共有している部分があり、頂点のみの共有に比べて、辺を共有している部分は結合強度が強いと考えられる。したがって頂点のみ共有している層間で結合が切れやすく、このことが原因で生成物が異方性形状、即ち板状形状を形成しやすいと考えられる。
【0026】
水酸化アルカリ水溶液(ここではKOH+NaOH溶液)に対する酸化物粉末(ここではNb25)の使用量は、例えばK/Naの比が1.5の場合、1wt%〜15wt%程度とするのが好ましい。1wt%未満では反応生成物の生産効率が悪く、15wt%を超えると反応しきれず未反応分が残留し効率的でないことが実験から確認されたためである。生産効率の観点から、より好ましくは、水酸化アルカリ水溶液(ここではKOH+NaOH溶液)に対する酸化物粉末(ここではNb25)の使用量を、例えばK/Naの比が1.5の場合、2wt%〜10wt%とする。
【0027】
さらに、ここにSDBS(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)等の界面活性剤を添加する(S3)。この界面活性剤としてSDBSを用い、酸化物粉末としてNb25を用いる場合、SDBSの添加量は、Nb25に対して0.1wt%乃至5wt%の範囲とする。0.1wt%未満では反応後の生成物の粒径が大きくなり板状結晶となり難い。また5wt%を超えると板状結晶が細かくなり過ぎる。実験によると、より好適なSDBSの添加量は、Nb25に対して、0.5wt%〜3wt%であった。実施に際しては、例えば、0.8wt%とすればよい。
【0028】
界面活性剤を添加して得られた混合溶液を、テフロン(登録商標)ライニングしたオートクレーブ容器に入れ密封し、予め設定した温度で、予め定めた時間だけ加熱し、水熱合成を行う(S4)。この加熱温度は、160℃から250℃の間とする。160℃未満では反応が不完全となり、Nb25が未反応のまま残留する。また250℃を限度とするのは、テフロンライニングしたオートクレーブの耐熱性に配慮したものである。処理S4での加熱時間は2から8時間程度である。2時間より短いと反応が不十分であり、未反応のNb25が残留する。また反応の進行程度は対数関数的に変化し、初期においては反応が著しいが、時間が経過するほど反応は落ち着いてしまい、時間を長くしても変化が少ないので、加熱時間は、2時間を下限として、上限は特に設けず、生産性を考慮して設定すれば良い。例えば加熱温度は200℃とし、加熱時間は4時間とする。
【0029】
この段階で界面活性剤を使用していない場合には、まずK4Na4Nb619-9H2O(以下、「446」と呼ぶ)の微粒子が生成される。この446結晶の構造は、図4に示すように2層の酸素八面体層12の両面を、それぞれ1層の結晶水層11で挟み込んだ構造となる。この結晶構造のために、446結晶粉末は結晶水の面の方向の成長速度が結晶水の面に平行な方向より若干遅くなり図5に示すSEM写真のように扁平な球状(碁石状)の粉末に成長する。
【0030】
しかしながら、この扁平な球状粉末では、直径対厚みの比が、配向セラミックス作製に必要な値になっていない。なお、合成温度を200℃より高くしたり、合成時間を8時間より長くすると、ポテンシャルの高い446粉末は徐々に消えて合成反応がさらに進み、最も安定なペロブスカイト構造の(K,Na)NbO3(以下「112」と呼ぶ)微粒子に変化する。この112結晶はペロブスカイト強誘電体であり、自発分極を持つので、帯電しており、凝集しやすい性質を有する。112粒子が凝集して数百ナノメートル以上の結晶に成長すると、結晶面の表面エネルギーの差が大きいので、結局立方体となってしまうほか、凝集により大きな粒子となってしまうため、配向させるには不向きな粒子形状となるのである。
【0031】
一方、界面活性剤が使用されている場合も、まず446結晶ができあがる。しかしながら図6に示すように界面活性剤(陰イオン系、陽イオン系、非イオン系、両性系を含む)13が446結晶粒子の結晶水層11または酸素八面体層12に付着し、これらの面を覆ってしまうため、これらの面に対する結晶成長に必要な成分の接触を、界面活性剤13が阻害する。このため446結晶の結晶水面11方向の成長速度が、界面活性剤を使用しない場合よりも強く抑えられ、界面活性剤を使用しない場合に比べ、より薄い板状の結晶の形成が促される。また、界面活性剤は、446結晶同士を分散させる役割も果たしている。
【0032】
さらに図6に概要を例示したように、界面活性剤13が446粒子の結晶水層11または酸素八面体層12に付着していることにより、446結晶のポテンシャルが低下し、合成温度を200℃よりも高くしたり、合成時間を8時間以上に長くしたりしても446粒子が大きく成長していくだけで、ペロブスカイト構造には変化しない。このために界面活性剤の種類、使用量、合成温度、合成時間の調整により、形成される446粒子の大きさや径に対する厚さの比を制御することができ、例えばニオブ酸カリウムナトリウム系の高性能な非鉛圧電配向セラミックス作製に適した板状テンプレートである板状結晶を作製できる。例えば190℃、4時間で直径約4ミクロン、厚み約250ナノメートル(径厚比16対1)の板状結晶が作製される。
【0033】
なお、界面活性剤として、上の例ではSDBSを用いることとしたが、上記結晶水層または酸素八面体層に付着して結晶面と反応物質の接触を阻害する効果のある界面活性剤であればよく、これに代えて、陰イオン性界面活性剤として、SH(ヘキサメタ燐酸ナトリウム)のほか、SDBS(ドデシルスルホン酸ナトリウム)、SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、LIDS(ドデシルスルホン酸リチウム)、HDBS(ドデシルベンゼンスルホン酸)等を用いてもよい。また、陽イオン性界面活性剤として、CTAC(塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム)、DTAC(塩化ドデシルトリメチルアンモニウム)、DDAC(塩化ジドデシルジメチルアンモニウム)、DODAC(塩化ジオクタデシルジメチルアンモニウム)等を用いても良い。さらに、非イオン性界面活性剤として、PEG(ポリエチレングリコール)のほか、PVA(ポリビニルアルコール)、PA(ポリアクリルアミド)、AGE(アルキルモノグリセリルエーテル)等を用いてもよい。また、両性界面活性剤として、LDAB(ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン)、ADAO(アルキルジメチルアミンオキシド)、ACB(アルキルカルボキシベタイン)等を用いても構わない。
【0034】
その後冷却し、冷却後に容器を開けて、反応物を取り出す(S5)。その後、濾過してから反応生成物からアルカリ分を除去するため、エタノールやメタノール等の有機溶媒で中性になるまで洗浄する(S6)。このとき、純水を使った洗浄の場合、反応生成物の一部が水に溶けて懸濁液状となることが分かった。そこで本実施の形態では、アルカリ成分の洗浄が可能でかつ、生成物の一部を溶解させない洗浄液を用いる。取扱いの容易さや入手性の面を考慮しエタノールやメタノール等の有機溶媒が好ましく、さらにコストを考慮すればメタノールとすることが好ましい。
【0035】
次に洗浄が完了した後、反応生成物を100℃〜200℃程度で乾燥させる(S7)。その後、反応生成物を170℃〜700℃で焼成する(S8)。なお、S8の工程において乾燥工程を兼ねることとして、S7の工程を省いてもよい。このS8工程の焼成により結晶中に存在する結晶水の脱水を行い板状結晶を得る。焼成雰囲気は特に限定されないが先の乾燥工程と兼ねて大気中で行うことでも良い。図7にS6工程で得られた板状結晶の熱重量分析結果を示す。図7において上段は熱重量分析を示し縦軸に質量比、横軸に温度をとり、加熱による質量比の変化を示している。ここで温度170℃まで加熱すると重量変化が認められるが、これは、この温度で結晶中から結晶水が脱離したものと考えられる。この結果から焼成温度は170℃以上としなければ結晶水を脱水する効果がないと言える。また、図7の下段は示差熱分析結果を示す。この図7下段のグラフより、170℃で吸熱作用がみられ、300℃〜350℃では結晶構造の変化があったとみられる。
【0036】
次に、図8にS6工程で得られた板状結晶を250℃、450℃、600℃で1.5時間焼成し脱水した後のSEM像を示す。何れの温度でも板状の形状を維持していることが分かる。また、この例の板状結晶のX線回折パターンの結果を図9に示す。図9によると、焼成温度が450℃、600℃のものは、2θが22°付近及び、32°付近でピークを示しており、ペロブスカイト構造になっていることが分かる。尚、焼成温度が700℃を超えると板状結晶にクラックが入り、粒子同士が焼結して板状の形状ではなくなる場合があることが確認された。そこで、焼成温度は350℃以上、700℃以下、特に450℃〜600℃が好ましいと言える。
【0037】
次に、得られた板状結晶をシート成形した。このシートを10層重ねて積層体とした後CIP(Cold Isostatic Pressing:冷間静水圧)成形し、その後950℃で焼成したときのX線回折パターンを図10に示す。この図10に示した結果よりこの積層体は、擬立方晶ペロブスカイト構造で(100)面やその二次反射である(200)面のピーク強度が強いことが観測された。
【0038】
このように、本実施の形態では、長径方向の平均粒子長と厚み方向の平均粒子長の比が2〜20であり、擬立方晶ペロブスカイト構造の板状の結晶からなり、当該板状の結晶の主面(面積が比較的大きい表裏面、以下、結晶面という)が(100)面に配向する異方形状粉末(板状結晶)を得ることが出来る。
【0039】
さらに、本実施の形態の製造方法で得られた、特定の結晶面に配向する板状結晶をニオブ酸カリウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム等の反応原料と混合して組成調整した後、上記と同様にシート状に成形し、当該シートを積層して積層体となし、当該積層体を焼成する。この焼成によって得られるセラミックス焼結体は結晶配向があり、高いキュリー温度で高い圧電定数特性を有する圧電セラミックスとなる。このときの焼結は、900℃から1300℃の温度で、2時間から10時間だけ行うこととすればよい。
【実施例】
【0040】
(実施例1)
次に、本実施の形態の異方形状粉末の製造方法により異方形状粉末を作製する例について説明する。まず、KOHとNaOHをK/Na=1.5の割合で混合し、KOH+NaOH=6mol/lとなるように秤量した後に、イオン交換水へ溶解させる。
【0041】
次に、平均粒径200nmで斜方晶の構造を有するNb25粉末を1.25g(2.2wt%)秤量し、先に作製したKOH+NaOH溶液40ml中へ加える。また、さらにNb25粉末に対して0.8wt%の界面活性剤SDBSを加えて攪拌する。尚、ここで用いたNb25粉末の粒子SEM像(加速電圧5kV、15000倍)とX線回折パターンを図11(a),(b)に示している。
【0042】
こうして得られた混合溶液を、テフロンライニングしたオートクレーブ容器に入れ密封する。200℃で予め定めた時間だけ加熱する。冷却後、容器を開け、反応物を取り出す。ここで得られた反応物の量は2.2gであった。反応物をエタノールで数回洗浄して乾燥し、粉末を取り出す。
【0043】
次に洗浄が完了した後、反応生成物を150℃で乾燥させ、その後、反応生成物を450℃で焼成した。
【0044】
図12は、オートクレーブ容器中での加熱時間を2時間、4時間、16時間、及び24時間としたときに得られた粉末のX線回折パターンを表す説明図である。図12に示したように、加熱時間を変化させてもX線回折パターンにはほぼ変化がなかった。
【0045】
また、図13にはレファレンスパターンとして、K4Na4Nb6O・9H2O(PDFカード#14−0360)のX線回折パターンを示す。図12に示した本実施の形態の製造方法で得られた物質のX線回折パターン(4時間加熱した例)のうち、図13のレファレンスパターンに一致するピークに黒丸を付す。図12に示した本実施の形態の製造方法で得られた物質のX線回折パターンは、図13にレファレンスパターンとして示したK4Na4Nb6O・9H2OのX線回折パターンと一致する部分が多くあり、主たる成分は、K4Na4Nb6O・9H2Oと推察される。
【0046】
また、図14は、本実施の形態の製造方法で作製された物質であって、水熱合成における加熱時間を4時間とした時に得られた粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)像(SEM:日立製作所製、加速電圧:20kV、倍率:10000倍)を示したものである。
【0047】
SEM像から、得られた粉末は、長径が0.5〜8μm、厚みが0.05〜0.5μmで、平均が長径2μm、厚さ0.15μm(150nm)となっていることが観察された。ここで加熱時間が長い粉末の場合は、長径はさらに大きくなっており粒子長や厚みは加熱時間によって調整が可能である。また界面活性剤の使用量を減らすことによって粒子長は大きくなることが分かっており、界面活性剤によっても粒子長や厚みの調節は可能である。以上のことより長径方向の平均粒子長と厚み方向の平均粒子長の比が2〜20であった。
【0048】
また、図10に示したように、得られた板状結晶を450℃で焼成し脱水した後、シート成形し10層積層化した。さらにCIP成形して950℃で焼成した。このときのX線回折パターンから、擬立方晶ペロブスカイト構造で(100)やその二次反射の(200)のピーク強度が強いことが確認された。以上により、(100)面の結晶面が配向する異方形状粉末が得られたことがわかった。
【0049】
(実施例2)
次に、実施例1と同様の条件であるが、容器を20倍大きくした例について、実施例2として述べる。
まず、KOHとNaOHをK/Na=1.5の割合で混合し、KOH+NaOH=6mol/lとなるように秤量した後に、イオン交換水へ溶解させる。
【0050】
次に、平均粒径200nmで斜方晶の構造を有するNb25粉末を25g秤量し、先に作製したKOH+NaOH溶液800ml中へ加える。また、さらにNb25粉末に対して0.8wt%の界面活性剤SDBSを加えて攪拌する。
【0051】
こうして得られた混合溶液を、テフロンライニングしたオートクレーブ容器に入れ密封する。そして200℃で予め定めた時間だけ加熱する。冷却後、容器を開け、反応物を取り出す。反応物をエタノールで数回洗浄して乾燥し、粉末を取り出す。得られた反応物の量は約40gと実施例1の約20倍に増加し良好な反応性を示した。
【0052】
次に洗浄が完了した後、反応生成物を150℃で乾燥させ、その後、反応生成物を450℃で焼成した。
【0053】
そして、4時間加熱した場合のX線回折パターンを確認したところ、図13に示したレファレンスパターンとほぼ一致する結果が得られた。
また、SEM像を観察したところ、得られた粉末は、実施例1と同じく、平均の長径が2μm、厚さ0.15μm(150nm)となっていることが観察された。
【0054】
(実施例3)
次に、実施例2とほぼ同様の条件であるが、Nb25粉末と界面活性剤の量を変えた場合について、実施例3として説明する。
まず、KOHとNaOHをK/Na=1.5の割合で混合し、KOH+NaOH=6mol/lとなるように秤量した後に、イオン交換水へ溶解させる。
【0055】
次に、平均粒径200nmで斜方晶の構造を有するNb25粉末を50g秤量し、先に作製したKOH+NaOH溶液800ml中へ加える。また、さらにNb25粉末に対して0.8wt%の界面活性剤SDBSを加えて攪拌する。
【0056】
こうして得られた混合溶液を、テフロンライニングしたオートクレーブ容器に入れ密封する。200℃で予め定めた時間だけ加熱する。冷却後、容器を開け、反応物を取り出す。
【0057】
その結果、得られた粉体のX線回折パターン及びSEM像による形態観察によると上記した実施例1と同様の結果が得られた。
【0058】
(実施例4)
次に、実施例2とほぼ同様の条件であるが、さらにNb25粉末と界面活性剤の量を増やした場合について、実施例4として説明する。
まず、KOHとNaOHをK/Na=1.5の割合で混合し、KOH+NaOH=6mol/lとなるように秤量した後に、イオン交換水へ溶解させる。
【0059】
次に、平均粒径200nmで斜方晶の構造を有するNb25粉末を75g秤量し、先に作製したKOH+NaOH溶液800ml中へ加える。また、さらにNb25粉末に対して0.8wt%の界面活性剤SDBSを加えて攪拌する。
【0060】
こうして得られた混合溶液を、テフロンライニングしたオートクレーブ容器に入れ密封する。200℃で予め定めた時間だけ加熱する。冷却後、容器を開け、反応物を取り出す。得られた粉体のX線回折パターン及びSEM像による形態観察によると上記した実施例1と同様の結果が得られた。
【0061】
(実施例5)
次に、実施例2とほぼ同様の条件であるが、すべての原料を倍増した場合について、実施例5として説明する。
まず、KOHとNaOHをK/Na=1.5の割合で混合し、KOH+NaOH=12mol/lとなるように秤量した後に、イオン交換水へ溶解させる。
【0062】
次に、平均粒径200nmで斜方晶の構造を有するNb25粉末を50g秤量し、先に作製したKOH+NaOH溶液800ml中へ加える。また、さらにNb25粉末に対して0.8wt%の界面活性剤SDBSを加えて攪拌する。
【0063】
こうして得られた混合溶液を、テフロンライニングしたオートクレーブ容器に入れ密封する。200℃で予め定めた時間だけ加熱する。冷却後、容器を開け、反応物を取り出す。得られた粉体のX線回折パターン及びSEM像による形態観察によると上記した実施例1と同様の結果が得られた。
【0064】
(実施例6)
さらに、実施例1とほぼ同様の条件であるがKOH+NaOH溶液とNb25粉末及び界面活性剤の量を変えた場合について、実施例6として説明する。
まず、KOHとNaOHをK/Na=1.5の割合で混合し、KOH+NaOH=6mol/lとなるように秤量した後に、イオン交換水へ溶解させる。
【0065】
次に、平均粒径200nmで斜方晶の構造を有するNb25粉末を1.27g秤量し、先に作製したKOH+NaOH溶液15ml中へ加える。また、さらにNb25粉末に対して2wt%の界面活性剤SDBSを加えて攪拌する。
【0066】
こうして得られた混合溶液を、テフロンライニングしたオートクレーブ容器に入れ密封する。200℃で予め定めた時間だけ加熱する。冷却後、容器を開け、反応物を取り出す。得られた粉体のX線回折パターンを確認したところ実施例1と同様の結果が得られた。
また、SEM像を観察したところ、得られた粉末は、平均の長径が1.5μm、厚さ0.15μm(150nm)となっていることが観察された。
【0067】
(比較例1)
一方、実施例1と同様の製造過程と条件を用いて粉末を製造するが、界面活性剤SDBSを添加しない例を比較例として挙げる。図15に、水熱合成における加熱時間をそれぞれ2時間、4時間、16時間、24時間として得られた粉末のX線回折パターンを示す。図15によると、2時間加熱時、及び4時間加熱時に得られた粉末についてのX線回折パターンは、図13にレファレンスパターンとして示したK4Na4Nb6O・9H2OのX線回折パターンと一致する部分が多くあり、主たる成分は、K4Na4Nb6O・9H2Oと推察されるが、16時間を超えるときには、X線回折パターンが図13の例と大きく異なっており、作製された粉末の主たる成分が、K4Na4Nb6O・9H2Oとは異なるものとなったと推測される。
【0068】
さらに、それらのSEM像を参照すると、16時間加熱して得られた粉末では、ペロブスカイト構造となっており、板状の結晶は認められない。また、4時間加熱して得た粉末のSEM像は、図5に示したものだが、実施例1の図14で例示した結晶と比べて、丸みを帯び、結晶配向セラミックスを得にくい構造となっている。
【0069】
(比較例2)
次に、平均粒径2000nmで単斜晶の構造を有するNb25粉末を用い、実施例1と同様な製造工程を経て生成物を得た。ここで用いたNb25粉末の粒子SEM像(加速電圧5kV、15000倍)とX線回折パターンを図16(a),(b)に示すが、図16よりこの平均粒径2000nmで単斜晶の構造を有するNb25粉末は2μm以上の柱状を呈し、また単斜晶系の結晶構造となっているため、板状化には適さないと考えられた。
【0070】
この例において、温度200℃、4時間の水熱合成を行った後の反応生成物のSEM像(加速電圧5kV、12000倍)を図17に示す。図17より板状結晶はできず、サイコロ状(略立方体の形状)の粒子形状を有するペロブスカイト構造になっていることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化アルカリ水溶液に酸化物粉末と、界面活性剤とを添加して水熱合成を行う工程と、
反応後得られた生成物を有機溶媒で洗浄する工程と、
洗浄後の生成物を170℃〜700℃で焼成する工程と、
を有することを特徴とする異方形状粉末の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法であって、前記酸化物粉末を、平均粒径が100nm以上、2000nm未満で、斜方晶系の結晶構造を有するNbとしたことを特徴とする異方形状粉末の製造方法。
【請求項3】
請求項1乃至請求項2の製造方法を用いて作製される板状の結晶であって、長径方向の平均粒子長と厚み方向の平均粒子長の比が2〜20であり、前記板状の結晶の面が(100)面に配向する擬立方晶ペロブスカイト構造を有する異方形状粉末。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−132118(P2011−132118A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261364(P2010−261364)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】