説明

異方性光拡散シート、その製造方法および照明装置

【課題】 異方性に優れた異方性光拡散シート、その製造方法および照明装置を提供する。
【解決手段】 異方性光拡散シート1は、一方の面から入射した光を他方の面から、所定の方向へ拡散して出射するものである。そして、異方性光拡散シート1は、光を出射する面1bが接着面16であるベースシート13と、略円または略楕円の断面形状を有する複数の繊維体14と、を有する。また、複数の繊維体14は、接着面16に配向して付着している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方性光拡散シート、その製造方法および照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光拡散シートは、携帯電話端末などにおいて、液晶表示やキートップ照明などとして用いられる。このような用途では、光拡散シートには、基本的に、どの方向からも明るく表示される等方性が要求される。
【0003】
近年、光拡散シートの光源として用いられるLED(Light Emitting Diode)素子や有機EL(Electro Luminescent)素子などの発光素子の開発が進み、蛍光灯並みのエネルギー変換効率を達成するものを入手可能となってきている。このような高効率の発光素子は、白熱灯や蛍光灯に替わる新たなの照明器具としての利用が期待できる。照明器具には、広く全体を照らすものや、特定の方向のみを照らすものなどの各種のものがある。
【0004】
このような市場動向に基づいて、光拡散シートに対しても、新たな機能が要求されるようになると予想される。すなわち、光拡散シートには、従来の等方的に光を拡散する機能だけではなく、所定の方向だけに光を拡散する機能(異方性光拡散機能)をも要求されるようになると予想される。これら光の拡散特性が異なる複数の光拡散シートを組み合わせることにより、所望のパターンで光を拡散して照らすことが可能になると考えられる。
【0005】
方向に応じて異なる光の拡散をする異方性光拡散シートは、特許文献1から3に開示されている。これらの文献に開示される異方性光拡散シートは、複数の繊維体(繊維状物、繊維状光拡散剤)を互いに略平行となるようにバインダ中に埋設し、このバインダが基材に積層された構造を有する。
【0006】
しかしながら、このようにバインダを使用して複数の繊維体を略平行に並べた場合、複数の繊維体の間にはバインダが必然的に介在し、複数の繊維体の密度を上げることが難しい。複数の繊維体による光の拡散効果は、その密度が増すほどに高くなる。そして、この複数の繊維体による光の拡散効果が高くなるほど、異方性を高くすることができる。なぜなら、各繊維体はその長さ方向と直交する断面の外周、すなわち外部媒質(通常は空気)との円または楕円状の界面において光の入射角に応じて種々の屈折角で屈折することで光を拡散することができ、一方で、その長さ方向においては光を拡散しないからであり、それゆえ、光拡散シートとしての異方性を高めるためには、複数の繊維体を密に配列することが望ましい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1は、熱可塑性プラスチックス樹脂中に繊維状物を平行、且つ分散配置したA層と、熱可塑性プラスチックス樹脂中にビーズ形状の拡散剤を分散配置したB層とで構成される光拡散シートを開示する。
【0008】
特許文献2は、バインダー中に繊維状光拡散剤が平行に分散した異方性拡散層と基材層とを備えた異方性拡散シートを開示する。
【0009】
特許文献3は、バインダー中に繊維状光拡散剤が略平行に分散した異方性拡散層と基材層とを備えており、異方性拡散層においてバインダー表面から繊維状光拡散剤の一部が部分的に露出している光拡散シートを開示する。
【0010】
【特許文献1】特開平8−146417号公報(要約、特許請求の範囲など)
【特許文献2】特開2001−249204号公報(要約、特許請求の範囲など)
【特許文献3】特開2001−249205号公報(要約、特許請求の範囲など)
【0011】
特許文献1から3には、バインダ中に複数の繊維体を略平行に配設するための製造技術に関する記載はなく、そのような製造技術が完成されているとは言いがたい。
【0012】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、異方性に優れた異方性光拡散シート、その製造方法および照明装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る異方性光拡散シートは、一方の面から入射した光を他方の面から、所定の方向へ拡散して出射する。この異方性光拡散シートは、光入射面および光出射面を有し、この光出射面が接着面であるベースシートと、略円または略楕円の断面形状を有する複数の繊維体と、を有する。また、複数の繊維体は、接着面に配向して付着している。
【0014】
この構成を採用する異方性光拡散シートでは、ベースシートの光を出射する面(他方の面)に、略円または略楕円の断面形状を有する複数の繊維体が配向して付着している。なお、繊維体自体には粘着性や接着性が無いので、繊維体は、ベースシート上で基本的に単層構造となりえる。各繊維体は、ベースシート側から入射する光を、その略円または略楕円の断面形状によりその断面から出射するときに種々の方向へ屈折して拡散する。このように複数の繊維体が配向することにより、ベースシートから繊維体へ入射した光は、繊維体から出射するときにその断面方向へ十分に拡散する。
【0015】
これに対して、各繊維体は、ベースシート側から入射する光を、各繊維体の長さ方向へ殆ど拡散しない。その結果、この構成を採用する異方性光拡散シートは、複数の繊維体が配向することにより、光を所定の方向(繊維体の長さ方向と直交する断面方向)において拡散する一方で、それと略垂直な方向(繊維体の長さ方向)においては光を殆ど拡散をしない、優れた異方特性を示す。
【0016】
また、ベースシートの他方の面が接着面とされ、複数の繊維体はその接着面に接着されているだけである。そのため、この異方性光拡散シートでは、たとえば、刷毛などを用いて接着面に複数の繊維体をある程度配向した状態で塗布した後、その複数の繊維体の上から所定の一方向へ向かって布などで擦ることにより、複数の繊維体が配向し、良好な異方特性を得ることができる程度に並ぶようになる。
【0017】
本発明に係る異方性光拡散シートは、上述した発明の構成に加えて以下の特徴を有する。すなわち、複数の繊維体は、少なくとも横並びの複数本のグループ毎に隣り合って整列するように配向している。
【0018】
このように複数の繊維体が少なくとも複数本ずつのグループ毎に、隣り合って整列することにより、各グループがあたかも微小な1つの拡散部材として機能するようになる。
【0019】
しかも、このような繊維体の配列構造は、複数の繊維体を粘着面に刷毛などを用いてある程度配向した状態で塗布した後、その複数の繊維体の上から所定の一方向へ向かって布などで擦ることにより、実現することができる。この製法では、複数の繊維体をまとめるためのバインダが不要であるので、複数の繊維体が隣り合って整列することになる。その結果、バインダを用いて複数の繊維体を配列した場合には得られないような高い密度により複数の繊維体を配列し、バインダを用いて複数の繊維体を配列した場合には得られない高い異方特性を得ることができる。
【0020】
本発明に係る異方性光拡散シートは、上述した発明の各構成に加えて以下の特徴を有する。すなわち、異方性光拡散シートは、さらに、ベースシートの接着面に付着している複数の繊維体の間を埋める樹脂層を備える。
【0021】
この構成を採用すれば、複数の繊維体を接着面に付着させた状態において、繊維体と繊維体との間に部分的に露出している粘着面を、樹脂が覆うことになる。これにより、接着面が樹脂により被覆され、ベースシートの表面が汚れ難くなる。光拡散シートとしての光の透過特性が経時的に劣化してしまうことを抑制することができる。
【0022】
本発明に係る異方性光拡散シートは、上述した発明の各構成に加えて以下の特徴を有する。すなわち、樹脂層は、紫外線硬化性樹脂あるいは熱硬化性樹脂を用いて形成されている。
【0023】
この構成を採用すれば、樹脂を所望の厚さに塗布し且つ硬化することにより、複数の繊維体の間に部分的に露出している粘着面を樹脂層で被覆することができる。また、樹脂層を厚くするほど、複数の繊維体の間の隙間が埋まり、繊維体の断面方向への光の拡散の程度を抑えることができる。すなわち、紫外線硬化性樹脂あるいは熱硬化性樹脂を用いて樹脂層を形成することで、その厚さを調整し易く、それにより光の拡散の程度を調整することができ、同じ繊維体を使用しながらも光学特性が異なる複数種類の異方性光拡散シートを形成することができる。
【0024】
本発明に係る異方性光拡散シートは、上述した発明の各構成に加えて以下の特徴を有する。すなわち、繊維体は、0.1ミリメートル以上且つ1.0ミリメートル以下の長さの高分子の糸あるいはガラス繊維である。
【0025】
繊維体の長さが0.1ミリメートル未満の場合には、繊維体の長さと太さとの差が小さいため、配向し難く、異方性の効果を得にくい。また、繊維体の長さが1.0ミリメートルを超える場合には、刷毛などを用いて複数の繊維体を接着面にある程度配向した状態で塗布した後、その複数の繊維体の上から所定の一方向へ向かって布などで擦った場合に、複数の繊維体を所望の配向とすることが難しくなる。これは、繊維体の長さが1.0ミリメートルを超えている場合には、繊維体が接着面に長い距離で付着し、その結果として一方向への力を加えたときにその付着姿勢が変化し難いためであると考えられる。
【0026】
本発明に係る異方性光拡散シートの製造方法は、一方の面から入射した光を他方の面から、所定の方向へ拡散して出射する異方性光拡散シートの製造方法である。この製造方法は、異方性光拡散シートのベースシートの接着面に対して、略円または略楕円の断面形状を有する複数の繊維体を配向するように付着させ、これにより配向処理がなされた複数の繊維体を接着面に付着させる第一の工程と、接着面に付着している複数の繊維体に対して、それらを所定の方向へ擦る力を作用させる第二の工程と、を有する。
【0027】
この方法により製造することにより、複数の繊維体は接着面において配向して付着する。したがって、優れた異方特性を有する異方性光拡散シートを製造することができる。
【0028】
本発明に係る異方性光拡散シートの製造方法は、上述した発明の各工程に加えて、さらに、複数の繊維体が付着したベースシートの接着面に対して液状樹脂を塗布し、これにより複数の繊維体の間を埋める樹脂層を形成する第三の工程を備える。
【0029】
この工程を追加することにより、複数の繊維体の間に露出する接着面の上には、液状樹脂による樹脂層が形成される。したがって、樹脂層の被覆により接着面へ汚れなどが付着しなくなり、光の透過特性が経時的に劣化し難くなる。
【0030】
本発明に係る照明装置は、上述した発明の各構成に係る異方性光拡散シートと、異方性光拡散シートの一方の面に重ねて配設される導光板と、導光板の異方性光拡散シートと重なる面を上下とした場合の導光板の側面に対向して配設される発光素子と、を有する。
【0031】
この構成では、異方性光拡散シートに対する角度に応じて光の拡散の程度が異なる。そのため、たとえば一方向においてのみ光が拡散する照明装置とすることができる。しかも、異方性光拡散シート、導光板、発光素子などにより構成されるので、照明装置として薄いものを得ることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明では、異方性に優れた異方性光拡散シート、その製造方法および照明装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態に係る異方性光拡散シート、その製造方法および照明装置を、図面に基づいて説明する。
【0034】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る異方性光拡散シート1の断面図である。異方性光拡散シート1は、略平板形状のシート状部材であり、その一方の面(図1において下側の面。以下、入射面という。)1aから入射した光を他方の面(図1において上側の面。以下、出射面(出射部)という。)1bから出射する。
【0035】
異方性光拡散シート1は、基材11および粘着層12からなるベースシート13と、複数の繊維体としてのパイル14と、を有する。なお、ベースシート13において、図1の下側の面が光入射面であり、上側の面が光出射面である。
【0036】
基材11は、図示しない所定の光源の波長の光を透過する物質から形成され、たとえばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)などからなる透明フィルムあるいは半透明フィルムにより形成することができる。
【0037】
基材11の出射面1b側には、粘着層12が形成される。粘着層12は、光源の波長の光を透過する接着性の材料、たとえばアクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤、ビニル系粘着剤、シリコン系粘着剤などからなる。このような接着性材料を基材11に塗布することにより、粘着層12を形成することができる。粘着層12の表面が、パイルが付着する粘着面(接着面)として機能する。
【0038】
なお、粘着剤は、接着剤の一種であり、水、溶剤、熱などを必要とせずに、軽い指圧のような極めて弱い圧力で他の表面に接着することができ、またこれを再び剥がし取る場合には被着体を汚染することなく容易に剥がし得る接着剤である。基材11の出射面1b側には、上述した粘着剤による粘着層(接着層の一種)の替わりに、粘着剤以外の接着剤による接着層が形成されていてもよい。
【0039】
また、粘着層12には、一般的に、ベースシート13を形成した後にも粘着性が残る。そのため、ベースシート13に粘着層12が用いられているか否かは、たとえば、ベースシート13を切断し、その切断面に微小な粉体を振りかけることで判断することが可能である。切断面に粉体が付着した場合、ベースシート13には粘着層12が使用されていると判断することができる。ただし、切断面に粉体が付着しない場合であっても、ベースシート13には粘着層12が使用されている可能性が残る。
【0040】
パイル14は、光源の波長の光を透過する高分子材料を、略円または略楕円の断面形状を有する糸状に形成したものであればよく、たとえば、ナイロン、アクリル、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、絹、綿、麻などの高分子の糸を短く切断したものである。なお、パイル14は、ガラスファイバを短く切断したガラス繊維を使用してもよい。
【0041】
図1に示した異方性拡散シート1では、パイル14は、円柱を寝かせた姿勢にて粘着層12に付着する。パイル14は、この姿勢においてその底部(すなわち円柱側面の一部)のみが粘着層12と結合し、その外周の殆どが露出する。すなわち、パイル14の周囲には空気が存在する。空気とパイル14との屈折率の差は非常に大きいため、各パイル14と空気との界面では、パイル14の長さ方向と垂直な方向へ、光を大きく屈折させる。基材11から粘着層12を介してパイル14に入射する光の入射角および入射位置は様々であるので、パイル14からその外部(空気)に出射するときの出射角(屈折角)も様々である。特に、パイル14の断面(長さ方向に直交する方向の断面)は円または楕円であるので、パイル14と空気の界面は大きな曲率を有している。このため、粘着層12からパイル14への入射位置および入射角の違いによりパイル14からの出射角は大きく異なる。この結果、異方性光拡散シート1を出射する光は、散乱される。
【0042】
一方、パイル14の長手方向の断面を見ると、粘着層12との界面は直線であるので、その入射位置によって入射角(および屈折角)は大きく変わらず、パイル14から空気層へ出射するときの出射角(屈折角)も大きく変わらない。特に、光源からの光を基材11にパイル14の長さ方向に直交する方向にしか屈折しない。このため、パイル14の長さ方向には光の拡散は殆ど生じない。
【0043】
パイル14の太さは、たとえば1dtex以上且つ20dtex以下であればよい。パイル14の長さは、たとえば0.1ミリメートル以上且つ1.0ミリメートル以下であればよい。パイル14の長さが0.1ミリメートル未満の場合には、パイル14の長さと太さとの差が小さいため、配向し難く、異方性の効果が得にくい。また、パイル14の長さが1.0ミリメートルを超える場合には、後述する製造方法(図6から図8)などにより形成する場合において、刷毛21,37などを用いて複数のパイル14を粘着面16にある程度配向した状態で塗布した後、その複数のパイル14の上から所定の一方向へ向かって布22などで擦ったときに、複数のパイル14を所望の方向に均一に配列させることが難しくなる。これは、パイル14の長さが1.0ミリメートルを超える程に長くなると、隣り合うパイル14同士が絡み合い、また、パイル14が粘着面に長い距離で付着し、その結果として一方向への力を加えたときに配列させることが難しくなるためであると考えられる。
【0044】
また、後述する製造方法(図6から図8)では、パイル14をベースシート13上に付着させた後、パイル14に一方向に配向させるための力を作用させる。そのため、粘着層12との組合わせにおいては、好ましくは、パイル14は、1.5dtex以上且つ10dtex以下の太さで、且つ、0.2ミリメートル以上且つ0.6ミリメートル以下の太さであればよい。これらの条件を満たすとき、パイル14は、その力により破損することなく所定の一方向に好適に配向する。
【0045】
図2は、図1の構造を有する異方性光拡散シート1の一部の顕微鏡写真である。複数のパイル14は、その長軸が一方向(写真では左右方向)に揃った状態で並んでいる。複数のパイル14は、基本的に1段(1層)で付着している(互いに重なり合うことなく付着している)。また、複数のパイル14は、少なくとも横並びの複数本のグループ毎に隣り合って整列するように配向している。このようにすべてのパイル14がその全体において完全に一方向に整列してはいないが、グループ毎の配列が略揃うことにより、全体として良好な異方性を有する光の拡散が得られる。なお、良好な異方性を得るためには、たとえば、図形解析ソフト(商品名:A像くん、旭化成エンジニアリング株式会社製)の解析コマンド「方向分布計測」により、配向度(半値幅法)が0.7以上であるという条件を満たしていればよい。
【0046】
なお、後述する実施例についてのこの配向度の測定結果を、図30から図34に示す。図30は実施例1、図31は実施例2、図32は実施例3、図33は実施例4、図34は比較例1のものである。図30から図34の各図には、各例についての配向度解析に使用した画像(A)と、その配向度の分布図(B)とが図示されている。そして、図30の実施例1での配向度(半値幅法)は0.833であり、図31の実施例2での配向度(半値幅法)は0.833であり、図32の実施例3での配向度(半値幅法)は0.778であり、図33の実施例4での配向度(半値幅法)は0.833であり、図34の比較例1での配向度(半値幅法)は0.500であった。比較例1の分布のエンベロープは、90度を中心としてそれとの角度差に関係なく略一定の割合で出現率が低下しているのに対して、図30から図33の実施例1から4での分布のエンベロープは、90度を中心として出現率が急峻に低下するものとなっている。
【0047】
なお、これらの配向度の分布図において、横軸は、0度から180度までのパイル14の向きであり、縦軸は、パイル14の出現率である。そして、各分布図は、画像中のパイル14の向きを10度のピッチで分割した角度範囲毎に分類した場合のパイル14の粒子数(本数)をカウントし、数が最も多くなる角度が1となるように正規化したものである。また、配向度とは、複数のパイル14の向きの揃いの程度を示す指標の1つであり、具体的には、上述した図形解析ソフトにより得られる正規化分布図において、0.5以上の値を示す角度範囲に分類されるパイル14の粒子数(本数)を、0.5未満の値を示す角度範囲に分類されるパイル14の粒子数(本数)により割って得られる指標値である。
【0048】
実施の形態2.
図3は、本発明の実施の形態2に係る異方性光拡散シート1の断面図である。異方性光拡散シート1は、略平板形状のシート状部材であり、その一方の面(図3において下側の面。入射面。)1aから入射した光を他方の面(図3において上側の面。出射面(出射部)。)1bから出射する。
【0049】
異方性光拡散シート1は、基材11および粘着層12からなるベースシート13と、複数の繊維体としてのパイル14と、樹脂層15と、を有する。なお、基材11、粘着層12およびパイル14は、実施の形態1と同じものである。
【0050】
図3の樹脂層15の厚さは、パイル14の太さ(直径)より小さい。樹脂層15は、パイル14の周囲の一部を被覆する。図3の構造では、パイル14は、その下端部が粘着層12に付着し、その周囲の一部が粘着層12とは異なる材料(たとえば粘着性が無い樹脂材料)による樹脂層15により被覆されていることになる。
【0051】
樹脂層15は、図示外の光源の波長の光を透過する材料により形成されていればよく、たとえば、透明な紫外線硬化性樹脂や熱硬化性樹脂を使用することができる。なお、樹脂層15の成分は、粘着層(接着層)12とは異なる成分(材料)により形成される。
【0052】
これら紫外線硬化性樹脂および熱硬化性樹脂は、硬化前には液状であり、流動性を有する。したがって、紫外線硬化性樹脂および熱硬化性樹脂は、パイル14の上からベースシート13に塗布し、その後に紫外線を照射して硬化させることで、所望の厚さに形成することができる。紫外線硬化性樹脂および熱硬化性樹脂の一部は、複数のパイル14の間に入り込んで粘着層12に達し、光照射または加熱によりその状態で硬化させることができる。粘着層12は、紫外線硬化性樹脂または熱硬化性樹脂により被覆される。
【0053】
なお、この紫外線硬化性樹脂および熱硬化性樹脂などの材料により形成される樹脂層15は、パイル14の太さ(直径)より大きな厚さに形成されて、パイル14を被覆していてもよい。図4では、複数のパイル14は、樹脂層15により被覆されている。図4の構造では、パイル14は、その下端部が粘着層12に付着し、残りのすべての周囲が粘着層12とは異なる別の樹脂層15により被覆されている。
【0054】
以上の図1、図3および図4に示す異方性光拡散シート1では、ベースシート13の接着面(接着層が形成された側の面)に、略円または略楕円の断面形状を有する複数のパイル14が配向して付着している。なお、パイル14自体には粘着性や接着性が無いので、パイル14はベースシート13上で基本的に単層構造となりえる。各パイル14は、ベースシート13側から入射する光を、その略円または略楕円の断面形状により種々の方向へ屈折して拡散する。このように複数のパイル14が、ほぼ所定の一方向に配向することにより、ベースシート13から出力した光は、パイル14の断面方向へ十分に拡散する。
【0055】
これに対して、各パイル14は、ベースシート13側から入射する光を、特にパイル14の長さ方向と直交する方向から入射する光を、各パイル14の長さ方向へ殆ど拡散しない。その結果、図1、図3および図4に示す構造を有する異方性光拡散シート1は、複数のパイル14が配向することにより、光を所定の方向(パイル14の長さ方向と直交する断面方向)において拡散する一方で、それと略垂直な方向(パイル14の長さ方向)においては光を殆ど拡散をしない、優れた異方性の光学特性を示す。
【0056】
また、ベースシート13の出射面1b側の面が粘着面16(あるいは接着面)とされ、複数のパイル14はその粘着面16に粘着されているだけである。そのため、図1、図3および図4の異方性光拡散シート1では、たとえば、後述する製造方法のように、刷毛21,37などを用いて粘着面16に複数のパイル14をある程度配向した状態で塗布した後、その複数のパイル14の上から所定の一方向へ向かって布22などで擦ることにより、複数のパイル14が配向し、良好な異方特性を得ることができる程度に並ぶようになる。
【0057】
また、複数のパイル14は、図2に示すように、実際には、少なくとも複数本ずつのグループ毎に隣り合って整列するように配向している。そして、このように複数のパイル14が少なくとも複数本ずつのグループ毎に隣り合って整列することにより、各グループがあたかも微小な1つの拡散部材として機能するようになる。
【0058】
しかも、このようなパイル14の配列構造は、後述する製造方法のように、刷毛21,37などを用いてある程度配向した状態で複数のパイル14を粘着面16に塗布した後、その複数のパイル14の上から所定の一方向へ向かって布22などで擦ることにより、実現することができる。この製法では、複数のパイル14をまとめるためのバインダが不要であるので、複数のパイル14が隣り合って整列することになる。その結果、従来のようにバインダを用いて複数のパイル14を配列した場合には得られないような高い密度により複数のパイル14を配列し、バインダを用いて複数のパイル14を配列した場合には到底得ることができない高い異方特性(散乱する方向と散乱しない方向との差が大きい特性)を得ることができる。
【0059】
また、図3および図4の異方性光拡散シート1では、ベースシート13の接着面に付着している複数のパイル14の間を埋める樹脂層15を設けている。この樹脂層15により粘着面16が樹脂により被覆され、ベースシート13の表面に汚れが付着し難くなる。光拡散シートとしての光の透過特性が経時的に劣化してしまうことを抑制することができる。なお、樹脂層15が厚くなるほど、複数のパイル14の間の隙間が減り、パイル14による断面方向への光の拡散が抑えられる。すなわち、図4の異方性光拡散シート1は、図3の異方性光拡散シート1に比べて異方性が抑えられている。
【0060】
図5は、図1の異方性光拡散シート1を用いた照明装置4の一例を示す断面図である。図5の照明装置4は、図1に示した異方性光拡散シート1と、異方性光拡散シート1の入射面(図5では下側の面)1aに重ねて配設される導光板2と、導光板2の1つの側面と対向して配置される発光素子(たとえばLED素子、有機EL素子)3と、を有する。
【0061】
なお、図5(A)は、配向する複数のパイルの断面方向に沿った断面図であり、図5(B)は、配向する複数のパイルの長さ方向に沿った断面図であり、図5(C)は、図5(A)の部分拡大図である。図5(C)中に矢線として示すように、発光素子3から導光板2に入射した光は導光板2内で反射した後、異方性光拡散シート1の基材11に入射し、次いで粘着層12を介してパイル14に入射する。発光素子3は、たとえば、導光板2に対する入射光がパイル14の長さ方向(配列方向)と直交する方向に入射するように配置されているので、パイル14から出射するときに空気との界面で大きく屈折し、複数のパイルは、その断面方向に光を拡散し、その長さ方向において光を透過する。なお、図3の異方性光拡散シート1を用いた照明装置4や、図4の異方性光拡散シート1を用いた照明装置4でも同様の異方性を示す。
【0062】
そして、このような構造を有する照明装置4は、たとえば、液晶ディスプレイ装置のバックライトユニットとして使用することができるだけでなく、白熱灯や蛍光灯の照明器具に替わる新たな照明器具として利用することができる。照明器具の低コスト化、長寿命化、高輝度化などが可能となる。また、照明器具として見た場合、照明器具として薄型のものとすることができる。
【0063】
特に、異方性光拡散シート1と等方性光拡散シートとを組み合わせて使用することにより、広く全体を照らすものや、特定の方向のみを照らすものとすることができる。液晶ディスプレイの視野角を設定したり、照明器具の用途に合わせた照明パターンを設定したりすることが可能となる。
【0064】
次に、以上の異方性光拡散シート1の製造方法を、図面に基づいて説明する。
【0065】
図6は、図1の異方性光拡散シート1の製造方法の工程図(一例)である。図1の異方性光拡散シート1を製造する場合、まず、たとえば刷毛などを用いて基材11へ粘着剤を塗布して、ベースシート1の粘着面を形成する。
【0066】
次いで、刷毛21などを用いて複数のパイル14をベースシート13の粘着面16に塗布する。刷毛21を一方向に向かって使用することで、複数のパイル14は、ベースシート13上にある程度配向した状態でベースシート13の粘着面16に付着する(第一の工程)。
【0067】
複数のパイル14をある程度配向した状態でベースシート13の粘着面16に付着した後、布22などを用いて、ベースシート13の粘着面16に付着している複数のパイル14に対して、その上から所定の一方向へ向かって擦る力を作用させる(第二の工程)。このとき、布22と粘着面16との間に介在する複数のパイル14には、一方向に向かうシェア応力やずり応力が作用するものと考えられる。
【0068】
図6に示す第一の工程および第二の工程により、図1の異方性光拡散シート1を製造することができる。図2の顕微鏡写真は、図6の製造方法により生成した異方性光拡散シート1の上面1bの拡大写真である。図2に示すように、ナイロンからなる複数のパイル14は、アクリル系粘着剤による粘着面16において、略所定の一方向に配向して付着している。すなわち、複数のパイル14は、その長軸方向が揃った状態で並んでいる。この結果、複数のパイル14による光の拡散方向が略一定になるので、この異方性光拡散シート1は、優れた異方特性を有する。
【0069】
このように図1に示す異方性光拡散シート1は、塗布技術を利用して作成することができる。そのため、ホログラムを用いて異方特性としたレンズシートなどと比べて、安価に量産することが可能である。
【0070】
図7は、図3に示した実施の形態2に係る異方性光拡散シート1、および図4に示すその変形例に係る異方性光拡散シート1の製造方法の工程図(一例)である。図7中の第一の工程および第二の工程は、図6に示したものと同様である。そして、粘着面16に付着している複数のパイル14に対して、その上から所定の一方向へ向かって擦る力を作用させた後、この複数のパイル14が付着する粘着面16に対して、液状樹脂を塗布する(第三の工程)。なお、液状樹脂として紫外線硬化性樹脂や熱硬化性樹脂を使用する場合は、さらにそれらを硬化させる工程が必要である。
【0071】
この第三の工程により、ベースシート13の粘着面16を、液状樹脂による樹脂層15により被覆することができる。複数のパイル14の間に露出する接着面の上には、液状樹脂による樹脂層15が形成される。したがって、粘着面16に汚れが付着し難くなり、図3および図4の異方性光拡散シート1では、優れた異方特性を有するだけでなく、光の透過特性が経時的に劣化し難い特性を有する。
【0072】
図8は、上述した第一の工程、第二の工程および第三の工程を実施することができる製造装置30の一例を示す図である。供給ローラ31には、粘着剤の塗布済のベースシート13が巻き付けられている。このベースシート13は、供給ローラ31から供給された後、繊維体塗布ドラム32の外周面上を移動し、透明樹脂塗布ドラム33の外周面上を移動し、巻取ローラ34により巻き取られる。
【0073】
繊維体塗布ドラム32の外周面には、パイル供給ローラ35が当接する。パイル供給ローラ35の外周面には、パイル供給ボックス36からパイル14が供給される。パイル供給ローラ35には刷毛部材37が対向している。この刷毛部材37により、パイル供給ローラ35に供給されたパイル14に対して一方向に向かう刷毛がけがなされる。複数のパイル14は、パイル供給ローラ35上で、略一層化されるとともに、ある程度配向する。
【0074】
パイル供給ローラ35の外周面上の配向処理済みの複数のパイル14は、パイル供給ローラ35と繊維体塗布ドラム32とのニップ位置において、繊維体塗布ドラム32の外周面に巻き付けられたベースシート13の粘着面に付着する。これにより、配向処理がなされた複数のパイル14が、ベースシート13の粘着面16(あるいは接着面)に付着する(第一の工程)。
【0075】
また、パイル供給ローラ35は、繊維体塗布ドラム32と所定のニップ幅で当接するとともに、繊維体塗布ドラム32より外周面の線速度が遅くなるように回転する。このような構成は、たとえば繊維体塗布ドラム32への回転駆動力を減速してパイル供給ローラ35へ伝達するようにすればよい。この回転差により、ニップ位置を通過するとき、ベースシート13の粘着面16に付着している複数のパイル14に対して、所定の一方向へ向かう擦り力が作用する(第二の工程)。なお、図8に示した装置では、パイル供給ローラ35と繊維体塗布ドラム32とのニップ位置において、本発明の方法の第一の工程および第二の工程が同時に行なわれている。
【0076】
繊維体塗布ドラム32を通過したベースシート13には、複数のパイル14がその長軸方向を揃えた状態で並ぶ。複数のパイル14が配向し、それらの光の拡散効果が揃う。これにより、図8の製造装置30で製造される異方性光拡散シート1は、図1の構造となり、優れた異方特性を有する。
【0077】
また、図8中の透明樹脂塗布ドラム33の外周面には、樹脂供給ローラ38が当接する。樹脂供給ローラ38の外周面には、トレイ39に収容されている液状樹脂(たとえば紫外線硬化樹脂)が供給される。液状樹脂は、透明樹脂塗布ドラム33と樹脂供給ローラ38との当接位置において、パイル14が付着済みのベースシート13へ供給される。なお、ベースシート13上でのパイル14の位置や姿勢を乱すことがないように、透明樹脂塗布ドラム33の外周面の線速度と樹脂供給ローラ38の外周面の線速度とは略等しくなるようにするのが望ましい。
【0078】
透明樹脂塗布ドラム33には、さらに、紫外線発光ランプ40が対向して配設されている。これにより、紫外線硬化樹脂が塗布されたベースシート13に対して、紫外線が照射される。紫外線硬化樹脂は硬化する。なお、紫外線硬化樹脂ではなく熱硬化樹脂を用いる場合には、紫外線発光ランプ40の替わりにヒータを配置すればよい。
【0079】
これらの工程(第三の工程)により、ベースシート13の粘着面16は、硬化した液状樹脂により被覆される。したがって、粘着面16に汚れが付着し難くなる。図8の製造装置30で製造される他の異方性光拡散シート1(図3および図4)は、上述した1種類目の異方性光拡散シート1(図1の構造の異方性光拡散シート1)より抑えられた異方特性を有するとともに、光の透過特性が経時的に劣化し難い特性を有する。
【0080】
また、液体樹脂の膜厚は、樹脂供給ローラ38によるベースシート13への液体樹脂の塗布膜厚により調整することができる。液体樹脂の膜厚が異なる2つの異方性光拡散シート1の異方特性は異なる。なお、ベースシート13への液体樹脂の塗布膜厚は、樹脂塗布後にベースシート13と当接する拭取ローラ41によって拭き取ることにより調整するようにしてもよい。
【実施例1】
【0081】
次に、本発明の実施例に係る異方性光拡散シート1を、図面に基づいて説明する。
【0082】
この実施例の異方性光拡散シート1は、ベースシート13としての、厚さ100マイクロメートルのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)にアクリル系粘着剤を塗布し、前述の図6で説明した第一の工程および第二の工程により、アクリル系粘着剤による粘着層12上に複数のパイル14を配向して付着させた。パイル14には、約1.5dtexの太さおよび約0.2ミリメートルの長さのナイロン繊維を用いた。なお、粘着層12の屈折率は、1.493であり、パイル14の屈折率は、1.53であった。図9は、図1の構造を有する実施例1に係る異方性光拡散シート1の一部の顕微鏡写真である。横長の物体がパイル14である。
【0083】
図10は、図9の異方性光拡散シート1の裏側(基材11側)からレーザポインタ(LED)の光を照射した場合に得られる、表側(パイル14側)での光分布を示す中間調画像である。図11は、レーザポインタ(LED)の光そのもの(異方性光拡散シート1を通さない場合のもの)による光分布を示す中間調画像である。色が白いほど、多くの光を受光している。図11に比べて、図10の画像では、中心の光が弱まり、その分上下方向に光が分散している。図10の上下方向は、図9に現れているパイル14の長さ方向と直交する方向である。左右には分散していない。これにより、図9の実施例1に係る異方性光拡散シート1は、良好な異方性を有することが解る。
【0084】
図12は、図9の異方性光拡散シート1の光学特性を示すグラフである。図13は、LEDレーザ(株式会社ジエネシア製の散乱測定器内蔵の光源)からのレーザ光の光学特性(輝度分布)を示すグラフである。横軸は、直上(0度)を中心とした角度であり、縦軸は、各分布の最大値を1とした輝度比である。図14は、図12および図13の光学特性の測定装置51(株式会社ジェネシア製の散乱測定器)を示す断面図である。なお、図14の測定装置51は、ハウジング52内に設置された光源ランプ53と、拡散板54と、複数のプリズムシート55,56とを有する。
【0085】
図13に示すLEDレーザのレーザ光の光学特性では、パイル14の繊維長平行方向の輝度分布と、パイル14の繊維長垂直方向の輝度分布とが一致している。これに対して、図12の異方性光拡散シート1の光学特性では、パイル14の繊維長平行方向の輝度分布より、パイル14の繊維長垂直方向の輝度分布が末広がり(ブロード)となっている。すなわち、後者の方が、より大きな角度方向へ光が散乱している。
【0086】
図9から図13の比較により明らかなように、図9の実施例1に係る異方性光拡散シート1は、良好な異方性を有することが解る。
【実施例2】
【0087】
この実施例で製作した異方性光拡散シート1は、ベースシート13としての、厚さ100マイクロメートルのPETフィルムにアクリル系粘着剤を塗布し、前述の図7で説明した第一の工程および第二の工程により、アクリル系粘着剤による粘着層12上に複数のパイル14を配向して付着させた。パイル14は、約1.5dtexの太さおよび約0.2ミリメートルの長さのナイロン繊維を用いた。また、図7で説明した第三の工程により、アクリル系紫外線硬化樹脂をパイル14が隠れるように塗布した。なお、粘着層12の屈折率は、1.493であり、パイル14の屈折率は、1.53であり、アクリル系紫外線硬化樹脂の屈折率は、1.492であった。図15は、この実施例で製作した異方性光拡散シート1の一部の顕微鏡写真である。
【0088】
図16は、図15の異方性光拡散シート1の裏側(基材11側)からレーザポインタ(LED)の光を照射した場合に得られる、表側(パイル14側)での光分布を示す中間調画像である。図16に示すように、図10と同様に上下方向に光が分散する良好な異方性を有するものの、図10に比べてより中心付近に光が集中した。図16の上下方向は、図15に現れているパイル14の長さ方向と直交する方向である。
【0089】
図17は、図15の異方性光拡散シート1の光学特性を示すグラフである。図17の異方性光拡散シート1の光学特性では、パイル14の繊維長平行方向の光学特性より、パイル14の繊維長垂直方向の光学特性が末広がりとなった。すなわち、より大きな角度方向へ光が散乱するようになった。また、図16および図17により明らかなように、図15の実施例2に係る異方性光拡散シート1は、良好な異方性を有することが解る。
【実施例3】
【0090】
この実施例の異方性光拡散シート1は、ベースシート13としての、厚さ100マイクロメートルのPETフィルムにアクリル系粘着剤を塗布し、前述の図7で説明した第一の工程および第二の工程により、アクリル系粘着剤による粘着層12上に複数のパイル14を配向して付着させた。パイル14は、約1.5dtexの太さおよび約0.2ミリメートルの長さのナイロン繊維を用いた。図7で説明した第三の工程により、アクリル系紫外線硬化樹脂を拭取ローラ41に拭取り、パイル14が露出するように塗布した。なお、粘着層12の屈折率は、1.493であり、パイル14の屈折率は、1.53であり、アクリル系紫外線硬化樹脂の屈折率は、1.492であった。図18は、この実施例で製作した異方性光拡散シート1の一部の顕微鏡写真である。
【0091】
図19は、図18の異方性光拡散シート1の裏側(基材11側)からレーザポインタ(LED)の光を照射した場合に得られる、表側(パイル14側)での光分布を示す中間調画像である。図19に示すように、図10および図16と同様に上下方向に光が分散する良好な異方性を有するものの、図10に比べてより中心付近に光が集中し、且つ、図16に比べて中心付近の光が弱くなった。図18の異方性光拡散シート1は、図9の異方性光拡散シート1と図15の異方性光拡散シート1との中間的な光学特性となっている。
【0092】
図20は、図18の異方性光拡散シート1の光学特性を示すグラフである。図20の異方性光拡散シート1の光学特性では、パイル14の繊維長平行方向の光学特性より、パイル14の繊維長垂直方向の光学特性が末広がりとなった。すなわち、より大きな角度方向へ光が散乱するようになった。また、図19および図20により明らかなように、図18の実施例3に係る異方性光拡散シート1は、良好な異方性を有することが解る。
【実施例4】
【0093】
この実施例の異方性光拡散シート1は、ベースシート13としての、厚さ100マイクロメートルのPETフィルムにアクリル系粘着剤を塗布し、前述の図6で説明した第一の工程および第二の工程により、アクリル系粘着剤による粘着層12上に複数のパイル14を配向して付着させたものである。パイル14は、約10dtexの太さおよび約0.5ミリメートルの長さのナイロン繊維を用いた。なお、粘着層12の屈折率は、1.493であり、パイル14の屈折率は、1.53であった。図21は、この実施例で製作した異方性光拡散シート1の一部の顕微鏡写真である。
【0094】
図22は、図21の異方性光拡散シート1の裏側(基材11側)からレーザポインタ(LED)の光を照射した場合に得られる、表側(パイル14側)での光分布を示す中間調画像である。図22に示すように、図10および図16と同様に上下方向に光が分散する良好な異方性が得られた。
【0095】
図23は、図21の異方性光拡散シート1の光学特性を示すグラフである。図23の異方性光拡散シート1の光学特性では、パイル14の繊維長平行方向の光学特性より、パイル14の繊維長垂直方向の光学特性が末広がりとなった。すなわち、より大きな角度方向へ光が散乱するようになった。また、図22および図23により明らかなように、図21の実施例4に係る異方性光拡散シート1は、良好な異方性を有することが解る。
【0096】
[比較例1]
この比較例1に係る光拡散シートのベースシート13は、厚さ100マイクロメートルのPETフィルムのみで構成し、透明なアクリル系紫外線硬化性樹脂に複数のパイル14を分散し、これをベースシート13に塗布し、硬化させたものである。なお、複数のパイル14は、刷毛を用いて一方向に向かって塗布した(第一の工程に相当する工程)。パイル14は、約1.5dtexの太さおよび約0.2ミリメートルの長さのナイロン繊維を用いた。なお、パイル14の屈折率は、1.53であり、紫外線硬化性樹脂の屈折率は、1.492であった。図24は、この比較例1に係る光拡散シート(複数のパイル14が配向されていない光拡散シート)の一部の顕微鏡写真である。
【0097】
図25は、図24の比較例1に係る光拡散シートの裏側(基材11側)からレーザポインタ(LED)の光を照射した場合に得られる、表側(パイル14側)での光分布を示す中間調画像である。図11と同様に、中心に光が集中し、且つ、上下左右に対して同程度に光が拡散している。
【0098】
図26は、図24の比較例1に係る光拡散シートの光学特性を示すグラフである。図24の比較例1に係る光拡散シートは、等方性の光学特性を有する。
【0099】
[比較例2]
この比較例2に係る光拡散シートのベースシート13は、厚さ100マイクロメートルのPETフィルムのみで構成し、透明なアクリル系紫外線硬化性樹脂に複数のビーズを分散し、これをベースシート13に塗布したものである。ビーズは、直径約100マイクロメートルの略真球形状を有するガラス製球を用いた。なお、ビーズの屈折率は、1.58であり、紫外線硬化性樹脂の屈折率は、1.492であった。図27は、この比較例2に係る光拡散シート(パイル14の替わりにビーズを用いた光拡散シート)の一部の顕微鏡写真である。
【0100】
図28は、図27の比較例2に係る光拡散シートの裏側(基材11側)からレーザポインタ(LED)の光を照射した場合に得られる、表側(パイル14側)での光分布を示す中間調画像である。図11と同様に、上下左右に対して同程度に光が拡散している。
【0101】
図29は、図27の比較例2に係る光拡散シートの光学特性を示すグラフである。図27の比較例2に係る光拡散シートは、等方性の光学特性を有する。また、光は、図24の比較例1の光拡散シートに比べて広い範囲に拡散している。
【0102】
以上のように、実施例1から実施例4と、比較例1および2とを比較すれば明らかなように、複数のパイル14が略平行に並んでいる(配向している)か否いかに応じて、光拡散シートの光学特性は、異方性と等方性との間で変化する。複数のパイル14を密に略平行に配向することにより、光拡散シートを良好な異方性とすることができる。
【0103】
なお、以上の各実施の形態および各実施例は、本発明の好適な例であるが、本発明は、これらに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形や変更が可能である。
【0104】
上記各実施の形態および各実施例では、ベースシート13は、基材11と、粘着層12との二層構造を有し、この粘着層12によりベースシート13の粘着面が形成されている。この他にもたとえば、ベースシート13そのものを粘着層12のみで形成し、粘着面として使用する面以外を事前に硬化させたものをベースシートとして用いるようにしてもよい。この変形例の場合、ベースシートは、1層構造となる。さらに他にもたとえば、ベースシート13は、3層以上の構造であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の異方性光拡散シートは、優れた異方性の光学特性を得ることができる。そのため、本発明の異方性光拡散シートは、携帯電話端末の液晶表示やキートップ照明としてだけでなく、照明装置などとしても好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1に係る異方性光拡散シート1の断面図である。
【図2】図2は、図1の構造を有する異方性光拡散シートの一部の顕微鏡写真である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態2に係る異方性光拡散シート1の断面図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態2の変形例に係る異方性光拡散シート1の断面図である。
【図5】図5(A),(B)及び(c)は、図1の異方性光拡散シートを用いた照明装置の一例を示す断面図である。
【図6】図6は、図1の異方性光拡散シートの製造方法の工程図(一例)である。
【図7】図7は、図3および図4の異方性光拡散シートの製造方法の工程図(一例)である。
【図8】図8は、図6および図7の製造方法を実施することができる製造装置の構造例を示す図である。
【図9】図9は、図1の構造を有する実施例1に係る異方性光拡散シートの一部の顕微鏡写真である。
【図10】図10は、図9の異方性光拡散シートにレーザポインタ(LED)の光を照射した場合に得られる光分布を示す中間調画像である。
【図11】図11は、レーザポインタ(LED)の光そのもの(異方性光拡散シートを通さない場合のもの)による光分布を示す中間調画像である。
【図12】図12は、図9の異方性光拡散シートの光学特性を示すグラフである。
【図13】図13は、レーザポインタ(LED)の光学特性を示すグラフである。
【図14】図14は、図12および図13の光学特性を測定した測定装置(株式会社ジェネシア製の散乱測定器)を示す断面図である。
【図15】図15は、図3の構造を有する実施例2に係る異方性光拡散シート1の一部の顕微鏡写真である。
【図16】図16は、図15の異方性光拡散シートにレーザポインタ(LED)の光を照射した場合に得られる光分布を示す中間調画像である。
【図17】図17は、図15の異方性光拡散シートの光学特性を示すグラフである。
【図18】図18は、図4の構造を有する異方性光拡散シートの一部の顕微鏡写真である。
【図19】図19は、図18の異方性光拡散シートにレーザポインタ(LED)の光を照射した場合に得られる光分布を示す中間調画像である。
【図20】図20は、図18の異方性光拡散シートの光学特性を示すグラフである。
【図21】図21は、図1の構造を有する実施例4に係る異方性光拡散シートの一部の顕微鏡写真である。
【図22】図22は、図21の異方性光拡散シートにレーザポインタ(LED)の光を照射した場合に得られる光分布を示す中間調画像である。
【図23】図23は、図21の異方性光拡散シートの光学特性を示すグラフである。
【図24】図24は、比較例1に係る光拡散シート(複数のパイルが配向されていない光拡散シート)の一部の顕微鏡写真である。
【図25】図25は、図24の比較例1に係る光拡散シートにレーザポインタ(LED)の光を照射した場合に得られる光分布を示す中間調画像である。
【図26】図26は、図24の比較例1に係る光拡散シートの光学特性を示すグラフである。
【図27】図27は、比較例2に係る光拡散シート(パイルの替わりにビーズを用いた光拡散シート)の一部の顕微鏡写真である。
【図28】図28は、図27の比較例2に係る光拡散シートにレーザポインタ(LED)の光を照射した場合に得られる光分布を示す中間調画像である。
【図29】図29は、図27の比較例2に係る光拡散シートの光学特性を示すグラフである。
【図30】図30は、実施例1の異方性光拡散シートについての、配向度の解析に使用した画像(A)と、その配向度の分布図(B)とを示す。
【図31】図31は、実施例2の異方性光拡散シートについての、配向度の解析に使用した画像(A)と、その配向度の分布図(B)とを示す。
【図32】図32は、実施例3の異方性光拡散シートについての、配向度の解析に使用した画像(A)と、その配向度の分布図(B)とを示す。
【図33】図33は、実施例4の異方性光拡散シートについての、配向度の解析に使用した画像(A)と、その配向度の分布図(B)とを示す。
【図34】図34は、比較例1の光拡散シートについての、配向度の解析に使用した画像(A)と、その配向度の分布図(B)とを示す。
【符号の説明】
【0107】
1 異方性光拡散シート
2 導光板
3 発光素子
4 照明装置
13 ベースシート
14 パイル(繊維体)
15 樹脂層(液状樹脂による層)
16 粘着面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面から入射した光を他方の面から、所定の方向へ拡散して出射する異方性光拡散シートであって、
光入射面および光出射面を有し、上記光出射面が接着面であるベースシートと、
略円または略楕円の断面形状を有する複数の繊維体と、を有し、
上記複数の繊維体は、上記接着面に配向して付着していることを特徴とする異方性光拡散シート。
【請求項2】
前記複数の繊維体は、少なくとも横並びの複数本のグループ毎に隣り合って整列するように配向していることを特徴とする請求項1記載の異方性光拡散シート。
【請求項3】
さらに、前記ベースシートの前記接着面に付着している前記複数の繊維体の間を埋める樹脂層を備えることを特徴とする請求項1または2記載の異方性光拡散シート。
【請求項4】
前記樹脂層は、紫外線硬化性樹脂あるいは熱硬化性樹脂を用いて形成されていることを特徴とする請求項3記載の異方性光拡散シート。
【請求項5】
前記繊維体は、0.1ミリメートル以上且つ1.0ミリメートル以下の長さの高分子の糸あるいはガラス繊維であることを特徴とする請求項1から4の中のいずれか1項記載の異方性光拡散シート。
【請求項6】
一方の面から入射した光を他方の面から、所定の方向へ拡散して出射する異方性光拡散シートの製造方法であって、
上記異方性光拡散シートのベースシートの接着面に対して、略円または略楕円の断面形状を有する複数の繊維体を配向するように付着させ、これにより配向処理がなされた上記複数の繊維体を上記接着面に付着させる第一の工程と、
上記接着面に付着している上記複数の繊維体に対して、それらを所定の方向へ擦る力を作用させる第二の工程と、
を有することを特徴とする異方性光拡散シートの製造方法。
【請求項7】
さらに、前記複数の繊維体が付着した前記ベースシートの前記接着面に対して液状樹脂を塗布し、これにより前記複数の繊維体の間を埋める樹脂層を形成する第三の工程を備えることを特徴とする請求項6記載の異方性光拡散シートの製造方法。
【請求項8】
請求項1から5の中のいずれか1項記載の前記異方性光拡散シートと、
前記異方性光拡散シートの前記一方の面に重ねて配設される導光板と、
上記導光板の前記異方性光拡散シートと重なる面を上下とした場合の上記導光板の側面に対向して配設される発光素子と、
を有することを特徴とする照明装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図17】
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【図20】
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【図23】
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【図26】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図2】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図15】
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【図16】
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【図18】
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【図19】
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【図21】
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【図22】
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【図24】
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【図25】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2009−86066(P2009−86066A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−252874(P2007−252874)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】