説明

異材接合方法

【課題】 アルミニウム/鉄スポット溶接においても、溶接条件が幅広く、かつ、高強度溶接が可能な異材接合方法を提供する。
【解決手段】 アルミニウムと鉄とを用いた重ね合わせ抵抗溶接において、接合部界面に異材接合用接着剤を挟み込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムと鉄のような電食が発生する異材の接合においても耐腐食性に優れた異材接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来は、自動車のボディーや蓋物のヘミング部に用いられる構造用接着剤は、エポキシ系樹脂をメインに、可塑剤、充填剤(炭酸カルシウム等)、その他添加剤を配合した接着剤が用いられている(例えば、特許文献1〜5参照。)。鉄と鉄、又は、アルミニウムとアルミニウムのような同材のスポット溶接においては、これらの接着剤をフランジ部に挟み込んだウェルボンド構造が用いられており、接着剤を挟み込むことにより、強度、剛性及び耐腐食性の向上を実現してきた。
【0003】
【特許文献1】特開平05−156227号公報
【特許文献2】特開平06−108028号公報
【特許文献3】特開平08−206845号公報
【特許文献4】特開平11−61072号公報
【特許文献5】特開2004−168928号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、アルミニウム/鉄のような異材接合においては、異金属の接触が起こるフランジ部は、電食や隙間腐食が発生し、同一金属の溶接よりも耐腐食性が劣ってしまうといった問題を有していた。このような異材接合を自動車等において用いる場合には、電食によりスポットが直ぐ剥がれてしまうことになるので、接合部を絶縁するために接着剤を塗布したウェルボンド構造を用いる必要があった。
【0005】
また、アルミニウム/鉄異材スポット溶接において、従来のスポット溶接部用接着剤をフランジ部に充填した場合には、耐腐食性は確保できるものの、溶接メカニズムが拡散接合であるため、接着剤を挟むことは、溶接性に対し多大な影響を与える。これにより、接合不良による強度低下やスパッタの発生、通電不良などを引き起こしてしまうといった問題を有していた。
【0006】
したがって、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、アルミニウム/鉄スポット溶接においても、溶接条件が幅広く、かつ、高強度溶接が可能な異材接合方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の異材接合方法は、アルミニウムと鉄とを用いた重ね合わせ抵抗溶接において、接合部界面に異材接合用接着剤を挟み込んだことを特徴としている。なお、本発明における異材接合用接着剤は、エポキシ系樹脂、硬化剤、充填剤からなるものであり、特に、従来の構造用接着剤から充填剤の含有量を低減させたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、異材接合用接着剤が、シール性能のみならず、接合による強度を兼ね備えていることから、この異材接合用接着剤を用いることにより、アルミニウム/鉄スポット溶接においても、溶接条件が幅広く、しかも、スポット強度が低下しない高強度な溶接をすることができ、さらに、異材接合部周辺にシール効果がもたらされ、電食を抑制することができる。このように、高強度な溶接が可能となったことから、接合させるアルミニウムは、表面処理されたものに限定されない。
【0009】
これらの結果、アルミニウムと鉄のような異材接合を重ね合わせ抵抗溶接する場合においても、汎用設備で施工することが可能となり、自動車製造においては、アルミ材により車体を部分的に材料置換することができ、大幅に自動車の軽量化や燃費向上、運動性能向上が期待でき、また、自動車分野以外においても、鉄道車両などの輸送分野、機械部品、家電、生活用品への応用展開が容易にできるといった効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の異材接合方法の好適な実施形態について説明する。
本発明の異材接合方法は、アルミニウムと鉄との接合部界面に異材接合用接着剤を挟み込んだ状態で重ね合わせ抵抗溶接を行うものである。ここで、本発明における異材接合用接着剤は、エポキシ系樹脂、硬化剤、充填剤からなる接着剤であり、具体的には、従来の構造用接着剤から充填剤を低減させたものが挙げられる。また、本発明における充填剤としては、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉛、シリカ、タルク、カーボン、無水ケイ酸、ベントナイト、金属粉、樹脂粉末、ガラス粉、ガラスファイバーのうち少なくとも1つ以上からなるものが挙げられる。
【0011】
また、本発明においては、充填剤が1〜32重量%含有されていることが好ましい。充填剤の含有量が1重量%未満では、ラインでの垂れ性及び吸湿性に問題を生じてしまう。なお、垂れ防止にはシリカが、また、吸湿防止には酸化カルシウムが好適である。一方、充填剤の含有量が32重量%を超えると、異材接合構造体の接合強度が低下してしまう。
【0012】
さらに、本発明の異材接合構造体は、アルミと鉄を用いた重ね合わせ抵抗溶接において、接合部界面に異材接合用接着剤を挟み込んだことを特徴としている。また、本発明の異材接合構造体においては、アルミニウムと鉄とを重ね合わせた接合部界面が、ウェルドボンド構造を形成していることが好ましく、これによれば、さらなる強度向上が図られる。
【実施例】
【0013】
以下、実施例および比較例を用いて本発明の異材接合方法を具体的に説明する。
1.異材接合用接着剤の調製
サンスター技研社製の構造用接着剤(商品名:#1085)を比較例用の接着剤7とし、表1に示すように、それぞれ充填剤の配合量を低減させたものを実施例用の接着剤1〜6とした。また、実施例用接着剤とは逆に、充填剤の配合量を増量させたものを比較例用の接着剤8とした。
【0014】
【表1】

【0015】
2.アルミニウム/鉄異材接合構造体の製造
長さ100mm、幅40mm、厚さ1.0mmの合金化溶融亜鉛めっき(GA)鋼板(商品名:JAC270E、新日本製鐵社製)又は溶融亜鉛めっき(GI)鋼板(商品名:SGCC−Z12、新日本製鐵社製)上に、表1に示した各接着剤を40×40mmの範囲に100μmの厚さで塗布し、この接着剤を挟み込むように、長さ100mm、幅40mm、厚さ1.0mmの5000系アルミニウム部材(商品名:A5182、新日本製鐵社製)又は6000系アルミニウム部材(商品名:6K21、神戸製鋼所社製)を重ね合わせた積層体に対して、加圧方式のAIR式インバーター溶接機(商品名:YR−100CHJ120、松下電器産業(株)製、チップ:DR6タイプ)を用いて、加圧:150kgf及び電流値:10kAで重ね合わせ抵抗溶接を行い、実施例及び比較例の異材接合方法を用いた各アルミニウム/鉄異材接合構造体を作製した。
【0016】
3.評価
上記のようにして作製された各アルミニウム/鉄異材接合構造体について、JIS 3136に準拠して、インストロン社製の10ton引張試験機を用いて、引張り速度5mm/minで接合強度を測定した。これらの結果は、表2及び図1に示した。
【0017】
【表2】

【0018】
表2及び図1から明らかなように、本発明の異材接合方法を用いたアルミニウム/鉄異材接合構造体では、接着剤を挟んでも十分に強度が確保できることが示された。これに対し、充填剤の含有量が32重量%を超えた場合の比較例の異材接合方法を用いたアルミニウム/鉄異材接合構造体では、目標である溶融接合強度を達成することができないことが示された。また、本明細書には実験データを示していないが、充填剤の含有量が1重量%未満の場合の比較例の異材接合方法を用いたアルミニウム/鉄異材接合構造体では、吸湿による接着剤の変質が起こったり、さらには、施工時の粘度が小さいため、垂れ等の不都合が発生し、ハンドリング性(施工性)が悪く、工業的実施においては問題を有するものであることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の異材接合方法を用いたアルミニウム/鉄異材接合構造体における、充填剤量と接合強度との関係を示す線図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムと鉄とを用いた重ね合わせ抵抗溶接において、接合部界面に異材接合用接着剤を挟み込んだことを特徴とする異材接合方法。
【請求項2】
前記異材接合用接着剤は、エポキシ系樹脂、硬化剤、充填剤からなり、前記充填剤が1〜32重量%含有されることを特徴とする請求項1に記載の異材接合方法。
【請求項3】
前記充填剤は、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉛、シリカ、タルク、カーボン、無水ケイ酸、ベントナイト、金属粉、樹脂粉末、ガラス粉、ガラスファイバーのうち少なくとも1つ以上からなることを特徴とする請求項2に記載の異材接合方法。
【請求項4】
アルミと鉄を用いた重ね合わせ抵抗溶接において、接合部界面に異材接合用接着剤を挟み込んだことを特徴とする異材接合構造体。

【図1】
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【公開番号】特開2007−136497(P2007−136497A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−332783(P2005−332783)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)