説明

異物検査装置及びこれを用いた異物検査方法

【課題】基板状の被検体上のサブミクロンオーダーの異物をその位置情報と共に確実に検出し、異物を被検体から収集して同定、解析を行う必要がなく、信頼性が高い分析、解析を効率よく行うことができる異物検査装置や方法を提供する。特に、微小な有機物の異物の検出、分析を確実に行うことができる異物検査装置や異物検査方法を提供する。
【解決手段】基板状の被検体の表面の凹凸を測定し、異物を検出する検出手段と、異物から特定の水平距離の被検体の表面に凹部を付すマーキング手段と、被検体表面に1次イオンビームを照射・走査して凹部を検出し、凹部から特定の水平距離の位置から放出される2次イオンの質量スペクトル測定手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェハやガラス基板等の表面に付着した異物の位置を特定し、その組成の分析を行う異物検査装置及びこれを用いた異物検査方法に関し、より詳しくは、1μm以下の異物の検出を行うことが可能な異物検査装置及びこれを用いた異物検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェハ等の基板に対し、その表面に付着する微小なごみや、微小配線の欠陥等を検出する場合、投受光装置を用いた光学手段により座標情報と共に異物を検出し、得られた位置情報に基づき、走査顕微鏡により異物の分析、解析を行う検査装置が知られている。(特許文献1)。
【0003】
また、異物の検出において用いる光学手段のレーザービームのスポット径が数10μmであるのに対し、走査型顕微鏡の走査ビームのスポット径は0.1μmと小さく、走査ビームを異物に照準するのに長時間を要する。更に、被検体上の微小物に分析装置等の照準を合わせるためには、被検体を載置するXYステージが微小物の大きさと同程度の精度の位置再現性を有する必要があり、XYステージの移動に時間を要し、200mm×300mm等の基板の検出に長時間を要する。このため、例えば、試料上の微小物をスポット径を調製したレーザービームによる散乱光で検出し、検出位置と走査型電子顕微鏡(SEM)等の観察位置を、フィードバック制御装置により自動的に合わせることができる装置(特許文献2)が報告されている。
【0004】
このような微小物分析装置においては、微少物の観察、分析の効率が向上される。しかしながら、一般的に、レーザービーム等の光学的な検出手段では、回折限界が波長領域であることから、実質的に検出可能な微小物の大きさは1μm程度である。干渉光等を利用してもサブミクロンの空間分解能を有することは難しい。また、微小物の検出位置と観察若しくは分析位置との位置合せの精度は、機械的機構に依存していることから、サブミクロンの精度を期待することは難しく、1μm以下の微小物の位置を特定することは困難である。SEM等による1μm以下の微小物の位置を特定することは容易であるが、帯電し易い有機物試料では試料表面の導電処理が必要となり、有機物の微小物の分析に有用なTOF−SIMS装置の利用が困難となる。更に、1μm以下の微小物では分子間力の支配力が大きくなるため、捕集作業は非常に難しく、捕集できたとしても任意の位置に固定することは、さらに難しくなる。
【0005】
ところで、微細加工に使用されるナノインデンターは、三角錐状の圧子を有し、これを荷重して数ナノメートルの深さの加工を可能とするものである。この種のナノインデンターを用い、基板に数ナノメートルの凹部に触媒を形成して、その部位にカーボンナノチューブを成長させる方法(特許文献3)等が知られている。
【特許文献1】特開昭60−218845号公報
【特許文献2】特開平11−23481号公報
【特許文献3】特開2004−107192
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、基板状の被検体上のサブミクロンオーダーの異物をその位置情報と共に確実に検出し、異物を被検体から収集して同定、解析を行う必要がなく、信頼性が高い分析、解析を効率よく行うことができる異物検査装置や方法を提供することにある。特に、微小な有機物の異物の検出、分析を確実に行うことができる異物検査装置や異物検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、基板等の被検体の表面の凹凸を測定することにより、被検体表面上の異物を検出し、異物から特定位置に凹部を形成し、その後、質量スペクトル測定手段により凹部から特定位置の質量スペクトルを得て、異物の解析が可能なことを見い出した。かかる知見に基づき、短時間でサブミクロンオーダーの異物の分析、解析が可能な、本発明の異物検査装置を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、基板状の被検体の表面の凹凸を測定し、異物を検出する検出手段と、異物から特定の水平距離の被検体の表面に凹部を付すマーキング手段と、被検体表面に1次イオンビームを照射・走査して凹部を検出し、凹部から特定の水平距離の位置から放出される2次イオンの質量スペクトル測定手段とを有することを特徴とする異物検査装置に関する。
【0009】
また、本発明は、上記異物検査装置を用いることを特徴とする異物検査方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の異物検査装置やその方法は、基板状の被検体上のサブミクロンオーターの異物をその位置情報と共に確実に検出することができ、異物を被検体から収集して同定、解析を行う必要がなく、信頼性が高い分析、解析を効率よく行うことができる。特に、微小な有機物の異物の検出、分析を確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の異物検査装置において、検査の対象となる被検体は、無機物又は有機物の基板状であり、マクロ的に平面を有するものである。具体的には、半導体ウェハやガラス基板等を挙げることができる。被検体表面上の異物としては、無機物、有機物いずれのものであってもよい。また、検査の対象となる異物としては被検体との材質が異なるものの他、被検体と材質が同一であって、被検体表面の凹凸と比較して大きい凸部であってもよい。その大きさとしては、被検体表面自体が有する凹凸を超える大きさであれば、いずれの大きさであってもよく、異物を球状若しくは半球状と仮定した場合、直径1μm以下のサブミクロンのものも対象とすることができる。
【0012】
本発明の異物検査装置において用いる異物を検出する検出手段としては、基板状の被検体の表面の凹凸が測定可能なものであればよい。具体的には、走査型電子顕微鏡、反射電子顕微鏡、イオン顕微鏡、原子間力顕微鏡(AFM)、電気力顕微鏡(EFM)、磁気力顕微鏡(MFM)等を適用することができる。走査型電子顕微鏡(SEM)は電子ビームを被検体に照射し被検体から放射される二次電子、反射電子、透過電子、X線、蛍光、内部起電力等を検出するものである。イオン顕微鏡は、電子顕微鏡における電子の代わりに陽子、ヘリウム、リチウム等のイオンを用いて、被検体表面の像を得るものである。原子間力顕微鏡(AFM)は走査型顕微鏡の一種であり、カンチレバー(探針)と被検体間に作用する原子間力を、探針の上下方向の変位から測定し、被検体の表面の凹凸像を得るものである。被検体が無機物の場合は走査型電子顕微鏡等を用いることもできるが、原子間力を利用した原子間力顕微鏡は、大気中で測定することができ、装置が小型であり、被検体が絶縁物であっても、導電性コーティングをせずに測定できることから、特に、好ましい。かかる原子間力顕微鏡としては、表面の検出を、コンタクトモード、ノンコンタクトモード、タッピングモード等で行うものを挙げることができる。コンタクトモード原子間力顕微鏡においては、被検体を載置する円筒状などの試料台上に探針を設け、探針の先端の平板部分にレーザー光を照射し反射したレーザー光を、4又は2分割のフォトダイオードの中心で測定する。探針が試料表面に接近すると、探針が被検体表面に引き寄せられ、変形して接触する。この変形のために反射光の角度が変化し、フォトダイオードの分割領域の光起電力に差が生じる。この起電力の差をフィードバック回路を用いて一定にする(探針の変位を一定にする。)ように探針又は試料台をZ軸方向に上下させ、且つ、XY方向に移動させつつ被検体全面をスキャンする。このときのXYZ方向の移動の制御信号により被検体表面の像を得る。
【0013】
ノンコンタクトモード原子力間顕微鏡においては、圧電素子によって探針を上下に共振させながら被検体表面の数ナノメートル程度の近傍に位置させ、被検体と探針間の原子間力を測定する。この原子間力をフィードバック回路を用いて一定に保持するように探針又は試料台をZ軸方向に上下させ、且つ、XY方向に移動させ被検体全面をスキャンする。このときのXYZ方向の移動の制御信号に基づき、被検体表面の像を得るものである。ノンコンタクトモード原子間力顕微鏡は、非接触による検出のため、探針による被検体の破壊を防止できるため、本発明に用いる異物検出手段として、特に好ましい。
【0014】
タッピングモード原子力顕微鏡においては、探針は被検体表面を跳ねるように上下に動き、表面の凹凸を測定する。分解能が高く精密な測定、液中の測定、破壊されやすい被検体の測定を行うことができる。
【0015】
本発明の異物検査装置に用いるマーキング手段としては、異物からの水平距離を認識して被検体の表面に凹部を付すものであれば、いずれのものであってもよいが、ナノインデンターを用いることが好ましい。ナノインデンターは先端半径0.1〜1μm程度のプローブ針(インデント)を有する。このプローブ針又は測定物を垂直方向に移動させプローブ針を測定物に数10nm〜数μmの深さまで押し込むように荷重した後、除荷し、被検体表面に凹部を付し、ヤング率の測定等に用いることができる。ナノインデンターは、被検体に打ち込むプローブ針、プローブ針を垂直方向に駆動するインデンター駆動部、プローブ針の垂直方向の変位を計測する変位計測部、プローブ針と被検体間の荷重を計測する荷重計測部、被検体を載置する載置台位置決め部等を備える。プローブ針としては、被検体表面の硬度より高い硬度を有するものが好ましく、被検体がいずれの材質のものであっても適用できる、例えば、ダイヤモンド製のものを用いることが好ましい。
【0016】
このようなナノインデンターにおいて、被検体表面上の異物がXYステージ等の載置台上の位置情報と共に検出されると、プローブ針が被検体の特定位置上方に配置するように載置台を水平移動させる。プローブ針が配置される特定位置としては、後述する質量スペクトル測定手段に用いる1次イオンビームの走査範囲内に異物と共に含まれる位置であることが好ましい。具体的には、検出された異物から一定距離であって、質量スペクトル測定手段に用いる1次イオンビームの走査範囲内にある位置の上方や、被検体の異物検出領域外の周縁部等の上方などであってもよい。このときの載置台の水平移動距離が認識され、プローブ針と異物間の水平距離が認識され、記憶される。プローブ針又は被検体の載置台を垂直方向に移動させ、被検体表面に凹部を形成するようにプローブ針先端が被検体表面に押し込まれる。被検体上に形成される凹部としては、プローブ針先端形状が三角錐、四角錐、円錐など種々の形状のものがあり、その先端形状に応じた凹部形状が形成されるが、例えば、円錐形とした場合、直径1μm〜10μm、深さ0.1μm〜5μmを挙げることができる。上記の被検体上に形成される凹部の大きさと形状は、後述の飛行時間型二次イオン質量分析装置で識別可能であれば、特に制限されることはない。被検体上の凹部と異物間の水平距離はプローブ針と異物の水平距離に相当する。
【0017】
上記ナノインデンターの一例として、図1に示すものを挙げることができる。図1に示すナノインデンターは、被検体1を載置するXYZステージ3と、ナノインデントプローブ2を有する。被検体を載置するXYZステージは、被検体上の凹部(図3のC)を形成する位置がナノインデントプローブの直下に位置するようにXY方向に移動する。このときのXYZステージのXY方向の移動量を認識し、検出手段により検出された異物(図3のF)からの水平距離を記憶する。更に、XYZステージが、ナノインデントプローブ先端が被検体表面から特定の深さ位置に達するまでZ方向に上昇し、被検体表面に凹部を形成するようになっている。
【0018】
本発明の異物検査装置において用いる質量スペクトル測定手段は、被検体表面に1次イオンビームを照射・走査して被検体上の異物から放射される2次イオンの質量スペクトルを得るものである。質量スペクトル測定手段では、被検体から放出される2次イオンの検出部において、凹部から放出される2次イオンが散逸し検出部に捕集されるイオン量が大きく低下するため、電場分布が異なる部分を凹部として検出することができる。検出した凹部の位置から認識、記憶されている水平距離にある異物の位置を求め、その位置から得られる2次イオンの質量スペクトルを異物のものとして、異物の同定、解析を効率よく行うことができる。
【0019】
このような質量スペクトル測定手段において、1次イオンビームのスポット径は検出する異物を球状又は半球状と仮定した場合、その直径より小径であることが、異物由来の質量スペクトルとして情報の抽出が容易であることから、好ましい。1次イオンビームのスポット径が異物の直径より大きい場合は、異物を含まない周囲の質量スペクトルと異物位置からの質量スペクトルの差分解析により求められる質量スペクトルを、異物の質量スペクトルとして抽出することができる。1次イオンビームのスポット径としては、例えば、0.1μm〜1μmを挙げることができる。このような1次イオンビーム種としては、金、ビスマス、ガリウム、インジウム、又はゲルマニウムのいずれかであることが、一次イオンビームのスポット径が容易に小さくできる液体金属イオン銃(LMIG)のイオン源として市販されていることから好ましい。
【0020】
上記質量スペクトル測定手段は、質量スペクトルから異物の特定を行うデータ処理機構を備えたものが好ましい。データ処理機構としては、質量スペクトルのピーク解析や参照試料との比較処理や、ピークの微分積分処理、関数処理等の演算処理等を行う装置を挙げることができる。
【0021】
上記質量スペクトル測定手段としては、具体的には、磁場型質量分析装置、四重極型二次イオン質量分析装置、飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)装置等を挙げることができる。測定形態としては、被検出体を削りながら破壊的に測定するダイナミックモードや、非破壊的に測定するスタティックモードいずれでもよいが、非破壊的測定を行うスタティックモード方式のものが好ましい。また、異物検出手段として走査型顕微鏡を用いる場合は、これを適用することもできる。質量スペクトル測定手段としては、スタティックモードの1種の飛行時間型二次イオン質量分析装置が好ましい。
【0022】
上記飛行時間型二次イオン質量分析装置の一例として、図2に示すものを挙げることができる。図2に示す飛行時間型二次イオン質量分析装置は、被検体1に1次イオンを照射する照射イオン銃4と、1次イオンが照射されることにより被検体表面から放出される2次イオンの飛行時間を検出する検出器5とを有する。その他、図示しない1次イオンを被検体表面に走査させる走査装置、被検体表面から放出される2次イオンを加速する引出し電極等が備えられる。照射イオン銃は、金、ビスマス、ガリウム、インジウム、又はゲルマニウム等のイオンをイオンビーム状でパルスとして放射する。イオンビームのスポット径は予測される異物の直径より小さくなるように調整され、XY方向に走査され被検体表面を順次照射するようになっている。照射イオン銃から放射されたイオンが被検体表面に衝突し分子が壊れフラグメントや、イオン化された分子が二次イオンとして放出される。検出器において、捕集した二次イオンの飛行速度はイオンの質量に依存し、検出器に到達する時間から二次イオンの質量スペクトルを得て、分子又は分子のフラグメントの同定を行う。二次イオンのエネルギー分布は質量分解能を低下させるため、エネルギー収差を小さくするため静電場でイオンを収束させ、質量分解能の向上を図るようにしてもよい。
【0023】
上記異物検査装置の一例として、図3の構成図に示すものを挙げることができる。図3に示す異物検査装置は、検査手段として原子間力顕微鏡(AFM)10と、マーキング手段としてナノインデンター20と、飛行時間型二次イオン質量分析装置(図示せず)とを有する。原子間力顕微鏡10には、カンチレバー11、周波数計測部12、フィードバック回路13、圧電素子14、異物検出部15、超音波XYZステージ16、XYZステージ位置決め部17等が設けられる。ナノインデンター20には、プローブ針21、インデンター駆動部22、荷重計測部23、変位計測部24、フィードバック回路25、原子間力顕微鏡と兼用される超音波XYZステージ15、XYZステージ位置決め部16等が設けられる。
【0024】
原子間力顕微鏡10におけるカンチレバー11は被検体1表面と数ナノメートル程度の近傍にその先端が位置するように配置され、圧電素子14によって上下に共振される。周波数計測部12は、CPUにより制御され、カンチレバーと被検体間の距離により変動するカンチレバーの振動の振幅、位相、周波数を測定する。フィードバック回路13は周波数計測部により測定されたカンチレバーの周波数等の変動を相殺し、測定値が一定の周波数となるように、即ち、カンチレバーと被検体間距離が一定となるように、上下動機構(図示せず)を駆動させカンチレバーの位置を変動させる。超音波XYZステージ15はCPUにより制御されるXYZステージ位置決め部16により制御される超音波リニアモーターによりXYZ方向に高精度に移動されるXYZステージを有する。
【0025】
異物検出部15はカンチレバーの上下動量から被検体表面の凹凸と比較して大きい凸部を異物として検出する。
【0026】
ナノインデンター20におけるインデンタ駆動部22は、被検体上に異物を検出した異物検出部からの異物検出信号を入力するとXYZステージ位置決め部16を介して超音波XYZステージ15をXY方向に移動させる。超音波XYZステージ15のXY方向の移動により、プローブ針21を被検体の特定位置上に位置させる。このときの超音波XYZステージの水平方向の移動量を認識し、CPUに記憶する。その後、プローブ針の垂直移動機構(図示せず)を駆動させ、プローブ針先端が、被検体表面を押圧し特定位置に達するまで押し込ませる。このときプローブ針の荷重、変位量をそれぞれ荷重計測部23、変位計測部24により計測し、計測値からフィードバック回路25によりプローブ針の移動量が調整され、凹部が形成される。
【0027】
また、原子間力顕微鏡の機能を有するナノインデンター装置も市販されていることから、同一の制御機構により異物の検出とプローブ針先端による凹部形成を行うことも可能である。また、XYZステージも超音波リニアモーターを使用するものに限らず、エンコーダによる制御機構を有するステージと圧電素子による制御機構を有するステージを併せ持つものでもよい。圧電素子によるステージ制御によって高精度に異物の検出とプローブ針先端による凹部形成を行うことができる。
【0028】
飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)としては図2に示すものと同様のものを使用することができる。ナノインデンダーにおいて凹部が形成された被検体を、飛行時間型二次イオン質量分析装置にセットし、照射イオン銃からの1次イオンを被検体表面に照射・走査させる。検出器において電場分布が異なる部分を凹部として検出する。凹部から特定の水平距離の位置からの二次イオンを検出器で捕集し、異物の質量スペクトルを得る。1次イオンのスポット径が異物の直径より大きい場合、異物の質量スペクトルは、具体的には、以下のようにして得ることができる。
【0029】
TOF−SIMSの検出器から得られる異物を含む部分(図4のS)の質量スペクトルとして、例えば、図5(a)に示すように、異物及び被検体の質量スペクトルを得る。被検体の質量スペクトルとして、図5(b)に示す質量スペクトルを得る。異物(図4のF)の質量スペクトルとして、異物及び被検体の質量スペクトルから被検体の質量スペクトルを削除することにより、図5(c)に示す質量スペクトルを得ることができる。得られた質量スペクトルから異物の同定、解析を行うことができる。
【0030】
本発明の異物検査装置は、異物を検出する検出手段とマーキング手段はそれぞれ独立して存在するものであってもよく、質量スペクトル測定手段に異物を検出する検出手段とマーキング手段を組み込んだものであってもよい。
【実施例】
【0031】
以下に、本発明の異物検査装置を、図面を参照して具体的に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されるものではない。
【0032】
原子間力顕微鏡(AFM)機能を有するナノインデンター装置(Hysitron社製:トライボインデンター(TriboIndenter))と、TOF−SIMS装置(ULVAC-PHI社製:トリフトIII(TRIFT III))とを用いた。
【0033】
被検体として、シリコンウエハ上に成膜した膜厚20μm程度のエポキシ樹脂膜表面に0.5μm径のポリスチレン微粒子を付着させ試料を作成した。この試料を用い、トライボインデンターにより、ポリスチレン微粒子を検出し、ポリスチレン微粒子から5μm離れた位置のエポキシ樹脂膜に深さ2μm程度の凹部を形成した。
【0034】
その後、トリフトIIIにおいて、Ga+イオンを1次イオンとして用い、試料上のポリスチレン微粒子と凹部とを同一視野中に捕らえられる領域(50μm×50μm)で1次イオンを照射し、発生する二次イオンの質量スペクトルを収集した。図5に示す処理によってポリスチレン微粒子の質量スペクトルを抽出した結果、主に検出されるピーク、Mass91、115は、スチレン由来のピークであり、0.5μm径のポリスチレン微粒子を検出した。本発明の異物検査装置により、異物の同定、解析を効率よく行うことができることが明らかである。
【0035】
[比較例]
検出手段として日本分光製NR−1800の顕微レーザーラマン装置を用い、実施例で使用した試料について、波長488.0nmのレーザービームを照射して検出を行った。レーザービーム照射によりポリスチレン微粒子に破壊が生じ、ポリスチレン微粒子は検出されず、従って、その位置、同定、解析を行うことはできなかった。レーザービームによる検出では、1μm以下の微粒子を検出することはできないことが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の異物検査装置のマーキング手段の一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の異物検査装置の質量スペクトル測定手段の一例を示す概略構成図である。
【図3】本発明の異物検査装置の一例を示す概略構成図である。
【図4】本発明の異物検査装置における異物の質量スペクトルを得る方法の説明図である。
【図5】本発明の異物検査装置における異物の質量スペクトルを得る方法の説明図である。
【符号の説明】
【0037】
1 被検体
2 ナノインデントプローブ
3 XYZステージ
4 照射イオン銃
5 検出器
C 凹部
F 異物
10 原子力間顕微鏡
20 ナノインデンター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板状の被検体の表面の凹凸を測定し、異物を検出する検出手段と、
異物から特定の水平距離の被検体の表面に凹部を付すマーキング手段と、
被検体表面に1次イオンビームを照射・走査して凹部を検出し、凹部から特定の水平距離の位置から放出される2次イオンの質量スペクトル測定手段とを有することを特徴とする異物検査装置。
【請求項2】
異物を検出する検出手段が、原子間力を利用して被検体の表面の凹凸を測定する手段であることを特徴とする請求項1記載の異物検査装置。
【請求項3】
マーキング手段として、ナノインデンターを用いることを特徴とする請求項1又は2記載の異物検査装置。
【請求項4】
マーキング手段が、質量スペクトル測定手段に用いる1次イオンビームの走査範囲内に異物と共に含まれるように凹部を付すものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか記載の異物検査装置。
【請求項5】
質量スペクトル測定手段に用いる1次イオンビームが異物より小さいスポット径を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか記載の異物検査装置。
【請求項6】
1次イオンビームが、金、ビスマス、ガリウム、インジウム、又はゲルマニウムのいずれかのイオンビームであることを特徴とする請求項1から5のいずれか記載の異物検査装置。
【請求項7】
質量スペクトル測定手段が、質量スペクトルを解析するデータ処理機構を有することを特徴とする請求項1から6のいずれか記載の異物検査装置。
【請求項8】
質量スペクトル測定手段として、飛行時間型二次イオン質量分析装置を用いることを特徴とする請求項1から7のいずれか記載の異物検査装置。
【請求項9】
異物が1μm以下の大きさであることを特徴とする請求項1から8のいずれか記載の異物検査装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか記載の異物検査装置を用いることを特徴とする異物検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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