説明

異種軌道移行装置および異種軌道移行方法

【課題】軌間距離等の異なる線路上を客貨車が連続して走行するための異種軌道移行装置および異種軌道移行方法を実現する。
【解決手段】標準軌道40と、狭軌道50との間に設置され、左右の車輪間の距離を変更することが可能な客貨車80が通過することで左右の車輪間の距離を標準軌と狭軌の間で相互に変換する軌間変換装置10と、
標準軌道40と軌間変換装置10の間に設置され、標準軌用機関車60の少なくとも2機を並列に積載可能な2組のレールを有し、標準軌用機関車60を積載したままスライド可能な標準軌トラバーサ20と、
狭軌道50と前記軌間変換装置の間に設置され、狭軌用機関車70の少なくとも2機を並列に積載可能な2組のレールを有し、狭軌用機関車70を積載したままスライド可能な狭軌トラバーサ30と、
を備えることを特徴とする異種軌道移行装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌間距離等の異なる線路上を客貨車が連続して走行するための異種軌道移行装置および異種軌道移行方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー効率の良い輸送手段としての鉄道が着目されていることもあって、高度化・複雑化した鉄道網をより有効に活用し、乗客の乗換えや貨物の積替えを廃して到達時間の短縮や利便性の向上を図ることを目指して、軌間距離の異なる線路区間(以下「異軌間軌道」という)において列車を連続的に移動させる技術への要請が高まっている。
【0003】
初期には、異軌間軌道の境界がある国境等において、貨車の車体をジャッキで持ち上げ、車体に装着されている台車を異なる軌間に対応する台車へと交換する技術が実用化されたが、近年では、台車自体に左右の車輪間の距離を変更する機能を持たせて異軌間軌道の走行を可能としたいわゆる軌間可変車両が開発され、例えば、スペイン国鉄におけるタルゴ客車がヨーロッパ各国の異軌間軌道において営業運行を行っている(例えば、非特許文献1参照)。
【非特許文献1】「RTRI REPORT Vol.14 No.10」、発行国:日本、財団法人鉄道総合技術研究所発行、2000年10月発行、1〜6頁(軌間可変車両の世界の動向)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、タルゴ客車において客車を牽引する機関車は、重量が客車と比較して極端に重たいこと、駆動力を伝達する必要がある台車の構造が複雑になる等の理由から、左右の車輪間の距離を変更可能な機関車の実現には至っておらず、異軌間軌道の境界において広軌(例えば、1668mm)に対応した機関車と標準軌(一般には、1435mm)に対応した機関車とを、入換線および分岐器を用いて交換する必要があり、その作業に15分から20分の時間を要していた。
【0005】
本発明の目的は、複数連結された客貨車による異軌間軌道の相互乗り入れと牽引する機関車の交換を速やかに行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、異種軌道移行装置であって、
第1の軌間距離をもってレールが敷設された第1の軌道と、前記第1の軌間距離とは異なる第2の軌間距離をもってレールが敷設された第2の軌道との間に設置され、左右の車輪間の距離を変更することが可能な軌道走行車両が通過することで左右の車輪間の距離を前記第1と第2の軌間距離の間で相互に変換する軌間変換装置と、
前記第1の軌道と前記軌間変換装置の間に設置され、前記第1の軌道を走行可能な第1の機関車の少なくとも2機を並列に積載可能な2組のレールを有し、前記第1の機関車を積載したままスライド可能な第1のトラバーサと、
前記第2の軌道と前記軌間変換装置の間に設置され、前記第2の軌道を走行可能な第2の機関車の少なくとも2機を並列に積載可能な2組のレールを有し、前記第2の機関車を積載したままスライド可能な第2のトラバーサと、
を備えることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の異種軌道移行装置であって、
前記第1の軌道または前記第2の軌道のいずれか一方は電化区間、他方は非電化区間であり、それらの間に設置されることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2のいずれか一項に記載の異種軌道移行装置であって、
少なくとも前記第1のトラバーサの手前位置の前記第1の軌道上から、前記軌間変換装置を越え、前記第2のトラバーサに到達する位置まで前記軌道走行車両を移動させることが可能な補助客貨車移動手段をさらに備えることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1または2のいずれか一項に記載の異種軌道移行装置によって、左右の車輪間の距離を変更することが可能な客貨車について、前後に前記第1の機関車を連結され前記第1の軌道上を走行可能な状態から、少なくとも前方に前記第2の機関車を連結され前記第2の軌道上を走行可能な状態へと移行させる異種軌道移行方法であって、
前記第1の軌道上を走行してきた前記客貨車の前後に連結された前記第1の機関車のうち、前方に連結されていた前記第1の機関車のみが前記第1のトラバーサに積載され、前記客貨車から切り離された状態で停止して、前記第1のトラバーサをスライド動作させ、前記第1のトラバーサに敷設されている他のレールを前記第1の軌道に合わせる前方機関車解除工程と、
前記前方機関車解除工程の終了後、前記第2のトラバーサ上または前記第2の軌道上において、前記客貨車が前記第2の機関車と連結する前方機関車接続工程と、
前記前方機関車接続工程の終了後、前記第1のトラバーサ上または前記第1の軌道上において、前記客貨車の後方に接続されていた前記第1の機関車を前記客貨車から切り離す後方機関車解除工程と、
前記前方機関車解除工程の終了後、後方に接続された前記第1の機関車又は前方に接続された前記第2の機関車の少なくともいずれか一方の駆動により、前記客貨車が前記軌間変換装置を通過する間に、左右の車輪間の距離を前記第2の軌間距離に合わせて変換する軌間変換工程と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項3に記載の異種軌道移行装置によって、前記客貨車について、前方に前記第1の機関車を連結され前記第1の軌道上を走行可能な状態から、少なくとも前方に前記第2の機関車を連結され前記第2の軌道上を走行可能な状態へと移行させる異種軌道移行方法であって、
前記第1の軌道上を走行してきた前記客貨車の前方に連結されていた前記第1の機関車のみが前記第1のトラバーサに積載され、前記客貨車から切り離された状態で停止して、前記第1のトラバーサをスライド動作させ、前記第1のトラバーサに敷設されている他のレールを前記第1の軌道に合わせる前方機関車解除工程と、
前記前方機関車解除工程の終了後、前記客貨車の先頭を前記補助客貨車移動手段によって少なくとも前記第2のトラバーサに到達する位置まで移動させる補助移動工程と、
前記補助移動工程の終了後、前記第2のトラバーサ上または前記第2の軌道上において、前記客貨車が前記第2の機関車と連結する前方機関車接続工程と、
前記前方機関車解除工程の終了後、前記補助客貨車移動手段又は前方に接続された前記第2の機関車の少なくともいずれか一方の駆動により、前記客貨車が前記軌間変換装置を通過する間に、左右の車輪間の距離を前記第2の軌間距離に合わせて変換する軌間変換工程と、
を備えることを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項4または5のいずれか一項に記載の異種軌道移行方法であって、
前記客貨車が前記第2のトラバーサを通過後、前記第2の軌道上に停止し、前記第2のトラバーサをスライドさせ、前記第2のトラバーサに敷設されている他のレール上に待機している前記第2の機関車と連結する後方機関車接続工程をさらに備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、軌間距離が異なる第1の軌道と第2の軌道の境界において、接続されている機関車の動力により複数連結された客貨車が軌間変換装置を順に通過することにより、乗客や貨物を載せたまま左右の車輪間の距離を変更し、第1のトラバーサおよび第2のトラバーサの一方のレールに異軌間軌道に乗り入れることができない機関車を載せると共に待避させて他方のレールにより通過可能であることから、実質的には機関車の切り離しと接続作業時以外には客貨車を前方に進行させながら各作業が行われることから、より容易に短時間で機関車の交換と異軌間軌道の相互乗り入れを行うことができる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、架線等の地上設備から電力の供給を受けられない非電化区間においてはディーゼルエンジン等の内燃機関によって駆動する機関車や、内燃機関および燃料電池等によって発電しモーターを駆動する機関車等を用い、架線等の地上設備から電力の供給を受けられる電化区間においては電気機関車を用いることによって、第1の軌道と第2の軌道の境界が異軌間軌道の境界であると同時に電化区間と非電化区間の境界であっても同様に、より容易に短時間で当該境界を走行することができる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、異種軌道移行装置が補助客貨車移動手段をさらに備えることにより、機関車が切り離された状態となり客貨車が自力で走行できない場合や、一部の機関車が切り離されて機関車の駆動力が不足する場合等においても、補助客貨車移動手段を用いて客貨車は軌間変換装置上を走行し得ることから、より柔軟に機関車の交換を行うことができる。特に、先頭にのみ第1の機関車を備える列車が第1の軌道上を走行してきた場合であっても、補助客貨車移動手段を用いて客貨車は軌間変換装置上を走行し、第2の軌道を走行可能な状態へと移行することが可能となる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、前方機関車解除工程、前方機関車接続工程および後方機関車解除工程によって、客貨車の動きに合わせてトラバーサを動作させることで、より速やかに牽引する機関車を交換するとともに、軌間変換工程によって、乗客や貨物を載せたまま客貨車の左右の車輪間の距離を変更することから、より容易に短時間で客貨車を種類の異なる軌道上の走行が可能な状態へと移行させることができる。
なお、客貨車の先頭が第2の軌道内に進入した後であれば、前方機関車接続工程と後方機関車解除工程とは、いずれを先に行ってもよい。また、軌間変換工程は、少なくとも前方機関車又は後方機関車のいずれか一方が客貨車に接続されていることを必須とするので、前方機関車接続工程と後方機関車解除工程の前後に渡って実行されることとなる。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、前方機関車解除工程、補助移動工程および前方機関車接続工程によって、客貨車の動きに合わせてトラバーサおよび補助客貨車移動手段を動作させることで、より速やかに牽引する機関車を交換するとともに、軌間変換工程によって、乗客や貨物を載せたまま客貨車の左右の車輪間の距離を変更することから、より容易に短時間で客貨車を種類の異なる軌道上の走行が可能な状態へと移行させることができる。
また、客貨車に機関車が連結されていない時には補助客貨車移動手段を用いて客貨車を走行させ得ることから、後方に第1の機関車が接続されていない列車が第1の軌道を走行してきた場合であっても、客貨車は軌間変換装置上を走行し、第2の軌道を走行可能な状態へと移行することが可能となり、より柔軟に機関車の交換を行うことができる。
特に、異種軌道移行装置を備えた異軌間軌道において列車を営業運行する場合にこの方法を適用することによって、前方にのみ機関車が連結された列車を容易に移行させることが可能であることから、常に後方に機関車を連結させた状態で運行したり、移行の時のみ後方に機関車を連結したりといった必要が無く、より少ない機関車や運転士での運用が可能となり、運用コストを低減させることができる。
【0017】
請求項6に記載の発明によれば、客貨車の最後尾に第2の機関車を接続する後方機関車接続工程をさらに備えることから、機関車の出力等の関係から客貨車の前後に機関車を接続しなければならない場合でも、より容易に短時間で種類の異なる軌道上を走行可能な状態へと移行することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明における実施の形態について、図1から図4を参照しながら説明する。
【0019】
(異種軌道移行装置の構成等)
異種軌道移行装置1は、図1に示すように、“第1の軌道”としての電化されている標準軌道40と“第2の軌道”としての電化されていない狭軌道50との間に設置された軌間変換装置10と、軌間変換装置10と標準軌道40との間に設置された“第1のトラバーサ”としての標準軌トラバーサ20と、軌間変換装置10と狭軌道50との間に設置された“第2のトラバーサ”としての狭軌トラバーサ30と、から構成される。
ここで、“第1の軌間距離”としての標準軌は一般的には1435mmが用いられ、“第2の軌間距離”としての狭軌は、例えば1067mmを用いる。
【0020】
軌間変換装置10には、フリーゲージトレイン技術研究組合によって開発の進められているフリーゲージトレインやスペイン国鉄のタルゴ客車などに用いられている公知の技術を用いるが、概ね次のような構成となる。
軌間変換装置10は、標準軌レール部11と、狭軌レール部12と、標準軌レール部11と狭軌レール部12の各レールを両側から挟む形で接続し軌間変換装置10上を通過する車両の左右の車輪を標準軌と狭軌との間で誘導する車輪誘導部13と、軌間変換装置10上を通過する車両の車軸を支持する軸箱をコロ等によって下から支え、車輪に変わって車両の重量を受け持ちつつ滑らかに移動させる荷重支持部14と、から構成される。
なお、軌間変換装置10には上記以外に、客貨車80に備えられている左右の車輪の幅を標準軌または狭軌の状態に固定するロック機構を地上側から操作し自動で施錠/解錠を行う構造体等を別途備えていてもよい。
【0021】
軌間変換装置10を通過する間に標準軌または狭軌に合わせて左右の車輪間の距離が変更される客貨車80にも、軌間変換装置10に対応して公知の技術が用いられており、概ね次のような構造を備えている。
客貨車80の車体は通常用いられている客車や貨車であり、特殊な形状や機能を備えている必要はないが、標準軌道40と狭軌道50の双方を走行することから、少なくとも車両限界等の規格は狭軌道50に準拠する必要がある。
客貨車80の台車においては、各構成を図示しないが、車軸に対して車輪が固定されずに車軸の軸方向に移動し左右の車輪間の距離が変更可能な支持構造と、当該車輪を標準軌または狭軌の状態に固定可能なロック機構と、軌間変換装置10を通過する際に車体の重量を荷重支持部14に預けて安定して滑走するために下部が平坦な軸箱と、を備えている。
なお、軸箱には必要に応じて荷重支持部14に沿って滑走するためのガイド等を設けてもよい。
なお、当該ロック機構は、軌間変換装置10に設けられた構造体等によって施錠/解錠の操作を行うことができるよう構成してもよいし、運転席から施錠/解錠の操作を行うことができるようにしてもよい。
なお、車輪が軸方向に移動可能であることは必須であるが、客貨車80の車軸は車輪と共に回転する構造に限定されるものではないので、車軸は全く回転せずに車輪のみがベアリング等を介して回転する構造としてもよい。
【0022】
軌間変換装置10に標準軌道40側から進入してきた客貨車80は、まず、標準軌レール部11上を走行し、そのまま左右の各車輪をそれぞれ内と外からガイドする車輪誘導部13に進入する。そして、軸箱が荷重支持部14によって下から支えられ、標準軌レール部11が途切れた所で、標準軌レール部11にかかっていた重量は荷重支持部14が完全に受け持つこととなる。客貨車80は荷重支持部14に重量を支えられながら滑らかに滑走を続けるうちに、左右の各車輪をそれぞれ両側から挟んでいる車輪誘導部13に誘導されて標準軌から狭軌へと左右の車輪間の距離が変更される。この間、車輪のロック機構は解錠され車輪が移動可能となり、狭軌への変更が済んだ後に再度施錠される。その後、客貨車80は狭軌レール部12へと進入し荷重支持部14に支えられていた重量は狭軌レール部12へと移り、狭軌道50を走行可能な状態となる。
なお、客貨車80が狭軌道50側から標準軌道40へ進行する場合も上記と同様に、軌間変換装置10によって変換を行うことができる。
【0023】
標準軌トラバーサ20は、標準軌トラバーサ移動溝21内に標準軌トラバーサ可動桁22が収められた構造となっており、標準軌トラバーサ可動桁22上に設けられた、標準軌に対応した電気機関車である“第1の機関車”としての標準軌用機関車60を各1機ずつ積載可能なレールを有する標準軌機関車積載部22aおよび22bはそれぞれ、標準軌トラバーサ可動桁22をスライドさせることにより標準軌道40と軌間変換装置10の標準軌レール部11とを行き来する客貨車80等が軌間変換装置10側まで通過することが可能な位置に固定することができる。
【0024】
狭軌トラバーサ30は、狭軌トラバーサ移動溝31内に狭軌トラバーサ可動桁32が収められた構造となっており、狭軌トラバーサ可動桁32上に設けられた、狭軌に対応したディーゼル機関車である“第2の機関車”としての狭軌用機関車70を各1機ずつ積載可能なレールを有する狭軌機関車積載部32aおよび32bはそれぞれ、狭軌トラバーサ可動桁32をスライドさせることにより狭軌道50と軌間変換装置10の狭軌レール部12とを行き来する客貨車80等が軌間変換装置10側まで通過することが可能な位置に固定することができる。
なお、標準軌トラバーサ20および狭軌トラバーサ30をスライド動作させる駆動力には、電動モーターや油圧アクチュエータ等どのようなものを用いてもよい。
なお、標準軌用機関車60および狭軌用機関車70は、通常用いられている機関車であって、標準軌または狭軌にそれぞれ対応した機関車であればどのようなものを使用してもよい。
【0025】
(異種軌道移行方法等)
次に、客貨車80が、以上で説明した異種軌道移行装置1上を標準軌道40から狭軌道50へ向けて通過する間に行われる異種軌道移行方法について、図2のフロー図に示す異種軌道移行処理と、図3および図4に示す手順に従って説明する。
【0026】
客貨車80は、標準軌道40上を走行して異種軌道移行装置1へと接近する時は、前後に標準軌用機関車60が連結され、その駆動力により牽引されている。ここでは、異種軌道移行装置1に向って進行方向前方の標準軌用機関車60を標準軌用機関車60A、後方の標準軌用機関車60を標準軌用機関車60Bとする。当然ながら、客貨車80は標準軌道40上を走行するため、左右の車輪間の距離は標準軌に合わせられている。
【0027】
この時点で、標準軌トラバーサ20には標準軌用機関車60は積載されておらず、標準軌機関車積載部22aおよび22bは空いた状態であり、標準軌機関車積載部22aが標準軌道40から直通可能な位置に固定されている(図3(a)参照)。
また、狭軌トラバーサ30には2機の狭軌用機関車70が積載され客貨車80に連結されるまで待機しており、狭軌機関車積載部32aが狭軌道50へと直通可能な位置に固定されている。ここでは、狭軌機関車積載部32a上の狭軌用機関車70を狭軌用機関車70A、狭軌機関車積載部32b上の狭軌用機関車70を狭軌用機関車70Bとする。
なお、狭軌道50上を走行する際に、客貨車80を牽引する駆動力が狭軌用機関車70Aのみでも充分に得られる場合には、狭軌機関車積載部32b上に狭軌用機関車70Bを待機させずに省略してもよい。
【0028】
この状態からまず、前方機関車解除工程が行われる(ステップS1)。標準軌道40上を走行して異種軌道移行装置1へと接近した客貨車80は、標準軌用機関車60Aも含めて、標準軌トラバーサ20の直前で一度停止し標準軌用機関車60Aが切り離される(図3(a)参照)。そして、切り離された標準軌用機関車60Aのみが標準軌機関車積載部22a上に進入し、完全に標準軌機関車積載部22aに積載される位置に停止する(図3(b)参照)。そして、標準軌トラバーサ可動桁22は標準軌トラバーサ移動溝21に沿ってスライドし、標準軌機関車積載部22bが標準軌道40から直通可能な位置に来たところで固定される(図3(c)参照)。
なお、ここでは客貨車80から標準軌用機関車60Aを切り離した後に標準軌用機関車60Aが自走して標準軌機関車積載部22aに進入を開始する例を示したが、客貨車80と連結したままの標準軌用機関車60Aが標準軌機関車積載部22aに再度前進する必要がない位置まで進入して停止した後に、標準軌用機関車60Aと切り離された客貨車80を後退させてもよい。また、連結した状態のまま標準軌機関車積載部22aへと進入して、客貨車80が標準軌トラバーサ20にかからない位置で一度停止し、切り離した後に標準軌用機関車60Aが再度前進して完全に標準軌機関車積載部22aに積載される位置に停止するようにしてもよい。
さらに、客貨車80と連結したままの標準軌用機関車60Aが標準軌機関車積載部22aに進入して停止し、客貨車80と切り離した際に、切り離した客貨車80が標準軌トラバーサ20のスライド動作に支障が無い位置に停止していて、かつ、切り離した連結器が標準軌トラバーサ20のスライド動作に支障が無い構造であれば、標準軌用機関車60Aおよび客貨車80を移動させることなく標準軌トラバーサ20のスライド動作を開始してもよい。
【0029】
次いで、前方機関車接続工程が行われる(ステップS2)。客貨車80は標準軌用機関車60Bの駆動力により後方から押され、標準軌トラバーサ20および軌間変換装置10を通過する。そして、客貨車80は狭軌機関車積載部32a上に待機している狭軌用機関車70Aに低速で接近し、連結する(図3(d)参照)。なお、客貨車80が軌間変換装置10を通過する時には、客貨車80の各車両における左右の車輪の距離が狭軌へと変更されるが、これについては後述する。
【0030】
次いで、後方機関車解除工程が行われる(ステップS3)。客貨車80は前進し、標準軌用機関車60Bが標準軌機関車積載部22bに完全に積載された状態で停止し、客貨車80と標準軌用機関車60Bは切り離される(図4(a)参照)。
【0031】
また、前方機関車解除工程の終了後から後述の後方機関車接続工程の開始までの間に、前方機関車接続工程や後方機関車解除工程と並行して、軌間変換工程が行われる(ステップS5)。標準軌用機関車60Aが切り離された客貨車80は、後方に接続されている標準軌用機関車60Bまたは前方に接続される狭軌用機関車70Aの駆動力によって牽引されて軌間変換装置10上を通過する間に、左右の車輪間の距離が狭軌に合わせられる。即ち、客貨車80が軌間変換装置10に進入してから脱するまでが軌間変換工程となる。
【0032】
次いで、後方機関車接続工程が行われる(ステップS4)。狭軌用機関車70Aに牽引された客貨車80はさらに前進し、異種軌道移行装置1を完全に通過した狭軌道50上で停止する(図4(b)参照)。その後、狭軌トラバーサ可動桁32は狭軌トラバーサ移動溝31に沿ってスライドし、狭軌機関車積載部32bが狭軌道50へと直通可能な位置に来たところで固定される。そして、狭軌機関車積載部32b上に待機していた狭軌用機関車70Bは、停止している客貨車80に接近し連結される(図4(c)参照)。
なお、このとき狭軌用機関車70A及び客貨車80が狭軌用機関車70Bに向かって後退移動してもよい。
なお、客貨車80を牽引する駆動力が狭軌用機関車70Aのみでも充分に得られる場合には、狭軌用機関車70Bを接続する後方機関車接続工程を行わずに処理を完了してもよい。
【0033】
以上の工程を経て、客貨車80が標準軌用機関車60Aおよび標準軌用機関車60Bに連結されて標準軌道40上を走行していた状態から、狭軌用機関車70Aおよび狭軌用機関車70Bに連結されて狭軌道50上を走行可能な状態(図4(d)参照)へと移行する異種軌道移行処理が完了する。
【0034】
(異種軌道移行装置の効果)
以上説明した本実施の形態における異種軌道移行装置1を用いて異種軌道移行方法を実行することにより、標準軌道40と狭軌道50の境界において、標準軌用機関車60の切り離しと狭軌用機関車70の接続時を除いて客貨車80は移動動作を行いながら軌間の異なる軌道への移行が行われる点、切り離された標準軌用機関車60が標準軌トラバーサ20により進行経路上から速やかに除かれる点、複数連結された客貨車80の左右の車輪間の距離を変更が軌間変換装置10により前進しながら行われる点等から、標準軌道40と狭軌道50との切り替えを速やかに完了させることが可能となる。また、連結された客貨車80が軌間変換装置10を順に通過することにより、乗客や貨物を載せたまま左右の車輪間の距離を変更しつつ、標準軌トラバーサ20および狭軌トラバーサ30によって標準軌用機関車60と狭軌用機関車70を交換することから、より容易に短時間で異軌間軌道の境界を走行することができる。
【0035】
また、本実施の形態における異種軌道移行装置1を用いることにより、非電化区間においてはディーゼルエンジン等の内燃機関によって駆動する機関車や、内燃機関および燃料電池等によって発電しモーターを駆動する機関車等を用い、電化区間においては電気機関車を用いることができることから、軌間距離が異なるだけでなく電化区間と非電化区間との違いがある標準軌道40と狭軌道50の境界においても、より容易に短時間で異軌間軌道の境界を走行することが可能である。
【0036】
(その他)
なお、本実施の形態においては、客貨車80が標準軌道40側から狭軌道50側へと移行する例を示したが、異種軌道移行装置1に進入する前に走行していた軌道を狭軌と、異種軌道移行装置1を通過後に走行する軌道を標準軌と捉え、異種軌道移行方法を実行することにより、狭軌道50側から標準軌道40側への移行も当然可能である。
また、“第1の軌道”を標準軌道40と、“第2の軌道”を狭軌道50として説明したが、“第1の軌道”を狭軌道50と、“第2の軌道”を標準軌道40としてもよいことは言うまでもない。
さらに、“第1の軌道”が広軌道で“第2の軌道”が標準軌道、“第1の軌道”が標準軌道で“第2の軌道”が広軌道、“第1の軌道”が広軌道で“第2の軌道”が狭軌道、“第1の軌道”が狭軌道で“第2の軌道”が広軌道としてもよい。
【0037】
また同様に、標準軌道40および狭軌道50がそれぞれ、電化区間/非電化区間、直流電化区間/交流電化区間、供給電圧や周波数が異なる等、どのような組み合わせであったとしても、それに対応した機関車を上記と同じように配置することで、様々な異種軌道に対して異種軌道移行方法を適用することが可能である。例えば、標準軌として新幹線(1435mm)、狭軌として在来線(1067mm)を考えた場合、新幹線交流電化区間(25kV)/在来線交流電化区間(20kV)に適用できるのは当然である。
【0038】
なお、本実施の形態における異種軌道移行方法の実行については、客貨車80の両数に限定はなく、何両連結されていてもよい。
【0039】
なお、異種軌道移行装置1には、図示されていない“補助客貨車移動手段”としてのウィンチを軌間変換装置10の狭軌トラバーサ30側の端部、狭軌レール部12のレールの間に設置してもよい。ウィンチは、モーター等によって回転させることが可能なドラムにワイヤーを巻き付け、当該ワイヤーの先端にフックを取付けた一般的なもので、当該フックを客貨車80の台車等に接続してワイヤーを巻き取ることにより、標準軌用機関車60および狭軌用機関車70が連結されていない客貨車80を、標準軌トラバーサ20と標準軌道40との境界に近い標準軌道40上から軌間変換装置10の狭軌トラバーサ30側の端部まで走行させることができる。
なお、ウィンチは、軌間変換装置10の標準軌トラバーサ20側の端部に設置して、客貨車80を狭軌道50上から軌間変換装置10の標準軌トラバーサ20側の端部まで走行させることができるようにしたり、双方に設置して一方のウィンチによって牽引される客貨車80に対して制動をかけるために使用したりしてもよいし、軌間変換装置10の狭軌トラバーサ30側の端部に設置する代りに狭軌トラバーサ30の狭軌機関車積載部32aおよび32bのレールの間に設置したり、軌間変換装置10の標準軌トラバーサ20側の端部に設置する代りに標準軌トラバーサ20の標準軌機関車積載部22aおよび22bのレールの間に設置したりしてもよい。
また、ウィンチの代りにリニアモーターを用いる方法や、歯形のレールと歯車を用いたいわゆるラック・アンド・ピニオンを用いる方法など、客貨車80を上記の位置まで走行させることが可能であれば方法および動力は何を用いてもよい。
【0040】
上記ウィンチを設置した場合には、特に、前方にのみ標準軌用機関車60を接続した客貨車80の異軌間軌道への移行に好適なので、客貨車80に標準軌用機関車60Aのみが連結された状態から前後に狭軌用機関車70A,70Bが連結された状態へと移行する場合を例に、移行の手順を説明する。
前方機関車解除工程は、前述と同様に行われるが、標準軌トラバーサ20に極力近い位置で客貨車80を停止させた方が、ウィンチのワイヤーの長さを抑え、フックを客貨車80に接続するための作業も軽減できるので、客貨車80と連結したままの標準軌用機関車60Aが標準軌機関車積載部22aまで進入させて行われる。
次に、ウィンチを設けた場合に固有な、補助移動工程が行われる。かかる工程では、作業員がウィンチのフックを客貨車80の先頭車の台車に接続し、ウィンチによるワイヤーの巻き取りにより、狭軌トラバーサ30の手前まで移動させる。
次いで、前方機関車接続工程が行われる。即ち、ウィンチの牽引により客貨車80は狭軌機関車積載部32a上に待機している狭軌用機関車70Aに連結される。
なお、後方に標準軌用機関車60Bは接続されていないので、後方機関車解除工程は当然行われない。
また、ウィンチを設置した場合には、軌間変換工程は、補助移動工程において用いられるウィンチによる牽引力と前方機関車接続工程後の狭軌用機関車70Aの駆動力により行われる。
後方機関車接続工程は、前述と同様に行うことができるが、客貨車80を牽引する駆動力が狭軌用機関車70Aのみでも充分に得られる場合には、省略してもよい。
このように、ウィンチを利用することにより、客貨車80の後方に標準軌用機関車60Bが連結されていない場合でも、客貨車80は異種軌道移行装置1を通過して狭軌道50上の走行が可能な状態へと移行することから、より柔軟に異軌間軌道の境界を走行することができる。
特に、異種軌道移行装置1を備えた異軌間軌道において列車を営業運行する場合にこの方法を適用することによって、前方にのみ機関車が連結された列車を容易に移行させることが可能であることから、常に後方に機関車を連結させた状態で運行したり、移行の時のみ後方に機関車を連結したりといった必要が無く、より少ない機関車や運転士での運用が可能となり、運用コストを低減させることができる。
【0041】
なお、上記ウィンチを設置した場合においても同様に、狭軌道50側から標準軌道40側への移行や、電化区間/非電化区間等、様々な異種軌道に対して異種軌道移行方法を適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明における実施の形態に係る異種軌道移行装置の主要な構成要素を示す平面図である。
【図2】本発明における実施の形態に係る異種軌道移行方法のフロー図である。
【図3】本発明における実施の形態に係る異種軌道移行装置用いて客貨車が標準軌道から狭軌道へと移行する手順(前半)を示す説明図であり、図3(a)〜(d)の順で工程が進行する。
【図4】本発明における実施の形態に係る異種軌道移行装置用いて客貨車が標準軌道から狭軌道へと移行する手順(後半)を示す説明図であり、図4(a)〜(d)の順で工程が進行する。
【符号の説明】
【0043】
1 異種軌道移行装置
10 軌間変換装置
11 標準軌レール部
12 狭軌レール部
13 車輪誘導部
14 荷重支持部
20 標準軌トラバーサ(第1のトラバーサ)
21 標準軌トラバーサ移動溝
22 標準軌トラバーサ可動桁
22a,b 標準軌機関車積載部
30 狭軌トラバーサ(第2のトラバーサ)
31 狭軌トラバーサ移動溝
32 狭軌トラバーサ可動桁
32a,b 狭軌機関車積載部
40 標準軌道(第1の軌道)
50 狭軌道 (第2の軌道)
60A,B 標準軌用機関車(第1の機関車)
70A,B 狭軌用機関車 (第2の機関車)
80 客貨車(軌道走行車両、客貨車)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の軌間距離をもってレールが敷設された第1の軌道と、前記第1の軌間距離とは異なる第2の軌間距離をもってレールが敷設された第2の軌道との間に設置され、左右の車輪間の距離を変更することが可能な軌道走行車両が通過することで左右の車輪間の距離を前記第1と第2の軌間距離の間で相互に変換する軌間変換装置と、
前記第1の軌道と前記軌間変換装置の間に設置され、前記第1の軌道を走行可能な第1の機関車の少なくとも2機を並列に積載可能な2組のレールを有し、前記第1の機関車を積載したままスライド可能な第1のトラバーサと、
前記第2の軌道と前記軌間変換装置の間に設置され、前記第2の軌道を走行可能な第2の機関車の少なくとも2機を並列に積載可能な2組のレールを有し、前記第2の機関車を積載したままスライド可能な第2のトラバーサと、
を備えることを特徴とする異種軌道移行装置。
【請求項2】
前記第1の軌道または前記第2の軌道のいずれか一方は電化区間、他方は非電化区間であり、それらの間に設置されることを特徴とする請求項1に記載の異種軌道移行装置。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか一項に記載の異種軌道移行装置であって、
少なくとも前記第1のトラバーサの手前位置の前記第1の軌道上から、前記軌間変換装置を越え、前記第2のトラバーサに到達する位置まで前記軌道走行車両を移動させることが可能な補助客貨車移動手段をさらに備えることを特徴とする異種軌道移行装置。
【請求項4】
請求項1または2のいずれか一項に記載の異種軌道移行装置によって、左右の車輪間の距離を変更することが可能な客貨車について、前後に前記第1の機関車を連結され前記第1の軌道上を走行可能な状態から、少なくとも前方に前記第2の機関車を連結され前記第2の軌道上を走行可能な状態へと移行させる異種軌道移行方法であって、
前記第1の軌道上を走行してきた前記客貨車の前後に連結された前記第1の機関車のうち、前方に連結されていた前記第1の機関車のみが前記第1のトラバーサに積載され、前記客貨車から切り離された状態で停止して、前記第1のトラバーサをスライド動作させ、前記第1のトラバーサに敷設されている他のレールを前記第1の軌道に合わせる前方機関車解除工程と、
前記前方機関車解除工程の終了後、前記第2のトラバーサ上または前記第2の軌道上において、前記客貨車が前記第2の機関車と連結する前方機関車接続工程と、
前記前方機関車接続工程の終了後、前記第1のトラバーサ上または前記第1の軌道上において、前記客貨車の後方に接続されていた前記第1の機関車を前記客貨車から切り離す後方機関車解除工程と、
前記前方機関車解除工程の終了後、後方に接続された前記第1の機関車又は前方に接続された前記第2の機関車の少なくともいずれか一方の駆動により、前記客貨車が前記軌間変換装置を通過する間に、左右の車輪間の距離を前記第2の軌間距離に合わせて変換する軌間変換工程と、
を備えることを特徴とする異種軌道移行方法。
【請求項5】
請求項3に記載の異種軌道移行装置によって、前記客貨車について、前方に前記第1の機関車を連結され前記第1の軌道上を走行可能な状態から、少なくとも前方に前記第2の機関車を連結され前記第2の軌道上を走行可能な状態へと移行させる異種軌道移行方法であって、
前記第1の軌道上を走行してきた前記客貨車の前方に連結されていた前記第1の機関車のみが前記第1のトラバーサに積載され、前記客貨車から切り離された状態で停止して、前記第1のトラバーサをスライド動作させ、前記第1のトラバーサに敷設されている他のレールを前記第1の軌道に合わせる前方機関車解除工程と、
前記前方機関車解除工程の終了後、前記客貨車の先頭を前記補助客貨車移動手段によって少なくとも前記第2のトラバーサに到達する位置まで移動させる補助移動工程と、
前記補助移動工程の終了後、前記第2のトラバーサ上または前記第2の軌道上において、前記客貨車が前記第2の機関車と連結する前方機関車接続工程と、
前記前方機関車解除工程の終了後、前記補助客貨車移動手段又は前方に接続された前記第2の機関車の少なくともいずれか一方の駆動により、前記客貨車が前記軌間変換装置を通過する間に、左右の車輪間の距離を前記第2の軌間距離に合わせて変換する軌間変換工程と、
を備えることを特徴とする異種軌道移行方法。
【請求項6】
請求項4または5のいずれか一項に記載の異種軌道移行方法であって、
前記客貨車が前記第2のトラバーサを通過後、前記第2の軌道上に停止し、前記第2のトラバーサをスライドさせ、前記第2のトラバーサに敷設されている他のレール上に待機している前記第2の機関車と連結する後方機関車接続工程をさらに備えることを特徴とする異種軌道移行方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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