説明

異種金属接触状態における金属材料の腐食量予測方法

【課題】異種金属材料の組み合わせについて、ガルバニック腐食の程度を、短時間で容易に、かつ高い精度で予測することができる金属材料の腐食量予測方法を提供する。
【解決手段】各種金属材料単体を、電解液中に浸漬して電位を印加した際の電流値を、印加電位を変化させて測定し、当該電位と電流値との関係を表す分極曲線を測定する過程1、前記各種金属材料から選択された2種以上の金属材料について、前記分極曲線に基づき前記電流値の合計が0となる電位を得る過程2、当該電位における、前記2種以上の金属材料から選択された金属材料Aの電流値を前記分極曲線から求める過程3、及び過程3で得られた電流値に基づき金属材料Aの腐食量を予測する過程4有することを特徴とする異種金属接触状態における金属材料の腐食量予測方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種以上の異種金属が電気的に接続された状態(異種金属接触状態)で使用される場合の、金属材料の腐食量を予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造材料や導電性材料等として使用される金属材料は、一般に腐食するとその強度、形状等が損なわれ、又、導電性の低い腐食生成物が表面に堆積する等の原因により導電性が損なわれる。そこで、金属材料の使用環境における腐食挙動の定量的評価が重要である。
【0003】
又、異なる種類の金属(異種金属)を接触させた場合、接触した金属間の電気化学的特性の違いによって、特定の金属の腐食が促進されることがある(異種金属接触腐食もしくはガルバニック腐食)。金属材料の用途では、異種金属が接触した状態で使用されることが多いので、ガルバニック腐食の定量評価が重要となる。
【0004】
特許文献1には、異種金属を接続した状態で流れる電流値(ガルバニック腐食電流値)を測定し、その電流値の経時的な推移に基づいて異種金属接触腐食の進行を予測する方法が開示されている。この方法は、実際に異種金属を接続した状態で試験環境に暴露し、その際に流れる電流値と環境因子との相関関係に基づいて腐食速度、しいては材料の寿命を見積るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4151385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法では、実際に2種の異種金属材料を接続した状態で流れるガルバニック腐食電流値を測定する必要がある。従って、例えば、構造材の設計の際に、使用する金属材料の選択をする際には、考えられる金属材料の組み合わせ全てについて電流値を測定する必要があり、結果を得るためは多数の測定を行わなければならなかった。(さらに、特許文献1に記載の方法では、実際に異種金属を接続した状態で試験環境に暴露し、暴露期間は最低1ヶ月、出来れば数年単位で評価するのが望ましいとされているので、その評価に膨大な期間を要するとの問題もあった。)
【0007】
本発明は、異種金属材料の組み合わせについて、ガルバニック腐食の程度を、当該組み合わせについてのガルバニック腐食電流値を実際に測定することなく、短時間で容易にかつ高い精度で予測することができる金属材料の腐食量予測方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討の結果、各種金属材料単体の分極曲線を電解液中で計測し、当該分極曲線から、前記各種金属材料から選択された2種以上の金属材料が接続した場合の各金属材料に流れるガルバニック腐食電流値を見積ることができ、さらに前記ガルバニック腐食電流値に基づいて各金属材料の腐食量(又は防食効果)を予測できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、前記の課題は以下に示す構成からなる発明により解決される。
【0009】
本願第1の発明は、
各種金属材料単体を、電解液中に浸漬して所定電位を印加した際の電流密度を、印加電位を変化させて測定し、当該電位と電流密度との関係を表す分極曲線を測定する過程1、
前記各種金属材料から選択された2種以上の金属材料について、前記分極曲線の電流密度をId、金属材料の露出面積(金属材料が電解液へ露出している面積)をAとしたときのId×Aを比較して、全ての金属材料のId×Aの合計が0となる電位を得る過程2、
当該電位における、前記2種以上の金属材料から選択された金属材料Aの電流値を前記分極曲線から求める過程3、及び
過程3で得られた電流値に基づき金属材料Aの腐食速度を予測する過程4
を有することを特徴とする異種金属接触状態における金属材料の腐食量予測方法(請求項1)である。
【0010】
この方法では、分極曲線は、次の2ステップからなる方法により得られている。すなわち、先ず、各種金属材料単体を電解液中に浸漬し、所定の一定電位を印加して保持した際の電流の変化を測定する。電流の変化がほとんどなくなったときの電流値(理論的には、電流の変化がなくなったときの電流値、通常は、測定開始1分程度の電流値を採用する。)を当該金属材料の浸漬面積で除し、当該電位における電流密度とする。次に、この電流密度を、印加電位を変化させて測定して電位と電流密度との関係を多数点求めてこれらをプロットした点を結んで分極曲線が得られる(定電位法)。代わりに、各種金属材料単体を電解液中に浸漬し、所定の一定電流を流して保持した際の変動電位を測定し、電位の変化がほとんどなくなったときの電位(理論的には、電位の変化がなくなったときの電流値、通常は、測定開始1分程度の電位を採用する。)、及び当該金属材料の浸漬面積から当該電流(密度)における電位を求め、この電位を、電流(密度)を変化させて測定して電位と電流密度との関係を多数点求めてこれらをプロットすることによっても得ることができる(定電流法)。
【0011】
本願第1の発明は、この定電位法による方法も提供するものである。すなわち、
各種金属材料単体を、電解液中に浸漬して所定電流を流した際の電位を、前記所定電流値を変化させて測定し、当該電位と電流密度との関係を表す分極曲線を測定する過程1、
前記各種金属材料から選択された2種以上の金属材料について、前記分極曲線の電流密度をId、金属材料の露出面積をAとしたときのId×Aを比較して、全ての金属材料のId×Aの合計が0となる電位を得る過程2、
当該電位における、前記2種以上の金属材料から選択された金属材料Aの電流値を前記分極曲線から求める過程3、及び
過程3で得られた電流値に基づき金属材料Aの腐食速度を予測する過程4
を有することを特徴とする異種金属接触状態における金属材料の腐食量予測方法(請求項2)である。
【0012】
本発明の予測方法は、金属材料単体について電気化学的基礎特性評価、即ち分極曲線を電解液中で測定し、単体についての測定結果から金属材料が組合された際に流れるガルバニック腐食電流を見積り、その電流値に基づいて腐食の程度を予測することを特徴とする。即ち、取得する必要があるデータは金属材料単体のもので、組み合わせた状態のものではない。従って、実際に材料を組み合わせて評価する従来技術、例えば特許文献1に記載の方法に比べ、測定点数(取得が必要なデータ数)が少なくて済む(即ち、材料数×評価条件数で良い)。この特徴から、より多くの材料についての評価(腐食の予測)を短期間に実施することが可能である。特に、材料の腐食挙動、防食対策の効果性等に関する基礎情報を得るための初期検討等に有用である。
【0013】
分極曲線の経時変化や腐食速度の経時変化をより正確に予測するデータを得るため、本発明の予測方法を、一定の計測期間にわたった測定に基づいて行ってもよい。そのための計測期間は任意に設定できる。しかし、特許文献1に記載のように、一般に腐食速度は腐食生成物の堆積等によって減衰する。また、ガルバニック腐食は、一般に組み合わせる金属材料のうち貴な材料の表面で起こる還元反応に律速されるため、酸素濃度の増大やpHの大幅な低下など、特殊な環境変化がない限り腐食速度が急激に増大することはない。従って、長期間の腐食でも、腐食開始の比較的短時間の領域での腐食速度が最大となるので、腐食開始の比較的短時間のみの測定を行い、この測定値に基づき腐食量を予測しても、この予測値が実際の腐食量以上となることはなく、実用上ほとんど問題のない予測値が得られる。すなわち、本発明の予測方法によれば、短時間(数分オーダー、1〜10分程度)の測定でも、実用上ほとんど問題のない予測が可能である。
【0014】
本発明の予測方法において、分極曲線の測定が行われる各種金属材料としては、構造材の設計において使用の可能性が考えられる多種類の金属材料を例示することができる。例えば、目的とする構造材の材料として、設計段階で、金属A、B、C、D、E及びFについて使用の可能性が考えられる場合は、金属A、B、C、D、E及びFの全てについて分極曲線を取得することが望ましい。
【0015】
過程2により各種金属材料単体の分極曲線が得られた後、ガルバニック腐食電流の定量評価が望まれる2種以上の金属材料からなる組み合わせを選び、当該分極曲線における電流密度をId、金属材料の露出面積をAとしたときのId×Aを比較して、Id×Aの合計が0(ゼロ)となる電位を求める。例えば、前記の例で、金属A、B、C、D、E及びFの中から選ばれた金属AとBが接触したときのガルバニック腐食電流を見積るときは、金属Aの分極曲線(×金属材料Aの露出面積)における電流値と金属Bの分極曲線(×金属材料Bの露出面積)における電流値の合計が0となる(=絶対値が同じで符号が反対であること)電位を分極曲線から求める。
【0016】
電流値の合計が0となる電位が分極曲線から得られた後は、金属の当該電位に相当する電流値を求め、この電流値をガルバニック腐食電流の予測値とする。例えば、前記の例で金属Aについての腐食を予測したい場合は、金属Aについての当該電流値を求める(ただし、2種の金属材料の組み合わせの場合、例えば上記の金属AとBの組合せの場合は、金属AとBの電流値の絶対値は同じである。)。
【0017】
過程3でガルバニック腐食電流の予測値が得られた後は、電気化学的に腐食量を求めることができる。すなわち電流値×時間で、ガルバニック腐食を生じる電気量を求めることができ、理論的には、その電気量と同当量の金属が腐食されるので、当該時間における金属の腐食量を予測することができる。又、この電流値(=電気量/時間)から腐食速度を予測することができる。
【0018】
このようにして、本発明により、金属の腐食量、腐食速度を予測することができるが、この金属の腐食速度の予測値から、さらに材料の寿命を予測することができる。即ち、材料の量を腐食速度の予測値で除することにより材料の寿命を予測することができる。本願第2の発明は、材料の寿命の予測方法であって、当該材料の量を、請求項1又は請求項2に記載の異種金属接触状態における金属材料の腐食量予測方法により予測された腐食速度で除することを特徴とする材料の寿命の予測方法(請求項3)である。このように本願第1の発明は、材料の寿命の予測方法としても活用することができる。
【0019】
本発明で得られる分極曲線は、その測定条件、例えば、用いる電解液の組成、pHや温度等により影響される。そこで、測定条件を種々変えた複数の分極曲線を測定することにより、測定条件の変動が分極曲線に与える影響を定量的に求めることができ、さらにはpHや温度等の環境因子の影響を見積ることができる。そして、モデル試料(金属材料)についてのモデル環境について種々の条件による試験(モデル実験系での試験)を行い、その結果を評価条件ごとに蓄積してデータベース化し、実際の構造材の設計においては、このデータベース中のデータを用いて、材料選択や構造材の形状や大きさ等の設計を容易に行うことができる。
【0020】
具体的には、前記のモデル実験系での試験結果(電流密度)を解析することにより、それぞれの環境における接続した2種以上の金属材料の露出面積比と腐食電流値(電流密度×露出面積)の関係を見積ることができ、その見積値に基づいて、材料選択や構造材の形状や大きさ等の設計を行うことができる。即ち、本発明は、異種金属材料間の露出面積比が腐食電流密度にどう影響するかを定量的に評価する方法としても有用であり、この点からも、本発明は、構造物の設計や防食対策の決定に活用することができると言える。
【発明の効果】
【0021】
本発明の異種金属接触状態における金属材料の腐食量予測方法によれば、金属材料単体関しての測定により、2種以上の金属材料の組み合わせた場合の異種金属接触状態における腐食電流を見積ることができる。その結果、実際に材料を組み合わせて評価する先行技術に比べ、取得が必要なデータ数が少なくて済む。従って、金属材料の多数の組み合わせに関する評価を短期間に容易に実施可能であり、防食対策の効果性予測、初期検討等に活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】電流−時間曲線(クロノアンペログラム)を示すグラフの一例である。
【図2】AlとCuの分極曲線を示すグラフの一例である。
【図3】本発明の方法により見積られたガルバニック腐食電流値と実際に接続した場合に流れた電流値との関係をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明を実施するための形態につき説明するが、本発明の範囲はこの形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を損ねない範囲で変更されたものも本発明に含まれる。
【0024】
本発明の異種金属接触状態における金属材料の腐食量予測方法では、先ず、各種金属材料の分極曲線が電解液中で測定される。そこで、定電位法による分極曲線の測定の具体的な手順について述べる。
【0025】
先ず、金属材料、基準電極(例えば、Ag/AgCl電極が用いられる)、および対極(例えば、Pt電極)を適当な電解液に浸漬し、3電極式の電気化学測定装置を用いて金属材料と電極間に電流が流れない電位(平衡電位)を測定して初期電位とする。測定開始と同時に所定の電位を印加し、その電位に保持しながら電流を測定する。所定の電位を印加した当初は、大きな電流(充電電流)が流れるが、この電流は急激に減衰し、電流値は時間が経過すると安定する。
【0026】
従って、印加した電位に対応する形で、時間に対して減衰する電流が流れるのでこれを記録する(電流−時間曲線となる)。図1は、この電流を電極の浸漬面積で除した電流密度と時間との関係=電流密度−時間曲線(クロノアンペログラム)を示すグラフの一例である。得られた電流密度−時間曲線から、電流の減衰がほぼなくなったとみなせる時間(例えば、測定開始から1分後)の電流密度を読み取る。
【0027】
分極曲線を取得する際に使用する電解液は、電流の変化についての、電位の変化以外の因子が生じにくい電解液から選択される。このような電解液としては塩化ナトリウム水溶液を挙げることができる。又、硫酸ナトリウム水溶液等の硝酸塩の水溶液も用いることができる。
【0028】
印加電位を様々に変えて上記測定を繰り返して、得られた電流密度を電位に対してプロットして電流密度と電位の関係、電流密度−電位曲線を求める。この電流密度−電位曲線が当該金属材料の分極曲線である。図2は、AlとCuの分極曲線の一例を示すグラフであり、2種の金属材料に対応する2つの分極曲線を、同一のグラフ上にプロットしたものである。
【0029】
次に、2種の金属材料に対応する2つの分極曲線の比較を行う。2種の金属材料の電解液への露出面積が同じ場合は、同一グラフ上に示された2つの分極曲線をそのまま比較する。2種の金属材料の電解液への露出面積が異なる場合は、分極曲線の電流密度×露出面積(=電流値)を比較する。
【0030】
異なる材料の分極曲線は完全に一致することはないため、電流密度の軸に注目すると、一方が正の電流(酸化反応に対応)、他方が負の電流(還元反応)を流すという電位領域が存在する(図2中の例は、2種の金属材料の電解液への露出面積が同じ場合であり、前記電位領域が、点線の丸で示されている)。この領域の中で、分極曲線の電流値の和が0になる電位が存在する。
【0031】
この電位が、平衡電位(異種金属材料が接続した状態で、材料が示す電位)となる。2種の金属の組み合わせの場合では、その電位において、2つの金属の、分極曲線の電流密度×露出面積である電流値は符号が逆で絶対値が同一となるが、この電流値がガルバニック腐食電流である。(この電流を、図2に矢印で示すが、Alでは正の電流が流れ腐食の反応が起こり、Cuでは負の電流が流れ還元の反応が起こっている。)つまり、分極曲線により、平衡電位が決定できればガルバニック腐食電流も見積ることができる。なお、平衡電位の決定方法は、前記のような、複数の分極曲線の、同一電位での電流値の和を取って電流がゼロになる点から求める方法があるが、2種の金属の組み合わせの場合では、分極曲線上での電流値を絶対値で示すようにし、2つの分極曲線の交点から求める方法でも良い。
【実施例】
【0032】
電解液として5%NaCl水溶液、基準電極としてBAS製のAg/AgCl電極(型番:RE−1B)、対極としてPt電極を用い、Al、Cuについて、室温で分極曲線を測定した。図1は、この測定の過程で得られたAlについてのクロノアンペログラムであり、所定の電位として−0.9V(vs.Ag/AgCl)印加した場合である。図2は、この測定により得られたAl、Cuについての分極曲線である。図2の分極曲線を得る際の電流は、クロノアンペログラムにおける1分経過時点の電流である。
【0033】
なお、この測定は、北斗電工社製自動分極測定装置(型番:HZ−3000)を使用して、空調のある室内(温度:25℃±2℃)で実施した。図2の分極曲線から、前記のようにして、AlとCuを接続した際に流れるガルバニック腐食電流を見積ることができる。このように本発明の方法によれば、実際に2つ(もしくは3つ以上)の材料を接続することなく、接続した際に流れるガルバニック腐食電流を見積ることができる。
【0034】
そして、この見積られたガルバニック腐食電流の電流値に時間をかければ腐食を生じる電気量を求めることができ、理論的には、その電気量と同当量の金属が腐食されるので、当該時間における金属の腐食量を予測することができる。又、このようにして電流値から、腐食の速度を予測することができ、この腐食の速度から材料の寿命を予測することができる。
【0035】
[本発明の方法の精度の確認]
本発明の方法により見積られたガルバニック腐食電流値の精度を確認するため、Alと他の種々の金属材料を接続した場合について、実際に接続した場合に流れた腐食電流(カップリング電流と呼ぶ)の測定値と、本発明の方法で見積られたガルバニック腐食電流値を比較した。図3は、本発明の方法により見積られたガルバニック腐食電流値と実際に接続した場合に流れた電流値との関係をプロットしたグラフである(横軸が本発明による見積り値、縦軸がカップリング電流値である。)。
【0036】
図3に示されるように、複数の組み合わせにてカップリング電流値と本発明の見積り値はよく一致しており、本発明による見積り値は、ガルバニック腐食電流の実測値とみなすことが出来る。カップリング電流値の実際の計測では組み合わせが異なると新たな測定が必要であるが、本発明の方法によれば、組み合わせを構成する材料個々の分極曲線データがあれば、それらを解析することで実際に計測することなくガルバニック腐食電流値を見積ることが出来、より多くの材料の組み合わせについての評価を短期間に容易に実施可能であることが、この結果からも示されている。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の予測方法は短期間で容易に実施可能であるため、構造材の設計の際の、金属材料選択の判断や防食法の効果予測法として有用である。例えば、2種の金属材料を接続した状態で使用する際に、どちらの材料がどの程度腐食するかを、本発明の方法により定量的に評価することが出来る。前記のように、本発明による予測結果は、実環境中、実試料の挙動とよく一致しているので、構造材の設計の際等における、材料選択の初期判断に有用である。
【0038】
腐食する方の材料に犠牲防食効果を期待して、更に卑な金属をめっきすると言う防食手法を施こす場合があるが、本発明の予測方法により、そのめっき金属のガルバニック腐食電流値を見積ることができる。さらにこの腐食電流値に基づき、めっきの腐食速度、めっきの寿命、すなわち犠牲防食効果の寿命を見積ることが可能である。
【0039】
ガルバニック腐食は、接続される材料間の露出面積比に依存する。例えば、腐食するほうの材料の露出面積を大きく、腐食しないほうの材料の露出面積を小さくすれば、腐食電流密度は小さくなる(腐食が抑制できる)。露出面積比と腐食電流密度の関係は、本発明の予測方法を用いて定量的に算出することが出来る。よって、腐食電流密度を一定以下にするために必要な露出面積比の設計等、防食対策の指標を、本発明の予測方法により定量的に見積ることが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各種金属材料単体を、電解液中に浸漬して所定電位を印加した際の電流密度を、印加電位を変化させて測定し、当該電位と電流密度との関係を表す分極曲線を測定する過程1、
前記各種金属材料から選択された2種以上の金属材料について、前記分極曲線の電流密度をId、金属材料の露出面積(金属材料が電解液へ露出している面積)をAとしたときのId×Aを比較して、全ての金属材料のId×Aの合計が0となる電位を得る過程2、
当該電位における、前記2種以上の金属材料から選択された金属材料Aの電流値を前記分極曲線から求める過程3、及び
過程3で得られた電流値に基づき金属材料Aの腐食速度を予測する過程4
を有することを特徴とする異種金属接触状態における金属材料の腐食量予測方法。
【請求項2】
各種金属材料単体を、電解液中に浸漬して所定電流を流した際の電位を、前記所定電流値を変化させて測定し、当該電位と電流密度との関係を表す分極曲線を測定する過程1、
前記各種金属材料から選択された2種以上の金属材料について、前記分極曲線の電流密度をId、金属材料の面積をAとしたときのId×Aを比較して、全ての金属材料のId×Aの合計が0となる電位を得る過程2、
当該電位における、前記2種以上の金属材料から選択された金属材料Aの電流値を前記分極曲線から求める過程3、及び
過程3で得られた電流値に基づき金属材料Aの腐食速度を予測する過程4
を有することを特徴とする異種金属接触状態における金属材料の腐食量予測方法。
【請求項3】
材料の寿命の予測方法であって、当該材料の量を、請求項1又は請求項2に記載の異種金属接触状態における金属材料の腐食量予測方法により予測された腐食速度で除することを特徴とする材料の寿命の予測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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