説明

異速度車両衝突試験装置の駆動装置

【課題】1台の変速機の使用により、2台のテスト車両の速度、或いは速度差がどのような関係であっても、一方のテスト車両の左右のいずれの側面に対しても他方のテスト車両を衝突可能にすることである。
【解決手段】1台の駆動モータMと、各ワイヤロープ牽引装置P1〜P6に対する動力の伝達・遮断を行うために、各走行路L1〜L6に対応してそれぞれ設けられ、特定の一つを除いて、カップリングKを介してクラッチ軸2が互いに連結された多数のギアクラッチ装置C1〜C6と、前記駆動モータMの動力を等速又は減速させて前記各クラッチ装置C1〜C6のクラッチ軸2に伝達させる変速機Tとを備えた異速度車両衝突試験装置の駆動装置Dにおいて、前記変速機Tは、1本の入力軸S1に対して第1及び第2の2本の出力軸S21,S22を備えた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1台のみの変速機を有する駆動装置によって、2台のテスト車両の速度、或いは速度差がどのような関係であっても、一方のテスト車両の左右のいずれの側面に対しても他方のテスト車両を衝突可能な異速度車両衝突試験装置の駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両衝突試験装置は、特許文献1に示されるように、設定衝突位置Jから放射状に延びる多数の走行路L1 〜L6 (図示例では6経路)が形成されていて、各走行路L1 〜L6 には、テスト車両を牽引走行させるためのエンドレスのワイヤロープWを備えたワイヤロープ牽引装置P1 〜P6 が配設されている(図1及び図3参照)。そして、多数の走行路L1 〜L6 から選択された特定の2つの走行路に沿って牽引走行される2台のテスト車両を前記設定衝突位置Jで衝突させて試験を行っている。多数の走行路L1 〜L6 が設定衝突位置Jから放射状に延びているために、選択する2つの走行路によって衝突角度の異なる複数の斜め衝突、側面衝突を行えると共に、前記ワイヤロープ牽引装置P1 〜P6 の牽引速度を異ならしめることにより、衝突角度と衝突速度とを種々組み合せた異速度衝突試験を行える。また、図1において、F1 〜F6 は、各走行路L1 〜L6 におけるテスト車両のスタート位置であって、異速度衝突試験の場合には、選択された2つの走行路の設定衝突位置Jからスタート位置までの距離は、速度差に応じて異なっている。なお、同一直線上に存在する2つの走行路L1 ,L6 の選択により、正面衝突試験も可能となる。
【0003】
次に、図6を参照して、上記した異速度車両衝突試験装置における従来の駆動装置D''について説明する。駆動モータMの駆動軸1は、変速機T''の入力軸S1 にカップリングKを介して連結されている。ギアクラッチ装置C1 〜C6 は、それぞれ走行路L1 〜L6 に設けられた各ワイヤロープ牽引装置P1 〜P6 に対して前記駆動モータMの動力の伝達・遮断を行い、走行路L1 を除く残りの全ての走行路L2 〜L6 の各ワイヤロープ牽引装置P2 〜P6 に対応するギアクラッチ装置C2 〜C6 の各クラッチ軸2は、直列に配置されて、カップリングKを介して互いに接続されている。
【0004】
変速機T''の入力軸S1 の他端部は、カップリングKを介してギアクラッチ装置C1 のクラッチ軸2に連結されている。変速機T''の出力軸S2 は、ギアクラッチ装置C2 〜C6 の各クラッチ軸2と同一直線上に配置されて、ギアクラッチ装置C2 のクラッチ軸2とカップリングKを介して接続されている。変速機T''の入力軸S1 は、高速軸であると共に、変速機T''の出力軸S2 は、低速軸であり、入力軸S1 と出力軸S2 とのギア比は、設定された複数のギア比(例えば、1:1,1:1/2,1:1/3等)の中から選択可能であって、入力軸S1 の回転数に対して設定された減速比で減速されて回転する。なお、ギアクラッチ装置C1 〜C6 の各ドラム軸3の一端部にドラム4がそれぞれ取付けられていて、当該各ドラム4にワイヤロープWが巻き掛けられる(図2参照)。なお、駆動装置D''は、設定衝突位置Jに設けられたピット22(図1参照)の内部に配置される。
【0005】
よって、駆動モータMの動力は、変速機T''の入力軸S1 と同一回転数でもって、ギアクラッチ装置C1 のクラッチ軸2及び一対のドラム軸3に伝達され、当該ギアクラッチ装置C1 の「ON」により、走行路L1 のワイヤロープ牽引装置P1 を駆動させて、そのエンドレスのワイヤロープWを周回走行させると共に、ギアクラッチ装置C2 〜C6 のいずれか一つのみを「ON」にして、残りの全てを「OFF」にすることにより、当該「ON」となった特定のギアクラッチ装置C2 (C3 〜C6 )に対応するワイヤロープ牽引装置P2 (P3 〜P6 )を駆動させて、そのエンドレスのワイヤロープWを周回走行させる。なお、ギアクラッチ装置C1 〜C6 の詳細構造は、「発明を実施するための形態」の項目において詳述するが、当該ギアクラッチ装置C1 〜C6 の内部では減速されない。
【0006】
よって、変速機T''の出力軸S2 を入力軸S1 に対して減速させると、走行路L2 〜L6 を走行するテスト車両は、走行路L1 を走行するテスト車両に対して低速で走行する。そして、車両衝突試験では、現実の道路における車両衝突事故に対応させて、テスト車両の左右のいずれの側面に対しても種々の速度差、及び衝突角度をもって衝突させる試験が求められる。上記した駆動装置D''では、走行路L1 を走行するテスト車両に対して走行路L2 〜L5 を走行するテスト車両を衝突させると、走行路L1 を走行する高速テスト車両の右側面に、走行路L2 〜L5 のいずれかを走行する低速テスト車両を異なる角度で衝突させることはできるが、高速テスト車両が走行する走行路L1 の左側には、走行路自体が存在しないので、高速テスト車両の左側面に低速テスト車両を衝突させることはできない。
【0007】
そこで、図7に示されるように、走行路L1 と同L6 を結ぶ線分に対して走行路L2 〜L5 と対称な位置に走行路L7 〜L10を増設すれば、高速テスト車両の右側面に低速テスト車両を種々の異なる衝突角度で衝突させられる。しかし、この方法では、車両衝突試験のために広大な敷地が必要となるのに加えて、走行路の増設数だけギアクラッチ装置を増設する必要があって、駆動装置に関してもコスト増となる問題がある。
【0008】
上記した広大な敷地を不要とするために、図8に示されるように、前記駆動装置D''において、同一構成の第1及び第2の各変速機T1',T2'を連結させた駆動装置D’が考え出された。第1及び第2の各変速機T1',T2'は併設されて、各入力軸S1 がカップリングKを介して連結されているため、各変速機T1',T2'の入力軸S1 の回転数は同一である。第1変速機T1'の出力軸S2 とギアクラッチ装置C1 のクラッチ軸2とがカップリングKを介して連結されている。また、各ギアクラッチ装置C2 〜C6 の各クラッチ軸2は、カップリングKを介して互いに連結されていて、第2変速機T2'の出力軸S2 と、当該第2変速機T2'の側方に配置されたギアクラッチ装置C2 のクラッチ軸2とがカップリングKを介して連結されている。
【0009】
このため、第1及び第2の各変速機T1',T2'の各ギア比を、それぞれ(1:1)、(1:1/2)に設定すると、走行路L1 を走行するテスト車両の走行速度V1 は、他の走行路(L2 〜L5 )のいずれかを走行するテスト車両の走行速度V2 の2倍となる(V1 =2V2 )。このため、低速走行するテスト車両が走行路L2 を走行した場合には、走行路L1 を高速走行するテスト車両の右側面に、走行路L2 を低速走行するテスト車両を衝突させられる。一方、第1及び第2の各変速機T1',T2'の各ギア比を、それぞれ(1:1/2)、(1:1)に変更すると、上記とは逆に、走行路L2 を高速走行するテスト車両の左側面に、走行路L1 を低速走行するテスト車両を衝突させられて、多数の走行路の配置を従来のままにして、高速走行するテスト車両の両側面に低速走行するテスト車両を衝突させられる。
【0010】
このように、2台の変速機を連結させた前記駆動装置D’によれば、多数の走行路の配置を従来のままにして、高速走行するテスト車両の両側面に低速走行するテスト車両を衝突させられるが、使用する変速機が1台分だけ増してコスト高になるのみならず、以下の問題が併発される。即ち、上記したように、駆動装置D',D''は、開口が透明板21で覆われたピット22内に配置され、当該ピット22の(縦×横×深さ)は、ほぼ(20×20×4)mであって、前記透明板21は、ピットの縦横の各寸法よりも遥かに小さくして、(縦×横)がほぼ(4×5)mであるために、前記駆動装置D',D''は、ピット22の横穴状となった部分に配置される。従って、図8に示されるように、多数のギアクラッチ装置C1 〜C6 のクラッチ軸2の方向に沿って2台の変速機T1',T2'を併設する場合には、1台の変速機T1'(T2')の設置に必要な幅を2mとすると、土の余剰掘削量は、(2×20×4=160)m3 となって、多大な量となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−75288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、1台のみの変速機を有する駆動装置によって、2台のテスト車両の速度、或いは速度差がどのような関係であっても、一方のテスト車両の左右のいずれの側面に対しても他方のテスト車両を衝突可能にすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための請求項1の発明は、設定衝突位置を中心にして多数の走行路が放射状に配置され、各走行路には、前記テスト車両を牽引走行させるエンドレスのワイヤロープを備えたワイヤロープ牽引装置がそれぞれ設けられて、多数の走行路のうち選択された特定の2つの走行路を走行する2台のテスト車両を前記設定衝突位置で衝突させる異速度車両衝突試験装置において、1台の駆動モータと、前記各ワイヤロープ牽引装置に対する動力の伝達・遮断を行うために、各走行路に対応してそれぞれ設けられた多数のクラッチ装置と、前記駆動モータの動力を等速又は減速させて前記各クラッチ装置のクラッチ軸に伝達させる変速機とを備えた異速度車両衝突試験装置の駆動装置であって、前記変速機は、1本の入力軸に対して第1及び第2の2本の出力軸を備えた構成であって、前記多数の走行路を2分割した一方の第1グループに属する各クラッチ装置は、前記変速機の第1出力軸に連結されていると共に、他方の第2グループに属する各クラッチ装置は、前記変速機の第2出力軸に連結されていることを特徴としている。
【0014】
請求項1の発明によれば、2つのグループに分割された多数の走行路のうち、第1グループに属する走行路の各クラッチ装置は、変速機の第1出力軸に連結されていると共に、残りの第2グループに属する走行路の各クラッチ装置は、当該変速機の第2出力軸に連結されている。このため、例えば、第1出力軸は、減速させずに入力軸と等速回転させると共に、第2出力軸を減速させて、第1グループから選択された特定の一つの走行路を高速走行するテスト車両の一方の側面(右側面)に対して第2グループから選択された特定の一つの走行路を低速走行するテスト車両を衝突させられる。上記とは逆に、第1出力軸を減速させて、第2出力軸は、減速させずに等速回転させると、第2グループから選択された前記特定走行路を高速走行するテスト車両の他方の側面(左側面)に対して第1グループから選択された前記特定走行路を走行するテスト車両を衝突させられる。
【0015】
このように、請求項1の発明によれば、第1及び第2の二つの出力軸を有する1台の変速機の使用のみによって、第1及び第2の各出力軸の減速関係を逆にすることにより、多数の走行路の配置が従来のままで、高速走行するテスト車両の左右の両側面に対して低速走行する別のテスト車両を衝突させられる。また、駆動装置を構成する変速機が1台で済むために、当該駆動装置における入力軸又は出力軸の方向に沿った全長を短くできて、テスト車両の設定衝突位置に掘削されるピットの大きさ(容量)を、変速機の1台分だけ小さくできる。
【0016】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記多数の走行路は、特定の1つの基準走行路と、残りの一般走行路とに分類され、前記基準走行路のクラッチ装置のみが、前記変速機の第1出力軸に連結され、一般走行路の各クラッチ装置は、前記変速機の第2出力軸に連結されていることを特徴としている。
【0017】
請求項2の発明は、変速機の第1出力軸には、多数の走行路のうち基準となる特定の一つのみの走行路のクラッチ装置が接続されていて、残りの全ての走行路の各クラッチ装置は、互いに連結されて、変速機の第2出力軸に接続された構成であって、基準走行路には、被衝突側、或いは衝突側となるテスト車両が常に走行する。
【0018】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、前記変速機の第1及び第2の各出力軸には、それぞれ歯数の異なる複数の変速ギアが軸受を介して回転可能に取付けられて、隣接する各変速ギアの対向側面には、噛合構造の駆動側クラッチ体が一体に取付けられて、各出力軸における隣接する各変速ギアの間に配置された1又は複数の噛合構造のスライド式の従動側クラッチ体が、複数の前記駆動側クラッチ体のいずれか一つに噛合して動力伝達が行われる構成であることを特徴としている。
【0019】
請求項3の発明によれば、噛合構造のクラッチ装置において、1つのスライド式の従動側クラッチ体は、その両側の各変速ギアの対向側面に一体に取付けられた2つの駆動側クラッチ体に対して共用された構成となって、変速ギアの数に対してスライド式の従動側クラッチ体の数を半減させられるために、変速機の構成が簡単となる。
【0020】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記クラッチ装置は、1本のクラッチ軸と、当該クラッチ軸の動力を伝達させて2本のドラム軸を同一方向に等速回転させるためのギア機構とを備え、前記ギア機構は、前記クラッチ軸にスライド可能に組み込まれたスライドギアのスライドにより動力の伝達・遮断が行われる構成であることを特徴としている。
【0021】
請求項4の発明によれば、各クラッチ軸が一直線上に配置されるように、多数のクラッチ装置を配置する際の芯出し作業が容易になる。
【0022】
請求項5の発明は、請求項2ないし4のいずれかの発明において、前記多数の走行路は、前記基準走行路を延長した仮想直線に対して当該仮想直線上を含んで、当該仮想直線の一方側のみに配置されていることを特徴としている。
【0023】
請求項5の発明によれば、2台のテスト車両の速度、或いは速度差がどのような関係であっても、一方のテスト車両の左右のいずれの側面に対しても他方のテスト車両を衝突させることが可能な異速度車両衝突試験装置を配置する敷地面積を最小にできる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、異速度車両衝突試験装置の駆動装置を構成する前記変速機として、1本の入力軸に対して第1及び第2の2本の出力軸を備えた変速機を使用して、多数の走行路を2分割した一方の第1グループに属する各クラッチ装置は、前記変速機の第1出力軸に連結されていると共に、他方の第2グループに属する各クラッチ装置は、前記変速機の第2出力軸に連結させることにより、1台の変速機の使用により、2台のテスト車両の速度、或いは速度差がどのような関係であっても、一方のテスト車両の左右のいずれの側面に対しても他方のテスト車両を衝突させられる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】テスト車両の多数本の走行路L1 〜L6 の配置を示す平面図である。
【図2】本発明に係る異速度車両衝突試験装置の駆動装置Dの平面図である。
【図3】(a),(b)は、それぞれ第1及び第2の各出力軸S21,S22の減速比を変更させた場合における変速機Tの原理を示す模式的断面図である。
【図4】(a),(b)は、それぞれギアクラッチ装置C1 〜C6 の「ON」及び「OFF」の状態を示す模式的断面図である。
【図5】(a),(b)は、それぞれ高速走行する一方のテスト車両の右側面、及び左側面に低速走行する他方のテスト車両の衝突時の平面図である。
【図6】従来の異速度車両衝突試験装置の駆動装置D''の平面図である。
【図7】従来の異速度車両衝突試験装置の駆動装置D''を用いて、高速走行するテスト車両の左右のいずれの側面に対しても低速走行するテスト車両を衝突可能にした走行路L1 〜L10の平面図である。
【図8】従来の異速度車両衝突試験装置の別の駆動装置D’の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図1〜図5に示される実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。なお、「背景技術」の項目で説明した部分と同一部分には同一又は同等符号を付し、重複説明を避けて、本発明の独自の部分についてのみ詳細に説明する。図2に示されるように、本発明に係る駆動装置Dでは、1本の入力軸S1 に対して2本の出力軸S21,S22を有する変速機Tが使用されている。変速機Tの第1出力軸S21は、カップリングKを介してギアクラッチ装置C1 のクラック軸2に連結されている。また、前記ギアクラッチ装置C1 を除く残りの全ての各ギアクラッチ装置C2 〜C6 の各クラッチ軸2は、カップリングKを介して互いに連結されていて、前記変速機Tの第2出力軸S22と、当該変速機Tに最も近接して配置されたギアクラッチ装置C2 のクラッチ軸2とがカップリングKを介して連結されている。
【0027】
次に、図3を参照して、変速機Tの構成について簡単に説明する。入力軸S1 と第1及び第2の各出力軸S21,S22の軸間距離を確保する必要がある場合には、当該各出力軸S21,S22の間に1ないし複数本のアイドル軸が配置され、図3では、当該アイドル軸を略して模式的に図示してある。図示の変速機Tは、ギア比を、(1:1)、(1:1/2)、(1:1/3)、(1:1/4)の4段階に変更可能な構成である。入力軸S1 と第1及び第2の各出力軸S21,S22には、歯数比が上記ギア比となるような組み合せの各ギア(G1 ,G2 ),(G3 ,G4 ),(G5 ,G6 ),(G7 、G8 )がそれぞれ取付けられている。入力軸S1 に取付けられる各ギアG1 ,G3 ,G5 ,G7 は、当該入力軸S1 と一体回転するように取付けられているが、第1及び第2の各出力軸S21,S22に取付けられる各ギアG2 ,G4 ,G6 ,G8 は、いずれも軸受Bを介して取付けられている。
【0028】
第1及び第2の各出力軸S21,S22には、雄スプライン構造の従動側クラッチ体N2 がスライド可能であって、しかも当該各出力軸S21,S22と一体回転するように取付けられている。また、第2出力軸S22に取付けられた各ギアG2 ,G4 ,G6 ,G8 の対向する側面には、それぞれ前記従動側クラッチ体N2 と噛合する雌スプライン構造の駆動側クラッチ体N1 が一体に取付けられている。このため、各ギアG2 ,G4 (G6 ,G8 )の間の遮断位置に従動側クラッチ体N2 が配置された状態では、入力軸S1 から各出力軸S21,S22には、動力は伝達されず、従動側クラッチ体N2 が前記遮断位置からスライドして、いずれか一つの駆動側クラッチ体N1 と噛合されると、駆動側及び従動側の各クラッチ体N1 ,N2 の噛合に係る組み合わせのギアを介して、入力軸S1 から各出力軸S21,S22に動力が伝達されることにより、ギア比(減速比)を選択できるようになっている。第1及び第2の各出力軸S21,S22には、2つの従動側クラッチ体N2 が取付けられていて、各従動側クラッチ体N2 は、ギアG2 と同G4 の間、及びギアG6 と同G8 の間にそれぞれ配置されている。
【0029】
また、ギアクラッチ装置C1 〜C6 は、図4に示されるように、クラッチ軸2の両側にドラム軸3がそれぞれ設けられて、当該クラッチ軸2に軸受Bを介して回転可能に取付けられたギアG11と、各ドラム軸3に取付けられたギアG12とは、動力伝達が解除可能に噛合されている。即ち、クラッチ軸2に軸受Bを介して取付けられたギアG11の側方には、雌スプライン構造の従動側クラッチ体N12が一体に取付けられていて、クラッチ軸2にスライド可能に支持された雄スプライン構造の駆動側クラッチ体N11と、前記従動側クラッチ体N12との噛合により、図 4(a)に示されるように、ギアクラッチ装置C1 〜C6 は「ON」になると共に、当該噛合の解除により、図 4(b)に示されるように、ギアクラッチ装置C1 〜C6 は「OFF」となる。
【0030】
このため、図3(a)に示されるように、変速機Tの第1及び第2の各出力軸S21,S22の各ギア比を、それぞれ(1:1)、(1:1/2)に設定すると、走行路L1 を走行するテスト車両A1 の走行速度V1 は、他の走行路(L2 〜L5 )のいずれかを走行するテスト車両A2 の走行速度V2 の2倍となる(V1 =2V2 )。このため、テスト車両A2 が走行路L2 を走行した場合には、図5(a)に示されるように、高速走行する一方のテスト車両A1 の右側面に、低速走行する他方のテスト車両A2 を衝突させられる。
【0031】
一方、図3(b)に示されるように、変速機Tの第1及び第2の各出力軸S21,S22の各ギア比を、それぞれ(1:1/2)、(1:1)に変更すると、走行路L1 を走行するテスト車両A1 の走行速度V1 は、他の走行路(L2 〜L5 )のいずれかを走行するテスト車両A2 の走行速度V2 の(1/2)となる(V1 =V2 /2)。このため、テスト車両A2 が走行路L2 を走行した場合には、図5(b)に示されるように、高速走行する一方のテスト車両A2 の左側面に、低速走行する他方のテスト車両A1 を衝突させられる。
【0032】
また、駆動装置Dを構成する変速機Tが1台で済むために、当該駆動装置Dにおける入力軸S1 又は出力軸S21,S22の方向に沿った全長を短くできて、テスト車両の設定衝突位置Jに掘削されるピット22の大きさ(容量)を、変速機の1台分だけ小さくできる。
【0033】
また、上記衝突例では、直交する2本の走行路L1 ,L2 を選択しているために、「側面衝突」となるが、走行路L1 と、走行路(L2 〜L5 )のいずれか一つを選択すると、「斜側面衝突」を実現でき、この場合においては、高速走行する一方のテスト車両の左右の両側面に対して低速走行する他方のテスト車両を斜側方から衝突させられる。
【0034】
また、変速機Tの第1及び第2の各出力軸S21,S22の「ギア比の組合せ」を変更することにより、種々の走行速度、及び速度差でもって、一方のテスト車両の左右のいずれの側面に対しても他方のテスト車両を衝突させられる。
【0035】
また、変速機Tのギア比(減速比)に関しても、上記は一例であって、2台のテスト車両の速度差に応じて種々の組み合わせが考えられる。
【0036】
なお、上記したギアクラッチ装置C1 〜C6 は、クラッチ軸2が1本であるので、各クラッチ軸2が同一直線上に配置させるための「芯出し作業」が容易になる利点がある。しかし、駆動装置Dに使用される走行路の数と同数のクラッチ装置は、上記した1本のクラッチ軸2を備えるものに限定されず、動力の伝達・遮断が可能であれば、いかなる構成であってもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 ,A2 :テスト車両
1 〜C6 :ギアクラッチ装置
D:駆動装置
J:設定衝突位置
1 〜L6 :走行路
M:駆動モータ
1 〜P6 :ワイヤロープ牽引装置
1 :変速機の入力軸
21,S22:変速機の出力軸
T:変速機
1 ,V2 :テスト車両の走行速度
W:ワイヤロープ
2:クラッチ軸
3:ドラム軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
設定衝突位置を中心にして多数の走行路が放射状に配置され、各走行路には、前記テスト車両を牽引走行させるエンドレスのワイヤロープを備えたワイヤロープ牽引装置がそれぞれ設けられて、多数の走行路のうち選択された特定の2つの走行路を走行する2台のテスト車両を前記設定衝突位置で衝突させる異速度車両衝突試験装置において、
1台の駆動モータと、
前記各ワイヤロープ牽引装置に対する動力の伝達・遮断を行うために、各走行路に対応してそれぞれ設けられた多数のクラッチ装置と、
前記駆動モータの動力を等速又は減速させて前記各クラッチ装置のクラッチ軸に伝達させる変速機と、を備えた異速度車両衝突試験装置の駆動装置であって、
前記変速機は、1本の入力軸に対して第1及び第2の2本の出力軸を備えた構成であって、
前記多数の走行路を2分割した一方の第1グループに属する各クラッチ装置は、前記変速機の第1出力軸に連結されていると共に、他方の第2グループに属する各クラッチ装置は、前記変速機の第2出力軸に連結されていることを特徴とする異速度車両衝突試験装置の駆動装置。
【請求項2】
前記多数の走行路は、特定の1つの基準走行路と、残りの一般走行路とに分類され、前記基準走行路のクラッチ装置のみが、前記変速機の第1出力軸に連結され、一般走行路の各クラッチ装置は、前記変速機の第2出力軸に連結されていることを特徴とする請求項1に記載の異速度車両衝突試験装置の駆動装置。
【請求項3】
前記変速機の第1及び第2の各出力軸には、それぞれ歯数の異なる複数の変速歯車が軸受を介して回転可能に取付けられて、隣接する各変速歯車の対向側面には、噛合構造の駆動側クラッチ体が一体に取付けられて、各出力軸における隣接する各変速歯車の間に配置された1又は複数の噛合構造のスライド式の従動側クラッチ体が、複数の前記駆動側クラッチ体のいずれか一つに噛合して動力伝達が行われる構成であることを特徴とする請求項1又は2に記載の異速度車両衝突試験装置の駆動装置。
【請求項4】
前記クラッチ装置は、1本のクラッチ軸と、当該クラッチ軸の動力を伝達させて2本のドラム軸を同一方向に等速回転させるための歯車機構とを備え、
前記歯車機構は、前記クラッチ軸にスライド可能に組み込まれたスライド歯車のスライドにより動力の伝達・遮断が行われる構成であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の異速度車両衝突試験装置の駆動装置。
【請求項5】
前記多数の走行路は、前記基準走行路を延長した仮想直線に対して当該仮想直線上を含んで、当該仮想直線の一方側のみに配置されていることを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載の異速度車両衝突試験装置の駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−233704(P2012−233704A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100316(P2011−100316)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)