説明

疎水性コーティングが施された眼科用ガラスの研磨・打ち抜き特性の改善

この発明は、特定の層構造と15mJ/m未満の表面エネルギーとを備えた眼科用ガラスに関するものであ。この発明はまた、眼科用レンズの寸法研磨かつ/または打ち抜きの際のその使用に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、特定の層構造と15mJ/m未満の表面エネルギーとを備えた眼科用ガラスに関するものであり、また、眼科用レンズを研磨しかつ/または打ち抜くためのその使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
当分野では、コーティングされたさまざまな眼科用ガラスが知られている。それらには通常、きわめて平滑な表面があるが、しかしながら、そのために、眼科用レンズを研磨しかつ/または打ち抜く際に軸方向ねじれのような問題が起きる。当分野では、永久的疎水性・疎油性コーティングが施され、その表面エネルギーが、より良好な研磨特性になる一時的保護層を施すことによって15mJ/m以上に調整された眼科用ガラスもまた知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この発明の技術的な目的は、疎水性・疎油性コーティングが施されて、研磨・打ち抜き特性あるいは打ち抜き性能が改善された眼科用ガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この目的は、特許請求の範囲に記載された実施形態によって達成される。
【0005】
具体的には、この発明によれば、以下の順序(眼科用ガラスから始まる)で、疎水性・疎油性があり、20個を超える炭素原子がある少なくとも1つのフッ素含有基を有しているシラン(a1)あるいは過フッ化炭化水素化合物(a2)を備えているコーティング(a)、必要に応じて無機材料からなる剥離性層(b)、およびそこへ施された透明な剥離性保護層(c)であって、上記層構造を備えた眼科用ガラスが15mJ/m未満の表面エネルギーを有するように、20個以下の炭素原子がある少なくとも1つのフッ素含有基を有しているシランからなる透明な剥離性保護層、を備えている眼科用ガラスが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
この発明の好ましい実施形態によれば、疎水性・疎油性があり、20個を超える炭素原子がある少なくとも1つのフッ素含有基を有しているシラン(a1)あるいは過フッ化炭化水素化合物(a2)を備えているコーティング(a)、およびそこへ施された透明な剥離性保護層(c)であって、上記層構造を備えた眼科用ガラスが15mJ/m未満の表面エネルギーを有するように、20個以下の炭素原子がある少なくとも1つのフッ素含有基を有しているシランからなる透明な剥離性保護層、を備えている眼科用ガラスが提供される。
【0007】
この発明による眼科用ガラスは、上記層構造が、好ましくは14mJ/m未満、特に好ましくは13mJ/m未満、また、最も好ましくは12mJ/m未満の表面エネルギーを有している。
【0008】
表面エネルギーはOwens−Wendt法を利用して決定されるが、この方法は以下の刊行物に記載されている。J.APPL.POLYM.SCI.,第13巻(1969)第1741〜1747ページのOwens D.K.およびWendt R.G.による「ポリマーの表面エネルギーの評価」。Owens−Wendt法に使用された液体は、水、2ヨウ素メタンおよびヘキサデカンである。
【0009】
使用された眼科用ガラスは、例えばポリチオウレタン、PMMA、ポリカーボネート、ポリアクリレート、あるいはポリジエチレン・グリコール・ビスアリル・カーボネート(CR 39°)から形成された処理型あるいは非処理型の合成ガラス、または処理型あるいは非処理型の無機ガラスであると思われる。例えば1層〜6層構造の、従来から使用された硬質層および/または従来の反射防止層を、非処理型眼科用ガラスの表面へ直接施すことができる。この場合には、疎水性・疎油性があるコーティング(a)は、眼科用ガラスの表面へ直接施されるのではなく、眼科用ガラスの硬質層あるいは反射防止層へ施される。当業者は、このような1層あるいは多層の反射防止コーティングに精通しており、従って、反射防止層の適切な材料および層厚さを適宜に選択する立場にあるであろう。
【0010】
疎水性・疎油性があるコーティング(a)には、20個を超える炭素原子、好ましくは30個を超える炭素原子、特に好ましくは40個を超える炭素原子、最も好ましくは50個を超える炭素原子がある少なくとも1つのフッ素含有基を有しているシラン(a1)が備わっているのが好都合である。しかしながら、疎水性・疎油性があるコーティング(a)は、20個を超える炭素原子がある少なくとも1つのフッ素含有基を有している対応のシロキサンあるいはシラザンから形成することもできる。
【0011】
20個を超える炭素原子がある少なくとも1つのフッ素含有基を有しているシラン(a1)は、少なくとも1つの加水分解基を有しているシランに基づいているのが好ましい。適切な加水分解基はどのような特定の制限も受けることがなく、また、当業者はそれらに精通しているであろう。ケイ素原子へ結合した加水分解基の例は、塩素のようなハロゲン原子、−N(CHあるいは−N(Cのような−N−アルキル基、アルコキシ基、またはイソシアネート基である。アルコキシ基、特にメトキシ基あるいはエトキシ基が、加水分解基として好ましい。しかしながら、20個を超える炭素原子がある少なくとも1つのフッ素含有基を有しているとともに少なくとも1つのヒドロキシル基を有しているシラン(a1)を使用することもまた可能である。もしも、20個を超える炭素原子がある少なくとも1つのフッ素含有基を有していて、少なくとも1つの加水分解基あるいはヒドロキシル基を有しているシラン(a1)が使用されるときには、処理型あるいは非処理型の眼科用ガラスの表面または眼科用ガラスの硬質層あるいは反射防止層とシラン(a1)との間に、例えばその表面におけるヒドロキシル基を介して、(永久的な)化学結合を形成することができる。このことは、この発明によることが好ましい。
【0012】
20個を超える炭素原子がある少なくとも1つのフッ素含有基を有しているシラン(a1)は、1つ以上のポリフッ化基あるいは1つ以上の過フッ化基を備えているのが好ましい。1つ以上のポリフッ化アルキル基あるいは過フッ化アルキル基、1つ以上のポリフッ化アルケニル基あるいは過フッ化アルケニル基、および/または、1つ以上のポリフッ化ポリエーテルユニット含有基あるいは過フッ化ポリエーテルユニット含有基が、特に好ましい。好ましいポリエーテルユニット含有基は、1つ以上の−(CFOユニットを備えており、ここで、x=1〜10であるが、x=2〜3が特に好ましい。
【0013】
この発明の好ましい実施形態によれば、シラン(a1)は、20個を超える炭素原子があるフッ素含有基と3つの加水分解基あるいはヒドロキシル基とを有している。
【0014】
疎水性・疎油性があるコーティング(a)が過フッ化炭化水素化合物から形成されていることもまた好ましい。過フッ化炭化水素化合物はどのような実質的制限も受けることがない。しかしながら、過フッ化炭化水素コーティングとしてのポリテトラフルオロエチレンの使用は好ましい。
【0015】
疎水性・疎油性があるコーティング(a)は、20個を超える炭素原子がある少なくとも1つのフッ素含有基を有しているシラン(a1)あるいは過フッ化炭化水素化合物(a2)から限定的に形成されているのが好ましい。しかしながら、コーティング(a)のために1つ以上のシラン(a1)および/または1つ以上の過フッ化炭化水素化合物の混合物を、必要に応じて付加的な無機添加剤、有機金属添加剤あるいは有機添加剤とともに使用することも可能である。
【0016】
必要に応じてコーティング(a)と保護層(c)との間に設けられる、無機材料から形成された剥離性層(b)は、光学用コーティングのために従来から使用された、また、どのような特別な制限も受けない材料から形成することができる。無機材料からなる剥離性層(b)のために適した材料は、具体的にはSiO、Al、Ta、TiO、ZrO、Ag、Cu、AuあるいはCr、またはこれらの混合物である。この層(b)は、上記材料からなる1つ以上の層から形成することができ、1層構造あるいは2層構造が好ましい。
【0017】
透明な剥離性保護層(c)は、20個以下の炭素原子、好ましくは18個以下の炭素原子、特に好ましくは15個以下の炭素原子、最も好ましくは12個以下の炭素原子がある少なくとも1つのフッ素含有基を有しているシランを備えているのが好ましい。しかしながら、透明な剥離性保護層(c)は、20個以下の炭素原子がある少なくとも1つのフッ素含有基を有している対応のシロキサンあるいはシラザンを備えていてもよい。
【0018】
保護層(c)における、20個以下の炭素原子がある少なくとも1つのフッ素含有基を有しているシランは、1つ以上の部分フッ化型のフルオロアルキル基あるいはフルオロアルケニル基を備えているのが好ましい。この発明による、部分フッ化型あるいは不完全フッ化型のフルオロアルキル基あるいはフルオロアルケニル基を備えているシランは、過フッ化フルオロアルキル基あるいは過フッ化フルオロアルケニル基をまったく備えていないシランを意味する、ということを理解すべきである。部分フッ化型のフルオロアルキル基あるいはフルオロアルケニル基は、部分フッ化型のフルオロアルキル基あるいはフルオロアルケニル基が、好ましくは90%以下のフッ素原子を、特に好ましくは80%以下のフッ素原子を含有するように、フッ素原子に加えて水素原子を保有している。保護層(c)における、20個以下の炭素原子がある少なくとも1つのフッ素含有基を有しているシランは、上に記載したように、1つ以上の加水分解基あるいはヒドロキシル基を有していてもよい。
【0019】
透明な保護層(c)は、20個以下の炭素原子がある少なくとも1つのフッ素含有基を有しているシランから限定的に形成されているのが好ましい。しかしながら、保護層(c)のための、20個以下の炭素原子がある少なくとも1つのフッ素含有基を有しており、必要に応じて付加的な無機添加剤、有機金属添加剤あるいは有機添加剤を有している1つ以上のシランの混合物を使用することも可能である。
【0020】
疎水性・疎油性があり、かつ、透明な剥離性保護層(c)があるコーティング(a)は、従来の方法によって眼科用ガラスへ施すことができる。これらのコーティングは蒸着、化学蒸着あるいは浸漬によって施すのが好ましい。必要に応じて無機材料から形成された剥離性層(b)は、蒸着、スパッタリング、あるいはプラズマ補助化学蒸着によって適用されるのが好ましい。
【0021】
疎水性・疎油性があり、眼科用ガラスの表面へ施されるコーティング(a)の層厚さは、基本的にどのような特別な制限も受けない。しかしながら、それは、50nm以下の厚さに、好ましくは50nm以下の厚さに調整されるのが好ましい。
【0022】
無機材料から形成された剥離性層(b)の層厚さは、どのような実質的な制限も受けないが、通常はおよそ1nm〜およそ200nmの範囲にあり、10nm〜100nmの範囲にある層厚さが好ましい。
【0023】
透明な剥離性保護層(c)の層厚さは、どのような特別な制限も受けないが、好ましくは50nm未満であり、特に好ましくは20nm未満であり、最も好ましくはおよそ3nmとおよそ10nmとの間の範囲にある。
【0024】
コーティング(a)の施された参照ガラス基板の横揺れ角が保護コーティング(c)の施された参照ガラス基板の横揺れ角よりも小さいことは、いっそう好ましい。コーティング(a)かまたは保護コーティング(c)かのいずれかでコーティングされた、使用される参照ガラス基板は、この発明による眼科用ガラスのために適した上記材料から形成された上記ガラス基板(特に、非コーティング型眼科用ガラス、硬質層および/または従来の反射防止コーティングでコーティングされた眼科用ガラス)の1つである。この発明によれば、横揺れ角は、コーティングされた参照ガラス基板が、0°の角度(すなわち、参照ガラス基板の水平方位)から、コーティングされた参照ガラス基板へ適用された液体、すなわち水あるいはヘキサデカンの滴下が横揺れし始めるまで、徐々に傾斜される測定方法によって決定される。横揺れ角を決定するためのこの測定方法は、ヨーロッパ特許出願公開公報EP第0933377A2号の第13ページ最終段に記載された方法に実質的に対応している。
【0025】
この発明によれば、眼科用レンズを研磨しかつ/または打ち抜く際における上記眼科用ガラスの使用がさらに提供される。この発明によってコーティングされた眼科用ガラスが眼科用レンズを研磨するために使用されるときには、軸方向ねじれはきわめて有効に防止することができる、ということがわかった。これに関連して、この発明によってコーティングされた眼科用ガラスによれば、15mJ/m未満の表面エネルギーにもかかわらず、優れた研磨・打ち抜き特性を達成することができる、ということは、特に驚くべきことであった。コーティングされた眼科用ガラスの研磨の後に、透明な剥離性保護コーティング(c)は、無機材料から形成されて必要に応じて設けられた剥離性層(b)とともに、例えば布を持った手でそれを拭くことにより、簡単に再剥離することができる。層粘着性、耐引っ掻き性および耐気候性のような優れた眼科用ガラス特性は、疎水性、疎油性、清浄性および平滑性のような、永久的コーティング(a)でコーティングされた眼科用ガラスの優れた特性とともに、維持される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の順序で、疎水性・疎油性があり、20個を超える炭素原子がある少なくとも1つのフッ素含有基を有しているシラン(a1)あるいは過フッ化炭化水素化合物(a2)を備えているコーティング(a)、必要に応じて無機材料からなる剥離性層(b)、およびそこへ施された透明な剥離性保護層(c)であって、上記層構造を備えた眼科用ガラスが15mJ/m未満の表面エネルギーを有するように、20個以下の炭素原子がある少なくとも1つのフッ素含有基を有しているシランからなる透明な剥離性保護層を備えている、眼科用ガラス。
【請求項2】
疎水性・疎油性があるコーティングは、20個を超える炭素原子がある少なくとも1つのフッ素含有基を有しているシラン(a1)から形成されている、請求項1に記載の眼科用ガラス。
【請求項3】
シラン(a1)は、少なくとも1つの加水分解基あるいはヒドロキシル基を有しているシランに基づいている、請求項1または2に記載の眼科用ガラス。
【請求項4】
シラン(a1)は、1つ以上のポリフッ化基あるいは1つ以上の過フッ化基を備えている、請求項1、2または3に記載の眼科用ガラス。
【請求項5】
シラン(a1)は、1つ以上のポリフッ化アルキル基あるいは過フッ化アルキル基、1つ以上のポリフッ化アルケニル基あるいは過フッ化アルケニル基、および/または、1つ以上のポリフッ化ポリエーテルユニット含有基あるいは過フッ化ポリエーテルユニット含有基を備えている、請求項1から4のいずれか一項に記載の眼科用ガラス。
【請求項6】
過フッ化炭化水素化合物は、ポリテトラフルオロエチレンである、請求項1に記載の眼科用ガラス。
【請求項7】
保護層(c)におけるシランは、1つ以上の部分フッ化型のフルオロアルキル基あるいはフルオロアルケニル基を備えている、請求項1から6のいずれか一項に記載の眼科用ガラス。
【請求項8】
眼科用レンズの研磨および/または打ち抜きにおける、請求項1から7のいずれか一項に規定された眼科用ガラスの使用。

【公表番号】特表2008−513815(P2008−513815A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−531612(P2007−531612)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【国際出願番号】PCT/EP2005/006373
【国際公開番号】WO2006/029661
【国際公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(503279013)ローデンストック.ゲゼルシャフト.ミット.ベシュレンクテル.ハフツング (34)
【Fターム(参考)】