疎水性ペプチドに対する抗体の製造方法
【課題】疎水性ペプチドに対する抗体を効率良く製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明によって提供される製造方法は、疎水性ペプチドに対する抗体の製造方法であって、上記疎水性ペプチドのN末端側に親水性ポリマーが付加され、且つ該疎水性ペプチドのC末端側に少なくとも一つのCys残基が付加され、さらに上記Cys残基にキャリアタンパク質が連結されたコンジュゲートを抗原として、該抗原で免疫した哺乳動物から抗体を取得することを特徴とする。
【解決手段】本発明によって提供される製造方法は、疎水性ペプチドに対する抗体の製造方法であって、上記疎水性ペプチドのN末端側に親水性ポリマーが付加され、且つ該疎水性ペプチドのC末端側に少なくとも一つのCys残基が付加され、さらに上記Cys残基にキャリアタンパク質が連結されたコンジュゲートを抗原として、該抗原で免疫した哺乳動物から抗体を取得することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性ペプチドに対する抗体の製造方法と該製造方法により得られる抗体の利用に関する。詳しくは、該抗体に認識される疎水性ペプチドの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAやポリペプチド、あるいはタンパク質を抗原として用いて哺乳動物を免疫し、その動物の血液中より該抗原に対する抗体を分離・精製する方法が広く知られている。中でも比較的分子量の小さいペプチドはタンパク質に比べて免疫原性が低いのでそのまま抗原として用いることが困難であるが、キャリアとなるべく分子量の大きいタンパク質(キャリアタンパク質)と連結させてコンジュゲートを作製し、該コンジュゲートを抗原として用いることにより分子量の小さいペプチドでも抗体を製造することができる。
例えば、非特許文献1では、適当な架橋剤を用いて高分子量のキャリアタンパク質と低分子量のポリペプチドとを連結したコンジュゲートを用いて抗体を製造している。また、キャリアタンパク質に連結されるポリペプチドは、親水性のアミノ酸残基を備えるものの方がより効率よくキャリアタンパク質と連結することができることが報告されている。
【0003】
ところで、生体内においてリボソームで合成されたタンパク質を膜透過させる機能を有するペプチドとして、シグナルペプチドが知られている。シグナルペプチドの多くは、タンパク質合成時に10〜30残基長のアミノ酸としてタンパク質前駆体のN末端に付加された状態で合成される。そして、タンパク質が目的の区画(小胞体、ミトコンドリアなど)へ移行するとシグナルペプチダーゼによりシグナルペプチドが切断され、タンパク質部分だけが膜を透過し、成熟したタンパク質となる。そのため、従来、シグナルペプチドはタンパク質の移行するべき区画へ誘導する働きしかないと考えられていた。しかしながら、近年、非特許文献2などにより、シグナルペプチダーゼによる切断を受けた後も、シグナルペプチドには別の生理的な役割を担うことが複数報告されている。
【0004】
例えば、非特許文献3では、カルレティキュリン(calreticulin)のシグナルペプチドの一部は、主要組織適合複合体(MHC)により細胞表面に提示されることが明らかにされている。このことから、シグナルペプチドは、細胞内のタンパク質の発現量または正常なシグナルペプチドの産生割合をモニタリングするための機構の一部である可能性が考えられている。
さらに、非特許文献4では、カルシトニン(calcitonin)のシグナルペプチドの一部がMHCにより非小細胞性肺がん細胞の表面に提示され、当該ペプチドをエピトープとして細胞傷害性T細胞が認識することが明らかとなっており、シグナルペプチドの解析によって、がんワクチンをはじめとする様々な免疫疾病治療薬の開発につながることが期待されている。そのため、生体内の生理的現象の解明や、免疫疾病の診断および治療方法の研究において、かかるシグナルペプチドを抗原として用いて製造される抗体の有用性が近年高まっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】エド・ハーロウ(Ed Harlow, et al.):アンチボディイズ(Antibodies),コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー(Cold Spring Harbor laboratory),1988年
【非特許文献2】ブルーノ・マートグリオ(Bruno Martoglia, et al.):トレンズ・イン・セル・バイオロジー(Trends in Cell Biology),8巻,1998年,pp.410−415
【非特許文献3】ロバート・A・ヘンダーソン(Robert A henderson, et al.): Science,255巻,1992年,pp.1264−1266
【非特許文献4】ファルテン・エル・ヘイジ(Faten El Hage, et al.):Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,29巻,105号,2008年,pp.10119−10124
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、シグナルペプチドは、疎水性の側鎖を持つアミノ酸残基から成るため疎水性の高いペプチドであることが多い。これらの疎水性ペプチドは溶液中で凝集または沈澱するためキャリアタンパク質と連結されたコンジュゲートを作製し難く、そのため疎水性ペプチドに対する抗体を効率良く製造する方法が未だ確立されていない。また、生体内から目的とする疎水性ペプチドのみを効率的に検出または単離することが困難であった。
【0007】
そこで本発明は、上記シグナルペプチドをはじめとする疎水性ペプチドにキャリアタンパク質を連結させたコンジュゲートを抗原とする疎水性ペプチドに対する抗体を効率的に製造する方法の提供を目的とする。また、かかる抗体を用いて検体中より簡易に該疎水性ペプチドを検出する方法の提供を他の一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現するべく本発明によって疎水性ペプチドに対する抗体の製造方法が提供される。かかる製造方法は、疎水性ペプチドに対する抗体を製造する方法である。典型的には、かかる疎水性ペプチドは、疎水性のアミノ酸残基数が全アミノ酸残基数の少なくとも30%以上である、全残基数が50残基以下のアミノ酸残基から構成される。
ここで開示される上記疎水性ペプチドに対する抗体の製造方法は、上記疎水性ペプチドのN末端側に親水性ポリマーが付加され、且つ該疎水性ペプチドのC末端側に少なくとも一つのCys残基が付加され、さらに、上記Cys残基にキャリアタンパク質が連結されたコンジュゲートを抗原として、該抗原で免疫した哺乳動物から抗体を取得することを特徴とする。
【0009】
なお、本明細書において「アミノ酸残基」とは、特に言及する場合を除いて、ペプチド鎖のN末端アミノ酸及びC末端アミノ酸を包含する用語である。なお、本明細書においては、アミノ酸をIUPAC−IUBガイドラインで示されたアミノ酸に関する命名法に準拠した1文字表記または3文字表記で表す。
また、本明細書において「疎水性のアミノ酸残基」とは、Val、Leu、Ile、Phe、Trp、Pro、Gly、AlaおよびMetをいう。また、かかる疎水性のアミノ酸残基の数が全アミノ酸残基数の少なくとも30%以上であるペプチドを、以下、本明細書では「疎水性ペプチド」と略称する。
また、本明細書において「ペプチド」とは、複数のペプチド結合を有するアミノ酸ポリマーを指す用語であり、ペプチド鎖に含まれるアミノ酸残基の数によって限定されない。従ってアミノ酸残基数が10程度までのオリゴペプチドあるいはそれ以上のアミノ酸残基から成るポリペプチドも本明細書における「ペプチド」に包含される。
また、本明細書において「コンジュゲート」とは、上記疎水性ペプチドにキャリアタンパク質およびその他の担体(親水性ポリマー、Cys残基)が共有結合で連結された生成物をいう。
【0010】
上記疎水性ペプチドは溶液中で凝集または沈澱するため、キャリアタンパク質と連結したコンジュゲートを作製し難く、従来、該疎水性ペプチドに対する抗体を製造するのは困難とされていた。しかしながら、本発明者は、上記疎水性ペプチドのN末端側に親水性ポリマーが付加され、且つ該疎水性ペプチドのC末端側に少なくとも一つのCys残基が付加され、さらに、上記Cys残基側にキャリアタンパク質が連結されたコンジュゲートを用いることによって、該コンジュゲートを抗原として免疫した哺乳動物から該疎水性ペプチドに対する抗体を取得し得ることを見出し、発明の完成に至った。
【0011】
また、本発明によって提供される疎水性ペプチドに対する抗体の製造方法の好ましい一態様では、上記親水性ポリマーとして、分子量が1000以下のポリエチレングリコールを使用する。非抗原性の生体適合性を有する親水性ポリマーであるポリエチレングリコールを疎水性ペプチドのN末端側に付加(以下、ポリエチレングリコールを付加することを、「PEG化」と略称する場合がある。)することにより、疎水性ペプチドの水に対する溶解性を向上させることができる。
【0012】
ここで開示される疎水性ペプチドに対する抗体の製造方法の好ましい一態様では、Fmoc(9−fluorenylmethoxycarbonyl)を用いて、固相合成によりPEG化する。
また他の好ましい一態様では、上記ポリエチレングリコールとして、NHSエステルを有するものを使用し、上記疎水性ペプチドおよび該NHSエステルを有するポリエチレングリコールを、尿素および界面活性剤を少なくとも含む反応溶液中で一定時間加熱することにより、該疎水性ペプチドのN末端側に該ポリエチレングルコールを付加する。尿素および界面活性剤を少なくとも含む溶液中で、上記疎水性ペプチドおよび上記NHSエステルを有するポリエチレングリコールを加熱して反応させることによって、疎水性ペプチドに対するPEG化を促進し得る。
【0013】
また、ここで開示される疎水性ペプチドに対する抗体の製造方法の好ましい一態様では、ホモ二官能性基またはヘテロ二官能性基を有する架橋剤を用いて上記Cys残基に上記キャリアタンパク質を連結することが好ましい。かかる架橋剤としては、反応性官能基にN-ヒドロキシスクシンイミド活性化エステル(NHSエステル)やマレイミド等を有するホモ二官能性基あるいはヘテロ二官能性基を好ましく使用し得る。中性水溶液での反応性に優れる上記架橋剤を用いることにより、PEG化することによって溶解性が向上した疎水性ペプチドとキャリアタンパク質とは高効率で連結させ、コンジュゲートを作製することができる。
上記架橋剤としては、具体的にビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS3)またはm−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS)を好ましく用いることができる。
【0014】
また、好ましい他の一態様では、上記疎水性ペプチドとして、既知のいずれかのシグナルペプチドを構成するアミノ酸配列を含むように化学合成された合成ペプチドを使用する。
更に好ましくは、上記疎水性ペプチドは、アミロイド前駆体タンパク質シグナルペプチド(APPsp)のアミノ酸配列:MLPGLALLLLAAWTARA(配列番号1);を含む。
【0015】
また、本発明によると、ここで開示されるいずれかの製造方法により製造された、疎水性ペプチドに対する抗体が提供される。典型的には、かかる疎水性ペプチドは、疎水性のアミノ酸残基数が全アミノ酸残基数の少なくとも30%以上である、全残基数が50残基以下のアミノ酸残基から構成される。
好ましい抗体の例示として、以下の配列:MLPGLALLLLAAWTARA(配列番号1);から構成されるアミロイド前駆体タンパク質シグナルペプチド(APPsp)に対するポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体が挙げられる。
【0016】
さらに、本発明は上記目的を実現する他の側面として、ここで開示されるいずれかの抗体(ここで開示される製造方法により製造された抗体を含む)を用いた抗原抗体反応に基づいて、検体中から所定の疎水性ペプチドを検出する方法を提供する。典型的には、かかる疎水性ペプチドは、疎水性のアミノ酸残基数が全アミノ酸残基数の少なくとも30%以上である、全残基数が50残基以下のアミノ酸残基から構成される。
また、ここで開示される検出方法の好ましい一態様では、上記検体は、親水性ポリマー、尿素および界面活性剤を少なくとも含む反応溶液中で一定時間加熱して用いられる。また、上記親水性ポリマーとして、分子量が1000以下であって、NHSエステルを有するポリエチレングリコールが好ましく使用される。
【0017】
また、本発明は他の側面として、検体中から所定の疎水性ペプチド(典型的には疎水性のアミノ酸残基数が全アミノ酸残基数の少なくとも30%以上である、全残基数が50残基以下のアミノ酸残基から構成されるペプチド)を検出するための試薬を提供する。上記試薬は、ここで開示されるいずれかの抗体(ここで開示される製造方法により製造された抗体を含む)と、親水性ポリマーおよび尿素ならびに界面活性剤とを少なくとも含有する、疎水性ペプチド検出用試薬である。また、ここで開示される試薬の好ましい一態様では、上記親水性ポリマーとして、分子量が1000以下であって、NHSエステルを有するポリエチレングリコールが使用される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ヒトアミロイド前駆体タンパク質のシグナルペプチド(APPsp)のN末端にPEGを、C末端にCys残基を付加して合成した、PEG-APPsp-Cysの化学構造式を示す図である。
【図2】PEG-APPsp-Cysを抗原として用いたEIAによる抗APPsp抗体の力価測定結果を示すグラフである。
【図3】PEG単体を含むPEG-APPsp-Cysを抗原として用いたEIAによる抗APPsp抗体の力価測定結果を示すグラフである。
【図4】ドットブロット法による抗APPsp抗体の力価測定結果である。
【図5】ウェスタンブロット法による抗APPsp抗体の力価測定結果である。
【図6】PEG-APPspの化学構造式を示す図である。
【図7】PEG-APPsp-CysおよびPEG-APPspに対する抗APPsp抗体のEIAによる力価測定結果を示すグラフである。
【図8】Cys-PEG-APPspの化学構造式を示す図である。
【図9】PEGの付加位置の異なるコンジュゲートを抗原とするポリクローナル抗体のEIAによる力価測定結果を示すグラフである。
【図10】異なる架橋剤を用いて作製したコンジュゲートを抗原とするポリクローナル抗体のEIAによる力価測定結果を示すグラフである。
【図11】実施例1、比較例1および比較例2における免疫時に使用した抗原の構造模式図である。
【図12】NHS-dPEG12Biotinの化学構造式を示す図である。
【図13】EIAによるAPPspのN末端の共有結合反応条件の検討結果を示すグラフである。
【図14】抗APPsp抗体を用いたPEG化処理APPspのドットブロット法による検出結果である。
【図15】抗APPsp抗体を用いたPEG化処理ウシ胎児血清のドットブロット法による検出結果である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、コンジュゲートの作製方法や抗体の製造方法)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば免疫方法やペプチドの合成に関するような一般的事項)は、医学、薬学、有機化学、生化学、遺伝子工学、タンパク質工学、分子生物学、衛生学等の分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0020】
ここに開示される抗体の製造方法は、上述のとおり、疎水性ペプチドに対する抗体の製造方法である。典型的には、上記疎水性ペプチドは、疎水性のアミノ酸残基数が全アミノ酸残基数の少なくとも30%以上である、全残基数が50残基以下のアミノ酸残基から構成されるペプチドである。かかる方法は、疎水性ペプチドのN末端側に親水性ポリマーが付加され、且つ該疎水性ペプチドのC末端側に少なくとも一つのCys残基が付加され、さらに、上記Cys残基にキャリアタンパク質が連結されたコンジュゲートを抗原として、該抗原で免疫した哺乳動物から抗体を取得することを特徴とする。
すなわち、本発明によれば、上記疎水性ペプチドとして、全アミノ酸残基数が50以下(例えば10〜50個)の比較的短い鎖長であるものが好ましく採用され、全アミノ酸残基数が30以下(例えば10〜20個)で構成されるものも好適に使用することができる。また、ここで使用される疎水性ペプチドは、全アミノ酸残基数のうちの少なくとも30%以上のアミノ酸が疎水性アミノ酸残基であり得る。具体的には、Val、Leu、Ile、Phe、Trp、Pro、Gly、AlaおよびMetよりなる群から選択される疎水性アミノ酸残基数が占める割合が、全アミノ酸残基数の30%以上であり、この割合が50%以上であってもよく、さらにはこの割合が80%以上の疎水性ペプチドを使用することができる。
【0021】
また、かかる疎水性ペプチドの配列としては、上記疎水性アミノ酸残基数の占める割合が保持される限りにおいて特に限定するものではないが、例えば、タンパク質合成時にタンパク質前駆体のN末端に付加された状態で合成されるシグナルペプチドそれ単独あるいは該シグナルペプチドを構成するアミノ酸配列を含むように構成することができる。
シグナルペプチドは、生体内でタンパク質が目的の区画(小胞体、ミトコンドリアなど)へ移行し、シグナルペプチダーゼにより切断された後、様々な生理的な役割を担うことが知られている。したがって、シグナルペプチドの解析によって、生体内の生理的現象の解明や、免疫疾病の診断および治療薬の開発につながることが期待されている。しかしながら、多数のシグナルペプチドは疎水性アミノ酸残基を含む鎖長の短いポリペプチドであるため、哺乳動物の生体内から効率的に検出または単離することが困難であった。そこで、既知のいずれかのシグナルペプチドを構成するアミノ酸配列を含む疎水性ペプチド(すなわち、該シグナルペプチドそのものの他、該シグナルペプチドを配列中のいずれかに人為的に組み込んで設計されたペプチドを含む)を使用することによって、ここに開示される抗体の製造方法により得られる疎水性ペプチドに対する抗体は様々な利用(該抗体に認識される疎水性ペプチドの検出方法等)が期待される。
本実施形態に係る疎水性ペプチドの一例として、いくつかの配列を表1に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
例えば、表1に示すように、本実施形態に係る疎水性ペプチドの好適な一例であるアミロイド前駆体タンパク質シグナルペプチド(APPsp)は、全アミノ酸残基数17のうち、15アミノ酸残基が疎水性のアミノ酸残基によって構成されている。該APPspは、アルツハイマー病患者の大脳の老人班に沈着するβ−アミロイドタンパク質(Aβ)の前駆体であるアミロイド前駆体タンパク質(APP)のシグナルペプチドの配列であり、該Aβが沈着することによって神経細胞が変性し、アルツハイマー病(認知症)の発症をもたらすと考えられている。詳しくは、上記Aβはアミロイド前駆体タンパク質(APP)が、βセクレターゼにより細胞外ドメインの部分でN末端部分が切断され、次に、γセクレターゼにより細胞膜内でC末端部分が切断されることで2種類のAβ(Aβ40、Aβ42)が産生される。アルツハイマー病の早期はAβ42の蓄積がみられ、以降進行するにつれAβ40の蓄積が顕著になることが知られているが、ここで開示される方法に従って得られる、上記表1に示すアミロイド前駆体タンパク質シグナルペプチド(APPsp)に対する抗体は、アルツハイマー病の発症のさらなる解明や、診断および治療薬の研究に利用し得る。
また、本実施形態に係る疎水性ペプチドは、表1に示すように、HD5SP1のようなディフェンシンのシグナルペプチドを構成するアミノ酸配列を含むものでもよい。ただし、表1に例示した疎水性ペプチドのみに限定するものではない。
【0024】
さらに、上記疎水性ペプチドは、天然供給源より単離されたものでも、あるいは原核生物宿主または真核生物宿主(例えば、細菌、酵母、高等植物、哺乳動物)から組換え技術によって産生されたものでもよいが、好ましくは、所定の配列を含むように化学合成されたペプチドを使用することができる。例えば、従来公知のFmoc(9-fluorenylmethoxycarbonyl)またはtBOC(t-butyloxycarbonyl)を用いて、固相または液相で合成される。
なお、上記疎水性ペプチドを構成するアミノ酸残基のいくつかが、該疎水性ペプチドの構造または機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該分野において周知である。さらに人為的に改変させるだけではなく、天然のペプチドにおいて、当該ペプチドの構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。よって当業者は、周知技術を使用して疎水性ペプチドのアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸を容易に変異させることができる。また、当業者は当該疎水性ペプチドが所望の活性を有しているか否かを容易に確認し得る。
【0025】
また、上記疎水性ペプチドのN末端側に付加する親水性ポリマーとしては、種々のポリエチレングリコール誘導体を用いることができる。好ましくは、分子量が1000以下のポリエチレングルコール(PEG)である。疎水性ペプチドは水溶液中で凝集するため、そのままの状態ではキャリアタンパク質を連結したコンジュゲートを作製するのは困難である。しかしながら、無毒性で非抗原性の生体適合性に優れる親水性ポリマーのPEGを疎水性ペプチドに付加することによって、該疎水性ペプチドの水に対する溶解性が向上し、沈澱や凝集を抑制することができる。
さらに、上記PEGの特徴としては、分子量が1000以下のものが好ましい。また、下記の一般式(1)で示されるPEGであるが、ここで好ましく用いられるPEGは、式(1)中、nは5〜20の整数であり、このうち5〜15が好ましく、10〜13がより好ましく、例えばnが12で示されるPEGを親水性ポリマーとして用いることができる。
HO−(CH2−CH2−O)n−H (1)
【0026】
本実施形態で用いられる上記疎水性ペプチドは、比較的鎖長が短いためそのままでは抗原として認識され難いため、キャリアタンパク質と連結させてコンジュゲートを形成する。かかるキャリアタンパク質の種類としては、特に限定するものではなく、例えば、抗原性刺激のあるKLH(Keyhole limpet hemocyanin)またはOVA(ovalbumin)あるいはBSA(Bovine Serum Albumin)等をいずれも好適に用いることができる。
【0027】
また、上記疎水性ペプチドとキャリアタンパク質とを連結させるための架橋剤としては、ペプチドの架橋に通常用いられているホモ二官能性基またはヘテロ二官能性基を有するものを使用し得る。上記架橋剤の好ましい反応性官能基としては、各種アミン含有化合物(例えば第1級アミン)、チオまたは他の硫黄含有基、カルボキシルおよびヒドロキシルが挙げられる。また、一般的なアミン含有化合物としては、N-ヒドロキシスクシンイミド活性化エステル(NHSエステル)、マレイミド、アジドおよびヨードアセトアミドが挙げられる。上記NHSエステルは、アミンと中性以上のpHで効率良く反応し、非常に安定なアミド結合を形成することができる。また、上記マレイミドは、反応がSH基選択的で、中性ではアミンに比べSH基との反応性に優れる。
【0028】
ホモ二官能性基を有する好適な架橋剤としては、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、ジスクシンイミジルスベレート(DSS)、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS3)、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)(DSP)、ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)(DTSSP)、エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート)(EGS)、エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルスクシネート)(スルホ−EGS)、ジスクシンイミジル酒石酸塩(DST)、ジスルホスクシンイミジル酒石酸塩(スルホ−DST)等が挙げられる。特に、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS3)を好ましく使用し得る。
【0029】
また、ヘテロ二官能性基を有する好適な架橋剤としては、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS)、スクシンイミジル4−[マレイミドフェニル]ブチレート(SMPB)、スクシンイミジル4−(マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(SMCC)、N−(γ−マレイミドブチロキシ)スクシンイミドエステル(GMBS)、m−マレイミドプロピオニックアシド−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(MPS)及びN−スクシンイミジル(4−ヨードアセチル)アミノベンゾエート(SIAB)等を好ましく用いることができる。特に、反応性官能基にNHSエステルおよびマレイミドを備える、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS)が好ましく用いられ得る。
【0030】
次に、ここで開示される上記疎水性ペプチドに対する抗体の製造方法について説明する。
かかる製造方法は、まず、抗原となるべくコンジュゲートを作製する。そこで、疎水性ペプチド(典型的には疎水性のアミノ酸残基数が全アミノ酸残基数の少なくとも30%以上である、全残基数が50残基以下のアミノ酸残基から構成される。)を用意(化学合成)する。Fmoc(9−fluorenylmethoxycarbonyl)固相合成法を用いて、上記疎水性ペプチドのN末端側に親水性ポリマー(例えば分子量が1000以下のポリエチレングルコール)を有し、C末端側に少なくとも一つのCys残基を有する構造を備えるペプチドを化学合成することができる。あるいは、Fmocを用いて、疎水性ペプチドのC末端側に少なくとも一つのCys残基を有するペプチドを固相合成した後、後述する方法によって、該ペプチドのN末端側に親水性ポリマーを付加してもよい。
疎水性ペプチドは、水溶液中では凝集または沈殿し易いため、そのままではキャリアタンパク質を連結したコンジュゲートを作製するのは困難であるが、このように、上記疎水性ペプチドにPEGを付加し水に対する溶解性を向上させることによって、後述するコンジュゲートを効率良く作製することができる。
また、上記疎水性ペプチドのC末端側にCys残基を付加したものを用意(化学合成)することにより、後述するキャリアタンパク質の連結(コンジュゲーション)において、SH基選択的な架橋剤を用いた反応が可能となる。
【0031】
ここで、上記疎水性ペプチドのN末端側に親水性ポリマー(例えば分子量が1000以下のポリエチレングルコール)を付加するときの反応条件について説明する。上記疎水性ペプチドのC末端側に少なくとも一つのCys残基を有するペプチドを合成した後、該ペプチドを反応性官能基としてNHSエステルを有するポリエチレングリコールと共に尿素および界面活性剤を少なくとも含む反応溶液中で一定時間加熱することによりPEG化することができる。上記界面活性剤としては、疎水性ペプチドに対するPEG化が可能な限りにおいて特に種類を制限するものではないが、例えば、Triton(登録商標)X-100、Tween(登録商標)20およびNonidet(登録商標)P-40等の中性界面活性剤を好ましく用いることができる。また、上記尿素の濃度は7〜9M程度が好ましく、界面活性剤の濃度としては、0.5〜1.5%程度が好ましい。
また、このときの加熱条件としては、約80℃以上100℃以下の温度が好ましく、例えば、凡そ95℃の温度で1時間程度インキュベートすることにより疎水性ペプチドのN末端にPEGを好適に付加し得る。
【0032】
このようにして、上記疎水性ペプチドのN末端側にPEGが、C末端側にCys残基がそれぞれ付加されたペプチドを用意(化学合成)した後、次いで、上述のホモ二官能性基またはヘテロ二官能性基を有する架橋剤(例えばBS3やMBS等)を用いて、該Cys残基に適当なキャリアタンパク質を連結(共有結合)させたコンジュゲートを作製する。PEGを付加することによって溶解性が向上した疎水性ペプチドは、中性領域の水系溶媒(典型的には水)に溶解するため、ここで用いる架橋剤が最も安定且つ効率良く架橋を促進し得る中性付近の反応条件を構成する。これにより、C末端に付加したCys残基にキャリアタンパク質が連結され、高効率で抗原とするコンジュゲートを作製することができる。
【0033】
次いで、上記作製したコンジュゲートを抗原として用いて免疫した哺乳動物から、上記疎水性ペプチドに対する抗体を取得する。
免疫する哺乳動物は、モルモット、ラット、マウス、ウサギ、ヒツジ等の実験動物が用いられるが、モノクローナル抗体あるいはポリクローナル抗体を得るためには、ラット、マウス、ウサギが好適である。免疫方法は、例えば、皮下、腹腔内、静脈内、筋肉内、皮内等のいずれの投与経路を用いてもよいが、主として、皮下、腹腔内、静脈内に注入するのが好ましい。また、免疫間隔、免疫量等も特に制限なく種々の方法を用いることが可能であるが、例えば、2週間隔で約2〜10回免疫し、最終免疫後、約1〜5回、好ましくは約2〜7日後に生体内から検体を採取する方法がよく用いられる。また、免疫量は1回に投与するペプチド量を限定するものではいが、例えば、マウス当り10〜200μg程度を用いることが好ましい。初回は上記コンジュゲートをアジュバント(例えば、フロイントの完全アジュバント)とよく混合してマウスの腹腔内に投与し、細胞を増殖させ、2週間隔で再び該コンジュゲートをアジュバント(例えば、フロイントの不完全アジュバント)をよく混合して腹腔内に投与し、腹水を採取することにより、高力価の疎水性ペプチドに対するモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を効率良く取得することができる。なお、目的のモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体の精製は、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過法、硫安塩析法等の公知の方法により行うことができる。
【0034】
次に、ここで開示される上記疎水性ペプチドに対する抗体の製造方法により得られた抗体を用いた抗原抗体反応に基づいて、検体中から所定の疎水性ペプチドを検出する、検出方法について説明する。なお、上記疎水性ペプチドは、疎水性のアミノ酸残基数が全アミノ酸残基数の少なくとも30%以上である、全残基数が50残基以下のアミノ酸残基から構成されるペプチドである。
上記検体としては、いかなる態様のものでもよく、例えば、血液、血清、血漿、リンパ液、尿、髄液、唾液、汗、腹水、羊水、細胞および臓器の抽出液等から調整した生体試料を使用することができる。なお、上記生体試料は、必要に応じて適切に処理することができる。例えば、細胞の分離、抽出操作などした試料については、免疫組織染色法、酵素免疫測定法、凝集法、競合法、サンドイッチ法など既知の方法を適用することができる。免疫組織染色法は、例えば標識化抗体を用いる直接法、該抗体に対する抗体の標識化されたものを用いる間接法などにより行い得る。標識化剤としては蛍光物質、放射性物質、酵素、金属、色素など公知の標識物質はいずれも使用できる。
【0035】
上記検体から上記疎水性ペプチドに対する抗体の製造方法により得られた抗体を用いて、標的とする疎水性ペプチドを検出するため、まず、上記検体を、親水性ポリマー(PEG)、尿素および界面活性剤を少なくとも含む反応溶液中で一定時間加熱し、検体中に含む疎水性ペプチドをPEG化する。ここで、上記親水性ポリマーとしては、分子量が1000以下であって、反応性官能基としてNHSエステルを有するポリエチレングリコールを好適に使用し得る。
かかるPEG化の反応条件としては、上述の抗体の製造方法で詳述した条件と同様の方法を用いて、疎水性ペプチドにPEGを好適に付加することができる。これにより、検体中に含まれるPEG化した疎水性ペプチドを上記製造方法により得られた抗体を用いて容易に検出することができる。なお、抗体の製造方法で抗原として用いたコンジュゲートは、疎水性ペプチドのC末端にCys残基が付加されているが、検体中からの疎水性ペプチドの検出においては、該検体に含む疎水性ペプチドはPEG化処理のみで、Cys残基の付加は不要である。すなわち、上記疎水性ペプチドに対する抗体の製造方法により得られた抗体は、Cys残基を有しないPEG化した疎水性ペプチドを検出することができる。
【0036】
また、上記検出方法では、上記疎水性ペプチドに対する抗体の製造方法により得られた抗体と、親水性ポリマー(例えば分子量が1000以下であって、反応性官能基としてNHSエステルを有するポリエチレングリコール)、尿素および界面活性剤とを少なくとも含有する、疎水性ペプチド検出用試薬を調製し、かかる試薬を用いて検体から疎水性ペプチドを検出することができる。すなわち、上記検体を該疎水性ペプチド検出用試薬に添加した後、一定時間加熱することによって検体中に含む疎水性ペプチドがPEG化するため、該検体中に含まれるPEG化した疎水性ペプチドの簡易な検出が実現し得る。
【0037】
以下の実施例によって、本発明の疎水性ペプチド(典型的には、疎水性のアミノ酸残基数が全アミノ酸残基数の少なくとも30%以上である50残基以下のアミノ酸残基から構成されるペプチド)に対する抗体の製造方法および該製造方法により得られる抗体の利用について詳細に説明するが、本発明を以下の実施例に限定することを意図したものではない。また、本発明の好適な実施例の一つの典型例として、アミロイド前駆体タンパク質シグナルペプチド(APPsp)のアミノ酸配列:MLPGLALLLLAAWTARA(配列番号1);を含むペプチドを疎水性ペプチドとして用いた抗体の製造方法および該抗体に認識される疎水性ペプチドの検出方法を詳細に説明するが、本発明の製造方法の対象をかかる疎水性ペプチドに限定することを意図したものではない。
【0038】
[1.疎水性ペプチドの合成]
ヒトアミロイド前駆体タンパク質(APP)のアミロイド前駆体タンパク質シグナルペプチド(APPsp)のアミノ酸配列:MLPGLALLLLAAWTARAのN末端にPEG(上記式(1)で示される一般式のうち、nが整数12)を有し、C末端にCys残基を有する疎水性ペプチド(以下、「PEG-APPsp-Cys」という)を以下の方法で化学合成した。
すなわち、上記ペプチド合成はSyro II(Multi SynTech, Germany)を用いてFmoc固相合成法(Solid Phase Peptide Synthesis method)により行った。具体的には、各アミノ酸誘導体は側鎖が保護されたものを使用し、ポリスチレン固相担体上でペプチド鎖構築を行い完全長を作製した。そして、担体から切り出して脱保護し、精製することによりPEG-APPsp-Cysを得た。なお、カラムは、Superco Discovery HS C18, particle 3μm(pore 120ÅCarbon20%)を用い、移動相として0.1%TFA(トルフルオロ酢酸)/H2Oを90〜40%に、0.1%TFA/ACN(アセトニトリル)を10〜60%を勾配させてPEG-APPsp-Cysを含む分画を回収した。図1に、上記合成したペプチドPEG-APPsp-Cysの化学構造式を示す。
【0039】
[2.疎水性ペプチドのコンジュゲートによる抗原の作製と免疫によるポリクローナル抗体の作製(実施例1)]
上記合成した疎水性ペプチドPEG-APPsp-CysをMBS法によりキャリアタンパク質KLHに連結させてコンジュゲートを作製した。該コンジュゲートを抗原として、ウサギ一羽に免疫した。表2に、かかる免疫方法を示す。
【0040】
【表2】
【0041】
上記免疫後、全採血で得られた血清を硫安沈殿により精製し、疎水性ペプチドPEG-APPsp-Cysに対するポリクローナル抗体を得た。以下、該抗体を「抗APPsp抗体」という。
【0042】
[3.Enzyme immunoassay(EIA)によるポリクローナル抗体の力価測定]
上記コンジュゲートを抗原として免疫したウサギから得られた抗APPsp抗体の力価を評価するため、EIAを行った。抗原には、コンジュゲートを作製する際に使用したPEG-APPsp-Cysを用いた(図1参照)。
【0043】
まず、2 μg/mL PEG-APPsp-Cys, 2 M 尿素溶液をMicrotiter Assembly Breakable Strip 1×8, EB(Thermo, #95029180)に100 μLずつ加え、一晩静置した。Auto MINI Washer (バイオテック)でマイクロウェルの溶液を排出し、250 μL Blocking solution(1% BSA, PBS, 5% sucrose, 0.1% NaN3)を加えた。なお、PBSは、137 mM NaCl, 2.68 mM KCl, 5.3 mM Na2HPO4, 1.76 mM KH2PO4, pH 7.4になるように調製したものを用いた。室温で2時間インキュベートした後、Auto MINI WasherでBlocking solutionを除いた。ここにPBST(0.1% Tween20, PBS)で500, 1000, 2000, 4000, 8000, 16000, 32000, 64000倍に希釈した抗APPsp抗体を含む血清または免疫前に予備採血した血清を100 μLずつ加えた。さらに、室温で1時間インキュベートした後、Auto MINI Washerを用いてPBSTで6回洗浄した。0.1% BSA, PBS溶液で2000倍希釈したAnti-rabbit immunoglobulins/HRP (DakoCytomation, #P0448)を100 μL加え、室温で1時間インキュベートした。Auto MINI Washerを用いてPBSTで6回洗浄した後、100 μL オルトフェニレンジアミン溶液(0.417% オルトフェニレンジアミン, 0.009% H2O2)を加えた。室温で30分間インキュベートした後、2規定硫酸を100 μL加え、酵素反応を止めた。Labsystems Multiskan Bichromatic (Labsystems)でマイクロウェルの溶液の492 nmおよび600 nmの吸光度を測定した。吸光度(492 nm)から吸光度(600 nm)を差し引いた吸光度をプロットして作成したグラフを図2に示す。
【0044】
図2に示すグラフから明らかなように、免疫前の血清では、吸光度(492 nm)が認められなかったが、免疫して得られた上記抗APPsp抗体を含む血清では、希釈率が小さいサンプルほど吸光度(492 nm)が高く、強い吸収が確認された。これにより、PEG-APPsp-Cysを認識するポリクローナル抗体が得られたことが示された。
【0045】
[4.EIAにおけるPEG競合阻害]
上記EIAで確認した力価がPEG-APPsp-CysのAPPsp領域に対する反応結果であることを確認するため、PEG単体に対して抗APPsp抗体が結合しないことを、以下に示す手順で確認した。
【0046】
まず、Microtiter Assembly Breakable Strip 1×8, EBのマイクロウェルに2 μg/mL PEG-APPsp-Cys, 2 M 尿素溶液を100 μLずつ添加し、4℃で一晩静置した。Auto MINI Washerでマイクロウェルの溶液を排出した。250 μL Blocking solution(1% BSA, PBS, 5% sucrose, 0.1% NaN3)を加えて室温で2時間インキュベートした。次いで、Auto MINI WasherでBlocking solutionを除いた。予めPEG600(Fulka, #87333, 分子量〜600)の濃度が、0 ng, 20 ng, 200 ng, 2 μg, 20 μg, 200 μg/mLをそれぞれ含むPBST溶液(0.1% Tween20, PBS)で8000倍に希釈した抗APPsp抗体を調製し、室温で1時間撹拌させた溶液を100 μLずつマイクロウェルに加えた。そして、室温で1時間インキュベートした後、Auto MINI Washerを用いてPBSTで6回洗浄した。ここに0.1% BSA, PBS溶液で2000倍希釈したAnti-rabbit immunoglobulins/HRPを100 μL加えた。さらに、室温で1時間インキュベートし、Auto MINI Washerを用いてPBSTで6回洗浄した。100 μL オルトフェニレンジアミン溶液(0.417% オルトフェニレンジアミン, 0.009% H2O2)を加え、室温で30分間インキュベートした後、2規定硫酸を100 μL加え酵素反応をとめた。Labsystems Multiskan Bichromaticでマイクロウェルの溶液の492 nmおよび600 nmの吸光度を測定した。吸光度(492 nm)から吸光度(600 nm)を差し引いた吸光度をプロットして作成したグラフを図3に示す。
【0047】
図3に示すグラフから明らかなように、PEGを添加しても抗APPsp抗体のPEG-APPsp-Cysに対する力価は上記EIAで確認した力価(図2参照)と比較して減少しなかった。これにより、上記EIAで確認した力価は、PEG単体に結合性を有する抗体に起因するものではないことが確認された。
【0048】
[5.ドットブロット法によるポリクローナル抗体の力価測定]
上記コンジュゲートを抗原として免疫したウサギから得られた抗APPsp抗体の力価を評価するため、ドットブロット法による抗APPsp抗体の力価測定を行なった。以下、ドットブロット法の操作を示す。
【0049】
まず、APPsp(配列番号1)およびPEG-APPsp-Cys(図1参照)をメンブレンHybond-N(amersham)に吸着させた。このとき、APPspは、3 ng, 9 ng, 28 ng, 83 ng, 250 ng, 750 ng を滴下し、PEG-APPsp-Cysは、3 ng, 9 ng, 26 ng, 79 ng, 233 ng, 700 ng を滴下した。なお、APPspは、上記[1.疎水性ペプチドの合成]で示した方法と同様の化学合成で得たものを用いた。また、PEG-APPsp-Cysは、[1.疎水性ペプチドの合成]で化学合成したものを用いた。
【0050】
次いで、APPspおよびPEG-APPsp-Cysを吸着させたメンブレンをBlocking solution(1%スキムミルク, 1×TBST)に浸した。なお、1×TBSTは、50 mM Tris, 150 mM NaCl, pH7.5, 0.1% Tween 20になるように調製したものを使用した。室温で50分間振とうした後、アスピレータで溶液を除いた。Washing buffer(0.2%スキムミルク, 1×TBST)で300倍希釈した抗APPsp抗体を含む血清または免疫前血清をそれぞれ加えた。室温で50分間振とうした後、アスピレータで溶液を除いた。Washing bufferを加え、室温で5分間振とうした後、アスピレータで溶液を除く操作を計3回繰り返した。Washing Bufferで4000倍希釈したAnti-Rabbit Immunogloblins/AP(DakoCytomation, #D0487)を加え、室温で50分間振とう後、アスピレータで溶液を除いた。Washing bufferを加え、室温で5分間振とうした後、アスピレータで溶液を除く操作を計3回繰り返した。最後に、1-Step NBT/BCIP (PIERCE, #34042)を加え、4時間室温で振とうした後、純水で洗浄して酵素反応をとめた。ドットブロット法による力価の測定結果を図4に示す。図4に示す質量表示は滴下したAPPspおよびPEG-APPsp-Cysのそれぞれの質量を示す。
【0051】
図4に示されるように、免疫して得られた上記抗APPsp抗体を含む血清は、PEG-APPsp-Cysを検出することがドットブロット法により示された。一方、APPspは検出しないことが確認された。
【0052】
[6.ウェスタンブロット法によるポリクローナル抗体の力価測定]
上記コンジュゲートを抗原として免疫したウサギから取得した抗APPsp抗体の力価を評価するため、ウェスタンブロット法による抗APPsp抗体の力価測定を行なった。以下、ウェスタンブロット法の操作を示す。
【0053】
まず、700 μg/mL PEG-APPsp-Cys, 2 M 尿素, PBS溶液を含む溶液を、純水および4×Sample buffer(0.4 M DTT, 0.3 M Tris, 8% SDS, 60% glycerol, 0.0036% bromophenol blue)で希釈し、200 ng/μL PEG-APPsp-Cys, 1×Sample buffer溶液を調製した。また、700 μg/mL APPsp, 10% DMSO(dimethyl sulfoxide), 1% SDS溶液を含む溶液を、純水および上記4×Sample bufferで希釈し、200 ng/μL APPsp, 1×Sample buffer溶液を調製した。上記調製したそれぞれの溶液を3分間加熱し、Multigel II Mini 15/25 (13W) (第一化学薬品、#414916)のウェルに各々5 μL(ペプチド1 μg分)または2.5 μL(ペプチド0.5 μg分)をアプライした。電気泳動後、SemiDry Elctroblotter(sartorius)を用いて、セミドライにおいて、PVDFメンブレン(Immobilon-P, MILLIPORE, #IPVH20200)に対して転写を行なった。転写したメンブレンをBlocking solution(1%スキムミルク、1×TBST)に浸し、室温で60分間振とうした。さらに4℃で一晩静置した。アスピレータで溶液を除き、Washing buffer(0.2%スキムミルク、1×TBST)で600倍希釈した抗APPsp抗体を加えた。室温で60分間振とうした後、アスピレータで溶液を除いた。そして、Washing bufferを加え、室温で5分間振とうした後、アスピレータで溶液を除く操作を計3回繰り返した。さらに、Washing bufferで4000倍希釈したAnti-Rabbit Immunogloblins/APを加え、室温で60分間振とうした後、アスピレータで溶液を除いた。Washing bufferを加え室温で5分間振とうした後、アスピレータで溶液を除く操作を計3回繰り返した。最後に1-Step NBT/BCIPを加え、30分間室温で振とうした。純水で洗浄し、酵素反応をとめた。ウェスタンブロット法による力価の測定結果を図5に示す。
【0054】
図5に示されるように、免疫して得られた上記抗APPsp抗体を含む血清は、PEG-APPsp-Cysを検出することがウェスタンブロット法により示された。一方、APPspは検出しないことが確認された。
【0055】
[7.疎水性ペプチドのC末端にCys残基の有しない抗原に対するポリクローナル抗体の反応性]
上記コンジュゲートを抗原として免疫したウサギから得られた抗APPsp抗体のPEG-APPsp-Cysに対する力価が、PEG-APPsp-CysのC末端に位置するCys残基の有無により影響されるか否かについて検討した。
【0056】
まず、PEG-APPsp-CysのC末端のCys残基を欠く疎水性ペプチド(以下、「PEG-APPsp」という)を化学合成した。図6に、かかるPEG-APPspの化学構造式を示す。
上記PEG-APPspの合成は、Fmoc固相合成法により行なった。合成したペプチドは、ODSカラムを用いて、移動相として0.1%TFA/H2Oと0.1%TFA/ACNを用いた濃度勾配法により精製した。そして、2 μg/mL PEG-APPsp-Cys, 2 M 尿素溶液を含む溶液、および2 μg/mL PEG-APPsp, 2 M 尿素溶液を含む溶液をそれぞれ調製した。上記調製したそれぞれの溶液100 μLをMicrotiter Assembly Breakable Strip 1×8, EBに加え、一晩静置した。そして、Auto MINI Washerでマイクロウェルの溶液を排出し、250 μL Blocking solution(1% BSA, PBS, 5% sucrose, 0.1% NaN3)を加えた。室温で2時間インキュベートした後、Auto MINI WasherでBlocking solutionを除いた。ここにPBST(0.1% Tween20, PBS)で希釈した抗APPsp抗体のIgGを100 μLずつ加えた。なお、IgGはprotein Aを用いたアフィニティ精製により得たものを用いた。さらに、室温で1時間インキュベートした後、Auto MINI Washerを用いてPBSTで6回洗浄した。0.1% BSA, PBS溶液で2000倍希釈したAnti-rabbit immunoglobulins/HRPを100 μL加え、室温で1時間インキュベートした。Auto MINI Washerを用いてPBSTで6回洗浄した後、100 μL オルトフェニレンジアミン溶液(0.417% オルトフェニレンジアミン, 0.009% H2O2)を加えた。そして、室温で30分間インキュベートした後、2規定硫酸を100 μL加え反応をとめた。Labsystems Multiskan Bichromaticでマイクロウェルの溶液の492 nmおよび600 nmの吸光度を測定した。吸光度(492 nm)から吸光度(600 nm)を差し引いた吸光度をプロットして作成したグラフを図7に示す。
【0057】
図7に示すグラフから明らかなように、PEG-APPsp-CysおよびPEG-APPspに対する抗APPsp抗体の力価には相違がみられなかった。これにより、抗APPsp抗体の反応性において、PEG-APPsp-CysのC末端に位置するCys残基の有無は影響せず、検出対象の抗原にはCys残基を必要としないことが確認された。
【0058】
[8.PEGの付加位置の異なる疎水性ペプチドを用いて作製したコンジュゲートを抗原とするポリクローナル抗体の作製(比較例1)]
APPspのアミノ酸配列:MLPGLALLLLAAWTARAのN末端に付加したPEG(上記式(1)で示される一般式のうち、nが整数12)鎖端に、さらにCys残基を付加した疎水性ペプチド(以下、「Cys-PEG-APPsp」という)を抗原として用いてポリクローナル抗体を作製し、PEGの位置関係が抗体の作製にどのような影響を及ぼすか調べた。
【0059】
まず、上記PEG-APPspのN末端のPEG鎖端にシステインを付加した配列を有するペプチドCys-PEG-APPspを化学合成した。合成したCys-PEG-APPspの化学構造式を図8に示す。
【0060】
上記合成したCys-PEG-APPspのコンジュゲートによる抗原の作製と免疫を行った。
まず、上記Cys-PEG-APPspをMBS(m-Maleimidobenzoyl-N-hydroxysuccinimide Ester)法によりキャリアタンパク質KLHに連結させてコンジュゲートを作製した。すなわち、2.86 mg/mL Cys-PEG-APPsp, 14.3% DMSO, 5% TritonX-100, 2.86 mg/mL maleimide activated mcKLH(PIERCE, #77606)となるように調製した溶液を用意し、該溶液を22℃で21時間インキュベートさせた。なお、maleimide activated mcKLHはEDTA(エチレンジアミン四酢酸)を含む状態で凍結乾燥されたものを使用したので、上記調製した溶液中にはEDTAが存在するが、EDTAは凝集作用があるので免疫する溶液中には含まれないことが望ましいため、EDTAを除去する操作を行った。かかるEDTAの除去は、50 kDa以下の分子を透過する膜を有するAmicon Ultra-4 50K NMWL (Millipore, #UFC910024)を用いてEDTAを含む溶媒をPBSに置換して行った。こうして作製したコンジュゲートを抗原として、表3に示す免疫方法でウサギ一羽およびマウス五匹に免疫し、全採血により血清を得た。
【0061】
【表3】
【0062】
上記作製したコンジュゲートを抗原として、免疫したウサギおよびマウスから取得したポリクローナル抗体(血清)の力価を評価するため、EIAを行った。
まず、2 μg/mL PEG-APPsp, 2 M 尿素溶液をMicrotiter Assembly Breakable Strip 1×8, EBに100 μLずつ加え、一晩静置した。Auto MINI Washerでマイクロウェルの溶液を排出し、250 μL Blocking solution(1% BSA, PBS, 5% sucrose, 0.1% NaN3)を加えた。室温で2時間インキュベートした後、Auto MINI WasherでBlocking solutionを除いた。ここにPBST(0.1% Tween20, PBS)で500, 8000, 64000倍に希釈した上記血清を100 μLずつ加えた。室温で1時間インキュベートした後、Auto MINI Washerを用いてPBSTで6回洗浄した。0.1% BSA, PBS溶液で2000倍希釈したAnti-rabbit immunoglobulins/HRPまたは4000倍希釈したHRP labeled Anti-mouse IgG (H+L chain) (MBL, #330)をそれぞれ100 μL加え、室温で1時間インキュベートした。さらに、Auto MINI Washerを用いてPBSTで6回洗浄した後、100 μL オルトフェニレンジアミン溶液(0.417% オルトフェニレンジアミン, 0.009% H2O2)を加えた。室温で30分間インキュベートした後、2規定硫酸を100 μL加え反応をとめた。Labsystems Multiskan Bichromaticでマイクロウェルの溶液の492 nmおよび600 nmの吸光度を測定した。吸光度(492 nm)から吸光度(600 nm)を差し引いた吸光度をプロットして作成したグラフを図9に示す。
【0063】
図9に示すグラフから明らかなように、得られた血清中にPEG-APPspに対して強く反応を示すポリクローナル抗体は存在しないことが示された。マウスAの血清は微弱に反応性を示したが、その力価は図2に示す抗APPsp抗体の力価に比べて極めて弱い。したがって、PEG-APPspのN末端のPEG鎖端に、Cys残基を付加した配列を有するCys-PEG-APPspをコンジュゲートに含む抗原を用いて得られた抗体には、PEG-APPspに対する抗体が得られないことが示された。
【0064】
[9.異なる架橋剤を用いて作製したコンジュゲートを抗原とするポリクローナル抗体の作製(比較例2)]
上述の[8.PEGの付加位置の異なる疎水性ペプチドを用いて作製したコンジュゲートを抗原とするポリクローナル抗体の作製(比較例1)]で用いた架橋剤の種類をMBSからBS3に変えて作製したコンジュゲートを抗原として用いて、ポリクローナル抗体を作製した。
すなわち、上記合成したPEG-APPspを架橋剤Bis[Sulfosuccinimidyl]suberate(BS3)によりキャリアタンパク質KLHに連結させてコンジュゲートを作製するため、2.5 mg/mL PEG-APPsp, 12.5% DMSO, 1% TritonX-100, 2.5 mg/mL KLH(Wako, #080-7666), 7.8 mM BS3となるように溶液を調製し、22℃で15.5時間インキュベートした。こうして作製したコンジュゲートを抗原として、表3に示す免疫方法でウサギ一羽およびマウス五匹に免疫し、全採血により血清を得た。
【0065】
【表4】
【0066】
上記作製したコンジュゲートを抗原として、免疫したウサギおよびマウスから取得したポリクローナル抗体(血清)の力価を評価するため、上述の[8.PEGの付加位置の異なる疎水性ペプチドを用いて作製したコンジュゲートを抗原とするポリクローナル抗体の作製(比較例1)]と同様の手順でEIAを行った。吸光度をプロットして作成したグラフを図10に示す。
【0067】
図10に示すグラフから明らかなように、得られた血清中にPEG-APPspに対して強く反応を示すポリクローナル抗体は存在しないことが示された。マウスDの血清は微弱だが反応性を示していたが、その力価は図2に示す抗APPsp抗体の力価に比べて極めて弱い。したがって、架橋剤を変えて作製したコンジュゲートに含むかかる抗原の構造では、PEG-APPspに対する抗体が得られないことが示された。
【0068】
上述の[8.PEGの付加位置の異なる疎水性ペプチドを用いて作製したコンジュゲートを抗原とするポリクローナル抗体の作製(比較例1)]および[9.異なる架橋剤を用いて作製したコンジュゲートを抗原とするポリクローナル抗体の作製(比較例2)]の結果から、免疫に用いた抗原の構造によっては、抗体が得られないことが示された。図11に、免疫に使用した抗原の構造模式図を示す。
図11中のA〜Cの構造模式図は、[2.疎水性ペプチドのコンジュゲートによる抗原の作製と免疫によるポリクローナル抗体の作製(実施例1)]、[8.PEGの付加位置の異なる疎水性ペプチドを用いて作製したコンジュゲートを抗原とするポリクローナル抗体の作製(比較例1)]および[9.異なる架橋剤を用いて作製したコンジュゲートを抗原とするポリクローナル抗体の作製(比較例2)]において使用した抗原をそれぞれ示す。図11に示すように、高力価が得られたAの抗原は、N末端側からPEG、APPsp、キャリアタンパク質の順番で位置する構造を有する。一方、抗体が得られなかったBおよびCの抗原は、APPsp、PEG、キャリアタンパク質の順番で位置する構造を有する。したがって、PEGを付加したペプチドに対する力価の高い抗体を作製する場合は、Aに示す抗原の構造のように、キャリアタンパク質を中心とすると、構造式の最も端部にPEGが配置されるような抗原を用いることが必要であることが示された。
【0069】
[10.APPspのN末端の共有結合反応条件の検討]
次に、アミロイド前駆体タンパク質シグナルペプチド(APPsp)のアミノ酸配列:MLPGLALLLLAAWTARA(配列番号1)のN末端にPEGを付加する際の反応条件について、NHS-dPEG12Biotin(Quanta Biodesign, #10198)を用いて検討した。図12に、NHS-dPEG12Biotinの化学構造式を示す。
中性水溶液(PBS, 1%Nonidet P-40)下で反応を行ったところ、APPspはNHS-dPEG12Biotinと全く反応しなかったため、APPspのアミノ末端アミノ基は遊離した状態ではないことが示された。そこで、APPspのアミノ末端アミノ基を遊離させる条件を以下の手順で検討した。
【0070】
まず、1% NP-40溶液を用いて、2% SDS、8M 尿素、6M グアニジンHCl、1M アルギニン、および50% DMSOの各試薬を調製し、さらに各溶液の2倍希釈液を7段階調製した。
そして、上記調製した溶液に、DMSOに溶解した1mg/mL APPspを1/100容添加し、APPsp終濃度を10μg/mLとした。これらの溶液を各2本ずつ調製し、1セットをReacti-Bind Maleic Anhydride Plate(PIERCE #15100)ウェル当たり各100μL添加し、37℃で1時間保温した。別のセットは96℃で3分加熱後に、同様に処理した。処理後、ウェル内の溶液を除き、ウェルをPBSTで2回洗浄した。ウェルに250μLのStarting Block Blocking Buffer (PIERCE, #37538) を添加し、室温で10分間置きブロッキングを行った。ウェル内の溶液を除き、1%BSA, PBSTで1000倍希釈した抗APPsp抗体のIgGを添加し、室温で1時間静置した後、さらにウェルをPBSTで6回洗浄した。1% BSA, PBST溶液で4000倍希釈したAnti-rabbit immunoglobulins/HRPを100 μL加え、室温で1時間インキュベートした。PBSTで6回洗浄した後、100 μL オルトフェニレンジアミン溶液(0.417% オルトフェニレンジアミン, 0.009% H2O2)を加えた。室温で30分間インキュベートした後、2規定硫酸を100 μL加え反応をとめた。Labsystems Multiskan Bichromaticでマイクロウェルの溶液の492 nm, 600 nmの吸光度を測定した。吸光度(492 nm)から吸光度(600 nm)の値を差し引いた吸光度をプロットして作成したグラフを図13に示す。
【0071】
図13に示すように、8M尿素, 1%NP-40で加熱処理した場合のみ、強い吸光度(492 nm)が認められた。したがって、かかる条件によると、APPspのアミノ末端アミノ基は遊離し、N-Hydroxysuccinimide Ester(NHS ester)との反応が可能であることが判明した。なお、図13には図示しないが、1% NP-40の代替として1%Tween20を用いることができることを確認した。1% NP-40は加熱により白濁したが、1%Tween20は加熱によっても白濁せず、尚且つ反応した。これにより、APPspのアミノ末端アミノ基を遊離させる好ましい条件としては、尿素および界面活性剤を少なくとも含む反応溶液を用いて一定時間加熱することであることが示された。
【0072】
[11.ポリクローナル抗体によるPEG化した疎水性ペプチドの検出]
上述の[10.APPspのN末端の共有結合反応条件の検討]で確認した反応条件を用いてPEG化したAPPspに対して、抗APPsp抗体による検出を試みた。
【0073】
まず、APPspのN末端側にPEGを付加した。すなわち、2.5 mg/mL APPsp, 5 mM NHS-dPEG12Biotin, 8.1 M 尿素, 10% DMSO, 1% Tween20となるように反応溶液を調製した。上記調製した溶液を、95℃で1時間インキュベートし、APPspのPEG化処理を行った。
【0074】
次いで、上記PEG化したAPPsp(以下、「PEG化処理APPsp」という)が抗APPsp抗体で検出できるか否かをドットブロット法により確認した。すなわち、メンブレンへのAPPspの吸着量が2.5, 0.5または0.1 μgとなるようにPEG化処理APPspをHybond-ECL (GE Healthcare, #RPN1010D)に吸着させた。また、コントロールとして、PEG化未処理のAPPspも同様に吸着させた。メンブレンをBlocking solution(1%スキムミルク、1×TBST)が入ったシャーレに浸し、室温で60分間振とうした。アスピレータで溶液を除いた後、Washing buffer(0.2%スキムミルク, 1×TBST)で500倍希釈した抗APPsp抗体を添加した。室温で60分間振とうした後、アスピレータで溶液を除いた。ここにWashing buffer加え、室温で5分間振とうした後、アスピレータで溶液を除く操作を計3回繰り返した。さらに、Washing bufferで4000倍希釈したAnti-Rabbit Immunogloblins/AP加え、室温で60分間振とうした後、アスピレータで溶液を除いた。Washing bufferを加え、室温で5分間振とうした後、アスピレータで溶液を除く操作を計3回繰り返した。最後に1-Step NBT/BCIPを加え、30分間、室温で振とうした。純水で洗浄し、酵素反応をとめた。ドットブロット法による測定結果を図14に示す。
【0075】
図14に示されるように、抗APPsp抗体は、APPspに対して2.5μgを検出できるにとどまるが(APPsp only)、APPspをPEG化処理することにより0.1μgまで検出可能になることが示された(PEG化処理APPsp)。
【0076】
[12.生体試料を用いたポリクローナル抗体による疎水性ペプチドの検出]
標的とする疎水性ペプチドを含む生体試料のサンプル溶液をPEG化処理し、さらに上記作製したポリクローナル抗体を使用することによって、標的とする疎水性ペプチドを検出することが可能であるか検証した。以下、ウシ胎児血清に添加した疎水性ペプチドAPPspをPEG化処理し、抗APPsp抗体によって該PEG化処理APPspを検出できるか検討した。
【0077】
まず、ウシ胎児血清中のAPPspをPEG化処理するため、以下に示す5種類のサンプルを調製し、95℃で2時間インキュベートすることにより、PEG化処理ウシ胎児血清を得た。
なお、サンプル1および3を除く、サンプル2,4,5にはPEG(NHS-dPEG12Biotin)を添加した。また、サンプル1および2を除く、サンプル3〜5には疎水性ペプチドAPPspを含む溶液を調製した。それぞれのサンプルの組成は以下のとおりである。
サンプル1: 8 M 尿素, 30% DMSO, 1% Tween20, 25% ウシ胎児血清(Gibco, #10099-141), 0.4×PBSを含む溶液
サンプル2: 5 mM NHS-dPEG12Biotin, 8 M 尿素, 30% DMSO, 1% Tween20, 25% ウシ胎児血清, 0.4×PBSを含む溶液
サンプル3: 2.5 mg/mL APPsp, 8 M 尿素, 30% DMSO, 1% Tween20, 25% ウシ胎児血清, 0.4×PBSを含む溶液
サンプル4: 1 mg/mL APPsp, 5 mM NHS-dPEG12Biotin, 8 M 尿素, 30% DMSO, 1% Tween20, 25% ウシ胎児血清, 1% Tween20, 0.4×PBSを含む溶液
サンプル5: 2.5 mg/mL APPsp, 5 mM NHS-dPEG12Biotin, 8 M 尿素, 30% DMSO, 1% Tween20, 25% ウシ胎児血清, 0.4×PBSを含む溶液
【0078】
次いで、上記5つのウシ胎児血清中のPEG化処理APPspを、抗APPsp抗体を用いて検出できるか否かをドットブロット法により確認した。すなわち、上記5つのPEG化処理ウシ胎児血清サンプルをメンブレンHybond-ECLに1 μLずつ滴下した。メンブレンをBlocking solution(3%スキムミルク、1×TBST)が入った容器に浸し、室温で60分間振とうした。アスピレータで溶液を除いた後、Washing buffer(0.2%スキムミルク, 1×TBST)で5000倍希釈した抗APPsp抗体を添加した。室温で60分間振とうした後、アスピレータで溶液を除いた。ここにWashing buffer加え、室温で5分間振とうした後、アスピレータで溶液を除く操作を計3回繰り返した。Washing bufferで4000倍希釈したAnti-Rabbit Immunogloblins/APを加え、室温で60分間振とうした後、アスピレータで溶液を除いた。さらに、Washing bufferを加え、室温で5分間振とうした後、アスピレータで溶液を除く操作を計3回繰り返した。最後に1-Step NBT/BCIPを加え、30分間、室温で振とうした。純水で洗浄し、酵素反応をとめた。ドットブロット法による測定結果を図15に示す。
【0079】
図15に示されるように、サンプル4および5のみ、メンブレンにおいて強い発色が確認された。これにより、ウシ胎児血清中に含む疎水性ペプチドAPPspをPEG化することにより、抗APPsp抗体によって検体中のAPPspを検出することができることが示された。
【0080】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、本実施例では、APPspのアミノ酸配列を含むペプチドを疎水性ペプチドとして用いたが、他の既知のシグナルペプチド等の疎水性ペプチドを含む配列、あるいはそれらの改変配列を採用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明に係る疎水性ペプチドに対する抗体の製造方法によると、シグナルペプチドをはじめとする疎水性ペプチドに対する抗体を効率的に製造することができる。また、かかる抗体を用いて生体試料の検体中より簡易に該疎水性ペプチドを検出することが可能となり、生体内の生理的現象の解明や、免疫疾病の診断および治療薬の開発に利用することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0082】
配列番号1〜配列番号6 合成ペプチド
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性ペプチドに対する抗体の製造方法と該製造方法により得られる抗体の利用に関する。詳しくは、該抗体に認識される疎水性ペプチドの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAやポリペプチド、あるいはタンパク質を抗原として用いて哺乳動物を免疫し、その動物の血液中より該抗原に対する抗体を分離・精製する方法が広く知られている。中でも比較的分子量の小さいペプチドはタンパク質に比べて免疫原性が低いのでそのまま抗原として用いることが困難であるが、キャリアとなるべく分子量の大きいタンパク質(キャリアタンパク質)と連結させてコンジュゲートを作製し、該コンジュゲートを抗原として用いることにより分子量の小さいペプチドでも抗体を製造することができる。
例えば、非特許文献1では、適当な架橋剤を用いて高分子量のキャリアタンパク質と低分子量のポリペプチドとを連結したコンジュゲートを用いて抗体を製造している。また、キャリアタンパク質に連結されるポリペプチドは、親水性のアミノ酸残基を備えるものの方がより効率よくキャリアタンパク質と連結することができることが報告されている。
【0003】
ところで、生体内においてリボソームで合成されたタンパク質を膜透過させる機能を有するペプチドとして、シグナルペプチドが知られている。シグナルペプチドの多くは、タンパク質合成時に10〜30残基長のアミノ酸としてタンパク質前駆体のN末端に付加された状態で合成される。そして、タンパク質が目的の区画(小胞体、ミトコンドリアなど)へ移行するとシグナルペプチダーゼによりシグナルペプチドが切断され、タンパク質部分だけが膜を透過し、成熟したタンパク質となる。そのため、従来、シグナルペプチドはタンパク質の移行するべき区画へ誘導する働きしかないと考えられていた。しかしながら、近年、非特許文献2などにより、シグナルペプチダーゼによる切断を受けた後も、シグナルペプチドには別の生理的な役割を担うことが複数報告されている。
【0004】
例えば、非特許文献3では、カルレティキュリン(calreticulin)のシグナルペプチドの一部は、主要組織適合複合体(MHC)により細胞表面に提示されることが明らかにされている。このことから、シグナルペプチドは、細胞内のタンパク質の発現量または正常なシグナルペプチドの産生割合をモニタリングするための機構の一部である可能性が考えられている。
さらに、非特許文献4では、カルシトニン(calcitonin)のシグナルペプチドの一部がMHCにより非小細胞性肺がん細胞の表面に提示され、当該ペプチドをエピトープとして細胞傷害性T細胞が認識することが明らかとなっており、シグナルペプチドの解析によって、がんワクチンをはじめとする様々な免疫疾病治療薬の開発につながることが期待されている。そのため、生体内の生理的現象の解明や、免疫疾病の診断および治療方法の研究において、かかるシグナルペプチドを抗原として用いて製造される抗体の有用性が近年高まっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】エド・ハーロウ(Ed Harlow, et al.):アンチボディイズ(Antibodies),コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー(Cold Spring Harbor laboratory),1988年
【非特許文献2】ブルーノ・マートグリオ(Bruno Martoglia, et al.):トレンズ・イン・セル・バイオロジー(Trends in Cell Biology),8巻,1998年,pp.410−415
【非特許文献3】ロバート・A・ヘンダーソン(Robert A henderson, et al.): Science,255巻,1992年,pp.1264−1266
【非特許文献4】ファルテン・エル・ヘイジ(Faten El Hage, et al.):Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,29巻,105号,2008年,pp.10119−10124
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、シグナルペプチドは、疎水性の側鎖を持つアミノ酸残基から成るため疎水性の高いペプチドであることが多い。これらの疎水性ペプチドは溶液中で凝集または沈澱するためキャリアタンパク質と連結されたコンジュゲートを作製し難く、そのため疎水性ペプチドに対する抗体を効率良く製造する方法が未だ確立されていない。また、生体内から目的とする疎水性ペプチドのみを効率的に検出または単離することが困難であった。
【0007】
そこで本発明は、上記シグナルペプチドをはじめとする疎水性ペプチドにキャリアタンパク質を連結させたコンジュゲートを抗原とする疎水性ペプチドに対する抗体を効率的に製造する方法の提供を目的とする。また、かかる抗体を用いて検体中より簡易に該疎水性ペプチドを検出する方法の提供を他の一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現するべく本発明によって疎水性ペプチドに対する抗体の製造方法が提供される。かかる製造方法は、疎水性ペプチドに対する抗体を製造する方法である。典型的には、かかる疎水性ペプチドは、疎水性のアミノ酸残基数が全アミノ酸残基数の少なくとも30%以上である、全残基数が50残基以下のアミノ酸残基から構成される。
ここで開示される上記疎水性ペプチドに対する抗体の製造方法は、上記疎水性ペプチドのN末端側に親水性ポリマーが付加され、且つ該疎水性ペプチドのC末端側に少なくとも一つのCys残基が付加され、さらに、上記Cys残基にキャリアタンパク質が連結されたコンジュゲートを抗原として、該抗原で免疫した哺乳動物から抗体を取得することを特徴とする。
【0009】
なお、本明細書において「アミノ酸残基」とは、特に言及する場合を除いて、ペプチド鎖のN末端アミノ酸及びC末端アミノ酸を包含する用語である。なお、本明細書においては、アミノ酸をIUPAC−IUBガイドラインで示されたアミノ酸に関する命名法に準拠した1文字表記または3文字表記で表す。
また、本明細書において「疎水性のアミノ酸残基」とは、Val、Leu、Ile、Phe、Trp、Pro、Gly、AlaおよびMetをいう。また、かかる疎水性のアミノ酸残基の数が全アミノ酸残基数の少なくとも30%以上であるペプチドを、以下、本明細書では「疎水性ペプチド」と略称する。
また、本明細書において「ペプチド」とは、複数のペプチド結合を有するアミノ酸ポリマーを指す用語であり、ペプチド鎖に含まれるアミノ酸残基の数によって限定されない。従ってアミノ酸残基数が10程度までのオリゴペプチドあるいはそれ以上のアミノ酸残基から成るポリペプチドも本明細書における「ペプチド」に包含される。
また、本明細書において「コンジュゲート」とは、上記疎水性ペプチドにキャリアタンパク質およびその他の担体(親水性ポリマー、Cys残基)が共有結合で連結された生成物をいう。
【0010】
上記疎水性ペプチドは溶液中で凝集または沈澱するため、キャリアタンパク質と連結したコンジュゲートを作製し難く、従来、該疎水性ペプチドに対する抗体を製造するのは困難とされていた。しかしながら、本発明者は、上記疎水性ペプチドのN末端側に親水性ポリマーが付加され、且つ該疎水性ペプチドのC末端側に少なくとも一つのCys残基が付加され、さらに、上記Cys残基側にキャリアタンパク質が連結されたコンジュゲートを用いることによって、該コンジュゲートを抗原として免疫した哺乳動物から該疎水性ペプチドに対する抗体を取得し得ることを見出し、発明の完成に至った。
【0011】
また、本発明によって提供される疎水性ペプチドに対する抗体の製造方法の好ましい一態様では、上記親水性ポリマーとして、分子量が1000以下のポリエチレングリコールを使用する。非抗原性の生体適合性を有する親水性ポリマーであるポリエチレングリコールを疎水性ペプチドのN末端側に付加(以下、ポリエチレングリコールを付加することを、「PEG化」と略称する場合がある。)することにより、疎水性ペプチドの水に対する溶解性を向上させることができる。
【0012】
ここで開示される疎水性ペプチドに対する抗体の製造方法の好ましい一態様では、Fmoc(9−fluorenylmethoxycarbonyl)を用いて、固相合成によりPEG化する。
また他の好ましい一態様では、上記ポリエチレングリコールとして、NHSエステルを有するものを使用し、上記疎水性ペプチドおよび該NHSエステルを有するポリエチレングリコールを、尿素および界面活性剤を少なくとも含む反応溶液中で一定時間加熱することにより、該疎水性ペプチドのN末端側に該ポリエチレングルコールを付加する。尿素および界面活性剤を少なくとも含む溶液中で、上記疎水性ペプチドおよび上記NHSエステルを有するポリエチレングリコールを加熱して反応させることによって、疎水性ペプチドに対するPEG化を促進し得る。
【0013】
また、ここで開示される疎水性ペプチドに対する抗体の製造方法の好ましい一態様では、ホモ二官能性基またはヘテロ二官能性基を有する架橋剤を用いて上記Cys残基に上記キャリアタンパク質を連結することが好ましい。かかる架橋剤としては、反応性官能基にN-ヒドロキシスクシンイミド活性化エステル(NHSエステル)やマレイミド等を有するホモ二官能性基あるいはヘテロ二官能性基を好ましく使用し得る。中性水溶液での反応性に優れる上記架橋剤を用いることにより、PEG化することによって溶解性が向上した疎水性ペプチドとキャリアタンパク質とは高効率で連結させ、コンジュゲートを作製することができる。
上記架橋剤としては、具体的にビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS3)またはm−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS)を好ましく用いることができる。
【0014】
また、好ましい他の一態様では、上記疎水性ペプチドとして、既知のいずれかのシグナルペプチドを構成するアミノ酸配列を含むように化学合成された合成ペプチドを使用する。
更に好ましくは、上記疎水性ペプチドは、アミロイド前駆体タンパク質シグナルペプチド(APPsp)のアミノ酸配列:MLPGLALLLLAAWTARA(配列番号1);を含む。
【0015】
また、本発明によると、ここで開示されるいずれかの製造方法により製造された、疎水性ペプチドに対する抗体が提供される。典型的には、かかる疎水性ペプチドは、疎水性のアミノ酸残基数が全アミノ酸残基数の少なくとも30%以上である、全残基数が50残基以下のアミノ酸残基から構成される。
好ましい抗体の例示として、以下の配列:MLPGLALLLLAAWTARA(配列番号1);から構成されるアミロイド前駆体タンパク質シグナルペプチド(APPsp)に対するポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体が挙げられる。
【0016】
さらに、本発明は上記目的を実現する他の側面として、ここで開示されるいずれかの抗体(ここで開示される製造方法により製造された抗体を含む)を用いた抗原抗体反応に基づいて、検体中から所定の疎水性ペプチドを検出する方法を提供する。典型的には、かかる疎水性ペプチドは、疎水性のアミノ酸残基数が全アミノ酸残基数の少なくとも30%以上である、全残基数が50残基以下のアミノ酸残基から構成される。
また、ここで開示される検出方法の好ましい一態様では、上記検体は、親水性ポリマー、尿素および界面活性剤を少なくとも含む反応溶液中で一定時間加熱して用いられる。また、上記親水性ポリマーとして、分子量が1000以下であって、NHSエステルを有するポリエチレングリコールが好ましく使用される。
【0017】
また、本発明は他の側面として、検体中から所定の疎水性ペプチド(典型的には疎水性のアミノ酸残基数が全アミノ酸残基数の少なくとも30%以上である、全残基数が50残基以下のアミノ酸残基から構成されるペプチド)を検出するための試薬を提供する。上記試薬は、ここで開示されるいずれかの抗体(ここで開示される製造方法により製造された抗体を含む)と、親水性ポリマーおよび尿素ならびに界面活性剤とを少なくとも含有する、疎水性ペプチド検出用試薬である。また、ここで開示される試薬の好ましい一態様では、上記親水性ポリマーとして、分子量が1000以下であって、NHSエステルを有するポリエチレングリコールが使用される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ヒトアミロイド前駆体タンパク質のシグナルペプチド(APPsp)のN末端にPEGを、C末端にCys残基を付加して合成した、PEG-APPsp-Cysの化学構造式を示す図である。
【図2】PEG-APPsp-Cysを抗原として用いたEIAによる抗APPsp抗体の力価測定結果を示すグラフである。
【図3】PEG単体を含むPEG-APPsp-Cysを抗原として用いたEIAによる抗APPsp抗体の力価測定結果を示すグラフである。
【図4】ドットブロット法による抗APPsp抗体の力価測定結果である。
【図5】ウェスタンブロット法による抗APPsp抗体の力価測定結果である。
【図6】PEG-APPspの化学構造式を示す図である。
【図7】PEG-APPsp-CysおよびPEG-APPspに対する抗APPsp抗体のEIAによる力価測定結果を示すグラフである。
【図8】Cys-PEG-APPspの化学構造式を示す図である。
【図9】PEGの付加位置の異なるコンジュゲートを抗原とするポリクローナル抗体のEIAによる力価測定結果を示すグラフである。
【図10】異なる架橋剤を用いて作製したコンジュゲートを抗原とするポリクローナル抗体のEIAによる力価測定結果を示すグラフである。
【図11】実施例1、比較例1および比較例2における免疫時に使用した抗原の構造模式図である。
【図12】NHS-dPEG12Biotinの化学構造式を示す図である。
【図13】EIAによるAPPspのN末端の共有結合反応条件の検討結果を示すグラフである。
【図14】抗APPsp抗体を用いたPEG化処理APPspのドットブロット法による検出結果である。
【図15】抗APPsp抗体を用いたPEG化処理ウシ胎児血清のドットブロット法による検出結果である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、コンジュゲートの作製方法や抗体の製造方法)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば免疫方法やペプチドの合成に関するような一般的事項)は、医学、薬学、有機化学、生化学、遺伝子工学、タンパク質工学、分子生物学、衛生学等の分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0020】
ここに開示される抗体の製造方法は、上述のとおり、疎水性ペプチドに対する抗体の製造方法である。典型的には、上記疎水性ペプチドは、疎水性のアミノ酸残基数が全アミノ酸残基数の少なくとも30%以上である、全残基数が50残基以下のアミノ酸残基から構成されるペプチドである。かかる方法は、疎水性ペプチドのN末端側に親水性ポリマーが付加され、且つ該疎水性ペプチドのC末端側に少なくとも一つのCys残基が付加され、さらに、上記Cys残基にキャリアタンパク質が連結されたコンジュゲートを抗原として、該抗原で免疫した哺乳動物から抗体を取得することを特徴とする。
すなわち、本発明によれば、上記疎水性ペプチドとして、全アミノ酸残基数が50以下(例えば10〜50個)の比較的短い鎖長であるものが好ましく採用され、全アミノ酸残基数が30以下(例えば10〜20個)で構成されるものも好適に使用することができる。また、ここで使用される疎水性ペプチドは、全アミノ酸残基数のうちの少なくとも30%以上のアミノ酸が疎水性アミノ酸残基であり得る。具体的には、Val、Leu、Ile、Phe、Trp、Pro、Gly、AlaおよびMetよりなる群から選択される疎水性アミノ酸残基数が占める割合が、全アミノ酸残基数の30%以上であり、この割合が50%以上であってもよく、さらにはこの割合が80%以上の疎水性ペプチドを使用することができる。
【0021】
また、かかる疎水性ペプチドの配列としては、上記疎水性アミノ酸残基数の占める割合が保持される限りにおいて特に限定するものではないが、例えば、タンパク質合成時にタンパク質前駆体のN末端に付加された状態で合成されるシグナルペプチドそれ単独あるいは該シグナルペプチドを構成するアミノ酸配列を含むように構成することができる。
シグナルペプチドは、生体内でタンパク質が目的の区画(小胞体、ミトコンドリアなど)へ移行し、シグナルペプチダーゼにより切断された後、様々な生理的な役割を担うことが知られている。したがって、シグナルペプチドの解析によって、生体内の生理的現象の解明や、免疫疾病の診断および治療薬の開発につながることが期待されている。しかしながら、多数のシグナルペプチドは疎水性アミノ酸残基を含む鎖長の短いポリペプチドであるため、哺乳動物の生体内から効率的に検出または単離することが困難であった。そこで、既知のいずれかのシグナルペプチドを構成するアミノ酸配列を含む疎水性ペプチド(すなわち、該シグナルペプチドそのものの他、該シグナルペプチドを配列中のいずれかに人為的に組み込んで設計されたペプチドを含む)を使用することによって、ここに開示される抗体の製造方法により得られる疎水性ペプチドに対する抗体は様々な利用(該抗体に認識される疎水性ペプチドの検出方法等)が期待される。
本実施形態に係る疎水性ペプチドの一例として、いくつかの配列を表1に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
例えば、表1に示すように、本実施形態に係る疎水性ペプチドの好適な一例であるアミロイド前駆体タンパク質シグナルペプチド(APPsp)は、全アミノ酸残基数17のうち、15アミノ酸残基が疎水性のアミノ酸残基によって構成されている。該APPspは、アルツハイマー病患者の大脳の老人班に沈着するβ−アミロイドタンパク質(Aβ)の前駆体であるアミロイド前駆体タンパク質(APP)のシグナルペプチドの配列であり、該Aβが沈着することによって神経細胞が変性し、アルツハイマー病(認知症)の発症をもたらすと考えられている。詳しくは、上記Aβはアミロイド前駆体タンパク質(APP)が、βセクレターゼにより細胞外ドメインの部分でN末端部分が切断され、次に、γセクレターゼにより細胞膜内でC末端部分が切断されることで2種類のAβ(Aβ40、Aβ42)が産生される。アルツハイマー病の早期はAβ42の蓄積がみられ、以降進行するにつれAβ40の蓄積が顕著になることが知られているが、ここで開示される方法に従って得られる、上記表1に示すアミロイド前駆体タンパク質シグナルペプチド(APPsp)に対する抗体は、アルツハイマー病の発症のさらなる解明や、診断および治療薬の研究に利用し得る。
また、本実施形態に係る疎水性ペプチドは、表1に示すように、HD5SP1のようなディフェンシンのシグナルペプチドを構成するアミノ酸配列を含むものでもよい。ただし、表1に例示した疎水性ペプチドのみに限定するものではない。
【0024】
さらに、上記疎水性ペプチドは、天然供給源より単離されたものでも、あるいは原核生物宿主または真核生物宿主(例えば、細菌、酵母、高等植物、哺乳動物)から組換え技術によって産生されたものでもよいが、好ましくは、所定の配列を含むように化学合成されたペプチドを使用することができる。例えば、従来公知のFmoc(9-fluorenylmethoxycarbonyl)またはtBOC(t-butyloxycarbonyl)を用いて、固相または液相で合成される。
なお、上記疎水性ペプチドを構成するアミノ酸残基のいくつかが、該疎水性ペプチドの構造または機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該分野において周知である。さらに人為的に改変させるだけではなく、天然のペプチドにおいて、当該ペプチドの構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。よって当業者は、周知技術を使用して疎水性ペプチドのアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸を容易に変異させることができる。また、当業者は当該疎水性ペプチドが所望の活性を有しているか否かを容易に確認し得る。
【0025】
また、上記疎水性ペプチドのN末端側に付加する親水性ポリマーとしては、種々のポリエチレングリコール誘導体を用いることができる。好ましくは、分子量が1000以下のポリエチレングルコール(PEG)である。疎水性ペプチドは水溶液中で凝集するため、そのままの状態ではキャリアタンパク質を連結したコンジュゲートを作製するのは困難である。しかしながら、無毒性で非抗原性の生体適合性に優れる親水性ポリマーのPEGを疎水性ペプチドに付加することによって、該疎水性ペプチドの水に対する溶解性が向上し、沈澱や凝集を抑制することができる。
さらに、上記PEGの特徴としては、分子量が1000以下のものが好ましい。また、下記の一般式(1)で示されるPEGであるが、ここで好ましく用いられるPEGは、式(1)中、nは5〜20の整数であり、このうち5〜15が好ましく、10〜13がより好ましく、例えばnが12で示されるPEGを親水性ポリマーとして用いることができる。
HO−(CH2−CH2−O)n−H (1)
【0026】
本実施形態で用いられる上記疎水性ペプチドは、比較的鎖長が短いためそのままでは抗原として認識され難いため、キャリアタンパク質と連結させてコンジュゲートを形成する。かかるキャリアタンパク質の種類としては、特に限定するものではなく、例えば、抗原性刺激のあるKLH(Keyhole limpet hemocyanin)またはOVA(ovalbumin)あるいはBSA(Bovine Serum Albumin)等をいずれも好適に用いることができる。
【0027】
また、上記疎水性ペプチドとキャリアタンパク質とを連結させるための架橋剤としては、ペプチドの架橋に通常用いられているホモ二官能性基またはヘテロ二官能性基を有するものを使用し得る。上記架橋剤の好ましい反応性官能基としては、各種アミン含有化合物(例えば第1級アミン)、チオまたは他の硫黄含有基、カルボキシルおよびヒドロキシルが挙げられる。また、一般的なアミン含有化合物としては、N-ヒドロキシスクシンイミド活性化エステル(NHSエステル)、マレイミド、アジドおよびヨードアセトアミドが挙げられる。上記NHSエステルは、アミンと中性以上のpHで効率良く反応し、非常に安定なアミド結合を形成することができる。また、上記マレイミドは、反応がSH基選択的で、中性ではアミンに比べSH基との反応性に優れる。
【0028】
ホモ二官能性基を有する好適な架橋剤としては、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、ジスクシンイミジルスベレート(DSS)、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS3)、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)(DSP)、ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)(DTSSP)、エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート)(EGS)、エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルスクシネート)(スルホ−EGS)、ジスクシンイミジル酒石酸塩(DST)、ジスルホスクシンイミジル酒石酸塩(スルホ−DST)等が挙げられる。特に、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS3)を好ましく使用し得る。
【0029】
また、ヘテロ二官能性基を有する好適な架橋剤としては、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS)、スクシンイミジル4−[マレイミドフェニル]ブチレート(SMPB)、スクシンイミジル4−(マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(SMCC)、N−(γ−マレイミドブチロキシ)スクシンイミドエステル(GMBS)、m−マレイミドプロピオニックアシド−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(MPS)及びN−スクシンイミジル(4−ヨードアセチル)アミノベンゾエート(SIAB)等を好ましく用いることができる。特に、反応性官能基にNHSエステルおよびマレイミドを備える、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS)が好ましく用いられ得る。
【0030】
次に、ここで開示される上記疎水性ペプチドに対する抗体の製造方法について説明する。
かかる製造方法は、まず、抗原となるべくコンジュゲートを作製する。そこで、疎水性ペプチド(典型的には疎水性のアミノ酸残基数が全アミノ酸残基数の少なくとも30%以上である、全残基数が50残基以下のアミノ酸残基から構成される。)を用意(化学合成)する。Fmoc(9−fluorenylmethoxycarbonyl)固相合成法を用いて、上記疎水性ペプチドのN末端側に親水性ポリマー(例えば分子量が1000以下のポリエチレングルコール)を有し、C末端側に少なくとも一つのCys残基を有する構造を備えるペプチドを化学合成することができる。あるいは、Fmocを用いて、疎水性ペプチドのC末端側に少なくとも一つのCys残基を有するペプチドを固相合成した後、後述する方法によって、該ペプチドのN末端側に親水性ポリマーを付加してもよい。
疎水性ペプチドは、水溶液中では凝集または沈殿し易いため、そのままではキャリアタンパク質を連結したコンジュゲートを作製するのは困難であるが、このように、上記疎水性ペプチドにPEGを付加し水に対する溶解性を向上させることによって、後述するコンジュゲートを効率良く作製することができる。
また、上記疎水性ペプチドのC末端側にCys残基を付加したものを用意(化学合成)することにより、後述するキャリアタンパク質の連結(コンジュゲーション)において、SH基選択的な架橋剤を用いた反応が可能となる。
【0031】
ここで、上記疎水性ペプチドのN末端側に親水性ポリマー(例えば分子量が1000以下のポリエチレングルコール)を付加するときの反応条件について説明する。上記疎水性ペプチドのC末端側に少なくとも一つのCys残基を有するペプチドを合成した後、該ペプチドを反応性官能基としてNHSエステルを有するポリエチレングリコールと共に尿素および界面活性剤を少なくとも含む反応溶液中で一定時間加熱することによりPEG化することができる。上記界面活性剤としては、疎水性ペプチドに対するPEG化が可能な限りにおいて特に種類を制限するものではないが、例えば、Triton(登録商標)X-100、Tween(登録商標)20およびNonidet(登録商標)P-40等の中性界面活性剤を好ましく用いることができる。また、上記尿素の濃度は7〜9M程度が好ましく、界面活性剤の濃度としては、0.5〜1.5%程度が好ましい。
また、このときの加熱条件としては、約80℃以上100℃以下の温度が好ましく、例えば、凡そ95℃の温度で1時間程度インキュベートすることにより疎水性ペプチドのN末端にPEGを好適に付加し得る。
【0032】
このようにして、上記疎水性ペプチドのN末端側にPEGが、C末端側にCys残基がそれぞれ付加されたペプチドを用意(化学合成)した後、次いで、上述のホモ二官能性基またはヘテロ二官能性基を有する架橋剤(例えばBS3やMBS等)を用いて、該Cys残基に適当なキャリアタンパク質を連結(共有結合)させたコンジュゲートを作製する。PEGを付加することによって溶解性が向上した疎水性ペプチドは、中性領域の水系溶媒(典型的には水)に溶解するため、ここで用いる架橋剤が最も安定且つ効率良く架橋を促進し得る中性付近の反応条件を構成する。これにより、C末端に付加したCys残基にキャリアタンパク質が連結され、高効率で抗原とするコンジュゲートを作製することができる。
【0033】
次いで、上記作製したコンジュゲートを抗原として用いて免疫した哺乳動物から、上記疎水性ペプチドに対する抗体を取得する。
免疫する哺乳動物は、モルモット、ラット、マウス、ウサギ、ヒツジ等の実験動物が用いられるが、モノクローナル抗体あるいはポリクローナル抗体を得るためには、ラット、マウス、ウサギが好適である。免疫方法は、例えば、皮下、腹腔内、静脈内、筋肉内、皮内等のいずれの投与経路を用いてもよいが、主として、皮下、腹腔内、静脈内に注入するのが好ましい。また、免疫間隔、免疫量等も特に制限なく種々の方法を用いることが可能であるが、例えば、2週間隔で約2〜10回免疫し、最終免疫後、約1〜5回、好ましくは約2〜7日後に生体内から検体を採取する方法がよく用いられる。また、免疫量は1回に投与するペプチド量を限定するものではいが、例えば、マウス当り10〜200μg程度を用いることが好ましい。初回は上記コンジュゲートをアジュバント(例えば、フロイントの完全アジュバント)とよく混合してマウスの腹腔内に投与し、細胞を増殖させ、2週間隔で再び該コンジュゲートをアジュバント(例えば、フロイントの不完全アジュバント)をよく混合して腹腔内に投与し、腹水を採取することにより、高力価の疎水性ペプチドに対するモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を効率良く取得することができる。なお、目的のモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体の精製は、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過法、硫安塩析法等の公知の方法により行うことができる。
【0034】
次に、ここで開示される上記疎水性ペプチドに対する抗体の製造方法により得られた抗体を用いた抗原抗体反応に基づいて、検体中から所定の疎水性ペプチドを検出する、検出方法について説明する。なお、上記疎水性ペプチドは、疎水性のアミノ酸残基数が全アミノ酸残基数の少なくとも30%以上である、全残基数が50残基以下のアミノ酸残基から構成されるペプチドである。
上記検体としては、いかなる態様のものでもよく、例えば、血液、血清、血漿、リンパ液、尿、髄液、唾液、汗、腹水、羊水、細胞および臓器の抽出液等から調整した生体試料を使用することができる。なお、上記生体試料は、必要に応じて適切に処理することができる。例えば、細胞の分離、抽出操作などした試料については、免疫組織染色法、酵素免疫測定法、凝集法、競合法、サンドイッチ法など既知の方法を適用することができる。免疫組織染色法は、例えば標識化抗体を用いる直接法、該抗体に対する抗体の標識化されたものを用いる間接法などにより行い得る。標識化剤としては蛍光物質、放射性物質、酵素、金属、色素など公知の標識物質はいずれも使用できる。
【0035】
上記検体から上記疎水性ペプチドに対する抗体の製造方法により得られた抗体を用いて、標的とする疎水性ペプチドを検出するため、まず、上記検体を、親水性ポリマー(PEG)、尿素および界面活性剤を少なくとも含む反応溶液中で一定時間加熱し、検体中に含む疎水性ペプチドをPEG化する。ここで、上記親水性ポリマーとしては、分子量が1000以下であって、反応性官能基としてNHSエステルを有するポリエチレングリコールを好適に使用し得る。
かかるPEG化の反応条件としては、上述の抗体の製造方法で詳述した条件と同様の方法を用いて、疎水性ペプチドにPEGを好適に付加することができる。これにより、検体中に含まれるPEG化した疎水性ペプチドを上記製造方法により得られた抗体を用いて容易に検出することができる。なお、抗体の製造方法で抗原として用いたコンジュゲートは、疎水性ペプチドのC末端にCys残基が付加されているが、検体中からの疎水性ペプチドの検出においては、該検体に含む疎水性ペプチドはPEG化処理のみで、Cys残基の付加は不要である。すなわち、上記疎水性ペプチドに対する抗体の製造方法により得られた抗体は、Cys残基を有しないPEG化した疎水性ペプチドを検出することができる。
【0036】
また、上記検出方法では、上記疎水性ペプチドに対する抗体の製造方法により得られた抗体と、親水性ポリマー(例えば分子量が1000以下であって、反応性官能基としてNHSエステルを有するポリエチレングリコール)、尿素および界面活性剤とを少なくとも含有する、疎水性ペプチド検出用試薬を調製し、かかる試薬を用いて検体から疎水性ペプチドを検出することができる。すなわち、上記検体を該疎水性ペプチド検出用試薬に添加した後、一定時間加熱することによって検体中に含む疎水性ペプチドがPEG化するため、該検体中に含まれるPEG化した疎水性ペプチドの簡易な検出が実現し得る。
【0037】
以下の実施例によって、本発明の疎水性ペプチド(典型的には、疎水性のアミノ酸残基数が全アミノ酸残基数の少なくとも30%以上である50残基以下のアミノ酸残基から構成されるペプチド)に対する抗体の製造方法および該製造方法により得られる抗体の利用について詳細に説明するが、本発明を以下の実施例に限定することを意図したものではない。また、本発明の好適な実施例の一つの典型例として、アミロイド前駆体タンパク質シグナルペプチド(APPsp)のアミノ酸配列:MLPGLALLLLAAWTARA(配列番号1);を含むペプチドを疎水性ペプチドとして用いた抗体の製造方法および該抗体に認識される疎水性ペプチドの検出方法を詳細に説明するが、本発明の製造方法の対象をかかる疎水性ペプチドに限定することを意図したものではない。
【0038】
[1.疎水性ペプチドの合成]
ヒトアミロイド前駆体タンパク質(APP)のアミロイド前駆体タンパク質シグナルペプチド(APPsp)のアミノ酸配列:MLPGLALLLLAAWTARAのN末端にPEG(上記式(1)で示される一般式のうち、nが整数12)を有し、C末端にCys残基を有する疎水性ペプチド(以下、「PEG-APPsp-Cys」という)を以下の方法で化学合成した。
すなわち、上記ペプチド合成はSyro II(Multi SynTech, Germany)を用いてFmoc固相合成法(Solid Phase Peptide Synthesis method)により行った。具体的には、各アミノ酸誘導体は側鎖が保護されたものを使用し、ポリスチレン固相担体上でペプチド鎖構築を行い完全長を作製した。そして、担体から切り出して脱保護し、精製することによりPEG-APPsp-Cysを得た。なお、カラムは、Superco Discovery HS C18, particle 3μm(pore 120ÅCarbon20%)を用い、移動相として0.1%TFA(トルフルオロ酢酸)/H2Oを90〜40%に、0.1%TFA/ACN(アセトニトリル)を10〜60%を勾配させてPEG-APPsp-Cysを含む分画を回収した。図1に、上記合成したペプチドPEG-APPsp-Cysの化学構造式を示す。
【0039】
[2.疎水性ペプチドのコンジュゲートによる抗原の作製と免疫によるポリクローナル抗体の作製(実施例1)]
上記合成した疎水性ペプチドPEG-APPsp-CysをMBS法によりキャリアタンパク質KLHに連結させてコンジュゲートを作製した。該コンジュゲートを抗原として、ウサギ一羽に免疫した。表2に、かかる免疫方法を示す。
【0040】
【表2】
【0041】
上記免疫後、全採血で得られた血清を硫安沈殿により精製し、疎水性ペプチドPEG-APPsp-Cysに対するポリクローナル抗体を得た。以下、該抗体を「抗APPsp抗体」という。
【0042】
[3.Enzyme immunoassay(EIA)によるポリクローナル抗体の力価測定]
上記コンジュゲートを抗原として免疫したウサギから得られた抗APPsp抗体の力価を評価するため、EIAを行った。抗原には、コンジュゲートを作製する際に使用したPEG-APPsp-Cysを用いた(図1参照)。
【0043】
まず、2 μg/mL PEG-APPsp-Cys, 2 M 尿素溶液をMicrotiter Assembly Breakable Strip 1×8, EB(Thermo, #95029180)に100 μLずつ加え、一晩静置した。Auto MINI Washer (バイオテック)でマイクロウェルの溶液を排出し、250 μL Blocking solution(1% BSA, PBS, 5% sucrose, 0.1% NaN3)を加えた。なお、PBSは、137 mM NaCl, 2.68 mM KCl, 5.3 mM Na2HPO4, 1.76 mM KH2PO4, pH 7.4になるように調製したものを用いた。室温で2時間インキュベートした後、Auto MINI WasherでBlocking solutionを除いた。ここにPBST(0.1% Tween20, PBS)で500, 1000, 2000, 4000, 8000, 16000, 32000, 64000倍に希釈した抗APPsp抗体を含む血清または免疫前に予備採血した血清を100 μLずつ加えた。さらに、室温で1時間インキュベートした後、Auto MINI Washerを用いてPBSTで6回洗浄した。0.1% BSA, PBS溶液で2000倍希釈したAnti-rabbit immunoglobulins/HRP (DakoCytomation, #P0448)を100 μL加え、室温で1時間インキュベートした。Auto MINI Washerを用いてPBSTで6回洗浄した後、100 μL オルトフェニレンジアミン溶液(0.417% オルトフェニレンジアミン, 0.009% H2O2)を加えた。室温で30分間インキュベートした後、2規定硫酸を100 μL加え、酵素反応を止めた。Labsystems Multiskan Bichromatic (Labsystems)でマイクロウェルの溶液の492 nmおよび600 nmの吸光度を測定した。吸光度(492 nm)から吸光度(600 nm)を差し引いた吸光度をプロットして作成したグラフを図2に示す。
【0044】
図2に示すグラフから明らかなように、免疫前の血清では、吸光度(492 nm)が認められなかったが、免疫して得られた上記抗APPsp抗体を含む血清では、希釈率が小さいサンプルほど吸光度(492 nm)が高く、強い吸収が確認された。これにより、PEG-APPsp-Cysを認識するポリクローナル抗体が得られたことが示された。
【0045】
[4.EIAにおけるPEG競合阻害]
上記EIAで確認した力価がPEG-APPsp-CysのAPPsp領域に対する反応結果であることを確認するため、PEG単体に対して抗APPsp抗体が結合しないことを、以下に示す手順で確認した。
【0046】
まず、Microtiter Assembly Breakable Strip 1×8, EBのマイクロウェルに2 μg/mL PEG-APPsp-Cys, 2 M 尿素溶液を100 μLずつ添加し、4℃で一晩静置した。Auto MINI Washerでマイクロウェルの溶液を排出した。250 μL Blocking solution(1% BSA, PBS, 5% sucrose, 0.1% NaN3)を加えて室温で2時間インキュベートした。次いで、Auto MINI WasherでBlocking solutionを除いた。予めPEG600(Fulka, #87333, 分子量〜600)の濃度が、0 ng, 20 ng, 200 ng, 2 μg, 20 μg, 200 μg/mLをそれぞれ含むPBST溶液(0.1% Tween20, PBS)で8000倍に希釈した抗APPsp抗体を調製し、室温で1時間撹拌させた溶液を100 μLずつマイクロウェルに加えた。そして、室温で1時間インキュベートした後、Auto MINI Washerを用いてPBSTで6回洗浄した。ここに0.1% BSA, PBS溶液で2000倍希釈したAnti-rabbit immunoglobulins/HRPを100 μL加えた。さらに、室温で1時間インキュベートし、Auto MINI Washerを用いてPBSTで6回洗浄した。100 μL オルトフェニレンジアミン溶液(0.417% オルトフェニレンジアミン, 0.009% H2O2)を加え、室温で30分間インキュベートした後、2規定硫酸を100 μL加え酵素反応をとめた。Labsystems Multiskan Bichromaticでマイクロウェルの溶液の492 nmおよび600 nmの吸光度を測定した。吸光度(492 nm)から吸光度(600 nm)を差し引いた吸光度をプロットして作成したグラフを図3に示す。
【0047】
図3に示すグラフから明らかなように、PEGを添加しても抗APPsp抗体のPEG-APPsp-Cysに対する力価は上記EIAで確認した力価(図2参照)と比較して減少しなかった。これにより、上記EIAで確認した力価は、PEG単体に結合性を有する抗体に起因するものではないことが確認された。
【0048】
[5.ドットブロット法によるポリクローナル抗体の力価測定]
上記コンジュゲートを抗原として免疫したウサギから得られた抗APPsp抗体の力価を評価するため、ドットブロット法による抗APPsp抗体の力価測定を行なった。以下、ドットブロット法の操作を示す。
【0049】
まず、APPsp(配列番号1)およびPEG-APPsp-Cys(図1参照)をメンブレンHybond-N(amersham)に吸着させた。このとき、APPspは、3 ng, 9 ng, 28 ng, 83 ng, 250 ng, 750 ng を滴下し、PEG-APPsp-Cysは、3 ng, 9 ng, 26 ng, 79 ng, 233 ng, 700 ng を滴下した。なお、APPspは、上記[1.疎水性ペプチドの合成]で示した方法と同様の化学合成で得たものを用いた。また、PEG-APPsp-Cysは、[1.疎水性ペプチドの合成]で化学合成したものを用いた。
【0050】
次いで、APPspおよびPEG-APPsp-Cysを吸着させたメンブレンをBlocking solution(1%スキムミルク, 1×TBST)に浸した。なお、1×TBSTは、50 mM Tris, 150 mM NaCl, pH7.5, 0.1% Tween 20になるように調製したものを使用した。室温で50分間振とうした後、アスピレータで溶液を除いた。Washing buffer(0.2%スキムミルク, 1×TBST)で300倍希釈した抗APPsp抗体を含む血清または免疫前血清をそれぞれ加えた。室温で50分間振とうした後、アスピレータで溶液を除いた。Washing bufferを加え、室温で5分間振とうした後、アスピレータで溶液を除く操作を計3回繰り返した。Washing Bufferで4000倍希釈したAnti-Rabbit Immunogloblins/AP(DakoCytomation, #D0487)を加え、室温で50分間振とう後、アスピレータで溶液を除いた。Washing bufferを加え、室温で5分間振とうした後、アスピレータで溶液を除く操作を計3回繰り返した。最後に、1-Step NBT/BCIP (PIERCE, #34042)を加え、4時間室温で振とうした後、純水で洗浄して酵素反応をとめた。ドットブロット法による力価の測定結果を図4に示す。図4に示す質量表示は滴下したAPPspおよびPEG-APPsp-Cysのそれぞれの質量を示す。
【0051】
図4に示されるように、免疫して得られた上記抗APPsp抗体を含む血清は、PEG-APPsp-Cysを検出することがドットブロット法により示された。一方、APPspは検出しないことが確認された。
【0052】
[6.ウェスタンブロット法によるポリクローナル抗体の力価測定]
上記コンジュゲートを抗原として免疫したウサギから取得した抗APPsp抗体の力価を評価するため、ウェスタンブロット法による抗APPsp抗体の力価測定を行なった。以下、ウェスタンブロット法の操作を示す。
【0053】
まず、700 μg/mL PEG-APPsp-Cys, 2 M 尿素, PBS溶液を含む溶液を、純水および4×Sample buffer(0.4 M DTT, 0.3 M Tris, 8% SDS, 60% glycerol, 0.0036% bromophenol blue)で希釈し、200 ng/μL PEG-APPsp-Cys, 1×Sample buffer溶液を調製した。また、700 μg/mL APPsp, 10% DMSO(dimethyl sulfoxide), 1% SDS溶液を含む溶液を、純水および上記4×Sample bufferで希釈し、200 ng/μL APPsp, 1×Sample buffer溶液を調製した。上記調製したそれぞれの溶液を3分間加熱し、Multigel II Mini 15/25 (13W) (第一化学薬品、#414916)のウェルに各々5 μL(ペプチド1 μg分)または2.5 μL(ペプチド0.5 μg分)をアプライした。電気泳動後、SemiDry Elctroblotter(sartorius)を用いて、セミドライにおいて、PVDFメンブレン(Immobilon-P, MILLIPORE, #IPVH20200)に対して転写を行なった。転写したメンブレンをBlocking solution(1%スキムミルク、1×TBST)に浸し、室温で60分間振とうした。さらに4℃で一晩静置した。アスピレータで溶液を除き、Washing buffer(0.2%スキムミルク、1×TBST)で600倍希釈した抗APPsp抗体を加えた。室温で60分間振とうした後、アスピレータで溶液を除いた。そして、Washing bufferを加え、室温で5分間振とうした後、アスピレータで溶液を除く操作を計3回繰り返した。さらに、Washing bufferで4000倍希釈したAnti-Rabbit Immunogloblins/APを加え、室温で60分間振とうした後、アスピレータで溶液を除いた。Washing bufferを加え室温で5分間振とうした後、アスピレータで溶液を除く操作を計3回繰り返した。最後に1-Step NBT/BCIPを加え、30分間室温で振とうした。純水で洗浄し、酵素反応をとめた。ウェスタンブロット法による力価の測定結果を図5に示す。
【0054】
図5に示されるように、免疫して得られた上記抗APPsp抗体を含む血清は、PEG-APPsp-Cysを検出することがウェスタンブロット法により示された。一方、APPspは検出しないことが確認された。
【0055】
[7.疎水性ペプチドのC末端にCys残基の有しない抗原に対するポリクローナル抗体の反応性]
上記コンジュゲートを抗原として免疫したウサギから得られた抗APPsp抗体のPEG-APPsp-Cysに対する力価が、PEG-APPsp-CysのC末端に位置するCys残基の有無により影響されるか否かについて検討した。
【0056】
まず、PEG-APPsp-CysのC末端のCys残基を欠く疎水性ペプチド(以下、「PEG-APPsp」という)を化学合成した。図6に、かかるPEG-APPspの化学構造式を示す。
上記PEG-APPspの合成は、Fmoc固相合成法により行なった。合成したペプチドは、ODSカラムを用いて、移動相として0.1%TFA/H2Oと0.1%TFA/ACNを用いた濃度勾配法により精製した。そして、2 μg/mL PEG-APPsp-Cys, 2 M 尿素溶液を含む溶液、および2 μg/mL PEG-APPsp, 2 M 尿素溶液を含む溶液をそれぞれ調製した。上記調製したそれぞれの溶液100 μLをMicrotiter Assembly Breakable Strip 1×8, EBに加え、一晩静置した。そして、Auto MINI Washerでマイクロウェルの溶液を排出し、250 μL Blocking solution(1% BSA, PBS, 5% sucrose, 0.1% NaN3)を加えた。室温で2時間インキュベートした後、Auto MINI WasherでBlocking solutionを除いた。ここにPBST(0.1% Tween20, PBS)で希釈した抗APPsp抗体のIgGを100 μLずつ加えた。なお、IgGはprotein Aを用いたアフィニティ精製により得たものを用いた。さらに、室温で1時間インキュベートした後、Auto MINI Washerを用いてPBSTで6回洗浄した。0.1% BSA, PBS溶液で2000倍希釈したAnti-rabbit immunoglobulins/HRPを100 μL加え、室温で1時間インキュベートした。Auto MINI Washerを用いてPBSTで6回洗浄した後、100 μL オルトフェニレンジアミン溶液(0.417% オルトフェニレンジアミン, 0.009% H2O2)を加えた。そして、室温で30分間インキュベートした後、2規定硫酸を100 μL加え反応をとめた。Labsystems Multiskan Bichromaticでマイクロウェルの溶液の492 nmおよび600 nmの吸光度を測定した。吸光度(492 nm)から吸光度(600 nm)を差し引いた吸光度をプロットして作成したグラフを図7に示す。
【0057】
図7に示すグラフから明らかなように、PEG-APPsp-CysおよびPEG-APPspに対する抗APPsp抗体の力価には相違がみられなかった。これにより、抗APPsp抗体の反応性において、PEG-APPsp-CysのC末端に位置するCys残基の有無は影響せず、検出対象の抗原にはCys残基を必要としないことが確認された。
【0058】
[8.PEGの付加位置の異なる疎水性ペプチドを用いて作製したコンジュゲートを抗原とするポリクローナル抗体の作製(比較例1)]
APPspのアミノ酸配列:MLPGLALLLLAAWTARAのN末端に付加したPEG(上記式(1)で示される一般式のうち、nが整数12)鎖端に、さらにCys残基を付加した疎水性ペプチド(以下、「Cys-PEG-APPsp」という)を抗原として用いてポリクローナル抗体を作製し、PEGの位置関係が抗体の作製にどのような影響を及ぼすか調べた。
【0059】
まず、上記PEG-APPspのN末端のPEG鎖端にシステインを付加した配列を有するペプチドCys-PEG-APPspを化学合成した。合成したCys-PEG-APPspの化学構造式を図8に示す。
【0060】
上記合成したCys-PEG-APPspのコンジュゲートによる抗原の作製と免疫を行った。
まず、上記Cys-PEG-APPspをMBS(m-Maleimidobenzoyl-N-hydroxysuccinimide Ester)法によりキャリアタンパク質KLHに連結させてコンジュゲートを作製した。すなわち、2.86 mg/mL Cys-PEG-APPsp, 14.3% DMSO, 5% TritonX-100, 2.86 mg/mL maleimide activated mcKLH(PIERCE, #77606)となるように調製した溶液を用意し、該溶液を22℃で21時間インキュベートさせた。なお、maleimide activated mcKLHはEDTA(エチレンジアミン四酢酸)を含む状態で凍結乾燥されたものを使用したので、上記調製した溶液中にはEDTAが存在するが、EDTAは凝集作用があるので免疫する溶液中には含まれないことが望ましいため、EDTAを除去する操作を行った。かかるEDTAの除去は、50 kDa以下の分子を透過する膜を有するAmicon Ultra-4 50K NMWL (Millipore, #UFC910024)を用いてEDTAを含む溶媒をPBSに置換して行った。こうして作製したコンジュゲートを抗原として、表3に示す免疫方法でウサギ一羽およびマウス五匹に免疫し、全採血により血清を得た。
【0061】
【表3】
【0062】
上記作製したコンジュゲートを抗原として、免疫したウサギおよびマウスから取得したポリクローナル抗体(血清)の力価を評価するため、EIAを行った。
まず、2 μg/mL PEG-APPsp, 2 M 尿素溶液をMicrotiter Assembly Breakable Strip 1×8, EBに100 μLずつ加え、一晩静置した。Auto MINI Washerでマイクロウェルの溶液を排出し、250 μL Blocking solution(1% BSA, PBS, 5% sucrose, 0.1% NaN3)を加えた。室温で2時間インキュベートした後、Auto MINI WasherでBlocking solutionを除いた。ここにPBST(0.1% Tween20, PBS)で500, 8000, 64000倍に希釈した上記血清を100 μLずつ加えた。室温で1時間インキュベートした後、Auto MINI Washerを用いてPBSTで6回洗浄した。0.1% BSA, PBS溶液で2000倍希釈したAnti-rabbit immunoglobulins/HRPまたは4000倍希釈したHRP labeled Anti-mouse IgG (H+L chain) (MBL, #330)をそれぞれ100 μL加え、室温で1時間インキュベートした。さらに、Auto MINI Washerを用いてPBSTで6回洗浄した後、100 μL オルトフェニレンジアミン溶液(0.417% オルトフェニレンジアミン, 0.009% H2O2)を加えた。室温で30分間インキュベートした後、2規定硫酸を100 μL加え反応をとめた。Labsystems Multiskan Bichromaticでマイクロウェルの溶液の492 nmおよび600 nmの吸光度を測定した。吸光度(492 nm)から吸光度(600 nm)を差し引いた吸光度をプロットして作成したグラフを図9に示す。
【0063】
図9に示すグラフから明らかなように、得られた血清中にPEG-APPspに対して強く反応を示すポリクローナル抗体は存在しないことが示された。マウスAの血清は微弱に反応性を示したが、その力価は図2に示す抗APPsp抗体の力価に比べて極めて弱い。したがって、PEG-APPspのN末端のPEG鎖端に、Cys残基を付加した配列を有するCys-PEG-APPspをコンジュゲートに含む抗原を用いて得られた抗体には、PEG-APPspに対する抗体が得られないことが示された。
【0064】
[9.異なる架橋剤を用いて作製したコンジュゲートを抗原とするポリクローナル抗体の作製(比較例2)]
上述の[8.PEGの付加位置の異なる疎水性ペプチドを用いて作製したコンジュゲートを抗原とするポリクローナル抗体の作製(比較例1)]で用いた架橋剤の種類をMBSからBS3に変えて作製したコンジュゲートを抗原として用いて、ポリクローナル抗体を作製した。
すなわち、上記合成したPEG-APPspを架橋剤Bis[Sulfosuccinimidyl]suberate(BS3)によりキャリアタンパク質KLHに連結させてコンジュゲートを作製するため、2.5 mg/mL PEG-APPsp, 12.5% DMSO, 1% TritonX-100, 2.5 mg/mL KLH(Wako, #080-7666), 7.8 mM BS3となるように溶液を調製し、22℃で15.5時間インキュベートした。こうして作製したコンジュゲートを抗原として、表3に示す免疫方法でウサギ一羽およびマウス五匹に免疫し、全採血により血清を得た。
【0065】
【表4】
【0066】
上記作製したコンジュゲートを抗原として、免疫したウサギおよびマウスから取得したポリクローナル抗体(血清)の力価を評価するため、上述の[8.PEGの付加位置の異なる疎水性ペプチドを用いて作製したコンジュゲートを抗原とするポリクローナル抗体の作製(比較例1)]と同様の手順でEIAを行った。吸光度をプロットして作成したグラフを図10に示す。
【0067】
図10に示すグラフから明らかなように、得られた血清中にPEG-APPspに対して強く反応を示すポリクローナル抗体は存在しないことが示された。マウスDの血清は微弱だが反応性を示していたが、その力価は図2に示す抗APPsp抗体の力価に比べて極めて弱い。したがって、架橋剤を変えて作製したコンジュゲートに含むかかる抗原の構造では、PEG-APPspに対する抗体が得られないことが示された。
【0068】
上述の[8.PEGの付加位置の異なる疎水性ペプチドを用いて作製したコンジュゲートを抗原とするポリクローナル抗体の作製(比較例1)]および[9.異なる架橋剤を用いて作製したコンジュゲートを抗原とするポリクローナル抗体の作製(比較例2)]の結果から、免疫に用いた抗原の構造によっては、抗体が得られないことが示された。図11に、免疫に使用した抗原の構造模式図を示す。
図11中のA〜Cの構造模式図は、[2.疎水性ペプチドのコンジュゲートによる抗原の作製と免疫によるポリクローナル抗体の作製(実施例1)]、[8.PEGの付加位置の異なる疎水性ペプチドを用いて作製したコンジュゲートを抗原とするポリクローナル抗体の作製(比較例1)]および[9.異なる架橋剤を用いて作製したコンジュゲートを抗原とするポリクローナル抗体の作製(比較例2)]において使用した抗原をそれぞれ示す。図11に示すように、高力価が得られたAの抗原は、N末端側からPEG、APPsp、キャリアタンパク質の順番で位置する構造を有する。一方、抗体が得られなかったBおよびCの抗原は、APPsp、PEG、キャリアタンパク質の順番で位置する構造を有する。したがって、PEGを付加したペプチドに対する力価の高い抗体を作製する場合は、Aに示す抗原の構造のように、キャリアタンパク質を中心とすると、構造式の最も端部にPEGが配置されるような抗原を用いることが必要であることが示された。
【0069】
[10.APPspのN末端の共有結合反応条件の検討]
次に、アミロイド前駆体タンパク質シグナルペプチド(APPsp)のアミノ酸配列:MLPGLALLLLAAWTARA(配列番号1)のN末端にPEGを付加する際の反応条件について、NHS-dPEG12Biotin(Quanta Biodesign, #10198)を用いて検討した。図12に、NHS-dPEG12Biotinの化学構造式を示す。
中性水溶液(PBS, 1%Nonidet P-40)下で反応を行ったところ、APPspはNHS-dPEG12Biotinと全く反応しなかったため、APPspのアミノ末端アミノ基は遊離した状態ではないことが示された。そこで、APPspのアミノ末端アミノ基を遊離させる条件を以下の手順で検討した。
【0070】
まず、1% NP-40溶液を用いて、2% SDS、8M 尿素、6M グアニジンHCl、1M アルギニン、および50% DMSOの各試薬を調製し、さらに各溶液の2倍希釈液を7段階調製した。
そして、上記調製した溶液に、DMSOに溶解した1mg/mL APPspを1/100容添加し、APPsp終濃度を10μg/mLとした。これらの溶液を各2本ずつ調製し、1セットをReacti-Bind Maleic Anhydride Plate(PIERCE #15100)ウェル当たり各100μL添加し、37℃で1時間保温した。別のセットは96℃で3分加熱後に、同様に処理した。処理後、ウェル内の溶液を除き、ウェルをPBSTで2回洗浄した。ウェルに250μLのStarting Block Blocking Buffer (PIERCE, #37538) を添加し、室温で10分間置きブロッキングを行った。ウェル内の溶液を除き、1%BSA, PBSTで1000倍希釈した抗APPsp抗体のIgGを添加し、室温で1時間静置した後、さらにウェルをPBSTで6回洗浄した。1% BSA, PBST溶液で4000倍希釈したAnti-rabbit immunoglobulins/HRPを100 μL加え、室温で1時間インキュベートした。PBSTで6回洗浄した後、100 μL オルトフェニレンジアミン溶液(0.417% オルトフェニレンジアミン, 0.009% H2O2)を加えた。室温で30分間インキュベートした後、2規定硫酸を100 μL加え反応をとめた。Labsystems Multiskan Bichromaticでマイクロウェルの溶液の492 nm, 600 nmの吸光度を測定した。吸光度(492 nm)から吸光度(600 nm)の値を差し引いた吸光度をプロットして作成したグラフを図13に示す。
【0071】
図13に示すように、8M尿素, 1%NP-40で加熱処理した場合のみ、強い吸光度(492 nm)が認められた。したがって、かかる条件によると、APPspのアミノ末端アミノ基は遊離し、N-Hydroxysuccinimide Ester(NHS ester)との反応が可能であることが判明した。なお、図13には図示しないが、1% NP-40の代替として1%Tween20を用いることができることを確認した。1% NP-40は加熱により白濁したが、1%Tween20は加熱によっても白濁せず、尚且つ反応した。これにより、APPspのアミノ末端アミノ基を遊離させる好ましい条件としては、尿素および界面活性剤を少なくとも含む反応溶液を用いて一定時間加熱することであることが示された。
【0072】
[11.ポリクローナル抗体によるPEG化した疎水性ペプチドの検出]
上述の[10.APPspのN末端の共有結合反応条件の検討]で確認した反応条件を用いてPEG化したAPPspに対して、抗APPsp抗体による検出を試みた。
【0073】
まず、APPspのN末端側にPEGを付加した。すなわち、2.5 mg/mL APPsp, 5 mM NHS-dPEG12Biotin, 8.1 M 尿素, 10% DMSO, 1% Tween20となるように反応溶液を調製した。上記調製した溶液を、95℃で1時間インキュベートし、APPspのPEG化処理を行った。
【0074】
次いで、上記PEG化したAPPsp(以下、「PEG化処理APPsp」という)が抗APPsp抗体で検出できるか否かをドットブロット法により確認した。すなわち、メンブレンへのAPPspの吸着量が2.5, 0.5または0.1 μgとなるようにPEG化処理APPspをHybond-ECL (GE Healthcare, #RPN1010D)に吸着させた。また、コントロールとして、PEG化未処理のAPPspも同様に吸着させた。メンブレンをBlocking solution(1%スキムミルク、1×TBST)が入ったシャーレに浸し、室温で60分間振とうした。アスピレータで溶液を除いた後、Washing buffer(0.2%スキムミルク, 1×TBST)で500倍希釈した抗APPsp抗体を添加した。室温で60分間振とうした後、アスピレータで溶液を除いた。ここにWashing buffer加え、室温で5分間振とうした後、アスピレータで溶液を除く操作を計3回繰り返した。さらに、Washing bufferで4000倍希釈したAnti-Rabbit Immunogloblins/AP加え、室温で60分間振とうした後、アスピレータで溶液を除いた。Washing bufferを加え、室温で5分間振とうした後、アスピレータで溶液を除く操作を計3回繰り返した。最後に1-Step NBT/BCIPを加え、30分間、室温で振とうした。純水で洗浄し、酵素反応をとめた。ドットブロット法による測定結果を図14に示す。
【0075】
図14に示されるように、抗APPsp抗体は、APPspに対して2.5μgを検出できるにとどまるが(APPsp only)、APPspをPEG化処理することにより0.1μgまで検出可能になることが示された(PEG化処理APPsp)。
【0076】
[12.生体試料を用いたポリクローナル抗体による疎水性ペプチドの検出]
標的とする疎水性ペプチドを含む生体試料のサンプル溶液をPEG化処理し、さらに上記作製したポリクローナル抗体を使用することによって、標的とする疎水性ペプチドを検出することが可能であるか検証した。以下、ウシ胎児血清に添加した疎水性ペプチドAPPspをPEG化処理し、抗APPsp抗体によって該PEG化処理APPspを検出できるか検討した。
【0077】
まず、ウシ胎児血清中のAPPspをPEG化処理するため、以下に示す5種類のサンプルを調製し、95℃で2時間インキュベートすることにより、PEG化処理ウシ胎児血清を得た。
なお、サンプル1および3を除く、サンプル2,4,5にはPEG(NHS-dPEG12Biotin)を添加した。また、サンプル1および2を除く、サンプル3〜5には疎水性ペプチドAPPspを含む溶液を調製した。それぞれのサンプルの組成は以下のとおりである。
サンプル1: 8 M 尿素, 30% DMSO, 1% Tween20, 25% ウシ胎児血清(Gibco, #10099-141), 0.4×PBSを含む溶液
サンプル2: 5 mM NHS-dPEG12Biotin, 8 M 尿素, 30% DMSO, 1% Tween20, 25% ウシ胎児血清, 0.4×PBSを含む溶液
サンプル3: 2.5 mg/mL APPsp, 8 M 尿素, 30% DMSO, 1% Tween20, 25% ウシ胎児血清, 0.4×PBSを含む溶液
サンプル4: 1 mg/mL APPsp, 5 mM NHS-dPEG12Biotin, 8 M 尿素, 30% DMSO, 1% Tween20, 25% ウシ胎児血清, 1% Tween20, 0.4×PBSを含む溶液
サンプル5: 2.5 mg/mL APPsp, 5 mM NHS-dPEG12Biotin, 8 M 尿素, 30% DMSO, 1% Tween20, 25% ウシ胎児血清, 0.4×PBSを含む溶液
【0078】
次いで、上記5つのウシ胎児血清中のPEG化処理APPspを、抗APPsp抗体を用いて検出できるか否かをドットブロット法により確認した。すなわち、上記5つのPEG化処理ウシ胎児血清サンプルをメンブレンHybond-ECLに1 μLずつ滴下した。メンブレンをBlocking solution(3%スキムミルク、1×TBST)が入った容器に浸し、室温で60分間振とうした。アスピレータで溶液を除いた後、Washing buffer(0.2%スキムミルク, 1×TBST)で5000倍希釈した抗APPsp抗体を添加した。室温で60分間振とうした後、アスピレータで溶液を除いた。ここにWashing buffer加え、室温で5分間振とうした後、アスピレータで溶液を除く操作を計3回繰り返した。Washing bufferで4000倍希釈したAnti-Rabbit Immunogloblins/APを加え、室温で60分間振とうした後、アスピレータで溶液を除いた。さらに、Washing bufferを加え、室温で5分間振とうした後、アスピレータで溶液を除く操作を計3回繰り返した。最後に1-Step NBT/BCIPを加え、30分間、室温で振とうした。純水で洗浄し、酵素反応をとめた。ドットブロット法による測定結果を図15に示す。
【0079】
図15に示されるように、サンプル4および5のみ、メンブレンにおいて強い発色が確認された。これにより、ウシ胎児血清中に含む疎水性ペプチドAPPspをPEG化することにより、抗APPsp抗体によって検体中のAPPspを検出することができることが示された。
【0080】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、本実施例では、APPspのアミノ酸配列を含むペプチドを疎水性ペプチドとして用いたが、他の既知のシグナルペプチド等の疎水性ペプチドを含む配列、あるいはそれらの改変配列を採用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明に係る疎水性ペプチドに対する抗体の製造方法によると、シグナルペプチドをはじめとする疎水性ペプチドに対する抗体を効率的に製造することができる。また、かかる抗体を用いて生体試料の検体中より簡易に該疎水性ペプチドを検出することが可能となり、生体内の生理的現象の解明や、免疫疾病の診断および治療薬の開発に利用することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0082】
配列番号1〜配列番号6 合成ペプチド
【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性ペプチドに対する抗体の製造方法であって、
前記疎水性ペプチドのN末端側に親水性ポリマーが付加され、且つ該疎水性ペプチドのC末端側に少なくとも一つのCys残基が付加され、さらに前記Cys残基にキャリアタンパク質が連結されたコンジュゲートを抗原として、該抗原で免疫した哺乳動物から抗体を取得することを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
前記親水性ポリマーとして、分子量が1000以下のポリエチレングリコールを使用する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ポリエチレングリコールとして、NHSエステルを有するものを使用し、前記疎水性ペプチドおよび該NHSエステルを有するポリエチレングリコールを、尿素および界面活性剤を少なくとも含む反応溶液中で一定時間加熱することにより、該疎水性ペプチドのN末端側に該ポリエチレングルコールを付加する、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
ホモ二官能性基またはヘテロ二官能性基を有する架橋剤を用いて前記Cys残基に前記キャリアタンパク質を連結する、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記架橋剤としては、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS3)またはm−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS)を用いる、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記疎水性ペプチドとして、既知のいずれかのシグナルペプチドを構成するアミノ酸配列を含むように化学合成された合成ペプチドを使用する、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記疎水性ペプチドは、アミロイド前駆体タンパク質シグナルペプチド(APPsp)のアミノ酸配列:
MLPGLALLLLAAWTARA(配列番号1);
を含む、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法により製造された、疎水性ペプチドに対する抗体。
【請求項9】
以下のアミノ酸配列:
MLPGLALLLLAAWTARA(配列番号1);
から構成されるアミロイド前駆体タンパク質シグナルペプチド(APPsp)に対するポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体である、請求項8に記載の抗体。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法により得られた抗体または請求項8〜9のいずれかに記載の抗体を用いた抗原抗体反応に基づいて、検体中から所定の疎水性ペプチドを検出する、検出方法。
【請求項11】
前記検体は、親水性ポリマー、尿素および界面活性剤を少なくとも含む反応溶液中で一定時間加熱して用いられる、請求項10に記載の検出方法。
【請求項12】
前記親水性ポリマーとして、分子量が1000以下であって、NHSエステルを有するポリエチレングリコールが使用される、請求項11に記載の検出方法。
【請求項13】
検体中から所定の疎水性ペプチドを検出するための試薬であって、
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法により得られた抗体または請求項8〜9のいずれかに記載の抗体と、親水性ポリマー、尿素および界面活性剤とを少なくとも含有する、疎水性ペプチド検出用試薬。
【請求項14】
前記親水性ポリマーとして、分子量が1000以下であって、NHSエステルを有するポリエチレングリコールが使用される、請求項13に記載の試薬。
【請求項1】
疎水性ペプチドに対する抗体の製造方法であって、
前記疎水性ペプチドのN末端側に親水性ポリマーが付加され、且つ該疎水性ペプチドのC末端側に少なくとも一つのCys残基が付加され、さらに前記Cys残基にキャリアタンパク質が連結されたコンジュゲートを抗原として、該抗原で免疫した哺乳動物から抗体を取得することを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
前記親水性ポリマーとして、分子量が1000以下のポリエチレングリコールを使用する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ポリエチレングリコールとして、NHSエステルを有するものを使用し、前記疎水性ペプチドおよび該NHSエステルを有するポリエチレングリコールを、尿素および界面活性剤を少なくとも含む反応溶液中で一定時間加熱することにより、該疎水性ペプチドのN末端側に該ポリエチレングルコールを付加する、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
ホモ二官能性基またはヘテロ二官能性基を有する架橋剤を用いて前記Cys残基に前記キャリアタンパク質を連結する、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記架橋剤としては、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS3)またはm−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS)を用いる、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記疎水性ペプチドとして、既知のいずれかのシグナルペプチドを構成するアミノ酸配列を含むように化学合成された合成ペプチドを使用する、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記疎水性ペプチドは、アミロイド前駆体タンパク質シグナルペプチド(APPsp)のアミノ酸配列:
MLPGLALLLLAAWTARA(配列番号1);
を含む、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法により製造された、疎水性ペプチドに対する抗体。
【請求項9】
以下のアミノ酸配列:
MLPGLALLLLAAWTARA(配列番号1);
から構成されるアミロイド前駆体タンパク質シグナルペプチド(APPsp)に対するポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体である、請求項8に記載の抗体。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法により得られた抗体または請求項8〜9のいずれかに記載の抗体を用いた抗原抗体反応に基づいて、検体中から所定の疎水性ペプチドを検出する、検出方法。
【請求項11】
前記検体は、親水性ポリマー、尿素および界面活性剤を少なくとも含む反応溶液中で一定時間加熱して用いられる、請求項10に記載の検出方法。
【請求項12】
前記親水性ポリマーとして、分子量が1000以下であって、NHSエステルを有するポリエチレングリコールが使用される、請求項11に記載の検出方法。
【請求項13】
検体中から所定の疎水性ペプチドを検出するための試薬であって、
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法により得られた抗体または請求項8〜9のいずれかに記載の抗体と、親水性ポリマー、尿素および界面活性剤とを少なくとも含有する、疎水性ペプチド検出用試薬。
【請求項14】
前記親水性ポリマーとして、分子量が1000以下であって、NHSエステルを有するポリエチレングリコールが使用される、請求項13に記載の試薬。
【図1】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図4】
【図5】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図4】
【図5】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−16763(P2011−16763A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163142(P2009−163142)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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