説明

疎水性有機物含有ゾル溶液、およびその製造方法

【課題】
本発明の目的は、疎水性有機物がゾル溶液中に凝集や析出することなく溶解してなる疎水性有機物含有ゾル溶液と、その製造方法とを提供することにある。そして、その疎水性有機物含有ゾル溶液を用いて製造される物品を提供することにある。
【解決手段】
加水分解可能な金属化合物に、触媒と水とを加え、加水分解反応を起こさせて、少なくとも1種類の金属化合物ゾル溶液を調製し、ここで、前記水の量を前記金属原子の価数に対応した所定範囲量とすることで、前記金属化合物ゾル溶液に、少なくとも1種類の疎水性有機物を混合して溶解するようにしたこと、を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性有機物が溶解しているゾル溶液の製造方法、ならびにそのゾル溶液、さらに、そのゾル溶液を用いる物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ゾルゲル法は、金属を有機または無機の金属化合物溶液とし、酸等の触媒と水とを加えて、混合溶液中で化合物の加水分解反応、あるいは加水分解反応と脱水縮重合反応とを進ませてゾル化する過程と、ゾル化により調製されたゾル溶液中のゾルが乾燥によりゲル化する過程とからなっている。そして、ゲル化の過程で、1種類または複数種類の金属化合物が、脱水縮重合反応により、金属−酸素−金属からなるゲルマトリックスを形成してポリマー化する。
【0003】
ここで、ゲル化の前に、ゾル溶液に有機物を含有させた有機物含有ゾル溶液を調製し、基材に塗布乾燥することによりゲル化すると、有機物がゲルマトリックスの間に内包された塗布膜を作製することができる。
【0004】
このような場合に、ゾル溶液中に有機物を含有する方法としては、ゾル溶液中に溶解あるいは固体のまま分散する手法がとられる。この際、分散性をよくするために、有機物の粉砕微小化や、分散剤の添加が行われる(特許文献1:特開2001−226631号公報)。
【特許文献1】特開2001−226631号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、疎水性の物質を水分含有率の高い溶液に、分散あるいは溶解させると、水分により、凝集や析出が起こる。よって、水分含有率の高いゾル溶液に、疎水性有機物を溶解あるいは分散させる場合には、分散剤が不可欠である。
【0006】
しかしながら、分散剤を用いた方法で作製した塗布膜には分散剤が存在し、これを容易には取り除くことができない。なぜならば、一般的に、分散剤と有機物とは、共に特性温度、例えば、分解温度、沸点、昇華温度等が近い物質であるからである。このため、分散剤が分解される温度で塗布膜を乾燥した場合には、有機物も分解されてしまうことがある。逆に、有機物が分解されない温度で塗布膜を乾燥した場合には、分散剤を取り除くことが困難である。
【0007】
含有させたい有機物よりも特性温度の低い分散剤を用いることは可能であるが、その分散剤の種類が限られることとなる。また、分散剤の添加量が多いと、分解された後の塗布膜が多孔質状になることがあり、強度の低下などを引き起こすこともある。したがって、分散剤の使用可能な量も限られることとなる。
【0008】
よって、この分散剤を用いる方法は、分散剤と有機物との組み合わせを考慮すると、狭い範囲の有機物にのみ適用が可能であって、汎用性の低いものとなる。
【0009】
もし、分散剤を用いずに、有機物をゾル溶液中に凝集や析出することなく、分散あるいは溶解させることが可能なら、その方法は広い範囲の有機物に適用可能であって、汎用性の高いものとなる。
【0010】
ただし、加水分解反応、あるいは加水分解反応と脱水縮重合反応とにより調製されたゾル溶液中には、加水分解反応に使われなかった水分が含まれている場合がある。このため、水に対する溶解率が低い疎水性有機物は、水分含有率の高いゾル溶液中に、十分な量を溶解させることができない。このようなゾル溶液中に、限度を超えた量の疎水性有機物を含有させようとすると、疎水性有機物の一部に、凝集や析出が生じる。このゾル溶液を用いて、例えば、基材表面に塗布膜を形成すると、塗布膜中の有機物の密度にむらが生じたりする。そのような場合、その有機物により得られるはずであった機能が、十分に発揮されないことがある。
【0011】
本発明の目的は、疎水性有機物がゾル溶液中に凝集や析出することなく溶解してなる疎水性有機物含有ゾル溶液と、その製造方法とを提供することにある。そして、その疎水性有機物含有ゾル溶液を用いて製造される物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、
請求項1に記載の疎水性有機物含有ゾル溶液の製造方法は、加水分解可能な金属化合物に、触媒と水とを加え、加水分解反応を起こさせて、少なくとも1種類の金属化合物ゾル溶液を調製し、ここで、前記水の量を前記金属原子の価数に対応した所定範囲量とすることで、前記金属化合物ゾル溶液に、少なくとも1種類の疎水性有機物を混合して溶解するようにしたこと、を特徴とする。
【0013】
ここで、水の所定範囲量とは、前記金属化合物に十分な加水分解反応を起こさせうる程度の水の範囲量のことである。
【0014】
請求項2に記載の製造方法によれば、前記金属化合物を予め第一溶媒と混合することが、望ましい。
【0015】
請求項3に記載の製造方法によれば、前記疎水性有機物を予め第二溶媒に混合して溶解することが、望ましい。
【0016】
請求項4に記載の製造方法によれば、前記疎水性有機物含有ゾル溶液を第三溶媒と混合することが、望ましい。
【0017】
請求項5に記載の製造方法によれば、前記金属化合物は、一般式、M(OR)nで表される金属アルコキシド(式中、Mは金属原子、Rはアルキル基、フェニル基、アセチル基、エーテル基、nは前記金属原子の酸化数である)であることが、望ましい。
【0018】
請求項6に記載の製造方法によれば、前記水の量を前記金属アルコキシド1モル当たりn/2を中心に0.75〜1.25倍の範囲量とすることが、望ましい。
【0019】
請求項7に記載の製造方法によれば、前記水の量を前記nが4である金属アルコキシド1モル当たり1.5〜2.5当量とすることで、前記金属化合物ゾル溶液中に含まれる水分含有率を2.5質量%以下とすることが、望ましい。
【0020】
請求項8に記載の製造方法によれば、前記水の量を前記nが4である金属アルコキシド1モル当たり1.8〜2.1当量とすることで、前記水分含有率を1質量%以下とすることが、さらに望ましい。
【0021】
請求項9に記載の製造方法によれば、前記疎水性有機物の水に対する溶解率は0.1質量%以下であってもよい。
【0022】
請求項10に記載の疎水性有機物含有ゾル溶液は、加水分解可能な金属化合物に、触媒と水とが加えられ、加水分解反応により、少なくとも1種類の金属化合物ゾル溶液が調製され、ここで、前記水の量が前記金属原子の価数に対応する所定範囲量とされたことによって、前記金属化合物ゾル溶液に、少なくとも1種類の疎水性有機物が混合溶解されてなる疎水性有機物含有ゾル溶液であって、前記疎水性有機物含有ゾル溶液中の水分含有率が、2.5質量%以下であること、を特徴とする。
【0023】
請求項11に記載の疎水性有機物含有ゾル溶液は、その中の水分含有率が、1質量%以下であることが、望ましい。
【0024】
請求項12に記載の疎水性有機物含有ゾル溶液は、環状エーテル系溶媒またはホルムアミド系溶媒を含み、前記溶媒の含有率が50質量%以上であることが、望ましい。
【0025】
請求項13に記載の疎水性有機物含有ゾル溶液は、その溶液中に含まれる前記疎水性有機物の含有率が0.1〜1.8質量%であることが、望ましい。
【0026】
請求項14に記載の疎水性有機物含有物品の製造方法は、加水分解可能な金属化合物に、触媒と水とを加え、加水分解反応とを起こさせて、少なくとも1種類の金属化合物ゾル溶液を調製し、ここで、前記水の量を前記金属原子の価数に対応した所定範囲量とすることで、前記金属化合物ゾル溶液に、少なくとも1種類の疎水性有機物を混合溶解して疎水性有機物含有ゾル溶液を調製し、前記疎水性有機物含有ゾル溶液を皮膜状に乾燥させてなる疎水性有機物含有物品の製造方法であって、前記疎水性有機物含有物品中に含まれる前記疎水性有機物の含有率を0.01〜15質量%としたこと、を特徴とする。
【0027】
請求項15に記載の疎水性有機物含有物品の製造方法によれば、前記疎水性有機物含有物品を粉砕して鱗片状とすることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の疎水性有機物含有ゾル溶液の製造方法によれば、金属化合物ゾル溶液を調製するときに、加える水分量を金属原子の価数に対応する所定範囲量に制御しているので、金属化合物ゾル溶液の水分含有率を2.5質量%以下、さらには1質量%以下にすることが可能である。この金属化合物ゾル溶液には、疎水性有機物を凝集や析出することなく溶解させることが可能なので、疎水性有機物を含有したゾル溶液を得ることができる。ここで、この製造方法では、分散剤を用いる必要がない。したがって、この疎水性有機物含有ゾル溶液を用いて、疎水性有機物含有物品を製造する場合に、分散剤の残留の問題が発生しない。よって、このような疎水性有機物含有物品は、安全性が求められるような物品に、好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態に係る疎水性有機物含有ゾル溶液の製造方法と、その疎水性有機物含有ゾル溶液を用いた、疎水性有機物含有膜の製造方法について詳述する。図1に、フローチャートを示す。
【0030】
本発明の疎水性有機物含有ゾル溶液の製造方法は、
ステップS101:金属化合物ゾル溶液の調製工程、
ステップS102:疎水性有機物溶解溶液の調製工程、
ステップS103:疎水性有機物含有ゾル溶液の調製工程、
を含んでなる。
【0031】
疎水性有機物含有膜の製造方法は、さらに、
ステップS201:疎水性有機物含有ゾル溶液の塗布工程、
ステップS202:塗布層の乾燥工程、
を含んでなる。
【0032】
(ステップS101:金属化合物ゾル溶液の調製工程)
まず、加水分解可能な金属化合物に、触媒と金属原子の価数に対応する所定範囲量の水とを加え、加水分解反応、あるいは加水分解反応と脱水縮重合反応とを起こさせることにより、少なくとも1種類の金属化合物ゾル溶液を調製する。必要に応じて、2種類以上の金属化合物ゾル溶液を配合してもよい。例えば、屈折率の異なる複数の金属化合物ゾル溶液を配合することにより、任意の屈折率を持つ金属化合物ゾル溶液を調製することができる。
【0033】
ここで、前述の加水分解反応の前に、予め金属酸化物と溶媒(第一溶媒)とを混合しておいてもよい。金属化合物または金属化合物と第一溶媒との混合溶液を攪拌しながら、触媒と水とを少量ずつ滴下する。触媒と水との滴下が終了した後も、混合液を攪拌しながら加水分解反応を起こさせ、例えば、24時間かけて金属化合物ゾル溶液を調製する。
【0034】
触媒と水とを少量ずつ滴下させることにより、一度にこれらを加えた場合に起こる急激な加水分解反応を抑制することができる。この加水分解反応の制御により、加水分解反応の過程で発生する熱を、一定範囲内の温度に保つことができる。滴下の量と速度は、溶液の温度が、例えば、30〜40℃程度になるように調整することが望ましい。
【0035】
金属化合物ゾル溶液を調製する環境は、温度や湿度をコントロールした室内が、好ましい。しかし、急激な環境の変化が起きないなら、通常の室内でもかまわない。そして、調製中に、溶液からの水分の蒸発あるいは溶液への水分の吸着が、過度に起こらないように工夫してもよい。例えば、触媒と水との滴下口等の必要最小限の開口部以外は、蓋などで覆うようにしてもよい。そして、調製された金属化合物ゾル溶液は、密閉容器にて保管することが望ましい。
【0036】
使用する金属化合物の材料としては、珪素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、タンタル等の酸化物の金属アルコキシドが、好適である。これらの金属アルコキシドは入手が容易であり、常温・常圧で安定し、且つ毒性がない、という利点がある。また、可視光域において光学的吸収を生ずることがないため、透過光が着色されることがない。
【0037】
金属アルコキシドは、M(OR)nで表される。ここで、Mは金属原子である。Rはアルキル基、フェニル基、アセチル基、エーテル基等である。nは金属原子の酸化数である。
【0038】
金属原子が珪素であるシリコンアルコキシドは、Si(OR)4で表される4官能のアルコキシシランである。具体例としては、Rがアルキル基であるテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等や、Rがフェニル基であるテトラフェノキシシラン、Rがアセチル基であるテトラアセトキシシラン、Rがエーテル基であるテトラキス(2−エチルブトキシ)シラン等が挙げられる。
【0039】
金属化合物としては、金属アルコキシドの他に、金属カルボキシレート、硝酸塩、塩化物、オキシ塩化物等の中から加水分解可能なものを好適に使用することができる。このような金属化合物を複数混合した後に、金属化合物ゾル溶液を調製してもよい。あるいは、別々に金属化合物ゾル溶液を調製して、後で混合してもよい。
【0040】
また、加水分解が困難または可能でない金属化合物であっても、金属化合物ゾル溶液と混合して、好適に使用することができる。
【0041】
一方、テトライソプロポキシチタンのように、反応性の高い金属化合物は、加水分解を行った場合、ゾル化後すぐにゲル化するものがある。このような金属化合物は、ゾルゲル化させることなく安定化させることが望ましい。この安定化した金属化合物は、金属化合物ゾル溶液と混合して、好適に使用することができる。
【0042】
このような反応性の高い金属化合物の安定化の方法としては、金属アルコキシド等の金属化合物に、キレート化剤をキレート配位させて、金属キレート化合物とする方法を好適に用いることができる。金属キレート化合物は安定であり、反応性が抑えられているので、取り扱いがしやすくなる。また、金属化合物ゾル溶液を調製するのに好都合である。キレート化剤の例としては、アセチルアセトン等のβ−ジケトン類や、アセト酢酸エチル等のβ−ケトエステル類が好適であるが、これらに限られるものではない。
【0043】
前述の第一溶媒としては、特に限定はないが、金属化合物との相溶性が高いものを選ぶことが好ましい。具体的には、アルコール類、ケトン類、エステル類、エチレン−グリコール−モノエチルエーテル(以下、セロソルブと略す)類、両末端に水酸基を持たないグリコール類等を用いることができる。この第一溶媒は、前述のキレート化剤として働く場合もあるが、単に希釈のみに働いてもかまわない。そして、第一溶媒は、ゾル溶液中に溶解させたい有機物との組み合わせを考慮して選ぶことが好ましい。
【0044】
アルコール類としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等を用いることができる。
ケトン類としては、アセトン、アセチルアセトン等を用いることができる。
エステル類としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル等を用いることができる。
セロソルブ類としては、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等を用いることができる。
グリコール類としては、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール等を用いることができる。
【0045】
前述の触媒としては、酸が好適に用いられる。酸としては、特に限定はないが、プロトン酸が好適に用いられる。具体例としては、硝酸、塩酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、硫酸、リン酸、パラトルエンスルホン酸等が挙げられる。
【0046】
加水分解反応に用いられる水の添加量としては、前述の金属アルコキシドの場合、その1モル当たりn/2当量とすることが望ましい。しかし、金属化合物によっては、加水分解反応が進むと脱水縮重合反応が起こり、水が生成される場合がある。また、加水分解反応中に、水が蒸発により減少する場合がある。
【0047】
このようなことを考慮して、加水分解反応に用いられる水の添加量としては、n=4である金属アルコキシドの場合、その1モル当たり2(4/2)当量を中心として0.75〜1.25倍である1.5〜2.5当量が好ましい。この所定範囲量の水で加水分解反応、あるいは加水分解反応と脱水縮重合反応とを起こさせると、ゾル溶液中の水分含有率を、2.5質量%以下とすることができる。水の添加量が1.5当量よりも少ない場合は、十分に加水分解反応が進まないために、基板上に膜を形成したときに、膜の強度の低下や、膜の基板への密着性の低下を生じることがある。一方、2.5当量よりも多い場合は、反応後のゾル溶液中に反応に用いられなかった水が多く存在することとなる。この場合は、ゾル溶液中に、必要な量の疎水性有機物が溶解されないことがある。
【0048】
さらに、n=4である金属アルコキシドへの水の添加量は、その1モル当たり1.8〜2.1当量とすることが、より好ましい。この所定範囲量の水で加水分解反応と脱水縮重合反応とを起こさせると、ゾル溶液中の水分含有率を1質量%以下とすることができる。
【0049】
第一溶媒として用いる溶媒は、水を含有していることがある。その場合は、溶媒中の水の含有量と前述の水の添加量とを合わせた総添加量が、前述の所定範囲量であることが望ましい。
【0050】
(ステップS102:疎水性有機物溶解溶液の調製工程)
次に、疎水性有機物を溶媒(第二溶媒)に溶解させて、疎水性有機物溶解溶液を調製する。この工程で、予め疎水性有機物を第二溶媒に溶解させておく理由は、疎水性有機物の固体をゾル溶液に直接溶解させるために、長時間を要する場合があるためである。しかし、疎水性有機物は、前述の金属化合物ゾル溶液に、少量ずつ直接溶解させてもかまわない。
【0051】
第二溶媒としては、その溶媒に対する疎水性有機物の溶解率が高いものであることが好ましく、さらに、水の沸点よりも高い沸点を有していることが望ましい。なぜなら、第二溶媒に対する疎水性有機物の溶解率が低かったり、あるいは水の沸点よりも低い沸点を有していたりした場合は、塗布層の乾燥工程(ステップS202)で、疎水性有機物の凝集と析出が起こることがあるからである。ここで、前述の条件に合えば、第一溶媒と同一のものでもかまわない。
【0052】
第二溶媒中の水分含有率は、前述の金属化合物ゾル溶液中の水分含有率以下であることが望ましい。このようにすれば、後述の工程(S103)において調製される疎水性有機物含有ゾル溶液中の水分含有率を増加させることがない。
【0053】
例えば、第二溶媒としては、環状エーテル系溶媒またはホルムアミド系溶媒が、好適に用いられる。具体的には、テトラヒドロフラン誘導体、ジオキサン誘導体、ジエチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド、メチルホルムアミド等を用いることができる。これらの溶媒を用いることで、疎水性有機物がゲルマトリックスの間に内包されやすくなる。
【0054】
疎水性有機物としては、水に対する溶解率が0.1質量%以下のものでも良好に用いることができる。有機物に求められる機能としては、例えば、着色機能、芳香機能、消臭機能、脱臭機能、殺菌機能等がある。物質としては、フタロシアニン類、ポルフィリン類、多環芳香族(ピレン等)、アゾ系顔料(Disperse Red 1等)、アントラキノン系顔料(Pigment Red 177等)等を挙げることができる。
【0055】
(ステップS103:疎水性有機物含有ゾル溶液の調製工程)
次に、前述の金属化合物ゾル溶液と疎水性有機物溶解溶液とを混合して、疎水性有機物含有ゾル溶液を調製する。
【0056】
このときに、塗布方法に合わせて粘度を調整するために、溶媒(第三溶媒)を加えてもよい。そして、この第三溶媒に金属化合物ゾル溶液と相溶性のある溶媒を用いれば、平滑な塗布膜を形成することができる。あるいは、金属化合物ゾル溶液と相溶性がない溶媒を用いれば、ゲル化するときに、相分離を起こすことができるので、凹凸状の塗布膜を形成することができる。また、条件が合えば、第一溶媒、または、第二溶媒と同じものを用いてもよい。
【0057】
第二溶媒と同様に、第三溶媒中の水分含有率は、前述の金属化合物ゾル溶液中の水分含有率以下であることが望ましい。
【0058】
疎水性有機物含有ゾル溶液中に含まれる溶媒の種類によっては、疎水性有機物含有ゾル溶液の安定性が悪くなることがある。その結果、基材表面に疎水性有機物含有ゾル溶液を塗布乾燥し塗布膜を形成する場合に、乾燥後の塗布膜に凝集や析出が起こることがある。
【0059】
この原因としては、乾燥過程での溶媒の蒸発により、疎水性有機物含有ゾル溶液中の水や各溶媒の含有率の変化が考えられる。例えば、水よりも先に溶媒が多量に蒸発すると、水分含有率が高くなり、疎水性有機物がゾルマトリックスの間に内包される前に、疎水性有機物の凝集や析出が起こることが考えられる。また、疎水性有機物の溶解率が低い溶媒を用いた場合には、その溶媒が蒸発していく過程で、疎水性有機物がゾルマトリックスの間に内包される前に、凝集や析出の発生が考えられる。
【0060】
例えば、環状エーテル系溶媒またはホルムアミド系溶媒(第二溶媒の条件に合う溶媒)の沸点は水の沸点よりも高く、この溶媒に対する疎水性有機物の溶解性も高い。このような特性を持つ溶媒が、疎水性有機物含有ゾル溶液中に50質量%以上含まれるようにすることで、前述の疎水性有機物含有ゾル溶液の安定性の悪化を、好適に抑えることができる。
【0061】
このようにして調製された疎水性有機物含有ゾル溶液中の水分含有量は、前述の工程(S101)により所定の水分含有率になるように調製された金属化合物ゾル溶液中の水分含有率以下になる。例えば、金属化合物ゾル溶液中の水分含有率が、2.5質量%以下あるいは1質量%以下のときは、疎水性有機物含有ゾル溶液中の水分含有量も、それぞれ2.5質量%以下あるいは1質量%以下となる。この疎水性有機物含有ゾル溶液は、密閉容器にて保管することが望ましい。
【0062】
(ステップS201:疎水性有機物含有ゾル溶液の塗布工程)
次に、疎水性有機物含有ゾル溶液(塗布液)を、基材表面に塗布することにより、塗布層を形成する。
【0063】
基材の物質には、疎水性有機物含有ゾル溶液に含まれる溶媒の沸点以上の耐火温度を有する物質を使用可能である。例えば、ガラス(ソーダライムガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等)、金属(鉄鋼、ステンレス鋼、銅、アルミニウム等)、半導体(シリコンウエハー等)、樹脂、セラミックス等を用いることができる。
【0064】
前述の特性温度が有機物の沸点よりも低い物質を基材に用いれば、鱗片状物品を製造する場合に、塗布層の乾燥工程(ステップS202)において、基材を分解させることにより、基材と鱗片状物品とを分離することが可能である。
【0065】
物品の基材表面(塗布面)の形状は、特に限定されない。例えば、平面的な基材であっても、曲面的な基材であってもよい。
【0066】
基材への塗布方法は、一般的に、ロールコーティング法(フレキソ印刷法等)、スクリーン印刷法等の各種印刷法や、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、カーテンコーティング法、浸漬引き上げ(ディップコーティング)法、流し塗り(フローコーティング)法等が用いられる。
【0067】
(ステップS202:塗布層の乾燥工程)
次に、塗布層の乾燥を行い、塗布膜を形成する。この乾燥の前に、必要に応じて塗布層を均すためのレベリング時間をとってもよい。
【0068】
乾燥温度は、塗布層に含まれる疎水性有機物の特性温度(分解温度、沸点、または昇華温度)以下に設定する。さらに、塗布層に含まれる溶媒の沸点よりも、高い温度で乾燥することが望ましい。
【0069】
乾燥方式は、製造する物品に合わせて、熱風循環方式、熱風吹き付け方式等を適宜選択することができる。
本実施の形態では、密閉型の熱風循環式乾燥機(タバイエスペック株式会社製、クリーンオーブン PVHC−210)を用いて乾燥を行った。乾燥機内部の中央付近に付属の棚を設置して、その棚の中央付近に、塗布層が形成されたガラス基板を水平に置いて、以下のような手順で乾燥を行う。
【0070】
塗布層が形成されたガラス基板を、予め乾燥温度に加熱してある前述の乾燥機に投入する。そして、その温度で所定時間乾燥した後、このガラス基板を取り出す。その後、このガラス基板を自然冷却する。ガラス基板を乾燥機から取り出す時期は、ガラス基板の温度と乾燥機の外の雰囲気温度との温度差が、ガラス基板の熱割れを起こさない程度となれば、いつでもよい。例えば、200℃程度の乾燥温度と20℃程度の雰囲気温度となら、所定時間後すぐに乾燥機からガラス基板を取り出しても、熱割れを起こさない。このようにして、塗布膜状の疎水性有機物含有物品を得ることができる。
【0071】
本発明における金属化合物ゾル溶液は、調製工程(S101)で述べたように、任意の屈折率を持つ金属化合物ゾル溶液とすることができる。この任意の屈折率を持つ金属化合物ゾル溶液を用いて、疎水性有機物含有ゾル溶液を調製すれば、任意の屈折率を持つ疎水性有機物含有物品を得ることができる。また、このような疎水性有機物含有物品は、任意の色に着色された低反射膜の作製に応用することができる。このような物品の例としては、車両用の窓ガラスが考えられる。つまり、車両のデザインに合わせた色の低反射膜を形成した窓ガラスを得ることができる。
【0072】
以下に、実施例および比較例を示す。疎水性有機物として、有機物色素であるDisperse Red 1(アルドリッチ製、粉末)と、ピレン(東京化成株式会社製、粉末)とを用いた。これらの水に対する溶解率は共に、0.1質量%以下である。これ以降、Disperse Red 1は、数字の混乱を避けるために、DRと略記する。
【0073】
[実施例1]
(ステップS101:金属化合物ゾル溶液の調製工程)
テトラメトキシシラン(n=4である金属アルコキシド) 52gに、第一溶媒であるイソプロピルアルコール 16gを混合した。この混合液を攪拌しながら、触媒として、0.1mol/L(0.1規定)の硝酸 12.3gを少量ずつ滴下した。この硝酸に含まれる水は、テトラメトキシシラン1モル当たり2当量であった。硝酸の滴下が終了した後も、混合液を攪拌しながら加水分解反応と脱水縮重合反応とを起こさせ、硝酸を滴下し始めてから24時間かけて金属化合物ゾル溶液を調製した。
【0074】
この金属化合物ゾル溶液中の固形分比率は、SiO2として、26質量%であった。そして、この金属化合物ゾル溶液の水分含有率をカールフィシャー法(三菱化学社製、微量水分測定装置 CA−05)にて測定したところ、この金属化合物ゾル溶液の水分含有率は、1質量%であった。
【0075】
(ステップS102:疎水性有機物溶解溶液の調製工程)
有機物色素であるDR 2gを第二溶媒であるジオキサン 98gに溶解させて疎水性有機物溶解溶液を調製した。この疎水性有機物溶解溶液中に、DRの凝集や析出は見られなかった。
【0076】
(ステップS103:疎水性有機物含有ゾル溶液の調製工程)
前述の金属化合物ゾル溶液 38.5gと、疎水性有機物溶解溶液 25gと、第三溶媒としてジオキサン 36.5gとを混合して、疎水性有機物としてDRを含有する疎水性有機物含有ゾル溶液を調製した。この第三溶媒は、第二溶媒と同じ溶媒である。この疎水性有機物含有ゾル溶液中に、DRの凝集や析出は見られなかった。
【0077】
(ステップS201:疎水性有機物含有ゾル溶液の塗布工程)
この疎水性有機物含有ゾル溶液(塗布液)を、大きさ 100×100mm、厚み 0.5mmのソーダライムガラス基板(以下、単にガラス基板と記述する)表面に、スピンコータを用いて、16.7回転/秒(1,000rpm)の回転数で塗布し、塗布層を形成した。
【0078】
(ステップS202:塗布層の乾燥工程)
次いで、塗布層が形成されたガラス基板を、塗布後 30秒後に、前述の熱風循環式乾燥機を用いて、200℃の温度で、5分間乾燥させた。そして、疎水性有機物としてDRを含有する疎水性有機物含有膜(塗布膜)を得た。疎水性有機物含有膜中に、外観上、色素の偏在は見られなかった。
【0079】
疎水性有機物含有膜の厚みの測定を以下のようにして行った。疎水性有機物含有膜の一部を剥離させてガラス基板表面を露出させ、この膜とガラス基板表面との境目の段差を触針式粗さ計(TENCOR Instruments社製、ALPHA-STEP500SURFACE PROFILER)にて計測することにより、疎水性有機物含有膜の膜厚を測定した。膜厚は、100nmであった。
【0080】
表1および表2に、結果についてのまとめを示す。以降の実施例と比較例との結果も併せて示す。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【0083】
[実施例2]
(ステップS101:金属化合物ゾル溶液の調製工程)
実施例1と同様にして、水分含有率 1質量%の金属酸化物ゾル溶液を調製した。
【0084】
(ステップS102:疎水性有機物溶解溶液の調製工程)
第二溶媒には、実施例1で用いたジオキサンに代えて、ジエチルホルムアミドを用いた。そして、実施例1と同様の混合比で、疎水性有機物としてDRを含有する疎水性有機物溶解溶液を調製した。この疎水性有機物溶解溶液中に、DRの凝集や析出は見られなかった。
【0085】
(ステップS103:疎水性有機物含有ゾル溶液の調製工程)
第三溶媒には、第二溶媒と同じジエチルホルムアミドを用いた。そして、実施例1と同様の混合比で、疎水性有機物としてDRを含有する疎水性有機物含有ゾル溶液を調製した。この疎水性有機物含有ゾル溶液中に、DRの凝集や析出は見られなかった。
【0086】
(ステップS201,S202:疎水性有機物含有ゾル溶液の塗布工程,塗布層の乾燥工程)
実施例1と同様の塗布および乾燥条件により、疎水性有機物としてDRを含有する疎水性有機物含有膜を得た。疎水性有機物含有膜中に、外観上、色素の偏在は見られなかった。
【0087】
[比較例1]
(ステップS101:金属化合物ゾル溶液の調製工程)
テトラメトキシシラン 52gに、第一溶媒であるイソプロピルアルコール 4gを混合した。この混合液を攪拌しながら、触媒として、0.1mol/L(0.1規定)の硝酸 24.6gを少量ずつ滴下した。この硝酸に含まれる水は、テトラメトキシシラン1モル当たり4当量であった。硝酸の滴下が終了した後も、混合液を攪拌しながら加水分解反応と脱水縮重合反応とを起こさせ、硝酸を滴下し始めてから24時間かけて金属化合物ゾル溶液を調製した。
【0088】
この金属化合物ゾル溶液中の固形分比率は、SiO2として、26質量%であった。そして、この金属化合物ゾル溶液の水分含有率は、12質量%であった。
【0089】
(ステップS102:疎水性有機物溶解溶液の調製工程)
実施例1と同様にして、疎水性有機物としてDRを含有する疎水性有機物溶解溶液を調製した。
【0090】
(ステップS103:疎水性有機物含有ゾル溶液の調製工程)
実施例1と同様の混合比で、疎水性有機物としてDRを含有する疎水性有機物含有ゾル溶液を調製した。しかし、この疎水性有機物含有ゾル溶液中に、DRの凝集や析出が見られた。
【0091】
(ステップS201,S202:疎水性有機物含有ゾル溶液の塗布工程,塗布層の乾燥工程)
実施例1と同様の塗布および乾燥条件により、疎水性有機物としてDRを含有する疎水性有機物含有膜を得た。疎水性有機物含有膜中に、外観上、色素の偏在が見られた。
【0092】
[比較例2]
(ステップS101:金属化合物ゾル溶液の調製工程)
実施例1と同様にして、水分含有率 1質量%の金属酸化物ゾル溶液を調製した。
【0093】
(ステップS102:疎水性有機物溶解溶液の調製工程)
第二溶媒には、実施例1で用いたジオキサンに代えて、エチルアルコール(水分含有率0.4質量%以下)を用いた。そして、実施例1と同様の混合比で、疎水性有機物としてDRを含有する疎水性有機物溶解溶液を調製した。この疎水性有機物溶解溶液中に、DRの凝集や析出は見られなかった。
【0094】
(ステップS103:疎水性有機物含有ゾル溶液の調製工程)
第三溶媒には、第二溶媒と同じエチルアルコールを用いた。そして、実施例1と同様の混合比で、疎水性有機物としてDRを含有する疎水性有機物含有ゾル溶液を調製した。この疎水性有機物溶解溶液中に、DRの凝集や析出は見られなかった。
【0095】
(ステップS201,S202:疎水性有機物含有ゾル溶液の塗布工程,塗布層の乾燥工程)
実施例1と同様の塗布および乾燥条件により、疎水性有機物としてDRを含有する疎水性有機物含有膜を得た。疎水性有機物含有膜中に、外観上、色素の偏在が見られた。
【0096】
[実施例3]
(ステップS101:金属化合物ゾル溶液の調製工程)
実施例1と同様にして、水分含有率 1質量%の金属酸化物ゾル溶液を調製した。
【0097】
(ステップS102:疎水性有機物溶解溶液の調製工程)
疎水性有機物として、DRに代えて、ピレンを用いた。そして、実施例1と同様の混合比で、疎水性有機物としてピレンを含有する疎水性有機物溶解溶液を調製した。この疎水性有機物溶解溶液中に、ピレンの凝集や析出は見られなかった。
【0098】
(ステップS103:疎水性有機物含有ゾル溶液の調製工程)
実施例1と同様の混合比で、疎水性有機物としてピレンを含有する疎水性有機物含有ゾル溶液を調製した。この疎水性有機物含有ゾル溶液中に、ピレンの凝集や析出は見られなかった。
【0099】
(ステップS201,S202:疎水性有機物含有ゾル溶液の塗布工程,塗布層の乾燥工程)
実施例1と同様の塗布および乾燥条件により、疎水性有機物としてピレンを含有する疎水性有機物含有膜を得た。疎水性有機物含有膜中に、外観上、色素の偏在は見られなかった。
【0100】
[実施例4]
(ステップS101:金属化合物ゾル溶液の調製工程)
実施例1と同様にして、水分含有率 1質量%の金属酸化物ゾル溶液を調製した。
【0101】
(ステップS102:疎水性有機物溶解溶液の調製工程)
第二溶媒には、実施例3で用いたジオキサンに代えて、ジエチルホルムアミドを用いた。そして、実施例3と同様の混合比で、疎水性有機物としてピレンを含有する疎水性有機物溶解溶液を調製した。この疎水性有機物溶解溶液中に、ピレンの凝集や析出は見られなかった。
【0102】
(ステップS103:疎水性有機物含有ゾル溶液の調製工程)
第三溶媒には、第二溶媒と同じジエチルホルムアミドを用いた。そして、実施例3と同様の混合比で、疎水性有機物としてピレンを含有する疎水性有機物含有ゾル溶液を調製した。この疎水性有機物含有ゾル溶液中に、ピレンの凝集や析出は見られなかった。
【0103】
(ステップS201,S202:疎水性有機物含有ゾル溶液の塗布工程,塗布層の乾燥工程)
実施例3と同様の塗布および乾燥条件により、疎水性有機物としてピレンを含有する疎水性有機物含有膜を得た。疎水性有機物含有膜中に、外観上、色素の偏在は見られなかった。
【0104】
[比較例3]
(ステップS101:金属化合物ゾル溶液の調製工程)
比較例1と同様にして、水分含有率 12質量%の金属化合物ゾル溶液を調製した。
【0105】
(ステップS102:疎水性有機物溶解溶液の調製工程)
実施例3と同様にして、疎水性有機物としてピレンを含有する疎水性有機物含有ゾル溶液を調製した。
【0106】
(ステップS103:疎水性有機物含有ゾル溶液の調製工程)
実施例3と同様の混合比で、疎水性有機物としてピレンを含有する疎水性有機物含有ゾル溶液を調製した。しかし、この疎水性有機物含有ゾル溶液中に、ピレンの凝集や析出が見られた。
【0107】
(ステップS201,S202:疎水性有機物含有ゾル溶液の塗布工程,塗布層の乾燥工程)
実施例3と同様の塗布および乾燥条件により、疎水性有機物としてピレンを含有する疎水性有機物含有膜を得た。疎水性有機物含有膜中に、外観上、色素の偏在が見られた。
【0108】
[比較例4]
(ステップS101:金属化合物ゾル溶液の調製工程)
実施例1と同様にして、水分含有率 1質量%の金属酸化物ゾル溶液を調製した。
【0109】
(ステップS102:疎水性有機物溶解溶液の調製工程)
第二溶媒には、実施例3で用いたジオキサンに代えて、エチルアルコール(水分含有率0.4質量%以下)を用いた。そして、実施例3と同様の混合比で、疎水性有機物としてピレンを含有する疎水性有機物溶解溶液を調製した。この疎水性有機物溶解溶液中に、ピレンの凝集や析出は見られなかった。
【0110】
(ステップS103:疎水性有機物含有ゾル溶液の調製工程)
第三溶媒には、第二溶媒と同じエチルアルコールを用いた。そして、実施例3と同様の混合比で、疎水性有機物としてピレンを含有する疎水性有機物含有ゾル溶液を調製した。この疎水性有機物含有ゾル溶液中に、ピレンの凝集や析出は見られなかった。
【0111】
(ステップS201,S202:疎水性有機物含有ゾル溶液の塗布工程,塗布層の乾燥工程)
実施例3と同様の塗布および乾燥条件により、疎水性有機物としてピレンを含有する疎水性有機物含有膜を得た。疎水性有機物含有膜中に、外観上、色素の偏在が見られた。乾燥過程において、ピレンの凝集や析出が起きたことが考えられる。
【0112】
[実施例5]
(ステップS101:金属化合物ゾル溶液の調製工程)
実施例1と同様にして、水分含有率 1質量%の金属酸化物ゾル溶液を調製した。
【0113】
(ステップS102:疎水性有機物溶解溶液の調製工程)
第二溶媒には、実施例1で用いたジオキサンに代えて、トルエンを用いた。そして、実施例1と同様の混合比で、疎水性有機物としてDRを含有する疎水性有機物溶解溶液を調製した。この疎水性有機物溶解溶液中に、DRの凝集や析出は見られなかった。
【0114】
(ステップS103:疎水性有機物含有ゾル溶液の調製工程)
第三溶媒には、第二溶媒と同じトルエンを用いた。このトルエンと前述の調製工程(ステップS101)にて調製した金属酸化物ゾル溶液とは、相溶性が低いことを確認している。そして、実施例1と同様の混合比で、疎水性有機物としてDRを含有する疎水性有機物含有ゾル溶液を調製した。この疎水性有機物含有ゾル溶液中に、DRの凝集や析出は見られなかった。
【0115】
(ステップS201,S202:疎水性有機物含有ゾル溶液の塗布工程,塗布層の乾燥工程)
実施例1と同様の塗布および乾燥条件により、疎水性有機物としてDRを含有する疎水性有機物含有膜を得た。疎水性有機物含有膜中に、外観上、色素の偏在は見られなかった。
【0116】
[実施例6]
(ステップS101:金属化合物ゾル溶液の調製工程)
実施例1と同様にして、水分含有率 1質量%の金属酸化物ゾル溶液を調製した。
【0117】
(ステップS102:疎水性有機物溶解溶液の調製工程)
第二溶媒には、実施例3で用いたジオキサンに代えて、トルエンを用いた。そして、実施例3と同様の混合比で、疎水性有機物としてピレンを含有する疎水性有機物溶解溶液を調製した。この疎水性有機物溶解溶液中に、ピレンの凝集や析出は見られなかった。
【0118】
(ステップS103:疎水性有機物含有ゾル溶液の調製工程)
第三溶媒には、第二溶媒と同じトルエンを用いた。このトルエンと前述の調製工程(ステップS101)にて調製した金属酸化物ゾル溶液とは、相溶性が低いことを確認している。そして、実施例3と同様の混合比で、疎水性有機物としてピレンを含有する疎水性有機物含有ゾル溶液を調製した。この疎水性有機物含有ゾル溶液中に、ピレンの凝集や析出は見られなかった。
【0119】
(ステップS201,S202:疎水性有機物含有ゾル溶液の塗布工程,塗布層の乾燥工程)
実施例3と同様の塗布および乾燥条件により、疎水性有機物としてピレンを含有する疎水性有機物含有膜を得た。疎水性有機物含有膜中に、外観上、色素の偏在は見られなかった。
【0120】
[実施例と比較例との比較]
前述の表1および表2を参照しながら説明する。全ての実施例と比較例において、それぞれの塗布液および塗布膜に含まれる疎水性有機物の含有率は、それぞれ0.5および4.8質量%であった。実施例1〜4と比較例1〜4とは、平滑な塗布膜の例であり、実施例5と実施例6とは、凹凸状の塗布膜の例である。
【0121】
実施例および比較例に使用したガラス基板(厚み 0.5mm)のヘーズ率(曇価)をヘーズメーター(スガ試験機株式会社製、HGM−2DP)により測定したところ、0%であった。したがって、疎水性有機物含有膜(塗布膜)の形成されたガラス基板のヘーズ率を塗布膜のヘーズ率と見なしても特に問題は生じない。
【0122】
まず、疎水性有機物含有ゾル溶液(塗布液)中の水分含有率について比較する。
実施例1〜6において、水分含有率は、全て0.4質量%であった。このとき、疎水性有機物含有ゾル溶液中には、疎水性有機物の凝集や析出は見られなかった。
【0123】
比較例2および比較例4において、疎水性有機物含有ゾル溶液中の水分含有率は、どちらも0.6質量%であった。このとき、疎水性有機物含有ゾル溶液中に、疎水性有機物の凝集や析出は見られなかった。
【0124】
比較例1および比較例3において、疎水性有機物含有ゾル溶液中の水分含有率は、どちらも4.6質量%であった。このとき、疎水性有機物含有ゾル溶液中に、疎水性有機物の凝集や析出が見られた。
【0125】
水分含有率の比較から、疎水性有機物含有ゾル溶液中の水分含有率が、1質量%以下なら、水に対する溶解率が0.1質量%以下である疎水性有機物が、疎水性有機物含有ゾル溶液中に、凝集や析出することなく溶解可能なことが分かる。
【0126】
次に、疎水性有機物含有ゾル溶液(塗布液)中の第二溶媒(第三溶媒と同一)について比較する。
実施例1〜4に用いたジオキサン(環状エーテル系溶媒)またはジエチルホルムアミド(ホルムアミド系溶媒)の含有率は、全て61質量%であった。これらの実施例1〜4では、乾燥後の塗布膜に、外観上、色素の偏在は見られなかった。塗布膜の表面を顕微鏡で確認したところ、平滑な塗布膜であった。塗布膜のヘーズ率は、0.0〜0.2であり、散乱のないことが分かる。
【0127】
比較例2および比較例4では、第二溶媒(第三溶媒と同一)に、実施例1〜4に用いたジオキサンまたはジエチルホルムアミドに代えてエチルアルコールを用いた。比較例2および比較例4における、エチルアルコールの含有率は、どちらも61質量%であった。前述のように、これらの疎水性有機物含有ゾル溶液中には、疎水性有機物の凝集や析出は見られなかった。しかし、乾燥後の塗布膜に、外観上、色素(疎水性有機物)の偏在が見られた。また、塗布膜のヘーズ率は、それぞれ7.9と5.0であり、実施例1〜4よりも高かった。塗布膜の表面を顕微鏡で確認したところ、平滑な塗布膜であった。このことから、ヘーズ率の増加は、疎水性有機物の偏在部分での散乱に起因すると考えられる。
【0128】
疎水性有機物含有ゾル溶液(塗布液)中の第二溶媒(第三溶媒と同一)の含有率は、実施例1〜4と比較例2および比較例4とでは、差がない。つまり、比較例2および比較例4における、この疎水性有機物(色素)の偏在の原因としては、各溶媒または全ての溶媒に対する疎水性有機物の溶解性が低いことが考えられる。
【0129】
第二溶媒(第三溶媒と同一)の比較から、疎水性有機物の溶解性が高い溶媒を用いれば、疎水性有機物が偏在しない平滑な塗布膜を得ることができることが分かる。そして、このような溶媒としては、実施例1〜4に用いたような、環状エーテル系溶媒またはホルムアミド系溶媒を、好適に用いることができる。
【0130】
さらに、塗布膜の表面状態について比較する。
実施例5および実施例6において、第二溶媒(第三溶媒と同一)にはトルエンを用いた。実施例5は実施例1および実施例2に対応し、実施例6は実施例3および実施例4に対応している。実施例5および実施例6における疎水性有機物含有ゾル溶液(塗布液)中のトルエンの含有率は、実施例1〜4におけるジオキサン(環状エーテル系溶媒)あるいはジエチルホルムアミド(ホルムアミド系溶媒)と同じく、どちらも61質量%であった。
【0131】
実施例5および実施例6では、疎水性有機物溶解溶媒中および疎水性有機物含有ゾル溶液中に、疎水性有機物の凝集や析出は見られなかった。そして、乾燥後の塗布膜に、外観上、色素の偏在は見られなかった。しかし、実施例5および実施例6における塗布膜のヘーズ率は、それぞれ5.4と3.7であり、実施例1〜4よりも高くなった。これらの塗布膜の表面を顕微鏡で確認したところ、凹凸状の塗布膜となっていた。このことから、ヘーズ率の増加は、この凹凸形状による散乱に起因するものであることが分かる。実施例1〜4については、前述したように、色素の偏在の見られない平滑な塗布膜であった。
【0132】
塗布膜の表面に凹凸形状が形成された理由としては、乾燥過程(温度 200℃)で、溶液の均質化に働いていたイソプロピルアルコール(沸点 82.4℃)の減少にともない、テトラメトキシシランを原料とした金属化合物ゾルとトルエン(沸点 110.6℃)との間で、相分離が起こったことが考えられる。
【0133】
表面状態の比較から、金属化合物ゾル溶液と複数の溶媒との組み合わせにより、平滑または凹凸形状を有する疎水性有機物含有膜を製造可能なことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明に係る疎水性有機物含有物品は、着色や除菌のような機能を持った物品に好適に用いることができる。例えば、着色された低反射膜が表面に形成された車両用の窓ガラス物品に、好適に用いることができる。また、膜表面に凹凸形状を形成可能なので、着色された乱反射膜あるいは拡散透過膜に、好適に用いることができる。そして、この疎水性有機物含有物品は、分散剤を含まないので、安全性が求められるような物品に、好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】本発明の実施の形態に係る製造方法のフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解可能な金属化合物に、触媒と水とを加え、加水分解反応を起こさせて、少なくとも1種類の金属化合物ゾル溶液を調製し、
ここで、前記水の量を前記金属原子の価数に対応した所定範囲量とすることで、
前記金属化合物ゾル溶液に、少なくとも1種類の疎水性有機物を混合して溶解するようにしたことを特徴とする疎水性有機物含有ゾル溶液の製造方法。
【請求項2】
前記金属化合物を予め第一溶媒と混合した請求項1に記載の疎水性有機物含有ゾル溶液の製造方法。
【請求項3】
前記疎水性有機物を予め第二溶媒に混合して溶解した請求項1または2に記載の疎水性有機物含有ゾル溶液の製造方法。
【請求項4】
前記疎水性有機物含有ゾル溶液を第三溶媒と混合した請求項1〜3のいずれか1項に記載の疎水性有機物含有ゾル溶液の製造方法。
【請求項5】
前記金属化合物を、一般式、M(OR)nで表される金属アルコキシド(式中、Mは金属原子、Rはアルキル基、フェニル基、アセチル基、エーテル基、nは前記金属原子の酸化数である)とした請求項1〜4のいずれか1項に記載の疎水性有機物含有ゾル溶液の製造方法。
【請求項6】
前記水の量を前記金属アルコキシド1モル当たりn/2当量を中心に0.75〜1.25倍の範囲量とした請求項5に記載の疎水性有機物含有ゾル溶液の製造方法。
【請求項7】
前記水の量を前記nが4である金属アルコキシド1モル当たり1.5〜2.5当量とすることで、前記金属化合物ゾル溶液中に含まれる水分含有率を2.5質量%以下とした請求項6に記載の疎水性有機物含有ゾル溶液の製造方法。
【請求項8】
前記水の量を1.8〜2.1当量とすることで、前記水分含有率を1質量%以下とした請求項7に記載の疎水性有機物含有ゾル溶液の製造方法。
【請求項9】
前記疎水性有機物の水に対する溶解率を0.1質量%以下とした請求項1〜8のいずれか1項に記載の疎水性有機物含有ゾル溶液の製造方法。
【請求項10】
加水分解可能な金属化合物に、触媒と水とが加えられ、加水分解反応により、少なくとも1種類の金属化合物ゾル溶液が調製され、ここで、前記水の量が前記金属原子の価数に対応する所定範囲量とされたことによって、前記金属化合物ゾル溶液に、少なくとも1種類の疎水性有機物が混合溶解されてなる疎水性有機物含有ゾル溶液であって、
前記疎水性有機物含有ゾル溶液中の水分含有率が、2.5質量%以下であることを特徴とする疎水性有機物含有ゾル溶液。
【請求項11】
前記疎水性有機物含有ゾル溶液中の水分含有率が、1質量%以下である請求項10に記載の疎水性有機物含有ゾル溶液。
【請求項12】
前記疎水性有機物含有ゾル溶液は、環状エーテル系溶媒またはホルムアミド系溶媒を含み、前記溶媒の含有率が50質量%以上である請求項10または11に記載の疎水性有機物含有ゾル溶液。
【請求項13】
前記疎水性有機物の含有率が0.1〜1.8質量%である請求項10〜12のいずれか1項に記載の疎水性有機物含有ゾル溶液。
【請求項14】
加水分解可能な金属化合物に、触媒と水とを加え、加水分解反応を起こさせて、少なくとも1種類の金属化合物ゾル溶液を調製し、
ここで、前記水の量を前記金属原子の価数に対応した所定範囲量とすることで、
前記金属化合物ゾル溶液に、少なくとも1種類の疎水性有機物を混合溶解して疎水性有機物含有ゾル溶液を調製し、
前記疎水性有機物含有ゾル溶液を皮膜状に乾燥させてなる疎水性有機物含有物品の製造方法であって、
前記疎水性有機物含有物品中に含まれる前記疎水性有機物の含有率を0.01〜15質量%としたことを特徴とする疎水性有機物含有物品の製造方法。
【請求項15】
前記疎水性有機物含有物品を粉砕して鱗片状とした請求項14に記載の疎水性有機物含有物品の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−150300(P2006−150300A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−348023(P2004−348023)
【出願日】平成16年12月1日(2004.12.1)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】