説明

疲労強度向上に優れた金属の衝撃塑性加工処理用工具及び方法

【課題】 金属端部に存在する角部の疲労強度を向上させる衝撃塑性加工用工具および加工方法を提供する。
【解決手段】 頭部8から先端面に向けて徐々に外径が拡径される拡径状の衝撃塑性加工処理用工具において、先端5面は滑らかな曲面からなり、頭部8から先端5面に至るまでの側面の形状が指数関数形となるように拡径されてなる。このとき、頭部8から先端面に至るまでの側面2の形状が指数関数形となるように拡径されていてもよいし、先端面の曲率半径の最適化を図るようにしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車、家電製品、建築構造物、船舶、橋梁、建設機械、各種プラント、ペンストック等で用いられる鉄、アルミニウム、チタン、マグネシウムおよびこれらの合金等の金属からなる構造部材のうち、特にせん断加工等で形成される金属端部の角部の疲労強度を向上させる衝撃塑性加工処理用工具及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属(母材、および溶接や成形等の加工を受けた部分の両者を含む)に、溶接・プレス・切断・打ち抜きなどの加工が施され、その部材に繰返し荷重が作用すると、これらの加工部はその形状に起因する応力集中と引張残留応力の存在により疲労き裂発生の起点となり、疲労強度を低下させる。このような部位の耐久性を向上させることを目的に、これまでショットピーニング、レーザーピーニング、ウォータージェットピーニング、ハンマーピーニング、ニードルピーニング、ワイヤーピーニング、超音波衝撃処理などの衝撃塑性加工方法が用いられている。これらの衝撃塑性加工方法は、金属構造体に塑性変形を与えるエネルギ媒体である工具を被加工物に衝突させることにより塑性変形を付与する。
【0003】
しかし細長い棒状の先端工具を繰り返し衝突させるハンマーピーニング、ニードルピーニング、ワイヤーピーニング、超音波衝撃処理の各方法を用いて、せん断加工等で形成される金属端部の角部を処理する場合、工具の狙い位置が少しずれると衝突後の工具および衝撃塑性加工装置の位置及び反力が不安定になり、安定した処理を継続することが困難となる。また、角部への工具の衝突を維持するために工具先端の位置および装置全体の位置や方向を手動制御することは多大な労力を要する。このため、金属の疲労強度をより向上させるために、効果的な衝撃塑性加工を安定して実行し得る方法や装置を早急に案出する必要があった。
【0004】
衝撃塑性加工の工具については、金属部材の応力集中を低減させることを目的として超音波衝撃処理の工具先端の形状および概ねの曲率(0.5mm〜3.0mm程度)が特許文献1に開示されている。この特許文献1における開示技術では、深さ方向への塑性変形量が大きければ大きいほど導入される導入される圧縮力も増加するという知見に基づいて、超音波衝撃処理により形成される塑性変形量、疲労向上効果を工具の持つ曲率によって関連付けたものである。
【0005】
また杭打ち用工具として杭を横ずれさせることなく打撃させることを目的として先端工具の当接部に枠部を設けた工具が特許文献2に開示されている。この特許文献2の開示技術において、打撃部材は、杭の被打撃側端部に被さるようになっているので、打撃部材を杭に対して横ずれさせることなく打ち付けることができる。
【0006】
またさらに、複雑な形状の部材を他部材に打ち込むことを目的にして、工具の先端が回転自在に取り付けられた空気圧工具が特許文献3に開示されている。
【0007】
またさらに、衝撃塑性加工装置では無いが、先端が第一の曲率半径を持つ連続した複数の凸部により形成され、これら複数の凸部先端を結んだ線から第二の曲率半径を形成する表面硬化ローラーバニッシング用工具が、特許文献4に示されている。
【0008】
またさらに特許文献5および特許文献6では、せん断加工面の疲労強度改善方法が開示されており、特許文献5ではコイニング加工の硬さ上昇量および加工量を規定された方法が、特許文献6ではショットピーニングの投射角度およびバリ高さと幅の比を規定した方法がそれぞれ開示されている。
【0009】
またさらに、図15に示すように人力で金属を打撃することを目的としたたがねと呼ばれる工具が市販されている。このたがねは、ハンマー等で打ち付けるための頭部68から先端面65にかけて正面の形状は途中から幅広になるように形成されるとともに、側面の形状は途中から先細となるように形成されている。
【特許文献1】特開2003-113418号公報
【特許文献2】特開2002-317442号公報
【特許文献3】特開平8-150575号公報
【特許文献4】特開2003-145420号公報
【特許文献5】特開平6-57325号公報
【特許文献6】特開2004-83927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した開示技術のうち、特許文献1では溶接止端形状の改善を主目的として、工具先端の曲面の曲率半径が0.5mm〜3.0mm程度であると疲労強度向上効果が高いことが開示されている。しかし、せん断加工等で形成される金属端部の角部の疲労強度向上を図る上で、工具における最適な全体形状に関しては何ら言及されていない。
【0011】
また特許文献2では、杭を簡単に素早く打ち込むために当接部および枠部を設けた杭打ち用工具が開示されているのみであり、本願発明において問題としている金属端部の角部の疲労強度向上を図る上での工具の形状の最適化について何ら念頭に置くものではない。
【0012】
さらに、特許文献3では、工具先端が回転自在に取り付けられている空気圧工具が開示されているが、金属端部の角部の疲労強度向上を図ることを想定した構成とされていない。同様に特許文献4〜6も本発明の解決すべき課題とは異なり、これに応じた構成につき何ら開示はされていない。
【0013】
またさらに、図15に示すたがねは、作業者が片手に持ちハンマー等で頭部を叩くための工具であり、その先端は扁平化していることから、これを金属端部の角部に突き当てて打ち付けると、当該角部は不規則な形状に凹む場合が殆どであり、その疲労強度を向上させることは困難であるといえる。
【0014】
このため、せん断加工等で形成される金属端部の角部における疲労強度を向上させるために、効果的な衝撃塑性加工を安定して実行し得る方法や装置が従来より案出されていないのが現状であった。
【0015】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、金属端部に存在する角部の疲労強度を向上させる衝撃塑性加工用工具および加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の要旨とするところは、
【0017】
(1)頭部から先端面に向けて徐々に外径が拡径される拡径状の衝撃塑性加工処理用工具において、上記先端面は滑らかな曲面からなることを特徴とする疲労強度向上に優れた金属の衝撃塑性加工処理用工具、
【0018】
(2)頭部から先端面に至るまでの側面の形状が指数関数形となるように拡径されてなることを特徴とする上記(1)の疲労強度向上に優れた金属の衝撃塑性加工処理用工具、
【0019】
(3)上記(1)又は(2)記載の衝撃塑性加工処理用工具を用いて金属端部の角部を衝撃塑性加工する方法において、前記角部が形成する曲率半径Rとの間で、0.5≦r≦Rを満たすような曲率半径rからなる上記先端面を有する上記衝撃塑性加工処理用工具により衝撃塑性加工することを特徴とする疲労強度向上に優れた金属の衝撃塑性加工処理方法、にある。
【発明の効果】
【0020】
本発明は金属、およびそれが溶接、塑性変形などの加工を受けた部材の端部に存在する角部を、略ラッパ状の工具を用いて衝撃塑性加工処理を行うことにより、角部の形状緩和による応力集中の低減と、圧縮残留応力の付与が可能となって疲労強度をさらに向上させるため、材料、対象部材の種類によらず疲労強度を安定して向上させることが可能であり、その工業的意味は大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、発明を実施するための最良の形態として、疲労強度向上に優れた金属の衝撃塑性加工処理用方法について、図面を参照しながら詳細に説明をする。
【0022】
本発明者は、図6に示すように金属(被処理材)12をせん断加工等で切断した端部における角部9が疲労破壊の起点となりやすく、疲労強度を低下させる現象を衝撃塑性加工方法により解決すべく、工具1(1’)の形状を検討した。通常は図4(a)の縦断面図、図4(b)の側面図に示すように縦断面における側面2が直線3のみからなる円筒形の細長い工具1’が用いられるが、特に角部9が工具先端でうまく処理できるように工具1’の先端や衝撃塑性加工装置7の位置や方向を制御しない場合に、工具が横にそれて装置も振れることになり、安定した処理が困難な状況にあった。
【0023】
ちなみに、この衝撃塑性加工装置7は、ピストンロッド71の突出端に工具1’が取り付けられ、このピストンロッド71を例えば空気圧の供給等を利用して一定のストロークで高頻度に往復運動させることにより、工具1’を介して角部9に衝撃力を負荷するものである。
【0024】
また、仮に冶具等で衝撃塑性加工装置7が安定的に固定できた場合でも、工具の先端面の面積が小さいために1回の塑性変形による凹みが狭く、かつ深くなるため、角部を一様に滑らかに処理することが困難であり、図9のように従来工具1’を用いて被処理材12の角部9に衝撃塑性加工処理を行った後の角部9’は図10のように凹凸の顕著な面が形成され、疲労強度の向上は望めなくなることが判明した。しかしながら、工具を単に太径化させ、或いはその形状を複雑化させても、衝撃塑性加工装置7内の振動源からの振動エネルギを十分に被処理材に伝えることができず、十分な塑性変形が得られないという問題があった。特に超音波衝撃処理方法では、伝播する超音波の減衰を極力抑えることが、十分に塑性変形させる上で必要なことから、これら角部の衝撃塑性加工作業の安定性と衝撃塑性加工性を両立する工具形状の検討が必要であった。
【0025】
これらの相反する現象の解決手段を鋭意検討した結果、本発明者は、図1〜図3に示す形状からなる工具1を発明した。図1(a)〜図3(a)は、工具1の正面形状を示し、図1(b)〜図3(b)は、工具1の側面形状を示す。
【0026】
即ち、この工具1は、頭部8から先端面5に向けて徐々に外径が拡径される拡径状の衝撃塑性加工処理用工具である。この工具1は、先端の外径13が頭部8より大きい略ラッパ状の工具であって、かつ先端面5は滑らかな曲面からなる。ちなみに、この図1〜図3においては略ラッパ状の工具を例に挙げているが、これに限定されるものではなく、いかなる拡径状の形で構成されていてもよい。即ち、先端に向けて徐々に拡径されたラッパ状の工具であれば先端面5を滑らかにしつつ、しかも広く構成することが可能となることから、工具が多少横にずれても広い面積で角部を処理することが可能であり、また頭部8から先端面5に至るまでの側面2の形状を直線3および/または曲線4からなる形状にすることで、振動エネルギの減衰や、超音波衝撃処理における超音波の減衰を極力抑えることが可能となる。
【0027】
以下の説明において、衝撃塑性加工とは、ハンマーピーニング、ニードルピーニング、ワイヤーピーニング、超音波衝撃処理など、空気圧、超音波振動などをエネルギ源として、10Hz〜50KHzの周波数で先端工具が繰り返し発射され、被処理物に衝突させることにより塑性変形を付与する方法を包含するものである。また超音波衝撃処理とは、超音波発生機から発生された20〜50KHzの超音波振動をピン等の工具を介して対象物に押し当てて、塑性変形により表面形状の改善および残留応力の緩和・再配置等を行う処理である。
【0028】
縦断面の側面2の形状は、図1および図2に示すように直線3と曲線4を組み合わせた場合でも、円錐形のように直線であっても、図3のように曲線4のみであっても、あるいはそれらが滑らかに組み合わされている場合でも差し支え無い。
【0029】
なお、図5(a)、(b)に示すように曲線4’が特に指数関数形の場合に、超音波衝撃処理の場合には伝播する超音波の減衰がさらに小さくなる。
【0030】
このように本発明を適用した形状からなる工具1を利用して、例えば図7に示すように角部9に衝撃塑性加工処理を行った場合には図8のように加工後の角部9’は概ね滑らかにすることが可能となり、その結果、応力集中の低減、ならびに残留応力の圧縮化を図ることができ、高い疲労強度を得ることができる。
【0031】
また、先端面5は、振動エネルギの減衰や、超音波衝撃処理における超音波の減衰を極力抑えるため、滑らかな曲面からなることが必要である。
【0032】
先端面5の曲率半径6は、被処理材12の形状により選択すべきものであるので特に規定するものではないが、例えば図11に示すように被処理材12に曲率半径10がR(mm)の打ち抜き部11があり、その角部9を処理する場合には、工具の先端部の曲率半径6をr(mm)とするとき、
0.5R≦r≦R ・・・(1)
を満足するように工具を選定して衝撃塑性加工処理をすると、図12のような角部9の場合に、処理後の角部9’が図13に示すように連続して滑らかに処理できることを見出した。工具先端部の曲率半径6としてのrが0.5Rより小さいと1回の塑性変形による凹みの幅が狭く、かつ深くなるため、角部を連続して滑らかに処理することが困難となり、r≧0.5Rとすることが好ましい。しかし工具先端部の曲率半径6としてのrが被処理材の打ち抜き部の曲率半径Rよりも大きくなると、曲率をもつ角部のうち工具先端部に接触しない部分が生じるため、角部全般に滑らかに十分な塑性変形を与えることが困難になる。したがってr≦Rとすることが好ましい。
【0033】
なお、本発明の工具を衝撃塑性加工装置に取り付けて使用する場合の本数は特に限定するものではないが、打ち抜き部の角部を処理する場合には工具は1本の場合が好ましく、曲率半径の大きい、すなわち角部が直線状の場合には複数本の工具を並列に配置することによりさらに効率的な処理が可能となる。
【0034】
本発明では特に工具の先端面5における外径13の絶対値について規定していないが、かかる外径13が大きいと、金属に十分な塑性変形を与えるために大きな出力の装置を必要とし、操作性や可搬性に支障を来たす。しかし先端面5における外径13が小さいと、塑性変形を与える幅および断面積も小さくなり、処理表面の凹凸が顕著になるため応力集中が生じ、十分な疲労強度向上効果が得られない。したがってこれらの実用的な観点から工具先端の外径13はハンマーピーニングの場合、10mm〜40mm、超音波衝撃処理の場合、5mm〜20mmとすることが好ましい。
【0035】
また先端部の曲率半径6については凸型形状でその曲率半径が大きく滑らかなものが好ましい。一つの曲率半径で形成される半球状の先端であっても、複数の曲率半径からなる球殻状の先端であっても差し支え無い。先端部が複数の曲率半径からなる場合には、先端面の中心部分を含む曲率の半径を工具先端部の曲率半径6としてのrとする。
【0036】
またさらに工具の材質についても特に規定するものでは無く、金属に塑性加工を与えるのに十分な硬度を有する材質のものであればよく、工具鋼、セラミックスなどでも差し支え無い。
【0037】
本発明に係る衝撃塑性加工処理用方法による衝撃塑性加工処理が適用される対象は特に規定されるものではなく、鉄鋼、アルミニウムおよびその合金、チタニウム、マグネシウムおよびそれらの合金などの金属母材、およびそれらが溶接、せん断加工、塑性加工等により加工されたものであれば、板、管や形材ならびに複雑な形状の部材について、疲労破壊が問題になる箇所に対して適用することが可能である。
【0038】
本発明に係る衝撃塑性加工処理用工具は、拡径状の略ラッパ状の工具であり、図1〜3および図5に示すように軸対称形であることが望ましいが、図18(a),(b)に示すように横断面が楕円形のものや、図19(a),(b)に示すように横断面が直線と曲線からなる滑らかなものであれば、必ずしも軸対称形でなくても同様の効果が得られることは言うまでもない。
【実施例】
【0039】
表1に示す強度レベルおよび板厚の熱延鋼板を供試材として、図14に示す打ち抜き角部31を有する板状の試験片30を製作した。
[表1]

【0040】
この試験片30は、長手方向の長さが250mmで、また幅が90mmで構成され、その厚みは、2.3mm又は3.2mmからなる。この試験片30は、さらに中央部を打ち抜くことにより形成された打ち抜き各部31が形成されている。図14に示すように、打ち抜き角部31の曲率半径Rは、15mmであり、打ち抜き加工のクリアランスは板厚の9%とした。
【0041】
この試験片30の打ち抜き角部31に対し、表1に示す工具を用いて衝撃塑性加工処理を施し、更にその効果を検証すべく疲労試験を行った。表1は、工具1の形状として図1、3〜5に示す形状のうち何れを選択したのか示すとともに、工具1の頭部8側の外径、先端面5側の外径、先端面5の曲率半径6をmm単位で示すとともに、更に(1)式に適合する場合を“○”で、(1)式に適合しない場合を“×”で表示している。
【0042】
衝撃塑性加工処理として、ハンマーピーニングおよび超音波衝撃処理を選び、打ち抜き穴の表裏両面の角部9に適用した。周波数はそれぞれ、100Hz、27kHzとした。本発明の工具の形状は、図1、図3および図5に示す形状のものを用いた。図5の工具1は、頭部8から先端面5に至るまでの側面の形状が指数関数形となるように拡径されてなる曲線形状の工具であり、実施例No.4およびNo.18で用いたハンマーピーニング用の先端工具41を図16に、実施例No.14、28、32で用いた超音波衝撃処理用の先端工具42の形状を図17にそれぞれ示す。図16(a)、17(a)はそれぞれ正面図、また図16(b)、17(b)は、それぞれ側面図である。
【0043】
この先端工具41は、頭部8側の外径が12mmであり、工具の先端面5側の外径が30mmであり、さらに先端面5の曲率半径rを15mmとしている。さらに、この先端工具41における側面の形状は、図16に示すように、頭部8中央を原点45とし、この原点45からX軸、Y軸を取るとき、直線3は、Y=±2.5mm、さらに0≦x≦17.3mmの範囲にあり、また、曲線4は、Y=±{6+0.5*EXP(X−22.1)}で表される。
【0044】
また、先端工具42は、頭部8側の外径が5mmであり、工具の先端面5側の外径が20mmであり、さらに先端面5の曲率半径rを15mmとしている。さらに、この先端工具43における側面の形状は、図17に示すように、頭部8中央を原点45とし、この原点45からX軸、Y軸を取るとき、直線3は、Y=±2.5mm、さらに0≦x≦17.5mmの範囲にあり、また、曲線4は、Y=±{2.5+0.5*EXP(X−22.3)}で表される。
【0045】
衝撃塑性加工処理時間はいずれも試験片あたり20秒とした。比較のため、図4に示す従来工具による衝撃塑性加工を施した試験片、および衝撃塑性加工を全く施さない試験片も製作して疲労試験を行った。
【0046】
疲労試験は応力比(=最小荷重/最大荷重)を0.1とする片振り荷重制御疲労試験により行い、室温・大気中で図14の試験片長手方向に載荷を行った。荷重の制御が困難となる寿命を破断寿命として、破断寿命が200万回となる荷重範囲を鋼板の断面積(=板厚×試験片幅)で除した値を疲労強度として比較した。
【0047】
各試験片の疲労強度を同じく表1に示す。同じ板厚および強度レベルの材料の試験片で疲労強度を比較した場合、例えば440MPa級鋼の2.3mm厚に着目した場合に、打ち抜きまま(処理無し)のNo.53の疲労強度に対して、従来工具によるハンマーピーニングのNo.37,38では約15%の疲労強度向上効果にとどまるが、本発明の工具を用いた場合のNo.1〜4では従来工具よりさらに20%疲労強度が向上している。
【0048】
このうち指数関数形状を含む図5の工具No.4は他の本発明工具よりも15MPa以上疲労強度が向上している。またさらに(1)式を満足するNo.1、3,4に限れば25%の疲労強度向上であり、2.3mm厚の440MPa級鋼へのハンマーピーニングについて本発明が疲労強度向上に有効であることがわかる。
【0049】
超音波衝撃処理の場合には、従来工具のNo.39〜42は、打ち抜きままのNo.53より20%向上しているが、No.5〜14の本発明の工具を用いると従来工具よりさらに16%疲労強度が向上する。指数関数形状を含む図5の工具No.14は他の本発明工具よりも15MPa以上疲労強度が向上している。またさらに(1)式を満足するNo.6、7、8、10、13、14はいずれも従来工具より25%の疲労強度向上が認められ、2.3mm厚の440MPa級鋼への超音波衝撃処理においても本発明は有効であることがわかる。
【0050】
次に2.3mm厚の780MPa級鋼について着目すると、打ち抜きままのNo.54の場合、301MPaの疲労強度を示している。これに従来工具によるハンマーピーニングを施すと、No.43,44のように約10%の疲労強度向上が認められる。本発明の場合にはNo.15〜18に示すように従来工具よりもさらに21%の疲労強度向上が認められている。また指数関数形状の工具No.18は他の本発明工具よりも20MPa以上疲労強度が向上している。またさらに(1)式を満たす試験片No.15、17、18に限れば従来工具よりもさらに27%の向上しろが認められ、2.3mm厚の780MPa級鋼へのハンマーピーニングについても本発明の工具および(1)式の方法が有効であることが判明した。
【0051】
また同じく2.3mm厚の780MPa級鋼への超音波衝撃処理については、従来工具による超音波衝撃処理のNo.45〜48の場合、打ち抜きままよりも22%の疲労強度向上が認められたが、本発明の工具を用いることでNo.19〜28のように従来工具よりもさらに17%疲労強度が向上した。指数関数形状の工具No.28は他の本発明工具よりも20MPa以上疲労強度が向上している。(1)式の方法のNo.20、21、22、24、27、28では従来工具より23%向上しており、2.3mm厚の780MPa級鋼への超音波衝撃処理についても本発明の工具および(1)式の方法が有効であることが判明した。
【0052】
さらに3.2mm厚の440MPa級鋼への超音波衝撃処理については、従来工具による処理のNo.49,50の場合、打ち抜きままのNo.55における177MPaの疲労強度よりも27%の疲労強度向上が認められたが、本発明の工具を用いたNo.29〜32では従来工具よりもさらに15%の疲労強度向上効果があった。指数関数形状の工具No.32は他の本発明工具よりも15MPa以上疲労強度が向上しており、またさらに(1)式の方法であるNo.29、31、32では従来工具よりも19%向上している。このように3.2mm厚の440MPa級鋼への超音波衝撃処理についても本発明の工具および(1)式の方法が有効であることが判明した。
【0053】
またさらに3.2mm厚の780MPa級鋼への超音波衝撃処理については、従来工具による処理のNo.51、52の場合、打ち抜きままのNo.56における296MPaの疲労強度よりも24%の疲労強度向上が認められたが、本発明の工具を用いたNo.33〜36は従来工具よりもさらに19%の疲労強度向上効果が認められる。指数関数形状の工具No.36は他の本発明工具よりも20MPa以上疲労強度が向上している。また(1)式の方法であるNo.33、35、36では従来工具に対する向上しろは23%にもなり、3.2mm厚の780MPa級鋼への超音波衝撃処理についても本発明の工具および(1)式の方法が有効であることが判明した。
【0054】
このように、本発明の工具および方法は、金属のせん断加工端部角部への衝撃塑性加工処理に関して、明確な疲労強度向上効果を示した。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の工具の形状例を示す平面図および側面図である。
【図2】本発明の工具の別の形状例を示す平面図および側面図である。
【図3】本発明の工具の別の形状例を示す平面図および側面図である。
【図4】従来の工具の形状を示す平面図および側面図である。
【図5】本発明の工具の別の形状例を示す平面図および側面図である。
【図6】被処理材の角部に衝撃塑性加工処理を施す状態を示す図である。
【図7】本発明の工具によりせん断加工部端部の角部を衝撃塑性加工処理する状態を示す図である。
【図8】本発明の工具により衝撃塑性加工処理されたせん断加工部端部の角部を示す図である。
【図9】従来工具によりせん断加工部端部の角部を衝撃塑性加工処理する状態を示す図である。
【図10】従来工具により衝撃塑性加工処理されたせん断加工部端部の角部を示す図である。
【図11】打ち抜き部を有する被処理材を示す図である。
【図12】本発明の工具により打ち抜き部の角部を衝撃塑性加工処理する状態を示す図である。
【図13】本発明の工具により衝撃塑性加工処理されたせん断加工部端部の角部を示す図である。
【図14】本発明の実施例における疲労試験片の形状・寸法を表す平面図である。
【図15】従来の工具の例を示す正面図及び側面図である。
【図16】本発明の実施例における工具の形状例を示す上面図および側面図である。
【図17】本発明の実施例における工具の別の形状例を示す上面図および側面図である。
【図18】本発明の工具の別の形状例を示す平面図および側面図である。
【図19】本発明の工具の別の形状例を示す平面図および側面図である。
【符号の説明】
【0056】
1 工具
2 側面
3 直線
4 曲線
5 先端
6、10 曲率半径
8 頭部
9 角部
11 打ち抜き部
12 被処理材
13 外径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭部から先端面に向けて徐々に外径が拡径される拡径状の衝撃塑性加工処理用工具にお いて、
上記先端面は滑らかな曲面からなること
を特徴とする疲労強度向上に優れた金属の衝撃塑性加工処理用工具。
【請求項2】
頭部から先端面に至るまでの側面の形状が指数関数形となるように拡径されてなること
を特徴とする請求項1記載の疲労強度向上に優れた金属の衝撃塑性加工処理用工具。
【請求項3】
請求項1または2記載の衝撃塑性加工処理用工具を用いて金属端部の角部を衝撃塑性加工する方法において、
前記角部が形成する曲率半径Rとの間で、0.5≦r≦Rを満たすような曲率半径rからなる上記先端面を有する上記衝撃塑性加工処理用工具により衝撃塑性加工すること
を特徴とする疲労強度向上に優れた金属の衝撃塑性加工処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2007−69229(P2007−69229A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−257657(P2005−257657)
【出願日】平成17年9月6日(2005.9.6)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】