説明

疼痛を治療するための組成物および方法

【課題】組織損傷後の慢性疼痛、ならびに急性炎症モデルにおける急性疼痛の発生に対する生体膜シーリング剤の提供。
【解決手段】神経系への機械的傷害後の痛覚過敏および異痛症の重症度を軽減するための、この「生体膜シーリング剤」と呼ばれるクラスの薬剤の能力、ならびに急性炎症モデルにおいて急性疼痛を軽減するそれらの能力を証明する。傷害後(すなわち、損傷後または手術後)に、しかし急性または慢性疼痛の発生前に投与することができるような、予防的治療のための生体膜シーリング剤の注射可能な、またはデポー製剤の使用を説明する。あるいは、生体膜シーリング剤を使用して、急性または慢性疼痛の発症後の重症度を軽減することができる。

【発明の詳細な説明】
【関連する出願に対する相互参照】
【0001】
本出願は、2005年5月31日に出願された、仮出願番号60/685,831の利益を主張する。
【技術分野】
【0002】
本発明は急性または慢性疼痛に関連する状態を治療する方法および組成物に関する。
【発明の背景】
【0003】
疼痛は非常に多数の医学的状態に関連し、多くのアメリカ人を冒している。American Pain Foundationにより報告されたように、関節(関節炎または他の障害)および背部痛に冒されている60歳以上の人の20%を含む、5千万人を越えるアメリカ人が慢性疼痛を患う。その上、ほぼ2500万人のアメリカ人が毎年損傷または外科的処置による急性疼痛を経験する。疼痛の処置に含まれる費用は毎年1千億ドルと推定されている。疼痛はその経済的負担に加え、冒された人の生活の質に多大な影響を及ぼし、身体障害の最も一般的な原因の1つである。
【0004】
したがって、急性および慢性疼痛を治療する、改善された方法および組成物がこれらの衰弱状態を緩和するために所望される。
心臓血管機能および血流に悪影響を与える状態は、中央および西ヨーロッパの国々で実質的に増加していて、依然として西欧人口における早期死亡の主要な原因となっている。例えば、動脈への沈着物またはプラークの形成を含むアテローム性動脈硬化症は1992年に約百万人の死亡を引き起こし‐癌に由来するものの2倍、そして事故に由来するものの10倍‐にもなる。著しい医学的進歩にもかかわらず、冠状動脈疾患(アテローム性動脈硬化症に起因し、心臓発作を引き起こす)およびアテローム硬化型脳卒中は、すべての他の原因を合わせたものより多い死亡の原因となっている。
【0005】
したがって、心臓血管要素および血流に悪影響を与える状態を治療するための改善された方法および組成物に対する緊急の必要性が存在する。
発明の概要
本発明は疼痛を治療するか、または予防するために有用な、少なくとも1種の生体膜シーリング剤からなる装置、方法、および組成物を提供することにより、この、および他の前述の必要性を満足させる。
【0006】
その上、損傷を受けた心臓血管要素を治療する改善された方法および組成物が所望される。
本発明は、急性および慢性疼痛に関連した状態、ならびに損傷を受けた心臓血管要素および損なわれた血流に関連した状態の治療のための改善された組成物および方法を提供することにより、多様な前述の必要性を満足させる。
【0007】
一側面において、本発明は急性または慢性疼痛に関連した病的状態、ならびに損傷を受けた心臓血管要素を治療するための、少なくとも1種の生体膜シーリング剤を含有する組成物を提供する。一態様において、少なくとも1種の生体膜シーリング剤は注射可能な製剤の状態で送達される。別の態様において、少なくとも1種の生体膜シーリング剤は10%より多い注射可能な製剤を含有する。本発明の別の態様において、組成物はゲルを形成する能力がない。
【0008】
本発明の異なる態様において、少なくとも1種の生体膜シーリング剤はポリオキシエチ
レン、ポリアルキレングリコール、ポリ(エチレングリコール)またはPEG、ポリビニルアルコール、プルロニック、ポロキサマー、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルスターチ、ポリビニルピロリドン、デキストラン、ポロキサマーP−188、ポリ(ポリエチレングリコールメタクリレート)、ポリ(グリセロールメタクリレート)、ポリ(グリセロールアクリレート)、ポリ(ポリエチレングリコールアクリレート)、ポリ(アルキルオキサゾリン)、ホスホリルコリンポリマー、ポリメタクリレートナトリウムおよびカリウム、ポリアクリレートナトリウムおよびカリウム、ポリメタクリル酸およびポリアクリル酸、ならびにいずれかのその組み合わせからなる群から選択される。
【0009】
さらに別の側面において、本発明は疼痛に関連した病的状態、または損傷を受けた心臓血管要素を治療する方法を提供し、該方法は治療的有効量の少なくとも1種の生体膜シーリング剤をそのような治療が必要な対象に送達することを含む。一態様において少なくとも1種の生体膜シーリング剤が注射可能な製剤の状態で送達される。別の態様において、少なくとも1種の生体膜シーリング剤は10%より多い注射可能な製剤を含有する。本発明の別の態様において、組成物はゲルを形成する能力がない。
【0010】
さらに別の側面において、本発明はたとえばPEGのような生体膜シーリング剤がまた、生理活性物質の有益な作用を増強してもよいことを提供する。異なる態様において、そのような生理活性物質には神経伝達物質および受容体モジュレーター、抗炎症剤、酸化防止剤、抗アポトーシス剤、抗痴呆および成長剤;脂質形成および輸送のモジュレーター、抗血小板および抗凝固剤、抗新生物剤および細胞分割を妨害する薬剤、血流モジュレーターならびにいずれかのその組み合わせが挙げられる。
【0011】
さらに、異なる態様において、少なくとも1種の生体膜シーリング剤および少なくとも1種の生理活性物質は、静脈内投与、筋肉内投与、くも膜下投与、皮下投与、関節内投与、硬膜外投与、非経口投与、病的状態の部位への直接適用、植え込みデポー、およびいずれかのその組み合わせからなる群から選択される方法によって送達されてもよい。本発明のある側面は、血管周囲、経血管または適切なカテーテルを使用したステントからの制御されたカテーテル局所送達のような血管送達の様式を準備する。
【0012】
好ましくは、生体膜シーリング剤を使用して、糖尿病性およびアルコール性ニューロパシーのような代謝性ニューロパシー、治療後神経痛、複合局所疼痛症候群ならびに脳卒中、外傷性脳、または脊髄損傷のような中枢神経系に対する外傷性傷害に由来する他の疼痛症候群、座骨神経痛のような機械的または生化学的神経傷害に由来する疼痛、手根管症候群、幻肢痛、多発性硬化症のような変性状態に関連する疼痛、関節炎および他の関節疾患を含む、慢性疼痛要素を示す種々の臨床状態を治療することができる。
【0013】
本発明の別の側面は、外傷性傷害に由来するか、または外科的および侵襲性治療的介入に由来する、損傷を受けた、または炎症を起こした組織に関連した急性疼痛の治療を準備する。
【0014】
本発明のある側面は、例えばアテローム硬化型病変、易損性プラーク、および急性心筋梗塞のような心臓血管徴候の治療を準備する。
本発明の一側面はアテローム硬化型病変のバイオシーリングを準備する。本発明のこの側面はまた、バイオシーリング剤および抗炎症剤の組み合わせを準備する。
【0015】
本発明の別の側面は血栓形成(血小板沈着)を減少させるためのプラーク領域のバイオシーリングを準備する。
本発明の別の側面は損傷および酸化に関連した傷害を軽減するためのaMI中、および
その後のバイオシーリングを準備する。
【0016】
一側面において、本発明は少なくとも1種の生体膜シーリング剤からなる疼痛を治療するか、または予防するために有用な組成物を提供し、ここで少なくとも1種の生体膜シーリング剤はポリ(エチレングリコール)、ポリアルキレングリコールを含有するブロックコポリマー、ポリアルキレングリコールを含有するトリブロック、ポリアルキレンオキシドを含有するブロックコポリマー、ポリアルキレンオキシドを含有するトリブロック、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デキストラン、ポロキサミン、プルロニックポリオール、ジメチルスルホキシド、ヒドロキシエチルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリ(ポリエチレングリコールメタクリレート)、ポリ(グリセロールメタクリレート)、ポリ(グリセロールアクリレート)、ポリ(ポリエチレングリコールアクリレート)、ポリ(アルキルオキサゾリン)、ホスホリルコリンポリマー、ポリメタクリレートナトリウムおよびカリウム、ポリアクリレートナトリウムおよびカリウム、ポリメタクリル酸およびポリアクリル酸、ならびにその組み合わせからなる群から選択される。
【0017】
本発明の一態様において、少なくとも1種の生体膜シーリング剤はポリ(エチレングリコール)である。
別の側面において、本発明は少なくとも1種の生体膜シーリング剤からなる疼痛を治療するか、または予防するために有用な組成物を提供し、ここで少なくとも1種の生体膜シーリング剤は約1,400〜約20,000Daの分子量を有するポリ(エチレングリコール)である。
【0018】
本発明の一態様において、少なくとも1種の生体膜シーリング剤は線状またはマルチアーム構造を有する。
別の側面において、本発明は非経口投与、静脈内、皮下、筋肉内、関節内、くも膜下および硬膜外投与により、有効量の少なくとも1種の生体膜シーリング剤を対象に投与することを含む、疼痛を治療するか、または予防するための方法を提供する。
【0019】
別の側面において、本発明は損傷後に、外科手術または治療的介入と同時に、またはその後に、しかし急性または慢性疼痛の発症前に、有効量の少なくとも1種の生体膜シーリング剤を投与することを含む、対象における疼痛を予防する方法を提供する。
【0020】
別の側面において、本発明は非経口投与、静脈内、皮下、筋肉内、関節内、くも膜下および硬膜外投与により有効量の生体膜シーリング剤を、疼痛の発症を患う対象に投与することを含む、対象における急性または慢性疼痛発症後の症状の重症度を軽減するための方法を提供する。
【0021】
別の側面において、本発明は対象における慢性疼痛発症後の症状の重症度を軽減するための方法を提供し、ここで対象は糖尿病性ニューロパシー、アルコール性ニューロパシー、治療後神経痛、複合局所疼痛症候群、脳卒中、外傷性脳損傷、脊髄損傷、座骨神経痛、手根管症候群、幻肢痛、多発性硬化症、関節炎および他の関節疾患を患っている。
【0022】
一側面において、本発明は外傷性傷害に由来するか、または外科的および侵襲性治療的介入に由来する急性疼痛の発症後の症状の重症度を軽減するための方法を提供する。
一側面において、本発明は本質的に少なくとも1種の生体膜シーリング剤からなる、疼痛を治療するか、または予防するための組成物を提供する。
【0023】
一態様において、本発明は本質的に少なくとも1種の生体膜シーリング剤からなる、疼痛を治療するか、または予防するための組成物を提供し、ここでは少なくとも1種の生体
膜シーリング剤はポリエチレングリコールである。
【0024】
別の態様において、本発明は本質的に少なくとも1種の生体膜シーリング剤からなる疼痛を治療するか、または予防するための組成物を提供し、ここでは少なくとも2種の生体膜シーリング剤が投与される。
【0025】
別の態様において、本発明は本質的に少なくとも1種の生体膜シーリング剤からなる、疼痛を治療するか、または予防するための組成物を提供し、ここでは少なくとも2種の生体膜シーリング剤が同時に、または順次投与される。
【0026】
別の態様において、本発明は本質的に少なくとも1種の生体膜シーリング剤からなる、疼痛を治療するか、または予防するための組成物を提供し、ここでは投与が反復される。発明の詳細な説明
本発明において、出願者らは組織損傷後の慢性疼痛、ならびに急性炎症モデルにおける急性疼痛の発生に対する生体膜シーリング剤、ポリ(エチレングリコール)の作用を説明する。出願者らは機械的および化学的組織損傷後の痛覚過敏および/または異痛症の重症度を軽減するための「生体膜シーリング剤」と呼ばれるこのクラスの薬剤の能力を証明した。出願者らは損傷を受けた動物において、損傷を受けた血管壁上に蓄積し、正常な血流および平均動脈圧の回復を助けるための生体膜シーリング剤の能力を示す。出願者らは侵襲性治療的介入と同時に、または傷害の後(すなわち、損傷後または手術後)に、しかし急性もしくは慢性疼痛または心臓血管疾患の発症前に投与することができるような、予防的治療のための生体膜シーリング剤の注射可能な製剤の使用を説明する。あるいは、生体膜シーリング剤を使用して、発症後の症候性病的疼痛および心臓血管疾患の重症度を軽減することができる。
【0027】
本発明の理解を助けるために、以下の限定的でない定義が提供される:
疾患を「治療すること(treating)」または疾患の「治療(treatment)」という用語はプロトコルを実施することを表し、それには疾患の徴候または症状を緩和しようとして1種以上の薬物を患者(ヒトまたはヒトでないもの)に投与することを含んでいてもよい。緩和は疾患出現の徴候または症状の前に、およびそれらの出現の後に起こりうる。したがって、「治療すること」または「治療」には疾患を「予防すること」またはその「予防」が包含される。その上、「治療すること」または「治療」には徴候または症状の完全な緩和を必要とせず、治癒を必要とせず、そして患者に対して最低限の作用を有するだけのプロトコルを明確に包含する。
【0028】
「対象」という用語は、本発明の方法および/またはキットが使用される生存または培養システムを包含する。該用語は限定することなしに、ヒトを包含する。
「専門家」という用語は、対象に対して本発明の方法、キット、および組成物を実践する人間を意味する。該用語には、限定することなしに、医師、他の医療従事者、および研究者が包含される。
【0029】
異痛症および痛覚過敏は、疼痛症状および疼痛によって冒された身体領域の程度を定義するために使用される用語である。
したがって、「異痛症」という用語は、通常では有痛の反応を引き起こさない刺激に起因する疼痛を表す。
【0030】
「痛覚過敏」という用語は、通常の有痛刺激に対する感受性増大を表す。一次痛覚過敏は損傷に直に接した領域を冒す。
「急性疼痛」という用語は急性事象に起因し、一般に数日〜数週の期間をかけて強度が減少する疼痛を表す。
【0031】
「慢性疼痛」という用語は、急性または反復した事象に起因し、一般に数週〜数年の期間をかけて強度が増大する疼痛を表す。
「損傷を受けた」という用語は、制限することなしに、炎症ならびに生物学的物質およびフリーラジカルの病的沈着のような機械的、化学的および生物学的傷害を含む、急性または反復した傷害に由来する状態を表す。
【0032】
「心臓血管要素」という用語は、心臓ならびに動脈、静脈および毛細血管を含む血管を表す。
「生理活性物質」という用語は、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、抗体、抗体フラグメント、DNA、RNAおよび細胞を含む、化学的化合物および生物学的化合物を表す。
【0033】
生体膜シーリング剤、マーカー、および生理活性物質を含む化学的化合物へのすべての言及は、限定することなしに、これらの化学的化合物のすべての形態(すなわち、塩、エステル、水和物、エタノール付加物など)を包含し、ここで上記の形態はそれぞれの化学的化合物の少なくとも部分的な活性を備える。
急性および慢性疼痛の徴候
身体的疼痛には2種の形態:急性および慢性が存在する。急性疼痛は、通例、疾患、炎症、または組織への損傷に起因する。それは、侵害ニューロンとしても公知の感覚線維の活性化によって媒介される。侵害性疼痛は通常、例えば外傷後または術後疼痛の場合のように、治癒後に消失する。不幸なことに、一部の個体では、感覚ニューロンの感受性を増す病的変化が起こる。それらの場合、徴候性疼痛が慢性になることが可能であり、初期の傷害後、数ヶ月あるいは数年さえも持続する。
【0034】
機械的、化学的または生物学的性質の急性傷害は慢性疼痛の発生を引き起こしうる。それはまた、例えば慢性炎症反応または自己免疫疾患に起因する持続的な、進行中の組織損傷に関連した種々の慢性状態に由来してもよい。
【0035】
疼痛および疼痛によって冒された領域の範囲は、異痛症および痛覚過敏の測定によって定義することができる。異痛症は通常では有痛反応を引き起こさない刺激に起因する疼痛として定義される。痛覚過敏は通常、有痛刺激に対する感受性増大として定義される。一次痛覚過敏は損傷のすぐ近くの領域を冒す。二次痛覚過敏または関連痛という用語は、通常増感が損傷の周りの、より広範な領域に拡張されている場合に使用される。
【0036】
疼痛には、内部器官の場合の内蔵(visceral)、および末梢組織の場合の体性(somatic)の2種の主要な様式がある。体性感覚は、脊椎を裏打ちする後根神経節中に核を有するAおよびC感覚線維により、末梢から中枢神経系まで中継される。一先端において、これらのニューロンは組織中に埋め込まれた、圧、温度およびpHを含む多様な刺激に反応しうる「侵害受容器」と呼ばれる受容体を持つ。これらの線維はトランスデューサーとして作用し、刺激を侵害インパルスに変換し、それらは即座に脊髄に位置する投射ニューロンに伝達される。これらの投射ニューロンはその後脳幹、視床および他の脊柱上構造を経て脳に感覚シグナルを伝達し、シグナルは最終的に皮質脳感覚領域に到達することになる。
【0037】
神経線維によって運ばれる有痛感覚の認識および中継は、末梢の末端、中間レベル、たとえば脊髄、脳幹、視床および他の脊柱上構造において、または大脳皮質においてさえも調節することができる。増大した感覚情報および疼痛への転換は、感覚末端数の増加のような直接機序、およびそれらの受容体の発現および/または増大した感受性によって成し遂げることができる。脳への感覚情報の中継はまた、介在ニューロン、上行および/また
は下行神経線維によって、直接的、または間接的に調節することができる。炎症、血流障害および/または血液‐CNS‐障壁の特徴の変化は、急性および慢性疼痛の出現および/または重症度に影響を与えることができる。
【0038】
臨床的には、これらの変化は有害刺激への反応増大(痛覚過敏)、通常は無害な刺激に対する有痛の反応(異痛症)、一過性刺激後の持続的な疼痛(持続疼痛)、および/または損傷を受けていない組織への疼痛の蔓延(すなわち、関連痛)として現れてもよい。
【0039】
慢性疼痛の病因には、神経根障害、神経叢障害、末梢神経病変、複合局所疼痛症候群および中枢痛が挙げられる。慢性疼痛に関連した臨床状態の例としては、糖尿病性およびアルコール性ニューロパシーのような代謝性ニューロパシー、治療後神経痛、例えば脳卒中、外傷性脳、脊髄または尾側ウマ(equine)損傷のような中枢神経系への外傷性傷害に由来する疼痛症候群、座骨神経痛、手根管症候群、幻肢痛のような機械的または生化学的神経傷害に由来する疼痛、多発性硬化症、関節炎および他の関節疾患のような変性状態に関連する症候性疼痛が挙げられる。
【0040】
付加的な臨床状態としては、外科的または他の侵襲性介入に由来する急性または慢性症候性疼痛、ならびに末梢神経または非神経組織の損傷に由来する急性または慢性疼痛が挙げられることになる。
【0041】
炎症は組織壊死要素を含む状態に対する身体の自然な保護反応である。組織壊死は機械的、化学的、生物学的または生化学的傷害に由来しうる。炎症要素を伴う臨床状態には、外傷性組織損傷、外科手術、侵襲性治療的介入、関節炎および他の関節疾患のような変性疾患、ならびに刺激状態、過敏症、および自己免疫反応が挙げられる。
【0042】
この生得の「防御」プロセス中の、血流および毛細血管透過性の局所的増大が炎症領域における体液、タンパク質および免疫細胞の蓄積を引き起こす。これらの細胞の一部は、ヒスタミン、サイトカイン、ブラジキニンおよびプロスタグランジンを含む炎症のケミカルメディエーターを放出することができ、それが炎症部位にさらに多くの免疫細胞を引きつけ、および/または冒された領域内の疼痛線維の感受性を増大させることができる。身体がこの保護反応を行うに従い、炎症症状が発生する。これらの症状には、限定することなしに、疼痛、腫脹、および皮膚の暖かさおよび赤み増大が挙げられる。炎症反応は厳密に制御されなければならず、さもなければそれは組織壊死ならびに急性および慢性疼痛状態の発生を招く可能性がある。
【0043】
例となる炎症誘発性分子には、サイトカイン、ケモカイン、神経ペプチド、ブラジキニン、ヒスタミンおよびプロスタグランジンが挙げられる。適切な活性成分としては、ステロイド、非ステロイド抗炎症薬、COX阻害剤、TNF‐アルファまたはIL−1サイトカインレベルまたは受容体のモジュレーターを挙げてもよい。
【0044】
組織損傷後に維持された神経活動レベルの増大と慢性疼痛発生の発現率減少の間には直接かつ正の相関は存在しないことは明らかである。それとは反対に、研究は神経傷害の重症度と慢性疼痛症候群の発生間の逆の関連を報告している。例えば、外傷後頭痛は、重度ないし中等度の脳損傷の場合に比較して、軽度な脳損傷の場合にいっそう起こりやすい。同様に、脊椎損傷により冒された集団では、慢性疼痛を発生するリスク増大は、いっそうひどく損なわれた場合に比較して、より軽度な状態に関連している(Nepomuceno et al.,1979、Davidoff et al.,1987:Demirel et al.,1998)。それらの研究において、慢性疼痛発生の発現率は四肢麻痺患者に対して対麻痺において、そして完全な脊髄損傷患者に対して不完全な脊髄損傷患者においていっそう高かった。その上、完全な集団内で、若干の測定可能な脊髄損傷を
越えた伝達がある個体だけが、損傷より下方で疼痛を経験する可能性があるが、疼痛のない患者の大部分は傷害部位より下方では残余の神経機能を持たなかったことは明らかである(Beric,1997)。それらの状態において、神経系への直接または間接損傷後の神経活動の回復を高めることができる療法が、そのような患者における病的疼痛の出現または重症度の潜在的な軽減を暗示することにはならない。
【0045】
広範な病因に由来する症候性疼痛を有する患者は、急性または慢性異痛症および痛覚過敏に冒される。有痛(痛覚過敏)または通常は無痛である(異痛症)刺激に対する感受性の変化をモニターするために、特定のスコアリングシステムが開発されてきた。これらの定量的感覚試験(Quantitative Sensory Test)(QST)は、疼痛症候群患者において誘発された疼痛を評価することにおける、一般に好まれる新規な方法になりつつある。QSTは、SCIおよび脳卒中(Attal et al.,2000;Attal et al.,2002;Finnerup et al.,2005)、外科手術または他の侵襲性治療、骨折のような損傷、帯状疱疹および治療後神経痛の発生(Leung et al.,2001)、幻肢痛ならびに突発性ニューロパシー(Attal et al.,1998)を含む、中枢および/または末梢神経要素への傷害後に急性または慢性疼痛症状を発症した患者に対して種々の薬物を試験するために使用されてきた。
【0046】
組織損傷の動物モデルにおける急性および慢性異痛症および痛覚過敏をモニターするためのスコアリングシステムは疼痛の感覚に関与する機序を研究するために、および可能性のある治療法を試験するために広範に使用されてきた。より最近では、類似のスコアリングシステムが、中枢神経系への損傷後に発症しうる疼痛症候群に適用されている(Gris,et al.,2004;Hao et al.,2004)。
【0047】
ヒトおよび動物の両方において、高胸部および頸部脊髄損傷のような組織損傷はしばしば低血圧、または低下した静止時平均動脈血圧に帰着し、それが組織潅流を減らし、機能的回復および起立耐性を損なう可能性がある。
【0048】
自律神経異常反射はまた、脊椎損傷に伴う一般的で潜在的に致命的な状態であり、損傷レベルより下方の刺激に反応した血圧の大きな増加;最も一般的には膀胱または腸膨張が特徴である。
生体膜シーリング剤
40年より長い間、種々の分子量の生体膜シーリング剤は流体‐力学的損傷から細胞を保護する能力のために、培地への添加物として利用されてきた。これらの物質には、ポリオキシエチレン、ポリアルキレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコールのような親水性ポリマー、プルロニックまたはポロキサマーのような両親媒性ポリマーが挙げられ、ポロキサマーP−188(CRL−5861としても公知、CytRx Corp.,Los angels,CAから入手可能)(Michaels and Papoutsakis,1991)ならびにメチルセルロース(Kuchler et al.,1960)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルスターチ、ポリビニルピロリドン、およびデキストラン(Mizrahi and Moore,1970;Mizrahi,1975;Mizrahi,1983)を含む。
【0049】
ヒドロキシエチルスターチ(Badet et al.,2005)およびPEG(Faure J.P.,et al.,(2002)Polyethylene glycol reduces early and long−term cold ishchemiareperfusion and renal medulla injury.J Pharmacol Exp Ther Sep;302(3):861−70
;Hauet et al.,2001)を含むいくつかの生体膜シーリング剤は、臓器移植研究において効果的な凍結保存能を示している。ポロキサマーP−188および中性デキストランは筋肉細胞をエレクトロポレーションまたは熱処理による細胞膜透過化から保護した(Lee et al.,1992)。PEGの直接適用は、横に切断された、または押しつぶされた軸索(Bittner et al.,1986)、末梢神経(Donaldson et al.,2002)およびin vitro(Lore et
al.,1999;Shi et al.,1999;Shi and Borgens,1999;Shi and Borgens,2000;Luo et al.,2002)またはin vivo(Borgens et al.,2002)での脊髄標本の神経活動を増加させることが示された。PEGまたはポロキサマーP−188の静脈内または皮下投与はモルモットにおける実験的脊髄挫傷後の皮膚体幹筋(cutaneous trunchi muscle)反射反応を増大させ(Borgens and Bohnert,2001;Borgens et al.,2004)、そしてイヌにおける自然発症脊髄損傷モデルの神経活動を増大させた(Laverty et al.,2004)。線状またはマルチアーム構造を有する1,400〜20000Daまでの種々の分子量のPEGは、組織損傷後の神経活動を増大させることが示された(Hauet et al.,2001;Detloff et al.,2005;Shi et
al.,1999)。
【0050】
生体膜シーリング剤は、局所的および長期細胞暴露、直接および短期組織または器官暴露または全身投与を含む、異なる様式の送達後に有効になりうる。生体膜シーリング剤の有効な濃度は、目的および/または送達様式に依存して変化してもよい。例えば、約0.05%の濃度は組織培養への適用に有効であり(Michaels and Papoutsakis,1991)、そして約30%〜約50%の濃度は器官保存のために、および動物におけるin vivoでの適用に効果的である(Hauet et al.,2001;Shi et al.,1999;Borgens and Bohnert,2001;Borgens et al.,2004)。
【0051】
先に述べたように、組織損傷後に維持された神経活動レベルの増大と慢性疼痛発生の発現率の減少間には直接かつ正の相関が存在しないことは明らかである。例えば、より軽度な損傷はSCIおよびTBI患者における慢性疼痛の発症率増加に関連してきた(Lahz and Byrant,1996;Uomoto and Esselman,1993;Beetar et al.,1996;Nepomuceno et al.,1979、Davidoff et al.,1987:Demirel et al.,1998)。その上、SCI患者において、脊髄損傷を越えたある程度の神経機能が、損傷のレベルまたはそれより下方での慢性疼痛の発生のための必要条件であることが示唆されている(Beric,1997)。
【0052】
臨床場面では、神経系への損傷の場合、急性および亜急性介入は、致命的な損傷の場合には患者の生命を維持することに対し、そして一般には神経機能の保存に向けられる。言い換えると、「看護のあり方」は、損傷後およびリハビリテーションプログラム中に取り戻される感覚、運動および認知機能の量に焦点を合わせることになる。新規に取り戻された神経活動における病的機能障害の出現をモニターすることは、あまり重視されない。おそらくそれに対する主な理由は、多くの患者がリハビリテーションセンターを去る前にこれらの病的機能障害が明確に現れないことである。例えば、SCI治験の大部分は、急性治療または送達された薬物の作用を評価するためにASIAスコアを使用してきた。ASIAスコアは感覚および運動機能をモニターすることを想定しているが、病的疼痛症候群の発生および/または重症度を検討しない。同じ様に、SCIモデルにおけるPEGの作用を評価する動物研究は、一般に運動および感覚機能の回復に注目し、それらは損傷後の病的疼痛症候群の出現を検討しなかった(Borgens et al.,2002;L
averty et al.,2004)。反対に、それらの特有の実験環境内では、最も強い反応に最も高い回復スコアを与えられるように、動物の背中、肢または脚の指を、軽くさわること、鋭くつまむことおよび/または強く締め付けることに対する強い反応(攻撃的な行動を含む)が正の反応と考慮された。これらの状態では、通常の感覚機能の回復と異常な/病的疼痛症候群の発生を識別することは不可能であったであろう。
【0053】
先に説明したように、広範な病因に由来する神経障害性疼痛を患う患者は、慢性異痛症および痛覚過敏に冒される。最近、有痛(痛覚過敏)または通常は無痛である(異痛症)刺激に対する感受性の変化をモニターするために、特定のスコアリングシステムが開発され、臨床環境で適用されている。これらの定量的感覚試験(Quantitative Sensory Test)(QST)は、神経障害性疼痛症候群の患者において誘発された疼痛を評価することにおける優れた方法になりつつある。QSTは、脊髄損傷および脳卒中(Attal et al.,2002;Attal et al.,2000)、外科手術または他の侵襲性治療、骨折のような損傷、帯状疱疹および治療後神経痛の発生(Leung et al.,2001)、幻肢痛ならびに突発性ニューロパシー(Attal et al.,1998)を含む、中枢および/または末梢神経要素への傷害後に慢性疼痛症状を発生した患者に対して種々の薬物を試験するために使用されてきた。末梢損傷または炎症の動物モデルにおける異痛症および痛覚過敏をモニターするためのスコアリングシステムは、慢性疼痛発生に関与する機序を研究するために、および可能性のある治療法を試験するために広範に使用されてきた。さらに最近では、類似のスコアリングシステムが、中枢神経系への損傷後に発生しうる疼痛症候群に適用されている(Gris,et al.,2004;Hao et al.,2004)。類似のスコアリングシステムはまた、炎症の急性動物モデルにおいて疼痛を測定するために使用されている。生理活性物質
酸化防止剤の適切な例としては、限定することなしに、フリーラジカルスカベンジャーおよびキレート化合物、酵素、補酵素、スピン‐トラップ剤、イオンおよび金属キレート化合物、フラボノイドのような脂質過酸化阻害剤、N−tert−ブチル−アルファ−フェニルニトロン、NXY−059、エダラボン、グルタチオンおよび誘導体、ならびにいずれかのその組み合わせが挙げられる。
【0054】
適切な抗炎症化合物としてはステロイドおよび非ステロイド構造の両方の化合物が挙げられる。
ステロイド抗炎症化合物の適切な限定的でない例としては、ハイドロコーチゾン、コルチゾール、ヒドロキシトリアムシノロン、アルファ‐メチルデキサメタゾン、リン酸デキサメタゾン、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、吉草酸クロベタゾール、デソニド、デスオキシメタゾン、酢酸デスオキシコルチコステロン、デキサメタゾン、ジクロリソン、二酢酸ジフロラゾン、吉草酸ジフルコルトロン、フルアドレノロン、フルクロロロンアセトニド、フルドロコーチゾン、ピバル酸フルメタゾン、フルオシノロンアセトニド、フルオシノニド、フルコルチンブチルエステル、フルオコルトロン、酢酸フルプレドニデン(フルプレドニリデン)、フルランドレノロン、ハルシノニド、酢酸ハイドロコーチゾン、酪酸ハイドロコーチゾン、メチルプレドニソロン、トリアムシノロンアセトニド、コーチゾン、コルトドキソン、フルセトニド、フルドロコーチゾン、二酢酸ジフルオロソン、フルラドレノロン、フルロドコーチゾン、二酢酸ジフルロソン、フルオシノロン、フルラドレノロンアセトニド、メドリソン、アムシナフェル、アムシナフィド、ベタメタドンおよびそのエステルの平衡状態(balance)、クロロプレドニソン、酢酸クロロプレドニソン、クロコルテロン、クレスシノロン、ジクロリゾン、ジフルルプレドネート、フルクロロニド、フルニソリド、フルオロメタロン、フルペロロン、フルプレドニソロン、吉草酸ハイロドロコーチゾン、シクロペンチルプロピオン酸ハイドロコーチゾン、ハイドロコルタメート、メプレドニゾン、パラメタゾン、プレドニソロン、プレドニソン、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、トリアムシノロンのようなコルチコステロイドが挙げられる。上記
のステロイド抗炎症化合物の混合物も使用可能である。
【0055】
非ステロイド抗炎症化合物の限定的でない例としては、ナブメトン、セレコキシブ、エトドラック、ニメスリド、アパゾン、金、オキシカム、例えばピロキシカム、イソキシカム、メロキシカム、テノキシカム、スドキシカム、およびCP−14,304;サリチル酸塩、例えばアスピリン、ジサルシド、ベノリレート、トリリセート、サファプリン、ソルプリン、ジフルニサール、およびフェンドサール;酢酸誘導体、例えばジクロフェナック、フェンクロフェナック、インドメタシン、スリンダック、トルメチン、イソキセパック、フロフェナック、チオピナック、ジドメタシン、アセマタシン、フェンチアザック、ゾメピラック、クリンダナック、オキセピナック、フェルビナック、およびケトロラック;フェナメート、例えばメフェナム、メクロフェナム、フルフェナム、ニフルム、およびトルフェナム酸;プロピオン酸誘導体、例えばイブプロフェン、ナプロキセン、ベノキサプロフェン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、フェノプロフェン、フェンブフェン、インドプロプフェン、ピルプロフェン、カルプロフェン、オキサプロジン、プラノプロフェン、ミロプロフェン、チオキサプロフェン、スプロフェン、アルミノプロフェン、およびチアプロフェニック;ならびにピラゾール、例えばフェニルブタゾン、オキシフェンブタゾン、フェプラゾン、アザプロパゾン、およびトリメタゾンが挙げられる。
【0056】
抗炎症薬の群によって包含される多様な化合物は当業者には公知である。非ステロイド抗炎症化合物の化学構造、合成、副作用などの詳細な開示については、それぞれ参照として本明細書に援用される、Anti−inflammatory and Anti−Rheumatic Drugs、K.D.Rainsford,I〜III巻,CRC Press,Boca Raton,(1985),およびAnti−inflammatory Agents,Chemistry and Pharmacology 1,R.A.Scherrer,et al.,Academic Press,New York(1974)を含む標準テキストに関連していてもよい。
【0057】
また、これらの非ステロイド抗炎症化合物の混合物ならびにこれらの化合物の薬理学的に受容できる塩およびエステルが使用されてもよい。
その上、いわゆる「天然の」抗炎症化合物は開示された発明の方法において有用である。そのような化合物は、天然の供与源(例えば植物、真菌、微生物の副産物)からの適切な物理的および/または化学的単離による抽出物として適切に得られてもよい。そのような化合物の適切な限定的でない例としては、キャンデリラワックス、アルファビサボロール、アロエベラ、マンジスタ(Manjista)(Rubia属の植物、とりわけRubia Cordifoliaから抽出される)、およびグッガル(Guggal)(Commiphora属の植物、とりわけCommiphora Mukulから抽出される)、コーラ抽出物、カモミール、ヤギ(sea whip)抽出物、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸、およびその誘導体(例えば、塩およびエステル)を含むリコリス(植物 族/種 Glycyrrhiza glabra)ファミリーの化合物が挙げられる。前述の化合物の適切な塩としては、金属およびアンモニウム塩が挙げられる。適切なエステルには、酸のC〜C24、好ましくはC10〜C24、より好ましくはC16〜C24飽和または不飽和エステルが挙げられる。前述のものの特定の例としては、油溶性リコリス抽出物、グリチルリチンおよびグリチルレチン酸自体、グリチルリチン酸モノアンモニウム、グリチルリチン酸一カリウム、グリチルリチン酸二カリウム、1−ベータ−グリチルレチン酸、ステアリルグリチルレチネート、および3−ステアリルオキシ−グリチルレチン酸、ならびに十二指腸3−スクシニルオキシ−ベータ−グリチルレチネートが挙げられる。
【0058】
神経伝達物質および受容体モジュレーターの適切な例としては、限定することなしにグルタミン酸受容体モジュレーター、アデノシン受容体モジュレーター、アセチルコリン受
容体モジュレーター、アドレナリン受容体モジュレーター、ノルアドレナリン受容体モジュレーター、エピネフリン受容体モジュレーターおよびノルエピネフリン受容体モジュレーター、カンナビノイド受容体モジュレーター、ならびにいずれかのその組み合わせが挙げられる。当業者は、受容体モジュレーターの1種は対象の身体に天然に存在するリガンドであることを認識することになる。例えば、グルタミン酸受容体モジュレーターにはグルタミン酸が挙げられる。
【0059】
別の態様において、少なくとも1種の生理活性物質はグルタミン酸伝達のモジュレーター、例えば(1S,2S)−1−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(4−ヒドロキシ−4−フェニルピペリジノ)−1−プロパノール(CP−101,606としても公知)、リルゾール(リルテック(登録商標))、トピラメート、アマンタジン、ガシクリジン、BAY−38−7271、S−1749、YM872およびRPR117824である。
【0060】
別の態様において、少なくとも1種の生理活性物質はデキサナビノール(Pharmos Corporation,Iselin,NJ,USA)のようなカンナビノイド受容体モジュレーターである。
【0061】
抗血小板薬の適切な例としては、限定することなしに、アスピリン、ジピリダモール、チクロピジンおよびアブシキシマブ、ならびにいずれかのその組み合わせが挙げられる。
ときには「ブラッドシンナー(blood thinner)」薬と呼ばれる抗凝固剤の適切な例としては、限定することなしに、ヘパリンおよびワルファリン(商標名クマジン(登録商標)、ワルフィロン(登録商標))およびいずれかのその組み合わせが挙げられる。
【0062】
抗新生物薬または細胞分裂を妨害することができる薬剤の適切な例としては、限定することなしに、ビンカアルカロイド、ビンブラスチン、ビンクリスチン、パリフェルミン、パクリタキセル、ブレオマイシン、シタラビン、ビンデシン、ペメトレキセド、エストラムスチン、ダウノルビシン、およびドキソルビシンならびにいずれかのその組み合わせが挙げられる。
【0063】
抗アポトーシス薬には、限定することなしに、プロアポトーシスシグナルの阻害剤(例えば、カスパーゼ、プロテアーゼ、キナーゼ、CD−095のようなデスレセプター、シトクロムC遊離のモジュレーター、ミトコンドリアポア開口および膨潤の阻害剤);細胞周期のモジュレーター;抗アポトーシス化合物(例えば、bcl−2);シクロスポリンA、ミノサイクリンおよびRhoキナーゼモジュレーターを含むイムノフィリン、ならびにいずれかのその組み合わせが挙げられる。Rho経路モジュレーターの適切な、限定的でない例としては、改変された細菌C3外酵素であるセスリン(Cethrin)(BioAxone Therapeutics,Inc.,Saint−Lauren,Quebec,Canadaから入手可能)およびヘキサヒドロ−1−(5−イソキノリニルスルホニル)−1H−1,4−ジアセピン(ファスジルとしても公知、Asahi Kasei Corp.,Tokio,Japanから入手可能)が挙げられる。
【0064】
抗痴呆および成長剤には、限定することなしに、成長因子;イノシン、クレアチン、コリン、CDP−コリン、IGF、GDNF、AIT−082、エリスロポイエチン、FK−506としても公知のフジマイシン(IUPAC名[3S−[3R[E(1S,3S,4S)],4S、5R:,8S,9E,12R,14R,15S,16R,18S,19S,26aR]]−5,6,8,11,12,13,14,15,16,17,18,19,24,25,26,26a−ヘキサデカヒドロー5,19−ジヒドロキシ−3−[2−(4−ヒドロキシ−3−メトキシシクロヘキシル)−1−メチルエテニル]−14,16−ジメトキシ−4,10,12,18−テトラメチル−
8−(2−プロペニル)−15,19−エポキシ−3H−ピリド[2,1−c][1,4]オキサアザシクロトリコシン−1,7,20,21(4H,23H)−テトロン、一水和物ならびにいずれかのその組み合わせが挙げられる。
【0065】
脂質形成、貯蔵、および遊離経路のモジュレーターの適切な、限定的でない例としてはアポリポタンパク質;スタチン;およびいずれかのその組み合わせが挙げられる。
血流モジュレーターの適切な限定的でない例としては、ATL−146eのようなアデノシン受容体モジュレーターが挙げられる。
【0066】
本発明の異なる態様において、少なくとも1種の生理活性物質は、サリドマイド、ベバシズマブ、マリマスタート、α−IFN、MMP阻害剤、ネオバスタート(AE−941)Rhエンドスタチン、ネトリン、NOGO−由来タンパク質、ミエリン‐由来タンパク質、オリゴデンドロサイト‐由来タンパク質、ボツリヌス毒素、麻酔薬、サブスタンスP受容体(NK1)アンタゴニスト、オピオイド、α−アドレナリン受容体アゴニスト、カンナビノイド、コリン作動性受容体アゴニスト、GABAアゴニスト、グルタミン酸受容体アンタゴニスト、[N−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)メチル]−5Z,8Z,11Z,14Z−エイコサテトラエンアミド](アルバニル)、8−メチル−N−バニリル−trans−6−ノネンアミド(カプサイシン)、N−[2−(4−クロロフェニル)エチル]−1,3,4,5−テトラヒドロー7,8−ジヒドロキシ−2H−2−ベンズアゼピン−2−カルボチアミド(カプサゼピン)、8−メチル−N−バニリルノナンアミド(ジヒドロカプサイシン)、6,7−デエポキシ−6,7−ジデヒドロ−5−デオキシ−21−デフェニル−21−(フェニルメチル)−ダフネトキシン、20−(4−ヒドロキシ−5−ヨード−3−メトキシベンゼンアセテート)(5′−ヨードレシニフェラトキシン);(+)−イソベレラル)、N−バニリルオレオイルアミド(オルバニル)、ホルボール12,13−ジノナノエート20−ホモバニリレート、レシニフェラトキシン;N−(3−メトキシフェニル)−4−クロロシンアミド(SB−366791)、2,3,4−トリヒドロキシ−6−メチル−5−[(2E,6E)−3,7,11−トリメチル−2,6,10−ドデカトリエニル]ベンズアルデヒド(Scutigeral)、6,7−デエポキシ−6,7−ジデヒドロ−5−デオキシ−21−デフェニル−21−(フェニルメチル)−20−(4−ヒドロキシベンゼンアセテート)ダフネトキシン(チニアトキシン)、カプサイシン化学合成物、カプサイシン誘導体、バニロイド受容体を標的にする抗体、カプサイシン、カプサイシン誘導体、カプサイシン化学合成物、ピペリン、マスタードオイル、オイゲノール、NGFアンタゴニスト、酢酸アネコルタブ、トリアムシノロンアセトニド、コンブレタスタチン、抗‐血管新生ステロイド、血管新生抑制ステロイド、ペガプタニブ、ラニビズマブ、ミノサイクリン、フルオロシトレートおよびいずれかのその組み合わせからなる群から選択される。
血管徴候
本発明のある側面は、例えば低血圧、アテローム硬化型病変、易損性プラーク、および急性心筋梗塞のような血管徴候の治療を準備する。
【0067】
炎症は、とりわけ、病変の領域において、損傷を受け、障害を起こし、そして漏出する内皮細胞を導く冠状動脈プラーク開始の基礎を成す主要な推進力であることは今や公知である。本発明の一側面はアテローム硬化型病変のバイオシーリングを準備する。本発明のこの側面は、バイオシーリング剤と抗炎症薬の組み合わせを準備してもよい。
【0068】
例となる炎症誘発性分子には、サイトカイン、ケモカイン、神経ペプチド、ブラジキニン、ヒスタミン、およびプロスタグランジンが挙げられる。適切な活性成分には、ステロイド、非ステロイド抗炎症薬、COX阻害剤、TNF−アルファもしくはIL−1サイトカインレベルまたは受容体のモジュレーターが挙げられる。
【0069】
その上、潜在的な利点が、血管壁/プラーク領域における酸化された‐脂質の沈着からのバイオシーリング保護から生じてもよい。
易損性プラーク(進行し、そして破裂しやすいアテローム硬化型病変および破裂したプラーク)は、血小板‐フィブリン凝集のための病巣としての、炎症要素を持つ剥離した内皮によって特徴付けられる。本発明の一側面は血栓形成(血小板沈着)を減少させるためのプラーク領域のバイオシーリングを準備する。
【0070】
急性心筋梗塞(「aMI」)後の心筋損傷は、一般に心筋の虚血再潅流(IR)損傷により発生する。この損傷は十中八九は、他のパラメータの中でもとりわけ、再潅流による酸化ストレスに関連したプログラム細胞死の活性化による心筋組織内の広範な細胞死に起因すると考えられる。本発明の一側面は損傷および酸化関連損傷を軽減するためのaMI中およびaMI後のバイオシーリングを準備する。
【0071】
ヒトにおいて、および動物モデルにおいて、とりわけ高胸部および頸部レベルにおける脊椎損傷はしばしば低血圧に帰着し、それが組織潅流を減らし、機能的回復および起立耐性を損なう可能性がある。低血圧は静止時平均動脈血圧の測定により評価することができる。
【0072】
自律神経異常反射は脊椎損傷に伴う一般的で、潜在的に致命的な状態である。自律神経異常反射は、損傷レベルより下方の有害刺激に反応した血圧の大きな増加を特徴とする交感神経反射、最も一般的には膀胱または腸膨張である。それは誘発された膀胱または腸膨張出現中の平均動脈血圧および血流の変化を記録することによって評価することができる。
【0073】
平均血管圧、血流および心臓リズムの特徴の測定を使用して、心臓血管機能の変化をモニターすることができる。
実施例
実施例1.生体膜シーリング剤、ポリエチレングリコールまたはPEGによる治療は、運動機能または病変のサイズに影響を与えることなく、組織損傷後の慢性疼痛の重症度/出現を減少させた。
慢性疼痛の動物モデル
体重200〜250グラムのWistar雌ラットはT4において制御されたクリップ‐加圧損傷を受けた。この実験モデルはGris et al.,2004の中に前もって詳細に説明されている。手短に述べると、動物はジアゼパム(3.5mg/kg、i.p.)およびアトロピン(0.05mg/kg、s.c.)で前もって処理し、4%ハロタンによる麻酔の円滑な導入および1.0〜1.5%のハロタンによる維持を促進した。T4脊髄分節は背側椎弓切除により露出し、50グラム加圧にキャリブレーションされた変型動脈瘤クリップを硬膜外から通し、バネを60秒間はずした。神経根はクリップ‐加圧中に分断されなかった。
処理
動物は損傷後、それらのホームケージに入れられ、投薬が開始された。動物は0.5%生理食塩水、または0.5%生理食塩水中30%のPEG3350からなるPEG溶液(AAIPharma Developmental Services,Wilmington,NCが作製)で処理された。生理食塩水およびPEGは静脈内注射により投与した。
【0074】
それぞれの動物は損傷15分後の1回目、そして6時間後の2回目の注射からなる2回の注射を受けた。それぞれの注射は単回投与量1g/kg、総投与量2g/kg(体重)を送達した。1群の動物は10〜11匹であった。これらの研究は無作為化、盲検様式で行い、溶液は目隠し標識したパッケージの状態で、Research Centerに送
られ、コードは研究の終了まで試験者に明らかにされなかった。
【0075】
機械的異痛症:動物は損傷前、および損傷後7週間目まで神経障害性疼痛または機械的異痛症の発生を試験された。神経障害性疼痛の出現および重症度は、通常は無痛である刺激に対する動物の反応、または異痛症によって評価した。手短に述べると、15mNの力を生じるようにキャリブレーションされた、変型Semmes−Weinsteinモノフィラメント(Stoelting Co,Wood Dale,Il.)を、病変レベル(T1〜T3)に対してすぐ吻側の脊髄分節に相当する皮膚分節の背側体幹に適用した。モノフィラメントは3秒間を10回適用し、それぞれの刺激は5秒間隔で分けられ、見込みのある10回のうちの回避反応の数を記録した。回避反応は後ずさり、逃避、発声、または異常な攻撃行動として定義した。機械的異痛症をモニターするために使用されるスコアリングシステムはGris et al.,2004の中に詳細に提示されている。機械的異痛症試験は1週間に2回実行し、それぞれの動物に対して2回の試験を平均して週毎の疼痛スコアとして報告した。
【0076】
熱痛覚過敏:動物は損傷後7週間目に熱痛覚過敏によって測定される神経障害性疼痛の発生を試験した。神経障害性疼痛の出現および重症度は、通常有痛である熱刺激に対する動物の反応レベルによって評価した。熱有害刺激に対する感受性の変化は動物の尾を熱水(50℃)に入れ、尾を引っ込める反応前までの時間(秒)をモニターすることにより評価した。
歩行回復の評価
歩行回復は、損傷後3〜21日目まで、21‐点のBasso,Beatie and
Bresnahan(BBB)オープンフィールド歩行試験(Basso et al.,1995)によって評価した。歩行機能はそれぞれの試験期間において2人の予備知識のない調査員によって評価した。
病変サイズの評価
行動試験の終わりに、動物を2:1ケタミン/キシラジン溶液で麻酔し、4%ホルムアルデヒド溶液を潅流して組織を固定した。脊髄を除去し、クリオスタットで横方向に20μmに切断し、順次解凍してスライドに載せた。1組の脊髄切片をソロクロムシアニン(Solochrome cyanin)で染色してミエリンを検出し、別の隣接する組の切片はニューロフィラメント200に対して免疫処理し、軸索を同定した。
統計解析
実験群間の差の有意性を評価するために、データは95%信頼限界を持つ対応のない両側t検定を使用して解析した。
結果
損傷を受けた動物のPEGによる治療は、損傷を受け、生理食塩水で処理された動物に比較して病変のサイズまたは運動回復に効果がみられなかった。
【0077】
損傷以前は、動物の異痛性疼痛スコアはゼロに等しかった。損傷を受け、生理食塩水を注射された動物の回避反応の数は、神経障害性疼痛の発生と一致して、損傷後に次第に増加し、損傷7週間後には平均疼痛スコア5+/−0.5に達した。PEGによる治療は、7週間目に神経障害性疼痛の重症度/出現を3.5+/−0.5に有意(P<0.05)に軽減した。損傷を受け、生理食塩水で処理された群における疼痛スコア4.5+/0 0.5に比較して、PEGで処理された動物では、損傷4週間後に早くも疼痛スコア2.9+/−0.4という神経障害性疼痛の有意な減少(P<0.05)が見られた。
【0078】
一般に、損傷を受けていないラットは10.1±0.7秒のテイルフリック潜時反応を有する。損傷7週間後では、損傷を受け、生理食塩水で処理された動物は3.7+/−0.5秒のテイルフリック潜時に対応する痛覚過敏反応を示した。痛覚過敏は損傷を受け、生理食塩水で処理された群に比較して、PEG処理動物では有意に(P<0.05)減少
し、6.0+/−0.8秒の潜時反応増加が見られた。
実施例2.生体膜シーリング剤、ポリエチレングリコールまたはPEGによる処理は皮膚化学刺激物により誘発された急性炎症のモデルにおける急性疼痛の重症度を減少させた。急性疼痛および炎症の動物モデル
カラギーナンモデル(Iadarola et al.,1988)を使用して、後肢足蹠に急性炎症を誘発した。雄Sprague−Dawley(258±2.2g)はイソフルランで麻酔し、50μLの2%化学刺激物λ‐カラギーナン(w/v;Sigma,カタログ#C−3889,lot#122K1444)を、27g針を取り付けた1ccシリンジを使用して左後肢足蹠に皮内注射した。偽処理群の場合、50μLの0.9%生理食塩水を同じ方法で後肢足蹠に注射した。
処理
動物は0.5%生理食塩水、または0.5%生理食塩水中30%のPEG3350からなるPEG溶液(AAIPharma Developmental Services,Wilmington,NCが作製)で処理した。生理食塩水およびPEG溶液は静脈内注射により投与した。それぞれ動物は、カラギーナン注射15分前の1回目、そしてカラギーナン注射6時間後の2回目、の2回の注射を受けた。それぞれの注射は単回投薬量1g/kg、総投薬量2g/kg(体重)を送達した。1群の動物は5〜6匹であった。これらの研究は無作為化、盲検様式で行い、溶液は目隠し標識したパッケージの状態で、Research Centerに送られた。
疼痛の評価
左足蹠へのカラギーナン注射後10時間目に、同じ足蹠を機械的異痛症に関して試験した。非‐有害機械的感受性に対する基準値および処理後の値は、アップダウン法(Chaplan et al.,1994)に従って、多様な堅さ(0.4、0.7、1.2、2.0、3.6、5.5、8.5、および15g)の8本のSemmes−Weinsteinフィラメント(Stoelting,Wood Dale,IL,USA)を使用して評価した。動物は打ち抜きした金属製の台に乗せ、試験前少なくとも30分間、それらの環境に順応させた。
後肢足蹠浮腫の評価
後肢足蹠浮腫は、水置換を使用して足蹠容積を測定することにより評価した。それぞれの試験時点で、ラットは軽く拘束し、後肢足蹠はくるぶし関節より上のヘアラインまで個別に水に浸した。置換された水はほぼ0.1ml(cc)に至るまで測定した。それぞれの処理群に対して、平均値および平均値の標準誤差(SEM)を決定した。
統計解析
実験群間の差の有意性を評価するために、データは95%信頼限界を持つ対応のない両側t検定を使用して解析した。
結果
10時間後、カラギーナン‐生理食塩水群の平均疼痛スコアは4.2+/−0.6であり、13.1+/−1.0と評価された偽処理(生理食塩水‐生理食塩水)動物の平均疼痛スコアより有意(P<0.001)に低かった。このカラギーナン‐パラダイムにおいて、カラギーナン‐生理食塩水群に比較してPEGによる処理は疼痛スコアを9.9+/−1.1(P=0.0011)にまで有意に改善した。
【0079】
カラギーナン‐注射を受けた足蹠の足蹠浮腫または足蹠容積も、生理食塩水処理動物に比較して、PEG処理群において37%減少した。
実施例3.生体膜シーリング剤、ポリエチレングリコールは組織損傷後の平均動脈血圧を回復させることができるが、自律神経異常反射の神経制御に影響を与えなかった。
減少した平均動脈血圧および自律神経異常反射によって影響を受けた動物モデル
体重200〜250グラムのWistar雌ラットはT4において制御されたクリップ‐加圧損傷を受けた。この実験モデルはGris et al.,2004の中に前もって詳細に説明されている。手短に述べると、動物はジアゼパム(3.5mg/kg、i.
p.)およびアトロピン(0.05mg/kg、s.c.)で前もって処理し、4%ハロタンによる麻酔の円滑な導入および1.0〜1.5%のハロタンによる維持を促進した。T4脊髄分節は背側椎弓切除により露出し、50グラム加圧にキャリブレーションされた変型動脈瘤クリップを硬膜外から通し、バネを60秒間はずした。神経根はクリップ‐加圧中に分断されなかった。
処理
動物はSCI後、それらのホームケージに入れられ、投薬が開始された。動物は0.5%生理食塩水、または0.5%生理食塩水中30%のPEG3350からなるPEG溶液(AAIPharma Developmental Services,Wilmington,NCが作製)で処理した。生理食塩水およびPEGは静脈内注射によって投与した。
【0080】
それぞれの動物は損傷15分後の1回目、そして6時間後の2回目の注射からなる、2回の注射を受けた。それぞれの注射は単回投与量0.3g/kg、総投与量0.6g/kg(体重)を送達した。1群の動物は10〜11匹であった。これらの研究は無作為化、盲検様式で行い、溶液は目隠し標識したパッケージの状態で、Research Centerに送られ、コードは研究の終了まで試験者に明らかにされなかった。
心臓血管機能の評価
静止時の平均動脈血圧値および自律神経異常反射評価中の平均動脈血圧の変動を得て、Powerlabソフトウェア(AD Instruments,Mountain View,CA)を使用して解析した。自律神経異常反射は、損傷レベルより下方の有害刺激に反応した血圧の大きな増加が特徴の交感神経反射;最も一般的には膀胱または腸膨張である。損傷後6〜7週間目に、それぞれの動物の左頸動脈に、ハロタン麻酔下でカニューレを挿入した。次に自律神経異常反射の重症度は、2.5mlの空気で膨らませたバルーンを先端につけたカテーテルによる結腸膨張中の平均動脈血圧(MAP)の増加を測定することにより、カニューレ挿入後約2または3日目にそれぞれのラットにおいて試験した(Weaver et al.,2001)。血圧は真の静止時基準値が樹立されるまで継続してモニターし、その後バルーンを15秒かけて膨らませ、膨張を1分間維持した。MAPは膨張の全時間にわたり平均して異常反射反応を確認し、それぞれの動物に対して2回の試行を行い、平均した。2.5mlの空気によるバルーンの膨張は、大きな糞便の塊の通過中の結腸膨張に類似した膨張を生じ、無傷の脊髄を持つラットにはわずかに有害なだけである(Marsh et al.,2004)。
結果
高胸部および頸部脊髄損傷のような組織損傷はしばしば低血圧に帰着する。損傷後7週間目において、PEG処理された動物は静止時平均動脈血圧の有意な増加(P<0.05)を示し、損傷を受け、生理食塩水で処理された動物で測定された105.9+/−1.0mmHgに比較して、平均値115.0+/−3.6であった。しかし、自律神経異常反射の調節に関与する神経機能はPEG処理に影響されず、生体膜シーリング剤は神経活動に対する一般的な効果よりむしろ、組織損傷後の血管の完全性を回復することに対して直接作用を有する可能性があることを示唆した。
実施例4.生体膜シーリング剤、ポリエチレングリコールは損傷を受けた血管中およびその周辺に蓄積する。
組織損傷の動物モデルおよび有効な生体膜シーリング剤の生体内分布
雄Sprague−Dawleyラットは、Ohio State University Impactorを使用して、適度のT9/10挫傷(1.5mm転位)を受けた。損傷後ただちに頸静脈を露出し、500mg(250mg/ml溶液)のビオチン化PEG3000(Biotin−PEG,Necktar Therapeutics,Huntsville,ALにより作製)を静脈に注射した。動物は損傷後24時間目に死に至らせ、1.5cmの脊髄片を新たに(すなわち、固定せずに)採取した。脊髄は縦軸方向に切断し、ラット内皮細胞抗原に対する抗体(RECA−1)を使用して免疫染色を
行い、血管を可視化し;Cy3結合ストレプトアビジンを使用して、ビオチン‐標識PEGを可視化した。
結果
この脊髄の解析は、損傷部位における生体膜シーリング剤の好ましい蓄積を明らかにした。重ね合わせた画像は、生体膜シーリング剤と内皮細胞シグナルの同時局在を示した。多くの場合、生体膜シーリング剤は損傷部位に見いだされる損傷血管を取り囲んでいるようであった。
結論
本発明において、出願者らは、組織損傷後の急性疼痛および炎症、ならびに慢性疼痛の発生を軽減する生体膜シーリング剤と呼ばれるクラスの薬剤の能力を説明した。出願者らは、組織損傷後の痛覚過敏および異痛症の重症度を軽減する、この「生体膜」と呼ばれるクラスの薬剤の能力を証明した。神経損傷後の慢性疼痛発生の劇的な軽減は、運動回復または病変サイズの有意な変化に関連しなかった。これらの結果は一般的な神経機能の回復と慢性疼痛のような病的状態の発生間には関連が見られないこと(delineation)を強調する。出願者らはまた、損傷を受けた動物において、損傷を受けた血管の周辺にすべてを蓄積し、正常平均動脈血圧および血流の回復を助ける生体膜シーリング剤の能力を示した。
【0081】
本発明はこの明細書において特定の態様に関して説明されているが、これらの態様はただ本発明の原理および適用を説明するためだけであることを理解すべきである。したがって以下の特許請求の範囲に定義された本発明の意図および範囲から逸脱することなしに、態様を説明するために非常にたくさんの変更が行われてもよいこと、および他のアレンジが考案されてもよいことを理解すべきである。
【0082】
明細書に引用されたすべての刊行物、特許公開および特許ではない刊行物の両方は、本発明が関連する当業者の技術のレベルを表す。これらの刊行物のすべては、まるでそれぞれ個々の刊行物が参照として援用されるように、明確に、そして個別に示されていたのと同じ程度まで参照として本明細書にそのまま援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の生体膜シーリング剤を含む、疼痛を治療するかまたは予防するための組成物であって、該生体膜シーリング剤が30%〜50%の濃度と1400〜20000Daの分子量を有するポリ(エチレングリコール)を含む組成物。

【公開番号】特開2012−211151(P2012−211151A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−128672(P2012−128672)
【出願日】平成24年6月6日(2012.6.6)
【分割の表示】特願2008−514777(P2008−514777)の分割
【原出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(506298792)ウォーソー・オーソペディック・インコーポレーテッド (366)
【Fターム(参考)】