説明

疾患状態治療用の化合物を特定するための方法

【課題】システム再構築の技術を提供する。
【解決手段】生物および組織に特異的な生化学経路、ゲノム配列、状態遺伝子発現、および遺伝子多型に関するデータを、疾患の臨床症状およびその他の臨床徴候と統合する。その結果、相互接続機能経路ネットワーク(機能的またはシステムモデル)が構築され、各要素が適切な分子データ(ORF、EST、SNPなど)にリンクされ、関連する臨床情報で注釈が付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオインフォマティクス技術に関する。より詳細には、本発明は、システム再構築の技術に関する。本発明はさらに、キチナーゼを必要とする代謝経路を明らかにするための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
配列決定技術における最近の進歩により、膨大な量のゲノムデータが作成されている。GOLDデータベースによれば、現在300を超えるゲノムプロジェクトが完了しまたは進行中である(http://wit.integratedgenomics.com/GOLD/)。79の完全なまたは一部完全なゲノムが、公開されているERGOシステムを通して入手可能である(http://igweb.integratedgenomics.com/IGwit/)。この豊富な情報を取り扱うために、いくつかの強力なバイオインフォマティクスシステムが開発されている。WITプロジェクトは、主に配列決定済みの生物に関する代謝モデルの開発に焦点を当てながら、ゲノム配列データの比較解析用の枠組みを開発するために開始された。ゲノムの解析には、いくつかの特異ではあるが相補的な研究が必要である。その第1は、オープンリーディングフレーム(ORF)の決定である。第2は、しばしばアノテーションと呼ばれるもので、遺伝子に対する機能の割当てである。第3は、配列決定済みゲノムの代謝および調節ネットワークに関する機能的モデルの作製であり、再構築と呼ばれる。
【0003】
細菌および古細菌のゲノムに関する代謝再構築が実施されてきた(E.Selkov他、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.2000年3月、28;97(7):3509〜14)。対照的に真核生物の代謝再構築は、依然としてはるかに複雑な問題である。ゲノム配列決定の著しい進歩にも関わらず、真核生物のアノテーションは複雑な問題のままである。遺伝子同定の重要な構成要素であるORFの発見にしても、依然として非常に厄介な仕事である。真核ゲノムの複雑な構造の包括的理解には、配列決定情報と、遺伝子、生化学、構造、および進化に関するデータを統合する必要がある。新しいバイオインフォマティクスツールを開発すること、および新しいアルゴリズムを発見することが必要であり、おそらくドライラボとウェットラボの両方での研究に数年かかることになる。
【0004】
対照的に、真核遺伝子の配列および発現パターンに関する大量の情報が、発現配列タグ(EST)の非常に数多くのデータベースに蓄積されている(PEDBなど、いくつかの組織特異的なデータベースの他に、例えばUnigene EST、dbEST、STACK、SAGE、DOTS、trEST、XREFdbを参照されたい)。かなりの量のヒトESTデータがすでに慎重に解析され、分類され、注釈が付けられ(annotated)、染色体にマップされている。現在のところ、全てのヒト遺伝子の50〜90%を表す公開データベースで入手可能な1,000,000を超えるヒトESTがある(Electrophoresis、1999年2月、20(2):223〜9)。しかし一般に、EST配列は、表現性の質と程度において、ゲノムDNA配列よりも劣ると考えられている。
【0005】
代謝再構築として知られる技術は、Argonne National LaboratoryのEvgeni Selkov博士および共同研究者が開発したものである。代謝再構築は、生物のゲノム配列を使用することによってその生物の代謝を研究するために開発された(Selkov他(1997年)A reconstruction of the metabolism of Methanococcus jannaschii from sequence data.Gene、197、GC11−26)。
【0006】
従来、ESTデータに基づく代謝の研究は、実現不可能と見なされていた。しかしそのような手法は、複雑な真核ゲノムの比較解析に非常に有用と考えられる。第1に、完全な一組のESTの作成は、全体的なゲノム配列決定よりも少なくとも一桁安価である。第2に、科学団体が自由に入手することのできる大量の処理済みESTデータがある。これまでのところ、現時点で公に入手可能な完全な真核ゲノムはごくわずかしかないが、数十もの種に関する十分なESTデータがある。第3に、最も重要なのは、ESTが、特定の組織で特定の時間で発現した遺伝子を表すことである。本発明では、ゲノム配列ではなく発現配列タグ(EST)データを使用した。
【発明の開示】
【0007】
システム再構築と呼ばれる本発明のプロセスは、生物および組織に特異的な生化学経路、ゲノム配列、状態遺伝子発現、および遺伝子多型に関するデータを、疾患の臨床症状およびその他の臨床徴候と統合する。その結果、相互接続機能経路ネットワーク(機能的またはシステムモデル)が構築され、各要素が適切な分子データ(ORF、EST、SNPなど)にリンクされ、関連する臨床情報で注釈が付けられる。
【0008】
一態様では、本発明は、特定の代謝経路に関与する必要な機能を確認する。
【0009】
別の態様では、本発明は、正常および異常なヒト組織に特異的な特定の経路に関連する発現遺伝子を、視覚的に概観することができる。
【0010】
別の態様では、本発明は、それらの経路に関与するORFを決定し特定するための方法を提供する。
【0011】
別の態様では、本発明は、正常および罹患した器官または組織に関してなされたシステム再構築を比較するための方法を提供し、したがって、可能な調節メカニズムおよび潜在的な薬物標的に関する重要な情報が提供される。
【0012】
別の態様では、本発明は、異なる発生段階で同じ組織に関してなされた再構築を比較するための方法を提供し、したがって、遺伝子発現の発生タイミングに関する情報が提供され、遺伝子療法に可能な標的が明らかになる。
【0013】
別の態様では、本発明は、一塩基多型(SNP)部位を、対応する代謝遺伝子および/または予測されるORFにマップするための方法を提供し、したがってSNPと未知の表現型との結付きに対する生理学的洞察が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
システム再構築と呼ばれるバイオインフォマティクス的手法を使用して、臨床情報と高速処理分子データとを統合する。システム再構築技術は、同時係属の米国仮特許出願第60/299,040号および米国特許出願第10/−−−,−−−号(代理人整理番号No.73876)であって2002年6月18日出願の「System Reconstruction:Integrative Analysis of Biological Data」という名称の出願に記載されており、これら両方を参照により本明細書に援用する。この手法の核心では、収集したヒト組織特異的および条件特異的な生化学経路を、共通の中間体によってマップまたはモデルにリンクさせる。これらのモデルは、相補型の高速処理データを統合し、疾患の臨床症状の根本をなす機構を確立するためのフレームワークとして働く。
【0015】
本発明は、生化学のヒト特異的システムレベルモデルの構築を可能にするシステムを作製する。要約すれば、ヒト特異的経路に関する情報を収集する。これらの経路は、機能情報、疾患症状、および高速処理データにリンクされる。最後に、これらの経路は互いに接続され、関係ある情報にリンクして機能モデルが形成されるようになる。これらのモデルは、例えば、高速処理データのさらなる統合、疾患メカニズムの解読、薬物代謝および毒性の予測などに関する骨格として使用することができる。システム再構築は、収集したヒト特異的経路および結果をアセンブルして、特定の代謝系の完全に注釈付けされた対話形マップを構築することを含む、複雑な多段階プロセスである。図1を参照されたい。
【0016】
システム再構築のプロセスは、一般に、代謝経路の集合体の作成から始まる。ヒト特異的でありヒトで生じる形をとる経路が含まれる。そのような集合体の構築は、多層注釈プロセスにより実現される。哺乳類および非哺乳類からの特定された代謝経路の集合体から始まって、それらの経路は、互いの関連性に基づいていくつかのカテゴリに分けられる。例えば経路は、ヒト代謝においてそれらが関連する可能性に従い順位付けされる。最も関連ある経路は多段階哺乳動物経路を含み、その経路では、反応の全てが、特定されたヒト酵素または少なくともヒトゲノム内にORF候補を有する酵素によって触媒される。関連性の低い経路は、例えば、必要な酵素がヒトで特定されていない経路および一段階経路を含む。臨床データや科学文献などの情報を調査して、どの経路が実際にヒトに存在するかを確認する。
【0017】
ヒト特異的経路の集合体を作成する他に、アノテーションプロセスは、各経路およびその要素に関する重要な機能データをもたらす。この情報を構築するために、ある経路は「生化学単位」の階層と言われる。これらの単位は、経路そのものと、経路を構成する個々のステップと、化合物と、反応と、各ステップに関与する「酵素機能」を含む。この「酵素機能」は、分子種、すなわち特定のタンパク質および遺伝子に関する。構造化アノテーションと呼ばれるプロセスでは、以下により詳細に論じるように、特定の「生化学単位」と特定のカテゴリとその他のデータフィールド内のインスタンスとの間にリンクを確立する。実際にこれは、各生化学単位に関連するアノテーションテーブルを埋めることによって実現される。これらのテーブルのフィールドの例には、単位の器官および組織内局在化;細胞内局在化および/または区画化;その他の器官での単位の存在および細胞下局在化;単位と、遺伝的および一般的疾患およびその他の機能障害との接続;単位と疾患との関係のタイプ(例えば原因や症状など);および情報源に関する参照などが含まれる。
【0018】
構造化アノテーションにより、異質データの編成と、これらのデータ間での明示および暗黙リンクを追跡することのできる照会およびコンピュータアルゴリズムの開発が可能になる。いくつかの例は、特定の単位に直接リンクされる化合物、酵素、反応、および経路を見出すこと;共用の中間体またはその他のリンクに基づいて経路および反応をネットワークに自動的に相互接続すること;それら構成要素の細胞下局在化に基づいて経路の相互作用に制約を確立すること;疾患、その原因、またはその症状に関する経路、反応化合物、および酵素を見出し、そのような要素を「疾患ネットワーク」に相互接続すること;共通の経路、反応、または化合物により関連付けられた疾患を見出すこと;ある特定の酵素を回避するために、特定化合物の分解または生合成に関する代替経路を見出すことなどを含む。
【0019】
再構築の過程で収集された情報を編成するために、Oracle RDBMSを使用して関係データベースが開発された。ある特定のテーマ(例えば配列やタンパク質、生化学反応など)を中心とした多くの生物医学的データベースとは異なり、本発明で開発されたデータベースは、いくつかの中心データ実体およびそれらの間の関係を中心とした多くの主題を持つデータベースである。これらの実体とは、酵素、化合物、反応、経路、遺伝子、および疾患である。この中核的アーキテクチャでは、遺伝子発現やタンパク質の相互作用、代謝プロフィルなど、他のしばしば異質なデータを含めるための、多数の「リンク用ポータル」が提供される。リンクされると、これらのデータは大型システムレベルのピクチャの一部になる。
【0020】
次のステップは、ヒトの代謝、疾患、およびその他のシステムレベル再構築の特定のカテゴリの機能的モデルを構築することである。ここで2つの重要なステップは、(1)関係ある経路の部分集合を選択すること、および(2)それらを代謝ネットワークにリンクすることである。経路の選択は、上記論じた構造化アノテーションテーブルに収集された情報を利用して、一組の「SELECT...FROM...WHERE...(〜する〜場所から〜を選択する)」タイプの照会によって行う。経路間のリンクに関する情報は、データベースに暗黙的に含まれる。2つの経路レコードが共通の中間体を共用するときはいつでも、または1つの経路内の中間体が、別の経路からの酵素に関するレコードで調節因子として生じるときは、リンクがこれら2つの経路間に発生する。
【0021】
本発明の技術は、ヒトにおけるアミノ酸代謝のシステム再構築に使用し、その一部を表2に示す。再構築は2つの主な部分、すなわちアミノ酸生分解とアミノ酸生合成からなる。再構築のユーザインターフェースは、アミノ酸代謝に関与する経路を示す対話形マップである。これら経路を共用代謝産物によってネットワークに相互接続する。経路上でマウスをクリックすることにより、ユーザは、反応および酵素に関する詳細なダイアグラムを示す経路ページにアクセスすることができる。このページから、酵素および反応に関係するページにもアクセスすることができる。さらに、このページからは、経路にリンクされた疾患について記述する経路ノートにアクセス可能である。酵素のページには、酵素の名称およびその同義語と、酵素に関係する遺伝子についての遺伝子ページへのリンクと、酵素が関与する反応および経路のリストと、ヒト疾患におけるその酵素の関与についての注記が含まれる。
【0022】
再構築の1つの特徴は、ヒト疾患の組込みである。疾患へのリンクを活性化することによって、ユーザは、経路に関連する疾患のリストを見ることができる。これらのリストから、個々の疾患に関するページにアクセスすることもできる。これらのページには、疾患にリンクされている酵素、反応、および経路のリストが含まれる。さらに、様々な態様の疾患メカニズム、その代謝的原因、および/またはその症状について述べている注記を見ることができる。
【0023】
本発明のシステム再構築技術の一態様では、マップを構築するのに生物特異的経路を使用する。これにより、得られるネットワークへの自己一貫性の条件の組付けが可能になる。これは、各代謝産物が生物に不可欠なものであるべきであり(例えば食物を通して消費される)、またはそれを生成する経路があるべきであることを意味する。言い換えれば、2つの本質的でない化合物の間にギャップがある場合、それは知識の欠如を示唆し、さらなる研究へと仕向けるのに役立つ。
【0024】
これにより、生物特異的遺伝子またはタンパク質が特定されていない場合であっても、生物における酵素機能の存在の予測が可能になる。例えば、再構築中の2つの代謝産物間に、記述される酵素のいずれによっても埋めることのできない明らかなギャップがある場合は、このギャップの橋かけをする少なくとも1つの記述されていない酵素があることが予測される。ヒトにおけるアミノ酸代謝の本発明の再構築では、ヒトゲノム中でまだ同定されていないいくつかのヒト酵素を同定した。これらの酵素は、その機能が代謝マップの論理に必要とされたので同定した。その結果、これら酵素に関するヒト遺伝子が、ヒトゲノムの類似性の徹底的研究を通して、またヒトESTの研究によって提示された。
【0025】
自己一貫性条件も、単に同定されたヒト酵素に基づいて不正確に割り当てられる可能性のある経路を無くす助けをする。一例を、フェニルアラニン生合成により例示する。ヒトは、この必須アミノ酸を合成できないことが周知である。しかし、フェニルピルビン酸からフェニルアラニンを合成できる可能性のあるヒト酵素、すなわちアスパラギン酸トランスアミナーゼ(EC2.6.1.1)がある。このヒト酵素を全般的な代謝マップ上に重ね合わせるだけであると、フェニルアラニン生合成に関するヒト経路があるという不正確な結果になる可能性がある。対照的に、本発明の自己一貫性再構築は、フェニルピルビン酸、すなわちアスパラギン酸トランスアミナーゼの基質が存在しないことにより、フェニルアラニンの生合成がヒトでは起こらなくなることを示す。
【0026】
以下の実施例は、キチナーゼが関与する経路を例示する。これらの経路は、システム再構築技術の使用によって明らかにされている。システム再構築技術は、同時係属の米国仮特許出願第60/299,040号および米国特許出願第10/−−−,−−−号(代理人整理番号No.73876)であって2002年6月18日出願の「System Reconstruction:Integrative Analysis of Biological Data」という名称の出願に記載されており、これら両方を参照により本明細書に援用する。
【実施例1】
【0027】
動脈硬化症治療のためのヘパリンの安定化
キチナーゼ族のHCgp−39は、動脈硬化症を治療するためにヘパリンと併せて使用することができる。HCgp−39の添加により、ヘパリンを安定化し、その有効性を増すことができる。
【0028】
ヘパリンは、動脈硬化症で何らかの役割を演じていると考えられる。データは、動脈硬化症に罹っている患者のヘパリン濃度が低下したことを示している。ヘパリンによる治癒的治療は、梗塞および発作の危険性を低下させるために行われる。ヘパリンは、抗凝固薬としても使用される。これは抗トロンビンIIIを活性化する。さらに、低分子量のヘパリンは、リポタンパク質リパーゼを活性化する薬剤として、脂質代謝障害の治療に使用される。
【0029】
正常な条件下、リポタンパク質リパーゼは、血管中の内皮細胞表面も含めた細胞表面に局在化する。ヘパラン硫酸とリポタンパク質リパーゼとの結合が、細胞表面にリポタンパク質リパーゼが保持される原因である。細胞表面に結合している間、リポタンパク質リパーゼは酵素活性がなく、受容体として働き、低密度リポタンパク質と超低密度リポタンパク質(LDLとVLDL)とを結合する。この結合により、リポタンパク質が細胞に取り込まれる(PMID 10532590)。動脈硬化症の発症は、飲作用によって細胞に吸収される過剰なリポタンパク質が原因で形成される、いわゆる「泡沫細胞」の出現を特徴とする。
【0030】
ヘパリンは、リポタンパク質リパーゼに対し、ヘパラン硫酸の場合よりも高い親和性を有する。ヘパリンを、リポタンパク質リパーゼに結合するヘパラン硫酸に代えることにより、リポタンパク質リパーゼが活性化し、細胞表面から細胞間隙へ、さらに血液へと放出される(PMID 11427199)。ヘパリンの結合はリポタンパク質リパーゼを活性化するが、ヘパリンが存在しないと、リポタンパク質リパーゼが細胞表面から放出されるとしても、それは不活性なままである(PMID 10760480)。
【0031】
ヘパリンとリポタンパク質リパーゼとの結合により、いくつかの良好な治療効果が得られる。第1に、細胞によるリポタンパク質の取込みが減少し、したがって「泡沫細胞」のさらなる形成が予防される。第2に、ヘパリン結合リポタンパク質リパーゼは、その触媒活性を取り戻し(PMID 210908、698674)、細胞間隙および血液中のLDLおよびVLDLを分解し始める。血液中のLDLおよびVLDLが過剰であると、アテローム斑が形成される。対照的に、リポタンパク質リパーゼがLDLおよびVLDLを分解すると、最終的には肝臓で処理される脂肪酸を形成する。したがって、リポタンパク質リパーゼによるLDLおよびVLDLの分解は、動脈硬化症の発症の予防を助ける。
【0032】
上述のように、動脈硬化症の患者は、しばしばヘパリンで治療する。遊離ヘパリンはヘパリナーゼにより分解されると考えられる。完全長のヒトヘパリナーゼ酵素は単離されていない。ヒトヘパリナーゼは、その配列の断片によってのみわかる(NCBIタンパク質#AAE10146〜10153、AAE13758〜13770、AAE67749〜67785)。ヒトヘパリナーゼの酵素活性については直接研究されていないが、その他の知られているヘパリナーゼは、リアーゼとして知られている酵素の種類に属する(EC番号4.2.2.7、「Eliminative Cleavage Of Polysaccharides Containing 1,4−Linked Glucuronate Or Iduronate Residues And 1,4−Alpha−Linked 2−Sulfoamino−2−Deoxy−6−Sulfo−D−Glucose Residues To Give Oligosaccharides With Terminal 4−Deoxy−Alpha−D−Gluc−4−Enuronosyl Groups At Their Non−Reducing Ends」)。既知のヘパリナーゼとの類似性に基づき、ヒトヘパリナーゼは、その非還元性末端への結合を通してヘパリンと相互作用し、ヘパリンを分解するようである。
【0033】
キチナーゼ族のタンパク質であるHC gp−39も、ヘパリンに結合することができる(Medline 96325055)。ヘパリン(またはヘパリン類似体)とHCgp−39との結合により、ヘパリンがヘパリナーゼで分解されるのを防止することができる(図4)。ヘパリンが分解するのを妨げることにより、ヘパリンが活性である期間が延びる。HCgp−39をヘパリン(またはその治療上の類似体)と併せて使用すると、動脈硬化症治療の際のヘパリンの有効性を高めることができる。
【0034】
現在のところ、HCpg−39がヘパリンに結合する方法に関する直接的な証拠はない。しかし、キチナーゼに近いいくつかの加水分解酵素は、その基質の非還元性末端でその基質に結合することがわかっている。したがってHCgp−39は同様に、ヘパリンの非還元性末端に結合すると考えられる。この結合は、ヘパリンがヘパリナーゼによって分解されるのを妨げる。ブタ平滑筋培養物(ブタgp38k)からのHCgp−39相同体については非常に詳細に研究されている(Shackelton他、JBC 270(22)、1995年)。HCgp−39は、gp38k(DNAstar)に対して84.6%の相同性を示す。gp38kに結合しているヘパリンの部位(残基144〜149、RRDKRH)は、HCgp−39の推定上のヘパリン結合部位(RRDKQH)と類似しており、そこではヒトタンパク質のアルギニンをグルタミンで置換している。
【実施例2】
【0035】
組織の再構築
ほとんどの組織では、細胞は、多糖の膜ベースの複合体を通して、また糖衣および細胞外基質として知られる膜結合タンパク質を通して接続している。ヘパラン硫酸は、糖衣と細胞外基質の両方の最も重要な成分の1つである。ヘパラン硫酸は、フィブロネクチンおよびその他の構造タンパク質と結合し、この結合が、組織内の細胞の固定化に必要であり、組織構造を決定する(図5)。ヘパラン硫酸とフィブロネクチンとの結合のメカニズムについては研究されており、この結合は、線維芽細胞、上皮細胞、および内皮の位置決めに非常に重要である(PMID 3917945、8838671、10899711)。ヘパラン硫酸は、細胞間接触が確立される間、トロンボスポンジンに結合すること(PMID 1940309)、また、細胞の凝集と、ヘパラン硫酸のシンデカン−1との結合との間には相関があること(PMID 7890615)も示されている。
【0036】
キチナーゼ族のタンパク質であるHCgp−39は、フィブロネクチンの場合よりも、ヘパラン硫酸に対して高い親和性を持っている(Medline 96325055)。HCgp−39は、ヘパラン硫酸との結合に関してフィブロネクチンと競合する可能性がある。HCgp−39がフィブロネクチンに代わってヘパラン硫酸と結合する場合、細胞間結合および組織構造を保つ構造成分は緩和される。そのような緩和は、組織の再構築および再生を首尾良く行うのに必要である。HCgp−39の局所濃度が増すことによって、またそれにより組織の構成要素が局所的に緩和されると、組織の再構築および再生を刺激することができる。そのような適用例は、創傷治癒や関節炎に起因する関節変性の領域に有用と考えられる。
【実施例3】
【0037】
動脈硬化症
ヒアルロン酸(HA)は平滑筋細胞に結合し、その増殖を防止する。動脈硬化症の平滑筋細胞の増殖は、動脈硬化斑の成長をもたらす。したがってHAは、疾患を抑え込む助けをする。キトトリオシダーゼまたはキチナーゼ1は、HAの形成に必要なキチンプライマーを分解することによって、HAの合成を抑制する可能性がある。したがってキトトリオシダーゼは、動脈硬化斑の成長を促進させる。キトトリオシダーゼの活性の抑制は、動脈硬化症の治療に有用と考えられる(図4Aおよび4B参照)。
【0038】
ヒアルロン酸は、組織の修復および再構築の様々なプロセスに関与する。特にHAは、心臓血管疾患の病因に極めて重要な平滑筋細胞の移行および増殖を調節する際に、ある役割を演じる。HAは、血小板由来増殖因子(PDGF)によって誘発された平滑筋細胞増殖の負の制御因子として、またPDGFで誘発された移行の正の制御因子として働く(PMID:9678773、8842351、7568237)。
【0039】
平滑筋細胞の制御されていない増殖は、アテローム斑の増殖を促進させる。細胞が脂質粒子を活発に吸収し始めるにつれ、「泡沫細胞」に変化し、その細胞はアテローム斑の核を形成する。さらに平滑筋細胞が増殖すると、それが新しい平滑筋細胞の層で覆われることによって、「泡沫細胞」の形成および単離が拡大する。これにより、さらにアテロームが形成され、または動脈内層が変性する。平滑筋細胞増殖を低減させる薬物は、アテローム性動脈硬化症療法の一部としてしばしば使用される。しかしこれらの薬物のほとんどは、多くの望ましくない副作用を有しかつその使用が制限される可能性のあるホルモンである。
【0040】
HAは、平滑筋細胞および内皮細胞を含めた様々な細胞型の原形質膜の細胞外面で合成される(PMID:10493913)。明らかに線維芽細胞は、アテローム硬化性損傷に関係するHAのほとんどの供給源をもたらす(例えばPMID:11378333、11327061、11171074参照)。HA合成は、酵素、すなわちヒアルロン酸合成酵素(HAS)によって触媒される。現在のところ、この酵素に対して3種のヒト遺伝子:HAS−1、HAS2、HAS3が確認されており、これらを染色体領域19q13.3〜q13.4、8q24.12、および16q22.1にそれぞれマップする。HASは原形質膜タンパク質である。
【0041】
ヒトヒアルロン酸合成酵素は、アフリカツメガエル(DG42)からのグリコサミノグリカン合成酵素を含めたその他の生物からの酵素と相同性が高いことが示されている(PMID:8798544、8798477)。DG42とそのゼブラフィッシュおよびマウスからの類似体は、キチンオリゴ糖合成酵素の活性を表すことが示されている。さらに、精製されたキチナーゼをゼブラフィッシュ細胞抽出物に添加することにより、HAの合成が著しく(最大87%)低下する。これらのデータに基づけば、キチンオリゴ糖は、ヒアルロン酸合成のプライマーとして働くことが考えられる(PMID:8643441)。
【0042】
アテローム硬化性損傷領域内でマクロファージにより発現したキトトリオシダーゼ(EC3.2.1.14)およびHCgp−39は、血管壁基質に見出された。これは、キトトリオシダーゼがHAプライマーをそれ自体の基質として認識し、したがってHAの合成を妨げることを示唆している(PMID:10073974)。
【0043】
平滑筋細胞の増殖および移行の調節過程にキトトリオシダーセが寄与するメカニズムは、HA合成のプライマーとして働くキチン様オリゴ糖に関するその酵素活性に基づくと考えることができる。キトトリオシダーゼによってこれらプライマーが切断されると、HAの局所濃度が低下する可能性があり、したがって細胞増殖が増加し、血管壁にさらなる損傷が引き起こされる。
【実施例4】
【0044】
化粧品
グリコサミノグリカンは、外傷、手術、または加齢による皮膚損傷の治癒および再生を目的に、皮膚科および美容術で広く使用されている。過去10年間に、局所的使用および注射を目的に、グリコサミノグリカンを含有するいくつかの化粧品および治癒的療法が開発され販売された。組成物は、キトサンやヒアルオン酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸などのグリコサミノグリカンを含んでいた。ヒトレクチンHCgp−39を、グリコサミノグリカンを含む局所組成物に含めることにより、皮膚の改善を加速させ、その状態を引き延ばすことができる(図5)。
【0045】
HAを細胞外基質に添加すると、水和(hydratation)が起こり、組織の膨圧が増大する。上記論じたように、HAは組織再構築の重要な因子の1つでもあるが、それは、細胞外基質のいくつかのタンパク質および非タンパク質成分と相互に作用して、細胞層を形成する足場を形成するからである。HAは、細胞外基質での金属プロテアーゼの発現を刺激し、例えばエラスターゼ様エンドぺプチターゼが線維芽細胞およびケラチノサイトに発現する。これらの細胞型はどちらも、組織再構築に必要なヒアルロン酸を結合するための受容体である。
【0046】
HCgp−39をヒアルロン酸と併せて使用することにより、レクチンに類似する機能を発揮することができ、細胞外基質のタンパク質とグリコサミノグリカン要素の両方を緩める効果がある。HCgp−39およびHAでの治療の後は、内部で生ずるHA合成に向けてHAS1、HAS2、およびHAS3の発現を刺激するために、線維芽細胞増殖因子(FGF)およびインスリン様増殖因子(IGF)での治療を行うことが好ましいと考えられる(図4Aおよび4B)。
【0047】
内在性HAレベルは年齢と共に低下するので、HAによる治癒または予防処置は、高齢の患者または加齢状態の患者に特に重要である(年齢と共に、脂質で満たされたマクロファージの数が上昇し、キトトリオシダーゼの濃度を増大させ、それに相応して内在性HAが失われる)。
【0048】
HAは、表皮に深く浸透することも可能であり、薬物送達のための賦形剤として使用することができる。
【実施例5】
【0049】
パーキンソン病
パーキンソン病の治療の1つには、6〜10週齢の胚の黒質から得たニューロンの移植が含まれる。この治療の有効性は、移植した組織がうまく組み込まれたかどうかに左右される。現在使用される技法は、かなり低い成功率を示している(Kupsch A.他、Nervenarzt、1991年、Bd.62、S.80〜91;Landvall O.、Europ.Neurol.、1991年、Vol.31、Suppl.1、P.17〜27)。この低い成功率は、通常は術後数カ月以内に生じる移植片の拒絶反応に関係する。成功する移植は、キイロショウジョウバエの胚性神経外胚葉細胞を移植組織に添加することにより実現できることが示されている(PMID:9532720;PMID:9449456)。これらの細胞は、ヒトタンパク質HCgp−39と相同的な、DS47も含めたいくつかの増殖因子および再構築因子を発現することが知られている。
【0050】
移植片の組込みは、組織再構築の過程に関係する。移植細胞の損傷細胞への組込み、および移植細胞の分化は、損傷組織の機能を回復させるのに必要である。これらのプロセスは組織再構築に関係し、再構築因子は、移植細胞とレシピエントの細胞外基質および細胞との相互作用において重要な役割を演じる。しばしば移植片の拒絶反応は、レシピエントの免疫応答に起因するのではなく、グリア瘢痕組織形成によって引き起こされる組織組込みの欠如、および移植組織中への血管の内部成長の欠如に起因する。1つの明らかな理由は、レシピエントの組織において再構築因子の活性が低いことである。特に拒絶反応は、再構築能力が加齢と共に弱まることに関係する可能性がある。
【0051】
HCgp−39などキチナーゼ族に属するタンパク質も含めた再構築因子の局所濃度を変化させることにより、移植をして組織再構築を調節することが可能と考えられる。脳キチナーゼの活性は、血液単球由来の小膠細胞に関係するものと考えられる。他方で移植片の神経細胞は、その性質が原因で、十分な再構築因子を蓄積しない。ショウジョウバエの胚細胞を組み入れることによって移植片を統合させる成功率が著しく増加することは、これらの細胞が、ヒトにおけるそのような因子に密接に関係している再構築因子を活発に発現することを示唆している。キチナーゼ族に属する4種のタンパク質は、ヒトの脳内で発現することがわかっている(HCgp−39、キトトリオシダーゼ、YKL39、およびFLJ12549)。キチナーゼ様タンパク質の発現は、ショウジョウバエの胚細胞内にもある。これらのタンパク質は触媒活性がないが、細胞外基質のプロテオグリカンと結合することが可能である。ショウジョウバエタンパク質の1種は、ヒトHCgp−39に対してやや相同性を示す(PMID 7875581)。
【0052】
当業者なら、これら実施例に記載した材料、条件、およびプロセスの変形例を使用できることが容易に理解されよう。本明細書で引用した全ての参考文献は、その全体を参照により援用する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】システム再構築のプロセスを示す概略図である。
【図2】ヒトアミノ酸代謝の再構築の部分を示す図である。
【図3】アテローム性動脈硬化症に関与する経路間の関係を示す流れ図である。
【図4】図4Aはキトトリオシダーゼ活性が抑制されたときの、アテローム発生におけるキトトリオシダーゼ機能の経路を示す流れ図である。図4Bはキトトリオシダーゼ活性が存在するときの、アテローム発生におけるキトトリオシダーゼ機能の経路を示す流れ図である。
【図5】細胞表面と細胞外基質との様々な相互作用を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)生物の代謝に関するデータを収集するステップと、
(b)データを代謝経路中にリンクさせるステップと、
(c)代謝経路間の相互接続を特定するステップと、
(d)ステップ(a)、(b)、および(c)で得られた情報を統合することによって、生物の代謝のマップを作成するステップと
を含んでなる、生物の代謝を再構築するための方法。
【請求項2】
生物の代謝に関するデータが発現配列タグデータを含んでなる、請求項2に記載の方法。
【請求項3】
(a)非疾患状態と疾患状態の両方について、生物の代謝に関するデータを収集するステップと、
(b)データを代謝経路中にリンクさせるステップと、
(c)代謝経路間の相互接続を特定するステップと、
(d)ステップ(a)、(b)、および(c)で得られた情報を統合することによって、生物の代謝のマップを作成するステップと、
(e)マップを使用して、非疾患状態と疾患状態との相違を比較することにより、薬物標的を特定するステップと
を含んでなる、薬物標的を特定するための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−279382(P2010−279382A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−175869(P2010−175869)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【分割の表示】特願2004−514229(P2004−514229)の分割
【原出願日】平成15年6月18日(2003.6.18)
【出願人】(504466188)ゲネゴ, インク. (2)
【Fターム(参考)】