病態生理学的な組織変化の診断および経過予測を補助する装置
病態生理学的組織変化のための診断および予測の補助装置は、特に、生物学的組織の病態生理学的変化のための生体内での診断および予測の補助に適用される。それは、第1の方向(X)に沿ってコヒーレント光を放射するための、生物学的組織(16)の、それによって第1の部位と第2の部位とを照明するためのコヒーレント光の光源(13)と、第1の部位が正常であり、第2の部位が変化を含む可能性があり、したがって、その組織がスペックル現象を生じるように照明されている。
第2の方向(Y)にスペックル場を観測し、スペックルを捕捉する手段(14)と、第1の方向と第2の方向との間の角を変化させ、この組織中のあらゆる深度での組織に関する情報を取得するために異なる角度でスペックル場を観測するための手段(18)と、組織の起こりうる動きを吸収するために、前記組織の表面と観測捕捉手段との一定の距離を維持する支持吸収手段(20,28)と、観測捕捉手段によって得られたスペックルパターンを処理する電子的な手段(22)と、第1の部位と第2の部位との間でなされた比較結果を解析可能とする統計的手法によって、パターンの処理を解析するための電子的な手段(24)と、によって構成される。ただし、第1の部位と第2の部位とを比較するために、特に、フラクタル解析法によって前記処理が実行される。
第2の方向(Y)にスペックル場を観測し、スペックルを捕捉する手段(14)と、第1の方向と第2の方向との間の角を変化させ、この組織中のあらゆる深度での組織に関する情報を取得するために異なる角度でスペックル場を観測するための手段(18)と、組織の起こりうる動きを吸収するために、前記組織の表面と観測捕捉手段との一定の距離を維持する支持吸収手段(20,28)と、観測捕捉手段によって得られたスペックルパターンを処理する電子的な手段(22)と、第1の部位と第2の部位との間でなされた比較結果を解析可能とする統計的手法によって、パターンの処理を解析するための電子的な手段(24)と、によって構成される。ただし、第1の部位と第2の部位とを比較するために、特に、フラクタル解析法によって前記処理が実行される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織の病態生理学的変化の診断および経過予測を補助するために、生体内の生物学的組織の特性を計測する装置に関する。
【0002】
また、本装置は、特に皮膚組織の病変、とりわけ放射線に関する損傷に適用される。
【背景技術】
【0003】
放射線熱傷は、修復不能な皮膚組織の破壊を引き起こす可能性があり、複雑な生物学的メカニズムと分子レベルのメカニズムとの連鎖によって生じる(後で参照される他の文献と共に、本明細書の後ろの方に列挙された文献[1]を参照のこと)。
【0004】
放射線誘発性の損傷の初期には、慢性的炎症、血管形成異常、細胞外基質の異常な再構築および再上皮形成異常が徐々に回復する。
【0005】
関係した細胞のタイプごとの放射線感受性の違いと、それらの細胞の細胞間伝達とが原因となって、このような組織の反応は複雑なものとなっている。
【0006】
皮膚の放射線熱傷は、その臨床的作用がよく知られているものの、短期的になるか長期的になるかを予測するのが困難な症候群である。
【0007】
実際、熱による熱傷とは違って、放射線熱傷の目に見える結果(紅斑、浮腫、壊死など)は、照射源に被爆した後、すぐには現れない。
【0008】
このような潜伏時間の違いは、特に被爆放射線量、被爆した組織の体積、照射源、被爆時間、および、個々に特有の反応に依存している。
【0009】
また、このような生物学的な潜伏時間は、臨床的無症候性の段階として、よく知られている。
【0010】
このように、放射線量、および、その生物学的効果に関する知識は、診断、経過予測、および、放射線熱傷に対する処置(文献[2]を参照)を決定するための要素の1つである。
【0011】
被爆した組織の壊死は、例えば、20〜25Gyより大きい放射線量によって引き起こされるが、通常、皮膚片を用意するために、被爆した組織の切除が余儀なくされる。
【0012】
このような外科的処置は早く行なわれるほど、よい経過が期待できる。
【0013】
それゆえ、放射線熱傷の医学的管理は、診断機器の品質に完全に依存している。
【0014】
ところが、信頼できる診断機器であると確信できる装置は、今のところ存在しない。
【0015】
また、放射線熱傷は、事故による電離放射線の被爆によってだけではなく、管理された放射線治療による被爆によってもなり得る臨床的症状である。
【0016】
不運にも、まだ今日でも、しばしば起こる被爆事故については、600件近い放射線事故が、1945年以来、世界中で報告されている。
【0017】
これらのうち、78%が局所的な被爆に対応し、22%が全体的な被爆に対応している。
【0018】
ある場合には、数学モデルによって被爆部位に関するマップを構築できるが、このためには、線源の性質および位置の特定、被爆した組織の体積および被爆時間についての非常に正確な知識が必要となる。
【0019】
このような情報は、事故の場合には、一般に役に立たないことが前提となっている。
【0020】
被爆した組織は、生体検査によってのみ明らかとされ、被爆した放射線量の評価が可能とされる。
【0021】
すなわち、皮膚の生体検査における組織学的な計測によって、組織の被爆が明らかにでき、電子のパラメトリック共振(EPR)による骨生体検査によって、被爆した放射線量が正確に定量化可能となる。
【0022】
しかしながら、被爆によりすでに弱っている組織の状態が、生体検査によって一層悪化する可能性があるので、生体検査は、外科医たちが危惧の念を抱いている侵襲的な外科的処置の一つとなる。
【0023】
放射線量が20〜25Gyを上回る場合には、被爆による深刻な皮膚の病変が生じるが、たとえ皮膚組織の電離放射線効果による発症が上手く記録されたとしても、とりわけ診断機器は依然として扱い難いので、医療現場の反応は、まだ依然として非常に複雑で、デリケートな状態にある。
【0024】
そこで、皮膚の被爆の医療診断を補助するために、非侵襲的で、生体内に対して使用可能な検査手順の開発が必要不可欠となる。
【0025】
放射線療法に関しては、患者の約30%が皮膚毒性を発症し、不運にも患者の約5%が深刻な合併症を発症する。
【0026】
放射線療法では、照射野内に含まれ腫瘍を取り囲んでいる正常な組織を保護すると同時に腫瘍を破壊するような所定の放射線量を最適化することを基礎にしている。
【0027】
このため、電離放射線の被爆に関連する正常な組織の2次的な合併症のリスクは避けられない。
【0028】
これらの病変の重症度は、組織の放射線感受性、放射線量、被爆頻度、あるいは、たとえ、それが病理学的な場合でも、その患者の病歴などの、いくつかの要素に依存している。
【0029】
皮膚組織に対する放射線療法の急性毒性によって処置が中止されることもある。
【0030】
結果として、患者を守るために好ましくない変化をできるだけ早急に診断し処置できるように、被爆による正常な組織の変化を監視可能とする装置を得ることが必要不可欠となる。
【0031】
熱傷の診断ができる装置はあるが、このような道具は、放射線熱傷の臨床的無症候性の段階では、なんの診断要素も提供しないので、それらは放射線熱傷の診断機器としては使用できない。
【0032】
熱傷の場合の臨床試験に使用される装置に共通する、赤外サーモグラフィー法、血管シンチグラフィー法、あるいは、ドップラーレーザー法によっても局所的な血流の変化を明らかにできる。
【0033】
放射線熱傷の場合には、局所的に(40Gyで)被爆したミニブタについて、被爆後、最初の48時間の間には、赤外サーモグラフィーおよびドップラーレーザーによって、被爆部位を正常部位から区別できる。
【0034】
これらの技術では、被爆後の48時間後以降は、被爆した皮膚から正常な皮膚を識別できない。
【0035】
その他の技術、特に、浮腫に特徴的な密度と組織の水和状態の変化とを明らかにできる核磁気共鳴画像法とX線断層診断法とが検証されてきた。
【0036】
水の密度に近い浮腫の密度が正常な組織の密度より小さいことを利用して、これらの画像技術によって浮腫の境界を定めることができる。
【0037】
しかしながら、放射線熱傷の場合には、このような大掛かりでコストが掛かる技術によっても、臨床的無症候性の段階では、正常な組織内の被爆した組織を識別できない。
【0038】
表1には、病変の臨床的な変化に対応して提案された様々な生物物理学的技術および生物学的技術が要約されている(文献[3]参照)。
【0039】
しかしながら、今まで、これらの技術はどれも、目に見える臨床的兆候がないうちには、正常な組織と対比して被爆した組織を浮き彫りにすることができなかった。
【0040】
結局、このような技術は、皮膚の被爆に対する診断および経過予測の補助については、臨床的には利用できない。
【0041】
〈表1〉 検査される組織の損傷のタイプに対して使用可能な生物物理学的および生物学的方法(文献[3]参照)
【表1】
【0042】
数人の著者が、偏光媒質の特性を示すミュラー行列を解析することによって、ブタについて被爆した皮膚の生体内での脱分極特性を研究している(文献[4]参照)。
【0043】
これらの著者によって行なわれた実験では、ブタの皮膚の生検を生体外で実施している。
【0044】
上記の装置は、(呼吸、心拍などの)生理的運動のために、生きている対象に対しては、今のところ、画像の繰り返し利用が問題となって適用できない。
【0045】
しかも、使用される装置は重く、それゆえ輸送が困難であり、かなりのコストが掛かる。
【発明の概要】
【0046】
上述したように、生体内に対して使用可能な非侵襲的な装置は、今のところ、臨床的兆候がないにも拘わらず重篤な被爆による皮膚の病変の診断を補助することができない。
【0047】
本発明は、このような問題点の解消を目的としている。
【0048】
本発明の目的としている技術および前駆症状のモデルでの費用対策は、早期診断および経過予測、そして患者の健康のための発展の一翼を担っている。
【0049】
これから見て行くように、本発明の目的の装置は、スペックルパターンの捕捉と、とりわけフラクタル解析法による処理とを可能にし、生体内の放射線熱傷に関する診断、および、それらの変化の経過予測の補助のために有効な装置を構成する。
【0050】
上述の診断および経過予測における、この装置の価値は立証されている。
【0051】
一層正確には、本発明の目的は、特に病態生理学的変化に関する診断および経過予測を補助するために、生体内での生物学的組織特性を計測するための装置、具体的には皮膚の老化の評価のために、あるいは、美容科または皮膚科用製品の有効性の評価のために、組織の損傷、さらに具体的には被爆による組織の損傷を計測するための装置である。
【0052】
ただし、上記の装置は、
・ 第1の方向に沿ってコヒーレント光を放射し、それによって第1の部位と第2の部位とにおける生物学的組織を照明するためのコヒーレント光の光源と、
(ただし、第1の部位は正常で、第2の部位は病変を含む可能性があり、上述したように、上記の組織はスペックル現象が生じるように照明されている。)
・ 第2の方向でスペックル場を観測し、かつ、スペックルを捕捉する観測捕捉手段と、
・ 異なる角度でスペックル場を観測し、かつ、この組織中のあらゆる深度での組織に関する情報を取得するために、第1の方向と第2の方向との間の角を変化させる(機械的、または、その他の)角度可変手段と、
・ 第1の部位と第2の部位とを比較可能とするために、組織の表面の照射点と観測捕捉手段との間の距離を一定に維持し、かつ、呼吸などの外的要因による組織の起こりうる動きを吸収する(機械的、または、その他の)支持吸収手段と、
・ 第1の部位と第2の部位とを比較するために、観測捕捉手段によって得られたスペックルパターンを処理する電子的な手段と、
・ パターンの処理結果を統計的手法によって解析すると共に、第1の部位と第2の部位との間でなされた比較結果を解析可能とする電子的な手段と、
を有していることを特徴としている。
【0053】
角度可変手段が、いくつかの観測角度でのスペックルの捕捉と、これにより、いくつかの深度での組織の検査とを可能とし、結果として、組織の異なる層での病態生理学的変化の考察を可能とすることには注目すべきである。
【0054】
さらに、上述の統計的手法は、例えば、統計的検定法または要素解析法とする。
【0055】
本発明の目的としている装置の最良の実施例では、第1の方向と第2の方向との間で角度を変える角度可変手段が、おおよそ0°〜180°の範囲内で上記の角度を変化可能とし、正反射の方向に対する、いくつかの角度で、その正反射の外側のスペックルを観測可能としている。
【0056】
したがって、本実施例では、様々な深度の異なる組織層を選択的に検査することが可能になる。
【0057】
第1および第2の方向の間の角度を変える角度可変手段が、第2の方向の向きの変更とは独立に第1の方向の向きの変更を可能とし、その反対に、第1の方向の向きの変更とは独立に第2の方向の向きの変更を可能とするのが望ましい。
【0058】
本発明の目的としている装置の最良の実施例によれば、
・ 観測捕捉手段がスペックルを捕捉し、かつ、スペックルパターンに対応する電気信号を出力する光検知手段を有し、
・ 処理用の電子的な手段が非圧縮画像形式の電気信号を処理可能とし、第1の部位と第2の部位との比較を可能とする。
【0059】
光検知手段は、スペックルを、せいぜい100μsの露光時間で捕捉可能とするものが望ましい。
【0060】
また、光検知手段は、カメラにより構成されるのが望ましい。
【0061】
上記のカメラは、対物レンズを有するカメラであってもよいが、対物レンズを有さないカメラの方が望ましい。
【0062】
上記のカメラを、具体的にはCCDカメラとする。
【0063】
本発明の最良の実施例では、照射部位に対して、少なくとも200個のスペックルパターンを取得可能な観測捕捉手段が備えられている。
【0064】
本発明の目的としている装置は、大体、組織の深層によって生じるスペックルの選択を達成するのに、光源から放射されたコヒーレント光の偏光と、観測捕捉手段に達する光の偏光とを制御可能とする光学手段をさらに有しているものであってもよい。
【0065】
これらの光学手段は、(直線、円または楕円)偏光板や、2分の1波長板または4分の1波長板からなるものとする。
【0066】
また、上記のコヒーレント光の光源は単色光であるのが望ましい。
【0067】
上記の光源はレーザー光であるのが望ましい。
【0068】
上記の実験条件、特に使用されるカメラのタイプに依存するが、組織表面の照射点とカメラとの間の距離は、20cm位に設定するのが望ましい。
【0069】
スペックルパターンの処理は、従来の周波数解析法やフラクタル解析法によって実行可能である。
【0070】
本発明の最良の実施例によれば、スペックルパターンの処理がフラクタル解析法によって実行される場合には、上記の処理には、スペックルパターンを特徴付ける統計変数の抽出が含まれる。
【0071】
統計変数としては、
・ ハースト係数
・ 自己相似特性(autosimilarity)
・ 変数の飽和値
を有しているのが望ましい。
【0072】
本発明は、付録の図面を参照しつつ、この後に与えられる、なんら制限することがない、単に例示した実施例の記載を読むことによって、よく理解される。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の目的としている装置の実施例の一例の概略図である。
【図2】図(a)および図(b)は、従来の周波数解析法の場合に、番号P129が付されたブタについて、スペックルの形成のために使用される光線の入射角Ψを20°として、各計測点に対しての、各部位、すなわち、正常部位(点線)および被爆部位(実線)に対しての、粒の幅dx(図(a))と粒の高さdy(図(b))とに関して平均のスペックル粒の大きさを示している。
【図3】図(a)、図(b)および図(c)は、フラクタル解析法の場合に、上述のブタについて、上記と同一の光線の入射角として、各計測点に対しての、各部位、すなわち、正常部位(点線)および被爆部位(実線)に対しての、変数の飽和値G(図(a))、自己相似特性S(図(b))およびハースト係数H(図(c))に関して画像の水平方向に沿って計算されたフラクタル変数を示している。
【図4】計測日ごとに、上述のブタの皮膚の被爆部位(40Gy)の写真を示している。
【図5】一緒に計測された全てのブタについて、様々な角度に対する識別変数の異なる実験日でのスコアを示している。
【図6】4匹のブタについて、正常部位と比較される被爆部位についての、表皮の厚さの増加と真皮の厚さの増加とを示している(単位%)。
【図7】番号P129が付されたブタについて、観測角20°で、一緒に計測された全計測点での、計測日の関数としての3つの統計係数、すなわち、変数の飽和値G、自己相似特性Sおよびハースト係数Hに関する0Gyの値に対する40Gyの値の比の変化を示している。
【図8】番号P161が付されたブタについて、観測角60°で、一緒に計測された全計測点に対し、正常部位(点線)と被爆部位(実線)との各部位についての、時間の関数としてのハースト係数Hの変化を示している。
【図9】スペックルパターンのパワースペクトル密度を示している(両対数スケール)。
【図10】正規化された自己共分散関数CI(x,0)と、上記関数の最大値の半分での全値幅を示すdxとを示している。
【図11】正常な皮膚の場合に得られるスペックルパターンの拡散関数の両対数表示である(任意の単位)。
【発明を実施するための形態】
【0074】
まず、最初に、この現象を応用した最先端技術が産み出されているスペックル現象のいくつかの点について思い出しておく。
【0075】
スペックル現象は、拡散媒質からのコヒーレント光が干渉することによる干渉現象である。
【0076】
このような媒質は、密度の局所的な揺らぎと、この揺らぎによる屈折率の揺らぎとを伴う。
【0077】
これらの局所的な領域は、上記の媒質内にランダムに分布しており、部分波に対する拡散体を構成している。
【0078】
これらの部分波のランダムな位相の散逸によって、統計的な強度分布を生じさせるランダムな干渉が生じる。
【0079】
このようにして生成された強度分布によって示される模様は、ザラザラした外観を呈する「スペックル」として知られている。
【0080】
このような現象は、長い間、単純な画像のノイズと考えられてきた。
【0081】
しかしながら、それは、光−物質間の相互作用に直接起因している。
【0082】
結果として、スペックルを特徴付ける変数(粒の大きさ、コントラスト、強度、偏光など)によって、媒質の特性の情報、特に、その光学的特性の情報を得ることができる。
【0083】
しかしながら、主な問題は、この情報を定量的に取得することにある。
【0084】
このため、ここ数年来、物理学者たちは、スペックルを生成する媒質を特徴付けるのに、スペックルを応用することに関心を持ってきた。
【0085】
こうして、恒星物理学、表面の粗さや物質の変形を計測する産業分野、それどころか、本発明に関連する分野である医療画像法など、いくつかの応用分野が発展してきた。
【0086】
医療画像法の分野では、スペックルの空間的、動的特性の計測により、医療診断のための情報が提供可能となる。
【0087】
例えば、ある研究者たちによって、血流量を測定するための新技術が提案されている(文献[5],[6],[7]参照)。
【0088】
他の著者たちは、干渉分光法による骨変形あるいは骨インプラントの計測のためにスペックル現象を応用している(文献[8]および[9]参照)。
【0089】
また、他の著者たちは、表面の粗さの確定および生物学的組織の表面にスペックルを利用している(文献[10]参照)。
【0090】
しかしながら、スペックルの分析による粗さ特性の抽出については、ほとんど進展しておらず、組織表面それ自体の研究は、診断の補助についての研究に関しては十分ではない。
【0091】
病変の外観は、実際のところ、病態生理学的変化が組織の表面だけでなく、あらゆる深さの組織にも関係していることを暗示している。
【0092】
特に、病理組織の変化は一般に最深層の深さでの一時的組織変異から始まるので、早期診断では、上記の組織(真皮、下皮)の深層の組織を検査する必要がある。
【0093】
また、数人の研究者たちは、スペックルの大きさと実験条件との関連について研究してきた(文献[11]参照)。
【0094】
しかしながら、生きている対象により生じるスペックルは動いており、このような不安定な現象を調べるには、従来の周波数解析法は信号処理の観点から十分ではないようである。
【0095】
最近、スペックルのフラクタル解析法が導入された。
【0096】
この手法では、フラクショナルブラウン運動と類似の方法が提案されている(文献[12]参照)。
【0097】
同様に、他の著者たちは、様々なサンプル(自力では動かない物質、あるいは、果物や植物などの生物学的サンプル)により生じるスペックルの動きを調べることによって、これらの異なる媒質を特徴付けるために、フラクショナルブラウン運動としてモデル化されたスペックルパターンのフラクタル次元の抽出を提案している(文献[13]参照)。
【0098】
フラクショナルブラウン運動は、フラクタル解析法において広く利用される統計的過程である。
【0099】
また、最近、フラクタル解析法は、実際の複雑な現象を特徴付けるのに利用される。
【0100】
生物医学の分野においては、骨組織のX線画像を分析するのにフラクタルを利用したPothuaud(文献[14]参照)とBenhamou(文献[15]参照)の業績を引用することができる。
【0101】
フラクタル特性は、スペックル現象、具体的には、ランダムな粗い表面によって生成されたスペックル(文献[16]参照)と、ポリスチレンのミクロスフィア溶液を計測する際に生成されたスペックル(文献[12],[17]参照)とに対しては、すでに発見されている。
【0102】
文献[12]において提案されたスペックルのフラクタル解析法と、従来のスペックルの周波数解析法とは、強皮症に冒された病的状態の皮膚の病変を、目で見ることができる安定した段階で特徴付けるのに使用された(文献[18]参照)。
【0103】
しかしながら、文献[18]で使用された装置では、放射線熱傷の検出に対する有効性は検証されていない。
【0104】
この装置では、本発明とは違って、病変がまだ目に見えないか、病態生理学的変化が深層で生じている場合の病変の変化を検出できない。
【0105】
本発明では、文献[12]で提案されたフラクショナルブラウン運動によるスペックルのフラクタル解析法を、生体内の皮膚の病変を識別するのに適用する。
【0106】
文献[12]によれば、スペックル現象とブラウン運動現象との間には、ある類似点が存在している。
【0107】
実際、それらの1次元の統計は同一の性質を有している。すなわち、それらは振幅分布についても強度分布についてもガウス分布になっている。
【0108】
また、それらの2次元の統計も同一の特性を有している。すなわち、ここから先ではPSDと記され、1/fでの減少を示すパワースペクトル密度を有している。
ただし、fは周波数であり、どちらの場合にもガウス分布の増分となっている。
【0109】
上記のスペックルの場合には、実験データのPSDは、このスペクトル帯域において、冪乗則による自己相似的な性質(あるいは、スケール不変性)を裏付けるように高周波帯域だけが減少している。
【0110】
上記のモデルの適応性を高めるような付加的自由度を、fBm、すなわち、フラクショナルブラウン運動への一般化によって付加することができる。
【0111】
このために、フラクショナルブラウン運動への一般化を考察してきた。
【0112】
このような数学的モデル化により、それの拡散関数によって、スペックル画像を特徴付ける3つの統計変数、すなわち、
・ 画像のフラクタル次元を特徴付けるハースト係数H,
・ 画像の自己相似的な性質と標準的な性質との差異を特徴付ける自己相似要素の大きさS,
・ 画像内の大きな近傍値での漸近方向を与える変数の飽和値G,
の抽出が可能となる。
【0113】
スペックルの統計理論の詳細な記述、および、スペックル現象とフラクショナルブラウン運動現象との間の相関は、本明細書の後ろの方に与えられている。
【0114】
単にスペックルを記録する対象から任意の距離に感光板を配置しさえすればよい。
【0115】
スペックルは、「自由空間」で(スペックルの実像を)観測してもよいし、照射された対象の像平面で(スペックルの虚像を)観測してもよい。
【0116】
第1の場合には、スペックルが対物レンズも他の任意の結像系も有さないカメラによって記録され、第2の場合には、例えば、対物レンズを有するカメラによって記録される。
【0117】
拡散媒質の如何なる一時的組織変異であっても、上述の3つの統計変数に変化を生じさせるような媒質の光学的変化および統計的変化を生じさせる。
【0118】
このような考えによれば、拡散媒質を区別するために、これらのスペックル画像を特徴付けている変数を使用することができる。
【0119】
診断の補助が本発明の目的であるので、この方法を、生きている対象、特に、その変化が短期的にも長期的にも、まだ、あまり知られていない被爆による急性の皮膚症候群に応用する。
【0120】
フラクタル理論には、スペックルのマルチスケール的側面が統合されているので、このスペックル現象におけるフラクタル理論に基づく手法は、従来の周波数解析法に比べて遥かに有効である。(これらの2つの手法は、本明細書の後ろの方に記載されている。)
【0121】
この後、本発明のスペックルパターンの観測および捕捉装置が記載される。
【0122】
図1に模式的に示された本発明の装置は、生物学的組織により生じるスペックル場の記録に使用される。
【0123】
この装置は非常に単純であり、さほど高価ではない。
【0124】
上記の装置は、無偏光の単色レーザー13と、電荷結合素子のカメラ、さらに簡単に「CCDカメラ」として知られたカメラ14とによって構成されている。
【0125】
拡散媒質16、具体的には、正常な皮膚の部位あるいは病的状態の皮膚の部位は、その点Pがレーザー13により生じるビーム29によって照射され、スペックル現象を生じさせる。
【0126】
媒質(皮膚組織)16によって後方散乱された光は、スペックルを捕捉可能なカメラ14によって捕捉される。
【0127】
Nは点Pからの生物学的組織16の表面に垂直な方向を示し、Xはレーザー13による光の放射方向、Yはカメラ14によるスペックル場の観測方向を示している。
【0128】
特定の向きを有さない、X方向とY方向との間の角をα、生物学的組織の表面に垂直な方向から測ったレーザービームの入射角(X方向とN方向との間の角)をΨ、生物学的組織の表面に垂直な方向から測った観測角(Y方向とN方向との間の角)をθによって示す。
【0129】
Δαは、2つの角度Ψとθとの間の変化量の絶対値を示し、すなわち、この観測角はΔα=│Ψ−θ│を満たし、正反射の方向から測った観測角になっていると分かる。
【0130】
この角度は、正反射の方向から測った観測方向の角度差を示しているので、この角度差が増加するほど、正反射方向と観測方向との差が大きくなり、それゆえ、媒質の深層で拡散された光子がより多く観測されるようになる。
【0131】
本発明の図1の装置では、(各X方向、すなわち各角度Ψに対して)Y方向を示す角度θの変化量とは独立に、(各Y方向、すなわち各角度θに対して)X方向の角度Ψの変化量が変更可能となっている。
【0132】
したがって、このために、図1の装置は機械的な支持部18と機械的な案内部20とからなる機械的な手段を有している。
【0133】
機械的な支持部18はレーザー13とカメラ14とを支持しており、異なる角度でスペックル場を観測するために角度Ψや角度θを変えることができる。
【0134】
このように角度Ψや角度θを変化させることによって、あらゆる深度で組織を調べることができる。
【0135】
案内部20の下端部は、計測部位の境界を定めるトーラス28にしっかりと固定されている。
【0136】
また、上記のトーラスは組織16の表面と接触する。
【0137】
本実施例では、トーラスの内径が40mmに等しくなっているので、トーラスは余分な反射光を加えないほど十分に広くなっている。
【0138】
案内部20およびトーラス28は、2つの連続するスペックルパターンを捕捉する間、レーザービーム29の照射点Pとカメラ14との間の距離Lを一定に維持することができ、しかも、呼吸などにより組織16に生じ得るような動きを吸収することができる。
【0139】
このように、案内部20とトーラス28とによって、2つの部位(正常部位および病的状態の部位)を比較するために必要不可欠な最適なスペックルパターンの捕捉が保証される。
【0140】
機械的な支持部18は、案内部20に対して高さが調整可能となるように、案内部20に固定されており、この支持部は円弧形状を呈し、それの曲率半径の方向が、おおよそ点Pを向いている。
【0141】
レーザー13とカメラ14とは、支持部18に対して位置が調整可能となるように固定されている。
【0142】
このように、角度Ψは、おおよそ、0°から90°の範囲の1つの値に調節可能とされており、角度θは、おおよそ、0°から90°の範囲の1つの値に調節可能とされている。
【0143】
支持部18を形成している円弧の長さは、本装置によって明らかに得られると期待される最大角度Ψに応じて設定されている。
【0144】
例えば、角度Ψを、おおよそ、180°とすることが望まれるなら、略半円弧を呈する支持部18が使用される。
【0145】
また、図1に示す本発明の装置は、カメラによって出力される信号を処理するための電子的な手段22を有している。
【0146】
この電子的な手段22は、表示手段26を備えている。
【0147】
本発明では、組織16の正常部位にレーザー13を照射するとき、組織16の一時的組織変異を含みそうな部位にもレーザー13が照射されることに注意する。
【0148】
さらに、本発明の図1の装置は、2つの皮膚の部位(正常部位および病的状態の部位)の比較結果を解析するために、手段22によって処理される上記の信号を解析するための電子的な手段24を有している。
【0149】
また、この手段24によって得られた結果は、表示手段26によって表示することができる。
【0150】
本実施例では、レーザー13を、I0/e2での幅(ただし、I0はレーザーの最大強度であり、その最大値I0と比較して強度が1/e2倍に減少するようなビーム径)が約1mmであるビームを放射する、出力15mWの無偏光のHe−Neレーザー(632.8nm)とする。
【0151】
CCDカメラ14は、例えば、有効ピクセル数が376(H)×582(V)のKappa CF 8/1 DXタイプとし、それを、対物レンズを使わずに使用する。
その各ピクセル寸法は、8.6(H)×8.3(V)μmである。
【0152】
カメラの露光時間は、少なくとも100μs程度であればよい。
【0153】
さらに、上記のカメラが、25Hzの頻度で照射される部位から、少なくとも200個のスペックルパターンを取得できるものであることに注意しよう。
【0154】
さらに、計測のために、必ずしもレーザー13とカメラ14とが案内部20の両側に配置されるとは限らない。
【0155】
すなわち、これらの計測のために、必要ならば、この案内部の同じ側に、レーザー13とカメラ14とを配置してもよいことに注意すべきである。
【0156】
(不図示の)可動アームは、レーザー13とカメラ14とを支持すると共に機械的な支持部18と案内部20との組み立て部品を保持しており、組織16の異なる部位を調べるために、それらを移動できるようにしている。
【0157】
このような移動は、検査される組織16の異なる部位の計測に応じて、空間の3方向の並進や回転について行なわれる。
【0158】
本発明をCCDカメラ以外の他の観測捕捉手段によって実施してもよいし、上記のCCDカメラと、本発明を実施するための対物レンズを使うか、あるいは、使わずに使用される、その他のカメラとを備えていてもよいことに注意する。
【0159】
また、同様に、本発明を偏光レーザーによって実施してもよい。
【0160】
さらに、組織の深層により生じるスペックルと表面層により生じるスペックルとの選別は、(直線、円、楕円)偏光板や、2分の1または4分の1波長板からなる光学的システム27によって達成できる。
【0161】
この光学的システムは、使用される場合には、レーザーの出力側やカメラの入力側に配置される。
【0162】
この光学的システムは、レーザーの出力側で設定された偏光配置に対応した、いくつかの偏光状態を検出するために、組織を照明するコヒーレント光の偏光と、カメラに達する光の偏光とを制御できるようにしている。
【0163】
組織の表面層により生じるスペックル、あるいは、大方、深層により生じるスペックルを選択的に抽出するために、2分の1または4分の1波長板を有するか、あるいは、有さない偏光板が配置される。
【0164】
本発明の装置の応用例として、数匹のブタにおける被爆による急性皮膚症候群の皮膚作用が計測された。
【0165】
すなわち、ガンマ放射(40Gy)によって、数匹のブタの右側の大きさ5cm×10cmの部位を局所的に被爆させた。
【0166】
本発明の一実施例では、20°から60°の範囲のいくつかの角度Ψにおいて、2つの部位(正常部位および病的状態の部位)を次々に照射し、0°に固定された角度θにおいて後方散乱された光を検出することによって得られたスペックルパターンが処理される。
【0167】
そして、この処理は、従来の周波数解析法およびフラクタル解析法によって実行される。
【0168】
具体的には、CCDカメラ14によってスペックルパターンを示す電気信号が出力され、電子的な処理手段22によって、上述の2つの方法により、この非圧縮画像形式の信号が処理されて、上記の2つの部位を比較できるようにしている。
【0169】
この比較結果は、統計解析(学生の試験のような統計的検定および変数の解析試験、または、例えば、主成分分析のような要因解析)により解析を行なう電子的な手段24によって解析される。
【0170】
スペックルパターンを記録するには、いくつかの事前の準備が必要となる。
【0171】
実際、検査されるスペックルは、その運動が結果としてランダムなものと考えられる移動性の散乱体としての、生きている対象によって生成される。
【0172】
これにより、「ボイリングスペックル」として知られる一時的な変動によるスペックルの撹乱がスペックルの強度に現れる。
【0173】
このような一時的な変動は、通常、強度の一時的な自己相関関数によって記述される(文献[19]参照)。
【0174】
この「スクランブルされた」スペックルが記録されるのを避けるために、結果的にスペックル画像の捕捉時間をできるだけ短くしなければならない。
【0175】
上記のカメラは露光時間を変えることができるので、適正なS/N比が得られないとしても、100μsに等しい最も短い捕捉時間に設定する。
【0176】
また、スペックルの粒の大きさは、距離に比例して増大する(文献[20]参照)。
【0177】
しかも、記録されるスペックルの粒は、CCDカメラのピクセルサイズに比べてかなり大きくなければならない。
【0178】
このことは、カメラが拡散媒質に近過ぎてはいけないことを意味している。
【0179】
さらに、各画像には、各画像の有意な統計的調査を行うのに十分な粒を含んでいなければならない。
【0180】
このことは、カメラが媒質から遠すぎてもいけないことを意味している。
【0181】
CCDセンサーと拡散媒質の照射点との間の距離Lを、これらの条件が理想的な状態となるように考慮して見出すのは難しい。
【0182】
したがって、妥協点を見出さなければならない。
【0183】
ブタの皮膚に対して、そのように設定された距離Lは20cmであった。
【0184】
この設定は、単に実施例のために規定されたものであり、何の制限もしないものである。
【0185】
とは言え、第1の部位と第2の部位とに対して、言い換えれば、正常部位と病変を含みそうな部位とに対して、距離Lは一致していなければならない。
【0186】
媒質の表面で直接反射されたレーザー光(正反射)の直接の記録を避けるために、すなわち、カメラのセンサーが飽和してしまうのを避けるために、スペックル場の観測および捕捉は、正反射の外側に約10°のところで行なわれる。
【0187】
CCDカメラによって、一連の画像が25Hzの頻度で記録される。
【0188】
交互に取得される2つの領域、すなわち、偶数領域(2,4,6などの偶数番のライン)と奇数領域(1,3,5などの奇数番のライン)とによって、完全なビデオ画像が構成される。
【0189】
したがって、25Hzの頻度で完全な画像を得る場合には、毎秒50個の領域(偶数と奇数)の情報が出力されることになる。
【0190】
再び、スペックルの動きを考慮すると、偶数領域の捕捉と奇数領域の捕捉との間で画像が変化しても、単一の領域(偶数領域あるいは奇数領域)に画像が取得される。
【0191】
このように、画像の大きさを、非圧縮の完全な画像に対して、576×384とする代わりに、288×384とする。
【0192】
カメラから出力されたアナログ信号は、その後、強度を測定可能とするために、ビデオキャプチャーカードによって、256階調のグレースケールに8ビットでデジタル化される。
【0193】
デジタル信号に含まれる情報に、いかなる損失や歪みも生じないように、圧縮は行なわない。
【0194】
取得される画像の数は、100μsの捕捉時間、毎秒25枚の画像の頻度で、(レーザービームの照射点Pに対応する)計測点あたり200枚である。
【0195】
分析される皮膚の各部位(正常部位および病的状態の部位)に対して、計測点がいくつか取られる。
【0196】
その後、本明細書の最後の方で再現される従来の周波数解析法によって、スペックル画像の「スペックルサイズ」(スペックル画像の粒の平均サイズ)を確定する処理がなされる。
【0197】
また、上記の画像は、本明細書の後ろの方に示されるように、その3つの統計係数を確定するために、ラインごとに、あるいは、列ごとに、フラクタル解析法によって処理される。
【0198】
統計係数(ハースト係数H,変数の飽和値G,自己相似特性S)は、1つの画像について、画像の各方向(水平方向または垂直方向)に対して、(垂直方向のそれぞれに対して)水平方向に沿って計算され、(各列に対して)画像の各ラインに対応す各拡散曲線それぞれに対して抽出された係数の平均に対応している。
【0199】
このように、2つの方法によって得られた結果の比較が可能になる。
【0200】
この後、本発明のブタについての皮膚の被爆への応用が考察される。
【0201】
本発明の図1の装置では、ある一定の角度θに対するレーザービームの入射角Ψを大きくするほど、レーザービームを拡散する表面積と体積とが大きくなる。
【0202】
同様に、一定の角度Ψに対するカメラの位置によって、レーザービームが拡散される表面積と体積とが、観測平面に対して異なって観測される。
【0203】
すなわち、観測方向と組織の表面に垂直な方向との間の角度θが大きくなるほど、カメラによって観測される拡散する表面積および体積が大きくなる。
【0204】
さらに、θに対応する角度Ψが大きくなるほど、あるいは、逆にΨに対応する角度θが大きくなるほど、カメラによって捕捉されるエネルギーの流れに、正反射の影響が含まれなくなる。
【0205】
したがって、皮膚のより深い層に起因する多重拡散された光子を考慮に入れた確率は、2つの角度Ψとθとの差の絶対値と共に増大する。
【0206】
この角度の差の絶対値がΔαで示され、それが正反射の方向からの観測角に対応していることが思い出される。
【0207】
結果として、正反射から離れた光子の数が多いほど、これらの計測結果が体積に起因する情報を含んでいる確率が大きくなる。
【0208】
そして、この場合は、深層により生じる情報が表面により生じる情報より優位を占める。
【0209】
しかしながら、強皮症がそうであったように(文献[18]参照)、進んだ段階の病変の場合とは違って、変化した病変が必ずしも目に見えないような病変(例えば、臨床的無症候性段階の放射線熱傷)では、組織の病態生理学的変化が最初に深層で起こるので、有効な診断は、これらの深さスケールでの変化の観測に基づくものとなる。
【0210】
したがって、有効かつ信頼性の高い診断の補助のためには、スペックル場を記録する際に、異なる層および異なる皮膚の深度で生じる皮膚の変化を考慮する目的で、スペックル場を正反射の方向に対して異なった角度(Δαは可変であり、10°より大きい)で観測する必要がある。
【0211】
これを実行するために、すなわち、皮膚のあらゆる深度で生成されたスペックルを記録可能とするために角度Ψをθを可変とし、したがって、角度Δα=│Ψ−θ│を可変とするように、本発明の図1の装置の構成として、レーザー13とカメラ14とを支持する(図1の)弧状の機械的な構成部品18が考えられた。
【0212】
そして、角度Δαが20°のとき、本来、表面層に含まれる情報が取得され、角度Δαが60°のとき、本来、深い真皮や下皮などの深層の情報が取得される。
【0213】
放射線熱傷への応用では、レーザービームの入射角Ψの20°から60°の範囲のうち1つの値と、0°に固定された角度θとによって計測を実行するように角度を設定した。
【0214】
この応用の場合には、スペックルの正反射の方向に対する観測角Δαは、角度Ψの方向に等しい1つの角度であった。
【0215】
前駆症状の研究用モデル、具体的には、ブタの皮膚の被爆に対して、本発明を応用するために開発を行ってきた。
【0216】
再現可能な方法によって、ヒトの放射線熱傷をシミュレーションするために、局所的に目盛り付けされたブタの被爆モデルが利用される。
【0217】
ブタの皮膚は、最もよく知られている人の皮膚の生物学的モデルである。
【0218】
ブタの皮膚には、ガンマ放射(60Co,1Gy/分)が照射される。
【0219】
被爆の間、ブタは、その腹部が横たえられ、照射ビームの軸がブタの脊柱の軸に垂直となるように配置される。
【0220】
皮膚の深さで電子的な平衡状態を保証することにより、深層での放射線量が一様となるように、厚さ約1cmのワックスの固まりが、照射される皮膚の部位に配置される。
【0221】
アルミナ粉末(Al2O3)により構成された熱ルミネセンス線量計では、皮膚に照射される放射線量を制御するために、ワックスの厚さも考慮に入れられる。
【0222】
この実験の照射手順は、ブタの主要な特性(胴体の厚さ、および、高さ、皮膚の密度)を代表する単純化したファントムでの一連の計測によって確立された。
【0223】
この実験手順において、後述の異なる放射線量、すなわち、5,10,15,20,40および60Gyによって照射が実行され、そして、これらの実験条件の下で、この照射によって、壊死の兆候が観測された放射線量である40Gyの放射線量が設定可能となった。
【0224】
40Gyで照射された第1のブタについての放射線熱傷の臨床的兆候の変化を観測することによって、壊死に先立つ潜伏段階で、ヒトに観測されるのと似た兆候の変化を見ることができる。
【0225】
上述のブタの場合には、この潜伏段階は、D3からD104まで、言い換えれば、D0で示される被爆の日の後、3日から104日まである。
【0226】
臨床的な期間において、一時的に僅かな紅斑が被爆後24時間で観測された。そして、紅斑はD2で確認され、D3で消失した。
【0227】
ドップラーレーザー技術により被爆部位の変化を観測することによって、主にD1で、皮膚の反応に違いが炎症反応(紅斑)の進みに対応する血管過多状態(hypervascularisation)の画像によって観測される。
【0228】
この反応は、D3では見えなくなるほどD2では弱まっている。
【0229】
画像では、実験が終了するまで被爆部位を区別できない。
【0230】
実際、紅斑がD1とD2とで目に見える場合には、ドップラー技術の画像だけで十分であることが分かる。
【0231】
これらの確定している実験条件によって、本発明の目的としている装置による、スペックル場の統計の利用を、この動物モデルに適用することが決められた。
【0232】
この後、ブタの皮膚により生じるスペックル場の統計を利用するために設定された実験の手順が与えられる。
【0233】
ブタの皮膚への(60Coの)ガンマ放射の4回の照射が、40Gyの放射線量で5cm×10cmの表面に局所的に行なわれた。
【0234】
照射後、毎日、約8日間、一連の計測が実行された。
【0235】
0Gyに対応する正常部位と40Gyに対応する被爆部位との各部位に8つの計測点がとられ、それぞれの点に対して200枚の画像を得た。
【0236】
各実験で、この皮膚の同一の位置での計測を保証するために、皮膚には正常部位と被爆部位との各部位に、境界を定めるために1cm2あたり8個の正方形からなる入れ墨が施された。
【0237】
このようにして、約3ヶ月から4ヶ月間、計測が実行された。
【0238】
各実験日で、各計測点に対するサンプル数は大きい(n=200)。
【0239】
同一の部位に対する計測点の間のバラつきと、部位間のバラつきとを比較する目的で、二元配置分散分析検定法が適用された(文献[21]参照)。
【0240】
因子A(部位間のバラつき)に対応する変数pA、すなわち、帰無仮説H0Aに対するp値と、因子B(部位内のバラつき)に対応する変数pB、すなわち、帰無仮説H0Bに対するp値とが定義される。
【0241】
その後、正常部位と被爆部位との間の比較結果が、各実験日について、上述の統計的検定によって分析された。
【0242】
計測工程の最後に計測された部位は、計測の組織学的な検証のために生検が行なわれた。
【0243】
・ CCDカメラと皮膚の照射点Pとの間の一定の距離 : L=20cm
・ 組織表面に垂直な方向に対するレーザービームの入射角 : Ψ=20°,40°,60°
・ 選択された表面に垂直な方向に対して固定されたカメラの観測角 : θ=0°
これらの実験条件の下では、この場合、正反射の方向に対するスペックルの観測角Δαは角度Ψに等しい。
この応用では、ここから先、これらの2つの角度の指定を一本化にする。
・ 画像の捕捉時間 : 100μs
・ 画像は圧縮されない。
【0244】
このあと、番号P129が付されたブタのサンプルについて考察される。
【0245】
1. 従来の周波数解析法 : 粒の大きさの計算
【0246】
画像は全て処理されたが、明確化のために、被爆後D64でのΨ=20°に関する結果の数値およびグラフだけが、表2および図2(a),(b)に示されている。
【0247】
上述の分散分析検定法を利用して、
粒の幅dx(図2(a))について、pA=0.044およびpB=0.93、
粒の高さ、あるいは、長さdy(図2(b))について、pA=0.57およびpB=0.82
が得られる。
【0248】
粒の大きさの計算では、pの値に対して閾値を0.01としても、0Gyと40Gyとの間での識別は不可能である。
【0249】
先と同様にして、その他の計測(他の日付およびレーザービームの他の入射角)に対する結果は、8割より多くが、0.13と0.93との間のpA値と似たような性質を示し、2割未満が、0.029と0.13との間のpA値と似たような性質を示す。
【0250】
〈表2〉 ブタP129についてのD64,Ψ=20°における正常部位(0Gy:図2(a),(b)の点線)と被爆部位(40Gy:図2(a),(b)の実線)との各部位の各計測点Pでの粒の平均サイズの結果
【表2】
【0251】
2. フラクタル解析法 : 3つの統計変数の計算
【0252】
先と同様にして、画像は全て処理されたが、明確化のために、被爆後D64でのレーザービームの入射角Ψ=20に関する結果の数値およびグラフだけが、画像の水平方向について示されている。
【0253】
これらの結果は、表3および図3(a),(b),(c)に示されている。
【0254】
〈表3〉 ブタP129についてのD64,Ψ=20°における画像の水平方向に対する正常部位(0Gy:図3(a),(b),(c)の点線)と被爆部位(40Gy:図3(a),(b),(c)の実線)との各部位の各計測点Pでのスペックルに対する統計的手法の結果
【表3】
【0255】
二元配置分散分析検定法では、指標pに対して
・ 変数の飽和値G(図3(a)) : pA=0.002およびpB=0.29
・ 自己相似特性S(図3(b)) : pA=0.011およびpB=0.84
・ ハースト係数H(図3(c)) : pA=0.0007およびpB=0.31
の値が与えられる。
【0256】
このとき、正常部位と被爆部位との識別は、上記のハースト係数、上記の変数の飽和値に対して、有意性が99.8%より大きい。
【0257】
指標pAに対して、閾値を0.01とすると、自己相似性が「ほぼ」識別される。
【0258】
しかしながら、他の全ての(レーザービームの他の入射角および他の日付に対応する)計測に対して、指標pA(pA>0.023)は上記の識別には大き過ぎたので、自己相似性が識別されるのは、それの指標が小さい場合の一連の計測についてだけである。
【0259】
他方で、ハースト係数によって、D64以降、Ψ=20°に対して、いつでも、正常部位中の被爆部位が識別可能となる(表4参照)。
【0260】
画像の水平方向に沿って計算された変数によって、各実験日および各角度において、画像の垂直方向に沿って計算された変数と同様の方法で識別された。
【0261】
図4は、全計測日のブタの皮膚(被爆部位)の写真を示している。
【0262】
〈表4〉 調べられる3つの観測角(20°,40°,60°)に対して識別する画像の水平方向について計算された変数(変数の飽和値G,自己相似特性S,ハースト係数H,粒の幅dx)および全計測日における被爆した皮膚組織の臨床的発症
【表4】
【0263】
表4および図4の写真中に見られるように、目に見える病変(紅斑など)が何もないにもかかわらず、ハースト係数Hと変数の飽和値Gとによって、D64およびD75において、3つの観測角に対して被爆部位が識別される。
【0264】
D84以降は、ハースト係数によってのみ、少なくとも3つの角度のうち2つの角度について識別される。
【0265】
上記の識別に関して、この係数は一段と有効である。
【0266】
D93に最初の臨床的兆候が形成された被爆部位に関して、動物が触診に対して、かなりの刺激感応性を有していることに注意すべきである。
【0267】
疼痛の発症は、ヒトでは、一般に、壊死の発症の前兆とみなされる。
【0268】
設定された3つの角度に対する識別結果が、この疼痛の段階(D64,D75,D84)より前に現れることを指摘できる。
【0269】
ここで、P161,P163,P164と番号付けされた3匹の別のブタの例について考察する。
【0270】
これらの他の3匹のブタ(P161,P163,P164)に関する結果が、識別変数(G,H,S,dx)のスコア、計測された角度のそれぞれに対して全計測日で作られたスコアとして表5に示されている。
【0271】
上記の変数が、画像の水平方向について、表5に示されている。
【0272】
各角度に関しては、ブタP129、各実験日に対して、識別結果が画像の垂直方向に沿って計算された変数とは異なっていた。
【0273】
臨床的兆候がまだ目には見えない臨床的無症候性の段階での識別が可能であった。
そして、ブタP161については、Ψ=60°での変数H,Gによって、最初の病変が現れる前の20日間で、ブタP163については、Ψ=60°でのHによって、最初の病変が現れる前の57日間で、ブタP164については、Ψ=20°および60°でのHによって、最初の病変が現れる前の56日間で、臨床的無症候性の段階での最初の識別がなされた。
【0274】
これらの3匹のブタについて、角度Ψ=60°で最初の識別が可能になるので、被爆による組織の最初の一時的組織変異が深層内部で起こるであろうと指摘できる。
【0275】
図5は、各角度、一緒に計測された全てのブタ(ブタP129,P161,P163,P164)に対する識別変数のスコアの図表である。
【0276】
また、ハースト係数は、全てのブタに対する識別に関して最も有効であり、Ψ=40°は、特に初期の識別に対して、ほとんど有効でない角度であるということが分かる(図5および表5)。
【0277】
観測角Ψ=60°で高い効果が得られることから、病態生理学的変化が、本質的に皮膚の最深層において起こるとわかる。
【0278】
放射線熱傷の場合の診断の有効性は、結果的に最深の皮膚層の観測結果に基づいている。
【0279】
また、角度Ψ=20°での有効性は、皮膚の表面層(表皮)において、重要な一時的組織変異が起こることを示している。
【0280】
本質的に40°で見ることができる中間層は、放射線による熱傷の場合には、重要な一時的組織変異には影響を受けにくいであろう。
なぜなら、放射線熱傷の識別に関して、この角度は、あまり有効性がないのが明らかであったからである。
【0281】
結果として、様々な皮膚の深度に位置した病態生理学的変化を考察するために、したがって、スペックル場の変化を引き起こすような一時的組織変異が起こり得た、どんな皮膚層も軽視しないために、最適な診断機器は、皮膚の全深度を、しかも、できるだけ速く調べることが必要となる。
そして、これは正反射に対する観測角Δαを変化させることによって可能になる。
【0282】
〈表5〉 それぞれのブタに対して画像の水平方向に沿って計算された、各観測角での識別変数(3つの統計変数(変数の飽和値G,自己相似特性S,ハースト係数H)および粒の幅dx)の全実験日でのスコア。
なお、全てのブタに対するスコアの合計も示されている。
【表5】
【0283】
図6は、4匹のブタについての正常部位から測った被爆部位の表皮の厚さおよび真皮の厚さ(単位%)の増加を示している。
【0284】
正常部位と被爆部位との生体検査の組織学によって、皮膚組織の損傷のレベルの定量化が可能となり、物理的な変数の変化と生物学的一時的組織変異とを関連付けることができる。
【0285】
ブタP129についてD112に、ブタP161についてD106に、ブタP163についてD92に、ブタP164についてD168に実施された組織学的な検査によって、表皮と真皮との厚さの増加が、それぞれ、ブタP129に対して、30%および47%、ブタP161に対して、30%および54%、ブタP163に対して、83%および42%、ブタP164に対して、80%および43%であることが示されている。
【0286】
表6は、画像の水平方向に沿って計算されたスペックルの変数(G,S,dx,H)と、表皮および真皮の厚さとの間で計算された相関係数(r)を示している。
【0287】
全ての計測点と検査される4匹の全てのブタとを考察することによって、相関計算が実行された。
【0288】
また、ここで、0.005に設定された判定指数pの閾値を使って実行された試験の相関係数における有意性も示されている。
【0289】
記号〜は「近似」を表す。
【0290】
異なる厚さとスペックルの変数(G,H,S,dx)との間での相関の計算によって、スペックルが、Ψ=40°での真皮の変化、そして、Ψ=60°での、さらに強い真皮の変化に関係していることがハースト係数(表6)によって示される。
【0291】
このとき、本発明の目的としている装置による皮膚の深層ごとの検査は、ハースト係数によって確かめられる。
【0292】
したがって、スペックル場を記録する際に正反射の方向に対する観測角を変化させることによって、表面層から最深層までの異なる皮膚層の考察が可能となり、したがって、早期診断と、観測されるスペックルの一時的組織変異をもたらす病態生理学的皮膚の変化の位置の特定とが可能となる。
【0293】
〈表6〉 画像の水平方向および表皮と真皮との厚さ方向に沿って計算されたスペックル変数(G,S,dx,H)によって計算された相関係数(r)。
なお、ここでは、判定指標pに対する閾値を0.005に設定することによって、上記の相関係数について実行された検査の有意性も示されている。
【表6】
【0294】
表7および図7は、ブタP129について、観測角Ψ=20°、一緒に計測された全計測点での画像の水平方向に沿って計算された3つの統計係数に関する0Gyの値に対する40Gyの値の比の時間tに対する変化を示している。
【0295】
全日数に対して、その一部が大きい変数の飽和値とは異なり、ハースト係数は被爆部位に対して小さくなっていることは注目に値する。
【0296】
さらに、ハースト係数に関する、この比の全体的な減少が時間の関数として観測できる。
上述したように、このことが、ハースト係数が識別に対して最も有効な統計係数であることを示している。
【0297】
〈表7〉 全計測日、Ψ=20°に対して、一緒に計測された全計測点での、画像の水平方向に沿って計算された3つの統計係数、すなわち、変数の飽和値G、自己相似特性S、ハースト係数Hに関する0Gyの値に対する40Gyの値の比
【表7】
【0298】
ブタP161について、Ψ=60°、一緒に計測された全計測点での正常部位と被爆部位とについての画像の水平方向に沿って計算されたハースト係数の変化が、被爆後に測定した異なる日付の関数として図8に示されている(点線:0Gy,正常部位;実線:40Gy,被爆部位)。
【0299】
スペックル現象に対するフラクタル解析は、異なる濃度のラテックスビーズからなる不活性媒体の識別に利用されていた(文献[12]参照)。
【0300】
本発明においては、この統計的手法が、放射線誘発性の皮膚病変のための診断用の補助装置を作る目的のために利用される。
【0301】
単純かつ、さほど高価ではないスペックル場捕捉装置(図1)、計測手順、本明細書の後ろの方に記載されたフラクタル解析法および従来の周波数解析法による、これらのスペックルパターンの処理、および、正常部位と病的状態の部位との間になされた比較結果を解析可能とする、本発明の統計的手法による、これらの図形処理の解析は、生体内の診断の補助のために、この病変および、それの変化の経過予測のために有効な手段である。
【0302】
さらに、利用されるフラクタル解析法は、2つの部位(正常部位と被爆部位)の初期の識別に対して一層有効であることが証明されている。
そして、この場合、フラクタル解析法は、有意な方法でスペックルパターンを特徴付けるために一層の効果を発揮する。
【0303】
さらに、図1に示される装置によって、臨床的無症候性の段階で、すなわち、ブタP129については最初の病変の現れる前の29日間、ブタP161については20日間、ブタP163については57日間、ブタP164については56日間の間に、使用された3つの観測角のうち少なくとも1つの角度について、正常部位から被爆部位が識別できることが分かった。
【0304】
たとえ病変が目に見えなくても被爆部位の識別が可能となるという事実は、非常に重要かつ革新的な要素を構成する。
【0305】
さらに、生物学的組織の、先の相関の研究によって強調される、あらゆる深度での非侵襲的な観測によって、スペックルの観測される一時的変異に対応する病態生理学的変化の位置を明らかとすることができる。
【0306】
特に、Ψ=60°でのハースト係数の有意な変化だけが、真皮の深さでの変化に対応しており、Ψ=20°での、1つの変数の、あるいは、これらの全ての変数の有意な変化が、表皮の深さでの変化に対応している。
【0307】
診断および経過の予測を可能とする、生物学的組織のあらゆる深度での非侵襲的な検査は、たとえ臨床的兆候が目に見えなかったとしても、非常に重要かつ革新的な要素を構成する。
【0308】
本発明は、上述の実施例では、従来の周波数解析法とフラクタル解析法との両方によってスペックルパターンの処理を実行することにより実施されている。
【0309】
しかしながら、その処理は、従来の周波数解析法や、フラクタル解析法や、他にいかなる適当な方法を利用したとしても、単に上記の処理を実行する本発明の範囲を超えるものではない。
【0310】
また、図1の装置に戻って、案内部20の基礎部分に配置されたトーラス28を、検査される表面の境界を定めるような他の任意の手段によって置き換え可能であることが指摘される。
なぜなら、このような手段は、レーザービーム29を、この表面に到達可能とさせ、また、後方散乱された光も検出可能とするからである。
【0311】
さらに、支持部18と案内部20とによって形成された機械的手段を、同一の機能を有する他の非機械的手段、例えば、機械−光学的手段、音響−光学的手段、あるいは、電子−光学的手段に置き換えてもよい。
【0312】
さらに、図1の装置の全ての要素が、商業的に役立つことが指摘されている。
【0313】
本発明によって、前駆病変の識別が可能になるだけでなく、放射線により引き起こされた病変のための経過予測のシステムを得ることができ、分析された組織の放射線量の地図作成も可能となる。
【0314】
さらに、本発明は、急性の被爆による皮膚症候群の診断機器および経過予測の分野より広い生物医学的な応用分野で利用できる。
【0315】
そして、非常に多くの生物医学的応用の可能性を列挙できる。すなわち、
・ (ガン、局所的な強皮症、白斑、真菌症など)皮膚の病変のための診断用の補助装置としての利用、
・ 放射線療法によって生じた放射線誘発性の病変のための診断用の補助装置としての利用、
・ 事故による被爆によって生じた病変のための診断用の補助装置としての利用、
・ (熱、化学的、電気的な火傷、日光紅斑など)被爆による熱傷以外の火傷によって生じた病変のための診断用の補助装置としての利用、
・ (放射線、熱、化学的、電気的な火傷、局所的な強皮症、皮膚ガンなど)一般の皮膚の病変の経過予測への利用、
・ 最終的には、(皮膚の病変、粘膜の病変、全身性の強皮症、ガンなど)、さらに、ずっと一般的な組織の病変の診断および予経過測への利用。
【0316】
さらに、本発明には、美容分野において、
・ 皮膚老化の評価への利用、
・ 皮膚科用の製剤または調剤の、美容科的あるいは薬理学的な有効性の評価への利用、
の2つの応用領域がある。
【0317】
本発明の関心事は、一方では、効果が目に見えるより前に、その効果を検出可能にすることにあり、他方では、生体内に対して使用可能であり、そして何よりも非侵襲的な診断用の補助装置を示すことである。
【0318】
本発明の目的としている装置はコストが低いので、病室内での移動や病院内での配布のために、装置を容易に搬送できる道具とすることを目的とした装置の小型化が促進される。
【0319】
この後、スペックルの統計理論が再現される。
【0320】
Goodman(文献[22]参照)とGoldfisher(文献[23]参照)とは、スペックルの統計的特性を研究し、パワースペクトル密度(PSD)と、それの自己相関関数とを表した最初の人たちであった。
【0321】
スペックルの1次元および2次元の統計は、この後記述される。
【0322】
〔1次元の統計〕
【0323】
拡散性の表面によって後方散乱されるコヒーレントな光線を考察する。
【0324】
その電場の振幅は、空間の各点で、表面の異なる散乱体による寄与に関する振幅の和に対応している。
すなわち
【数1】
【0325】
ただし、akおよびφkは、それぞれ第k番目の寄与に関する振幅および位相であり、Nは媒質中の散乱体の数である。
【0326】
この振幅は、平面内での複雑なランダムウォークとして現れる。
【0327】
さらに、後述の仮定が考察される。すなわち、
(i) 第k番目の寄与、および、その他のあらゆる寄与に関する振幅akおよび位相φkは、互いに独立している。
(ii) 位相φkは、区間[0,2π]に一様に分布している。
【0328】
これらの仮定に基づいて、Goodman(文献[22]参照)は、中心極限定理を利用して、電場の実部と虚部に対する確率密度関数(方程式(1))を導いた。
すなわち、
【数2】
ただし、
【数3】
【0329】
その大きさは、円状のガウス分布となっている。このとき、強度Iの確率密度が計算でき、それは、
【数4】
によって表される。
【0330】
その強度は、指数関数的に減少する分布を有している。
【0331】
しかしながら、観測された強度は、カメラによって検出された強度であり、したがって、この絶対強度の時空での積分に対応している。
【0332】
したがって、検出された強度Idの確率密度関数は、絶対強度と検出関数Hとの畳み込み積として表すことができる。
【数5】
【0333】
検出された強度の確率密度は、
【数6】
と表される。
ただし、M=〈I〉2/σ2I,σIは強度の標準偏差,Γ(M)は通常のガンマ関数、すなわち、
【数7】
である。
【0334】
そして、Mは、カメラによって観察されるスペックルの粒の数と解釈できる。
【0335】
Mが+∞に近づくと、強度はガウス分布に近づく。
【0336】
実験的には、1に比べて非常に大きいMに対して、ガウス分布が観測される。
【0337】
結果として、検出された強度がガウス過程に従うと考えられる。
【0338】
〔2次元の統計〕
【0339】
ここで、我々は、上記の周波数帯域での実験によるスペックルの表現に興味がある。
【0340】
したがって、我々は、もはや、それの空間の1点での特徴(振幅、強度、位相)だけでなく、空間の2点の間の特徴、言い換えれば、それの2次元の統計として知られているものにも興味がない。
【0341】
信号のパワースペクトル密度(PSD)は、この信号のフーリエ変換成分の2乗として定義される。
すなわち、座標(x,y)の1点での、強度のパワースペクトル密度が、
【数8】
と表される。
【0342】
図9は、実験により得られたスペックルパターンを代表する、空間周波数fの関数としてのパワースペクトル密度PSDをログ−ログスケールで示している。
【0343】
スペックルパターンは、高周波に対して1/fとして知られる減少を示すと分かる。
【0344】
この性質は、この周波数帯域における自己相似的な過程を特徴付ける。
【0345】
強度における空間的な自己相関関数は、方程式(6)、すなわち
【数9】
によって定義される。
ただし、Δx=x1−x2およびΔy=y1−y2であり、I(x1,y1)およびI(x2,y2)は、観測平面(x,y)上の2点での強度である。
【0346】
記号〈〉は空間平均に対応している。
【0347】
x2=0,y2=0,x1=x,y1=yならば、このとき、
【数10】
と書くことができる。
【0348】
自己共分散関数は、平均値で中心化された自己相関関数として定義される。
【0349】
正規化した場合には、それは、
【数11】
と表される。
【0350】
Wiener-Khintchineの理論によれば、強度の自己相関関数は強度のPSDの(FT−1で示される)フーリエ逆変換、すなわち
【数12】
によって与えられる。
【0351】
この式は、自己相関関数の計算に利用される。
【0352】
計算され、正規化された自己共分散関数は、
【数13】
と表される。
【0353】
cI(x,0)およびcI(0,y)は、それぞれcI(x,y)の水平方向および垂直方向の輪郭線に対応している。
【0354】
それぞれdx,dyで示される、cI(x,0)とcI(0,y)との最大値の半分での全値幅は、スペックルパターンの粒の「平均サイズ」の理にかなった計測結果を与えている(文献[20]参照)。
【0355】
図10は、(μm単位の)xの関数としての水平方向の輪郭線cI(x,0)を示している。
【0356】
これによって、スペックル現象の従来の周波数解析法が構成され、それから、「スペックルサイズ」として知られている、スペックルの粒の特性によって、空間的にスペックルパターンを特徴付けることができる。
【0357】
〔スペックル現象とフラクショナルブラウン運動との間の相関〕
【0358】
ブラウン運動は、流体分子同士の相互作用以外の相互作用にはさらされない流体中で、浮遊状態の粒によって継続されるランダムな運動を数学的に記述したものである。
【0359】
浮遊状態の粒の経路は、ランダムな流体分子速度の変化によって、ランダムに描かれ、巨視的に見ると、粒のランダムで無秩序な運動が観測される。
【0360】
X={X(t):t∈R}(R:実数集合)が、ブラウン運動の現象を特徴付ける過程を示すならば、その増分の方程式は、
【数14】
ただし、記号∝は「比例」を表す。
【0361】
スペックルの統計とブラウン運動の統計との間の相関については、すでに提案されている(文献[12]参照)。
【0362】
実際のところ、スペックル理論において、振幅と位相との間だけでなく、増分間にも非相関性が仮定されていることを思い出すべきである(上で考察された仮定(i))。
【0363】
結果として、スペックルの振幅は、信号処理の観点からは、ガウス分布のホワイトノイズに対応している。
【0364】
ブラウン運動は、ガウス分布のホワイトノイズの積分である。
【0365】
そのとき、スペックルの検出された強度はブラウン運動に対応している。
【0366】
結果として、1次元の統計は同一の性質となっている。
【0367】
すなわち、それらは振幅の分布および強度の分布に対してガウス分布になっている。
【0368】
また、それらの2次元の統計も同一の特性を有している。
【0369】
すなわち、それらのPSDが1/fの減少を示し、どちらの場合にも、それらの増分がガウス分布になっている。
【0370】
このため、フラクショナルブラウン運動によるスペックル現象のモデル化が考察されてきた(文献[12]参照)。
【0371】
方程式(11)は、フラクショナルブラウン運動を増大させる過程に対応している。
【0372】
変数Hが0.5に等しい場合には、この過程は、従来のブラウン運動の過程になる。
【0373】
ただし、上記の増分(式(10))間に相関はない。
【数15】
ただし、H∈[0,1]である。
【0374】
実際、フラクショナルブラウン運動は、増分間に相関がないようにブラウン運動を一般化したものである。
【0375】
方程式(11)は、拡散方程式という名前で知られている。
【0376】
本発明において、上記のスペックルのフラクショナルブラウン運動モデルによるフラクタル解析法が、生体内での生物学的媒質に由来するスペックルの研究に適用される。
【0377】
〔スペックル現象に適用されるフラクショナルブラウン運動 : スペックルパターンの拡散関数〕
【0378】
スペックルパターンの拡散方程式を記述するために、空間スケールでの強度に対する増加過程を表す必要がある。
【0379】
2次元の定常性の仮定によって、画像の水平方向に対して、
【数16】
と書くことができる。
【0380】
ただし、Cffは、画像の水平方向に対する強度の自己相関関数である。
【0381】
すでに、見てきたように、スペックルのPSDは高周波に対してだけ1/fの減少を含んでいる。
【0382】
このような高周波に対する性質は、増分の軌跡での局所的なレギュラリティーを特徴付けている。
【0383】
しかしながら、フラクタル理論によれば(文献[24]参照)、局所的にレギュラリティーを有する過程の自己相関関数は、
【数17】
である。
【0384】
ただし、Hは、増分のHolderianレギュラリティーを反映している。
【0385】
そのとき、拡散方程式は、画像の水平方向に対する空間座標で表される(文献[12]参照)。
すなわち、
【数18】
または、
【数19】
【0386】
方程式(15)のグラフおよび正常な皮膚によって得られたスペックルパターンの拡散曲線が、図11に示されている(単位は任意)。
【0387】
点線は理論曲線に対応し、星印は実験結果に対応している。
【0388】
強度の増分はΔIで示され、近傍はδで示される。
【0389】
3つの変数は、上記の拡散曲線、すなわち、H,S,Gから抽出可能である。
【0390】
ハースト係数Hは、原点における勾配によって与えられる。
【0391】
それは、式Df=d+1−Hによって、画像のフラクタル次元Dfと結びついている。
ただし、dは位相次元である。
【0392】
Hは、上記の画像のフラクタル次元を特徴付け、さらに、粒のフラクタル次元を特徴付けている。
【0393】
また、それは、上述した局所的なレギュラリティー変数でもある。
【0394】
自己相似特性Sは、π/λによって与えられ(文献[25]参照)、上記の画像におかる自己相似的な性質から標準的な性質を差異する次元の定量化を可能とする。
【0395】
この次元において、上記の過程は「スケール不変性」を有していると考えられている。
【0396】
2σ2Iに等しい変数の飽和値Gは、全体的な方法で、上記の画像を特徴付けている。
曲線の直線部分が上記の過程の自己相似的性質を示していることに注意すべきである。
【0397】
本明細書で引用された文献は、以下のものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0398】
【特許文献1】[10]WO 2006/069443, Z. Haishan and L. Tchvialeva
【特許文献2】[13]US 2004/152989, J. Puttappa et al.
【非特許文献】
【0399】
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【非特許文献2】[2] Pouget JP, Laurent C, Delbos M, Benderitter M, Clairand I, Trompier F, Stephanazzi J, Carsin H, Lambert F, Voisin P, Gourmelon P, “PCC-FISH in skin fibroblasts for local dose assessment: biodosimetric analysis of a victim of the Georgian radiological accident”, Radiat Res. 2004 Oct; 162(4):365-76
【非特許文献3】[3] F. Daburon, “Irradiation aigues localisees, Bases radiobiologiques du diagnostic et du traitement", EDP Sciences (1997)
【非特許文献4】[4] F Boulvert, B Boulbry, G Le Brun, B Le Jeune, S Rivet and J Cariou, “Analysis of the depolarizing properties of irradiated pig skin”, J. Opt. A: Pure Appl. Opt. vol 7, 21-28 (2005)
【非特許文献5】[5] J. D. Briers, G. Richards and X.W. He, “Capillary blood flow monitoring using laser speckle contrast analysis (LASCA)”, J. Biomed. Opt. 4, 164-175 (1999)
【非特許文献6】[6] Y. Aizu, T. Asakura, “Bio-speckle phenomena and their application to the evaluation of blood flow”, Opt. Las. Tech. 23, 205-219 (1991)
【非特許文献7】[7] I.V. Fedosov, V.V. Tuchin, “The use of dynamic speckle field space-time correlation function estimates for the direction and velocity determination of blood flow”, Proc. SPIE Vol. 4434, p. 192-196, Hybrid and Novel Imaging and New Optical Instrumentation for Biomedical Applications, Albert-Claude Boccara; Alexander A. Oraevsky; Eds.
【非特許文献8】[8] J. R. Tyrer, "Theory for three-dimensional measurements in ESPI”; Chapter 6 of Optical measurement methods in biomechanics, edited by J. F. Orr, London: Chapman & Hall (1997)
【非特許文献9】[9] J. F. Roman, P. Fernandez, V. Moreno, M. Abeleira, M. Gallas, D. Suarez, "The mechanical behavior of human mandibles studied by Electronic Speckle Pattern Interferometry", The European Journal of Orthodontics, Vol. 21, No. 4, pp. 413-421 (1999)
【非特許文献10】[11] Y. Piederriere, J. Cariou, Y. Guern, B. Le Jeune, G. Le Brun, J. Lotrian, “Scattering through fluids: speckle size measurement and Monte Carlo simulations close to and into the multiple scattering”, Opt. Express 12, 176-188 (2004)
【非特許文献11】[12] S. Guyot, M.C. Peron, E. Delechelle, “Spatial Speckle Characterization by Brownian Motion analysis”, Phys. Rev. E 70, 046618 (2004)
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【非特許文献13】[15] C. L. Benhamou, et al., "Fractal Analysis of radiographic Trabecular Bone Texture and Bone Mineral Density: Two Complementary Parameters Related to Osteoporotic Fractures", Journal of bone and mineral research, Vol. 16, No. 4, pp. 697-704 (2001)
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【非特許文献16】[18] O. Carvalho et al., "Speckle: Tool for diagnosis assistance", Proc. SPIE Int. Soc. Opt. Eng., Speckle 06: Speckles, from grains to flowers 2006, Vol. 6341, pp. 1-6 (2006)
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【非特許文献18】[20] Q.B. Li and F.P. Chiang, “Three-dimensional dimension of laser speckle”, Applied Optics, Vol. 31, No. 29, 6287-6291 (1992)
【非特許文献19】[21] R.V. Hogg, and J. Ledolter, J. Engineering statistics, Macmillan Publishing Company (1987)
【非特許文献20】[22] J.W. Goodman, “Statistical Properties of Laser Speckle Patterns”, in Laser speckle and related phenomena, Vol.9 in the series Topics in Applied Physics, J.C. Dainty, Ed., (Springer-Verlag, Berlin, Heidelberg New York Tokyo, 1984)
【非特許文献21】[23] L.I. Goldfisher, “Autocorrelation function and power spectral density of last-produced speckle pattern”,. J. Opt. Soc. Am., Vol. 55, No. 3, 247-253 1964)
【非特許文献22】[24] P. Abry, P. Goncalves, P. Flandrin, Spectrum analysis and 1/f processes, Springer, Berlin(1995)
【非特許文献23】[25] T.D. Frank, A. Daffertshofer, P.J. Beek, “Multivariate Ornstein-Uhlenberg processes with mean field-dependent coefficients-application to postural sway”, Phys. Rev.,Vol. 63 (2001)
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織の病態生理学的変化の診断および経過予測を補助するために、生体内の生物学的組織の特性を計測する装置に関する。
【0002】
また、本装置は、特に皮膚組織の病変、とりわけ放射線に関する損傷に適用される。
【背景技術】
【0003】
放射線熱傷は、修復不能な皮膚組織の破壊を引き起こす可能性があり、複雑な生物学的メカニズムと分子レベルのメカニズムとの連鎖によって生じる(後で参照される他の文献と共に、本明細書の後ろの方に列挙された文献[1]を参照のこと)。
【0004】
放射線誘発性の損傷の初期には、慢性的炎症、血管形成異常、細胞外基質の異常な再構築および再上皮形成異常が徐々に回復する。
【0005】
関係した細胞のタイプごとの放射線感受性の違いと、それらの細胞の細胞間伝達とが原因となって、このような組織の反応は複雑なものとなっている。
【0006】
皮膚の放射線熱傷は、その臨床的作用がよく知られているものの、短期的になるか長期的になるかを予測するのが困難な症候群である。
【0007】
実際、熱による熱傷とは違って、放射線熱傷の目に見える結果(紅斑、浮腫、壊死など)は、照射源に被爆した後、すぐには現れない。
【0008】
このような潜伏時間の違いは、特に被爆放射線量、被爆した組織の体積、照射源、被爆時間、および、個々に特有の反応に依存している。
【0009】
また、このような生物学的な潜伏時間は、臨床的無症候性の段階として、よく知られている。
【0010】
このように、放射線量、および、その生物学的効果に関する知識は、診断、経過予測、および、放射線熱傷に対する処置(文献[2]を参照)を決定するための要素の1つである。
【0011】
被爆した組織の壊死は、例えば、20〜25Gyより大きい放射線量によって引き起こされるが、通常、皮膚片を用意するために、被爆した組織の切除が余儀なくされる。
【0012】
このような外科的処置は早く行なわれるほど、よい経過が期待できる。
【0013】
それゆえ、放射線熱傷の医学的管理は、診断機器の品質に完全に依存している。
【0014】
ところが、信頼できる診断機器であると確信できる装置は、今のところ存在しない。
【0015】
また、放射線熱傷は、事故による電離放射線の被爆によってだけではなく、管理された放射線治療による被爆によってもなり得る臨床的症状である。
【0016】
不運にも、まだ今日でも、しばしば起こる被爆事故については、600件近い放射線事故が、1945年以来、世界中で報告されている。
【0017】
これらのうち、78%が局所的な被爆に対応し、22%が全体的な被爆に対応している。
【0018】
ある場合には、数学モデルによって被爆部位に関するマップを構築できるが、このためには、線源の性質および位置の特定、被爆した組織の体積および被爆時間についての非常に正確な知識が必要となる。
【0019】
このような情報は、事故の場合には、一般に役に立たないことが前提となっている。
【0020】
被爆した組織は、生体検査によってのみ明らかとされ、被爆した放射線量の評価が可能とされる。
【0021】
すなわち、皮膚の生体検査における組織学的な計測によって、組織の被爆が明らかにでき、電子のパラメトリック共振(EPR)による骨生体検査によって、被爆した放射線量が正確に定量化可能となる。
【0022】
しかしながら、被爆によりすでに弱っている組織の状態が、生体検査によって一層悪化する可能性があるので、生体検査は、外科医たちが危惧の念を抱いている侵襲的な外科的処置の一つとなる。
【0023】
放射線量が20〜25Gyを上回る場合には、被爆による深刻な皮膚の病変が生じるが、たとえ皮膚組織の電離放射線効果による発症が上手く記録されたとしても、とりわけ診断機器は依然として扱い難いので、医療現場の反応は、まだ依然として非常に複雑で、デリケートな状態にある。
【0024】
そこで、皮膚の被爆の医療診断を補助するために、非侵襲的で、生体内に対して使用可能な検査手順の開発が必要不可欠となる。
【0025】
放射線療法に関しては、患者の約30%が皮膚毒性を発症し、不運にも患者の約5%が深刻な合併症を発症する。
【0026】
放射線療法では、照射野内に含まれ腫瘍を取り囲んでいる正常な組織を保護すると同時に腫瘍を破壊するような所定の放射線量を最適化することを基礎にしている。
【0027】
このため、電離放射線の被爆に関連する正常な組織の2次的な合併症のリスクは避けられない。
【0028】
これらの病変の重症度は、組織の放射線感受性、放射線量、被爆頻度、あるいは、たとえ、それが病理学的な場合でも、その患者の病歴などの、いくつかの要素に依存している。
【0029】
皮膚組織に対する放射線療法の急性毒性によって処置が中止されることもある。
【0030】
結果として、患者を守るために好ましくない変化をできるだけ早急に診断し処置できるように、被爆による正常な組織の変化を監視可能とする装置を得ることが必要不可欠となる。
【0031】
熱傷の診断ができる装置はあるが、このような道具は、放射線熱傷の臨床的無症候性の段階では、なんの診断要素も提供しないので、それらは放射線熱傷の診断機器としては使用できない。
【0032】
熱傷の場合の臨床試験に使用される装置に共通する、赤外サーモグラフィー法、血管シンチグラフィー法、あるいは、ドップラーレーザー法によっても局所的な血流の変化を明らかにできる。
【0033】
放射線熱傷の場合には、局所的に(40Gyで)被爆したミニブタについて、被爆後、最初の48時間の間には、赤外サーモグラフィーおよびドップラーレーザーによって、被爆部位を正常部位から区別できる。
【0034】
これらの技術では、被爆後の48時間後以降は、被爆した皮膚から正常な皮膚を識別できない。
【0035】
その他の技術、特に、浮腫に特徴的な密度と組織の水和状態の変化とを明らかにできる核磁気共鳴画像法とX線断層診断法とが検証されてきた。
【0036】
水の密度に近い浮腫の密度が正常な組織の密度より小さいことを利用して、これらの画像技術によって浮腫の境界を定めることができる。
【0037】
しかしながら、放射線熱傷の場合には、このような大掛かりでコストが掛かる技術によっても、臨床的無症候性の段階では、正常な組織内の被爆した組織を識別できない。
【0038】
表1には、病変の臨床的な変化に対応して提案された様々な生物物理学的技術および生物学的技術が要約されている(文献[3]参照)。
【0039】
しかしながら、今まで、これらの技術はどれも、目に見える臨床的兆候がないうちには、正常な組織と対比して被爆した組織を浮き彫りにすることができなかった。
【0040】
結局、このような技術は、皮膚の被爆に対する診断および経過予測の補助については、臨床的には利用できない。
【0041】
〈表1〉 検査される組織の損傷のタイプに対して使用可能な生物物理学的および生物学的方法(文献[3]参照)
【表1】
【0042】
数人の著者が、偏光媒質の特性を示すミュラー行列を解析することによって、ブタについて被爆した皮膚の生体内での脱分極特性を研究している(文献[4]参照)。
【0043】
これらの著者によって行なわれた実験では、ブタの皮膚の生検を生体外で実施している。
【0044】
上記の装置は、(呼吸、心拍などの)生理的運動のために、生きている対象に対しては、今のところ、画像の繰り返し利用が問題となって適用できない。
【0045】
しかも、使用される装置は重く、それゆえ輸送が困難であり、かなりのコストが掛かる。
【発明の概要】
【0046】
上述したように、生体内に対して使用可能な非侵襲的な装置は、今のところ、臨床的兆候がないにも拘わらず重篤な被爆による皮膚の病変の診断を補助することができない。
【0047】
本発明は、このような問題点の解消を目的としている。
【0048】
本発明の目的としている技術および前駆症状のモデルでの費用対策は、早期診断および経過予測、そして患者の健康のための発展の一翼を担っている。
【0049】
これから見て行くように、本発明の目的の装置は、スペックルパターンの捕捉と、とりわけフラクタル解析法による処理とを可能にし、生体内の放射線熱傷に関する診断、および、それらの変化の経過予測の補助のために有効な装置を構成する。
【0050】
上述の診断および経過予測における、この装置の価値は立証されている。
【0051】
一層正確には、本発明の目的は、特に病態生理学的変化に関する診断および経過予測を補助するために、生体内での生物学的組織特性を計測するための装置、具体的には皮膚の老化の評価のために、あるいは、美容科または皮膚科用製品の有効性の評価のために、組織の損傷、さらに具体的には被爆による組織の損傷を計測するための装置である。
【0052】
ただし、上記の装置は、
・ 第1の方向に沿ってコヒーレント光を放射し、それによって第1の部位と第2の部位とにおける生物学的組織を照明するためのコヒーレント光の光源と、
(ただし、第1の部位は正常で、第2の部位は病変を含む可能性があり、上述したように、上記の組織はスペックル現象が生じるように照明されている。)
・ 第2の方向でスペックル場を観測し、かつ、スペックルを捕捉する観測捕捉手段と、
・ 異なる角度でスペックル場を観測し、かつ、この組織中のあらゆる深度での組織に関する情報を取得するために、第1の方向と第2の方向との間の角を変化させる(機械的、または、その他の)角度可変手段と、
・ 第1の部位と第2の部位とを比較可能とするために、組織の表面の照射点と観測捕捉手段との間の距離を一定に維持し、かつ、呼吸などの外的要因による組織の起こりうる動きを吸収する(機械的、または、その他の)支持吸収手段と、
・ 第1の部位と第2の部位とを比較するために、観測捕捉手段によって得られたスペックルパターンを処理する電子的な手段と、
・ パターンの処理結果を統計的手法によって解析すると共に、第1の部位と第2の部位との間でなされた比較結果を解析可能とする電子的な手段と、
を有していることを特徴としている。
【0053】
角度可変手段が、いくつかの観測角度でのスペックルの捕捉と、これにより、いくつかの深度での組織の検査とを可能とし、結果として、組織の異なる層での病態生理学的変化の考察を可能とすることには注目すべきである。
【0054】
さらに、上述の統計的手法は、例えば、統計的検定法または要素解析法とする。
【0055】
本発明の目的としている装置の最良の実施例では、第1の方向と第2の方向との間で角度を変える角度可変手段が、おおよそ0°〜180°の範囲内で上記の角度を変化可能とし、正反射の方向に対する、いくつかの角度で、その正反射の外側のスペックルを観測可能としている。
【0056】
したがって、本実施例では、様々な深度の異なる組織層を選択的に検査することが可能になる。
【0057】
第1および第2の方向の間の角度を変える角度可変手段が、第2の方向の向きの変更とは独立に第1の方向の向きの変更を可能とし、その反対に、第1の方向の向きの変更とは独立に第2の方向の向きの変更を可能とするのが望ましい。
【0058】
本発明の目的としている装置の最良の実施例によれば、
・ 観測捕捉手段がスペックルを捕捉し、かつ、スペックルパターンに対応する電気信号を出力する光検知手段を有し、
・ 処理用の電子的な手段が非圧縮画像形式の電気信号を処理可能とし、第1の部位と第2の部位との比較を可能とする。
【0059】
光検知手段は、スペックルを、せいぜい100μsの露光時間で捕捉可能とするものが望ましい。
【0060】
また、光検知手段は、カメラにより構成されるのが望ましい。
【0061】
上記のカメラは、対物レンズを有するカメラであってもよいが、対物レンズを有さないカメラの方が望ましい。
【0062】
上記のカメラを、具体的にはCCDカメラとする。
【0063】
本発明の最良の実施例では、照射部位に対して、少なくとも200個のスペックルパターンを取得可能な観測捕捉手段が備えられている。
【0064】
本発明の目的としている装置は、大体、組織の深層によって生じるスペックルの選択を達成するのに、光源から放射されたコヒーレント光の偏光と、観測捕捉手段に達する光の偏光とを制御可能とする光学手段をさらに有しているものであってもよい。
【0065】
これらの光学手段は、(直線、円または楕円)偏光板や、2分の1波長板または4分の1波長板からなるものとする。
【0066】
また、上記のコヒーレント光の光源は単色光であるのが望ましい。
【0067】
上記の光源はレーザー光であるのが望ましい。
【0068】
上記の実験条件、特に使用されるカメラのタイプに依存するが、組織表面の照射点とカメラとの間の距離は、20cm位に設定するのが望ましい。
【0069】
スペックルパターンの処理は、従来の周波数解析法やフラクタル解析法によって実行可能である。
【0070】
本発明の最良の実施例によれば、スペックルパターンの処理がフラクタル解析法によって実行される場合には、上記の処理には、スペックルパターンを特徴付ける統計変数の抽出が含まれる。
【0071】
統計変数としては、
・ ハースト係数
・ 自己相似特性(autosimilarity)
・ 変数の飽和値
を有しているのが望ましい。
【0072】
本発明は、付録の図面を参照しつつ、この後に与えられる、なんら制限することがない、単に例示した実施例の記載を読むことによって、よく理解される。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の目的としている装置の実施例の一例の概略図である。
【図2】図(a)および図(b)は、従来の周波数解析法の場合に、番号P129が付されたブタについて、スペックルの形成のために使用される光線の入射角Ψを20°として、各計測点に対しての、各部位、すなわち、正常部位(点線)および被爆部位(実線)に対しての、粒の幅dx(図(a))と粒の高さdy(図(b))とに関して平均のスペックル粒の大きさを示している。
【図3】図(a)、図(b)および図(c)は、フラクタル解析法の場合に、上述のブタについて、上記と同一の光線の入射角として、各計測点に対しての、各部位、すなわち、正常部位(点線)および被爆部位(実線)に対しての、変数の飽和値G(図(a))、自己相似特性S(図(b))およびハースト係数H(図(c))に関して画像の水平方向に沿って計算されたフラクタル変数を示している。
【図4】計測日ごとに、上述のブタの皮膚の被爆部位(40Gy)の写真を示している。
【図5】一緒に計測された全てのブタについて、様々な角度に対する識別変数の異なる実験日でのスコアを示している。
【図6】4匹のブタについて、正常部位と比較される被爆部位についての、表皮の厚さの増加と真皮の厚さの増加とを示している(単位%)。
【図7】番号P129が付されたブタについて、観測角20°で、一緒に計測された全計測点での、計測日の関数としての3つの統計係数、すなわち、変数の飽和値G、自己相似特性Sおよびハースト係数Hに関する0Gyの値に対する40Gyの値の比の変化を示している。
【図8】番号P161が付されたブタについて、観測角60°で、一緒に計測された全計測点に対し、正常部位(点線)と被爆部位(実線)との各部位についての、時間の関数としてのハースト係数Hの変化を示している。
【図9】スペックルパターンのパワースペクトル密度を示している(両対数スケール)。
【図10】正規化された自己共分散関数CI(x,0)と、上記関数の最大値の半分での全値幅を示すdxとを示している。
【図11】正常な皮膚の場合に得られるスペックルパターンの拡散関数の両対数表示である(任意の単位)。
【発明を実施するための形態】
【0074】
まず、最初に、この現象を応用した最先端技術が産み出されているスペックル現象のいくつかの点について思い出しておく。
【0075】
スペックル現象は、拡散媒質からのコヒーレント光が干渉することによる干渉現象である。
【0076】
このような媒質は、密度の局所的な揺らぎと、この揺らぎによる屈折率の揺らぎとを伴う。
【0077】
これらの局所的な領域は、上記の媒質内にランダムに分布しており、部分波に対する拡散体を構成している。
【0078】
これらの部分波のランダムな位相の散逸によって、統計的な強度分布を生じさせるランダムな干渉が生じる。
【0079】
このようにして生成された強度分布によって示される模様は、ザラザラした外観を呈する「スペックル」として知られている。
【0080】
このような現象は、長い間、単純な画像のノイズと考えられてきた。
【0081】
しかしながら、それは、光−物質間の相互作用に直接起因している。
【0082】
結果として、スペックルを特徴付ける変数(粒の大きさ、コントラスト、強度、偏光など)によって、媒質の特性の情報、特に、その光学的特性の情報を得ることができる。
【0083】
しかしながら、主な問題は、この情報を定量的に取得することにある。
【0084】
このため、ここ数年来、物理学者たちは、スペックルを生成する媒質を特徴付けるのに、スペックルを応用することに関心を持ってきた。
【0085】
こうして、恒星物理学、表面の粗さや物質の変形を計測する産業分野、それどころか、本発明に関連する分野である医療画像法など、いくつかの応用分野が発展してきた。
【0086】
医療画像法の分野では、スペックルの空間的、動的特性の計測により、医療診断のための情報が提供可能となる。
【0087】
例えば、ある研究者たちによって、血流量を測定するための新技術が提案されている(文献[5],[6],[7]参照)。
【0088】
他の著者たちは、干渉分光法による骨変形あるいは骨インプラントの計測のためにスペックル現象を応用している(文献[8]および[9]参照)。
【0089】
また、他の著者たちは、表面の粗さの確定および生物学的組織の表面にスペックルを利用している(文献[10]参照)。
【0090】
しかしながら、スペックルの分析による粗さ特性の抽出については、ほとんど進展しておらず、組織表面それ自体の研究は、診断の補助についての研究に関しては十分ではない。
【0091】
病変の外観は、実際のところ、病態生理学的変化が組織の表面だけでなく、あらゆる深さの組織にも関係していることを暗示している。
【0092】
特に、病理組織の変化は一般に最深層の深さでの一時的組織変異から始まるので、早期診断では、上記の組織(真皮、下皮)の深層の組織を検査する必要がある。
【0093】
また、数人の研究者たちは、スペックルの大きさと実験条件との関連について研究してきた(文献[11]参照)。
【0094】
しかしながら、生きている対象により生じるスペックルは動いており、このような不安定な現象を調べるには、従来の周波数解析法は信号処理の観点から十分ではないようである。
【0095】
最近、スペックルのフラクタル解析法が導入された。
【0096】
この手法では、フラクショナルブラウン運動と類似の方法が提案されている(文献[12]参照)。
【0097】
同様に、他の著者たちは、様々なサンプル(自力では動かない物質、あるいは、果物や植物などの生物学的サンプル)により生じるスペックルの動きを調べることによって、これらの異なる媒質を特徴付けるために、フラクショナルブラウン運動としてモデル化されたスペックルパターンのフラクタル次元の抽出を提案している(文献[13]参照)。
【0098】
フラクショナルブラウン運動は、フラクタル解析法において広く利用される統計的過程である。
【0099】
また、最近、フラクタル解析法は、実際の複雑な現象を特徴付けるのに利用される。
【0100】
生物医学の分野においては、骨組織のX線画像を分析するのにフラクタルを利用したPothuaud(文献[14]参照)とBenhamou(文献[15]参照)の業績を引用することができる。
【0101】
フラクタル特性は、スペックル現象、具体的には、ランダムな粗い表面によって生成されたスペックル(文献[16]参照)と、ポリスチレンのミクロスフィア溶液を計測する際に生成されたスペックル(文献[12],[17]参照)とに対しては、すでに発見されている。
【0102】
文献[12]において提案されたスペックルのフラクタル解析法と、従来のスペックルの周波数解析法とは、強皮症に冒された病的状態の皮膚の病変を、目で見ることができる安定した段階で特徴付けるのに使用された(文献[18]参照)。
【0103】
しかしながら、文献[18]で使用された装置では、放射線熱傷の検出に対する有効性は検証されていない。
【0104】
この装置では、本発明とは違って、病変がまだ目に見えないか、病態生理学的変化が深層で生じている場合の病変の変化を検出できない。
【0105】
本発明では、文献[12]で提案されたフラクショナルブラウン運動によるスペックルのフラクタル解析法を、生体内の皮膚の病変を識別するのに適用する。
【0106】
文献[12]によれば、スペックル現象とブラウン運動現象との間には、ある類似点が存在している。
【0107】
実際、それらの1次元の統計は同一の性質を有している。すなわち、それらは振幅分布についても強度分布についてもガウス分布になっている。
【0108】
また、それらの2次元の統計も同一の特性を有している。すなわち、ここから先ではPSDと記され、1/fでの減少を示すパワースペクトル密度を有している。
ただし、fは周波数であり、どちらの場合にもガウス分布の増分となっている。
【0109】
上記のスペックルの場合には、実験データのPSDは、このスペクトル帯域において、冪乗則による自己相似的な性質(あるいは、スケール不変性)を裏付けるように高周波帯域だけが減少している。
【0110】
上記のモデルの適応性を高めるような付加的自由度を、fBm、すなわち、フラクショナルブラウン運動への一般化によって付加することができる。
【0111】
このために、フラクショナルブラウン運動への一般化を考察してきた。
【0112】
このような数学的モデル化により、それの拡散関数によって、スペックル画像を特徴付ける3つの統計変数、すなわち、
・ 画像のフラクタル次元を特徴付けるハースト係数H,
・ 画像の自己相似的な性質と標準的な性質との差異を特徴付ける自己相似要素の大きさS,
・ 画像内の大きな近傍値での漸近方向を与える変数の飽和値G,
の抽出が可能となる。
【0113】
スペックルの統計理論の詳細な記述、および、スペックル現象とフラクショナルブラウン運動現象との間の相関は、本明細書の後ろの方に与えられている。
【0114】
単にスペックルを記録する対象から任意の距離に感光板を配置しさえすればよい。
【0115】
スペックルは、「自由空間」で(スペックルの実像を)観測してもよいし、照射された対象の像平面で(スペックルの虚像を)観測してもよい。
【0116】
第1の場合には、スペックルが対物レンズも他の任意の結像系も有さないカメラによって記録され、第2の場合には、例えば、対物レンズを有するカメラによって記録される。
【0117】
拡散媒質の如何なる一時的組織変異であっても、上述の3つの統計変数に変化を生じさせるような媒質の光学的変化および統計的変化を生じさせる。
【0118】
このような考えによれば、拡散媒質を区別するために、これらのスペックル画像を特徴付けている変数を使用することができる。
【0119】
診断の補助が本発明の目的であるので、この方法を、生きている対象、特に、その変化が短期的にも長期的にも、まだ、あまり知られていない被爆による急性の皮膚症候群に応用する。
【0120】
フラクタル理論には、スペックルのマルチスケール的側面が統合されているので、このスペックル現象におけるフラクタル理論に基づく手法は、従来の周波数解析法に比べて遥かに有効である。(これらの2つの手法は、本明細書の後ろの方に記載されている。)
【0121】
この後、本発明のスペックルパターンの観測および捕捉装置が記載される。
【0122】
図1に模式的に示された本発明の装置は、生物学的組織により生じるスペックル場の記録に使用される。
【0123】
この装置は非常に単純であり、さほど高価ではない。
【0124】
上記の装置は、無偏光の単色レーザー13と、電荷結合素子のカメラ、さらに簡単に「CCDカメラ」として知られたカメラ14とによって構成されている。
【0125】
拡散媒質16、具体的には、正常な皮膚の部位あるいは病的状態の皮膚の部位は、その点Pがレーザー13により生じるビーム29によって照射され、スペックル現象を生じさせる。
【0126】
媒質(皮膚組織)16によって後方散乱された光は、スペックルを捕捉可能なカメラ14によって捕捉される。
【0127】
Nは点Pからの生物学的組織16の表面に垂直な方向を示し、Xはレーザー13による光の放射方向、Yはカメラ14によるスペックル場の観測方向を示している。
【0128】
特定の向きを有さない、X方向とY方向との間の角をα、生物学的組織の表面に垂直な方向から測ったレーザービームの入射角(X方向とN方向との間の角)をΨ、生物学的組織の表面に垂直な方向から測った観測角(Y方向とN方向との間の角)をθによって示す。
【0129】
Δαは、2つの角度Ψとθとの間の変化量の絶対値を示し、すなわち、この観測角はΔα=│Ψ−θ│を満たし、正反射の方向から測った観測角になっていると分かる。
【0130】
この角度は、正反射の方向から測った観測方向の角度差を示しているので、この角度差が増加するほど、正反射方向と観測方向との差が大きくなり、それゆえ、媒質の深層で拡散された光子がより多く観測されるようになる。
【0131】
本発明の図1の装置では、(各X方向、すなわち各角度Ψに対して)Y方向を示す角度θの変化量とは独立に、(各Y方向、すなわち各角度θに対して)X方向の角度Ψの変化量が変更可能となっている。
【0132】
したがって、このために、図1の装置は機械的な支持部18と機械的な案内部20とからなる機械的な手段を有している。
【0133】
機械的な支持部18はレーザー13とカメラ14とを支持しており、異なる角度でスペックル場を観測するために角度Ψや角度θを変えることができる。
【0134】
このように角度Ψや角度θを変化させることによって、あらゆる深度で組織を調べることができる。
【0135】
案内部20の下端部は、計測部位の境界を定めるトーラス28にしっかりと固定されている。
【0136】
また、上記のトーラスは組織16の表面と接触する。
【0137】
本実施例では、トーラスの内径が40mmに等しくなっているので、トーラスは余分な反射光を加えないほど十分に広くなっている。
【0138】
案内部20およびトーラス28は、2つの連続するスペックルパターンを捕捉する間、レーザービーム29の照射点Pとカメラ14との間の距離Lを一定に維持することができ、しかも、呼吸などにより組織16に生じ得るような動きを吸収することができる。
【0139】
このように、案内部20とトーラス28とによって、2つの部位(正常部位および病的状態の部位)を比較するために必要不可欠な最適なスペックルパターンの捕捉が保証される。
【0140】
機械的な支持部18は、案内部20に対して高さが調整可能となるように、案内部20に固定されており、この支持部は円弧形状を呈し、それの曲率半径の方向が、おおよそ点Pを向いている。
【0141】
レーザー13とカメラ14とは、支持部18に対して位置が調整可能となるように固定されている。
【0142】
このように、角度Ψは、おおよそ、0°から90°の範囲の1つの値に調節可能とされており、角度θは、おおよそ、0°から90°の範囲の1つの値に調節可能とされている。
【0143】
支持部18を形成している円弧の長さは、本装置によって明らかに得られると期待される最大角度Ψに応じて設定されている。
【0144】
例えば、角度Ψを、おおよそ、180°とすることが望まれるなら、略半円弧を呈する支持部18が使用される。
【0145】
また、図1に示す本発明の装置は、カメラによって出力される信号を処理するための電子的な手段22を有している。
【0146】
この電子的な手段22は、表示手段26を備えている。
【0147】
本発明では、組織16の正常部位にレーザー13を照射するとき、組織16の一時的組織変異を含みそうな部位にもレーザー13が照射されることに注意する。
【0148】
さらに、本発明の図1の装置は、2つの皮膚の部位(正常部位および病的状態の部位)の比較結果を解析するために、手段22によって処理される上記の信号を解析するための電子的な手段24を有している。
【0149】
また、この手段24によって得られた結果は、表示手段26によって表示することができる。
【0150】
本実施例では、レーザー13を、I0/e2での幅(ただし、I0はレーザーの最大強度であり、その最大値I0と比較して強度が1/e2倍に減少するようなビーム径)が約1mmであるビームを放射する、出力15mWの無偏光のHe−Neレーザー(632.8nm)とする。
【0151】
CCDカメラ14は、例えば、有効ピクセル数が376(H)×582(V)のKappa CF 8/1 DXタイプとし、それを、対物レンズを使わずに使用する。
その各ピクセル寸法は、8.6(H)×8.3(V)μmである。
【0152】
カメラの露光時間は、少なくとも100μs程度であればよい。
【0153】
さらに、上記のカメラが、25Hzの頻度で照射される部位から、少なくとも200個のスペックルパターンを取得できるものであることに注意しよう。
【0154】
さらに、計測のために、必ずしもレーザー13とカメラ14とが案内部20の両側に配置されるとは限らない。
【0155】
すなわち、これらの計測のために、必要ならば、この案内部の同じ側に、レーザー13とカメラ14とを配置してもよいことに注意すべきである。
【0156】
(不図示の)可動アームは、レーザー13とカメラ14とを支持すると共に機械的な支持部18と案内部20との組み立て部品を保持しており、組織16の異なる部位を調べるために、それらを移動できるようにしている。
【0157】
このような移動は、検査される組織16の異なる部位の計測に応じて、空間の3方向の並進や回転について行なわれる。
【0158】
本発明をCCDカメラ以外の他の観測捕捉手段によって実施してもよいし、上記のCCDカメラと、本発明を実施するための対物レンズを使うか、あるいは、使わずに使用される、その他のカメラとを備えていてもよいことに注意する。
【0159】
また、同様に、本発明を偏光レーザーによって実施してもよい。
【0160】
さらに、組織の深層により生じるスペックルと表面層により生じるスペックルとの選別は、(直線、円、楕円)偏光板や、2分の1または4分の1波長板からなる光学的システム27によって達成できる。
【0161】
この光学的システムは、使用される場合には、レーザーの出力側やカメラの入力側に配置される。
【0162】
この光学的システムは、レーザーの出力側で設定された偏光配置に対応した、いくつかの偏光状態を検出するために、組織を照明するコヒーレント光の偏光と、カメラに達する光の偏光とを制御できるようにしている。
【0163】
組織の表面層により生じるスペックル、あるいは、大方、深層により生じるスペックルを選択的に抽出するために、2分の1または4分の1波長板を有するか、あるいは、有さない偏光板が配置される。
【0164】
本発明の装置の応用例として、数匹のブタにおける被爆による急性皮膚症候群の皮膚作用が計測された。
【0165】
すなわち、ガンマ放射(40Gy)によって、数匹のブタの右側の大きさ5cm×10cmの部位を局所的に被爆させた。
【0166】
本発明の一実施例では、20°から60°の範囲のいくつかの角度Ψにおいて、2つの部位(正常部位および病的状態の部位)を次々に照射し、0°に固定された角度θにおいて後方散乱された光を検出することによって得られたスペックルパターンが処理される。
【0167】
そして、この処理は、従来の周波数解析法およびフラクタル解析法によって実行される。
【0168】
具体的には、CCDカメラ14によってスペックルパターンを示す電気信号が出力され、電子的な処理手段22によって、上述の2つの方法により、この非圧縮画像形式の信号が処理されて、上記の2つの部位を比較できるようにしている。
【0169】
この比較結果は、統計解析(学生の試験のような統計的検定および変数の解析試験、または、例えば、主成分分析のような要因解析)により解析を行なう電子的な手段24によって解析される。
【0170】
スペックルパターンを記録するには、いくつかの事前の準備が必要となる。
【0171】
実際、検査されるスペックルは、その運動が結果としてランダムなものと考えられる移動性の散乱体としての、生きている対象によって生成される。
【0172】
これにより、「ボイリングスペックル」として知られる一時的な変動によるスペックルの撹乱がスペックルの強度に現れる。
【0173】
このような一時的な変動は、通常、強度の一時的な自己相関関数によって記述される(文献[19]参照)。
【0174】
この「スクランブルされた」スペックルが記録されるのを避けるために、結果的にスペックル画像の捕捉時間をできるだけ短くしなければならない。
【0175】
上記のカメラは露光時間を変えることができるので、適正なS/N比が得られないとしても、100μsに等しい最も短い捕捉時間に設定する。
【0176】
また、スペックルの粒の大きさは、距離に比例して増大する(文献[20]参照)。
【0177】
しかも、記録されるスペックルの粒は、CCDカメラのピクセルサイズに比べてかなり大きくなければならない。
【0178】
このことは、カメラが拡散媒質に近過ぎてはいけないことを意味している。
【0179】
さらに、各画像には、各画像の有意な統計的調査を行うのに十分な粒を含んでいなければならない。
【0180】
このことは、カメラが媒質から遠すぎてもいけないことを意味している。
【0181】
CCDセンサーと拡散媒質の照射点との間の距離Lを、これらの条件が理想的な状態となるように考慮して見出すのは難しい。
【0182】
したがって、妥協点を見出さなければならない。
【0183】
ブタの皮膚に対して、そのように設定された距離Lは20cmであった。
【0184】
この設定は、単に実施例のために規定されたものであり、何の制限もしないものである。
【0185】
とは言え、第1の部位と第2の部位とに対して、言い換えれば、正常部位と病変を含みそうな部位とに対して、距離Lは一致していなければならない。
【0186】
媒質の表面で直接反射されたレーザー光(正反射)の直接の記録を避けるために、すなわち、カメラのセンサーが飽和してしまうのを避けるために、スペックル場の観測および捕捉は、正反射の外側に約10°のところで行なわれる。
【0187】
CCDカメラによって、一連の画像が25Hzの頻度で記録される。
【0188】
交互に取得される2つの領域、すなわち、偶数領域(2,4,6などの偶数番のライン)と奇数領域(1,3,5などの奇数番のライン)とによって、完全なビデオ画像が構成される。
【0189】
したがって、25Hzの頻度で完全な画像を得る場合には、毎秒50個の領域(偶数と奇数)の情報が出力されることになる。
【0190】
再び、スペックルの動きを考慮すると、偶数領域の捕捉と奇数領域の捕捉との間で画像が変化しても、単一の領域(偶数領域あるいは奇数領域)に画像が取得される。
【0191】
このように、画像の大きさを、非圧縮の完全な画像に対して、576×384とする代わりに、288×384とする。
【0192】
カメラから出力されたアナログ信号は、その後、強度を測定可能とするために、ビデオキャプチャーカードによって、256階調のグレースケールに8ビットでデジタル化される。
【0193】
デジタル信号に含まれる情報に、いかなる損失や歪みも生じないように、圧縮は行なわない。
【0194】
取得される画像の数は、100μsの捕捉時間、毎秒25枚の画像の頻度で、(レーザービームの照射点Pに対応する)計測点あたり200枚である。
【0195】
分析される皮膚の各部位(正常部位および病的状態の部位)に対して、計測点がいくつか取られる。
【0196】
その後、本明細書の最後の方で再現される従来の周波数解析法によって、スペックル画像の「スペックルサイズ」(スペックル画像の粒の平均サイズ)を確定する処理がなされる。
【0197】
また、上記の画像は、本明細書の後ろの方に示されるように、その3つの統計係数を確定するために、ラインごとに、あるいは、列ごとに、フラクタル解析法によって処理される。
【0198】
統計係数(ハースト係数H,変数の飽和値G,自己相似特性S)は、1つの画像について、画像の各方向(水平方向または垂直方向)に対して、(垂直方向のそれぞれに対して)水平方向に沿って計算され、(各列に対して)画像の各ラインに対応す各拡散曲線それぞれに対して抽出された係数の平均に対応している。
【0199】
このように、2つの方法によって得られた結果の比較が可能になる。
【0200】
この後、本発明のブタについての皮膚の被爆への応用が考察される。
【0201】
本発明の図1の装置では、ある一定の角度θに対するレーザービームの入射角Ψを大きくするほど、レーザービームを拡散する表面積と体積とが大きくなる。
【0202】
同様に、一定の角度Ψに対するカメラの位置によって、レーザービームが拡散される表面積と体積とが、観測平面に対して異なって観測される。
【0203】
すなわち、観測方向と組織の表面に垂直な方向との間の角度θが大きくなるほど、カメラによって観測される拡散する表面積および体積が大きくなる。
【0204】
さらに、θに対応する角度Ψが大きくなるほど、あるいは、逆にΨに対応する角度θが大きくなるほど、カメラによって捕捉されるエネルギーの流れに、正反射の影響が含まれなくなる。
【0205】
したがって、皮膚のより深い層に起因する多重拡散された光子を考慮に入れた確率は、2つの角度Ψとθとの差の絶対値と共に増大する。
【0206】
この角度の差の絶対値がΔαで示され、それが正反射の方向からの観測角に対応していることが思い出される。
【0207】
結果として、正反射から離れた光子の数が多いほど、これらの計測結果が体積に起因する情報を含んでいる確率が大きくなる。
【0208】
そして、この場合は、深層により生じる情報が表面により生じる情報より優位を占める。
【0209】
しかしながら、強皮症がそうであったように(文献[18]参照)、進んだ段階の病変の場合とは違って、変化した病変が必ずしも目に見えないような病変(例えば、臨床的無症候性段階の放射線熱傷)では、組織の病態生理学的変化が最初に深層で起こるので、有効な診断は、これらの深さスケールでの変化の観測に基づくものとなる。
【0210】
したがって、有効かつ信頼性の高い診断の補助のためには、スペックル場を記録する際に、異なる層および異なる皮膚の深度で生じる皮膚の変化を考慮する目的で、スペックル場を正反射の方向に対して異なった角度(Δαは可変であり、10°より大きい)で観測する必要がある。
【0211】
これを実行するために、すなわち、皮膚のあらゆる深度で生成されたスペックルを記録可能とするために角度Ψをθを可変とし、したがって、角度Δα=│Ψ−θ│を可変とするように、本発明の図1の装置の構成として、レーザー13とカメラ14とを支持する(図1の)弧状の機械的な構成部品18が考えられた。
【0212】
そして、角度Δαが20°のとき、本来、表面層に含まれる情報が取得され、角度Δαが60°のとき、本来、深い真皮や下皮などの深層の情報が取得される。
【0213】
放射線熱傷への応用では、レーザービームの入射角Ψの20°から60°の範囲のうち1つの値と、0°に固定された角度θとによって計測を実行するように角度を設定した。
【0214】
この応用の場合には、スペックルの正反射の方向に対する観測角Δαは、角度Ψの方向に等しい1つの角度であった。
【0215】
前駆症状の研究用モデル、具体的には、ブタの皮膚の被爆に対して、本発明を応用するために開発を行ってきた。
【0216】
再現可能な方法によって、ヒトの放射線熱傷をシミュレーションするために、局所的に目盛り付けされたブタの被爆モデルが利用される。
【0217】
ブタの皮膚は、最もよく知られている人の皮膚の生物学的モデルである。
【0218】
ブタの皮膚には、ガンマ放射(60Co,1Gy/分)が照射される。
【0219】
被爆の間、ブタは、その腹部が横たえられ、照射ビームの軸がブタの脊柱の軸に垂直となるように配置される。
【0220】
皮膚の深さで電子的な平衡状態を保証することにより、深層での放射線量が一様となるように、厚さ約1cmのワックスの固まりが、照射される皮膚の部位に配置される。
【0221】
アルミナ粉末(Al2O3)により構成された熱ルミネセンス線量計では、皮膚に照射される放射線量を制御するために、ワックスの厚さも考慮に入れられる。
【0222】
この実験の照射手順は、ブタの主要な特性(胴体の厚さ、および、高さ、皮膚の密度)を代表する単純化したファントムでの一連の計測によって確立された。
【0223】
この実験手順において、後述の異なる放射線量、すなわち、5,10,15,20,40および60Gyによって照射が実行され、そして、これらの実験条件の下で、この照射によって、壊死の兆候が観測された放射線量である40Gyの放射線量が設定可能となった。
【0224】
40Gyで照射された第1のブタについての放射線熱傷の臨床的兆候の変化を観測することによって、壊死に先立つ潜伏段階で、ヒトに観測されるのと似た兆候の変化を見ることができる。
【0225】
上述のブタの場合には、この潜伏段階は、D3からD104まで、言い換えれば、D0で示される被爆の日の後、3日から104日まである。
【0226】
臨床的な期間において、一時的に僅かな紅斑が被爆後24時間で観測された。そして、紅斑はD2で確認され、D3で消失した。
【0227】
ドップラーレーザー技術により被爆部位の変化を観測することによって、主にD1で、皮膚の反応に違いが炎症反応(紅斑)の進みに対応する血管過多状態(hypervascularisation)の画像によって観測される。
【0228】
この反応は、D3では見えなくなるほどD2では弱まっている。
【0229】
画像では、実験が終了するまで被爆部位を区別できない。
【0230】
実際、紅斑がD1とD2とで目に見える場合には、ドップラー技術の画像だけで十分であることが分かる。
【0231】
これらの確定している実験条件によって、本発明の目的としている装置による、スペックル場の統計の利用を、この動物モデルに適用することが決められた。
【0232】
この後、ブタの皮膚により生じるスペックル場の統計を利用するために設定された実験の手順が与えられる。
【0233】
ブタの皮膚への(60Coの)ガンマ放射の4回の照射が、40Gyの放射線量で5cm×10cmの表面に局所的に行なわれた。
【0234】
照射後、毎日、約8日間、一連の計測が実行された。
【0235】
0Gyに対応する正常部位と40Gyに対応する被爆部位との各部位に8つの計測点がとられ、それぞれの点に対して200枚の画像を得た。
【0236】
各実験で、この皮膚の同一の位置での計測を保証するために、皮膚には正常部位と被爆部位との各部位に、境界を定めるために1cm2あたり8個の正方形からなる入れ墨が施された。
【0237】
このようにして、約3ヶ月から4ヶ月間、計測が実行された。
【0238】
各実験日で、各計測点に対するサンプル数は大きい(n=200)。
【0239】
同一の部位に対する計測点の間のバラつきと、部位間のバラつきとを比較する目的で、二元配置分散分析検定法が適用された(文献[21]参照)。
【0240】
因子A(部位間のバラつき)に対応する変数pA、すなわち、帰無仮説H0Aに対するp値と、因子B(部位内のバラつき)に対応する変数pB、すなわち、帰無仮説H0Bに対するp値とが定義される。
【0241】
その後、正常部位と被爆部位との間の比較結果が、各実験日について、上述の統計的検定によって分析された。
【0242】
計測工程の最後に計測された部位は、計測の組織学的な検証のために生検が行なわれた。
【0243】
・ CCDカメラと皮膚の照射点Pとの間の一定の距離 : L=20cm
・ 組織表面に垂直な方向に対するレーザービームの入射角 : Ψ=20°,40°,60°
・ 選択された表面に垂直な方向に対して固定されたカメラの観測角 : θ=0°
これらの実験条件の下では、この場合、正反射の方向に対するスペックルの観測角Δαは角度Ψに等しい。
この応用では、ここから先、これらの2つの角度の指定を一本化にする。
・ 画像の捕捉時間 : 100μs
・ 画像は圧縮されない。
【0244】
このあと、番号P129が付されたブタのサンプルについて考察される。
【0245】
1. 従来の周波数解析法 : 粒の大きさの計算
【0246】
画像は全て処理されたが、明確化のために、被爆後D64でのΨ=20°に関する結果の数値およびグラフだけが、表2および図2(a),(b)に示されている。
【0247】
上述の分散分析検定法を利用して、
粒の幅dx(図2(a))について、pA=0.044およびpB=0.93、
粒の高さ、あるいは、長さdy(図2(b))について、pA=0.57およびpB=0.82
が得られる。
【0248】
粒の大きさの計算では、pの値に対して閾値を0.01としても、0Gyと40Gyとの間での識別は不可能である。
【0249】
先と同様にして、その他の計測(他の日付およびレーザービームの他の入射角)に対する結果は、8割より多くが、0.13と0.93との間のpA値と似たような性質を示し、2割未満が、0.029と0.13との間のpA値と似たような性質を示す。
【0250】
〈表2〉 ブタP129についてのD64,Ψ=20°における正常部位(0Gy:図2(a),(b)の点線)と被爆部位(40Gy:図2(a),(b)の実線)との各部位の各計測点Pでの粒の平均サイズの結果
【表2】
【0251】
2. フラクタル解析法 : 3つの統計変数の計算
【0252】
先と同様にして、画像は全て処理されたが、明確化のために、被爆後D64でのレーザービームの入射角Ψ=20に関する結果の数値およびグラフだけが、画像の水平方向について示されている。
【0253】
これらの結果は、表3および図3(a),(b),(c)に示されている。
【0254】
〈表3〉 ブタP129についてのD64,Ψ=20°における画像の水平方向に対する正常部位(0Gy:図3(a),(b),(c)の点線)と被爆部位(40Gy:図3(a),(b),(c)の実線)との各部位の各計測点Pでのスペックルに対する統計的手法の結果
【表3】
【0255】
二元配置分散分析検定法では、指標pに対して
・ 変数の飽和値G(図3(a)) : pA=0.002およびpB=0.29
・ 自己相似特性S(図3(b)) : pA=0.011およびpB=0.84
・ ハースト係数H(図3(c)) : pA=0.0007およびpB=0.31
の値が与えられる。
【0256】
このとき、正常部位と被爆部位との識別は、上記のハースト係数、上記の変数の飽和値に対して、有意性が99.8%より大きい。
【0257】
指標pAに対して、閾値を0.01とすると、自己相似性が「ほぼ」識別される。
【0258】
しかしながら、他の全ての(レーザービームの他の入射角および他の日付に対応する)計測に対して、指標pA(pA>0.023)は上記の識別には大き過ぎたので、自己相似性が識別されるのは、それの指標が小さい場合の一連の計測についてだけである。
【0259】
他方で、ハースト係数によって、D64以降、Ψ=20°に対して、いつでも、正常部位中の被爆部位が識別可能となる(表4参照)。
【0260】
画像の水平方向に沿って計算された変数によって、各実験日および各角度において、画像の垂直方向に沿って計算された変数と同様の方法で識別された。
【0261】
図4は、全計測日のブタの皮膚(被爆部位)の写真を示している。
【0262】
〈表4〉 調べられる3つの観測角(20°,40°,60°)に対して識別する画像の水平方向について計算された変数(変数の飽和値G,自己相似特性S,ハースト係数H,粒の幅dx)および全計測日における被爆した皮膚組織の臨床的発症
【表4】
【0263】
表4および図4の写真中に見られるように、目に見える病変(紅斑など)が何もないにもかかわらず、ハースト係数Hと変数の飽和値Gとによって、D64およびD75において、3つの観測角に対して被爆部位が識別される。
【0264】
D84以降は、ハースト係数によってのみ、少なくとも3つの角度のうち2つの角度について識別される。
【0265】
上記の識別に関して、この係数は一段と有効である。
【0266】
D93に最初の臨床的兆候が形成された被爆部位に関して、動物が触診に対して、かなりの刺激感応性を有していることに注意すべきである。
【0267】
疼痛の発症は、ヒトでは、一般に、壊死の発症の前兆とみなされる。
【0268】
設定された3つの角度に対する識別結果が、この疼痛の段階(D64,D75,D84)より前に現れることを指摘できる。
【0269】
ここで、P161,P163,P164と番号付けされた3匹の別のブタの例について考察する。
【0270】
これらの他の3匹のブタ(P161,P163,P164)に関する結果が、識別変数(G,H,S,dx)のスコア、計測された角度のそれぞれに対して全計測日で作られたスコアとして表5に示されている。
【0271】
上記の変数が、画像の水平方向について、表5に示されている。
【0272】
各角度に関しては、ブタP129、各実験日に対して、識別結果が画像の垂直方向に沿って計算された変数とは異なっていた。
【0273】
臨床的兆候がまだ目には見えない臨床的無症候性の段階での識別が可能であった。
そして、ブタP161については、Ψ=60°での変数H,Gによって、最初の病変が現れる前の20日間で、ブタP163については、Ψ=60°でのHによって、最初の病変が現れる前の57日間で、ブタP164については、Ψ=20°および60°でのHによって、最初の病変が現れる前の56日間で、臨床的無症候性の段階での最初の識別がなされた。
【0274】
これらの3匹のブタについて、角度Ψ=60°で最初の識別が可能になるので、被爆による組織の最初の一時的組織変異が深層内部で起こるであろうと指摘できる。
【0275】
図5は、各角度、一緒に計測された全てのブタ(ブタP129,P161,P163,P164)に対する識別変数のスコアの図表である。
【0276】
また、ハースト係数は、全てのブタに対する識別に関して最も有効であり、Ψ=40°は、特に初期の識別に対して、ほとんど有効でない角度であるということが分かる(図5および表5)。
【0277】
観測角Ψ=60°で高い効果が得られることから、病態生理学的変化が、本質的に皮膚の最深層において起こるとわかる。
【0278】
放射線熱傷の場合の診断の有効性は、結果的に最深の皮膚層の観測結果に基づいている。
【0279】
また、角度Ψ=20°での有効性は、皮膚の表面層(表皮)において、重要な一時的組織変異が起こることを示している。
【0280】
本質的に40°で見ることができる中間層は、放射線による熱傷の場合には、重要な一時的組織変異には影響を受けにくいであろう。
なぜなら、放射線熱傷の識別に関して、この角度は、あまり有効性がないのが明らかであったからである。
【0281】
結果として、様々な皮膚の深度に位置した病態生理学的変化を考察するために、したがって、スペックル場の変化を引き起こすような一時的組織変異が起こり得た、どんな皮膚層も軽視しないために、最適な診断機器は、皮膚の全深度を、しかも、できるだけ速く調べることが必要となる。
そして、これは正反射に対する観測角Δαを変化させることによって可能になる。
【0282】
〈表5〉 それぞれのブタに対して画像の水平方向に沿って計算された、各観測角での識別変数(3つの統計変数(変数の飽和値G,自己相似特性S,ハースト係数H)および粒の幅dx)の全実験日でのスコア。
なお、全てのブタに対するスコアの合計も示されている。
【表5】
【0283】
図6は、4匹のブタについての正常部位から測った被爆部位の表皮の厚さおよび真皮の厚さ(単位%)の増加を示している。
【0284】
正常部位と被爆部位との生体検査の組織学によって、皮膚組織の損傷のレベルの定量化が可能となり、物理的な変数の変化と生物学的一時的組織変異とを関連付けることができる。
【0285】
ブタP129についてD112に、ブタP161についてD106に、ブタP163についてD92に、ブタP164についてD168に実施された組織学的な検査によって、表皮と真皮との厚さの増加が、それぞれ、ブタP129に対して、30%および47%、ブタP161に対して、30%および54%、ブタP163に対して、83%および42%、ブタP164に対して、80%および43%であることが示されている。
【0286】
表6は、画像の水平方向に沿って計算されたスペックルの変数(G,S,dx,H)と、表皮および真皮の厚さとの間で計算された相関係数(r)を示している。
【0287】
全ての計測点と検査される4匹の全てのブタとを考察することによって、相関計算が実行された。
【0288】
また、ここで、0.005に設定された判定指数pの閾値を使って実行された試験の相関係数における有意性も示されている。
【0289】
記号〜は「近似」を表す。
【0290】
異なる厚さとスペックルの変数(G,H,S,dx)との間での相関の計算によって、スペックルが、Ψ=40°での真皮の変化、そして、Ψ=60°での、さらに強い真皮の変化に関係していることがハースト係数(表6)によって示される。
【0291】
このとき、本発明の目的としている装置による皮膚の深層ごとの検査は、ハースト係数によって確かめられる。
【0292】
したがって、スペックル場を記録する際に正反射の方向に対する観測角を変化させることによって、表面層から最深層までの異なる皮膚層の考察が可能となり、したがって、早期診断と、観測されるスペックルの一時的組織変異をもたらす病態生理学的皮膚の変化の位置の特定とが可能となる。
【0293】
〈表6〉 画像の水平方向および表皮と真皮との厚さ方向に沿って計算されたスペックル変数(G,S,dx,H)によって計算された相関係数(r)。
なお、ここでは、判定指標pに対する閾値を0.005に設定することによって、上記の相関係数について実行された検査の有意性も示されている。
【表6】
【0294】
表7および図7は、ブタP129について、観測角Ψ=20°、一緒に計測された全計測点での画像の水平方向に沿って計算された3つの統計係数に関する0Gyの値に対する40Gyの値の比の時間tに対する変化を示している。
【0295】
全日数に対して、その一部が大きい変数の飽和値とは異なり、ハースト係数は被爆部位に対して小さくなっていることは注目に値する。
【0296】
さらに、ハースト係数に関する、この比の全体的な減少が時間の関数として観測できる。
上述したように、このことが、ハースト係数が識別に対して最も有効な統計係数であることを示している。
【0297】
〈表7〉 全計測日、Ψ=20°に対して、一緒に計測された全計測点での、画像の水平方向に沿って計算された3つの統計係数、すなわち、変数の飽和値G、自己相似特性S、ハースト係数Hに関する0Gyの値に対する40Gyの値の比
【表7】
【0298】
ブタP161について、Ψ=60°、一緒に計測された全計測点での正常部位と被爆部位とについての画像の水平方向に沿って計算されたハースト係数の変化が、被爆後に測定した異なる日付の関数として図8に示されている(点線:0Gy,正常部位;実線:40Gy,被爆部位)。
【0299】
スペックル現象に対するフラクタル解析は、異なる濃度のラテックスビーズからなる不活性媒体の識別に利用されていた(文献[12]参照)。
【0300】
本発明においては、この統計的手法が、放射線誘発性の皮膚病変のための診断用の補助装置を作る目的のために利用される。
【0301】
単純かつ、さほど高価ではないスペックル場捕捉装置(図1)、計測手順、本明細書の後ろの方に記載されたフラクタル解析法および従来の周波数解析法による、これらのスペックルパターンの処理、および、正常部位と病的状態の部位との間になされた比較結果を解析可能とする、本発明の統計的手法による、これらの図形処理の解析は、生体内の診断の補助のために、この病変および、それの変化の経過予測のために有効な手段である。
【0302】
さらに、利用されるフラクタル解析法は、2つの部位(正常部位と被爆部位)の初期の識別に対して一層有効であることが証明されている。
そして、この場合、フラクタル解析法は、有意な方法でスペックルパターンを特徴付けるために一層の効果を発揮する。
【0303】
さらに、図1に示される装置によって、臨床的無症候性の段階で、すなわち、ブタP129については最初の病変の現れる前の29日間、ブタP161については20日間、ブタP163については57日間、ブタP164については56日間の間に、使用された3つの観測角のうち少なくとも1つの角度について、正常部位から被爆部位が識別できることが分かった。
【0304】
たとえ病変が目に見えなくても被爆部位の識別が可能となるという事実は、非常に重要かつ革新的な要素を構成する。
【0305】
さらに、生物学的組織の、先の相関の研究によって強調される、あらゆる深度での非侵襲的な観測によって、スペックルの観測される一時的変異に対応する病態生理学的変化の位置を明らかとすることができる。
【0306】
特に、Ψ=60°でのハースト係数の有意な変化だけが、真皮の深さでの変化に対応しており、Ψ=20°での、1つの変数の、あるいは、これらの全ての変数の有意な変化が、表皮の深さでの変化に対応している。
【0307】
診断および経過の予測を可能とする、生物学的組織のあらゆる深度での非侵襲的な検査は、たとえ臨床的兆候が目に見えなかったとしても、非常に重要かつ革新的な要素を構成する。
【0308】
本発明は、上述の実施例では、従来の周波数解析法とフラクタル解析法との両方によってスペックルパターンの処理を実行することにより実施されている。
【0309】
しかしながら、その処理は、従来の周波数解析法や、フラクタル解析法や、他にいかなる適当な方法を利用したとしても、単に上記の処理を実行する本発明の範囲を超えるものではない。
【0310】
また、図1の装置に戻って、案内部20の基礎部分に配置されたトーラス28を、検査される表面の境界を定めるような他の任意の手段によって置き換え可能であることが指摘される。
なぜなら、このような手段は、レーザービーム29を、この表面に到達可能とさせ、また、後方散乱された光も検出可能とするからである。
【0311】
さらに、支持部18と案内部20とによって形成された機械的手段を、同一の機能を有する他の非機械的手段、例えば、機械−光学的手段、音響−光学的手段、あるいは、電子−光学的手段に置き換えてもよい。
【0312】
さらに、図1の装置の全ての要素が、商業的に役立つことが指摘されている。
【0313】
本発明によって、前駆病変の識別が可能になるだけでなく、放射線により引き起こされた病変のための経過予測のシステムを得ることができ、分析された組織の放射線量の地図作成も可能となる。
【0314】
さらに、本発明は、急性の被爆による皮膚症候群の診断機器および経過予測の分野より広い生物医学的な応用分野で利用できる。
【0315】
そして、非常に多くの生物医学的応用の可能性を列挙できる。すなわち、
・ (ガン、局所的な強皮症、白斑、真菌症など)皮膚の病変のための診断用の補助装置としての利用、
・ 放射線療法によって生じた放射線誘発性の病変のための診断用の補助装置としての利用、
・ 事故による被爆によって生じた病変のための診断用の補助装置としての利用、
・ (熱、化学的、電気的な火傷、日光紅斑など)被爆による熱傷以外の火傷によって生じた病変のための診断用の補助装置としての利用、
・ (放射線、熱、化学的、電気的な火傷、局所的な強皮症、皮膚ガンなど)一般の皮膚の病変の経過予測への利用、
・ 最終的には、(皮膚の病変、粘膜の病変、全身性の強皮症、ガンなど)、さらに、ずっと一般的な組織の病変の診断および予経過測への利用。
【0316】
さらに、本発明には、美容分野において、
・ 皮膚老化の評価への利用、
・ 皮膚科用の製剤または調剤の、美容科的あるいは薬理学的な有効性の評価への利用、
の2つの応用領域がある。
【0317】
本発明の関心事は、一方では、効果が目に見えるより前に、その効果を検出可能にすることにあり、他方では、生体内に対して使用可能であり、そして何よりも非侵襲的な診断用の補助装置を示すことである。
【0318】
本発明の目的としている装置はコストが低いので、病室内での移動や病院内での配布のために、装置を容易に搬送できる道具とすることを目的とした装置の小型化が促進される。
【0319】
この後、スペックルの統計理論が再現される。
【0320】
Goodman(文献[22]参照)とGoldfisher(文献[23]参照)とは、スペックルの統計的特性を研究し、パワースペクトル密度(PSD)と、それの自己相関関数とを表した最初の人たちであった。
【0321】
スペックルの1次元および2次元の統計は、この後記述される。
【0322】
〔1次元の統計〕
【0323】
拡散性の表面によって後方散乱されるコヒーレントな光線を考察する。
【0324】
その電場の振幅は、空間の各点で、表面の異なる散乱体による寄与に関する振幅の和に対応している。
すなわち
【数1】
【0325】
ただし、akおよびφkは、それぞれ第k番目の寄与に関する振幅および位相であり、Nは媒質中の散乱体の数である。
【0326】
この振幅は、平面内での複雑なランダムウォークとして現れる。
【0327】
さらに、後述の仮定が考察される。すなわち、
(i) 第k番目の寄与、および、その他のあらゆる寄与に関する振幅akおよび位相φkは、互いに独立している。
(ii) 位相φkは、区間[0,2π]に一様に分布している。
【0328】
これらの仮定に基づいて、Goodman(文献[22]参照)は、中心極限定理を利用して、電場の実部と虚部に対する確率密度関数(方程式(1))を導いた。
すなわち、
【数2】
ただし、
【数3】
【0329】
その大きさは、円状のガウス分布となっている。このとき、強度Iの確率密度が計算でき、それは、
【数4】
によって表される。
【0330】
その強度は、指数関数的に減少する分布を有している。
【0331】
しかしながら、観測された強度は、カメラによって検出された強度であり、したがって、この絶対強度の時空での積分に対応している。
【0332】
したがって、検出された強度Idの確率密度関数は、絶対強度と検出関数Hとの畳み込み積として表すことができる。
【数5】
【0333】
検出された強度の確率密度は、
【数6】
と表される。
ただし、M=〈I〉2/σ2I,σIは強度の標準偏差,Γ(M)は通常のガンマ関数、すなわち、
【数7】
である。
【0334】
そして、Mは、カメラによって観察されるスペックルの粒の数と解釈できる。
【0335】
Mが+∞に近づくと、強度はガウス分布に近づく。
【0336】
実験的には、1に比べて非常に大きいMに対して、ガウス分布が観測される。
【0337】
結果として、検出された強度がガウス過程に従うと考えられる。
【0338】
〔2次元の統計〕
【0339】
ここで、我々は、上記の周波数帯域での実験によるスペックルの表現に興味がある。
【0340】
したがって、我々は、もはや、それの空間の1点での特徴(振幅、強度、位相)だけでなく、空間の2点の間の特徴、言い換えれば、それの2次元の統計として知られているものにも興味がない。
【0341】
信号のパワースペクトル密度(PSD)は、この信号のフーリエ変換成分の2乗として定義される。
すなわち、座標(x,y)の1点での、強度のパワースペクトル密度が、
【数8】
と表される。
【0342】
図9は、実験により得られたスペックルパターンを代表する、空間周波数fの関数としてのパワースペクトル密度PSDをログ−ログスケールで示している。
【0343】
スペックルパターンは、高周波に対して1/fとして知られる減少を示すと分かる。
【0344】
この性質は、この周波数帯域における自己相似的な過程を特徴付ける。
【0345】
強度における空間的な自己相関関数は、方程式(6)、すなわち
【数9】
によって定義される。
ただし、Δx=x1−x2およびΔy=y1−y2であり、I(x1,y1)およびI(x2,y2)は、観測平面(x,y)上の2点での強度である。
【0346】
記号〈〉は空間平均に対応している。
【0347】
x2=0,y2=0,x1=x,y1=yならば、このとき、
【数10】
と書くことができる。
【0348】
自己共分散関数は、平均値で中心化された自己相関関数として定義される。
【0349】
正規化した場合には、それは、
【数11】
と表される。
【0350】
Wiener-Khintchineの理論によれば、強度の自己相関関数は強度のPSDの(FT−1で示される)フーリエ逆変換、すなわち
【数12】
によって与えられる。
【0351】
この式は、自己相関関数の計算に利用される。
【0352】
計算され、正規化された自己共分散関数は、
【数13】
と表される。
【0353】
cI(x,0)およびcI(0,y)は、それぞれcI(x,y)の水平方向および垂直方向の輪郭線に対応している。
【0354】
それぞれdx,dyで示される、cI(x,0)とcI(0,y)との最大値の半分での全値幅は、スペックルパターンの粒の「平均サイズ」の理にかなった計測結果を与えている(文献[20]参照)。
【0355】
図10は、(μm単位の)xの関数としての水平方向の輪郭線cI(x,0)を示している。
【0356】
これによって、スペックル現象の従来の周波数解析法が構成され、それから、「スペックルサイズ」として知られている、スペックルの粒の特性によって、空間的にスペックルパターンを特徴付けることができる。
【0357】
〔スペックル現象とフラクショナルブラウン運動との間の相関〕
【0358】
ブラウン運動は、流体分子同士の相互作用以外の相互作用にはさらされない流体中で、浮遊状態の粒によって継続されるランダムな運動を数学的に記述したものである。
【0359】
浮遊状態の粒の経路は、ランダムな流体分子速度の変化によって、ランダムに描かれ、巨視的に見ると、粒のランダムで無秩序な運動が観測される。
【0360】
X={X(t):t∈R}(R:実数集合)が、ブラウン運動の現象を特徴付ける過程を示すならば、その増分の方程式は、
【数14】
ただし、記号∝は「比例」を表す。
【0361】
スペックルの統計とブラウン運動の統計との間の相関については、すでに提案されている(文献[12]参照)。
【0362】
実際のところ、スペックル理論において、振幅と位相との間だけでなく、増分間にも非相関性が仮定されていることを思い出すべきである(上で考察された仮定(i))。
【0363】
結果として、スペックルの振幅は、信号処理の観点からは、ガウス分布のホワイトノイズに対応している。
【0364】
ブラウン運動は、ガウス分布のホワイトノイズの積分である。
【0365】
そのとき、スペックルの検出された強度はブラウン運動に対応している。
【0366】
結果として、1次元の統計は同一の性質となっている。
【0367】
すなわち、それらは振幅の分布および強度の分布に対してガウス分布になっている。
【0368】
また、それらの2次元の統計も同一の特性を有している。
【0369】
すなわち、それらのPSDが1/fの減少を示し、どちらの場合にも、それらの増分がガウス分布になっている。
【0370】
このため、フラクショナルブラウン運動によるスペックル現象のモデル化が考察されてきた(文献[12]参照)。
【0371】
方程式(11)は、フラクショナルブラウン運動を増大させる過程に対応している。
【0372】
変数Hが0.5に等しい場合には、この過程は、従来のブラウン運動の過程になる。
【0373】
ただし、上記の増分(式(10))間に相関はない。
【数15】
ただし、H∈[0,1]である。
【0374】
実際、フラクショナルブラウン運動は、増分間に相関がないようにブラウン運動を一般化したものである。
【0375】
方程式(11)は、拡散方程式という名前で知られている。
【0376】
本発明において、上記のスペックルのフラクショナルブラウン運動モデルによるフラクタル解析法が、生体内での生物学的媒質に由来するスペックルの研究に適用される。
【0377】
〔スペックル現象に適用されるフラクショナルブラウン運動 : スペックルパターンの拡散関数〕
【0378】
スペックルパターンの拡散方程式を記述するために、空間スケールでの強度に対する増加過程を表す必要がある。
【0379】
2次元の定常性の仮定によって、画像の水平方向に対して、
【数16】
と書くことができる。
【0380】
ただし、Cffは、画像の水平方向に対する強度の自己相関関数である。
【0381】
すでに、見てきたように、スペックルのPSDは高周波に対してだけ1/fの減少を含んでいる。
【0382】
このような高周波に対する性質は、増分の軌跡での局所的なレギュラリティーを特徴付けている。
【0383】
しかしながら、フラクタル理論によれば(文献[24]参照)、局所的にレギュラリティーを有する過程の自己相関関数は、
【数17】
である。
【0384】
ただし、Hは、増分のHolderianレギュラリティーを反映している。
【0385】
そのとき、拡散方程式は、画像の水平方向に対する空間座標で表される(文献[12]参照)。
すなわち、
【数18】
または、
【数19】
【0386】
方程式(15)のグラフおよび正常な皮膚によって得られたスペックルパターンの拡散曲線が、図11に示されている(単位は任意)。
【0387】
点線は理論曲線に対応し、星印は実験結果に対応している。
【0388】
強度の増分はΔIで示され、近傍はδで示される。
【0389】
3つの変数は、上記の拡散曲線、すなわち、H,S,Gから抽出可能である。
【0390】
ハースト係数Hは、原点における勾配によって与えられる。
【0391】
それは、式Df=d+1−Hによって、画像のフラクタル次元Dfと結びついている。
ただし、dは位相次元である。
【0392】
Hは、上記の画像のフラクタル次元を特徴付け、さらに、粒のフラクタル次元を特徴付けている。
【0393】
また、それは、上述した局所的なレギュラリティー変数でもある。
【0394】
自己相似特性Sは、π/λによって与えられ(文献[25]参照)、上記の画像におかる自己相似的な性質から標準的な性質を差異する次元の定量化を可能とする。
【0395】
この次元において、上記の過程は「スケール不変性」を有していると考えられている。
【0396】
2σ2Iに等しい変数の飽和値Gは、全体的な方法で、上記の画像を特徴付けている。
曲線の直線部分が上記の過程の自己相似的性質を示していることに注意すべきである。
【0397】
本明細書で引用された文献は、以下のものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0398】
【特許文献1】[10]WO 2006/069443, Z. Haishan and L. Tchvialeva
【特許文献2】[13]US 2004/152989, J. Puttappa et al.
【非特許文献】
【0399】
【非特許文献1】[1] Benderitter M, Isoir M, Buand V, Durand V, Linard C, Vozenin-Brotons MC, Steffanazi J, Carsin H, Gourmelon P, “Collapse of skin antioxidant status during the subacute period of cutaneous radiation syndrome: a case report”, Radiat Res. 2007 Jan; 167(1):43-50
【非特許文献2】[2] Pouget JP, Laurent C, Delbos M, Benderitter M, Clairand I, Trompier F, Stephanazzi J, Carsin H, Lambert F, Voisin P, Gourmelon P, “PCC-FISH in skin fibroblasts for local dose assessment: biodosimetric analysis of a victim of the Georgian radiological accident”, Radiat Res. 2004 Oct; 162(4):365-76
【非特許文献3】[3] F. Daburon, “Irradiation aigues localisees, Bases radiobiologiques du diagnostic et du traitement", EDP Sciences (1997)
【非特許文献4】[4] F Boulvert, B Boulbry, G Le Brun, B Le Jeune, S Rivet and J Cariou, “Analysis of the depolarizing properties of irradiated pig skin”, J. Opt. A: Pure Appl. Opt. vol 7, 21-28 (2005)
【非特許文献5】[5] J. D. Briers, G. Richards and X.W. He, “Capillary blood flow monitoring using laser speckle contrast analysis (LASCA)”, J. Biomed. Opt. 4, 164-175 (1999)
【非特許文献6】[6] Y. Aizu, T. Asakura, “Bio-speckle phenomena and their application to the evaluation of blood flow”, Opt. Las. Tech. 23, 205-219 (1991)
【非特許文献7】[7] I.V. Fedosov, V.V. Tuchin, “The use of dynamic speckle field space-time correlation function estimates for the direction and velocity determination of blood flow”, Proc. SPIE Vol. 4434, p. 192-196, Hybrid and Novel Imaging and New Optical Instrumentation for Biomedical Applications, Albert-Claude Boccara; Alexander A. Oraevsky; Eds.
【非特許文献8】[8] J. R. Tyrer, "Theory for three-dimensional measurements in ESPI”; Chapter 6 of Optical measurement methods in biomechanics, edited by J. F. Orr, London: Chapman & Hall (1997)
【非特許文献9】[9] J. F. Roman, P. Fernandez, V. Moreno, M. Abeleira, M. Gallas, D. Suarez, "The mechanical behavior of human mandibles studied by Electronic Speckle Pattern Interferometry", The European Journal of Orthodontics, Vol. 21, No. 4, pp. 413-421 (1999)
【非特許文献10】[11] Y. Piederriere, J. Cariou, Y. Guern, B. Le Jeune, G. Le Brun, J. Lotrian, “Scattering through fluids: speckle size measurement and Monte Carlo simulations close to and into the multiple scattering”, Opt. Express 12, 176-188 (2004)
【非特許文献11】[12] S. Guyot, M.C. Peron, E. Delechelle, “Spatial Speckle Characterization by Brownian Motion analysis”, Phys. Rev. E 70, 046618 (2004)
【非特許文献12】[14] L. Pothuaud, et al., "Fractal analysis of trabecular bone texture on radiographs: discriminant value in post menopausal osteoporosis", Osteoporos. Int., Vol. 8, pp. 618-625 (1998)
【非特許文献13】[15] C. L. Benhamou, et al., "Fractal Analysis of radiographic Trabecular Bone Texture and Bone Mineral Density: Two Complementary Parameters Related to Osteoporotic Fractures", Journal of bone and mineral research, Vol. 16, No. 4, pp. 697-704 (2001)
【非特許文献14】[16] L. Zhifand, L. Hui and Y. Qiu, "Fractal analysis of laser speckle for measuring roughness", Proc. SPIE., Vol. 6027, pp. 470-476 (2006)
【非特許文献15】[17] O. Carvalho et al., "Statistical speckle study to characterize scattering media: use of two complementary approaches", Optics Express, Vol. 15, No 21, pp. 13817-13931 (2007)
【非特許文献16】[18] O. Carvalho et al., "Speckle: Tool for diagnosis assistance", Proc. SPIE Int. Soc. Opt. Eng., Speckle 06: Speckles, from grains to flowers 2006, Vol. 6341, pp. 1-6 (2006)
【非特許文献17】[19] D.A. Boas and A.G. Yodh, “Spatially varying dynamical properties of turbid media probed with diffusing temporal light correlation”, J. Opt. Soc. Am. A, Vol. 14, No. 1, 192-215 (1997)
【非特許文献18】[20] Q.B. Li and F.P. Chiang, “Three-dimensional dimension of laser speckle”, Applied Optics, Vol. 31, No. 29, 6287-6291 (1992)
【非特許文献19】[21] R.V. Hogg, and J. Ledolter, J. Engineering statistics, Macmillan Publishing Company (1987)
【非特許文献20】[22] J.W. Goodman, “Statistical Properties of Laser Speckle Patterns”, in Laser speckle and related phenomena, Vol.9 in the series Topics in Applied Physics, J.C. Dainty, Ed., (Springer-Verlag, Berlin, Heidelberg New York Tokyo, 1984)
【非特許文献21】[23] L.I. Goldfisher, “Autocorrelation function and power spectral density of last-produced speckle pattern”,. J. Opt. Soc. Am., Vol. 55, No. 3, 247-253 1964)
【非特許文献22】[24] P. Abry, P. Goncalves, P. Flandrin, Spectrum analysis and 1/f processes, Springer, Berlin(1995)
【非特許文献23】[25] T.D. Frank, A. Daffertshofer, P.J. Beek, “Multivariate Ornstein-Uhlenberg processes with mean field-dependent coefficients-application to postural sway”, Phys. Rev.,Vol. 63 (2001)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的組織の、特に具体的には組織の病変、さらに具体的には被爆による病態生理学的変化の診断および予測の補助のために、あるいは、皮膚の老化の評価のために、あるいは、美容科または皮膚科用製品の有効性の評価のために、生体内の特性を計測するための装置であって、
第1の方向(X)に沿ってコヒーレント光を放射し、それによって第1の部位と第2の部位とにおける生物学的組織(16)を照明するためのコヒーレント光の光源(13)と、
第2の方向(Y)にスペックル場を観測し、かつ、スペックルを捕捉する観測捕捉手段(14)と、
異なる角度でスペックル場を観測し、かつ、この組織中のあらゆる深度での組織に関する情報を取得するために、第1の方向と第2の方向との間の角を変化させる角度可変手段(18)と、
組織の表面の照射点と観測捕捉手段との間の一定の距離を維持し、かつ、組織の起こりうる動きを吸収する支持吸収手段(20,28)と、
第1の部位と第2の部位とを比較するために、観測捕捉手段によって得られたスペックルパターンを処理する電子的な手段(22)と、
パターンの処理結果を統計的手法によって解析し、かつ、前記第1の部位と第2の部位との間でなされた比較結果を解析可能とする電子的な手段(24)と、
によって構成されていることを特徴とする装置。
ただし、第1の部位は正常で、第2の部位は変化を含む可能性があり、上述したように、上記の組織はスペックル現象が生じるように照明されている。
【請求項2】
第1の方向と第2の方向との間の角を変化させる手段が、おおよそ0°〜180°の範囲内で、この角度を変更可能としていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
第1の方向と第2の方向との間の角を変化させる手段が、第1の方向(X)の向きの変更を第2の方向(Y)とは独立に可能としていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の装置。
【請求項4】
さらに、光源から放射されたコヒーレント光の偏光と観測捕捉手段に達する光の偏光とを制御可能とする光学手段を有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記観測捕捉手段が、前記スペックルを捕捉し、かつ、前記スペックルパターンに対応する電気信号を出力する光検知手段(14)を有し、処理のための前記電子的な手段(22)が、非圧縮画像形式の前記電気信号を処理可能とし、第1の部位と第2の部位との比較を可能とする、ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記光検知手段(14)が、高々100μsの露光時間でスペックルを捕捉可能としていることを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記光検知手段が、カメラ(14)によって構成されていることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記カメラ(14)が、CCDカメラであることを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項9】
照射部位につき少なくとも200個のスペックルパターンを取得可能な観測捕捉手段(14)が付与されていることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記コヒーレント光の光源(13)が、単色であることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
フラクタル解析法か、または、従来の周波数解析法か、または、その両方によって前記スペックルパターンの処理が、実行されることを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記スペックルパターンの処理が、フラクタル解析法によって実行される場合には、スペックルパターンを特徴付ける統計変数の抽出処理を含むことを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記統計変数が、ハースト係数、自己相似、および、変数の飽和値を含むことを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項1】
生物学的組織の、特に具体的には組織の病変、さらに具体的には被爆による病態生理学的変化の診断および予測の補助のために、あるいは、皮膚の老化の評価のために、あるいは、美容科または皮膚科用製品の有効性の評価のために、生体内の特性を計測するための装置であって、
第1の方向(X)に沿ってコヒーレント光を放射し、それによって第1の部位と第2の部位とにおける生物学的組織(16)を照明するためのコヒーレント光の光源(13)と、
第2の方向(Y)にスペックル場を観測し、かつ、スペックルを捕捉する観測捕捉手段(14)と、
異なる角度でスペックル場を観測し、かつ、この組織中のあらゆる深度での組織に関する情報を取得するために、第1の方向と第2の方向との間の角を変化させる角度可変手段(18)と、
組織の表面の照射点と観測捕捉手段との間の一定の距離を維持し、かつ、組織の起こりうる動きを吸収する支持吸収手段(20,28)と、
第1の部位と第2の部位とを比較するために、観測捕捉手段によって得られたスペックルパターンを処理する電子的な手段(22)と、
パターンの処理結果を統計的手法によって解析し、かつ、前記第1の部位と第2の部位との間でなされた比較結果を解析可能とする電子的な手段(24)と、
によって構成されていることを特徴とする装置。
ただし、第1の部位は正常で、第2の部位は変化を含む可能性があり、上述したように、上記の組織はスペックル現象が生じるように照明されている。
【請求項2】
第1の方向と第2の方向との間の角を変化させる手段が、おおよそ0°〜180°の範囲内で、この角度を変更可能としていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
第1の方向と第2の方向との間の角を変化させる手段が、第1の方向(X)の向きの変更を第2の方向(Y)とは独立に可能としていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の装置。
【請求項4】
さらに、光源から放射されたコヒーレント光の偏光と観測捕捉手段に達する光の偏光とを制御可能とする光学手段を有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記観測捕捉手段が、前記スペックルを捕捉し、かつ、前記スペックルパターンに対応する電気信号を出力する光検知手段(14)を有し、処理のための前記電子的な手段(22)が、非圧縮画像形式の前記電気信号を処理可能とし、第1の部位と第2の部位との比較を可能とする、ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記光検知手段(14)が、高々100μsの露光時間でスペックルを捕捉可能としていることを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記光検知手段が、カメラ(14)によって構成されていることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記カメラ(14)が、CCDカメラであることを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項9】
照射部位につき少なくとも200個のスペックルパターンを取得可能な観測捕捉手段(14)が付与されていることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記コヒーレント光の光源(13)が、単色であることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
フラクタル解析法か、または、従来の周波数解析法か、または、その両方によって前記スペックルパターンの処理が、実行されることを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記スペックルパターンの処理が、フラクタル解析法によって実行される場合には、スペックルパターンを特徴付ける統計変数の抽出処理を含むことを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記統計変数が、ハースト係数、自己相似、および、変数の飽和値を含むことを特徴とする請求項12に記載の装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図4】
【図5】
【図6】
【図2】
【図3】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図4】
【図5】
【図6】
【公表番号】特表2010−524533(P2010−524533A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−503527(P2010−503527)
【出願日】平成20年4月18日(2008.4.18)
【国際出願番号】PCT/EP2008/054764
【国際公開番号】WO2008/132079
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(509289434)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月18日(2008.4.18)
【国際出願番号】PCT/EP2008/054764
【国際公開番号】WO2008/132079
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(509289434)
【Fターム(参考)】
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