説明

痛みの予防又は緩和剤

【課題】痛みとは、皮膚感覚の一つであり、生体組織の傷害を最小限にくい止めるための大事な警告反応として重要な役割を果たしている。一方、痛みは不快で苦痛を伴う感覚であるためQOLの低下も招くことから、積極的に取り除く必要もあり、様々な鎮痛剤が古くから処方されている。
本発明の課題は痛みあるいは痛覚過敏に極めて有効で副作用の少ない痛みの予防又は緩和剤を提供することにある。
【解決手段】 ユビデカレノンを含有することを特徴とする、痛みの予防又は緩和剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、日常生活の中で生じる目の痛み、凝り、腰痛、神経痛、筋肉痛、長時間立位による下肢の痛み等の痛み、痛覚過敏の予防又は緩和に有効な経口剤に関する。
【背景技術】
【0002】
痛みとは、皮膚感覚の一つであり、生体組織の傷害を最小限にくい止めるための大事な警告反応として重要な役割を果たしている。一方、痛みは不快で苦痛を伴う感覚であるためQOLの低下も招くことから、積極的に取り除く必要もあり、様々な鎮痛剤が古くから処方されている。
【0003】
また、痛みとは、単純に痛いと感覚的に感じるだけでなく、精神的、心理的な状況によってその強度は大きく変動する。特に、その原因である炎症が取り除かれた後でも、痛みが継続的に持続している場合、慢性炎症や神経損傷と同様に、痛覚過敏(侵害刺激に対する閾値が低下)を引き起こす。さらに、近年の労働環境においては、運動を伴わない長時間のVDT作業、デスクワーク等が増えているが、その作業量の増加に伴って、目(眼精疲労の一症状)、首、肩などの痛みを訴えるヒトの割合が多いことが知られ(非特許文献1参照)、鎮痛成分を含有する内服剤、貼り薬、塗り薬やビタミン剤などが使用されている。
【0004】
ユビデカレノンはCoQ10、補酵素Q10、ユビキノンとも称される体内成分であり、ミトコンドリア内膜上に多く存在し、電子伝達系のフラボプロテインとチトクロームC1の間に介在し、ミトコンドリアにおけるATP産生の律速因子である(非特許文献1参照)。
【0005】
このユビデカレノンは20代をピークに加齢と共に体内の臓器中(心臓、腎臓、肝臓、肺)、表皮中の濃度が低下することが知られており、食事も含め体外から補給すべき体内成分とされている。虚血による心筋障害の改善作用、低下した心拍出量の改善作用、アルドステロンによるNa貯留の拮抗作用等が知られ、軽度および中等度のうっ血性心不全による浮腫(むくみ)、肺うっ血、肝腫脹、狭心症状等の改善に用いられている。しかし、痛み、痛覚過敏改善効果は報告されていない。
【0006】
【非特許文献1】「行政の窓2」、産業医学ジャーナル、2004年,27巻、30−35。
【0007】
【非特許文献2】最新栄養学第7版 Ziegler E.E.,Filer L.J Jr.、木村修一・小林修平翻訳監修:157−162
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、痛みあるいは痛覚過敏を予防又は緩和する、副作用の少ない経口用の薬剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、種々検討した結果、ユビデカレノンを経口投与することにより、痛み閾値の低下を改善する効果があることを見出した。
【0010】
すなわち本発明は、
(1)ユビデカレノンを含有することを特徴とする、痛みの予防又は緩和剤。
(2)ユビデカレノンを含有することを特徴とする、痛覚過敏の予防又は緩和剤。
(3)ユビデカレノンを含有することを特徴とする、痛み閥値の低下抑制剤。
である。
【発明の効果】
【0011】
ユビデカレノンの投与により、痛み閾値の低下が改善されることがわかった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明におけるユビデカレノンはCoQ10、コエンザイムQ10、補酵素Q10、ユビキノンなどとも称される体内成分である。
【0013】
本発明におけるユビデカレノンの有効投与量は、成人で1日あたり5mg〜600mgであり、好ましくは15mg〜300mgである。
【0014】
本発明の痛みの予防又は緩和剤は、ユビデカレノンを配合し、必要に応じて他の公知の添加剤、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、抗酸化剤、コーティング剤、着色剤、矯味矯臭剤、界面活性剤、可塑剤等を混合して常法により、顆粒剤、散剤、カプセル剤、錠剤、ドライシロップ剤、液剤等の経口用製剤として提供することができる。
【0015】
本発明の痛みの予防又は緩和剤には、必要に応じて他の生理活性成分、カルシウム,マグネシウム等のミネラル、ビタミンB1,B2,B6,ビタミンE、カルニチン、パントテン酸やニコチン酸等のビタミン、バリン、ロイシン、イソロイシン等のアミノ酸、ホルモン、栄養成分、カフェイン等のキサンチン誘導体、香料等を混合することにより、嗜好性をもたせることもできる。また、生薬としては、特に規定するものはないがエゾウコギ(刺五加、五加皮)、葛根、甘草、枳実、桂皮、紅参、柴胡、山帰来、山薬、地黄、熟地黄、乾地黄、生姜,乾姜、川キュウ、蒼朮、大棗、沢瀉、陳皮、当帰、杜仲、田七人参、人参、白朮、茯苓、附子、麻黄、ローヤルゼリー等を配合することができる。
【0016】
本発明の痛みの予防又は緩和剤は、痛みが外傷又は臓器の損傷を伴わず、目の痛み、凝り、腰痛、神経痛、筋肉痛、長時間立位による下肢の痛みなどに有効である。
【0017】
以下に試験例により、本発明をさらに具体的に説明する。
試験例1
実験試料:ユビデカレノン
実験動物:SD系雄性ラット(8週令、チャールズリバーから購入)
試験方法:痛み閾値測定試験
ラットの痛覚過敏を発生させるために、渡辺らの方法(田中雅彰、渡辺恭良ら、Neurosci Lett.,352,159,2003)を用いて検討した。ラット尾部の痛み閾値を同等になるように群構成したラットを、水を深さ1.0cm(水温:22±1℃)まで満たした透明小型飼育ケージ(30×20×12cm、クリーンケージ,夏目製作所)において、6日間水浸飼育した。検体は0.5%カルボキシルメチルセルロース・ナトリウムに懸濁させ、1.0mL/100gの投与容量にて、水浸飼育初日より、1日1回5日間連続経口投与を行い、最終実験日(痛み閥値測定日)は投与しなかった。痛み閾値は室町機械(株)製デジタル・ランダルセリット式鎮痛効果測定装置(MK−201D)を用い、ラットの尾根部から3cmの部位を円錐型圧子にて圧刺激し、求めた。
[実験結果]通常に飼育した正常ラットの痛み閾値は197±12mmHgであったのに対して、水浸飼育ラット(対照)の痛み閾値は51±3mmHgであり、有意に痛み閾値が低下し、痛覚過敏が観察された。この痛み閾値の低下に対して、ユビデカレノン30mg/kg投与群の痛み閾値は65.1±8mmHgであり、痛覚過敏を有意に改善させた(図1参照)。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明により、副作用が少なく、長期間の経口投与に適した痛みの予防又は緩和に有効な医薬品、医薬部外品又は食品に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】水浸飼育誘発による痛覚過敏に対するユビデカレノンの作用を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユビデカレノンを含有することを特徴とする、痛みの予防又は緩和剤。
【請求項2】
ユビデカレノンを含有することを特徴とする、痛覚過敏の予防又は緩和剤。
【請求項3】
ユビデカレノンを含有することを特徴とする、痛み閥値の低下抑制剤。

【図1】
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【公開番号】特開2008−31110(P2008−31110A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−207284(P2006−207284)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】