説明

痛みの軽減のためのガンマ阻害剤化合物の使用方法

本明細書の開示は、修飾されたγPKC阻害性ペプチド、かかるペプチドを作製する方法、およびγPKC阻害性ペプチドを痛みの治療に使用するための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、異なる分類の痛みを調節する化合物に関し、該化合物は、少なくとも1以上の担体部分と連結した1または2以上のガンマPKC(γPKC)阻害性ペプチドを含み、該阻害性ペプチド、該担体部分、またはその両方が、得られた化合物の安定性、効力、またはその両方が増大するように原型配列から修飾されている。
【背景技術】
【0002】
プロテインキナーゼC(「PKC」)は、細胞成長、遺伝子発現の制御、およびイオンチャネル活性を含む様々な細胞機能に関与するシグナル伝達の主要な酵素である。PKCファミリーのアイソザイムは、少なくとも11種の異なるプロテインキナーゼを含み、これらは、そのホモロジーおよび活性化因子への感受性に基づいて少なくとも3つのサブファミリーに分けることができる。そのファミリーは、在来型(classical)、新型(novel)、非定型(atypical)サブファミリーである。各アイソザイムは、いくつもの相同性(「保存された」または「C」)ドメインと散在するアイソザイム固有(「可変」または「V」)ドメインを含む。ガンマPKC(γPKC)は、α、β(Bとしても知られている)、およびβII(Bとしても知られている)PKCとともに、「在来型」サブファミリーのメンバーである。
【0003】
PKCの個々のアイソザイムは、様々な病態の機序に関係があるとされてきた。εPKC由来のイプシロンPKC阻害性ペプチドが作製され、痛覚への影響を示されている。例えばUS特許第6,376,467号および同第6,686,334号を参照。γPKC由来のガンマPKC阻害性ペプチドもまたUS20030223981号公報に内包され、それは本明細書に参照として組込まれる。
【0004】
このアプローチの1つの問題点は、切り取られた断片の「裸の」終端は、タンパク質中でのそれらの状況とは異なり、断片がタンパク質の残りと連結するポイントにおいて、遊離アミンおよびカルボキシル基を露呈していることである。これらの外来の部分は、ペプチドを、プロテアーゼに対してより敏感にし得る。これらの不利な点の結果として、ペプチドの効力は、所望のものよりも低くなり得、in vivo半減期は顕著に短くなり得る。
【0005】
先行技術の第2の領域は、「担体」ペプチドがHIV−Tatおよび他のタンパク質の断片として設計されるという、同様の戦略を利用する。これらのペプチド断片は、親タンパク質の細胞膜を横断する能力を模倣する。特に興味深い能力は、これらの担体ペプチド断片によって、カーゴおよび担体ペプチドの両方が細胞内に運ばれるように、「カーゴ」ペプチドをこれらの担体ペプチドに取り付けることができるという特性である。
担体ペプチドが断片であるという認識から、上述したような同様の欠点がカーゴペプチドに適用され得る。すなわち、露呈した末端が、プロテアーゼ感受性を含む望ましくない特性を授け得ることである。
【0006】
先行技術のカーゴ/担体ペプチド構築物は、カーゴと担体との間のCys−Cysジスルフィド結合を利用し、それは、ペプチドが細胞に入った場合に、グルタチオン還元などの多くの媒介物により開裂することができる。この特性は、カーゴおよび担体が物理的に分離することによって二つの部分が細胞内でその独立した効果を発揮するため、生物学的活性にとって重要であると考えられている。しかしながらこの仮説について信頼性のある試験がなされたことはなく、非開裂性アナログは、実際のところ、良好な活性を有し得る。さらに、ジスルフィド結合は、組み立てるのが面倒であり、化学分解しやすい。
【0007】
特定のカーゴ/担体ペプチド先行技術の設計は、タンパク質からのアミノ酸の連続配列に基づいている。しかしながら、ペプチドの最適な長さは、経験に基づくアナログ試験よりも、配列比較分析および望ましい配列の理論的予測に基づいており、未だよく定義されていない。したがって、それが由来するγPKCドメインに対応する付加的な残基を含む、前述のカーゴペプチドのアナログから、効能の増大が予測され得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、γPKC阻害性タンパク質で処理した試料のウェスタンブロットを示し、サイトゾル中および膜画分における酵素レベルにおける阻害剤の影響を示す。
【図2】図2は、2グラムのフォンフレイ(Von Frey)フィラメントを用いた研究における、L5切断後の日数に対して足を引っ込めた数をプロットした線グラフを示す。
【図3】図3は、12グラムのフォンフレイフィラメントを用いた研究における、L5切断後の日数に対して足を引っ込めた数をプロットした線グラフを示す。
【0009】
【図4】図4Aおよび4Bは、2グラムおよび12グラムのフォンフレイフィラメントを用いた2つの研究における、切断後の日数に対して足を引っ込めた平均数をプロットした2つの線グラフ、および切断後7.5日目における交叉イベントを示す。
【図5】図5は、温熱性痛覚過敏の研究における、L5切断後の日数に対して足引っ込めの待ち時間を秒単位でプロットした線グラフを示す。
【図6】図6は、温熱性痛覚過敏の研究における、L5切断後の日数に対して足引っ込めの待ち時間を秒単位でプロットした線グラフ、および7.5日目における交差イベントを示す。
【0010】
【図7】図7は、温熱性痛覚過敏の研究における、時間に対して足引っ込めの待ち時間を秒単位でプロットした線グラフを示す。ここで、動物に、切断後第1〜7日目の間ポンプを通してペプチドを与えた後、第14日目において阻害性ペプチドの用量の皮下投与をチャレンジした。
【図8】図8は、温熱性痛覚過敏の研究における、時間に対して足引っ込めの待ち時間を秒単位でプロットした線グラフを示す。ここで、動物に、切断後第7〜14日目の間ポンプを通してペプチドを与えた後、第14日目において阻害性ペプチドの用量の皮下投与をチャレンジした。
【図9】図9は、温熱性痛覚過敏の研究における、時間に対して足引っ込めの待ち時間を秒単位でプロットした線グラフを示す。ここで、動物に、切断後14日目に阻害性ペプチドの用量の皮下投与をチャレンジした。
【発明の概要】
【0011】
本明細書の開示は、修飾されたγPKC阻害性ペプチド、かかるペプチドを作製する方法、およびγPKC阻害性ペプチドを痛みの治療に利用する方法に関する。他の側面および態様は、以下の詳細な記載から当業者に明らかである。
【0012】
発明の記載
ここに記載される発明は、ガンマプロテインキナーゼC(γPKC)アイソザイムを阻害する修飾されたペプチドに関する。典型的には、本明細書中で論じられるγPKC阻害性ペプチドは、阻害性ペプチドの標的細胞内への輸送を促進する担体部位と連結している。カーゴ阻害ペプチド、担体ペプチド、またはその両方は、得られるカーゴ/担体ペプチド構築物の安定性の増大を制御するため、原型対照と比較して修飾されることができる。開示された修飾γPKCペプチドは、急性の痛み、慢性の痛みおよび炎症性の痛みなど、様々なタイプの痛みを防ぐおよび治療するのに有用である。
【0013】
定義
本明細書中で使用される場合、以下の語および語句は、その語が使用された文脈が他の意味を意図している場合を除き、一般的に以下に記載された意味を有することを意図している。
「PKC阻害性ペプチド」は、γPKC酵素を阻害するかまたは不活性化することができるペプチドをいう。
「キャップされた」という語は、アミノ末端、カルボキシ末端またはその両方を変更するように化学的に修飾されたペプチドをいう。未修飾カーゴペプチドとジスルフィド結合した、キャップされた担体ペプチドを図2に示す。
【0014】
「担体」という語は、例えばUS特許および公報第4,847,240号、第5,888,762号、第5,747,641号、第6,593,292号、US2003/0104622号、US2003/0199677号およびUS2003/0206900号などに記載されているように、ポリリジン、ポリアルギニン、アンテナペディア由来ペプチド、HIV Tat由来ペプチドなどを含む、カチオンポリマー、ペプチドおよび抗体配列など、細胞内取り込みを促進する部位をいう。担体部分の例は、輸送体ペプチドに化学的に連結又は結合されたγPKC阻害性ペプチドの細胞内取り込みを促進する「担体ペプチド」である。
【0015】
「予防」という語は、「処置」の一要素として、本明細書で定義される「防ぐこと」および「抑制すること」の両方を包含することを意図する。ヒトの医薬品において、「防ぐこと」と「抑制すること」とを区別することが常に可能なわけではないことは、当業者に理解されるだろう。なぜならば、最終的に誘導される出来事が未知であるか、潜在的であるか、または出来事の発生から十分後になるまで患者が確認されないことがあるからである。
【0016】
「安定性」という語は一般的に、例えば保存期間に基づくcys−cys交換を遅延させることにより、タンパク質分解を遅延させることにより、またはその両方により、保存期限を改善する修飾をいう。「効能」という語は、特定の結果を達成するのに必要な特定のペプチド組成物の量に関する。所望の終点を達成するための1つの組成物の投与量を減少させられるとき、そのペプチド組成物は他よりも効能が高い。所与のペプチド組成物の特定の修飾を行うことにより、その組成物の効能を増大させることができる。
【0017】
ガンマプロテインキナーゼC(γPKC)阻害性ペプチド
様々なγPKC阻害剤が本明細書に記載され、本明細書により開示された方法によって使用することができる。阻害性ペプチドは、可変または保存性の、あらゆるドメインに由来することができる。したがって、阻害性ペプチドはV1、V2、V3、V4またはV5に由来することができる。阻害性ペプチドはまた、保存性領域C1(C1a、C1b)、C3、C4またはC5に由来することもできる。1または2以上のこれらの領域と重複するペプチドもまた企図される。カーゴペプチドは様々なドメインに由来し、長さについて5〜30アミノ酸の長さの範囲にある。より好ましくは、PKCドメインに由来するペプチドは、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30残基の長さである。他の原型ペプチドの給源は、「プロテインキナーゼCのアイソザイム特異性アンタゴニスト」と標題された、US特許出願番号11/011,557に見出すことができ、そこでは活性化ペプチドを採取し、それを阻害性ペプチドに変換しており、その全てが本明細書に参照として組込まれる。
【0018】
1つの態様において、カーゴペプチドは、R−L−V−L−A−S(配列番号1)のアミノ酸配列、ペプチドのアミノもしくはカルボキシ末端または内部に位置するシステイン残基、およびカーゴペプチドに結合した担体ペプチドを含む、γPKCのγPKC阻害性ペプチド誘導体である。上記のカーゴペプチドはさらに、互いに連結し、最終的に担体ペプチドに連結する、1または2以上の付加的なカーゴペプチドを含むことができる。
【0019】
担体およびカーゴの両方への修飾は、効能、生物学的液体/組織中での安定性および化学的安定性の改善の目的で行われた。これらの変化は、γPKC阻害剤に、様々な臨床的適応における使用のための増強された特性を与える。
適用されるいくつかの修飾は以下を含む:
1.カーゴおよび/または担体ペプチドをキャップしてin vivoでのタンパク質分解を防止し、それにより効能および/または薬効の持続時間を増大する;
2.効能を改善するために親タンパク質の付加的な連続領域を組込んだ重複ペプチドを作製する;
3.化学的安定性および薬物製品の保存期間を改善するためにカーゴおよび担体を単一のペプチド鎖内に有するリニアペプチドを作製する;
4.プロテアーゼ抵抗性および効能を改善するために2またはそれ以上の活性ペプチドのコピーを有するマルチマーペプチドを作製する;
5.タンパク質分解を防止するためにペプチドのレトロ−インベルソアナログを作製する;および
6.改善された化学安定性を提供するためにジスルフィドアナログを導入する。
【0020】
本明細書に記載された修飾は、修飾されたγPKC阻害性ペプチドの効能、血漿安定性、および化学的安定性を改善する。γPKC阻害性ペプチドへの効果的な修飾は、原型γPKC阻害性ペプチドを選択し、それらのペプチドを痛みの治療のためのカーゴペプチドとして供するために修飾することによって同定される。原型ペプチドは、現在既知のペプチドであってもまだγPKC阻害性ペプチドとして同定されていないものであってもよい。あらゆる阻害性γPKCペプチドが開始カーゴ配列として用いることができるけれども、好ましい原型配列はR−L−V−L−A−S(配列番号1)であり、ここでペプチドは修飾されておらず、カーゴおよび担体ペプチドのアミノ末端に位置するCys残基を通じて担体に接合している。
【0021】
様々な修飾されたまたはアナログのペプチドが企図される。かかるアナログのいくつかは、原型配列と重複しおよびそれを超えて拡張したアミノ酸配列を含む。他のアナログペプチドは原型と比べて短縮されている。加えて、原型配列のアナログは、原型配列と比べて1または2以上のアミノ酸置換を有してもよく、ここでアミノ酸置換はアラニン残基またはアスパラギン酸残基である。かかるアラニンまたはアスパラギン酸を含むペプチドの体系的な作製は、「スキャニング」として知られている。このようなアナログおよび修飾された担体ペプチドを含むリニアペプチドの作製もさらに企図される。
【0022】
原型配列へのさらなる修飾は、カーゴペプチド(単数もしくは複数)、担体ペプチド(単数もしくは複数)またはこれらの両方の中の特定の分解部位を修飾することに向けられており、これらの部位を分解から遮断するアミノ酸置換または他の化学的修飾を導入することに向けられている。
以下の表は、本発明に原型配列として用いられる例示的なガンマPKC阻害性ペプチドの数々を列挙したものである。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
【表3】

【0026】
【表4】

【0027】
【表5】

【0028】
【表6】

【0029】
【表7】

【0030】
【表8】

【0031】
【表9】

【0032】
【表10】

【0033】
【表11】

【0034】
【表12】

【0035】
【表13】

【0036】
【表14】

【0037】
【表15】

【0038】
【表16】

【0039】
【表17】

【0040】
さらなる変異体:
・ホモシステインとメルカプト酸[プロピオン酸、酢酸、酪酸]との全ての順列組み合わせは適用可能である。
・ホモシステインカーゴとあらゆるメルカプト酸[プロピオン酸、酢酸、酪酸]担体およびその逆。
・全ての場合においてホモシステインはN末端であってもC末端であってもよい。
・メルカプト酸[プロピオン酸、酢酸、酪酸]はN末端のみであり得る。
・上記全ての表中の担体は、アンテナペディア、ポリアルギニンまたは他の担体に置き換え可能である。
【0041】
以下により十分に論じるように、γPKC阻害性ペプチドは、担体ペプチドなどの担体部位と化学的に結合しているのが好ましい。1つの態様において、阻害性ペプチドおよび担体ペプチドはジスルフィド結合を介して結合している。静電気的および疎水的相互作用もまた、担体部位とγPKC阻害性ペプチドを化学的に結合するのに利用できる。ジスルフィド結合を形成する場合、PKC阻害性ペプチド配列または担体ペプチド配列にCys残基を付加することは有利であり得る。Cys残基はアミノまたはカルボキシ末端またはその両方に付加可能である。Cys残基はまた、カーゴまたは担体ペプチドのアミノ酸配列中に位置することもできる。かかる内在性Cys残基は、担体およびカーゴペプチドの間のジスルフィド結合を安定化することを示す。
【0042】
担体部位
細胞内取り込みを目的とした様々な分子(特にペプチドなどの巨大分子)は、細胞膜を横切って輸送されにくいことが見出されている。細胞内取り込みを促進するために提案された解決方法のうちには、カチオン(すなわち正に荷電した)ポリマー、ペプチドおよび抗体配列などの担体部位を利用するものがあり、ポリリジン、ポリアルギニン、アンテナペディア由来ペプチドおよびHIV−Tat由来ペプチドなどを含む(例えば、US特許公開第4,847,240号、第5,888,762号、第5,747,641号、第6,593,292号、US2003/0104622号公報、US2003/0199477号公報およびUS2003/0206900号公報を参照)。
【0043】
使用方法および処方
本明細書に記載された修飾ペプチドは、痛みを予防および処置するのに有用である。この議論の目的のため、痛みおよびその治療を、異なるクラスに分類する:急性、慢性、神経性および炎症性の痛みの処置。本明細書に記載された修飾γPKC阻害性ペプチドは、急性、慢性、神経性および炎症性の痛みの治療に有用である。
【0044】
興味深いことに、本明細書で開示された化合物はまた、複数の刺激による神経性の痛みの進行を弱めるまたは予防するのにも有用である。本開示は、予防的に、痛みを誘導する刺激と同時に、または痛みを誘導する刺激を受け取った後のどちらかに、本明細書中に記載されたγPKC阻害性ペプチドを投与することは、慢性の炎症性または神経性の痛みの病態の進行を弱めるまたは予防するのに効果的であることを企図している。
【0045】
カーゴ/担体ペプチド構築物は、組み立てられ、原型と比較して増大した安定性、効能、またはその両方について試験さた後で、構築物は、痛み誘導性のイベントに先立って、その間に、またはその間を通じて継続的に患者に投与するために薬剤的に許容できる形態に組込まれる。
【0046】
「薬剤的に許容できる形態」は、所望の結果を与え、患者に対する潜在的な害がその患者に対する潜在的な利益よりも大きいと医者に納得させるのに十分なほどの有害な副作用をもたらさない様式で、修飾されたγPKC阻害剤を投与するのに適したものを含む。修飾されたγPKC阻害剤とともに用いるために好適な薬剤的に許容できる形態の構成成分は、投与の経路および方法によって部分的に決定される。形態は一般的に、糖、アミノ酸または電解質などの単純な化学物質を典型的に含む薬剤的に許容できる担体に併合された1または2以上の修飾されたγPKC阻害性ペプチドを含む。
【0047】
例示的な溶液は、典型的には、生理食塩水または緩衝液により調製される。薬剤的に許容できる担体は、当業者によく知られた賦形剤を含んでもよく、様々な形態で用いられてもよい。例えばRemington's Pharmaceutical Sciences、第18版、A. R. Gennaro編、Mack Publishing Company (1990);Remington: The Science and Practice of Pharmacy、第20版、A. R. Gennaro編、Lippincott Williams & Wilkins (2000);Handbook of Pharmaceutical Excipients、第3版、A. H. Kibbe編、American Pharmaceutical Association, and Pharmaceutical Press (2000);およびHandbook of Pharmaceutical Additives、Michael and Irene Ash編集、Gower (1995)参照。
【0048】
形態中の阻害剤投与量は、カーゴ/担体構築物の安定性および効能、投与経路、および所望の投与レジメンによって影響される様々なパラメータにしたがって変化する。体重当たり1μg/kg〜100mg/kg、好ましくは1μg/kg〜1mg/kg、もっとも好ましくは10μg/kg〜1mg/kgの範囲の一日の投与量が企図される。
【0049】
修飾されたγPKC阻害剤は、局所的投与または全身投与することができる。局所投与は、局所性投与、皮内投与、髄腔内投与、腹腔内投与、または皮下注射によって達成される。修飾されたγPKC阻害剤の全身投与は、好ましくは非経口であるが、経口、口腔、および経鼻投与もまた企図される。非経口投与は一般的に、皮下、筋肉内、腹腔内および静脈内のいずれかの注射によって特徴付けられる。修飾された阻害性ペプチドの注射可能な形態は、液体の溶液または懸濁液、注射前に液体中で溶液または懸濁液に再構築するのに適した固体(例えば乾燥または凍結乾燥された)形態として、または乳液としてのいずれかの従来の形態で調製できる。
【0050】
一般的に、好適な賦形剤は、例えば、水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなどを含む。加えて、例えば酢酸ナトリウム、モノラウリン酸ソルビタン、オレイン酸トリエタノールアミン、シクロデキストリンなどを含む、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝化剤、溶解性増強剤(solubility enhancer)、等張剤(tonicifier)など、少量の非毒性補助物質も使用することができる。
【0051】
修飾されたγPKC阻害性ペプチドは必要に応じて痛みを治療するために投与できる。予防のために、修飾されたγPKC化合物を痛み誘導イベントに先立って投与してもよい。例えば、ペプチドを、予測される痛み誘導イベントの5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55分、1時間、数時間、1日、数日、1週間または数週間前に投与できる。より長い期間の予防的投与であっても、in vivoで特に安定した修飾されたペプチドを用いて、または例えば髄腔内ポンプによる送達など、ペプチドの徐放性形態を用いることによって、達成することができる。
【実施例】
【0052】
以下の例は、上記の発明の使用の様式をより十分に記載するために、および本発明の様々な側面を実行するために企図される最良の形態を説明するために供されるものである。これらの例は本発明の真の範囲を制限するために供されるものではなく、むしろ説明を目的とするものであると解される。本明細書において参照される全ての参考文献は、その全体が参照として組込まれる。
【0053】
例1
γPKC阻害剤の投与は膜結合性酵素を減少させる
オスのHoltzmanラット(Harlan, Indianapolis, IN)を以下に論じる研究に用いた。実験を通して、動物の不快感を最小化するため、および使用する動物の数を減らすための努力が行われた。全てのラット(神経切断時200〜250g)を、12時間の明/暗サイクル(午前7時点灯)中で、食事および水をいつでも利用可能にして、飼育した。
【0054】
L5脊髄神経切断を研究動物に実施した。ラットをO担体中のハロタン(導入4%、維持2%)で麻酔した。L5〜S1上にある皮膚に小さな切り込みを入れ、続いて椎骨横突起からの傍脊椎筋系の退縮を行った。L6横突起を一部除去してL4およびL5脊髄神経を露出した。L5脊髄神経を同定し、わずかに持ち上げ、切断した。傷を生理食塩水で洗浄し、3−0ポリエステル縫合糸(筋膜面)およびサージカルスキンステープル(surgical skin staple)で二重に閉じた。
【0055】
ウェスタンブロット分析を、切断後7日の動物から採取した腰部脊髄サンプルで行った。動物を、10、100、1000pmolで阻害剤を供給する皮下ポンプを用いて投与されるγPKC阻害剤で処置した。
図1に示されるように、増大した量の阻害剤により、膜調製物中の検出可能なγPKCの量が減少する結果となった。試験した細胞質サンプルにおいて、増大したレベルの酵素が検出された。これらの結果は、γPKC阻害性ペプチドの皮下投与はγPKC酵素の転移を誘導するのに効果的であったことを実証する。
【0056】
例2
修飾されたγPKC阻害性ペプチドによる末梢神経損傷誘導性機械的アロディニアの予防
全身性予防パラダイムを用いて、皮下注入ポンプの移植によって、修飾されたγPKC阻害性ペプチド治療を手術直前に開始した。注入は7日間続けられた。
【0057】
Sweitzer et al., (1999) Brain Res 829: 209-221に前述されているように、全ての動物を2−および12−gフォンフレイフィラメント(Stoelting, Wood Dale, IL)を用いて、同側後足蹠上で、機械的アロディニアの試験を行った。動物を試験手順に慣れさせた。3回の基準計測を、手術の日より前に行った。ラットに、鋭敏化を避けるために各刺激セットの間を少なくとも10分あけて、それぞれのフィラメントで3セットの10回刺激を与えた。アロディニアを、この通常は不快でない刺激に対する意図的な足の引っ込めとして特徴付けた。結果は、2−または12−gフォンフレイフィラメントのどちらかによる30回の刺激からの足引っ込めの平均回数として報告されている。
【0058】
皮下注入ポンプ設置による交差研究(n=8/処置)もまた行われた。1つの動物グループを、痛み予防パラダイムによって処置した。ここで、処置はL5脊髄神経切断によって開始し、切断後7日間続けられた。切断後7日目にPKC阻害剤処置を終了し、動物を14日目まで飼育した。既存の痛みパラダイム中にある第2の動物グループに、皮下ポンプを切断後7日目に与え、14日目まで続けた。
【0059】
図2、3および4(交差研究)に示されているように、10および100pmolのγPKC阻害性ペプチドの投与は、2および12グラムフォンフレイフィラメントに対する機械的アロディニア応答を減じるのに効果的であった。興味深いことに、より高い投与量であっても抗アロディニア的ではなかった。この結果は、本研究のガンマ阻害剤の濃度はεPKC阻害剤を用いたものより10倍高いけれども、εPKCイプシロン阻害剤を用いた研究によってもたらされた結果と類似する。
【0060】
例3
修飾されたγPKC阻害性ペプチドによる温熱性痛覚過敏の軽減
放射熱源を、アクリル試験チャンバー(4”×8”×4”)中で飼育する自由に動ける動物の足蹠の底面に照準し、温熱性痛覚過敏に対する修飾されたγPKC阻害性ペプチドの影響の評価のために足引っ込め待ち時間を計測した。未処理の動物において〜10秒の足引っ込め待ち時間を提供するのに求められるランプ強度を決定するため、パイロット実験を行った。組織損傷が発生しないことを保証するため、製造業者の仕様書にしたがって、全ての試験は30秒で中断した。炎症性刺激の前に、各動物の両足蹠を基準感度について試験した。各試験は同一の足蹠について3つの計測からなり、各決定の間隔は最低5分であった。足引っ込め閾値はこれら3つの決定の平均値であった。
【0061】
図5および6に示されているように、γPKC阻害性ペプチドの投与は、7日目まで効果的な抗痛覚過敏症剤であった。図6のデータは、例1に記載されたように行われた交差研究の結果を示す。
【0062】
例4
修飾されたγPKC阻害性ペプチドを用いた皮下チャレンジ(Subcutaneous Challenge)
修飾されたγPKC阻害性ペプチドの皮下投与の有効性を評価するための研究。例2に記載された方法にしたがって動物を準備した。1つの動物群に、チャレンジに先立ってγPKC阻害性ペプチドを切断後1〜7日目に投与した。第2の群に、チャレンジに先立ってγPKC阻害性ペプチドを切断後7〜14日目に投与した。第3の群に、阻害性ペプチドの事前投与無しにチャレンジした。3つの群全てにおいて、動物は100pmolの阻害性ペプチドまたはビヒクルの皮下チャレンジを受け、それは切断後14日目に投与された。
【0063】
次いで、足引っ込め待ち時間を計測した。第1、第2および第3の群からのデータは図7、8および9にそれぞれ示されている。これらの研究からの結果の多数は特に興味深い。第1に、事前の阻害性ペプチド投与にかかわらず、阻害性ペプチドを受けた全ての群において足引っ込め待ち時間が基準よりも上昇した状態が100分以上保たれた。第2に、ペプチドによる事前処置を受けていない動物であっても、ビヒクルコントロールと比較して足引っ込め待ち時間の顕著な増大を見せた。第3に、皮下投与された阻害性ペプチドの保護効果は全身性であり、すなわち、四足蹠全てに適用され、局所的ではなかった。
【0064】
本発明の精神および範囲から解離することなく本発明に関連する代替的な態様は、当業者には明らかである。したがって、本発明の範囲は前述の記載よりもむしろ添付の請求の範囲によって定義される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガンマプロテインキナーゼC(γPKC)阻害性ペプチド組成物であって、細胞内担体ペプチドと共有結合したγPKCを含み、該細胞内担体ペプチド、該阻害性ペプチドまたはその両方が、N末端において修飾されている、前記組成物。
【請求項2】
PKC阻害性ペプチドが、細胞内担体ペプチドに、ジスルフィド結合によって結合している、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
細胞内担体ペプチドが、YGRKKRRQRRR(配列番号26)を含む修飾されたtatペプチドである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
細胞内担体ペプチドが、CYGRKKRRQRRR(配列番号4)を含む修飾されたtatペプチドである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
修飾されたtatペプチドが、そのN末端において、アシル、アルキルまたはスルホニル基によって修飾されている、請求項3または4に記載の組成物。
【請求項6】
修飾されたtatペプチドが、そのN末端において、アシル化されている、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
tatペプチドが、さらにそのC末端において修飾されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
阻害性ペプチドが、R−L−V−L−A−Sのアミノ酸配列および末端のCysを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
末端のCysが、阻害性ペプチドのC末端に位置する、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
阻害性ペプチドが、R−L−V−L−A−S−G−Gのアミノ酸配列および末端のCysを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
末端のCysが、阻害性ペプチドのC末端に位置する、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
tatペプチドが、そのC末端において、アミド形成によってさらに修飾されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
PKC阻害性ペプチドが、修飾されたtatペプチドのアミノ酸の側鎖と共有結合している、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
PKC阻害性ペプチドが、システイン、グルタミン酸、アスパラギン酸、セリン、スレオニン、リジン、チロシンおよびグルタミンから選択される残基の側鎖と共有結合している、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
PKC阻害性ペプチドが、N末端システイン残基の側鎖と共有結合している、請求項13に記載の組成物。
【請求項16】
tatペプチドのN末端システインが、アシル化されている、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
tatペプチドのC末端アルギニンが、第一級カルボキサミドである、請求項15に記載の組成物。
【請求項18】
PKC阻害性ペプチドが、そのN末端におけるアシル化またはそのC末端におけるアミド化によって、あるいはN末端におけるアシル化およびC末端におけるアミド化の両方によって修飾されている、請求項15に記載の組成物。
【請求項19】
tatペプチドが、Ac−YGRKKRRQRRRC−NHである、請求項1に記載の組成物。
【請求項20】
PKC阻害性ペプチドが、tatペプチドと、tatペプチドのシステイン残基のスルフィドリル基を通して共有結合している、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
第2の膜輸送ペプチドをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項22】
直鎖の治療用ペプチドであって、担体ペプチドおよびγPKC阻害性カーゴペプチドを含み、該担体ペプチドおよび該カーゴペプチドが、ペプチド結合によって結合している、前記直鎖の治療用ペプチド。
【請求項23】
担体ペプチドおよびカーゴペプチドの間に位置するリンカーペプチドをさらに含み、該担体ペプチドおよび該カーゴペプチドが、リンカーペプチドとペプチド結合によって結合している、請求項22に記載の直鎖の治療用ペプチド。
【請求項24】
痛みを処置する方法であって、有効量の修飾されたガンマプロテインキナーゼC(γPKC)阻害性構築物を、痛みを患う対象に投与することを含み、該修飾γPKCペプチドが、原型配列と比較して、より安定であるか、より強力であるか、またはその両方である、前記方法。
【請求項25】
対象が患う痛みが、急性の痛み、慢性の痛み、神経性の痛み、および炎症性の痛みからなる群から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
増加した効力が、原型配列と比べて作用のより早い発現または活性のより長い持続に由来する、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
修飾されたγPKCが、対象が痛み刺激を受け取る前、受け取っている間、または受け取った後に対象に投与される、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
阻害性ペプチドが、痛み刺激の5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55分、一時間、数時間、一日、数日、一週間、または数週間前に投与される、請求項27に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−523598(P2010−523598A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−502350(P2010−502350)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【国際出願番号】PCT/US2008/059591
【国際公開番号】WO2008/124698
【国際公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(507337968)カイ・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】KAI PHARMACEUTICALS,INC.
【Fターム(参考)】