説明

瘢痕を抑制する方法

本発明は、ヒト等の瘢痕を抑制する抗瘢痕薬剤を使用して治療を行う新規な方法を提供するとともに、ヒト等の瘢痕の抑制に新たに使用できる抗瘢痕薬剤も提供する。第1の治療では、抗瘢痕薬剤が、創傷の縁の各センチメートル、または創傷が形成されようとしている部位の各センチメートルに、治療に効果的な第1の量で与えられる;さらに、それに引き続く治療では、抗瘢痕薬剤が、創傷の縁の各センチメートルに、治療に効果的なさらに多くの量を与える。治療は、8時間から48時間の間隔を空けてなされる。抗瘢痕薬剤は、TGF-β3ではないことが好ましい。抗瘢痕薬剤は、局部注射により投与することができる。また、ヒト等の創傷の治癒に関連する瘢痕を抑制するための適切な治療計画を選択するキットおよび方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、創傷の治癒により形成された瘢痕(scarring)を抑制する新規な方法を提供することに関する。また、本発明は、抗瘢痕薬剤(エージェント)(anti-scarring agent)の新規な使用;創傷の治癒に関連する瘢痕を抑制するための適切な治療計画を選択する新規な方法;および創傷の治癒に関連する瘢痕を抑制するために使用できるキット(kit)も提供する。抗瘢痕薬剤(エージェント)はTGF-β3ではないことが好ましい。
【背景技術】
【0002】
創傷の治癒に対する瘢痕反応は、全ての成長した哺乳類で共通している。瘢痕反応は、大部分の組織タイプで保存されるが、各々のケースにおいて、同じ結果、すなわち「瘢痕(scar)」と呼ばれる線維性組織(fibrotic tissue)の形成に繋がる。瘢痕とは、「身体の任意の組織の損傷または疾患の部位(site)に生じた線維性結合組織(fibrous connective tissue)」と定義することができる。
【0003】
創傷の治癒により生じた瘢痕の場合では、瘢痕は、修復反応の結果として生じた構造体(structure)を構成する。この修復プロセスは、負傷した動物が死亡することを防止しようとする生物学的本能に対する進化的な解決策として生じる。感染症(infection)または出血による死亡リスクを抑えるために、身体は、損傷組織を再生しようとするよりも、損傷した領域を直ちに修復するように反応する。損傷組織は、創傷の発生前と同じ組織構造には再生されないために、瘢痕は、非損傷組織と比較した場合のその異常な形態(morphology;モルホルジー)から識別することができる。
【0004】
巨視的に観察すれば、瘢痕は、組織の周辺の表面より下に押し下げられていることがあり、それらの周辺の損傷を受けていない表面より上に押し上げられていることもある。瘢痕は、正常の組織よりも相対的に暗い[色素沈着過剰(hyperpigmentation)]ことがあり、その周囲と比較して、青白い[色素沈着低下(hypopigmentation) ]こともある。皮膚の瘢痕の場合は、色素沈着過剰、または色素沈着低下の瘢痕は、いずれも、明白な美容的欠陥となり易い。また、瘢痕は、無傷の皮膚よりも赤くなることがあるために、目立つと共に美容的に受け入れ難いものとしても知られている。瘢痕の美容的外観は、瘢痕による心理的影響を患者に与える主な要因の1つであり、これらの影響は、瘢痕を引き起こした創傷が治癒した後であっても、引き続き長期間にわたることが示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
瘢痕は、その心理的な影響に加えて、患者に有害となる身体的な影響も与えることがある。これらの影響は、通常、瘢痕と正常の組織との間の物理的な相違から生じる。瘢痕に含まれる異常な構造および組成(composition)は、通常、それに対応する正常の組織よりも、柔軟性が乏しいという特徴がある。結果として、瘢痕は、正常な機能を障害する原因となることがあり(瘢痕が関節を覆うことで可動域を制限する場合のように)、さらに、若年者の場合には、正常な成長を阻害することがある。
【0006】
瘢痕に関連する不利益は当業者によく知られているにも関わらず、創傷の治癒に関連する瘢痕の抑制に使用することができる新規で改良された治療方法が求められ続けている。
【0007】
本発明の目的は、創傷の治癒により形成された瘢痕を抑制するための改良された方法を提供することにある。本発明の他の目的は、抗瘢痕薬剤(エージェント)の新規な使用を提供することにある。これらの抗瘢痕薬剤(エージェント)の新規な使用は、先行技術を代替
した使用から成り得るが、好ましくは、これらの先行技術を改善した使用から成るものである。本発明の別の目的は、創傷治癒に関連する瘢痕を抑制するための適切な治療計画を選択する新規な方法を提供することにある。本発明のさらなる目的は、創傷治癒に関連する瘢痕を抑制するために使用されるキットを提供することにある。これらのキットは、先行技術よりも瘢痕の抑制を高めた治療方法で使用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点によれば、創傷の治癒により形成される瘢痕を抑制する方法であって、瘢痕を抑制しようとする身体部位に対して以下の治療を行うことを含む方法が提供される:
第1の治療では、創傷の縁(margin)の各センチメートル(各センチメートル毎)に、または創傷が形成される部位の各センチメートルに、抗瘢痕薬剤(エージェント)の治療に効果的な第1の量を与え、;さらに、
第2の治療では、創傷の形成後で、第1の治療後8時間から48時間の間に前記創傷に対して治療に効果的な量の前記抗瘢痕薬剤(エージェント)を与え、この量が第1の治療で与えた抗瘢痕薬剤(エージェント)の治療に効果的な量よりも多い方法。
【0009】
本発明の第2の観点によれば、創傷の治癒により形成される瘢痕を抑制する方法であって、瘢痕を抑制しようとする身体部位に対して以下の治療を行うことを含む方法が提供される:
第1の治療では、創傷が形成されようとしている部位の各センチメートルに対して、抗瘢痕薬剤(エージェント)の治療に効果的な第1の量を与え;さらに、
第2の治療では、創傷の形成後で、第1の治療後8時間から48時間の間に、前記創傷に対して治療に効果的な量の前記抗瘢痕薬剤(エージェント)を与え、この量が第1の治療で与えられた抗瘢痕薬剤(エージェント)の治療に効果的な量よりも多い方法。
【0010】
本発明の第3の観点によれば、創傷の治癒により形成される瘢痕を抑制する方法であって、瘢痕を抑制しようとする身体部位に対して以下の治療を行うことを含む方法が提供される:
第1の治療では、創傷の縁の各センチメートルまたは将来的な創傷の縁の各センチメートルに対して、抗瘢痕薬剤(エージェント)の治療に効果的な第1の量を与え;さらに、
第2の治療では、創傷の形成後で、第1の治療後8時間から48時間の間に、前記創傷に対して治療に効果的な量の前記抗瘢痕薬剤(エージェント)を与え、この量が第1の治療で与えられた抗瘢痕薬剤(エージェント)の治療に効果的な量よりも多い方法。
【0011】
本発明は、創傷治癒で生じ得る瘢痕が、少なくとも2回の治療から成る治療計画[瘢痕を軽減しようとする部位が、第2の(さらにそれに引き続く)治療における治療に効果的な量(第1の治療よりも多い量)の抗瘢痕薬剤(エージェント)により治療される]を適用することにより、驚くほど効果的に抑制されるという本発明者らの発見に基づくものである。第1の治療は、創傷または創傷閉鎖の周辺に対して実施され、さらに、それに引き続く治療が、その前の治療後8時間から48時間の間に実施される。これらの治療計画は、本発明により初めて実施されるものであり、広く利用されている公知の治療方法よりも瘢痕を軽減させる。
【0012】
本明細中に記述している薬剤、方法、またはキットを含む本発明の実施には、いずれもTGF-β3以外の抗瘢痕薬剤(エージェント)を利用することが好ましい。本発明の実施には、抗瘢痕薬剤(エージェント)として、インターロイキン-10 (IL-10)、またはその断片(フラグメント)もしくはその誘導体を利用することが好ましい。
【0013】
特定の仮説に束縛されるものではないが、本発明者らは、創傷のある細胞または創傷が
形成されようとしている部位が、第1の治療で投与される治療に効果的な量の抗瘢痕薬剤(エージェント)に接触することにより、創傷治癒における相対的に早期の段階で、瘢痕反応を軽減できると考えている。第2の(さらにそれに引き続く)治療で投与される抗瘢痕薬剤(エージェント)は、生物学的プロセスである前瘢痕(pro-scarring)「カスケード」(創傷部位で生じ得る)を抑える。そのようなカスケードは、通常は自己増幅するものであり、自らの誘導または瘢痕を誘導するさらなる要因を引き起こすことができる様々な前線維性要因(pro-fibrotic factors)を伴う。第2の治療においてより多くの服用量の抗瘢痕薬剤(エージェント)を使用することで、このような増幅が阻害されると考えられ、それにより瘢痕が抑制されるが、これは公知の方法を使用して達成するよりも効果的である。本発明者らの発見によれば、以下の実験結果に関するセクションでも述べているが、本発明に係る抗瘢痕薬剤(エージェント)(例えば、IL-10)の使用により、治療した創傷に存在する炎症細胞の数および/または割合を低減できることが示される。炎症細胞は、そのような「カスケード」に寄与し得る要因を作り出すことに関与することも多いため、このようにして、本発明の薬剤、方法およびキットがその効果を達成するのであろう。
【0014】
留意すべきことは、このような治療様式は、これまでに提案されていないということであり、これは以下に述べる従来技術の知見に因るものであろう。しかしながら、本発明者らは、この新規なアプローチが瘢痕抑制に驚くほど有益な効果を発揮し、この効果が、現在まで知られている他の抗瘢痕治療計画を使用して達成される効果よりも際立って大きいことを見出した。
【0015】
本発明の根底をなしている発見は、かなり驚くべきものである。先ず、達成される抗瘢痕結果が特に効果的であるということである。さらに、そのことのみならず、公知技術からは、投与量を増量させた抗瘢痕薬剤(エージェント)を使用するこの治療計画は、より投与量の少ない公知の治療計画のように有益ではないと当業者に想到させることである。
【0016】
従来から、当業者の間では、抗瘢痕反応(抗瘢痕薬剤(エージェント)に対する反応で顕在化する)は、「ベルシェープ型(bell shaped)」の用量作用曲線(dose response curve)の形として表されるものと理解されている。これは、公知の抗瘢痕薬剤(エージェント)TGF-β3の単一服用量を変化させて投与することで確認される反応により例証される。TGF-β3の用量作用曲線の上限または下限となる投与量は、該用量作用の中間点となる投与量ほど効き目はない。これらの明らかとなっている事項に基づいて、TGF-β3の治療に効果的な量として好ましいのは、瘢痕を抑制しようとする部位のセンチメートルあたりの単一服用量として、約200ngであることが確認された。より少ない服用量(約100ng)またはより多い服用量(例えば、500ng)を用いた単一投与は、200ngの場合ほど瘢痕を効果的に軽減させることができなかった。本発明者らおよび他の研究者による研究では、服用量が200ngのTGF-β3は、創傷形成前に投与すること、または創傷形成後の創傷の縁に投与することにより、効き目があることが示されている。ベルシェープ型の用量作用曲線を生み出すこの反応パターンは、多くの抗瘢痕薬剤(エージェント)、特に、抗瘢痕活性を有する他の生体分子(例えば、成長因子(growth factors)、成長因子中和剤(growth factor neutralising agents)、受容体リガンド等)で観察される。
【0017】
薬剤(エージェント)(例えば、TGF-β3)の抗瘢痕効果に対する研究により、使用にあたっての最適な服用量(例えば、TGF-β3の場合では200ng)を確認することができたので、さらなる研究として、軽減しようとする瘢痕がある部位に対して、この服用量を繰り返し投与することにより、何らかの利点が得られるかどうかを検討した。これらの結果で示されたことは、多くの抗瘢痕薬剤(エージェント)(例えば、TGF-β3)を創傷に対して繰り返し投与することが、観測された抗瘢痕効果の点からは、概して何も利点が無かったということであった。
【0018】
用量作用曲線から、創傷に投与(単一服用量治療計画で)される抗瘢痕薬剤(エージェント)(例えば、TGF-β3)の服用量を増加すると治療効果を低下させることが示されていることを考え合わせると、治療計画の一部として抗瘢痕薬剤(エージェント)の服用量を段階的に増大させるという提案は、逆効果につながるものと考えられる。実施された実験(本発明者らや他のグループによる)に基づけば、複数回の治療を用いることは単一治療計画ほど効果が無く、より複雑で費用が掛かるだけのものと考えられる。さらに、創傷に投与される抗瘢痕薬剤(エージェント)の量を経時的に増やすことから成る計画は、実質的に治療効果を低くしてしまうと考えられる。なぜなら、それは、投与される抗瘢痕薬剤(エージェント)の量を上記ベルシェープ型の上部領域(服用量の増加が実質的に抗瘢痕効果を低下させる領域)へと上昇させることになるからである。
【0019】
上記の点から、本明細書で述べるような治療(繰り返し治療を利用し、瘢痕を抑制しようとする身体部位に投与する抗瘢痕薬剤(エージェント)の量を第1の治療と第2の治療の間で増加させる治療)を当業者が想到することはあり得ないと理解される。すなわち、本明細書で開示されている発見は、創傷の瘢痕を臨床的に抑制するのに適用される治療の範囲に驚異的で有用な拡大をもたらす。
【0020】
本発明に係る治療方法は、少なくとも2回の治療(互いに8時間から48時間の間隔を空けてなされる)が必要であり、第1の治療後8時間から48時間で第2の治療もしくはそれ以上の治療を完遂できないような患者に使用することは適切ではない。このことは、本発明のさらなる特徴を生じさせており、本発明に従えば、創傷治癒に関連する瘢痕を抑制するための適切な治療計画を選択する方法であって、以下のことを含む方法が提供される:
当該瘢痕の抑制を必要とする個体が、第1の治療後8時間から48時間で第2の治療を完遂できるかを決定し;さらに
該個体が第1の治療後8時間から48時間で第2の治療を完遂できる場合には、既述の本発明の第1の3つの観点のいずれかに従う治療方法から成る治療計画を選択し、または、
該個体が第1の治療後8時間から48時間で第2の治療を完遂できない場合には、以下から成る治療計画を選択し:
単一の治療で、抑制しようとする瘢痕が含まれる創傷の縁の各センチメートル、または創傷が形成されようとしている部位の各センチメートルに対して、単一の治療で与えられる場合の治療に効果的な量の抗瘢痕薬剤(エージェント)を与える。
【0021】
抗瘢痕薬剤(エージェント)の治療に効果的な量(単一治療から成る治療計画で使用されるもの)は、当業者にとっては明らかなことである。例示のみを目的とするが、多くの格別に興味深い抗瘢痕薬剤(エージェント)の治療に効果的な量に関しては、本明細書の別の箇所で述べている。
【0022】
本発明において、身体部位に与えられる抗瘢痕薬剤(エージェント)の量を、そのような部位のセンチメートルあたりに与えられる量に関して定義している(例えば、創傷が形成されようとしている部位のセンチメートルあたり、または、創傷の縁もしくは将来的な創傷の縁のセンチメートルあたり)。これらの記述では、そのような部位に投与される抗瘢痕薬剤(エージェント)の量を定義しているが、それらは、この量を投与する方法を限定するものではない。特に、それらの記述は、抗瘢痕薬剤(エージェント)を治療しようとする部位の各センチメートルへの投与を要求するものと解すべきではない(これは好ましい態様となり得るが)。特定量の抗瘢痕薬剤(エージェント)を、瘢痕を抑制しようとする部位に与えることができれば、抗瘢痕薬剤(エージェント)の必要量は、当該部位に何度かの投与により与えられることができる。
【0023】
本発明のさらなる観点では、創傷、または創傷が形成されようとしている部位を治療して瘢痕を抑制する薬剤として使用される抗瘢痕薬剤(エージェント)であって、第1の治療では、該薬剤を投与することで、該抗瘢痕薬剤(エージェント)の治療に効果的な第1の量が、創傷の縁の各センチメートル、または創傷が形成されようとしている部位の各センチメートルに与えられ;さらに、それに引き続く治療では、該薬剤を投与することで、該抗瘢痕薬剤(エージェント)の治療に効果的なさらに多くの量が、創傷の縁の各センチメートルに対してその前の治療後8時間から48時間の間に与えられる抗瘢痕薬剤(エージェント)が提供される。
【0024】
本発明の他の観点では、創傷、または創傷が形成されようとしている部位を治療して瘢痕を抑制する薬剤として使用される抗瘢痕薬剤(エージェント)であって、第1の治療では、該薬剤が提供されることで、該抗瘢痕薬剤(エージェント)の治療に効果的な第1の量が、創傷の縁の各センチメートル、または創傷が形成されようとしている部位の各センチメートルに与えられ;さらに、それに引き続く治療では、該薬剤を投与することで、該抗瘢痕薬剤(エージェント)の治療に効果的なさらに多くの量が、創傷の縁の各センチメートルに対してその前の治療後8時間から48時間の間に与えられる抗瘢痕薬剤(エージェント)が提供される。
【0025】
本発明のさらに別の観点では、創傷、または創傷が形成されようとしている部位を治療して瘢痕を抑制する薬剤として使用されるインターロイキン-10 (IL-10)、または治療に効果的なその断片(フラグメント)もしくはその誘導体であって、第1の治療では、該薬剤が投与されることで、インターロイキン-10 (IL-10)、または治療に効果的なその断片(フラグメント)もしくはその誘導体の治療に効果的な量が、創傷の縁の各センチメートル、または創傷が形成されようとしている部位の各センチメートルに与えられ;さらに、それに引き続く治療では、該薬剤が投与されることで、インターロイキン-10 (IL-10)、または治療に効果的なその断片(フラグメント)もしくはその誘導体の治療に効果的なさらに多くの量が、創傷の縁の各センチメートルに対してその前の治療後8時間から48時間の間に与えられるインターロイキン-10 (IL-10)、または治療に効果的なその断片(フラグメント)もしくはその誘導体が提供される。
【0026】
IL-10、または治療に効果的なその断片(フラグメント)もしくはその誘導体の使用が望まれる場合には、第1の治療に効果的な量は、人体のセンチメートルあたり約1ngから1000ngのIL-10[または治療に効果的なその断片(フラグメント)もしくはその誘導体]である。第1の治療では、治療に効果的な量である1ngから100ng、約2ngから50ng、または5ngから25ngをセンチメートルあたりに利用することが好適である。第2の治療で与えられる治療に効果的な服用量は、これに準じて決定することができ、これは本明細書の他の箇所で与えている指針に関連する(例えば、第1の治療に効果的な量の2、3、4、5、10、20倍またはそれ以上)。
【0027】
本発明の薬剤は、水を加えて元に戻せる(再構成可能な)薬剤とすることができる [例えば、凍結乾燥化注射可能組成物(lyophilised injectable composition)]。
また、本発明は、創傷、または創傷が形成されようとしている部位を治療して瘢痕を抑制する薬剤として使用される抗瘢痕薬剤(エージェント)の使用であって、第1の治療では、該薬剤を投与することで、該抗瘢痕薬剤(エージェント)の治療に効果的な第1の量が、創傷の縁の各センチメートル、または創傷が形成されようとしている部位の各センチメートルに与えられ;さらに、それに引き続く治療では、該薬剤を投与することで、該抗瘢痕薬剤(エージェント)の治療に効果的なさらに多くの量が、創傷の縁の各センチメートルに対してその前の治療後8時間から48時間の間に与えられる抗瘢痕薬剤(エージェント)の使用も提供される。
抗瘢痕薬剤(エージェント)が、本発明のこの観点に従って使用される場合には、該薬剤
は、注射可能薬剤、特に皮内注射(intradermal injection)用であることが好ましい。
【0028】
本発明のいずれかの観点で使用するために調合(formulated)された薬剤は、抗瘢痕薬剤(エージェント)の必要量が、薬剤の100μl容積で与えられることが好適である。
さらに、本発明者らは、本発明の方法を実施する手段(本発明に従い製剤される薬剤を含む)として、創傷治癒に関連する瘢痕を抑制するために使用されるキットという形態で有用に提供することができるということを発見した;当該キットは、創傷、または創傷が形成されようとしている部位に、8時間から48時間の間隔を空けて別々に投与される抗瘢痕薬剤(エージェント)から成る少なくとも第1および第2のバイアル(vial)を含むものである。
【0029】
本発明のさらなる観点では、創傷治癒に関連する瘢痕を抑制するために使用されるキットであって、以下を含むキットが提供される:すなわち、
抗瘢痕薬剤(エージェント)を含有する第1の量から成る組成物であって、当該量は、創傷、または創傷が形成されようとしている部位に対して、第1の治療で投与されるようになっている組成物;
抗瘢痕薬剤(エージェント)を含有する組成物の第2の量から成る組成物であって、当該量は、創傷に対して、第2の治療で投与されるようになっている組成物;
該組成物の第1および第2の量の投与について、互いに8時間から48時間の間隔を空けるとともに、第2の治療で創傷に投与される抗瘢痕薬剤(エージェント)の治療に効果的な服用量が、第1の治療で投与されたものよりも多いことに関する使用説明書。
【0030】
そのようなキットで与えられる組成物は、使用前に水を加えて元に戻す(再構成する)のに適する形態で与えることができる [例えば、凍結乾燥化注射可能組成物(lyophilised injectable composition)]。
【0031】
組成物の第1および第2の量は、各々異なる第1および第2の組成物から成り、該第2の組成物が、該第1の組成物よりも濃度が高いことが好ましい。このような場合の使用説明書には、例えば、実質的に同量である第1および第2の組成物を、第1および第2の治療で部位に投与すべきことを教示する。例示のみを目的とするが、第2の組成物は、抗瘢痕薬剤(エージェント)から成り、その濃度は、第1の組成物の濃度よりも約10%、20%、30%、または40%高く;または、第1の組成物の濃度よりもさらに50%、60%、70%、80%、または90%高い。第2の組成物内の抗瘢痕薬剤(エージェント)の濃度は、第1の組成物で与えられる該薬剤(エージェント)の濃度よりも100%より高く成り得る。
【0032】
別の方法として、第1および第2の組成物には、実質的に同じ濃度の抗瘢痕薬剤(エージェント)が含まれ、その使用説明書には、第2の治療で投与される第2の組成物の量が、第1の治療で投与される第1の組成物の量よりも多くすべきことを教示する。
【0033】
本発明者らは、本発明がもたらし得る利点が、体中いずれの部位の創傷にあてはまり得ると考えている。しかしながら、創傷(それに関連する瘢痕が抑制対象となる)は、皮膚創傷であることが好ましい。説明目的として、本発明の態様は、全般的に皮膚創傷に関して述べているが、他の組織および器官に適用できることに変わりはない。例示のみであるが、他の好ましい態様において、創傷は、循環系(circulatory system)の創傷であること、特に血管の創傷[その場合の治療は再狭窄(restenosis)を抑制する] であることが好ましい。他の創傷(本発明に従い抑制し得る瘢痕が含まれる)としては、本明細書の他の箇所で述べているが、末梢神経系(peripheral nervous system)のものが挙げられる。創傷は、外科手術[例えば、待機的手術(elective surgery)]の結果となり得るもので、このことは、本発明の好ましい態様となる。
【0034】
本発明者らは、本明細書に記載した方法、使用およびキットが、ヒトまたは非ヒト動物を含むすべての動物[例えば、ペット、レース用動物(例えば、馬)、または農耕用動物]の瘢痕を抑制することに使用することができると考えている。瘢痕を抑制しようとする創傷は、人体のそれであることが好ましい。
【0035】
本発明の方法は、必要に応じて、第3の治療またはそれ以降を含む。このようなさらなる治療は、必要に応じて、患者の治療に責任を持つ臨床医(clinician)により瘢痕が望ましく抑制されたと判断されるまで継続することができる。各々の治療は、先行する治療後8時間から48時間の間になされるべきである。
【0036】
第3の治療またはそれ以降の治療の時期に関するさらなる指針は、第1および第2の治療に関する相対的な時期についての本明細書の記載から読み取ることができる。第3の治療(さらにはそれ以降の治療)で身体部位に与えられる選択された抗瘢痕薬剤(エージェント)の量は、第2の治療で与えられる量[さらには第2の治療後に効果的な「プラトー(plateaus)」を与える服用量]と実質的に同一とすることができる。あるいは別の方法として、第3の(あるいはそれに引き続く)治療で身体部位に与えられる抗瘢痕薬剤(エージェント)の量は、それに先行する治療で与えられる量よりも多くすることができる(すなわち、与えられた抗瘢痕薬剤(エージェント)の量を各治療毎に段階的に増量させる。)。
【0037】
本発明の治療方法を実用化できる多くの方法があるが、これらは当業者には明らかなことである。それらの好ましい態様は、以下に例示しているが、それらの例は限定的なものではない。これらの例は、本発明の最初の3つの観点の各々に当てはめることができる。
【0038】
1つの態様において、第1の治療および第2の治療(ならびに適当な場合は他の治療も)では、両方とも実質的に同じ濃度で与えられた抗瘢痕薬剤(エージェント)から成る組成物が使用される。この態様では、第2の治療で身体部位に投与される組成物の量は、第1の治療で投与される量よりも多くなり、この違いが、異なる治療間の服用量を増加させる。
【0039】
第1の治療および第2の治療(ならびに適切であればその後の治療も)では、異なる組成物が使用され、第2の治療で使用される組成物が、第1の治療で使用される組成物よりも濃度の高い抗瘢痕薬剤(エージェント)を含有することが好ましい。この場合には、抗瘢痕薬剤(エージェント)を含有する実質的に同じ量(体積)の組成物(または第2の治療においては量(体積)を少なくしてもよい)が、第1および第2の治療において該部位に投与することができるが、これは、治療間の服用量の増加が、組成物内の抗瘢痕薬剤(エージェント)の濃度が上昇する結果として引き起こされるためである。例示のみを目的とするが、第2の(およびさらなる)治療は、抗瘢痕薬剤(エージェント)から成る組成物を使用し、その濃度は、第1の組成物の濃度よりも約10%、20%、30%、または40%高く;または、第1の組成物の濃度よりもさらに50%、60%、70%、80%、または90%高い。第2の組成物内の抗瘢痕薬剤(エージェント)の濃度は、第1の組成物で与えられる該薬剤(エージェント)の濃度よりも100%より高くすることもある。
【0040】
第1の治療における身体部位(創傷が形成されようとしている部位、創傷の縁、または将来的な創傷の縁のいずれも)のセンチメートルあたりの治療に効果的な服用量は、使用する特定の抗瘢痕薬剤(エージェント)に関して選択することができる。治療に効果的な適切な量は、公知技術から導き出すことができ、特に関心のある様々な抗瘢痕薬剤(エージェント)については、例示的に本明細書の他の箇所で述べている。
【0041】
第2の治療でセンチメートルあたりに与えられる抗瘢痕薬剤(エージェント)の治療に効
果的な服用量は、第1の治療で与えられる治療に効果的な服用量よりも約10%、20%、30%、または40%多い。第2の治療で与えられる抗瘢痕薬剤(エージェント)の治療に効果的な量は、第1の治療で投与される治療に効果的な量よりも50%、60%、70%、80%、または90%多い。第2の治療で与えられる抗瘢痕薬剤(エージェント)の治療に効果的な量は、第1の治療で与えられる該薬剤(エージェント)の治療に効果的な量よりも100%より高くする場合もある。
【0042】
各々の治療で与えられる抗瘢痕薬剤(エージェント)の量は、本明細書では、センチメートルあたりに与えられる量に基づいて言及していることが多いが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の適当な測定単位により、創傷(または将来的な創傷)に適用される適切な服用量を定めることもできる。
【0043】
第1の治療は、創傷の形成前になされ、その場合に抗瘢痕薬剤(エージェント)は、創傷が形成されようとする部位に与えられることが好ましい。抗瘢痕薬剤(エージェント)を局部注射(local injection)により皮膚に投与する場合[例えば、皮内注射(intradermal injection)]には、抗瘢痕薬剤(エージェント)を含有する水薬(solution)を皮膚に注入した結果として、隆起した小疱(bleb)を引き起こし得る。1つの好ましい態様では、小疱は、創傷が形成されようとする部位で隆起し、実際に、該創傷は、小疱が増大することにより形成される。この場合には、第1の治療で与えられる抗瘢痕薬剤(エージェント)の量は、創傷が形成されようとする部位の長さに応じて決定することができる。
【0044】
これとは別に、創傷が形成されようとする部位のいずれか一方の側に、2つの小疱が隆起することがある。これらの小疱は、その位置が、創傷の縁が形成されようとする箇所の半センチメートル以内にあることが好ましい。この場合には、第1の治療で与えられる抗瘢痕薬剤(エージェント)の量は、形成されようとする創傷の長さ[将来的な創傷の縁をセンチメートル単位で測定したもの]に応じて決定することができる(詳細は以下)。
【0045】
創傷の形成前に抗瘢痕薬剤(エージェント)を部位に与える際に利用される小疱は、実質的に、創傷が形成されようとする部位の全長を覆っていることが好ましい。小疱が、創傷が形成されようとしている該部位の長さを超えて拡大していることがより好ましい。そのような小疱としては、形成されようとしている創傷の各々の末端部を超えて約半センチメートル(またはそれ以上)に拡大しているものが好適である。
【0046】
本発明のこれらの態様に従う皮内注射(intradermal injection)は、皮下注射針を用いて、形成されようとしている創傷の正中線(midline)に実質的に平行、または形成されようとしている創傷の縁の正中線(midline)に平行に投与することができる。注射部位は、抗瘢痕薬剤(エージェント)を与える領域の長さに沿って互いに約1センチメートル隔てる。
【0047】
別の態様として、第1の治療に、抗瘢痕薬剤(エージェント)を既存の創傷に与えることが含まれることが好ましいこともある。本発明者らは、抗瘢痕活性に関連する生物学的機構は、細胞が抗瘢痕薬剤(エージェント)に接触することが創傷形成の前後いずれであっても同じであると考えている。いずれの場合でも、必要な生物学的活性は、瘢痕が抑制される部位の細胞が、治療に効果的な量の抗瘢痕薬剤(エージェント)に接触されれば、創傷形成の前後いずれであっても達成し得る。
【0048】
抗瘢痕薬剤(エージェント)を既存の創傷に与える本発明の態様では、抗瘢痕薬剤(エージェント)の必要量は、創傷の長さ[創傷の縁をセンチメートル単位で測定したもの]について決めることができる(後述)。抗瘢痕薬剤(エージェント)は、各々の創傷の縁の全長にわたって与えられることが好ましく、さらに、創傷領域を超えて与えられることもある
。好ましい態様では、抗瘢痕薬剤(エージェント)が、創傷の縁の末端部を超えて半センチメートル(またはそれ以上)に拡大している長さに沿って与えられる。
【0049】
皮内注射は、抗瘢痕薬剤(エージェント)を既存の創傷に投与する好ましい経路にもなる。この態様に従い投与される皮内注射は、創傷の各々の縁に投与すべきである。注射の部位は、創傷の末端部の半センチメートル以内であることが好ましい。注射は、創傷の末端部に対して実質的に平行に挿入された皮下注射針(hypodermic needle)を用いて投与することができる。注射部位は、治療しようとする領域の長さに沿って互いに約1センチメートル隔てる。
【0050】
第1の治療で抗瘢痕薬剤(エージェント)を創傷に与えることに関する上記した考えは、第2の(またはさらなる)治療で抗瘢痕薬剤(エージェント)を与えることにもあてはまる。第2の治療は創傷形成後になされるため、通常、抗瘢痕薬剤(エージェント)を既存の創傷に与えることが含まれる。創傷が、開いているか、または閉じているかは、適用する創傷管理戦略(wound management strategy)に依存し得る。
【0051】
第1の治療が、抗瘢痕薬剤(エージェント)を、創傷が形成されようとする部位に与えることを伴う場合には、この投与が、創傷となる前の1時間以内になされることが好ましく、好ましくは、創傷となる前の30分以内になされることであり、さらに好ましくは、創傷となる前の15分以内になされることであり、最も好ましくは、創傷となる前の10分以内になされることである。
【0052】
第1の治療が、抗瘢痕薬剤(エージェント)を、既存の創傷に与えることを伴う場合には、この治療の投与時期は、創傷が形成されてからの経過時間に応じて選択することができる。この場合には、本発明の第1の治療は、創傷形成から2時間以内に開始することが好ましく、好ましくは、創傷形成から1時間半以内、より好ましくは、創傷形成から1時間以内、さらに一層好ましくは、創傷形成から30分以内、最も好ましくは、創傷形成から15分以内である。
【0053】
別の方法として、第1の治療の時期は、創傷が閉塞してからの経過時間に応じて選択することができる。この場合には、本発明の第1の治療は、創傷が完全に閉塞してから2時間以内に開始することが好ましく、好ましくは、創傷が完全に閉塞してから1時間半以内、より好ましくは、創傷が完全に閉塞してから1時間以内、さらに一層好ましくは、創傷が完全に閉塞してから30分以内、最も好ましくは、創傷が完全に閉塞してから15分以内である。創傷が臨床上の理由で完全には閉塞していない場合(例えば、創傷内の部位への接触を継続する必要がある場合)には、処置の一部が完了して創傷が充分に閉塞したとき、創傷の閉塞は完成したとみなすことができる。
【0054】
創傷が閉塞してからの経過時間に応じて第1の治療の時期を選択することは、長引く外科的処置の場合、すなわち、創傷を長時間、開いた状態に維持して、手術部位に接触しなければならない場合に、特に妥当性がある。
【0055】
治療間の経過時間は、8時間から48時間である。より好ましくは、この経過時間は、少なくとも10時間であり、さらに好ましくは、少なくとも12時間であり、より一層好ましくは、少なくとも14時間であり、さらに一層好ましくは、少なくとも16時間であり、より一層好ましくは、少なくとも18時間であり、より好ましくは、少なくとも20時間であり、さらにより好ましくは、少なくとも22時間であり、最も好ましくは、約24時間である。
【0056】
治療間の経過時間は、最長48時間であるが、好ましくは、最長44時間であり、より
好ましくは、最長40時間であり、さらにより好ましくは、最長36時間であり、より一層好ましくは、最長32時間であり、さらにより好ましくは、最長28時間であり、最も好ましくは、約24時間である。
【0057】
本発明の方法を実施する際には、瘢痕を抑制しようとする領域の細胞は、治療に効果的な量の抗瘢痕薬剤(エージェント)から成る薬学的に許容される水薬に「浸される(bathed)」べきである。これにより、細胞が、瘢痕を抑制するのに十分な抗瘢痕薬剤(エージェント)に接触する局所的な環境が作られる。瘢痕形成に関わる細胞には、治療に効果的な量の選択された抗瘢痕薬剤(エージェント)が与えられるが、これには、薬剤が創傷の縁(または将来的な創傷の縁)に注射により投与される(その手法は図16のパネルBに示される)か、または創傷が形成されようとしている部位(例えば、創傷となる部位を覆う隆起した小疱)に直接注射される(その手法は図16のパネルAに示される)かのいずれであってもよい。これらの投与経路のいずれであっても、細胞の周辺領域において、選択された薬剤(エージェント)の抗瘢痕濃度を確立することができる。
【0058】
第1の治療が、創傷が形成されようとする部位への直接注射を使用する場合には、抗瘢痕薬剤(エージェント)の必要量は、単一注射(または一連の「単一(single)」注射)による投与を将来的な創傷の直線に沿って行い、創傷が形成されようとする領域を覆うように(その手法は図16のパネルAに示される)細胞周辺に確立される。
【0059】
第1の治療が創傷の各々の縁への「1対の(paired)」注射(または将来的な創傷の各々の縁への1対の注射−その手法は図16のパネルBに示される)を使用する場合には、投与される抗瘢痕薬剤(エージェント)の全量は、単一注射経路(上述)経由で与えられるよりも多くなるが、これは、同じ領域を取扱うために各々の縁への注射が要求されるからである。
【0060】
抗瘢痕薬剤(エージェント)は、それを必要とする身体部位に対して、適切な薬学的組成物として投与する本発明の方法で与えることが好ましい。組成物は、注射、特に、皮内注射(intradermal injection)に適することが好ましい。皮内注射により抗瘢痕薬剤(エージェント)の投与に使用することができる組成物の調合の多くは、当業者には公知であり、これらは、関心のある特定の抗瘢痕薬剤(エージェント)に応じて選択することができる。
【0061】
本明細書で使用する様々な用語について、錯誤を避けるために、以下に記載する。簡潔にするために、これらの用語のいくつかは、本発明の特定の観点に沿って記載している。しかし、文脈上必要な場合を除いては、これらの用語に関する以下の記載は、本発明のすべての観点に適用できる。
【0062】
創傷が形成されようとする部位のセンチメートル
参照しやすいように、創傷が形成されようとする部位の長さを、センチメートル単位で表すが、これは、本発明に従い瘢痕を軽減するために投与が必要となる抗瘢痕薬剤(エージェント)の量を決定するためである。治療する長さは、形成されようとする創傷として考えられる長さを超えて算出することが好ましいが、これは、治療に効果的な量の抗瘢痕薬剤(エージェント)が、創傷の末端部まで確実に与えられるようにするためである。
したがって、創傷が形成された部位として算出した長さ(さらには治療される部位の長さ)は、創傷と考えられる各末端部から約半センチメートル(あるいはそれ以上)引き伸ばすことが好ましい。
【0063】
将来的な創傷の縁のセンチメートル
本発明では、創傷が形成されようとする部位の長さ(将来的な創傷の縁のセンチメート
ル数で表す)は、形成されようとする創傷の各々の縁の長さの合計(センチメートル単位)として算出すべきである。治療する長さは、形成されようとする創傷の縁の末端部を超えて算出することが好ましく、これにより、治療に効果的な量の抗瘢痕薬剤(エージェント)が創傷の末端部に確実に与えられることを促すことができる。したがって、創傷が形成された部位として算出した長さ(さらには治療される部位の長さ)は、形成されようとする創傷の各末端部から約半センチメートル(あるいはそれ以上)引き伸ばすことが好ましい。
【0064】
抗瘢痕薬剤(エージェント)
本発明者らは、本発明の様々な観点および態様が、先行技術で認められているほとんどの抗瘢痕薬剤(エージェント)に関して有益であると考えている。「生物学的な(Biological)」抗瘢痕薬剤(エージェント) [すなわち、天然に存在する抗瘢痕薬剤(エージェント)またはそのような天然の薬剤に基づく薬剤(エージェント)、例えば、成長因子(growth factors)、成長因子受容体(growth factor receptors)等]は、本発明に使用するのに特に適する。
【0065】
抗瘢痕成長因子は、本発明で使用するのに好ましい抗瘢痕薬剤(エージェント)となる。本発明におけるこれらの薬剤(エージェント)の瘢痕抑制能は、特に驚くべきものであるが、これは、抗瘢痕成長因子が「ベルシェープ型(bell shaped)」の用量作用曲線(本明細書の他の箇所で述べている)[該薬剤(エージェント)の服用量が増加すると抗瘢痕活性がなくなることが示される]を有することが多いためである。
【0066】
選択された抗瘢痕薬剤(エージェント)は、本発明で使用するためには(本発明の方法、使用またはキットのいずれであっても)、TGF-β3以外であることが好ましい。
【0067】
非限定例によってのみであるが、本発明者らは、本明細書の方法、使用またはキットは、少なくともいくつかの抗瘢痕薬剤(エージェント)を使用すること(次段落で検討している)が有利であると考えている。
【0068】
本発明で使用される適切な抗瘢痕薬剤(エージェント)は、薬剤、方法、使用またはキットのいずれであっても次から成る群から選択することができる: PDGF、TGF-β1およびTGF-β2から成る群から互いに独立して選択できる中和前線維性成長因子(neutralising pro-fibrotic growth factors)となる薬剤(エージェント);マンノース-6-リン酸(mannose
6 phosphate)、およびこの薬剤(エージェント)に関連する化合物;溶性TGF-β受容体、またはその断片(フラグメント)[例えば、溶性ベータグリカン(betaglycan)];インターロイキン-10 (interleukin-10;IL-10) 、その断片(フラグメント)およびその誘導体;インターフェロンガンマ(interferon-gamma)のインヒビター;瘢痕を抑制するように性ホルモン系(sex hormone system)に影響を与える薬剤(エージェント);細胞外アクチビン(extracellular activin)を切断できる薬剤(エージェント);エストロゲン活性(oestrogenic activity)の中和、および/またはプロゲステロン活性(progesterone activity)の活性化ができる薬剤(エージェント):TGF-βの潜伏関連ペプチド(the latency associated peptide;LAP) ;転換酵素(convertase enzymes)[例えば、フリン(furin)] のインヒビター;CXCL13またはCXCR5活性アンタゴニスト;WNT5A、治療に効果的なその断片(フラグメント)もしくはその誘導体;LXRアンタゴニスト;FXRアンタゴニスト;WNT3A、治療に効果的なその断片(フラグメント)もしくはその誘導体;sFRP3、治療に効果的なその断片(フラグメント)もしくはその誘導体;および核内ホルモン受容体(nuclear hormone receptor)NR4Aサブグループメンバーのアゴニストである。
【0069】
PDGF、TGF-β1、および/またはTGF-β2を中和する薬剤(エージェント)
PDGF、TGF-β1およびTGF-β2から成る群から互いに独立して選択される中和前線維性成
長因子(neutralising pro-fibrotic growth factors)となる薬剤(エージェント)は、本明細書で記載した方法で使用することができる適切な抗瘢痕薬剤(エージェント)となる。例示のみを目的とするが、このような薬剤(エージェント)としては、必要とされる特異性をもつ中和抗体(neutralising antibodies)、その成長因子がその受容体に結合するのを干渉する薬剤(エージェント)、またはその成長因子が発現するのを抑制する薬剤(エージェント)[アンチセンスオリゴヌクレオチド(antisense oligonucleotides)、SiRNA等が含まれる]が挙げられる。瘢痕を抑制することにおけるPDGF, TGF-β1 および/またはTGF-β2を中和する薬剤(エージェント)の使用のさらなる詳細は、本発明者らの先行特許である米国特許第5662904号に示されている[その明細書は、効果的な抗瘢痕薬剤(エージェント)、または治療に効果的な量のそのような薬剤(エージェント)が同一である限り、本明細書に援用される。]。例示のみを目的とするが、本発明者らは、そのような薬剤(エージェント)の治療に効果的な量(瘢痕を抑制しようとする身体部位のセンチメートル毎に投与する)は、1pgから1μgの量の前線維性成長因子[pro-fibrotic growth factor(s)]を中和するために十分な薬剤(エージェント)の量から成ると考えている。
【0070】
マンノース-6-リン酸、および関連する化合物
本発明者らは、マンノース-6-リン酸(mannose 6 phosphate)、およびこの薬剤(エージェント)に関連する化合物は、本明細書に記載された方法で使用することができる適切な抗瘢痕薬剤(エージェント)となり得ると考えている。
【0071】
本発明者らが出願した米国特許第6,140,307号、米国特許第6,566,339号および米国特許第6,900,181号に記載されている化合物は、特に、本発明の好ましい抗瘢痕薬剤(エージェント)であるマンノース-6-リン酸に関連する化合物である。これらの明細書は、効果的な抗瘢痕薬剤(エージェント)、または治療に効果的な量のそのような薬剤(エージェント)が同一である限り、本明細書に援用される。指針として、本発明者らは、これらの明細書に記載された治療に効果的な量の化合物が、10mM、20mM、または、好ましくは40mMである水薬の約100μlを、瘢痕を抑制しようとする部位のセンチメートルあたりに投与することにより与えられ得ると考えている。
【0072】
溶性TGF-β受容体
溶性TGF-β受容体またはその断片(フラグメント)[例えば、溶性ベータグリカン(betaglycan)]は、本発明のすべての観点で使用することができる好ましい抗瘢痕薬剤(エージェント)となり得る。抗瘢痕薬剤(エージェント)として溶性TGF-β受容体を使用することのさらなる詳細は、本発明者らの先行特許である米国特許第6060460号に示されている[その明細書は、効果的な抗瘢痕薬剤(エージェント)、または治療に効果的な量のそのような薬剤(エージェント)が同一である限り、本明細書に援用される。]。例示のみを目的とするが、本発明者らは、抗瘢痕薬剤(エージェント)として使用する溶性ベータグリカンの治療に効果的な量は、約1μgおよび10μgの溶性ベータグリカン(瘢痕を抑制しようとする身体部位のセンチメートルあたり)から成ると考えている。
【0073】
インターロイキン-10および関連するペプチド
本発明者らは、インターロイキン-10 (IL-10)、その断片(フラグメント)およびその誘導体が、本発明の様々な観点および態様で使用することができる好ましい抗瘢痕薬剤(エージェント)となると考えている。IL-10、またはその断片(フラグメント)もしくはその誘導体は、ヒトIL-10またはそれから誘導されるものであることが好ましい。ヒトIL-10のアミノ酸配列は、配列番号No. 3で示され、ヒトIL-10をコードするDNA配列は、配列番号No. 4で示される。本発明の様々な観点または態様で使用することができるIL-10の断片(フラグメント)およびその誘導体は、治療に効果的なもの[本発明では、瘢痕を抑制できる任意のIL-10の断片(フラグメント)およびその誘導体]であれば何であってもよい。例えば、IL-10を部分修飾したもの[少なくとも1つのアミノ酸を付加、置換、または削除
することによりIL-10とは異なるが、IL-10と少なくとも95%の相同性(homology;ホモロジー)を有する]は、抗瘢痕薬剤(エージェント)として使用されるのに好ましい。適切なIL-10の断片(フラグメント)またはその誘導体は、IL-10の抗炎症治癒作用性(anti-inflammatory healing functionality)を保持することが好ましい。特に関心あるIL-10の断片(フラグメント)またはその誘導体には、本発明者らの先行特許 (例えば、米国特許第6,387,364号、米国特許第7,052,684号またはWO2006/075138)に記載された抗瘢痕薬剤(エージェント)が含まれる。これらの明細書は、効果的な抗瘢痕薬剤(エージェント)、または治療に効果的な量のそのような薬剤(エージェント)が同一である限り、本明細書に援用される。
【0074】
例示のみを目的とするが、本発明者らは、これらの明細書に記載された化合物の治療に効果的な量は、1μMから10μMの水薬の約100μlを、瘢痕を抑制しようとする部位のセンチメートルあたりに投与することにより与えられ得ると考えている。
【0075】
瘢痕の動物モデルにおいて、本発明者らは、第1の治療に効果的な量のIL-10[または断片(フラグメント)またはその誘導体]は、約100ngから5000ngの間であり、その第2の治療に効果的な量は、約200ngから10000ngの間であること(第2の治療に効果的な量が、常に第1の治療に効果的な量よりも多くなければならないということを念頭に置いている)が適することを確認している。例えば、第1の治療に効果的な量は約250から2500ngの間であり、一方、第2の治療に効果的な量は約750 から7500ngの間である。
【0076】
本発明者らは、ヒトにおいては、より少ない服用量のIL-10、または治療に効果的な断片(フラグメント)もしくはその誘導体が、治療に効果的であることを見出した。例示のみを目的とするが、IL-10[またはその断片(フラグメント)またはその誘導体]の1ngから1000ngの間の服用量を、ヒトへの第1の治療におけるセンチメートルあたりに使用するとともに、それよりも多い服用量が、それに応じて決定される第2の治療で与えられることが望ましい。第1の治療は、約1ngから100ngまで、約2ngから50ngまで、または約5ngから25ngまでの治療に効果的な量を使用することが好適である。
【0077】
インターフェロンガンマのインヒビター
インターフェロンガンマのインヒビターは、本発明者らにより、瘢痕を抑制するのに使用することができる薬剤(エージェント)として既に示されている。本発明者らは、そのようなインヒビター[特に、中和抗体(neutralising antibodies)、アンチセンスオリゴヌクレオチド、SiRNA等]が、本発明で考慮される方法で使用することに適する抗瘢痕薬剤(エージェント)となり得るものと考えている。そのような薬剤(エージェント)の詳細は、本発明者ら自身の先行特許で検討されており、例えば、米国特許第7,220,413号に示されている[その明細書は、効果的な抗瘢痕薬剤(エージェント)、または治療に効果的な量のそのような薬剤(エージェント)が同一である限り、本明細書に援用される。]。指針として、本発明者らは、そのようなインヒビターの治療に効果的な量(瘢痕を抑制するために身体部位のセンチメートルに与えられることが好適である)は、300から 30000 IUの間のインターフェロンガンマの活性を抑制できる量であると考えている。
【0078】
アクチビンおよびインヒビン
TGF-βスーパーファミリーメンバーであるアクチビンおよびインヒビンは、抗瘢痕薬剤(エージェント)となるが、本発明者らは、これらのたんぱく質[またはその治療に効果的な断片(フラグメント)もしくはその誘導体]が、本明細書に記載された発明の様々な観点における使用に有益な抗瘢痕薬剤(エージェント)となり得ると考えている。アクチビンまたはインヒビンを抗瘢痕に使用することに関するさらなる詳細は、本発明者らの先行特許で検討されており、例えば、欧州特許第0855916号に示されている[その明細書は、効果的な抗瘢痕薬剤(エージェント)、または治療に効果的な量のそのような薬剤(エージェン
ト)が同一である限り、本明細書に援用される。]。
【0079】
性ホルモン系に影響を与える薬剤(エージェント)
本発明者らの先行特許および出願[例えば、WO 98/03180;該明細書は、効果的な抗瘢痕薬剤(エージェント)、または治療に効果的な量のそのような薬剤(エージェント)が同一である限り、本明細書に援用される]では、瘢痕を抑制して性ホルモン系に影響を与える様々な薬剤(エージェント)が記述されている。本発明者らは、これらの薬剤(エージェント)のいずれもが本発明に記載された方法で実施することに適するものであり、さらにエストロゲン活性の中和および/またはプロゲステロン活性の促進を可能とする薬剤(エージェント)が、本発明の様々な観点および態様で使用できる抗瘢痕薬剤(エージェント)として特に好適であると考えている。
【0080】
細胞外アクチビンを切断する薬剤(エージェント)
様々なアクチン切断(actin-severing)たんぱく質は、抗瘢痕薬剤(エージェント)として作用することが示されているが(特に細胞外で作用する場合)、それらは本発明者らの先行特許で記載されており、例えば、欧州特許第0941108号が挙げられる[その明細書は、効果的な抗瘢痕薬剤(エージェント)、または治療に効果的な量のそのような薬剤(エージェント)が同一である限り、本明細書に援用される。]。ゲルゾリン(gelsolin)は、そのような抗瘢痕薬剤(エージェント)として使用できるアクチン切断たんぱく質の好適な例となる。本発明者らは、本明細書で検討した方法に従ってゲルゾリン(または他のアクチン切断たんぱく質)の服用量を段階的に増やす治療が、得られる抗瘢痕活性の点からきわめて有利であると考えている。例示のみを目的とするが、本発明者らは、これらの特許に記載された化合物の治療に効果的な量は、50nMから1000nMの水薬約100μlを、瘢痕を抑制しようとする部位のセンチメートルあたりに投与することで与えられると考えている。
【0081】
LAP
TGF−βの潜在型結合ペプチド(latency associated peptide;LAP)は、本発明の方法、使用およびキットで有益に使用できる好適な抗瘢痕薬剤(エージェント)となり得る。LAPを抗瘢痕薬剤(エージェント)として使用することの詳細は、本発明者ら自身の特許で検討されており、例えば、米国特許第6319907号に示している[その明細書は、効果的な抗瘢痕薬剤(エージェント)、または治療に効果的な量のそのような薬剤(エージェント)が同一である限り、本明細書に援用される。]。本発明者らは、LAPの治療に効果的な量(投与された身体部位のセンチメートルあたり瘢痕を抑制できる量)は、1ngから10mgの範囲と考えている。
【0082】
転換酵素(convertase enzymes)インヒビター
本発明者らは、転換酵素(convertase enzymes)[例えば、フリン(furin)]インヒビターが抗瘢痕活性をもつ薬剤(エージェント)として、どの程度使用し得るかを以前に述べている(例えばWO 2004009113)。特定の薬剤(エージェント)[例えばis-デカノイル-RVKR-クロロメチルケトン(isdecanoyl-RVKR-cmk)およびヘキサアルギニン(hexa-arginine)]、および転換酵素(convertase)インヒビターを選択する際に使用する基準(該特許に記載されている)は、本発明に記載した方法で実施する際に抗瘢痕活性を予想外に増大させる抗瘢痕薬剤(エージェント)になると考えられる。該先行特許の内容は、適切な薬剤(エージェント)または適切な薬剤(エージェント)の選択である限り、本明細書に援用される。単に指針のみであるが、本発明者らは、転換酵素(convertase)インヒビター[例えばis-デカノイル-RVKR-クロロメチルケトン(isdecanoyl-RVKR-cmk)]の治療に効果的な量は、0.1μMから10mMの水薬約100μlを、瘢痕を抑制しようとする部位のセンチメートルあたりに投与することで与えられると考えている。
【0083】
CXCL13またはCXCR5活性アンタゴニスト
本発明者らは、CXCL13またはCXCR5活性を阻害(antagonising)できる薬剤(エージェント)が、瘢痕を抑制できることを見出している(WO 2007/122402に記載)。該先行特許は、瘢痕を抑制するために使用することができる服用量の詳細および特に好ましいアンタゴニストを提示している。従って、CXCL13またはCXCR5活性アンタゴニスト(特にWO 2007/122402に記載したもの)は、本発明に従い実施され得る抗瘢痕薬剤(エージェント)と考えられる。WO 2007/122402の発明[特に、適切な抗瘢痕薬剤(エージェント)および該薬剤(エージェント)の治療に効果的な量に関して]は、本明細書に援用される。
【0084】
WNT5A
本発明者らは、WNT5A[または治療に効果的なその断片(フラグメント)もしくはその誘導体]が、本発明の様々な態様(方法、使用またはキットのいずれであっても)に使用することにより付加的な抗瘢痕活性を得ることができる抗瘢痕薬剤(エージェント)になると考えている。
【0085】
WNT5Aは、瘢痕を抑制すべき身体部位のセンチメートルあたり2000ngより少なく投与することが好ましく、これによって、選択された抗瘢痕薬剤(エージェント)の治療に効果的な量が投与される。
【0086】
本発明者ら自身の先行特許[出願PCT/GB2007/002445であり、本明細書に援用される]は、本態様で使用することができる好ましい抗瘢痕薬剤(エージェント)、およびそのような薬剤(エージェント)の治療に効果的な量に関する指針を与える。
【0087】
LXRアンタゴニスト
本発明者らは、LXRアンタゴニストが、瘢痕を抑制するために使用することができることを確認した。このことは、本発明者らの先行特許である英国特許0625965.9に詳述している。本発明者らは、LXRアンタゴニストを本発明で用いることができると考えており、該先行特許は、適切な抗瘢痕薬剤(エージェント)の選択および治療に効果的な量のそのような薬剤(エージェント)である限り本明細書に援用される。
【0088】
本発明の態様に従う適切な抗瘢痕薬剤(エージェント)としては、次のものが挙げられる;すなわち、フィブラート系エステル(fibrate ester);ゲラニルゲラニルピロリン酸(geranylgeranyl pyrophosphate)、リッカルジンF(Riccardin F)、自動酸化コレステロール硫酸塩(an auto-oxidised cholesterol sulphate)、Wy-14643、 7-ケトコレステロール3-硫酸(7-ketocholesterol-3-sulfate)、および5α,6α-エポキシコレステロール-3-硫酸(5α, 6α-epoxycholesterol-3-sulfate)。治療に効果的な量のLXRアンタゴニストは、約13ピコモル(pmole)から約2ナノモル(nmole)(瘢痕を抑制したい身体部位のセンチメートルあたり)のアンタゴニストである(24時間にわたって(24時間の間に)与えられることが好ましい)。
【0089】
FXR活性アンタゴニスト
本発明者らは、FXRアンタゴニストが、瘢痕を抑制するために使用することができることを確認した。このことは、本発明者らの先行特許である英国特許0625966.7に詳述している。本発明者らは、FXRアンタゴニストを本発明で用いることができると考えており、該先行特許は、適切な抗瘢痕薬剤(エージェント)の選択および治療に効果的な量のそのような薬剤(エージェント)である限り本明細書に援用される。
【0090】
本発明の好ましい抗瘢痕薬剤(エージェント)としては、次から成る群から選択されるものが挙げられる;すなわち、ググルステロン(guggulsterone) (Z);ググルステロン(guggulsterone) (E);スカララン(scalarane);80-574;および5α‐胆汁アルコール
(5α-bile alcohol)。そのような抗瘢痕薬剤(エージェント)は、治療に効果的な量として、最大32μM(瘢痕を抑制したい身体部位のセンチメートルあたり)のアンタゴニストを24時間にわたって(24時間の間に)与えることができる。
【0091】
WNT3A
本発明者らは、WNT3A[または治療に効果的なその断片(フラグメント)もしくはその誘導体]が、瘢痕を抑制するために使用することができることを見出し、さらに、そのような薬剤(エージェント)は、本発明に使用できる抗瘢痕薬剤(エージェント)になり得ると考えている。このことは、本発明者らの先行特許である英国特許0702930.9に詳述しており、該先行特許の内容は、適切な抗瘢痕薬剤(エージェント)の選択および治療に効果的な量のそのような薬剤(エージェント)である限り本明細書に援用される。例示のみを目的とするが、そのような薬剤(エージェント)は、約1ngの量を、瘢痕を抑制しようとする部位のセンチメートルあたりに投与することで、治療に効果的な量の投与を図ることができる。
【0092】
sFRP3
本発明者らは、sFRP3 [または治療に効果的なその断片(フラグメント)もしくはその誘導体]が、瘢痕を抑制するために使用することができることを見出し、さらに、そのような薬剤(エージェント)は、本発明に用いることができる抗瘢痕薬剤(エージェント)になり得ると考えている。このことは、本発明者らの先行特許である英国特許0707348.9でより詳述されており、該先行特許の内容は、適切な抗瘢痕薬剤(エージェント)の選択および治療に効果的な量のそのような薬剤(エージェント)である限り本明細書に援用される。例示のみを目的とするが、そのような薬剤(エージェント)は、約2.6フェムトモル(fmol)から40ピコモル(pmol)の量を、瘢痕を抑制しようとする部位のセンチメートルあたりに投与することで、治療に効果的な量の投与を図ることができる。
【0093】
NR4A agonists
本発明者らは、核内ホルモン受容体(nuclear hormone receptor)NR4Aサブグループメンバーのアゴニストが、瘢痕を抑制するために使用することができることを見出し、さらに、そのような薬剤(エージェント)は、本発明の使用に用いることができる抗瘢痕薬剤(エージェント)になり得ると考えている。このことは、本発明者らの先行特許である英国特許0714934.7でより詳述されており、該先行特許の内容は、適切な抗瘢痕薬剤(エージェント)の選択および治療に効果的な量のそのような薬剤(エージェント)である限り本明細書に援用される。例示のみを目的とするが、6-メルカプトプリン(6-mercaptopurie)は、本発明の使用に用いる抗瘢痕薬剤(エージェント)となり得るものであり、約0.59ピコモル(pmol)から8.85ナノモル(nmol)の量を、瘢痕を抑制しようとする部位のセンチメートルあたりに投与することで、治療に効果的な量の投与を図ることができる。
【0094】
創傷の縁のセンチメートル
本発明では、創傷の長さ(創傷の縁のセンチメートル数で表される)は、各々の創傷の縁の長さの合計値(センチメートル単位)として算出される。治療する部位の長さは、創傷の縁の末端部を越えて算出することが好ましい。このことにより、治療に効果的な量の抗瘢痕薬剤(エージェント)を、創傷の末端部まで確実に与えることを促進することができる。したがって、本発明に従い治療される創傷の縁を算出した長さは、創傷の末端部から約半センチメートル(もしくはそれ以上)を越えて伸びていることが好ましい。
【0095】
「治療に効果的な量」
本発明での抗瘢痕薬剤(エージェント)の治療に効果的な量とは、本発明で使用する場合に、創傷の治癒に関する瘢痕の予防、軽減、または抑制が可能な抗瘢痕薬剤(エージェント)の任意の量である。治療に効果的でない抗瘢痕薬剤(エージェント)の量[例えば、当該
薬剤(エージェント)の単一回の投与を使用する用量作用試験(dose response experiments)で判断される]も、本明細書に記載しているように、2回の治療を使用する瘢痕モデルでは治療に効果的な量となり得る。
【0096】
本発明での実施に際して(例えば、本発明の方法、使用およびキットで)所望される特定の抗瘢痕薬剤(エージェント)についての治療に効果的な量に関する指針は、先行技術、実験、または、本明細書の他の箇所で示した指針を基準として、見出すことができる。治療活性を有することが既に示されているそのような抗瘢痕薬剤(エージェント)の量は、第1の治療で抑制しようとする瘢痕のある身体部位への投与に好適となる治療に効果的な量として使用することができ、あるいは、第1の治療で与えられる適切な治療に効果的な量を定めるための実験の叩き台として使用することができる。
【0097】
瘢痕の予防/軽減/抑制/最小化
本発明における瘢痕の抑制とは、対照治療(コントロール)または未治療の創傷の治癒で生じる瘢痕のレベルと比較して、本発明の方法(または本発明のキットまたは薬剤)で治療される創傷治癒で達成される瘢痕のあらゆる程度の予防、軽減、最小化または抑制に及ぶものと解されるべきである。簡潔化のために、本明細書では、抗瘢痕薬剤(エージェント)を利用して瘢痕を主に「抑制」することに言及しているが、このような言及は特に記載のない限り、これらの抗瘢痕薬剤(エージェント)を使用した瘢痕の予防、軽減または最小化にも及ぶものとする。
【0098】
薬学的に許容可能
本明細書で使用する場合、「薬学的に許容可能」(pharmaceutically acceptable)という語句は、分子化合物(molecular entities)および組成物(compositions)のうち「通常安全とみなせる」ものであり、例えば、生理学的に耐容可能で、通常アレルギーまたは同類の有害反応(例えば、ヒトに投与した場合に引き起こされる胃の不快感やめまい等)を生じないものをいう。好ましくは、本明細書で使用する場合には、「薬学的に許容可能」(pharmaceutically acceptable)という語句は、監督官庁である米国連邦政府(US Federal)もしくは州政府(state government) により認可されたもの、または、米国薬局方(U.S. Pharmacopoeia)もしくは他の一般的に認められた薬局方における一覧表に掲載されたもの(動物、特にヒトへの使用に関する)を意味する。
【0099】
薬学的な組成物および投与
本発明により提供される組成物は、そのまま治療に使用することも可能であるが、薬学的に調合して [例えば、指定した投与経路および標準的な薬学上のプラクティスに応じて選択された適切な薬学上の賦形剤(excipient;ベヒクル)、希釈剤(diluent)、または基材(carrier)を混合して] 投与することが好ましい。したがって、1つの観点としては、本発明は、薬学的な組成物または製剤であって、少なくとも1つの活性組成物または薬学的に許容できるその誘導体からなり、適切な薬学上の賦形剤(excipient;ベヒクル)、希釈剤(diluent)、および/または基材(carrier)が結合したものを提供する。当該賦形剤(excipient;ベヒクル)、希釈剤(diluent)、および/または基材(carrier)は、製剤の他の成分と適合性をもち、そのレシピエント(患者)にとって有害でないという意味において「許容可能」(acceptable)でなければならない。
【0100】
本発明の組成物は、ヒト用または動物用薬剤として任意の簡便な方法で投与できるように調製(製造)できる。したがって、本発明は、その範囲として、本発明の生成物(ヒト用または動物用薬剤に適合するもの)から成る薬学的な組成物が含まれる。
【0101】
治療に使用される許容可能な賦形剤(excipient;ベヒクル)、希釈剤(diluent)、および基材(carrier)は、薬学分野で知られており、例えば、レミントン:薬学の科学と実
践 リッピンコット ウィリアムズ&ウィルキンズ社(A.R.ジェンナーロ編、2005年)[Remington: The Science and Practice of Pharmacy. Lippincott Williams & Wilkins (A.R. Gennaro edit. 2005)]に記載されている。薬学的な賦形剤(excipient;ベヒクル)、希釈剤(diluent)、および基材(carrier)の選定は、指定した投与経路および標準的な薬学上のプラクティスに応じて選択できる。
【0102】
創傷
本発明者らは、本発明に従う治療方法を用いることで、すべてのタイプの創傷にある瘢痕を有意に抑制することができると考えている。
特定の創傷の例として、その瘢痕を、本発明の薬剤および方法を使用して抑制することができるものには、次から成る群から選択することができるが、これらに本発明が限定されるものではない:すなわち、皮膚の創傷;眼の創傷[眼の手術から生じる瘢痕の抑制が含まれるが、この手術としては例えば、LASIK手術、LASEK手術、PRK手術、緑内障濾過手術(glaucoma filtration surgery)、白内障手術(cataract surgery)、または水晶体嚢(lens capsule)が瘢痕化し得る場合の手術][例えば、角膜瘢痕化(corneal cicatrisation)を引き起こすもの];前嚢収縮(capsular contraction)となり得る創傷[豊胸手術(breast implants)の周辺でよくみられる];血管の創傷;中枢および末梢神経系の創傷[瘢痕の予防、軽減、または抑制が、神経再結合(neuronal reconnection)および/または神経機能(neuronal function)を促進し得る箇所];腱(tendons)、靱帯(ligaments)または筋肉の創傷;口腔(oral cavity)の創傷[唇(lips)および口蓋(palate)の創傷が含まれる](例えば、口唇裂または口蓋裂の治療により生じる瘢痕を抑制する);内部器官の創傷[例えば、肝臓、心臓、脳、消化組織(digestive tissues)および生殖組織(reproductive tissues)];体内腔(body cavities) の創傷[例えば、腹腔(abdominal cavity)、骨盤腔(pelvic
cavity)および胸腔(thoracic cavity)](瘢痕の抑制が、癒着形成率および/または形成された癒着の大きさを低下し得る箇所);および外科的創傷[特に、美容的処置に関連する(例えば、瘢痕整形手術(scar revision))]。本発明の薬剤および方法は、皮膚の創傷に関連する瘢痕を予防、軽減、または抑制するために使用することが特に好ましい。
【0103】
本発明で使用できる特定の抗瘢痕薬剤(エージェント)は、あるタイプの創傷で有用性が高まる。関心ある特定タイプの創傷を治療するのに有益となり得る特定の抗瘢痕薬剤(エージェント)に関する指針には、先行技術の抗瘢痕薬剤(エージェント)の活性に関する報告を参考にすることができる。
【0104】
瘢痕の評価
瘢痕、さらには瘢痕の抑制の程度は、瘢痕の巨視的な臨床評価(clinical assessment)により評価することができる。これは、次の方法により達成することができる。すなわち、患者の瘢痕を直接評価すること;または、瘢痕の撮像画像を評価すること;または、瘢痕から採られたシリコンモールド、もしくは、このようなモールドから造型された実質的な石膏模型を評価することである。本発明では、「治療された瘢痕」(treated scar)とは、本発明で治療された創傷の治癒で生じた瘢痕を含むものとする。
【0105】
瘢痕、さらには瘢痕の抑制に関する適切な評価(想定された薬剤(エージェント)が、本明細書に記載した抗瘢痕薬剤(エージェント)としての使用に適するかを示す)は、人体または適切な動物モデルに対して実施することができる。抗瘢痕薬剤(エージェント)の活性を調べるための動物モデルの使用(後に人体への使用を図る)は、十分に裏づけされており、科学的にも認められている。
【0106】
瘢痕の巨視的な特性は、瘢痕を評価する場合に判断され得るものであり、以下の事項が含まれる:
i) 瘢痕の色。瘢痕は、通常、周囲の皮膚との兼ね合いで、色素沈着過剰(hypopigmente
d)、または色素沈着低下(hyperpigmented)となっている。瘢痕の抑制は、治療された瘢痕の色素沈着(pigmentation)が、未治療の瘢痕の色素沈着よりも、瘢痕化していない皮膚のそれに近似していることにより、示すことができる。瘢痕は、周囲の皮膚よりも赤みを帯びていることも多い。この場合には、瘢痕の抑制は、未治療の瘢痕と比較して、治療瘢痕の赤みがより早く、もしくはより完全に退色する場合、または周囲の皮膚の外観に類似していることにより示すことができる。色は、容易に測定することができるが、これは例えば、分光光度計(spectrophotometer)の使用による。
ii) 瘢痕の高さ。瘢痕は、通常、周囲の皮膚と比較して、隆起しているか、または窪んでいるかのいずれかである。瘢痕の抑制は、治療された瘢痕の高さが、未治療の瘢痕の高さよりも瘢痕化していない皮膚(すなわち、隆起しているか、または、窪んでいるかのいずれでもない皮膚)に、より近似していることにより示すことができる。瘢痕の高さは患者から測定することができるが、これは直接的[例えば、プロフィロメトリー(profilometry)を用いる]、または間接的[例えば、瘢痕から得られるモールド(moulds)のプロフィロメトリー(profilometry)を用いる]に測定できる。
iii) 瘢痕の表面テクスチャ(surface texture)。瘢痕は、周囲の皮膚よりも相対的に滑らかな表面となっていることがあり[「艶のある(shiny)」外観の瘢痕が生じている]、また、周囲の皮膚よりも粗くなっていることもある。瘢痕の抑制は、治療された瘢痕の表面テクスチャが、未治療の瘢痕の表面テクスチャよりも、瘢痕化していない皮膚のそれに近似していることにより示すことができる。表面テクスチャは、患者から測定することができ、この測定は直接的[例えば、プロフィロメトリーを用いる]、または間接的[瘢痕から得られるモールド(moulds)のプロフィロメトリーを用いる]のいずれも可能である。
iv) 瘢痕の硬直さ(stiffness)。瘢痕の異常な組成および構造は、通常、瘢痕の周囲にある無傷状態の皮膚よりも硬直していることで示される。このような場合には、瘢痕の抑制は、治療された瘢痕の硬直が、未治療の瘢痕の硬直よりも瘢痕化していない皮膚のそれに、より近似していることにより示すことができる。
【0107】
治療された瘢痕における瘢痕の抑制は、本明細書で述べる巨視的評価のパラメタのうち少なくとも1つに関する評価として示されることが好ましい。さらに好ましくは、治療された瘢痕は、瘢痕の抑制について、これらのパラメタのうち少なくとも2つに関して示され、さらに一層好ましくは、少なくとも3つのパラメタに関し、最も好ましくは、これらのパラメタのうち少なくとも4つ(例えば、上記に述べたパラメタの4つすべて)に関して示される。
【0108】
瘢痕の高さ、長さ、幅、表面積、窪み・隆起体積、粗さ/平滑さは、患者から直接測定でき、この測定には、例えば、光学3次元測定装置(optical 3D measurement device)を使用することができる。瘢痕の測定は、患者から直接測定するか、または、瘢痕から成形したモールドもしくは鋳造物(casts)[瘢痕の彫り型のシリコンモールドレプリカを作成し、その後に該シリコンモールドから石膏模型(plaster cast)を成形することにより形成することができる]を使用するかのいずれでも行うことができる。これらの方法のすべては、光学3次元測定装置を使用すること、または瘢痕の瘢痕写真を画像分析することにより分析できる。光学3次元測定装置は、すべての軸方向にマイクロメートルレンジの解像度を有することで、すべての皮膚および瘢痕パラメタを正確に決定することを保証する。当業者であれば、さらなる非侵襲性(non-invasive)の方法および手段(装置)も考え付くことができるが、これらは、適切なパラメタを調べるために使用することができ、手動測定用のカリパス(calipers)、超音波(ultrasound)、3次元写真撮影(3D photography)[例えば、キャンフィールド サイエンティフィック社(Canfield Scientific, Inc.)から市販されているハードウェアおよび/またはソフトウェアを使用する]、および、高解像度の磁気共鳴画像法(Magnetic Resonance Imaging)が含まれる。
【0109】
瘢痕の抑制は、瘢痕の高さ、長さ、幅、表面積、窪みもしくは隆起体積、粗さもしくは
平滑さ、またはそれら任意の組み合わせについて、未治療の瘢痕と比較して低減していることにより示すことができる。
【0110】
瘢痕の巨視的評価のための1つの好ましい方法として、瘢痕の包括的評価(holistic assessment)がある。これは、独立専門パネリスト(independent expert panel)もしくは設置パネリスト(lay panel)により巨視的な写真を用いて行われるか、独立設置パネリスト(independent lay panel)により行うか、または、臨床的に、臨床医もしくは患者自身により巨視的評価を用いて行われる。評価(アセスメント)は、視覚的アナログスケール(Visual Analogue Scale;VAS)またはカテゴリー化スケール(categorical scale)を用いて表す。瘢痕(さらには瘢痕の低減度)を評価するための適切なパラメタの例を以下に述べる。適切なパラメタ、および該パラメタの評価を取得する手段のさらなる例は、Duncanら(2006)、Beausangら(1998)、およびvan Zuijlenら(2002)により述べられている。
【0111】
視覚的アナログスケール(VAS)の瘢痕スコアを使用した評価
瘢痕の評価は、瘢痕対応VAS(scarring-based VAS)を使用して取得することができる。瘢痕評価に使用できる適切なVASは、Duncanら(2006)、またはBeausangら(1998)が述べている方法に基づくことができる。これは、通常、10cmのライン(直線)であり、このライン上で、0cmの位置では無視できる瘢痕であることが示され、10cmの位置では非常に悪性な肥厚性瘢痕(hypertrophic scar)であることが示される。本手法でVASを使用することにより、瘢痕評価を容易に取得かつ定量化することができる。VASスコアは、瘢痕の巨視的評価および/または微視的評価に使用することができる。
【0112】
単なる例示であるが、適切な巨視的瘢痕評価は、視覚的アナログスケール(Visual Analogue Scale;VAS)を使用して実施することができ、このVASは、左から右に、0(正常の皮膚に相当する)から10(酷い瘢痕を示す)に応じたスケール(尺度)を示す0-10cmのライン(直線)から構成される。評価者によりマークが10cmのライン上に作成されるが、これは瘢痕の全体評価に基づいてなされ得るものである。これには、パラメタ(例えば、瘢痕の高さ、幅、輪郭および色)が考慮される。最も良い瘢痕(通例、幅が小さく、色、高さおよび輪郭が正常の皮膚と同様である)は、スケールの「正常の皮膚(normal skin)」側の末端(VASラインの左手側)に向かってスコアすることができ、悪性の瘢痕(通例、幅が大きく、隆起した外形、凸凹の輪郭、および、より蒼白な色である)は、スケールの「悪性の瘢痕(bad scar)」側の末端(VASラインの右手側)に向かってスコアすることができる。従って、当該マークは、左手側から測定され、最終的な瘢痕評価値をセンチメートル単位(小数第1位まで)で示すことができる。
【0113】
別の瘢痕評価としては(巨視的評価または微視的評価のいずれであっても)、2つの瘢痕または2つの瘢痕区域(セグメント)[例えば、一方が治療された区域(セグメント)であり、他方が未治療もしくは対照治療(コントロール)の区域(セグメント)である]を比較していずれの瘢痕が好ましい外観であるかを決定することが挙げられ、これは、鉛直線により交差する2つの100mmVASラインから成るVASを使用して実施することができる。この種のVASにおいて、2つのVASラインは比較する2つの瘢痕に対応し、一方、鉛直線はゼロの位置(比較する瘢痕間に認識できる違いが無いことを表す)を示す。100%側の端部(両VASラインの端部である100mmの位置)は、瘢痕の1つが、周囲の皮膚と比べて無視できることを示す。
【0114】
このようにして瘢痕の巨視的外観を評価する特に好ましい方法は、包括的瘢痕比較スケール(The Global Scar Comparison Scale;GSCS)と称されている。このスケールは、欧州医薬品庁(the European Medicines Agency;EMEA)から承認を受けており、瘢痕を評価することができ、さらに瘢痕抑制に関する臨床的に適切なエンドポイントを決定すること
ができる好ましいスケールとして認定されている。特に、臨床的なパネリスト評価に基づくGSCSのバージョンを使用することが好ましく、これはEMEAの見解により特に好適なものとされている。
【0115】
この種のVAS(例えばGSCS)を使用して一対の瘢痕を比較する場合、評価者はまず、いずれの瘢痕が好ましい外観を有するか、または、当該2つの間に認識できる違いが無いかを決定する必要がある。認識できる違いが無い場合には、ゼロの位置の鉛直線にマークをすることでこれを記録する。認識できる違いがある場合には、評価者は、2つの瘢痕のうち悪いほうを固定して好ましいほうの瘢痕で示される改善レベルを決定し、このスケールの適切な区画(セクション)にスコアをマークする。
【0116】
本発明者らは、瘢痕の巨視的または微視的概観を評価するこの種のVAS測定の使用が、多くの利益をもたらすということを見出した。これらのVASは本質的に直感的に認識されることから、それらは、1)長々としたトレーニング(異なる皮膚タイプの異なる瘢痕の度合いを示す参照像を使用する)の必要性を減らし、当該ツールを相対的に簡素化して大規模第3相試験を実施できる;2)データ変数項を低減する:各瘢痕対について1つの評価を行えばよく、薬および偽薬(プラシーボ)の2つの独立した評価を行わない;3)VASの確立した原理(すなわち、データの連続分布)、および当該スケールでのランキングの有用性を含む;および4)薬効を分かりやすい形態(改善パーセント)で臨床医および患者に提供できる。
【0117】
以下に、実験結果に関するセクションおよび図面に沿って本発明をさらに詳述する。実験結果に関するセクションでは本発明の効果を、公知の抗瘢痕薬剤(エージェント)であるTGF-β3について説明するが、本発明は(どの態様であっても)TGF-β3以外の抗瘢痕薬剤(エージェント)を使用することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】単一回の治療でヒトの創傷に与えられたTGF-β3の異なる服用量の抗瘢痕活性を比較したものを示す。
【図2】2回の治療(相互間を約1時間以内で投与した)でヒトの創傷に与えたTGF-β3のうち、服用量が異なる場合の抗瘢痕活性を比較したものを示す。
【図3】2回の治療(相互間を約24時間間隔で投与した)でヒトの創傷に与えたTGF-β3のうち、服用量が異なる場合の抗瘢痕活性を比較したものを示す。
【図4】TGF-β3の対照治療した瘢痕(コントロール)、または対照瘢痕(コントロール)を治療した偽薬(プラシーボ)の巨視像を比較したものを示す。当該3つのTGF-β3治療瘢痕は、異なる量のTGF-β3を約24時間隔てた治療時点で与えた。
【図5】TGF-β3対照(コントロール)または偽薬(プラシーボ)のいずれかで治療した創傷の治癒で形成した瘢痕から得られた3次元シミュレーションおよび瘢痕サイズを示す。
【図6】TGF-β3対照(コントロール)または偽薬(プラシーボ)のいずれかで治療した創傷の治癒で形成した瘢痕から得られた3次元シミュレーションおよび瘢痕サイズを示す。
【図7】TGF-β3または偽薬(プラシーボ)のいずれかで治療した創傷の治癒で形成した瘢痕から得られた3次元シミュレーションおよび瘢痕サイズを示す。
【図8−1】TGF-β3を使用した4つの実験計画(センチメートルあたり5ng、50ng、200ng、または500ngの量を各々、互いに約1時間隔てて2回治療した)のうちの1つ(センチメートルあたり5ngの場合)で治療された創傷の治癒で形成された対照治療瘢痕(コントロール)の時間経過とともに達成された瘢痕抑制の程度を比較したものを示す。
【図8−2】TGF-β3を使用した4つの実験計画(センチメートルあたり5ng、50ng、200ng、または500ngの量を各々、互いに約1時間隔てて2回治療した)のうちの1つ(センチメートルあたり50ngの場合)で治療された創傷の治癒で形成された対照治療瘢痕(コントロール)の時間経過とともに達成された瘢痕抑制の程度を比較したものを示す。
【図8−3】TGF-β3を使用した4つの実験計画(センチメートルあたり5ng、50ng、200ng、または500ngの量を各々、互いに約1時間隔てて2回治療した)のうちの1つ(センチメートルあたり200ngの場合)で治療された創傷の治癒で形成された対照治療瘢痕(コントロール)の時間経過とともに達成された瘢痕抑制の程度を比較したものを示す。
【図8−4】TGF-β3を使用した4つの実験計画(センチメートルあたり5ng、50ng、200ng、または500ngの量を各々、互いに約1時間隔てて2回治療した)のうちの1つ(センチメートルあたり500ngの場合)で治療された創傷の治癒で形成された対照治療瘢痕(コントロール)の時間経過とともに達成された瘢痕抑制の程度を比較したものを示す。
【図9−1】TGF-β3を使用した4つの実験計画(センチメートルあたり5ng、50ng、200ng、または500ngの量を各々、互いに約24時間隔てて2回治療した)のうちの1つ(センチメートルあたり5ngの場合)で治療された創傷の治癒で形成された対照治療瘢痕(コントロール)の時間経過とともに達成された瘢痕抑制の程度を比較したものを示す。
【図9−2】TGF-β3を使用した4つの実験計画(センチメートルあたり5ng、50ng、200ng、または500ngの量を各々、互いに約24時間隔てて2回治療した)のうちの1つ(センチメートルあたり50ngの場合)で治療された創傷の治癒で形成された対照治療瘢痕(コントロール)の時間経過とともに達成された瘢痕抑制の程度を比較したものを示す。
【図9−3】TGF-β3を使用した4つの実験計画(センチメートルあたり5ng、50ng、200ng、または500ngの量を各々、互いに約24時間隔てて2回治療した)のうちの1つ(センチメートルあたり200ngの場合)で治療された創傷の治癒で形成された対照治療瘢痕(コントロール)の時間経過とともに達成された瘢痕抑制の程度を比較したものを示す。
【図9−4】TGF-β3を使用した4つの実験計画(センチメートルあたり5ng、50ng、200ng、または500ngの量を各々、互いに約24時間隔てて2回治療した)のうちの1つ(センチメートルあたり500ngの場合)で治療された創傷の治癒で形成された対照治療瘢痕(コントロール)の時間経過とともに達成された瘢痕抑制の程度を比較したものを示す。
【図10】TGF-β3の異なる服用量に応答した瘢痕形成ラットモデルにおける「ベルシェープ型(bell -shaped)」の用量作用曲線を示す。TGF-β3は、約24時間隔てた2回のTGF-β3注入を通じて創傷に与えた。各注入で与えられたTGF-β3の量は、各治療時点で同じとした。
【図11】対照治療(コントロール)された創傷の治癒(各患者に2回の治療を行い、投与したTGF-β3の量は各治療時で一定とした)、および本発明で治療された創傷の治癒で達成された瘢痕の抑制程度を比較したものを示す。
【図12】偽薬(プラシーボ)で治療した創傷[2回の治療に希釈対照(コントロール)を与えた]、対照治療(コントロール)された創傷(各患者に2回の治療を行い、投与したTGF-β3の量は各治療時で一定とした)、および本発明で治療された創傷の治癒で形成された瘢痕の代表図を示す。
【図13】抗瘢痕薬剤(エージェント)IL-10を用いる本発明の方法を使用して達成された瘢痕の低減率と、対照治療計画(コントロール)で同じ薬剤(エージェント)を使用した瘢痕の低減率とを比較したグラフを示す。
【図14】本発明に従い抗瘢痕薬剤(エージェント)IL-10を用いて治療した創傷の治癒で形成された瘢痕(パネルB)と、対照治療(コントロール)で同じ抗瘢痕薬剤(エージェント)で治療した創傷の治癒で形成された瘢痕(パネルA)の巨視像を示す。
【図15】本発明に従い抗瘢痕薬剤(エージェント)IL-10で治療した創傷と、偽薬対照(コントロール)もしくはIL-10を使用した対照治療(コントロール)で治療された創傷とで認められた炎症細胞の割合を比較したものである。
【図16】本発明に従い瘢痕を抑制することが望まれる身体部位に抗瘢痕薬剤(エージェント)を与えるために使用できる好ましい投与経路を説明する写真を示す。パネルAは、創傷化する部位で抗瘢痕薬剤(エージェント)から成る組成物を単一回の注入により投与した場合を示す。当該注入により小疱(bleb)が隆起したが、この小疱は、該創傷が形成される部位(内部の2点間)を覆い、さらに定めた創傷部位を越えた領域(外部の点に囲まれる領域)を覆った。パネルBは、将来の創傷の縁に沿って抗瘢痕薬剤(エージェント)から成る組成物を投与した場合を示す。実線は、創傷が形成されようとする部位を示し、抗瘢痕薬剤(エージェント)が投与される部位は、将来の創傷を囲む点で示される。パネルCおよびDは、抗瘢痕薬剤(エージェント)から成る組成物を既存の創傷(縫合により閉鎖した)の縁に投与した場合を示す。
【図17】本発明に従い抗瘢痕薬剤(エージェント)を投与するのに使用し得る皮内注射(intradermal injection)の好適な方法を示す。抗瘢痕薬剤(エージェント)を投与できる皮下針(hypodermic needle)を部位Bで皮下挿入し、部位A(部位Bから1cm離れている)に進める。該針を取り出すと、100μlの該組成物が部位Aと部位Bとの間に均等に与えられる。その後、該針を部位Cで皮下挿入して部位Bの方向に進め、該投薬プロセスを繰り返す。該創傷の1つの縁への投与が完了した場合、続けて他の縁で投与を繰り返す。
【発明を実施するための形態】
【0119】
実験結果
以下に述べる結果は、抗瘢痕薬剤(エージェント)が創傷、または創傷が形成される部位に2回の治療で投与される治療計画の使用を示すとともに、治療間の経過時間が8時間から48時間である該計画の効果を示している。それらは、本発明で達成され得る瘢痕抑制[第2の治療で与えられた抗瘢痕薬剤(エージェント)の量が、第1の治療よりも増やされる]の有用性も明示している。
【0120】
図1
図1は、本発明者らが実施した臨床試験のデータを示しており、これは、様々に異なる服用量のTGF-β3を、単一回の治療の投与に使用して達成した抗瘢痕効果を示す用量作用曲線を作成するためのものである。TGF-β3または偽薬(プラシーボ)のいずれも、1センチメートルの実験創傷に単一回の皮内注射で投与した。当該図は、最小二乗法によるTGFβ3の治療効果、および、部位を1つの要因として分散分析(ANOVA)した95%の信頼区間を示す。治療効果を分析するために、TGFβ3瘢痕の総瘢痕スコア(ToScar)は、解剖学的に各患者のもう一方の腕と一致する偽薬(プラシーボ)総瘢痕スコア(Placebo ToScar)から減算した。総瘢痕スコア(ToScar)は、6週目、3、4、5、6および7ヶ月目のVASスコアの合計(mm)として算出した。当該スコアは、独立設置パネリスト(independent lay panel)が、投薬後の6回の時点(6週目、3−7ヶ月目)で、100mmのVASラインを使用してスコアしたものである。
【0121】
図1は、瘢痕が、創傷の縁のcmあたり50ng、200ng、または500ng/100μlのTGFβ3の単一回適用により、効果的に抑制されたことを示したものである。改善の度合いは、最大の改善(TGFβ3治療創傷で平均>50mmの瘢痕改善)が200ng/100μlの服用量で観察される典型的なベルシェープ型用量作用曲線[服用量範囲の最大値(すなわち創傷の縁のcmあたり500ng/100μl)近傍の薬効は低減している]で示される。
【0122】
図2
図2は、本発明者らが実施した臨床試験のデータを示している。この研究では、TGFβ3および偽薬(プラシーボ)は2回の別個の治療で各々投与した(2つの皮内注射を用いて)。しかしながら、本発明の方法とは異なり、第1の治療は創傷前に直ちに実施したが、第2の治療は創傷後直ちに実施した[すなわち、両投薬は、相互間で約1時間以内に(第1の治療は創傷前の10分前から30分前に、第2の治療は創傷後の10分後から30分後に)実施した]。当該図は、最小二乗法によるTGFβ3の治療効果、および、部位を1つの要因として分散分析(ANOVA)した95%の信頼区間を示す。治療効果を分析するために、TGFβ3瘢痕の総瘢痕スコア(ToScar)は、解剖学的に各患者のもう一方の腕と一致する偽薬(プラシーボ)総瘢痕スコア(Placebo ToScar)から減算した。総瘢痕スコア(ToScar)は、6週目、3、4、5、6および7ヶ月目のVASスコアの合計(mm)として算出した。当該スコアは、100mmのVASラインを使用して、投薬後の6回の時点(6週目、3−7ヶ月目)で独立設置パネリスト(independent lay panel)がスコアした。
【0123】
図2は、瘢痕が、創傷の縁のcmあたり5ng、50ng、200ng、および500ng/100μlのTGFβ3を2回適用すること[創傷前および創傷閉鎖直後(すなわち両服用が約1時間以内で)]により、効果的に抑制されたことを示したものである。改善の度合いは、最大の改善(TGFβ3治療の創傷で平均>40mmの瘢痕改善)が200ng/100μlの服用量で観察される典型的なベルシェープ型用量作用曲線[服用量範囲の最大値(すなわち創傷の縁のcmあたり500ng/100μl)近傍の薬効は低減している]で示される。TGFβ3の2回治療(約1時間以内)での改善の程度および用量作用曲線は、TGFβ3の単一回治療の場合(図1参照)と似ているが、全体にわたって瘢痕が抑制された度合いは、単一回の投与計画の場合ではわずかに少なくなっている。このことは、TGF-β3の繰り返し投与(本発明に記載した方法以外のもの)が、瘢痕をより大きく抑制するものではなく、むしろ、当該化合物の抗瘢痕効果を幾分か消失させ得るものであることを示している。
【0124】
図3
図3は、本発明者らがヒトを対象とした研究により得た比較データを示している。この
研究では、TGFβ3を使用する対照治療(コントロール)および偽薬(プラシーボ)は2回の別個の治療で各々投与した(2つの皮内注射を使用)。当該図は、最小二乗法によるTGFβ3の治療効果、および、部位を1つの要因として分散分析(ANOVA)した95%の信頼区間を示す。治療効果を分析するために、TGFβ3瘢痕の総瘢痕スコア(ToScar)は、解剖学的に各患者のもう一方の腕と一致する偽薬(プラシーボ)総瘢痕スコア(Placebo ToScar)から減算した。総瘢痕スコア(ToScar)は、6週目、3、4、5、6および7ヶ月目からのVASスコアの合計(mm)として算出した。当該スコアは、100mmのVASラインを使用して、投薬後の6回の時点(6週目、3−7ヶ月目)で独立設置パネリスト(independent lay panel)がスコアした。
【0125】
図3は、瘢痕が、創傷の縁のcmあたり5ng、50ng、200ng、および500ng/100μlのTGFβ3を2回適用すること[創傷前および創傷後約24時間以内で]により、効果的に抑制されたことを示している。これら実験した治療方法のうち、500ngのTGF-β3を24時間隔てた2回の治療で投与する方法は、他の方法よりも著しい効果があった。
【0126】
図4
図4は、異なるTGFβ3治療計画を使用して抑制された瘢痕の異なる程度を示す3人の患者の代表的な巨視像を示す。該巨視像は、本発明者らが実施した臨床試験において、偽薬治療(プラシーボ)およびTGFβ3対照治療(コントロール)(創傷の縁のcmあたり50ng、200ng、または500ng/100μlのTGFβ3を約24時間隔てた2回の治療で投薬した)の創傷の治癒で形成された患者瘢痕から得られたものである。同量のTGFβ3を各治療時に投与したが、その使用量は図中に記載している[創傷の縁のcmあたり50ng/100μlのTGFβ3は左上に、同じ患者の偽薬(プラシーボ)は右上に;創傷の縁のcmあたり200ng/100μlのTGF-β3は左中に、同じ患者での偽薬(プラシーボ)は右中に;および創傷の縁のcmあたり500ng/100μlのβ3は左下に、同じ患者での偽薬(プラシーボ)は右下に]。
使用した最大の服用量でTGF-β3の対照治療(コントロール)を受けた創傷(左下)は、最も大きい瘢痕抑制効果が得られたことがわかる。
【0127】
図5
図5は、本発明者らが行った臨床試験において、偽薬治療(プラシーボ)およびTGF-β3対照治療(コントロール)[創傷の縁のcmあたり、100μlのTGFβ3(50ng/100μl)、または100μlの偽薬(プラシーボ)を約24時間間隔で2回投薬した]の治癒で形成した瘢痕のシリコンモールドをプロフィロメトリー(profilometry)で分析して得られた3次元シミュレーションおよび瘢痕サイズを示す。これは、本発明の治療方法ではないが、(図6と合わせることで)本発明の治療方法の驚くべき効果を示す比較データとなるものである。
【0128】
上部のパネルは、オリジナルの3次元シミュレーションを示し、下部のパネルは、見やすいように、瘢痕の境界を白抜き矢じりで示す(該瘢痕周囲の正常皮膚像の領域はそのままである)。各瘢痕の量的パラメタの範囲をプロフィロメトリーで分析したところ、TGFβ3治療による瘢痕表面積は、偽薬(プラシーボ)と比較して30.21%低減していた[TGFβ3治療した創傷瘢痕の表面積=12.823mm2;偽薬治療(プラシーボ)した創傷瘢痕の表面積=18.375mm2]。
【0129】
図6
図6は、本発明者らが行った臨床試験において、偽薬治療(プラシーボ)およびTGF-β3対照治療(コントロール)[創傷の縁のcmあたり、100μlのTGFβ3(200ng/100μl)、または100μlの偽薬(プラシーボ)を約24時間間隔で2回投薬した
]の治癒で形成した瘢痕のシリコンモールドをプロフィロメトリー(profilometry)で分析して得られた3次元シミュレーションおよび瘢痕サイズを示す。図6に示された結果に関しては、本発明に従う治療方法ではないが、その代わり、本発明に従う治療方法の驚くべき効果を示す比較データとなるものである。
【0130】
上部のパネルは、オリジナルの3次元シミュレーションを示し、下部のパネルは、見やすいように、瘢痕の境界を白抜き矢じりで示す(該瘢痕周囲の正常皮膚像の領域はそのままである)。各瘢痕の量的パラメタの範囲をプロフィロメトリーで分析し、TGFβ3治療による瘢痕表面積は、偽薬(プラシーボ)と比較して75.19%低減していた[TGFβ3治療した創傷瘢痕の表面積=3.532mm2;偽薬治療(プラシーボ)した創傷瘢痕の表面積=14.239mm2]。プロフィロメトリー分析では、また、TGFβ3治療で瘢痕の隆起した体積が、偽薬治療(プラシーボ)と比較して73.33%低減したことも示された[TGFβ3治療した創傷瘢痕の隆起体積=0.0008mm3;偽薬治療(プラシーボ)した創傷瘢痕の隆起体積=0.003mm3]。
【0131】
図7
図7は、本発明者らが行った臨床試験において、偽薬治療(プラシーボ)およびTGF-β3対照治療(コントロール)[等量のTGF-β3を互いに約24時間隔てて与える2回の治療で、創傷の縁のcmあたり、100μlのTGFβ3(500ng/100μl)、または100μlの偽薬(プラシーボ)を2回投薬した]の治癒で形成した瘢痕のシリコンモールドをプロフィロメトリー(profilometry)で分析して得られた3次元シミュレーションおよび瘢痕サイズを示す。
【0132】
上部のパネルは、オリジナルの3次元シミュレーションを示し、下部のパネルは、見やすいように、瘢痕の境界を白抜き矢じりで示す(該瘢痕周囲の正常皮膚像の領域はそのままである)。本試験において達成された最大限の瘢痕抑制は、相対的に高用量のTGF-β3を2回用いた治療に対して観察された。この手法は瘢痕抑制に効果的となり得るが、このような治療計画に関するコストは、本発明の治療方法[より総量の小さい抗瘢痕薬剤(エージェント)を使用しても効果的な瘢痕抑制が達成され得る]よりも高くなるものである。
【0133】
図8−1、図8−2、図8−3および図8−4
図8−1、図8−2、図8−3および図8−4は、本発明者らが実施した臨床試験のデータを示し、この臨床試験では、TGF-β3と偽薬(プラシーボ)を各々、2回の治療(共に試験物質を皮内注射により投与した)で投与したものであり、第1の治療は創傷前に直ちに実施し、第2の治療は創傷の閉鎖後直ちに実施した [すなわち、TGF-β3の投薬は互いに同じものであり、相互間で約1時間以内に(第1の治療は創傷前の10分前から30分前に、第2の治療は創傷後の10分後から30分後に)投与した]。図8−1、図8−2、図8−3および図8−4にその実験結果が示された治療方法は、本発明の治療方法ではないが、その代わり、本発明の方法の驚くべき効果を示す別の(治療に効果的な)治療方法である。
【0134】
図8−1、図8−2、図8−3および図8−4は、TGF-β3(「Juvista」とラベルした)および偽薬(プラシーボ)の治療効果を、平均視覚的アナログスケール(VAS)スコア(mm)で示したものである。当該スコアは、独立設置パネリスト(independent lay panel)が、投薬後の6回の時点(6週目、3−7ヶ月目)で、100mmのVASラインを使用してスコアしたものである。
【0135】
図8−1、図8−2、図8−3および図8−4は、創傷の縁のcmあたり、各々、5ng、50ng、200ng、および500ng/100μlのTGFβ3の100μlを創傷
前と創傷閉鎖直後に(すなわち、共に約1時間以内に)2回投与することにより、瘢痕が抑制されたことを示す。改善の度合いは、用量反応性があり、通常は早期の時点(6週目から)で最初に明確に表れ、これを評価期間の間(すなわち、本試験の7ヶ月目まで)維持した。
*は、TGF-β3対照治療(コントロール)を与えた創傷の治療で生じた瘢痕と、偽薬治療(プラシーボ)を与えた場合との有意差(p<0.05)を示す。
【0136】
図9−1、図9−2、図9−3および図9−4
図9−1、図9−2、図9−3および図9−4は、本発明者らが実施したさらなる臨床試験のデータを示すものであり、TGF-β3を使用して治療に効果的な幾つかの抗瘢痕治療を比較している。
【0137】
TGFβ3および偽薬(プラシーボ)は、皮内注射により2回の治療で(第1は創傷前に、第2は約24時間後に)投与した。投与したTGF-β3の量を当該治療間で変えなかったことから、本試験は本発明の治療方法とはいえない。当該図は、TGF-β3(再度、「Juvista」とラベル)および偽薬(プラシーボ)の治療効果を、平均視覚的アナログスケール(VAS)スコア(mm)で示したものである。当該スコアは、独立設置パネリスト(independent
lay panel)が、投薬後の6回の時点(6週目、3−7ヶ月目)で、100mmのVASラインを使用してスコアしたものである。
【0138】
図9−1、図9−2、図9−3および図9−4は、創傷の縁のcmあたり、各々、5ng、50ng、200ng、および500ng/100μlのTGFβ3の100μlを創傷前と創傷から約24時間後に(すなわち、共に約1時間以内に)2回投与することにより、瘢痕が抑制されたことを示す。改善の度合いは、用量反応性があり、通常は早期の時点(6週目から)で最初に明確に表れ、これが評価期間の間(すなわち、本試験の7ヶ月目まで)維持された。驚くべきことに、効果の大きさは、これまでのデータから予想されるよりもさらに大きいものであった。500ngのTGF-β3を各治療で治療される身体部位のセンチメートルあたりに与える本発明の方法は、他の治療方法(それ自体でも治療に効果的であるが)よりも驚くほど効果的であることがわかった。
*は、TGF-β3対照治療(コントロール)を与えた創傷の治療で生じた瘢痕と、偽薬治療(プラシーボ)を与えた場合との有意差(p<0.05)を示す。
【0139】
図10
図10は、ヒト患者で観察されるTGF-β3「ベルシェープ型(bell -shaped)」用量作用曲線が、実験動物でも検出できることを示している。ここで、TGF-β3は、実験ラット創傷に24時間隔てた2回の治療(第1の治療は創傷時点、または創傷前後で実施した)で与えた。各治療時点で創傷のセンチメートルあたりに与えたTGF-β3の量は、X軸(5ng/cm、50ng/cm、200ng/cmまたは500ng/cm)で示される。
図から理解されるように、低用量のTGF-β3または高用量のTGF-β3を用いた繰り返し治療は、瘢痕の抑制を有意に引き起こさなかった。
【0140】
図11
創傷治療および瘢痕のラット実験モデルを使用して、順次的な治療で投与するTGF-β3の服用量を段階的に増やして達成される瘢痕の抑制を、TGF-β3の服用量が第1の治療および第2の治療で増加しない未治療対照(コントロール)またはTGF-β3対照治療(コントロール)と比較した。
【0141】
図11は、希釈対照(コントロール)(「偽薬治療創傷(プラシーボ)」)を用いて治療した1cm切開ラット創傷の治癒で形成された瘢痕と、以下の治療計画の1つを与えた創傷の治癒で形成された瘢痕との巨視的VASスコアの平均差(mean differences)を比
較したグラフである:
i)センチメートルあたり20ngのTGF-β3を使用するTGF-β3対照治療(コントロール);
ii)センチメートルあたり100ngのTGF-β3を使用するTGF-β3対照治療(コントロール);または
iii)順次的な治療で投与され、段階的に服用量が増量されるTGF-β3を使用するTGF-β3治療。
【0142】
創傷が2回の治療を受ける各場合では、第1の治療を創傷前に、第2の治療をその約24時間後に行った。
【0143】
偽薬(プラシーボ)治療対照(コントロール)創傷では、2回の治療を行い、各治療は希釈剤で投与した。これらの偽薬(プラシーボ)治療創傷は、瘢痕のベースライン値(これを基準としてTGF-β3治療で得られる瘢痕抑制を測定できる)を提供する。「対照治療創傷(コントロール)」は、2回の治療で与えられ、各々20ng/100μlまたは100ng/100μlのいずれか(各治療とも注入したTGF-β3は同濃度である)のTGF-β3を注入した。「治療創傷」は、段階的に服用量を増量するレジメン(治療計画)を用いて投薬し、その第1の治療では20ng/100μlのTGF-β3を注入し、その第2の治療では100ng/100μlのTGF-β3を注入した。
【0144】
各動物に2つの創傷を与えたが、これらは、各動物の創傷が偽薬治療創傷(プラシーボ)だけでなく、治療創傷(例えば、順次的な治療で投与するTGF-β3の服用量を段階的に増やして治療する場合)、または対照治療創傷(コントロール)[各治療時点で服用量が同じTGF-β3を用いる対照治療(コントロール)を受けたもの]のいずれかも含まれるように用意した。これにより、同一個体内で、偽薬治療創傷(プラシーボ)の治癒で形成された瘢痕と、治療もしくは対照治療(コントロール)された創傷の治癒で形成された瘢痕との比較を可能とした。このような方法により、TGF-β3治療の抗瘢痕効果を評価する際の個体内変動(intra-subject variability)を低減することができる。[対照治療(コントロール)、または順次的な治療で段階的に服用量を増量するTGF-β3を使用する場合のいずれであっても]
創傷から70日後、瘢痕を評価してVASスコアを作成した。
【0145】
上記の図10で示された結果と合わせて、対照治療創傷(コントロール)[20ng/100μlまたは100ng/100μlのいずれか一方のTGFβ3を2回投与した]は、偽薬(プラシーボ)を投薬した対照未治療創傷(コントロール)に比べて、瘢痕の軽減が示された。このことは驚くべきことではない。なぜなら、当該TGF-β3の量は、本モデルの「ベルシェープ型(bell -shaped)」分布において、最も効き目がある領域であることが示されているからである。しかしながら、第1の治療で与えられた治療に効果的な量よりも多量のTGFβ3が第2の治療で与えられた創傷は、創傷の治癒で達成される瘢痕抑制の点から、一層大きな効果を示したことは驚くべき発見である。20ng/100μlのTGFβ3(次に100ng/100μlのTGFβ3が続く)投薬による抗瘢痕効果は、20ng/100μlまたは100ng/100μlのいずれか一方のTGFβ3を2回投与した結果に沿って得られる加法的な抗瘢痕効果から予想されるよりもさらに大きな相乗効果があった。
【0146】
当該結果から、順次的な治療で投与する服用量を段階的に増量したTGF-β3を使用する創傷の治癒で見られる瘢痕抑制は、同一服用量のTGF-β3を与える2回の治療でTGF-β3を投与することを含む別の治療レジメンで治療される創傷を使用して治療した創傷の治癒で見られるものよりも、はるかに大きいということが示された。
【0147】
図12
図12は、上記の図11に関連して述べた研究で作成した瘢痕の巨視的外観像の代表図を示す。これらの瘢痕像は、創傷後70日目のものであり、矢じりは、瘢痕の末端部の位置を示す。
【0148】
示された瘢痕は、偽薬(プラシーボ)[偽薬治療対照創傷(コントロール)となる]、またはTGF-β3[順次的な治療で投与するTGF-β3の服用量を段階的に増やした治療創傷、もしくは対照治療創傷(コントロール)となる]のいずれかを用いて、2回の治療を24時間間隔で施した1cm切開ラット創傷の治癒で形成されたものである。
【0149】
偽薬治療対照創傷(コントロール)の治癒で形成された瘢痕の代表像をパネルAで示す。バネルBは、2回の治療(各々20ng/100μlのTGFβ3注入を含む)が与えられたTGFβ3対照治療創傷(コントロール)の治癒で形成された瘢痕を示す。パネルCは、2回の治療(各々100ng/100μlのTGFβ3注入を含む)が与えられたTGFβ3対照治療創傷(コントロール)の治癒で形成された瘢痕を示す。パネルDに示す瘢痕は、順次的な治療で投与するTGF-β3の服用量を段階的に増やして治療された創傷の治癒で形成されたものである。第1の治療では、20ng/100μlのTGFβ3を注入し、第2の治療では、100ng/100μlのTGFβ3を注入した。
【0150】
該画像は、TGFβ3で治療した創傷から生じた瘢痕が、その幅が縮小し、白っぽさが減り[色素沈着低下(hypopigmentation)が軽減した]、周囲の皮膚に一層馴染んでいるという点から、偽薬治療創傷(プラシーボ)と比較して軽減したことを示している。対照TGF-β3治療創傷(コントロール)が瘢痕を低減したことを示したことは、上記の用量作用曲線を作成することにより観察された効果と一致している。図11に関連して述べたように、創傷前に20ng/100μlのTGF-β3(さらにその約24時間後に100ng/100μlのTGF-β3を注入する)を用いて段階的に服用量を増量するレジメン(治療方式)で治療した創傷は、瘢痕をかなり抑制し、結果として生じた瘢痕は、他の治療レジメンを用いて治療された創傷の治癒で形成された瘢痕よりも周囲の未創傷皮膚により近いものとなった。
【0151】
図13
図13は、偽薬対照(コントロール)と比較した場合の瘢痕の低減率を示しており、この瘢痕は、IL-10で治療した1cm切開ラット創傷の治癒で形成したもので、該IL-10は、皮内注射を用いて2回の治療(第1の治療は創傷前で、第2の治療はその役24時間後)で投与したものである。IL-10を投与した創傷は、2回のIL-10(500ng/100μl)の注入、2回のIL-10(1000ng/100μl)の注入、または段階的に服用量を増やす本発明の治療計画[第1の注入はIL-10(500ng/100μl)で、第2の注入はIL-10(1000ng/100μl)]のいずれかである。
【0152】
図13は、創傷への2回のIL-10(500ng/100μl)の適用、または2回のIL-10(1000ng/100μl)の適用のいずれの場合でも、瘢痕が効果的に抑制されたことを示している。改善の度合いについては、用量作用曲線が、500ng/100μlの服用量で最大の改善(27.5%)が見られ、さらに1000ng/100μlに向かって薬効が減少(22.8%)する用量作用曲線を想起させる。驚くべきことに、本発明の投薬(第2の治療で与えられるIL-10が、第1の治療で与えられる治療に効果的な量よりもさらに多い)を行った創傷では、500ng/100μlまたは1000ng/100μlのいずれか一方を2回投薬した場合に観察されるよりも、さらに一層大きな効き目があることが示された。IL-10(500ng/100μl)の投薬に引き続いてIL-10(1000ng/100μl)を投薬することの抗瘢痕効果は、創傷にIL-10(1000ng/100μl)を2回投薬する場合に観察される瘢痕抑制から予想されるよりもさらに大きい

【0153】
この結果により、本発明の方法で治療した創傷の治癒において観察された瘢痕の抑制は、別の治療レジメンで治療した創傷の治癒において観察されるものよりさらに大きいことが示された。
【0154】
図14
図14は、2回の投薬[IL-10(500ng/100μl)を用いる(A)か、または1回がIL-10(500ng/100μl)で、次に引き続きIL-10(1000ng/100μl)を用いる (B)] (24時間間隔で)による1cm切開ラット創傷に生じた瘢痕の巨視的外観の代表図を示す。矢じりは、創傷後70日目の瘢痕の末端部の位置を示す。
【0155】
当図は、創傷前に500ng/100μlのIL-10(さらにその約24時間後に1000ng/100μlのIL-10を注入する)を用いて段階的に服用量を増量するレジメンで治療した創傷から生じた瘢痕は、同量(500ng/100μl)のIL-10を2回投薬した創傷よりも、かなりの瘢痕抑制を示している。本発明の方法で治療した瘢痕は、その幅が縮小し、他の投薬レジメンで治療された瘢痕よりも、白っぽさが減り[色素沈着低下(hypopigmentation)が軽減した]、周囲の未創傷皮膚により近いものとなった。
【0156】
図15
図15は、2回の注入[偽薬(プラシーボ)としてIL-10(500ng/100μl)を2回注入すること、または、1回目にIL-10(500ng/100μl)を注入し、その後、2回目にIL-10(1000ng/100μl)を注入すること]で治療した1cm切開ラット創傷の炎症細胞の割合(パーセンテージ)を示したものである;IL-10または偽薬(プラシーボ)を用いて治療した創傷は、同一動物で行い、個体内比較を可能とした。創傷は、創傷後3日目の実験ラットから切開し、10% (v/v)の緩衝化された規定の生理的食塩水で固定化し、組織学的に加工してCD68で染色し、炎症細胞数を評価した。
【0157】
図15は、IL-10が、対照(コントロール)と比較して炎症細胞の創傷への浸潤を低減することを示している。本発明の方法(段階的な投薬レジメン)で治療した創傷は、別の治療レジメン(同じ服用量のIL-10を2回与える)で治療された創傷の治癒で観察されるものよりも、炎症細胞の驚くべき減少を示した。
【0158】
結論
上記の結果は、順次的な治療で投与する抗瘢痕薬剤(エージェント)の服用量を段階的に増やすことにより、瘢痕抑制の度合いが予想を超えて高められたことを明示している。これまで、2つの別個の生物学的に効果的な抗瘢痕薬剤(エージェント)(抗瘢痕成長因子TGF-β3およびIL-10)について説明してきた が、段階的な抗瘢痕薬剤(エージェント)の投薬を使用して有意に瘢痕を抑制する本発明は、広範囲な抗瘢痕薬剤(エージェント)に適用し得ることを示唆している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
創傷、または創傷が形成されようとしている部位を治療して瘢痕を抑制する薬剤として使用される抗瘢痕薬剤であって、第1の治療では、該薬剤を投与することで、該抗瘢痕薬剤の治療に効果的な第1の量が、創傷の縁の各センチメートル、または創傷が形成されようとしている部位の各センチメートルに与えられ;さらに、それに引き続く治療では、該薬剤を投与することで、該抗瘢痕薬剤の治療に効果的なさらに多くの量が、創傷の縁の各センチメートルに対してその前の治療後8時間から48時間の間に与えられる抗瘢痕薬剤。
【請求項2】
請求項1の抗瘢痕薬剤であって、TGF-β3以外の薬剤である抗瘢痕薬剤。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかの抗瘢痕薬剤であって、インターロイキン-10(IL-10)、または治療に効果的なその断片もしくはその誘導体から成る抗瘢痕薬剤。
【請求項4】
上記の請求項のうちいずれかの抗瘢痕薬剤であって、その薬剤としての使用が、第3の治療またはそれ以降の治療をさらに含む抗瘢痕薬剤。
【請求項5】
請求項4の抗瘢痕薬剤であって、第3の治療またはそれ以降の治療で与えられる抗瘢痕薬剤の量が、実質的に第2の治療で与えられる量と同じである抗瘢痕薬剤。
【請求項6】
請求項1から4のうちいずれか1つの抗瘢痕薬剤であって、第3の治療またはそれ以降の治療で与えられる抗瘢痕薬剤の治療に効果的な量が、それ以前の治療で与えられる量よりも多い抗瘢痕薬剤。
【請求項7】
請求項6の抗瘢痕薬剤であって、第2あるいはさらなる治療で創傷のセンチメートルあたりに与えられる抗瘢痕薬剤の量が、それ以前の治療で与えられる量よりも少なくとも10%多い抗瘢痕薬剤。
【請求項8】
請求項7の抗瘢痕薬剤であって、第2あるいはさらなる治療で創傷のセンチメートルあたりに与えられる抗瘢痕薬剤の量が、それ以前の治療で与えられる量よりも少なくとも50%多い抗瘢痕薬剤。
【請求項9】
上記の請求項のうちいずれかの抗瘢痕薬剤であって、治療の頻度が、約24時間間隔である抗瘢痕薬剤。
【請求項10】
上記の請求項のうちいずれかの抗瘢痕薬剤であって、薬剤が、皮膚に使用される抗瘢痕薬剤。
【請求項11】
上記の請求項のうちいずれかの抗瘢痕薬剤であって、薬剤が、循環系に使用される抗瘢痕薬剤。
【請求項12】
上記の請求項のうちいずれかの抗瘢痕薬剤であって、薬剤が、手術の結果として生じる瘢痕を抑制するために使用される抗瘢痕薬剤。
【請求項13】
上記の請求項のうちいずれかの抗瘢痕薬剤であって、薬剤が、局部注射により与えられる抗瘢痕薬剤。
【請求項14】
創傷、または創傷が形成されようとしている部位を治療して瘢痕を抑制する薬剤として使用されるインターロイキン-10 (IL-10)、または治療に効果的なその断片もしくはその
誘導体であって、第1の治療では、該薬剤が投与されることで、インターロイキン-10 (IL-10)、または治療に効果的なその断片もしくはその誘導体の治療に効果的な量が、創傷の縁の各センチメートル、または創傷が形成されようとしている部位の各センチメートルに与えられ;さらに、それに引き続く治療では、該薬剤が投与されることで、インターロイキン-10 (IL-10)、または治療に効果的なその断片もしくはその誘導体の治療に効果的なさらに多くの量が、創傷の縁の各センチメートルに対してその前の治療後8時間から48時間の間に与えられるインターロイキン-10 (IL-10)、または治療に効果的なその断片もしくはその誘導体。
【請求項15】
創傷の治癒により形成された瘢痕を抑制する方法であって、瘢痕を抑制しようとする身体部位に対して以下の治療を行うことを含む方法:
第1の治療では、創傷の縁の各センチメートル、または創傷が形成されようとしている部位の各センチメートルに、抗瘢痕薬剤の治療に効果的な第1の量を投与し;さらに、
それに引き続く治療では、創傷の形成後に、第1の治療後8時間から48時間の間に前記創傷に対して治療に効果的な量の前記抗瘢痕薬剤を与え、この量が第1の治療で与えられた抗瘢痕薬剤の治療に効果的な量よりも多い方法。
【請求項16】
請求項15の方法であって、抗瘢痕薬剤が、局部注射により与えられる方法。
【請求項17】
請求項16の方法であって、第1の治療が、創傷が形成されようとしている部位でなされ、局部注射が、形成されようとしている創傷の正中線に沿って実質的に与えられる方法。
【請求項18】
請求項16の方法であって、第1の治療が、創傷が形成されようとしている部位でなされ、局部注射が、形成されようとしている創傷の各々の縁に与えられる方法。
【請求項19】
請求項16の方法であって、第1およびまたは第2の治療が創傷の縁でなされ、局部注射が創傷の縁の半センチメートル以内で投与される方法。
【請求項20】
請求項15から19のうちいずれか1つの方法であって、第1および/または第2の治療が、創傷の各々の末端部を超えた少なくとも半センチメートルまで広げた領域に、抗瘢痕薬剤を与えることを含む方法。
【請求項21】
創傷の治癒により形成された瘢痕を抑制する方法であって、瘢痕を抑制しようとする身体部位に対して以下の治療を行うことを含む方法:
第1の治療では、創傷が形成されようとしている部位の各センチメートルに対して、抗瘢痕薬剤の治療に効果的な第1の量を与え;さらに、
それに引き続く治療では、創傷の形成後に、第1の治療後8時間から48時間の間に、前記創傷に対して治療に効果的な量の前記抗瘢痕薬剤を与え、この量が第1の治療で与えられた抗瘢痕薬剤の治療に効果的な量よりも多い方法。
【請求項22】
創傷の治癒により形成された瘢痕を抑制する方法であって、瘢痕を抑制しようとする身体部位に対して以下の治療を行うことを含む方法:
第1の治療では、創傷の縁の各センチメートルまたは将来的な創傷の縁の各センチメートルに対して、抗瘢痕薬剤の治療に効果的な第1の量を与え;さらに、
それに引き続く治療では、創傷の形成後に、第1の治療後8時間から48時間の間に、前記創傷に対して治療に効果的な量の前記抗瘢痕薬剤を与え、この量が第1の治療で与えられた抗瘢痕薬剤の治療に効果的な量よりも多い方法。
【請求項23】
請求項15から22のうちいずれか1つの方法であって、さらに第3の治療またはそれ
以降の治療を含む方法。
【請求項24】
請求項23の方法であって、第3の治療またはそれ以降の治療で与えられる抗瘢痕薬剤の量が、実質的に第2の治療で与えられる量と同じである方法。
【請求項25】
請求項15から23のうちいずれか1つの方法であって、第3の治療またはそれ以降の治療で与えられる抗瘢痕薬剤の治療に効果的な量が、それ以前の治療で与えられる量よりも多い方法。
【請求項26】
請求項25の方法であって、第2あるいはさらなる治療で創傷のセンチメートルあたりに与えられる抗瘢痕薬剤の量が、それ以前の治療で与えられる量よりも少なくとも10%多い方法。
【請求項27】
請求項26の方法であって、第2あるいはさらなる治療で創傷のセンチメートルあたりに与えられる抗瘢痕薬剤の量が、それ以前の治療で与えられる量よりも少なくとも50%多い方法。
【請求項28】
請求項15から27のうちいずれか1つの方法であって、治療の頻度が、約24時間間隔である方法。
【請求項29】
請求項15から28のうちいずれか1つの方法であって、創傷が、皮膚の創傷である方法。
【請求項30】
請求項15から29のうちいずれか1つの方法であって、創傷が、循環系の創傷である方法。
【請求項31】
請求項15から30のうちいずれか1つの方法であって、創傷が、手術の結果として生じるものである方法。
【請求項32】
請求項15から31のうちいずれか1つの方法であって、抗瘢痕薬剤が、局部注射により身体部位に与えられる方法。
【請求項33】
請求項15から32のうちいずれか1つの方法であって、抗瘢痕薬剤が、薬学的に許容し得る溶液であり、その約100μlが、治療する身体部位のセンチメートルあたりに投与される方法。
【請求項34】
請求項21から33のうちいずれか1つの方法であって、第1の治療が、創傷の形成前になされる方法。
【請求項35】
請求項34の方法であって、第1の治療が、創傷形成前の1時間以内になされる方法。
【請求項36】
請求項21から33のうちいずれか1つの方法であって、第1の治療が、創傷の形成後になされる方法。
【請求項37】
請求項36の方法であって、第1の治療が、創傷形成後の2時間以内になされる方法。
【請求項38】
請求項21から33のうちいずれか1つの方法であって、第1の治療が、創傷の閉塞後になされる方法。
【請求項39】
請求項38の方法であって、第1の治療が、創傷形成後の2時間以内になされる方法。
【請求項40】
創傷治癒に関連する瘢痕を抑制するための適切な治療計画を選択する方法であって、以下のことを含む方法:
そのような瘢痕の抑制を必要とする個体が、第1の治療後8時間から48時間で第2の治療を完遂できるかを決定し;
該個体が第1の治療後8時間から48時間で第2の治療を完遂できる場合には、以下のような瘢痕を抑制しようとする身体部位の治療を含む治療計画を選択し:
第1の治療では、創傷の縁の各センチメートル、または創傷が形成されようとしている部位の各センチメートルに対して、抗瘢痕薬剤の治療に効果的な第1の量を与え;さらに、
第2の治療では、創傷の形成後であって、第1の治療後8時間から48時間の間に、前記創傷に対して治療に効果的な量の前記抗瘢痕薬剤を与え、この量が第1の治療で与えられた抗瘢痕薬剤の治療に効果的な量よりも多い方法;または
該個体が第1の治療後8時間から48時間で第2の治療を完遂できない場合には、以下のことを含む治療計画を選択し:
単一の治療で、抑制しようとする瘢痕が含まれる創傷の縁の各センチメートル、または創傷が形成されようとしている部位の各センチメートルに対して、単一の治療で瘢痕を抑制するとして認められた量の抗瘢痕薬剤を与える方法。
【請求項41】
創傷治癒に関連する瘢痕を抑制するために使用されるキットであって、創傷、または創傷が形成されようとしている部位に、8時間から48時間の間隔を空けて別々に投与される抗瘢痕薬剤から成る少なくとも第1および第2のバイアルを含むキット。
【請求項42】
創傷治癒に関連する瘢痕を抑制するために使用されるキットであって、以下のものを含むキット:
抗瘢痕薬剤(エージェント)を含有する第1の量から成る組成物であって、当該量は、創傷、または創傷が形成されようとしている部位に対して、第1の治療で投与されるようになっている組成物;
抗瘢痕薬剤(エージェント)を含有する組成物の第2の量から成る組成物であって、当該量は、創傷に対して、第2の治療で投与されるようになっている組成物;
該組成物の第1および第2の量の投与について、互いに8時間から48時間の間隔を空けるとともに、第2の治療で創傷に投与される抗瘢痕薬剤の治療に効果的な服用量が、第1の治療で投与されたものよりも多いことに関する使用説明書。
【請求項43】
請求項41または42のいずれかのキットであって、抗瘢痕薬剤としてのIL-10、または治療に効果的なその断片もしくはその誘導体から成るキット。
【請求項44】
請求項42または43のいずれかのキットであって、組成物の第1および第2の量が、各々異なる第1および第2の組成物から成り、該第2の組成物が、該第1の組成物よりも濃度が高い抗瘢痕薬剤から成るキット。
【請求項45】
請求項42のキットであって、第1および第2の組成物が実質的に同濃度の抗瘢痕薬剤を含有するとともに、使用説明書において、第2の治療で投与される第2の組成物の分量が、第1の治療で投与される第1の組成物の分量よりも多いことが示されるキット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図8−1】
image rotate

【図8−2】
image rotate

【図8−3】
image rotate

【図8−4】
image rotate

【図9−1】
image rotate

【図9−2】
image rotate

【図9−3】
image rotate

【図9−4】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図13】
image rotate

【図15】
image rotate

【図17】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図12】
image rotate

【図14】
image rotate

【図16】
image rotate


【公表番号】特表2011−506414(P2011−506414A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−537510(P2010−537510)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際出願番号】PCT/GB2008/004081
【国際公開番号】WO2009/074797
【国際公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(500588178)レノボ・リミテッド (17)
【氏名又は名称原語表記】RENOVO LTD.
【Fターム(参考)】