説明

癌のマーカーとしてのセプラーゼ

本発明は、癌の評価を補助する方法に関する。異なる癌の型の万能マーカーとしてのヒト線維芽細胞活性化タンパク質(FAP/セプラーゼ)の使用を開示する。セプラーゼは、肺系の癌もしくは肺癌(LC)または結腸癌、例えば、非小細胞肺癌(NSCLC)または結腸直腸癌(CRC)の評価だけでなく、おそらく他の特定の型の癌の評価も補助する。かかる特定の癌の型は、例えば、食道、頭頚部癌、胃癌、胆管癌、膵臓癌、腎臓癌、頸部癌、卵巣癌、乳癌、膀胱癌、子宮内膜癌または前立腺癌である。さらに、本発明は、特に、個体由来の液体試料から、前記試料中のセプラーゼを測定することにより癌を評価するための方法に関する。セプラーゼの測定は、例えば、癌の早期検出または手術を受ける患者のサーベイランスに使用され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(説明)
本発明は、癌の評価の補助方法に関する。本発明は、種々の癌の型の普遍的なマーカーとしてのヒト線維芽細胞活性化タンパク質(FAP/セプラーゼ)の使用を開示する。セプラーゼは、肺性癌もしくは肺癌(LC)または結腸癌、例えば非小細胞肺癌(NSCLC)または結腸直腸癌(CRC)の評価だけではなく、おそらく他の特定の型の癌の評価も補助する。かかる特定の癌の型は、例えば食道、頭頸部癌、胃癌、胆管癌、膵臓癌、腎臓癌、頸部(cervix)癌、卵巣癌、乳癌、膀胱癌、子宮内膜癌または前立腺癌である。さらに、本発明は、特に、個体由来の液体試料中のセプラーゼの測定による液体試料からの癌の評価方法に関する。セプラーゼの測定は、例えば癌の早期検出または手術を受ける患者のサーベイランスに使用され得る。
【背景技術】
【0002】
検出および治療の進歩にも関わらず、癌は主要な公衆衛生課題のままである。癌細胞は、癌関連マーカータンパク質の生成を特徴とする。癌関連タンパク質は、癌細胞を有する個体の組織および体液の両方に見られる。これらのレベルは、通常、癌進行の初期病期で低く、疾患進行中に増大し、まれな場合にのみタンパク質が疾患進行の経過中に減少したレベルを示して観察される。これらのタンパク質の感度の高い検出は、癌の診断、特に癌の初期病期の診断の有利で見込みのあるアプローチである。最も罹病率が高い癌の型は、乳癌(BC)、肺癌(LC)および結腸直腸癌(CRC)である。
【0003】
固形腫瘍のための最も重要な治療アプローチは、
a)腫瘍の外科切除、
b)化学療法、
c)生物製剤、例えば抗腫瘍抗体または抗脈管形成抗体を用いた治療、および
d)上記方法の組み合わせ
である。
【0004】
腫瘍の外科切除は、初期病期の固形腫瘍の第一線治療として広く受け入れられている。しかし、ほとんどの癌は、症状が出た場合、即ち患者が既に疾患進行のかなり後期病期にある場合にのみ検出される。
【0005】
癌の病期分類は、程度、進行、および重症度の点での疾患の分類である。これは、一般化が予後および治療の選択について行われ得るように、癌患者を分類する。
【0006】
CRCの種々の病期がデュークス病期A〜Dによって分類されていた。今日、TNMシステムは、癌の解剖学的程度の最も広く使用される分類である。これは、国際的に受け入れられた統一病期分類システムを表す。3つの基本変数: T(原発性腫瘍の程度)、N(限局的リンパ節の状態)およびM(遠位転移の存在または非存在)がある。TNM基準は、UICC(国際対癌連合), Sobin, L.H., Wittekind, Ch. (編): TNM Classification of Malignant Tumours, 第6版, 2002)によって公表されている。TNM状態が決定されると、患者は、I〜IVのローマ数字で示される病期に分類され、IVが最も進行した病期となる。TNM病期分類およびUICC病期は、Sobin L.H. and Wittekind (編)上掲から得られる以下の表に示されるように互いに対応する。
【0007】
TNM病期分類およびUICC病期の相関:

【0008】
特に重要なことは、例えばCRCの早期診断癌が非常に良好な予後に解釈されることである。CRCにおいて、結腸直腸の悪性腫瘍は、良性腫瘍、即ち腺腫から生じる。従って、最良の予後は腺腫病期で診断される患者にある。病期Tis、N0、M0またはT1〜3; N0; M0ほどの早期で診断された患者は、適切に治療されると、遠位転移が既に存在するときに診断された患者のわずか10%の5年生存率と比べて、診断後の90%を超える5年の生存機会を有する。
【0009】
現在の検出方法、例えば、x線または核共鳴画像化などの画像化方法は、理論的に、一般的なスクリーニングツールとしての使用に少なくとも部分的に適切であり得る。しかし、これらは、非常に費用がかかり、多数の被験体、特になにも腫瘍症状がない被験体のマススクリーニングにおける一般的で広範な使用のための健康管理システムにはには価格が手頃ではない。
【0010】
従って、本発明の課題は、腫瘍評価の単純で費用効率的な手順を提供すること、例えば癌を有すると疑われる個体を同定することである。この目的のために、体液、例えば血液または血清または血漿で検出可能な一般腫瘍マーカーあるいはかかるマーカーのパネルが望ましい。
【0011】
多くの血清腫瘍マーカーが既に臨床使用にある。例えば、サイトケラチン19(CYFRA21-1)の可溶性30kDa断片、癌胎児性抗原(CEA)、神経特異的エノラーゼ(NSE)および扁平上皮癌抗原(SCC)が最も顕著なLCマーカーである。しかし、これらのいずれもがスクリーニングツールに必要な感度および特異性の基準を満たさない(Thomas, L., Labor und Diagnose (2000) TH Books Verlagsgesellschaft, Frankfurt/Main, Germany)。
【0012】
臨床で有用であるために、単一マーカーとしての新規診断マーカーが、当該技術分野で公知の他のマーカーに匹敵すべきであるか、または該マーカーよりも優れているべきである。即ち、それぞれ単独でまたは1つ以上の他のマーカーと組み合わせて使用される場合のいずれかで、新規マーカーが診断感度および/または特異性における進歩をもたらすべきである。試験の診断感度および/または特異性は受信者動作特性によって最も評価され、これを以下で詳細に記載する。
【0013】
全血、血清または血漿は、臨床ルーチンで最も広く使用される試料の供給源である。信頼性の高い癌検出を補助し、または初期予後情報を提供する初期腫瘍マーカーの同定によって、この疾患の診断および管理を大いに補助する方法がもたらされる。従って、癌、特にLCのインビトロ評価を改善するための緊急の臨床必要性が存在する。早期に診断される患者の生存機会が疾患の進行した段階で診断される患者と比べて非常に高いために、癌、例えばLCの早期診断を改善することが特に重要である。
【0014】
肺癌における生化学マーカーの臨床有用性が最近概説された(Duffy, M.J., Critical Reviews in Clinical Laboratory Sciences 38 (2001) 225-262)。
【0015】
CYFRA21-1は、肺癌について現在公知の腫瘍マーカーのうちで最良のものであると現在みなされている。臓器特異的ではないが、これは主に肺組織で見られる。肺癌のためのCYFRA21-1の感度は、他の良性肺疾患に対して95%の特異性で46〜61%であると記載されている。CYFRA21-1の増大した血清レベルはまた、顕著な良性肝臓疾患、腎臓機能不全および浸潤性膀胱癌と関連している。CYFRA21-1試験は、手術後治療サーベイランスに推奨される。
【0016】
CEAは癌胎児抗原の群に属し、通常胚発生中に生成される。CEAは、臓器特異的ではなく結腸直腸癌のモニタリングに主に使用される。悪性疾患の他にも、いくつかの良性疾患、例えば肝硬変、気管支炎、膵臓炎および自己免疫疾患がCEA血清レベルの増大と関連している。良性肺疾患に対する95%特異性で、肺癌の感度は29〜44%であると報告されている。CEAの好ましい使用は、肺癌の治療サーベイランスである。
【0017】
NSEはSCLCの腫瘍マーカーである。一般的に、NSE血清レベルの増大は、神経外胚葉腫瘍および神経内分泌腫瘍に関連していることが分かっている。また、増大した血清レベルが、良性肺疾患および脳疾患、例えば髄膜炎または脳の他の炎症疾患および頭部への外傷損傷を有する患者で見られる。95%特異性でのSCLCの感度が60〜87%であると報告されているが、NSCLCのNSE試験の性能は不良である(7〜25%の感度)。NSEは、SCLCの治療サーベイランスに推奨される。
【0018】
マーカーのプロファイリングに関して、および肺癌の診断の改善を目的として、CYFRA21-1、NSEおよび一般的な炎症マーカーのC反応性タンパク質(CRP)の血清レベルを組み合わせるファジー論理系分類アルゴリズムを使用する方法が公表された(Schneider, J., ら、Int. J. Clin. Oncol. 7 (2002) 145-151)。筆者らは、95%の特異性で92%の感度を報告している。しかし、この研究で、例えば単一腫瘍マーカーとしてCYFRA21-1の感度は、95%の特異性で72%であると報告され、これは多くの他の報告された研究よりも有意に高い。Duffy, M.J., in Critical Reviews in Clinical Laboratory Sciences 38 (2001) 225-262は、46%〜61%の感度を報告している。Schneiderらによって達成されたこの普通ではない高性能は、ある疑いを引き起こすが、いくつかの事実によるものであり得る。第一に、対照患者の集団は患者集団よりも若いように思われ、即ち両方の集団は年齢で十分適合しておらず、患者集団は多くが後期病期を含む。第二におよびさらにより重要にも、アルゴリズムの性能がファジー論理修飾子の決定に使用された訓練集団の試料について調べられている。したがって、これらの修飾子は、厳密に言うとこの集団に「仕立て」たものであって、独立した確認集団には適用されない。通常の状況下で、大きく、独立し、かつ十分にバランスがとれた確認集団に適用される同じアルゴリズムが有意に減少した全体性能をもたらすことが予期されるはずである。
【発明の概要】
【0019】
本発明の課題は、癌疾患の評価に使用され得る生化学マーカーが同定され得るかどうかを調べることであった。特に、本発明の発明者らは、体液中で、肺、乳房、結腸、前立腺および腎臓の癌などの種々の癌の型を評価するための生化学マーカーが同定され得るかどうかを調べた。本発明の非常に好ましい局面において、肺癌(LC)または結腸直腸癌(CRC)の評価のための生化学マーカーの同定が調べられた。
【0020】
驚くべきことに、マーカーセプラーゼの使用は、当該技術分野の水準で現在公知のマーカーの問題のいくつかを少なくとも部分的に克服し得ることが見出された。
【0021】
本発明は、セプラーゼポリペプチドおよび/またはその断片の濃度および/または活性を試料中で測定する工程、ならびに癌の評価において測定結果、特に測定された濃度および/または活性を使用する工程を含む、インビトロでの癌の評価方法に関する。
【0022】
驚くべきことに、試験試料中のセプラーゼポリペプチドおよび/またはその断片の濃度および/または活性の減少は、癌のリスクおよび/または発生と関連することが見出された。さらに、セプラーゼは、単一型の癌に特異的なマーカーではなく、異なる型の癌のマーカー、即ち一般腫瘍マーカーであることが見出された。セプラーゼは腫瘍形成プロセスにかなり特異的であるように思われるために、新規腫瘍マーカーセプラーゼは、様々なクラスの腫瘍型について臨床で有用である可能性が高い。
【0023】
本発明の方法は、多くの種々の型の癌の評価に適切である。正常対照と比べて、試料中のセプラーゼまたはその断片の濃度および/または活性の減少は、特定の癌型、例えば肺、結腸、食道、頭頸部、胃、胆管、膵臓、腎臓、頸部、卵巣、乳房、膀胱、子宮内膜、および前立腺の癌のそれぞれで見られた。
【0024】
本発明の好ましい態様によれば、セプラーゼの濃度および/または活性が、特定の癌型、例えば肺、結腸、食道、頭頸部、胃、胆管、膵臓、腎臓、頸部、卵巣または乳房の癌をインビトロで評価するために試料中で測定される。
【0025】
本発明の別の好ましい態様によれば、セプラーゼの濃度および/または活性が、癌、例えば肺、結腸、食道、頭頸部、胃、胆管、膵臓または腎臓の癌をインビトロで評価するために試料中で測定される。
【0026】
本発明の別の好ましい態様によれば、セプラーゼの濃度および/または活性が、癌、例えば肺、結腸、食道、頭頸部、胃または胆管の癌をインビトロで評価するために試料中で測定される。
【0027】
本発明の別の好ましい態様によれば、セプラーゼの濃度および/または活性が、癌、例えば肺癌(LC)または結腸直腸癌(CRC)をインビトロで評価するために試料中で測定される。
【0028】
本発明の別の好ましい態様によれば、セプラーゼの濃度および/または活性が、癌、例えば肺癌(LC)をインビトロで評価するために試料中で測定される。
【0029】
本発明の一態様は、おそらく癌のない個体と、「疑いのある」症例として分類され得る個体とを区別するための集団のマススクリーニングに関する。後者の群の個体は、次に例えば画像化方法または他の適切な手段により、さらなる診断手順に供され得る。
【0030】
本発明のさらなる態様は、一般的な癌の診断に適切な腫瘍マーカーパネルまたは特定の腫瘍型、例えば肺癌または結腸癌の診断に適切な腫瘍マーカーパネルの改善に関する。
【0031】
本発明はまた、セプラーゼおよび癌に特異的な1つ以上の他のマーカーの濃度および/または活性を試料中で測定する工程、ならびに測定された測定結果、特に濃度を癌の評価において使用する工程を含む、生化学マーカーによるインビトロでの癌の評価方法に関する。セプラーゼと組み合わせた使用に好ましいマーカーは、一方で、一般腫瘍マーカー(即ち、単一腫瘍型に特異的ではないマーカー)または他方で特異的腫瘍マーカー(単一腫瘍型に特異的なマーカー)のマーカーである。癌、例えば肺癌または結腸癌の評価に好ましいマーカーは、Cyfra21-1、CEA、NSE、CA19-9、CA125、PSA、ASC、S100A12およびNNMTである。これらのマーカーは、個々にそれぞれまたはセプラーゼと共に任意の組み合わせで使用され得る。
【0032】
本発明のこの方法により癌が評価される場合、それぞれの癌の1つ以上の他のマーカーは、好ましくはCyfra21-1、CEA、NSE、CA19-9、CA125、PSA、ASC、S100A12およびNNMTからなる群より選択される。
【0033】
したがって、好ましい態様において、本発明はまた、癌、例えば肺癌および/または結腸癌の評価における、マーカーセプラーゼならびに少なくとも1つの他の腫瘍マーカー、例えばCyfra21-1、CEA、NSE、CA19-9、CA125、PSA、ASC、S100A12およびNNMTを含むマーカーパネルの使用に関する。
【0034】
好ましくは、本発明は、セプラーゼおよび/またはその断片ならびに1つ以上の他の癌マーカー、例えば肺癌または結腸癌の1つ以上の他のマーカーの濃度および/または活性を試料中で測定する工程、ならびに測定された測定結果、特に濃度を癌の評価において使用する工程を含む、生化学マーカーによるインビトロでの癌、例えば肺癌または結腸癌の評価方法に関する。1つ以上の他のマーカーは、Cyfra21-1、CEA、NSE、CA19-9、CA125、PSA、ASC、S100A12およびNNMTからなる群より選択されることが好ましい。
【0035】
本発明はまた、好ましい態様において、癌、詳しくはLCまたは結腸癌、より詳しくはNSCLCまたは結腸直腸癌の評価における、少なくともセプラーゼおよびCYFRA21-1を含むマーカーパネルの使用に関する。
【0036】
本発明はまた、癌、詳しくはLCまたは結腸癌、より詳しくはNSCLCまたは結腸直腸癌の評価における、少なくともセプラーゼおよびCEAを含むマーカーパネルの使用に関する。
【0037】
本発明はまた、癌、詳しくはLCまたは結腸癌、より詳しくはNSCLCまたは結腸直腸癌の評価における、少なくともセプラーゼおよびSCCを含むマーカーパネルの使用に関する。
【0038】
本発明はまた、セプラーゼおよび/またはその断片の濃度および/または活性の減少が癌を示す、癌の評価におけるセプラーゼポリペプチドおよび/またはその断片の使用に関する。
【0039】
本発明はまた、いくつかの特定の型の癌、詳しくは肺、結腸、食道、頭頸部、胃、胆管、膵臓、腎臓、頸部、卵巣、乳房、膀胱、子宮内膜または前立腺の癌の評価におけるセプラーゼの使用に関する。
【0040】
本発明はまた、セプラーゼおよび/またはその断片の濃度および/または活性の減少が癌を示す、癌の評価におけるセプラーゼポリペプチドおよび/またはその断片に対する抗体の使用に関する。
【0041】
本発明はまた、セプラーゼおよび/またはその断片の濃度および/または活性の減少が癌を示す、癌の評価におけるセプラーゼポリペプチドおよび/またはその断片の酵素活性を測定するための試薬の使用に関する。
【0042】
本発明はまた、少なくとも、セプラーゼポリペプチドおよび/またはその断片ならびに癌の1つ以上の他のマーカーを特異的に測定するために必要な試薬を含む、本発明の方法を行うためのキットを提供する。
【0043】
本発明はまた、少なくとも、セプラーゼならびに癌の1つ以上のマーカー、例えば上記のような肺、結腸、食道、頭頸部、胃、胆管、膵臓、腎臓、頸部、卵巣、乳房、膀胱、子宮内膜または前立腺の癌のマーカーを特異的に測定するために必要な試薬を含み、他のマーカーが個々にまたは任意の組み合わせでそれぞれ使用され得る、本発明の方法を行うためのキットを提供する。
【0044】
本発明はまた、少なくとも、セプラーゼおよびCYFRA21-1それぞれを特異的に測定するために必要な試薬ならびに任意に、測定を行うための補助試薬を含む、本発明の方法を行うためのキットを提供する。
【0045】
本発明はまた、少なくとも、セプラーゼおよびCEAそれぞれを特異的に測定するために必要な試薬ならびに任意に、測定を行うための補助試薬を含む、本発明の方法を行うためのキットを提供する。
【0046】
本発明はまた、少なくとも、セプラーゼおよびSCCそれぞれを特異的に測定するために必要な試薬ならびに任意に、測定を行うための補助試薬を含む、本発明の方法を行うためのキットを提供する。
【0047】
好ましい態様において、本発明は、(a)セプラーゼポリペプチドおよび/またはその断片の濃度および/または活性、(b)任意に癌の1つ以上の他のマーカーの濃度および/または活性を試料中で測定する工程、ならびに(c)癌の評価において工程(a)および任意に工程(b)の測定結果を使用する工程を含み、セプラーゼおよび/またはその断片の濃度および/または活性の減少が癌を示す、インビトロでの癌の評価方法に関する。
【0048】
用語「測定」は、好ましくは試料中のセプラーゼポリペプチドの定性的、半定量的、または定量的測定を含む。好ましい態様において、測定は、半定量的測定であり、即ち、セプラーゼの濃度および/または活性がカットオフ値より上か下にあるかどうかを測定する。当業者に認識されるように、はい(存在)またはいいえ(非存在)アッセイで、アッセイ感度は、通常、カットオフ値に適合するように設定される。例えばカットオフ値は、健常個体の群の試験から決定され得る。好ましくは、カットオフは90%の特異性をもたらすように設定され、また好ましくはカットオフは95%の特異性をもたらすように設定され、あるいはまた好ましくはカットオフは98%の特異性をもたらすように設定される。カットオフ値より下の値は、例えば癌の存在を示し得る。特に、カットオフ値より下の値は、例えば肺、結腸、食道、頭頸部、胃、胆管、膵臓、腎臓、頸部、卵巣、乳房、膀胱、子宮内膜または前立腺の癌の存在を示し得る。さらに好ましい態様において、セプラーゼの測定は、定量的測定である。さらなる態様において、セプラーゼの濃度および/または活性は、基礎にある診断問題、例えば疾患の病期、疾患進行、または治療への応答などに相関させられる。
【0049】
ヒトセプラーゼ(とりわけ線維芽細胞活性化タンパク質(FAP))は、ゼラチナーゼおよびジペプチジルペプチダーゼ活性を有する170kDa膜結合糖タンパク質である。これは、配列番号1に示される配列(図3)を特徴とする2つの同一単量体単位(Uni Prot KBデータベースアクセッション番号P 27487)からなる。セプラーゼ単量体は、766アミノ酸を含み、見かけ分子量97kDa(SDS-PAGE)を有する(Pineiro-Sanchezら、J. Biol. Chem. 272 (1997) 7595-7601; Parkら、J. Biol. Chem. 274 (1999) 36505-36512)。可溶性形態のセプラーゼは、抗プラスミン切断酵素APCEである(Leeら、Blood 103 (2004) 3783-3788; Leeら、Blood 107 (2006) 1397-1404)。APCEのN末端アミノ酸配列は、セプラーゼの残基24〜38に相当し、セプラーゼは線維芽細胞の細胞質内で最初の6つのN末端残基、続いて20残基の膜貫通ドメインおよび734残基の細胞外C末端触媒ドメインを有すると予測された(Goldsteinら、Biochim. Biophys. Acta. 1361 (1997) 11-19; Scanlanら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91 (1994) 5657-5661)。
【0050】
Pineiro-Sanchezら(上掲)は、セプラーゼの発現の増大がヒトメラノーマおよび癌細胞の浸潤性表現型と相関することを発見した。Henryら、Clin. Cancer Res. 13 (2007) 1736-1741は、間質セプラーゼの高いレベルを有するヒト結腸腫瘍患者が攻撃性疾患進行および転移または再発の発症の潜在性を有する可能性が高いことを記載している。
【0051】
したがって、上記の当該技術の文書のいずれもが、体液中のセプラーゼポリペプチドおよび/またはその断片の濃度および/または活性の減少が癌を示すことを示唆していない。
【0052】
驚くべきことに、体液中のセプラーゼポリペプチドおよび/またはその断片、特にAPCEの濃度および/または活性、例えば酵素活性の測定によって、癌、例えば肺、結腸、食道、頭頸部、胃、胆管、膵臓、腎臓、頸部、卵巣、乳房、膀胱、子宮内膜または前立腺の癌の評価が可能になることが本発明で見出された。さらにより驚くべきことに、正常対照と比べて、試料中のセプラーゼまたはその断片の濃度および/または活性の減少が癌のリスクまたは発生を示すことが見出された。
【0053】
本明細書で使用される場合、以下の用語のそれぞれは、本項のものと関連する意味を有する。
【0054】
冠詞「a」および「an」は、1つまたは1つより多く(即ち少なくとも1つ)の冠詞の文法的目的語を示すために本明細書で使用される。例として、「マーカー(a marker)」は、1つのマーカーまたは1つより多くのマーカーを意味する。用語「少なくとも」は、任意に1つ以上のさらなる目的語が存在し得ることを示すために使用される。例として、少なくとも(マーカー)セプラーゼおよびCYFRA21-1を含むマーカーパネルは、任意に1つ以上の他のマーカーを含み得る。
【0055】
表現「1つ以上」は、1〜50、好ましくは1〜20、また好ましくは2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、または15を示す。
【0056】
用語「マーカー」または「生化学マーカー」は、本明細書で使用される場合、患者の試験試料を分析するための標的として使用される分子のことをいう。かかる分子標的の例は、タンパク質またはポリペプチドである。本発明でマーカーとして使用されるタンパク質またはポリペプチドは、前記タンパク質の天然バリアントおよび前記タンパク質または前記バリアントの断片、特に免疫学的に検出可能な断片を含むことが考えられる。免疫学的に検出可能な断片は、好ましくは前記マーカーポリペプチドの少なくとも6、7、8、10、12、15または20個の連続アミノ酸を含む。当業者は、細胞によって放出されるタンパク質または細胞外マトリックスに存在するタンパク質が、例えば炎症中に損傷され得、かかる断片に分解または切断され得ることを理解する。特定のマーカーは不活性化形態で合成され、次にタンパク質分解によって活性化され得る。当業者に認識されるように、タンパク質またはその断片が複合体の一部としても存在し得る。また、かかる複合体は、本発明の意味において、マーカーとして使用され得る。マーカーポリペプチドのバリアントは、同じ遺伝子によってコードされるが、例えば選択的mRNAまたはプレmRNAのプロセッシングの結果として等電点(=PI)または分子量(=MW)あるいは両方で異なり得る。バリアントのアミノ酸配列は、対応するマーカー配列に95%以上同一である。また、もしくはあるいは、マーカーポリペプチドまたはそのバリアントは、翻訳後修飾を有し得る。翻訳後修飾の非限定的な例は、グリコシル化、アシル化、および/またはリン酸化である。
【0057】
セプラーゼ:
本発明によれば、用語「セプラーゼポリペプチドおよび/またはその断片」とは、単量体または多量体、特に二量体ポリペプチドのことをいう。さらに、用語「セプラーゼポリペプチドおよび/またはその断片」とは、特に可溶性形態のセプラーゼおよび/またはその断片、特に抗プラスミン切断酵素(APCE)、ならびに
別のポリペプチドとの複合体の形態で存在するセプラーゼおよび/またはセプラーゼ断片のことをいう。
【0058】
セプラーゼポリペプチド、特に可溶性形態のセプラーゼポリペプチドおよび/またはその断片は、好ましくは適切な試料中、特に体液中で検出される。好ましい試料は、体液、例えば血液、血漿、血清、痰、尿および糞便等である。好ましくは、試料は、ヒト被験体、例えば腫瘍患者または腫瘍のリスクがあるヒトあるいは腫瘍を有すると疑われるヒトに由来する。
【0059】
本発明によれば、セプラーゼポリペプチドおよび/またはその断片の濃度および/または活性が測定される。一態様において、マーカーセプラーゼは、特異的結合剤の使用によって試料から特異的に測定される。
【0060】
特異的結合剤は、例えばセプラーゼのレセプター、セプラーゼに結合するレクチン、またはセプラーゼに対する抗体である。特異的結合剤は、その対応する標的分子に対して少なくとも107l/molの親和性を有する。特異的結合剤は、好ましくはその標的分子に対して108l/molあるいはまた好ましくは109l/molの親和性を有する。当業者に認識されるように、用語特異的は試料中に存在する他の生体分子がセプラーゼに特異的な結合剤に有意に結合しないことを示すために使用される。好ましくは、標的分子以外の生体分子に結合するレベルは、標的分子に対する結合親和性の最大わずか10%以下、わずか5%以下、わずか2%以下、またはわずか1%以下それぞれの結合親和性である。好ましい特異的結合剤は、親和性および特異性の上記最小基準の両方を満たす。
【0061】
特異的結合剤は、好ましくはセプラーゼと反応性である抗体である。用語抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、かかる抗体の抗原結合断片、単鎖抗体ならびに抗体の結合ドメインを含む遺伝子構築物のことをいう。
【0062】
特異的結合剤の上記基準を満たす任意の抗体断片が使用され得る。抗体は、当該技術の水準の方法によって、例えばTijssen, P., Practice and theory of enzyme immunoassays, 11, Elsevier Science Publishers B.V., Amsterdam, 本全体、特に43-78頁)に記載されるように作製される。また、当業者は、抗体の特異的単離に使用され得る免疫吸着剤に基づく方法を知っている。これらの手段によって、ポリクローナル抗体の質および従って免疫アッセイの性能が高められ得る(Tijssen, P., 上掲、108-115頁)。
【0063】
本発明に開示される成果のために、ウサギにおいて惹起されたポリクローナル抗体が使用され得る。しかし、明らかに、異なる種、例えばラットまたはモルモットのポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体も使用され得る。モノクローナル抗体は任意の必要量で一定した性質で生成され得るために、これらは臨床ルーチンのアッセイの開発における理想的なツールを表す。本発明の方法におけるセプラーゼに対するモノクローナル抗体の作製および使用のそれぞれは、さらに他の好ましい態様を表す。セプラーゼの検出に適切な抗体の好ましい例が、Pineiro-Sanchezら、上掲に開示されており、例えば抗体D8、D28およびD43である。
【0064】
ここで、当業者に認識されるように、セプラーゼは、癌、好ましくは肺癌または結腸癌の評価において有用なマーカーとして同定された。本発明の成果に匹敵する結果に達するために様々な免疫診断方法が使用され得る。例えば、抗体を作製するための代替的戦略が使用され得る。かかる戦略は、中でも免疫化のためのセプラーゼのエピトープを表す合成ぺプチドの使用を含む。あるいは、DNAワクチン接種としても公知のDNA免疫化が使用され得る。
【0065】
測定のために、個体から得られた試料は、結合剤セプラーゼ複合体の形成に適切な条件下でセプラーゼの特異的結合剤とインキュベートされる。当業者はいかなる発明の努力をすることなく、かかる適切なインキュべーション条件を容易に同定し得るために、かかる条件は特定される必要はない。結合剤セプラーゼ複合体の量が測定され、癌、好ましくは肺癌の評価に使用される。当業者に認識されるように、特異的結合剤セプラーゼ複合体の量を測定する多くの方法が存在し、全ては関連の教科書に詳細に記載されている(例えば、Tijssen, P., 上掲、またはDiamandis, E.P., and Christopoulos, T.K. (編), Immunoassay, Academic Press, Boston (1996)参照)。
【0066】
好ましくは、セプラーゼは、サンドイッチ型アッセイ形式で検出される。かかるアッセイにおいて、一方でセプラーゼを捕捉するために第一特異的結合剤が使用され、他方で直接的または間接的に検出可能に標識される第二特異的結合剤が使用される。サンドイッチ型アッセイ形式で使用される特異的結合剤は、セプラーゼに対して特異的な抗体であり得る。一方で、検出は、異なる捕捉抗体および標識抗体、即ちセプラーゼポリペプチド上の異なるエピトープを認識する抗体を使用することによって行われ得る。他方、サンドイッチ型アッセイはまた、セプラーゼの同じエピトープに対する捕捉抗体および標識抗体を用いて行われ得る。この態様において、二量体および多量体形態のセプラーゼだけが検出され得る。
【0067】
本発明のさらなる態様によれば、マーカーセプラーゼは、セプラーゼの酵素活性の検出に適切な試験計画の使用により試料から特異的に測定される。酵素活性は、例えばゼラチナーゼ活性またはペプチダーゼ活性であり得る。ゼラチナーゼ活性は、ゼラチンザイモグラムを使用したザイモグラフィーによって測定され得る。ペプチダーゼ活性は、ペプチド基質を用いた蛍光アッセイによって測定され得る。セプラーゼ活性の測定のためのアッセイは、例えばLeeら(2006)、上掲に記載されている。
【0068】
本発明の意味において「癌のマーカー」、特に「肺癌のマーカー」および「結腸癌のマーカー」は、マーカーセプラーゼと組み合わせた場合に、癌の評価において、例えば一般的な癌の評価または特定の癌の型の評価において、例えばLCまたはCRCの評価において関連する情報を付加する任意のマーカーである。癌の評価に対して、所定の特異性での感度または所定の感度での特異性それぞれが、マーカーセプラーゼを既に含むマーカー組み合わせに前記マーカーを含ませることによって改善され得る場合に、情報は関連するまたは付加的な価値とみなされる。癌評価の好ましい態様において、感度または特異性それぞれの改善は、p = .05、.02, .01以下の有意さのレベルで統計学的に有意である。好ましくは、1つ以上の他の腫瘍マーカーは、CYFRA21-1、CEA、NSE、CA19-9、CA125 、PSA、ASC、S100A12およびNNMTからなる群より選択される。
【0069】
用語「試料」は、本明細書で使用される場合、インビトロでの評価の目的で得られる生物学的試料のことをいう。本発明の方法において、試料または患者試料は、好ましくは任意の体液を含み得る。好ましい試料は、全血、血清、血漿、気管支洗浄物または痰であり、血漿または血清が最も好ましい。
【0070】
用語「癌の評価」、特に「肺癌の評価」または「結腸癌の評価」は、本発明の方法が(単独または他のマーカーもしくは変数、例えばUICC(上記参照)に示される基準と共に)、例えば医師が癌、特にLCまたはCRCの非存在または存在を確立または確認することを補助し、あるいは予後、再発の検出(手術後の患者の追跡)および/または治療のモニタリング、特に化学療法のモニタリングにおいて医師を補助することを示すために使用される。
【0071】
当業者に認識されるように、任意のかかる評価がインビトロで行われる。患者試料が後で廃棄される。患者試料は、本発明のインビトロ診断方法だけに使用され、患者試料の物質は、患者の体に戻されない。典型的に、試料は、液体試料、例えば全血、血清、または血漿である。
【0072】
好ましい態様において、本発明は、セプラーゼの濃度を試料中で測定する工程、ならびに測定された濃度および/または活性を癌、例えばLCまたはCRCの評価において使用する工程を含む、生化学マーカーによるインビトロでの癌、例えばLCまたはCRCの評価方法に関する。
【0073】
本発明の発明者らは、癌、特に肺、結腸、食道、頭頸部、胃、胆管、膵臓、腎臓、頸部、卵巣、乳房、膀胱、子宮内膜または前立腺の癌を有する患者に由来する試料から有意な割合でマーカーセプラーゼの濃度および/または活性の減少を驚くべきことに検出できた。さらにより驚くべきことに、発明者らは、個体から得られたかかる試料中のセプラーゼの濃度および/または活性の減少が癌、特に上記癌疾患の評価において使用され得ることを示すことができた。
【0074】
診断の理想的なシナリオは、単一の事象またはプロセスがそれぞれの疾患例えば感染性疾患を引き起こす状況である。全ての他の症例において、正確な診断は、特に疾患の病因が、多くの癌の種類、例えばLCについて当てはまるように十分に理解されていない場合に非常に困難であり得る。当業者が理解するように所定の多要因疾患例えばLCについて100%特異性および同時に100%感度で診断する生化学マーカーはない。むしろ、生化学マーカー、例えばCYFRA21-1、CEA、NSE、または本明細書に示されるセプラーゼが、特定の可能性または予測値で、例えば疾患の存在、非存在または重症度を評価するために使用され得る。従って、日常業務の臨床診断では、一般的に様々な臨床症状および生物学的マーカーは、基礎にある疾患の診断、治療および管理において共に考慮される。
【0075】
生化学マーカーは、個々に測定され得るか、または本発明の好ましい態様においてこれらはチップまたはビーズ系アレイ技術の使用によって同時に測定され得るかのいずれかである。生物マーカーの濃度は、次に例えば各マーカーのそれぞれのカットオフを使用して独立して解釈されるか、またはこれらが解釈のために組み合わされるかのいずれかである。
【0076】
さらに好ましい態様において、本発明の癌の評価は、a)セプラーゼポリペプチドおよび/またはその断片、およびb)癌の1つ以上の他のマーカーの濃度および/または活性を試料中で測定する工程、ならびにc)癌の評価において工程(a)および工程(b)それぞれで測定された測定結果、例えば濃度を使用する工程を含む方法において行われる。
【0077】
癌の評価において、マーカーセプラーゼは以下の局面:スクリーニング;診断補助;予後;化学療法、放射線療法、および免疫療法などの療法のモニタリングの1つ以上で有利である。
【0078】
スクリーニング:
スクリーニングは、疾患の表示、例えば癌の存在について、個体、例えばリスクのある個体を同定するための試験の体系的な適用として規定される。好ましくは、スクリーニング集団は、癌のリスクが平均より高いことが知られた個体で構成される。例えば、肺癌のスクリーニング集団は、喫煙者、元喫煙者、およびウラン、石英またはアスベスト曝露労働者などの肺癌のリスクが平均より高いことが知られた個体で構成される。
【0079】
好ましい態様において、血清または痰などの体液が、癌、例えば肺癌または結腸直腸癌のスクリーニングにおける試料として使用される。
【0080】
多くの疾患について、スクリーニング目的に必要な感度および特異性の基準を常に満たす、循環中の単一生化学マーカーはない。このことは癌、特に肺癌についてもいえると思われる。複数のマーカーを含むマーカーパネルが癌のスクリーニングに使用されなければならないことが予想されるばずである。本発明において確立されたデータは、マーカーセプラーゼがスクリーニング目的に適したマーカーパネルの不可欠な部分を形成することを示す。したがって、本発明は、癌マーカーパネル、すなわち、セプラーゼおよび癌スクリーニング目的のための1つ以上のさらなるマーカーを含むマーカーパネルのマーカーの1つとしてのセプラーゼの使用に関する。特に、本発明は、一般的な癌マーカーパネルのマーカーの1つとしてのセプラーゼの使用に関する。かかるマーカーパネルは、マーカーセプラーゼおよび1つ以上のさらなるマーカー、例えば、一般的な癌マーカーおよび/または上記の型の癌のマーカーを含む。
【0081】
また、セプラーゼは、おそらく、ある種の特定の型の癌、例えば、肺、結腸、食道、頭頸部、胃、胆管、膵臓、腎臓、頚部、卵巣、乳房、膀胱、子宮内膜または前立腺癌のマーカーパネルに寄与する。
【0082】
セプラーゼを含むマーカーパネルで評価される癌の他の好ましい型は、肺、結腸、食道、頭頸部、胃、胆管、膵臓または腎臓の癌である。
【0083】
セプラーゼを含むマーカーパネルで評価される癌の他の好ましい型は、肺、結腸、食道、頭頸部、胃または胆管の癌である。
【0084】
セプラーゼを含むマーカーパネルで評価される癌の他の好ましい型は、肺癌または結腸癌である。
【0085】
セプラーゼを含むマーカーパネルで評価される癌の好ましい型は肺癌(LC)である。
【0086】
本発明のデータは、さらに、マーカーの特定の組合せが癌のスクリーニングに有利であることを示す。例えば、LCまたはCRCのスクリーニングの好ましい態様に関して、本発明はまた、セプラーゼおよびCYFRA 21-1を含むマーカーパネル、またはセプラーゼおよびCEAを含むマーカーパネル、またはセプラーゼおよびNSEを含むマーカーパネル、またはセプラーゼおよびCA 19-9を含むマーカーパネル、またはセプラーゼおよびCA 125を含むマーカーパネル、またはセプラーゼおよびPSAを含むマーカーパネル、またはセプラーゼおよびASCを含むマーカーパネル、またはセプラーゼおよびS100A12を含むマーカーパネル、またはセプラーゼおよびNNMTを含むマーカーパネル、またはセプラーゼならびにCYFRA 21-1、CEA、NSE、CA 19-9、CA 125、PSA、ASC、S100A12およびNNMTからなる群より選択される2つ以上のマーカーを含むマーカーパネルの使用に関する。
【0087】
診断補助:
マーカーは、特定の臓器の良性疾患対悪性疾患の鑑別診断を補助するか、異なる組織学的腫瘍型の識別を補助するか、または手術前のベースラインマーカー値を確立するかのいずれかであり得る。
【0088】
今日、癌の検出に使用される重要な方法は、放射線学および/またはコンピュータ連動断層撮影(CT)スキャンである。小結節、すなわち、疑わしい組織の小領域は、これらの方法によって可視化され得る。しかしながら、これらの結節の多く-CTで90%より多く-は良性組織変化を示し、少数の結節のみが癌性組織を示す。マーカーセプラーゼの使用は、良性対悪性疾患の識別を補助し得る。
【0089】
単独マーカーとしてのセプラーゼは、例えばLCの場合において、CEAまたはNSEなどの他のマーカーより卓越し得るため、セプラーゼは、特に、手術前のベースライン値を確立することにより診断補助として使用されることが予測されるはずである。したがって、本発明はまた、手術前の癌のベースライン値を確立するためのセプラーゼの使用に関する。
【0090】
予後:
診断指標は、一定の尤度で疾患結果を予測する癌患者およびその腫瘍の臨床的、病理学的、または生化学的特徴と定義され得る。その主な使用は、患者管理の合理的な計画、すなわち、それぞれ急性進行性疾患の過少治療および進行が遅い疾患の過剰治療の回避を補助すべきである。Molina、R.,et al.,Tumor Biol. 24 (2003)209-218では、NSCLCにおいてCEA、CA 125、CYFRA21-1、SSCおよびNSEの予後値が評価された。彼らの研究では、マーカーNSE、CEA、およびLDH(乳酸デヒドロゲナーゼ)の異常血清レベルは、短い生存を示すようであった。
【0091】
セプラーゼは単独で癌患者、例えば、LCまたはCRC患者と健常対照との識別に有意に寄与するため、癌、好ましくはLCまたはCRCを患う患者の予後の評価を補助することが予測されるはずである。手術前のセプラーゼのレベルは、たいてい、癌の1つ以上の他のマーカーおよび/またはTNM病期分類システムと組み合わされる。好ましい態様において、セプラーゼはLCまたはCRCを有する患者の予後に使用される。
【0092】
化学療法のモニタリング:
Merle,P.,et al.,Int. J. of Biological Markers 19 (2004)310-315では、導入補助化学療法で治療された局所進行NSCLCを有する患者におけるCYFRA21-1血清レベルの変化が評価された。彼らは、CYFRA21-1血清レベルの早期モニタリングが病期III NSCLC患者の腫瘍応答および生存の有用な予後ツールであり得ると結論づけた。また、報告により、LCを有する患者の治療のモニタリングにおけるCEAの使用が記載された(Fukasawa,T.,et al.,Cancer & Chemotherapy 13 (1986)1862-1867)。これらの研究のほとんどは、遡及的でランダムではなく、少数の患者を含んだ。CYFRA21-1での研究の場合のように、CEA研究は、a)化学療法を受けている間にCEAレベルが減少した患者は、一般的に、CEAレベルが減少しなかった患者よりも良好な結果を有し、(b)ほぼすべての患者で、CEAレベルの増加は疾患の進行と関連したことを示した。
【0093】
セプラーゼは、それぞれCYFRA21-1またはCEAと少なくとも同程度に良好な化学療法のモニタリングのためのマーカーであることが予測される。したがって、本発明はまた、化学療法下の癌患者、好ましくは肺癌(LC)または結腸癌(CRC)患者のモニタリングにおけるセプラーゼの使用に関する。治療のモニタリングにおいて、好ましい一態様では、セプラーゼの測定値とCYFRA 21-1、CEAおよび/またはNSEからなる群より選択される少なくとも1つのマーカーの測定値が、肺(LC)癌の評価において組み合わされ、使用される。
【0094】
追跡:
癌性組織の完全な除去を目的とした外科的切除を受けるLC患者の大部分は、
後に再発性または転移性の疾患を発症する(Wagner,H.,Chest 117 (2000)110-118; Buccheri,G.,et al.,Ann. Thorac. Surg. 75 (2003)973-980)。これらの再発のほとんどは、手術後最初の2〜3年以内に起こる。再発性/転移性疾患は、検出が遅すぎた場合は常に致死的であるため、相当な研究が、その初期ひいては潜在的に治療可能な病期での癌再発に焦点を当てている。
【0095】
その結果、多くの癌患者、例えばLC患者は、多くの場合CEAの定期的モニタリングを含む、術後のサーベイランスプログラムを受ける。外科的切除後1年間のCEAの連続モニタリングにより、再発性/転移性疾患が、疑わしい症状または徴候がない場合であっても、早期の術後再発性/転移性疾患がほぼ97%の特異性でほぼ29%の感度で検出されることが示された(Buccheri,G.,et al.,Ann. Thorac. Surg. 75 (2003)973-980)。したがって、手術後のLCを有する患者の追跡は、適切な生化学的マーカーの使用の最も重要な領域の1つである。調査したLC患者におけるセプラーゼの高い感度のため、おそらく、セプラーゼ単独または1つ以上の他のマーカーとの組合せは、LC患者の追跡、特に手術後のLC患者の追跡に非常に有用である。LC患者の追跡におけるセプラーゼおよびLCの1つ以上の他のマーカーを含むマーカーパネルの使用は、本発明のさらに好ましい態様を示す。
【0096】
本発明は、好ましい態様において、癌の診断分野におけるセプラーゼの使用に関する。好ましくは、セプラーゼは、肺(LC)、結腸(CRC)、食道、頭頸部、胃、胆管、膵臓、腎臓、頚部、卵巣、乳房、膀胱、子宮内膜または前立腺の癌のそれぞれの評価に使用される。
【0097】
またさらに好ましい態様において、本発明は、癌の1つ以上のさらなるマーカー分子と組み合わせた、癌、例えば、一般的な癌または肺、結腸、食道、頭頸部、胃、胆管、膵臓、腎臓、頚部、卵巣、乳房、膀胱、子宮内膜もしくは前立腺の癌などの特定の型の癌のマーカー分子としてのセプラーゼの使用に関する。さらなるマーカー分子は、癌の型に非特異的な一般マーカー分子および/または癌の型に特異的なマーカー分子、例えば、肺または結腸の癌のマーカー分子であり得る。セプラーゼおよび少なくとも1つのさらなるマーカーが、個体から得られた液体試料において癌、例えば肺または結腸の癌の評価に使用される。セプラーゼの測定と組み合わされ得る、選択される好ましい他の癌マーカーは、Cyfra 21-1、CEA、NSE、CA125、CA19-9、PSA、ASC、S100A12およびNNMTである。特に、セプラーゼの測定と組み合わされ得る、選択される好ましい他のLC マーカーは、CYFRA 21-1、CEAおよび/またはNSEである。またさらに好ましくは、癌、例えばLCの評価において使用されるマーカーパネルは、セプラーゼならびにCYFRA 21-1およびCEAからなる群より選択される少なくとも1つの他のマーカー分子を含む。
【0098】
当業者に理解されるように、調査中の診断上の疑問を改善するために、2種類以上のマーカーの測定値を使用する多くの方法がある。全く単純に、しかしながら、しばしば効果的なアプローチにおいて、調査された少なくとも1種類のマーカーについて試料が陽性である場合、陽性の結果が仮定される。このことは、例えばAIDSのような感染性疾患の診断の場合であり得る。
【0099】
しかしながら、頻繁にマーカーの組み合わせが評価される。好ましくは、マーカーパネルのマーカー、例えばセプラーゼおよびCYFRA21-1についての測定値は、数学的に組み合わされ、組み合わされた値は診断的疑問の原因と相関される。マーカー値は、当該技術分野の技術水準の任意の適切な数学的方法により組み合わされ得る。マーカーの組み合わせを疾患に相関させる周知の数学的方法には、判別分析(DA)(即ち、一次、二次、標準化DA)、Kernel法(即ちSVM)、ノンパラメトリック法(即ちk-最近接分類)、PLS(部分最小二乗)、ツリーベース法(即ち論理回帰、CART、ランダムフォレスト法、ブースティング/バギング(Boosting/Bagging)法)、一般化線形モデル(即ちロジスティック回帰)、主成分ベース法(即ちSIMCA)、汎用付加モデル、ファジー理論ベース法、ニューラルネットワークおよび遺伝的アルゴリズムベース法などの方法を用いる。当業者は、本発明のマーカーの組み合わせを評価するための適切な方法の選択において何の問題も持たない。好ましくは、本発明のマーカーの組み合わせを、例えばLCの有無に相関させることに用いられる方法は、DA(即ち一次、二次、標準化判別分析)、Kernel法(即ちSVM)、ノンパラメトリック法(即ちk-最近接分類)、PLS(部分最小二乗)、ツリーベース法(即ち論理回帰、CART,ランダムフォレスト法、ブースティング法)、または一般化線形モデル(即ちロジスティック回帰)から選ばれる。これらの統計的方法に関する詳細は、以下の参考文献、Ruczinski,I.,et al,J. of Computational and Graphical Statistics,12 (2003)475-511;Friedman,J. H.,J. of the American Statistical Association 84 (1989)165-175;Hastie,Trevor,Tibshirani,Robert,Friedman,Jerome,The Elements of Statistical Learning,Springer Series in Statistics (2001);Breiman,L.,Friedman,J. H.,Olshen,R. A.,Stone,C. J. (1984)Classification and regression trees,California:Wadsworth;Breiman,L.,Random Forests,Machine Learning,45 (2001)5-32;Pepe,M. S.,The Statistical Evaluation of Medical Tests for Classification and Prediction,Oxford Statistical Science Series,28 (2003);およびDuda,R. O.,Hart,P. E., Stork,D. G.,Pattern Classification,Wiley Interscience,第2版 (2001)に見られる。
【0100】
生物学的マーカーの基礎的な組合せに対して最適な多変量カットオフを使用し、状態Aを状態Bと、例えば、疾患状態を健常と区別することは、本発明の好ましい態様である。この型の解析では、マーカーは、もはや独立的ではなくマーカーパネルを形成する。
【0101】
診断方法の精度は、その受信者動作特性(ROC)によって最もよく示される(特にZweig, M. H.およびCampbell, G., Clin. Chem. 39 (1993)561-577参照のこと)。ROCグラフは、観察されたデータの全範囲にわたって判定閾値を連続的に変えることにより得られる全ての感度/特異性ペアのプロットである。
【0102】
実験室での試験の臨床成績は、その診断の精度または被験体を臨床的に関連する亜群へと正確に分類する能力に依存している。診断の精度は、検査を受けた被験体の2つの異なる状態を正確に区別する試験の能力を評価するものである。かかる状態は、例えば健常と疾患または良性疾患対悪性疾患である。
【0103】
各場合において、ROCプロットは、判定閾値の全範囲について1−特異性に対して感度をプロットすることにより2つの分布間の重複を示す。y軸上は感度、すなわち真陽性の割合[(真陽性試験結果の数)/(真陽性の数+偽陰性試験結果の数)として定義される]である。これはまた、疾患または状態の存在下での陽性と称されている。それは罹患した亜群単独から算出される。x軸上は偽陽性の割合、すなわち1−特異性[(偽陽性結果の数)/(真陰性の数+偽陽性結果の数)として定義される]である。これは特異性の指標であり、罹患していない亜群全体から算出される。真陽性および偽陽性の割合は、2つの異なる亜群由来の試験結果を用いて全く別々に算出されるため、ROCプロットは試料中の疾患の罹患率から独立している。ROCプロット上の各点は、特定の判定閾値に対応する感度/1−特異性のペアを表している。完全な区別を伴う試験(結果の2つの分布に重複がない)は、左上の角を通るROCプロットを有し、この場合、真陽性の割合は1.0すなわち100%(完全な感度)であり、偽陽性の割合は0(完全な特異性)である。区別を伴わない試験の理論的プロット(2つの群の結果の分布が同一)は、左下の角から右上の角に向かって45度の斜め線となる。ほとんどのプロットはこれらの両極間に含まれる。(ROCプロットが45度の斜め線の下方に完全に含まれる場合、これは「陽性度」についての基準を「より大きい」から「より少ない」に入れ換えることにより容易に修正される。逆も同じ)。定性的には、プロットが左上の角に近づくにしたがって、試験の全体的な精度は高くなる。
【0104】
実験室での試験の診断の精度を定量化するための好ましい方法の1つは、単一の数によりその成績を表すことである。かかる全般的パラメータは、例えば、いわゆる「総誤差」あるいは「曲線下面積=AUC」である。最も一般的な世界的尺度はROCプロットの下の面積である。慣例により、この面積は常に>0.5である(もしそうでなければ、そうなるように決定基準を入れ換え得る)。数値は1.0(2群の試験値の完全な分離)と0.5(2群間の試験値に明らかな分布の差が無い)の間の範囲である。該面積は、該斜め線に最も近い点または90%特異性での感度などのプロットの特定の部分だけでなく、全プロットにも依存する。これは、ROCプロットが完全なもの(面積=1.0)にどれだけ近いかということの定量的で説明的な表現である。
【0105】
好ましい態様において、本発明は、試料中の少なくともセプラーゼおよびCYFRA21-1の濃度、ならびに任意にCEA、および/またはNSEの濃度をそれぞれ測定し、測定された濃度を癌、例えばLCまたはCRCの有無と相関させることにより、癌、例えばLCまたはCRC対健常対照の診断の精度を改善するための方法であって、改善により、いずれかの単一マーカー単独での調査に基づいた分類と比べて、健常対照に対してより多くの患者が癌、例えばLCまたはCRCに苦しんでいると正確に分類される方法に関する。
【0106】
本発明による好ましい方法において、少なくともバイオマーカーセプラーゼおよびCYFRA21-1の濃度をそれぞれ測定し、このマーカー組合せが癌、例えばLCまたはCRCの評価に使用される。
【0107】
本発明によるさらに好ましい方法において、少なくともバイオマーカーセプラーゼおよびCEAの濃度をそれぞれ測定し、このマーカー組合せが癌、例えばLCまたはCRCの評価に使用される。
【0108】
本発明によるさらに好ましい方法において、少なくともバイオマーカーセプラーゼ、CYFRA21-1、およびCEAの濃度をそれぞれ測定し、このマーカー組合せが癌、例えばLCまたはCRCの評価に使用される。
【0109】
本発明によるさらに好ましい方法において、少なくともバイオマーカーセプラーゼ、CYFRA21-1、およびCEAの濃度をそれぞれ測定し、このマーカー組合せが癌、例えばLCまたはCRCの評価に使用される。
【0110】
本発明によるまたさらに好ましい方法において、少なくともバイオマーカーセプラーゼ、CYFRA21-1およびNSEの濃度をそれぞれ測定し、このマーカー組合せが癌、例えばLCまたはCRCの評価に使用される。
【0111】
以下の実施例、参考文献、配列表および図面は、本発明の理解を補助するために提供され、その真の範囲は添付の特許請求の範囲に示される。記載の手順において、本発明の精神を逸脱することなく変形が行なわれ得ることは理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】図1は、結腸直腸癌(CRC)患者および健常対照患者ならびに健常対照における血清セプラーゼ濃度値の分布を示す。
【図2】図2は、肺癌(LC)患者および健常対照における血清セプラーゼ濃度値の分布を示す。
【図3】図3は、ヒトセプラーゼのアミノ酸配列(配列番号:1)を示す。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0113】
実施例1
セプラーゼ特異的結合分子として、ラットモノクローナル抗セプラーゼ抗体(クローンD8、D28およびD43)を使用した(Pineiro-Sanchez,M.-L.,et al.,J. Biol. Chem.,272 (1997)7595-7601)。
【0114】
モノクローナルラットIgGのビオチン化
モノクローナルラットIgG(クローンD28またはD43)を、10mM NaH2PO4/NaOH、pH7.5、30mM NaCl中で10mg/mlにした。IgG溶液1mlあたり50μlのビオチン-N-ヒドロキシスクシンイミド(DMSO中3.6mg/ml)を添加した。室温で30分後、試料をSuperdex 200上でクロマトグラフィー処理した(10mM NaH2PO4/NaOH、pH7.5、30mM NaCl)。ビオチン化IgG含有画分を回収した。
【0115】
モノクローナルラットIgGのジゴキシゲニン化
モノクローナルラットIgG(クローンD8またはD43)を10mM NaH2PO4/NaOH、30mM NaCl、pH7.5中で10mg/mlにした。IgG溶液1mlあたり50μlのジゴキシゲニン-3-O-メチルカルボニル-ε-アミノカプロン酸-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(Roche Diagnostics、Mannheim、Germany、カタログ番号1 333 054)(DMSO中3.8mg/ml)を添加した。室温で30分後、試料をSuperdex(登録商標)200(10mM NaH2PO4/NaOH、pH7.5、30mM NaCl)上でクロマトグラフィー処理した。ジゴキシゲニン化IgG含有画分を回収した。
【0116】
実施例2
ヒト血清および血漿試料中のセプラーゼの測定のためのELISA
ヒト血清または血漿中のセプラーゼの検出のため、サンドイッチELISAを開発した。第1のアッセイ形式では、抗セプラーゼモノクローナル抗体の、ビオチンとコンジュゲートされたD28およびジゴキシゲニンとコンジュゲートされたD8(実施例1参照)の等分量を抗原の捕捉および検出に使用した(D28×D8形式)。第2のアッセイ形式では、ビオチンおよびジゴキシゲニンのそれぞれとコンジュゲートされた抗セプラーゼモノクローナル抗体D43(実施例1参照)の等分量を抗原の捕捉および検出に使用した(D43×D43形式)。
【0117】
試料(75μl)を、インキュベーションバッファー(40mMリン酸塩、200mM酒石酸ナトリウム、10mM EDTA、0.05%フェノール、0.1%ポリエチレングリコール40000、0.1%Tween 20、0.2%BSA、0.1%ウシIgG、および0.02%5-ブロモ-5-ニトロ-1,3-ジオキサン、pH7.4に調整)中の、0.375μgのそれぞれD28-ビオチンおよびD8-ジゴキシゲニン抗体あるいはD43-ビオチンおよびD43-ジゴキシゲニン抗体を含む150μlの抗体試薬と混合した。
【0118】
2時間のインキュベーション後、2×100μlの混合物を、ストレプトアビジンコーティングマイクロタイタープレートの個々のウェルに移し、さらなる時間インキュベートした。洗浄バッファー(10mM Tris、150mM NaCl、0.05%Tween 20)でプレートを3回洗浄した。
【0119】
次の工程では、ウェルを30mU/mlの抗ジゴキシゲニン-HRPコンジュゲート(Roche Diagnostics GmbH、Mannheim、Germany、カタログ番号1633716)とともに、万能コンジュゲートバッファー(Roche Diagnostics GmbH、Mannheim、Germany、カタログ番号11684825)中で60分間インキュベートし、前述のようにして洗浄した。
【0120】
次いで、ウェルを100μlのTMB基質溶液(Roche Diagnostics GmbH、Mannheim、Germany、カタログ番号12034425)とともに1時間インキュベートした。2N硫酸(50μl)の添加により発色を止め、青色から黄色に変わった。
【0121】
ELISAリーダーにより450nmにおけるODを測定した。
【0122】
すべてのインキュベーションは室温で行なった。ヒト血清または血漿の試料をインキュベーションバッファーで0.15%に(ad)予備希釈した。較正のため、血清プールを標準として使用した。これは、インキュベーションバッファーで0.09/0.18/0.27/0.36/0.45%に希釈し、それぞれ、0.03/0.06/0.09/0.12/0.15単位/mlの任意の所定の値を有する標準物質を作製した。
【0123】
較正曲線の式を直線回帰解析によって計算し、ウェルの吸光度の読みを対応する濃度値に変換するのに使用した。結果に予備希釈係数を掛け、それぞれの試料自体の濃度を得た。
【0124】
実施例3
CRC試験集団
第1の試験において、49名の充分特徴付けされた結腸直腸癌の患者(表1に示されたUICC分類)由来の試料を使用した。
【0125】

【0126】
表1の試料を、既知の悪性疾患はなにもない50名の明らかに健常な個体
から得られた対照試料(=対照コホート)と比較して評価した。
【0127】
実施例4
LC試験集団
第1の試験とは完全に独立した第2の試験では、非小細胞肺癌(NSCLC)に焦点を当てた。より具体的には、主要な型のNSCL、腺癌および扁平上皮癌に苦しむ患者を調査した。表2aは、癌コホートの型および病期分布を示す。
【0128】

【0129】
この試験の対照コホートは、表2bに記載のように、特に、喫煙者および非喫煙者由来の試料を含むように規定した。肺活量測定肺機能試験(Miller,M.R. et al.,Eur. Respir. J. 26 (2005)319-338)を各個体について行なった。試料は、ドナーの結果が正常範囲内である場合のみ対照コホートに含まれた。
【0130】

【0131】
実施例5
セプラーゼは癌患者を健常対照と識別する
セプラーゼの血清濃度は、両方の試験においてわかるように、癌患者と健常対照間で顕著に異なる。図1および2に、D28およびD8抗体の組合せを用いたアッセイの結果を示す。
【0132】
癌患者コホートの平均濃度は対照コホートよりも有意に低い: CRC試験およびLC試験のそれぞれにおいて、患者では22.6および20.9U/mlに対して対照では33.6および35.6U/mlとわかった。それぞれの対照コホートに対して95%特異性をもたらすカットオフ値では、結腸直腸癌の感度は67%である。肺癌では62%である。
【0133】
感度は、CRCおよびLC両方のデータ(表3および4)からわかるように、すべての病期の癌で類似している。したがって、セプラーゼは、疾患の早期指標として使用され得る。肺癌に関して、扁平上皮癌の感度は腺癌のものより高い(表4)。
【0134】

【0135】

【0136】
二量体形態または多量体形態のセプラーゼのみを検出する2つのD43抗体を用いたアッセイの結果は、密接に相関していた(データ示さず)。
【0137】
実施例6
CRCおよびLCの他のマーカーの感度
セプラーゼの他に、本発明者らは、10種類の他の周知の腫瘍マーカーをCRCおよびLC試験試料において調べた。この場合では、市販の試験キットを使用した。互いの公正な比較を行なうため、調べた各マーカーのカットオフ値を、それぞれの試験の対照コホートに対して95%特異性となるように設定した。
【0138】
表5は、両方の癌の型の検出に対する各マーカーの感度を示す。
【0139】

【0140】
セプラーゼは、CRCおよびLCに対して類似した感度を示す。全般的に、セプラーゼは平均64.5%であり、評価したすべてのマーカーのうちで観察された最も高い値である。Cyfra 21-1のみが同じ平均感度を有する。しかしながら、Cyfraは、CRCの検出ではセプラーゼよりも有意に有効性が低い。測定されたその他のすべての腫瘍マーカーによって示された性能は、これらの両者と比べてかなり不充分である。
【0141】
実施例7
マーカー組合せ
個体は、それぞれの組合せのマーカーの少なくとも1つが一定の閾値を超えている場合、癌を有すると分類した。一般に、これらのカットオフ値は、単一のマーカーの場合で使用されるものと異なっていたが、それぞれの組合せで、同様に95%特異性がもたらされた。
【0142】
最も卓越した2つのマーカー、セプラーゼおよびCyfra 21-1の組合せでは、癌の検出が顕著に改善され、LC試験で80%感度が得られた。
【0143】
実施例8
セプラーゼを腫瘍マーカーとして用いた種々の癌と年齢適合健常対照との識別
この試験では、種々の癌疾患を有する充分特徴付けされた患者由来の試料(試料番号およびUICC分類を表6に示す)を測定した。表6の試料を、既知の悪性疾患はなにもない明らかに健常な個体である264名の年齢適合対照患者と比較して評価した。この対照コホートでは、カットオフを、95%の特異性が得られるように決定した。
【0144】

【0145】
セプラーゼについて、高い感度が食道、頭部/頚部、胃および胆管の癌、ならびにLCおよびCRCにおいて得られた(表5に示したデータ)。また、セプラーゼに関する良好な感度は、膵臓および肝臓の癌でも見られた。頚部、卵巣および乳癌の評価では、セプラーゼについて低感度とわかった。スクリーニング設定(95%特異性)において乳癌で同等に低い感度(18%)であるにもかかわらず、セプラーゼもまた、乳癌の再発モニタリングのための興味深いマーカーとみなされ得る。この意図された使用に通常使用されるマーカーCA 15-3およびCEAは、この乳癌集団において、それぞれわずか6%および11%の感度を示し、マーカーセプラーゼと比べて低い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の
a) セプラーゼポリペプチドおよび/またはその断片
b) 任意に、癌の1つ以上の他のマーカー
の濃度および/または活性を測定する工程、ならびに
c) 癌の評価において工程(a)および任意に工程(b)の測定結果を使用する工程を含み、ここで、セプラーゼポリペプチドおよび/またはその断片の濃度および/または活性の減少は癌を示す、
インビトロで癌を評価するための方法。
【請求項2】
特定の癌の型の評価のための請求項1記載の方法。
【請求項3】
特定の癌の型が、肺、結腸、食道、頭頸部、胃、胆管、膵臓、腎臓、頚部、卵巣、乳房、膀胱、子宮内膜または前立腺の癌である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
特定の癌の型が、肺、結腸、食道、頭頸部、胃、胆管、膵臓、腎臓、頚部、卵巣または乳房の癌である、請求項2または3いずれか記載の方法。
【請求項5】
特定の癌の型が、肺、結腸、食道、頭頸部、胃、胆管、膵臓または腎臓の癌である、請求項2〜4いずれか記載の方法。
【請求項6】
特定の癌の型が、肺、結腸、食道、頭頸部、胃または胆管の癌である、請求項2〜5いずれか記載の方法。
【請求項7】
癌が、癌(LC)または結腸直腸癌(CRC)である、請求項2〜6いずれか記載の方法。
【請求項8】
癌が肺癌(LC)である、請求項2〜7いずれか記載の方法。
【請求項9】
工程(b)の前記1つ以上の他のマーカーが、癌の型に非特異的な癌の一般的なマーカーである、請求項1記載の方法。
【請求項10】
工程(b)の前記1つ以上の他のマーカーが、癌の型に特異的な癌のマーカーである、請求項1記載の方法。
【請求項11】
工程(b)の前記1つ以上の他のマーカーが、CYFRA 21-1、CEA、NSE、CA19-9、CA125、PSA、ASC、S100A12およびNNMTからなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記1つ以上の他のマーカーがCYFRA 21-1である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記1つ以上の他のマーカーがCEAである、請求項11記載の方法。
【請求項14】
試料が体液試料である、請求項1〜13いずれか記載の方法。
【請求項15】
試料が血液、血清または血漿試料である、請求項1〜14いずれか記載の方法。
【請求項16】
試料がヒト試料である、請求項1〜15いずれか記載の方法。
【請求項17】
セプラーゼポリペプチドおよび/またはその断片の濃度が測定される、請求項1〜16いずれか記載の方法。
【請求項18】
濃度が免疫学的方法によって測定される、請求項17記載の方法。
【請求項19】
二量体または多量体形態のセプラーゼポリペプチドが測定される、請求項1〜18いずれか記載の方法。
【請求項20】
単量体形態のセプラーゼポリペプチドが測定される、請求項1〜19いずれか記載の方法。
【請求項21】
セプラーゼポリペプチドおよび/またはその断片の酵素活性が測定される、請求項1〜21いずれか記載の方法。
【請求項22】
抗プラスミン切断活性が測定される、請求項21記載の方法。
【請求項23】
セプラーゼおよび/またはその断片の濃度および/または活性の減少が癌を示す、癌の評価におけるセプラーゼポリペプチドおよび/またはその断片の使用。
【請求項24】
セプラーゼおよび/またはその断片の濃度および/または活性の減少が癌を示す、癌の評価におけるセプラーゼポリペプチドおよび/またはその断片に対する抗体の使用。
【請求項25】
セプラーゼおよび/またはその断片の濃度および/または活性の減少が癌を示す、癌の評価におけるセプラーゼポリペプチドおよび/またはその断片の酵素活性を測定するための試薬の使用。
【請求項26】
肺癌、特にNSCLCの評価、または結腸癌、特に結腸直腸癌(CRC)の評価における請求項23〜25いずれか記載の使用。
【請求項27】
セプラーゼポリペプチドおよび/またはその断片の濃度および/または活性の減少が癌を示す、癌の評価におけるセプラーゼポリペプチドおよび/またはその断片ならびに癌の1つ以上の他のマーカーを含むマーカーパネルの使用。
【請求項28】
1つ以上の他のマーカーが、癌の型に非特異的なマーカーおよび/または癌の型に特異的なマーカーである、請求項27記載の使用。
【請求項29】
1つ以上の他のマーカーが、肺または結腸の癌の評価における肺癌マーカーである、請求項28記載の使用。
【請求項30】
1つ以上の他のマーカーが、CYFRA 21-1、CEA、NSE、CA19-9、CA125、PSA、ASC、S100A12およびNNMTからなる群より選択される、請求項27〜29いずれか記載の使用。
【請求項31】
マーカーパネルが少なくともセプラーゼおよび/またはその断片ならびにCYFRA 21-1を含む、請求項27〜30いずれか記載の使用。
【請求項32】
セプラーゼポリペプチドおよび/またはその断片を特異的に測定するために必要とされる試薬ならびに癌の1つ以上の他のマーカーを含む、請求項1〜22いずれか記載の方法を行なうためのキット。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−506941(P2011−506941A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−537302(P2010−537302)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【国際出願番号】PCT/EP2008/010385
【国際公開番号】WO2009/074275
【国際公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】