説明

癌の予後の検知方法

【課題】癌の予後を高い正確性をもって、簡便、迅速的かつ安価に検知する方法及びキットを提供すること。
【解決手段】生体から採取した検体に存在するコア2 β1,6-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼを検出し、その検出結果と前記生体の癌の予後とを関連づけるステップを少なくとも含む、癌の予後の検知方法。「コア2 β1,6-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ」は、「コア2 β1,6-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ−I」であることが好ましい。また、ここにいう「生体」は、ヒトの生体であることが好ましく、「検体」は生体組織であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2003年3月19日出願の米国仮出願番号60/455、585に基づき、その優先権を主張する。
【0002】
本発明は、癌の検知方法及び検知キットに関する。
【背景技術】
【0003】
まず、本明細書において用いる略号を説明する。
C2GnT:コア2 β1,6-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ(Core-2 β1,6-N-acetylglucosaminyltransferase)
C2GnT−I:コア2 β1,6-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ−I(Core-2 β1,6-N-acetylglucosaminyltransferase-I)。
本明細書においては、「GenBank accession No. M97347」として特定されるC2GnTを指す。
GnT−V:N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼV(N-acetylglucosaminyltransferase-V)
PSA:前立腺特異抗原
sLe:シアリルルイスX
【0004】
C2GnTやGnT-Vは、糖蛋白糖鎖の分岐構造の制御に関与する糖転移酵素である。非特許文献1には、GnT-Vとその産物である分岐したN-glycanが、大腸癌において転移能と相関することが開示されている。一方、非特許文献2には、肝細胞癌においてはGnT-Vの発現は癌化の初期のイベントとして捉えられ、転移を有する例ではむしろ発現が低下することが開示されている。C2GnTは、O-glycanの分岐酵素であって、core2構造を形成する。C2GnTはGnT-Vと同様にβ-1-6分岐糖鎖を形成し、種々の癌細胞の転移能とその発現に相関があることが知られている。非特許文献3及び4には、C2GnTの発現は腫瘍の深達度やリンパ節転移能とよく相関することが開示されている。
【非特許文献1】Clin. Cancer. Res., 6, 1772-1777 (2000)
【非特許文献2】Int. J. Cancer, 91, 631-637 (2001)
【非特許文献3】Cancer Res., 57, 5201-5206 (1997)
【非特許文献4】Cancer Res., 61, 2226-2231 (2001)
【0005】
しかし、C2GnTと癌の予後との関係については知られていなかった。
癌の一種である前立腺癌は、通常、PSAによって発見される。前立腺癌に対しては一般に前立腺全摘術が適用されるが、最近は術式が多様化している。すなわち、開腹してリンパ節郭清をして全摘する、腹腔鏡で除去する、会陰を切開して除去する、さらに癌の進行が遅い場合には、症状が発現するまで経過観察するというオプションまである。
この多彩な治療方針の決定に使用されるパラメーターとしては、グリーソン・スコア(Gleason score)、PSA、臨床TNM分類等が挙げられる。しかし、これらのパラメータのみでは、治療前(例えば前立腺全摘前)の時点において、治療後の予後を正確に予測することは困難である。治療前の時点のデータで、治療後の予後の予測を正確に行うことができれば、前立腺全摘の必要性の有無、前立腺の全摘のみで根治する可能性、他の処置方法の選択の必要性等、治療方針の決定に際して極めて有用な情報が提供される。このことは、無用な医学的処置が防止されることにもつながり、患者に対しても高い正確性をもって情報を提供することができ、患者の利益にもつながることになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、癌の予後を高い正確性をもって、簡便、迅速的かつ安価に検知する方法及びキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、C2GnTを検出することによって癌の予後を検知できることを見出し、これに基づき癌の予後の検知方法及び検知キットを提供するに至り、本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明は、生体から採取した検体に存在するC2GnTを検出し、その検出結果と前記生体の癌の予後とを関連づけるステップを少なくとも含む、癌の予後の検知方法(以下「本発明方法」という)を提供する。ここにいう「C2GnT」は、「C2GnT−I」であることが好ましい。また、ここにいう「生体」は、ヒトの生体であることが好ましく、「検体」は生体組織であることが好ましい。
また、C2GnTの検出は、C2GnTに結合するポリペプチドを用いて行われることが好ましい。ここにいう「ポリペプチド」は、抗体又はその抗原結合部位を有するポリペプチドであることが好ましい。
また予後の検知の対象となる「癌」は、前立腺癌、精巣腫瘍及び膀胱癌からなる群から選ばれる1又は2以上の癌であることが好ましい。ここにいう「癌の予後」は、「癌の転移又は再発の可能性」であることが好ましい。
本発明方法は、癌組織を摘出する前に行われることが好ましい。ここにいう「摘出」は、全摘出であることが好ましい。
また本発明は、下記の構成成分(A)を少なくとも含む、癌の予後の検知キット(以下「本発明キット」という)を提供する。
(A)C2GnTに結合する第1のポリペプチド
本発明キットは、さらに下記の構成成分(B)を少なくとも含むことが好ましい。
(B)(A)に示す第1のポリペプチドに特異的に結合する第2のポリペプチドであって、標識物質で標識されているもの又は標識されるもの。
ここにいう「ポリペプチド」は、抗体又はその抗原結合部位を有するポリペプチドであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、癌の予後を高い正確性をもって、簡便、迅速的かつ安価に検知できる方法及びキットが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。
<1>本発明方法
本発明方法は、生体から採取した検体に存在するC2GnTを検出し、その検出結果と前記生体の癌の予後とを関連づけるステップを少なくとも含む、癌の予後の検知方法である。
ここで、「C2GnT」は、「C2GnT−I」(GenBank accession No. M97347として特定されるC2GnT)が好ましい。
ここで、検体の採取の対象となる「生体」は、脊椎動物の生体であることが
好ましく、哺乳動物の生体であることがより好ましく、なかでもヒトの生体であることが特に好ましい。
【0011】
本発明方法における「検体」は、生体に由来するものである限りにおいて特に限定されず、生体組織や体液(例えば、尿、血液(本明細書では、血清及び血漿を含む概念として用いる)、唾液、汗、涙液、関節液、軟骨の抽出液、細胞の培養上清等)等が例示される。なかでも生体組織が好ましく、予後の検知を所望する癌が存在する生体組織であることがより好ましい。
【0012】
検体を生体から採取する方法は、用いる検体の種類に応じて当業者が適宜選択することができる。例えば、検体として「生体組織」を用いる場合には、通常のバイオプシーの方法によって採取することができる。採取した検体が「生体組織」である場合には、当該生体組織から切片標本を作製することが好ましい。切片標本の作製方法も特に限定されず、通常の方法を用いることができる。例えば、採取した生体組織を固定し、次いでパラフィン等で包埋して、これを薄切することによって作製することができる。
【0013】
検体に存在するC2GnT検出の方法も、C2GnTがある程度特異的に検出できる方法である限りにおいて特に限定されず、例えばC2GnTに結合する物質を用いて検出する方法や、検体からC2GnTを抽出し、その物理化学的性質や酵素学的性質によって検出する方法等が例示される。なかでもC2GnTに結合するポリペプチドを用いて行われることが好ましく、C2GnTに特異的に結合するポリペプチドを用いて行われることがより好ましい。 このような「ポリペプチド」としては、抗体又はその抗原結合部位(Fab)を有するポリペプチドが好ましい。「抗体のFabを有するポリペプチド」としては、例えば、抗体のFabを含むフラグメントが例示される。Fabを含むフラグメントは、例えばFabを分解しないプロテアーゼ(例えばプラスミン、ペプシン、パパイン等)で抗体を処理することによって製造することができる。「Fabを含むフラグメント」としては、Fab以外に、Fabc、(Fab')2等が例示される。
【0014】
また「抗体のFabを有するポリペプチド」としては、例えば、目的とするFabを有するキメラ抗体を挙げることができる。抗体をコードする遺伝子の塩基配列や抗体のアミノ酸配列が決定されれば、目的とするFab部位を有するキメラ抗体や、目的とするFab部位を含むフラグメント等を遺伝子工学的に製造することができる。
この「ポリペプチド」は、予め精製されているものが好ましい。例えば、ポリペプチドが「抗体」であって、その免疫グロブリンクラスがIgGである場合にはプロテインAやプロテインGを用いたアフィニティークロマトグラフィー等によって精製することができる。また、抗体の免疫グロブリンクラスがIgMである場合には、ゲル濾過カラムクロマトグラフィー等によって精製することができる。
ここで用いる「抗体」は、C2GnTに特異的に結合するものである限りにおいて特に限定されず、ポリクローナル、モノクローナルのいずれであってもよいが、特異性、均質性、再現性、大量かつ永続的な生産性等の観点からモノクローナル抗体であることが好ましい。このような抗体は、公知の方法によって製造することができる。
【0015】
C2GnTの検出を「C2GnTに結合するポリペプチド」を用いて行う場合には、「検体」とこのポリペプチドとを接触させて、検体中に存在するC2GnTに結合した当該ポリペプチドを検出すればよい。「検体」と「ポリペプチド」との接触は、検体中に存在するC2GnT分子とポリペプチド分子とが接触する状態となる限りにおいて特に限定されない。
これら両者を接触させた後、検体中のC2GnT分子とポリペプチド分子とを十分に結合させるために、例えば4〜37℃、好ましくは20℃程度で1時間程度反応させることが好ましい。
この反応後に、固相と液相を分離する。必要に応じて固相の表面を洗浄液で洗浄し、非特異的吸着物や反応しなかったポリペプチドを除去することが好ましい。
洗浄液としては、例えば、トゥイーン(Tween)系界面活性剤等の非イオン性界面活性剤を添加した緩衝液(例えばリン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩液(PBS)、トリス塩酸緩衝液等)を用いることが好ましい。
【0016】
このポリペプチドは、検出を容易とするために標識物質で標識されているか又は標識されることが好ましい。標識に用いることができる標識物質は、通常のタンパク質の標識に使用可能なものであれば特に限定されないが、例えば酵素(ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アセチルコリンエステラーゼ、グルコースオキシダーゼなど)、放射性同位元素(125I、131I、3Hなど)、蛍光色素(フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、7-アミノ-4-メチルクマリン-3-酢酸(AMCA)、ジクロロトリアジニルアミノフルオレセイン(DTAF)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)、リスアミンローダミンB(Lissamine Rhodamine B)、テキサスレッド(Texas Red)、フィコエリスリン(Phycoerythrin;PE)、ウンベリフェロン、ユーロピウム、フィコシアニン、トリカラー、シアニンなど)、化学発光物質(ルミノールなど)、ハプテン(ジニトロフルオロベンゼン、アデノシン一リン酸(AMP)、2,4−ジニトロアニリンなど)、特異的結合対(ビオチンとアビジン類(ストレプトアビジンなど)、レクチンと糖鎖、アゴニストとアゴニストの受容体、ヘパリンとアンチトロンビンIII(ATIII)、多糖類とその結合タンパク質(ヒアルロン酸とヒアルロン酸結合性タンパク質(HABP)など)のいずれか一方の物質等が例示される。
【0017】
また、「C2GnTに結合するポリペプチド」自体が標識されていなくても、このポリペプチド(第1のポリペプチド)に特異的に結合するポリペプチド(第2のポリペプチド)を用いて、当該第1のポリペプチドを検出してもよい。この「第2のポリペプチド」は、第1のポリペプチドに特異的に結合するものである限りにおいて特に限定されない。例えば、第1のポリペプチドが抗体(免疫グロブリン)である場合には、当該免疫グロブリンが由来する動物及びクラス等に応じて、その免疫グロブリンに特異的に結合する抗体等が例示される。例えば、第1のポリペプチド(一次抗体)がマウスの免疫グロブリン(マウス由来のIgG1)である場合には、第2のポリペプチド(二次抗体)として抗マウスIgG1抗体を用いることができる。第2のポリペプチドは、標識物質で標識されているか又は標識されるものを用いる。用いることができる標識物質は前記と同様である。
【0018】
「ポリペプチド」を標識物質で標識する方法は、標識物質に適した公知の方法、例えば酵素で標識する場合はグルタルアルデヒド法、過ヨウ素酸架橋法、マレイミド架橋法、カルボジイミド法、活性化エステル法など、放射性同位元素で標識する場合はクロラミンT法、ラクトペルオキシダーゼ法など(続生化学実験講座2「タンパク質の化学(下)」、東京化学同人(1987年)参照)から適宜選択することができる。例えば標識物質としてビオチンを使用する場合は、ビオチンのN−ヒドロキシサクシミドエステル誘導体又はヒドラジド誘導体を用いる方法(Avidin-Biotin Chemistry: A Handbook, p57-63, PIERCE CHEMICAL COMPANY, 1994年発行参照)を用いることができる。
「ポリペプチド」は、標識物質で予め標識されていることが好ましい。
検体中に存在するC2GnTに結合したポリペプチドは、標識物質を検出することによって検出することができる。
【0019】
標識物質を検出する方法は、標識物質の種類に応じた公知の検出手段を適宜選択することができる。例えば、標識物質として特異的結合対の一方の物質(例えばビオチン)を使用した場合には、これに特異的に結合する他方の物質(例えばストレプトアビジン)を結合させた酵素(例えばペルオキシダーゼ等)を添加して、特異的結合対を形成せしめる。次いで、これに該酵素の基質(例えば酵素がペルオキシダーゼの場合には、過酸化水素、o-フェニレンジアミン、3,3’,5,5’-テトラメチルベンチジン(TMB)、ジアミノベンチジン等)を添加して、酵素反応による生成物の発色の度合いを測定することによって、標識物質を検出することができる。
また、例えば標識物質として放射性同位元素、蛍光色素又は化学発光物質を使用した場合には、放射能のカウント、蛍光強度、蛍光偏光、発光強度等を測定する方法などが例示される。
【0020】
このような方法によって検体に存在するC2GnTを検出することができるが、その検出は定量的なものであってもよく、定性的なもの(C2GnTの存否の検出)であってもよい。すなわち、このような方法によって得られる「C2GnTの検出結果」は、定量的な結果であっても、定性的な結果であってもよい。
例えば、C2GnTの定性的な測定(C2GnTの存否の検知)を所望する場合には、標識物質の検知の有無をそのままC2GnTの検出結果とすることができる。
また、C2GnTの定量的な検出を所望する場合には、放射能のカウント、発色強度、蛍光強度、発光強度などをそのままC2GnT量の指標とすることができる。
【0021】
本発明方法において、C2GnTの検出結果との関連づけがなされ、かつ、予後の検知の対象となる「癌」は、当技術分野において癌として認識される疾患である限りにおいて特に限定されないが、「前立腺癌、精巣腫瘍及び膀胱癌からなる群から選ばれる1又は2以上の癌」であることが好ましい。本発明における「癌の予後」の内容も特に限定されないが、「癌の転移又は再発の可能性」であることが好ましい。特に「癌の再発の可能性」であることが好ましい。
【0022】
「C2GnTの検出結果」と「癌の予後」との関連づけは、以下の通り行うことができる。
前記の通り、「癌の転移又は再発の可能性」が高い場合には、検体に存在するC2GnTが有意に増加している。よって検体に存在するC2GnTの検出結果(C2GnTの量)が一定レベル以上である場合には、今後、「癌が転移する可能性が高い」又は「癌が再発する可能性が高い」と関連づけることができる。逆に、検体に存在するC2GnTの検出結果(C2GnTの量)が一定レベル以下である場合には、今後、「癌が転移する可能性が低い」又は「癌が再発する可能性が低い」と関連づけることができる。
例えば、生体組織の切片標本を用いた場合には、顕微鏡で観察して癌細胞全体の10%以上にC2GnTが検出されている場合には「陽性」((+))と、それ以外を「陰性」((-))と判定し、陽性((+))の場合には「癌の転移又は再発の可能性が高い」と関連づけることができる。
【0023】
本発明方法を癌組織を摘出する前に行うと、癌組織を摘出した後の予後の予測ができることから、組織の摘出の必要性の有無、組織の全摘のみで根治する可能性、他の処置方法の選択の必要性等、治療方針の決定に際して極めて有用な情報が提供される。さらに、無用な医学的処置が防止されることにもつながり、患者に対しても高い正確性をもって情報を提供することができる。したがって、本発明方法は癌組織を摘出する前に行われることが好ましい。特に「全摘出」をする前に行われることが好ましい。
【0024】
<2>本発明キット
本発明キットは、下記の構成成分(A)を少なくとも含む、癌の予後の検知キットである。
(A)C2GnTに結合する第1のポリペプチド
本発明キットは、さらに下記の構成成分(B)を少なくとも含むことが好ましい。
(B)(A)に示す第1のポリペプチドに結合する第2のポリペプチドであって、標識物質で標識されているもの又は標識されるもの。
【0025】
「C2GnTに結合する第1のポリペプチド」の説明は、前記の「C2GnTに結合するポリペプチド」と同様である。「第1のポリペプチドに特異的に結合する第2のポリペプチド」の説明も、前記の「第2のポリペプチド」と同様である。また、本発明キットにおけるその他の用語の意義についても、前記と同様である。
したがって、ここにいう「ポリペプチド」は、前記と同様に、抗体又はその抗原結合部位を有するポリペプチドであることが好ましい。
本発明キットを用いた癌の予後の検知は、前記の「本発明方法」(C2GnTの検出を「C2GnTに結合するポリペプチド」を用いて行う場合)に従って行うことができる。
【0026】
本発明キットは、前記の構成成分を少なくとも含む限りにおいて特に限定されず、さらに標識物質の検知試薬等を構成として加えることができる。
また、これらの構成の他に、洗浄液、酵素反応停止液等が含まれていてもよい。さらに本発明キットには、測定バッチ同士の実施レベルを一定水準に保つための陽性コントロール(QCコントロール)を含有させることもできる。
これらの構成は、それぞれ別体の容器に収容しておき、使用時に本発明方法に従って使えるキットとして保存しておくことができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0028】
実施例において用いた検体、試薬等は以下の通りである。
(試薬等)
抗C2GnT抗体(ポリクローナル抗体)は、Skrincosky D, Kain R, El-Battari A, et al, J. Biol. Chem., 272, 22695-22702,(1997)に記載されたものを用いた。
抗sLex抗体(CSLEX-1)としては、ATCCから入手したハイブリドーマ(ATCC Number HB-8580)が産生するものを用いた。
抗GnT-V抗体は、Int. J. Cancer, 91(5) p631-637 (2001)に記載されたものを用いた。
二次抗体として用いたペルオキシダーゼ標識した抗マウスIg抗体は、株式会社ニチレイ製の、ヒストファイン シンプルステイン MAX-PO(商品名)を用いた。ペルオキシダーゼの基質や発色物質としては、株式会社ニチレイ製のAEC基質キットを用いた。
【0029】
実施例1
前立腺癌:
前立腺組織の抗C2GnT抗体による染色性と、前立腺癌の悪性度や予後との関係を調べるために、以下の実験を行った。
根治的前立腺全摘術を施行するT1症例およびT2症例の患者(69例)から、バイオプシーによって前立腺組織を採取した。これらの患者は、術前術後にホルモン療法を行わなかった患者である。採取した前立腺組織を通常の方法でホルマリン固定し、パラフィン包埋切片を作製した。この切片標本について免疫組織染色を行った。
免疫組織染色は、抗C2GnT抗体を一次抗体として用いて4℃で一晩反応させ、次いでペルオキシダーゼ標識した抗マウスIg抗体を二次抗体として用いて室温で1時間反応させた後、発色基質を用いて発色させることによって行った。
染色後、光学顕微鏡で観察して、癌細胞全体の10%以上が染色されている場合に「陽性」((+))と判定し、それ以外を「陰性」((-))とした。
抗C2GnT抗体による免疫染色の一例を図1に示した。糖鎖を付加する糖転移酵素の細胞内局在はゴルジ体なので、C2GnTは核近傍に粒状に染色される。一般に、グリーソン・グレードの低い部分では陰性で、グレードが高くなると明瞭なゴルジパターンとして染色される。
【0030】
(1)悪性度とC2GnTとの関係
抗C2GnT抗体による染色性(陽性率)と、グリーソン・スコア(Gleason score)とを対比した。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
この通り、C2GnT陽性率は、グリーソン・スコア6以下の群においては6/18 (33%)、スコア7の群においては18/26 (69%)、スコア8以上の群においては23/25 (92%)であった。このことから、C2GnTの陽性率が高くなるにつれて、グリーソン・スコアも有意に高くなることが示された。
一次抗体として抗sLex抗体(CSLEX-1;ATCC Number HB-8580で示されるハイブリドーマを用いて調製)を用いて、sLeの染色性についても調べたところ、同様の結果が得られた。しかし、p-valueはsLeよりもC2GnTの方が低かったことから、悪性度をより鋭敏に反映するのはC2GnTであることが示唆された。
【0033】
(2)予後とC2GnTとの関係
(2−1)抗C2GnT抗体による染色性(陽性率)と、pT(病理的な原発巣のステージを示す。「pT2」は原発巣が前立腺内に限局しており、「pT3」は原発巣が被膜を破って外部に出ている状態を示す)とを対比した。結果を表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
この通り、C2GnT陽性率は、バイオプシー標本のpT診断において「pT2」と判定された群においては23/44 (52%)、「pT3」と判定された群においては24/25 (96%)であった。このことから、C2GnTの陽性率が高くなるにつれて、pTも高くなることが示された
【0036】
(2−2)抗C2GnT抗体による染色性(陽性率)と、PSA failureとの関係を調べた。前立腺全摘後の期間と、PSA failure(PSA非再発率)との関係を図2に示す。
図2より、C2GnT陽性群が前立腺全摘後においてPSA failureに陥る可能性は、C2GnT陰性群のそれに比して高い(PSA非再発率が低い)ことが示された。この結果は、統計学的に有意であった(p<0.0464;Logrank test)。
なお、PSA failureの頻度は、C2GnT陽性例においては19/47 (40%)、C2GnT陰性例においては3/22 (13%)であった(平均観察期間38.3ヶ月)。
この結果から、病理学的病期予測因子および全摘後のPSA failure予知因子として、C2GnTの有用性が示唆された。
【0037】
実施例2
精巣腫瘍:
精巣腫瘍組織の抗C2GnT抗体による染色性と、精巣腫瘍の悪性度等の関係を調べるために、以下の実験を行った。
精巣摘除術を施行した患者(144例)のうち、生殖細胞腫瘍(germ cell tumor)の133例を対象とした。その構成は以下の通りである。
【0038】
生殖細胞腫瘍 133例
セミノーマ(Seminoma) 68例
転移なし(ステージI) 46例
転移あり(ステージII以上) 22例
非セミノーマ(non-Seminoma) 65例
転移なし(ステージI) 28例
転移あり(ステージII以上) 37例
【0039】
採取した精巣組織について、前記と同様にパラフィン切片標本を作製し、抗C2GnT抗体又は抗GnT-V抗体を一次抗体として用いて、前記と同様に免疫組織染色を行った。
染色後、光学顕微鏡で観察して、癌細胞全体の10%以上が染色されている場合に「陽性」((+))と判定し、それ以外を「陰性」((-)))とした。
抗C2GnT抗体による免疫染色の一例を図3に示す。図3(A)は胎児性癌におけるC2GnT陽性の染色例を、図3(B)は絨毛性癌におけるC2GnT陽性の染色性を示す。
【0040】
・ 悪性度とC2GnTやGnT-Vとの関係
C2GnT陽性率は、セミノーマで0/68、非セミノーマで42/65であった。すなわち、セミノーマではC2GnTの発現は認められなかった。
種々の悪性度の癌組織を用いた場合における、抗C2GnT抗体による免疫染色の一例を図4に、抗GnT-V抗体による免疫染色の一例を図5にそれぞれ示す。図4、図5ともに、図面の上から下に向かって悪性度が高い組織を用いている。
この結果、GnT-Vの染色性が高い組織は悪性度が低く、C2GnTの染色性が高い組織は悪性度が高いことが示された。このことから、C2GnTとGnT-Vは、組織の悪性度に関して全く反対の挙動を示すことが示された。
【0041】
(2)転移とC2GnTとの関係
C2GnT陽性群とC2GnT陰性群のそれぞれについて、精巣組織の癌転移の有無の数を調べた。結果を表3に示す。
【0042】
【表3】

【0043】
表3から、C2GnT陽性群では転移を有する例が有意に多いことが示された。
【0044】
(3)予後とC2GnTとの関係
抗C2GnT抗体による染色性(陽性率)と、の非再発率との関係を調べた。精巣摘除後の期間と、非再発率との関係は、以下の通りであった。
C2GnT陰性群(n=19)については、35ヵ月経過後であっても非再発率は85%と高かった。一方、C2GnT陽性群(n=9)については、徐々に再発が増加し、5ヵ月経過後には非再発率が20%にまで低下していた。この結果から、抗C2GnT抗体陽性例では、高い再発率を呈することが明らかとなった。
【0045】
実施例3
膀胱癌:
膀胱癌組織の抗C2GnT抗体による染色性と、膀胱癌の悪性度等の関係を調べるために、以下の実験を行った。
健常人及び膀胱癌患者(計81例)を対象とした。その構成は以下の通りである。なお「pT」は腫瘍の深達度を示し、pTaが最も浅く、数字が大きいほど深達度が高いことを示す。
【0046】
健常な膀胱 15例
膀胱癌 66例
パピローマ(papilloma) 2例
pTa 23例
pT1 20例
pT2〜pT4 14例
リンパ節転移 5例
正常のリンパ節 2例
【0047】
採取した膀胱組織について、前記と同様にパラフィン切片標本を作製し、抗C2GnT抗体又は抗GnT-V抗体を一次抗体として用いて、前記と同様に免疫組織染色を行った。
染色後、光学顕微鏡で観察して、癌細胞全体の10%以上が染色されている場合に「陽性」((+))と判定し、それ以外を「陰性」((-))とした。
【0048】
(1)悪性度とC2GnTやGnT-Vとの関係
抗C2GnT抗体及び抗GnT-V抗体による免疫染色の一例を図6に示す。図6のA〜Cは抗GnT-V抗体による免疫染色の結果を、D〜Eは抗C2GnT抗体による免疫染色の結果を示す。AとDが最も悪性度が低く、BとEは中程度の悪性度であり、CとFは最も悪性度が高い組織を示す。
この結果、精巣腫瘍と同様に、GnT-Vの染色性が高い組織は悪性度が低く、C2GnTの染色性が高い組織は悪性度が高いことが示された。このことから、C2GnTとGnT-Vは、組織の悪性度に関して全く反対の挙動を示すことが示された。
また、種々の悪性度におけるGnT-V及びC2GnT陽性群の数を調べた。結果を表4及び表5に示す。なお表5における「G1」、「G2」及び「G3」は悪性度のグレードを意味し、数字が大きくなるほど悪性度が高いことを示す。
【0049】
【表4】

【0050】
【表5】

【0051】
これらの結果から、Gnt-V陽性群では有意に悪性度(浸潤度)が低く、C2GnT陽性群では有意に悪性度(浸潤度)が高いことが示された。
【0052】
実施例4
本発明キットの作製:
以下の構成からなる本発明キットを作製した。
【0053】
1.抗C2GnT抗体(マウス) 1本 (一次抗体)
2.ペルオキシダーゼ標識抗マウスIg抗体 1本 (二次抗体)
3.TMB溶液 1本 (基質)
【0054】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。すべての引用される参照は内容として取り込まれる。
本出願は、2003年3月19日出願の米国仮特許出願60/455、585に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明方法は、癌の予後を高い正確性をもって、簡便、迅速的かつ安価に検知することができることから、極めて有用である。また本発明キットを用いると、このような本発明方法をさらに簡便かつ迅速に実施できることから、極めて有用である。本発明によって、治療前の時点のデータで、治療後の予後の予測を正確に行うことができ、前立腺全摘の必要性の有無、前立腺の全摘のみで根治する可能性、他の処置方法の選択の必要性等、治療方針の決定に際して極めて有用な情報が提供される。さらに無用な医学的処置が防止されることにもつながり、患者に対しても高い正確性をもって情報を提供することができ、患者の利益にもつながることになる。また、本発明方法を、グリーソン・スコアやPSA値等のパラメータと組み合わせて総合的に評価することによって、癌の悪性度、進行性、予後、リンパ節転移の有無、再発の有無等をさらに正確に予測できるようになり、従って、本発明方法は極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】前立腺癌における、抗C2GnT抗体による免疫染色の一例を示す図である。
【図2】前立腺全摘後の期間と、PSA failure(PSA非再発率)との関係を示す図である。
【図3】精巣腫瘍における、抗C2GnT抗体による免疫染色の一例を示す図である。
【図4】種々の悪性度の精巣腫瘍組織を用いた場合における、抗C2GnT抗体による免疫染色の一例を示す図である。
【図5】種々の悪性度の精巣腫瘍組織を用いた場合における、抗GnT-V抗体による免疫染色の一例を示す図である。
【図6】膀胱癌における、抗C2GnT抗体及び抗GnT-V抗体による免疫染色の一例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体から採取した検体に存在するコア2 β1,6-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼを検出し、その検出結果と前記生体の癌の予後とを関連づけるステップを少なくとも含む、癌の予後の検知方法。
【請求項2】
「コア2 β1,6-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ」が、「コア2 β1,6-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ−I」であることを特徴とする、請求項1に記載の検知方法。
【請求項3】
「生体」が、ヒトの生体であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
「検体」が、生体組織であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
コア2 β1,6-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼの検出が、コア2 β1,6-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼに結合するポリペプチドを用いて行われることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
「ポリペプチド」が、抗体又はその抗原結合部位を有するポリペプチドである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
「癌」が、前立腺癌、精巣腫瘍及び膀胱癌からなる群から選ばれる1又は2以上の癌であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
「癌の予後」が、癌の転移又は再発の可能性であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
癌組織を摘出する前に行われることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
「摘出」が、全摘出であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
下記の構成成分(A)を少なくとも含む、癌の予後の検知キット。
(A)コア2 β1,6-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼに結合する第1のポリペプチド
【請求項12】
さらに下記の構成成分(B)を少なくとも含むことを特徴とする、請求項11に記載のキット。
(B)(A)に示す第1のポリペプチドに特異的に結合する第2のポリペプチドであって、標識物質で標識されているもの又は標識されるもの
【請求項13】
ポリペプチドが、抗体又はその抗原結合部位を有するポリペプチドである、請求項11又は12に記載の検知キット。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−520912(P2006−520912A)
【公表日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−508918(P2006−508918)
【出願日】平成16年3月19日(2004.3.19)
【国際出願番号】PCT/US2004/006085
【国際公開番号】WO2004/093662
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【出願人】(500114586)ザ バーナム インスティチュート (8)