説明

癌の診断および治療のためのFSH受容体リガンドの使用

本発明は、画像診断、特に、腫瘍の内皮細胞および循環する血液細胞によって発現される FSH 受容体を特異的に標的とする組成物を用いる癌の画像診断および治療に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野:
本発明は、血液内皮細胞および循環する血液細胞によって発現される FSH 受容体を特異的に標的とする組成物を用いる画像診断(diagnostic imaging)および治療に関し、特に多くのタイプの癌の画像診断および治療に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景:
癌の診断
腫瘍から採取された組織切片の顕微鏡による評価は、依然として癌の診断を決定するための最も確立された基準(golden standard)である。ゲノム DNA、転写された遺伝子および発現したタンパク質の解析はすべて、顕微鏡画像において検出された組織学的特徴に重要な情報を追加する。将来の診断、予後情報および処置の選択は、ほぼ確実に核酸およびタンパク質の解析と併用される形態の総観的(synoptic)評価に基づくものとなるであろう。
【0003】
分子生物学の目覚ましい進歩にもかかわらず、癌の診断は依然として光学顕微鏡の使用に依存している。分子ツールの開発は、いまだ増加中ではあるが、正常な細胞から癌細胞を識別するために重要な役割を果たしてきた。組織切片の組織化学的染色に加えて最も一般的に用いられる方法は、特定の抗体を用いて組織および細胞におけるタンパク質発現パターンの検出を可能にする免疫組織化学である。臨床診断における免疫組織化学の使用は、組織の構造および細胞の形態を解析する可能性だけでなく、様々な細胞集団において免疫反応性を検出する可能性をも提供してきた。これは、様々な原発性腫瘍の正確なグレード付け(grading)および分類を支持するため、および起源が不明な転移の診断において重要である。今日の臨床業務において最も一般的に用いられる抗体としては、細胞型マーカーに対する抗体、例えば PSA、MelanA、チログロブリン(Thyroglobulin)、ならびに中間径フィラメント、CD-抗原等および悪性度のマーカー、例えば Ki67、p53、HER-2 を認識する抗体が挙げられる。血清中においてまたは組織検体から測定可能な全ての腫瘍マーカーは通常、スクリーニング、診断、予後または治療のモニタリングにおいて、および/または再発の早期の示唆のために有用である。理想的な腫瘍マーカーは、高い感度、特異性および再現性を有するべきであり、かつ、実用的で、容易な、費用効率の高い試験に含まれるべきである。かかるマーカーはまた、予後を予測し、患者管理において有用なものでなければならない。これら全ての条件を満たすマーカーは、いまだ発見されていない。
【0004】
前立腺癌
前立腺癌(PCa)は、先進国の男性において最もよく見られる癌である[Stenman et al.、2005; Wilson、2005]。PCa は、フランスの男性の癌による死亡原因の第2位であり(癌による死亡の 11%)[www.doctissimo.fr/html/ dossiers/cancer_prostate.htm]、米国の男性人口の17%を侵し[Wilson、2005; Jemal et al.、2008]、イタリアにおいては最も頻発する癌の部位として肺を凌ぐ[AIRT working group、2006]。前立腺癌の発生率および該疾患による死亡率は、年齢と共に指数関数的に増大する[Scardino、2003]。高齢人口のパーセンテージの増大のため、米国においては前立腺癌の症例数が2006年における234,000件から、2025年には380,000件にまで増加すると予測されている[Scardino、2003]。
【0005】
根治的な(curative)前立腺癌の治療のため、および前立腺癌による死亡率の減少を達成するために、初期の検出が不可欠である。残念ながら、利用可能な試験は、触知できる、超音波によって見える、または前立腺特異的抗原(PSA)の血清レベルを上昇させ得るだけの十分な大きさの前立腺癌しか検出できない。
【0006】
スクリーニングは、直腸指診(DRE)および血清PSA(前立腺特異的抗原)レベルの測定を用いて行われる。後者は、前立腺癌の検出のための最も重要な生化学的マーカーである[Ablin et al.、1970 a、b]。しかし、PSA 試験の利用は、それが臨床的に関連の無い、悪性ではない状態(前立腺肥大、前立腺炎、外傷および尿閉)から癌を区別できないことによって制限される[Stenman et al.、2005; Zhu et al.、2006]。さらに、PSA と癌との相関は当初考えられていたよりも弱いことが示され、現在では PSA は前立腺のサイズに関する有意なマーカーとみなされているに過ぎない[Stamey et al.、2004]。異常な DRE 所見および/または上昇した PSA レベルを有する患者は、経直腸的超音波検査(transrectal ultrasonography)によってガイドされることが多い前立腺針生検を用いてさらに評価される必要がある[総説として、Akin and Hricak、2007]。
【0007】
腫瘍の診断および攻撃性は通常、もっぱら前立腺腫瘍の腺の構造上のパターンにのみ基づくグリーソンシステム(Gleason system)を用いることによって確立される。この組織学的方法は、特定の腫瘍の細胞がどれだけ効率的に、正常で非常によく分化した腺構造に良く似た腺へと自身を構築することができるかについて評価する。グリーソンのグレード付けシステムにおいて、前立腺腫瘍組織はグレード1(非常によく分化している)からグレード5(分化していない)までに分類される。2つの最も広がった腫瘍領域のグレードの合計が、各々の患者について 2 から 10 まで変化するグリーソンスコア(Gleason score)を与える。針生検によって少量の前立腺組織しか得られないため、サンプリング誤差がよく生じる。癌の検出およびリスク評価を改良するためには、前立腺の異なる領域からの多数の生検サンプルが必要である[Macchia、2004; Remzi et al.、2005]。近年、ハイスループット技術、例えば質量分析およびマイクロアレイ解析が、前立腺腫瘍において過剰発現するいくつかの転写産物およびタンパク質の発見をもたらした[総説として、Bradford et al.、2006]。しかし、それらのいずれも、診断目的に関して満足のいくものではない[Bradford et al.、2006]。
【0008】
前立腺腫瘍において発現するが正常な前立腺においては発現しないことが報告されたタンパク質の一つが、卵胞刺激ホルモン受容体(FSHR)である。ポリクローナル抗 FSHR抗体は、ヒトの過形成前立腺組織の分泌性上皮の基底部(basolateral)領域における FSHR の局所的発現を明らかにし、腺癌における細胞極性を伴わない局所的発現を明らかにした [Mariani et al.、2006]。本発明のデータと対照的に、Mariani et al. は血管における FSHR シグナルには何ら言及していない。
【0009】
異なるポリクローナル抗体を用いた別の免疫組織化学研究は、癌性前立腺の腺構造における強い FSHR 染色、および間質細胞における低いレベルの染色を報告したが、血管における染色は報告されなかった。FSHR の染色は、正常な前立腺の腺においては検出されなかった[Ben-Josef、1999]。さらに、彼らの抗体によって検出されたバンドの分子量は FSHR の既知のサイズに一致せず、彼らの抗体と交差反応する関連の無いタンパク質であった可能性があるため、該データには疑問がある。
【0010】
最後に、総説[Porter et al 1991]は、FSH が前立腺癌の発病および進行に影響を与え得ること、および FSH の産生を変化させる事が積極的な治療的アプローチとなり得ることを示唆している。しかし、その著者らは、血液へ送達される FSHR リガンドが独力では容易に内皮障壁(endothelial barrier)を超えることができないため、上皮性組織の前立腺腫瘍上に発現する FSHR を標的とすることは困難である[Vu Hai et al.、2004]ということを認識できていない。臨床的用途に使用できる、前立腺腫瘍を標的とするための治療方法または診断方法はこれまで全く存在していない。トランスジェニックマウスのある系統において前立腺腫瘍の微小血管に結合するペプチドが、2002年に記載されている[Arap et al.、2002]。しかし、該ペプチドがヒトの診断または治療に適するかどうかは現在のところ分かっていない。
【0011】
放射標識された抗-前立腺特異的膜抗原(PSMA)抗体が、前立腺癌の診断および治療のために提案された。しかし、腫瘍の脈管構造新生(neovasculature)と関連する陽性の PSMA 免疫染色を有するのは、前立腺腺癌を有する患者のうちたった 16% である[Chang et al.、1999]。結論として、前立腺腫瘍の脈管構造の特異的標的化のための確証された代替手段は存在していない。
【発明の概要】
【0012】
発明の概要:
本発明は、先行技術において全く言及されていない、腫瘍における内皮細胞または腫瘍患者の循環細胞における FSHR の存在の同定に基づく。
【0013】
より具体的には、本発明者らは、正常な前立腺組織には存在しない FSHR が、前立腺腫瘍と関連する血管の内皮細胞によって、より具体的には微小血管において、高度に発現されるという証拠を提示する。これは腫瘍血管壁の表面上に露出する最初の前立腺腫瘍マーカーであり、結果として前立腺癌の画像化および治療のための唯一の機会を提供する。本発明者らはさらに、FSHR が、腎臓、卵巣、膵臓、結腸、膀胱、肺、乳房、精巣、胃、脳および肝臓の腫瘍に関連する血管の内皮細胞、より具体的には微小血管によって等しく発現されるという証拠を提示する。
【0014】
したがって、本発明の対象は、画像化剤(imaging agent)として使用するための、より具体的には腫瘍に関連する状態のインビボの診断または画像化において使用するための、FSH 受容体(FSHR)リガンドである。
【0015】
特定の態様において、FSH 受容体(FSHR)リガンドは、検出可能に標識された抗 FSHR 抗体または検出可能に標識された FSH であり得る。
【0016】
前記腫瘍に関連する状態は、好ましくは前立腺癌、膵臓、結腸、腎臓の癌、卵巣癌、肺、肝臓、乳房、精巣、胃、脳および膀胱の癌からなる群から選択される。
【0017】
特定の態様において、前立腺癌は、前立腺の腺癌である。
【0018】
より具体的には、本発明は、腫瘍に関連する血管における内皮性 FSHR の発現を検出することによるインビボの腫瘍の診断または画像化において画像化剤として使用するための、FSH 受容体(FHSR)リガンドを提供する。
【0019】
FSH 受容体(FSHR)リガンドは、腫瘍のインビボでの局在決定(localizing)もしくはサイズ決定のため、または癌の重症度の評価もしくは抗腫瘍治療の有効性のモニターのために、非常に有用である。
【0020】
本発明の別の対象は、腫瘍に関連する状態の処置のための、FSH 受容体(FSHR)遮断剤(blocking agent)、好ましくは抗 FSHR 抗体である。
【0021】
さらに別の対象は、抗腫瘍剤と結合している FSH 受容体(FSHR)リガンドを含む医薬組成物である。
【0022】
FSHR リガンドは、哺乳類における腫瘍を標的とし、その投与の後に、インビボで、例えば SPECT または PET によって検出することができる。
【0023】
本発明はさらに、(i) FSH 受容体(FSHR)遮断剤または (ii) 抗腫瘍剤と結合している FSH 受容体(FSHR)リガンドの静脈内送達による、癌を処置する方法に関する。
【0024】
後者において、抗腫瘍剤は、それが結合している FSHR リガンドによって腫瘍を標的とする。
【0025】
内皮細胞または FSHR を発現する血液循環細胞における FSHR シグナル伝達を改変する小分子化合物の経口または静脈内送達によって癌を処置する方法も提供される。
【0026】
画像化剤としてのまたは治療における医薬組成物としての FSHR リガンドまたは遮断剤の投与は、静脈内投与によって有利に行い得る。
【0027】
本発明のさらなる対象は、試験対象の血液サンプル中における FSHR を検出することを含み、血液中における FSHR の存在、より具体的には循環する血液細胞中における FSHR の存在が癌を示す、癌の診断または予後または治療モニタリングのためのインビトロの方法である。
【0028】
本発明のこれらのおよび他の側面は、本明細書においてより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】FSH 受容体は前立腺腫瘍において発現するが、正常な前立腺においては発現しない。癌性の(PCa)および正常な(N)組織からの等しい量(1mg の全タンパク質)の Triton X-100 抽出物を、FSHR323 モノクローナル抗体を用いて免疫沈降させ、還元 SDS-PAGE 上で分離し、ニトロセルロース膜へ転写した。該サンプルを、FSHR323 抗体を用いて探索した。分子量マーカーの位置は、左側に示される。他の4人の患者から得られた組織においても、同様の状況が見出された。かすかなバンドは、免疫沈降に用いたマウス IgG に相当する。
【図2】正常な前立腺組織と対比する、前立腺癌における FSHR の発現: FSHR323 モノクローナル抗体を用いる免疫組織化学。(a、b) それぞれグリーソンスコア(GS) 6 および 8 を有する患者からの前立腺癌組織。FSHR 染色は、前立腺癌に関連する血管(矢印)における豊富な受容体発現を示唆する。上皮細胞(矢じり)においてかすかなシグナルが視認できる。(c) a および b と同様に処理された正常な前立腺組織。該抗 FSH 受容体抗体による染色が無いことに注目されたい。棒、20μm。
【図3】細動脈の内皮は、グリーソンスコア 6 より上においてのみ FSHR を発現する。GS、グリーソンスコア; EC、細動脈の内皮細胞; 矢じり、平滑筋細胞。棒、20μm。
【図4】前立腺における FSHR の発現。血管の内皮細胞にわたる FSHR シグナルの強度。黒棒、図 2 におけるものと同様のデジタル画像を用いた個々の血管の内皮細胞にわたる平均強度。白棒、血管を除く組織の領域について測定した FSHR シグナルの強度。
【図5】炎症性白血球浸潤の近傍の血管は、FSHR を強く発現する。#、正常な腺の管腔; *、小型の炎症領域の重心。棒、50μm。
【図6】癌組織における前立腺神経およびその随伴血管は、FSHR を発現する。共焦点顕微鏡画像: a、FSHR; b、S-100 タンパク質 - シュワン細胞マーカー; c、微分干渉コントラスト; および d、統合。VN、神経脈管; 矢印、神経周膜鞘(perineurial sheath)。棒: 20 μm。
【図7】BPH における前立腺神経およびその随伴血管は、FSHR を発現しない。VN - 神経脈管。棒: 20 μm。
【図8】FSHR は、他の腫瘍の型における血管によって発現される。A) 結腸腫瘍、胃腺癌、非小細胞肺(NSCL)腺癌および肝臓腺癌。 B) 精巣腫瘍(セミノーマ)および腎臓明細胞腫瘍。正常な精巣組織において、FSHR を発現することが知られているセルトリ細胞(SC)は陽性である。かすかな FSHR シグナルは、同じ画像中に存在する血管においてほとんどみられない(矢印)。正常な精巣における血管は FSHR を発現することが知られており、それが精巣の障壁を横切る FSH のトランスサイトーシスに関与している (Vu Hai et al.、2004)。C) 乳房の対照組織(a)、上皮内乳癌(b)および浸潤性乳癌(c)の代表的な画像。右側のパネルは、正常な膵臓組織(d)、膵臓内分泌腫瘍(e)および膵臓腺癌(f)を示す。棒、50 μm。全ての腫瘍の型についての対照は、腫瘍の除去のために行われる手術によって得られた検体における、10 mm 以上腫瘍の外側に位置する正常に見える組織であった。
【図9】前立腺腫瘍の周辺における FSHR 染色された血管の分布。抗フォン・ヴィルブランド因子(von Willebrand Factor)抗体とその後の Alexa 488 (緑色) 二次抗体を用いて血管を可視化し、その一方、FSHR 染色された血管を、FSHR323 抗体とその後の Alexa 555 (赤色) 標識された二次抗体によって可視化した。5 人の患者の腫瘍からの 148 の顕微鏡デジタル画像において血管を数えた。横軸 - 腫瘍と正常に見える組織との間の境界線からの距離(陰つきの領域および負の値は、腫瘍の内部を表す)。左側の縦軸 - FSHR を発現する血管の%。右側の縦軸 - 血管数/mm2。四角印 - mm2 あたりの血管数; 円および破線は、FSHR を発現する血管の%を表す。
【図10】FSHR は、前立腺癌患者の多形核細胞において発現する。多形核細胞の様相を有する FSHR 陽性の細胞(矢印)は、腫瘍からの血管の内腔において(A)、および腫瘍境界から 10 mm を超える距離においても見られ(B)、この事はこれらの細胞が全身循環(general circulation)において存在し、腫瘍にのみ存在するのではないことを示唆する。C、前立腺癌患者からの多形核細胞において濃縮された標本は、多形核様の細胞において FSHR 染色を示すが、他の白血球においては示さない。D、健康なドナーからの同様の標本は、FSHR 陽性の循環する血液細胞を全く示さない。
【図11】FSHR を発現する循環する血液細胞のパーセンテージは、疾患の重症度と共に増大する。縦軸 - テキスト中に記載される血液から単離された細胞画分間における FSHR 陽性の細胞のパーセンテージ。エラーバー - 標準誤差; BPH - 良性の前立腺過形成; GS - グリーソンスコア;
【発明を実施するための形態】
【0030】
発明の詳細な説明:
定義
本明細書において用いる場合、“FSHR”の用語は、本発明の方法を適用する受容体を意味する。卵胞刺激ホルモン受容体または FSH-受容体(FSHR)は、卵胞刺激ホルモン(FSH)と相互作用する膜貫通型受容体であり、G タンパク質共役受容体(GPCR)に相当する。
【0031】
本明細書において用いる場合、≪FSHR≫の用語はまた、抗 FSHR 抗体 323 (ATCC 番号 CRL-2689(商標))によって認識される抗原をも意味し、特に FSHR 遺伝子の産物を意味する。
【0032】
哺乳類の生殖の中心的ホルモンである卵胞刺激ホルモンは、主に脳下垂体前葉において産生され、古典的な標的器官は卵巣および精巣である。雌において、FSH はアンドロゲンの芳香族化を介して卵胞の成熟およびエストロゲン産生を刺激する[Macklon and Fauser、1998 において概説されている]。雄において、FSH の機能、例えば未熟な精巣におけるセルトリ(Sertoli)細胞の増殖の刺激ならびに質的および量的に正常な精子形成の維持が、提唱されている[Plant and Marshall、2001 において概説されている]。
【0033】
FSH は、細胞膜 FSH 受容体(FSHR)へ結合することによってその生物学的役割を果たす 。
【0034】
Minegish et al.、1990 によって、ヒト FSH 受容体(FSHR)をコードする cDNA が単離され、配列決定されている。678 残基の推定アミノ酸配列は、7 つの推定膜貫通セグメントを含み、G タンパク質共役受容体に対して配列類似性を示す。359 残基の細胞外ドメインは、4 つの N-結合グリコシル化部位を含む。該タンパク質は、ラットおよびマウスの FSH 受容体と全体的におよそ 90% 同一であり、最も高度に保存された領域は 95% の類似性を示す推定膜貫通セグメントである。
【0035】
FSH 受容体は、精巣のセルトリ細胞および卵巣の顆粒膜細胞によって発現されることが知られている (Sprengel R 1990、Simoni M. et al 1997)。
【0036】
FSHR の代表的なアミノ酸配列は、SWISSPROT データベースにおいて受入番号 P23945 の下に入手することができる。
【0037】
発明者らによって前立腺組織から親和性精製された FSHR は、同一のまたは他の抗体を用いた卵巣におけるこれまでの研究[Vannier et al.、1996; Ji et al.、2004]と一致して、87 kDa の分子量を有する。該受容体はグリコシル化されており、脱グリコシル化後の分子量は、計算された 76.5 kDa の分子量[Vannier et al.、1996 ]に近い 76 kDa となる。
【0038】
FSHR が腫瘍に関連する血管の内皮細胞によって発現されることが見出されたため、該受容体を血管内皮性 FSHR または VE-FSHR とも称する。
【0039】
“腫瘍”とは、細胞の異常な増殖によって起こる組織の異常な増殖をいう。腫瘍は、良性、前悪性または悪性(即ち、癌性)であり得る。腫瘍は、原発性腫瘍または転移性病変であり得る。
【0040】
“癌”および“癌性”の用語は、典型的には制御されない細胞増殖によって特徴付けられる哺乳類の生理学的状態をいうか、または説明する。腫瘍形成に関連する癌の例としては、脳の癌、頭部および頸部の癌、食道癌、気管癌、肺癌、肝臓癌、胃癌、結腸癌、膵臓癌、乳癌、子宮頸癌(cervical cancer)、子宮癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣癌、皮膚癌、直腸癌およびリンパ腫が挙げられる。当業者は、腫瘍形成に関連する多くの疾病(disease entity)について熟知しているであろう。
【0041】
特定の具体的な態様において、腫瘍は癌、例えば前立腺癌、腎臓癌、卵巣癌、膵臓癌、膀胱癌、肺癌、結腸癌、乳癌、精巣癌、脳の癌および肝臓癌である。特定の態様において、腫瘍は前立腺癌である。
【0042】
“FSHR リガンド”の用語は、本明細書において定義される FSHR に特異的に結合しやすいあらゆる化合物をいう。したがって、リガンドは、1個または数個の結合部分を含み得、または1個または数個の結合部分からなり得る。特に、リガンドが1個または数個の結合部分を含む場合、リガンドは当業者に周知の方法によってその存在を容易に検出することができる部分である少なくとも1つの“検出可能なマーカー”をも含み得る。
【0043】
好ましくは、本発明のリガンドにおいて、少なくとも1つの結合部分が VE-FSHR に特異的である。
【0044】
また、好ましくは、少なくとも1つの結合部分は、FSH、抗体、抗原特異的抗体断片、単鎖可変抗体断片(scFv)およびアプタマーからなる群から選択される。抗体、抗原特異的抗体断片、scFv またはアプタマーを生産するための方法は、当業者に周知である。
【0045】
特定の態様において、FSH 受容体(FSHR)リガンドは、検出可能に標識された FSHR 結合性化学物質である。別の特定の態様において、それは検出可能に標識された FSHR 結合性ペプチドである。
【0046】
“FSHR 遮断剤”との用語は、該受容体の発現または活性を阻害または抑制するあらゆる化合物をいう。それは好ましくは抗 FSHR 抗体である。別の特定の態様において、それは siRNA またはアンチセンス分子であり得る。それは化学物質またはペプチドであってもよい。
【0047】
より好ましくは、FSHR リガンドまたは遮断剤は、FSHR に対するモノクローナル抗体である。FSHR に対するモノクローナル抗体は、例えば Vannier et al.、1996 に記載されている。入手可能な FSHR に対するモノクローナル抗体の例としては、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)(ATCC)において CRL-2689(商標)として参照される抗体が挙げられる。
【0048】
本発明のモノクローナル抗体またはその断片は、永続的な(permanent)培養細胞株による抗体分子の産生をもたらすあらゆる技術を用いて調製および単離することができる。産生および単離のための技術としては、これらに限定されないが、Kohler and Milstein (1975) によって最初に記載されたハイブリドーマ技術; ヒト B細胞ハイブリドーマ技術 (Cote et al.、1983) が挙げられる。
【0049】
本明細書において、“抗原特異的抗体断片”は、本発明による、VE-FSHR に対するその特異的結合特性を保持している抗体断片に関する。かかる断片は特に、Fab 断片(抗体のパパイン切断によって生産され得る )、F(ab')2 断片(抗体のペプシン切断によって生産され得る)または Fab'断片(抗体のペプシン切断の後に還元処理をすることによって生産され得る)を包含する。
【0050】
“scFv”は、ペプチドによって連結されたイムノグロブリン短鎖(short chain)可変領域およびイムノグロブリン長鎖(large chain)可変領域である、抗体の単鎖可変断片に関する。
【0051】
本明細書において、“アプタマー”は、核酸またはペプチド分子、特にリボ核酸分子に関する。アプタマーは、分子認識において抗体の代わりとなる分子のクラスである。アプタマーは、高い親和性および特異性をもって実質的にあらゆるクラスの標的分子を認識する能力を有するオリゴヌクレオチドまたはオリゴペプチド配列である。かかるリガンドは、Tuerk C. 1997 に記載されるランダム配列ライブラリーの試験管内進化法(Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment)(SELEX)を介して単離し得る。ランダム配列ライブラリーは、DNA のコンビナトリアル(combinatorial)化学合成によって得ることができる。このライブラリーにおいて、各々のメンバーは、ユニークな配列の、最終的に化学的修飾される直鎖状オリゴマーである。このクラスの分子の可能な修飾、使用および利点は、Jayasena 1999 において概説されている。ペプチドアプタマーは、ランダムペプチドライブラリーまたは例えば大腸菌(E. coli)のチオレドキシンA などのプラットフォームタンパク質によって提示された抗体可変領域のライブラリーに由来し、ツーハイブリッド法によってコンビナトリアルライブラリーから選択される、立体構造的に束縛された(conformationally constrained)ペプチドからなる(Colas et al.、1996)。
【0052】
別の態様において、FSHR リガンドは、CHO 細胞または細菌において生産された卵胞刺激ホルモン(FSH)様のヒト FSH または組換え FSH であり得、より好ましくは組換えヒト FSH である。細菌によって発現された FSH はグリコシル化されないが、FSHR に結合する能力を維持することができ、そのため、その生理学的標的器官である精巣および卵巣における副作用の誘導を少なくすることが可能である。
【0053】
市販のヒト FSH の例としては、Serono から入手されるものが挙げられる(Fertinex(登録商標)、Metrodin HP(登録商標))。市販の組換え FSH の例としては、Organon から入手されるもの(Follistim(登録商標)、Puregon(登録商標))または Serono から入手されるもの(Gonal-F(登録商標))が挙げられる。
【0054】
FSH の誘導体がさらに包含され、例えば脱グリコシル化された FSH または FSH 配列に由来するペプチド断片が挙げられる。
【0055】
“診断”とは、疾患の同定または疾患の重症度の評価を意味する。
【0056】
“予後”の用語は、状態の結果の評価、すなわち状態の進化を決定することおよび悪化のリスクを意味する。
【0057】
本発明において、“患者”の用語は、腫瘍に関連する状態に罹患しているまたは罹患しやすいヒトまたは非ヒト哺乳類を意図する。該患者は、好ましくはヒトである。
【0058】
画像化の方法
本発明者らによって示される通り、FSHR が内皮細胞上に位置することは、FHSR が単に腫瘍細胞において発現するのみであるなら達成することができない画像化様式を可能にする。
【0059】
前立腺腫瘍の画像化の試みは、放射性標識されたボンベシンを用いて行われてきたが[Maecke et al.、2005]、FSHR に基づく画像化は、FSHR の組織分布がそれよりもずっと限られているため、より有望である。FSHR に基づく画像化は、生検の回収をガイドすることができ、頑強なサンプリングを達成するために現在回収されている多数のサンプルを減らすことができる[Macchia、2004; Remzi et al.、2005]。
【0060】
従って本発明は、哺乳類における腫瘍を標的とするよう設計され、哺乳類の体への投与の後に画像化手法、例えば PET によってインビボで検出することができる画像化剤を提供する。該画像化剤は、検出可能な分子または物質、例えば蛍光分子、放射性分子またはシグナルを(直接的または間接的に)提供する当該技術分野において公知のあらゆる他の標識によって検出可能に標識され得る FSHR リガンドからなる。
【0061】
本明細書において用いる場合、“標識”の用語は、FSHR リガンド、例えば抗体または FSH に関して、検出可能な物質、例えば放射性物質またはフルオロフォア(fluorophore)(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)またはフィコエリトリン(PE)またはインドシアニン(Cy5))をリガンドへ結合(即ち、物理的に結合)させることによる直接標識ならびに検出可能な物質との反応性による間接標識を包含することを意図する。FSHR リガンドは、当該技術分野において公知のあらゆる方法によって、放射性分子を用いて標識し得る。例えば、放射性分子としては、これらに限定されないが、シンチグラフィー研究用の放射性原子、例えば 123I、124I、111In、186Re、188Re が挙げられる。
【0062】
したがって本発明は、インビボの診断または画像化法、例えば単一光子放射型コンピュータ断層撮影法(Single Photon Emission Computed Tomography)(SPECT)または陽電子放射型断層撮影法(Positron Emission Tomography)(PET)において使用するための本発明の画像化剤を提供する。
【0063】
さらなる態様において、FSHR リガンドは、例えばコントラスト増強超音波画像法(contrast enhanced ultrasound imaging)において使用するために、ガス充填微小胞(gas-filled microvesicle)を用いて標識することができる。例えば、FSHR リガンドは、常套の方法に従って、例えば、リガンドを両親媒性の構成要素、例えばリン脂質と共有結合させることによって、該ガス充填微小胞の安定化膜(stabilizing envelope)に結合させるかまたは取り込ませることができる。本発明の FSHR リガンドを有する微小胞を調製するのに適したガス充填微小胞の組成およびその調製方法は、例えば、すべて引用により本明細書に取り込まれている WO 91/15244、US 5,597,549、WO 2004/069284、US 2007/0128117、WO 97/29782、US 5,605,673、US 5,711,933 および US 6,333,021 に開示されている。
【0064】
本発明の方法は、好ましくは、腫瘍に関連する状態のインビボの診断または画像化に関する。
【0065】
特定の態様において、腫瘍は癌、例えば前立腺癌、腎臓癌、卵巣癌、膵臓癌、膀胱癌、肺癌、結腸癌、乳癌、精巣癌、脳の癌および肝臓癌である。最も好ましい態様において、前立腺癌は前立腺の腺癌である。
【0066】
前立腺癌についての以下の例において示す通り、FSHR は、腫瘍の、より具体的には悪性腫瘍の血管において高度に発現するが、正常な前立腺組織においては発現しない。したがって本発明の画像化方法は、腫瘍と良性の過形成とを区別することを可能にする。
【0067】
さらに、FSHR の発現は、グリーソンスコアと併用して解析し得る。グリーソンスコアは、前立腺腫瘍の腺の構造上のパターンに基づく。それは、あらゆる特定の癌の細胞がどれだけ効率的に、正常な前立腺の腺に似た腺へと自身を構築することができるかを評価する。正常な腺構造を模倣する腫瘍の能力はその分化と呼ばれ、その構造がほぼ正常である(よく分化した)腫瘍は比較的正常に近い-あまり高度に(aggressively)悪性ではない-生物学的挙動を有することが経験によって示されている。グリーソンのグレードおよびステージは、世界保健機関の2004年のガイドラインに従って割当てられている。
【0068】
本発明の特定の対象は、以下からなる工程を含む、画像化データを収集する方法である:
a) 検出可能に標識された FSH 受容体リガンドを含む画像化剤を提供する工程;
b) 該画像化剤を患者に投与する工程;
c) 該患者における画像化データを収集する工程。
【0069】
本発明の別の対象は、以下からなる工程を含む、腫瘍に関連する状態を診断する方法である:
a) 検出可能に標識された FSH 受容体リガンドを含む画像化剤を提供する工程;
b) 該画像化剤を患者に投与する工程;
c) 該患者における画像化データを収集する工程;
d) 腫瘍を検出し、腫瘍に関連する状態を診断する工程。
【0070】
好ましい態様において、工程 a) の画像化剤は、放射性標識された FSH または放射性標識された FSHR に対する抗体である。
【0071】
本発明は、FSHR リガンドを用いる腫瘍のサイズの逐次的な(sequential)画像化によって抗腫瘍剤(FSH または FSHR に関連しない)の効力をモニターする方法をさらに提供する。
【0072】
腫瘍治療の例としては、これらに限定されないが、化学治療、凍結治療および放射線治療が挙げられる。
【0073】
好ましい態様において、腫瘍治療はホルモン治療である。
【0074】
本発明のこの側面は、腫瘍に関連する血管、特に微小血管における内皮性 FSHR の発現を検出することによって、薬剤を用いて処置された対象における、癌、例えば前立腺の腺癌を処置するための剤の効力を決定する方法に関する。FSHR の発現は、本発明の画像化剤を用いる上記の方法のいずれかによって検出することができる。
【0075】
薬剤の効力の診断マーカーとして利用される FSHR 発現のレベルは、薬剤処置の前および後に同一の対象において画像化剤を用いることにより決定することができる。有意な差は、薬剤がその効力を達成したことを意味する。例えば、前立腺腫瘍のホルモン処置の成功は、本発明の画像化方法を用いて検出することができる FSHR 発現の消失または大きな減少を伴うと期待される。
【0076】
インビトロの診断
本発明者らはまた、FSHR を発現する細胞が、腫瘍状態を有する患者の循環する血液細胞において蓄積することを発見した。したがって、FSHR の血中レベルは癌のマーカーとして用いることができる。
【0077】
特定の態様において、腫瘍は癌、例えば前立腺癌、腎臓癌、卵巣癌、膵臓癌、胃癌、膀胱癌、肺癌、結腸癌、乳癌、精巣癌、脳の癌および肝臓癌である。特定の態様において、腫瘍は前立腺癌である。最も好ましい態様において、前立腺癌は前立腺の腺癌である。
【0078】
これに基づき、本発明は、試験対象の血液サンプル中における FSHR を検出することを含み、FSHR の血液中における存在が癌を示す、癌の診断または予後のためのインビトロの方法を提供する。
【0079】
血液サンプルは、全血であり得る。
【0080】
末梢血が好ましく、多形核細胞(PMN)は FSHR を検出および/または定量し得る好ましい細胞である。好ましい態様において、腫瘍疾患の診断または予後のための方法は、末梢血 PMN を抽出する予備的工程を含む。
【0081】
血液における FSHR の存在は、腫瘍疾患を示す。実施例および図 10 および 11 において詳細に説明する通り、多形核の側面を有する FSHR 陽性の細胞は、腫瘍からの血管の内腔において視認できるが、良性の過形成の血管においては視認できない。
【0082】
試験対象が既に腫瘍疾患と診断されている患者である場合、同じ患者における以前の値と比較した該患者の FSHR の量は、腫瘍疾患の活性のレベルを示す。それは、定義された治療を受ける患者における疾患の進行をモニターすることによって治療の有効性を決定するために有用であり得る。本発明の方法はまた、癌と診断された患者の状態を評価するために特に有用である。
【0083】
循環細胞における FSHR のインビトロの検出は、あらゆる標準的な手法、例えば ELISA またはフローサイトメトリーによって容易に達成することができる。
【0084】
典型的な ELISA アッセイにおいては、試験する血液サンプルを、抗 FSHR 抗体、好ましくは固体の形式で固定化された抗 FSHR 抗体と接触させる。結合していない細胞を洗浄により除去し、残っている細胞を、標識された(例えばビオチン化された)抗 FSHR 抗体と共にインキュベートする。その後、血液サンプルにおける FSHR の検出は、例えばストレプトアビジンペルオキシダーゼと共にインキュベートし、次いで適切な色生成試薬(color-generating reagent)と共にインキュベートした後、明らかにされ、定量される。
【0085】
治療応用:
FSHR が内皮細胞上に位置することは、本発明者らによって示される通り、腫瘍の血管を攻撃することによる治療を可能にする。
【0086】
本発明の別の対象は、腫瘍に関連する状態の処置のための FSH 受容体(FSHR)遮断剤、好ましくは抗 FSHR 抗体である。
【0087】
FSHR 遮断剤は、FSHR 受容体の活性または発現を抑制することによって作用し得る。一つの側面によれば、遮断剤は FSHR 遺伝子の発現の阻害剤である。FSHR 遺伝子の発現の阻害剤としては、例えばアンチセンス RNA、RNAi または DNA 分子、またはリボザイムが挙げられる。別の態様において、好ましくは抗体である遮断剤は、シード照射(seed radiation)またはビーム照射の代わりとして、ごく近傍における照射によって腫瘍細胞のみを殺し、健康な組織を残す放射性同位体と結合させることができる(Parry et al、2006 を参照)。
【0088】
さらに別の対象は、抗腫瘍剤と結合した FSH 受容体(FSHR)リガンドを含む医薬組成物である。かかる組成物は、腫瘍に関連する状態を処置するために特に有用である。
【0089】
次いで、FSHR リガンドは、抗腫瘍剤のインビボの送達のための、腫瘍の直接標的化のための特異的ツールとして用いられる。
【0090】
特定の態様において、腫瘍は癌、例えば前立腺癌、腎臓癌、卵巣癌、膵臓癌、膀胱癌、肺癌、結腸癌、乳癌、精巣癌、脳の癌および肝臓癌である。特定の態様において、腫瘍は前立腺癌である。最も好ましい態様において、前立腺癌は前立腺の腺癌である。
【0091】
抗腫瘍剤は、腫瘍の血管における流れを遮断し得、または腫瘍の内皮細胞を破壊し得、または腫瘍細胞の増殖を破壊もしくは遮断し得る。
【0092】
それらは、抗癌剤、毒素、遺伝子、siRNA、および小分子から選択し得る:
【0093】
抗腫瘍剤の例としては、以下が挙げられる:
1. 抗体標的化(antibody targeted)放射線治療: シード照射またはビーム照射の代わりとしての、ごく近傍において照射によって腫瘍細胞のみを殺し、健康な組織を残す放射性同位体と結合した抗体(Parry et al、2006 を参照);
2. 標的とされた細胞を破壊するペプチド(Arap et al 2002; Leuschner and Hansel、2005 を参照);
3. 新たに形成される血管を優先的に殺すタンパク質をコードする遺伝子 (Hood et al 2002 を参照);
4) FSHR リガンドと結合した場合に癌細胞を破壊することができる抗癌剤 (即ち、化学療法剤)。“化学療法”の用語は通常、一般に迅速に分裂する細胞に影響を与える細胞毒性薬剤をいう。化学療法剤は、様々な可能な方法で細胞分裂を妨げ、例えば、DNA の複製または新たに形成される染色体の分離を妨げる。多くの癌細胞が DNA の損傷を修復できない一方、正常な細胞は通常修復できるため、ある程度の特異性は生じ得るが、ほとんどの形態の化学療法は全ての迅速に分裂する細胞を標的とし、癌細胞に対し特異的ではない。したがって、化学療法は、健康な組織、特に高い交換速度を有する組織(例えば腸管の内層)を害する可能性を有する。これらの細胞は通常、化学療法の後に自身を修復する。
5) 癌細胞の調節が解除された(deregulated)タンパク質に特異的な小分子
かかる小分子は通常、癌細胞内の突然変異した、過剰発現する、あるいは重大な意味を持つタンパク質上の酵素ドメインの阻害剤である。顕著な例は、チロシンキナーゼ阻害剤であるイマチニブおよびゲフィチニブである。
【0094】
FSHR が循環する血液細胞中に位置することは、本発明者らによって示される通り、かかる循環する血液細胞を標的とすることによる治療をさらに可能にする。
【0095】
したがって、本発明の別の対象は、癌の処置において、好ましくは静脈内投与用の形態において使用するための、FSHR を発現する循環する血液細胞の存在量または循環する血液細胞による FSHR の発現もしくはシグナル伝達を調節する FSH 受容体(FSHR)リガンドである。
【0096】
FSHR を発現する循環する血液細胞の存在量または循環する血液細胞による FSHR の発現もしくはシグナル伝達を調節すること(即ち、減少させまたは刺激すること)を含む、癌を処置する方法がさらに提供される。
【0097】
投与:
画像化組成物(imaging composition)または医薬組成物は通常、哺乳類への投与に適する形態において、生体適合性の担体と組み合わせて形成される。
【0098】
好ましい態様において、画像化組成物は、放射性医薬組成物である。
【0099】
“生体適合性の担体”は、組成物が生理学的に耐容性であるよう、即ち毒性または過度の不快感を伴わずに哺乳類の体へ投与され得るよう画像化剤を懸濁または溶解させる流体であり、特に液体である。生体適合性の担体媒体は、適切には、注入可能な担体液体、例えば注入用滅菌水; 水溶液、例えば生理食塩水; 1以上の浸透圧調節物質(例えば生体適合性の対イオンを伴うプラズマ陽イオン(plasma cation)の塩)、糖(例えばグルコースまたはスクロース)、糖アルコール(例えばソルビトールまたはマンニトール)、グリコール(例えばグリセロール)、または他の非イオン性ポリオール物質(例えばポリエチレングリコール、プロピレングリコール等)の水溶液である。
【0100】
さらなる側面において、本発明は、本発明の画像化組成物または医薬組成物の調製のためのキットを提供する。かかるキットの再構成のための反応媒体は、好ましくは上記した“生体適合性の担体”であり、最も好ましくは水である。適切なキットの容器は、滅菌の完全性および/または放射能安全性の維持を可能にする一方でシリンジによる溶液の添加および引き出しを可能にする密封された容器、および所望により不活性なヘッドスペースのガス(例えば窒素またはアルゴン)を含む。
【0101】
キットは、所望によりさらなる構成要素、例えば、必要な場合には、放射線防護剤(radioprotectant)、抗菌性保存剤、pH 調節剤または充填剤(filler)をさらに含み得る。
【0102】
“放射線防護剤”の用語は、反応性の高いフリーラジカル、例えば水の放射線分解から生じる酸素含有フリーラジカルを捕捉することによって、分解性の反応、例えば酸化還元工程を阻害する化合物をいう。本発明の放射線防護剤は、以下から適宜選択される: アスコルビン酸、パラ-アミノ安息香酸、ゲンチシン酸(即ち 2,5-ジヒドロキシ安息香酸)およびその生体適合性の陽イオンとの塩。“生体適合性の陽イオン”およびその好ましい態様は、上記の通りである。
【0103】
“抗菌性保存剤”とは、潜在的に有害な微生物、例えば細菌、酵母またはカビの生育を阻害する物質をいう。抗菌性保存剤はまた、用量に依存して、いくらかの殺菌特性を示し得る。本発明の抗菌性保存剤の主な役割は、再構成後の組成物においてあらゆるかかる微生物の生育を阻害することである。適切な抗菌性保存剤の例としては、以下が挙げられる: パラベン、即ち、メチル、エチル、プロピルもしくはブチルパラベンまたはこれらの混合物、ベンジルアルコール、フェノール、クレゾール、セトリミドおよびチメロサール。
【0104】
“pH 調節剤”の用語は、再構成されたキットの pH がヒトまたは哺乳類への投与において許容できる限界(およそ pH 4.0 から 10.5)の範囲内にあることを確実にするために有用な化合物または化合物の混合物を意味する。かかる適切な pH 調節剤としては、医薬上許容される緩衝剤、例えばトリシン、リン酸塩(phosphate)または TRIS、および医薬上許容される塩基、例えば炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムまたはこれらの混合物が挙げられる。前駆物質が酸性塩の形態で採用される場合、キットの使用者が複数の工程からなる手順の部分として pH を調節できるよう、pH 調節剤は所望により別々のバイアルまたは容器中に提供され得る。
【0105】
“充填剤”の用語は、生産および凍結乾燥の間における物質の取り扱いを促進し得る医薬上許容される増量剤(bulking agent)を意味する。適切な充填剤としては、無機塩、例えば塩化ナトリウム、および水溶性の糖または糖アルコール、例えばスクロース、マルトース、マンニトールまたはトレハロースが挙げられる。
【実施例】
【0106】
本発明は、以下の図および実施例によってさらに説明される。
【0107】
図の説明:
図 1、FSH 受容体は前立腺腫瘍において発現するが、正常な前立腺においては発現しない。癌性の(PCa)および正常な(N)組織からの等しい量(1mg の全タンパク質)の Triton X-100 抽出物を、FSHR323 モノクローナル抗体を用いて免疫沈降させ、還元 SDS-PAGE 上で分離し、ニトロセルロース膜へ転写した。該サンプルを、FSHR323 抗体を用いて探索した。分子量マーカーの位置は、左側に示される。他の4人の患者から得られた組織においても、同様の状況が見出された。かすかなバンドは、免疫沈降に用いたマウス IgG に相当する。
【0108】
図 2、正常な前立腺組織と対比する、前立腺癌における FSHR の発現: FSHR323 モノクローナル抗体を用いる免疫組織化学。(a、b) それぞれグリーソンスコア(GS) 6 および 8 を有する患者からの前立腺癌組織。FSHR 染色は、前立腺癌に関連する血管(矢印)における豊富な受容体発現を示唆する。上皮細胞(矢じり)においてかすかなシグナルが視認できる。(c) a および b と同様に処理された正常な前立腺組織。該抗 FSH 受容体抗体による染色が無いことに注目されたい。棒、20μm。
【0109】
図 3、細動脈の内皮は、グリーソンスコア 6 より上においてのみ FSHR を発現する。GS、グリーソンスコア; EC、細動脈の内皮細胞; 矢じり、平滑筋細胞。棒、20μm。
【0110】
図 4、前立腺における FSHR の発現。血管の内皮細胞にわたる FSHR シグナルの強度。黒棒、図 2 におけるものと同様のデジタル画像を用いた個々の血管の内皮細胞にわたる平均強度。白棒、血管を除く組織の領域について測定した FSHR シグナルの強度。
【0111】
図 5、炎症性白血球浸潤の近傍の血管は、FSHR を強く発現する。#、正常な腺の管腔; *、小型の炎症領域の重心。棒、50μm。
【0112】
図 6、癌組織における前立腺神経およびその随伴血管は、FSHR を発現する。共焦点顕微鏡画像: a、FSHR; b、S-100 タンパク質 - シュワン細胞マーカー; c、微分干渉コントラスト; および d、統合。VN、神経脈管; 矢印、神経周膜鞘(perineurial sheath)。棒: 20 μm。
【0113】
図 7、BPH における前立腺神経およびその随伴血管は、FSHR を発現しない。VN - 神経脈管。棒: 20 μm。
【0114】
図 8、FSHR は、他の腫瘍の型における血管によって発現される。
A) 結腸腫瘍、胃腺癌、非小細胞肺(NSCL)腺癌および肝臓腺癌。 B) 精巣腫瘍(セミノーマ)および腎臓明細胞腫瘍。正常な精巣組織において、FSHR を発現することが知られているセルトリ細胞(SC)は陽性である。かすかな FSHR シグナルは、同じ画像中に存在する血管においてほとんどみられない(矢印)。正常な精巣における血管は FSHR を発現することが知られており、それが精巣の障壁を横切る FSH のトランスサイトーシスに関与している (Vu Hai et al.、2004)。C) 乳房の対照組織(a)、上皮内乳癌(b)および浸潤性乳癌(c)の代表的な画像。右側のパネルは、正常な膵臓組織(d)、膵臓内分泌腫瘍(e)および膵臓腺癌(f)を示す。棒、50 μm。全ての腫瘍の型についての対照は、腫瘍の除去のために行われる手術によって得られた検体における、10 mm 以上腫瘍の外側に位置する正常に見える組織であった。
【0115】
図 9、前立腺腫瘍の周辺における FSHR 染色された血管の分布。
抗フォン・ヴィルブランド因子(von Willebrand Factor)抗体とその後の Alexa 488 (緑色) 二次抗体を用いて血管を可視化し、その一方、FSHR 染色された血管を、FSHR323 抗体とその後の Alexa 555 (赤色) 標識された二次抗体によって可視化した。5 人の患者の腫瘍からの 148 の顕微鏡デジタル画像において血管を数えた。横軸 - 腫瘍と正常に見える組織との間の境界線からの距離(陰つきの領域および負の値は、腫瘍の内部を表す)。左側の縦軸 - FSHR を発現する血管の%。右側の縦軸 - 血管数/mm2。四角印 - mm2 あたりの血管数; 円および破線は、FSHR を発現する血管の%を表す。
【0116】
図 10、FSHR は、前立腺癌患者の多形核細胞において発現する。多形核細胞の様相を有する FSHR 陽性の細胞(矢印)は、腫瘍からの血管の内腔において(A)、および腫瘍境界から 10 mm を超える距離においても見られ(B)、この事はこれらの細胞が全身循環(general circulation)において存在し、腫瘍にのみ存在するのではないことを示唆する。C、前立腺癌患者からの多形核細胞において濃縮された標本は、多形核様の細胞において FSHR 染色を示すが、他の白血球においては示さない。D、健康なドナーからの同様の標本は、FSHR 陽性の循環する血液細胞を全く示さない。
【0117】
図 11、FSHR を発現する循環する血液細胞のパーセンテージは、疾患の重症度と共に増大する。縦軸 - テキスト中に記載される血液から単離された細胞画分間における FSHR 陽性の細胞のパーセンテージ。エラーバー - 標準誤差; BPH - 良性の前立腺過形成; GS - グリーソンスコア;
【0118】
材料および方法
組織検体
ドナーは、いかなる薬剤投与も受けなかった。腫瘍検体を 10% ホルマリン中で 48 時間固定し、5 mm 厚の組織切片に切断し、PBS を用いて十分に洗浄し、段階的な(graded)エタノールおよびキシレン中で脱水し、パラフィン中に包埋した。1.5-2.5 cm の大きな 5 μm 切片をパラフィンブロックから切り出した。いくつかの未固定の前立腺サンプルをドライアイス上で凍結させ、免疫蛍光顕微鏡法および/または免疫沈降およびイムノブロット実験のためにクライオスタットを用いて切片作成をするときまで液体窒素中に保存した。
【0119】
腫瘍検体は、5人の治験担当医師(study investigator)によって組織学的に精査された。前立腺癌についてのグリーソンのグレードおよびステージは、世界保健機関の2004年のガイドラインに従って割り当てられた。他の腫瘍の型は、AJCC の基準に基づいて組織学的にグレード付けされた。解析した腫瘍の型ならびに患者の数および性別を表 I に示す。
【0120】
【表1】

【0121】
脳腫瘍を有する患者も試験した。
【0122】
組織マイクロアレイ(TMA)を、保存されたホルマリン固定したパラフィン包埋を用いて構築した [Kononen et al.、1998]。簡潔には、元のスライドが治験担当病理学者によって精査され、腫瘍または正常に見える組織を含むスライドが選択され、色インクでマークされた。各患者について、腫瘍の 3-4 つの円柱状のコア(直径 0.6 mm)および正常な(非悪性、非異形成性)前立腺組織の 3-4 つのコアを、パラフィンブロックの選択された領域からレシピエントブロックへ移した。各レシピエントブロックは、28 から 40 人の患者について腫瘍を再編成した。全てのコアを含む TMA ブロックの大きな連続的な 5 μm 厚の切片を切り、ヘマトキシリン-エオシンで染色して、診断される領域をコアが的確に提示していることを確認した。各コアの全領域をカバーする画像を、各 TMA の1つの切片から得た。
【0123】
免疫組織化学
免疫組織化学のために、標準的な間接免疫ペルオキシダーゼ法を用いた。組織切片を、SuperFrost スライドに付着させ、トルエンを用いて脱パラフィンし、エタノール中において徐々に脱水させ、流れる水道水を用いて 60 分間洗浄した。スライドを pH 6 の 10 mM クエン酸バッファーと共に 90℃で 40 分間インキュベートすることによって、抗体付着のための組織抗原部位への接近を増強した。室温において 20 分間冷却した後、およびその後の各工程の後に、PBS を用いてスライドをリンスした。内在性のペルオキシダーゼ活性を遮断するため、切片を 6% 過酸化水素と共にインキュベートした(室温において 15 分)。水素化ホウ素ナトリウム(50 mg/ml)を用いて遊離アルデヒド基をクエンチした(20 分)。スライドを、PBS 中の 2% ヤギ血清(ブロッキングバッファー)と共に室温で 2 時間インキュベートすることによって、抗体の非特異的結合を遮断した。スライドを、ブロッキングバッファー中の 5 μg/ml の抗 FSHR モノクローナル抗体 323 [Vannier et al.、1996] と共にインキュベート(終夜、4℃)することによって、FSHR を検出した。セイヨウワサビペルオキシダーゼと結合したヤギ抗マウス IgG (Fc 特異的)(Sigma、1:200 希釈) を、二次抗体として用いた。色素原(chromogen)として、3-アミノ-9-エチル-カルバゾール(AEC; Sigma)を用いた。光学顕微鏡を介して 15 分間、発色をモニターした。切片を蒸留水中で洗浄し、弱いマイヤー(Mayer)のヘマトキシリンを用いて対比染色した。スライドを、Dako Glycergel 封入剤(mounting medium)中において封入した。
【0124】
循環する血液細胞の免疫細胞化学
EDTA 上で回収された血液を、塩化アンモニウムで処理して赤血球を溶解させ、55 g での遠心分離によって多形核細胞を濃縮した(Eggleton et al.、1989)。細胞を、4% ホルムアルデヒドを用いて 4℃において終夜固定し、ポリリジンでコートされた顕微鏡スライドに付着させた。上記の抗 FSHR モノクローナル抗体 323 を用いて FSHR を検出した。
【0125】
間接免疫蛍光共焦点顕微鏡観察
Tissue-Tek を用いて包埋された未固定の凍結した前立腺の連続的クライオスタット切片(7 μm)を SuperFrost スライド上で回収し、空気乾燥させた。切片を、PBS 中の 3% パラホルムアルデヒドを用いて 15 分間室温において固定した。PBS 中の 50 mM NH4Cl を用いて切片を 15 分間処理することにより、遊離のアルデヒド基をクエンチした。抗体の非特異的結合を遮断するため、スライドを PBS 中の 2% ヤギ血清と共に室温で 1 時間インキュベートした。切片を、GS-PBS 中の抗 FSHR323 抗体(3 μg/ml)と共に室温にて 2 時間インキュベートし、続けてヤギ抗マウス IgG-Alexa 555 と共にインキュベート(Molecular Probes; ブロッキングバッファーにおける 1:750 希釈; 1 時間)することにより、FSHR を検出した。抗 FSHR323 抗体(ブロッキングバッファーにおける 3 μg/ml)および内皮細胞の特異的マーカーであるウサギポリクローナル抗フォン・ヴィルブランド因子(Sigma; 希釈 1:1000)の混合物と共にインキュベートされた前立腺切片を用いて、二重標識実験を行った。ヤギ-抗マウス IgG-Alexa 555 およびヤギ-抗ウサギ Ig-Alexa 488 の混合物(Molecular Probes; 希釈 1:750)を、二次抗体として用いた。いくつかの実験において、スライドを TOTO-3 (Molecular Probes; 希釈 1:1000 in PBS)と共に 10 分間インキュベートすることにより、核を検出した。スライドを 15 mM のアジ化ナトリウムを含有する Dako(登録商標)蛍光封入剤中において封入し、Zeiss 510 共焦点レーザースキャニング顕微鏡(Confocal Laser Scanning Microscope)を用いて調査した。陰性対照は、蛍光二次抗体混合物のみと共にインキュベートした前立腺サンプルからなった。FSHR323 抗体の濃度が 5 μg/ml であることを除いて同様である方法を用いて、パラフィン切片についても免疫蛍光共焦点顕微鏡観察を行った。
【0126】
出発物質として 200 mg の湿った前立腺組織を用いて、上述の通りに[Vannier et al.、1996]、免疫沈降ならびにその後の SDS-PAGE およびウエスタンブロッティングを行った。タンパク質受容体を安定に発現する L 細胞からの免疫精製された FSHR を、対照として用いた。
【0127】
免疫組織化学画像中の血管上における FSHR シグナルの定量
簡潔には、各血管のプロファイルとして、管腔を除く血管の領域、およびこの領域にわたる総 FSHR シグナルをコンピュータにより算出した。次いで、各血管にわたる FSHR シグナルの平均強度を、総 FSHR シグナルを該領域に分割することによってコンピュータにより算出した。上記の値は、Adobe Photoshop を用いて、以下に記載する通りに、各血管プロファイルのデジタル画像から抽出した。“投げ縄(Lasso)”ツールを用いて血管の外側輪郭を描写し、選択された領域をコピーして新しいファイルにペーストした(本明細書において、ファイル A と称する)。このファイル中において“選択(Select)”および“色域(Colour range)”のコマンドを用い[Tolivia et al.、2006]、曖昧さ(fuzziness) 30 を用いて、染色された領域を描写した。(代表的な画像から、ペルオキシダーゼ反応の産物に特異的な赤褐色の色を最初に選択し、“色域”メニューから保存(Save)コマンドを用いてファイルに保存した。その後、このファイルを各画像の解析のためにロードした。) 選択された領域を、新しいファイル(B)中にコピーした。同様の操作を血管の内径についても行い、ファイル C および D を生成した。(ファイル A-C のバックグラウンドは黒であった)。全てのファイルに対し“レイヤーを統合する(Merge Layers)”コマンドを適用し、ファイル B および D をグレースケールに変換した。解析の第二段階において、NIH ImageJ ソフトウェアを用いてファイル A-C から数値を抽出した。ファイル A および C から、“Freehand”ツールならびにその後の“Analyze”および“Measure”コマンドを用いて、各血管プロファイルの内側および外側の領域を測定した。次いで、画像 B および D の全領域を“Rectangle”ツールを用いて選択し、全ピクセルの合計を“Analyze”および“Measure”を用いて導き出した。(血管の外側の領域は黒色であるため、全く寄与しない。) 値を Excel のファイルへ導入した。次いで、全血管プロファイルについての値から管腔についての値を差し引くことによって、血管壁に対応する値を得た。血管壁の染色の平均強度を、血管壁にわたる総シグナルを血管の輪郭の領域に分割することによってコンピュータで算出した。
【0128】
結果:
1. FSH 受容体は前立腺腫瘍において発現する
FSHR323 抗体を用いる免疫沈降によって濃縮された前立腺組織からの受容体調製物を、FSHR18 抗体を用いるイムノブロッティングによって解析した。前立腺癌組織において、およそ 87 kDa のバンドが検出された(図 1、レーン PCa)。前立腺癌患者の前立腺中の正常に見える組織からの抽出物においては、FSHR は観察されなかった(レーン N)。検出されたバンドのサイズは、ヒトの卵巣組織においてこれまでに検出された 87 kDa の成熟したグリコシル化された形態[Vannier et al.、1996]と同じであった。
【0129】
2. 免疫組織化学的研究は、FSHR が前立腺腫瘍中の血管において豊富に発現するが、正常な組織においては発現しないことを示す
次に、FSH323 抗体を用いる免疫組織化学によって FSHR の局在化を調査した。大きな 矩形の(rectangular)切片(1.5-2.5 cm)を用いた。これらの切片のほとんどは、腫瘍組織および正常に見える領域の両方を含んでいた。一般に知られている通り、ほとんどの前立腺腫瘍は前立腺の辺縁に局在し、中央域において生じるものはほとんど無い[De Marzo et al.、2007]。5以上のグリーソンスコアを有する患者の辺縁の腫瘍領域から得られた画像において、上皮細胞の中にかすかなシグナルが見られた(図 2 a および b 中の矢じり)。対照的に、辺縁の正常に見える領域における上皮細胞の圧倒的多数は、FSHR 染色を全く示さなかった(図 2c)。[正常に見える辺縁組織において、分泌細胞に関連する基底部の FSHR 染色の小さな局所的領域がまれに見られる(図示せず)]。同じ前立腺の中央領域における正常に見える組織中の上皮細胞においては、FSHR シグナルは検出できない。腫瘍組織における血管の大部分は豊富に染色され(図 2、a および b 中の矢印)、一方、正常に見える辺縁組織における血管のほとんどは染色されない(図 2c 中の矢印)。腫瘍の血管における豊富な FSHR の発現は、5以上のグリーソンスコアを有すると診断された 50 人の患者全てにおいて例外なく見られた。(解析のために利用できる5未満のグリーソンスコアを有する患者からの組織は無かった)。中央領域における正常な組織の血管プロファイルにおいて、FSHR の発現は存在しなかった(図示せず)。例外として、辺縁部および中央部の両方において正常な領域中に見出される炎症性の領域においては、血管が染色される(以下を参照)。前立腺の良性の過形成は、いくつかの炎症性領域を除いては、上皮細胞においても、血管壁においても、FSHR を発現しない(以下を参照)。
【0130】
3. 内皮細胞は、腫瘍血管における FSHR の発現の主要部位である
FSHR について染色された血管プロファイルのサイズおよび外観(appearance)は、それらが毛細血管、細静脈および細動脈を表すという結論と一致する。これらの血管のいくつかは、内皮細胞の他に、周皮細胞(いくつかの毛細血管および後毛細管(周皮細胞性(pericytic))細静脈)および平滑筋細胞(細動脈および筋性細静脈)により構成される [Simionescu and Simionescu、1988]。したがって、腫瘍においてこれらの細胞のうちいずれが FSHR を発現するのかを明らかにすることは価値がある。内皮細胞に特異的なマーカーであるフォン・ヴィルブランド因子は、毛細血管および細静脈において FSHR が内皮細胞によって発現され、血管壁を構成する他の細胞の型によっては発現されないことを示した。細動脈においては、内皮の他に、解析した全てのグリーソンスコア(5 から 10)において平滑筋細胞が染色される(図 3)。これに比較して、筋性細静脈における平滑筋細胞はいかなるグリーソンスコアにおいても染色されない(図示せず)。毛細血管および細静脈の内皮が解析した全てのグリーソンスコア(5 から 10)において FSHR について染色される一方、細動脈の内皮は 6 以上のグリーソンスコアにおいてのみ染色される(図 3 b、c)。この内皮細胞および平滑筋細胞の染色のパターンは、解析した 50 人全ての患者からの組織について妥当(valid)であった。
【0131】
4. グリーソンスコアの関数における FSHR の発現の定量
個々の血管の内皮細胞にわたる平均シグナル強度を、図 2 におけるものと同様のデジタル画像を用いて決定した。毛細血管および後毛細管細静脈のみ測定した。細動脈については、染色された内皮細胞の他に染色された平滑筋細胞が存在することによって導入される複雑さのため、測定を行わなかった。高いグリーソンスコアにおいて FSHR の発現が増大するはっきりとした傾向がある(スコア 9 および 10 については平均して 118±8(SEM) 単位であるのに対し、グリーソンスコア 5 および 8 については 64±7、p<0.0005)(図 4、黒棒)。FSHR シグナルの強度を、血管を除く組織の領域についても測定した(図 4、白棒)。この場合においても、最も高いスコアにおいて発現が高い(グリーソンスコア 10 において 18.4±1.1 単位であるのに対し、グリーソンスコア 5 から 9 については 3.8±0.3 単位、p<1.7 x 10-11)。FSHR シグナルは組織の残りの部分よりも内皮細胞についての方がずっと高いことに注目すべきである(およそ 6 から 10 倍高い)。
【0132】
5. 血管の FSHR は、炎症性白血球浸潤の近傍の非腫瘍性前立腺組織においても現れる
50人の患者の各々に関し、大きなパラフィン切片は、腫瘍または正常な領域との明確な関連を伴わず、高密度の炎症性細胞の緻密な領域を少なくとも1つ含んでいた(図 5)。たとえ周囲の組織が正常な、非腫瘍性の様相を有していても、白血球浸潤の内部または近傍の血管の大多数が FSHR を強く発現することが一貫して観察された。この効果は、炎症性領域の近位の縁(proximal edge)から 3.5 mm (平均 2±0.75 (標準偏差)、n=34) までの距離にある血管について認められた。
【0133】
興味深いことに、炎症性領域に関連するほとんどの血管の管腔は、赤血球の他に、多数の有核細胞によって占められている。対照的に、近くに白血球を有さないほとんどの血管の管腔は、空であるか、または赤血球を示し、有核細胞をほとんど示さない。
【0134】
前立腺の移行帯において生じる良性の前立腺過形成[De Marzo et al.、2007]において、解析した 20 人の患者のうち 5 人が炎症性浸潤を有していた。炎症性領域のおよそ 20% が、血管における FSHR の発現および分泌性上皮細胞におけるかすかな基底部の染色を示した。
【0135】
6. 神経およびその関連血管は FSHR を発現する
前立腺は、大いに(richly)神経支配された器官である。2つの神経血管束が腺の直腸面に沿って走り、前立腺実質へ枝を広げる前に他の神経が被膜(capsule)の内表面に沿って走る[Powell、2005]。全ての神経には血管(神経脈管)が付随しており、そのうちいくつかは神経鞘(epineurial sheath)に貫入している。本発明者らは、全てのグリーソンスコアにおいて、癌に侵された末梢領域中の全ての神経線維におけるシュワン細胞の強い FSHR 染色を認めた。これらの神経に関連する血管もまた、FSHR を発現する(図 6)。神経および炎症性浸潤の両方を含む領域において、より強い血管の染色が見られた。
【0136】
癌患者の正常に見える末梢組織において、神経はまた、解析した全てのグリーソンスコア(5-10)においてシュワン細胞および神経脈管の強い FSHR 染色を示す。
【0137】
腫瘍を有していなかったが、PBH のために根治的前立腺切除を受けた患者においては、神経の大部分および前立腺の末梢領域における神経関連血管は、FSHR を発現しない(図 7)。末梢領域の神経節において、神経および血管における染色が無いことも認められた(図示せず)。
【0138】
7. FSHR は、他のヒトの癌の血管において発現する
他のヒトの腫瘍の型について、同様の免疫組織化学実験を行った(表 I 参照)。全ての腫瘍についての対照は、腫瘍の除去のために行われた手術によって得られた組織における、腫瘍から 10 mm よりも外側に位置する正常に見える組織であった。解析した腫瘍の大部分(およそ 70%)はグレード I および II のものであり、およそ 25% がグレード III であり、残りが最も進行したグレード IV であった。腫瘍の各々の型および対応する正常な対照についての代表的な画像を 図 8 に示す。前立腺におけるのと同様に、乳房腫瘍および膵臓外分泌腫瘍において腫瘍細胞は時折、かすかに染色される(示さず)。本発明者らはさらに、脳腫瘍に関連する血管において FSHR の発現を認めた(示さず)。
【0139】
その内皮細胞が FSHR を発現する血管の一般的特徴は、一見正常な組織において、およそ 10 mm(7-15 mm の範囲)の厚さを有し、腫瘍の内側および外側の両方に数ミリメートル広がるシェル(shell)の中において、腫瘍の辺縁に位置することである。腫瘍のより重度の領域においては FSHR を発現する血管は見出されない。図 9 は、前立腺腫瘍について、FSHR を発現する血管の分布を定量的に示す。FSHR 陽性の血管のベル型の(bell-shaped)分布の他に、データは、血管(FSHR を発現するかまたは発現しない)の総数の密度が腫瘍の外部よりも腫瘍の内部において高いことを示す (37 +/- 2 (標準誤差) 対 25 +/- 1 血管/mm2 (p = 6 x 10-7、t-検定、両側)。
【0140】
FSHR を発現する EC の同じシェル型の分布は、辺縁の血管のみならず腫瘍の内部においても FSHR を均一に発現する腎明細胞腫瘍のおよそ3分の1を除き、試験した全ての腫瘍の型において生じる。FSHR を発現する血管のパーセンテージは、腫瘍と正常な組織との間の境界線において最大 40-100% に達し、腫瘍の内側および外側の両方へ向かって徐々にゼロへと減少する。シェルの厚さおよび FSHR 陽性の血管の最大のパーセンテージの両方として、より低い範囲は膵外分泌部および肝臓の肝細胞癌について生じ、中間的な値は膀胱、卵巣、肺および胃について見出され、より高い範囲は前立腺、腎臓、結腸、乳房および精巣において生じる。シェルの厚さは、腫瘍のサイズに有意には依存しないようである。
【0141】
8. FSHR は循環する血液細胞において発現する
前立腺癌患者から単離された多形核細胞は、FSHR を発現する(図 10 C)。調製物中においても見られる単核細胞は、いかなる FSHR シグナルも示さない。FSHR 陽性の血管内の細胞もまた、前立腺腫瘍からの切片(図 10 A および B)ならびに結腸、腎臓、膀胱、膵臓、乳房、卵巣、精巣、肺、胃および肝臓からの腫瘍からの切片において見られる。高倍率の共焦点顕微鏡観察は、シグナルを生成するタンパク質が、膜貫通型受容体である FSHR について予測される通り、細胞膜に局在することを明らかにしている(図 10 C、挿入図)。
【0142】
図 11 に示される患者および対照の全セットについての定量データは、健康な対照および BPH 患者の細胞が FSHR を発現しないことを確証する。将来の臨床適用にとって重要な観察は、癌患者において染色された細胞のパーセンテージが、グリーソンスコア 6 についてのおよそ 15% からグリーソンスコア 8 についての 80% より上まで急速に増大し、疾患の重症度と明らかに比例することである。
【0143】
FSHR に基づく試験が疾患の重症度を容易に評価することができ、疾患の進行および処置の有効性をモニターするために用い得るという事は意義がある。
【0144】
考察
腫瘍の血管における FSHR の発現の理由について、以下の仮説を提案することができる。初期の発生の間、前立腺が非常に速い速度で成長する際には、成長を維持するために多量の FSH が必要とされると考えられる。循環する FSH は自力では容易に内皮障壁を通過せず[Vu Hai et al.、2004]、トランスサイトーシスを介する高い輸送速度を促進するために、内皮表面上における多量の FSHR が必要とされる可能性がある。この受容体に媒介される FSH 輸送は、前立腺が成熟した大きさに達するとおそらく下方制御されるが、腫瘍において上皮が再び増殖性の高い状態に入ると、再活性化される可能性がある。
【0145】
腫瘍組織における FSHR の発現をもたらすメカニズムに関し、可能性のある誘導因子は NGF である。外因性の NGF がヒトの卵巣において FSHR の発現を活性化することが報告された[Salas et al.、2006]。NGF は前立腺腫瘍の上皮細胞において発現し[Pflug et al.、1995]、その結果、これらの細胞により産生される NGF によって腫瘍における FSHR の発現が誘導される可能性がある。
【0146】
NGF はシュワン細胞によっても産生され [総説として、Sofroniew et al.、2001]、このことが神経および神経脈管における FSHR の発現を説明し得る。インビトロにおいて、シュワン細胞による NGF の発現はサイトカインおよび他の炎症メディエーターによって上方制御され [Lindholm et al.、1987]、このことが神経および炎症性浸潤の両方を含む領域におけるより強い染色を説明し得る。
【0147】
生物学的に活性な NGF は、それぞれ高親和性および低親和性の NGF 受容体である TrkA および p75NGFR を発現する血管内皮細胞によっても産生および放出される [Tanaka et al.、2004]。炎症性サイトカインの1つであるインターロイキン-1 は、培養状態の内皮細胞からの NGF の放出を刺激する。培養状態の内皮細胞へ外因的に加えられた NGF は TrkA のチロシンリン酸化を迅速に誘導し、この事は内皮細胞上に発現する TrkA が NGF に応答し、NGF シグナルを伝達することができることを示す。血管内皮細胞に対する NGF のオートクリンおよび/またはパラクリン作用の可能性も予測されている [Tanaka et al.2004]。
【0148】
これまでの定量的研究は、前立腺腫瘍において有意な血管新生は起こらないという結論に達した[Rubin et al.、1999]。したがって、広範な FSHR 染色は、ほとんど無いかまたは存在しない新たに形成される血管には制限され得ず、そのため、FSHR の発現は血管新生過程によって誘発されるようにも、これと関連するようにも思われない。
【0149】
本発明者らの研究は、FSH 受容体が悪性の前立腺腫瘍の中の血管において発現することを効果的に実証する。本発明者らの知る限り、これは、あらゆる悪性腫瘍の血管における FSH 受容体の最初の証明である。FSHR が前立腺腫瘍の中の血管において発現するが、正常な内皮には存在しないという事実は、重要な治療的意義を有し得る。前立腺癌に関連する内在性細胞膜タンパク質として、FSHR はモノクローナル抗体に基づく免疫療法および画像化のための優れた潜在的な選択的標的を提供する。
【0150】
血管内皮による FSHR の発現がこれまでに解析した全ての腫瘍の型において検出されたという事実は、内皮性 FSHR が、癌化した(transformed)細胞の起源に依存しない一般的な腫瘍マーカーを構成することを示唆する。
【0151】
FSHR の発現をインビボの腫瘍画像化のために用いる観点からすると、FSHR を発現するシェルが総腫瘍量と比較して実質的な量を表すことに注意すべきである。例えば、30 mm の直径およびおよそ 14 cm3 の体積を有する腫瘍について、図 9 におけるものと同様の、腫瘍の内側およそ 3 mm から腫瘍の外側 7 mm まで広がっているシェルは、およそ 37 cm3 の体積を有し、腫瘍自身よりも 2.6 倍大きい。シェルの、腫瘍よりも外側の FSHR 陽性の部分は、腫瘍の中心部において FSHR の発現が無いことを補う。シェルと腫瘍体積との間の比はより大きな腫瘍に関して減少するが、インビボの腫瘍の画像化にとっては、小さな腫瘍の検出が最も興味深い。
【0152】
幅広い腫瘍において腫瘍内皮細胞の表面上に FSHR が存在することにより、FSHR は腫瘍の画像化および治療の両方のための非常に有望な標的となる。FSHR は、腫瘍の血管を破壊するかまたは凝固を誘導することにより血流を遮断する物質を腫瘍へと送るために有用である。標的化剤(targeting agent)はヒト化抗 FSHR 抗体、または FSH、またはアプタマーのような人工的リガンドのいずれかであり得る。FSHR を腫瘍の脈管構造の他のマーカーから区別する興味深い可能性は、FSHR が、腫瘍の内皮を横切るリガンドのトランスサイトーシスを媒介し得ることである。上述の通り、FSHR のトランスサイトーシスは正常な精巣の内皮を横切って起こることが見出された(Vu Hai et al.、2004)。何巡も繰り返されるトランスサイトーシスは腫瘍において標的化された物質の蓄積をもたらし得、画像化の感度および治療の有効性の両方を大きく増大させることができる。さらに、トランスサイトーシスは、腫瘍 EC のみならず腫瘍細胞を破壊する物質の選択的送達を可能にする。
【0153】
いくつかの型の腫瘍と関連する循環する多形核細胞において FSHR が存在することはさらに、単純な血液試験によって腫瘍を診断することを可能にする。示されるデータは、少なくともグリーソンスコア 6、おそらくはより低いスコアから始めて、前立腺癌の存在を検出するために FSHR を用いることの実現可能性を確立する。(グリーソンスコア 6 は、手術が勧められる最も低いスコアである。) さらに、試験は、疾患の進行をモニターすることを可能にし、かつ、治療方針の選択および有効性についての判断を下す助けとなる。
【0154】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像化剤として使用するための FSH 受容体(FSHR)リガンド。
【請求項2】
腫瘍に関連する状態のインビボの診断または画像化において使用するための、請求項1の FSH 受容体(FSHR)リガンド。
【請求項3】
検出可能に標識された抗 FSHR 抗体である、請求項1または2に記載の FSH 受容体(FSHR)リガンド。
【請求項4】
検出可能に標識された FSH である、請求項1または2に記載の FSH 受容体(FSHR)リガンド。
【請求項5】
腫瘍に関連する状態が、前立腺、腎臓、卵巣、精巣、肺、肝臓、膵臓、胃、乳房、結腸、脳および膀胱の癌からなる群から選択される、請求項1〜4のいずれかに記載の FSH 受容体(FSHR)リガンド。
【請求項6】
前立腺癌が前立腺の腺癌である、請求項5の FSH 受容体(FSHR)リガンド。
【請求項7】
腫瘍のインビボでの局在決定またはサイズ決定のための、請求項1から6のいずれかの FSH 受容体(FSHR)リガンド。
【請求項8】
癌の重症度の評価または抗腫瘍治療の有効性のモニターのための、請求項1から7のいずれかの FSH 受容体(FSHR)リガンド。
【請求項9】
静脈内投与のための画像化組成物の形態である、請求項1から8のいずれかの FSH 受容体(FSHR)リガンド。
【請求項10】
該腫瘍に関連する血管における内皮性 FSHR の発現を検出することによる腫瘍のインビボの診断または画像化において画像化剤として使用するための、請求項1から9のいずれかの FSH 受容体(FHSR)リガンド。
【請求項11】
ガス充填微小胞によって標識されている、請求項1から10のいずれかの FSH 受容体(FHSR)リガンド。
【請求項12】
コントラスト増強超音波画像法において使用するための、請求項11の FSH 受容体(FHSR)リガンド。
【請求項13】
以下からなる工程を含む、画像化データを収集する方法:
a) 検出可能に標識された FSH 受容体リガンドを含む画像化剤を提供する工程;
b) 該画像化剤を患者に投与する工程;
c) 該患者における画像化データを収集する工程。
【請求項14】
FSH 受容体(FSHR)リガンドが検出可能に標識された抗 FSHR 抗体である、請求項13の方法。
【請求項15】
FSH 受容体(FSHR)リガンドが検出可能に標識された FSH である、請求項13の方法。
【請求項16】
FSH 受容体(FSHR)リガンドが検出可能に標識された FSHR 結合性アプタマーである、請求項13の方法。
【請求項17】
腫瘍に関連する状態の処置のための、FSH 受容体(FSHR)遮断剤。
【請求項18】
FSH に誘導されるシグナル伝達を妨げる抗 FSHR 抗体である、請求項17の FSHR 遮断剤。
【請求項19】
FSHR の発現または細胞内シグナル伝達を遮断する物質である、請求項17の FSHR 遮断剤。
【請求項20】
該腫瘍に関連する状態が、前立腺、腎臓、卵巣、精巣、肺、肝臓、膵臓、胃、乳房、結腸、脳および膀胱の癌からなる群から選択される、請求項17から19のいずれかの FSHR 遮断剤。
【請求項21】
前立腺癌が前立腺の腺癌である、請求項20の FSH 受容体(FSHR)遮断剤。
【請求項22】
静脈内投与のための医薬組成物の形態である、請求項17から21のいずれかに記載の FSH 受容体(FSHR)遮断剤。
【請求項23】
抗腫瘍剤と結合した FSH 受容体(FSHR)リガンドを含む医薬組成物。
【請求項24】
静脈内投与のための形態である、請求項23の医薬組成物。
【請求項25】
腫瘍に関連する状態の処置のための、抗腫瘍剤と結合した FSH 受容体(FSHR)リガンド。
【請求項26】
該腫瘍に関連する状態が、前立腺、精巣、腎臓、卵巣、肺、肝臓、膵臓、胃、乳房、結腸、脳および膀胱の癌からなる群から選択される、請求項25に記載の抗腫瘍剤と結合した FSH 受容体(FSHR)リガンド。
【請求項27】
試験対象の血液サンプル中における FSHR を検出することを含み、循環する血液細胞中における FSHR の存在が癌を示す、癌の診断または予後または治療のモニタリングのためのインビトロの方法。
【請求項28】
血液サンプルが全血または末梢血多形核細胞(PMN)の調製物である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
癌の処置において使用するための、FSHR を発現する循環する血液細胞の存在量または循環する血液細胞による FSHR の発現もしくはシグナル伝達を調節する FSH 受容体(FSHR)リガンド。
【請求項30】
静脈内投与のための形態である、請求項29の FSH 受容体(FSHR)リガンド。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図4】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図6c】
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【図6d】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【図11】
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【公表番号】特表2011−518768(P2011−518768A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−547171(P2010−547171)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【国際出願番号】PCT/EP2009/051931
【国際公開番号】WO2009/103741
【国際公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(591049848)
【氏名又は名称原語表記】INSERM
【出願人】(510224387)
【氏名又は名称原語表記】MOUNT SINAI SCHOOL OF MEDICINE
【Fターム(参考)】